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あの桜の木の下で誓約を

#サクラミラージュ #桜シリーズ

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#サクラミラージュ
#桜シリーズ


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 ――ざぁぁ……ざぁぁ……。

 穏やかな風が吹き、辺り一帯に咲いた桜の花を吹雪の様に舞わせている。
 宙に舞う、決して絶える事の無い桜が舞うその様子を、少年はじっと見つめていた。
 その手に握りしめるは、彼女が着ていた服に付けられていた一枚の羽根。

 ――それは、決して戻らなかった……彼女。

(「でも、あの子は戻ってきてくれた」)
 例え、どんな姿であったとしても。
 彼女は、戻ってきてくれたのだ。
(「だから、今度は……今度こそ」)

 ――あの時、君に伝えられなかったそれを伝えよう。

 この、桜の木の下で。


「桜が永久に咲き続ける世界、サクラミラージュ……か」
 何処か、望郷の念に浸る遠い眼差しをしたままに。
 北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がグリモアベースの片隅でポツリと呟いている。
 その向こうに見えた光景に目を細め、静かに息を吐く優希斗の姿が気になったか、何人かの猟兵達が優希斗へと視線を向けた。
「ああ、皆か。サクラミラージュで一つの事件が予知されたよ。オブリビオン……あの世界では、影朧達と呼ばれる存在を匿う少年の物語だ」
 少年の名は、雅人と言う。
 彼は、影朧救済機関『帝都桜學府』所属の一人の少女学生に恋をしていた。
 そして彼女が出征する際に、御守りとして渡された一枚の羽根と共に、彼女が帰還するのを待ち続けていたらしい。
 そこまで話したところで、優希斗が小さく溜息を一つ。
「まあ、此処まで話せば何となく察せるだろうが……その學徒兵の少女は、影朧との戦いで、不帰らぬ人になった」
 戦場であれば、それはよくある話。
 そしてその少女が影朧となり、雅人の下に帰ってくるのも。
「だから、雅人君は全力で彼女を匿い、護ろうとしている。皆には、彼から、彼が匿う『彼女』の居場所を聞き出して突き止めて貰い、その影朧と化した娘の魂を慰め、『転生』出来る様にして欲しい」
 ただ、雅人は帰ってきた影朧を、自らの恋人が戻ってきたと認識している。
 逆に言えば、仮に彼女を倒せたとしても、正人のその想いに感応した異なる影朧が保護を求めて彼の下に来る可能性を否定できない。
「だから皆には、死んだ彼女はもう二度と戻ってこないという現実を、雅人君に伝えて過去と決別できる様にして欲しい。彼を殺すというのも一つの選択肢かも知れないが……そうなれば今度は彼がその死に理不尽な思いを抱き、新たな影朧となる可能性さえあるからね」
 雅人自身の素行が悪い、何か悪事に加担している、と言う事はない。
 彼はただ純粋に、帰ってきた『彼女』を守りたいだけ。
「雅人君に対してどう対応するのかは皆の判断に任せるけれど……人は、同じ過ちを繰り返すものだ。……その過ちの繰り返しを断つ為にも。どうか皆、宜しく頼む」
 その優希斗の言葉と共に。
 蒼き光が猟兵達を包み込み……サクラミラージュへと猟兵達を転送させたのだった。


長野聖夜
 ――死別の悲しみをその胸に。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 新世界サクラミラージュが公開されましたね。
 と言う訳で、今回は皆さんに惜別の物語をお送りいたします。
 心情寄りですが、恐らくやや切ない結末になるかと思いますのでご承知おきください。
 尚、諸事情によりプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間がやや先になっておりますので、ごゆっくりとお考え下さい。
 プレイング受付期間:10月2日(水)8時31分以降~10月4日(金)18:00頃迄。
 リプレイ執筆期間:10月4日(金)夜~10月5日(土)。
 第2章以降、予定の変更等がございましたら、マスターページにてお知らせいたしますので、そちらをご参照頂ければ幸甚です。

 ――それでは、良き思い出との邂逅を。
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第1章 日常 『幻朧桜の木の下で』

POW   :    幻朧桜を見上げ、心が洗われるのを感じる

SPD   :    幻朧桜の下で軽く飲食を楽しむ

WIZ   :    幻朧桜に想いを馳せ、祈りを捧げる

👑11
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

館野・敬輔
アドリブ可
他者絡み極力NG
指定UCは演出のため

あえて他の猟兵からは距離を取り
幻朧桜の下に腰かけて、香草茶を飲みつつ想いを馳せて
一年中咲く桜…幻想的だな

死者は蘇らない
これはどの世界に行こうが、変わらない鉄則

影朧の転生があり得るこの世界でも
完全に蘇ることはないだろうな

確実なのは、影朧に関わった人もいずれ破滅してしまうことか

死した彼女も雅人さんが破滅するのは望まないだろう
だが、どう言葉を尽くせばいいのか…思いつかない
復讐に囚われている僕では「離れろ」というのが精一杯

指定UC発動
黒剣の中の「少女たち」と「娘」の魂を呼び出して纏う

オブリビオンへの復讐を望む彼女たちは
この桜を見て、何を思うんだろうな




 ――幻朧桜咲き誇る木の下で。
 静かに佇む様に座り込み、ぼんやりとそれを館野・敬輔が見上げている。
(「一年中咲く桜、か……幻想的だな」)
 ふと、郷愁の様な何かが微かに胸の中を駆けていく。
 ぼんやりとしたそれが何かを見いだせぬままに、敬輔が溜息を一つついた。
(「でも一年中桜が咲き、不死の帝が統治し、影朧の転生があり得るこの世界であっても……」)
 死者は、完全に蘇らないだろう。
 死者が蘇る、それ自体がそもそも『不自然』な事だから。
 その事実に想いを馳せ、そっと香草茶をカップに注いで一口飲む。
 ちらりと敬輔が視線を見やった先に、雅人がいた。
 本来であれば、話しかけ、説得するべきなのだろう。
 けれども……。
(「駄目だな、僕には」)
 死した彼女は、雅人さんが破滅するのは望まない、とでも言えば良いのか?
 それとも、『離れろ』とでも告げれば良いのだろうか?
 どちらも、正しいとは思えないから。
 無意識に腰に納めた黒剣を抜剣し、それを膝の上に置く敬輔。
(「僕は、『復讐者』だ」)
 影朧……否、オブリビオンに対しての。
 そんな自分が上辺だけの言葉を紡いだところで、彼の心に届く筈が無いだろう。
 それが分かるから、何も言えずに少し離れたところから雅人を見ている事しか出来なかった。
(「……」)
 つと、敬輔が瞑目する。
 そして膝に置いた黒剣を撫でながら、心の内で問いかけた。
(「ねぇ、皆」)
 彼の呼びかけに応じた黒剣の刀身が赤黒く光り輝き、白い靄が浮かび上がる。
(「皆は……どう思う?」)
 この桜についてか、それとも雅人への対応か。
 判断が付かぬままに問いかけると白い靄と刀身の光が明滅し、そっと幻朧桜の周囲を舞い、舞い散る桜の花弁と共に、再び黒剣の中へと戻っていった。
 ――今は見守るだけだよ、お兄ちゃん。
 ――他の皆がどうするのか……その答えを。
 ――この、綺麗だけれど何処か切なく感じる桜と一緒にね。
「うん……そうだね」
『少女』達の言葉に静かに首肯した敬輔が、雅人の方へと視線を送りその様子を見守っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

白夜・紅閻
●WIZ
●桜…
どこか懐かしさを感じる言葉に胸が高鳴る…(けれど)
あれ、は、何処だったのか…?
記憶に靄が掛かっており、思い出せない

『誰か』と出会ったのは覚えている
それが、誰であったか…わからない

●死んだ者が生き返るって信じているのか?
僕は信じている…いや、信じていた

けどそれは…本当の意味での幸せではなかった
そりゃ…嬉しかったよ。彼女が戻ってきた時は

でも、な…どうしても霞むんだ
僕の中の彼女と、目の前の彼女
姿も声もまったく同じ、あの時のままなのに…

僕の中の彼女は…『それは、私じゃない』と
声は聞こえてくるのに…泣いている、とわかっているのに

どうしても…彼女の顔が思い出せないんだ…目の前に居るのに…




(「桜、か……」)
 幻朧桜を見上げながら。
 白夜・紅閻の心は鳴り響く鐘の如く、酷く高鳴っていた。 
(「これが懐旧……何だろうか」)
 脳裏に何かが囁きかけてくる様な、そんな感じがするけれども。
 でもそれに手を伸ばしても、届くことは決して無く。
 その手に代わりにつかみ取るは、靄の様な記憶。
(「あの時、僕は……」)
『誰か』と出会った。
 でもそれが、『誰』なのかはまるで思い出せない。
 掴もうとしても、決して掴めないそれに溜息を零し、漆黒と白銀の髪を軽く掻き回した紅閻は、呆けた様に幻朧桜を見上げる雅人へと声を掛けた。
「ねぇ」
「貴方は誰ですか?」
 雅人の問いかけに、紅閻が軽く頭を振る。
「僕は、僕だよ。君に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたい事……?」
 怪訝そうに首を傾げる雅人に、小さく頷く紅閻。
「君は、死んだ者が生き返るって信じているかい?」
 紅閻の問いかけに、勿論、と首肯する雅人。
「実際彼女は帰ってきてくれた。だから……今度こそ僕は、あの時出来なかった約束を果たすんだ」
 そう告げる雅人の表情は頑なで。
 その強い決意を肌で感じ取り、紅閻が何処か遠くを見る眼差しで息を一つ吐いた。
「僕も信じている……いや、信じていた」
「信じていた?」
 怪訝そうに眉を顰める雅人に紅閻が首肯を一つ。
「そう……戻ってくると信じていたんだよ、僕は」
(「でも、それは……」)
 暗に示されたそれを感じ取ったか、雅人が微かに目を細めて問いかけてきた。
「何で信じることを止めたんだ?」
「それは……本当の意味での幸せではなかったからだよ」
「どう言うこと?」
 軽く息を吐いて答える紅閻の解に、益々怪訝そうな表情になった雅人が、真っ直ぐに紅閻を見つめて問い詰める。
 その視線を正面から受け止め、紅閻がそっと言の葉を紡いだ。
「正直……嬉しかったよ。君と同じで、彼女が僕の所に戻ってきたその時は」
 ――でも。
「……どうしても、霞むんだ」
「霞む? 何が?」
 問い返す雅人に静かに首を横に振る紅閻。
「僕の心の中の彼女と、目前の彼女。姿も声も全く同じ、あの時のままなのに…
…」
『彼女』の姿にも靄が掛かり、はっきりと見えないにも関わらず、目前の彼女の姿と形が記憶の中のそれと同じという矛盾した思いを頂きながらも。
 紅閻には、記憶の靄……面影の向こうにいる『彼女』がこう叫んでいる事が確信できるのだ。
「僕の中の彼女が、『それは私じゃない』と、言い続けるのが」
 ――声は、聞こえてくる。
 ――そうじゃない、と叫ぶ彼女が泣いているのも分かっている。
 でも……。
(「どうしても……思い出せないんだ……」)
 ――目の前に居る筈の、『彼女』の顔が。
 だから……。
「君の傍に蘇った『彼女』もそうなんじゃ無いか……僕はそう思っている」
 ――信じて貰えるかどうかは、分からないけれど。
 紅閻の呟きに、雅人がそうか、と静かに返し、幻朧桜を見上げた。
 その表情から何を考えているのかは、読み取れなかったけれど。

成功 🔵​🔵​🔴​

フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

死別――息が苦しくなるほどの悲しみ。
わたくしは何故この悲しみを知っているのかしら?

……頭痛がするの。立っていられないほどの。
ふらふらと桜の下に座れば、花弁が落ちてきたわ

この光景は何処か……夢の中で見覚えがある
もっと濃い色の花で、わたくしは木の下で誰かを見つけて――

だめ、思い出せない。
そもそもわたくしだったかすら曖昧。

今すべきはこんなことではないの
昔……を思い出してはいけないわ。
そのために、ここに来たのだから。

わたくしは魔女。『思想』の魔女。
彼の想いを断ち切って、これ以上の悲しみを増やさないと決めたの。

……桜は何でもご存知だわ
この弱さを、預けてもよろしいかしら
どうか、見守っていて。


カタリナ・エスペランサ
サクラを見ながら歓談する、お花見って奴だね!
そういうのはアタシも大好きだな!

使うUCは【天下無敵の八方美人】
せっかく猟兵なんだし他の世界の目新しい《料理》を作って提供しよう
アリスラビリンスで見た不思議な紅茶とケーキなんかどうだろ?
盛り上がってるようなら装備してる金糸雀の《楽器演奏》をBGMに《歌唱+ダンス+パフォーマンス》で一曲披露してもいいかもね

ともあれ今大事なのは皆と仲良くお話して距離を縮める事かな
《コミュ力+礼儀作法》を発揮しつつ、雅人君や影朧になったっていう子について《情報収集》も狙えるなら狙ってみよう
ただ話題が話題だし、場の空気を壊さないように話の運び方には気を付けないとね




 ――死別。それは……息が苦しくなる程の悲しみ。
(「わたくしは、どうして……」)
 味わったことの無い筈のそれを、知っているのかしら。
(「あの人がいたら……」)
 この世界へと自分達を送り出したグリモア猟兵と話が出来れば、或いは分かったかも知れないけれど。
 今、彼はこの場にいない。
 ――ズキリ。
「……っ」
 鋭い突き刺す様な頭痛が、彼女……『シソウの魔女』フローリエ・オミエを襲う。
 あまりにも鋭い痛みと同時に、一瞬周囲の景色が暗転してしまった様なそんな気がして、それが尚更、フローリエの胸中を酷く掻き乱し、そのままヨロヨロと桜の木の下に座り込ませた。
「大丈夫?!」
 そんなフローリエの姿を見て。
 パタパタと遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせ、桜花弁と共に舞い降りてきた天使の様にも見える人狼、カタリナ・エスペランサが気遣ってくる。
 顔を青ざめさせながらも、カタリナに向けて口元に気丈な微笑みを浮かべ、頷き返すフローリエ。
「少し、目眩がしただけよ」
(「本当は……それだけでは無いのだけれど」)
 カタリナに頷いたフローリエの視界を白昼夢の如く掠めるは、とある光景。
(「この光景は……夢で……」)
 ――そう。
 もっと濃い色の花で、わたくしは、木の下で誰かを見つけた―― 
「本当に、大丈夫?」
 心配そうなカタリナの呼びかけに、目前に見えたそれを掻き消す様にフローリエは軽く頭を振った。
 ――だめよ。今、昔を思い出しては……だめ。
 そもそも木の下で誰かを見つけた『それ』は、果たしてわたくしだったのかどうかすら曖昧な話。
「ええ、大丈夫よ、ありがとう。そう言えば、貴女は……?」
「アタシ? そう言えば自己紹介がまだだったね。カタリナだよ♪ キミは?」
「わたくしは、フローリエよ。魔女。シソウの魔女よ」
「そっか。宜しくね、フローリエ!」
 そう言ってニッコリと笑うカタリナに、ええ、と口元を緩めるフローリエ。
「おい……大丈夫か?」
 そんなカタリナ達の方へ、何処か気掛かりそうな表情を浮かべた雅人が近付いてくる。
「うん、大丈夫だよ! キミは?」
「僕は雅人だ。何だか急にフラフラと倒れるそっちの子の姿が気になって、様子を見に来た」
 そう言って気遣わしげな表情を向ける雅人に、フローリエがそう、と一つ頷く。

 ――柔らかな風が吹き、それに乗って桜吹雪が宙を漂う。

 走り去っていく桜を右から左へと視線で追いかける雅人とフローリエの様子を見て、ねぇ、とカタリナが問いかけた。
「何かの縁だと思うし、3人でお花見しない? アタシ、こういうの持ってきているんだよ♪」
 笑顔で告げながら、ポップでキュートなお弁当箱を取り出すカタリナ。
 パサリと袋を開けば、その中にあったのは、不思議なケーキ。
 3人分のティーセットも、何処からともなく姿を現している。
 アリスラビリンス世界で新しく覚えた料理である故か、サクラミラージュではあまり嗅ぐことの無い一風変わった甘やかな香りを吸い込み、へぇ、と興味深そうに雅人が声をあげた。
「美味しそうだね、これ」
「ふふっ、そうだよね? どう?」
 わざとらしく胸を反らしてみせるカタリナに微笑を零し、チリチリと宙を舞う桜の花弁にそっ、と手を触れるフローリエ。
(「桜……あなたは何でもご存知だわ。だから、わたくしのこの弱さを、預けてもよろしいかしら? どうか、見守っていて」)
 胸中でそう祈りを捧げ、カタリナ達へと視線を送るフローリエ。
「それじゃあ、ご一緒お願いするわ」
「あっ、うん……此方こそ」
 フローリエの言葉に雅人が頷いた所で、カタリナが早速地面にレジャーシートを広げ、取り出したティーセットとケーキを2人に振る舞い、細やかなお花見の幕がそっと開いたのであった。


「キミにはさ、大切な人がいるんだよね?」
 紅茶を飲み、ケーキを食べ、簡単な雑談に花を咲かせて、少しその場の緊張を解きほぐしてから。
 さりげなく雅人に水を向けたカタリナに、雅人が微かに頬を上気させて頷きを一つ。
「うん。いるよ」
「どんな人なのかしら?」
 フローリエが紅茶の香りを優雅に楽しみ一口啜りながら聞くと、雅人がはにかみを浮かべて、ポリポリと軽く頭を掻いた。
「才色兼備で、お転婆で……でも、ハイカラなのは苦手な、そんな人だよ。後、料理だけはどうにも苦手な子だったな」
「じゃあ、こういうケーキとかもあまり食べたことないんじゃない?」
「そうだね。だからこういうのは一緒に食べに行ったりはしなかったな」
 そう言って、懐かしそうに目を細める雅人。
 ――今は、一緒に外に行くことは出来ないけれど。
 だって、彼女は……。
 唐突に眉を顰めて軽く頭を振る雅人を見て、カタリナが軽く首を傾げてみせた。
「どうかしたの? もしかしてケーキ、口に合わなかった?」
「いや、そんな事は無いよ。ただ、少しちょっとね」
 明らかに何かを誤魔化す様に言葉を濁す雅人に、カタリナがそうなんだ、と爽やかな笑顔で応じている。
 雅人の手がさりげなく胸に飾られた羽根に触れているのを見て、フローリエがねぇ、と囁く様に呟いた。
「その羽根、よく似合っているわね。それもその大切な人からの贈り物、とかかしら?」
「うん、そうだよ。これは、その人が出征する時に、僕を守る御守り代わりにって渡してくれたものなんだ」
 嬉しそうにハキハキと。
 そう答える雅人だったが、その口調に微かに翳りを帯びている様に感じたのは、カタリナの気のせいであろうか。
「出征したその人は今、どうしているのかな?」
「それは……」
 それとなく話の続きを促すカタリナに、思わず、と言った様子で返答しようとした答えを飲み込み、ケーキを口に運ぶ雅人。
「……影朧との戦いで怪我を負って帰って来て、それで今は養生しているよ」
「何処で養生しているのかな? もし良ければアタシ達もそこに行って、お見舞いしたいんだけれど?」
 カタリナの問いかけに、慌てた様子で手を横に振る雅人。
「い、良いよ、お見舞いなんて。傷を負ったあいつの周りを、あまり騒ぎ立てたくないんだ」
 苦笑を零す雅人をじっと見つめながら、自らの胸に埋め込んだMitschuldigerをそっと抱くフローリエ。
 淡く青い輝きを発するその宝石は、まるで雅人の大切な人と、フローリエが時折見る『彼女』の面影を重ね合わせ、照らし出しているかの様。
(「お願い、力を貸して……」)
 静かに祈る様に『誰か』に向かって囁きながら、フローリエが訥々と告げる。
「雅人。あなたの大切な人は、本当は……」
「い、いや、本当に彼女は怪我をしているだけなんだ。だから、今は養生する必要があるんだよ!」
 やや語調を強めて答える雅人に、カタリナが優しく微笑んだ。
「そうだね。今は傷を癒しているだけなんだよね。アナタの大切な人は」
「う、うん、そうなんだ。だから……」
 柔らかいカタリナのそれに、雅人が肩の力を抜いてこくりと頷き、紅茶を啜る。
 穏やかだが何処か寂しさを感じさせる風が、カタリナ達の間を駆け抜けた。
「そう言えばさ、才色兼備なその人は、何て言う名前なのかな?」
「えっ? ああ……紫苑って言うんだ。良い名前だろう?」
「……うん、良い名前だね♪」
(「確か、紫苑って花の名前だったよね」)
 もし彼女と戦い、その名前とその名前の意味を考え、その意味を彼女に伝えることが出来れば、或いは彼女を鎮めるための鍵になるかも知れない、と頭の片隅にメモを残しながら、カタリナが雅人に笑顔でそう返した所で、ケーキと紅茶が空になる。
 空になったティーカップとお弁当をカタリナに返しながら雅人がゆっくりと立ち上がった。
「ご馳走様。君達と話が出てきよかったよ。また機会があったら宜しくね」
「うん、またね、雅人!」
 呟いて踵を返してその場を後にする雅人を送り出すカタリナの声を聞きながら、フローリエが、ほう、と小さく溜息を一つ。
(「わたくし達だけでは、雅人の心を過去から解き放つことは出来ない。でも、これ以上の悲劇が起こりえぬ様にするためにもわたくし達は……」)
 誓いと共に、満開の桜を見上げるフローリエ。
 幻朧桜は、まるでカタリナ達を見下ろす様に、ただただ咲き乱れ続けていた。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
雅人さんとは「優しさ」と「礼儀作法」をもってお話をします。

お話する場は、桜の花弁舞うオープンカフェがいいでしょうか。

事前に『帝都桜學府』の担当者に『彼女』の戦死通知を用意してもらい、それを雅人さんに示して、『彼女』が既になく今は影朧の身であることを話します。
続けて、『彼女』の様子を尋ね、その行動が影朧である証だと指摘しましょう。

オブリビオン――影朧のかつての人格が、いつ失われるかも分かりません。
『彼女』がまだ『彼女』であるうちに、輪廻の輪の中へ送り出して、転生してもらうべきです。
雅人さんが『彼女』のことを思うなら、それが一番の救いです。
どうか、『彼女』の居場所を教えてください。お願いします。


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

影朧を狩る者が影朧となるか…皮肉なものだ
だが、それを見逃した故に世界が危機に陥っては笑い話にすらならんな

彼を殺す手段は無しだ
彼にきちんと言い聞かせるように、根気よく説得をしよう

雅人、君もわかっているのだろう?
彼女はすでにこの世のものではなく、皮肉にも彼女が倒すべき敵に堕ちてしまった事を
彼女がなぜ影朧と戦う道を選んだか、どんな覚悟を持って戦場に赴いたかは私にはわからない
だが、自らが倒すべき影朧となってまで生き延び
守るべき人達を傷つけることは、決して彼女の本意ではないはずだ

君の気持は私にもわかる
だがどんな人間であれ、別れの日は必ず来る
君も彼女と向き合い、さよならを告げる時が来たんだ


ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

親しき者との別れを辛く思わぬ者はいるまい
それが予期せぬ物ならなおさらな
だが、彼…雅人の行う事は決して正当化できる事ではない
愛すべき者であればこそ、その別れを受け止め
その者が安らかに眠れるよう、告別を行わなければ

彼女は一度死に、影朧となって蘇った
それは彼女の人生と彼女自身を否定する事と同じだ
彼女は君や君達を守るために戦い、死んでいったのだから
君にも相応の苦しみ、そして葛藤があったことは私にもわかる
だが、君だけは彼女の戦いを否定する事をしてはいけないんだ

彼を殺すという選択は最初から取らない
もしも彼が説得中に心を乱すようならば、密かにUCを発動
癒しの光で彼の心を静め、落ち着かせよう


荒谷・ひかる
桜の精による癒しと、それに伴う転生が一般化してるこの世界で。
オブリビオンを……影朧を匿う、かぁ。
雅人さんの気持ちはわからなくもないけど……見過ごせないんだよ。

雅人さんにとって、彼女さんが大事なのはわかるんだよ。
でも……この世界を、ひいては雅人さんを護るために影朧と戦って亡くなられた彼女さんは。
世界の敵である影朧となってでも、雅人さんと共に居ることを望むのかな?

わたしね、思うんだ。
雅人さんがすべきことは、影朧に……思い出に縋る事じゃなくて。
『転生』した彼女さんを探して、もう一度出会うことなんじゃないのかな。
彼女さんの記憶は、なくなっちゃうかもだけど……その想い(羽根)は、確かに残ってるんだから。


文月・統哉
待ち人に会えたなら
成程これは奇跡なのかもしれないね
だからこそやるべき事がある
奇跡を悲劇で終わらせない為に

彼女はどんな人だった?
君はどんな所に惹かれたんだい?
穏かに寄り添う様に雅人へ問う
溢れる感情を言葉にする事は
彼自身の気持ちを整理していく上で大事な事だと思うから

彼女は何を思い戦っていたのだろう
彼を皆を護る為に?
影朧達を救う為に?
答えはきっと彼の中に

彼女は想いを残し逢いに来た
聞きたかったんじゃないかな、君の言葉を
そして託したい何かがあるのかもしれない

それはきっと君にしか出来ない事だから
どうか勇気をもって彼女の最期を見送って欲しい
彼女が彼女の人生を誇りをもって終えられる様に
新しい命へと向かえる様に


藤崎・美雪
【SPD】
アドリブ、他者との連携大歓迎

そうだな…
雅人さんが帝都桜學府所属か否かをまず調べよう(情報収集)
その後、雅人さんに接する術を考えるか

矢絣の着物と袴を着用、女学生風に

帝都桜學府に属している場合は
休憩時間等に外のカフェーに誘い出せばいいか

帝都桜學府に属していない場合は
街中で道に迷った観光客のフリをして接しよう

どちらの場合でも適当なカフェーで珈琲でもおごりつつ
軽くコイバナから始めて彼女さんのことに話をつなげ
最終的には居場所を聞き出そう

私は色恋沙汰に縁はないのだが
「離れていても忘れなければ想いは通じている」
これだけは経験則から確実に言えるな

一番怖いのは「会えないこと」ではなく「忘れること」だ


天星・暁音
…死者は蘇らない…本当はそんなこと分かってるんだろうけど…大切な人の死を納得するのは酷く難しいよね。
それでも受け入れて前に進まなければならない。
俺の言葉はきっと人が聞けば綺麗事でしかないのだろうけど…
それでも、このままで良い訳は絶対にないから…
彼の為にも彼女の為にも…言葉を尽くすしかない。
それでも駄目な時は、例え新たな悲しみを生む選択であっても相応の覚悟を決める必要はあるけれど…こういう時は人の強さを信じたいよね。
願わくば…ちゃんと別れ告げて有るべき姿に戻れますように…
共苦が押し付ける痛みや悲しみは酷いものだろうけど…受け入れて知ってあげないとね。


【共苦は装備です】


彩瑠・姫桜
【POW】
*連携・アドリブ歓迎

本当に桜でいっぱい
こんな世界もあるのね

こんなに綺麗な桜の下で、二度と会えないと思っていた人と再会できたら
絶対に離れたくないって思ってしまうのも無理はないのかも

本当は再会を邪魔したくはないけれど、そうはいかないなら
今の私にできる、最善を尽くすわ

ずっと桜を眺めていたい気もするけど
雅人さんと話をする必要があるのなら、彼のことも少女のことを知っておかなければね

もし散策が可能なら、聞き込みもしてみたいわ
帝都桜學府の関係者がよく利用するカフェーへ行って話を聞いてみるわね

聞いてみるのは
少女のことと雅人さんの最近の様子
【コミュ力】【情報収集】使用して不自然のないように気をつけるわ




 ――サクラミラージュ。
「本当に桜でいっぱい。こんな世界もあるのね……」
 桜咲き誇るこの世界の有様を丹念に眺める、彩瑠・姫桜が嘆ずる様に息を一つ。
「ああ。確かに綺麗だ。だが……そういう所だからこそ、影朧を狩る者が影朧となると言う様な、皮肉な話も出てくるのだろう。しかもそれを見逃せば、世界が危機に陥ってしまう……これでは、笑い話にすらならんな」
 姫桜の呟きにそう返しながら、キリカ・リクサールが息を一つ吐くのに、頷き返したのは、荒谷・ひかる。
「そうだよね。雅人さんにとって彼女が大切な人だったのはよく分かるんだけれど……でも、だからといってオブリビオン……影朧を匿うのは、流石に見過ごすことが出来ないよね」
「だが、雅人の気持ちも、ある程度は汲んだ方が良いだろうな。……親しき者と予期せぬ別れを、彼はせざるをえなくなったのだから」
「ああ、そうだな。それでその待ち人……もう二度と会えなくなった筈のその人に、例え影朧としてでも会えたのなら、成程これは奇跡なのかも知れないな」
 口元に指を当てて愛らしく首を傾げ、溜息をつくひかるの言葉にボアネル・ゼブダイがそう応じ、文月・統哉もまた同感とばかりに首肯している。
「……死者は蘇らない……本当はそんなこと分かってるんだろうけれど……大切な人の死を納得するのは、酷く難しい話だよね」
(「だからと言ってそれを受け入れられずにこのままでいて良い筈が無いんだけれど」)
 統哉達の言葉に相槌を打ちながら、胸中で天星・暁音はそう思う。
「……そう言えば、雅人さんは帝都桜學府所属なんだろうか?」
 暁音の呟きを耳にしながら、藤崎・美雪がポツリと誰に共無く呟いている。
「そうですね。その辺りの情報はあった方が良いかも知れません。後、可能なら帝都桜學府に発行して欲しい物もありますし」
「発行して欲しい物? それはなんだ、ウィリアムさん」
 ウィリアム・バークリーの呟きに微かに怪訝そうな表情になった美雪が問うと、ウィリアムはさらりと『彼女』の戦死通知です、と答えた。
「これがあれば、実際に『彼女』が死んだ、と公的に認められることになりますから。雅人さんとしても、『彼女』の死を認めざるを得ないでしょう」
「その『彼女』が、影朧となった事も、か」
 ウィリアムの言葉に微かにキリカが息をついたのは、嘗て彼女が失った大切な人々の事に想いを馳せたからであろうか。
「確かに雅人のやっている事を看過する事は出来ないし、証拠があった方が雅人を説得しやすくなるかも知れないな。では、先ずは、此処にある帝都桜學府に行ってみるとしよう」
「……そうね。ついでに帝都桜學府に行く途中で少女と雅人さんの事も聞いておきたいわね」
 ボアネルの呼びかけに姫桜がそう頷き、帝都桜學府の方角に向かって歩き出し、統哉達もまたそれに続いて歩き始めた。


「……雅人さんは、帝都桜學府所属者では無かったか」
 ある程度予想は出来たことだが、と心中で呟く美雪にそうですね、と『彼女』……紫苑の死亡通知書を認めて貰ったウィリアムが懐にそれを入れて頷いた。
「つまり本当に一般人だった、と言う事だよね?」
 呟くひかるの表情には、微かに影が差している。
 一般人の彼が、その様な悲劇を知った時の想いは、如何程のものであったろうか。
「だが、それなら尚更愛すべき者はその別れを受け止め、その者が安らかに眠れるよう、告別を行わなければならないだろうな」
「うん……そうだね」
 まるで死者を手向ける葬儀士の様な漆黒のスーツに身を包み、死者への祈りを雅人と共に捧げるべく服装を整えたボアネルの呟きに、聖衣の様な神気戦闘服に着替えた暁音も首肯を一つ。
 姫桜と統哉の姿は、今此処には無い。
 美雪達が雅人の姿を探すその間、姫桜達は帝都桜學府に行く途中にあったカフェ店へ寄り、雅人と紫苑について話を聞くべく帝都桜學府の関係者に話を聞きに行っていたからだ。
 美雪が雅人の姿を探す間に、ふとキリカが暁音やボアネルを見やって声を掛けた。
「一つ、お前達に確認しておきたい。今回、選択肢として雅人を殺すという方法も提示されていたが……それをするつもりは、お前達にはあるか?」
「いや、殺すと言う選択肢は有り得ないな」
 キリカの問いかけに、はっきりとそう答えたのはボアネル。
「俺もそのつもりだよ。……どうしても駄目であるならば、覚悟は決めるつもりでもあるけれど」
 暁音の答えにそうか、とキリカが息を吐く。
 或いはそれは、キリカなりの安堵だったのかも知れなかった。
「それならば良い。勿論私もそうならない様に根気よく説得するつもりだったからな。寧ろそうしなければ恐らく……」
「悲劇は終わらない……か」
 キリカの言葉を引き取った美雪にその通りだ、とキリカが首肯した丁度その時。
「あれ? もしかしてあの人じゃないかな、雅人さんって」
 ひかるが此方に向かって来る雅人らしき少年の姿を見つけて周囲の仲間達に注意を促した。
「ああ。彼が雅人で間違いないぜ」
 チリン、と言う鈴の音と共に、姫桜と共にカフェから出てきた統哉が首肯を一つ。
 統哉の言葉にウィリアムが振り向き、それで、と姫桜と統哉に問いかけた。
「姫桜さん、統哉さん、雅人さんと『彼女』……紫苑さんについて、何か分かりましたか?」
「ええ、それなりにね。まあ今は雅人さんの所に行くわよ」
「分かりました」
 姫桜の言葉にウィリアムが頷くその間に、美雪が雅人に向かって近付いていき、あの、と彼に声を掛けていた。


(「今日はよく、人に声を掛けられるな……」)
「貴女は?」
「美雪、と言う。後ろにいるのは、私の仲間だな」
 美雪が後ろの姫桜達の方へと視線を向けると、雅人も釣られた様にひかる達へと視線を移し、程なくして息を一つ吐く。
「それで……僕に何の用事?」
「ああ、すまない。実は私達は観光客で、この辺りに来るのは初めてでな。出来れば君の様な現地の人間に案内を頼みたい、と思ったんだ」
 美雪の説明に軽く息を吐きながら、良いよ、と雅人が頷きを一つ。
「それで、何処か行きたい場所は?」
「出来ればこの辺りで有名な、桜の花弁が舞うオープンカフェとかに案内して貰えると嬉しいのですが。それならぼく達全員で、一緒に楽しむことも出来ますし」
 ウィリアムの返事に周囲を何処か用心深く見回しながら、分かったと頷く雅人。
「案内するから、付いてきてくれ」
「礼を言おう。と、その前に君の名前を聞いていなかったな。差し支えなければ名前を教えて貰えないだろうか? 私は、ボアネルという」
 ボアネルが礼を尽くして名乗ると、彼は雅人だ、と軽く会釈を一つした後、くるりと踵を返して歩き始めた。
 帝都桜學府に向かう道の反対に。
(「そう言えば、紫苑はよく帝都桜學府の反対の方角にあるオープンカフェで雅人と一緒に喫茶店を楽しんでいる所を見かけた、と聞いたな」)
 向かおうとしている方角から、先程収集した情報の一つを思い出しつつ統哉が頷いている。
 キリカがそんな統哉の様子にどうした、と声を掛けようとした時、統哉が考えていることに気がついたのだろう。
 姫桜がキリカの耳元に唇をあて、そっとその情報を耳打ちし、情報を共有した。
「? どうかした? 行くよ」
「あっ! 御免、御免! それじゃあ、行こっか!」
 そんな姫桜達に怪訝な表情を浮かべながら呼びかける雅人の促しに、ひかるが慌てた様に目をパチクリさせて頷き、雅人に連れられて彼のよく知るオープンカフェに向かって歩み始めた。
 適当に案内を挟みながら、小物屋や、男女の2人連れ……特に雅人と同年代のカップル等を見かけると、ちらりと其方に目を取られる様子を見せる彼に、そう言えば、と美雪が問う。
「雅人さんも年頃だろう。やはり恋人同士、と言うのは気になるものなのだろうか?」
「へっ? そりゃ年頃だからね、気にならないと言えば嘘になるよ。そう言う貴女こそ、そんな話を振ってくると言う事は、もしかして……」
 当然と言えば当然の問い返しに、いや、と少し慌てて首を横に振る美雪。
「言っておくが、私は色恋沙汰には興味が無いぞ?」
「じゃあ、どうしてそんな事を聞いてくるんだい?」
「……それは……」
「ああ、此処が貴方の言っていた店なのね」
 口ごもる美雪をフォローする様に目的地に辿り着いた姫桜が呟き、それにそうだよ、とぶっきらぼうに頷き返す雅人。
「それじゃあ、僕は……」
「いえ、此処まで案内してくれたんですし、雅人さんも一緒にカフェで一休みしていきませんか? ぼく達が奢りますよ」
 そのまま立ち去ろうとする雅人をウィリアムがそう呼び止める。
 雅人は此処で断っても不自然だと感じたのだろう。
 仕方ないか、と言う様な表情しながらも、統哉達と共に、オープンカフェの中へ。
 馴染みの客、なのであろう。
 店員が雅人の姿を認めて親しげに一礼し、そのまま9人が座れる幻朧桜満開の席へと暁音達を導いた。
「今日は大勢ですね。あの子は一緒じゃ無いんですか?」
「えっ?! あっ、うん、まあ……」
 そのまま席に導いた後に、メニューとお冷やを持ってやって来た女性店員のさりげない一言に戸惑った表情を浮かべながらコクコクと首を縦に振り、曖昧に言葉を濁す雅人。
 そのままボアネル達から注文を取って頷き、キッチンの方へと燕の様に軽やかな足取りで向かう店員を見送ると、空を彩る満開の幻朧桜をうっとりとした表情で姫桜が見つめて、ハァ、と感嘆した様な溜息を一つ。
「本当に、綺麗な桜ね。もしこの桜の木々の下で、大切な人とまた会えたりしたら、絶対に離れたくないって。思ってしまうかも知れないわね……」
 感心と同時にさりげなく今回の件の本質を突いた問いかけを行なう姫桜に息を呑み、驚愕を抑えきれないと言った表情を見せる雅人。
 その動揺をありありと見て取りながら、成程な、とボアネルが胸中で独りごちる。
(「そう言う形で『彼女』……紫苑と雅人は再会したのか」)
 ……影朧と化した紫苑と、紫苑を庇う雅人は。
「さっきあの桜の木の下で会った人達もだけれど……あなた達は僕の何を知り、何を探っているんだい?」
 警戒する様な、やや強い語調で問いかけてくる雅人の声とほぼ同時に。
 店員が2、3人でやってきて合計で9つの其々に注文したお茶と、お茶請けを持ってきて配膳し、粛々と立ち去っていく。
 飲み物は抹茶や緑茶、お茶請けはお団子やお煎餅、水羊羹の様な和菓子達。
「この水羊羹、この店のオススメなんだってな」
 自分の目前に置かれた抹茶を点てながら統哉が何気なく話題を振った。
 全く関係の無い話題を口に出され、そうだね、と少し肩の力を抜いて答える雅人。
 暫し其々にお茶とお茶請けを堪能したところで……ウィリアムが懐から、一枚の紙を取り出した。
 それは……。
「雅人さん。改めて貴方にお話があります。貴方の大切な人である『彼女』……紫苑さんは既に亡くなっており、今は影朧となっています」
 ――帝都桜學府より出された、正式な紫苑の死亡通知書。
 ウィリアムにそれを見せつけられ、雅人はさっ、と顔を青ざめさせる。
 お茶の注がれたコップを持つ手が、ブルブルと震えていた。
「……そんな事は無い、彼女は……紫苑は、帰ってきたんだ、僕の所に。彼女は今、負った傷を治療している……それだけだ」
「……本当に、そうか?」
 青ざめた表情そのままに振り絞る様に告げる雅人に、そう問いかけるはキリカ。
 そんな雅人の様子を見ながら、茶碗を置き、続けて統哉が静かに問いかける。
「彼女はどんな人だった? 雅人は、彼女のどんな所に惹かれたんだい?」
「才色兼備でお転婆で……でも、ちょっと料理とハイカラは苦手な奴で。それでも可愛いものや小物には目が無い……そんな女の子だったよ」
「『だった』、ね……」
 紫苑について誇らしげに語り、その胸に付けられた羽根をそっとなぞる様に触る雅人の様子を見ていた姫桜が、ポツリ、と誰に共無く呟いている。
(「最後の一言が過去形なのは、無意識なのかしら、それとも偶然なのかしら?」)
 その真意を問おうかと姫桜が口を開くよりも先に、ボアネルが指先からさりげなく、母の胎内で眠る胎児が無意識に感じる温もりを思い起こさせる様な、淡く白く輝く光で雅人を照らし出した。
 発せられた光による温もりが雅人の心を密かに沈め、落ち着きを感じさせる息を吐いた雅人を見つめながら、ボアネルがゆっくりと諭す様に、穏やかに語る。
「雅人。君の大切な彼女……紫苑は一度死に、影朧となって蘇ってしまった」
「そんな、そんな訳……」
 必死に頭を振って否定しようとする雅人を、ボアネルが沈痛な面差しで彼を見つめている。
「雅人さんにとって、彼女さんが大事なのは、分かるんだよ」
 ボアネルの言葉を引き取る様に、少し幼い声音で何となく背伸びをする様にして、両手を机において身を乗り出しそう告げたのはひかる。
「でも……この世界を、ひいては雅人さんを護るために影朧と戦って亡くなられた彼女さん、紫苑さんは……世界の敵である影朧となってでも、雅人さんと共に居ることを望むのかな? って……」
「そんな筈、無いだろ。あいつが、紫苑が世界の敵になるなんて……」
 ――だから、あいつは本当は……影朧、何かじゃ無い。
 今のあいつは……ただ傷つき助けを僕に求めてきただけの、只の女の子の筈だ。
 自分の頭の中にもたげてきたそれを誤魔化す様に軽く頭を振る雅人の懊悩に、波紋の様に一石を投じるはキリカ。
「……雅人。君は、本当は気がついているのでは無いか? 君の所にやって来た彼女……紫苑は……既に影朧となってしまっている彼女は、既に君の知る紫苑では無い、と言う事に」
「……っ!!」
 キリカの何処か鋭さの混じったそれに、思わず目を見開く雅人。
「雅人。君も知っているのかどうか分からないけれど……影朧は、確かに今すぐに君に害を加えることは無いかも知れない。でも、影朧として存在する限り、いつか彼女は世界を崩壊させてしまうんだ」
 目を見開く雅人を諭す様に、その瞳に真摯な光を宿しながら。
 そう告げた暁音の言葉に息を呑み、絶句する雅人。
「雅人よ。暁音の言うそれが起きてしまう事は、それは、彼女の人生と、彼女自身を否定する事と同じ事になってしまう。何故なら彼女は、君や君達を守るために、死んでいってしまったのだから、な」
 祈る様に、畳みかける様に。
 告げられたボアネルのそれに、重苦しい表情のままに息を吐く雅人。
「まあ正直な話、彼女がどんな想いや覚悟を抱いて戦場へと赴いたのか、その心情の全てを私達が理解できるわけでは無い。ただ……ボアネルや暁音の言う様に、彼女が、紫苑が君達を守るために戦場に出て戦死して……そして、本来であれば、自らが倒すべき影朧となってまで生き延び、守るべき人達を傷つけることは、決して彼女の本意ではない筈だ」
 告げながら、キリカの脳裏に過ぎるは、今は亡き、セリュ達の姿。
(「もし、セリュ達が紫苑と同じ様な形でこの世界で死亡した時……彼女達であれば、恐らくこう思っただろうな」)
 影朧となってまで蘇り、自分達を傷つけたくなかった、と。
「なあ、雅人。お前はもう気がついているんじゃ無いのか? 彼女が何を思い、どうして戦う事を選んだのか……その理由を」
 ――それは、雅人や人々を守るためかも知れないし。
 ――或いは、影朧達を救いたいからだったかも知れない。
「……それ、は……」
 統哉のその呼びかけが、思わぬ波紋となったのか。
 見開いたままでいた目を更に大きく開き、ただじっと考え込む様な表情で、目前の茶碗を睨み付ける雅人。
 その様子はまるで、統哉の問いに対する解を自分の心の中で探り、そして答えを出そうとしているかの様。
(「この迷いと、傷みと苦しみは……」)
 悩みあがき、苦しむ雅人の精神的な鋭い痛みと、影朧が残り続ける事による世界の悲鳴と苦痛。
 それが暁音に刻み込まれた共苦の傷みと共鳴し、全身を斬り裂かれる様な痛みを感じ取りながら、暁音は穏やかに雅人に向けて笑いかけた。
「雅人の心の苦しみは、雅人だけのものじゃない、と俺は思う。もしかしたら、紫苑……影朧となってしまった彼女も、同じ痛みを覚えながら、君の前に姿を現した……そう言う可能性も、あるんじゃ無いかな?」
「そうだな」
 暁音の問いかけに、そう首肯したのは統哉。
「紫苑は……彼女は、君に想いを残して、君に逢いに来た」
 ――その為に……影朧となって。
 或いは……。
「彼女は……君の言葉を、聞きたかったんじゃないだろうか? その上で、君に託したい何かがあるのかも知れない」
「一番怖いのは、会えないこと、ではなく、忘れられること、だからか」
 統哉の言葉に納得がいったと言う様に、美雪が同意の頷きを返す。
 そんな美雪にそうだな、と統哉が微笑を零して頷き、ひかるがじっ、と雅人の胸元にある羽根を見つめ、そっと息を一つついてお茶を口に含んだ。
 ――すっかり温くなってしまった、幻朧桜の花弁が浮いているそのお茶を。
「わたしね、思うんだ」
「何を……?」
 お茶を飲み干したひかるが溌剌とした声音を発すると、雅人が軽く首を傾げる。
 そんな雅人に向けて、ひかるが、一言一句を彼に刻み欠用とするかの様に、言の葉を紡ぐ。
「雅人さんがすべきことは、影朧に……思い出に縋る事じゃなくて。彼女さんを一度『転生』させて、もう一度出会うことなんじゃないのかな、って」
 今のままでは、紫苑は不安定な揺らぎに囚われ続けたままだろう。
 それはきっと、紫苑にとって、ただその魂の苦しみが強くなるだけなのでは無いか、とひかるは思う。
 ――だからこそ、『転生』させてやるべきなのでは無いか。
 この頭上に咲き誇る幻朧桜に宿る精霊さん達も、そうして欲しいとひかる達に囁きかけてきている。
 ……そう、思えるから。
「確かに『転生』しちゃったら、もう紫苑さんとしての記憶は無くなっちゃうかも知れないけれど。でも……紫苑さんの想いは、その証は……今、確かに雅人さんの胸に残ってるんだから」
 ――そう。
 その胸元に、ずっと彼が身に付けたままのその羽根に。
「……君にも相応の苦しみ、そして葛藤があったことは私達にも、分かっている」
「ええ、そうね。貴方の想いがどれ程重くて、その思いに貴方が苦しんでいるのも、何となく感じられるわ」
 優しく、寄り添う様に静かに告げるボアネルに、同意する様に頷くは姫桜。
「貴方が、紫苑さんと一緒に行っていたあのカフェの、紫苑さんの同僚の人達も、紫苑さんの命が失われたことを惜しんでいたわ。……それで貴方がどれだけ苦しんでいるのかも心配だ、って」
 姫桜の呟きに応じる様に。
 桜鏡に嵌め込まれた桜を象った玻璃鏡に、桜の花弁がヒラヒラと舞い落ちる。
 落ちてきたそれを受け止めた玻璃鏡が、まるで、姫桜が人々と話した時に感じた想いを、そして……紫苑自身の想いを代弁するかの様に、波紋の様に広がっていった。
 姫桜の想いを代弁するかの様に波立つそれをちらりと見やりながら、ボアネルがつまり、と小さく続ける。
「君は……君だけは、彼女の戦いを否定する事をしてはいけないんだ。多くの人に紫苑は『人』として愛されていた。その彼女を影朧にしたままにしておくこと……それは、彼女の想いを、本当の願いを否定する事になる」
「あいつの本当の……願い」
 ポツリ、と繰り返す様に。
 静かに呟く雅人のそれに、キリカがそうだ、と軽く首肯した。
「……君の気持ちは、私にもある程度は分かる。何故なら私も、戦いの中で大切な人達を失ったからだ」
 己の過去を述懐するキリカ。
 その言葉に驚きを隠せぬままに、一瞬唖然とした様に口を開ける雅人だったが、
程なくしてキリカへと視線を移し、じっ、とキリカを見つめ始めた。
 雅人の視線を、遠くを見つめる様な眼差しをして正面から受け止めるキリカ。
 ――サラサラサラサラサラ……。
 幻朧桜の花弁がキリカと雅人の間を通り過ぎていく。
 その様子に懐旧の想いが胸の中に湧き上がるのを感じながら、キリカが淡々と真実を語った。
「どんな人間であれ、別れの日は必ず来るものだ」
 ――そして……今こそが。
「君が彼女と向き合い、さよならを告げる時なのだと、私は思う。そしてそれは……」
「きっと、君にしか出来ない事だ」
 キリカの言葉に一つ頷き、統哉がそれを引き取って確信と共に頷いた。
「僕にだけ……出来ること……」
「そうだ。紫苑と長く時を共に過ごしてきた君にしか、それは出来ないことだと俺は思う。だから……どうか勇気をもって、彼女の最期を見送って欲しいんだ」
 ――彼女が、彼女の人生を、誇りをもって終えられる様に。
 ――そして……新しい命へと、向かえる様に。
「オブリビオン――影朧のかつての人格が、いつ失われるかは分かりません」
 統哉やキリカの言葉を補足する様に、そう訥々と告げるはウィリアム。
「だから、統哉さん達の言う様に、『彼女』がまだ、『彼女』であるうちに、輪廻の輪の中へ送り出して、転生して貰うべきでしょう。それが……紫苑さんにとっての、一番の救いとなるでしょうから。だから……どうか、『彼女』の居場所を教えてください。お願いします」
「君の大切な人の想いは、俺達も正面から受け止める」
 体を苛む苦痛を気取らせる様子も無く、微笑を零して熱心に説く暁音。
 ――今、正しく俺が、共苦を通して感じている痛みと同様に。
 彼女の痛みも、嘆きも、また。
 でも、その為には……。
「君に、俺達は教えて貰う必要があるんだ。紫苑が今、何処にいるのかを。だから……どうか俺達にそれを教えて欲しい」
 ウィリアムと暁音の願いが……祈りが、雅人に届いたのだろうか。
 雅人が、懐から一枚の紙を取り出した。
「『彼女』は、此処にいる。もし君達が本当にあいつを……紫苑のことを思ってくれているのなら、多分、紫苑を守るために用意したそれを切り抜けることも出来るだろう。だから……」
 ――行きたいのならば、行ってくれ。
 雅人の言葉にならぬ願いと想い、その心の内で荒れ狂う傷みを、共苦を通じて感じ取りながら暁音が頷き、それを受け取った。
「お前は、一緒に来てくれないのか?」
 統哉の問いかけに僕は……と雅人が小さく頭を振った。
「まだ、気持ちの整理が出来ていないから……気持ちの整理が付いたら、其方に向かうよ」
「……分かった」
 雅人の表情に譲れぬ何かを感じ取り、美雪が静かに首肯を一つ。
 そうして踵を返して紫苑の元へと向かおうとする直前……姫桜がちらりと雅人を見やった。
「雅人さん。きっと紫苑さんは、貴方の事を待っているわ。だから……気持ちの整理が付いたら、ちゃんと私達に教えてくれたこの場所に来るのよ」
「それが、君のするべき事だからな」
 姫桜の言葉にキリカが同意を示すと、雅人はそれに分かった、と静かに頷いた。

 ――縋る様に、その胸に付けた羽根を、握りしめながら。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『矢弾が降ろうと槍が降ろうと』

POW   :    罠を力ずくで破壊する、わざと罠にかかって仲間を守る

SPD   :    紙一重で発動した罠を回避する、器用に罠を解除する

WIZ   :    罠の配置を予測し、罠のありそうな場所を避けて進む

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は10月10日(木)夜~10月12日(土)の予定です。その為、プレイング受付期間は、10月9日(水)8時31分~となります。もし、予定の変更がございましたらマスターページにてお知らせ致しますので、其方もご確認頂けます様、お願い申し上げます*

 ――それは帝都の外れにある神社。
 厳かに立つ鳥居の向こうに聳え立つ桜の木の中央に、大きな穴が開けられている。
 それが、雅人が教えてくれた場所に佇んでいた、彼女……紫苑の隠れ家。
 まるで全てを飲み込んでしまいそうに広げられた入口から中を覗こうとした、その時。
 ――ゾワリ。
 嫌な予感が、猟兵達の背を駆け抜けた。
 同時に猟兵達は直感する。
 この中に踏み込めば……その先で待ち受けるは、所狭しと隠れている数々のトラップであると。
 そして、それらの罠を潜り抜けたその先で、傷を癒すべく『彼女』が待ち受けているのであろう、と。
 其々の表情で猟兵達は頷き、意を決して木をくりぬいて作られた罠のひしめく巨大な洞穴へと足を踏み入れる。

 ――紫苑と雅人……其々への想いを、その胸に抱きながら。
 

 ――それは帝都の外れにある神社。
 厳かに立つ鳥居の向こうに聳え立つ桜の木の中央に、大きな穴が開けられている。
 それが、雅人が教えてくれた場所に佇んでいた、彼女……紫苑の隠れ家。
 まるで全てを飲み込んでしまいそうに広げられた入口から中を覗こうとした、その時。
 ――ゾワリ。
 嫌な予感が、猟兵達の背を駆け抜けた。
 同時に猟兵達は直感する。
 この中に踏み込めば……その先で待ち受けるは、所狭しと隠れている数々のトラップであると。
 そして、それらの罠を潜り抜けたその先で、傷を癒すべく『彼女』が待ち受けているのであろう、と。
 其々の表情で猟兵達は頷き、意を決して木をくりぬいて作られた罠のひしめく巨大な洞穴へと足を踏み入れる。

 ――紫苑と雅人……其々への想いを、その胸に抱きながら。
 
*業務連絡:すみません、二重投稿してしまっておりますが、内容としては、巨大な幻朧桜の木をくりぬいて作られたトラップのある洞穴を突破する、と言う内容となっております。何卒、宜しくお願い申し上げます*
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ可
他者連携極力NG

皆の答えは「紫苑さんを転生させる」だろう
雅人さんに納得してもらえれば、これが最も穏便な解決法だから

なら、僕は皆より先行して
可能な限り罠を斬り払っておく

ヘッドライト用意、頭に装着
「戦闘知識、世界知識」で仕掛けてある罠の種類を予測
「追跡、視力、暗視、失せ物探し」+明かりで積極的に罠を捜索
「第六感、見切り」で不測の発動警戒

【魂魄解放】発動後
発見した罠を「2回攻撃、怪力、範囲攻撃」+衝撃波で片っ端から破壊
罠にかかったら「オーラ防御、激痛耐性」で負傷軽減

他の猟兵が来たらライトを消しUC解除後「目立たない、闇に紛れる」で隠れやり過ごす
…他の猟兵に合わせる顔はないからな




(「あれが皆の選択……だな」)
 周囲に咲き乱れる幻朧桜の木々の合間を影の如く潜り抜け、誰にも気取られぬ様に他の猟兵達より先行した、館野・敬輔が内心で溜息を一つつく。
 何となく、そんな予感はしていた。
 彼等は影朧……オブリビオンを討滅するのでは無く転生させる為に、行動を起こすだろう、と。
(「そうだよな……雅人さんが納得すれば、それが一番穏便なんだから」)
 それは、グリモア猟兵による示唆。
 ただ討滅してしまえば、また彼の思いに付け込んだ新たな影朧が姿を現す可能性。
 そして彼自身を殺せば、今度は雅人自身が影朧になってしまう未来。
 となればこれ以上の被害を止めるために、最善の手段は自然限られてくる。
 即ち……影朧と化してまで、雅人のもとにやってきた紫苑が倒されるべき理由、倒さなくてはならない理由を納得して貰い、その想いを断ち切ること、これに尽きる。
(「でも……僕には」)
 ――出来ない。
 影朧……オブリビオンへの復讐を求め戦う自分には、影朧の転生を願い、実際にその為に行動するなど、難しい相談だった。
 ――何で?
 ――お兄ちゃんは、私達の魂を取り込んで……助けてくれたのに。
「……だからだよ」
 黒剣に纏われた白い靄達の声に聞こえるか聞こえないか、位の声音で呟きながら敬輔は軽く頭を一つ横に振る。
 或いは、雅人の紫苑への一途な想いを断ち切ると言う事は、ある意味で自らの心の奥底にあるオブリビオンへの『復讐』という想いを否定する事と類似しているからかも知れないとも思えないことも無いのだが、果たしてそれに敬輔自身が気がついているかどうか。
 敬輔は、自らの経験と知識を動員して、此処に隠されているであろう罠を探る。
(「先ずあるとすれば……天井や壁から飛来する矢」)
 例えば、地面に用意周到に張り巡らされた目に見えない細い糸を無意識に引っ掛けた場合……。
 ――ヒュン、シュシュッ!
 矢や、槍が壁から飛び出してくるのは、古典的且つ典型的な罠だろう。
「……はっ!」
 四方八方から飛んでくるそれらの矢を『彼女』達の白い靄を斬撃の衝撃波に変えて切り落とし或いは青の結界を自らの周囲に張り巡らしてそれらを受け止める。
(「他には……」)
 目を凝らし、それ以外にも桜の木の中で作り出された人工的に見えるスイッチ等を見つけて叩き壊し、或いは白い靄を三日月型の斬撃の刃に変え、槍衾宜しく突然横合いから出てくる木槍を敬輔が薙ぎ払う。
(「……少しでも多く減らしておけば、後は皆が何とかするだろう」)
 正直な話、今の自分には、他の皆に合わせる顔が無い。
 影朧の転生を、信じることが出来ない自分には。
 だから先行し、少しでも罠を減らしておく。
 その、自らの心を閉ざそうとする心の在り方、その心に育まれる迷宮こそが……紫苑の物語が引き起こす、罠の一つである事に気がつかぬままに。

成功 🔵​🔵​🔴​

ウィリアム・バークリー
幻朧桜の中にこんな空間が。自然に出来たものでしょうか?
それに、猟兵に通じるトラップを、学徒兵でもない雅人さんが設置できるのかも怪しい。
考え出すときりがありませんね。とにかく罠を突破して、紫苑さんのところへ向かいましょう。

Active Ice Wallを自分の周囲に展開し、ぼくは「空中浮遊」と「空中戦」で先頭を切って進みます。罠というのは大抵どこかに接触することで発動しますからね。
自分の前にも氷盾を押し出し、空間に張られた罠がないか確認します。

後続の人のために、氷盾を罠が仕掛けてありそうな箇所に触れさせて罠の空撃ちも狙ってみます。上手くいきますか?

この洞もそろそろ終点のようですね。行きましょう。


朱雀門・瑠香
手始めに、他の方との連携は歓迎します。
道は・・・・私が切り開きましょう!
中は暗いでしょうから暗視をして罠の配置を見切ります。
床、天井はもちろんのこと壁も警戒して微かな形跡を見つけるとしましょう。
罠の痕跡を完全に隠すなど不可能ですから配置を見破り次第、私の技で纏めて吹き飛ばします。
とは言えよくぞこれだけの罠を仕掛けられたものです。雅人さんでしたっけ?彼、こういった才能はあるのですね。
死にそうなのばかりだったら怒りますけど・・・・


カタリナ・エスペランサ
いつだったかの忍者屋敷での戦いを思い出すね
うん、問題ない。ちゃんと進めそうだ

UCは【閃風の守護者】を使用。
《視力+暗視+聞き耳+第六感》での《見切り》に更に磨きをかけ、地面の罠もある程度は回避する為に《空中浮遊》して進んでいこう
《罠使い+拠点防御+地形の利用》の技能を活かして罠の配置を読んだり《破壊工作》の要領で罠を潰したりも出来るんじゃないかな
《情報収集+学習力》で罠を仕掛けた相手の性質や思考も幾らか読めないか試してみよう

起動した罠、避けて通れない罠に関しては《怪力+吹き飛ばし》での物理的な《カウンター》と《破魔+属性攻撃》での対処を《早業》で使い分けつつ、仲間の事は優先して《庇う》よ


天星・暁音
さて… 如何にか説得は成功した…のかな…まあ最終的に必要なら俺がやればいいだけだしね。
まあそうならない事を祈るしかない。

説得の手応えは…あったとは思うけど…人の心…だからね。
自分自身ですら制御しきれないものだから…まぁ何があっても動けるように心構えはしておこう。

さて、それはそれとして罠…か。
この先に標的がいるなら消耗は少なくしたいね。
しっかりと避けたり解除したりしないとね
誰かが引っ掛かちゃったらかばえる準備もしとこう

【基本行動は避けて進みますがUCがSPDなのでそちらに合わせるなら解除でもいいです。世界知識、情報収集で罠を探り解除、回避します。誰かが罠で怪我しそうならかばいます】

アドリブ共闘可


白夜・紅閻
※アドリブ可

●SPD

そう…雅人は教えたんだね、彼女の居場所…
(他の猟兵たちの話を聞きながら)
大丈夫、だよ。君の中には彼女との思い出が沢山詰まっているだろうから
(雅人はどんな想いで…この場所を教えたの…かな)

●穴
……やだな、この感じ。あの日の事を思い出してしまう…
あの…日?(とはいったい…?相変わらず記憶には靄が掛かっているが)

どうか、僕に力をかしてくれ…
(色褪せてしまった指輪に祈り願いつつ、フォースセイバーの光を頼りに先に進む)


可能かどうかは分からないが
近くに蝙蝠でも呼び出して道案内でも頼むか
奴らの発する超音波で罠といった危険を察知出来れば…

ああ、鴉でもいいか
あいつら賢いし…


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

おいおい、トラップ満載(大げさ)の洞窟の奥に紫苑さんがいるのか
よく用意したな雅人さん…愛の為せる業か?

…ツッコミはさておき

正直、トラップ解除も回避も叩き潰しも私は不得手だぞ
だが、雅人さんの思考をたどって
罠の種類や仕掛け場所の予想はできるかも

あくまでもこれは「紫苑さんを守るための」罠だ
侵入者の心を折るため、大量に仕掛けたと予想

皆で協力して懐中電灯で周囲を照らしつつ
張ってあるであろう糸や罠に注意しつつ前進だ
…まさか機械制御のセンサーなんぞないよな?

もし罠にかかって怪我した人がいたら
「歌唱、鼓舞」+【シンフォニック・キュア】を歌うよ
今後に備え、できるだけ消耗は抑えたいしな


フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

夜目はきくから、暗くてもまだ助かったわ
でも…やっぱり怖くて、足がすくみそう
だから【空中戦】を駆使して、地面のトラップを回避しつつ慎重に進むわ

誰かが一緒ならば、遠慮なく盾にしたりして頼っちゃう
もしも身体に損傷を与える罠ならば、UCで「氷柱の竜巻」を生成、それを壁にして防いでみるわ
威力は頑張って抑えるの

自分だったら何処に罠を仕掛けるかを考えつつ、空気の微弱な変化やわずかな音を感じ取って罠を察知、回避してゆきましょう

あくまで木の中の洞穴、あまり傷を付けると木にも良くないわね
木にはこれからも沢山長生きしていただきたいもの、自然は大切にしましょう

けれど油断は禁物、覚悟を決めて参りましょう!


彩瑠・姫桜
【POW】
紫苑さんと雅人さんの想いを無にしないためにも
ここは何が何でも突破しなくてはね

回避できる罠は避けたいところだけど、それだけでは足りないことだってあると思うの
そういう時は私が率先して罠にかかろうと思うわ

洞窟内だと、足元や手を付きそうな壁とかに糸が仕掛けられてたりとか
岩が重しになっていて、移動させると発動するものとかもあるかもしれないわ

【第六感】駆使して
なるべく先頭を歩いて【情報収集】で地形把握を試みるわ

罠が発動したら仲間を【かばう】
矢や槍が飛んで来たら【武器受け】で払いのけるわね

可能なら【サイキックブラスト】も使用
電流を蜘蛛の巣のように広げて【範囲攻撃】で罠の攻撃を払えるかも試してみるわ


荒谷・ひかる
ここが、紫苑さんの隠れ家なんだね。
……うん、幻朧桜に宿る精霊さん達も、助けてくれる。
行こう。紫苑さんと雅人さん……止まってしまった二人の時間を、再び動かすんだよ。

桜に宿る【草木の精霊さん】たちの声を頼りに、恐れずに進むよ。
罠の場所や種類は、精霊さんが教えてくれるからこわくないもん。
わたしは、それを一緒にいるみんなに伝えたり、精霊さんにお願いして対処してもらったりするんだよ。
状況に応じて仕掛けを蔦で覆ってもらったり、延びる枝で橋渡ししてもらったりして進むね。
必要ないかもだけど、後から来る筈の雅人さんのためにしっかり道も作っておくんだよ。


ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

美しい桜の洞だが…内部からは危険な香りが漂っているな
易々と通してくれそうにはないか

内部のトラップは戦いの素人である雅人が仕掛けた者だけでなく、戦闘訓練を積んだ紫苑が仕掛けた物もあるだろうから油断せずに行こう
UCを発動し、影から現れる魔狼で死角にあるトラップや仕掛けを発見
破壊、もしくは安全な距離で発動させて解除していく
薄暗い洞の中なら活躍してくれるだろう
狼で解除できない物は仲間に詳細を伝え、代わりに対処してもらおう

雅人が我々に彼女の居場所を教えた時の苦悩は察するに余りある
彼の覚悟を無駄にしないためにも、彼女は此処で必ず止めねばなるまい
…それが彼女にとって二度目の死となろうともな


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

巨桜の洞穴か…見事なものだ
内部に罠と敵がいなければ…だがな
どのような罠であれ、この後の戦いに響くような被害を出すのだけは避けなければ


戦闘知識を駆使して罠の場所を探知
銃撃で発動、あるいは破壊できるようなトラップであれば安全地帯から銃撃して無力化し、生身で行くことが難しい場所があればUCで自身を毒霧に変えて入り込みトラップの解除を試みる
発動前には周りの仲間達には離れるように指示もする
毒の霧だからな…これで仲間に被害が出たら洒落にもならん

雅人がいれば楽に進めただろうが…
いや、彼がこの場にいない方が良かっただろう
我々は彼の想い人を手に掛けるのだからな
それが例え想い出の残骸であっても…だ


文月・統哉
■心情
雅人も今、彼自身の心と向き合っているのだろうか
大切な人との別れを選ぶのは相当の覚悟が要る事だ
それでも雅人は教えてくれた
俺達を信じて紫苑の未来を託してくれた
なればこそ俺もまた
彼の想いを信じて先へ進もうと思う

■行動
仲間と連携して
罠を解除しながら突破する
どんな仕掛けがあるのやら、機械好きの血が騒ぐぜ♪

仲間を含めオーラ防御を展開(ほんのりもふもふ、かも?
周囲を観察し情報収集
罠使いの知識も使い配置や種類を見切る

UCで召喚した『黒猫の影』を使い
罠を発動させずに素早く構造を把握
要部分を安全に分解or破壊する

ここを踏んだら石が転がって
ここを触ったら矢が飛んで
この紐を引くと金ダライが落ちてくると…なるほど




「そう……雅人は教えたんだね、彼女の居場所……」
「ええ、何とかね」
 白夜・紅閻の呟きに、安堵から、だろうか軽く頷きを返したのは彩瑠・姫桜。
 銀の腕輪に嵌め込まれた玻璃鏡の鏡面が桜の花弁に触れて、淡い玻璃色の輝きを作り出す。
 その光が微かに紫色に輝いている様に見えたのは、共苦による雅人や世界、そして……この先で出会い、恐らく感じるであろう苦痛を想起し、紫苑達の心の痛みに想いを馳せる、天星・暁音の感傷に過ぎないのだろうか。
(「如何にか説得には成功した……と思いたいんだけれど……」)
 考える時間が欲しい、と言って、雅人は自分達に地図を渡して別れたのだ。
 その別れの間にどんな心の整理の付け方があったとしても、有り得ない話では無いだろう。
(「説得の手応えはあった、とは思うけれど……ね」)
「雅人を信じようぜ、暁音」
 そんな暁音の想いが、表情の何処かに表れていたのだろうか。
 文月・統哉が人好きのするであろう笑みを讃えて、暁音の横顔を伺いながらそう告げる。
「統哉……」
「大切な人との別れを選ぶのは、相当の覚悟が要る事だ。それでも雅人は教えてくれた。俺達に、紫苑の未来を託してくれたんだ。ならば今度は、俺達が雅人の思いを信じて、紫苑の元に向かえば良い」
「そうね。雅人さんと紫苑さんの想いを無駄にしないためにも、私達は前に進まないといけないわね」
(「君の……雅人の中には」)
 紫苑との思い出が、沢山詰まっているんだから。
 そう胸中で今は此処にいない雅人に呼びかける紅閻の傍らにあるは、白銀の双翼を持つ白き鳥と、月下に映し出された美しき黒き金剛石を思わせる獣。
 本来であれば、二つで一つの指輪であったとされる大切な『それ』を想起させる色褪せてしまった指輪……それは紅閻の本体でもある……を、そっと撫でながら。
「そう、だよ。きっと大丈夫、だよ」
「……そうだね」
 紅閻の解に暁音が内心で静かに一つの決意をしながら、言の葉を返した、その時。
「皆! 此処が紫苑さんの隠れ家みたいだよ!」
「ふむ。巨桜の洞穴か……見事なものだ」
 それまでじっと周囲に咲く幻朧桜に宿る精霊さん達の声を聞き取りながら先行していた荒谷・ひかるとその隣に保護者の様に共に歩いていたキリカ・リクサールの感嘆の混じった呟きを聞いた統哉達が、地獄へと向かう門の様に、大きな顎を開いて待っている様にも見えるその洞穴の入口を、何処か茫洋たる眼差しで見つめる。
「確かに美しい桜の洞だが……内部からは危険な香りが漂っているな」
 洞穴から感じ取れる邪気の様な何かを感じ取ったか。
 姫桜達の想いを代弁するかの様に他の者達を見つめながら溜息を一つついたボアネル・ゼブダイのそれに、そうね、と軽く頷き返したのは、まるで重力による慣性の法則を完全に無視しているかの様に、フワフワと宙を舞う様にその様子を見つめているフローリエ・オミネ。
「この雰囲気……何時だったかの忍者屋敷での戦いを思い出すね♪」
 幻朧桜の隙間から差し込む夕闇の光を受け、橙色に輝く遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせ、ふわり、と極自然な動作でボアネル達の前に着地したカタリナ・エスペランサもまた、愉快そうに目を細めながらうんうん、と一人頷いていた。
「……フローリエさんに、カタリナさん。あなた達も来ていたのですね」
「ええ。……ちょっと、ね」
 ウィリアム・バークリーの問いかけに、その紫の瞳に何かを思わせる揺蕩う光を宿したフローリエが囁く様な声音で返す。
 その声音に含まれているのは、懐旧か、業なのか。
 それとも……。
「雅人さんから、紫苑さんについて聞いちゃったら、放っておくことなんで出来ないよね☆」
 道化師めいた笑みを浮かべて、巫山戯た様にからかう様な声音を上げて、場を和ませる様にしたのは、カタリナが後天的に磨いた技故であろうか。
 或いは……。
「あっ……、あのすみません!」
 不意に、後ろに現れた少女……朱雀門・瑠香の存在に気がつき、彼女が11人の猟兵の輪の中に入り込み易くする様、配慮した結果だろうか。
「……あなたは?」
 それまで洞穴の中を外から眺め、その中にあるであろう満載のトラップ(大げさ)を想像し、何だか妙な頭痛と憂鬱を感じさせる溜息を吐いた、藤崎・美雪の問いかけに、力強く首肯する瑠香。
「はい、朱雀門・瑠香と言います。超弩級戦力の皆さんのお手伝いをするべく参上致しました」
「朱雀門……?」
 瑠香の自己紹介に、微かに戸惑いの声音を上げたのはフローリエ。
(「いえ。でも、その名前は……」)
 時折視る、『あの人』の姿がちらりと視界の端を掠めていく様なそんな気がしたが、未来を視るために此処に来たのだ、と幻朧桜の木の下で自らに化した誓いを思い起こして軽く頭を振ってそれを掻き消す。
「あの……私がどうかしましたか?」
「いえ、何でも無いわ。フローリエよ。宜しくね、瑠香」
 キョトン、とした表情で瞬きをする瑠香にそう返すフローリエ。
「全部で12人か。隊列に気をつけて進もう」
「ああ、そうだな」
「あっ、それでしたら先頭はお任せ下さい! 道は……私が切り開いて見せましょう!」
 ボアネルとキリカが軽く目配せを躱し合うその間に、張り切った表情で手を挙げてハキハキと告げる瑠香。
「その意気込み、頼りにさせて貰うぞ、瑠香。だが、一筋縄ではいかなそうな場所だ、十分気をつけてくれ」
「……はい!」
 意気込む瑠香の肩を軽く叩きながら、それとなく助言を行なうボアネルに、瑠香が力強く首肯したのを切っ掛けに、ひかる達は、洞穴へと足を踏み入れるのだった。


「幻朧桜の中にこんな空間……これは自然に出来たもの、なのでしょうか?」
 周囲に複数の青と桜色の混ざり合った魔法陣を召喚し、両手を広げてそれらに指示を出して無数の氷塊を自らの周囲に展開しながら、幻朧桜の木に集う精霊達と、風の精霊に呼びかけて洞穴の中を浮遊している、ウィリアムが問いかける。
 同じくフワフワと重力を感じさせぬ足取りで宙を舞うフローリエが首を横に振りながら、微かに目を細めて呟いた。
「夜目は利くから、暗いところでもまだ助かってはいるけれど……」
「……フローリエさん、大丈夫? 足、震えているよ?」
 目を凝らして様子を見ているフローリエの隣を遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせて併走しながら問うカタリナに、たおやかな笑みで軽く頷くフローリエ。
「カタリナは、気付くのね。そうね……ちょっと怖いわね」
「この暗さだものね。仕方ない気もするわ」
 隊列を組む時、瑠香と共に最前列を希望した姫桜がフローリエの言葉に頷きながら、schwarzとWeißの二槍の先端で、先に進む道をツンツンつついて罠が無いかどうかを確認している。
 その姫桜の様子を見ながら、ボアネルが小さく唸り声を一つ。
(「こう言う事ならば、10フィートの棒を用意してくるべきだったかも知れんな」)
 埒も無い思考がボアネルの脳裏を駆け抜けていく間にも、この洞穴探索に目を輝かせ、気持を昂ぶらせている者もいた。
 即ち……統哉だ。
「どんな仕掛けがあるのやら、機械好きの血が騒ぐぜ♪」
「……ちょっと待て統哉さん。雅人さんはそんな機械を作る能力があったとでも言うのか?」
(「と言うか明らかに既に起動して解除(物理)を行なった形跡があるのだが……これは一体何が起きているんだ?」)
 ワクワク顔の統哉に困惑の表情で突っ込みを入れつつ、周囲に散らばっている矢や木槍の残骸を見つめながら美雪がなんとも言えない表情で軽く目頭を押さえた。
「私達より先行して誰かが入り、奥に向かった、と言う事だろうな」
 幾つもの枝道に分かれ、地下へ、地下へ向かっているのは確かだろうが、明らかに複雑な構成となっている洞穴の周囲を注意深く観察し、その壁の隙間から見える黒光する何かを見つけるや否や、素早く取り回しの良い強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210”を抜き放ち引金を引くキリカ。
 銃身を彩る黄金のラインが朧気に輝くと同時に放たれた弾丸が、黒光りする銃口……恐らく、吹き矢或いは罠に引っ掛かると放たれる光線銃であろう……を撃ち抜き、パァン、と音を立てて破砕させる。
「……キリカさん。今、何か光線銃らしきものを射貫いていなかったか?」
「ああ、撃ち抜いた。射程圏外からの射撃には、どうにもあの銃は脆かった様だな」
 美雪の突っ込みに、さも当然と言う様に頷くキリカ。
 歴戦の古強者……戦場傭兵と呼ばれるキリカにとっては、その位は造作も無い事なのだろうが……。
「いや、ちょっと待て?! 雅人さんは一般人だろう!? どうやってあんな物騒な代物を入手して、しかもあんな風に巧妙に隠せたんだ?! これも愛の為せる技だと……?!」
「まあ確かに、ぼく達に通じるトラップを、學徒兵でもない雅人さんが設置できるのは、怪しい話ですよね。その為の資材を手に入れるのも」
 氷塊を盾にして、その背にフローリエを庇うカタリナや、精霊さん達の声に耳を傾け、ナビを続けているだけでそれ以外に罠に対抗する術を実は何も持たないひかるを庇う姫桜を守りながら、溜息をついて美雪に同意するウィリアム。
「そこ、落とし穴があるから気をつけてね、瑠香」
「あっ……はい、ありがとうございます、暁音さん」
 周囲を注意深く観察しながら、僅かに床の色が違うことに気がついた暁音の呼びかけに瑠香が頷き、落とし穴を素早く避ける。
 と、その時。
 ――カチリ。
(「むっ?」)
 何かのスイッチが何処かで入る様な音が、金色の瞳を持つ暗夜の如き黒い巨躯と爪牙を持つ魔狼に五感を通して、ボアネルの耳に伝わってきた。
 同時にゴロゴロゴロ……と遠くから何かが転がってくる様な、そんな音が自分達よりも遙かに優れた五感を持つ自らの魔狼を通して聞こえてきている。
「えっ? 左の横穴に入れって……精霊さん、本当に?」
 ボアネルが魔狼を通して聞いていた音を聞き取ったのか。
 先程までひたすら真っ直ぐ降りていく様にして、と囁き続けていた精霊さん達の警告に、微かに驚いた表情になって、ひかるが反射的に問いかける。
 ……と。
 ――ゴロゴロゴロゴロゴロ……!
 まるで、ヒタヒタと死の世界へと向かう足音の如く。
 明らかに物騒極まりない強大な音が背後から迫ってきた事に、最後衛を務めさせていた黒猫の影の追跡者が気がつき、ニャァ! と警戒の声を上げた。
「ハハハッ……これはもしかして、噂のローリング・ストーン?! 皆、走れ!」
「精霊さん達もこっちこっちって言ってるし、とにかく皆こっちに来て!」
 冗談交じりに乾いた笑い声を上げるや否や、すかさず姫桜達前衛に向かって声を張り上げる統哉に頷き、ひかるが精霊さん達の導きに従って目的地からは離れるが、安全地帯なのであろう左の横穴に飛び込むのに追随する様にフローリエや瑠香、ウィリアム達が次々に続く。
 最後に統哉が飛び込んだ時、人なんぞ簡単に押しつぶせるであろう天然巨岩がゴロゴロと凄まじい音と共に転がっていき、そのまま一直線に統哉達の前を通り過ぎていき、ガツン、と鈍い音を立てて洞穴をグラグラ揺らした。
 その衝撃の凄まじさに、洞穴の壁……即ち幻朧桜の木の皮が、パラパラと飛沫の様に零れ落ちてきて、紅閻達を叩く。
「……皆、大丈夫か?」
「えっ、ええ、大丈夫ですが……何ですか、何なんですか此処?! ちょっと紫苑さん守るためとは言え、殺意高過ぎじゃありませんか!?」
 ボアネルの呼びかけにやや怒気を孕んだ様子で応じた瑠香に、姫桜もパタパタとスカートや肩に降り注いだ木片を叩き落としながら苦笑を零して頷きを一つ。
「ええ、流石に今のはちょっと予想してなかったわ……」
「う~ん、何が原因なんだろうな? 特に踏みぬいたら転がってきそうな岩とかは無かったと思うが」
「落とし穴はあったけれど、それは瑠香が避けて、僕達もそれに倣ってあの落とし穴は回避した筈だからね……」
 統哉が両手を組んで首を傾げて考え込む表情になり、暁音も統哉に同意する様に首肯してう~ん、と軽く小首を傾げている。
「……この暗闇は、少し、嫌だな……」
 ポツリ、と呟いた紅閻が、色褪せた指輪を祈る様に軽く撫で、それから懐から白銀の双翼を思わせる鍔を持ったフォースソードを取り出し、ぐっ、と柄を握りしめると、白銀の光と共にフォースソードが輝き、松明の様に眩い灯となって、周囲を照らし出し始めた。
「どうして、嫌なんだい?」
 緊張を解きほぐす、と言う意味もあるのだろう。
 紅閻のフォースソードの光を反射して、プリズム色の輝きを発する遊生夢死 ― Flirty-Feather ―で辺り一体を照らし出すカタリナの問いに、俯き加減になる紅閻。
「……あの日の事、思い出してしまうから……」
「えっ?」
 紅閻の呟きにそれまでの恐怖を一時忘れて、口元に手を当てて驚いた表情になるフローリエ。
 その表情が引金になったのかどうかは定かでは無いが……突如として、紅閻の目が大きく見開かれる。
(「あの……日? それって、一体……僕は……何、を……?」)
 そんな紅閻の戸惑いを覆い隠すかの様に。
 頭の中に常に掛かり続けている靄がかる雲が晴れることは、決して無い。
 分かるのは……祈り。
 その力を……想いを、自分に貸して欲しいと自らの本体である色褪せてしまった指輪に願う、自らの祈りだけだ。
 紅閻達の会話の応酬にちらりと目配せを送りながら、こくり、と小さく一つ頷いたのはボアネルだった。
「先程、あの岩が転がってくるよりも前、何処からか何かスイッチが入る様な音が聞こえた。私の魔狼の耳にだ」
 呟き、カタリナのプリズムの光に映し出された自らの影へとちらりと目配せを送るボアネル。
 その目線の合図を受ける様に姿を現した魔狼が、その通りと言わんばかりに大仰にその漆黒の首を縦に振った。
 美雪は開いた口が塞がらないといった表情で軽く頭を振る。
「……待て。ボアネルさんの言葉通りだとしたら、あのローリング・ストーンは機械制御のセンサーかなんかで操作されたとか……そう言うことにならないか?」
 美雪の問いかけに、ウィリアムが軽く首肯を一つ。
「まあ、そうなりますね。となると、ぼく達以外の誰かがスイッチを押した可能性もある、と言う事ですか」
「そうだな。私達の侵入に気がついた誰かか、それとも他の猟兵かは分からないが……恐らくそう言うことだろう」
 同意するボアネルの言葉に頷きながら、ウィリアムが軽く額に手を当てて溜息を一つ。
(「まあ、こうなってくると一番あり得るのは、紫苑さんでしょうね……」)
 雅人に案内された紫苑を匿っている洞穴、と言う事は、即ち此処は雅人と紫苑の領域、と言う事と同義だ。
 であれば、仮に紫苑がウィリアム達の侵入に気がついていても可笑しくない、と言う所だろう。
 そんなボアネル達の推測を、やや上の空で聞きながら、自らの思考と心の在り方と語り合っていた紅閻がふと、何かを思いついた表情になる。
「ひかるの精霊達以外にも、目は、あった方が良いんだよね……?」
「えっ? うん、まあそうだね。精霊さん達だって今回は偶々気付いてくれたけれど、いつも気がついてくれるとは限らないし」
「俺達の目で届く範囲外で、今回みたいに何かやられたら、それこそどうしようもないからな」
 ひかると統哉の其々の回答に一つ頷き、紅閻がそれならば、と小さく呻いて瞼を閉ざす。
(『よく見て、感じろ……!』)
 その願いと共に。
 紅閻の周りに不意に現れたのは、数匹の黒い生き物。
「……蝙蝠に、鴉、か」
 紅閻が力を借りようとしている存在について気がついたキリカがそう呟くと、紅閻がうん、と小さく頷きを一つ。
「蝙蝠の発する超音波で、罠といった危険を察知できる可能性も上がれば良いし……鴉は賢いから、な」
「確かに手は多い方が良いだろう」
 紅閻の言葉にボアネルが頷くその間に、コホン、と姫桜が咳払いを一つ。
「さっきの轟音で、行く道が塞がれた可能性もあるわね。先ずはそっちに行ってみる必要がありそうかしら?」
「あっ、うん、そうだね。精霊さん達も、紫苑さんだっけ? それっぽい気配はやっぱり下から来ているって言っているし」
 姫桜の呼びかけに、ひかるが同意とばかりに頷くのを確認し。
 キリカ達は、ぞろぞろとローリング・ストーンを回避した横穴から出て、先程岩石が転がっていった道へと歩みを進めた。


「これなら、破壊できるかしら?」
 再び、最初から来ていた穴を下る様にして。
 目前に捉えた巨大な岩石……先程のローリング・ストーンをトントン、と軽く二槍でつつきながら、姫桜が呟く。
 その両掌には、バチ、バチ……と高圧電流を纏い始めていた。
「やってみないと分からないけれど……その前にこれを破壊した先にトラップがある可能性を確認した方が良いんじゃ無いかな?」
「そうだな。それは、私に任せて貰おうか」
 統哉が軽く手を挙げながらした提案に一つ頷いたのはキリカ。
 軽く両手を挙げるキリカの様子に、美雪が問いかける。
「何か考えがある様だな、キリカさん?」
「ああ。ただ……毒の霧だからな……皆に被害が出たら、洒落にならない。だから一旦離れて欲しい」
(「ここに雅人がいたら、楽に進めただろうな……」)
 この罠の存在を知悉している雅人であれば……。
 そんな考えがキリカの脳裏を過ぎるが、程なくしていや、と軽く頭を横に振る。
(「いない方が、彼にとっては幸せか。我々が手を掛けるのは彼の想い人……想い出の残骸なのだから、な」)
 そう思い直すその間に。
 姫桜達が離れたのを確認し、キリカが薄紫色の霧へと全身を変貌させ、岩石と道の僅かな隙間をすり抜け、その先の探索を行ない始めた。
 ――と。
(「……岩を壊せば、今度は地面に仕掛けられた無数の罠が動き出す……か」)
 此処まで綿密に仕掛けられた罠の数々は、本当に雅人自身の手によるものなのだろうか。
(「とてもでは無いが……雅人だけで作れる様な物ではないな……」)
 そう結論づけ、偵察を終えたキリカがウィリアム達の所へと戻ってくる。
「どうだった?」
 毒霧から人間の姿へと戻ったキリカに問いかけたカタリナに、岩石を破壊した後にも続く数々の罠について溜息交じりに説明するキリカ。
「……となると、この岩石の破壊に連動して、それらの罠が一斉に発動する可能性もあるよな……」
「ならば、岩石とその先に設置されている罠、両方纏めて対策をするべきだろう」
 統哉が口元に手を当てて考え込む表情になっているのにボアネルが頷いて結論を述べ、そうだな、と美雪が疲れた様な溜息を一つ。
「それにしても……どうやって、これだけの罠を用意したんですかね、雅人さんは……。こういう才能に巡られていたとか、そういうことなんですかね……?」
「多分、紫苑さんの協力もあったのでしょうね。どう考えても、色々周到すぎます」
 震える様にしながら拳を握りしめる瑠香に、ウィリアムが軽く溜息をつきながらそう答えた。
(「或いは、雅人も本当は、既に……」)
 ウィリアム達の話を聞きながら、暁音が最悪の可能性に想いを馳せるが、最初の統哉との会話を思い出し、軽く頭を振る。
(「まあ、最悪その時は、俺がやれば良いだけか」)
 その結論を胸中で押し殺す様にして呟きながら、暁音が改めて目前の岩石へと視線を向けた。
「さて……キリカと統哉の話を纏めると、この岩を何人かの力で破壊すると同時に、その先の罠も対策した方が良さそうだね」
「……そうだね。僕は、周囲への警戒に全力を注ぐつもりだけれど」
 暁音の提案に同意しつつ周囲を舞う蝙蝠と鴉に警戒の指示を下す準備を整える紅閻。
「ねぇ……キリカさんの確認してきた罠って、高圧電流で破壊できるかしら?」
 ふと、何かを思いついた表情で。
 誰に共無くそう呟く姫桜に、そうだな、と統哉が首を一つ縦に振った。
「機械制御式なら、電流を流せばショートするだろうから、出来ると思うぜ」
「待て。それは機械が暴走して、罠が暴発する可能性も出てくるのでは?」
 美雪の言葉に、その時は、とウィリアムが小さく頷きながら、周囲の魔法陣と共に展開しいる氷塊を一瞥する。
「Active Ice Wallを広域に張って何とかしましょう」
「俺も結界を張るから、二重防御になる。それで防ぎきれなければ……」
「……大丈夫よ。そういうことなら、わたくしも皆を守るための術が無くもないわ」
 そう告げてVerschwindenをギュッ、と強く握りしめるフローリエ。
 その周囲に綺羅星の様に、雹の様に舞う氷の精霊達の様子を見て、ならば、とボアネルが一つ頷いた。
「岩の破壊は、私と、カタリナと、キリカの役割か」
「そうみたいだね♪」
「ああ、それが一番良いだろう」
 ボアネルの言葉に、カタリナとキリカが其々の表情で頷くのに合わせる様に慌てて瑠香が手を挙げた。
「あっ、私も手伝います」
「……ならば私は、万が一に備えておくか」
(「しかしこの力尽くの突破方法……何とかならないだろうか」)
 確かにそれが最適解なのだろうとは思うけれども。
 其々の役割分担をあっさりと決めるボアネル達になんとも言えない表情になった美雪が諦めた様に小さく頷く。
(「まあ、罠を仕掛けた雅人さん達の思考からすれば恐らくこれが、最大最強の罠、だろうからな。何やらその先に、もう一つ位仕掛けられていそうな気もするが……」)
 その時は、その時か。
 何処か悟った様な表情でそう結論づけ、姫桜達の背を後押しする美雪の肩を、ポン、と暁音が軽く叩くのだった。


「じゃあ皆、準備は良いね?」
「ええ、大丈夫よ」
 確かめる様なカタリナの呼びかけに、両掌に雷を充電しながら頷く姫桜。
「わたくし達も、準備は万端よ」
 フローリエがVerschwindenの先端に氷の精霊達を掻き集めてヒュルヒュルヒュル……と振るって周囲に霜を呼び寄せ、ウィリアムがその周囲に盾となる氷塊を操るための青と桜色の魔法陣を生成し、両手でそれらを制御する様にしながら同意の頷きを一つ。
「こっちも準備はOKだぜ!」
「私も、用意は出来ている」
 統哉がちょっとほんのりしたモフモフを思わせる黒猫模様の赤い結界を作り出してパタパタと手を振るその間に、キリカがVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”と、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を構え、目前の岩に標的を定め。
(「精霊さん、精霊さん、お願い皆を守るために力を貸して!」)
 ひかるが幻朧桜に宿る精霊達に呼びかけ、紅閻が次にまた何か緊急の事態があった時に備えて蝙蝠と鴉を周囲に配置して情報索敵を担当し。
(「何が起きても良いように……」)
 暁音ひかるや美雪達を守れる様に、いつでも飛び出せる様身構えて。
「私も、大丈夫だ」
 美雪が何かあった時の備えの為に、歌を歌える準備を整えた。
 美雪達の姿を見回したボアネルは、キリカとカタリナ、瑠香と目を合わせ、そして互いに頷き合った。
「では、行くぞ。『光届かぬ暗黒に潜み、影の中を走る餓えた獣よ、血の盟約に従い、我が意のままにその力を示せ』」
 命じる様に厳かにそう告げるボアネルの言葉に応じて、カタリナの紅閻のフォースソードに照らし出された遊生夢死 ― Flirty-Feather ―の美しい緑と、美雪の用意した懐中電灯の向こうに作り出された影から金色の瞳を宿す魔狼が姿を現わし、幾度となく武勲を立てた黒き爪を岩石に振るい、その牙を突き立て罅を入れれば。
「行っくよ~!」
 カタリナがその右手に第六神権 ― rejection ―の力を込めて青白い光を帯びたその拳を振るう。
 振るわれた拳は高速ならぬ、光速の如き速度を生み出して振り込まれ、ボアネルの魔狼の顎に喰らわれ、斬り裂かれたその岩の罅に激突、岩石全体に罅を入れ。
「瑠香!」
「キリカさん、お願いします」
 カタリナの呼びかけに応じた瑠香が物干竿・村正を抜刀し、大地を擦過させながら振り上げ、それに合わせる様にキリカが構えたVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”と強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の引金を引いた。
 物干竿・村正から解き放たれた衝撃波と、シルコン・シジョンから撃ち出された聖書の箴言の込められた銃弾、そしてシガールQ1210から放たれた朧気に輝く弾丸が同時に全体に罅の入った岩石を斬り裂き、撃ち抜く。
 ――カチリ。
 それがまるで、トラップの引金になったかの様に。
 音が鳴り、天空から大量の矢が降り注ぎ、地面から大量の槍が出ようとしたその瞬間を狙って、姫桜が素早く両手を地面に叩き付けた。
「痺れなさい!」
 叫びと共に、蜘蛛の巣状に広がった高圧電流が大地から飛び出そうとした全ての槍を感電させてその装置を一斉に破壊し、そのまま壁伝いに天井にある矢を発射する装置を感電させて、機能不全に陥らせる。
 感電させる直前に天井より放たれた矢は、フローリエが自らの力を制御しながら呼び出した氷柱の竜巻に飲み込まれてその勢いを削がれ、更にウィリアムの氷盾と、統哉の作り出した結界が防ぎ、それでも尚突き刺さらんと迫ってきた2~3本の矢は、暁音がひかるの前に立ちはだかり、その首に下げられた月型の金属と丸型水晶の御守り……星屑の光明から齎された金色の光で受け止める。
「……っ!」
 それでも尚、一本の矢が暁音の神気戦闘服を貫通して肩に突き刺さるが、その様子を見たキリカが無造作に暁音の肩に突き刺さった矢を引き抜いた。
 鏃を引き抜かれる痛みに苦痛の表情を浮かべる暁音の肩から、ポタ、ポタ、と血が滴り落ちていく。
 が、次の瞬間には予め準備を整えていた美雪が高く清らかな歌を歌い始め、暁音の肩の傷を塞いでいった。
「ありがとう、キリカ、美雪」
 傷一つ残らず、苦痛も消え去った暁音の礼に軽くキリカが頭を振り、気にするな、とばかりに美雪が頷きを一つ。
「この先に彼女が……紫苑がいるのだ。被害は少ない方が良いだろう」
「ああ。その為の私の歌でもある」
「……うん」
 淡々とした口調で冷静に事実を指摘するキリカと、歌い終わった美雪の呟きに、暁音がそっと胸を撫で下ろしながら頷きを一つ。
「暁音さん、守ってくれて有難う! それから精霊さん、精霊さん、こっちに紫苑さんがいるって事で良いんだよね?」
「……それは多分、間違いないだろうね」
 ひかるが精霊達に呼びかけて確認する姿を見ながら、蝙蝠と鴉に情報を収集させていた紅閻が頷きを一つ。
 蝙蝠が放った超音波は、この奥から発せられる邪気を拾っていた。
「となると、この洞もそろそろ終点の様ですね。行きましょう、皆さん」
「ああ、そうだな」
(「雅人が我々に彼女の居場所について伝えてくれた時の苦悩と覚悟を……無駄にしないためにもな」)
 ウィリアムの呼びかけに応じて、ボアネルが内心の誓いと共に頷きを返し、左胸に刻み込まれた歪な形の聖痕がある部分をそっとなぞり最奥部へと向かおうとしたその時。
「ボアネル、そこは踏まない様に気をつけるんだ!」
 統哉の咄嗟の呼びかけが間に合わずうっかり微かに色が異なる床を軽く踏み抜くボアネル。
 瞬間、何かが落ちる音がして……ガツン! と言う鈍い音が、辺り一帯に響き渡った。
「……なんだ、今の音は?」
 キリカが思わずパチクリと瞬きを行なう間に多分、と統哉が心得顔で頷きを一つ。
「誰かの上にタライが落ちて頭にぶつかった……そんな所だと思うぜ」
(「……そうか。それが本当の、最後のトラップだったのか……」)
 誰の頭の上にタライが落ちたのか、それを何となく想像してしまった美雪が、そこはかとなく遠い眼差しをして、内心で溜息を一つ。
(「雅人さんは此処からは来ないと思うけれど……」)
 それでも、いつ来ても大丈夫な様に、と言う願いを込めて精霊さん達にお願いして、蔦や伸びる枝で雅人の為の道を作り上げるひかる。

 ――そして。

 ウィリアム達は、遂に開けたその場所……紫苑のいるその最奥部に、辿り着くのであった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『血まみれ女学生』

POW   :    乙女ノ血爪
【異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪】が命中した対象を切断する。
SPD   :    血濡ラレタ哀哭
【悲しみの感情に満ちた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    応報ノ涙
全身を【目から溢れ出す黒い血の涙】で覆い、自身が敵から受けた【肉体的・精神的を問わない痛み】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は台風の影響がありますので、10月19日(土)夜~10月20日(日)にさせて頂きます。そのため、プレイング受付期間は下記となります。10月17日(木)8時31分以降~10月19日(土)16時頃迄。もし変更がありましたらマスターページにてお知らせ致しますので、其方もご参照頂きたく存じ上げます。何卒、宜しくお願い申し上げます。*

 ――ザァァァァァァ……。
 そこは本当に、巨大な桜の木の洞穴の中なのだろうか。
 そんな不可思議な思いを抱いてしまいそうな程に美しく幻想的な桜の花弁が、舞う様にその空間を踊っている。
 今までとは明らかに異なる開けた景色のその中央にいるのは、少女。
 全身から禍々しき瘴気……それは、『大切な人と生きたい』、と言う妄念が具現化したもの……を纏った少女が、空間の中央を陣取る巨大な木の根に作り上げられた揺り篭の中で微睡んでいた。
「やっと、帰って来れたのに」
 ゆったりと菫色の双眸を開き。
 揺り篭の壁に設置されたスイッチから指を放した少女が、その背に2輪の美しくも禍々しい漆黒の花を咲かせながら、猟兵達へと問いかける。
「どうして、私達の邪魔をするの? 私は、ただ雅人と一緒にいたいだけなのに」
 ――あの戦いで、自分の無力さを知った。
 ――影朧達が其々に抱える悲しみや痛みも、肌を通して感じてしまった。
 ――だから、私には影朧を殺すことが出来なかった。
 ――ただ雅人の事を思い、死という絶望に浸るしか無かった。
 でも……。
 ほう、と愛おしげに自らの揺り篭を撫でる紫苑。
「私は、あの時、伝えられなかった……聞けなかった約束を、この桜の木の下で伝え、そして聞くために、雅人の所に帰ってきた。ただそれだけなのに。どうしてあなた達は、私と雅人の邪魔をするの?」
 問いかけながら、猟兵達へと憎悪を露わにする紫苑。
「私はあなた達を許さない。雅人と私を守るために、あなた達を此処で殺す」
 そう紫苑が告げ、猟兵達へと深い殺意の波動を叩き付けた、その時。

 ――ガラガラガラ……。

 不意に、空間の後方……恐らく、此処への直通の通路となっているのであろう、壁の一角が音を立てて上がっていく。
 そこから姿を現した人物へと目を向けて、思わず紫苑は息を呑んだ。
「雅人……」
「……」
 そっと、胸元の羽根を撫でながら。
 紫苑の背にある2輪の黒い花と、猟兵達に向けられていた深い憎悪と殺意に絶句し、諦めた様に紫苑を見つめる雅人。
「大丈夫、大丈夫よ。今すぐこの人達を私が倒して、あなたは必ず私が守ってみせるから……!」
「……そう、か」
 金切り声を上げる紫苑を見ながら、気落ちした様に肩の力を抜き溜息を吐く雅人。
 それは、『希望』を失う事への諦念と、理解、そして納得。
 そうではない、そうではない、と必死に否定していたその真実を、今彼は、はっきりと認識してしまった。
「そんな……そんな顔しないで、雅人。私が貴方を守る、だから……」
「……」
 必死の形相で言い募る紫苑に軽く頭を振る雅人。
 紫苑……否、嘗て紫苑であった影朧は、その雅人の否定を見て理解する。
(「ああ、雅人は……」)
 自分を守ろうとしてくれた、心優しいこの人は。
 私が『影朧』となってしまった事実をずっと否定して続けてくれて、私が回復するまで守り続けてくれていたこの人は。
 もう……全てを識ってしまったのだと。
「アハ……アハハハハハハハハッ……!」
 紫苑の乾いた笑いが、辺り一帯に響き渡る。
 その瞳からとめどめなく零れ落ちるは、白では無く、黒い液体。
 ――影朧となってしまったその時から自分が零し続けていた、雅人の前ではどんなに嬉しくても、悲しくても、痛くても、見せない様にし続けていた……涙。
「じゃあ、しょうがないよね。雅人、これからもずっと、ずっと一緒にいよう? 私が、貴方を守ってあげるから」
 ――貴方を殺して、私と同じ影朧にして。
 ――それから、そこの『超弩級戦力』扱いの、ユーベルコヲド使いを殺して、全てを終わりにして。
「これからも……一緒にいようね。永遠に、永遠に……」
 熱に浮かされた様な声音でそう告げながら。
 紫苑は全身から迸る邪気と殺気を、この桜吹雪舞い散る景色全体に解き放つ。

 ――かくて、桜色の吹雪は、漆黒の死の息吹へと姿を変え。

 紫苑は……雅人の殺害と猟兵達との戦いにその身を投じた。

*1章の判定結果、雅人は紫苑の死を見届けるため、この場に別ルートで来ました。 紫苑は真実を理解した雅人を殺し、最期まで共に在る道を選ぼうとしています。
 このシナリオでは、雅人は紫苑の攻撃対象となります。
 彼のことをどうするのかの判断は皆様にお任せしますが、雅人自身は何の力も持たない一般人ですので、一般人が出来る様な事しか出来ません。
 その為、彼を守る場合、判定の難易度が上がります。

 ――それでは、良き選択を。
 
ウィリアム・バークリー
亡者は仲間を求めるというけれど、紫苑さん、あなたはそんなことを望みますか!?

スチームエンジン、影朧エンジン起動。トリニティ・エンハンス発動。Spell Boost!
「高速詠唱」で少しでも時間の消費を減らして。

仮想砲塔を形成している間にも紫苑さんに「優しさ」と「礼儀作法」をもって説得を続けます。
あなたの想いはもう届いています。でも、この世のものと影朧は共には歩めぬ者同士。輪廻転生の輪に戻って、もう一度雅人さんと出会ってください!
その仮初めの心も長くはもたないのでしょう? 紫苑さんが紫苑さんであるうちに。お願いします!

「全力魔法」「属性攻撃」でElemental Cannonを放ち、終幕とします。


白夜・紅閻
●紫苑の選択
――それは、駄目だ!
(咄嗟に雅人をかばう)

…雅人はお前にとって大切な奴なんだろ?
なら、お前に殺させるわけにはいかない

自分にとって大切な者を
この手で殺すことが…

どんなに辛いことか…
どんなに苦しいことか…
――…っ!

(記憶は相変わらず靄が掛かっている、これは一種の呪い…彼の)
(でも、何故か知っている。この感情を…感覚を――)
(この手で、大切な者を殺さなくてはならなかった…彼の)

(紫苑に雅人を殺させては駄目だ…)
(この世界には転生という手段がある…もし、紫苑が雅人を殺してしまったら、その『傷』が転生後も何らかの形できっと…)

だからせめて…俺らの手で、お前を殺してやる

●真の姿
髪は漆黒に瞳は銀


フローリエ・オミネ
アドリブ歓迎

雅人については皆にお任せ
でも、わたくしは――

【空中戦】で行動を早め迅速な対応を
【高速詠唱】で発動を早め戦闘を有利に

UCでシャズを召喚し、敵の視覚・思考能力を奪うことで錯乱させる
雅人から意識を逸らしたり、攻撃を当てやすくなると良いわね

思考を盗んでわたくしが読み取れば、攻撃対象を把握し備えもできるはず
命令をする間は攻撃を回避してやり過ごすわ
攻撃対象が自分になれば、出来る限り皆と離れたところに移動、被害を最小限に

悪魔召喚の代償は魔力
強力な力には膨大な魔力が必要
良いのよ、わたくしが戦わなくて済むのならば、幾らでも渡しましょう

今生の別れは辛いこと。でも、それは乗り越えなければいけないのよ…


朱雀門・瑠香
連携、アドリブ可
【説得】
紫苑さん、貴方は優しすぎる人なのですね。それは大事だと思いますよ。
影朧の抱えるものを知らなければ転生させることなんてできないから
でも、貴方は一つ勘違いをしています。
彼らは既に死んでいます。終わっているのです、今の貴方の様に。
彼らを終わらせ新たに命の輪廻に戻す事が私達桜學府の使命。
だから、私が貴方を終わらせます。
雅人さんと再び出会えるように。
大丈夫、貴方達はまた出会えます。例え記憶を失くしていようとも
それだけの思いがあれば、互いに分かりますよ。
【戦闘】
指と爪の軌道を見切って一気に間合いを詰めましょう。
私の間合いに入ればこちらのものです。
叶うならば一撃で終わらせましょう。


天星・暁音
まぁ、そうなるよね…
でもごめんね。好きにはさせない
優しい人、貴方はきっとそんなこと望まない筈だから
貴女の痛みも悲しみも…分かるよ
大好きな人とはずっと一緒にいたいよね
でも、駄目なんだ。貴女は既に亡くなっているのだから…
雅人さん、全力で護るから貴方の想いを言葉を伝えてあげて
きっと彼女に本当に届くのは貴方の想いなのだから

雅人を全力で庇いながら味方の回復、支援
雅人と紫苑を対話させたいのでそれが成される前に倒されてしまいそうなら味方が戦線維持可能と判断できる状況なら邪魔します
ダメそうなら諦めます

万一雅人が影朧になるな自分背負うさもりでトドメは自分で刺そうとします

UCスキルアイテムご自由にアドリブ共闘可


カタリナ・エスペランサ
まるで悪霊だね。自棄にしても独善に過ぎる
今のキミは雅人に想われる資格があると思うかい?
守るって言った口でその相手を殺すなんて言っちゃいけないよ

使うUCは【天災輪舞】。
紫苑の動きは《第六感+戦闘知識》で《見切り》先読み、《属性攻撃+誘導弾+乱れ撃ち+マヒ攻撃》の雷羽での《制圧射撃》と《支援射撃》を使い分けて主導権を与えないよう立ち回ろう

無差別攻撃は厄介だね
高速移動に《ダッシュ+早業》を重ねて距離を詰め《怪力+破魔+吹き飛ばし》の蹴りを叩き込んで雅人に近づけさせないようにしたいな
叫びを放たれる前に《先制攻撃》で潰せるならそれが一番かな

……転生か
どうにか曇る前の想いを思い出させられればいいんだけど


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

雅人、彼女はもはや完全に影朧へと堕ちた
我々の後ろに下がって…せめて彼女の最期は君が看取ってやれ

銃とオーヴァル・レイによる射撃で遠距離から攻撃
開けた場所であるならダッシュを駆使して敵の攻撃を掻い潜りながらの攻撃も可能だろう
雅人に対しても常に気を配り、援護射撃で敵の攻撃を撃ち落としたり妨害して彼を守る

私のお気に入りのパフュームだ、桜の香りよりも刺激的だろう?

敵がUCを使ったらカウンターでUCを発動
爪が刺さった部分を強力な腐蝕作用を持つ毒霧と変えて
逆に相手の爪を腐らせ破壊し、即座に反撃として銃弾を叩きつける

彼女にはもはや雅人の声も、誰の声も届かないのだろうな
…我々の手で終わらせよう


彩瑠・姫桜
基本は雅人さんを守りを中心に動く
【血統覚醒】使用の上で
【見切り】【かばう】【武器受け】で攻撃を防ぐ

攻撃する際は、できる限り苦しまないよう
【串刺し】での一撃必殺を目指すわ

紫苑さん、貴女が雅人さんを大切に想う気持ちはわかるわ
でも、大切で一緒に居たいからって何をしてもいいってわけじゃないでしょう?

雅人さんを殺してしまったら、生きていた頃の貴女の想いまで殺してしまう
貴女が本当の意味で死んでしまう
私は嫌よ
私は、貴女にも幸せになって欲しいの
生き直して欲しいの

大切だと想うなら、雅人さんを殺すんじゃない
雅人さんが笑顔で生きていく幸せを願ってよ
転生して、生き直して、もう一度会いに来なさいよ!

*連携・アドリブ歓迎


ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

愛すべき者を手に掛けることも厭わんか…
いや、彼女の心の奥底に人としての想いが僅かでも残っている事を祈ろう

攻撃を行いつつ、彼女が転生へと至るために説得する
彼女の攻撃を黒剣グルーラングでいなしつつ、UCの事前準備として数体の黒犬を召喚
雅人を護衛するように周りに配置して、炎や冷気の吐息で敵の攻撃を防ぐ

紫苑、君が彼を殺し、ともに影朧となったとしても
それは君の愛すべき人を呪われた道へと引きずり込むだけだ
彼はまだ君を愛している…だからこそ、君はその執着を止めて、あるべき場所へと戻るんだ

UCを発動し、巨躯の魔犬へと変身
敵の爪を避けつつ突進し、雅人に攻撃が届かないように敵を後退させて雅人を守る


藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎

紫苑さん…既に妄執に囚われていたのか
いや、囚われたからこそ戻ってきたのだろうな

気持ちは痛いほどわかるが
約束の答えを聞きたかったのなら「生きて」戻るべきだった
…影朧と関わることは、雅人さんの破滅にも繋がるのだから

「第六感、拠点防御」で雅人さんを守りつつ
「歌唱、パフォーマンス、鼓舞」+【鼓舞と癒しのアリア】で治療と鼓舞を同時に
基本は最も負傷が嵩む者に対して使うが
全体で負傷が蓄積したら疲労覚悟で複数同時に

説得が通り転生しそうなら
演出で【幸福に包まれしレクイエム】を歌って送ろう

雅人さん、辛い選択をさせたな
だが、「未練を断ち切る」のは「忘れる」のとは違うと、私は思うのだよ


館野・敬輔
【POW】
アドリブ可
他猟兵との会話NG

真の姿解放(※外観隠すため)
赤黒く禍々しい全身鎧と黒剣、口元を隠すマスク、瞳は両目とも赤

妄執に囚われたからこそ、戻ってきたか
ならばその妄執、ここで断つ

…皆は転生を狙うだろう
それには僕は手を貸せない
雅人さんを守ることが、精一杯の妥協点

演出で【魂魄解放】発動
雅人さんを怪我させぬよう常に「第六感」で察し「かばう」
攻撃は「怪力、武器受け」で受け流すか「オーラ防御、激痛耐性」で耐える

隙あらば接敵し、「早業、2回攻撃、吹き飛ばし、殺気、覚悟」+【魂魄剣・戦意両断】
影朧の戦意を黒剣で断ち切ってやる

撃破後すぐに去る
去り際に雅人さんに一言
…彼女のことは、決して忘れるな


荒谷・ひかる
あなたも、影朧……オブリビオンに共感してしまったことがあったんだね。
わたしも精霊さんが助けてくれなかったら、あなたのようになっていたかもしれない。
だから、止めるんだよ。
まだ後戻り出来るうちに……あなたが転生して、再び雅人さんと出会えるようにっ!

【転身・精霊寵姫】発動
雅人さんの周囲に魔道障壁を展開、合わせて地塁、氷壁、防護林を複合発生させて全力で護るよっ!
わたしは攻撃せずに紫苑さんへ説得を継続するね

このまま雅人さんを殺しちゃったら、心中と変わらないんだよっ!
転生すれば真っ当に添い遂げられる道もこの世界にはあるのに、道を閉ざしちゃダメなんだよっ!
雅人さんとはきっとまた、再会できるからっ!
信じてっ!


文月・統哉
オーラ防御を展開
雅人を庇い護り戦う
絶対に殺させない

紫苑の動きを見切り宵で武器受け
祈りの刃で憎悪を断ち切る

大切な人と生きたい
それはきっと雅人も同じだよ
君を想うからこそ危険も承知でここにいる

でも今の君はそんな彼にも刃を向けてしまう
雅人を護ると誓い戦ってきた筈なのに
分かっているんだろう?
君が影朧のままでは
君の本当の願いをも歪ませてしまう事を

雅人もまた君を護りたいんだ
君が雅人を護り戦った様に
例え会えなくなろうとも
君の願いを胸に刻み生きていく覚悟を決めた

伝えたい想いがあるのなら
すれ違う事無く確かめ合って欲しい
寄り添う二人の想いは雅人の胸にずっとずっと残るから
それが未来へと歩む2人の為の道標になる事を祈る




「これからも……一緒にいようね。永遠に、永遠に……」
 そのしなやかな指の爪を、人ではありうべからざる異様なまでの長さの全てを斬り裂き、貫く爪へと伸張させ。
 鵙の贄にせんとばかりに鋭く突き出されたその爪による一撃は、容易く雅人の命を喰らい取る。
 ――その筈だった。
「――それは、駄目だ!」
 それは慟哭か、はたまた衝動か。
 無我夢中で飛び出したのは、白銀の瞳を漆黒に、紅の瞳を銀色に染め上げた、白銀の双翼羽ばたかせた白鳥と、漆黒の金剛石を思わせる黒毛に覆われた獣を従えた白夜・紅閻だった。
 紅閻は、その爪による一撃を、二頭の獣によって生み出された結界で辛うじて受け止めつつ声を振り絞る。
「ああ、そうだ。絶対に、殺させない……!」
 鋭く目を細め、何時の間に着替えたのか喉元に赤いスカーフを纏わせた、一寸目つきの悪いクロネコスーツを身に纏った文月・統哉が、漆黒の闇を斬り裂く一条の宵闇を思わせる鎌……『宵』を構えて、深紅の中に黒猫の模様を混ぜ込んだ結界を雅人の周囲に張り巡らせて彼を護った。
「そうだね……。御免ね。貴女の好きにはさせられない」
 ――カツン。
 先端に三日月状の色とりどりの宝石をちりばめた星杖シュテルシアの石突きで大地を叩きながら。
 その体に刻み込まれた共苦に怒濤の如く流れ込んでくる紫苑の悲嘆と絶望、真綿で首を絞める様に染み込んでくる雅人の諦念と絶望……そしてそれでも尚、その胸の中に微かに宿っている縋る様なとある想いによる責めにその身を苛まれながら、静かにそう囁きかけたのは、天星・暁音。
「優しい人。貴女であれば、本当ならきっとそんな事を望まない筈だ」
 ――その痛みも、苦しみも。
 その瞳から溢れ出す黒い血の涙がみるみる周囲の景色を黒く染め上げていき、それに世界が悲鳴を上げているのを感じながら暁音が軽く頭を振り、優しく左手を差し出し懸命に呼びかける。
「……愛すべき者を、手に掛けることも厭わん……か」
 口から重い溜息を零しながら。
 悲嘆の涙による世界の書き換えを囮に左手の爪を突き出し、暁音の死角から雅人の急所を貫こうとしたそれを、宝石の眼を持つ蛇が蜷局を巻いて柄に巻き付けられた黒剣・グルーラングを横薙ぎに振るって斬り払い、小さく祈る様に言の葉を紡いだのは、ボアネル・ゼブダイ。
 月と時間を表し過去の遺物を喰らう刃にその時間を食われて動きを止めた爪に唖然とする雅人の耳に、ふと、葬送の鐘の音が入り込んできた。
「これは……鎮魂の鐘、か……?」
 呆然と呟く雅人の周りに現れたのは、数体の黒き犬。
 ――それは、聖職者たるボアネルの忠実なる下僕であると共に、生者に仇なす骸を還す新月の象徴であり、エクスキューショナーの役割を持つ墓守達であった。
(「少しでも彼女の心の奥底に、人としての想いが僅かに残っている可能性が在れば良いのだが……」)
 さて、どの様な言葉を掛けるべきか、と思案げな表情になるボアネルの肩に軽く手を置き、真っ直ぐに紫苑さん、と涼やかな声音で呼びかけながら、すらりと腰に帯びた物干竿・村正を抜刀して突きつけるは、朱雀門・瑠香。
 瑠香は、桜色から黒へと染まりいく周囲の景色に憂いげに眉を顰めながら、囁きかける様に問いかけた。
「貴女は、優しすぎる人なのですね」
「優し……過ぎる?」
 瑠香の思わぬ呼びかけに、黒き血の涙を流しながら思わぬ様子で反問を行なう紫苑。
 悲哀を感じさせる乾いた笑い声は叫びと化して辺り一体に反響し、漆黒の花弁が棘と化して雅人達に迫ってくるが、その雅人と黒い花弁の間に割って入る様に現れたのは、赤黒く禍々しい全身鎧と同じく赤黒く光り輝く黒剣を帯び、フェイスマスクを下ろしてその口元を隠した一人の少年。
 その面頬の奥で輝いているのは、底冷えする様な、赤き瞳。
「敬輔さん……ですね?」
 ルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付けたスチームエンジンと『スプラッシュ』に新たに内蔵された小型の影朧の魔力を起動させ、『スプラッシュ』の刀身を黒と桜色の入り交じった複雑な色合いへと変え、周囲の風の精霊達に呼びかけその力を取り込み魔力を強化したウィリアム・バークリーが問いかけるが、呼びかけられた当人……館野・敬輔は答えず、黒剣に白い靄を這わせて斬撃の衝撃波を打ち出して悲鳴を断ち切り、雅人を守る。
(「皆は転生を狙うだろうけれど……僕は、それには手を貸せない」)
 影朧……オブリビオンは討滅するべき復讐の対象。
 それ以上でもそれ以下でも無いのだから、周囲の意見には耳を貸せない。
 そう言う覚悟を定めた敬輔だったのだが、それが見事な空回りである事を、余す事なく知らされてしまう。
 そう……。
「雅人、彼女は最早完全に影朧へと堕ちた。だからお前は私達の後ろに下がり……せめて彼女の最期を看取ってやれ」
 キリカ・リクサールが告げた一面の真実によって。
(「或いは、転生される可能性はあるのだろうが……」)
 瑠香の必死の呼びかけを耳にし、ボアネルや統哉がどの様な言葉を以て、紫苑の人としての心の残滓を呼び起こせないかどうかを思案している様子を冷静に観察しながら思案するキリカ。
 或いはキリカは、敬輔の考えを無意識に感じ取り、戒めを籠めて雅人にそう言い含めているのかも知れないが、その真意は敬輔には分からない。
「……紫苑さん。貴女が、雅人さんを大切に想う気持ちは分かるわ」
(「キリカさんの言うとおり、言葉が『紫苑』さんに届くことは無いかも知れないけれど」)
 それでも諦めたくないという彩瑠・姫桜の心を映し出すかの様に。
 右腕に身に付けた桜鏡……その表面に取り付けられた玻璃色の鏡の鏡面が、黒桜と、姫桜の深紅の瞳を映し出し薄い、薄い輝きを発している。
「でも、大切で、一緒に居たいからって、何をしてもいいって訳じゃ無いでしょう!? 雅人さんを殺してしまったら、生きていた頃の貴女の想いまで殺してしまう……!」
「……?!」
 姫桜の呼びかけが、波紋となったか。
 がん、と何かに殴りつけられた様な、一瞬だがそんな表情を閃かせた紫苑が、目を丸くして姫桜を見つめる。
(「……人間の頃の想いが、まだ、微かに残っている? それならば……」)
 ――バサァ。
 漆黒の花弁と紫苑の瘴気、そして、フワリと魔力によって空中をまるで鳥の様に舞う銀髪の娘、フローリエ・オミネの蒼き魔力を籠めた杖、Verschwindenとフローリエの上空に浮かび上がる蒼と銀の溢れ出さんばかりの魔力の籠められた魔法陣の輝きを受けて、蒼く光り輝く遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせて空中を飛翔しながら、カタリナ・エスペランサが内心でそう思う。
「雅人については、皆にお任せするわ。わたくしは――」
 ――ちらり。
 まるで、風の様に脳裏を掠めていくフローリエの記憶。
 それは嘗て見た、その時、自分達の前に姿を現した月のような彩の銀を持つ娘の幻影の姿。
 ――ええ、そうね。
 あの時わたくし達は、貴女の事を『シャックス』と呼んだわね。
 でも、それは過去の物語。
 今を……前を向いて歩くためにその場に立ち、乗り越えたその記憶。
 だからわたくしは、『貴女』の力……使わせて貰うわ。
「雅人が、彼女と今生の別れを乗り越える事の手伝いのために、ね……」
 告げたフローリエが呼び出したのは、傲慢なる巨鳥。
 ――その名は、『掠奪侯シャズ』
「全く、キミはしょうがない人だね」
 フローリエに呼び出された巨鳥が奇声を発し、紫苑の表情に苦痛をちらつかせる様を見ながら、カタリナが微苦笑を零して遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせて滑空。
「怒りと絶望に塗れて曇れた今のキミは、まるで悪霊だね。自棄にしても、独善に過ぎる。そんなキミが、雅人に想われる資格があると思うかい?!」
 裂帛の気合いを籠めた叫びを上げたカタリナが全身を神殺しの蒼雷……それは、同族を滅するための粛清の権能……を纏い、正しく蒼雷となって突進する。
 圧倒的なまでの速さでジグザグに動き回って最初の慟哭と共に塗り替えられた漆黒の無差別な桜の花弁……実体はそれを模した衝撃波を躱しながら、蒼雷によって、蒼き輝きを一際強めた、遊生夢死 ― Flirty-Feather ―の羽根を雷羽根と化さしめて驟雨の如く叩き付けた。
 叩き付けられた蒼雷に体を撃ち抜かれ、ゴボリ、と黒い血反吐を吐く紫苑の姿を見つめながら、それまでじっ、と様子を伺っていた藤崎・美雪が重い溜息を一つつく。
(「紫苑さんは……既に妄執に囚われていたのだな。だからこそ、戻ってきたか」)
 同じ女性として、大切な者を健気に想う事。
 色恋沙汰には縁の無い美雪ではあるが……形こそ違えど、大切な者へと自らが抱くその想いを振り返れば、それは決して不可解なことでは無い。
「だが……それなら尚更、貴女は『生きて』戻るべきだった」
 フローリエの呼び出した剥奪侯シャズに戦闘のための思考を盗まれ、カタリナの蒼雷を纏った羽根にその身を貫かれる紫苑の姿を認めながら美雪がその眼差しで、正面から紫苑を射貫いた。
「……影朧と関わることは、雅人さんの破滅にも繋がる……。それを知らない貴女では無かった筈だ」
「!!!!!」
 淡々とではあるが、事実を指摘された紫苑が流石に瞳孔を鋭く細め、声にもならない悲鳴を上げる姿を見つめながら……懐かしそうに、想いを共有する様な表情で、荒谷・ひかるが訥々と語りかける。
 その周囲をキラキラと桜色の花弁が舞い、そのバックグラウンドを、煌めく星の光が照らしだしていた。
「あなたも影朧……オブリビオンに共感してしまったことがあったんだね」
 精霊杖【絆】を空中へ放り出すと同時に、生まれたての赤ん坊の姿となった彼女の全身をプリズム色の光が覆い隠す。
 メイクアップされていくのを感じながら、ひかるは自らを覆ってくれている炎・水・地・風・木・氷・雷・光・闇……そして、幻朧桜の精霊さん達に呼びかけながら囁き続けた。
「わたしもこの精霊さん達が助けてくれなかったら、あなたのようになっていたかも知れないんだよ」
 ――だから。
 ふぁさ、とフレアミニスカートが風に靡き、その上からケープの様に愛らしい衣装を身に付け、その背に赤・青・黄土・緑・黄・水色・橙・白・黒・そして桃色の5対10枚の各精霊さん達を象徴する色を纏った羽をその背で煌めかせて。
「転身! エレメンタル・ポゼッション! 魔法少女、荒谷・ひかる……まだ後戻り出来る内に……貴女が転生して、再び雅人さんと出会えるようにっ、わたしが、わたし達が、あなたを止めるんだよっ!」
 ――ピキィィィィィンッ!
 アイキャッチの様に、誰に共無くポーズを決めるひかるの宣言に応じる様に。
「無理よっ……無理よっ……! 雅人と一緒になれるその時まで……私は最後まで抗い続ける!」
 悲哀と絶望を黒へと塗り替えた血の涙を全身に浴び、必死に何かを否定する様に頭を振った紫苑が、悲嘆に満ち満ちた叫びと同時に、異様なまでに鋭く伸びた両手の指の爪を突き出し、再び攻撃を開始した。


「亡者は仲間を求めるというけれど、紫苑さん、あなたはそんなことを望みますか!?」
 痛切なる悲嘆の叫びに応じる様に、素早くフル稼働させた『スプラッシュ』を利用して、火・水・土・風の四大精霊を大量召喚、その莫大な魔力を、一本の魔力砲頭として完成させるための儀式魔術を『スプラッシュ』の力で制御し、下準備を終わらせながら、ウィリアムが叫んでいる。
「……転生させられるのかどうか、か」
 辺り一帯を覆い尽くす深闇に、その合間を縫って雅人に向かって迫り来る数本の爪を、周囲に展開された浮遊砲台オーヴァル・レイから放つ粒子ビームや、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"をフルオートモードに切り替え指切りで解き放って迎撃するキリカ。
 "シガールQ1210"の弾幕が途切れた間隙を縫って雅人達に迫り来る爪を、VDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”の聖書の箴言の弾丸で迎撃しながら、独りごちる様に呟くキリカ。
 撃ち落としても直ぐに再生して何度も放たれる爪は、ある時は深紅の瞳から血の涙を零し、寿命が削れていく感触を存分に味わいながら姫桜が二槍をプロペラの様に回転させて叩き落とし。
 時には、統哉の作り出した深紅の黒猫柄の入った結界が相殺し。
 或いは、キリカ達に何かを言うでも無く淡々と黒剣とそれに纏われた白い靄達による斬撃で敬輔が叩き斬って対応している。
「上手く転生させることが出来れば良いのだが……」
「――ならば、尚更、駄目だ! あいつに……雅人を、大切な奴を殺させては……」
 小さく息をついた美雪の呟きに、強い否定の意志を示したのは紅閻。
 漆黒に染め上げられた髪の隙間から射貫く様に紫苑を見つめる紅閻のその言葉は、半ばは紫苑へ、そして半ばは自分自身の心の裡へと投げつけられているかのよう。
「……そうだね」
 共苦から絶え間なく送り続けられる紫苑の絶望と、雅人の深い動揺に全身を苛まれながら、星杖シュテルシアを天へと掲げて振るい、自らの周囲に光の輪を発生させる暁音。
 星の様な瞬きと共に、星杖シュテルシアの先端から降り注ぐ様に零れ落ちた神聖なる光が、暁音の周囲を浮遊していた光の輪と重なり合い、夜を優しく照らし出す月光の如き光となって、最初に雅人を守った紅閻と全身鎧の複数箇所を傷つけられ、面頬の内側で微かに苦渋の表情を浮かべていた敬輔の傷を癒していく。
 その神聖なる光は同時に雅人の動揺を鎮め、その心に安定と安らぎ、そして現実を受け入れるための余裕を作るための道筋を照らし出した。
 先程まで、何処か虚ろな眼差しでその胸の羽根をギュッと握り、紫苑と瑠香達の戦いを黙然と見つめていた雅人の頬に赤みが差し、虚ろな瞳の中にも、微かに光が入り始めている。
「暁音は、雅人自身に紫苑に呼びかけさせるつもりの様だな」
 周囲の忠実なる黒犬達の冷気と炎のブレスで、悲痛な叫びと共に生み出された衝撃波と再生し伸張してきた爪を凍てつかせ、時には焼き払わせながら。
 ボアネルがチャーチ・グリムの皮を自らに纏わせ魔犬と化しながら、その瞳から失せることの無い知性の光を暁音に向けてそう問いかける。
 雅人の前に立ち星杖シュテルシアを地面に突き刺し、先端から月を想わせる結界を召喚して、統哉の呼び出した結界と重ね合わせて防御を強化させた暁音が小さく首肯を一つ。
「それがきっと、彼女に……紫苑に本当に届く想いなんだと、俺は思うから」
「でも、俺達にだって、出来ることはある」
 暁音の言葉に賛同の意を示しつつ確固たる意志と共にそう告げたのは統哉。
 黒い柄に漆黒の刃の付いた大鎌『宵』が、統哉の想いを是とするかの様に淡く輝いた。
「紫苑さん。貴女は一つ、勘違いをしています」
 そんな統哉の問いに対する解を示す様に。
 フローリエの『掠奪侯シャズ』に戦いの思考を盗まれ動揺を隠せぬ様子の紫苑へと物干竿・村正を青眼に構えた瑠香が呼びかけながら肉薄する。
 剥奪侯シャズに契約の代償として大量の魔力を差し出し、その顔を青ざめさせながらも尚その術を解かぬフローリエが作ってくれた隙を見逃さぬ、とばかりに瑠香が紫苑に向かって突貫した。
「彼等は……影朧達は、既に死んでいます」
 ――死。
 それは、終わりを意味するもの。
 美雪がある想いを込めて奏で始めた鼓動と癒しの詠嘆曲が澄んだ歌声で辺り一帯に響き渡り、本能的に懐に飛び込まれるのを避けるために瑠香の肩口を貫き、その肉を抉り取った。
 だが、その大量の血飛沫を舞わせた肩傷は、美雪の歌によって瞬く間に癒されていく。
 それに内心で礼を述べながら瑠香が根気強く話しかけ続けた。
「貴女は、この傷の様な痛みを感じることが出来ますか? 体だけでは無い、心に貴女自身が受けたその瑕疵を……それによって、雅人さんや貴女の周囲の人々がどの様に傷つくのかを、考えることが出来ますか?」
「大切な人と、『生きたい』。その想いはきっと、雅人も同じだよ」
 懐に飛び込み、神速の突きを放つ瑠香の動きに合わせる様に。
 囮の様に宵を下段に構えた統哉が、優しく諭す様に告げた。
「そうです、統哉さんの言うとおりです。紫苑さん、あなたの想いは、もう既に雅人さんに届いています。だから雅人さんはあなたを匿うために、この洞穴を用意し、道中に罠も仕掛けた」
(「その全てが……雅人さんのものだとも思えないのですが、ね」)
 周囲に生み出された十重二十重の桜色の混じった、赤・青・緑・黄の魔法陣を一本の矢の様に『スプラッシュ』の先端に収束させて巨大な魔術砲塔を構築しながら、そう囁きかけるウィリアム。
(「何で皆……転生させることを望むんだろうな」)
 ウィリアム達の説得を容認できず、内心で歯痒さを感じる敬輔。
 キリカはそもそも救えない、と雅人に向けて断言していた。
 恐らくそれが真実だろうと敬輔は思っているのだけれども。
 ――お兄ちゃん。
 ――転生させることを、望まない人がいるのも分かっているよ。
 不意に敬輔の黒剣に這わせていた白い靄の少女達が、敬輔に向かって語りかけてくる。
 その中でも、黒剣の刀身を赤黒く輝かせている『彼女』だけは……明確にその態度を戒める様な空気を発していた。
 ――私は、復讐を望んでいる。それは今でも変わらない。でも、どうして『そう』なのか、どうして他の人達の望みを認められないのか……それを言葉にして、他の人達に紡がなければ、想いそのものが、虚偽になるよ。
(「……そう言えば、『彼女』はあの時……」)
 オブリビオンと化していた『彼女』は。
 皆の分まで、命を啜ってでも生きたいと願った『彼女』は。
 その想いを言語化し、自分達へと伝えていた。
(「意志は、願うだけでは叶わない……か」)
 ――そう。
 キリカがそうしている様に、伝えなければ、何も益を齎さないのだから。
「……それでも、僕は」
『彼女』からの忠告に微かに頭を振りながら、再び迫ってくる爪を叩き落とす敬輔。
(「……本当に皆が転生を望んでいるのかどうかは、話さなければ分からない、と言う事か」)
 胸中で独りごちる敬輔の様子を、ちらりと気遣う様に見つめる姫桜。
 姫桜の気遣わしげな視線は、敬輔の赤黒く光る黒剣の刀身に向けられている。
 姫桜に様々な感情を綯い交ぜにした複雑な思いを抱かせたあの結末を思い出し、玻璃鏡がそんな姫桜の想いを代弁するかの様に、淡く輝いた。
(「話す気が無いのならば、仕方ないけれども」)
 その黒剣に纏われた白い靄や、何度か戦いの中で見たその剣筋。
 例えどんなに正体を隠していたとしても、それが幾度か死線を共に潜り抜けた敬輔である事を見抜けぬ姫桜では無かった。
(「……いけないわね、このままじゃ」)
 敬輔の隙をついて放たれた悲嘆により生み出された衝撃波を、ヴァンパイア化したことで遙かに鋭くなった五感で読み取りそれを叩き落とすべく、schwarzの石突きを振るいながら、軽く頭を振る姫桜。
 その深紅の瞳は一撃必殺を目指すべく、注意深く紫苑の動きを観察している。
「ねぇ、紫苑さん。貴女が雅人さんを大切に想っていて、一緒に居たいって気持はよく分かるわ。私も……大切な人達と一緒に何時までも幸せに暮らして普通に生を終えたい……そう思っているから」
 ――だから、戦いに出るのは怖いのだ。
 命を奪うことも、奪われることも、どちらも、きっと。
 ――けれども、その恐怖を知っているからこそ、分かることもある。それは……。
「此処で雅人さんを殺してしまったら、生きていた頃の貴女の想いまで貴女は殺してしまうことになる。それは……貴女が、本当の意味で死んでしまうことになるのよ?!」
「……!」
「そも……お前は気がついていない。自分にとって大切な者をこの手で殺すことが……どんなに辛い事か……どんなに苦しい事か、……に」
 姫桜の呼びかけに目を見開いた紫苑へと叩き付ける様に真実を告げる紅閻。
 その身にフォースイーター・イザークを纏わせて紫苑の生命……サイキックエナジーを喰らわんと、紅閻の体に取り憑いたフォースイーターが顎を開いて襲いかかる。
(「……っ!」)
 白銀の双翼を力強く羽ばたかせた白き鳥、そして金剛石の如き黒を誇る獣と共にカタリナの解き放った蒼雷の羽根と連携して、自らの体を委ねたフォースイーター・イザークの本能に身を任せて戦いを行なっていた紅閻の銀の瞳が、不意に大きく見開かれた。
 それは、油水の如く胸の中から湧き上がってくる悔恨の想いと、霧が掛かってそれ以上の者を見えない、『何か』
 ――僕は……何を……?
 この悔恨の理由がその先にある様な、そんな気がして、意識野の中で必死に手を伸ばすが……やっぱりそれには届かなくて。
(「――駄目か。記憶には、相変わらず靄が掛かっている、これは一種の呪い……『彼』の」)
 ――彼?
 そうか、『彼』は……。
(「この手で、大切な者を殺さなくてはならなかった……『彼』の、か」)
 色褪せてしまった指輪……即ち紅閻の本体……がまるで嘆く様に、その時の記憶を忘れてはならないと訴えかけてくるかの様に、淡く輝く。
 それが誰だったのか、どういった存在だったのか、その記憶には靄が掛かったままで分からないけれど……紫苑が今、正にやろうとしていることをした後の『彼』の想いだけは、ひしひしと身に染みてくる。
 即ち、それは……。
「雅人を紫苑が殺せば……紫苑、お前は後悔する」
「そんな……そんな筈……っ!」
「そうだよ! このまま雅人さんを殺しちゃったら、心中と何も変わらないんだからっ!」
 ふわり、とフレアミニスカートを風の精霊さんの力を借りて靡かせながら。
 精霊杖【絆】を輝かせて必死の声音で叫ぶひかるのそれが、更なる動揺を呼び込んだか。
 全身に纏った黒き血の涙が浴びせかけられたその想いに共鳴する様に、目に見えて衰えて来るのが見て取れた。
 それでも尚、その背に咲く2輪の黒き花を解き放ち、至近距離に迫っていた瑠香の生命を奪おうとしたのは、紫苑自身が嘗てユ-ベルコヲド使いとして、帝都桜學府にて学んだ経験故か。
(「ある意味で私達は同門ですからね。気付かれても可笑しくないですか……!」)
「だが……遅いな」
 村正が折れる覚悟を決めた瑠香の脇を朧気に輝いた"シガールQ1210"から放たれた無数の秘術の力を秘めた銃弾と、シルコン・シジョンから放たれた聖書の箴言が通り抜けていき、瑠香を捉えようとしていた黒き花を撃ち落とす。
「……届かないだろうと思っていたが、流石にこれだけの者達が声を掛ければ届くものなのだな。ならば、転生させることも不可能では無いかも知れないな。だが……我々の手で、終わらせなければならないのも事実だ。いけ、瑠香」
「はい! 参ります!」
 キリカの援護射撃に紫苑の隙を完全に見て取った瑠香が、神速一閃。
 目にも留らぬ速さで物干竿・村正を突き出し、紫苑の鳩尾を貫いていた。
(「手応え、ありです!」)
「がっ……!」
『捕らえた、覚悟!』
 苦痛の呻きをあげる紫苑から物干し竿・村正を抜き取り返し刃で一閃を放つ。
 畳みかける様に切り返しを行ない、更に永劫にも思える脅威の33連撃を解き放ち、紫苑の全身をズタズタに斬り裂いた。
「くっ……くぅっ……?!」
「貴女達や彼等……影朧は、既にその命を終わらせています。だからこそ、影朧として揺蕩う貴女達の念を断ち切り終わらせて、命の輪廻に戻すことこそが、私達、桜學府の役割です。それまでも貴女は忘れてしまっているわけではありませんよね……?」
「その仮初めの人の心の残滓で、あなたは覚えているのでしょう? 分かっているのでしょう? この世の者と、影朧は共には歩めぬ者同士である事を……!」
 十重二十重にも用意された魔法陣が縦横陣となってその魔力砲塔を完成させ、その銃口部に大量の四大精霊……反発する精霊達同士が収束されている姿を認めながら、ウィリアムが思い切った表情でそう叫ぶ。
(「まだ……ですね……!」)
 魔力の充填こそ、終わっているけれども。
 伝えたい言の葉がある者達が、まだいる事にウィリアムは気がついていた。
 だからこそ、この魔力を制御したままウィリアムは叫ぶ。
「統哉さん! ボアネルさん! 美雪さん! 紫苑さんが紫苑さんである内に、お願いします! どうかその心に呼びかけて下さい! 暁音さんに……雅人さんも!」
 ――と。
「くっ……くぅぅぅぅぅぅ……!」
 33箇所の裂傷と胸元に突き立てられた物干竿・村正による刺し傷にその体を蝕まれる紫苑の苦悶故に、瞳から溢れ出す黒い血の涙が口の中に滑り落ちていくのを、まるで儀式の様に飲み干しながら凄絶なる絶叫を紫苑が迸らせようとした、その時。
「カタリナ……」
 剥奪侯シャズが盗み取った紫苑の戦闘への思考……そして、彼女の心の奥に微かに残り火の様に残る『それ』に当てられ、顔色をMitschuldiger……それはあの人の心臓であり、それ故に自らに埋め込んだ大切な蒼き宝石の様に、全身から血の気が引いた様な顔色を浮かべながらも、尚、剥奪侯シャズの召喚を維持するフローリエの呼びかけにカタリナが頷き、遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を蒼色に輝かせてすらりと伸びた足で大地を蹴る。
 それはさながら、大地を疾駆するチーターの如し。
 瑠香に体を斬り刻まれ、動きを鈍らせていた紫苑の懐に潜り込み、大地を疾駆し加速した速度をも足に乗せ、蒼雷を纏った前蹴りを叩き込み、蒼雷で全身を麻痺させながら吹き飛ばし、紫苑の技の起こりをカタリナは叩き潰した。
「少し……少しで良いんだ。紫苑、皆の話を聞いて」
 カタリナの諭しとその一撃が呼び水となったか。
 それまで庇う一辺倒だった敬輔が統哉と無言の内に連携する様に黒剣を大地に擦過させながら紫苑に肉薄。
一方で、遂にその機会を掴み取ったと判断した統哉が空中へと飛び出し、漆黒に染まったこの空間の闇を斬り裂く一条の宵闇として、下段から大上段に持ち替えた星の様な淡い輝きを放った『宵』を振り下ろす。
 敬輔が、赤黒く染まった黒剣を下段から撥ね上るのと、ほぼ同時に。
 其は、『黒』を起源とする以て非なる二対の刃。
 漆黒の大鎌に籠められるは、【祈り】と【願い】
 長剣に乗せられたそれは【威圧】と【殺気】
 この違いは、如何な思いより生じたものなのであろうか。
 思いながらも、統哉が解き放った夜空に輝く星々の線を曳く大鎌『宵』は、紫苑の中の雅人と共に死にたいという【邪心】と憎悪のみを袈裟に斬り裂き。
 敬輔の黒剣による斬り上げは、紫苑の中の、【戦闘を続けようとする意志】のみを断ち切った。
「くあっ……?!」
 自らを支える主柱の内、2つを斬り裂かれた紫苑が雅人を護るために出来ることは、統哉達の話を耳にすること。
 ……ただ、それだけだった。
「……大切な人と生きたい。それはきっと、雅人も同じだよ。君を想うからこそ。そう。君を想うからこそ、危険も承知で、此処に居る」
 宵を振り抜き紫苑の憎悪を断ち切った統哉がそう呟いて静かに息を吐く。
 その赤い瞳に紫苑の姿を映し出す統哉は、何を思っているのだろう。
「紫苑、もう君は気がついているのでは無いかな? 君が彼を殺し、ともに影朧になったとしても、それは、君の愛すべき人を、呪われた道へと引きずり込む……ただ、それだけの事なのだ、と言う事を」
 巨躯の魔犬へと変貌を遂げたまま。
 雅人の周りに配置された魔犬達より一回り巨大な魔犬……チャーチ・グリムと化したボアネルの問いかけに紫苑は何も答えず、只、ボアネルを睨付けるのみ。
 否……答えられなかったのかも知れない。
 ボアネルの言葉は、嘗て『人』であった頃の紫苑の想いを、その時から知っていた影朧の真実の一端を、端的に現わしていたから。
「そうだな……紫苑さん。貴女は、別れ際の約束の答えを聞きたかったのであれば、『生きて』戻るべきだったんだ」
 それまで諳んじ続けていた詠嘆曲を一度止めた美雪が、不意にそう呼びかける。
「……っ! それが出来れば、最初から……!」
 ギリリッ、と歯がみする紫苑に決定的な言葉を突きつける美雪。
「だからと言って、影朧になる事が許されるわけでは無いだろう。聡明な貴女なら、もう理解している筈だ。……影朧となった貴女が、雅人さんと関わる事……それ自体が、雅人さんの破滅に繋がる、と言う事に」
「そうだよっ! 確かにもし転生したら、雅人さんへのその想いは、失われてしまうのかも知れない! でも、そうじゃない、真っ当に添い遂げられる道も、この世界には在るんだ! その道を……紫苑さんが自分で閉ざしちゃダメなんだよっ!」
 美雪の言葉を引き取り、そう言い募るはひかる。
(「くっ……」)
 ひかる達の説得という名の口撃は、紫苑の……影朧の心の一部を抉る刃となり、それが彼女を斬り刻み、苛んでいくその痛みを、共苦による同調によって感じ取った暁音が苦痛を堪えるために、ぐっ、とキツく唇を噛み締め、同じく何かを堪える様にしていた雅人を見やる。
 (「雅人は……」)
 気がついているのだ。
 ボアネル達の言葉が鋭い棘となって、今、紫苑に突き刺さり、それが紫苑の心を激しく揺り動かし、紫苑が傷つき喘いでいることに。
 けれどもその『痛み』が無ければ、転生する事も、それを紫苑が自らの意志で望むことが出来なくなると言う事にも、きっと雅人は気がついている。
「……私は、嫌よ」
 滝壺の如く流れ込んでくる様々な思いが自らの心を強く揺さぶり、その姫桜の感情の揺れを現わす様に。
 桜鏡に嵌め込まれた、一枚の玻璃鏡の鏡面が漣となって、強く、強く、その鏡面に、水面の様に広がっていく。
「い……や……?」
「ええ、嫌。雅人さんも、貴女も幸せになれない……そんな未来は」
「僕と、紫苑の、幸せ……?」
 それは、ただの我儘だろう。
 けれども、姫桜の我儘……即ち純粋な想いこそが、最善なのかも知れない。
「私は、貴女にも幸せになって欲しい。その為に……生き直して欲しいのよ」
 強く頭を振りながらきっとした表情で。
「大切だと想うなら、雅人さんを殺すんじゃ無い! 雅人さんが笑顔で生きていく幸せを願ってよ……! 転生して、生き直して、もう一度会いに来る位の覚悟を決めなさいよ!」
 暴れ狂う感情のままにその言葉を吐き出す姫桜。
 それを耳にしながら、統哉がそうだ、と小さく頷きを一つ。
「美雪も言っていたが、君はもう気がついているはずだ。君が影朧のままでは、君の本当の願いを雅人を守りたいというその想いをも、歪ませてしまうと言う事に」
(「そして、そんな事を……」)
 ――雅人だって、本当は望んでいないって事を。
「雅人もまた、君を護りたいんだ。君が雅人を護り戦った……戦おうとしたのと、同じ様に」
「……雅人も、私を……?」
 統哉のその言葉に引き込まれる様に。
 小さく瞬きを繰り返す紫苑にそうだ、と統哉が頷きを一つ。
「伝えたい想いがあるのなら、擦れ違うこと無く確かめ合って欲しい」
 ――寄り添う2人の想いは、雅人の胸にずっと、ずっと残るのだから。
 その統哉の言葉を引き取る様に。
「雅人、今だよ」
 共苦の痛みに喘ぎ、表情を青ざめさせた暁音がいつでも止めを刺すことが出来るよう警戒を怠っていないキリカや、様子を見て止めを刺す覚悟を恐らく抱えて居るであろう全身鎧姿の人物……敬輔達を注意深く見やりながら、雅人の背を押す様にそう告げる。
 雅人はそれに一つ頷き、ボアネルの魔犬とキリカ、紅閻に護られながら前に出て、既に戦意をほぼ奪われている紫苑へと近づいていった。
(「後は決着を付けるだけ、ですか」)
 いつ何が来ても対応できる様に、と『スプラッシュ』で十重二十重の魔法陣から生み出された赤・青・黄・緑・桜の色が混在した巨大な魔力砲塔を維持したまま、内心でウィリアムが呟きを一つ。
「後は……雅人次第ね」
 戦闘の意志と憎悪を断たれ、ボアネル達の話に耳を傾け続けていた紫苑を見て剥奪侯シャズを送還しながら、フローリエが小さく呻く。
 剥奪侯シャズの召喚と、過去との対峙による魔力と精神的な消耗による疲労は著しく、この戦いでは、これ以上の戦闘行動を取ることが出来そうに無い。
「うん……そうだね」
 カタリナも状況を理解しているのだろう。
 これが最後となるであろう、雅人と、『紫苑』の邂逅を妨げぬ為に、構えこそ解かぬままではあったが雅人と『紫苑』を凝視ししていた。
「……紫苑」
 呼びかける雅人の言の葉は、最上とも思える、慈悲に彩られたもので。
「雅……人……」
 その囁きに、縋る様に。
 『紫苑』がその異様なまでに鋭く長く伸びた指の爪を、雅人の頬に掠めさせた。
 その様子は、本当に一瞬で。
 故に、その爪を受けた雅人以外のその場にいた、誰もが気がつくことが出来なかったであろう。
 ポタ……ポタ……。
 雅人の頬から赤い血液が、紫苑の爪を滑る様に伝って流れ落ちていく。
 それに痛みを感じている様子も無いのか、雅人はただ、優しく微笑みを浮かべたままだった。
「大丈夫。もし君が、君で無くなったとしても……この傷とこの羽根があればきっと、僕達は姫桜さん達が言ってくれた様に、また会えるよ。だから……」
「……これで、終わりよ」
「雅人さん! ……精霊さん!」
 一瞬、凶悪な笑みを浮かべた紫苑が、一度引き戻した異様に伸びきった指の爪を再び解き放つ。
 ひかるの叫びに応じて魔道障壁……地塁、氷壁、防護林が重なり合ってその姿を現し、雅人を守る結界となってその爪を防ぎ。
「……私のお気に入りのパフュームだ。桜の香りよりも刺激的だろう。そう……天国が視える程に」
 キリカが全身を薄紫色の毒霧へと変じさせ、そのまま懐に飛び込む様にその爪に覆い被さってその爪を腐らせた。
「もう良いだろう。これで終わりだ、紫苑」
 そう告げて薄紫色の毒霧から人の姿へと転じたキリカが、祈りの言葉を口の中で小さく呟き、クリムゾンカラーのハンドガードに黄金のラインの走った"シルコン・シジョン"の銃口から聖書の箴言を撃ちだしてその身を射貫いた。
 続けざまに、銃身が黄金のラインで彩られた"シガールQ1210"の引金を引く。
 "シガールQ1210"の黄金のラインが朧気な輝きを発するのとほぼ同時に、秘術の力を秘めた弾丸が紫苑の眉間に撃ち込まれ、紫苑の体を大きく仰け反らせ。
「お眠り、咎人! 今宵は貴女を串刺しよ!」
 そのタイミングを完全に見極めた姫桜が、瞳から溢れる鮮血の涙の線を曳きながら、暁音に手を引かれて交代する雅人とすれ違い、二槍を真っ直ぐに構えて突進、紫苑の左胸と右胸を縫い止め。
「話は終わりだ……俺達の手で、お前を殺してやる……」
 紅閻が呟きながら、フォースイータ-・ダークで彼女の半身に食らいついた。
「眠れ、紫苑よ。まだ君を愛している……そしてこれからも愛し続けるであろう、雅人への想いを、執着では無く愛情へと変え……在るべき場所へと戻るんだ」
 紅閻のフォースイーター・ダークにその足を食われた紫苑に、最後の審判の如き慈悲深き口調でそう告げて、紫苑を雅人の周りに展開していた黒犬達の口から吐き出された冷気で凍てつかせ、更に炎で紫苑の身を焼き尽くしながら、魔犬と化しているボアネルが突進し、紫苑の残された体の一部を囓り取った。

 ――そして。

「大丈夫、貴女達はまた出会えます。例え……記憶を失くしていようとも。それだけの思いがあれば、きっと互いに分かります。ですから……」
 瑠香の呟きに合わせる様に。
「これで……終わりです! 『Elemental Power Converge……Release』」
最後の詠唱の言葉を、ウィリアムが紡ぎ。
 練り上げられていた積層型立体魔法陣による魔力収束式仮想砲塔の中に数え切れない夥しい数の火・水・土・風……相反する精霊達の力を強引に融合させた巨大なコロナの様な光を、その砲塔から撃ちだし叩き込む。
「……『Elemental Cannon Fire!』」
 解き放たれた虹色の輝きを放つ巨大なコロナが、紫苑に向かって炸裂するのに合わせる様に、ボアネル・姫桜・紅閻・キリカが後退した。
 それと入れ替わる様に直撃し……爆ぜたその巨大なコロナを思わせる砲弾は。
 紫苑を消滅させんばかりの莫大なエネルギーを叩き付け……声を上げる暇を与えること無く、影朧と化した『紫苑』の生命を、その妄執事焼き尽くすのであった。


 ――♪ ――♪
 歌が、聞こえる。
 それは、【幸福でいることの素晴らしさを称賛する歌】
 もし彼女が転生できるのであれば、その転生の旅路と、その先に待つであろう紫苑と、雅人の再会への願いを籠めた、鎮魂曲。
(「雅人さん……辛い選択をさせたな。だが、私は……」)
「今生の別れは……何かの未練を断ち切ることは、とても辛くて、難しい事よ」
 そんな美雪の思いを代弁するかの様に。
 魔力の激しい消耗による目眩で全身から血の気が引いていたフローリエが大地に降り立ち、薄水色の硝子の靴、Cendrillonを履いた覚束ない足取りで地上に降り立ち、カタリナに支えられながら、そっと微笑みかけた。
 その微笑に切なさの様な何かを感じるのは、恐らく美雪の気のせいでは無いだろう。
「……」
 そっと祈る様に胸元の羽根に手を置く雅人にでも、と囁きかける様にフローリエは続けた。
「それは、乗り越えなければいけない事、なのよ……」
「……うん。分かっているよ」
 フローリエのそれに静かに頷き、右手で胸元の羽根を押さえたまま、そっと左手で、自らの頬に刻み込まれた爪による切り傷を押さえる雅人。
 流れ続ける血は暫くすれば止まるであろうが、心の中に穿たれ、流れ続けているその血は、何時か癒える時が来るのだろうか、と言う疑問が、ふとボアネルの脳裏を過ぎっていく。
「大丈夫だよ! 紫苑さんじゃ無いけれど、紫苑さんが転生した後には、きっとまた、再会できるからっ! 雅人さんも、それを信じてっ!」
 ウィリアムが撃ち出したコロナに桜の精霊さん達を取り憑かせ、転生のための祈りを籠めたひかるの励ましに、そうだね、と大切な何かを失った者特有の、少し寂しげな微笑を口元に刻んだ雅人が頷いた。
「ああ……ひかるの言うとおりだな」
(「どうかこの戦いの結末が、未来へと歩む2人の為の道標になる事を……」)
 統哉が胸中でそう祈りを捧げながら小さく頷き掛けた時、それにしても、と雅人が微苦笑を零した。
「まさか、本当にあいつの名前の花言葉に、あいつが僕の中でなるとは、思っていなかった、けれどね」
「……花言葉?」
「どう言うことだ?」
 姫桜が思わずと言った様子で雅人に問いかけ、少し気になったのかキリカも口を揃えて雅人に聞く。
 雅人がそれに頷き、そのまま黒から桃色へと戻っていく桜の花弁たちを眺める様に空を見上げ……その桜の花弁の一枚を手に乗せてそっと告げた。
「紫苑の花言葉。それはね……」
 ――追憶。思い出。
 そして……。
「――君を、忘れない」
 雅人の呟きが、美雪が歌う、幸福を祈る鎮魂曲の流れる広場を駆け抜けていく中で、まるで無音の中に投げ込まれた重厚な音楽の様にこの場に響き渡った。
(「……彼女の事は、決して忘れるな、なんて……」)
 忠告をするまでも無さそうだな、と思い敬輔は何時の間にか姿を消していた。「そうですね。きっと、その通りになると思います。そうなる様に祈り、影朧達を命の輪廻へと戻すのが……私達、桜學府の者達の使命、なのですから」
 瑠香の確認の様に告げられたその祈りの言葉に押される様に……桃色に戻った桜の花弁達が宙を舞い、静かに、カタリナ達の間を駆け抜けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月20日


挿絵イラスト