お前らはまだ本物の秘境を知らない……みたいな
●食う寝る遊ぶの三段活用
「みんな、色々とお疲れ様っ!」
喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)がグリモアベースでそわそわとしている。その手には何かのチケットの束が。そして集まった猟兵達に話を続けた。
「サムライエンパイアの戦争は大勝! 今度の世界の舞台は大正? みたいな」
貴様は何を言っていると、冷たい視線にもめげずに本題に入る紗羅。韻を踏めばよいというものではない。
「……と、とりあえずね、ここに秘境ツアーのチケットがあるのよ」
その本題は、猟兵向けの一日慰問旅行だった。
「一日だけ貸し切りで遊び倒せるみたい。内容はね……」
・渓谷で急流川下り ラフティング!
・渓谷でI Can Fly バンジージャンプ!
・いつでも参加出来る 本格バーベキュー!
・狩りの時間だ 果物狩り!
・和式旅館でのんびり 天然温泉!
・戦わなければ生き残れない 天然屋外サバゲ!
「この中から好きなのを2~3個選んで楽しめるそうよ。ええ、流石に全部は時間が足りないわ……二、三日あればよかったのに」
そう言うと紗羅から『旅のしおり』を手渡された。ラフティングと温泉は水着着用が義務である。世界の理なのだ。そして混浴は今回は無い。ラフティングのコースはそこまで急ではないらしいが、増水しているし水温も落ちてきているので、落水には十分気を付けて欲しいとの事だ。
本格バーベキューは南米出身のスタッフがメインとなって、生半ではない量の肉をしこたま専用のスーパーで調達している。
バンジージャンプは雄大な渓谷を背景に、大きな橋の上から飛び込むらしい。空中戦や空中浮遊など飛行に関する技能の使用やユーベルコードの使用はスタッフの安全を鑑みて禁止である。
果物狩りはこの季節だとぶどう、りんご、梨などが獲れ時である。余り獲り過ぎない様に、と念を押されて。
サバゲは山の中。フィールドの状況は不明。ただ季節柄伸びた草木が相当邪魔になるだろう。それなりに斜度のある狭い空間の為会敵率は高いが、天然の遮蔽物も相当多く、よほど突撃をかまさない限り出会い頭でやられるという事は無い。フルオート禁止。スナイパー1名迄(希望者が多い場合は抽選)。罠禁止。接近戦禁止。空中戦禁止。フラッグ戦……と専門用語がつらつらと書かれているが、要はゲームなのだからあまりはしゃぎ過ぎない様に、という事だ。
「でもって行先はUDCアース日本の秘境! G県よ!」
辺りがざわつく、大丈夫なのかと。人跡未踏とまで揶揄されるそこは、しかし思ったほど(場所にはよるが)未開の部族がいるような場所ではない。
「何か色々言われてるけど、高速飛ばせば東京からT林まで1時間かからないんだから」
パパの車ならね、と紗羅が加える。要はそこまで不明な場所ではないのだ。
「なので朝から超高速バスツアー、現地で色々分かれて楽しもうって事です!」
そのバスの時速は幾つだ? と質問が聞こえた気がしたが、聞かなかった事にする。
よろしくお願いしますと頭を下げ、チケットが手渡された。
ブラツ
このシナリオは【日常】の章のみで、
オブリビオンとの戦闘が発生しないため、
獲得EXP・WPが少なめとなります。
こんにちはブラツです。某県には三年くらい居ました。
“こんな事してるよ!”と内容をお書き頂ければ、
公序良俗に反しない限りやれるだけやります。
導入で書かれている内容以外だと、
色々と難しい場合がありますのでご了承ください。
紗羅は呼ばれれば出て来ますので、お気軽にお誘いください。
尚どちらの人格(JKかおっさん)かご指定頂ければその通りに参ります。
尚、ラフティング時の水着の指定があればデザインを軽くお書きください。
無ければイエーガーカードから(カードがあれば書かないでOKです)、
それも無ければレンタルしたという体で見繕います。
プレイングは9/27(金)8:31より募集します。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『【Q】旅行とかどうでしょう』
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POW : とにかく気力体力の続く限り、旅行先を満喫する
SPD : 旅行先で目ざとく面白いものを見つけて楽しむ
WIZ : 事前に下調べを行い、綿密に計画を立てて楽しむ
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●道の駅
意外な事に通年遊べる事を知られていない。
G県K場――雪が降ればウィンタースポーツ、果実が実れば果物狩り。
それだけではない。この道の駅にも特産物がより取り見取り。
牧場直送の乳製品、自ら作るピザや肉製品――楽しみながら食べられるのだ。
少し先へ進めば古民家風の癒しの旅館、天然温泉がある。
もうここでまったりしても良い。先へ進んで更なるアクティビティに挑んでも良い。
飛ばせば30分も掛からない――何をするも自由。
ここはUDCアースの秘境(と呼ばれた県)、畏れるものはそれほど無い。
フィーナ・ステラガーデン
夜姫とサバゲーで戦うわ!
結構マジで!
この玉(BB弾)を当てればいいのよね?
ちなみに経験はないわよ!勝てば良かろうなのだー!よ!
さあ!猟兵による超人サバゲーが始まるわ!
あ、衣服はレンタルで迷彩服借りとくわね!
まず【第六感、聞き耳】を使用し全方位警戒しつつ
木の枝から枝へと飛び回りつつ移動するわ!
夜姫を発見したら【空中戦、先制攻撃、だまし打ち】
持てる手段がんがんつぎ込むわ!
ルールで許されるなら蝙蝠にも銃を持たせてファンネルみたいにしたいわね!
そこはダメと言われればやらないわ!
お姉さんの威厳を保つのよ!
どんな汚い手を使ってでも!!!
終わったら温泉で汗でも流すわ!
(アレンジアドリブ歓迎!)
響・夜姫
・POW
フィーナお姉ちゃんと参加。
・サバゲ
フィーナは敵チーム
「銃使いでサバゲ経験者の私に挑むだなんて。フィーナお姉ちゃんたら、可愛いのだわ!」ドS顔。
迷彩服は借りた
フルオート誤射して一回休み
二挺持ちスタイルで参加
「お姉ちゃん以外には。そこら辺の弾幕でも、食わせておけー」無造作に抜撃ち。
癖で武器受けし「しまった。そうだった」退場
フィーナがレギュレーション破りそうな時は絶妙なタイミングで撃ち抜いていく。
なお対戦結果は…推して知るべしー。
退場中に誤射か何かで何度か被弾「ひっとー、ひっと通り痛い痛い痛い」
ペンギン。参加してた。強かった。
・温泉
「むー。BB弾の痕が」
至巨乳業の牛乳片手にのんびり汗を流す。
鞠丘・麻陽
■方針
・同行者:鞠丘 月麻(f13599)/双子の妹
・【POW】使用
・流れ:BBQ→温泉
・アド/絡◎
■水着
・[チャイナドレス風]の赤いビキニ/[月麻]と対になるデザイン
・市販サイズは到底入らない体型の為[特注品]
■行動
旅行、楽しみなんだよ。
まずは、BBQからだね。
私も月麻ちゃんもかなり食べる方だし、沢山用意してくれてるっていうのは有難いんだよ。
折角だし、「味付け」とか「焼き加減」とか、出来る範囲で教わってお土産にしたいかな、だよ?
しっかり食べたら、後は温泉でゆっくりしたいかな、だよ。
水着や下着だけじゃなくて、浴衣もサイズがなさそうだし、持参しておくんだよ。
お風呂上がりの瓶牛乳は必須、なんだよ。
鞠丘・月麻
■方針
・同行者:鞠丘 麻陽(f13598)/双子の姉
・【SPD】使用
・流れ:BBQ→温泉
・アド/絡◎
■水着
・[チャイナドレス風]の青いビキニ/[麻陽]と対になるデザイン
・市販サイズは到底入らない体型の為[特注品]
■行動
旅行、とても楽しみです。
南米出身の方のBBQですか。
「シュラスコ」の様な形式でしょうか?
元々二人ともかなり食べる方ですが、普段以上に食が進みそうです。
お土産にも良さそうですね。
その後は温泉ですね。
こういう場所で着る様な、着られるサイズのシンプルな浴衣も準備して来ておりますし、ゆっくりしましょう。
(小首を傾げて)
二人とも、また大きくなってます?
勿論、お風呂上がりの瓶牛乳は必須です。
●密林の死闘
G県には山が多い。かの名高き公道最速伝説発祥の地もぶっちゃけここだ。しかし今回の戦いの舞台は峠道ではない。猟兵のみに貸し出された山間のサバゲースポット――道々に白いバイオBB弾が転がって、遠くに空を裂く発射音が断続的に聞こえている。背丈のある草木はうっそうと茂り、それほど広くはない地形であるにもかかわらず高低差のある崖がそこかしこに。その景観は天然の城塞めいていた。更に地形の左右は林の様に木々が立ち並び、ただでさえ悪い視界をひたすらに覆い尽くしているのだ。
「銃使いでサバゲ経験者の私に挑むだなんて。フィーナお姉ちゃんたら、可愛いのだわ!」
不敵なドS顔で炸裂音が響く方角を望むのは響・夜姫(真冬の月の夢・f11389)だ。愛銃は流石に使えず、しかも早速フルオートで乱れ撃った為一回休み。何をしているのだ。今は木陰で涼みながら、借りて来た迷彩服と装備を調整しつつ、米軍特殊部隊の試製拳銃を模したエアガンの照準を確かめていた。普段夜姫が手にしている“本物の二丁拳銃”に比べれば余りにも武骨で厳めしい形状だが、所詮は玩具。バレル長がある方が集弾性がいいだろうと、あえてこの銃を選んだのだ。わざわざサプレッサーまで外付けしているのだ。ちょっとした短機関銃なみの大きさである。
オリーブドラブの色調をベースにした迷彩は山林用。不揃いなシミの様な模様をちりばめた厚手の戦闘服だ。もう残暑とはいえG県の日差しは強い。幾らキャップを被っていても、お姉ちゃんは相変わらず『何で吸血鬼の私がこんな太陽の下でドンパチしなきゃならないのよ!』などと怒りながら銃を振り回しているのではないだろうか。そうこうしている内に二チームに分けて行われていた戦いは終わったようだ。自分達以外のチームメンバーはUDC職員を除けば母国では傭兵、狩猟者、用心棒、格闘家、社長などをしている人達だ。普段はG県の工場で出稼ぎしている人達だが、こうやって不定期に集まってサバゲをしているらしい。その熟練者達の第一声がこれである。
「おい――魔女が現れたぞ」
「何で吸血鬼の私がこんな太陽の下でドンパチしなきゃならないのよ!」
じりじりと照り付ける陽光の下、フィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)は世界を呪った。夜姫と同じく厚手の迷彩服で身を包み、先だって樹の上に登り辺りを見渡す。目の前には人に混ざって何故かペンギンのコマンドーが重武装でデェェェェン(哨戒)していた。
『ヘイお姫様、調子はどうだい?』
「最悪よ! えっと……正面から4人、持っているのはアサルトライフルって奴?」
『ラジャー。引き続き観測を――ヒット』
無線から最後に聞こえたのは乾いた着弾音と敗北の宣告。恐らくヘッドショット――どうやらヘルメットごと狙撃されたらしい。つまりあの前衛は囮……敵には余程優秀な観測者がいるのだろう。フィーナが気配を捉える前に、それらは既に消え失せていた。
「流石、車みたいな値段の装備だって自慢していただけはあるわ!」
装備込みで気配を消しているとなると、偽装用のギリースーツも準備している可能性が高い。しかし、こちらは猟兵だ。
「夜姫以外に本気を出すつもりは無かったけれど――仕方ないわね」
フィーナが耳を澄ます。風の音、木々のこすれる音、ペンギンとかが歩む音。そして、僅かに重ねた厚い布ががさりと動く音。
「――方位は分かった。後は距離」
幸いフィーナが登った樹には葉が広がっている。つまりルール上易々と狙撃は出来ない。じっくり探すのはこちらに分がある……そして。
「見つけたわ。あれね――」
ごそごそとポケットを漁り、取り出したBB弾をその方角へ思い切り投げつけた。非常に原始的な投射戦法。故に相手はそんな事をしてくるなどと、思ってもいなかったのだ。
『! この距離で、なんだあの娘!?』
『こっちに狙いを付けてる……不味いぞ、見つかった』
風を切る音と共に飛来したBB弾は狙撃手の耳元を掠め、間一髪致命の一撃を避ける。否、あえて外されたのだ。BB弾の投げつけは無効だ。これが有効なら豆まきの要領で接近戦が成立してしまう。だからこそ外す。そして相手に刻み付けたのは――恐怖。
『あのライフルで狙撃だと? そんな事出来るかよ!』
『ここは日本だ。そういう話は聞いた事あるだろう?』
フィクションの中でな! 狙撃手と観測手が軽口を叩きながら、狙撃ポイントにしていた樹の上より飛び降りた。ここにいては再び狙われると感じた故に――そして今度こそ、狙撃手は致命の一撃を全身に喰らった。
「この玉を当てればいいのよね?」
『え、どうして……』
「意外と近かったのよ!」
目の前にいつの間にかあの娘が――それじゃ。再びトリガーが引かれる。相手は死ぬ(ルール上)。こうして、初戦はフィーナ側が圧倒的勝利を収めたのだ。
「むー……」
「何よ!」
「いや、大人げないなぁと思って」
「マネーイズパゥワーだって大人げないわよ!」
傍目から見れば少女達が他愛のない会話をしている様である。しかしその実、歴戦の猛者達がたった一人の少女に手玉に取られて、絶対確実と思われた狙撃戦術を早々に無効化されたのだ。そして残る仲間達も次々と――風のように迫り来る魔女の鉄槌が、その命を(ルール上)奪っていったのだ。
「じゃあ、今度こそ」
「ええ、猟兵による超人サバゲーが始まるわ」
それぞれが己が得物に命を吹き込み、再び戦闘が始まる。
『……なあ、俺達何されたんだ』
『言うな』
先程の戦い、フラッグ戦(敵陣にある旗を奪ったチームが勝ち)だというのにルールを理解しなかった魔女により戦場は蹂躙された。今度こそちゃんとルールを把握させた……故に、旗を守っていた二名の戦士は事もあろうに、開幕とほぼ同時に迫った夜姫の二丁拳銃が、瞬く間に命を刈り取った。
「お姉ちゃん以外には。そこら辺の弾幕でも、食わせておけー」
「なんとッ! いいえ、お姉さんの威厳を保つのよ!」
既に二人の戦いは目で追えない。マップを予め熟知した夜姫の強襲を、先駆けていた為一足遅れて防いだフィーナは、手にしたアサルトライフルから三点バーストで火線を繋ぐ。
「当たらなければー、どうという事はないー」
放たれた弾幕を絶妙な返しで――弾道に合わせて放たれた夜姫の二丁拳銃から、銃弾に銃弾を当てて致命の軌道から弾き飛ばす。その光景は、まるで見えない拳で殴り合っているかの様。
「流石に器用ね! それじゃあこれは……どうかしら!」
木々の上を飛び回り、お互い金と銀の長髪を揺らしながら駆け抜ける姿は空を舞う妖精の如く可憐だ。しかし手にした武骨な火器が(ルール上)命のやり取りを嫌が応にも想起させる。ここは戦場だ。時折視界を遮る木の葉が舞い散る中、フィーナは奥の手を発動させる。
「お姉ちゃん、今もしかして」
「ええそうよ、持てる手段をがんがんつぎ込むわ!」
木の葉の影から小柄な蝙蝠が、手榴弾(炸裂するとBB弾が飛び散る奴)を咥えて夜姫に殺到する。
「そう、そっちがその気なら……」
同じく夜姫の背後より十字架状のデバイスが飛来して、蝙蝠にぶつかってその進路を塞ぐ。
「ええい、まだよ! どんな汚い手を使ってでも!!!」
勝てば良かろうなのだー! よ! 迷彩の上着をその場で脱ぎ捨て、夜姫に被せるる様に投げつけた。汚い、流石魔女汚い。
「お姉ちゃん、幾ら暑いからって」
お仕置きが必要、なのだわー。いつの間にか取り出した擲弾筒から放った大口径弾がフィーナの迷彩を吹き飛ばし、四方で爆ぜる蝙蝠と十字架と手榴弾の弾幕を覆う様に空を舞う。そして。
「勝った!」
「まだだー」
その隙にフィーナのアサルトライフルが夜姫を狙う。その攻撃を手にした拳銃で受けて……受け……。
「しまった。そうだった」
ヒットである。フィーナの放った火線は見事に夜姫の拳銃二つ共に命中し、この戦いは姉の威厳が守られたのだ。
「フフフ、姉より優れた妹など――痛ッ!」
足元で重武装のペンギンが、頭上の二人を目掛けて神業めいた弾幕を張る。三点バーストとはいえ、トリガーをテンポよく絞ればこうも続くものなのか。
「ひっとー、ひっと通り痛い痛い痛い」
「やめなさい! 夜姫、アレを止めて!」
しかしペンギンは容赦しない。手榴弾でそこら中にBB弾をばら撒いて、枝をへし折り木立を裂いて大立ち回りを演じた二人に、大自然の怒りを体現したかの様にペンギンのコマンドーは弾幕を浴びせ続ける。結局、ルール無用のペンギンの無慈悲な行軍が全てを破壊した。おのれ。
●大自然の恵み
「まずは、BBQからだね」
「南米出身の方のBBQですか」
G県の利根川河川敷、関東地方をまたがって長大に伸びるその河川は古来より大地の恵みを関東中へと齎していた。それは今も一緒、ばちばちと燃える炎に鋼鉄のグリルが掛けられて、その周りを幾人ものスタッフと、猟兵ら――鞠丘・麻陽(豊饒の使徒・陽・f13598)と鞠丘・月麻(豊饒の使徒・月・f13599)が囲んで、豊満な肉体を揺らしながらその時を待ちわびていた。
「私も月麻ちゃんもかなり食べる方だし、沢山用意してくれてるっていうのは有難いんだよ」
「シュラスコの様な形式でしょうか? 普段以上に食が進みそうです」
燦燦と照り付ける太陽と肌をなでる涼やかな風が心地よい。涼しい部屋で浴びる冷房とは一味違う、大自然ならではの涼と恵みは、嫌が応にも期待を高ぶらせる。先程から鼻腔を抜ける焼けた肉の香りが食欲をそそり、箸と皿を持った二人はそわそわと、その出来上がりを子犬の様に待ち構える。
「これは……」
ふと、麻陽が次に投下する肉の仕込みに気づく。ピカーニャ――イチボと呼ばれる部位の牛肉――を一塊、子供の顔くらいの大きさのそれが、大きめのタッパから豪快に出されて、スタッフが器用に小剣みたいな大きな鉄串へ波打つ様に刺していく。
「成程、臭みを抜くと同時に柔らかくするのですね」
月麻が感心した様にその仕込みをしげしげと眺めた。タッパの中には生肉と混ざった赤黒い液体が。よく見ると所々に泡が立ち、わずかにアルコール臭が混ざっている。そしてざらりとした砂のような――おそらくは岩塩だろう。それを豪快にまぶして、一晩ほど漬け込んでおいたらしい。ビールの炭酸とアルコールが牛肉の組織を柔らかくして、一緒に漬け込んだ岩塩の旨味を浸透させるのだ。
「シュラスコ。これを待ってたんだよ」
「ええ。凄い大きさのお肉です……これを今から?」
鉄串に一通り刺し終えたピカーニャは非常に大きく、まるで仕留めたばかりの大型魚の様でもある。それを底の深いグリルの上に並べて、スタッフがくるりと、全身を炙る様に焼き始めた。二人の質問にスタッフがソウダヨと答えながら、真剣な表情で肉を焼き続ける。滴る肉汁が炎を一層大きく燃やして――だからそこの深いグリルなのだ――焼きながら追加の岩塩をパラパラをまぶしていく。バーベキューは真剣勝負、下手な肉は出さないという矜持が普段以上に慎重かつ、大胆な調理はさながらアートの様でもあった。そしてその仕上げ、丁寧に表面をこんがりと焼きあげて、内側は芯まで熱く、されど柔らかさを保ったままピカーニャは完璧に焼き上げられる。鉄串をグリルから引き揚げて、二人が持つ皿の上にそっと置くと、器用にもう片方の手でその肉を表面から削いでいった。切り裂かれた表面から、肉汁と香ばしい香りが広がって、『ドウゾ』と手を差し伸べられると同時に待望の実食が始まった。
「美味しい。肉の旨味を岩塩が引き立てて、シンプルながら口いっぱいに広がる味が堪らないね」
カリッとした表面の食感と、噛めば噛むほど味が滲み出る柔らかい肉の味わいはまさに至高の一品。サシの目立たない赤身ながら脂の乗った逸品――肉と岩塩の味のみ、いやそれだけでいい。舌全体で感じる肉本来の味というものがこんなにも深いものだったのかと、麻陽は改めて感じ入った。
「こちらのパンに挟んで食べると、染み渡った肉汁が相まって――パンの風味を合わせて、幾らでも食べられそうです」
一方月麻は切り分けられたピカーニャを南米式の柔らかいパンで挟み込んで食べている。欧風の堅いパンとは違い、柔らかいパンは肉の食感を殺す事無く、脂っぽさを相殺した分手が休まる事も無い。ふわりとした生地に染み渡った肉汁の味わいがずっと口内に広がって――まさに至福のひと時であった。
「このホイル焼きは?」
ふと、続けてグリルに掛けられたモノに麻陽が気付く。アルミホイルに包まれた巨大な物体は先程のピカーニャ同様、中で何かが漬け込まれているのだろうか。月麻が再び真剣な表情でホイルに丁寧に火を通しているスタッフに質問した。
「チキンの丸焼き……そんなものまで」
オイルと香草とガーリックを漬け込んだチキンを丸々アルミホイルで包み込んで、じっくりと火を通していたのだ。アルミから伝わる熱が肉全体をじっくりと焼き上げて、その分取り出すタイミングは慎重そのものだという。やや時間をおいて、今度はそれが丁寧に切り分けられた。
「シュラスコは続いてソーセージだよ!」
「いいですね、まだまだ食べられますよ」
チキンのホイル焼きはピカーニャとはまた別次元の美味さだった。先程のシュラスコがシンプルな肉本来の味わいを楽しむものだとしたら、このチキンは噛めば噛むほど複雑な味わいが沁みてくる万華鏡の様なモノ。香しい香草とガーリックの風味が食欲を刺激して、二人の手は留まることを知らない。更に焼き上げられたソーセージも同じく、詰め込まれた濃い味付けとプリプリの歯応えが、チキンで慣らされた舌先に新しい味をこれでもかと言わんばかりに叩き込む。
「うん、閉じ込められた肉汁が弾けて、まるで味の大洪水なんだよ」
「へえ、これは牧場から直送なのですか。後で頂く事は出来ますか?」
よくある一口サイズのものではない。旨味と辛みが凝縮された腸詰は更なる刺激を舌先に齎す。順を追ってみれば成程、徐々に味付けは濃くなっていき、それぞれが肉の美味さを引き立てつつ色んな味を楽しめる様に手配されたまさしくプロの犯行。オサレなファッションバーベキューでは味わえない手仕込みの野趣溢れる食材は、その実しっかりと計算された上で展開された一大作戦の様なモノだった。
「うん、後はパイナップルの丸焼きなんだよ!」
「肉料理を食べた時はいいらしいですね」
パイナップルはタンパク質の分解酵素を含んだ食材だ。ただの南国らしいデザートではない。そのパイナップルを新品の鉄串に刺して、ジワリと焼き上げる。先程までとは打って変わりフルーティーな香りが場に漂って、滴る果汁が新鮮さを演出する。バーベキューもクライマックスだ。
「はあ……もうお腹がいっぱい、なんだよ」
「それじゃあ温泉へ行きましょうか」
甘い香りが口いっぱいに広がって、荒々しい肉の余韻を浄化していく。麻陽と月麻は十分に食べ尽くし、土産にソーセージとパンを貰ってその場を後にした。ピカーニャのレシピもそう難しいモノではない。焼き上げる道具が無ければ金網でも代用は出来る。日も落ちてきた所だ、最後の温泉に向けて猟兵ツアーのバスが出発した。
●持つモノ、持たざるモノ
「むー。BB弾の痕が」
中東風の艶やかな水着に身を包んだ夜姫は、先程の戦いでペンギンに喰らわされた弾痕を眺めて溜息をつく。幾らドールとはいえ痛いモノは痛いのだ。そもそもペンギンが何故デェェェェンと現れたのだろうか。武装は説明書を読んだのだろうか。やはり元銀河帝国の精鋭、ただのペンギンでは無かったのか。
「何難しい顔してるのよ。こんなの温泉に漬かってれば治るわ! 多分!」
同じくBB弾の猛攻に晒されたフィーナも、売店で買ったシンプルな紺の水着を着て、夜姫の横で今にも蕩けそうな表情で揺蕩っていた。そう、ここは温泉。古い屋敷を改装したような旅館併設の天然温泉だ。立ち込める湯気が視界を著しく阻害しているが、二人にしてみればそれどころではなかったのだ。
全身が、痛い。勿論普段の戦闘とは比べ物にならないゲームだ。だからこそ全身全霊を以って、ユーベルコードすら使って、死人が出ない程度に全力で暴れた結果疲れから温泉で沈みそうになる。そう――筋肉痛。特に普段持ち慣れない重武装で野山をかけたフィーナは一段と疲労が激しい。やはり魔法よ、魔法でカタをつけるべきなのよ……などと呟きながら、うとうとと眠りに入ろうとした矢先、夜姫の姿が突然消えていた。
「ぶくぶくぶく……」
そのまま流される様に揺蕩う夜姫は不意に何かとぶつかった。それは山の様に大きく、重く、そして微妙に――柔らかい。
「あ。え……えっ」
「夜姫……どこよ。何があったの……?」
ざぶんと山が動く。否、それは山ではない。
「お姉ちゃん、やまが、山が……動いた」
「え……? どこにもアイアンなコングなんて、いないわよ?」
とりあえず示談は無かった。
「何かぶつかったような気がしましたが……?」
「どうしたの月麻ちゃん、湯気が凄くてよく見えないんだよ」
特注のビキニを纏ってすっかり温泉を堪能する麻陽と月麻。それぞれ赤と青の鮮烈なカラーが豊満な肉体をビビッドに彩っている。が、湯気が凄すぎてよく見えない。
「ふぅ……それにしても、沢山食べました」
「うん。どのお肉も美味しかったんだよ。また食べるんだよ」
今度はお家で作ってみようかなどと、他愛のない会話を続ける二人。その度豊満なシルエットがゆさゆさと動く。ピカーニャにホイル焼き、ソーセージ。手先の器用さより仕込みがいかに大事かを身をもって味わったのだ。これなら別段難しいことをしなくても、あの味を再現出来るだろう。
「そろそろ出るんだよ」
言うと共に麻陽が立ち上がる。ざぶんと張られた湯が滝の様に滴り落ちて、一瞬水位が大きく変わる。歩く姿はまさに、山の様であった。
「そうですね。湯あたりしてもよくないですし」
続けて月麻が。大きな黒い影がのそりと動いて、津波の様に湯が波打った。何か声が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
「やっぱり、湯上りは瓶牛乳なんだよ」
特注の浴衣に着替え、ラウンジでまったりと牛乳を飲み干す麻陽。腰に手を当て至高の一杯を堪能する。火照った体をじんわりと癒す様に、全身を冷気が巡るのがわかる。
「そうですね。それにしても……」
ふぅ、と溜息をついて同じく牛乳を一気飲みする月麻。先程の水着と変わって、シンプルなデザインの浴衣がはち切れんばかりの肉体をゆったりと包み込む。
「こんな日がずっと続けば、いいのですが」
二人は猟兵、世界の存亡をかけて日夜戦う存在だ。だからこそ戦いに明け暮れる非日常より、こんなひと時が如何に大事か――愛おしいか身をもって知っている。
「そうだよ。だから明日からまた、頑張ろうね、月麻ちゃん!」
元気よく麻陽が返す。やがてはどの世界でも、こんな日が訪れることを願って。
「あれね……」
「あれかぁ」
一方、同じく牛乳を飲み干した夜姫とフィーナは、先刻の正体を目の当たりにして現実の無慈悲さに驚愕した。
「でも、私達もいつかはきっと……」
「そうよ夜姫、諦めたら試合終了よ!」
ぐびりと最後の一滴まで飲み干したフィーナが強く言い放つ。世界の不条理に抗う猟兵、それは日常も非日常も変わらない。
至巨乳業と印刷されたパック牛乳をテーブルにおいて、ソファに深々と沈み込む二人。せめて今はそっとしておいてほしい。筋肉も痛いし。
G県超高速バスツアーはここに終わりを迎えた。
しかし猟兵の戦いは終わらない。
この日常を続ける為に、今はひと時の安らぎを。
大成功
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