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年越しの失くしもの

#サムライエンパイア

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●失せものは
 年明け。人々は去り行く一年を省み、新たな一年に思いを馳せる。
 そんな時に異変は起きた。
「なぁ、ウチにあった、置物知らへんか」
 最初に異変に気づいた者は、そんな言葉と共に、隣家の戸を鳴らす。
「いや、知らねぇなぁ。置物言ったら、おめぇ家にあった、犬ころの置物だろ。てっきり年越しで仕舞ったもんだと」
 話通りならそれはただの失せ物。あるいは泥棒の仕業に思える。
 しかし。それだけでないがゆえに、異変であった。
「なんや。村が急に騒がしくなってきよった」
 最初に異変に気付いた若者は、半端に開いた戸口を手に、そんな風に言葉を漏らす。
「そういや、むかいの家も犬の飾り失くした、言うとった」
 返す隣家の主も、そんな言葉を漏らして。二人は村に飛び出していく。
「えらい、胸騒ぎしてきよったわ」
 俗にいう、嫌な予感というものだろうか。
 事実、この時の若者の予感は当たっていた。
 徐々に喧噪へと移り変わり行く村中の人々は、口を揃えて言うのだ。
 我が家にあった犬を関わる物品が、消えてしまっていると。
 ひどい場合は、飼っていた犬そのものが消えてしまったとも。
「銭にもならん物まで、消えとるで。こそ泥の仕業にしても、けったいやわ」
 被害に価値の大小は関わらず。消えているのは決まって、犬に関わるものばかり。
「一体、どこに消えてもうたんや……」
 若者の呟きに答えが出る事はなく。
 小さな村が迎えた新たな一年は、先行きの見えない不安と共に幕を開けたのだった。

●探しものは
「と、このようなしだいだ」
 グリモアベースに映る村の景色から、集まった猟兵たちの方へと。
 結晶・コハク(アンバーマグネティア・f06695)は向き直り、言葉を続けていく。
「村に起きた異変は、まだ警告に過ぎない」
 曰く、これより後にも異変は続くという。
「幾つかは最初のと変わらず、特段気にするほどでもないような事ばかりだ」
 犬が消えてしまったのは、許し難いがなと。付け加えて。
 口にするコハクの表情にさほどの変化はなかったが、徐々に強まっていく言葉尻が、そこに込めた思いを知らせる。
「それは村の田畑が猪に食い荒らされた時に起こる」
 やがて口にするのは、決定的な異変。
「心得のある村人が、猪を追い払った。それからというもの、その村人の家には不幸が続くようになる」
 もしそれが一つ二つだけだったなら、偶然で済んだかもしれない。
 しかし明確に、しかも立て続けに、偶然というには出来過ぎている、というほどに。
「最終的にその者は、火事によって家を失くす事になる」
 直接、死に至るわけではないだけマシなのかもしれない。しかしながら、この一人の末路が、村全体にも影響を及ぼす。
「新年早々に不気味な目にも遭っているのだから、考えるなという方が難しいだろう」
 まるで。予め村にかかっていた呪いが、動き出したかのように。
 緩やかに、あるいは確実に、村は滅びへとその歩を進めていく事になる。
「そうなる前に、皆で原因を探り出してほしい」
 猟兵たちを前にしたコハクの言葉は、裏返せば、この一件は原因すらわかっていないという事である。
 しかし、全く手掛かりがないわけではない、とも言う。
「村には言い伝えがある、らしい。そしてそれは、猪に関わるものだとも」
 今年の干支は猪。年越しとほぼ同時に異変が起きている事からも、無関係であるとは言い難いだろう。
「もし、偶然でないならば。このような異変はオブリビオンの仕業によるものと考えるのが自然だ」
 つまり、原因の究明の先には、オブリビオンとの戦いが待っているものと見て、間違いない。
「情報が曖昧なままで申し訳ないとは思っている。だが、今よりも悪化しないうちに。皆の力を貸して欲しい」
 その言葉を形にするように。コハクは猟兵たちへと手を差し伸ばした。


一兎
●はじめに
 こんにちは、もしくはこんばんは。一兎です。
 あけましておめでとうございます。
 謎めいたオープニングではありますが、内心ではお気楽にお送りします。
 以下に、当シナリオの概要を。

●概要
 主なところは、オープニングの通り。
 事件の調査を行っていただきます。
 オブリビオンの仕業である事は違いありません。
 最初の軸として、村の言い伝え。そして猪との関係、という所が焦点となるでしょうか。

 と堅い言葉を並べましたが、どうぞお気軽に参加ください。
 特別被害が、それこそ虐殺のような事が起こるわけではありませんので。
 かといって、失敗なんて事にはならないように気を付けてくだされば。

 以上、それでは。皆さまからのプレイング、お待ちしております。
 そういえば、村人の関西弁っぽい口調と、謎との因果関係はありません。
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第1章 冒険 『無気味な伝承』

POW   :    怪しそうなところや人物を力づくで調査

SPD   :    走り回り、ヒントがないか探す

WIZ   :    聞き込みや資料を調査する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ソフィア・テレンティア
【WIS 聞き込みや資料を調査する】
力づくや走り回って、というのはメイドとして美しくありませんね。
ここは村人の皆様の信頼を得て、直接お聞きする事にいたしましょう。
【礼儀作法】により礼儀正しく村の方々に接し、【料理】や【掃除】をお手伝いして
村人の皆様と打ち解けて言い伝えについて教えてもらいましょう。
ソフィアのメイドとしての技量、存分に活用いたします。


月藤・紫衣
失せ物と言い伝え、戌と亥、ですか。
なんとも謎めいていますね。
しかしながら、命はあったとはいえこのめでたい新年から火事とはあまりよろしくないことです。

【WIZ】
さて、まずは聞き込みでしょうか?
旅人を装おって村に入ろうと思います 。
出来ればどこか泊まれる宿があればいいのですが。
宿があれば、そこの方にでも地方の伝承、言い伝えを聞くのが趣味だと言って聞いてみましょう。
もし宿がなければお年寄りの家に片付けや力仕事などの手伝いを対価に泊まらせてもらえないか聞いてみましょう。泊まれるようなら世間話ついでに言い伝えのことでも聞けたらいいのですが。

(アレンジ歓迎です)


陸刀・秋水
これは…大分不気味な状況ですね。
しかし手がかりになる情報がありますし、そちらを探ってみましょうか。

お年寄り相手に地道に聞き込みをしていきましょう。
不気味な目に遭っている方達ですからね、不安を掻き立てぬように穏やかに話す事を心掛けます。
まずは何方かに声をかけ、言い伝えについて何かご存知ではないか尋ねてみます。
また、他に知っていそうな方はいないか、詳しい方はいないかも聞き、心当たりの方がいれば次はそちらへ。
こうして辿るように繰り返して行けば、ある程度の情報は集まるのではないでしょうか。
聞いた情報は全て手元のメモに書き込んでおきますので、全容を知る方がおらずとも、ある程度推理する事も可能ではと。



●不幸を呼ぶのは
 猟兵たちが村に訪れた時には既に、村に騒ぎの気配はなく、穏やかな時間が流れているといった印象を与える頃であった。
 異変の内容としても、急を要するものではないため。それでも良かったのだともとれる。
「やはり、こうした村ですと。いきなりは口が堅いですね」
 もしくは、異変が起きた事で口を閉ざしているのかもしれないと。そんな推測も加えて、陸刀・秋水(スペースノイドの陰陽師・f03122)は居合わせた猟兵へと。手にしたメモを広げた。
「そうですね。……私見ですけども。皆、イノシシという名前を口に出すと、気配を変えるような、そんな気がします」
 まだ情報の少ないメモを覗き込みながら、居合わせた猟兵。月藤・紫衣(羅刹の旅人・f03940)は、自らの感じた印象を付け足すように。
 場違いに長身な二人が、一つのメモを眺める様子は、なかなかに様になる姿であった。
 そうして、互いが知りえた事を交換する内に、少なくともまとまった意見はこうだった。
 一つは、やはりイノシシが言い伝えに関わりがあるだろうこと。
 そして言い伝えの事を切り出した時の村人の様子は、総じて後ろめたさを持った様子であったこと。
「後ろめたさ、というのが気になりますね……。仮に原因がイノシシであったなら、むしろ怒りの感情を持つのが自然だと思うのですけども」
「……そういえば、あのミレナリィドールの方はどこに?」
 思案に耽る内に、秋水はふと、何か気づいたように周囲を見回す。
 それは、もう一人。手分けして聞き込みを行おうと決めた三人の猟兵のうちの一人の姿が見えない事に気づいての事だった。
 それほどに大きい村ではないため、見つけられないという事もないはずなのだが。
「ああ、彼女なら。あそこにいるはずですよ」
 そうやって紫衣が指さしたのは、村の外れに位置する一軒の家屋。
 すると丁度。その戸が開いたと思えば、妊婦が一人、メイドに連れられて中から出てくるところであった。
「ご無理はなさらないでください」
 そんな風に、妊婦の歩く支えとなっていたソフィア・テレンティア(ミレナリィドールのシンフォニア・f02643)は、自身らを見ている二人の猟兵の姿に気づき、色の異なる双眸を細める。
 手を離す事などできないとばかりに。
 当然、二人がそれを止めろと言う事はなく。
「……つまり、今回の異変を理由に、ご主人が家を離れているのですね」
 自然、二人もそこに加わり、四人でゆっくりと村を移動する事となっていた。
 目指す先は、村の集会所、であるらしい。そこに彼女の夫がいるのだという。
「集会所という事は理由は一つでしょう。家で待っていればよかったのではないのですか?」
 歩きながら、秋水は聞き込みに近い質問と応答を繰り返していた。
 少なくとも、身重の身体に鞭を打ってまで家を出てくる理由にはならないはずだと。
 集会所に人が集まっている事は、既に聞き込みをかけた中でも、知り得ていた事であった。
 どうやらそこで、今回の異変の事について話し合いが行われているとも。
「生憎、旅人の私たちでは、入らせてもらえませんでしたけども」
 旅人と、強調して、紫衣が言葉を引き継ぐ。
 すると。
「こちらの方は、ご主人の事がとても心配だった、そうです」
 妊婦の歩みを支えるソフィアが、まるで本人の代わりにと。言葉を発する。
「というと?」
「先日に起きた異変から、ご主人の身にも不幸が降りかかるのではないかと、心配していたそうです」
 促されるままにソフィアが語りだしたのは、村の言い伝えに関わる。異変の正体について。
「元々、この村の近くの山には野生の猪がいました」
 もしくは、猪がいた山の近くに村が出来たのかもしれない。
 野生の猪の危険性は、誰しもが知るところであり。最初は不干渉を貫いていたという。
 しかしある時、田畑が荒らされるようになった。当然、村は猪のせいだと怒り、捕獲しようとしたという。
「ですけれども実は、田畑を荒らしていたのは村の外の人によるものでした」
 その時に、犯人を暴いたのが、イノシシだったという。
「という事は、イノシシは村を守ってくれていたという事ですね」
 言葉尻を拾って。紫衣の言葉が正解であるとばかりに、ソフィアは首を縦に振った。
「ですけど。この方のご主人は、その言い伝えの事を知らずに……」
 昨年のある日、一頭のイノシシを狩ってきたのだという。
 他所から婿養子として入ってきた彼女の夫は、この言い伝えの事を。狩った後に聞かされたという。
 今、集会所にいるのはおそらく、異変が起きた事によって、祟りを招いた存在であるからだと。
「無知は罪、というところでしょうか」
 一通りの話を聞き終え記録していた秋水は、そんな呟きと共にメモへと視線を下ろした。
 ソフィアがこれだけの事を彼女から聞けたのは、メイドとしての本懐だろう。
 逆に考えれば、この妊婦がそれだけの不安を感じていたからに他ならないからだ。
 だが問題は、その行く末である。
「ただのイノシシが、人を犯人として突き出せるはずはないですからね」
 もしも彼女の言う言い伝えが本当であるのなら、そのイノシシというのが力ある存在であると考えるのが自然である。
 それこそ、オブリビオンのような。
 かつて守り神のような事をしていた存在が、怒りによって不幸を呼ぶモノへと転じたという事だろう。
「私たちなら、異変を原因から消す事ができる」
 仮にそれが人の身から出た錆だったとしても。
 四人は足を止めた。
 ソフィアが挙げた視線の先には、村の集会所の扉があった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

平賀・美汐
ワンちゃん、じゃなかった犬にまつわるものがなくなるの?
これだけじゃ、よくわからないわね。
村を走り回って、犬の置物が置かれてたところや飼われてた犬がいたってところをちょっと調べてみようかしら。
なにか落とし物とか、足跡とか、そんなヒントになりそうなのがあるといいんだけど・・・。
でもなんだって犬がなくなるの? 番犬を嫌った? うーん、わかんない。
ワンちゃん、あんなに可愛いのに。


フィン・クランケット
【SPD】
うーん、謎めいた事件ですが…人が困ってるのを見捨ててはおけませんっ!
今回ばかりは私、商人じゃなくて探偵になっちゃいますよぉっ。

調べ物系はどなたかが請け負ってくれそうな気がするので、私は現場検証や、実際に村で出没している猪について調べましょう。
畑を荒らすのは、普通の猪っぽいですが、オブリビオンとはどういう繋がりなんでしょうねー?
本当に作物を食べたりしてるんでしょうか?
走り回りつつ、失せ物が隠されてる場所がないか、失せ物の手がかりが落ちていたりしないかもよーく見ますよっ。
調べた情報は他の猟兵さんたちにも共有しましょうねぇ。

わんちゃん、元気でいてくれるといいのですけれどぉ…。心配ですねぇ。



●失せ物は
「おーい、ワーンちゃーん! いるー?」
 村の外れ。山との境に近い場所で、少女の叫びがこだまする。
「やっぱ、いないかぁ……」
 髪をお団子に結んだ頭をぐったりとさせて、平賀・美汐(幼い探索者・f06401)は、額の汗を拭う。
 疲労の汗だった。
「やっぱ、わっかんないなぁ。なんで、ワンちゃんがいなくなっちゃうんだろう」
 疲労の色に濡れていながらも、美汐の声色にはまだ芯が残っている。
 元々、ずっと長い間、彼女は探しモノを続けていた。だからこのくらいなら、どうって事ないはずなのだ。
 なのだが、この時ばかりは手応えのなさに、ついと声の張りを失ってしまっていたように思える。
「おやぁ? あなたも現場検証ですかぁ?」
 そんな美汐の意識を張りなおしたのは、弦のゆるんだ弓のような、気の抜けたエルフの声がした事によってだった。
「何よアンタ」
 張りなおしたついでに、無意識に突っ張った言葉が飛び出す。
「私はフィン・クランケットと言います。どうぞお見知りおきをぉ」
 そんな無意識の言葉の棘も暖簾に腕押しとばかりに、マイペースにフィン・クランケット(蜜柑エルフ・f00295)は言葉を続けていく。
「ちょっと遅くなっちゃいましたけど。私も猟兵として、この事件に……あれぇ? どうしましたー?」
「……何でもないわ」
 美汐の身体に、どっと押し寄せるような疲労感が襲い来る。半分は目の前の存在のせいかもしれない。
 しかしながら、それまでの疲れも本物ではあった。何せ村中の犬に関わるものが消えた場所を聞いて、見て回り。果てはこうして犬の姿を探し回るにまで至っていたのだから。
「お疲れでしたらー。んーっとぉ……はい、飴ちゃんですよぉ」
 そんな姿にまさか呆れられているとは夢にも思わない様子で、フィンはポシェットから取り出した飴玉を、美汐へと差し出す。
「今回は特別に、タダで差し上げちゃいます」
「いいわよ別に。金取るってなら、取りなさいよ!」
「いえいえー。今の私は商人じゃなくてぇ。探偵なのでぇ」
 探偵なら余計に人に飴を配るものではないと、次のツッコミを美汐は呑み込んだ。きっとキリがないと思ったのだ。
「……とにかく、私もワンちゃん探しで大変なの。同じトコ探してても意味ないでしょ? あっち行ったら?」
 なので、そんな風に誘導をしたつもりだった。のだが、フィンは動く様子もなく、マイペースに首を捻ってみせる。
「逆かもしれませんよー。ワンちゃんを消すのが目的じゃなくて。困らせれるなら何でもよかったとかぁ?」
「はぁ?」
 あからさまに呆れたとばかりに声を挙げたのだが、やはりこのエルフには通用しないらしい。
 美汐の心中にお構いなしとばかりに、そのままフィンの推理は続く。
「ほらぁ。何で売れないかって考えるよりー。どうしたら売れるかって考える方が早かったりするので、そんな事じゃないかなぁって。……あ、今の私、探偵でしたねー?」
 上手いのかどうかも曖昧な微妙な例えを引き合いに出して、しまいには自分の立場すらあやふやになってしまっている。
 そんなフィンの様子に、言葉を返す気力すら失くして、美汐は深いため息と共に腰を下ろした。
「ため息すると幸せが逃げちゃいますよー?」
 増々、美汐のため息は深くなった。
 フィンが現れてからというのも、そんな気の抜けた空気が漂い始めていた折。
 不意に。二人の傍の草むらが、がさと音を立てる。
「ねぇ、今の」
「なんですかぁ?」
「っっいいから、こっち来なさいよ!」
 草音を立てた主は、とっくにいなくなっていた。元より、美汐も追いかけるつもりはない。
 ただ、間違いなくそこにいたという事は。
「小さな。かわいい足跡ですねー。イノシシさんのでしょうか?」
 美汐の思惑通り。そして、フィンの言った通り。そこには小さな足跡が残っていた。
 これは、あとで二人が調べてわかった事だが、これもイノシシの足跡と同じものであるらしかった。
「とにかくこれを辿るわよ。危なくなったら、村に戻って、応援を呼べばいいわ。ここに来てるのは私達だけじゃないはずだし」
 ともあれ、ようやく掴んだ手掛かりを不意にするわけにもいかないと。美汐の身体は、徐々に力を取り戻していくようで。
「それじゃあ、目印を置いていきましょうかぁ。んーっとぉ。……さっきの飴ちゃんって、残ってますかぁ?」
「そこらへんの石ころでも積んどきなさいよ!」
 またも、山へと美汐の叫びがこだました。
 それからしばらくの間。
 村には何度か、少女のこだまが届いたという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『さまよう敵』

POW   :    足を使ってひたすら歩き回って対象を見つける。

SPD   :    人相書き等を作って聞き込みを効率化する。

WIZ   :    目撃情報をマッピングしルートに法則性が無いかチェック。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

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●イノシシらしき影
「で、出よったぁ!」
 その報せが、村に降りてきたのは、ちょうど猟兵たちが調査に区切りをつけ。まるで示し合わせていたかのように、一所に集まり始めていた時の事だった。
「なんや、お前には山の番頼んだやろ」
 その場所とは集会場。一度は旅人の入場を拒んだ、村の中心施設である。
「そうや、それでなんやって!」
 山の番をしていたという男と村人の代表らしき二人が、部外者がいるにも関わらずに話を始めたのは、もはや部外者は部外者でなく、この一連の事件に関わろうとする者になり変わり始めていたから、だろうか。
「イノシシが出よったんや! それも、とびきりめんこい!」
 だからこそ、報告の内容には、耳を疑う言葉があった。
 めんこい。主に、可愛いという意味の他に、小さい、という意味もある言葉である。
「そりゃおめぇ、うり坊じゃねぇのか? いくらイノシシに敏感や言うても、んなもんで慌てる事やないわ」
「いや、そんなんちゃうんねんて!」
 しかし、反論する男の言葉は、野次にも近い村人の圧力に掻き消えていく。
 やがて、騒音に満ちていく、その中にいて、猟兵たちは考えていた。
 山を調べていた猟兵からもたらされた、小さな足跡の事と無関係ではないだろうと。
 同時に、その目撃されるイノシシの正体がオブリビオンであった場合。対峙した時に対処できるのは、猟兵である自分たちだけだろうとも。
 どうあれ、前進を見せないこの場にいるよりも。最低限、足を使って探しに行く方が、何倍も賢明である。
 猟兵たちの足は自然、集会場の外へと向かっていった。
ルベル・ノウフィル
アレンジ・アドリブ・連携歓迎
SPD

ほう、犬でございますか……(興味津々のわんこ)

人狼咆哮でワンコたちに呼びかけましょう
ワンコたちよ、僕の声が聞こえたら遠吠えを返すのです

返ってこなかったら真っ赤になって地面にのの字を書きます

あっ、よいことを思い付きましたよ
僕が全身狼にへんしんして囮に
えっ、狼は犬じゃない? そんな

……まあ、
聞き込みをしましょうか
僕は追跡、コミュ力、礼儀作法がございますゆえ
技能を活かし
たまにラクガキをしつつ……
わあ、見てください。上手に描けましたように思います

わんわんの絵をいっぱい描きました
なかなか可愛らしく和む気がいたします
この絵はプレゼントいたしましょう
えっ、いらないですか?


ソフィア・テレンティア
【WIS 目撃情報をマッピングしルートに法則性が無いかチェック。】
集会所で街の皆様に聞いたイノシシの目撃情報と【ガジェット】を浮遊させ空から撮影したこの村周辺のマップを照合。
イノシシの移動ルートの法則性を調べましょう。ついでに何か特異な見た目の建造物などがないかも空から調査することにいたします。


月藤・紫衣
めんこい、小さいやかわいいの意味ですが、他の猟兵の方の話からすると、小さいが正解なのでしょうね。
しかし、村人がうり坊ではないと言っていらっしゃいましたし、彼らがうり坊とイノシシの違いを見分けられないとも思えません。
不自然なほどに見た目がとても小さなイノシシですか…自然ではあり得ないことですね。やはりオブリビオンなのでしょう。

【情報収集】【第六感】
さて、まずは山番をされていた方のいらした山の方へ行きましょうか。もしかしたらこちらに向かって降りてきているかもしれませんし、移動しているのなら真新しい足跡など、どれだけ小さくても痕跡がありそうなのでそれを探します。
見付けられればいいのですが…。



●無い、からこそ
 わぉーん!
 尾を引くような狼の遠吠えが、野山にこだまする。
「多くの鳥が飛び立ちました。恐らく、留まっていた木が遠吠えの振動によって震えたためだと思われます」
 その遠吠えによって山に生じたであろう変化を、ソフィア・テレンティア(ミレナリィドールのシンフォニア・f02643)が、事細かに報告していく。
 ソフィアの両目を覆うように装着されたガジェットには、どのような光景が見えているのか。遠吠えの主であるルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は、内心で期待していた。
(ふふん。私にしてはなかなかに堂に入った。会心の遠吠えでございましたよ!)
 加えて言えば、ドヤ顔がにじみ出てきてすらいた。
 彼の思惑通りになるとすれば、遠吠えを行えば、いなくなったという犬が反応を返してくれるのではないか、と思っていたからだ。
 だが、しかし。
「犬の反応、および返答はありません」
 無情にも、ルベルの期待は打ち砕かれる。
「……何をされているのでしょうか?」
 やがて観測を終え、頭部のガジェットを取り外したソフィアの異色の双眸に映ったのは、地面に伏せこむようにして、のの字を描く。一匹のわんこ。いや、人狼の姿。
「いーえ、何でもございませんよ? ただちょっと、会心の遠吠えに効果がなかったとか。もしかしたら私はわんことすら認識されていなかったのではないでしょうかとか。露ほども思っておりませんよ」
 何でもないというには無理がある姿を晒して、ルベルの描くのの字は、彫を深めていく。
「やはり、小さく細かいものですが、足跡が見つかりますね。どれも新しめのものでした。……何をしているのですか?」
 そこに、山へと調査に向かっていた月藤・紫衣(羅刹の旅人・f03940)が茂みを抜け、居合わせる。
 彼もまた、ルベルがのの字を描く様子に困惑したように、自然と疑問を口にしていて。
「いじけているようでございます」
 なぜか返答するのは、傍にいたソフィアであった。
「……ひとまず、それぞれの成果を確かめてみましょうか」
 一端場を取り成すような、紫衣の提案がなければ、その妙な空気は今しばらくの間、続いていたかもしれない。
「なるほど……。しかし、気になりますね」
「そうでございましょう! いっそ、私が狼となって囮に」
「いえ、そちらではなく」
 話すうち、今度は興奮状態となるルベルをなだめるように、紫衣は言葉を続けていく。
「全く反応がなかった、というのは不思議ですね」
 紫衣が気になると指摘するのは、遠吠えによる、山の反応の事である。
 普通に考えるなら、自然に生きる動物が、種は違うとはいえ、生物的に近い狼の遠吠えを聞いて、何の反応を起こさないというのは、おかしいのではないかと。
「もちろん。狼の遠吠えに怯えてしまっていただけ、かもしれません」
 ただ、犬や狼といった動物は、遠吠えを用いてコミュニケーションができるという。つまり、善意も悪意も載せられるはずであり。ルベルの遠吠えには間違っても、悪意が込められているはずがなく。
「そうすると。反応がない事にも理由がある、という事でしょうか」
 返すルベルの言葉に、紫衣は頷いた。
「理由は、今のところ想像するしかできませんが……」
 次いで口にしようとした言葉を途中で呑み込んだのは、一番簡単な可能性が、あまり想像したくない事だったから、だろうか。
 二人の間に、わずかな沈黙が降りる。同時に、静かに、しかし真っすぐと、ソフィアが手を挙げていた。
「ご意見を、よろしいでしょうか」
 尋ねる彼女の反対の手には、山を中心とした、この一帯を記す地図が一枚、握られていて。
 どうぞと、それを見る二人は口を揃えて、続きを促す。
「先ほど、月藤様からいただいた足跡の情報に、追加を。ルベル様の遠吠えに対する反応が少なかった地点を、重ねました」
 地図上のマーキングを一つ一つ。解説しながら、ソフィアは自らも意見も重ね合わせていくように。
「この点の周辺は犬だけではなく、動物そのものの動きが極端に少なかった箇所になります。……これは、私の仮説。想像でございますが……」
 曰く。反応がないのは、作為的に黙らせられているからではないか、という事。 
 黙らせる方法はそれこそ、紫衣が先ほど口を噤んだような最悪の可能性もある。しかしソフィアが挙げた可能性は、それ以外。
「件のイノシシの逸話が事実なのであれば、この地において、イノシシは上位の位を戴いているのではないでしょうか、と。推定いたします」
 その発想は、自らが仕える者である事からくるもの。
 従う者であれば、必要な時以外、口を噤むものである、といったものだ。
「ですと。ワンコたちは、目上の指示に従っているだけ。という事でしょうか?」
 正直に、あまり賢い推測であるとは言い難い。同じ動物という括りとはいえ、種は全く違うのだから。
 ルベルが疑問に首を傾げるのも、正しい反応だろう。
「確かに。自発的にいなくなったり、黙っているのだとすれば、いくつかの疑問の答えをこじつける事もできますね」
 その傍で紫衣もまた、同意するわけでもなく、しかし吟味するように呟きながら、マーキングされた地図に目を落とす。
 仮説はどうあれ、そこから読み取れる事実だけは間違いない事であるのだから。
「ではでは、山のその不自然に静かな所を探し回れば良いのでございますね!」
 紫衣と同じ結論に至るルベルの声は、気合に弾んでいた。
「そうなるでしょう。ただし、探すとすれば、小さな足跡の正体から、が適格かと」
「はて、なぜでございましょう?」
「反応をなくしている、という事は隠れている、という事です。だったら、恐らくは遣いとして動いている小さな足跡の正体を見つけ、追いかける方が手早いだろう、という事ですよ」
 相も変わらず疑問を浮かべるルベルの様子に、二人が順番に説明していく。
 こうして、三人が改めて地図を見ても、範囲はそれほど大きくはない。
 おそらく、軽く人手があれば、十分に捜索しきれるだろう。
「はやる気持ちはわかりますが、ひとまずは他の猟兵たちにも、これを伝えるとしましょう。もし当たりを引けていたなら、人手があった方が良いですから」
 だからこそ慎重にと。紫衣の提案に二人も頷き返して。
 三人の猟兵たちは、一時、村へと向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

クリスティーナ・ツァルリーノ
小さな足跡をたどればいいんですわね。
それなら私にお任せですわ!
UC【召喚!ブラック☆うさぴょん!】でお友達のもこふわ黒兎を召喚して小さな足跡を追います。
何か見つかったらそっちの方へ私もダッシュですわ!
迷っていても事態は進まない。つまりは前進あるのみですの!



●小さな手掛かりの先
 緩やかな傾斜を昇り進む。
 木々の隙間から差すような木漏れ日を頼りに山中を進む少女の足元を、小さな影が跳ね回る。
「あらあら、こちらにもあるのですのね! ウサちゃんお手柄ですわ!」
 クリスティーナ・ツァルリーノ(ダンピールのマジックナイト・f02905)は小さな影を拾うように屈むと、その豊かな胸にむぎゅぅと抱きしめて、愛情と感謝を捧げた。
 一人の一匹の足元には、てんてんとした小さな足跡のようなものが残っていて。
「奥へ、奥へと続いていく足跡。それを追いかける私……。まるで御伽噺のよう……」
 見つけたその足跡が示す方向を、屈んで確かめながら。クリスティーナの呟きが、山の木々の揺れる騒めきの中に消えていく。
「あら? これは、どちらを向いているのかしら……?」
 そんな呟きの次に漏れ出たのは、少し間の抜けた、そんな声。
 というのも、追跡の目印である足跡は確かにあるのだが、その方向が一定でなかったのだ。
「普通に考えれば、同じ向きに進んでるはずですわよね?」
 前進あるのみ。そんな気概で足跡を追ってきたクリスティーナだったが、厳密に真っすぐと進み続けてきたわけではない。
 ユーベルコードによって召喚した使い魔である黒兎の五感をアテに、時に曲がり、時にくねり、ここまで来たのである。
「いざとなれば、他の猟兵の方たちを呼ぶのも手、ですけれども」
 かといって、ただ行く先に詰まった、というだけで呼ぶのも悩ましく。
「……あら?」
 そんな思考の隙間は、抱えた黒兎と自らの目と、両方の視覚に映る小さな影で埋められた。
「あ、お待ちになって!」
 先ほどまでの御伽噺気分が抜けきらないのか、そんな言葉が突いて出て。一人と一匹に対して背を向けた影を、少女は慌てて追いかける。
(小さな足跡に相応しい、小さな姿。アレが噂の正体ですわね!)
 口は呼吸を掴むため。思考の中で答えを出しながらも、クリスティーナの手から飛び出した黒兎は、そのもこふわな外見に似合わず、彼女を凌ぐ速度で駆けだしていく。
「まさに千載一遇。この機会、逃がしませんわ!」
 低い視線と、高い視線。重なる視覚に見えるのは、茶褐色の淡い毛並みに、こげ茶色をした濃いめの縞模様。
 それは、イノシシの子ども。一般にウリ坊と呼ばれる時期、に近い姿をしていた。もしくは、そのものかもしれない。
 しかし。
(それにしては、小さいですわ……)
 クリスティーナの目に見えるそれは、微妙に小さい気がする。もちろん、ウリ坊の平均の大きさなど詳しくはないが、感覚がそう訴えるもので。
「ひぁっ!?」
 瞬間、クリスティーナの高い方の視線に、木の枝が飛び込んできた。これは咄嗟に姿勢を低くする事で避けたのだが。
「一体、どこまで!」
 気づけば、クリスティーナが進む道は、まるで木々の枝葉が、行く先を遮っているような険しいものへと変貌していた。
 このような道なき道の先に隠れているのなら、簡単に見つかるはずもないと、よくわかるほどに。
 その一方で、感覚を共有する黒兎がその先の、空間の開けた場所へと至った事も知覚していて。
「……そこにいるのですわね」
 同時に、黒兎の視覚には。追いかけていたウリ坊が、少女のような姿の者に抱き上げられている様子も映っていた。
 こんな場所にいて、普通の存在ではない事は直観的にわかる。とすれば恐らくは、事件に関わるオブリビオンに違いないと。
 この時クリスティーナは、背後から幾つかの気配が近づいてくるのも感じていた。彼女の騒ぎ声に気づき、集まってきた猟兵たちの気配である。
「この際、洗いざらい話していただきましょう」
 恐らく、すぐさま戦いとなる可能性はないだろう。クリスティーナが感じた気配には、それほどに警戒した色がなかったからだ。
 何より失せ物の在処など、気になる事はいくらでもある。
 素直に答えるとも限らないが、そのような時間はあるはずだと。 
 クリスティーナの言葉はこうした猟兵たちの意を汲んだものかどうか。まるで先導するかのように木々を掻き分け、先へと進んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

湊・賽子
何かあれば直ぐに対応できるようにローラーシューズを準備して、クリスティーナの声がする方へ一瞬の躊躇の後に勢いよく木々の中に突入!
その先にいたウリ坊を抱えた少女に迷子の女の子に対応するかのように優しく話しかける。



●言い伝えの在り方
(こんな事をするオブリビオンって、どんなのだろう?)
 ローラーシューズで野山を駆けながら、湊・賽子(人間のスカイダンサー・f05347)は漠然と、そんな事を考えていた。
 いや、他の猟兵にしても同じ疑問を抱くものはいただろう。
 賽子の抱く興味もそれらの例に違わず。
 強いて言うならば、それがより素直な興味であった事だろうか。
 善意や悪意よりも直観、そんな生き方をし続けてきた賽子にとって。一時の興味は、生死や猟兵としての使命よりも勝るもので。
『この機会、逃がしませんわ!』
 賽子がそんな風に考えていた瞬間である。耳に入った猟兵の声の方へ自然と、彼女の手足は動きだしていた。
 枝葉に阻まれた向こうに、かすかに、ウリ坊を抱えた少女の姿を捉え。一瞬、躊躇うように立ち止まった。かと思うと。
「とぅ☆彡」
 勢い良く。木の上から飛び降りた。
「うわぁ、なんだお前!?」
 ズシャァァと巧みな不時着をキメた賽子の出現に、ウリ坊を抱えていた少女……オブリビオンは、その手のウリ坊を庇う仕草とともに戸惑いの声をあげる。
「あ、ども、初めまして♪ アタシは湊・賽子。Youのお名前ハー?」
 そんなオブリビオンの戸惑いの声も我関せずとばかりな、賽子のマイペースな振る舞い。
 それに毒気を抜かれたのか。あるいは、理解が追いつかなかったのか。
 オブリビオンは、その警戒を一時解いたように。口を開き始める。
「ワタシに名はないぞ。みんな、猪子槌って呼ぶ」
 もしかすれば、名乗られたから名乗り返した、その程度の事だったのかもしれない。
 しかし、一度成立した言葉のキャッチボールを逃そうとする賽子ではなく。
「じゃーぁ、イノちゃんはー……」
 立て続けに質問を浴びせていった。
 最近何してるのと尋ねれば、村のヤツらを懲らしめてると言い。
 どうして村を懲らしめているのかと問えば、村の奴らが恩を仇で返したからだと言う。
 なぜ犬を消したのかと聞けば、イノシシを敬う事を忘れて犬をチヤホヤしていたからだと答え。
 消した犬はどうしたのかと見れば、ウリ坊たちの遊び相手になっていた。
「そっかー。イノちゃんは干支って知ってる?」
「なんだそれは」
 最後の即答に、またもそっかーと、賽子はふんふんと頷いて。
「別に、みんなもイノちゃんの事、忘れてたわけじゃないと思うけどなぁー☆」
 一応のつもりで。そう口にしてみたのだが。
「いいや、村のヤツらはこらしめるぞ。もう決めた!」
 猪子槌は聞く耳を持たないとばかりに言い切り。その手にはいつの間にか、巨大な小槌が握られていた。
 やはり、これもオブリビオンなんだなと、変貌していく猪子槌の気配を前に、賽子はどこか他人事のように考えていた。
(言い伝えも、過去といえば、過去だもんね。襲ってくるものなんだなぁ……)
 感心するように一人、またも頷いて。
 その耳が捉えた音は、サイコロのハーフピアスを揺らす。
「オマエたちも邪魔するなら、まとめて懲らしめるぞ!」
 話す合間に猪子槌も気づいていたのだろう。山の木々を越え、集まり始めた猟兵たちに向け、そう言い放つ猪子槌の背後では、先ほどまで犬と戯れていたウリ坊たちが、彼女に従い臨戦態勢とばかりに鼻息を荒げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『妖怪・猪子槌』

POW   :    どっかーん!
単純で重い【不思議な木槌】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    不幸になーれ!
【不思議な木槌を振ること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【不運なこと】で攻撃する。
WIZ   :    とっつげきー!
自身の身長の2倍の【うり坊】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は御狐・稲見之守です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ソフィア・テレンティア
少女のオブリビオンはともかくうり坊を倒すのは心苦しいのですが……。
ですが、村の方々を襲うというのならば倒さねばなりませんね。
少女がうり坊に騎乗する瞬間をUC【魔導式収束光照射機構・紫眼】による収束光線で狙い撃ち、騎乗を妨害いたします。
そしてダメージで動きの停止した隙に、少女とうり坊の両者に【蒸気駆動式機関銃・冥土式】による弾幕の嵐を御馳走して差し上げましょう。


ハリエット・ミリオンズ
そう。
あまり悪い子には見えなかったけれど、結局オブリビオンというわけ。

敵意を向けてくれるなら話が早くて助かるわ。
私達は猟兵、オブリビオンと戦って狩るのがお仕事なの。
だから消滅させましょう。

【SPD】
鞄から取り出した【海】を形態変化させてレンジに合わせて戦うわ。
遠距離ならば砲のような形状に、近距離ならば白い剣状のモノで切り裂く感じね。

敵は近距離武器持ちみたいね。
【レプリカクラフト】で敵と相手の間に獣を捕えるための【仕掛け罠】や落とし穴を作ったら【ワイヤー】や形を変えさせた【海】で敵の動きを牽制しながら基本は遠距離戦闘ね。

感傷は要らないわ、手早く片付けるだけよ。



●ヒトのような姿で
 巨大な小槌が大地を割り、揺さぶる。
 先に攻撃を仕掛けたのは猪子槌だった。
「すばしっこいぞ! じっとしてろ!」
 地形を変えるほどの大振りの一撃を黙って見ている猟兵たちでなく。
 猪子槌によって下ろされた戦いの火蓋に、それぞれが飛び散ったその先で臨戦態勢を整えていく。
「不思議ね。一見すると、悪い子には見えなかったのに」
 小槌によって隆起した大地越しに、猪子槌の姿を見ながら。
 ハリエット・ミリオンズ(ソラリス・f05758)はそう、口にしていた。
「ですが、既に被害は確定しております。また、いずれ、村の存続に関わる事態に至るとも」
 そのハリエットの言葉が耳に入ったのか。
 ソフィア・テレンティア(ミレナリィドールのシンフォニア・f02643)は、飛び退いた着地の片膝をついた姿勢から立ち上がり、答えてみせる
「そう。オブリビオンだものね」
 戦意に翻るメイド服の後ろ姿に、どこか考え込むように呟きを漏らして。
「まずはお前達から、懲らしめる! 来い、ウリ坊!」
 そうしている間にも、猪子槌は次の一手とばかりに、口笛を鳴らす。その狙いはたまたま目に入った、ソフィアとハリエットの二人。
 口笛が鳴りやんだ瞬間、ぼふんと吹き出す煙とともに、一匹のウリ坊が巨大化した。
 いや、成長したイノシシよりも大きなソレをウリ坊と表現するには厳密には違うのかもしれない。
 もっとも、そのような事を気にする者は、この場にはいなかっただろうが。
「させません!」
 騎乗攻撃の気配を感じ取ったソフィアの動きは素早かった。
 猪子槌とウリ坊、両者の間に狙いをつけるように、視線を向ける。この視線こそがソフィアの武器である。
 彼女の、紫色をした右目に宿る光が一瞬の内に収束、光を喪ったかと思うと同時に放たれる一条の光線が、猪子槌の足を焼き打つ。
「っ!!?」
 痛みに顔を歪め、巨大なウリ坊の上に跨るその姿は、騎乗というより、ただ降りただけ、と表す方が適切なものだった。
 ただ、主の搭乗を認めたウリ坊は、その指示を待たずに駆けだしていた。
 その狙いを、鼻の向く先にいたハリエットに向けて。
「そういえば、イノシシは鼻が良いって読んだ事があるのだけれど」
 一方のハリエットと言えば、焦る様子もなく。かといって、避ける様子もなく。独り言のような呟きを、相対する存在に向けて。
「ピッ……!!?」
 巨大になろうとその声質を変えないウリ坊は、微かに悲鳴を挙げるや。半身を大地に埋めていく。
 原因は、ハリエットがユーベルコードによって仕込んだ落とし穴だった。
「あら、匂いじゃわからなかったかしら」
「この、バカにするな!」
 これではダメだと、沈むウリ坊の上から猪子槌は飛び出し。宙空で小槌を振りかぶる。
「十字剣……不幸を払う形ね」
 バカにしたつもりはないのだけれど。と弁解の言葉よりも先に、ついと手にした武器の変化した形を見て呟き。ハリエットはそのまま十字剣と化した『海』で、小槌による一撃を受ける。
 受けきらず、流す。
 それは、決して力に長けているわけではない彼女の、おそらく最良の防御手段であっただろう。であると同時に。
「侮辱するつもりはございません……が、アナタのやり方を、私は支持いたしません」
 攻撃に転じる一手でもあった。
 まるでハリエットが言い損ねた言葉を補うように言葉を紡ぐソフィアの手には、その身にするメイド服とは不釣り合いの、それでいて調和をもった色合いの、身の丈ほどの機関銃が握られていて。
「人みたいなカッコで、人の臭いがしない、ヘンテコのクセに!」
「はい、ソフィアは人形です」
「……ふふ、そうね。ヘンテコだわ」
 吠える猪子槌に対して、ソフィアは淡々と引き金を引き。ハリエットはどこか気づかされたように、『海』を握り直す。
 蒸気駆動の騒音と共に撒き散らされる弾丸の雨に、猪子槌は崩れかけた態勢から無理やりに小槌を振るい、その身に受ける被害を減らしていく。
 当然、完全に防ぎきれるわけもなく。幾つもの弾丸が、着実にダメージへと変わっていった。そこに。
「けどそれは、あなたもじゃないかしら?」
 ハリエットは狙いをつけた。今度は銃器へと姿を変えた『海』の先を猪子槌に向け、問いかけるのは小さな違和感に対する自問。
(悪い子には見えなかった。と思ったのも、もしかしたら人と同じ姿だったから、かしら)
 そして自答。心の中の呟きは誰にも聞かせる事なく。自らもまた引き金を引く。
(感傷はいらない。……けれど)
 もし、感傷を抱けたなら。そちらの方が人間らしかったのかもしれない。
 思考するハリエットの『海』から放たれた仮想の弾丸は、猪子槌に当たる、寸前。その身を庇うように飛び出した一匹のウリ坊の身に突き刺さった。
 巨大化していた身がみるみる内に縮んでいく。
「お前っ!?」
「……っ!」
 その一瞬。悲痛に叫ぶ猪子槌の向こうで、僅かにソフィアの手が震えるのを、ハリエットは偶然目にしていて。
(人でない事を認めるこの子たちの方が、よっぽど人らしいわ)
 その身に猪子槌の怒りを感じ取りながら、自嘲を込めた苦笑を浮かべていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリスティーナ・ツァルリーノ
相手が●どっかーん!と力押しで来るなら、私も【勇気】をもって真正面から迎え撃ちますわ!
猪子槌さんの攻撃は強力な分大ぶりな様子、それなら私もタイミングを合わせて【トリニティ・エンハンス】で強化された攻撃力にて、炎の魔力を纏った【魔剣・ブラックラビットソード】の【属性攻撃】で真正面から迎え撃ちますわ!
こんな森の中でそんな地形に影響を与える攻撃をしたら、森に住む動物さんたちが怯えてしまいますの!ですのでここはあえて受け止めて差し上げます!
大丈夫、私ならきっと受け止められる!ファイトですわ私!



●本当に失くしたモノ
「よくもやったな! オマエたちも、許さないぞ!」
 怒りの叫びとともに猪子槌は、高く跳び上がる。
 仕掛けようとしているのはおそらく、初めに猟兵たちへとぶつけようとした、小槌による一撃だろう。
 単純な、武器の重みによる一撃。ゆえに破壊力は凄まじく、脅威となる。
 ただし反面、その動きは構え、振り下ろすのみと、単純なものになる。
 それ自体を見切る事は、容易な事だった。
 そして、容易であるからこそ。
「炎よ。我が魔剣を纏い、力を貸し与えたまえ……ですわ」
 クリスティーナ・ツァルリーノ(ダンピールのマジックナイト・f02905)のとった行動は、意外性を伴うものであった。
 自ら小槌の振り下ろされる地点へと身を移し、クリスティーナは、ユーベルコードを発動。
 瞬く間に、彼女が握る剣に渦巻く炎が宿る。
 その名も、魔剣・ブラックラビットソード・バーニングスペシャル(実体はただのルーンソード)後半は勝手に名付け足した。
「その攻撃、止めてみせます!」
 そして、気合の一声と共に、炎の魔剣を振りかぶる。
「火をつけたくらいで、止まるもんか!」
 自然の法則に従い上昇する熱気をモロに受けて猪子槌は、なおそれでも振り下ろす小槌の勢いを弱める事はなかった。
 そして。
「はァっ!」
「ふんぬっ!」
 両者の武器が、ぶつかり合い、熱風を散らした。
 小槌の平面部と、それを打ち払うような剣の軌道。
「……ッ!」
 それらが均衡を保ったのは、ほんのわずかな一瞬で。徐々にクリスティーナの魔剣は押されていってしまう。
「ほら見ろ! ワタシの勝ち、だ!」
 押し合いに勝利を確信した猪子槌は、高らかに。
「まだ、ですわっ!」
 しかし、押さえてもなお、クリスティーナは諦めなかった。
 眼前に迫る小槌の一面。その視界の端に、猪子槌が生きてきた、大自然を目にする。
 瞬間、クリスティーナの魔剣が、炎を噴き出した。
「私の後ろには、たくさんの命がありますの。ラビちゃんも、ワンちゃんも。全部、全部、大切な命ですの」
 その心に呼応するように、押し返す刃は一瞬、真の魔剣たるに相応しいと言える輝きを放つ。
「守るために壊してしまうようなあなたには、負けませんわ!」
「……ッ!」
 小槌の向こうで、猪子槌はハッと息を呑む。
 やがて、火の粉と熱風を巻き散らし、クリスティーナの魔剣は振り抜かれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

メルフローレ・カノン
遅れて推参します。
オブリビオンの妖怪の撃破に助勢します。
見目は悪意ない可憐な少女と可愛らしいうり坊ですが
強敵であれば油断しません。

私の得物は主にメイスですが
状況に応じて予備武器で剣も使います。

敵の攻撃については[見切り]で回避です。
不幸なことについては……頑張って耐えます。
[オーラ防御]【無敵城塞】も活用します。
「ここは堪えてみせます!」

攻撃の際は、[力溜め]の上で、[二回攻撃]で叩いていきます。
木槌を叩く場合は[鎧砕き]してみると、意外に壊れたりして……
また、[気絶攻撃]を、妖怪本体か騎乗するうり坊に見舞って
敵の機動力を奪い、戦いを有利に進めましょう。
「全力で行きますよ!]


ルベル・ノウフィル
うり坊くんも気になりますが僕は真の姿(真っ白な子狼)に変身して本体と格闘しましょう!

今日この日のためにダッシュ力とジャンプ力を鍛え、第六感的な導きと気合いによる捨て身の一撃で華麗にとどめ……は無理でしょうけど武器の破壊くらいを目指します

後続の皆様の助けとなりますよう
武器を奪った後はトンネルを掘ってその武器を隠します
これは僕が奪ったから僕の玩具でございますぅーばうわぅ
僕のトンネルに隠すのでございますぅ
僕のお宝でございますぅ

うり坊くんが寄ってきたらじゃれてころころします
僕の方がつおいのです
(キリッ)

(尻尾をぶんぶん振る)


月藤・紫衣
なんと言いましょう。
随分とうり坊も含めて幼い印象です。
猪突猛進、とはこのことなのでしょう…うり坊があれだけ懐いているのです、彼女が親代わりなのかもしれませんね。
ともあれ、ああなってしまえば討伐するしかありませんか…。

随分大きく重そうな槌ですね。
攻撃も大振りのようですし、突然の動きにも対応出来るように少し距離を取りましょうか。
私は攻勢の一端であるよりも、他の猟兵方の補助をした方が良さそうです。
間合いを保ちつつ【散花風棘】で牽制と攻撃をしましょう。

隙をみてオブリビオンの瞼を狙って風棘を飛ばしたいですね。
血で視界が悪くなればそれだけ隙が出来そうですから。

幼い過去に、せめてもの安らぎがあらんことを。



●守りたかったモノ
 例えば、長く時が経った時。
 物理的な物や記憶に関わらず、人は何かを忘れてしまうものである。
 それは、言い伝えであったり。恩であったり。約束であったり。
 猪子槌の起こした事象はおそらく、そうしたものが理由であったのだろう。
 つまり。忘れるな。それこそが真意ではなかったのだろうかと。
「ともあれ、今はオブリビオン。討伐する他ありませんけれども」
 そう口にする月藤・紫衣(羅刹の旅人・f03940)の視線の先では猪子槌が、やはりというか。その猛威とも言える巨大な武器を手に、猟兵たちを相手取っていた。
 その武器の大きさは、もしかしたら、猪子槌の抱える怒りの大きさでもあるのかもしれないとも、どこか冗談のような思考に至り。紫衣は頭を振る。
「戦意が削がれた、というのなら、退がっていても良いんですよ?」
 すると、紫衣の呟きだけを耳にしたのか。一人の猟兵、メルフローレ・カノン(世界とみんなを守る……かもしれないお助けシスター・f03056)が、見上げる視線で、問いかける。
 その声音は糾弾するようなものでなく。むしろ逆に、気遣うような響きがあった。
 事実、メルフローレがメイスを握る様子を見ればそれは、自らが背負おうとしているように見えるものであっただろう。
 しかしながら紫衣は、その提案に、頭を振って答える。
「いえ、ありがとうございます。ですが、そこまで思い詰めているわけではありませんので。あしからず」
「それなら、良いのですけれど……っ!」
 言葉を交わす二人。どこか切り取られたような瞬間に、猪子槌の発した口笛の音が、亀裂となって割り込む。
「お前たちも、懲らしめてやる! 行け、とつげきだ!」
 口笛から一瞬遅れて、ズンズンと迫り来る、巨大なウリ坊に乗った猪子槌の姿。
 その鼻先が示す狙いは、紫衣とメルフローレ。
「いいえ。懲らしめられるのはあなたの方です!」
 それに正面から、メルフローレは立ちはだかった。
 メイスを水平に構え、紫衣を背にして。仁王立ちの姿勢。
 この時、メルフローレは、怒りに身を任せるように叫び散らす妖怪の少女の姿に、一つの事を感じていた。
 いや、メルフローレに限らず。その場にいた猟兵たちなら、ほとんどが感じていただろう。
 それは具体的には、小槌による一撃を一人の猟兵に押し返されてから。その瞬間に一言を浴びせられてから。
 まるで、その言葉が図星か何かであったかのように猪子槌の動きは、荒々しく、変化していたのである。
 見境がなくなったと言い換えても良い。
「来なさい」
 やがて、メルフローレは静かに告げた。と、同時にユーベルコードの輝きがオーラを伴い、その全身を覆う。
「言われなくてもォっぉ??!」
 一瞬遅れて、ウリ坊の突進はメルフローレの身体を捉え、轢き潰すかに思えた。
 ただし、実際に起こった事は、その逆である。
 微動だにせず、その場に留まるメルフローレと。急停止による強い慣性に、ウリ坊の上から振り落とされる猪子槌。
「……だったら!」
 しかし。一瞬、戸惑いの顔を浮かべていた猪子槌の表情は、宙空にいる内に引き締まり、手離す事のない巨大な小槌を握る手に力を入れる。
 例え直接打撃を加える事ができなくとも、攻撃する方法はあると。そこで小槌を振ろうとした。
「バぅ!」
 その瞬間に駆ける影があった。
 影は、四つ足で力強く地を蹴り、高速を保ったまま猪子槌の握る武器である小槌の柄へと喰らい付いてみせる。
「わぅッふ。ァゥ!(その武器、いただくでございます!)」
 そしてその正体は、純白の毛並みをした小狼。猟兵であり、人狼であるルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)であった。
 肝心の何を言っているのかは、当人と。
「そうはさせないぞ!」
 動物由来であるからか、猪子槌も小狼の言葉を理解しているようで。
 言葉を理解した上で、柄を握るのと反対の手を使って、ルベルを叩き落とそうと。拳を振りかぶる。
「ぐ、ぐるるぅ!!(な、殴るのは反則でございますよ?!)」
 その姿に、威嚇するような喉声を立てるルベル。実際の言葉の中身というのは、ひどく情けないものだったが。
「それはこちらの台詞ですね。……散らせ、風の棘」
「っ!?」
 ルベルに迫る拳は、すんでの所で止まる。同時に、猪子槌の表情が鋭い痛みに歪んだ。
 見れば、その拳には鋭い棘としか形容しようのない、凶器が突き立っていた。
「さぁ、今のうちに」
 続けて、棘を放った張本人である紫衣は、ルベルの行動を促すと同時に、再び両手を振るう。
 彼が手を振るう度、次々と棘が放たれていく。
「アゥ!!(ひぇ、巻き添えはイヤでございます!?)」
「なっ、返せっ、うァ!?」
 当のルベルはというと。この援護により、勇ましい一吠えと共に、渾身の力を以て猪子槌の手から、小槌をひったくる事に成功していた。これもひとえに、針山にはなりたくないという危機感によって生まれた力強さがあってこそだろう。
 情けない小狼と入れ替わり、猪子槌を襲う棘の数々は、しゃにむに暴れる猪子槌の身体に、一本、また一本と着実にダメージを与えていく。
 しばらくして。
「はぁ……はぁ……。まだ、まだだ。ワタシは負けてないぞ」
 最大の武器である、小槌を失った猪子槌の姿は、ひどく、憔悴しきったもので。
 もはや体を動かす事もままならないだろう、そうとわかる程に至っていた。
 元々、猟兵たちとの戦いによって蓄積していたダメージがあったとも用意に想像でき。もはや、勝敗は決したといっても過言ではない。
「……あなたは今まで、何を守ってきたのですか?」
 そんな姿を前に。メルフローレが静かに、前へと歩み出る。
 投げかける質問に、返答はない。
 もしもあったとしても、それはオブリビオンの発する言葉である。正しい価値観に基づいた言葉であるかは定かでないだろう。
 その上で、メルフローレは問いかけ続けた。
「今回の事件の調査の際、村の言い伝えでは、イノシシは良い行いをされていた、と聞きました」
 それは、猟兵たちが調べきった事。
 かつて、村を救った事があり。村の傍にその身を構え続けていた。まるで見守り続けているように。
「オブリビオンである今は、その役目も違うのかもしれません。けれど……」
 もしそうでなかったなら。それとは違う、本来の在り方があったのではないかと。
「……知らない。約束を破ったのは、アイツらだ」
 しかし猪子槌は、あくまで怒りを隠さない様子で吐き捨てる。
 この思考のベクトルを、村への怒りに固定されているかのように。
「じゃあせめて……」
 おもむろに紫衣は口を開いていた。せめて、村から消えたものはどこに行ったのか。最後にそう、問いかけようとすると。
「見てください、お宝です。お宝ですよぅ! 犬の置物、犬の飾り、肉球形に、いっぱいいっぱい入っております!」
 一体どこを漁ってきたのか、泥にまみれたルベルが、いつの間にか身を人の姿へと変え、溢れんばかりの村から消えたものを手に駆け寄ってきていた。
 もはや質問する意味をなくした結果を目に、メルフローレと紫衣は視線を交わしあう。
 トドメを与えたのは、どちらか。
 眠りを与えられたように静かに。猪子槌の姿は消えていった。

●失くさないために
 一匹のウリ坊が、野を走る。
「はっ、はっ……わぅ!」
 それを追いかける純白の小狼が、追いついたと思うと、ごんろりと互いの身を巻き込んで転がり、じゃれつきあう。
 すると、辺りにいた数匹のウリ坊たちが、我も我も群がって、小狼の姿を覆い隠してしまう。
 そうする事しばらく。
「うぅ……うぅ? …………っぷはぁっ!?」
 ウリ坊の中から、人の姿となったルベルが顔を出した。埋もれて呼吸ができなかったのか、息が荒い。
「よくもやったでございますね!」
 プリプリと怒るルベルの様子に、蜘蛛の子を散らすように逃げていくウリ坊たち。
 その時、ふとルベルの視線は山のふもと。山道の入り口にあたる一点に注がれた。
 そこには、一本の小槌が何らかの標のように突き立っていて。
「……そーら、逃がさないでございますよ。わぉーん!」
 標から視線を戻すと、再び小狼の姿となってウリ坊たちとの追いかけっ子を再開する。
 新しい年の陽光は、いつまでも小槌を照らし続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月02日


挿絵イラスト