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The Freezing Evil

#UDCアース #南極遺跡

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#南極遺跡


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●悪夢の巣窟へ
 氷を砕き、巨大な船が海を進む。捕鯨船が行き交うことで有名な南氷洋だったが、その船は鯨を狩るためのものではなく。
「博士、お茶が入りました」
「ああ、すまんな。悪いが、その辺に置いておいてくれ」
 船内の自室に紅茶を運んで来た助手に背を向けたまま、白髪の混じった頭の男は、本のページをめくりつつ言った。
「もう、相変わらずですね、博士は。でも……本当に、大丈夫なんですか?」
 助手が紅茶を置きながら、怪訝そうな顔をして尋ねる。彼女が心配しているのは、他でもない目の前の男が、南極で発見された謎の遺跡の調査に赴くことについてだった。
「君は耐冷耐狂装甲服(ヒートアーマー)の性能を疑っているのかね? こいつがあれば、南極の寒さは勿論のこと、UDCの精神攻撃にも多少は耐えられる」
 心配そうに見つめる助手とは反対に、男は随分と余裕だった。それでも不安だと告げる助手に、男は小さく溜息を吐くと、窓の外から遠く北の地にある、ここからは見えない場所を想い浮かべて腰を上げた。
「私は以前、青森県で起きた事件で、猟兵に協力を要請したことがある。だが、それは惨劇が起きてしまった後だ。その間、同僚が死にそうな思いをしていたにも関わらず、自分がのうのうと安全な場所にいたのが、やるせなくてな」
 だから、その責任を果たすのが今なのだと、男は助手に告げた。極北の地で始まった、連綿と続く悪夢に終止符を打つため。二度と再び、あのような事件が起きないようにするために。

●氷下に広がる根源
「UDCアースのUDC組織から、また連絡が入ったわ。なんでも、今回は南極で発見された遺跡を調査して欲しいってことらしいんだけど……」
 そこまで言って、パトリシア・パープル(スカンクガール・f03038)はしばし言葉を切った。今回の依頼、単に遺跡に赴けば良いというものではなく、少しばかり厄介なことがあるのだと。
「遺跡には、UDC組織から専門の研究者が同行するわ。名前は烏丸・太一(からすま・たいち)さん。以前にも何回か、こっちに依頼をして来たことがあったみたいだけど、それについては知らなくても問題ないわ」
 太一の専門はオーパーツの研究及び未確認生物の生態だ。もっとも、専門知識を持っているとはいえ、彼はユーベルコードも使えない一般人に過ぎない。調査の際は専用の耐冷耐狂装甲服(ヒートアーマー)を纏うが、その重量故に動きはかなり制限されてしまう。
 多少の精神攻撃であれば耐えられるだろうが、調査中にUDCの襲撃を受ければ、最悪の場合は命を落とす。しかし、彼は責任感の強い男だ。その性格からして、自分の身を犠牲にしてでも、調査結果を持ち帰ってくれと頼むだろう。
「まあ、データさえ手に入れば成功とはいえ、簡単に見捨てるのはどうかと思うのよね。できれば無事に調査を終えて、全員で帰還するのがベストなのは言うまでもないわ」
 調査とは、データを持ち帰るまでが調査なのだ。遺跡はUDC怪物が作ったと思しきもので、中では何が起こるか分からない。
 くれぐれも、無茶なことをして貴重な命やデータが失われることのないように。最後に、その点だけ念を押し、パトリシアは猟兵達を南極へ向かう船の中へと転送した。


雷紋寺音弥
 こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。

 今回の依頼は、南極で発見されたUDC怪物達が築いたと思しき「古代遺跡」の調査です。
 なお、以前のシナリオ『The Representative of Evil(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=12034)』の続きという形を取ってはいますが、そちらに参加していなくても、特にシナリオへの影響はありません。

●第一章
 遺跡調査です。
 持ち込んだ機材を設置したり、遺跡の入り口を探したりするなどして協力しましょう。
 ここでの準備結果も、後の章に少なからず影響を及ぼします。

●第二章
 遺跡の調査を行う研究者の護衛任務になります。
 UDC怪物と戦闘になった場合、研究者は後方で遺跡の情報を集めます。
 なお、敵のユーベルコードによる攻撃を受けた場合、研究者が発狂したり死亡したりする可能性もありますので、ご注意ください。

●第三章
 調査を終えた研究者と共に、データを持って遺跡から撤退します。
 今までになく強大な敵による追撃が予想されるので、撃退して活路を切り開くか、足止めして遺跡の外まで逃走してください。

●烏丸・太一(からすま・たいち)。
 今回同行するUDC組織の研究者です。
 以前に『The House Of Corpse(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=9634)』などの依頼で、猟兵に調査や潜入を依頼して来た人という設定ですが、以前の依頼に参加していなくとも今回の依頼に影響は及ぼしません。
 専門は、オーパーツの研究や未確認生物の生態など。
 能力的には一般人と大差なく、敵の攻撃を食らうと発狂・死亡する可能性があります。
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第1章 冒険 『南極遺跡調査』

POW   :    荷運びやUDC職員の護衛を行い、調査の安全を確保する

SPD   :    先行偵察や後方の警戒を行い、危険に備える

WIZ   :    UDC職員と共に遺跡周辺を調査し、入口となる場所を探す

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

露木・鬼燈
南極、ヤバすぎっ!
この寒さは流石に堪えるのです。
まずは快適に過ごせる拠点が必要っぽい。
<骸晶>を展開。
如意宝珠から無限に供給される魔力。
これで周囲の雪を支配して巨大なドームを作り出すのです。
強度計算をして必要な箇所に柱を立てたり補強もしないとね。
南極の厳しい風雪を防ぐドームがあれば安心だよね。
気温の方はドームの中にテントを設営することで対応できるはず。
んー、魔力を熱に変えて全体を温めた方がいいかな?
時間もあるし、ドームにルーンを刻んで強化。
これでイケルイケル!。
その代わり作用が終わるまでここから動けないんけどね。
まぁ、偵察とか調査は他の人達がやってくれるはず。
僕は環境整備に全力を尽くすっぽい!


クロエ・アスティン
WIZで判定

「ここが……南極でありますか?さ、さ、寒いであります……」
故郷の世界では感じたことのないような寒さ、動きを阻害しない程度に上着を借りるであります

UDCアースのキカイ?のことはちんぷんかんぷんなので自分は遺跡の入り口を探すであります
これが普通の遺跡なら「トンネル掘り」で地下から侵入する手もあるでありますが……この氷じゃ厳しい気がするです
仕方ないと「覚悟」を決めて地道に遺跡の周りを調べていくでありますよ!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



●凍て付く大地へ
 氷塊を砕いて船が接岸すると、猟兵達は縄梯子を伝い、氷の大地へと降り立った。
「ここが……南極でありますか? さ、さ、寒いであります……」
 故郷の大地では感じたこともない寒さに、クロエ・アスティン(ハーフドワーフのロリ神官戦士・f19295)思わず両腕を抱えて身を震わせた。
 寒い。こんな場所が、この世にあったのかと思える程に、ここは冷たく全ての命に厳しい場所だ。
「た、確かに、この寒さは流石に堪えるのです。まずは、快適に過ごせる拠点が必要っぽい?」
 周囲に手頃な場所を探し、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、まず最初にベースキャンプを設営することを提案した。
 一応、船に戻ればいくらでも暖は取れる。だが、それでは調査の効率が悪く、おまけに時間もそこまで掛けられない。
 やがて、海水の流れに乗って砕いた氷が集まってくれば、それらは塊となって船の出向を阻害し、氷の世界に閉じ込められてしまう。最悪の場合、ユーベルコードで氷を破壊するという手もあるが、できればそんなことにならぬよう準備はしておきたいものだ。
「これが僕の魔法戦闘形態……人呼んで竜骸の魔導士なんて、ね」
 魔剣と長銃型魔杖を持つ魔導士に変身し、鬼燈は魔力炉を兼ねた演算装置でもある、如意宝珠より魔力を引き出した。本来であれば、その魔力は飛翔に用いるものだが、今回はそれを使って周囲の雪と氷を操り、巨大なドームを作り上げた。
「んー、魔力を熱に変えて全体を温めた方がいいかな? とりあえず、ドームにルーンを刻んで強化しよう」
 完成したドームの中に、鬼燈は意気揚々と入って行く。アラスカの先住者達が造るイグルーにも似た雪と氷のドームだが、その大きさは桁違い。中は広く、中央にテントを張った上で、周囲に様々な調査機材を置くためのスペースまで作られていた。
「うわぁ、凄いです! これなら、私達も船の中に籠らないで、現地調査ができますね!」
 防寒着を幾重にも着込み、達磨のような姿になった烏丸博士の助手が、黄色い声を上げて喜んでいる。なんとも緊迫感に欠ける女性だが、とりあえずドームの中で大人しくしてくれているのであれば、問題はない。
「うぅ……よ、ようやく、暖かくなってきたであります……」
 助手の女性から上着を借りたクロエも、身体を震わせながらドームの中へ入って来た。
 これで準備は万端だ。後は、遺跡の入り口を実際に探し、その内部へ足を踏み入れるまで。幸いにして天気は晴れており、遺跡の近くであるにも関わらず、周囲にはUDCの気配も感じられない。
「では、すまないが、君達は遺跡の入り口を探してくれ。私も可能な限り協力するが、なにしろ、このアーマーが重すぎるのでな」
 ズッシリとした耐冷耐狂装甲を身に纏った烏丸博士が、頑丈なガラスヘルメットの奥で苦笑しながら言った。
「了解であります! ……とはいえ、地道に遺跡の周りを調べて行くしかなさそうでありますな」
 横目で鬼燈を見つつ、クロエが答えた。このドームを維持する関係から、鬼燈は容易に動けない。となれば、後は自分が地道に探す他にないのだが、果たしてどこまで効率良く探せるかは未知数だ。
 この先の遺跡で、こちらを待っているのはいったい何か。未だ入り口の場所さえ判明していなかったが、それでも猟兵達の間には、早くも緊迫した空気が漂いつつあった。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
ここまで関わったのだから当然最後まで付き合わせてもらうわよ
それがなくても南極の調査には一度は出向こうと思っていたし、宜しくお願いするわ
さて、一体何があるのでしょうね…

『我が工房に帳は落ちず』、機材の運搬、設置を始めましょうか
私は烏丸さんと相談して配置を考えたり既にある情報を捜査したり…今後の段取りなども決めておきましょうか
遺跡の中では大型兵器は使えないかもしれないし、私は近い位置に居る事が多そうだから今のうちに色々とね
それに私は技術者で猟兵よ、研究者とは違った視点で何かを見つけられるかもしれないわ

…一応ドローンは飛ばすけど、遺跡探しは基本的に同僚さん任せになるかしら

※アドリブ・絡み歓迎



●作戦会議
 吹雪さえも防ぐ、巨大な雪のドームにて。
 烏丸博士と共に、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)はドームの中に、様々な調査機材を並べていた。
「各員、速やかに作業を開始なさい」
 魔導蒸気兵を呼び出して、重たい物は全て彼らに運ばせる。そんな彼女の手際を見て、烏丸博士は思わず感嘆の声を漏らした。
「ほぅ、これは素晴らしい。しかし、本当に良いのかね? 彼らとて、君の貴重な兵士だろうに……」
「いえ、お構いなく。それに、ここまで関わったのだから、当然最後まで付き合わせてもらうわよ」
 どちらにしろ、南極の調査には出向こうと思っていたので、渡りに船だ。改めて宜しくお願いすると頭を下げるエメラに、烏丸博士も何かを悟ったようだった。
「……そうか。もしや、君は私が以前に依頼した、青森県の洋館事件に向かってくれた猟兵ではないのかね?」
「ご名答ね。でも、理由はそれだけじゃないわ。私としても、こんな危険な代物の出所を、そのまま放っておくわけにはいかないしね」
 UDCアースでも様々な事件に関わって来たが、洋館事件を発端とした一連の事件は、随分と後味の悪いものだった。事件こそ解決し、背後で糸を引いていた邪神教団や製薬会社も壊滅させたが、それまでに犠牲となった人間の数が多過ぎた。
「報告は聞いているよ。四傘製薬会長、小津・正勝……だったかな? なんとも、恐ろしい男がいたものだ。いったい、奴はこの南極の地で、どのようにしてUDCの技術を見つけたのだろうか……?」
「それを調べに、私達も来たのよ。たぶん、何かの偶然で断片的な遺物を手に入れただけなんでしょうけど……裏を返せば、それは例の事件で小津会長が使っていた石板の、もっと大元になるものがあるってことだしね」
 烏丸博士の疑問に、エメラは急に真剣な表情になって答えた。
 四傘製薬の創設者である小津・正勝は、かつて南極の地を訪れ、UDCの技術に関して刻まれた石板を手に入れた。
 それは、ほんの偶然だったのかもしれない。彼が手に入れたものは、あくまで断片。だからこそ、あの程度の規模で事件は終息させられたのかもしれない。
 だが、それは即ち、小津の手に入れた石板の、より大元になる何かが南極に眠っていることを意味している。そして、万が一そのようなものが邪神教団やオブリビオンとして復活したUDCの手に渡れば、それこそ青森の洋館事件など比べ物にならない、未曽有の大惨事を引き起こし兼ねない。
 そんなことは、絶対に許してはならないのだ。ここまで来た以上、謎の真相に迫り、それを悪意ある者に利用させないよう管理する義務がある。
「とりあえず、互いに持っている情報を交換するところから始めましょうか? 今後の段取りなんかも考えておかないといけないし、遺跡の中では大型兵器が使えるとは限らないしね」
「賛成だ。君は猟兵だけでなく、技術者としても優れた視点を持っていそうだな。是非、お願いするよ」
 他の仲間達が遺跡の入り口を探している間に、自分は博士と作戦会議。念のため、ドローンを飛ばしておいたエメラだったが、それらが遺跡の入り口を見つけることに、あまり期待はしていなかった……の、だが。
「む……なんだね、あの音は?」
「何かが壊れたみたいな音ね。……行ってみましょう!」
 しばらく話し込んだ後、唐突に外から聞こえて来た轟音に、思わず耳を傾けてドームの外へと飛び出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリヤ・カヤラ(サポート)
「やるなら頑張らないとね。」
ユーベルコードは指定内の物を適宜使用。
武器は黒剣の宵闇、鋼糸の刻旋、媒介道具の月輪を良く使うかな。
戦場の状況は出来る限り確認しながら動いて、
誰かが攻撃されそうなのに気付けたらフォローに入るかな。

吸血行為は無理矢理にはしないけど、敵に対しても同様で
相手の許可が無ければしないよ。
父様から同族(ダンピール)と
自分の血を吸うのはダメって言われてるからNG。

一般人は依頼内で救助の必要性があると
明言されているならなら助けるけど、
そうでない場合は状況によっては見捨てる判断もするかな。

楽しめそうな事は思いっきり楽しむけど、
夏の強い日光は苦手かな。
味覚は苦い物と酸っぱい物は苦手。


ネピア・ドットヤード(サポート)
活発で元気いっぱいなスーパーヒーロー。
一人称は僕、口調はです、ます調に「!」が大体ついてます。

両親を4年前に亡くし、兄と二人で生きてきた経験から、家庭や命を奪う敵には容赦しません
正義を重んじ、悪い事は許せない性分です。楽しいとはしゃぐ年相応の一面も。

サイキックゴリラパワーで粉砕すれば全て片がつくと考えてる脳筋思考です。
よく使うUCは【勇気の証明】【勇気の奔流】。
勇気の奔流を使うと身長165cmの爆乳女子になります。
徒手格闘のほか、学ランを変形させてマントや盾にしたり、ネピアセンサーで周囲の状況を読み取ることもできます。

戦闘でも日常系でもどんなシナリオでも参加OKです。
よろしくお願いいたします。



●調査はパワーだ!?
 巨大な氷壁に閉ざされた遺跡の壁。それらの中から入り口を探すのは、さすがに1人や2人の猟兵だけでは無理がある。
 そんな彼らを助けるべく、酷寒の地に馳せ参じた助っ人が2人。ヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)とネピア・ドットヤード(サイキックゴリラパワー妹系幼女・f20332)は、白い息を吐きながらも目の前の氷壁に向かって決意を固めた。
「さて、やるなら頑張らないとね」
「そうだね。ボクのセンサーを使えば、入り口なんて簡単に見つけちゃうもんね!」
 目の前の氷壁は大きく、どこに入口があるのかも不明だったが、この周囲にあることは間違いないのだ。後は、それをどうやって見つけるかだが……それが、なかなか難しい。
「パンチとかキックで、バーンと壊して穴を開けちゃうってのは駄目かな? 穴の開いたところが入り口ってことで、そこから入ればいいんじゃない?」
「いや、それは危険過ぎるね。下手をすれば砕けた氷壁にこちらが潰されてしまうし、貴重な遺跡の遺物を壊してしまうかもしれないよ?」
 あくまでパワーのみで解決しようとするネピアを、ヴィリヤが落ち着いた口調で窘める。だが、そんな彼女とて、他に良い案があるわけでもなく、思わず頭を抱えてしまった。
(「氷を操るのは私も得意だけど、さすがにこんな氷壁を砕くことはできないからね。炎をぶつけるにしても、質量が違い過ぎる。多少、氷を溶かした程度じゃ、遺跡の入り口を見つけることは……」)
 そこまで考えて、ヴィリヤは思わずハッとした表情になり、顔を上げた。
 そうだ。何も、この分厚い氷壁を、全て自分の力で溶かす必要などない。ある程度まで壁を溶かせば、中の様子も少しは分かる。そうなれば、入り口を発見することも容易く、後はそこに強烈な一撃を加えれば。
「ごめん。さっきの言葉だけど、やっぱり訂正させてくれないかな? パンチで砕く……悪い案じゃないかもしれない」
「え? そ、それって、どういう……?」
 唐突に話を振られて呆然とするネピアを他所に、ヴィリヤは自分の周囲に青白い炎の刃を出現させて行く。その数、軽く200本以上。おまけに着弾地点を爆破できるという、かなり強烈なオマケ効果付きだ。
「炎よ熱き刃となって射抜け」
 ヴィリヤの詠唱に合わせ、炎の刃が一斉に氷壁へと突撃した。相次ぐ爆発で氷が白い煙を上げて粉砕され、炎の熱によって溶けて行く。さすがに、全ての氷を砕く程の威力はないが、ここまで広範囲に炎の刃を広げれば
「……あそこだよ! ネピアさん、悪いけど仕上げ、お願い!」
 氷壁の一部が溶け落ち、中から不気味な紋様を刻まれた扉が姿を現したところで、ヴィリヤはすかさずネピアに向かって叫んだ。
「えぇっ!? う、うん! 分かった!」
 戸惑うネピアだったが、身体はしっかり反応していた。全身全霊の力を込めて薄くなった氷壁を殴り飛ばせば、凄まじい轟音と共に壁が崩れ、中から遺跡への入り口が姿を現した。
「ちょっと! 今の音、なんなの!?」
「なんだか、凄い音がしたでありますよ! まさか、もう敵が現れたのでありますか!?」
 氷壁を砕いた際の音に驚いたのか、他の猟兵や、果ては烏丸博士達まで集まって来た。もっとも、そんな彼らも目の前に広がる遺跡への進入路を見れば、何が起きたのかは理解したようだが。
「……よし、これより、中へ突入しよう。我々の任務は、あくまで情報収集だ。どのような危険が待ち受けているか分からん。気を付けるのだぞ」
 扉に刻まれた紋様を注意深く眺めつつ、烏丸博士は遺跡の内部へと繋がる入り口を開いた。瞬間、中から冷たくも生臭い風が一斉に吹き上がり、亡者の雄叫びにも似たような音を立てて、猟兵達の真横を擦り抜けて行った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『六零四『デビルズナンバーえし』』

POW   :    悪魔の捕食(デビルプレデーション)
自身の身体部位ひとつを【ゾンビ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    悪魔の捕縛(デビルホールド)
【複数のゾンビからの抱きつき】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    悪魔の増殖(デビルプロリファレイト) 
【レベル×10体のゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●忌むべき記録の残滓
 遺跡の中へ足を踏み入れると、その先で猟兵達を待っていたのは、巨大な神殿のような空間だった。
「これは……かつて、この地に文明を築いた者達が建てたものか?」
 微かな照明だけを頼りに、烏丸博士は周囲の様子を見回して言った。遺跡の壁には所狭しと意味不明な文字や壁画が刻まれていたが、中でも一際目を引いたのは、巨大な鯨のような生物が描かれた箇所だった。
 のっぺりとした顔に、飾り気のない身体。遠間から見れば、裸の人魚に見えないこともない。だが、それが人魚のような愛らしいものでないことは、周囲に描かれた人間との対比からして明らかだ。
 謎の生物と比べ、人間と思しき影は、随分と小さく描かれていた。それだけでなく、彼らは時に集団で集められ、鯨生物たちによって、何らかの儀式が施されているのが見て取れた。
「……どうやら、この地にいた者達は、人間を生贄として見ていたようだが……」
 ふと、烏丸博士が神殿の奥に目をやると、そこに設けられていたのは祭壇のような場所だった。が、祭壇の下に広がる、未だ消えぬ赤黒い染みと、祭壇の上にある手錠のような鎖を見て、それが生贄を捧げるための台であると理解した。
「これだけでは、まだ何も分からないな。もっと、奥に進んで調べてみよう」
 祭壇の横に抜け穴のような場所を見つけ、猟兵達は烏丸博士と共に、その内部を進んで行った。しばらく行くと、長い廊下を抜けた先は、倉庫のような場所に繋がっていた。
「ふむ……どうやら、ここに様々な記録が保管してあるようだな。これだけあると、運び出すのも一苦労だが……」
 壁に置かれた無数の石板。烏丸博士はそこに刻まれた文字を、険しい表情で眺めつつ、じっくりと読み進めて行く。この場で全てを解析することは難しいが、ある程度の内容を掴んで、重要そうなものだけを選び出すことはできるかもしれない。
「む……あれは?」
 ふと、部屋の隅に目をやると、そこには地殻変動の影響でも受けたのか、大きな穴が開いていた。穴の中からは冷たい空気と共に、微かだが波打つような音も聞こえて来る。どうやら、穴の奥は海へと繋がっているらしく、周囲には台座から転がり落ちた石板の破片も散らばっていた。
 なるほど、あの穴を通じて外に石板が流出すれば、それを誰かが偶発的に入手することも可能かもしれない。青森県の洋館事件を発端にした一連の事件。その裏にいた黒幕、小津・正勝が入手した石板も、そうして外に零れ落ちた物かもしれなかった。
 ここは恐らく、様々な儀式の記録が残る部屋。この部屋に置かれた石板を持ち帰って調べれば、UDCアースの邪神について、更なる何かが分かるかもしれない。
 だが、そうして博士が調査を進めている内に、どこからか生暖かい風が吹いて来た。
「……ゥゥ……」
 風に乗って、掠れた声が聞こえてくる。空耳などではない。本当に、何かが呻くような声がしたのだ。
「……ァァ……ァ……」
 また、声がした。それらはどんどん大きくなって、次第に複数が重なり合うようになり、やがて怒涛の如く倉庫内の様々な扉を押し退け、溢れ出した。
「オォ……ァァァァッ!!」
「ゥゥ……アゥゥゥ……」
 石造りの扉が開かれると同時に、その奥から現れたのは、無数のゾンビ。酷寒の地にある遺跡の内部にも関わらず、彼らの肉体は凍結することもなく、酷い腐敗臭を放っている。
「ぬぅ……なんだ、こいつ達は!? 報告にあった洋館事件のゾンビとは、少しばかり異なるようだが……もしや、こいつ達が『原種』だとでもいうのか!?」
 さすがの烏丸博士も、これには少しばかり調査の手を止め、間合いを測りながら後ろに下がる他になかった。が、その間にもゾンビは続々と現れて、瞬く間に倉庫の中を埋め尽くしてしまった。
 ここを抜けて無事に船へと戻るには、このゾンビの群れを突破しなければならない。彼らに捕まったら最後、烏丸博士は瞬く間に蹂躙され、その肉を食らわれてしまうことだろう。
 こんなところで、死んでたまるか。それぞれ、武器を抜いて構える猟兵達だったが、現れたゾンビの群れは何ら怯むこともなく、獲物を求めて一斉に襲い掛かって来た。
シル・ウィンディア
博士さん、下がってっ!
さ、ゾンビさん
ここから先は通行止めだよ?

博士を庇うように行動
【ダッシュ】と【空中戦】で前後上下左右に動き回って
【残像】を生み出して【フェイント】で撹乱っ!

数が多いからヒット&アウェイで一撃離脱を繰り返すよっ!
攻撃時は【属性攻撃】で光を光刃剣に付与
【フェイント】を混ぜつつ【二回攻撃】で斬りつけて行くね

敵の攻撃は【第六感】を信じて【見切り】
博士が狙われている場合は
博士へ【オーラ防御】を展開してフォロー
【属性攻撃】で光を付与して光の結界にするね

この状況
軍神ならどうするんだろ?
今回なら…
UCで嵐を巻き起こして
追撃で炎と光属性の光熱嵐で纏めて薙ぎ払うっ!

…まだまだ、届かないなぁ


露木・鬼燈
ゾンビかー。
戦って楽しい敵じゃないよね。
むしろ不快だし、テンション下がる。
博士を無事に返さないといけない。
だから、がんばるけどねっ!
魔剣を連結刃に変形させ、まとめて斬るっぽい。
さらに<隠忍の見えざる手>を展開、殴り飛ばすです。
術も使いたいところだけど…
この環境に合わせてしっかりと選ばないとね。
遺跡崩壊で生き埋めとかありえるからね。
念動手に印を組ませて風遁をつかうですよ。
風に破魔の力を乗せれば効果的…なはず。
伊吹法を組み合わせて風を神の御息へと変えるのです。
これでイケルイケル!
押し込まれてきたら時間を稼いで体勢を立て直さないとね。
幸い水分はたくさんある。
氷遁で通路を塞げば時間を稼ぐことはできる。


クロエ・アスティン
POWで判定

「博士!自分の後ろに隠れるであります!」
大盾を構えて博士が逃げる時間を稼ぐであります!

まずは「全力魔法」で【戦乙女の戦槍】の魔法を唱えて可能な限りゾンビの数を減らすえあります!

ゾンビが近寄ってきて魔法を唱える暇がなくなったら、戦鎚と大盾での近接戦闘に移ります。
「シールドバッシュ」で弾き飛ばし、戦鎚で頭を叩きつぶしていくであります。

博士を狙った攻撃は「盾受け」を駆使して「かばう」であります!
博士を優先して防御するため【悪魔の捕食】での噛みつき攻撃は「激痛耐性」で我慢です。

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


エメラ・アーヴェスピア
事前に『出撃の時だ我が精兵達よ』で兵士を4体展開
博士と私の護衛と記憶係としておくわね?
…鯨、ね…最近、SSWでも鯨のおかげで外宇宙が見つかったのよね…
一体…と、どうやら敵のようね、猟兵の仕事に戻りましょう

メインの護衛は魔導蒸気兵、遊撃に猟犬、最終防衛ラインが私よ
遠距離からできるだけ撃ち倒し、近づかせないように戦うわ
兵士が捕まれたら私(の装備)が敵を撃って引きはがしましょう
同僚さん達、悪いけど撃滅は任せたわ。私は護衛に集中させてもらうわね
それと、奇襲に警戒させてもらうわ
逃げるにしろ戦うにしろ、無駄にはならない筈

※アドリブ・絡み歓迎



●原初のゾンビ
 遺跡の扉を押し退けて、闇の奥から現れし無数のゾンビ達。以前にも幾度となく戦った猟兵もいるようだが、しかしこの遺跡にいるゾンビ達は、今まで現れたゾンビとは、少しばかり趣が異なっているようだった。
 原初のゾンビ。烏丸博士の言葉が、猟兵達の脳裏を微かに掠めた。仮に、彼の見立てが正しければ、このゾンビ達は遺跡がこの地に設けられた時から、悠久の時を眠り続け、獲物を待っていたことになる。
「得体の知れないゾンビも気になるけど……鯨、ね……。最近、スペースシップワールドでも、鯨のおかげで外宇宙が見つかったのよね……」
 そんな中、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は先の祭壇で見た壁画を思い出していた。
 巨大な鯨。もしかすると、その鯨とやらも、宇宙からやって来た存在なのかもしれない。UDCの根源が未だ不明であり、この世界における地球外生命体の存在が不明な以上、在り得ない話ではない。
 だが、その答えを見つけるよりも、今は戦いに専念した方が良さそうだ。見れば、既にゾンビの群れはこちらを包囲しており、新鮮な肉を求めて食らい付いて来そうだった。
「博士さん、下がってっ!」
「自分の後ろに隠れるであります!」
 シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)とクロエ・アスティン(ハーフドワーフのロリ神官戦士・f19295)の二人が、咄嗟に烏丸博士を庇って前に出た。迫り来るゾンビの爪や牙をクロエが押さえている間に、シルは素早さを生かして敵陣に斬り込み、その狙いを自分に引き付けつつ攪乱して行く。
「ゾンビかー。戦って楽しい敵じゃないよね。むしろ不快だし、テンション下がる……」
 腐った肉が弾け、千切れ飛ぶ度に、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は溜息を吐きながら魔剣を抜いた。
 正直、この手の腐った死体は相手にするだけで精神力を削られる。腐汁が飛び散り、不快な匂いが身体に付着することを考えると、あまり戦いたい相手ではない。
 だが、それでも博士を守るために頑張ろうと、鬼燈は魔剣を連結刃に変形させた。1匹ずつ始末しても埒が明かないので、纏めて一気に斬り捨てる算段だ。
「さて、同僚さん達、悪いけど撃滅は任せたわ。私は護衛に集中させてもらうわね」
 そんな中、エメラは敢えて守りを固め、支援砲撃に徹することを宣言した。
 人手が少しでも欲しい状況で、自分だけ安全地帯にいることを責める者がいるかもしれない。だが、どこから新手が出現しないとも判断できない以上、後方に下がらせているだけで、博士の安全を確保できるとは限らない。
「さぁ出番よ、私の勝利の為に出撃なさい」
 後ろで守りを固める自分の代わりに、エメラは魔導蒸気兵を召喚した。敵を倒すためではなく、後方で調査を続ける烏丸博士を守るために。
「ウゥ……ゥゥゥ……」
「ァァ……オォォォ……」
 地獄の底から湧き上がるような唸り声を上げつつ、ゾンビ達は獲物を食らわんと襲い掛かる。しかし、彼らを前に恐怖を感じて怯む者は、この場には1人もいなかった。

●殲滅、そして
 獲物の肉を食らわんと、四方八方から迫り来るゾンビの群れ。だが、圧倒的な数の差があるにも関わらず、猟兵達は怯まなかった。
「光よ! 女神に仇名す者を貫く槍となれ! ――ヴァルキリーズジャベリン!」
 固まっていたゾンビの一団目掛け、クロエが光の槍を投げつけた。それは空中で分散し、まるで光の矢の如く、ゾンビ達の頭上に降り注ぐ。
「「オォァァァァッ!!」」
 反撃する余地さえ与えられず、全身を貫かれて崩れ落ちて行くゾンビ達。幸いにして、耐久力はそこまでないようだ。この調子で倒して行けば楽勝かと思われたが、しかしゾンビ達はクロエの想像を超えた行動に出た。
「ウゥ……ォァァ……」
「な……っ! なにをしているでありますか、こいつら!?」
 負傷の浅いゾンビ達が、己の腕を頭部に変形させて行く。だが、その牙が向かう先は猟兵達ではない。既に大きく負傷し、もはや立つこともできなくなった、哀れな同胞達に向けられている。
「や、やだ! もしかして、共食いしてるの!?」
 あまりのグロテスクさに、シルが思わず口元を押さえた。こいつらにとっては、目の前の人間も、負傷した仲間も関係ない。どちらも等しく餌であり、自分の肉体を維持するための糧なのだ。
「余所見をしないで! 立ち止まっている暇はないわよ!」
 蒸気兵に絡みつこうとしているゾンビを後方から撃ち抜きつつ、エメラが叫んだ。確かに、彼女の言う通りだ。この状況で少しでも攻撃の手を止めたら、次に食われるのは自分かもしれない。
「あ~、これだから嫌なんだよね、ゾンビって」
 同じく愚痴を零しつつも、鬼燈が静かに印を結んだ。
 その途端、巨大な氷壁が現れて、ゾンビ達の行く手を阻み。
「手の届く範囲はすべて僕の領域っぽい!」
 続けて繰り出されるは、念による無数の見えざる手だ。それらにも全て印を組ませることで、呼び起こせしは破魔の風。
「……ォォ? ゥゥァァァァッ!!」
 肉体を斬り刻まれながら、吹き飛んで行くゾンビ達。思った以上に効果は絶大なようだ。が、完全に消滅させられる寸前、ゾンビ達は何かを呼ぶようにして甲高く吠え、その呼び声に合わせて、今度は地中から何かが姿を現した。
「……ひぇっ! な、なんだ、これは!?」
 突然、後方にいた博士が悲鳴を上げた。見れば、なんと遺跡の床板を跳ね上げて、その下から現れたゾンビが博士の足に組み付いているではないか。
「博士! 今、行くであります!」
 慌ててクロエが突進し、大盾の質量を生かしてゾンビを吹き飛ばす。そこに狙いを定め、一斉砲撃でエメラが抹殺したが、現れたゾンビはそれだけではなかった。
「ちょ、ちょっと! なんで、わたしの方にばっかり湧いてるの!?」
 いつの間にか周りを囲まれてしまい、シルが思わず叫んでいた。
 これだけの数、いったいどうやって相手をすれば良いのだろう。仲間の援護を待つにしても、彼らとて自分に襲い掛かるゾンビを振り払うので精一杯。
(「この状況、軍神ならどうするんだろ? 今回なら……」)
 ふと、サムライエンパイアでの戦争で対峙した、軍神こと上杉謙信のことが頭を過った。
 兵力の消耗を極力避け、圧倒的な数の不利さえも覆る車懸かりの陣。謙信の得意技であるが、しかし今の状況では使えない。
(「風……光……そうだ! わたしにも、まだできることがあった!」)
 先程、ゾンビを蹴散らしたクロエや鬼燈の姿を思い出し、シルは唐突に閃いた。
 風で吹き飛ばし、光で貫く。そういった戦い方ならば、自分にもとっておきの技があるではないか。問題なのは、多少コントロールが難しいことだが、とやかく言っていられる状況ではなく。
「精霊達よ、我が手に集い光となり、障害を撃ち砕けっ!」
 詠唱と共に繰り出したのは、巨大な嵐。そこに光と炎を乗せれば、光熱風の竜巻が完成する。
「ゥゥゥァァァァッ!!」
「ォォ……オォォォ……」
 荒れ狂う光と熱に巻き上げられ、ゾンビ達は次々とその身を焼かれ、砕かれ、光の中に飲み込まれて消滅して行った。もはや、仲間を呼ぶ余裕さえない。悠久の時を経て現代に復活した生ける屍達は、その全てが残さず焼き払われ、南極の地の塵と消えた。
「ふぅ……なんとか片付いたね。でも……まだまだ、届かないなぁ」
 咄嗟の起点で危機を乗り越えたとはいえ、シルは自分の甘さを痛感して呟いた。
 今回、属性の組み合わせを閃いたのは、偶々だ。他の猟兵達が、それぞれの技でゾンビを蹴散らしてくれていなかったら、そこからヒントを得て光熱の竜巻を作ることも思いつかなかった。
 軍神、上杉謙信には勝負でこそ勝ったが、それでも彼の判断力や指揮能力に、今の自分は遠く及ばない。まだまだ修行が不足していると、シルは額の汗を腕で拭って呟いた。

●太古の悪意
 猟兵達の活躍によってゾンビの群れは蹴散らされ、とりあえずは安全を確保できた。
 敵の襲撃と、それに伴う戦闘で、倉庫内は随分と荒れてしまった。だが、それでも貴重な証拠のいくつかは、博士とエメラによって確保されていた。
「いや、ご苦労だった、諸君。聞きしに勝る勇猛ぶりだな。やはり、君達に依頼して正解だったよ」
「それで……何か、この遺跡について判ったの?」
 お世辞は良いので、それよりも調査結果を教えて欲しいと、エメラが尋ねた。その問いに、烏丸博士は静かに頷き、回収した石板を取り出して見せた。
「私の見立てが正しければ、ここは人類が文明を築くよりも遥か昔、人類とは異なる存在によって造られたものだろう。彼らは人類の祖先……恐らくは、文明らしい文明も持たぬ原始人か、今では滅んでしまった、我々とは似て異なる古代人類を、邪悪なる存在の生贄として捧げていたようだ」
 その存在がどのような者かまでは不明だが、それは入手した石板の解析を進めれば、いずれ判明することかもしれない。
 人を生贄とし、生ける屍とする邪法。その先にあるのは、神の器を作るための方法であり、そこに神を宿らせることができれば、それは超絶的な力を持つ存在として、全ての頂点に君臨する。
 以前、青森県の洋館で起きた事件に関与していた邪神教団も、この遺跡を建造した何者かも、目指すところは同じだったのかもしれない。どちらにせよ、そんな邪法をこの世に復活させることだけは、絶対に阻止無ければならないが。
「さて、必要な情報も手に入ったし、長居は無用だ。いつ、また先のゾンビが現れるか、分かったものではないからね」
 回収できるだけの石板を回収し、烏丸博士は猟兵達に告げた。
 調査とは、帰るまでが調査である。この遺跡で入手した、貴重な情報。何としても、それを持ち帰らねばならないと、烏丸博士は力強く頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『海零』

POW   :    縺薙?譏溘?逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?縺ァ縺ゅk縲
単純で重い【巨体や、別次元から召喚した大量の水】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    陦ィ螻、縺ョ蝪オ闃・蜈ア繧√
【額や掌】から【強烈なサイキックエナジー】を放ち、【心身の両方への衝撃】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    窶晏卸荳匁峅縺上?∵オキ髮カ窶
【念力や別次元から生じさせた津波】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を海に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠フォルティナ・シエロです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●深き場所より来たりし者
 遺跡で様々な石板を入手し、後は船へと戻るだけ。ゾンビの群れを打ち倒し、もはや何の危険もなくなった遺跡ではあったが、しかし状況は祭壇の部屋に戻った瞬間に一変した。
「繧ェ繧ゥ繧ゥ繧ゥ繧ゥ……」
 謎の咆哮と共に、遺跡の床をブチ破って現れた巨大な影。のっぺりとした純白の身体に、人間を思わせる巨大な腕。
「な、なんと! まさか、あの壁画に描かれていた存在まで現れるとは……!」
 これには、さすがの烏丸博士も、驚愕して言葉を失う他になかった。怪物の数は一匹しかいないものの、これだけの巨体だ。下手に暴れ回られたら最後、自分が無事に帰れる可能性は万に一つもないだろうから。
「謌醍ュ峨?逾櫁*縺ェ繧句慍繧堤官縺呵???豎昴i縺?」
 人魚と呼ぶにはあまりに醜悪な、鯨にも似た姿をした化け物が、何やら意味不明な言葉で尋ねて来た。その意味までは解らなかったが、少なくとも目の前の怪物が、怒っていることだけは確かだった。
「逾槭?蝨ー繧堤ゥ「縺苓??↓逾樒スー繧……!」
 再び、謎の怪物が大きく吠えた。どうやら、このまま黙って帰してくれるわけではないようだ。
「諸君……万が一の時は、私ではなく、この石板が入った鞄を守ってくれ。重要なのは、情報だ。誰か一人でも、情報を持って遺跡を抜けられれば、それで良い」
 己の未来を察し、覚悟を決めて猟兵達に全てを託そうとする烏丸博士。だが、ここまで来て彼を見捨てることは、果たして正しい選択だろうか。
 危険を顧みず、目の前の怪物を倒して帰還するか、それともなんとかして隙を作らせ、その間に博士と共に遺跡から脱出するか。
 どちらに転んでも、危険なことに変わりはない。貴重な情報に、博士の命。それら全ての命運は、猟兵達に手に委ねられた。
露木・鬼燈
んー、ぶっ殺して悠々と帰還。
とゆーのがベストなんだろうけどね。
まぁ、場所が良くない。
派手に暴れたり、高威力のUCを放つ。
これらは危ないよね。
まずは力を封じておくのがいいかもね。
撃破と逃走、どちらを選んでも役に立つからね。
秘伝忍法<封縛>、こいつで力を封じてやるのです。
あれだけの巨体と力、完全に封じるのはムリっぽい?
それでもやれるだけやるですよ。
まずは水遁で霧を発生させて敵を包み込むです。
霧に破魔の力を宿すことでジャミング。
霧が覆い隠している間に<封縛>を発動。
素早く全身を包み込む。
更に封印符を重ねることで封印を強化。
ここまでやればイケルイケル!
あとは撃破と戦闘、どちらを選ぶか。
決断は早めにね。


クロエ・アスティン
POWで判定

「博士を見捨てるなんて嫌であります。絶対みんなで帰りましょう!」
ヒートアーマーのせいで動きの鈍い博士を連れて逃げ切るのは難しい、ここでやっつけるしかないであります!

戦槌で大盾を叩いて音を出し、怪物の注意をこっちに引き付けるであります
それでも博士の方に向かいそうなら「かばう」で割り込んだ後、
「怪力」で「シールドバッシュ」を叩きつけて弾き飛ばしてやります

敵の攻撃は【盾受け】で防御しつつ、必殺の一撃……【戦乙女の戦槍】を叩き込むチャンスを待つであります
ゾンビたちに放ったのとは違って、今度は一点集中!風穴を開けてやるであります!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です


シル・ウィンディア
なに、この大きいの
威圧的だし、何かわかんない言葉で話しているし…

でも、危害を加えようとするなら…
ここから先は、通行止めだからねっ!

対敵UC
広範囲型の攻撃なら避けるのは難しいけど…
博士を抱えて【空中戦】で被害の少なそうな空中へ移動
避けられない時は【オーラ防御】で博士ごと包んで防御
風の【属性攻撃】で【オーラ防御】内を空気でいっぱいにするね
最悪、呼吸できるようにしてっと…

攻撃は、光刃剣二本を束ねて大剣モードで斬りつけるね
これだけ大きいなら、大型剣モードでないと…
【フェイント】をいれて
切り返しなどの【二回攻撃】で攻撃

怯んだ隙に
【高速詠唱】と【全力魔法】のUCをお見舞いっ!
わたしの魔法じっくり味わってっ


エメラ・アーヴェスピア
このタイミングで現れるの…!
何とかして無事に帰る為に全力を出さなくてはいけないようね
ここまでやって守れませんでした、と言うのは全力で回避したいものだわ

魔導蒸気兵は護衛継続、私も立ち位置は変わらないけど…あの巨体でぶつかってくるだけでも、兵には防ぎきれそうにないわね
なら『我を護るは不壊の城壁』、撃滅するにしろ逃げるにしろ、とにかく博士や同僚さん達に向かう攻撃を防ぐ事を考えるわ
これなら津波や大量の水を出されても、横一列で呼び出す事で堤防として防げる筈
反撃はオマケ、攻撃は先程と同じように同僚さん任せよ
さぁ、全員で無事に帰るわよ!

※アドリブ・絡み歓迎



●深淵より来る
 遺跡の床を破り、暗き氷海の底より現れし者。壁画に描かれた人魚とも鯨ともつかない怪物は、ゆっくりと猟兵達を見回した。
「縺薙%縺ッ謌代i縺ョ閨門沺縲ゆク榊汳縺ェ繧玖??←繧ゅh縲∽サ翫☆縺舌↓蜴サ繧後?」
 相変わらず、何を言っているのかは分からない。人間の耳では正しく聞き取れず、人間の口では発音するのも難しい言葉。
 だが、それでも目の前の怪物が全身から発する圧倒的な殺気から、猟兵達は戦いが避けられないことを理解していた。
「なに、この大きいの!? 威圧的だし、何かわかんない言葉で話しているし……」
 正体不明の怪物を前に、シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は驚きを隠し切れなかった。それはエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)も同じだったが、しかし彼女は直ぐに気を取り直し、自分達が成すべきことを理解した。
「このタイミングで現れるの……! 何とかして無事に帰る為に、全力を出さなくてはいけないようね」
 戦うにしろ、逃げるにしろ、この強大な敵を相手にして楽勝とは行かないだろう。今までのような、雑魚相手の殲滅戦で済む話ではない。邪神教団が人為的に、中途半端な状態で召喚した邪神とも格が違う。
「んー、ぶっ殺して悠々と帰還……と、ゆーのがベストなんだろうけどね。まぁ、場所が良くない」
 そんな中、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は悩んでいた。
 確かに、戦って倒すことができる相手であれば、それに越したことはない。現状の戦力から考えても、倒せない相手ではなさそうだ。
 だが、それはあくまで、猟兵達だけで相手をした時に限られる。今回は非戦闘員の烏丸博士がいる上に、彼はヒートアーマーのせいで満足に走ることも難しい。
 そんな状況で、派手に暴れられたり、高威力のユーベルコードを使われたりしたら、どうなるか。答えは、火を見るよりも明らかだ。
 博士を連れて逃げるか、それとも目の前の敵を撃破して帰還するか……あるいは、最悪の場合は博士を見捨てても情報だけは持ち帰るか。どちらにせよ、決断は即時に行わなければならない。もっとも、猟兵達の中では、既に答えは最初から決まっていたようだが。
「博士を見捨てるなんて嫌であります。絶対、みんなで帰りましょう!」
 大盾と槍を構え、クロエ・アスティン(ハーフドワーフのロリ神官戦士・f19295)は博士を庇うように前に出た。それを見た他の猟兵達も、承知したとばかりに軽く頷いた。
「ヒートアーマーのせいで動きの鈍い博士を連れて逃げ切るのは難しい……ここでやっつけるしかないであります!」
「ん~、それだったら、まずは力を封じておくのがいいかもね」
 突撃しようとするクロエを制し、鬼燈は霧を発生させると、それで敵の周囲を包み込む。ただの霧ではない。魔を破る力を以て魔性の効果を妨げる、特別性の霧だ。
「縺ェ繧薙□縲√%繧後??」
 周囲を霧で覆われたことで、鯨人間は戸惑っているようだった。
 仕掛けるなら今だ。敵の視界が奪われた一瞬の隙を突いて、猟兵達は一斉に攻撃を開始した。

●怒れる巨影
 霧で覆われた怪物相手に、最初に仕掛けたのはクロエだった。
「さあ、こっちです! 狙うなら、こっちを狙うであります!」
 大盾を武器で叩いて鳴らし、敵の攻撃を少しでも博士から引き離そうという算段だ。霧で視界が塞がれていようと、音であれば聞こえるはず。確かに、その考えは正しく、敵はクロエを狙って来たが。
「諢壹°縺ェ繧玖??h縲∵ュサ縺ャ縺後>縺!!」
「……っ!?」
 瞬間、霧の中から飛び出して来た巨大な尾による直撃を食らい、クロエの身体は吹き飛ばされた。
「クロエさん!?」
「うぅ……だ、大丈夫であります……。でも……」
 砕け散った壁の残骸を払いつつ、クロエは心配するシルに向かって言った。壁が砕ける程に叩きつけられた衝撃は強烈だったが、それよりも博士の安否の方が気にかかった。
「わ、私は大丈夫だ。それよりも、君達の方こそ本当に平気なのかね?」
 ここは適当に牽制して退くべきではないか。そう、烏丸博士から提案されるも、猟兵達の中は敵に背中を見せて退くという選択肢はない。
 ここで下手に撤退すれば、不足の事態が生じた場合、真っ先に死ぬのは一番足の遅い烏丸博士だ。ここまで無事に調査を進めて来たからこそ、それだけは絶対に避けねばならない。
「今まで通りのセオリーで戦うしかないわね。あの巨体でぶつかってくるだけでも、蒸気兵だけじゃ吹き飛ばされそうだけど……」
 先のクロエの姿を思い出し、歯噛みするエメラ。彼女の操る蒸気兵だけでは、とてもではないが、巨体を生かした体当たりや、尾の一撃は防げない。全ての兵を融合させて戦闘力を強化しようにも、あまりにも体格差があり過ぎる。
「あれだけの巨体と力、完全に封じるのはムリっぽい? それでも、やれるだけやるですよ」
 ならば、自分が敵の動きを封じ、ユーベルコードの威力を削いでやろうと、再び鬼燈が仕掛けて行く。
「鎖で捕らえて、縛って、封じるっぽい!」
 印を結んで呼び出したのは、敵を封印する鎖のような姿をした生命体。その数、およそ250本以上。さしもの怪物も巨体を鎖で雁字搦めにされてしまえば、動きは制限されるはず。
「蟆冗飭縺ェ閠?←繧ゅa縲ゅ%縺ョ遞句コヲ縺ョ蜻ェ邵帙?∵$繧後k縺ォ雜ウ繧峨★」
 拘束から逃れようと、暴れ回る鯨人間。その隙に、シルは博士を抱えて空中へ飛び上がると、そのまま自らのオーラを防壁にして彼の身体を覆い、部屋の隅にあった突起の上へと着地させた。
「とりあえず、そこで待ってて! 危険だから、動かないようにね!」
 念のため、オーラの中を空気で満たし、シルは光の剣を抜き放つと、再び戦場へと降下して行く。見れば、巨大な怪物は鬼燈の鎖を千切らんと暴れながら、何やら理解不能な言葉で、呪文のようなものを唱え始めていた。

●零の海から
 鎖で拘束されたまま、巨大な鯨人間は、猟兵達には理解できない言葉を紡ぐ。
 それは、呪詛の言葉か、あるいは何かを繰り出そうとしているのか。どちらとも読めぬまま緊張が走る中、鬼燈は先んじて封印符を投げつけ、敵の動きを封じる策に出た。
「封印を強化するよ。ここまでやれば……」
 行ける、と思っていた。鎖で縛られ、視界も封じられ、敵は完全に動けないはずだから。常識で考えれば、確かにそうだったのかもしれない。
「窶晏卸荳匁峅縺上?∵オキ髮カ窶」
 だが、巨大な鯨人間は、それでも詠唱を止めなかった。そして、その言葉を紡ぎ終えた瞬間、溢れ出したのは大量の水! 敵は全く動いていないにも関わらず、それは歪められた空間の向こう側から、突如として遺跡の内部に溢れ出して来た。
「津波!? 嘘! こんな場所で!?」
「さ、さすがにこれは、大盾でも受け切れないであります……」
 迫り来る巨大な波に、圧倒されるシルとクロエ。こんなもの、いったいどうやって防げというのだ。身の丈よりも高い波を押し留めるなど、猟兵の力を以てしても難しい。
「下がりなさい。ここは私に任せて」
 しかし、そんな二人とは対照的に、エメラは最後まで落ち付いていた。
 あの津波がユーベルコードによる現象ならば、こちらにも対抗するのに最適な切り札がある。蒸気兵の力だけでは防げなくとも、彼女には絶対無敵の魔導防壁を呼び出す術が残っている。
「豬√&繧後h縲∽ク榊汳縺ェ繧玖??←繧ゅh!!」
 怪物の咆哮と共に、巨大な波が一斉に襲い掛かって来た。防壁で防ぐエメラだったが、少しでも気を抜けば壁を突破され、そのまま飲み込まれそうになる。
(「さすがにキツイわね。……でも!」)
 いかに強大な津波とはいえ、必ず引く瞬間が存在するはず。そこを逃さずに見切り、エメラは壁に内蔵されていた蒸気砲の一撃を、躊躇うことなく巨大な怪物へと叩き込んだ。
「残念、お返しよ」
「……ッ!? 縺弱c縺√=縺√=縺!」
 避けるだけの時間も与えずに、エメラの魔導蒸気砲による一斉射が、次々に怪物へと命中した。さすがに、これは堪えたのか、怪物の巨体が微かに揺れた。
「今がチャンスね。さぁ、全員で無事に帰るわよ!」
 エメラの言葉に、他の猟兵達も互いに顔を見合わせ、頷いて答える。
 ここは敵地。彼女の言う通り、長期戦は危険だ。あの怪物を倒すには、一点に狙いを絞り、攻撃を集中させるしかない。
「はぁぁぁっ!!」
 光剣を重ねて大剣と化し、シルが真正面から斬り込んだ。両腕を重ね、防ごうとする鯨人間だったが、初撃はフェイント。大きく振り下ろした剣を中断で止めると、シルは水に濡れた床を蹴り、そのまま光剣を敵の胸元に突き立てた。
「縺舌∞縺?∞縺?▲??シ!!」
 悶絶する怪物。あまりに凄まじい暴れように、鬼燈の施した拘束が千切れ跳びそうだ。
「まだまだ! わたしの魔法じっくり味わってっ!!」
 この程度では終われないし、終わらない。光剣の一撃で大きく傷ついた胸元へ、シルは追撃を食らわせるべく、高速で呪文を唱え。
「闇夜を照らす炎よ、命育む水よ、悠久を舞う風よ、母なる大地よ……」
 炎が、水が、そして風に土も合わせた4大元素が、彼女の元へと集まって行く。それらは全て強力な魔力砲弾となり、邪悪を穿つ武器と化す。
「我が手に集いて、全てを撃ち抜きし光となれっ!!」
 解き放たれた無数の砲弾。それらは一斉に怪物の傷口へと殺到し、爆発と共に不快な匂いのする怪物の体液が周囲に飛び散った。
「縺翫?繧……娯?ヲ窶ヲ蟆剰ウ「縺励>荳榊汳閠?←繧ゅa……」
 白い肌が大きく傷つき、内部の器官が露出する。厚い皮と脂肪に覆われ、外部からの攻撃を遮断する肉体も、ここまで大きく傷つけば話は別だ。
「そろそろ、押さえておくのも難しいかも。決めるなら、ここで決めた方が良さそうかも」
 既に、鬼燈の鎖による拘束も限界だった。ならば、決めるのは次の一撃でなければならない。
「ここは、自分が行くであります!」
 飛び出したのは、クロエだった。
 敵は強大。あの巨体は彼女の怪力を以てしても持ち上げることは難しく、体格とパワーの差から、盾で押し潰すことも不可能だ。
 一点突破。考えられる方法は、それしかない。幸い、シルの攻撃で敵の胸元は傷ついている。そこを狙い、攻撃を集中させれば、あるいは巨体を沈めることも可能かもしれない。
「光よ! 女神に仇名す者を貫く槍となれ! ――ヴァルキリーズジャベリン!」
 平時であれば拡散して用いる光の槍を、クロエは敢えて収束させ、敵の胸元に叩き込んだ。1本ずつは小さな槍であっても、それらを全て束ね、急所ともいえる場所に突き刺せば。
「縺弱c縺√=縺√▲!!」
 咆哮と共に、怪物の巨体が大きく揺れる。力を失った巨大な肉塊は、己が飛び出して来た穴へと落下して行き、水飛沫を上げて再び深き海の底へと戻って行った。
「……や、やったでありますか!?」
「ええ、たぶん……ね」
 敵の沈んで行った穴を眺めつつ、クロエの問いにエメラが答えた。果たして、あの怪物は本当に死んだのか。ここからでは直接生死を確認できないのが悔しかったが、迂闊に追撃するのが危険であることは、彼女も十分に承知していた。
「やれやれ、終わったかい。一時は、どうなることかと思ったが……そろそろ、ここから降ろしてくれんかね?」
 天井近くの突起の上にから、烏丸博士が猟兵達に呼び掛けた。誰も犠牲にならず帰還できること。その喜びに安堵の溜息を吐きつつ、猟兵達は大きく胸を撫で下ろした。

●帰還
 遺跡を抜けて船に戻ると、博士の助手をしていた女性が飛び出して来た。
「博士ぇぇぇぇっ! 心配したんです! お怪我は!? どこか、悪いところはありませんか!?」
「いや、大丈夫だ。全て、こちらの猟兵さん達のお陰でな」
 そう言って、烏丸博士は謎の石板が大量に詰め込まれた鞄を助手に渡した。石板に書かれていた文の解析は南極を離れてから本格的に行うことになるのだろうが、今はそれよりも、誰も欠けずに帰還できたことの方が重要だった。
「それにしても……あの変な鯨、なんだったんだろう?」
 やがて、遠くなって行く南極の地を船上から眺めつつ、シルが何気なく呟いた。
「もしかすると、この地球の先住者だったのかもしれんな。人とは異なる進化を遂げた生命体か……あるいは、別の宇宙、別の次元からやって来た存在なのかもしれん」
 祭壇の部屋に描かれていた壁画のことを思い出し、烏丸博士が言った。彼の仮説がどこまで正しいのかは、石板を調べてみれば分かるかもしれない。
(「今度こそ、本当に終わったのね……。いえ、むしろ、これからが始まりなのかもしれない」)
 そんな中、ここに至るまでの戦いを思い出しながら、エメラは遠い日本の地へと想いを馳せた。
 青森の洋館から始まり、製薬会社の巨大な陰謀を暴くことになった一連の事件。数多の人間を犠牲にし、数多のゾンビを生み出した悪夢を、二度と繰り返させてはならない。
 そのためには、この南極の探索で得た知識を、人類のために使わねばならない。邪悪なる者を呼び出すのではなく、深淵の彼方に封じるために。今度こそ、誰かのエゴで大勢の人間が死ぬようなことのないように。
 氷に閉ざされた大陸が、どんどん小さくなって行く。やがて、その全てが氷海の向こう側に消えてしまうと、冷たくも心地よい風が、猟兵達の横を通り過ぎて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年10月08日


挿絵イラスト