薄暗い部屋にガチャガチャと金属が擦れる音がした。
監獄めいた打ちっぱなしコンクリートの部屋に窓は無く、天井に埋め込まれた蛍光灯はバチバチと明滅。どこからか迷い込んだゴキブリがカサカサと走り、据え付けられたベッドの足元を這う。
ガチャン! と派手な音がしてゴキブリが逃げた。簡素なベッドの上からは、すすり泣く声。
「うぅっ、うっ……くっ……」
ベッドの下から伸びる四つの鎖と、そこに繋がる手枷足枷。四肢を縛られ、三本のベルトと括りつけられているのは、入院服を着た少女。鎖を震わせ、彼女はぼさぼさになった長髪を振り乱してうなされていた。
「ひどい……やめてよぉ……いやぁっ……」
閉じた目蓋に涙がにじみ、苦しみ首を振るたびに零れ落ちる。入院着からのぞく手足は引っかき傷の痕に塗れてズタズタだ。
狂気に虜囚となった少女は、閉じた悪夢の中でかすれた悲鳴を上げ続ける。見ている夢は、夕暮れの道。自分の靴を汚す血溜まり、そこに倒れ伏す少女、逆光となった男の人影。そして影の手で、夕日を反射する血濡れの刃。
「あ、あああああああああああああっ!」
少女が絶叫し、背中を弓なりにのけ反らせた。
直後、少女周囲の空間が球状に歪み、外側の色が毒々しい青と緑に染め上げられる。少女を取り巻く世界はステンドガラスめいて砕け散った。
ガラスのように砕けた世界の破片は、組み合わされて全く別の世界を作る。少女と縛られたベッドはそのままに、部屋は夕焼け差す学生寮の一室に。生まれた窓の外は人一人いない街並みに。それは実際、眠る少女の悪夢の具現。
夕日に染まる迷宮に、少女は独り囚われた。
●
「そういうわけで、女の子がひとり大変なことになって居まして……」
逆さにしたダンボール箱の上に立ち、シーカー・ワンダーは肉球の手でペンを揺らした。
外界から隔絶されたアサイラム――――そのひとつである精神病院で、一人の少女が『アリス』に覚醒しかけているとの予知が入った。
少女は名をハルカと言い、ある事件で心に深い傷を負ったために件の精神病院に収監されることとなった。
だが、なんの因果か彼女はアリスの適合者となってしまい、自身の悪夢を具現化した迷宮を生み出して暴走させてしまっている。加えて異常に高まったユーベルコードを察知してオブリビオンが集まっており、大変危険な状態だ。
「ひとまず迷宮のおかげでハルカさんは守られてるみたいだけど、このままじゃあ破られるのは時間の問題で……。ハルカさんの救出はもちろんですけど、まずは集まったオブリビオンを蹴散らして欲しいんです」
ハルカの迷宮を襲撃しているオブリビオンは、『怪奇少年・走二』 。呪いの技術を手にした悪戯少年で、今回はハルカの迷宮から立ち上る血の匂いに惹かれてやって来たようだ。
皆にはまずオブリビオンの排除。全滅を確認してから迷宮に入ってハルカを探すしてもらうことになる。
迷宮は、外側が赤黒い光のドームで、内側は夕焼けの街となっている。しかし迷宮と言うだけあって、ただ道なりに沿って進んでもハルカのいる学生寮にはたどり着けない。迷宮の各所にいる泣いているハルカと対話し、彼女を説得するなり励ますなりして信用されれば、自然と道を示してもらえることだろう。
彼女に何があったかも、開示されていくはずだ。
「このままだと、ハルカさんはアリスラビリンスに送り込まれて迷子になってしまいます。どうか助けてあげてください」
シーカーはダンボール箱からぴょんと降りると、爪先で床を二度叩く。BOMB! 白煙と共に現れたハイビジョンテレビ型のゲートを指し示し、シーカーはぺこりと頭を下げた。
鹿崎シーカー
ドーモ、鹿崎シーカーです。UDCアースのシナリオですが、アリスラビリンスに繋がっているので気合い入れていきます。
●舞台設定
とある精神病院です。アリス適合者となった少女『ハルカ』が収容されていますが、彼女のユーベルコード『あの時、私は』によって生成された迷宮に取り込まれ、赤黒いドームの外見となっています。中は夕方の街です。ここの学生寮の一室にハルカがいます。
●成功条件
オブリビオンの全滅する。ハルカを説得し、救出する。
失敗した場合、ハルカはアリスラビリンスに送り込まれてしまいます。
●第一章『怪奇少年・走二』 (集団戦)
呪いを得意とする少年型オブリビオンの軍団です。ハルカの血の匂いに惹かれたようで、迷宮に乗り込んで呪術の材料にしようと考えているようです。
彼らは迷宮内部について何かつかんでいるようです。上手く行けば迷宮突破のヒントをもらえるかもしれません。
●第二章『『七血人』悠久のシロガネ』 』(ボス戦)
元シリアルキラーの邪神。七血人最強の筆頭。揺るがぬ鋼の心身を持つ冷徹な武人だが、快楽殺人鬼。圧倒的な身体能力と武術で相手を蹂躙する怪人。
走二が全滅した際に出現します。現在は迷宮の入り口を探っているようです。彼女もまた何か迷宮について知っているようです。
●第三章
街のあちこちに居るハルカの分身に声をかけつつ、迷宮を探索しましょう。
何があったかを聞き出しながら迷宮を巡り、彼女の心情に合わせて説得すればスムーズに解決できます。第二章までにヒントが得られていれば、追加OPにて全て再提示します。
なお、OPの冒頭シーンもヒントです。
アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。
(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
第1章 集団戦
『怪奇少年・走二』
|
POW : キシシ… 呪いあれ…!
【藁人形 】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : ヒヒ…女の生き血をチューチュー吸ってやるっ…
自身の身体部位ひとつを【牙の生えた吸血ヒル 】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : ふふふ…バーちゃん!タスケテー
【走二の祖母(モンスターペアレント) 】の霊を召喚する。これは【釘を何本も加えて飛ばす遠距離射撃】や【老婆とは思えないほど強い《たいあたり》】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
柚月・美影
せっちゃん(千里)と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎
●戦闘
所々【世界知識】で知った相手の情報で会話を試み情報収集
「解せないわね…。アンタがそんなにご執心する程、あの子はレアもの?」
【運転】【クライミング】【野生の勘】を駆使したドライブテクニックで縦横無尽に移動しながら戦闘・回避
攻撃には【念動力】【なぎ払い】で強化したバトルキャラクターズ
「銀河槍士と時空飛竜でレイヤード召喚!我が身に宿りる神秘の粒子、逆巻く銀河を貫き光を超えよ!根源より来たれ『銀河の時空神竜(ギャラクシー・クロノスドラゴン)』!!絶滅のギャラクティック・オーバーブラストォッ!!」
天門・千里
一人称:私
二人称:君、呼び捨て
アリスラビリンスってこうやってできるんだね。興味深い
・・・わかってるよ。真面目にやるって
モテなさそうな顔したガキだね。君モテないでしょ。
だいじょうぶおとこはかおじゃないよ
バイクで走りながら【世界知識】交えて迷宮の構造を【見切り】、
推測なども交えて走二相手にカマかけつつ【情報収集】
こういう分析担当は私じゃないじゃんもー
もちろん戦闘も忘れない
UCをメインの攻撃手段にしつつ、
【範囲攻撃】しつつ、【踏みつけ】や【薙ぎ払い】で
とにかく走二くんを近づけないように
祖母は攻撃を【運転】技術でかわしつつ
【カウンター】や【全力魔法】を叩き込む
おばあちゃんは帰って編み物でもしてな!
神代・凶津
今回はアリスになりかけの嬢ちゃんの救出か。
「・・・絶対に助ける。」
気合い入っているな相棒。
が、その前にオブリビオンを蹴散らすのが先決のようだぜ。
風神霊装でいくぜッ!
「いくぜ、相棒ッ!」
「・・・転身ッ!」
破魔の力を宿した暴風を纏った薙刀でなぎ払ってやるぜッ!
この手の敵の攻撃は呪詛耐性で多少はどうにでもなるしなッ!
相棒、どうやらこの敵はこの先にある迷宮内部についてなんか知っているようだぜ。ここは俺にまかせな。
おい、知っている事洗いざらい話せば命だけは助けてやるぜッ!
まあ、嘘だがな(ボソッ)
嘘も方便ってヤツだぜ、はっはっはっ。
【使用技能・破魔、呪詛耐性、なぎ払い、情報収集】
【アドリブ歓迎】
カイム・クローバー
一人称:俺 二人称:あんた 三人称:あいつ 名前:名前で呼び捨て
苦しんでる少女に持ってくる見舞い品じゃねぇみたいだな(藁人形の事)
悪趣味なガキだ。少しお仕置きが必要だな。
二丁銃にて【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】、【一斉発射】を含めたUCで数を減らしていく。
藁人形は銃弾で吹き飛ばせれば良いが、飛んでくる数が多いようなら【残像】回避も視野に入れておくぜ。
UCは集団を攻撃できるが、わざと一人だけ残しておく。狙いは勿論、迷宮突破のヒントを得る為さ。
銃口を向けて、洗いざらい知ってる事を吐いてもらうぜ。
素直に喋れば見逃す。…一応【フェイント】。そのまま消えるなら良し。攻撃してくるようなら容赦はしねぇぜ
忌場・了
どうにも空気が重い気が
でもそれについて考えるのは目前の敵に対処してから、だな
ただボコしても良いがコイツら一応ガキだろ
自慢話は大好きなんじゃねえか?
クソ…どうすりゃこの迷宮から出られる?
何一つわかりゃしないお手上げだ
接敵した際攻撃してくるなら手加減しながらの戦闘、苦戦を演出
此処について調べる力や頭も無い
そう思わせる様に言葉を紡ぎ、勝ち誇った相手が何か情報をひけらかすのを期待しよう
情報を得るもしくは話す様子無くただ殺される様なら
激痛耐性と覚悟で痛みに耐えつつ
カウンターと範囲攻撃でUCを放ち連中を攻撃手段の藁人形ごと燃やす
人を呪うのは良い趣味じゃねえと思うぜ
自身に返って来るって言うし不毛だろ
中村・裕美
『私・あなた・~さん・名前+さん付け、「…」が間に入るような喋り』
「……喋るのは苦手。……さっさと……終わらせる」
そんな感じでUCで相手にドラゴンランスを投げるが、それはフェイク。槍に気を引かせたところで走二の回避先を【見切り】、放物線を描くように藁人形を投げる【だまし討ち】。相手のUCのルールに向こうも巻き込む。
「……人を呪わば穴二つ……ってね」
藁人形遣いは引かれ合う運命(さだめ)なのかもしれない
ある程度のルール破りのダメージは【呪詛耐性】【激痛耐性】で耐えつつ竜形態にして手元に戻した槍で【串刺し】を狙う
「……この迷宮のこと……知ってること喋るなら……楽にしてあげる」
交渉による情報収集は苦手
「キヘヘヘヘヘ……!」
「キヘヘヘヘヘヘヘ……!」
アサイラム。病院ひとつを丸ごと飲み込む赤黒いドームの前で、『怪奇少年・走二』の群れが八重の円陣を組み、かごめかごめを踊りながら旋回していた。
軋るような笑い声がユニゾンし、額に括り付けたロウソクがゆらめく。 円陣の中央にはマントラめいた言葉を刻まれた魔法陣と、木の十字架にハリツケられた藁人形。
「かぁーごーめーかぁーごーめっ!」
「かーごのなーかのとーぉーりーぃはっ!」
「いーつーいーつーでーやーるっ!」
「よーあーけーのばーんにっ!」
「つーるとかーめがすーべった!」
「後ろの正面だーぁれっ!」
走二たちがピタリと止まる。皆一様に邪悪な含み笑いを浮かべて藁人形を注視する。
シンと静まり返った周囲。耳鳴りがしそうな静寂の中、数秒が経ったところで――――時間停止めいて固まった走二の誰かが呟いた。
「来るぞ……! 来るぞ……!」
直後、木の十字架に釘で磔にされた藁人形がガサガサとうごめいた。
手足を貫く釘から逃れようともがくヒトガタ。その真後ろに立つ走二が白目を剥いて膝を突く。力なく空いた口から涎を垂らす彼に、左右の走二が大げさに耳をそばだてた。
「なになに?」
「なんだって?」
白目を剥いた走二が、小さな声で何事か喋る。うんうんとうなずく二人の聞き耳走二が顔を離すと、白目の走二は我に返った。
「どうだった……?」
「成功だ」
「早速教えてくれ」
「キヘヘヘヘヘ……!」
他の走二たちが口々に言い始めると同時に、耳をそばだてていた二人の走二が周囲の別個体に囁き始める。
囁かれた走二たちがさらに別の走二たちに囁き、伝言ゲームめいて情報が広がっていく。八重円の列に拡散した話が隅々にまで行き渡ったところで、白目を剥いていた走二が涎をぬぐって問いかけた。
「そろそろ次行けるんじゃないか……?」
「いやいやまだだ。もうちょっと色々あった方がいい」
「髪も爪も持ってないしなァ」
「もう一回だ、もう一回……!」
「早くやろうぜ……!」
「キシシシシシ……!」
陰気な含み笑いが起こり、走二全員が不気味な笑い声を上げ出した。そのまま輪を微妙に整え、互いに位置を把握しなおして歌うために息を吸った、次の瞬間。
「おい」
輪の外からかかった声に、走二たちが一斉に振り返る。磔にされた藁人形の正面、走二たちの輪から数メートル離れた地点。並んで立つカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)と忌場・了(燻る・f18482)が険しい表情で走二たちを睨んでいた。
カイムが両手をポケットに突っ込んだまま、顎で藁人形を指し示す。
「曲がりなりにも病院の前で、一体なんの儀式やってやがる。それにそれ。苦しんでる少女に持ってくる見舞い品……って、わけじゃねぇみたいだな」
「つか、どう考えてもよからぬことやらかしてるよな。千羽鶴折るってガラでもねえだろう?」
了は煙草を加えて火を点し、走二たちの後方を見やる。
ドス黒い赤に染まった巨大なドーム。病院ひとつを丸ごと変化させた迷宮の外観を眺め、紫煙と一緒に溜め息を吐いた。
「これを調べに来たはいいが……そもそも入り口がわからねえし、中がどうなってるとかどうしてで出来たとか……あと、なんでお前らがこんなところにいるのかとか。はぁ……クソ、何ひとつわかりゃあしない。お手上げだ」
煙草を足元に落とし、火を踏み消す。それを見た走二の群れは互いの顔を見合わせあうと、小馬鹿にするように喉を鳴らした。
「何……? 混ざりたいの? オッサン」
「悪いけど、遊ぶなら余所に行ってよ……。こっちは今忙しいんだからさ……」
「そうそう……大事な呪術の途中なんだよ……遊んでんじゃないんだ……」
了の瞳がキラリと光った。
彼はカイムに目配せをし、軽薄な笑みを浮かべて大げさに肩をすくめてみせる。
「へえ、大事な呪術か。どういうもんなんだ? 興味あってな」
走二たちは傲慢に口の端を吊り上げ、皆一様に背後の迷宮を指差した。
「あんたが知りたがってる、こん中を調べる術さ……正確には、ちょっと違うけどね……」
「でも、おかげで色々わかって来たんだ。これ作った核のヤツの場所はこれから調べる……」
「わかったら帰ってよ。今忙しいんだ……」
不気味な笑みを浮かべたまま、二人に背を向けようとする少年たち。次の瞬間――――BLAM!
銃声が轟き、藁人形を磔にした十字架が仰向けに倒れた。根元を撃ち抜かれ、へし折られた十字架を見た走二たちは再度二人の方に目を向ける。
引き抜いた拳銃から硝煙をくゆらせ、カイムは腕を曲げて銃口を上げた。
「悪いが、このまま引き下がるわけには行かなくてな。……知ってる事、何もかも全部教えてもらうぜ。迷宮のこと、迷宮を作った奴のこと。他のオブリビオンのこともな」
走二たちは、再度倒れた藁人形の方に目を向ける。
二人から目を背けた状態で――――走二の誰かが肩を揺らした。陰気な笑いが湧き上がる。
「キヒ……キヒヒヒヒヒヒヒヒ…………!」
「キヒヒヒヒヒ……キシシシシシ……!」
「キヘヘヘヘヘヘヘ、キヘヘヘヘヘヘ……!」
静かに共鳴する走二たちの笑い声。やがて、走二たちは笑みを絶やさないままカイムと了の方を見た。嘲笑と侮蔑が混ざった、よどんだ眼光!
「ケンカ売ったね、オッサン。勝てると思ってんの? 超一流の呪術師、この怪奇少年軍団に……たった二人で……?」
「いいや、そこの二人だけじゃあねえぜッ!」
刹那、純白の竜巻が二人と走二たちの間に突き立った!
ほどなくして解けるように消えた風の中から現れたのは、鬼面を被った巫女服の少女。鬼面、即ち神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)の本体が、少女の体を操り薙刀を取り回す!
「見つけたぜ、オブリビオン共ッ! 迷宮の嬢ちゃんに手ェ出せると思うなよ!?」
「まあ、そういうわけだ」
カイムが二丁目の拳銃を引き抜き構える。
「お仕置きの時間だぜ、ガキ共。ちょっと強めの拳骨行くから覚悟しとけよ?」
「キヘッ!」
走二の誰かが嘲り、怪奇少年たちは一斉に両腕を巨大なヒルへと変貌させる。そのまま一歩踏み込み、彼らは叫んだ!
「やっちまえ――――――――――ッ!」
『キヒィ――――――――――ッ!』
走二の群れが地を蹴って飛び出した瞬間、凶津の左右を突風が貫いた。
駆け抜けた風の片方、一輪バイクにまたがった柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)は、バイクのハンドル部に設置したデバイスからカードをドロー!
「アタシのターンッ! アタシは銀河槍士を召喚ッ!」
デバイスから扇状に広がる光に、美影はカードを打ちつける。直後、彼女真上に銀河色のゲートが開き、軽装鎧を着込んだ槍持つ騎士が飛び出した。
「ハァッ!」
銀河色の槍術士が美影を飛び越え、かかとからハードランディングを繰り出し向かってくる走二たちへ跳躍! 美影と並走する中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)が手中で漆黒の槍を回転させる。美影が叫んだ!
「裕美ちゃんっ!」
「……喋るのは苦手。……さっさと……終わらせる」
裕美は片足で急ブレーキをかけつつ槍を振りかぶり、全力投擲! ミサイルめいて飛翔した禍々しい黒槍は銀河色の槍術士の真横に達する。槍騎士はその場で一回転して槍の柄尻に爪先を当て、走二たちへSHOOOOT!
「そんなの……当たるか……!」
走二の大群は左右に展開して飛来する槍を回避する。が、左右の列それぞれの先頭を征く走二二人の眼前に藁人形が飛び込んだ。
両手を振り切った裕美は顔を上げつつ、瓶底眼鏡を光らせる。
「……人を呪わば穴二つ……ってね。あと……走っちゃいけません……」
藁人形が膨張し、BFOOOM! 濃紫色の霧が先頭を征く走二を呑み込み、さらに十数人を巻き添えにした。
霧から飛び出すと同時、血反吐を吐いてその場に倒れ込む走二が十数人。体を曲げ、咳と共に血を飛ばしながらうめく個体と霧散した霧の奥で立ち止まる群れを眼鏡越しに見、裕美が隣を走る美影に告げる。
「……足止めしました……美影さん、どうぞ……」
「ありがと!」
美影はハンドルをひねって加速! そしてデバイスからもう一枚のカードを引き抜き、デバイスにセット。彼女の頭上に銀河色のゲートが展開!
「来なさい、時空飛竜!」
ゲートから放たれた蒼光球が破裂し、星空めいた色合いのワイバーンが産声を上げる。美影はバックジャンプで傍らに飛び戻って来た槍術士を横目に、右手を天に突き上げた!
「アタシは、銀河槍士と時空飛竜でオーバーレイッ!」
槍術士とワイバーンが光に包まれ、空へと飛翔! 螺旋状に絡み合いながら急上昇する閃光は、空に開いた銀河色の大穴に吸い込まれていく。
「我が身に宿る神秘の粒子、逆巻く銀河を貫き光を超えよ! レイヤード召喚っ!」
光の螺旋を取り込んだ穴が収縮してビッグバンじみて爆発! 世界を染める白の光を背後に、美影は声を張り上げた。
「根源より来たれ。『ギャラクシー・クロノスドラゴン』!」
眩い白を吹き飛ばし、姿を現した銀河色の巨竜が咆哮する。ドラゴンの背後、時計版めいて文字列を刻まれた歯車が高速回転! 周囲に宇宙空間の如き色彩の稲妻をまき散らし、巨竜の口が光を溜める。思わず足を止めて見上げる走二たちへ、美影は振り上げていた手をかざす!
「薙ぎ払え! 絶滅の……ギャラクティック・オーバーブラストォッ!」
『GRRRRAAAAAAAAAAARGH!』
獰猛に吠えた巨竜がビームを吐き出し、走二の群れに横一文字を刻み込む。大地に走った一直線の光が、CRABOOOOOM! 爆発の壁が走二たちを木っ端の如く吹き飛ばした。
『うがぁ――――――っ!』
『ぎえ―――――――っ!』
迷宮側へ押し返される走二たち。ガッツポーズを決めた美影は背後を振り向く!
「せっちゃん! お願いっ!」
美影の後方、やや遅れて走る蒼い三輪バイクの上で、天門・千里(銀河の天眼・f01444)がボーッとした目で赤黒いドームを見つめる。
伊達眼鏡を格好つけて押し上げ、千里は呟いた。
「アリスラビリンスってこうやってできるんだね。興味深い」
「せぇっちゃ――――――――んっ!」
「………………」
美影に呼ばれ、千里は渋々といった調子で眼鏡を外す。それを適当に投げ捨てると、小さく溜め息を吐いて言った。
「……わかってるよ、真面目にやるって。いよっと」
バイクハンドルを持ち上げウィリーからの跳躍! 銀河色の巨竜が背負う歯車に飛び乗って駆け上がり、ジャンプ台代わりにしてさらに跳ぶ。放物線を描いて飛翔した千里は地上、転がった走二たちと彼らが作った魔法陣を見下ろしてぼやいた。
「モテなさそうな顔したガキだね。君らモテないでしょ。だいじょうぶ。おとこはかおじゃないよ」
棒読みで言い放った千里の手に、蒼い刀身の剣杖現れた。千里はバイクの上でそれを振りかぶり、斜め下に向かって投擲! 立ち上がろうとする走二たちの後ろ側に突き刺さった剣杖は蒼の大爆発を引き起こした! 爆風が走二たちの体勢を崩す!
「うぎゃへっ!?」
再転倒した走二たちの真上に千里が到達。ウィリー状態で垂直落下した三輪バイクは着地と共に衝撃波を放って走二の群れを蹴散らした! 気だるげな目線の先には藁人形と魔法陣!
「……ふーん」
その時、バイクを止めた千里を丸く囲むように地面が砕ける! 地面から飛び出した巨大なヒルの頭が千里を中心に円陣を組み、彼女の頭上から牙を剥いて襲いかかった。
千里は真上を仰ぎ、無感情に呟く。
「うわ、何これ。気持ち悪っ」
ヒルの口が千里の顔面に噛みつく寸前、長く伸びた胴体が一閃された。さらに二度、三度と斬撃が翔け、ヒルの胴を斬り飛ばす!
バラバラと落ちるヒルの死体を背に着地した凶津と、その依代たる少女は、薙刀を片手に赤黒いドームを見上げた。
「さて、こいつが例の迷宮って奴か。こん中にアリスになりかけの嬢ちゃんが居て、そいつを救出する、と」
そう言う鬼面の奥で、少女が毅然と宣言。
「……絶対に助ける」
「気合い入ってるな相棒。が、その前にオブリビオンを蹴散らすのが先決のようだぜ」
対話する二人を取り囲む走二の群れ! 両腕を巨大なヒルに変えた彼らが、少女へと突撃していく!
「女だ……!」
「女の生き血……!」
「キィヒヒヒヒ……!」
刃をひと振りし、少女は薙刀を回転させる。白く清らかな旋風を巻き起こすそれを振り上げ、さらなる暴風を巻き起こした!
「風神霊装でいくぜッ! 相棒ッ!」
「……転身ッ!」
BFOOOM! 強まる暴風が渦を巻き、凶津と少女を中心に純白の竜巻を起こして天を突く! おかまいなしに疾走速度を速め、包囲網を狭めた走二たちが――――次の瞬間、シャンパンめいて首を飛ばした!
『ぎぁッ……!?』
清純な風が断末魔もろとも飛び散る血飛沫を吹き飛ばす中、竜巻を縦一閃の剣戟が引き裂く! 真っ二つに割れるように爆散した竜巻から現れたのは、白と紫の巫女服をまとった少女。胴に結んだ大きな赤リボンが突風に揺れ、漆黒の鬼面と化した凶津が両目を赤く光らせる。
「……転身、完了」
「ストームフォーム! 呪いがどうした! 破魔の風を受けやがれぇぇぇぇぇぇッ!」
凶津は少女と一緒に薙刀を長く持って一回転! 渦巻き状に走った斬撃が残った走二たちの体を寸断し、黒い塵に変えて粉砕させた。それを遠巻きに見ていた走二が後ずさる!
「ず、ず、ず、ずるいぞ……! 祓魔術なんて……!」
「おお、落ち着け……みんないるんだ……みんなで呪えば怖くない……!」
「そ、そうだ……藁人形だっ……!」
走二たちが腰に下げていた藁人形の胸に釘を刺し、凶津たちへと振りかぶる! だが藁人形を投げる直前、虚空を貫いた紫電が彼らの腕を藁人形ごともぎとった。唖然として自分の腕に目をやった彼らは、腕から噴出する血と共に絶叫!
「いでええええっ!」
「いぎゃァァァァァァァァッ!」
BLAMBLAMBLAMBLAM! 走二たちの悲鳴を銃声がかき消す。二丁拳銃で走二たちの側頭部を撃ち抜き、カイムは両手でガンスピンリロードを決めた。
「おいおい、どこに目ぇつけてんだよ。俺もいるってこと、忘れてねえだろうな?」
再装填を終え再度二丁拳銃を構えるカイム! だが彼の背後に一人の走二が藁人形を手に回り込み、人形の胸を射抜いた釘でカイムの背中を刺さんと狙う!
「おっと、そうはさせねえよ!」
刹那、その走二の首根っこをひっつかんだ了が、一本背負いめいて少年を真後ろに投げた! 山なりに弧を描き、走二は地面をバウンド!
「あだっ、どわッ……!」
ゴロゴロと転がる走二を油断なく見据える了。彼と背中合わせになったカイムは、身構えながら言った。
「あっちの一人、あんたに頼んでいいか?」
「ああ、残りの始末は任せたぜ。人数足りるか?」
問い返されたカイムは、戦場を見据えた。ブレスを放つ銀河色の竜、槍と薙刀を振り回す裕美に凶津。数を頼りに襲いかかる走二たち。カイムは頷く。
「充分足りてる。じゃ、頼んだぜ。殺さないようにな!」
「わかってるよ!」
返事と共に格闘の構えを取った了が飛び出す! 立ち上がった走二が投げつけてくる藁人形を、了は右手を薙いで放った炎で焼き払った。舞い散る炎の奥から突き出るヒルの牙!
「っと!」
背を逸らしてヒルの牙を避け、了はその腹を裏拳で打つ! すぐさまバク転して金的蹴り上げをかわすと、白煙上げる手で拳を握った。
「ガキと思ってたが、案外やるな。超一流を名乗るだけはあるってことか」
「当たり前だろ……」
右肩から先を巨大ヒルにした走二が、うねうねと胴体を動かしながら言い返す。
「こっちは……どんな呪術だって扱えるんだ……なんだって出来る……オッサンを殺すことだって……!」
「そうか、それで迷宮のこと調べてたってわけだな。……羨ましいぜ。こっちはなんのこっちゃ全然だ」
了の言葉に、走二は慢心の顔で口元を吊り上げた。
「もちろん……。知りたいの?」
「ああ。教えてくれるか?」
「いいよ……死んでから教えてあげるよ……!」
駆け出した走二が右ストレートの要領でヒル腕を伸ばす! 紙一重で吸血攻撃を避けた了は、肉迫してきた走二の左ストレートを片手でガード。スネの蹴りを敢えて受け、わざと顔を歪めてみせた。
「痛って!」
ニヤリと笑った走二はヒル腕を引っ張り戻して鳩尾に頭突き! 片腕を差し込んでこれを受け、走二の額を押し返してデコピンを繰り出す。眉間を打たれてよろめく走二に、了は一歩下がって問いかけた。
「死んでからと言わず、冥土の土産に今教えてくれよ。あの中はどうなってるんだ? そもそも、どうやって入る?」
「さあね……」
額を左手でさすりつつ、走二が答える。
「入り口は違う奴が探してる……。中はね、夢さ」
「夢……?」
眉根を寄せる了に、走二は気をよくして笑った。
「ヒヒッ……そう、夢。愛憎と狂気……呪術にうってつけなものがグッチャグチャになってる世界さ……! 中の奴は狂っちゃったのさ……人を殺してね……!」
他方、美影は正面から突っ込んで来るヒルの真下を、ギリギリまで横倒しにしたバイクでスライディング回避! 仕掛けてきた走二が銀河竜の爪撃でかっさらわれたところで体勢復帰し、その場で回転して左右から飛来した藁人形をかわす。ハンドルをひねりながら美影はぼやく。
「解せないわね……。アンタたちがそんなにご執心する程、あの子はレアもの?」
跳躍する美影を追い、地面から巨大なヒルが六匹飛び出す! 空中のバイクに追いすがるそれらを銀河竜のブレスに消し飛ばされつつ、ヒル腕を地に突き刺さした三人の走二が口々に言った。
「ハッ……トーシローにはわからないよ……!」
「キシシ……呪いのプロじゃないとねぇ……」
「超一流じゃないとわからないよねぇ……こんな機会、めったにないって……!」
直後、三人は白目を剥いて前のめりに倒れ伏した。後頭部には一人一本ずつ蒼い短剣! 持ち主である千里はバイクを走らせ、真横から飛来する複数のヒルを加速して避けていく。背後で起こる破砕音を置き去り、口にを手を当てて気の抜けた声を投げかける。
「一列にしたよー」
「ナイスだ千里!」
走り去る千里の後ろで、カイムが地面に突き刺さったヒルの一匹に着地! ロケットスタートを決めるとヒルを伝って猛然と走り、横一列に並んだ走二たちへと一気に距離をつめていく!
「引っ込め……!」
走二たちが全員一緒にヒル腕を引き戻す。だが軽やかに跳んだカイムは空中で一回転を決め、二丁拳銃の銃口に雷をチャージ!
「噛み砕け、オルトロス!」
BLAMBLAMBLAMBLAM! 銃声と共に噴き出す紫電! 流星群じみて降り注いだそれらは犬の頭を模して大口を開け、走二たちへと噛みかかる! 慌てて左右に分かれて逃げる走二たち、その中央に居た数人が雷犬の強襲を食らって諸共に爆発四散。カイムは肩越しに叫ぶ!
「悪い裕美、凶津! 何人か逃した!」
雷弾を分かれて避けた走二たち。その片方の征く手を裕美が塞ぎ、もう一方の前に凶津がインターラプトした。
「……では……フォロー……入れますね……」
「まとめてぶっ飛ばしてやるぜ! 食らいなッ!」
裕美が槍を振りかぶって投擲し、凶津は薙刀斬り上げから風の刃を解き放つ! 黒い槍が複数人の走二を串刺しにし、風の刃が残りを引き裂き塵へと変える。途中で裕美が血を吐いた。
「ごふっ……」
歯を食いしばり、口元の血を袖でぬぐい取る。走二にかけられた呪いの影響、腹に大量の釘を詰め込まれた痛みを押し殺した次の瞬間、裕美の目前で地面が爆発! 巻き上がった土煙を吹き飛ばし、巨大な老婆が姿を現す!
「お前ぇぇぇぇぇかァァァァァァァァッ! 孫をいたぶる不届き者はぁぁぁぁぁぁああああッ!」
「……これは……」
裕美の頬に汗が流れた。大きく息を吸った老婆は口からガトリングめいて釘を発射! 腹の激痛をおしてバックダッシュする裕美に、釘の雨が追いすがる! 老婆の背後、疾走した凶津が跳躍!
「孫をやられてご立腹ってか! そんなに大事なら……」
振り上げた薙刀の刃が白いつむじ風をまとう!
「甘やかしてねえでしっかりしつけろってのッ!」
SLASH! 斬撃の勢いで放たれる白の風! 老婆は振り向きざまの裏拳でこれを迎撃するも、手の甲を引き裂かれてどす黒い液体をまき散らした。構わず逆の手で繰り出された老婆のパンチに対し、凶津は少女の体ごと風と化して正面から迎え撃つ!
「オラアアアアアアアッ!」
老婆の鉄拳をかわし、白い螺旋を描いて腕を登り老婆の背後へ! 輪切りとなって落下する腕の部品を蛇行運転で避けた千里が老婆の足元からジャンプした。剣杖を振りかぶり、老婆の胸元に飛翔!
「邪魔! おばあちゃんは帰って編み物でもしてな!」
零距離投擲された剣杖が老婆の胸元を貫通! 悲鳴を上げて消滅する老婆を遠くに見た最後の走二が声を上げた。
「ばーちゃああああああああああん…………!」
そこへ踏み込んだ了が走二の顔面を殴打! 鼻血を吹きながら尻餅をついた彼をよそに、了は仲間たちの方を見やった。
「おっと、そっちは片付いたか」
了は走二の胸倉をつかみ、前後反転の勢いを乗せて投げ出した。地面に打ちつけられた走二に、数人の影が覆い被さる。顔を上げた彼に、拳銃と槍と薙刀が突きつけられた。
「おい」
「キヒッ……!?」
息を呑む走二に、裕美と凶津が刃を近づけつつ恫喝!
「……この迷宮のこと……知ってること喋るなら……楽にしてあげる」
「おっと、楽にするってなァ言葉のアヤだ。洗いざらい話せば命だけは助けてやるぜッ!」
「素直に喋れば見逃してやる。ひとまずお前がやってた儀式から話せ。話さねえって言うなら……」
カイムが銃の撃鉄をゆっくりと起こす。後ずさりしようとした走二は、了に背後を固められた瞬間震えあがった。
「わ、わかった! 話す……話すから……!」
走二は慌てて口を動かし始める。
「さ、さっきやってたのは、付加呪術さ! 元あった歌と踊りとかを呪いにしたんだ! 言霊ってやつ! あ、あの藁人形は迷宮を作った奴を見立てて、誰かにそいつの生き霊を下ろす……そして色々教えてもらうんだ! 半端な奴なら、生き霊に乗っ取られるんだけど……」
「わかった。次。なんでここを狙った?」
「こ、この迷宮を作った奴は、呪いの素材としてとんでもない資質を持ってるんだ……。ここまで深い狂気を持ってる奴なんて……そ、そうそういないからな……」
「狂気だ?」
走二はこくこく頷く。
「そうだよ、狂気だ。呪術の素材に必要なのは、つ、強い感情と思念……残留思念って言葉ぐらい、聞いたことあるだろ? 現実にカタチとして残るほど、強く強く固まった想い……モノに沁み込むぐらい、濃いそれがあれば……強力な呪いも、上手く行く……!」
「……続けて聞くぞ。なんでそんなことになった?」
「友達を殺されたのさ……いや、友達って言っていいのかな? ヘヘヘ……」
下卑た笑みを浮かべる走二に、凶津と裕美の刃が近づく。走二は慌てて供述を再開した。
「アイツ、友達が死んだってカンジじゃないんだけど……とにかく大事な人を、目の前で殺された……フヒヒ! そのショックと、思い出と、憎いって気持ちでこの迷宮は出来てる……心のほんの一部だけで世界を作ったんだ! これ以上の素材は無い……!」
「そうか。で、その大事な人とやらの名前は?」
「ユ、『ユミ』って言ってたよ……男に殺されたんだってさ! キシシシシシ!」
BLAM! 走二の股の間に銃弾が突き刺さる。殺意混じりの無言催促!
「こ、この迷宮は憎悪の砦だ! これ全部まるっと使えば……いや、この迷宮を作った女も素材にすれば! 世界征服だって夢じゃない……! 世界の全てを呪ってやれる……!」
「……どこまでも胸糞悪いガキだな」
溜め息を吐くカイム。凶津は走二の頬に薙刀の刃を押し当てた。
「知ってることはそれで全部か? まだ何か隠してねえだろうな?」
「な、ない……い、いや、ここの入り口を探してるオブリビオンがいるよ……今どの辺にいるかまではわからないけど、もう見つけてていい頃だ……!」
逆の頬に裕美の槍の穂先が当たる。
「……他は?」
「え、えーと、えーと……い、いや、もうない! ホントにこれだけなんだ……勘弁してください!」
地べたに額を擦りつけ土下座する走二。それを見た三人は顔を見合わせ、武器を下ろした。片足を下げ、カイムが告げた。
「見逃してやる。とっとと骸の海に帰れよ」
走二に背を向け、歩き出す三人。その背後、土下座したままの走二は怒りと屈辱に身を震わせた。三人に気づかれないようポケットに手をやり、中から藁人形を引っ張り出す。
(こ、コケにしやがって……の、呪ってやるッ……!)
走二は藁人形を目前に掲げ、強く握りしめる。気配を察したカイムは、走二を見もせずに口を開いた。
「凶津、頼んだぜ」
「おうよ!」
凶津と少女の左手で高速回転する薙刀が、後方に白の斬撃を飛ばす。風の刃は藁人形を手にした走二を真っ二つに引き裂いた。
藁人形を取り落としつつ、走二は呟く。
「た、助けるって……言った……くせに…………!」
「ああ、言ったぜ?」
薙刀を肩に担ぎ、凶津はボソッと言った。
「……まあ、嘘だがな。嘘も方便ってヤツだぜ、はっはっはっ」
「アギャァァァァァァァァァァァァァ…………!」
断末魔を上げて塵と化す走二。そして周囲は静寂に包まれた。
大成功
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第2章 ボス戦
『『七血人』悠久のシロガネ』
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POW : 一騎当千
【魂を燃え上がらせる程の全身全霊】に覚醒して【自身の総てを出し尽くす永劫覇王】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 古今無双
【古今東西ありとあらゆる武術の神髄】【物理法則を無視した全ての力を消滅させる理】【それ総てを呑み干す強靭な精神】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ : 堅牢不落
全身を【不壊の王の銀鎧】で覆い、自身が敵から受けた【全てのダメージを無効化・反射し、それ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:白暁
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「死之宮・謡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ヒントのまとめ(OPに表記したものは除く)
・迷宮の中身は少女が見る夢そのもの。
・迷宮を作り出した少女は大事な人を殺された。
・大事な人の名前は『ユミ』。男に殺された。
・迷宮は愛憎、狂気、憎悪、思い出で作り出されている。
・少女は人を殺して狂った。
・呪術の素材としてはこれ以上無いほど強い思念で迷宮は物質化している。
●第二章の概要
『『七血人』悠久のシロガネ』が迷宮の入り口を発見しました。ここから迷宮内へ侵入中です。追撃して撃破してください。
迷宮の入り口は長く広い回廊となっており、一直線に迷宮内部へ繋がっています。
悠久のシロガネは、何故か回廊内では強化されており、ユーベルコードによりデメリットが消滅しています。この強化は迷宮の特性が原因となっているようです。
プレイング次第で迷宮に関する追加のヒントが得られます。
悠久のシロガネは快楽殺人者です。
プレイング受付は9月18日8時31分~9月19日8時29分までです。
途中参加も受け付けております。
中村・裕美
『私・あなた・~さん・名前+さん付け、「…」が間に入るような喋り』
突入前の事前準備に、精神病院に【ハッキング】を仕掛けて今回の少女の境遇や入院の経緯などが客観的に記録されたデータがないか調べておきたい。そこにも鍵があるかもしれないから
戦闘
「……まるで無敵を絵に描いたような存在ね」
正攻法で戦っても崩せそうにないので、まずは彼女を強化している要因を【情報収集】
シロガネの快楽殺人者というメンタリティが影響しているなら、UCによって殺人に対する己の認識を変更(例えば快楽の為を義務のためとか)できないか試みる。もしくは、迷宮がシロガネの存在を認識できないように出来るか試みる。
「……直接戦闘は……任せた」
カイム・クローバー
……ユミ…少女の家族…か?男に…殺された…?
距離に応じて武器を変えていくが、遠距離なら銃撃、近距離なら魔剣を顕現。…だが、狙いは近距離だ。覇王とやらとやりあってみるのも悪くない。
【二回攻撃】と黒銀の炎の【属性攻撃】、炎を使った【範囲攻撃】と【衝撃波】で戦闘。
攻撃には【残像】と【見切り】、【第六感】を用いて躱す、最低でも致命傷を受けないように。
UCを使うのはほんの一瞬だけ。勝てると相手に悟らせて大振りな一撃を繰り出した瞬間。【フェイント】を使用した一瞬だけの戦闘力の増大。
快楽殺人者がどうしてこんな所にいる?ここにお前が殺すような対象が居るとは思えないぜ?(剣を突き付ける)…お前の狙いは…何だ?
柚月・美影
せっちゃん(千里)と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎
●戦闘
『七血人』悠久のシロガネ』を追撃
【野生の勘】で迷宮を進み
【運転】【クライミング】で走破していく
【運搬】で移動手段に乏しい仲間も移動させる
相手に追いついたら戦闘&情報収集
「こんなに強化されてるの…アンタが快楽殺人者なのと関係でもあるの?」
攻撃は『バトルキャラクターズ』
【念動力】【なぎ払い】で強化
ユーベルコードの突破を試みる
「強い…なら!手札から『RM-銀河開闢』を発動!進化せよ、ネオ・ギャラクシー・クロノスドラゴン!!…必滅のネオ・ギャラクティック・オーバーブラスト!!」
天門・千里
一人称:私
二人称:呼び捨て、君
アドリブ歓迎
悠久のシロガネの追跡
迷宮の構造を【見切り】、【運転】を駆使して走破していく
「さっきのガキみたいに脅して答えてくれそうにないなこりゃ」
迷宮の構造や、【世界知識】、先ほどの走二から聞き出したことを加味しての【情報収集】。
相手へのかまかけも忘れない
「あんたが強いのは、あの女の子が殺人鬼に対して思うことがある、とかどう?」
戦闘に関してはフォトン・ソードを駆使しての
【一斉発射】や、【高速詠唱】と【スナイパー】を駆使しての【属性攻撃】などを行う。
時折味方に対する【援護射撃】も行う
相手が堅牢不落を発動したら【鎧砕き】攻撃や、【鎧無視攻撃】を行うようにする。
神代・凶津
やれやれ、どうやらこの事件一筋縄ではいかないらしいな。
けど考えるのは後だぜ相棒。
まずは、目の前のオブリビオンを倒すのが先よ。
「一気にいくぜ、相棒ッ!」
「・・・転身ッ!」
鬼神霊装、こいつは一味違うぜッ!
先手必勝、一気に距離を詰めて左手の薙刀でなぎ払いの先制攻撃よ。
そのあとは、敵の攻撃を見切りながら右手の妖刀で斬り結んで隙を見てカウンターを叩き込んでやるぜ。
こいつも何か迷宮について知っているようだぜ。
戦いながらどうにか情報収集できればいいんだがな。
ともかく奴の言葉を聞き逃さないよう注意しないとな。
【使用技能・なぎ払い、先制攻撃、見切り、カウンター、情報収集】
【アドリブ歓迎】
迷宮内部へ続く道は、赤黒い一本の回廊だった。
不気味に脈打つ床・壁・天井のマーブル模様。遠く聞こえる悲鳴めいた声を、二つのエンジン音が上からかき消す。迷宮を三輪バイクで駆けつつ、天門・千里(銀河の天眼・f01444)は目だけを動かして回廊内を見回した。
「なーんか、嫌な雰囲気だなー。ホラー映画のイントロみたいだ」
「ホラーで済めば良いんだがな……」
千里の真横、足で並走するカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が顔をしかめる。
うっすらと紫の稲妻をまとった彼は、顎に手を当てて思考を回す。脳裏をよぎるのは、『怪奇少年・走二』を脅して聞き出した言葉。
「……ユミ……少女の家族……か? 男に……殺された……?」
「……たぶん……違う……」
「何?」
カイムが千里のバイクに目を向ける。より正確には、三輪バイクと連結されたサイドカーに乗り込み、ホログラムのキーボードを叩く中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)を。
裕美は展開した三枚のホロウィンドウの光をビン底眼鏡に反射させ、並ぶ文字列に目を通す。
左から順に、履歴書めいて少女の顔写真と文章がついたページ・カルテ・何かの文書。
「……病院のデータ、なんとかアクセス出来た……。例のアリス適合者……名前はチハヤ・ハルカ。……家族構成は母親と父親の三人……姉も妹もいないし……母親の名前はユミじゃない……」
「裕美ちゃん、ちょっといい?」
千里を挟んで裕美の反対、モノバイクを操る柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)が口を挟んだ。
タンデムした巫女服の少女を落とさぬよう、細心の注意を払いつつ首を伸ばして千里の奥から裕美を見る。肩を縮め、目を合わせようとしない裕美に、続けて問いかける。
「確か、さっきの……走二君、だっけ? あの子たち、友達が死んだって感じじゃなかったって言ってたわよね?」
「……言ってた」
こくんと頷く裕美。そこで、美影の腹に腕を回していた少女が声を上げた。
「……でも、それじゃ、変……」
「そうね。家族でもない、友達でもないって言うならなんなのって話だし……親戚とか、わかる?」
二度目の問いに、裕美は首を横に振った。
「……流石に、そこまでは……。それは……役所とかじゃないと……わからないと思う……」
「そっか。まあ、そうだよね」
前を向き直る美影。一方でカイムが口をへの字にひん曲げ、眉根を寄せる。千里も中空を見上げ、下顎に手を添えた。
「だが、それじゃあお手上げじゃないか? いとこだのなんだのを調べてる時間、無いだろ」
「親戚とかじゃないとしたらー、なんだろうなー。…………あっ」
唐突に声を上げた千里に、その場の全員が視線を向ける。
当の本人は微妙な面持ちのまま瞳を上の方へずらし、何も言わない。怪訝に思ったカイムが声をかけた。
「どうした。なんか心当たりあるのか?」
「あー…………」
しばらく返答もせずうなった後、千里は首を横に振る。
「いや、やめよう。私の趣味で話すべきじゃないなコレ。うん」
「せっちゃんの趣味ぃ?」
何を言っているんだ、と言いたげな顔の美影。眉間のシワを深めつつ、カイムがせっついた。
「なんだよ、逆に気になるだろ。いいから言ってみろって」
「いい、いい。ほら裕美、続けて」
「…………」
話を振られた裕美は眼鏡を押し上げ、咳払いをする。驚いたのか、頬には冷や汗。
「こほん……。発見時……ハルカさんは路地裏に居た……。そこで……カッターで男の死体をズタズタにしてるところを見つかり……警察に逮捕……その時点で自傷を繰り返していて……背中にも傷があった……」
想像したのか、巫女服の少女が青い顔で首を縮めた。
「ず、ズタズタ……どうして……」
「……わからない。聴取の時には……既に精神に異常をきたしていて……意志疎通が困難になっていた……って書いてある。……精神鑑定の結果……刑事責任能力が無いということで……無罪。……精神病院に送られた……未成年ってことで……報道もされなかったみたい……」
なんとも言えず、沈痛な面持ちで黙り込む面々。裕美は最後に、右端のウィンドウを読み上げる。
「病院では……男性に対して異常な恐怖を示して攻撃……及び自傷を繰り返したために拘束措置……定期的な鎮静剤と……精神安定剤の投与をされていたみたい……。症状は……記憶の一部喪失、狂乱など……。DNA鑑定の結果……ズタズタにしていた男は……同じ学校の先輩だったみたい……現場の傍では……ハルカと同い年の女の子が胸を刺されて死んでいた……」
千里がどこか不愉快そうな表情で呟く。
「それがユミってわけか。それで? 男とユミとハルカはどういう関係だったわけ?」
「……わからない……これ以上のことは……書いてない……。あくまで……病院のデータだし……」
「そりゃ参ったな」
額に手を当て、カイムは難しい声色でぼやいた。
「この事件で一番肝心なところだ。そこをどうにかしねえと、説得も何も無いぜ」
「……断片情報から……予想して……後は……本人に聞くしかない……」
「意志疎通困難って言われてる相手にか? どうやって話するかも考えないとな」
「難題ね……」
重い溜め息を吐く美影。一方彼女に抱きついた巫女服の少女は側頭部、だんまりを決め込む鬼面の神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)をコツコツと叩く。凶津は両目部分をチカチカと光らせ、声を上げた。
「んん? どうした、相棒」
「……何かないの」
「何かってなんだよ」
「……アイデア」
「アイデアぁ? なんの?」
「………………」
巫女服の少女は、間の抜けた声を出す凶津にジト目を向ける。やがて、何かに思い至った彼女は凶津をわしづかみにして万力めいた握力で締め上げ始めた。
「いだだだだだだだだだだだ何しやがる相棒いだだだだだだだだだだだだだだ!」
「……まさか、寝てた?」
「ねねねねねねね寝てねえって! 聞いてた、ちゃんと聞いてた! だからアイアンクローはよせ! 割れるだろうが!?」
パッと指を離され、凶津は安堵の声をこぼす。しかし、他の面々から意識を向けられ、内心滝のような冷や汗を流す羽目に。
不明瞭な声を上げて数秒逡巡したのち、凶津は言った。
「まあ、そのー……なんだ。一筋縄じゃ行かねえってことはわかるぜ。けど、考えるのはひとまず後だ。前見ろ前」
全員の視線が進行方向、赤黒い回廊の奥へ向く。
闇に包まれ果ての見えない道行き。しかしそこにぽつんと、銀色の点が見てとれた。フォーカスすれば、それは長い銀髪をなびかせて走る女騎士の後ろ姿だ!
黒いマントに、持ち主をより巨大な両刃の戦斧。オブリビオン『『七血人』悠久のシロガネ』に相違なし!
「まずは、アレを倒すのが先よ。そうだろ?」
「それもそうね」
美影が頷き、バイクハンドルをひねる。勇ましく猛るエンジン音。両目に鋭い光を灯した美影は、不敵な微笑みを浮かべて前傾姿勢!
「さっきの走二君みたいに、何か聞けるかもしれないし! 行くわよせっちゃん!」
「はいよー。あ、裕美。これ外すから」
「……わかった。……直接戦闘は……任せた」
「任されたっ、と」
千里がサイドカーと三輪バイクを結ぶパイプを蹴った。ガゴンプシュー! 圧縮を放ってパイプが外れ、裕美を乗せたサイドカーが急減速。次の瞬間、美影と千里を乗せたバイクがマフラーから火を噴いて爆発的に加速した!
BOOOOOM! 激しく風を切って走る二台。後方から響く重低音に気づき、遥か先を走るシロガネは肩越しに背後を振り向いた。彼女と視線をかち合わせた千里は、蒼いオーラをまとった右手を真っ直ぐ突き出す!
「そら、止まれ」
シロガネがハッと前に向き直って左足でブレーキをかけた。回廊の床を削りながら減速する彼女の行く手、蒼光が床をゴールテープめいて一直線に横切り、壁じみて真上に伸長! 完全に足を止めたシロガネの目前が、無数の蒼光剣の壁によって塞がれていた!
「……ほう?」
目を細め、シロガネが真後ろを振り返る。彼我の距離50メートル! 千里より突出した美影が右手を振り抜き、指二本で挟んだカードをバイクハンドルに展開した扇状光に打ちつける!
「さあ、再開よ! ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
カードと美影の周囲が恒星めいた光を放ち、地面から銀河色の巨竜が出現! 咆哮で回廊を震わせたドラゴンは、大きく息を吸い込み銀河色の光を口腔に溜め込む。美影は勢いよくシロガネに人差し指を突きつけた!
「攻撃よ! 絶滅の……ギャラクティック・オーバーブラストぉぉぉぉぉッ!」
『GRAAAAAAAAAAARGHッ!』
大きく胸を反らしたドラゴンが、口から銀河色のビームを放った! ZGYAAAAAAAAAM! 大気を引き裂く甲高いサウンドと共に迫りくる破壊光線。凄まじい閃光を前に、シロガネは右拳を胸元に当てる。その部分がボウッと銀の光を灯した。
「我が身に不壊の契り在り。ひれ伏せ逆賊。汝は銀の威光に砕ける定め!」
詠唱を終え、右手の平を光線へ突き出すシロガネ! 胸元にわだかまっていた銀の光が彼女の全身を包み、整った鉄面皮をフルフェイスの兜が覆い隠した。鏡面の如く輝く銀鎧の手の平に、絶滅の銀河光が正面衝突!
CADOOOOOOOM! 蒼光のデッドエンドとなった回廊奥を眩い白光が塗り潰す! 爆音に軋む通路、その爆心地にドラゴンのブレスが吸い込まれていき――――直後、銀河色の光線が光の中からドラゴンへと放たれた!
「なっ……!?」
光線は目を見開く美影の頭上を通過し巨竜の胸を貫いた。断末魔を上げ、ドラゴンが爆発四散! 後ろから爆風を受けた美影はバイクごと吹っ飛び、わずかに車輪を浮かせて着地と同時にコマめいて回転! ハンドルを必死に握りつつ、美影は背後の少女を呼んだ。
「桜ちゃん、降りてっ!」
「相棒、飛び降りろッ!」
「……ッ!」
唇を噛んだ少女は凶津に従い、回るモノバイクから飛び出した。横転した車体から投げ出される美影。彼女に振り向きたい気持ちを必死で押さえ、少女は側頭部の凶津を顔に被せた。鬼面の両目が真っ赤に光る!
「一気にいくぜ、相棒ッ!」
「……転身ッ!」
鬼面に触れた手の下から漆黒の瘴気が噴き出し、少女を飲み込む! 膨れ上がり、巨大なドクロをかたどった瘴気が内から斜めに切り裂かれ霧散。その中から飛び出したのは黒い巫女服をまとい、同色の薙刀を手にした黒鬼面の少女!
黒に染まった凶津が、爆ぜ散る白光から現れたシロガネを睨んだ。
「オーバードフォーム! このまま突っ込むぞ!」
「……推して、参るッ!」
少女の姿が掻き消え、彼女の居た場所を黒いソニックブームが吹き飛ばした。超高速でシロガネへ肉迫した少女は左手に薙刀を以って高速回転! 黒い稲妻をまき散らしながら跳躍し、3メートル近い背丈のシロガネに首狩り斬撃を繰り出す!
シロガネは首を挟んで刃の反対、握った戦斧の先を右肩側に向けて薙刀の一撃を受け止めた。響く甲高い剣戟! 薙刀の刃は戦斧に阻まれ完全に停止した。少女が鋭く息を呑む。
「……ッ!」
「何が来ているかと思えば、猟兵どもか。フッ……外の小僧どもは全員死んだか?」
「ご明察! テメェも一緒にくたばりなァァァァァッ!」
凶津が叫び神速後退! 着地から黒い稲妻を伴って超加速し、右太もも狙いの斬撃を放つが足場に突き立った戦斧の柄に受けられる。素早くシロガネの背後へ回り込む少女に、シロガネは前後反転からの回し蹴りを叩き込んだ!
「ぅくっ……!」
「ふっ!」
SHOOOT! 真横に蹴り飛ばされた少女が回廊の横壁に激突!
蹴り足を下ろしたシロガネがうなじに戦斧を担ぐように持ち上げると、斧の柄にカイムの斬り下ろしが直撃した。
「ちっ、読んでやがったか!」
毒づきながら剣を振り切ったカイムは反動で後方へ下がる。血に両脚をつけて制動をかけ、剣を振りかぶって回転。黒銀色の炎を刃にまとわせ、シロガネめがけて斜めに振り抜く!
「はァッ!」
BOOOOM! BOOOOM! 二連撃が炎の飛ぶ斬撃を発射した! X字を描いて突進してくる黒銀の炎に、シロガネは握った右拳を炎の斬撃に掲げ、ぶつかる寸前に勢いよく開いた。VANISH! 二条の爆炎が消し飛び、火の粉を散らす。右手を伸ばした体勢のまま、シロガネが問う。
「終わりか?」
「いいや、まだだ!」
左半身を引いて剣を振りかぶったカイムを取り囲むように、黒銀の炎が噴き上がった! 刃の柄を伝った炎が切っ先から長く伸びた直後、カイムは全力で斬撃を繰り出す!
「焼き切れ! インパルス・スラッシュ!」
CABOOOOOM! 津波じみた爆炎の衝撃波がシロガネを押し潰さんと攻めていく! 右手を下ろしたシロガネは左手の戦斧を持ち上げ、無造作に振り下ろした。
SLASH! 炎の衝撃波がバックリと割れ、奥にいたカイムを暴風が襲う。両腕で顔を庇い、踏ん張るも吹き飛ばされるカイム! 受け身を取り、後ろに転がりながら片膝立ちで静止した彼の背中を遠くに見ながら、裕美はホロキーボードをタイプする。
「……呆れた強さ。……まるで無敵を絵に描いたような存在ね」
呟き、ホロウィンドウへ目を向ける。映し出されているのは、サーモグラフィーめいたシロガネの全身図。赤く染まった全体を向き合いつつ、裕美はキータイプを速めて分析にかかった。
他方、シロガネは振り上げた斧をカイムの脳天へと振り下ろす! カイムは爆炎をまとった斬り上げで迎え撃ち、斧を跳ね返したところで横一回転!
「はッ!」
横薙ぎ一閃! 黒銀色の炎がシロガネの腹を横切るが、銀の鎧は無傷! シロガネはカイムの腹を蹴り上げて斜めに打ち上げ、瞬間移動した。足元につむじ風を巻き上げ、カイムの着地点で斧を下段に引き絞る!
「ふんッ!」
振り上げられた斬り上げが金属音と共に中途で停止! 斧の柄が複数の蒼光剣に抑え込まれたところで、シロガネの後方でドリフトした千里は合図を出した。
「美影、やったれ」
VOOOONG! バイクで千里を飛び越えた美影が、カードをデバイスにセット! シロガネの頭上に銀河色のゲートが開く。
「来て! ギャラクシー・センチネル!」
ゲートからハルバードを掲げた銀河色の騎士が垂直落下する! ハルバード兵は空中で高速縦回転し、シロガネに脳天砕きを敢行。しかしシロガネは右腕を持ち上げて振り来る刃をガードした!
無造作に右腕を振ってハルバード兵を放り出すシロガネ。彼女の頭上から弧を描いて飛来したカイムが、身をひねって燃える大剣を高々と振り上げる!
「おらよッ!」
炎の軌跡を描く斬り下ろしを、シロガネは斧の先端で受け止めた。カイムは両腕に力を込めるが、それ以上進まぬ! 刃に燃やした炎を強め、さらに押し込む!
「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
CABOOOOOM! 炎が大爆轟を引き起こし、回廊を放射状に拡散! 一拍遅れて床に同心円状の亀裂が走り、ヒビから黒銀の炎を吹き上げる。砕ける足場を凶津と少女は黒雷を引いて走った! 雑に斧を振ってカイムを弾いたシロガネの懐に滑り込み、ヘルムに守られた顎下を突き上げる! CRASH! 金属音を立ててシロガネの顎が跳ね上がったが、ヘルムは無傷。シロガネは少女の顔面ごと凶津をつかみ、足元に後頭部を打ちつけた!
「かッ……!」
か細い悲鳴を上げる少女の腹に、ストンピングが振り下ろされた。鬼面の下で少女が血を吐く。凶津は色めき立って声を張る!
「相棒ッ! おい、しっかりしろ!」
「あ、くっ……」
ぐりぐりと踏みにじられる足甲の下で少女がうめく。身をよじる巫女服の少女を見下ろし、シロガネは落胆の溜め息を吐いた。
「その程度か? 猟兵ども……」
だらんと下げた斧を肩に乗せ、首を左右にひねる。一方で美影、千里、カイムの三人は凶津と少女にフレンドリーファイアすることを危惧して動けぬ!
「せっかく木人程度にはなるかと思って期待したのだ。本気でないなら今すぐ本気を出せ。出なければ殺すぞ?」
「随分な言い草じゃない。内弁慶のくせして……!」
シロガネの動きが一瞬止まり、背後の美影を振り返った。油断なくカードを構える彼女に、ヘルムの下から両目の鋭い視線を向ける。
「……内弁慶?」
「だってそうでしょ? アンタの力はここに居てこそ。それにしたって、強くなり過ぎてると思うけど……」
美影は嫌な汗を流しつつ、手にしたカードでシロガネを指す。
「教えてもらえる? こんなに強化されてるの……アンタが快楽殺人者なのと関係でもあるの?」
「何を聞いてくるかと思えば。関係、関係と来たか。……ふむ」
シロガネは斧の柄で肩を軽く叩きつつ、沈黙思考。やがて、銀の騎士は回廊を見回して言った。
「ある……だろうな。少なくとも、この迷宮は私に馴染む。外の小僧どもの言葉ではないがー……そうさな、この迷宮がある種の触媒となって私を強化している。それはまず間違いあるまい」
「触媒?」
「水を得た魚、という方が正しいか? 私が殺人を繰り返してきたからこそ、ここの空気が心地良い」
「んじゃ、今度は私からも聞いていい?」
周囲に蒼光剣を数本浮遊させ、千里が挙手する。
気だるげな無表情の奥に僅かな焦燥をにじませ、内心でぼやいた。
(さっきのガキみたいに脅して答えてくれそうにないな、こりゃ。せっかくお喋りしてくれてんだし、誘導尋問と行くか……)
「あんたが強いのは、あの女の子が殺人鬼に対して思うことがある、とかどう?」
「はっ、それはあるまい。これを作り出した娘は、むしろ殺人を忌避しているからな。……いや、人を殺したという事実、誰かが死んだという現実を受け入れられない……というのが正しいか」
不意にシロガネが斧を持ち上げ、足元めがけて振り下ろす! 三人が目を見開き、しかし動く間もなく斧が床に叩きつけられ土煙を巻き上げた。
巨大な斧は、凶津のすぐ真上の地面を打ち砕き、迷宮の床に大きな裂傷を開いていた。声も無く震えあがる凶津をスルーし、シロガネは斧を持ち上げる。直後、迷宮の床の奥深くから、甲高い悲鳴のようなものが響いて来た。
『Kyaaaaaaa―――――――――ッ!』
シンと静まり返った回廊に沁みる声。固唾を飲み込む面々を、シロガネは改めて見回した。
「お前たちには聞こえないか? この迷宮に満ちる嘆きの声が。この世界を作った娘は人を殺した事実から逃れようとする。だが、逃げられはしない」
シロガネが亀裂に手をかざすと、床の奥から立ち上った赤黒い煙が手甲へと吸い込まれていく。拳を握りつつ、シロガネは嘲るように告げる。
「あの娘は殺人の瞬間を、永遠に夢として再現し続けている。すがる者も無く、拠り所も無く……そして娘は狂気に陥り、望まぬ殺しを繰り返す。夢幻の屍と共に罪悪感が積み上がり、膨れ上がった悲嘆と憎悪はこうして迷宮のカタチを取った。殺人だけが連鎖する悪夢の世界をな……!」
「胸糞悪い話だな」
今度はカイムが口を開いた。腰を軽く落とし、いつでも飛びかかれるように体勢を取りつつ、問いを重ねる。
「それで? この迷宮については大方わかった。……だが快楽殺人者が、どうしてこんな所にいる?ここにお前が殺すような対象が居るとは思えないぜ?」
黒銀の炎をまとった刃を、シロガネの顔に突きつける。
「答えろ。……お前の狙いは……何だ?」
「堕落だ」
シロガネは即答した。ヘルムの奥、銀の瞳が暗い輝きを灯す。
「この娘を、真に殺人鬼へ堕とす。悲嘆を愉悦に反転させ、この世界を殺戮の遊技場にする。そうなれば……この迷宮は殺意のおもむくままに広がり、外の世界を取り込むだろう。新たな犠牲者が増え、死体と血がこの地に積もる」
「なんだと……?」
信じられないといった面持ちで、カイムが思わず聞き返す。
「一体何を考えてやがる。そんなことをしてなんになるってんだ?」
「まあ待て、話は途中だ。私の最終目標は……迷宮を膨らませ、快楽殺人鬼と化した娘の首を狩ることさ」
猟兵たちが絶句し、息を呑む。シロガネは背を曲げて自らの肩をかき抱き、鎧を愉悦に震わせた。押し殺した笑い声!
「くくくくくくっ……! 殺す側に居る者が、殺される側に回る時……一体どんな顔をすると思う? 絶望するか? 怒り狂うか? それとも、もはやそれすら出来ぬ畜生に堕ちているのか? ああ……想像するだけで胸が高鳴る! あの娘が嗤いながら積み上げた死骸の山に、奴自身の死体を転がしてやりたい! 乾いた血染めの肌を自らの血で濡らす瞬間を、私は見たい!」
シロガネの真下、ヘルム越しに彼女の目を見た巫女服の少女の背筋に戦慄が走った。ギラギラと輝く銀色の瞳。その奥に燃える妄執めいた炎が、心臓を握られたかのような感覚を生む。
巫女服の少女は震え声で呟いた。
「……狂ってる……」
「わかるぜ相棒。これは流石に俺も引く」
小声で同意する凶津。足蹴にした二人を余所に、シロガネは顔を押さえて天井を仰いだ。
「ふふふふふっ……! ま、それとは別に、外の小僧どもから聞き出した呪術も試そうかと思った、というのもあるがな。蠱毒というものを知っているか? ひとつの入れ物に大量の毒虫を詰め込んで殺し合わせ、一匹に怨嗟を凝縮させる。そうして生き残った一匹は、最強の毒虫となる……はぁ」
恍惚とした吐息が間に挟まる。腕を解いたシロガネが、巫女服の腹を強く踏みにじった。
「くぁっ……!」
「幻想とはいえ殺人を繰り返す娘を一人閉じ込めた迷宮。所詮は記憶の再現に過ぎないが、それでも幾度となく繰り返せば蓄積されるものはある。さて……」
再び振り上げられる戦斧の刃が煌めいた。鋭く冷たい光が凶津を照らす!
「長々と話し過ぎたな。ともあれ、お前たちがこの迷宮の犠牲者第一号だ!」
SWING! 振り下ろされた巨大な斧が凶津ごと少女の頭を叩き潰さんと迫る! だがその真下に割り込んだカイムが燃える大剣を掲げてガード! 両腕に渾身の力を込めて戦斧を押さえ、カイムは叫んだ!
「千里!」
「はいよー。跳べ、フォトン・ソード」
千里が軽く腕を打ち振り、周囲に浮いた蒼光剣を射出! シロガネは巫女服の少女から足をどかしてカイムに前蹴り。大剣で防御しながらも吹き飛ばされた彼を余所に、振り向きざまの斬撃で蒼光剣を斬り払う! 直後、シロガネの足元で雷鳴!
体勢復帰して大きく距離を取った巫女服の少女は、薙刀を構え直してシロガネへと走る。漆黒の嵐でブーストしながら凶津が吠える!
「犠牲者なんぞになってたまるか! ここをテメェの墓場にしてやるぜェェェェェェッ!」
「……奥義!」
ZGAM! 超加速した巫女服の少女が一瞬でシロガネとすれ違う。振り切られた薙刀が激しい電光をほとばしらせると同時、シロガネが黒い稲妻に包まれた!
「グレート・オーガ・クロ―――――――ッ!」
「魔槍・鬼雷爪!」
ZGRAAAAAAAK! シロガネを中心に黒雷が大爆轟を引き起こし、無数の剣閃が嵐めいて吹き荒れた。引き裂くようなサウンドが何度も響く電光を、シロガネは片手を振って打ち払う!
大した傷も無いまま雷を消し飛ばした彼女の背後で、カイムは指笛を吹き鳴らす。彼の背後に噴き上がった黒銀の炎柱が破裂し、もう一人のカイムが出現! 先端に猛犬をあしらった二丁拳銃を構え、ドッペルゲンガーのカイムは言い放った。
「行け! 援護してやる!」
「頼むぜ!?」
大剣を構えたカイム本人が爆炎を引いてダッシュ! 同時に、ドッペルゲンガーカイムの手中で二丁拳銃が火を噴いた!
BRRRRRRRRRR! 紫電をまとった銀の弾丸が飛翔し、本体カイムを追い越して無言で佇むシロガネを強襲! しかしシロガネはそちらを見もせず斧を振り、風圧だけで弾丸全てを跳ね返す。
「ぐっ……おおおおおおおおッ!」
突風にあおられながらも疾走するカイムに向き直るシロガネの背後に、ハルバードを構えた銀河色の騎士! 美影は一枚のカードを銀河色の騎士に突き出した!
「ギャラクシー・センチネルに銀河波動を装備! 攻撃力アップ!」
カードから放たれた銀河色の光線が、ハルバードを振りかぶる騎士の背中に命中した。全身に同色のオーラを湧き立たせたセンチネルはシロガネの脇腹にフルスイングを打ちつける! SMASH!
だがシロガネは小ゆるぎもせず、肘鉄一発でセンチネルの顔面を粉砕! 直後、カイムが燃える大剣を真横に振り抜く!
「インパルス・スラッシュ!」
CABOOOOOM! 襲い来る黒銀炎の大津波! シロガネは斧を大上段に振り上げ、呆れたように呟いた。
「学習しないな、お前も」
一歩踏み出し、SLAAASH! 大斧の一閃が炎の津波を真っ二つに引き裂き、奥にいたカイムの左肩から脇腹までをバッサリ割った。だがカイムの姿は霞のように消え、さらに後方にいたドッペルゲンガーカイムがマシンガンじみた連射速度で銃撃!
ZGAGAGAGAGAGAGA! 紫電をまとった銀の弾丸を、シロガネはまたも無造作に振った斧の風圧で容易く蹴散らす。一方その頃、ホロウィンドウと向き合っていた裕美は眼鏡を外して汗をぬぐった。
(……本当に無敵……概念ハックも効かないとなんてね……)
裕美のホロウィンドウにはいくつもの『ERROR!』表示が浮いている。電脳からシロガネへ向けられたハッキング攻撃! だがそれらは全て弾かれ、実際シロガネは悠然と戦闘を継続している。
裕美は親指を噛み、展開したウィンドウの隣に指を振って新規ホロウィンドウを展開。大写しの『CALL』表示を指で押した瞬間、直接戦闘する四人の耳元に円形のウィンドウが現れた。
召喚した通信用ウィンドウに、裕美は囁く。
「……強化、解除してみる……数秒……動きを止めて……」
「数秒……きっついなー」
両手を突き出し、蒼光剣を複数飛ばしながら千里が呟く。
シロガネは剣戟を中断して散開する巫女少女とカイムを放置し、下段から斧を斬り上げる! 飛ぶ斬撃が回廊の床を抉りながら蒼光剣の間を突破! 光の刃を余波だけで打ち砕いた斬撃が千里へと迫る中、インターラプトした美影がカードを掲げた。
「トラップ発動! 銀河のバリア・コスモスフォース!」
美影の前に銀河色の半球状バリアが開かれ、斬撃を真正面から受け止めた! CRACK……わずかにひび割れたバリアは、その中心に斬撃を吸収してシロガネにビームを撃ち返す! 飛来する反撃の閃光を、右手で軽々と跳ね退けるシロガネ。真横に伸びきった腕の真下に少女が飛び込む!
「そこだッ!」
凶津が叫び、黒い薙刀の斬り上げがシロガネの肘を打って腕を真上に跳ね上げる。続く一撃ががら空きになった右脇腹を撃ち抜き、黒雷を周囲にまき散らした。
動きを止めたシロガネにさらに刃を押し込み、凶津はカイムに合図を飛ばす。
「チェンジだ!」
「ああ!」
跳び下がる巫女と入れ替わり、シロガネの懐にダイブしたカイムが炎の大剣で刺突!
BOOOM! シロガネの背後に黒銀炎が噴き出した。だが鎧の腹部に剣の切っ先が刺さっていない! 大剣に手を置いたシロガネは、冷徹に告げる。
「ぬるい炎だ」
「ッ……!」
顔をしかめるカイム。その時、二人の頭上に蒼光剣が五本、切っ先を下向けた状態で現れる! 両手を軽く持ち上げた千里が緩い声を投げかけた。
「カイムー、ちょっと頭上注意だ」
カイムが大剣を押し込み、反動を利用してバックジャンプ! 千里は両手を振り下ろすのに従い、落下してくる蒼光剣をシロガネは弧を描くように斧を振るって破壊する。砕けた剣の欠片が光の粒子となって崩壊し、シロガネの戦斧に吸い込まれていく!
「さて」
シロガネが斧を持ち上げ、跳び下がったカイムに向かってSLAAASH! 飛来する蒼赤二色の斬撃を、カイムは横っ飛びしてギリギリで回避。その奥に居た千里は両手を地面に突き、眼前に大量の蒼光剣を生やして防壁を生み出した。
ZANKZANKZANKZANK! 一瞬で何重にもなった刃の壁を、シロガネの斬撃はいとも容易く粉砕していく。そして最後の防御を打ち砕き、千里の右肩から腹部にかけて引き裂いた!
「づっ……!」
血飛沫を撒き散らしてうずくまる千里。直後、シロガネの左サイドに回り込んだ美影がバイクをドリフトさせつつカードを掲げる。
「トラップ発動! 銀河凝縮!」
カードの絵柄が光を放ち、シロガネの胸、腹、首をそれぞれ銀河色の輪が締め上げた。
車体をギリギリまで倒し、スライディングめいてシロガネの後方へ抜ける美影。その先で片膝を突いた巫女服の少女の顔面で、凶津が喚く。
「なあオイ、まだか!?」
『……もうちょっと……!』
耳元の通信術式から裕美の声。
切羽詰まった声色だったが、凶津は敢えて急かした。
「やるだけやってやるけどよ、早くしてくれ! 相棒の体が限界だ!」
「まだ……大丈夫っ……! こふっ!」
鬼面の下から黒ずんだ血がボタボタと滴り、少女はがくりと頭を落とす。
手足が震え、立ち上がるのもままならぬ現状! 凶津は裏を冷たい手で撫でられるような感触を味わいながら内心毒づく。
(クソッ! オーバードフォームの反動が来てやがる! あんまり長引くとヤバい! しかもあの野郎、さっき踏んづけた時に相棒の生命力をだいぶ持って行きやがったな!?)
「あんま無理はさせたくねえが……もうちょっとだけ耐えてくれよ、相棒ッ!」
直後、凶津は口元に紅蓮の火球を生成して発射! 弾丸じみて飛んだそれを、シロガネは振り返りざまにかざした手の平で握り潰した。鎧を縛る銀河の光輪が圧力を増し、しかし完全に縛るまでには至らぬ!
シロガネは嘲笑混じりに煽ってみせる。
「どうした? 先より弱くなっているぞ……!」
「テメェが強くなり過ぎてんだっつの!」
「ふむ、そうか。では、そろそろ遊びも終わりにしようか」
シロガネの足元から白銀のオーラが噴き出した! 銀河の光輪が弾け飛び、垂直に掲げられた斧が陽炎をまとったかのようにその輪郭を揺らめかせる。激しく震え始める刃の像!
「これ以上、得られるものも無さそうだ。いい加減、こちらもメインディッシュに取りかかりたいのでな!」
シロガネの周囲から赤黒い霧が立ち上り、薄く渦を巻きながら彼女の斧に吸い込まれていく。さらに激しさを増すオーラ! 回廊が激しく揺さぶられ、甲高い悲鳴のようなサウンドが空気をつんざく!
『Kiyaaaaaaaaaaaaaaaa!』
「哀れな娘よ、殺意を絞れ。お前の力が、新たに死者を墓場へ誘う! さあ、これが堕落の第一歩だ!」
シロガネは腰を落とし、左手に握った得物を右肩に担ぐように身構え――――次の瞬間、振動が止んだ。シロガネを包んでいた全オーラが刃に凝縮され、白熱! 眩い光が猟兵たちの目を焼いた。
「この一閃、手向けとして受け取るが良い!」
SMACK! 銀の光が回廊を満たす。それは不壊の王の銀鎧が溜め込んだ、生命力全てをつぎ込んだ一撃!
「デストラクション・レイ・デ・プラータ!」
離れた場所でホロウィンドウを睨んだ裕美は、親指を噛みながら九割方進んだシークバーを凝視する。バーの上に表示された数字は96%、97、98、99! 銀の光に染められながら、裕美が決死の表情でホロウィンドウを引っ叩いた!
次の瞬間、回廊はシロガネの閃光によって塗り固められ――――そして、次元が爆散して黒い霧風が吹き荒れた。
BLOWWWWWW…………! うなる風が放射状に散開していき、白銀の光を押し流す。霧も光も無くなった時、斧を振り切った体勢のシロガネは驚愕に目を見開いた。
「……なんだと?」
先まで赤黒い回廊だった空間が、鍾乳洞したたる薄暗い洞窟に変化している! 広大な岩穴に響く重い震動音。防御態勢を取っていた他の猟兵たちが顔を上げ、五体そろった自分の体を見下ろした。
裕美は滝のような冷や汗を流しつつ、ホロウィンドウに叩きつけた手の平を引く。そこには、誇らしげに輝く『COMPLETE』の文字列! 口元をほころばせ、裕美が言った。
「……ワールドハック、完了……みんな、お待たせ……!」
「貴様ッ!」
裕美を振り向くシロガネに、轟くエンジン音が急接近! 彼女がそちらに向き直った瞬間、千里の三輪バイクが鎧の鳩尾に突っ込んだ!
CRAAASH! 土手っ腹に一撃叩き込んだバイクはシロガネを後方へ押して行く。騎乗した千里はハンドルから離した左手を振りかぶる!
「散々好き放題やってくれたな。これが反撃の狼煙ってやつだ」
拳を握り、雑に振るう。直後、千里の真横を抜けた三本の蒼光剣がシロガネの胸に突き立った。
「ぐっ……!」
ヘルムの奥で顔を歪めたシロガネは、右手で三輪バイクの車体をつかんだ。両足を踏ん張ってブレーキをかけ、一回転! 遠心力を乗せてバイクを投げ飛ばし、驚愕の面持ちで自らの胸元を見下ろす。刃に穿たれた自身の鎧を!
(貫通しただと? 不壊の契りを得た、私の鎧を!)
放り出された三輪バイクは横回転しながら着地し、激しくスピン。千里はブレーキを思い切り握って制動をかけ、バイクを横向きに静止させる。その右目には、モノクルめいて展開された小さなホロウィンドウ!
「情報サンキュ、裕美。フォトン・ソード、最適化完了っと。そーれ」
千里が左右に広げた両手を挟み込むように閉じる。同時に、シロガネの足の甲から蒼い刀身が飛び出した! 足を貫かれ、地面にぬい留められたシロガネに凶津と少女が飛びかかる!
「どらああああああああッ!」
黒い雷と風を薙刀にまとわせ、一閃! これを斧の柄で防がれながらも、凶津は少女の体を操って目にもとまらぬ連撃を繰り出した! ZGAGAGAGAGAGAGAM! 弾ける雷鳴!
「おらおらおらおら! さっきまでの! 威勢はどーしたァァァァッ!」
「……ッッッ!」
少女が凶津の下で歯を食いしばる。黒い巫女服の下、彼女の両腕は黒い血管めいた筋模様に覆われ、時折肌を裂いて鮮血を吹く。しかしそれでも手は止めぬ!
(もうちょっと、もうちょっとだ! 行けるか、相棒ッ!)
(平……気っ!)
一層速まる高速斬撃! 他方、斧の柄を素早く動かして攻撃をいなすシロガネは、鎧が放つ光がkすみ始めたことに気づいた。
(堅牢不落の効果が鈍い。明らかに防御性能が落ちている上に、迷宮の力も感じない。これは……)
歯噛みをするシロガネ。凶津と至近距離での剣戟を演じる彼女を眺めながら、裕美が呟く。
「……無駄。ここは……邪竜の住処に書き換えられた……。迷宮が……あなたを認識することは……もう二度とない……」
ビン底眼鏡の奥、瞳が仄暗い気を帯びた。
「そして……分析も……もう終わった……防御は無意味……」
「ちっ!」
シロガネは無理矢理斧を振って薙刀を弾く。素早く跳び下がった少女は、高速回転させた薙刀を体の左右へ交互に動かし周囲に黒い落雷をもたらした。シロガネが憎々しげにうめく!
「よくやるものだ。世界を上書きしてまで我が奥義をしのぎきり、迷宮から隔離するとは! だが!」
銀鎧の表皮が光輝き、ひび割れる。亀裂が鎧全体に広がっていき、CRASH! 光の破片を撒き散らし、シロガネは堅牢不落を解除した。外気にさらされた素顔に毅然とした眼差し!
「その程度で私の首を獲れると思うなッ!」
斧を左肩に担いだシロガネの全身を銀炎じみたオーラが燃やした! 少女は回転薙刀を頭上に掲げる!
「まだまだ余裕があるってか! ならこっちも全力振り絞るぜ相棒ッ! 気張れよッ!」
「……疾れ、鬼雷陣っ!」
回転を止め、薙刀の刃を地に突き刺す! 雨の如く黒雷が降り、一際太い一条が薙刀の柄尻を直撃して地面に流れた。ZGRAAAAAK! 地面を引き裂いた黒雷がシロガネへ肉迫! 対するシロガネは両足にオーラを込めてロケットスタートを決め、ジグザグダッシュで黒雷回避!
「我が魂を戦火にくべる。この身に降りよ、永劫覇王!」
詠唱するシロガネの体が黒銀色の光に包まれてFLASH! 閃光が消えたそこには、二本角を生やした兜をかぶり、逆棘の生えた鎧をまとった大柄な騎士。降り注ぐ黒雷を掻い潜って凶津たちに詰めたシロガネは大斧を振り上げる!
「はッ!」
渾身の振り下ろしが凶津を叩き割らんとす! だがそこへカイムが黒銀の炎を伴い飛び蹴りを敢行。シロガネの顔面を蹴り飛ばした!
「ぐゥッ!」
数メートル後退するシロガネ。カイムは空中後方回転を決めて着地し、燃える大剣を振り抜いて告げる。
「やっと出てきたな、覇王とやら。お前とやりあってみるのも……」
DASH! 地を蹴り、大剣を上段に構えて突撃!
「悪くないって思ってたところだ!」
「何度も同じ手を……食うと思うかッ!」
のけ反った状態から体勢復帰したシロガネはバトルアックスを横薙ぎに一閃! 洞窟の幅を丸ごとカバーするカマイタチを、カイムはスライディングで潜り抜け後転。クラウチングスタートじみた体勢から爆炎を噴射して加速した!
BOOOOOM! 黒銀炎を追い風に、カイムはシロガネに向けて大剣を斬り下ろす!
「ふッ!」
「はぁッ!」
戦斧の斬り上げが大剣を跳ね返す! 踊るように横回転したカイムは片足で着地し、左右にステップを踏みながらシロガネの懐へ飛び込んだ。脳天狙いの斧をサイドステップで避け、逆袈裟に一撃! 右フックを横っ飛びでかわして斧を飛び越え、身をひねって鎧の脇腹にもう一撃! 反動を利用して逆回転し、三撃目をシロガネの胴に叩き込む! BOOOM! 黒銀の噴煙がシロガネの巨体を強制的に後退させた。
「ちっ、小癪な!」
舌打ちしたシロガネに、カイムは下段に構えた剣を地面に滑らせる。炎の筋を引きながら、思い切り振り上げる! CABOOOOOM! 噴き上げた炎がとっさに斧を掲げて防御態勢を取ったシロガネを飲み込んだ。カイムは肩越しに叫ぶ!
「美影ッ!」
DRRRRNG! カイムの頭上をモノバイクが飛び越えた。愛車と共に宙を舞った美影は、炎を斧のひと振りで散らすシロガネを見下ろす。
「迷宮の力を失っても、相手は強い……なら!」
カードを一枚引き、高々と掲げる。陽光じみて瞬くそれは、逆転の一手!
「アタシは手札から、『RM-銀河開闢』を発動! 墓地のギャラクシー・クロノスドラゴンを復活させ、そのランクをひとつ上げる!」
美影の周囲を宇宙空間の幻影が取り囲む。彼女が下方、彼方に見える恒星のひとつに手をかざすと、そこから流星じみた光が真上に飛び上がる! 幻想の星空を縦横無尽に駆け抜ける星。美影は右手を振りかざす!
「果て無き銀河よ。無限の時の彼方より、撃滅の力を得て舞い戻れ! ランクアップ・レイヤード・チェンジ!」
ソラの果てへと飛翔していった光が、すぐさま猛烈な極光を得て飛来する。宇宙空間を照らし出す光を背後に、美影は切り札の名を呼ぶ!
「進化せよ、ネオ・ギャラクシー・クロノスドラゴン!」
次の瞬間、疑似宇宙が砕け散り、世界は元の洞窟内へと切り替わった。真紅の光をまとって浮遊する美影。その背後には、銀河色の体色を持つ三つ首の巨竜! 無数の歯車で形成された翼を広げ、ドラゴンは吠えた。美影は天に伸ばした手をシロガネにかざす!
「行きなさい! あまねく全てを滅ぼす息吹! 必滅の……ネオ・ギャラクティック・オーバーブラストぉぉぉぉぉぉぉッ!」
ドラゴンの三つ首がのけ反って口に極光を溜め、同時に光線を吐き出した! 三条の光は螺旋を描いてひとつにまとまり、巨大な一本の光と化してシロガネを強襲! シロガネは胸に右拳を当てて体を銀光で覆い、不壊王の鎧をまとう。そのまま斧を振り下ろして最大火力の一撃を真正面から迎え撃った!
KRA-TOOOOOOM! 洞穴を大爆轟とビッグバンじみた光が揺さぶり、鍾乳洞を吹き飛ばす。美影は伸ばした右腕を左手でつかみ、真紅の光をさらに強める! シロガネもまた同様に銀光を眩く煌めかせて見せた!
「はあああああああああッ!」
「おおおおおおおおおおッ!」
拮抗する光線と斧! シロガネの足元から後方が砕けて吹き散らされていく。構わず足場を砕いて踏み込み、銀河の光を叩き切らんとするシロガネ! しかし――――その斧の刃がガラスめいた音を立てて砕けた!
CRACK、CRACK! ひび割れ、欠け落ちていく銀の斧。だがシロガネは一歩も引かぬ! 美影は指先の血管を破裂させながらも、最後の力を注ぎ込む!
「くっ……! ネオ・ギャラクシー・クロノスドラゴン! アタシに……応えてッ!」
『GRRRRRAAAAAAAAAAAAARGHッ!』
三つ首の咆哮が響き、光線をさらに太くする。シロガネもまた全霊を以って斧を押し込む。だが刃の亀裂は徐々に深まり、CRACK、CRACK――――CRAAAAASH! 斧の頭部が砕け散り、残った柄が空を切る。拮抗相手を破った光はシロガネを飲み込み、その巨躯を影も残さず消し飛ばす!
CADOOOOOM! 宇宙創成めいた大爆発が仮初の洞窟を粉微塵に破壊した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 冒険
『ラビリンスを突破せよ』
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POW : とにかく諦めずに総当たりで道を探す
SPD : 素早くラビリンスを駆け抜け、救出対象を探す
WIZ : ラビリンスの法則性を見出し、最短経路を導く
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ヒントのまとめ
・迷宮内部は夕焼けの都市。
・ハルカは学生寮のベッドに拘束されている。
・迷宮の中身は少女が見る夢そのもの。
・迷宮を作り出した少女は大事な人を殺された。
・大事な人の名前は『ユミ』。男に殺された。
・迷宮は愛憎、狂気、憎悪、思い出で作り出されている。
・少女は人を殺して狂った。
・呪術の素材としてはこれ以上無いほど強い思念で迷宮は物質化している。
・ハルカの家族に『ユミ』という名前の人物はいない。
・発見当時、ハルカはカッターで男の死体をズタズタにしていた。
・ハルカが男を惨殺した現場の傍では、同年代の少女が死んでいた。
・ハルカは男性に対して異常な恐怖を抱くようになった。
・この迷宮内では、ハルカが経験した殺人が繰り返されている。
・ハルカ自身は殺人を望んでいない。
●第三章の概要
オブリビオンの排除に成功し、迷宮の内部への侵入に成功しました。アリス適合者になりかけたハルカを探して頂きます。
ヒントを加味しつつ、迷宮の各所にいるハルカの分身を説得。成功すればハルカの本体が居る場所への道が開かれていきます。ハルカの拘束を解除し、救出すれば成功です。出来なかった場合、ハルカはアリス適合者となってアリスラビリンスへ送られてしまいます。
この章は、所謂ウミガメのスープ方式です。基本的にお一人ずつプレイングを返していく予定ですが、他PLとの連携を明記して頂ければ配慮します。
また、似た内容のプレイングが複数名ある場合はまとめて執筆させて頂きます。
第一次プレイング受付は9月24日8時31分~9月25日8時29分までです。
途中参加も受け付けております。
神代・凶津
漸く迷宮に着いたが、大丈夫か相棒。さっきの戦いでだいぶボロボロだが。
「大丈夫。まだいける・・・ッ!」
上等、じゃあ悪夢に囚われたお姫様を助けにいくとするかッ!
未だに過去の事件の全容は分からんが分かっている事もあるぜ。
ハルカの嬢ちゃんは殺人を望んでいない。
なら殺人が繰り返されるこの場所にも本当は居たくないはずだ。
男性恐怖症状態らしいから説得は頼むぜ相棒。
「貴女をこの場所から助けに来ました。
私は貴女の事情を理解しているとは正直言えません。
でも、だからこそ私は貴女の助けになりたい。」
【アドリブ歓迎】
凶津 一人称・俺 ニ人称・名前呼び捨て
桜 一人称・私 ニ人称・名前にさん付け、親しい者には呼び捨て
柚月・美影
せっちゃん(千里)と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎
●探索
SPD使用
【運転】【野生の勘】を組み合わせてバイクで素早くラビリンスを駆け抜け、救出対象を探す
●説得
ハルカが繰り返している殺人を【念動力】で強化したバトルキャラクターズで止め
「…貴女がハルカちゃん?馬鹿ね、ずっとこんな辛い事に囚われて…」
【優しさ】をもって説得に
「アタシは貴女じゃないから、分かるなんて絶対に言えない…
でも、このままずっと悪夢に、過去に囚われたままなんて間違っているって事だけは言える…それと、誰かを大切に思う気持ちが、こんな最後なんて間違っているって事もね!」
中村・裕美
色々お任せ
私もシルヴァーナがいなければ、彼女みたく狂気や憎悪に取り込まれていたかもしれない。だから助けたい
「……こんにちは。……私は裕美……ユミじゃなくユーミね」
説得は別人格に頼った方がうまく行きそうな気もするが、これは自分でしておきたい
「背中の怪我……大丈夫?」
一番気になるのは、自傷しにくい背中の傷。そこから何か見えていないものがあるかもしれない
あと、ハルカが殺人を望んでいないのなら、その殺人をせめて夢の中だけでも止めさせたい。止められたという出来事で過去は変えられなくても、未来に前向きになる心構えは出来るかもしれないから
方法は少女のカッターをUCで弾くとか(別人格の代わりに裕美のままで)
天門・千里
一人称:私
二人称:君、呼び捨て
ラビリンスの法則性を見出し、最短経路を導く
今まで見てきた迷宮の構造を元に最短経路を【見切り】、最短経路を辿ってハルカを探す。
友達が死んだって感じじゃないってんなら、まぁあれしかないかなって思うんだけど...
ハルカを発見した場合、
声をかけて注意を引く。
「楽しい?それ?
楽しくないよね。まぁ、好きな人を殺されればそうもなるかな。」
殺された理由は通り魔か何かか...
「だがこんな迷宮に立てこもって男を殺しても意味がない。
元の世界で彼女のために祈る方がよほど有意義だと思うよ。」
と、自分なりの気遣いの言葉をかけて説得しようとする。
無人の街。
偽の夕日に照らされた商店街や、ビルや、学校。人の気配は一切なく、ただ静かな世界は少女の悪夢。過去のどこかで引き起こされた事態を元に、現実を編み込んで作られた迷宮である。
閑散とした風景を注意深く観察し、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は発言した。
「さあて、ようやく迷宮に着いたが……大丈夫か相棒。さっきの戦いでだいぶボロボロだが」
凶津の側面から咳込む声。彼を側頭部に装着した巫女服の少女がアスファルトに片膝をつき、血を吐きながら胸を押さえる。
直前まで転身していた代償だ。少女は、喉にウニでも詰められたような感覚と全身をギチギチに締め付けられているかのような痛みを、歯を食いしばって噛み殺す。次の瞬間、再度の血咳。
「けほっ、こほっ……!」
「ちょっとぐらい休んでいくか? 結構無理やらかしただろ」
「……大丈夫」
口元を汚す黒い血を手でぬぐい、少女は薙刀を杖代わりにして立ち上がった。よろめきかけた足を踏みしめ、瞳に決断的な意志を燃やして凶津に応える。
「まだ、いける……ッ!」
「上等」
凶津は楽しげに言った。傷を押し殺して立つ気概があるなら、もはや止める理由なし!
「じゃあ悪夢に囚われたお姫様を助けにいくとするかッ!」
「んっ……!」
少女は頷き、夕暮れの迷宮を走り出した。
●
「んー……参ったね」
「参ったわね」
バイクにまたがり、天門・千里(銀河の天眼・f01444)と柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)は辺りに目を配りながら言い合った。
場所は中央交差点。美影の勘に従い、バイクを走らせてきた――――のだが。
美影がバイクハンドルの上で頬杖を突く。
「おっかしいわね……こっちのような気がしたんだけど」
「学生寮にいるって話だったし、こっちで合ってると思う。まぁ、そんな簡単に行けたら無理はないけどさ」
美影はうなり、困り顔で獣耳の裏側を掻いた。
一方で、千里はバイクペダルから離した足をぶらぶら揺らす。気だるげで、やる気の無い思案顔。
「……やっぱ、探すしかないかぁ」
「ハルカちゃんを?」
「そ。こっち来る前に言われたし。ただ道なりに沿って進んでもたどり着けないから、ハルカを探せ的なこと」
「う―――――ん……やっぱりそうなるわよね」
美影が両耳をぺたんと倒した。
「でもせっちゃん、どうやってハルカちゃん探そっか。もっかい勘に頼ってみる?」
「それでいいんじゃない? 美影の勘、頼りになるし」
「オッケー。それじゃ、ちょっと待ってね……」
美影が眉間に人差し指を当て、ぎゅっと両目をつぶって意識を集中。耳がピコピコと動き、尻尾がゆっくりと揺れる様を千里はバイクハンドルにもたれて眺める。
ややあって、身を起こして辺りを見回す。淡い青の瞳がオレンジ色の光を反射し、建物の影を
(軽くドライブした限りだと、迷宮の作り自体は割と単純)
(まず街を模した正方形のエリアを、タイルを敷き詰めるみたいにいくつも並べてくっつける。あとはエリア同士を入れ替えて、学生寮に辿り着けないようにしてる……と)
(問題は、エリア入れ替えのパターンと現在地の把握かー……。原因についてはまー……友達が死んだって感じじゃないってんなら、あれしかないかなって思うんだけど……)
うんうんとうなる美影を余所に、千里がとりとめのない思考を回す。ひとまず、現在地の目印にはなるか――――と腰のホルダーに下げた蒼の短剣に手を伸ばしかけたその時、絹を裂くような甲高い悲鳴が轟いた。
美影がハッと顔を上げ、千里に目配せ。
「……聞こえた?」
「聞こえた。どっち?」
「ついてきて!」
美影はバックキックでバイクスタンドを上げるとハンドルを握り、車体を曲げた。すぐさまスタートするモノバイクを追い、千里も愛車を走らせる。
交差点を抜け、商店街入り口のアーチを突破。がらんどうの街の風を切って走る二人のまなこが、地べたに広がる血溜まりと、そこに伏せた学生服の少女を見つけた。
「せっちゃん!」
「ん」
傍で急停止。急いでバイクを降りた美影は、倒れた少女を抱き上げた。
呆然と開き切った目に生気は無い。胸元には赤い血の染みと縦穴。美影は顔をくしゃっと歪めた。千里は血の気の失せた少女を覗き込む。
「……ハルカじゃない。見せてもらった写真と違う。ってことは、この子がユミか。ほら美影、探すよ。たぶん、ハルカは近くにいるから」
「ええ……そうね」
首を振った美影は、少女をそっと地面に横たえ、腰のホルダーからカードを一枚取り出して掲げた。
「ギャラクシー・ファルコン! ハルカちゃんを探して!」
カードが輝き、美影の頭上に銀河色のゲートが出現。そこから飛び出したのは夜空じみた色の翼を持つ、巨大な猛禽!
猛禽は鋭い鳴き声を上げて黄昏の空を飛翔する。空をしばらく旋回していた十字の影は、すぐに商店街の一点めがけて急降下した。
「そっち!」
立ち上がるなり駆け出す美影。後に続いた千里は、前を行く彼女が路地裏に飛び込むと同時に短剣を抜いた。
「っ!」
路地裏に入るなり凍りつく美影を追い越し、千里は短剣を投擲。空色の刃が一直線に飛び、路地裏の闇の中でキンと音を立てて何かを弾いた。
くるくると宙を舞い、アスファルトに突き立つ短剣。その隣を回転しながら滑ってきたカッターナイフを爪先で止め、千里は路地裏の奥に向かって声をかけた。
「楽しい? それ」
千里が呼びかけた先、路地裏の影で何者かが両手を下ろす。千里は両手をズボンのポケットに突っ込むと、気負いの無い立ち姿で続けた。
「楽しくないよね。まぁ、好きな人を殺されればそうもなるかな」
ややあって、衝撃から立ち直った美影が千里の横に並び立った。沈痛な表情で見つめる路地裏の奥には、二人の人影。仰向けになった男と、そこにまたがった少女。いずれも学生服を着て、布地を赤く染めている。飛び散った肉と、血の赤に。
美影は胸を刺す痛みを感じて、言った。
「……貴女がハルカちゃん? 馬鹿ね、ずっとこんな辛い事に囚われて……」
男にまたがった少女が、途方に暮れた子供のような眼差しで二人を見ていた。
●
「ぐっ、うっ……ひぅっ……!」
しゃくりあげる泣き声とともに、ザクザクと肉を裂く音が路地裏に沁みる。
夕闇で塗られた地面に広がる血溜まり。その中で仰向けに倒れた学生服のヒトガタに、傍らにへたり込んだ少女が血濡れのカッターを幾度となく突き刺していた。
腹部を滅茶苦茶にし、少女は自分の太ももに刃を振り下ろす。引き抜かれたカッターから血の雫が飛び、血溜まりに落ちて混ざった。
「うぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁ…………!」
返り血でドロドロになった少女は声を上げて泣く。その手は男の頬を斬り、喉笛を穿ち、胸元を抉った。
もはやまともに頭も動かず、しおれた花めいて枯れた心のおもむくままに自傷と破壊を繰り返した。とめどなく溢れる涙が、血の止まらない足に点々と落ちる。
泣きじゃくりながら死体をズタズタにし続ける少女。その背後に、人影が立ち――――。
「……こんにちは」
「っ!!」
鋭く息を呑んだ少女が、振り向きざまにカッターを繰り出す! だが刃は甲高い音を立てて斬り飛ばされ、茜色の空へと消えた。少女は残った持ち手部分を呆然と見つめ、カッターを跳ね返した者へと目を向ける。
黒いパーカーに長い黒髪。目元を覆うビン底眼鏡。中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)は後ろ手に持ったナイフを袖口に押し込み、精一杯穏やかな声音で挨拶した。
「……初めまして……私は裕美……ユミじゃなくユーミね」
「ユー、ミ……?」
「……そう。それで、あなたは……ハルカ……だよね」
名を呼ばれ、ハルカは呆けた顔で裕美を見上げる。裕美は突き出されたままのカッターを両手でそっと包み込み、指を一本ずつ開かせていく。固まって動けなくなったハルカからカッターを受け取ると、片膝をついて目線を合わせた。
「……助けに来たよ。背中の怪我……大丈夫?」
裕美が手を差し伸べると、ハルカがびくっと身を竦めた。裕美は手を止め、じっとハルカの目を見て呟く。
「……大丈夫。……あなたを傷つけたり……しない……。……助けに来たよ」
「…………助けに」
ハルカは蚊の鳴くような声で復唱。裕美がこくんと頷いて見せると、ハルカはすがるような眼差しを向けた。
幼い迷子じみた面持ちのハルカは、黙ってうつむき背中をさらした。縦に空いた穴から、抉れた肉と血がのぞく。裕美は口元を歪め、傷に片手をかざした。手の平と背中の間にホロウィンドウが出現し、傷口に向かって無数の0と1を放射。鋭利な傷をみるみる内に修復していく。
「……ひどいね。どうしたの……この傷……」
「刺さ……れた……」
ハルカは両手でスカートの裾を握りしめ、しゃくり上げながら言った。
「ユミに……付きまとってた人にっ……あ、あの人が……あの人がっ……!」
「……落ち着いて」
裕美がハルカの肩に手を回し、ぎこちない動きで背中をさする。
「ユミは……かわいかったし、あたまもよくて……だから、いろんな人が告白してきてた……」
「……あの人も、そう?」
ハルカは大きく頷いた。裕美は肩越しにイミテーションの死体を見つめる。顔も体も斬り刻まれ、原型をとどめなくなったそれを見せないように、努めてハルカと向き合い続ける。
「でも……あんまりしつこくて……ユミのこと、おかしいって……だからユミ、振ったの。自分がおかしくっても……あなたなんかとくっつくくらいなら死んだ方がマシって……何回振られても諦めないあなたの方がおかしいんだって……二度と近づかないでって……」
「……逆恨み、されたのね……」
ぎり、とハルカの奥歯が軋みを上げる。華奢な肩が激しく震え、がちがちと歯の根が音を立てた。ハルカは真っ赤になった手で顔を覆った。
「帰りに……いきなり襲って来て……刃物っ……ユミ、ユミが…………!」
「……落ち着いて。……大丈夫、大丈夫……」
裕美は穏やかな語調で、背中を優しく撫でてやる。ハルカは顔を覆ったまま固唾を飲み込み、消え入りそうに二の句を継いだ。
「わたし……うごけなくって……なんにも、いえなくて……。そしたら、その人……わ、わたしにもっ…………それで、わたしのせいだって、わたしがいなければって……」
「………………」
「こわかった……だから、にげて……せなか、なにか刺さって……ころんで……」
地べたを這いずり、背中を貫く痛みに焼かれ。
恐怖と苦痛の涙を浮かべたハルカに、男は怨嗟を投げたのだろう。裕美は眼鏡の奥で目を細めた。
「どうしてこんな目にって、おもった……。なんで、ユミが……私が……こんな目にって……そのあとは、気づいたら…………」
ハルカは口をつぐんだが、裕美の頭にはその後の光景が断片的に浮かんできていた。背中を刺され、本能的な恐怖と憎悪に駆られたハルカは、男からカッターを奪い取って逆に殺害。――――そして、正気を失い、この悪夢に囚われた。
●
同じ迷宮の違う場所で、同じ惨劇と遭遇し、別のハルカの分身と出会った巫女服の少女が、口元を押さえて戦慄した。
「……そんな」
目の前には、地面に座り込んでうなだれるハルカの分身。同時刻、別の場所で裕美と同じ話を聞いた彼女の側頭部で、凶津の口元が複雑そうに歪む。少女の脳裏にテレパシー。
(ンな体験すりゃ、男性恐怖症にもなるよなァ……。眉ひとつ動かすなっつー方が無茶な話だ。頼むぜ相棒。お前が頼りだ)
(……わかってる)
思考で切り返し、巫女服の少女は意を決した。
「……それから……もう……他のことは……思い出せない……。わたしは……ずっと……ここに……」
「……いいえ」
毅然とした一言に、ハルカが顔を上げる。ボロボロに泣き腫らした目蓋と、点々と血痕のついた頬。少女は血みどろになったハルカの手を、優しく握った。
「大丈夫。もうここにいる必要はありません。私は貴女を、この場所から助けに来ました」
「この場所……助け……」
ハルカの焦点は定まらず、茫洋とおうむ返しに言葉を紡ぐ。
巫女服の少女はゆっくりと、しかし確かに頷いた。
「私は貴女の事情を理解しているとは正直言えません。でも、だからこそ私は貴女の助けになりたい。この悪夢から、連れ出してあげたい……」
ハルカを真摯に見つめる少女を、凶津は黙って見守る。
(俺の出る幕はねえな、こりゃあ)
(気づいてるか? 相棒。お前、今すげえ良い顔してるぜ)
●
美影の手が、ぎゅっとハルカの手を握る。
力強く、しかし痛みは無い。指貫グローブ越しに伝わるぬくもりを、ハルカはぼんやりと感じ取った。美影は、ハルカの額に自分の額をくっつける。
「アタシは貴女じゃないから、分かるなんて絶対に言えない……。でも、このままずっと悪夢に、過去に囚われたままなんて間違っているって事だけは言える……それと、誰かを大切に思う気持ちが、こんな最後なんて間違っているって事もね!」
ハルカの思考は、いまだハッキリとしていない。
迷宮内に点在し、猟兵たちと向き合うハルカは彼女の本体自身が見る夢。無限に繰り返される過去の再現。リピートする人形劇の人形じみた、幻のハルカ。
だが―――。わずかに顔をあげたハルカは、美影に問う。
「ユミは……? ユミは助かる……?」
美影が唇を噛んだ。犬歯が食い込み、血がにじむ。押し黙る彼女の背後で、千里が答えた。
「……いんや。残念ながら、無理」
「せっちゃん……!」
振り返る美影に、千里は変わらぬ表情を向ける。抗議を飲み込む美影から視線を外し、千里はハルカに告げる。
「君の友達も、その男も、君が作った幻だ。助からないし、生き返らない。二人は現実世界でとっくに死んでる」
「……そう。そう、なんだ……」
「だが」
再びうつむきかけたハルカが顔を上げた。
「こんな迷宮に立てこもって男を殺しても意味がない。元の世界で彼女のために祈る方がよほど有意義だと思うよ」
「……………」
ハルカは迷った。
目が泳ぎ、言うべき言葉も進むべき道もわからない。そんな様子のハルカに、美影は至近距離から言って聞かせる。
「もし、もしもの話よ? ここにいるのが貴女じゃなくてユミちゃんで、殺されたのが貴女だったとしたら……貴女は、どう思う? 大事な人が、いつまでもずっと苦しんでるのを見て、なんて感じる……?」
ハルカの動きが固まった。
蘇るのは、幾度となく繰り返された悪夢の光景。カッターナイフを持つのはユミで、自分の死体と男の死体が転がっている。
大声で泣き、大粒の涙を流して男を八つ裂きにするユミの後ろに立ったハルカは――――やがて口を開いた。
「……苦しんでほしくない……」
流れる涙は、悲嘆にあらず。
「助けて、あげたい……!」
「うん。そうよね。ユミちゃんも、きっとそう」
美影はハルカを抱きしめた。髪をゆっくり撫でながら、落ち着くまで待つ。
千里は読めない面持ちのまま、美影を見ていた。
●
全てを聞き遂げた裕美は、ハルカに寄り添いながら無言であった。
思考は流れ、自分自身を俯瞰する。
(……私も、シルヴァーナがいなければ……こうなってたのかな……)
狂気や憎悪に取り込まれ、悪夢の一瞬を堂々巡りする世界。オブリビオンに向いた感情を全て内側に向け、自分自身を書き換えたなら――――自分は果たしてどうなっていたのか?
裕美の物思いを、しとやかな声が断ち切った。
(何を独りで考え込んでいますの?)
(……シルヴァーナ)
裕美は傍らに立つ気配を察する。ドレスを着た長い銀髪の少女。ナイフを携えた彼女、裕美の副人格たるシルヴァーナが叱咤をかけた。
(助けるのでしょう? なら、早くなさい。わたくしに頼らないと決めたのなら、最後まで責任を持つべきでしょうに)
(……わかってる)
裕美が返し、立ち上がる。その後ろ姿を見て、シルヴァーナの幻影はしっとりとした微笑みを残して消えた。
裕美は、所在なさげにじっと見上げてくるハルカに手を差し伸べる。
「……ここから出よう。……悪い夢は、もうおしまい……。誰も……望んでなんて……いない……」
ハルカの目から迷いは消えない。それでも、彼女は恐る恐る手を伸ばし、指を重ねる。直後、ハルカの体がオレンジ色の燐光に包まれ、足元から霧散していく。
天へと昇る光を見送る裕美の頭上――――空がひび割れ、潰される折紙じみて収縮した。
夕暮れの迷宮が、縮んでいく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
カイム・クローバー
一人称:俺 二人称:あんた 三人称:あいつ 名前:名前で呼び捨て
同性愛者か?
友達でも家族でもない大事な相手。所謂『彼女』なんじゃねぇかな、と。
で、男はユミと付き合いたかった。だから、ハルカを殺そうとした(背後の傷はこの時の物)んだが、誤ってユミを殺してしまった。それで結果的にハルカが男に手を出した。…どうだ?
ま、揃ってない情報はハルカから直接、話を聞いていく方が良さそうだ。
状況を推測してるこの状況でハッキリしてる事は言えねぇかも知れねぇが、悪夢はもう俺達が終わらせてやる。
夢の世界の『男』を銃弾で撃ち抜く。
充分、苦しんだんだ。もう良いだろ?お前が苦しむだけじゃ、死んだ相手に顔向けも出来やしないぜ
「同性愛者か」
沈みゆく太陽に照らされながら、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は言った。
窓辺から見える、建物の輪郭でデコボコした地平線に沈む夕日。ガラスに薄く映った自分から顔を背け、部屋の中に向き直る。
「友達でも家族でもない大事な相手。所謂『彼女』なんじゃねぇかな、と。で、男はユミと付き合いたかった。だから、ハルカを殺そうとしたんだが、誤ってユミを殺してしまった。それで結果的にハルカが男に手を出した……と思ってたんだが。なるほどな、ちょっと逆だったか」
カイムがいるのは、六畳程度の間取りをした部屋。勉強机がふたつ、二段ベッドがひとつ。カーペット敷きで、質素な内装。迷宮の中心にある、学生寮の一室。
カイムの視線の先では、ベッドに縛りつけられたハルカが涙目で頭上を見上げている。学生服ではなく入院着。四肢にはベッドに繋がる鎖。本来病棟で眠っているはずの彼女は、上段ベッドの底に貼りつけられた写真を見上げていた。
ユミと二人、屈託の無い笑顔で笑う自分自身。その目端からこぼれる雫を、カイムは憂いを帯びた表情で見つめた。
「……そうか。恋人を、な」
閉じた目蓋の裏側に、なびく金髪に小さく二本角を生やしたの後ろ姿を幻視する。
愛した人を、もし目の前で殺されたなら? その犯人が、自分に刃を向けたなら。
(俺は、何をしでかすんだろうな)
片目を開け、入院着を着たハルカの袖口を見やる。
何本もついた切り傷の痕。狂気と恐怖の中、自分自身を斬り刻みながら、彼女は何を思っただろう。
カイムが言葉を探していると、不意に小さな声が耳朶を打った。
「…………どうして」
不意に、ハルカが呟いた。痛々しい、涙声。
「……どうして、こうなっちゃったの……? どうして、こうならなきゃ行けなかったの……。私たち、なんにも……悪いことは……してなかった、のに……」
突如、部屋の景色が、陽炎じみて揺らめいた。ハルカを縛りつけるベッドはそのまま、場所は部屋から商店街に。時は全てが狂ったあの頃に。
たじろぐ学生服のハルカとユミ。その前に立ちふさがったあの男。声も無く喚く口から飛び出す言葉を、ハルカは全て記憶していた。
否定に次ぐ否定、罵声、押しつけがましい一方的な告白。ベッドに縛られたハルカは、溜まりかねて目をつぶる。
「……どうして駄目なの? 好きな人を好きって言って、どうして悪いの? 私は……私は…………!」
BLAM! 銃声が響き、ハルカはハッと目を開いた。
ベッドに縛られたまま頭を持ち上げると、黒鉄に輝く猛犬の意匠が目に飛び込む。口から白煙を上げるそれは、拳銃の先。カイムが握る二丁拳銃の片割れだった。
そして、彼の前方。眉間に穴を開けられた男が、仰向けに倒れて動かなくなる。学生服のハルカとユミが驚いた顔でカイムを振り返った。カイムは黙って、ベッドのハルカに銃口を向けた。
「…………っ!?」
ハルカが息を呑んだ瞬間、BLAM! BLAM! BLAM! BLAM! 四発の銃声が響き、ハルカの四肢を縛る鎖を破壊する。
カイムは銃口を下ろすと、ハルカの元へと歩き始めた。
「……充分、苦しんだんだ。もう良いだろ? お前が苦しむだけじゃ、死んだ相手に顔向けも出来やしないぜ」
ベッドの傍らに辿り着き、腰を落とす。アメジストめいた紫の瞳が、ハルカの顔を映し出した。
「顔、見せに行ってやろうぜ。墓参りぐらい、タダで受けてやる。今回の件についても……まぁ、特別に負けてやるからよ」
言うが早いか、カイムの両手がハルカの膝裏と後ろ頭に手を差し込まれ、軽々と持ち上げた。ハルカの顔が羞恥に染まる。
「ひゃっ……!」
「出口までエスコートするぜ、お嬢さん。そろそろ、夢から醒める時間だ」
腕の中で縮こまったハルカにそう言うと、カイムは男の死体に背を向ける。ハルカは彼の身体越しに、あの日の自分とユミの方を見やった。
手を繋ぎ、自分を見送る二人の少女がオレンジ色の光に包まれ、ホタルの群れめいた粒子を舞わせる。
また明日。微笑むユミの口元が、確かにそう告げていた。
大成功
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