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堕竜のヴェスペレ

#ダークセイヴァー #同族殺し #夕狩こあら #その地に縛り付けられた亡霊 #大領主 #憤激魔竜イラース

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「ダークセイヴァーのオブリビオンが甚く憎むのは猟兵や人間ではない」
 常闇に跋扈するヴァンパイア達にとって、既に完全なる支配下に置いた人類は大きな脅威とならず、予知に従ってやってくる猟兵とて現下の支配構造を転覆する程の力は無いと、未だ高慢を貫いている。
 ならば何を憾むか。
 枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)は間を置かず花唇を開いた。
「連中が最も忌み嫌うのは、オブリビオンがオブリビオンを殺す――同族殺しだ」
 同族を殺す、狂えるオブリビオン。
 驚異的な力を有する連中にとって、同族に牙を向けられるのは慥かに危険だ。
「……『同族殺し』が何故に狂い、何故に他のオブリビオンを殺すのかは分からない」
 余程の絶望に墜とされたか。
 或いは理性を手放す程の悲劇があったか知れぬが、彼等が元に戻る事は決して無い。
 帷はそこで幾許の沈黙を置くと、玲瓏の声を鋭くして言い放った。
「これはチャンスと受け止めるべきだろう」
 オブリビオン同士の戦いを利用し、双方を討ち取る――。
 同族殺しの出現は、強敵二体を撃破する好機であると断言する。
 そこで持ち出したのが、或る村に出現する『同族殺し』の予知だ。
「ある辺境の村で、前に領主の交代があったのだが、放逐された前領主たるオブリビオンが嘗ての居館に攻め込み、現在の領主を殺そうとしている」
 厳重に鎖された領主館を『同族殺し』が強襲する。
 先ずはこの混乱に乗じ、襲い来るオブリビオン達を蹴散らしながら最上階を目指して欲しい。
「この時点で『同族殺し』に戦闘を仕掛けるのは尚早。奴の戦闘力を利用しなくては、館の至る処に居る亡霊オブリビオンを駆逐して抜ける事は叶わない」
 何せとても大きな館だ。
 強襲の報を聞いた現領主が逃走を図る可能性もあるとすれば、集団敵に手間を掛ける時間はなし――ここは嘗て館の主だった者に案内して貰うのが佳かろう、と帷は言う。
「館の最上階、最奥部の部屋に現領主を見つけたなら、君達は『同族殺し』と『オブリビオン領主』との三つ巴の戦いに突入する」
 ここで狙うは、前の領主を放逐したヴァンパイアだ。
 猟兵は『同族殺し』の圧倒的戦力を利用しながら、現領主を打倒する。
 前領主と現領主とが剣戟を交える時、彼等の言動や様子から何らかの事情が――『同族殺し』が狂乱に堕ちた背景などが伺えるかもしれないが、其が明らかになったとしても、倒さなくてはならぬ相手には変わらない。
「最後は、狂気を纏った極めて強大なオブリビオン『同族殺し』と戦う」
 これまでの戦いで消耗した相手に終焉を与えるのが最後の任務となる。
 もしか最終局面に至るまで彼を具に観察していたなら、説得によって戦う事なく戦意を奪う事も出来るかもしれないが、その場合、彼は静かに動きを止め、灰となって消えるだろう。
 ここまで言うと、帷は声音を落とし、
「私は憶測を言うのは好まないから、事実だけを述べると、嘗ての領主は或る村娘を館に引き取り、その娘はオラトリオに覚醒した後にそこで亡くなった――領主が交代したのはそれから間もなくの事だ」
 領主が村娘を何故、館に引き入れたのか。
 村娘は何故、覚醒した後に死を迎えたのか。
 そして何故、領主は狂乱に堕ちたのか。
「詮索せずとも良い話だ。とまれ、君達の任務は以上になる」
 ぱちん、と指を弾く音が車輪型のグリモアを喚ぶ。
 帷は信頼する猟兵らの精悍なる顔貌に凛然を注ぎ、
「ダークセイヴァーにテレポートする。同族で殺し合う愚に楔を打ち込んでやれ」
 と、眩い光に包んだ。


夕狩こあら
 オープニングをご覧下さりありがとうございます。
 はじめまして、または、こんにちは。
 夕狩(ユーカリ)こあらと申します。

 このシナリオは、オブリビオン同士の戦いを利用して、強大なオブリビオン領主を討ち取る「同族殺し」シナリオです。

●戦場の情報
 ダークセイヴァーの辺境にある村。
 前の領主は今の領主によって放逐されており、村は新しい領主の更なる圧政に苦しんでいます。
 戦いの舞台は、村を一望できる小高い丘に建てられた領主館です。
 館内に村人は居ません。

●敵の情報
 第一章(集団戦)『その地に縛り付けられた亡霊』
 現領主の圧政に苦しみ、苦痛と絶望の末に亡くなった亡霊オブリビオン。
 憎悪や怨嗟の感情によって館やその周辺に縛り付けられ、宙を漂い、壁を擦り抜けて移動しながら、生者に襲い掛かってきます。
 必ずしも物理攻撃で倒す必要は無く、亡霊を縛り付ける負の感情を浄化すれば、穏やかに天に召されます。

 第二章(ボス戦)『大領主』
 殺害した領民の死霊を取り込み、自らの力とした村の領主『血宴卿ゾエ』。
 自身に纏わりつく髑髏姿の死霊や黄金の十字剣を用いて戦います。
 非常に強大な力を有するヴァンパイアの為、『同族殺し』と戦わせて損耗を与えなければ、打倒することは出来ないでしょう。

 第三章(ボス戦)『憤激魔竜イラース』
 放逐された前の領主で、オブリビオンらが忌む『同族殺し』。
 第一章から憤怒の炎を纏う竜の姿をして現れます。
 全章にわたって狂乱状態である為、まともな会話や疎通は出来ません。
 集団戦とボス戦の連戦で体力を大幅に削っている状態で、やっと倒すことが可能になります。
 錯乱が収まれば、途切れ途切れに語られる呟きから、彼の想いを知る事が出来るかもしれません。

●リプレイ描写について
 第一章と第三章は、戦闘プレイングがなくとも参戦できます。
 祈ったり説得を試みることが可能ですが、敵の攻撃対象になりますので、防御や回避プレイングがないと負傷します。
 フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。

 以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
 皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
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第1章 集団戦 『その地に縛り付けられた亡霊』

POW   :    頭に鳴り響く止まない悲鳴
対象の攻撃を軽減する【霞のような身体が、呪いそのもの】に変身しつつ、【壁や床から突如現れ、取り憑くこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    呪われた言葉と過去
【呪詛のような呟き声を聞き入ってしまった】【対象に、亡霊自らが体験した凄惨な過去を】【幻覚にて体験させる精神攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    繰り返される怨嗟
自身が戦闘で瀕死になると【姿が消え、再び同じ亡霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。

イラスト:善知鳥アスカ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 要塞の如き墻壁に囲繞した領主館。
 威容を放つ館の正面、厳重に閉された大門が黒焔に覆われ、どろり、鋼鉄を溶かす。
 忽ち黒煙が立ち昇り、荒々しい猛炎が門を囲む中、踏み入るは漆黒の魔竜。
 ――然う、竜だ。
 翼竜である彼が堂々、鋼鉄門を破って侵襲する謂れは無かろう。
 唯ひとつ、其処に意味を見出すならば――僅かに残る記憶が斯くさせたか。
 とまれ狂乱に堕ち、憤怒の焔を纏う魔竜は、禍き生気に群がる亡者を灼熱に屠りながら、館の内部を蹂躙していく。
 嘗て起居した時分と変らぬ景が記憶を呼び起こし、感情をさざめかせよう。
 此処で誰かを愛した。
 此処で誰かを喪った。
 記憶と感情が狂濤となって押し寄せたか――高く首を擡げた堕竜が鋭く咆吼する。
『ォォォオオオオ嗚嗚――ッッッ!!』
 然れば黒焔が彼を中心に放射状に広がり、荘厳の館が灼熱に呑まれる。
 巨躯はその儘、炎の絨毯を踏んで前へ、前へ――。
 悪魔の舌と燃え盛る黒焔を連れながら、狂える魔竜は同族の血を啜るべく、先ずは館の最上階を目指した。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。狂える竜も吸血鬼もここで止めないと駄目。
さもなくば、更なる災厄をまき散らす。

事前に火炎耐性を強化する“火除けの呪詛”を付与
全身を火属性攻撃を弾くオーラで防御した後、
左眼の聖痕に魔力を溜め【断末魔の瞳】を発動

目立たない亡霊の存在感を左眼で暗視して見切り、
第六感を頼りに殺気を捉えて奇襲を回避し吸収する

…憑きたいのなら憑けば良い。
犠牲になった貴方達の想い、私が受け止めてあげる。

心の傷口を抉るような亡霊達の悲鳴や過去の残像を、
呪詛耐性と精神攻撃耐性、そして気合いで受け止め、
心中で祈りを捧げ飛翔して先に進む

…力を貸してほしい。怨みでも憎しみでも無い。
かつて貴方達が愛した、この地に住む人達の為に…。



 凄まじい火勢だった。
 石廊に伸びる絨毯を伝って燃え広がった炎は、忽ち壁や柱に這い寄って焦熱に飲む。
 魔竜の侵襲に合わせて領主館に踏み入ったリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、轟、と銀髪を巻き上げる熱気の渦に、美し紫瞳を絞った。
「……ん。狂える竜も吸血鬼もここで止めないと駄目」
 さもなくば、更なる災厄をまき散らす。
 凛冽の瞳に魔竜の背を追った少女は、身の丈にも及ぶ炎叢に爪先を進めた。
(「……凄い黒煙……肺が灼かれそう……」)
 悪魔の舌と燃え盛る黒焔が少女の華奢を灼くか――否。
 事前に火炎耐性を強化する“火除けの呪詛”を己が躯に掛けたリーヴァルディなれば、『黎明礼装』と『黎明外套』が猛炎を弾いて術者を守った。
(「……館中に煙が巻いて……視界が悪い……」)
 其処は暗澹にして惨憺。
 烈火が躍り、火花が疾る凄然の中、可憐の左瞳が炯光の帯を引く。
「……壁の向こう側から悲鳴が聴こえる」
 其処に居る、と流眄が射るは荘厳なる絵画。
 厖大なる魔力を湛えた左眼の聖痕が、この館に縛り付けられた亡霊を捉えた。
『ォォォヲヲヲヲ……ッッ……ッ』
『アアアァァァアア嗚呼…………』
 壁より現る其は、悲哀、怨嗟、苦悶、絶望。
 呻きながら手を伸ばす亡霊の「死の抱擁」を、颯爽たる躯の転換で躱した彼女は、名も無き神との契約によって力を暴いた。
「……憑きたいのなら憑けば良い。犠牲になった貴方達の想い、私が受け止めてあげる」
 顕現、【代行者の羈束・断末魔の瞳】(レムナント・ゴーストイグニッション)――。
 すれば刻下、魔力を溢流させた左眼の聖痕が数多の亡霊を吸収する。
「……ッ、ッッ……」
 少女が受け止めるには余りに凄惨な記憶と感情。
 心の傷口を抉るような亡霊達の悲鳴や過去の残像が怒涛と流れ込むが、彼女は吸収した死者の霊魂との精神同調率に比例した戦闘力増強、そして飛翔能力を得る。
「……力を貸してほしい」
 痛撃に耐えた桜唇が漸う囁(つつや)く。
 次いで長い睫毛を持ち上げた凄艶は、館の奥部に座すであろう巨悪を睨め、
「怨みでも憎しみでも無い。かつて貴方達が愛した、この地に住む人達の為に……」
 痛みを祈りに変える。
 嘆きを翼に変える。
「……私が貴方達に代わる」
 聲は清冽にして凛然。
 次々と襲い掛かる亡霊に圧し潰されぬよう間を縫い、擦れ違い様に彼等を吸収したリーヴァルディは、光矢の如く炎を貫いて先へと進んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
溶けた門や破壊された壁を見ると竜の力に圧倒されそうになるけれど
業火を齎すその声は不思議と胸を締め付け
黒い背には人に似た心が在るように思えてならない

知ったところで意味があるかわからない
それでも
あなたの胸に何か大切な想いがあるなら
知らないまま終わりたくはないのです

呼びかけは心中に留め
迫りくる亡霊からオーラ防御で身を守る
立ち上る光は淡い白
心を鎮め第六感で近付く気配を感知
動きを読んで見切り、躱す

言葉を聞き取れなくても、響く声から恨みや憎しみが滲みるようで

私たちはこれから領主を倒しに行きます

軽々しい同情を口にするのは違うと思うから
祈りより決然と

あなた方の無念を預からせて下さい
必ずやり遂げます
どうか信じて



 猛り狂う黒焔は鋼鉄を溶かして尚も炎を蹴立てる。
 歪に拉げた鉄門、その燃え盛る炎の間に繊躯を潜らせた雨糸・咲(希旻・f01982)は、館に踏み入るや息を詰まらせた。
「これが竜の力……」
 石柱が砕かれ、鋭爪が疾る壁面には烈火。
 回廊に敷かれた絨毯は炎に呑まれ、悪魔の舌は天井を舐めずって黒煙を吐き出す。
 視界いっぱいに飛び込む惨憺に蘇芳香の瞳を揺らした咲は、館を揺るがす咆哮を聴き、桜唇を引き結んだ。
(「まるで慟哭……」)
 何故だろう、胸に荊棘が纏繞(から)む。
 生気を求めて群がる亡霊を業火に蹂躙して進む狂竜――その背を捉えた咲は、彼に人に似た心が在る様に思えてならない、と繊手を胸に宛がった。
「…………っ」
 何が彼を堕とし、何が斯くも狂わせたか。
 知った処で意味があるか分らない。
 蓋し咲は「それでも」と燃え盛る炎叢に爪先を進め、
(「あなたの胸に何か大切な想いがあるなら。知らないまま終わりたくはないのです」)
 まるで胸の痛みに従う様に――彼を追った。
『グルォォォオオ嗚嗚――ッッッ!!』
 狂竜の哮りを耳に、煉獄と化した館内を進む。
 灼熱が肌膚を焼き、黒煙が視界を遮る中、壁より伸び出るは亡霊の手か――悲哀と苦渋に満ちた魂が、生者たる咲を死に抱擁せんとする。
『ォォォヲヲヲヲ……ッッ……ッ!』
『ァァァアア嗚呼…………!!』
 機微に敏い咲には、言葉ならぬ聲に滲む恨みや憎しみが生々しく耳に迫ろう。
 霞がかった魔手が『萌翠』に指を掛けるが、咲は心を鎮めて邪気を感知するや、嫋やかに靭やかに躱し、立ち上る月白の幽光に邪気を撥ね除けた。
 佳聲は擦れ違い様に決意を告げて、
「私たちはこれから領主を倒しに行きます」
 軽々しい同情は口にせぬ。
 祈りより決然と意志を置いた咲は、尚も伸び出る五指に透徹の髪を梳かせ、願い出た。
「あなた方の無念を預からせて下さい」
 必ずやり遂げます。
 どうか信じて。
『ォォ、ォォオオ……ッ――』
『ェアアァアァ嗚呼……――』
 悲哀も、怨嗟も、苦悶も。
 亡霊は全て彼女に預けたか――浅葱色の毛先を弄んだ枯木の指が霧散する。
 嘆きの声が静寂(しじま)となるまで黙した咲は、それから焦熱の中を駆け抜けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
オブリビオンと化した者を人間に戻すことはできない
死した者を蘇らせることはできない
真の意味で彼らを救うことはできない

亡霊が跳梁跋扈する村を歩く
駆け抜けず、振り切らず

【トリニティ・エンハンス】【オーラ防御】【呪詛耐性】【狂気耐性】で全身に聖なる炎の加護を纏い防御力を強化
纏わり憑くのを振り払わず、呪詛の声に耳を傾け、幻覚から目を逸らさない
天に召されるのを妨げる、魂を捻じ曲げ地に縛り付ける憎悪と怨嗟の呪詛を引き受ける
ユーベルコードが解除され、血を吐くことになろうと反撃はしない
この手で彼らを救えはしない、だからせめて救われてあれと【祈る】



 聖職者たるオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)が柳葉の眉を顰めたのは、村に降り立って直ぐ。
 灰色の空の下に佇む領主館が、更なる暗澹を纏う異様に丹花の唇を引き結んだ佳人は、霞と烟る亡霊が怨嗟の声を絞り、朽木の如き手を伸ばす中を、深沈と歩いた。
 駆け抜けず、振り切らず、聢と踏み締める。
 軈て魔竜の侵襲の跡――身を溶かして尚も燃え盛る鉄門より館に入ったオリヴィアは、猛り狂う黒焔の中心で咆哮する巨竜と、その生気に群がる亡霊を黄金色の炯眼に射た。
「オブリビオン同士が喰らい合う――これも“同族殺し”」
 其は過去に鎖された者達の屠り合いだ。
 灼熱が悪魔の舌と這い回り、渦巻く黒煙が肺を灼く中、狂竜の向かう先を視線に追った修道女は、我が生気を求めて両側の壁より迫る亡霊に儼然と相対した。
『ォォォヲヲヲヲ……ッッ……ッ』
『アアアァァァ嗚呼……ァァ……』
 嘆きの声を聴き、死に抱擁せんとする手の伸びる儘を視る。
 亡霊はその白皙に触れ、柔肌を滑り、艶髪を梳いて纏わり憑くが、オリヴィアは彼等を振り払わず、呪詛に耳を傾け、襲い来る幻覚からも目を逸らさない。
 清けし乙女が狂乱に堕ちぬのは、【トリニティ・エンハンス】にて全身に聖なる炎の加護を纏っているからだが、彼女はそれすら手放す覚悟でいた。
 時に佳聲は凛冽を帯びて告ぐ。
「天に召されるのを妨げる、魂を捻じ曲げ地に縛り付ける憎悪と怨嗟を引き受ける」
 オブリビオンと化した者を人間に戻すことはできない。
 死した者を蘇らせることはできない。
 真の意味で彼らを救うことはできない。
「――この手で彼らを救えはしない」
 だからせめて。
 救われてあれ。
『ッッ、ォォ嗚嗚オオ……ッ――』
『ァアアァアァ嗚呼……――』
 自身を贄に、十字架にして祈ったオリヴィアの口端より血が零れる。
 亡霊達の触れる儘に身を任せ、反撃を拒んだ彼女は、ユーベルコードが奪われて尚も彼等の呪詛と狂気を受けきる。
 然れば如何だろう。
 聖女が血を流す程に怨嗟の亡霊は霞を散らして消えていく。
『ォ……ォォ、オ……――』
 既に人語を喪った彼等だが、連環が解かれたとは肌膚でこそ分かる。
「――聢と引き受けました」
 最後は敬意を払って。
 縋るように触れていた五指が、穏やかに離れて霧散するのを見届けたオリヴィアは、白皙に染む鮮血を手の甲に拭うと、魔竜の進む先に視線を繋ぎ、爪先を蹴り出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

夏目・晴夜
同族殺し、また随分と不可解な……
ああ、生きた人間が殺し合うのと同じでしょうか

亡霊の負の感情を浄化する言葉も術も私は持っていませんが、
穏やかに終わるのが一番ですので浄化できる人がいれば手助けしたい所です
負の感情が一概に悪いものとは思いませんがね

『喰う幸福』での高速移動を活かし、
浄化できず襲い来る亡霊を斬りつつ進みます
攻撃力は落ちてもいいですが、封じられたら厄介ですね
まあUC抜きに【串刺し】にするまでですが

亡霊に痛覚があるかはわかりませんが、
痛くないようひと思いに殺して差し上げます
これから先は天国という極楽で憎き現領主が死ぬ様を笑って眺めて、
その後はこのハレルヤを讃えながら心安らかに過ごして下さい



「――まぁ、なんと赫るい」
 灯無くては夢寐にも臥せられぬ夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は、猛然と燃え広がる地獄の焔に飄然のテノールを置くと同時、狂竜の哮る方向に狼耳をピンと立てた。
『グルァァァアア嗚呼ッッッ!!』
『……ォォ……ォヲヲ、ォォヲ……』
 悪魔の舌と伸びる炎叢の向こう、生気に群がる亡霊を烈火に蹂躙する狂竜が彼か。
 黒焔滾る鋭爪を振い、嘆きの亡霊ごと石柱や壁面に焔を疾らせて侵襲する魔竜を、晴夜は繊指に『えだまめ』を操りながら追う。
「同族殺し、また随分と不可解な……」
 オブリビオンがオブリビオンの肉を屠り、血を啜る禁忌。
 館に到る迄は俄かに理解が及ばなかった晴夜だが、美し紫瞳に修羅の景を映すに、類推を以て合点する。
「ああ、生きた人間が殺し合うのと同じでしょうか」
 ことり、首を傾げた後で、こっくり頷く。
 白柴に反応を代わらせた晴夜は、時に我が生気に垂涎して現れた数多の亡霊を流眄に見遣ると、丹花の唇より佳聲を滑らせた。
「負の感情が一概に悪いものとは思いませんがね」
 悲哀、怨嗟、苦悶、絶望。
 苦渋の声を絞りながら、死に抱擁せんと手を伸ばす亡霊を颯と躱した晴夜は、手首に結わえた燈火に光の帯を引きつつ、妖刀『悪食』に光を移した。
「亡霊の負の感情を浄化する言葉も術も持っていませんから、私はそのお手伝いだけ」
 穏やかに終わるのが一番、という言と共に流露するは暗色の怨念。
 悪食が喰らってきた怨念を纏った彼は、両側の壁から伸び出る手を高速移動で擦り抜けると、襲い来る亡霊を刃撃と衝撃波に斬り伏せる――其は【喰う幸福】(クウフク)。
「痛覚があるかはわかりませんが、痛くないようひと思いに殺して差し上げます」
 斬撃は一瞬。
 仲間の猟兵が亡霊を浄化する傍ら、霞と残る魂を別なる手段で「終焉」に導いた晴夜は、突如、床から伸び出た手に脚を掴まれると同時、亡霊が死の間際に味わった凄惨を幻覚として浴びせられ、僅かに時を止めた。
「ッ、ッッ……これは――」
 精神を蝕まれるか――否。
 クッと口角を持ち上げた彼は、妖し靨笑を手の甲に拭うと、呪詛を紡いだ舌を串刺しにして礼を言う。
「これが現領主の姿態と。佳いものを見せて貰いました」
 醜い悲鳴に添えられる玲瓏の聲は、次いで決別を告げて、
「これから先は天国という極楽で憎き現領主が死ぬ様を笑って眺めると佳いでしょう」
『ゲァ、ァァ……ァ……ッッ』
「その後はこのハレルヤを讃えながら心安らかに過ごして下さい」
 軈て訪れた静寂(しじま)に、跫音を置いて先へと進んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・ルイゾン
アドリブ、連携歓迎

あなた様にとって死は安寧ではございませんでしたのね。
繰り返し嘆き恨み続けるお姿のなんとおいたわしいことでしょう。
やはり、死の間際に絶望し苦しむと魂は救われないものなのでございますね。

ですが、もうご安心くださいませ。
わたくしは罪科穢れを魂から分かち、永遠の安寧、神の御許へと導く救済の刃。
本来ならば人間のためのお人形ですが
あなた様の二度目の死も、等しく美しく幸福に満ちるとお約束いたしますわ。

呪いには呪詛耐性で対抗し、Bois de Justiceを手に、言葉には破魔を宿しましょう。
相手をよく観察し、学習力と第六感から見切りを試みます。

もう、よろしいのですよ。
刃は既に落ちました。


シノ・グラジオラス
SPD選択。アドリブ等も歓迎

自分すら焼き殺しかねない炎だな
いや、既に理性は焼き切ったからこその、同族殺しか
その炎に焼べられたモノが何なのかは気になるが、今は後を追う事が先だな

同族殺しの炎を『火炎耐性』で巻き込まれないようにしながら『追跡』する

亡霊の攻撃は『見切り』と『野生の勘』で極力避けるが、
受けた場合は『呪詛耐性』で耐えながら説得を行う

アンタらの苦しみや悲しみを、同じ目に合ったワケじゃない俺が分かるなんて安易には言わない
けど、恨む相手とアンタ達の願いは間違うなよ

俺が受けた感情全部、その根源の領主達にぶつけて来てやるから
もうアンタ達と同じ目に合う人を作らせないから
後は任せて、静かに眠ってくれ


アルトリウス・セレスタイト
竜が狂うとは
逆鱗に触れたか、館主

纏う原理――顕理輝光を運用し交戦
『天光』で全てを逃さず捉え、『励起』『解放』で個体能力を人型の極限まで上昇
必要な魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

亡霊は魔眼・封絶で拘束
確認次第封じ機先を制す
行動も能力発露も封じる魔眼故、囚われれば身動きできずユーベルコードも霧散する

封じた個体は『討滅』の死の原理で速やかに始末
終わったものは眠るが道理
次を呼ぶ猶予は与えない

竜には触れぬように適度に距離を置く

※アドリブ・連携歓迎



 猛り狂う黒焔は鋼鉄の巨門を溶かして尚も炎を蹴立てる。
 歪に拉げた鉄門の未だ燃え盛る炎の間に長身を潜らせたアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、館に踏み入るや怒れる魔竜の咆哮を聴いた。
「――竜が狂うとは。逆鱗に触れたか、館主」
 凄まじい火勢が狂乱の程を示そう。
 荒ぶる儘に燃え広がった炎は、石廊に伸びる絨毯を這って壁や柱を赫々と包んでいる。
 まるで煉獄だと歎声を零すアルトリウスの隣、爆ぜる火花を払って進入したシノ・グラジオラス(火燼・f04537)は、悪魔の舌と伸びる炎叢の向こうに狂気の影を捉えた。
『グルァァァアア嗚呼ッッッ!!』
 焔立つ鋭爪を振い、生気に群がる亡霊を蹂躙する狂竜。
 嘆きの声を猛々しい咆哮に切り裂きながら、憤怒の炎を浴びせる暴虐の竜は、全身を火の山の如くして聳立していた。
「――自分すら焼き殺しかねない炎だな」
 その危うさに覚えず炯眼を絞るシノ。
 玲瓏のテノールは間もなく言を継いで、
「いや、既に理性は焼き切ったからこその“同族殺し”か」
 オブリビオンがオブリビオンの肉を屠る禁忌――『同族殺し』。
 余程の絶望に堕とされぬ限り同胞の血は啜るまいと、狂える魔竜を片眼に射たシノは、携えた黒剣『燎牙』に火守の加護を得た『吾妹紅』を揺らしつつ、爪先を進める。
「その炎に焼べられたモノが何なのかは気になるが、今は後を追う事が先だな」
「では、わたくしは後尾を預りましょう」
 静穏なる首肯を添えるはシャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)。
 轟、と爆ぜる熱風に『Lamento』を翻した可憐は、一同が進む先、通路を塞ぐように壁や床から現れた亡霊を望月の瞳に映した。
『……ォォ……ォヲヲ、ォォヲ……』
『ァアアァアァ嗚呼……ッッ!』
 悲哀に噎び、怨嗟を叫ぶ亡霊たち。
 床より伸び出る無数の手がアルトリウスの脚を絡げ、苦悶の叫びがシノに凄惨なる幻覚を見せ、壁を擦り抜けた朽木の腕がシャルロットに死の抱擁を与えんとする。
 すれば彼等は颯爽とこれらを躱し、
「絶望に踏み躙られて尚も絶望に繋がれているのか」
「繰り返し嘆き恨み続けるお姿のなんとおいたわしいことでしょう」
「家に帰れず、天に還れず……ずっと此処で無力を嘆いている」
「やはり、死の間際に絶望し苦しむと、魂は救われないものなのでございますね」
 全知の原理『天光』にて万象を見通したアルトリウスが縋り付く魔手を振り払う傍ら、シャルロットは第六感を研ぎ澄ませて朽木の腕を擦り抜ける。
 シノは戦闘勘と経験則から霞の如く浮遊する亡霊を巧みに躱すも、鋭敏なる聴覚に悲嘆と苦渋を拾い、彼等が今際に得た凄惨を追体験した。
「ッ、ッッ――」
 正気を喪う程に陰惨な記憶が怒涛と流れ込むが、シノは端整の唇を結んで耐え切る。
「――アンタらの苦しみや悲しみを、同じ目に合ったワケじゃない俺が『分かる』なんて安易には言わない」
 卒爾に同情はしない。
 慥かな語調で然う告げたシノは、長い睫毛に縁取られた浅葱色の双眸に炯然を宿すと、今なお痛恨を叫ぶ亡霊を見据える。
「けど、恨む相手とアンタ達の願いは間違うなよ」
 邪気を楔打つは剣でなく言。
 身を蝕む眩暈を靴底に踏み締めながら、シノは力強く穏やかな音吐で語り掛け、
「俺が受けた感情全部、その根源の領主達にぶつけて来てやるから。
 もうアンタ達と同じ目に合う人を作らせないから。
 ――後は任せて、静かに眠ってくれ」
『ッッ、ォォ嗚嗚オオ……ッ――』
 彼の意志に魂を慰められた亡霊が、ひとつ、またひとつと消えていく――。
 或いは死霊らは自身ですら負い切れぬ怨恨を託す者を求めていたか。
 縋るようにシノへと集まってくる亡魂に、シャルロットは愛しみの瞳を注いで、
「あなた様にとって死は安寧ではございませんでしたのね」
 優艶の聲で囁(つつや)く。
 慈雨の如きソプラノ・コロラトゥーラが亡霊の蒼白い顔貌に染み渡る。
「ですが、もうご安心くださいませ。
 わたくしは罪科穢れを魂から分かち、永遠の安寧、神の御許へと導く救済の刃」
 シャルロット・アンリエッタ・ルイゾン。
 少女は穢れなき刃で愛らしく美しく首を刎ねる処刑人。
「本来は人間の為のお人形ですが、あなた様の二度目の死も、等しく美しく幸福に満ちるとお約束いたしますわ」
 死霊が紡ぐ呪詛に耐えつつ、繊手に『Bois de Justice』を、言に破魔を宿す。
 向かい来る朽木の両腕をふうわり躱したシャルロットは、すれ違い様に流眄を置いて、
「もう、よろしいのですよ。刃は既に落ちました」
『ォ……ヲヲ……ォ……』
 刻下。
 靄を為していた霞が散り、柔かく波打つ真珠色の艶髪を撫でる。
 怨嗟の声が消え、静寂(しじま)となるまで耳を澄ませた可憐は、尚も絶望に鎖がれた亡霊が、アルトリウスに「救済」を求める様を見届けた。
『ヲヲヲォォォ……ォ、ォ……』
「――極限を以てする」
 手は抜かない。其が彼の誠意。
 纏う原理――顕理輝光を惜しみは為ぬと、玲瓏の双眸に炯光を湛えた原理の権能者は、創造の原理『励起』にて眠れる威を呼び覚まし、自由の原理『解放』で人間の器の疆界を超え――個体能力を極限まで上昇させる。
 彼は人型をした何で在ったろう。
「人の繋がりは尊ぶべきもの。なれば怨嗟の鎖は――」
 必要な魔力は、創世の原理『超克』で“外”から汲み上げる。
 藍白い燐光を迸らせたアルトリウスは、向かい来る亡霊に正対するや、【魔眼・封絶】――心眼で捉えた全対象、世界の根源から直に存在を捉える原理の魔眼に射て、一切の行為を禁じ、能力の発露を封じた。
『ォ、ォォ……ヲヲヲ……』
「その儘、唯だ見続けろ」
 でなければ再び死に迷う。
 一切の挙措を封じられ、噎ぶだけの亡霊に冷然と言ちた彼は、間もなく死の原理『討滅』を以て終焉を与える。
「終わったものは眠るが道理」
 怨嗟の螺旋を砕いたなら、次なる死霊は現れまい。
 亡霊が自身の死を視た様に、己もまた彼等の死を見届けたアルトリウスは、亡霊に掴まれて指痕が出来た脚を前に進める。
「竜の逆鱗に触れぬよう適度に距離を置く」
「賛成だ。延焼を避けて後を追おう」
「――では、わたくしも」
 焦熱が肌膚を灼き、黒煙が肺を灼く中、視線を交す猟兵達。
 彼等は崩れ落ちる石柱の間に身を滑らせながら、狂える竜の背を逃さず追った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

鷲生・嵯泉
同族殺し、か
二体を討取る為に使える機会とあらば
其れ自体は使わぬ手ではあるまいが……
只……狂える竜。其の存在が気に掛かる

死して後も縛られ苛まれ続ける其の苦痛が如何程のものか
……しかし生憎だが、私は此れ以外の遣り様を知らん
せめて此れ以上は苦しません様に送ってやろう
其れがせめてもの手向けだ
攻撃は第六感と戦闘知識で先読みし、見切りで躱す
多少の事は激痛耐性と呪詛耐性で捻じ伏せ構いはしない
剣刃一閃、破魔と怪力をも乗せ一気に叩き斬る
……もう此れ以上は何をする必要も無い
安心して眠るがいい

狂える竜へ目を向ける
探す相手が『敵』であるのは間違い無いのだろうが
――お前が今見ている世界は、一体『何時』だ…?


セツナ・クラルス
肉体が滅んだのにも関わらず、
延々と痛みを受けるのはさぞ辛かったろう

痛みに痛みをぶつけるのは私は好まない
痛みを希望に
希望を安らぎに変えてこその救い主ではないのかな

祈りを捧げ精神を集中し
破魔の力でコーティングした障壁を自身の前に設置
全ての痛みを引き受けるなんて大層なことは今の私にはまだできない
しかし、痛みを共有することで彼らの闇を発散させることはできるはずだよ

破魔の力で呪詛を相殺
堪え難い痛みはUCで抑えよう

……間に合わず、すまなかった
私の身体で足りるなら幾らでも捧げよう
が、今はまだその時ではない
あなた方の無念は我々が晴らす
なので、それを果たす為の猶予をくれないかい


荒谷・つかさ
憎悪や怨嗟によって縛り付けられた亡霊、か。
……いいわ、来なさい。
その想い、全部受けとめてあげる。

歩を進めながら【怨霊降霊・迷晴往生】発動
取り憑いてくる霊達を拒まず、逆に受け入れる
彼らの怒り、悲しみ、憎しみ、怨み……
それらの想いに寄り添い、耳を傾け受けとめて、私の身体を触媒として負の想念を濾しとり、霊達を浄化
呪縛から解かれた霊は解放するが、望む者がいるのならば領主との戦いにも同行してもらう

お前達の想い、しかと聞きとげたわ。
後の事は私達に任せて、安らかに眠りなさい。
……それでも尚望むのなら。
私の身体を少しだけ貸してあげる。
共に、領主を討ちましょう。



 黒焔は烈々と絨毯を伝って燃え広がり、壁や柱を灼き尽くす。
 黒煙は熱風に煽られて天井に渦巻き、昏きに爆ぜる火花が続く闖入者の肌膚を灼いた。
「――視界は悪いし、肺が焼けそう」
 身を溶かして尚も炎を蹴立てる鉄門を潜り、領主館に踏み入った荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)は、咄嗟に繊手を翳して灼熱の烈風を防ぐ。
「火勢が烈しい……急がねばなるまい」
 小柄な彼女の盾となるべく進み出た鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、赫き隻眼を巡らせて周囲の損壊を確かめると、間もなく発せられた猛々しい咆哮に炯眼を繋いだ。
『グルァァァアア嗚呼ッッッ!!』
 炎と煙に包まれる館内、悪魔の舌と揺れる炎叢の向こうに果して彼は居た。
 憤激魔竜イラース――生気を求めて群がる亡霊を灼熱に蹂躙する、堕ちた魔竜である。
「――己さえ滅ぼしかねない炎だね」
 地獄の業火とは斯ばかりか、と優艶の声を添えるはセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)。
 安けき黒闇の瞳に映る狂竜は、死霊の声を荒ぶる咆哮に引き裂き、無数に伸び出る腕を炎爪に薙ぎ払う――宛ら暴虐の化身。
 幾許か彼に意志が在ると判明るのは、嘗て起居した館を朱殷の焔に包みながら、既に侵襲に気付いたであろう現領主の元へと踏み進んでいく迷い無さだ。
『グルォォォオオ嗚嗚ッッ!!』
 魔竜の進路を嚮導に為可しと、嵯泉が爪先を弾く。
 怒れる竜の背を追った烈志は覚えず言ちて、
「――同族殺し、か」
 オブリビオンがオブリビオンの肉を屠り、血を啜る禁忌。
 強者二体を討ち取る絶好の機会なれば、使わぬ手ではあるまいが――。
「只……狂える竜。其の存在が気に掛かる」
 如何なる絶望が彼を堕としたか。
 如何なる過去が彼を狂わせたか。
 憤怒を炎と変えながら、魔爪を疾らせて往く竜の尾を瞶めた嵯泉は、間もなく我が身にも迫る亡霊を流眄に射た。
『ォ……ヲヲ……ォ……』
『ァァ、ァァ……アア……』
 悲哀、怨嗟、苦悶、絶望。
 あらゆる負の感情を嘆きと絞りながら、炎獄を潜って現れる死霊の群れ。
 壁より伸び出た朽木の指がつかさの艶髪に攫み掛かり、床より這い出た蒼白の手がセツナの脚に縋り付き、天井より現れた死霊が嵯泉を死に抱擁せんと腕を伸ばす。
 猟兵は常闇に連れられるか――否。
「憎悪や怨嗟によって縛り付けられた亡霊、か」
 つかさは柳葉の眉ひとつ動かさず、髪を掴んだ死霊の窪んだ瞳を見据え、
「この数……どれだけの村人が圧政の犠牲に……」
 玲瓏のテノールに嘆声を交ぜたセツナは、ぶわり迫る怨嗟を破魔の力で相殺する。
「――死して後も縛られ苛まれ続ける其の苦痛は如何程のものか」
 戦闘勘と経験則により亡霊の挙措を見切った嵯泉は、死の抱擁を間際に躱した。
 蓋し数が多いとは、端整の唇を結んだ各々の沈黙が示そう。
『ォォ嗚嗚オオヲヲヲヲッ!!』
「ッ、ッッ……!」
 死霊が悲鳴を裂くや、正気を喪う程に陰惨な記憶が怒涛と流れ込む。
 刻下、亡霊が今際に得た凄惨を幻覚として追体験したセツナは、躯を屈めつつ眩暈を凌ぎ切ると、長い睫毛を持ち上げて亡霊を視た。
「……肉体が滅んだのにも関わらず、延々と痛みを受けるのはさぞ辛かったろう」
 聊爾に同情はせぬ。
 全身に疾駆する激痛を靴底に踏み敷いた彼は、凛然の瞳に炯光を宿して語る。
「痛みに痛みをぶつけるのは私は好まない。
 痛みを希望に、希望を安らぎに変えてこその救い主ではないのかな」
 籠の中で生き、籠の中で死ぬ筈だった「救い主」。
 何の手違いか解き放たれたセツナは、開かれた世界でこそ「救い主」たらんと祈りを捧げ、迸る破魔のオーラを守盾として眼前に据える。
「全ての痛みを引き受けるなんて大層な事は、今の私にはまだ出来ない。しかし、痛みを共有する事で、彼らの闇を発散させる事は出来る筈だよ」
 聲は穏やかに、瞳は慈しみに和らいで。
 痛みを分かち合うにも相当な苦悶が躯を蝕もうが、セツナは彼等が背負った怨嗟に抗う事なく受け入れていく。
 群がる死霊に躯を覆われた彼は、それから幾許の会話をしたか。
「……間に合わず、すまなかった。私の身体で足りるなら幾らでも捧げよう」
『ァァ、ァアア……アア……』
「だが、今はまだその時ではない――」
『ォォ……ォォヲヲ、ヲヲ嗚嗚……ッッ』
「あなた方の無念は我々が晴らす。だから、それを果たす為の猶予をくれないかい」
 ひとつ、またひとつと、彼に慰められた死霊が霞と消えていく。
 或いは亡霊達は、己が無力を預ってくれる者を求め、彷徨っていたか――。
 彼等が僅かにも希望を抱えていたとは、つかさに縋り付いた亡霊の顔貌にも表れよう。
「怒り、悲しみ、憎しみ、怨み……いいわ、来なさい。その想い、全部受けとめてあげる」
 瞳を逸らさず、歩を進めながら正対する。
 羅刹の巫女が流露するは【怨霊降霊・迷晴往生】――無念を抱えて彷徨う魂を受け止め、その想念を濾し取って霊を浄化したつかさは、その質量に応じた戦闘力を得る。
「無念に寄り添い、耳を傾け受けとめて、私の身体を触媒に負の想念を濾し取るわ」
『ァ、ァァ……ァァア……』
 群がり取り憑く霊達を拒まず、逆に受け入れ、浄化する。
 つかさは小柄で華奢ながら、霊を容れる器としては深く大きく、また泉か湖の如き透徹が霊の邪気を浄い、元の無垢へと清めていく。
 清澄の耳は怨嗟を聴いて狂乱に堕ちず――、
「お前達の想い、聢と聞き遂げたわ。後の事は私達に任せて、安らかに眠りなさい。
 ……それでも尚望むのなら。私の身体を少しだけ貸してあげる」
 異能の力を降す巫女は、僅かにも触れた希望を汲み取り、躯を差し出す。
 間もなくつかさは、己が身に厖大なる霊魂が流れ込む感覚に武者震いしたろう。
 美し佳聲は、凛冽と冴えて意志を告げ、
「――共に、領主を討ちましょう」
 更に踏み出る一歩は、佳人一人のものに非ず。
 呪縛から解かれた霊は解放し、また望む者を現領主との戦いに連れるつかさは、幾回りも大きな――圧倒的存在感を放って前に、前に、進む。
 斯くしてセツナは聖者として死霊を清め、つかさは戦巫女として霊魂を預ったのだが、これは万人が出来るものではない。
 災禍を絶つ『秋水』、禍断の刃『縛紅』、禍を必滅する『春暁』も無骨なれば、愛しみに魂を慰める器量は無しと剣柄を撫でた嵯泉は、炎叢にカヴァリエ・バリトンを置いた。
「此れ以上は苦しません様に送ってやろう。其れがせめてもの手向けだ」
 全身全霊を以て終焉を連れる。
 其が彼なりの誠意。
「……生憎だが、私は此れ以外の遣り様を知らん」
 冴ゆるほど美しい闘気に無数の魔手が伸び出れば、嵯泉は柘榴にも似た赫眼に炯光を引いて身躱し、尚も攫み掛かる五指に構わず抜刀する。
 己が身を喰らう激痛を靴底に捩じ伏せ、深く腰を落として。
 刹那、冴刃を疾走らせる。
「……もう此れ以上は何をする必要も無い。安心して眠るがいい」
 霹靂閃電、【剣刃一閃】――!
 鍛え上げた精悍の躯より渾身の力を絞り、破魔の霊光を帯びた一太刀が邪を斬る。
『ォォ、オオ……オヲヲ、ヲヲ……――』
 骸の海を潜らず、今度こそ黄泉路を辿れようか。
 絶望に繋がれていた亡霊は死の螺旋を断たれ、漸くの安堵を得て静寂に溶ける。
 進路を塞いでいた霞が払われた瞬間、その先に狂竜を捉えた嵯泉は、ほつりと言つ。
「――お前が今見ている世界は、一体『何時』だ……?」
 敵を探しているのは間違い無いだろうが。
 或いは、果して。
『グルォォ嗚嗚オオヲヲッ――――!!』
 猟兵は堕竜の咆哮に何をか感じよう。
 彼等は一縷と迷わず踏み進む魔竜の黒焔を追いながら、間もなく館の最上階、最奥部にある領主の居室へと至った――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『大領主』

POW   :    驕れる災厄
【自身に纏わりつく死霊の攻撃】が命中した対象を爆破し、更に互いを【それぞれの視界から逃れられない呪い】で繋ぐ。
SPD   :    首狩り
自身の【殺意】が輝く間、【黄金の十字剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    生存限界超越
全身を【自身に纏わりつく死霊】で覆い、自身が敵から受けた【あらゆる種類の攻撃】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:すろ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠セシリー・アリッサムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 領主館の最上階、最奥部の主の居室。
 黒炎の波濤に破壊された扉から声が聴こえる。
 灰色の霧を帯びたような、鬱屈としたバリトンだった。
『卿を護らんと、内なる想いを翼に変えた――あの純白の翅は美しかったな』
 否、それ以上に苛立たしい語調であった。
 斯くも滑らかに人語を語るなら、聲の主は現領主たる『血宴卿ゾエ』だろう。
 血宴卿は猛り立つ魔竜の気焔を間近にしながら、鷹揚と笑みさえ浮かべているらしく、其の嗤笑は黒焔の奔流を浴びても変わらない。
『グルォォ嗚嗚オオヲヲッ!!』
『覚醒したばかりのオラトリオがヴァンパイアに敵う筈がない。卿とて御存知だろう』
『グルァァァァ嗚呼嗚呼ッッ!!』
『あれは美談として受け取ってくれたまえ』
 片方が狂っている故に、会話にはならなかったろう。
 蓋し言の代わりに超常の力を交えた両者は、広い居室を轟音に震わせて相見える。
 溜息がちに零れる血宴卿の言は、狂える竜の慰みにはならない。
 クッと口端を持ち上げたゾエは怒れるほど御し易いと竜を駆り立て、
『卿も狂竜と堕ちねば、娘の亡骸を腕に抱けたろうに』
『グルァァァァアア嗚呼嗚呼アアッッ!!!』
 須臾、爆轟が館を震わせる。
 一気に燃え広がった炎は決闘の舞台を赫々と浮き立たせ、第三者の介入を拒むように両者を灼熱に囲い込んだ。
アルトリウス・セレスタイト
領主業とは随分暇なのだな

纏う原理――顕理輝光を運用し交戦
『天光』で全てを逃さず捉え、『励起』『解放』で個体能力を人型の極限まで上昇
必要な魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給

界離で時の原理の端末召喚。魔力を溜めた体内に召喚し自身の端末機能を強化
血宴卿の行う行動全てを「終わった後」に飛ばし現在には何も起こさせない

遠慮するな。存分に無駄骨を折れ

消される前にと思うなら試すのも良いが
俺が時を紡ぐに必要なのは意志一つ
思考を超えられるか、速さ比べする気になったか



 黒焔で囲繞された其処は宛ら決闘場であった。
 炎獄の檻は出る事を許さず、介入(はい)る事を許さず。またいずれが勝利したとて、凄まじい焦熱は何をも残さず灼き尽くす烈度であった。
 然して何者をも拒む焔の戦庭に踏み入る者が居た。
「領主業とは随分暇なのだな」
 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、纏う原理――『顕理輝光』の淡青の燐光を全身より迸らせながら、炎の中へと分け入る。
 彼にとっては憤怒の黒焔も万象の一に過ぎぬか、全知の原理『天光』で灼熱の放射を見極めたアルトリウスは、創造の原理『励起』と自由の原理『解放』を以て個体能力を人型の極限まで上昇させると、身を焼くことなく炎獄に到る。
 狂乱に躍る焦熱を相殺するに必要な魔力は、創世の原理『超克』で“外”から汲み上げ供給すれば、以後も悪魔の舌と揺らめく黒焔に煩わされる事は無い。
 朱殷の焔に淡青の光を割り入らせる彼に、片方の邪が流眄を繋いだ。
『――客人かな』
 今日は来訪者が多い、と淡い嗤笑に迎えるは現領主『血宴卿ゾエ』。
 但し彼も未だ損耗の見えぬ狂竜と交戦中ならば、歓迎の言葉も程々にして、
『見たところ炎窟卿の従者でなし……そうか、猟兵が要らぬ詮索をしに来たのか』
「其方の事情に一切興味は無い」
『これは酔狂な』
 だが相応に持成そう、と口端を歪めた血宴卿が黄金の十字剣を振り被る。
 鏖殺の気を迸らせた彼は、弾指の間に計九回――その剣鋩を衝き入れた。
 冴光閃く剣撃がアルトリウスの長躯を串刺さんとするが、その「行動」が既遂として終えてしまったのは如何いう事だろう。
『ッ、これは――』
「遠慮するな。存分に無駄骨を折れ」
 其は【界離】。
 対峙した敵に有効な原理を内包し、望む規模で世界干渉可能な端末を――此度は「時」の原理の端末を、魔力を溜めた体内に召喚した彼は、自身の端末機能を強化する。
「その行動全てを『終わった後』に飛ばし、現在には何も起こさせない」
 彼は今でこそ人間と自覚する程度になった原理の端末。
 世界が構成される前の法則を掌る異能者は、何する事もなく擦れ違った血宴卿に振り向いて、躯に纏う淡青のオーラを陽炎の如く立ち昇らせる。
「俺が時を紡ぐに必要なのは意志一つ。思考を超えられるか」
『――興(おもしろ)い! 速さ比べを為ようじゃないか』
 淡然と飄然が交錯する。
 血宴卿は怒れる竜の猛牙鋭牙を颯爽と躱すや、強く爪先を蹴り出し、
『愚直な竜より愉しませてくれるだろう?』
 九刺九廻――凝縮された時の狭間に到り、アルトリウスの首の皮に切先を届ける。
 炎獄に躍る血滴を視た彼は、恍惚の表情で剣先を舐めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
如何に強大な力だろうと、理性がなければ御し易い
あの魔竜の敗北は必至ですね

【血統覚醒】により吸血鬼を殺す吸血鬼と化す
【属性攻撃】【破魔】で槍に聖なる炎を纏う
いつもながら吸血鬼は舌がよく回る
だいたいの事情は察した、疾く死に絶えろ

【怪力】を以って聖槍を【なぎ払い】、纏っている死霊ごと斬り打ち穿つ
炎の加護(オーラ防御・呪詛耐性)で近寄る死霊を焼き払う
我が聖槍の輝きの前に、死霊の守りなど無意味

呪いを受けようが受けまいが関係なく、真正面から斬り込む
剣を持つ腕自体を、灼熱したガントレットで引っ掴み、焼きながら握り潰す(グラップル)
もう片方の手で聖槍を抉り込む(ランスチャージ・串刺し)


荒谷・つかさ
……なるほどね、事情は大体わかったわ。
まあ、それについてお前にどうこう言うつもりは無いわよ。
どうせ無駄でしょうし。
私がここに居る理由は「彼ら(1章で浄化した霊達)」の願いを受け、私自身もお前を見過ごせないと思った。
ただそれだけよ。

奴を真っ向から見据え【双縛熱視線】発動
例え奴が死霊を放って来ようが、目と目が合えばこちらの方が発動が早い
それに加え、私のコードは視界に限らず「視線」を縛るもの
そう、発動した時点で最早「互いの事しか見えない」ようになる
そうなれば、狂竜の攻撃を捌く事もままならないでしょう?

私が巻き添えを喰らう可能性は……肉薄していなければ低いはず
だから、遠間で風の刃による牽制をしとくわね



 嘗ての領主と当今の領主――決して同じ天を戴かぬ両者を焦熱で囲繞した朱殷の焔は、出る事を許さず、介入(はい)る事を許さず。またいずれが勝利したとて、その勝者すら灰燼に処す烈度であった。
 然して何者をも拒む焔の戦庭に猟兵が踏み入る。
 この館に獄がれた亡霊の呪縛を紅血を流して断ち切ったオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)と、己を触媒に彼等の負の想念を浄化し、その意志を躯に預った荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)だ。
 清けき修道女は、破邪のルーンを刻んだ聖槍を手に憤怒の焔を踏み分け、雄渾なる霊魂に満たされた巫女は、我が繊指で炎叢を抉じ開けながら戦場に到る。
 五感を研ぎ澄ませた聖女達は、届く聲や音で状況を把握していたろう。
「大体の事情は察しました」
「――まあ、それについて如何こう言うつもりは無いわ。どうせ無駄でしょうし」
「ええ、骸の海に還せば済むこと」
 視線は真っ直ぐ、魔竜と吸血鬼の血戦を見据えた儘、言を交す。
 オリヴィアは紅を縁取る眼鏡越しにイラースの劣勢を見て取り、
「如何に強大な力だろうと、理性がなければ御し易い……魔竜の敗北は必至かと」
 吸血鬼は人間もオブリビオンも弄ぶ。嘲笑う。踏躙る。
 瑕疵に付け込むのが彼等の性であると、丹花の唇を結んだ佳人は、【血統覚醒】――瞳を真紅に輝かせ、吸血鬼を殺す吸血鬼へと変ずる。
 血宴卿は凄艶の変貌に目を瞠り、
『冴月の如き金瞳も美しかったが、血色は格別。柘榴より美味に私を誘惑する』
「いつもながら吸血鬼は舌がよく回る」
 徒言は不要と、主に代わって向かい来る死霊を炎槍に焼き払う。
 この死霊もまた彼に縛られた者か――虚無の眼窩を見詰めたつかさは、つと言ちて、
「私がここに来た理由は、『彼ら』の願いを受け、私自身もお前を見過せないと思った。ただそれだけよ」
 見過ごせない、とは詰り、こういう事だろう。
『カカッ、カカカカカッ!』
(「目と目が合えばこちらの方が発動が早い――!」)
 刻下、死の抱擁に迎えんとする死霊の両腕を躱したつかさは、美し琥珀色の瞳を血宴卿に注ぎ、【双縛熱視線】(ステアー・アット・オンリー・ミー)――視線を繋いだ相手を爆破し、更に互いを釘付けに、目が離せない状態にする。
『ッ、ッッ!』
 周囲の焔が爆発を増長すれば、威力は強烈。
 須臾に爆風と轟音が炎獄を揺らすが、遠巻きに風の刃で牽制を敷いておいたつかさは、僅かに熱風で肌膚を切るのみ。
 白磁の手の甲に血を拭った可憐は、文字通り熱帯びた視線を血宴卿に注ぎ、
「私のコードは、視界に限らず『視線』を縛る」
 発動した時点で「互いの事しか見えない」ようになる――然れば狂竜の攻撃を、続く仲間の攻撃を捌く事は儘なるまい。
 間もなく血宴卿は彼女の言う通りとなり、全き正面から突貫したオリヴィアの聖槍を、臓腑の損傷を以て受け止める事になる。
「疾く死に絶えろ」
『ズ、痛アァッ!!』
 吹き出る血汐も直ぐに蒸発する、色気無い炎獄の檻中。
 初めて血宴卿が痛撃を叫べば、彼を護る死霊が王のマントに主を包むが、オリヴィアは彼が死霊を纏おうが纏わまいが、己が呪いを受けようが受けまいが関係ない。
「我が聖槍の輝きの前に、死霊の守りなど無意味」
『カカカッ、カカカカッ!!』
 死霊ごと聖なる炎に灼き貫く――ッ!
 抉り込む様に聖槍の柄を繰り出した凄艶は、其を黄金の十字剣の剣鋩に往なしながら、火花を弾いて迫る冴刃を、伸び出る腕ごと灼熱のガントレットで掴む。
 臂肉の灼ける匂いを間に、更なる真実が暴かれよう。
『この死霊はお気に入りでね。見逃してはくれないか』
「何を――」
『炎窟卿が愛したオラトリオを亡くしては、卿も哀しむだろう?』
 歪な嗤笑が零れる。
 瑕疵に付け込む吸血鬼が舌を舐め擦る。
「、なんてこと……」
「無辜の命をここまで弄ぶ……!」
 追い詰めて真実を吐かせたつかさとオリヴィアは、俄に焔(ほむら)立つ瞋恚を奥歯に噛み締めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
……傲慢もここまで極めるといっそ清々しく思えてくるから不思議だねえ
赦しを求めるものには与えたいと思っているが
あなたに差し上げるものは何もなさそうだ

戦力の差は歴然
正面から立ち向かったとしても
擦り傷一つ付けることは叶わないだろうね
ならば敵の攻撃を利用しようか

第六感を駆使し初撃をかわす
以降は敵の動きの癖等を学習し、見切りの精度を高める
破魔の力で清めた毒を鎮痛剤として使用し負傷のダメージをカバー
ぎりぎりまで耐えれば隣人を発動させ反撃

ふふ、こんな戦い方をしていれば命が幾つあっても足りないねえ
…しかし、彼らにこの身を捧げると誓ったのだよ

あなたは報いを受けなければならない


雨糸・咲
嘗て何が起こったのか
現領主の話に耳を欹てるけれど、
断片から推測される物語には胸が悪くなるばかり

対峙する両者の力の余波を第六感を駆使して見切り、避けつつ
揺らめく炎に
崩れた柱に
身を隠しつつ血宴卿の死角へと回り込む

魔竜が、或いは他の猟兵たちが大きな攻撃を仕掛けるタイミングを見計らい
寸前で高速詠唱
光の洪水で血宴卿を押し包む
注意を逸らし、彼の力を増す死霊をも天へと誘えれば上々
彼らも、望んでそこに居るのではない気がして

現領主が倒れれば、氷の礫含む風を喚んで鎮火を試みます
炎に抱かれているよりは
少しは心が鎮まるかも知れないから…


鷲生・嵯泉
吸血鬼と云う輩は己等を高貴だの何だのと称するにしては
下種な遣り口を好むと見える辺り、性根が知れると云うものだ
口にする言葉の全てが其の存在の不快さを際立たせる
早々に相応しい場所へと戻るがいい

終葬烈実で能力底上げ
細かな攻撃は見切りで躱し
UCでの攻撃は戦闘知識と第六感で先読みし
衝撃波での軽減を重ねて呪詛耐性と武器受けで弾く
多少の傷は激痛耐性と覚悟で無視して前へ出る
お前の前に付く膝なぞ有る訳が無かろう
フェイント挟んだカウンターで、怪力乗せた攻撃を叩き込んでくれる
さっさと其の口を閉じろ、鬱陶しい

僅かに聞こえたあの会話……
狂える竜
オブリビオンであるお前が何を望んだのか
矢張り確かめる必要が有る様だ


シャルロット・ルイゾン
アドリブ、共闘歓迎

人間の感情は燃えると表現されることがあるそうでございますが
館を包む炎はまさにその具現のようですのね。
あなた様方の事情は存じ上げませんが
その咆哮に込められた悼みと糾弾
わたくしが聞き届けました。

渦巻く炎をこの身に移さぬよう
2体の人形を操りながら道中の炎や可燃性のものをなぎ払い
相手の行動をよく見て学習しながらフェイントをしかけつつ進んで参ります。

恐らく人民もあなた様の行為を罪と呼ぶことでございましょう。
あなた様の罪は人間の命をいたずらに弄んで散らし、その自由と尊厳を踏みにじったことでございます。
贖罪は死によって導かれましょう。
もうこれ以上、その魂が穢れることのないように。



「……人間の感情は『燃える』と表現されることがあるそうでございますが」
 現下の景が当しく然うだと、シャルロット・ルイゾン(断頭台の白き薔薇・f02543)が丹花の唇を結ぶ。
 麗し冴月の眸に映るは、怒れる儘に燃え盛り、壁や柱を灼いて躍り狂う猛炎。
 宿怨に絆されし邪を囲繞した朱殷の焔は、出る事を許さず、介入(はい)る事を許さず、またいずれが勝利したとて、その勝者すら灰燼に処す――其は宛ら炎獄の檻であった。
 主が咆哮すれば愈々烈々と、爆風と轟音で館を揺らす業火。
 耳が聡くなければ、或いは心が鋭敏でなければ、雨糸・咲(希旻・f01982)は斯くも胸を痛める事は無かったろう。
 蓋し犀利な彼女は、悪魔の舌と伸びる炎叢の向こうに烟る声を聴き、その断片から推測される物語に柳葉の眉を顰める。
「嘗て此処で何が起こったのか……口にするにも躊躇われるほど」
 咲が瞼を伏せる隣、鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は吃、と炎の壁を睨め、
「吸血鬼と云う輩は、己等を高貴だの何だのと称するにしては、下種な遣り口を好む」
 鄙劣な性根が知れると云うものだ、と唇を結んだ後に爪先を踏み入れた。
 途端、何者をも拒む灼熱の戦庭が火勢を増すが、臆する猟兵ではない。
 セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は破魔の幽光を漂わせて猛炎を潜り、
「……傲慢もここまで極めると、いっそ清々しく思えてくるから不思議だねえ」
『大罪を咎めに来たのかな。生憎だが私は告解する罪はない』
「赦しを求めるものには与えたいが、あなたに差し上げるものは何もなさそうだ」
 何も無い、と両掌を広げて見せるセツナを、禍き嗤笑が迎える。
 大領主『血宴卿ゾエ』――目下、狂竜と交戦中の男は、襲い来る猛爪に黄金の十字剣を噛ませて抗衡する傍ら、流眄に猟兵を見遣り、
『僕よ。私に代わって客人を持て成してくれるかな』
『カカッ、カカカカカッ!』
 己を王のマントで包んでいた髑髏に命じ、死霊の息吹を充満させた。
「――ッ、ッッ」
「これは……!」
 灰色の霧が降り注ぐや、周囲の焔に誘発されて大爆発が起きる。
 轟音が哄笑を掻き消すが、猟兵は優れた聴覚で苛立たしい言を拾ったろう。
『彼女は炎窟卿が愛した娘。オラトリオなれば並の死霊とは違うだろう?』
「――ッ!!」
 館に数多と縛り付けられた亡霊。
 その中でも領主に付き従う事を許され、王の衣を預るのが、件の娘だと云うのだ。
『元々、支配すべき人間を愛する禁忌を犯した炎窟卿だ。彼女が死して私の僕となれば、今度は同族殺しの禁忌を犯す……これ程の大罪を私は知らない』
「――然うか」
 爆風が吹き荒び、焦熱の刃が嵯泉の頬を切って疾るが、鮮血淋漓を構う彼ではない。
 赫然たる焔に煽られた琥珀の髪は金色に燃え上がり、
「口にする言葉の全てが、其の存在の不快さを際立たせる」
『義憤かね』
「噤め」
 顕現、【終葬烈実】――心身の束縛を解き放った嵯泉は、戦闘力を爆発的に増大させ、武芸際涯に到る。
 外装『砕禍』は熱風でなく雄渾たる闘気にこそ翻ろう、
「早々に相応しい場所へと戻るがいい」
『はは、此処こそ私に相応しい』
 角逐――ッ!
 冴刀『秋水』は嵯泉の励起した気を纏って凛冽と、黄金の十字剣と烈しく剣戟を交え、焔の海に赫々と火花を散らした。
 慥かに猟兵には義憤も在ろうが、それ以上に彼等は策士だ。
 狂竜が怒れる儘に炎爪を振う最中、敵と味方の熾烈なる相剋を視界の脇に映した儘、炎叢を疾走るは咲。
 揺らめく炎に、崩れた柱に身を隠しつつ、密かに敵の死角へと回り込んだ彼女は、魔導杖『雪霞』に雪華を漂わせ、繊手に振り被る。
(「魔竜か、或いは仲間が大きな攻撃を仕掛ける寸前が一番の好機……」)
 此度、【エレメンタル・ファンタジア】が合成するは、氷属性の洪水。
 咲の艶髪が凍てる清風に梳られた瞬間、轟然と渦巻く業火すら押し除ける程の氷塊が雪崩れ込み、鋩を鋭くした無数の氷柱が敵を抑え込む。
『氷柱が楔となって……身動きを阻むか!』
『カカカカカッ!』
 咄嗟に死霊が主の痩躯を抱き、ダメージを受けた分だけ彼に強靭を与えるが、その行動こそ咲は見詰めて糾す。
「どうしても……貴女が、望んでそこに居るのではない気がして」
『カカッ、カカカッ』
 契約か呪縛か。
 領主に纏わり憑くのは本意でない筈、と注ぐ視線は真実を求めこそすれ悪意は無い。
 斯くして血宴卿も死霊も時を止めた瞬間、具に観察していたシャルロットが繊麗の躯を翻した。
「あなた様方の事情は存じ上げませんが、その咆哮に込められた悼みと糾弾――わたくしが聞き届けました」
 白磁の如き人型の器に炎は移らない。
 美し絡繰り人形『Vierge de Fer』と『Chambre à Gaz』を操りながら、烈々と渦巻く猛炎を薙ぎ払って進んだシャルロットは、棘と毒を以て敵懐に迫る。
 剣呑を察知して死霊が動くが、初撃はフェイント――。
 玲瓏の肢体をくるり躍らせて死の抱擁を遁れた少女人形は、涙堂に影を落としていた長い睫毛を持ち上げ、領主たる吸血鬼の罪を宣告した。
「恐らく人民もあなた様の行為を『罪』と呼ぶことでございましょう。あなた様の罪は、人間の命をいたずらに弄んで散らし、その自由と尊厳を踏み躙ったことでございます」
 有罪判決の宣言。
 其は【Jugements Criminels】(ジュジュマン・クリミネル)のはじまりで命の終わり。
 馨るほど甘美な佳聲は夢寐の如き死を連れ、
「贖罪は死によって導かれましょう」
 ――もうこれ以上、その魂が穢れることのないように。
 囁(つつや)くや須臾。
 数多の罪人の首を刎ねたギロチン『Bois de Justice』が、妖し光を放って断罪の刃を墜下させた。
『ッ、ッッ――!』
 領主の罪を掴み、聢と振り下ろされた断罪の刃は、然し首を落とすには至らず。
『カカカカカッ!!』
 咄嗟に身を差し出した髑髏が、冴刃を代わって腰を両断し、砕け散った下半身を炎叢に転がした。
 剣呑を回避した領主は、間際まで追い詰められた緊迫を興と受け取り、くつくつと湧き出る嗤笑を狂竜にこそ投げる。
『……身を挺して護るとは重畳。彼女は誰が主かを聢と理解っている』
『グルァァァァ嗚呼嗚呼ッッ!!』
『悔しいかね』
 乾いた笑みを零す血宴卿には未だ余裕が見える。
 抑も相応の実力が無ければ死の瞬間は躱せぬと、歴然とした戦力差を認めたセツナは、正面から立ち向かったとしても、擦り傷一つ付けることは叶わぬと策を廻らせる。
 ――敵の攻撃を利用しようか。
 洞察に優れた彼は、敵の立ち回りを細かに学習し、見切りの精度を高めていく。
『娘は既に死に、卿は狂って戻らない。猟兵が此処で為る事は何一つ無かろう』
「いや、少なくとも一つはある」
 小気味よい反駁を添えつつ、創痍は破魔の力で清めた毒を鎮痛剤にして凌ぐ。
 紙一重で躱し、其を上回る攻撃は痛撃を騙して耐える――セツナがギリギリまで粘ったのは、リスクを負ってでも掴みたい好機が其処に在ったからだろう。
「ふふ、こんな戦い方をしていれば、命が幾つあっても足りないねえ」
 だが彼は、亡霊にこの身を捧げると誓ったのだ。
 爆発の衝撃の中を疾駆した彼は、敵が自ら攻撃を仕掛ける――黄金の十字剣が炎を裂く瞬間こそ反撃の機と踏み、
「あなたは報いを受けなければならない」
『な、ん――ッ』
 顕現するは【仮の隣人】(コピーキャット)――九閃九刺の剣撃を防御したセツナは、其を使用したキャラクターを脳内に作成し、一度のみ同じ技を繰り出した。
『――ずァアッ!!』
 牙ッと剣戟が火花を爆ぜ、黄金の十字剣が円弧を描いて宙を泳ぐ。
 血宴卿の手を離れた剣は、鋩を炎叢に突き刺し、主を僅かにも丸腰にさせた。
『カカカッ! カカカカカッ!!』
 然れば刹那に死霊が動き、主を護るべく誘爆の息吹を吹き付けるが、極限まで戦闘勘を高めた嵯泉が其を拒む。
『ッ、娘よ! 私に楯突いた虫けら共を跪かせろ!!』
「お前の前に付く膝なぞ有る訳が無かろう」
 言は怜悧かつ冷徹。
 爆炎から抜け出た精悍が、刻下、全身の力を膂力に注いで刀撃を叩き込む。
「さっさと其の口を閉じろ、鬱陶しい」
『ッッ、ッ――!!』
 奇しくも息を飲んで、彼の言う通り噤んだ血宴卿が激痛を受け取る。
 袈裟に斬撃を疾走らせ、その衝撃に炎叢へと倒れ込んだ血魔は、そこで大きく首を擡げて睥睨する狂竜に初めて「恐怖」を覚えたろう。
『グルァァァァ嗚呼嗚呼ッッ!!』
 人語を失うも、その魔眼は慥かな「意志」を抱いていて、振り下ろされる鋭爪が幾千の言葉を代わるよう。
 時が止まる様な超感覚の中で、嵯泉の言が鋭刃の如く突き刺さり、
「狂える竜。オブリビオンであるお前が何を望んだのか――確かめる必要が有る」
『グルォォヲヲヲ嗚嗚ッッッ!!』
 間もなく狂竜の爪が、不倶戴天の仇に振り下ろされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

夏目・晴夜
その黄金の十字剣、貴方には似合わない程の逸品ですね
しかし残念ながら私の自慢の人形ほどではないですねえ

このハレルヤの人形はどれも可愛くて素直な上に、
望めば何処でもすぐに姿を現してくれるんですよ

はい、おいで

戦闘特化からくり人形の【怪力】での『愛の無知』で、
癪に障る姿態も声も凄惨な所業も全てぐちゃぐちゃにしたく

敵の9倍回数の攻撃を避けきれないなら、人形の巨体を盾に
そして隙を見て人形ごと妖刀で敵を【串刺し】にします
どれほど壊されても完璧に直してみせるまでですからね
壊して下さってもいいですよ、こんな風に

それと可能ならトドメはあの竜に刺させてやりたい気分です
別に、深い理由は無いので無理なら構いませんけどね



 仲間が黄金の十字剣を宙に弾いた瞬間、狂竜の爪が敵懐を刺衝する。
 ぼとり、炎叢に臓腑を零した大領主『血宴卿ゾエ』は、繁噴く血汐すら蒸発させる色気無い炎檻に血反吐を吐くと、爪先に剣柄を引っ掛けて掌に戻した。
 聲は絞られて、
『……猟兵とやらは炎窟卿に肩入れするのかな』
 同じ骸の海を潜った者ながら、片方を誘掖し、片方を排斥する。
 滑稽な事だと卑屈な嗤笑を浮かべた血魔であったが、答える義理はなかろう。
 夏目・晴夜(不夜狼・f00145)はゾエの魔眼には一瞥も呉れず、唯だ轟然と燃ゆる黒焔にあって耀きを失わぬ洋剣に柳葉の眉を持ち上げた。
「その黄金の十字剣、貴方には似合わない程の逸品ですね」
 凡そ褒められる事を好む彼が幾許にも褒めたのは、其が讃を受けるに相応しい傑品で、亦た自身が其に勝る珠玉を有すからであろう。
 玲瓏の唇は淡い艶笑を湛えて言を足し、
「しかし残念ながら、私の自慢の人形ほどではないですねえ」
 時に須臾。
 狂竜が迸らせた猛炎を、夜色の外套を翻して躱した晴夜は、赫炎が花弁と舞い躍る中で『十環』を動かし、銀糸を操ってみせた。
「このハレルヤの人形はどれも可愛くて素直な上に、望めば何処でもすぐに姿を現してくれるんですよ」
 はい、おいで。
 妖し麗しテノーレ・リリコが喚ぶは、『優しく可愛いニッキーくん』。
 歪な動物の頭部を有した絡繰り人形は、其の純朴さ故に力の加減を知らず――不穏漂う魁偉を傍らに侍らせた晴夜は、ニッキーくんの倒錯した愛情表現、【愛の無知】なる全き暴力を糸に繋いで繰り出した。
「癪に障る姿態も声も凄惨な所業も。全てぐちゃぐちゃにしたく」
『――人形も主も悪趣味な』
 危うい剛腕を流眄に愛でる晴夜の聲は穏やかながら、言は怜悧にして冷徹。
 その剣呑に触発された血宴卿は、刹那に爪先を弾いて九閃九刺の剣撃を放った。
『炎窟卿の愛玩物を毀した私だ。その人形にも同じ道を辿らせてやろう』
「どうぞ遠慮なく。どれほど壊されても完璧に直してみせるまでです」
 角逐――ッ!
 ニッキーくんは向い来る剣閃に剛拳を噛ませ、或いは身ごと盾となって鋩を塞ぐ。
 熾烈な攻防が波動となって炎檻を衝き上げる中、晴夜は沈着たる儘、人形が我が身を完全に隠すタイミングで妖刀『悪食』に光を弾き、ニッキーくんごと血宴卿を串刺しにした。
「壊して下さってもいいですよ、こんな風に」
『ッ、がッ……は――!』
 予想だにせぬ死撃に膝折った血魔に、妖刀の鋩が降り注ぐか――否。
「私が止めを刺す理由も無し。あの竜に預けてやりたい気分です」
 くるり、すっ――。
 主の飄然を代わるか、胸に風穴を開けたニッキーくんが、狂える魔竜に道を譲った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。あれが血宴卿ゾエ…。
ある意味、私と似たような力を使うみたいだけど、
あの在り方は相容れる事は無さそうね…。

“火除けの呪詛”と【断末魔の瞳】を維持して空中戦を行い、
左眼の聖痕を使い目立たない死霊の残像を暗視して見切り、
霊属性攻撃を吸収するカウンターオーラで防御して呪力を溜める

…無駄よ。死霊の力で私を縛る事はできない。

第六感を頼りに竜や吸血鬼の殺気や気合いから攻撃の機を伺い、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収して【血の獄鳥】を発動
魔法陣を纏い存在感を増した黒炎鳥を吸血鬼に突撃させた後、
暴走させて自爆し傷口を抉る2回攻撃を行うわ

…さぁ、復讐の時は来た。
身をもって知るが良い。死者を弄んだ報いを…。


シノ・グラジオラス
こう言う話、(自分の過去を彷彿させて)苦手なんだよな
仕方ない。聞こえてないだろうが、悪趣味な吸血鬼はくれてやる
けどいつまで狂気に溺れてるんだ。そんなんじゃ攻撃すら通らねぇだろ
目の前の仇、しっかり喰らいつくせよ!

『火炎耐性』で炎を耐え、【紅喰い】を発動
約束した手前、俺からは命中率重視の『先制攻撃』で
大領主に意地でも一発は殴る

後は『援護射撃』で敵を引きつけつつ同族殺しのフォローを兼ねた動きに転じ、
倒す前に倒れそうなら『かばう』のも辞さない

死霊の攻撃を『見切り』『武器受け』で極力受け流し、
『生命力吸収』『激痛耐性』『呪詛耐性』でダメージを抑える
死にもの狂いのヤツを軽視して甘く見てると、痛い目見るぞ?



 この館に鎖された亡霊の苦悶を預り、その凄惨な過去を幻覚として追体験した猟兵は、領主の居室に辿り着く前にその歪な嗤笑を「視」ていたろう。
「……ん。あれが血宴卿ゾエ……」
 悪魔の舌と蹴立つ炎叢の向こう。
 灼熱に囲繞された炎檻に、狂竜と交戦する吸血鬼を捉えたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、その立ち回りを具に観察して小さく言ちた。
「……私と似た様な力を使うみたいだけど、あの在り方は相容れる事は無さそうね……」
 死霊の抱擁に強靭と堅牢を得ながら、其を使役する血魔。
 彼は炎獄に囲まれながらも巧みに呪詛で視界を縛り、狂える魔竜を翻弄していた。
 炎が轟々と爆ぜる中、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)の聡い聴覚は全ての真実を聴いたろう。
『支配すべき人間を愛す禁忌を犯した炎窟卿は、更に同族を殺して罪を増やすかな』
『グルァァアア嗚呼ッッ!!』
『はは、卿を護った娘が死霊となって私に仕えていては、忘却の海にも堕ちられまい』
 仔細は判明らぬ。
 蓋し断片を聴くだけで事情を汲めてしまうのは、自身と重なる部分が在るからか。
「――こう言う話、苦手なんだよな」
 漆黒のロングコートを熱風に翻し、目深に被ったフードの下で静かに呟くシノ。
 長く硬質な指を櫛と入れ、くしゃり艶髪を掻いた彼は、嘆声を零すや双瞳を凛と持ち上げた。
「仕方ない。悪趣味な吸血鬼はくれてやる」
 喰らえ。屠れ。
 その爪に肉を引き裂き、血を啜れと、犀利を増した右眼に魔竜を射る。
「いつまで狂気に溺れてるんだ。そんなんじゃ攻撃すら通らねぇだろ。
 目の前の仇、しっかり喰らいつくせよ!」
『グルォォオオオ嗚嗚!!』
 届いたか――いや、狂乱に染まった竜には聴こえたか判明らぬ。
 然し魔竜は、シノの聲に弾かれるように哮り、迸る猛炎が血宴卿の蒼白い顔を灼いた。
『ッ、ッッ……オラトリオの娘よ、“主”を護りたまえ』
『カカカッ、カカカカカッ!』
 直ぐさま血魔をマントに包み、損耗に応じた癒しと守りを与える死霊。
 虚無の髑髏には、狂える竜が映ろうか――リーヴァルディとシノは、昏い眼窩に煌めく涙が見えた気がしたが、血飛沫すら蒸発させる色気ない軍庭では跡も残るまい。
『グルォォォオオオッッッ!!』
 竜が咆哮すれば愈々烈々と、爆風と轟音で館を揺らす業火。
 己と血魔、そして猟兵を囲繞した朱殷の焔は、出る事を許さず、介入(はい)る事を許さず。勝者すら灰燼に処さんばかりの火勢は、狂竜の覚悟の様にも思えた。
 言葉にならぬ意志を受け取ったリーヴァルディとシノは、視線はその儘、言を交して、
「……止めはしない。唯だ、終わらせる……」
「俺が援護する」
 リーヴァルディが【代行者の羈束・断末魔の瞳】で宙を駆る翼を維持しつつ、“火除けの呪詛”に耐性を得た躯で炎檻を自在に飛び回れば、シノは広い視野に彼女と狂竜を入れながら、アサルトライフル『KBN18-Svarog00』を弾いて援護と牽制を預った。
 目下、狂竜の爪と角逐していた血宴卿は、死霊に猟兵を任せるが御し難かろう。
『我が僕よ。火に入る虫に死の抱擁を』
「……無駄よ。死霊の力で私を縛る事はできない」
 左眼の聖痕に魔力を湛えた少女は、死霊の残像を暗視して見切り、美し銀髪の毛先すら触れさせない。
『ッ莫迦な……爆轟は浴びている筈だが……!』
「死にもの狂いのヤツを軽視して甘く見てると、痛い目見るぞ?」
 軽く持ち上がる語尾が小気味佳かろう。
 シノは爆風に肌膚を裂かれつつ、激痛を奥歯に噛み砕きながら反撃の機を伺っていた。
「――今よ」
「――今だ」
 戦闘勘と経験則が、二人の佳聲を奇しくも重ねる。
 赫然たる緋の魔法陣が炎叢に浮き上がり、狂竜の咆哮とは明らかに異なる遠吠えが耳を掠めた瞬間が、「終焉」の到来であったろう。
「……さぁ、復讐の時は来た」
『ッ、ッッ――!!』
 極限まで呪いを増幅した血の魔法陣を敷き、力強く羽搏くは黒炎の獄鳥。
 現るは【限定解放・血の獄鳥】(リミテッド・ブラッドフェネクス)――少女に刻まれた呪いを具現化した黒炎鳥は、血の魔法陣を纏って存在感を増大させると、血宴卿めがけて突貫する。
 丹花の唇は冷然とした言を紡ぎ、
「身をもって知るが良い。死者を弄んだ報いを……」
 聲が先であったか、黒炎鳥の自爆が先であったかは判明らない。
 唯だ其の両方を受け取った血宴卿は、全身を鮮血に染めて床に転がり、間もなく頭上に現れた冴狼に眼を瞠った。
『ッッ、ッ――ッ!!』
 刮目せよ、其はスコル。
 刻下、血宴卿の視界に飛び込んだ【紅喰い】(ゾネンフィンスターニス)――狼化したシノは、亡霊らと約束を交わした通り、預った感情すべてを現領主にぶつけた。
 意地でも一発は殴る。
 其の一発に籠める。
 猛然たる爪は然し精確精緻に血宴卿の肩口から鎖骨に沈み、しとど血汐を噴いてシノの顔貌を染めた。
『ずぁアア……嗚呼……ッッ!!』
 血の獄鳥に弾かれ、狼の爪に転輾った血魔は、然うして狂竜の前に差し出される。
 止めを――と視線を集めた猟兵は、狂える竜が確かな意思を以て爪を振り下ろしたのが理解ったろう。
『グルォォォオオオ嗚嗚!!!』
 肉を裂き、血を啜り。
 果して『同族殺し』は、当初の目的を此処に果した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『憤激魔竜イラース』

POW   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:FMI

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は須藤・莉亜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 狂竜と共に領主館に踏み込んだ猟兵は、大領主『血宴卿ゾエ』の死までに過去の断片を拾い集め、ひとつの物語として繋げられていただろう。
 怒れる咆哮に悲哀が交じるとは、過去を知ったからに他ならず――。
 凄惨たる炎獄の中、猟兵は哮り止まぬ魔竜にひとつの物語を重ねた。
『ォォオオオオヲヲヲ!!』
 彼は。
 嘗て彼は支配すべき人間を愛した。
 禁忌を犯して血宴卿に誅される処、オラトリオに覚醒した村娘に護られた。
 然し彼女は無残に屠られ、己は放逐された。
『グルァァァアアア!!!』
 娘は。
 愛した娘は亡霊となり、血宴卿の僕として獄がれていた。
 現領主の死と共に呪縛を解かれた亡霊が、今、炎の中に消えていく――。
『ォォォオオオ嗚呼嗚呼嗚呼!!』
 独り残された同族殺しが叫ぶ、吠る。
 瞋恚か悲嘆か、或いは憮然かも判らぬが、竜の器に押し留められぬ感情は、全て朱殷の炎となって嘗ての居館を灼き尽くしていく。
「これ以上は……」
「――嗚呼、そうだな」
 この物語はお終いに為ようと、猟兵は魔竜に正対する。
 最早、己も含めて周囲を炎に呑むしかない哀れな竜に「終幕」を与えるべく、一同は前に踏み出した。
荒谷・つかさ
呪縛が解けた所で悪いんだけど。
ごめんなさいね、ちょっと貴女の力を貸してほしいのよ……!

炎の中で消えゆく亡霊に呼びかけ(接触が必要であれば炎の中に飛び込んででも)、自身に憑依させて保護
そのまま私の身体を使ってもらい、説得による鎮静化を試みる
通じるならそれでいいけれど、もしダメそうであれば【心魂剣】を発動
オラトリオの娘の魂のみを物理ダメージの無い小さな短剣と化し、狂竜へ直接叩き込む……というより、押し付ける
本来の心魂剣の役目は、私という依代を通じて生者と死者の想いを繋ぐために、儚い死者の魂を保護し繋ぎとめておくこと
剣を持たせれば、私を介さずにでも直接想いを受け取れるはず
どうか、届いて……!



 怨敵を屠る爪も牙も不要となった。
 我が魂を覆う鱗の堅甲も要らぬ。
 斯くして全てを朱殷の焔に灼き尽くす竜は――其は最早「虚無」であった。
『グルァァァアア嗚呼アア!!!』
 猛き咆哮に壁が揺れ、酷い焦熱に柱が崩れ落ちる凄惨の中、露と散じて昇り往く亡霊を視た荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)は、須臾に炎叢を蹴った。
「待って――」
 一縷と躊躇わず灼熱に飛び込んだ羅刹の巫女は、儚く煌く露を集めるように繊手を伸ばすと、我が身に取り込むべく胸に包む。
「呪縛が解けた所で悪いんだけど。
 ごめんなさいね、ちょっと貴女の力を貸してほしいのよ……!」
 カミ降ろす巫女は、その清らかなる器に霊魂を注ぎ、身を代わらせる。
 その途端、つかさの琥珀色の瞳は泉の如く潤み、止め処なく大粒の涙を零した。
「貴女……泣いて……」
 愛してはならぬ男を愛した罪の意識と、彼を護れなかった悔悟と痛惜。
 死して尚も魂を嬲られた悲壮と、彼を失った絶望の日々。
 そして、何にも増して募る敬慕と慈愛――。
 怒涛と流れ込む感情は、娘の一生を賭した結晶で、これを言に為るのは酷か。
 なれば、と彼女に代わって涙を拭ってやったつかさは、凛と瞳を持ち上げ、
「――その想い、ありのまま全て届ける方法があるから」
 活現、【心魂剣】(ソウルハート・キャリバー)――。
 繊麗の躯が月白の光に包まれるや、そのオーラは剣状を成し、つかさの手に収斂されて小さな短剣と収まる。
「本来『心魂剣』は、生者と死者の想いを繋ぐ為に、私という依代を通じて儚き死者の魂を保護し繋ぎ留めておくのだけど……これなら私を介さず、直接想いを受け取れる筈」
 装備者は意思と心と魂の力に比例した精強を得、且つ依代たるつかさの力量に応じた飛翔能力を得る。
 強靭なる器に護られたなら、娘の魂は炎叢を踏み越え、竜鱗を貫く力を得よう。
 煉獄に巫女装束を翻したつかさは、炎を花びらと散らしながら虚無の懐に迫る。
「“あなた”へ直接叩き込む……というより、押し付ける――!」
『グルォォォヲヲヲヲヲ!!』
 燃ゆる怪腕を潜り、炎の波濤を裂いて冴刃を振り被る。
「どうか、届いて……!」
 オラトリオの娘の魂を込めた劔に殺傷力は無い。
 然し聢と漆黒の鱗を貫いて鳩尾を穿った其は、刻下、狂竜の首を高く擡げさせた。
『ガッ……ッッ……ァッ……――』
 今、慥かに――名前を呼んだか。
 其は言ならずとも、魂の想いを聴く者には聢と聴こえたろう。
 つかさは烈々たる灼熱の中で、漸く邂逅を遂げた二つの魂を見届けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ラジュラム・ナグ
おう、何やら盛り上がってるようだな。
・・・狂気に逃げた者の末路って事か。

敵さん同士で潰しあってくれる分には願ったりだが、
ちと後味は悪りぃな・・・。
何にせよ未来に進む為、過去は断ち切らせて頂くぞ!

大剣を左手に持ち替え右手に装備アイテム<全てを奪う闇>を剣の形状で握るぞ。
大剣は持ち前の[怪力]で[武器受け]用にも活用だ。
UC《強奪時間》を発動させて暴れてやろうか!

放たれる炎は闇で「奪って」やるぞ。
[怪力]で周りの残骸を目隠しとして放ち死角から攻めるぞ!

大剣を振る遠心力を活かした連撃で[生命力吸収]しつつ一気に畳みかける!
奪った炎も上乗せてお返しだ、釣りは要らんぞー!

滲出した過去よ、骸の海へ還れ。



 烈々と燃ゆ朱殷の焔が、咆哮に煽られて愈々身を蹴立てる。
 爆風と轟音に揺れる館内、時に鷹揚なるカヴァリエ・バリトンが飄と割り入った。
「おう、何やら盛り上がってるようだな」
 聲の主はラジュラム・ナグ(略奪の黒獅子・f20315)。
 纏う『全てを奪う闇』に焦熱を奪ったか、灼かれる事なく炎獄に到った精悍の猟兵は、今こそ崩れ落ちる巨柱を半身を退いて躱すと、金の隻眼に狂竜を捉えた。
「……狂気に逃げた者の末路って事か」
 炯光を宿し、見据える。
 狂う程の絶望に見舞われたのは慥かだが、狂乱に堕ちたのは“逃げ”でしかなく――。
 哀しき男の成れの果てを射た慧眼は、蓋し瞬きした後に飄然を取り戻し、くしゃり、硬質の指を櫛と入れて頭(かぶり)を振った。
「敵さん同士で潰しあってくれる分には願ったりだが、ちと後味は悪りぃな……」
 二虎競食を衝き、易く一挙両全を得るのは躊躇われる。
 次いで顎に手を遣った彼は暫し唇を結ぶと、然した後に口角を持ち上げ、
「何にせよ未来に進む為、過去は断ち切らせて頂くぞ!」
 全力を以て為れば佳し。
 其が我が誠意とばかり、ラジュラムは悪魔の舌と伸びる炎叢に躊躇いなく踏み込むと、片手半剣を左手に、右手には剣と形状を変えた『全てを奪う闇』を握って構えた。
 彼は幅広の剣身を狂濤と押し寄せる炎に盾しながら、小気味佳く笑んで、
「――扨て、暴れてやろうか!」
 顕現、【強奪時間】(ディス・イズ・マイ・タイム)――ッ!
 この時、ラジュラムの肌膚を掠めた炎が火傷を疾走らせながら「奪われる」。
 劔と化した輝ける闇は、狂熱を屠ってラジュラムの身体能力を強化し、その熱量に比例した戦闘力の増強を齎す。
 闇は強欲にして暴食なれば、圧倒的焦熱を以て迫る烈火も馳走と呑み込むが、ダメージを負わぬ訳ではなかろう。
「……熱っちぃ! 少しばかり奇を衒うか!」
 剣閃穿貫、周りの残骸を目隠しとして放ち、死角へと爪先を弾く。
 竜尾が波打ち、猛炎を放った直後を好機と見たラジュラムは、ぶわり魁偉を圧す焦熱を大剣に薙ぎ払うと、その遠心力を活かして一気に畳み掛けた。
「奪った炎も上乗せてお返しだ、釣りは要らんぞー!」
 出し惜しむほど吝嗇(けち)ではない。
 全てを糧に強靭と堅牢を得た黒獅子は、好戦的な笑みを浮かべながら大剣を振り下ろし、押し寄せる炎の第二波を見事に両断してみせる。
 灼けた頬を手の甲に拭った彼は、凛然と結んだ唇より聢と囁(つつや)いて、
「――滲出した過去よ、骸の海へ還れ」
 聲は沈着と、低く剣呑を帯びて。
 獅子の咆哮を斬撃に代えた男は、転輾つ虚無に終焉の刻を告げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オリヴィア・ローゼンタール
……最後の未練もなくなっただろう

【転身・炎冠宰相】で白き翼の姿に変身
【属性攻撃】【破魔】で聖なる炎を纏う
せめて吸血鬼の姿ではなく、こちらの姿で葬る

【怪力】を以って聖槍を突き込み、鱗ごと穿つ(ランスチャージ・鎧砕き・串刺し)
放たれる炎は【オーラ防御】【火炎耐性】で正面から受けて立つ
最早この世に留まる意味もなし、骸の海で再会を願うがいい
……せめてそれくらいは【祈って】やる

……この私が、オブリビオンのために祈るなど、そうはない
私の気紛れと……そのオラトリオに感謝し、逝くがいい


リーヴァルディ・カーライル
…ん。私は貴方達の想いを背負って此処にいる。
だから貴方達がどうしたいか理解しているつもり。

…これで最後よ、力を貸して。
共に炎窟卿を、あの哀しき竜を眠らせましょう…。

自身の生命力を吸収して“火避けの呪詛”を維持
全身を火炎耐性のオーラで防御して火属性攻撃を弾き、
攻撃を見切りつつ“血の翼”を広げ空中戦を行う

第六感を頼りに竜の殺気や気合いを読み好機を探り、
先ほど【断末魔の瞳】に吸収した霊魂の存在感を捉え、
暗視した魂の残像と手を繋いで【血の葬刃】を発動

魔力を溜めた結晶刃で覆った手刀を怪力任せになぎ払い、
魔力を爆発させ傷口を抉る2回攻撃で仕留め祈りを捧げる

…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに…。



 仲間の尽力によって、炎窟卿は愛する娘の魂と邂逅を果した。
 竜の咆哮が慟哭に変わったと――超感覚を涯際まで研ぎ澄ませていたオリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)は、慥かに気付いたに違いない。
「……最後の未練もなくなっただろう」
 蓋し佳聲は変わらず凛冽。
 事の顛末を知った処で、情には絆されぬか。清けき聖女は邪悪に一縷の仁恕も許さず、全身を黄金の炎で包むや【転身・炎冠宰相】(モード・メタトロン)――天翔ける白翼を広げ、破邪の霊気を迸らせる。
 不滅の聖鎧に身を包み、玉臂に万魔穿つ炎の槍を掲げ、純白の双翼を羽搏かせ。
 王冠を守護する炎の御柱を宿した彼女は、まるで天使のよう。
「せめて吸血鬼の姿ではなく、こちらの姿で葬る」
 美し金瞳に燃ゆる峻峭に、僅かにも慈悲が見えたとは今は言うまい。
 悪魔の舌と燃え盛る炎叢を飛翼に切り裂き、身ごと聖槍を衝き入れるオリヴィア。
 雪華の柔肌が炎獄に灼かれるのも構わず、苛烈に『黄金の穂先』を繰り出す修道女は、硬鱗を砕き、堅甲を串刺しにして「竜の器」を切り崩していく。
 これまで同道した猟兵には、その姿が狂える竜に対する救済に見えたろう。
 亡霊の嘆きを聴き、その無念を受け入れたリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は、『代行者の羈束』を刻んだ左眼に今の景を映すと、厖大なる魔力に揺れる「彼等」に小さく囁(つつや)いた。
「……ん。私は貴方達の想いを背負って此処にいる」
 貴方達がどうしたいか理解しているつもりだと、真っ直ぐに竜を射るリーヴァルディ。
 己が躰に脈々と流るる生命力を以て“火避けの呪詛”を維持した彼女は、灼熱滾る炎檻を蛾眉ひとつ顰めず進むと、“血の翼”を広げて宙を翔けた。
「……これで最後よ、力を貸して。共に炎窟卿を、哀しき竜を眠らせましょう……」
 滾々と湧き上がる魔力が是を示そう。
 第六感を極限まで磨き上げたリーヴァルディは、竜の狂気を鋭く察知して、五百重波と押し寄せる炎の波濤を赫翼に躱して切り抜ける。
『グルォォォヲヲヲ嗚嗚!!!』
 爪もなく牙もなく。
 唯だ只管に哮り狂って叫ぶ魔竜は、周囲を炎の海に変え、全てを飲み尽くさんと大渦を成したが、翼を駆るオリヴィアとリーヴァルディなれば斃れまい。
『ォォ、ォオオ……オオオオォ……!!』
 咽喉を灼き涸らす様な号哭を眼下に敷いたオリヴィアは、冷厳と言ち、
「最早この世に留まる意味もなし、骸の海で再会を願うがいい」
 宿敵は滅んだ。
 愛する娘は解放された。
 なれば忌わしき過去と共に終焉を迎えるが佳いと、聖槍の鋩は赫々と耀きを増す。
 純白の翼は今こそ滑空し、
「……せめてそれくらいは祈ってやる」
 言が先だったか、槍撃が先だったか――蓋し其は何れも靜かであった。
 右の肩口を深々と剔抉した槍は破邪の炎を注ぎ込み、竜の黒翼を灼く。
 脳が狂う程の絶叫が鼓膜を裂くが、凄艶の修道女は槍を強く強く握り、
「……この私が、オブリビオンのために祈るなど、そうはない。私の気紛れと……そのオラトリオに感謝し、逝くがいい」
 迷わず、振り向かず、逝け――と。
 突き放す様でいて、然しそれ以上に惻隠の情を許したオリヴィアは、竜に殻された魂を解放すべく、魔翼を灼き切った。
『ォォオッ、オオオヲヲヲ……ッッ!!』
 漆黒の巨翼の片方を失って、竜が大きく崩れる瞬間に差し入るはリーヴァルディ。
 溢れる魔力を光の帯と引いた紫瞳は聢と好機を捉えると、【代行者の羈束・断末魔の瞳】に潜らせた霊魂の存在を強く感じながら、彼等を報いの刃と変える。
「……犠牲者達の霊魂を結晶化して武装し、血色の魔刃とする……!」
 其は【限定解放・血の葬刃】(リミテッド・ブラッドブレード)――。
 今こそ彼等はリーヴァルディに援けられて解放を得よう。
 万感を籠めた結晶刃は少女の繊手を覆って手刀となり、渾身の力で薙ぎ払うや、大爆発を引き起こし、抉じ開けた創痍から一気に体内へと力を流し込んだ。
「……この一撃を手向けとする」
『グルォォオオオ嗚嗚ヲヲ嗚嗚!!!』
 其は終焉の刻を告ぐ一撃であった。
 竜の咆哮によって溢れる炎に、光の煌きが交ぜ合ったのは、解放を得た魂か――。
 砕け散った結晶が美し光彩となって輝くのを見たリーヴァルディは、そっと声を添え、
「……眠りなさい、安らかに……」
 哀しい物語はもうお終い。
 安けく眠れ、と祈りを捧げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
吼える竜の姿を確と見つめ
オーラ防御と見切りで我が身を守るのは、
自分たちがあの炎に巻かれれば
馬鹿げた禁忌と吸血鬼の傲慢に踏み躙られた娘さんの哀しみが
一層深まると思えたから

…大切なひとの命尽きる様を、見たのですね

身を裂かれるようなその心地を知っている
そして彼の竜にはもう一つ
自分の所為で、という思いもあるのではと
それを想うだけで酷く苦しい

ちゃんと向き合わないと、声は届かないから
花の香乗せた青葉で自身や仲間を癒しつつ、一歩も退かない

あなたたちの物語は、あまりに悲しい
ですが、もう――
もう、終わりで良いんです

これからは、誰にも邪魔されない遠くの海で
今度こそ穏やかに、寄り添って欲しい


鷲生・嵯泉
……矢張りそういう事か
繋ぎ合わせた断片からでも既に十分に察せられた
ならば、此の先に必要なものは明白だろう

――嘗てのお前と同じ様に
人と共に歩む事を選んだ竜を知っている
だからこそ、其の心を喪い狂乱するお前の姿を見るのが忍びない
まさかオブリビオン相手にこんな感慨を持つとは思わなかったが……
其の炎。唯暴虐の徒と成る前に止めねばならん
再会叶った今と為れば、何よりお前自身が其れを望むまい

攻撃があれば戦闘知識と第六感で先読みしての見切りで躱す
熱も炎も激痛耐性と、決して膝付かぬ覚悟で捻じ伏せ接敵し
怪力乗せた真っ向からの一刀で以って斬り伏せる
……介錯と云うには一方的だが
今度こそ娘と共に迷わず逝くがいい


アルトリウス・セレスタイト
狂うほど求めていたのなら、さっさと迎えにでも行くと良い

破天で掃討
『超克』で“外”より汲み上げた魔力を注ぎ顕理輝光を運用
全力で魔力を注いだ高速詠唱による魔弾の生成を『刻真』で最大限に加速
瞬きに満たぬ間に275の魔弾を二度生み出すそれを『再帰』で無限に循環
「275の魔弾を一つに統合した魔弾」を無数に生成し、驟雨の如く、文字通り間断なく叩き付ける

爆ぜる魔弾を周囲諸共巻き込んで放ち回避の余地を与えず、攻撃の速度密度で反撃の機を与えず

この地で諸共に灰燼と帰せば同じ場へ行けよう

攻撃の物量と火力で圧殺する



 強靭なる生命力は、時に無慈悲で残酷だ。
 宿敵を屠って満たされず、愛する娘の魂と邂逅して尚も朽ちぬ竜の器は、鱗の堅甲より邪血を淋漓と滴らせながら、終ぞ果てぬ魂に慟哭を裂いていた。
『グルォォオオオ嗚嗚ヲヲ嗚嗚!!!』
 虚無は唯だ只管に炎を蹴立てて全てを呑む。
 喊ぶ程に業火は五百重波と渦巻き、肌膚を灼くより酸素を燃やして猟兵を苦しめるが、雨糸・咲(希旻・f01982)は、今の惨憺にこそ冷静を手放さぬ。
 炎を映し炯々と耀る双眸は、吼える竜を聢と見つめ、
(「斃れてはいけない、瞳を背けてはいけない」)
 自分たちがこの炎に巻かれれば、馬鹿げた禁忌と吸血鬼の傲慢に踏み躙られた娘さんの哀しみが一層深まる気がして。
「これ以上、哀しませては――」
 素朴で柔らかに織られた『萌翠』は、猛炎に翻りつつも炎は移さず。
 咲は怒涛と流れ込む炎の向う先を見極め、燃焼を躱しながら、狂乱に堕ちた竜にそっと佳聲を添えた。
「……大切なひとの命尽きる様を、見たのですね」
 覚えず繊手が胸を塞ぐのは、己もまた身を裂かれる様なその心地を知るからだろう。
 大切な人を土の中に、彼が愛した者の姿を映した咲は、雀茶の瞳に魔竜の悲哀を映す。
(「そしてもう一つ……彼女が自分の所為で、という思いもあるのではと――」)
 然う想うだけで、酷く、苦しい。
 灼熱に息を詰めて、痛みを嚥下する咲。
 時に鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は、彼女に襲い掛る朱殷の焔を『秋水』に薙ぎ払うと、花弁と散る残火を靴底に踏んで瞳を落した。
「……お前が“同族殺し”に堕ちた顛末は、繋ぎ合わせた断片から十分に察せられた」
 矢張り然うだった、と足元に敷く熱を反芻する。
 嘗ての炎窟卿と同じく、人と共に歩む事を選んだ竜を知る彼は、だからこそ、心を喪い狂乱する姿を見るに忍びない。
 蓋し嵯泉は惻隠の情に仁の端を覗かせるだけの男ではない。
 その足は絶望の炎に留まらず、其処から更に一歩を踏み出し、
「まさかオブリビオン相手にこんな感慨を持つとは思わなかったが……其の炎、唯だ暴虐の徒と成る前に止めねばならん」
『ォォオッ、オオオヲヲヲ……ッッ!!』
「再会叶った今と為れば、何よりお前自身が其れを望むまい」
 狂竜の魔眼と結び合って幾許、禍断の刃『縛紅』を抜いて二刀とする。
 此の先に必要なものは明白――炎を映した緋の隻眼は愈々赫々と、黒煙が渦巻く煉獄の中で光の帯を引いた。
 畢竟、猟兵がオブリビオンに手向けられるものは少ない。
 無骨な送り方しか識らぬはアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)も同じか、彼は創世の原理『超克』によって“外”から汲み上げた魔力で常に纏う原理『顕理輝光』の漂う淡青を玲瓏としながら、焦熱に渦巻く軍庭に冷然と聳立する。
「狂うほど求めていたのなら、さっさと迎えにでも行くと良い」
 十分に待たせたのだから、と端整の唇は聲を添え。
 娘の魂を抱くに、悪しき器は要らぬと削ぎに掛かるのが、彼なりの情けであったろう。
 その為の魔力は一縷と惜しまず――アルトリウスは我が身に満てる魔力を高速詠唱で紡ぐと、其を結晶化させた魔弾を生成し、時の原理『刻真』を以て最大限まで加速する。
 虚無の炎に干渉されぬ魔弾は合計275弾。
 青白く輝く其は循環の原理『再帰』によって無限となり、且つ彼は「全弾を一つに統合した魔弾」を生成して威力を底上げしていく。
「内から破れぬ殻を、外から破る」
 驟雨の如く、颶風の如く、間断なく叩き付ける。
『グルァァァアアア嗚呼嗚呼――!!!』
 その生死の懸崖、正気と狂気の疆界で相剋する景は凄惨を極めたろう。
 激痛に抗い、本能の儘に灼熱を吐き出すのも真実の姿であり、それ故に炎は愈々熱く、肺に入りては毒のように激烈な刃を突き立てた。
「ッ、ッッ――!」
「か、っは……っっ」
 元々の炎檻に溢れるほど炎を注がれた猟兵は、肌膚を灼かれ呼吸を奪われる。
 多くの仲間が膝を折り、身を屈める中、咲は炎叢の向こうに視線を射た儘、熱風の中に癒しの花馨を交ぜた。
「――ちゃんと向き合わないと、声は届かないから」
 芳し香気を放ち風を切る青葉は【馥葉吹】(カオリハブキ)。
 花の香りを乗せた青葉が触れれば、創痍は直ぐにも慰められるが、術者は代償に激しい倦怠を得る。
 それでも。
 それでも見ねばならぬ世界が、物語があると信じる咲は、一歩と引かず――丹花の唇に佳聲を紡いだ。
「あなたたちの物語は、あまりに悲しい。
 ですが、もう――もう、終わりで良いんです」
 慈雨の様な言だった。
 其は雨滴の如く炎を慰め、
「これからは、誰にも邪魔されない遠くの海で。
 今度こそ穏やかに、寄り添って欲しい――」
 火花、残火、灰燼。
 あらゆる赫と黒が花弁と躍り、炎の海に溶け往く中で、咲は猟兵によって竜の殻が剥されていく全てを見守った。
 その瞳に圧倒的な物量と熱量が爆ぜたのは間もなく。
「この地で諸共に灰燼と帰せば同じ場へ行けよう」
 爆轟の中に淡々と聲を置いたのはアルトリウス。
 彼が二度と受肉せぬようにと畳み掛けるは【破天】――死の原理で存在根源を直に砕く魔弾は青く輝いて、竜鱗を爆砕するや諸共を巻き込んで回避の余地を与えず、また間隙を許さぬ攻撃速度で反撃の機を奪った。
「迷わぬよう全てを捨てていけ。此処で全て消し潰す」
『グルォォォオオ嗚嗚嗚嗚ッッッ!!』
 悲哀、怨嗟、苦悶、絶望――。
 彼を『同族殺し』と堕とした全ての呪縛を断たんとするアルトリウスの隣、轟と渦巻く焦熱と業火を剣圧で捩じ伏せていた嵯泉は、ごぶりドス黒い血を吐く竜の、慟哭にも詰まる悲惨を見て唇を引き結ぶ。
「――――」
 拇指球を踏み締め、腰を落とし。
 爪先を弾くや一陣の風となった彼は、敵懐に潜りて【刀鬼立断】――二刀の冴刃を以て超高速且つ大威力の剣閃を放ち、竜の巨躯に逆袈裟の斬撃を疾走らせた。
「……介錯と云うには一方的だが、今度こそ娘と共に迷わず逝くがいい」
『ォォォオ、オオオオ……ヲヲヲ……!!』
 迷い無き紫電一閃。
 滔々と迸る霊気が腰から胴、肩口を抜けた後に邪血を繁噴かせ、嵯泉の外套『砕禍』をしとど濡らす。
 靴底が滑るほど血濡れた彼は、然しその眸に竜の器の砕かれる瞬間を聢と見届けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セツナ・クラルス
あなた方オブリビオンが、世界を滅ぼす宿命を受けたように
私も嘆き悲しむ魂を、あるべき場所に送るという宿命を受けたのだよ
ここで引く訳にはいかないんだ

破魔の力を宿した灯火に祈りを捧げ
魔竜の炎を破魔の力でを聖なる力を宿した灯火で浄化し反撃しよう

…今のままでは、痛みに眠ることすら儘ならないようだね
おいで
あなたの痛みは私が引き受けよう

自らの魔力を全て破魔の力に変換
竜の炎を無力化し可能な限りダメージ低減に努める
本来なら「全ての」痛みを引き受けたいところなのだが…
…私は神ではない
不完全な、「人間」なのだよ

愛することを罪とするなら、私はその罪を赦そう
誇りをもって罪を受け入れなさい
そして、その罪を抱いて眠るといい


シノ・グラジオラス
アンタにくれてやる祝詞は持ち合わせてないが、あの娘の許に逝く手伝いくらいはしてやるよ
同じ場所に逝けるかは…自分の運に祈りな

可能な限り『見切り』で炎の薄い部分を縫って竜の元へ
【襲咲き】で黒剣を受ける面積を広い武器へと変え、
『武器受け』と『火炎耐性』『激痛耐性』で炎を耐える

いつまでそうしてるつもりだ
仇を討つにはソレは都合よかっただろうが、狂ったままじゃ彼女は自分を責めることになる
アンタは誰の為に同族殺しまでしたんだ?
目を覚ませ。惚れた女を迎えに行くのに、そんな無様な姿で逝く気かよ

ギリギリまで正気に戻るか説得するが、無理なら『捨て身の一撃』で痛みは短く
安らかにとは言えないが、せめて彼女と共にと願う


夏目・晴夜
何をモタモタしているのですか?
彼女の魂は今ようやく解放されたばかりで、
貴方がすぐに追えば追い付けるかもしれないのに
追い付いて手でも繋いでやれば彼女と一緒に同じ所へ逝けるかもしれないのに
彼女の仇を討ったという土産話を得ておきながら、
こんな所で燻っている場合などではないでしょうが

私が成すべきはひとつ、彼を早く殺してあげる事です
もうそれ以外にできる事はありません
それに恐らく向こうならば誰にもとやかく言われない

私は短命ですからね、たとえ唯一に巡り会えてもすぐに別れの時が来ます
なので誰とも番うつもりはありません
でも貴方たちを見ていると羨ましくて苦しくなる

せいぜい私の目の届かない所で二人幸せになって下さい



 悲哀、怨嗟、苦悶、絶望――。
 慚愧、罪過、孤愁、寂寥――。
 炎窟卿を『同族殺し』へと堕とした凡ゆる情動、抗えぬ狂怒に鎖いだ凡ゆる呪縛を断ち、且つ浄めた猟兵は、彼に残された唯一の感情が、今の凄惨に留めている真実に到る。
 烈しく燃ゆる炎獄で、竜は咽喉が灼き枯れるほど喊び、
『グルォォォオオ嗚嗚嗚嗚ッッッ!!』
 其が唯の咆哮でないとは、彼の物語を断片的にも与った者なら自ずと知れよう。
「――全く言葉になど成っていませんが。彼女の名を呼んでいる事くらい分ります」
 優れた聴覚を持つ夏目・晴夜(不夜狼・f00145)は、ひくり、月白の狼耳を蹴立てると、胸奥に疼く焦燥の様なものを、絡繰り人形『優しく可愛いニッキーくん』に代らせた。
「何をモタモタしているのですか? 彼女の魂は今ようやく解放されたばかりで、貴方がすぐに追えば追い付けるかもしれないのに」
 繊指がクイクイと糸を操れば、ニッキーくんがムキムキと動いて。
 烈火が狂濤と迫る中、主の身丈を優に越す傀儡は、無垢なる怪腕に焔を裂いて火の粉を散らしつつ、猛然と炎叢を踏み進む。
 爆風と轟音が犇く中、主の聲は凛呼と渡ろう、
「追い付いて手でも繋いでやれば、彼女と一緒に同じ所へ逝けるかもしれないのに」
 己なら然う為たろうか。
 傀儡を盾に、妖刀『悪食』は爆ぜる焔を花びらの如く串刺しながら、晴夜は慟哭し続ける狂竜をやや上目に睨める。
「彼女の仇を討ったという土産話を得ておきながら、こんな所で燻っている場合ではないでしょうが」
 疾く逝け。
 その為に己が成せる事は、死を突き付けて現在(ここ)から離す――それ以外に無い。
 柳葉の眉ひとつ顰めぬ晴夜は冷徹か――蓋し丹花の唇を擦り抜ける言は残酷を告ぐだけの現実に肉薄しており、
「それに恐らく向こうならば、誰にもとやかく言われない」
 ――向こうなら。
 その言は直ぐにも伸び出る悪魔の舌に呑まれたが、白皙に疾走る火傷を拭った晴夜は、更に一歩を踏み出して刃鋩を届けに走った。
 間もなくその背は焔に隠され、後続を断たんと渦巻くが、拒絶の炎に肺を灼かれたとて、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)の歩みは止まらない。
「あなた方オブリビオンが、世界を滅ぼす宿命を受けたように。私も嘆き悲しむ魂を、あるべき場所に送るという宿命を受けたのだよ」
 ここで引く訳にはいかない、と夜色のスカプラリオを赫炎に翻したセツナは、蓋しその聖衣の裾にも灼熱を触れさせず――炎叢を踏み分けて狂竜に正対した。
『ォォォオ、オオオオ……ヲヲヲ……!!』
 漆黒の眸に虚無の炎を映しながら、竜の慟哭を聴く。
 彼の前には敵対するオブリビオンは居らず、寧ろ「救い主」として手を差し伸べる隣人こそ臥せていたろう。
 優艶のテノールは穏やかに囁(つつや)いて、
「……今のままでは、痛みに眠ることすら儘ならないようだね。
 おいで。あなたの痛みは私が引き受けよう」
 白手袋に包まれた繊手が紡ぐは【原初の灯火】(ハッピーバースデー)。
 破魔の力を宿した灯火は、セツナの祈りに煌々と揺らめいて、魔竜が迸る猛炎を優しく包むと、滾る狂怒を悉く浄化していく。
『グルァァァアアア嗚呼嗚呼……ッッッ』
 狂竜は尚も慟哭の炎を叩き付けるが、濡烏の艶髪が熱風に煽られ、焦熱が肌膚を灼こうとも、彼は全ての魔力を破魔の力に変え、祈りを捧げる事を止めぬ。
「凡ゆる絶望を理解し、全ての痛みを引き受けることは叶わないが……」
 セツナは狂竜の炎を無力化し、可能な限り損耗を抑えるが、彼だけが特別に火傷を負わぬという訳ではない。
「……私は神ではない。不完全な、『人間』なのだよ」
 万物を司る神であれば全てを受け入れられようが、人の器をしたセツナは、身を蝕む痛みに耐えながら、彼に寄り添わんと語り掛ける。
 祈り、浄める――その姿は或いは仲間にも慰みになったろう。
 シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は、既に虚無と化した竜の器が、再び骸の海を潜って悲劇を繰り返さぬよう、道を違えぬよう、冴藍の隻眼に見詰める。
「アンタにくれてやる祝詞は持ち合わせてないが、あの娘の許に逝く手伝いくらいはしてやるよ」
 泉の如き透徹の炯眼は、悪魔の舌と燃え盛る炎を見極めると、比較的弱く薄い部分を縫って前に進み、魔竜の影を踏む。
 近付く程に凄惨を極める灼熱に麗顔を照らしたシノは、聲を低く置いて、
「同じ場所に逝けるかは……自分の運に祈りな」
 手向けるは【襲咲き】(ボースハイト)――主の血を啜って形を変え始めた黒剣『燎牙』は、竜の狂怒を受けるに漸う面積を広くしていく。
 幅広の剣身を盾と構えたシノは、怒涛と押し寄せる炎を弾き、或いは肺が灼かれる激痛を凌ぎながら、爪も牙も忘れて噎ぶ竜に聲を張った。
「いつまでそうしてるつもりだ。仇を討つにはソレは都合よかっただろうが、狂ったままじゃ彼女は自分を責めることになる」
『グルォォオオオッ!』
 ――彼女は。
 死して尚も炎窟卿を想った純愛の魂を顧みれば、竜もまた届いているとばかり喊んで。
 反駁を訴えているとは、気の迷いでは無かったろう。
「アンタは誰の為に同族殺しまでしたんだ?
 目を覚ませ。惚れた女を迎えに行くのに、そんな無様な姿で逝く気かよ」
『嗚嗚ヲヲ嗚嗚ォォッッ!!』
 片や人語を喪ってはいたが、何故だろう、これを聴く猟兵は一人と一体が意志を持って会話している様に見えた。
 ――否。
 其は慥かに男と男の対話であったろう。
 シノが『燎牙』に焔を両断した隣、セツナもまた焦熱に端整を白ませながら声を届け、
「愛することを罪とするなら、私はその罪を赦そう。誇りをもって罪を受け入れなさい」
 ――そして、その罪を抱いて眠るといい。
『ォォオヲヲヲ嗚嗚ヲッッ――ッ……』
 この瞬間。
 シノの【襲咲き】と晴夜の【喰う幸福】、二筋の斬撃が炎を裂いて縦横に交わり、魔竜の心臓を交点に赫と黒の十字架を描いて疾走る。
『ッ、ッッ……ッ……!!』
 魂を断ったのは激痛に非ず。
 十字の斬撃は竜の器を完全に砕くと、血飛沫を噴く代わり全てを灰燼に帰し、サラサラと灼熱に躍って消えていく。
 指に触れては霞と消える灰に、セツナは歎声を零して、
「最期、彼は救済の太刀を迎え入れていた様な……」
 これにそっと首肯を返したシノが、漸う火勢を収めていく周囲を見渡す。
「……安らかにとは言えないが、せめて彼女と共に在れと」
 然う願わずにいられぬのは、シノだけではなかろう。
 見れば多くの猟兵が、二人の霊の安寧を願って沈黙を捧げていた。
 時に晴夜は身を屈めて灰燼を掬っており、キラキラと光を帯びながら立ち昇る美しさに長い睫毛を落している。
「私は短命ですからね。たとえ唯一に巡り会えてもすぐに別れの時が来ますから、誰とも番うつもりはありません」
 光に抱かれて消えゆく灰燼は、あまりに儚い。
 蓋し手を繋いで彼岸へ逝く竜と娘をそこに重ねた彼は、己が胸を苦しめる憧憬を反芻しながら、静かに言ちて。
「せいぜい私の目の届かない所で、二人幸せになって下さい」
 と、無と還るまでを見送った。

 炎窟卿が一人の村娘と出会ってしまった様に。
 猟兵らは、この哀しい物語と邂逅を得ぬ方が佳かったか。
 其は分らない。
 蓋し館を後にした彼等の背中は、入る時より幾重にも深みを増して、痛みを得ながら尚も踏み出す跫が、村に真の平穏を齎した事は言うまでもない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月22日
宿敵 『大領主』 を撃破!


挿絵イラスト