20
救済者へ、願う。

#ダークセイヴァー #【Q】 #闇の救済者

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー
🔒
#【Q】
🔒
#闇の救済者


0




●予知夢
 母親は、子供を抱えて走る。
 蟲の餌食にしてなるものかと、栄養も力も無い足で、子供を護りながら駆ける。
 駆ける。
 やがて背の肉が、足の肉が、腱が断たれて、それでも羽音は鳴りやまない。
 ぞうぞうごうごうどうどうと。
 食わせてなるものか!なるものか。
 大丈夫よ。と母は笑む。泣き止まぬ子を励ます様に。
 抱えて、離さぬ肉の壁。
 この子だけは。
 祈りながら丸くなる。
 その細い身体を、蟲の群れが覆い隠す。
 どうどうごうごうぞうぞうと。
 全てを飲み込む蟲の群れ。
 それは土砂が滑る様に流れ行く。
 全てを喰らう蟲の群れ。
 それはノイズを幾重にしたかも分からぬ轟音で、存在足り得る存在を、蹂躙し尽くし進む。
 進む。
 蟲の時速、約40。
 村を一つ飲み込む速度、凡そ半時。
 第一の村に到着するまでの間、一時間。
 飲み込まれる村の数、3。
 村に住む者達、それぞれに百、足らず。
 空腹湛えた蟲の群れ、空を覆い隠す程。
 それらが過ぎ去り残るのは、土ばかり。
 骨、ばかり。

●グリモアベースにて。
「少し、面倒な依頼になるんだが、聞いて欲しい。」
 そう切り出し、夢の内容を説明しながらダンド・スフィダンテ(挑む七面鳥・f14230)は、板に掲示された地図を指す。
「この村が在るのは、ダークセイヴァー。そして、この村は、闇の救済者達が居る場所でもある。」
 闇の救済者(ダークセイヴァー)とは、長い圧政の中、猟兵達が残した僅かな光を糧として立ち上がり始めた、ヴァンパイアへの対抗しようと動く者、あるいは圧政に苦しむ弱者を護ろうと動いている者、そんな一般人達が自称する名だ。
 彼らは猟兵達の事を認知し、信じ、尊敬している。
 『闇の救済者』とは、猟兵を讃えた称号でもあり、闇の世界に生きる弱者の、希望を象徴する言葉でもあるのだ。
「他の依頼で大きなヴァンパイアが倒されたんだろうな。逃げた者達が寄り集まり、力を合わせて暮らしている平和な村だ。そして、希望の有る村だ。」
 食べ物はギリギリだが、いつか来る奇跡を信じて、手を取り合いながら強く生きている。そして逃げ延びた他の者達の寄る辺になろうと、それぞれの村が、出来る限りの事をしている。

 そんな場所が、虫の空腹で更地にされる。
 案外、よくある光景なのかもしれない。この、光など無い世界では。
「……この依頼の初手で猟兵が出来る事は、三種になる。」
 とん、とそれぞれの村を叩きながら説明は続く。
「速度を活かし、何よりも速く第一の村へと辿り着き、村人の避難と誘導をする事。
 智略を活かし、二番目の村にて災禍を阻み、数を大きく滅する罠を張る事。
 力を活かし、三番目の村を襲うに至った蟲の嵐をさらに阻み、止める事。」
 そこまで言って、一度息を吐く。
「これだけだ。これだけだからこそ、上手く分かれて事に当たって欲しい。」
 地図には、村三つと周囲の様子が描かれている。
 三つ目の村から少し横に逸れた場所が赤い丸で囲まれており、そこを避難場所、そして猟兵の出発点とするらしい。

「これらが上手く行って、それでようやく、群れはただの群れへと成り果て、猟兵が掃える姿へと変わるだろう。
 それを、集まった猟兵全ての力でもって、叩き潰す。」
 決戦の場は第三の村。
 それぞれが全力で事に当たった後の戦闘である為、苦戦を強いられる事になるだろう。

「村は恐らく、再興が不可能なレベルで食い荒らされる。
 故に避難して来た者達は、新たに村を起こす必要がある。
 だから貴殿らには最後、その凡そ三百人が暮らしていけるだろう新たな村造りと、その整備を、手伝って頂きたい。
 勿論、直ぐに帰っても構わない。残ると言うなら一週間でも、一月でも、共に居よう。」
 全ての行程で猟兵がどれほど上手くやれたか。それによって彼らの今後の生活は決まっていく。
「上手く行けば、この村で救った闇の救済者の面々が、これから救われるかもしれない面々が、いつか来る戦争での大きな助力になる……かもしれない。」
 そうでなくとも、救ってくれそうな猟兵ばかりでは、あるけれど。

「なぁ……小さな子供が泣いている時、あるいは道端で迷う人間が居た時、何かしようと、思うか?あるいは、立ち止まり、その無事を願えるか?」
 そうなら、きっとうまく行くさと、太陽は柔らかに笑う。
 勿論、甘さだけでどうにか出来る問題では無いのだが。
「どうか、一人でも多くの者が希望と共に在れる様、彼らに力を貸して欲しい。」
 聖なる光を讃えたグリモアを展開させ、彼は祈る様に頭を下げた。
「武運を。そして、光を。」


KS
 こんにちは、KSです。久しぶりの投稿です。そしてシリアスです。
 今回の依頼は闇の救済者さんたちと村人を、救うシリアスなシナリオです。
 シリアスです。
 ・第一章では、村人の避難(SPD)、罠の作成(WIZ)、虫の迎撃(POW)の三段階で事を進めます。
 ・第二章は、残った蝗の殲滅です。全力で倒しましょう。怪我は何もしてなければ回復していません。
 ・第三章で、三つの村の住民と闇の救済者さん達を集めての、新たな村を作る作業をします。どのくらい村に居たかは、お任せします。また、POWやWIZ等の指針に沿わずとも結構です。好きにプレイングしてください。
 闇の救済者さん達は猟兵の事を信頼していますので、猟兵の言う事はほいほい信じますし、肯定されればキラキラします。そして闇の救済者さん達の言葉を、村人は信じます。上手く活用してください。
 尚、どのくらい上手く行ったのかは、青丸の数を基準とします。
 今回のシナリオ、高確率で知らない人間と組まされますし、ペアでの描写は難しい(戦場がそもそも違う)可能性が高いです。さらに場合によっては村人に悲しい事が起こったり、怪我等、プレイングの要望に上手く沿えない事が出てしまいます。悲しい。
 以上を読まれた前提の上、どうぞ広い心で、よろしくお願い致します。
 好き勝手して良いよという猛者の方々、あるいは心優しい皆様方々、このKS心より参加をお待ちしております。
77




第1章 冒険 『ついにこの里を捨てる時が』

POW   :    重い荷物を持つなど、スムーズに移動できるように手助けする。

SPD   :    敵の斥候を捕らえたり罠を仕掛けたりして、追っ手を妨害する

WIZ   :    移動の痕跡を消すなど、敵から発見される危険を取り除く。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジェイクス・ライアー
【SPD】
●行動
安全地へと逃れる為の適切な誘導
及び、住民の説得
なるべく穏便に済ませたいが、
必要とあらば[演技][恫喝]で脅しあげてでも連れて行く。
柔軟に、その場の状況に合わせた行動を。


この身に出来ることは多くはない
家財一式荷は全て置いていけ
子を抱け はぐれるな
身一つでも

怪我人病人老人
自力で走れぬ者は置いていけ

そう、そうしてきた
全ては有限だ。時間も体力も。
差し迫った状況において少しの無駄も許されない。

ああ、そうだ
それが正しい。
一つの基準を崩せば不平等が生まれる
仕方なかったのだと納得出来なくなる

だから、置いて行く。
生き残る最大限を生かすために。

積み上げられた尸の上で生きるのだ。


桐嶋・水之江
◆SPD◆アドリブ連携歓迎
何かするか、願えるか…ね
どうかしら?リターンと気分次第ね
だって私気分屋だもの
けど幸い今は乗り気なの
まあ期待に沿えるよう努力はしてみるわ

さて…私は第一の村で避難のお手伝いをしましょうか
けれど人手が足りないわね…なら増やせばいいのよ
という訳でお出でませ機械妖精冬風
村人の貨物の運搬を任せるわ
ついでに適当に可愛らしくはしゃいで皆を元気付けておきなさい
私はオペレーションに徹して現場監督役よ
マップデータを参照して上手く活用してあげる【情報収集+地形の利用】
忙しくなるんでしょうけど、本命に備えてなるべく疲れ過ぎないようにしたい所ね
私達がやられたらもう後が無いんだから


フルム・コラルト
【村人の避難】アドリブ・連携歓迎

『指定UCの子達への言葉』
るーっ!よく来てくれたの!早速だけど、村人さんたちの荷物を運ぶのっ!急ぐのっ!!

『村人達への言葉』
この子達、体は小さいけど、力持ち。荷物を預けたら、走って…。後ろは見ないで…ただ前を見るの。さぁ…行くのっ!

一番高い家屋に登り、高所からの銃撃。機巧型・参連点射式破壊筒を構え、敵に制圧射撃、味方には援護射撃をし、避難する時間稼ぎ・救助活動を行う。自分は勿論のこと村人や指定UCの子に近付く敵には、銃撃やホークアックスの投擲を見舞う。

召喚した子達には荷物と、歩行困難な村人がいれば担架を模した板に乗せて運ぶよう指示。可能ならば幼子も抱っこで運ぶ。


華折・黒羽
・SPD

速さならば多少なりと助力足り得るだろうか

背に生えた鴉の両翼も
跳躍に向くこの猫の脚も
空が拓かれているのであれば空を
鬱蒼と行く道阻む樹々があればその狭間を

飛んで駆けてゆけば果ての村であろうと
辿り着くのに時間はかからないはず

辿り着いたなら村人の前に降り立ち
言葉すら無駄を省き簡潔に

俺は猟兵です
急ですが、此処に至るまでの村は蟲に襲われ全て喰い尽くされます
─今すぐに、非難を

駆け出す村人は
避難場所へと先急ぐ人の背を追わせ
自身は今一度空へと

蟲はまだ来ていないか
逃げ遅れている人がいないか
目を凝らす

逃げ遅れたり足が竦んでいる人がいたなら手を伸ばそう

目の届く範囲で死なせたりなど
もう二度と、したくはないから


メルクリオ・ユノ
【SPD】
「災害ってやつはこれだから……」
苦虫を噛み潰したように呟いて。無辜の民を守るために動くことを決意する。
村人の前では深刻な顔を見せないようにするよ。助かると信じて、安心していてほしいからね。
病人、怪我人、子供、老人、女性を優先して避難させる。避難先に味方がいるなら――ユーベルコード「白馬の王子様」で一瞬で連れていける。

……全員助けたいな、できることなら。
守れない人がいるのはつらい。
大丈夫だと虚勢を張って、絶対助かると村人たちに信じさせたい。けれど、なにより自分自身に信じさせるためにそう振る舞っているのかもしれない。


空廼・柩
胸糞悪過ぎて笑っちゃうよ
これがこの世界の日常であったとして
止めない理由は何処にもない

俺は村人の避難誘導に動こう
コミュ力を使って円滑に話を進めるよう心掛けないと
小さな子どもや老人は避難がし易い様に誰か村人と組ませたり
動くのも困難な人がいたら俺自身背負うとかして避難させる事も出来る筈
避難の途中、怪我した人がいた時は医術知識を用いて簡単な応急処置も施そう
避難中は聞き耳や視力で常に周囲を警戒
もし災禍の到来、その予兆を確認したならば他の猟兵達にも直ぐ警告

つい先日まで当たり前に暮らしていた村がなくなる
此処では普通の事だったとしても
生憎看過出来る程、無関心ではなくてね
――後で蟲達には、きついお灸を据えないと



●出立前

「……すまないな。音速で飛ぶ事などは出来なくて。」
とん、とステッキ代わりに使っている傘の調子を確かめる様に地を叩きながら、ジェイクスはぽつりと零す。
速さが求められる今回の作戦では、そういった者が居た方が良かったのではないかと、魔法を使えぬ傭兵は、言葉の外へとその意を置く。
「いいや、案外、そういう能力の方が厄介だったかもしれないよ?なにせ、音速で移動すれば空気の振動は周囲を壊すからね。今後の事を考えるなら、森は出来るだけ傷つけない方がいいだろう?それに……」
言いながら柩は空を指す。遠く、蟲は気配すらない。
それでも、いいや、だからこそ。
今ここに自分達が居る事を、察知されてはいけない。
予知夢のルートを、変えさせる訳には、いかないのだ。
「……万が一にも蟲には聞こえない、あんたみたいな静かに移動出来る人の方が、適役だったよ。」
きっとね。と付け加えて、柩は肩を竦める。

その様子を見ながら、紳士は静かに笑う。
「まさか、フォローを頂けるとはね。」
ありがとう。と会釈を一つ、彼は背を向け歩き出す。
「なに、仕事はやり遂げる主義だ。先に行かせて貰おう。」
その背中にゆるりと手を振って、それぞれの配置へと進む。
森へと入る前、その一幕。

●村、奥地を目指す者

青が一筋、軌跡を残す。
ジェイクスは、整備などされていない山を、まるで平野かの様に駆けて行く。
下りを落ちる様に駆けた時、速度は200を超えただろうか。
機械は使わず、羽ばたくでも無く、彼は自身の脚のみで、人を優に超えた速さで駆けて行く。
目的はただ一つ。少しでも早く、村へと辿り着く為に。

行動はシンプルに、そしてスマートに。
目の前の崖を、駆ける速度のまま強く蹴り、落ちる。
滑空等とぬるくはない。
投身自殺のそれより速く、水の中へ落ちるが如く。
重力を助長し、地面へと頭から落ちて行く。
地面までの距離が2秒に満たぬ頃、傘を下向きに広げ半回転。
空気を盛大に受け尚壊れぬ傘に大きく力を込めて引き、速度を7割殺す。
そのままさらに半回転。広げた傘の先から、散弾銃が地面を抉る。
衝撃と巻き上がる土のクッションを傘で受け、さらに2割の速度を殺す。
半回転。バラバラと舞い落ちる土くれを、円形の強化布は綺麗に弾く。
膝さえ付かぬ着地でもって襟を整えた紳士には、埃ひとつ付いてはいない。
ただ僅か、その額に汗が流れた事は、秘密にしよう。

ふう、とひとつ息を吐き傘を畳めば、彼は再び走り出す。
空から見えた、村の方角へと向けて。


その頃、騎士のメルクリオは遠く、空を見ていた。
濁る空はただ白い。この世界の様に、先行きも、光も見えない曇天は、気分を重くさせる。
手の中の、通信機に目を落とす。
合図を待っているのだ。先行する青の合図を。

そんな騎士の近くには、小さな狼フルムと、白衣を纏った水之江が、地図を見ながら行動のお浚いをしている。
私はここに。わたしは一緒に!
そして私達は仲間を呼んで。る!みんなの大事なものを、運ぶの!
ぐっとフルムが拳を握った丁度その時、通信機が音を立てた。
耳へと寄せれば、僅かに呼吸を整えただろう声がひとつ。
『……待たせたね。』

メルクリオはマントを翻し、二人へと向き直る。
「失礼。あちらも準備が整った様です。」
白馬を召喚したメルクリオは、二人に手を差し出し笑う。
「お手をどうぞ、レディ。優男のエスコートは、お嫌いですか?」

かくして三人は白馬へと乗り、メルクリオは手綱を握る。
駆ける白馬は風よりも早く。グリモアにも似た転移でもって、時空の壁を越える為に姿を消した。

「ダメだ。移動の邪魔になる物は置いて行け。全てだ。」
村の奥に集まる民家へとたどり着き、信号弾を打ち上げながらそう言い切った紳士に、不安そうに集まった住民達が顔を見合わせている。
やがておずおずと口が開かれた。
「けれど、家には母が」
「……動けるのか?」
「いえ、足が不自由で……」
「ならば置いて行くしかあるまい。共に死ぬ気であれば、別だが。」
「食料は!食料はどうすれば良いんですか!?」
「食料よりも、先ずは今、自身が助かるかを考えた方が良い。もしも諦められないというのであれば……」
言葉を区切り後ろを見れば、光の中より白馬が現れる。
三人の猟兵を連れて。

紳士は息を吐く。
一人ではどうにも出来ずとも、

「彼らに任せて欲しい。持って来て欲しい物、避難させて欲しい者を、端的に。一人三つまで伝えるんだ。どうにかしてくれるだろうと、希望をこめてな。」

これは事前に話し合って決めていた事なのだ。
大半の住民の避難誘導を、真っ先に辿り着き、切り捨てる事を厭わない者に任せ多くの命の、安全を確保する。
そして残る者の命を、荷を、それに特化した者が運んでいく。
実に合理的な判断だろう。
なにせもう、蟲がこの村を襲うまで、時間が無いのだ。
一般人の脚では最短ルートで村を出られるかすら怪しい。1分も、1秒も、無駄にしている時間は無い。

「時間は有限だ。決して逸れるな。救いたい者を、救いたければな。」
言うと紳士は歩き出す。一般人の脚では、走ると同義の速さでだ。
振り返る事はしない。
その時間すら惜しいのだ。一人でも多くを、救うためには。

「さて、という訳で出番よ」
言いながら水之江は門を開く。電脳魔術で生成された青白い発光は、中から可愛らしい妖精型のドローンを排出する。
わらわらと現れるその数、58体。
「この子達が話を聞くわ。持って来て欲しい物と場所を伝えて。なるべく早く。そして彼を追って走って。一人でも多く、救われたいならね」
ドローンに周囲の地図をインプットし、情報を共有し、最短のルートと方法を指示する。その為に彼女は、しばしこの場を動けない。
そして情報の共有と指示の受信を考えれば、ドローンだけでは運搬の手が足りない。
だがそこに、大きな遠吠えが響く。

「ぅーーー、がるるっ!るぉーーんっ!」
フルムの遠吠えは山へと響く。何処かから、ガサゴソと音が聞こえれば、次々と幼い人狼が姿を現し集まって来る。
38人もの小さな人狼が、わうわうと集まり丸い瞳をフルムへと向けた。
それを見て、フルムは大きく、その小さな拳を掲げて吠えるのだ。
「るーっ!よく来てくれたの!早速だけど、この妖精さんたちと一緒に、村人さんたちの大切なものを運ぶのっ!」
よく通る、未だ幼さの残る声は、けれども間違いなく、この群れのリーダーの声である。
掲げられた拳に合わせ、38の拳が雄叫びと共に空へと上がる。

そしてその間に、凡そ50の村人達から得た情報全てを整理した水之江が、人狼の傍へとドローンを寄せる。
数百のシュミレートを十数秒で終わらせた彼女は、持ち運ぶべきものの重さや量に合わせ、妖精の数を小狼へと配置し、フルムに頷く。

「行けるわよ」

「るー!みんなー!急ぐのっ!!」
わう!!!
号令に合わせ、妖精の指示の元駆けだす姿を、数人残っていた村人が心配そうに見ている。
それはそうだ。
幼い子供の姿が奥へと消えていく中で、構わず走れと言われているのだから。
「心配、しないで。」
そんな村人の前に、フルムはしっかりと立ち、胸を張る。
「あの子達、体は小さいけど、力持ち。それに、とても、速いから。」
もふもふとした手を、村の外へと向けて言う。
「走って。後ろは見ないで……ただ、前を見るの。さぁ……行くのっ!」
吼えるにも似た気迫に押され、村人は走り出す。
その間にも、近い場所から続々と、狼と妖精が荷物を、或は人を伴って現れる。
それらを拠点としたこの場所へ置いては、次の場所へと駆けて行く。

さて、この山となった荷物だが。
「……俺の出番、ってことで宜しいでしょうか?レディ」
静かに、何かに備えるかの様に黙し見ていた王子が笑う。
「レディなんて歳じゃないわよ?なんて言ってる場合でも無いのよね。よろしく王子様。出来るだけ迅速に。そして疲れない様に」
メルクリオはその言葉に、優美な一礼でもって応える。
同時に現れる光り輝く白馬に、フルムが荷を積んでいく。
最後に、足の悪い老婆を抱え、メルクリオが白馬へと跨った。
「レディ。少し揺れますが、俺が支えていますから」
安心してくださいね。と老婆に笑顔を見せてから、手綱を片手に白馬を走らせる為その脇腹を軽く蹴る。
ドウと駆ける馬は、数メートル先で光の門へと飲み込まれて行く。
避難所へとワープしたのだ。
あとは荷を降ろし、人を預け、再び彼女達の場所へ戻って来るのみ。

けど、あと何往復出来るかしらね。
そんな事を考えながら、中空に浮かぶ青いボードへと情報を打ち込み続ける水之江の元へ、再び荷と人が集まり始める。
フルムはそれを、馬へ乗せやすい様に袋へ詰め、紐で結び、纏め、戻り次第避難所へと向かえる様にと準備を進めていく。

ここは、村の奥に位置する場所だ。
まだ、手前にも人が残っている。
そして荷物も残っているのだ。
ここで時間をかけすぎる訳にはいかない。

あと何件残っていて、あと何分でここを動けるのか。
水之江の目が止まる事も、フルムの手が止まる事も無い。
5分にも満たない早さで、白馬は再び二人の前へと現れた。
「お待たせしました。レディ、次の荷を!」
「るー!」


●村、弱者多き場所にて

田畑が広がる此処には、子供や老人が奥地よりも多く住む。
万が一オブリビオンからの襲撃に遭った際、奥地よりも森へと逃げる時間が短く済むからだ。
そして若く元気が有る者は、少し遠い場所からでも田畑へ向かう事が出来るが、老いた者にはその体力を畑仕事、或は針仕事へと当てたいが故に、ここには田畑が多く広がり、引かれた水が流れている。建築技術の有る者さえいれば、きっと水車も回って居た事だろう。そんな大層な物は、無い訳だが。
そんな場所で、老いた男に農具を向けられている男が一人。
「……俺は、猟兵、です。聞いてください。」
黒羽は、敵意は無いと半獣の両手を上げて真摯に訴える。
「急ですが、村は……蟲に襲われ、全て……喰い尽くされ、ます。」
数名集まっていた老人と子供を連れた若い娘が、ざわ、と顔を見合わせる。
「そ、そんな事信じられるか!」
そう吠える老いた顔は、絶望に目を開いて息が荒い。
信じられないと声を出しながら、けれど、ああ、けれど信じられるのだ。
皺が出来る程に、この理不尽な世界で、生きてしまったのだから。
信じられない筈が無いのだ。
安寧は無力だ。

けれど認められるだろうか。
自分達の積み上げた努力が、ただ理不尽に無くなろうとしているなどと、誰が認めたいものか。
「……信じられなくとも、構い、ません……」
そう言うしか出来ない自身に、音が出る程に奥歯を噛みながら、黒羽は切に彼等へ願う。
「けれど、けれど、どうか――今すぐに、避難を」
真っ直ぐな瞳が、村人の生を望む。

老人の手から、農具が落ちた。
「……わかった。直ぐに、残っている者達を呼ぼう……ここに、一度戻ってくればいいのか」
「……はい。お願い、します。」
血が出るかと思う程、強く拳を握りながら、老人は近くに居た者と共に散っていく。
あの様子であれば、直ぐに避難が始まり、ここに来てくれるだろう。

小さく息を吐く黒羽に、ひらり、緩く手を振る者が一人。
「こっちの説得は終わったよ。優しいおばあさんが居てね。彼女の情報によれば、この辺の人達は子供や支援が必要な人達も含めて、25人程みたいだよ。」
草臥れた白衣の裾を揺らしながら、柩はふぅと息を吐く。
「もうすぐ、奥の村人を連れた避難誘導の先駆けが来るから、動ける人達はそこに任せるとして。」
ぐるりと周囲を見渡す。
「それでも、10人以上を支えないと全員はきっと逃げられない。と、思うんだよね。」
悲観では無く、それは事実の確認だ。
柩の表情は薄い。悲しんでいるのか、怒っているのか、それすら分からない顔で、間もなく色づく頃合いだった、田畑の穂を見る。
風が吹く。これから起こる災害が、嘘の様な穏やかな風が。
揺れる穂を、同じ様に見つめながら黒羽は獣の拳を握る。
「……俺の目が届く範囲で、もう二度と、誰かを死なせたりなんて……」
――させるものか。
その為に、この羽も、足も、全力で使うのだ。
迫る蟲はまだ見えぬ空を睨む鵺につられて、柩もまた空を見る。
「……蟲達には、後できついお灸を吸えないと、だな。」
「……そう、ですね。」
ふ、と微かに笑う柩の顔を、空を睨む目は見ていない。ただ、硬い表情のまま、強く頷く。
そんな会話をしていれば、村人達が集まって来る。
乳飲み子を連れた若い女性、小さな子供の手を引く老人、身重の身体で歩む者。彼らの面倒を見る若い男も数人混じり、これで全てだ。と頷いた。
きっと彼らが、闇の救済者を名乗る者達なのだろう。行動はテキパキと冷静で、猟兵に対する信頼が見えている。

柩は彼等に改めて説明をする。ここが蟲に襲われる事。それ故に遠くまで逃げなくてはいけない事。猟兵の手は限られている為、自力で走れる者は出来るだけ自分で逃げて欲しい事。荷は一人3つまで、猟兵が引き受ける事。
「どうしても動けない人達は、俺達猟兵がなんとかして連れて行くから、無理はしないでね?」
コミュニケーション用のやわい笑顔の柩に頷いて、村人は分かれ始めた。
どうしても早くは走れない老人。怪我をしている者。病が身を蝕む若人。
そんな人々が動けぬ者として所在無さ気に一か所へと身を寄せる。

「心配しないで、誰の事も、置いて行ったりしない。まだ時間もあるし、怪我や病気を、診ておこうか。これでも俺、医術の知識があるんだ。」
村人と目を合わせ、励ます様に大丈夫大丈夫と朗らかに言ってから、柩は怪我人の手当てに入る。
運ぶものを村人から聞いていた黒羽が、音に顔を上げた。
ジェイクス率いる集団が、こちらに到着しようとしている。

「……来ました。彼らに、付いて行って下さい。」
闇の救済者に言えば、頷いて動ける村人を率いて集団へと入っていく。
出口まではまだあるが、それでも、きっと彼らは無事に村を出て、森へと身を隠せるだろう。

そんな事をしていれば、程なくして柩の近くにメルクリオ率いるフルムと水之江が、白馬と共に現れた。
村人を三人乗せた状態で、再び避難場所へと飛ぶ白馬を見送り、水之江は二人から荷物や周辺の情報を得る。
妖精と小さな人狼達が、荷物を集める為に走り出した。

避難所へと到着したメルクリオは、村人が白馬から降りる為に手を貸している。
伸ばされる手を取り、体を支え、地面へとゆっくりと誘導する。
優美の裏に隠された疲労を村人へ見せるものかと、眩む頭を軽く振り、大丈夫ですかと訊ねられた声にも明るい顔を作って見せて頷いた。
「大丈夫ですよ、レディ。絶対に皆助かります。あなた達の笑顔を護る為に、俺も全力を尽くしますから。」
度重なるユーベルコードの使用で、酷使された身体は悲鳴を上げる。それを抑え込み、まるで自分に言い聞かせる様に、笑うのだ。

蟲が、村へと近付いている。

真っ先にそれに気が付いたのは、空を飛ぶ黒羽だった。
砂嵐の様にも見えるそれは、けれど比較にならない程の質量で移動している。
遠く、見えていた草木の緑は、飲まれてしまえばもう見えない。
きっと、あの中では数センチ先ですら、何も分からないのだろう。

村が、呑まれ始める。

ふと黒羽が下を見れば、逃げ遅れたのか一人の老人が、蟲の迫る空を見ていた。
怯えもせず、恐れもせず、雲が蓋う空を見ている。
それが、死を受け入れた者の姿に見えて、慌てて下へと降りる。
「あの、逃げましょう。俺、貴方を連れて行けます。」
老人は、ゆっくりとその顔を上げて顔を見る。
最初に出会った時、農具を向けて来た老人は、ただ彼にくたびれた袋を渡す。
「これを持って行け。これだけで、構わない。わしの事は、放っておけ。」
押し付けられる様に渡されたそれを抱えて、黒羽は、なぜ、と問う。
「わからんか?……ふ、そうか。分からんか。優しい子だ。」
よしよし、と皺の寄った手を黒羽の頭に置いて、老人は空を見る。
蟲が迫る空を。
「……わしら老人はな。村を再興するにも、働けん。それでも、生きていれば飯を喰う。いらんと言っても、食わせようとする……優しい子らが居るもんでな。」
昔話を語る様に紡がれる、それは穏やかな遺言だ。
「彼等の食い扶持を、減らす訳にはいかんよ……いかんのだよ。」
逃げた先の生活に、余分な荷物は持って行けない。
老人は、自分を余計な荷物とカウントした。ただ、それだけだ。
とん、と袋を指して、老人は笑う。
「そいつは、わしが隠しとった種籾だ。持って行ってくれ。大事な子らの、未来の糧だ。」
ほれ行け。と手を振るう姿が苦しい。

ああ、これはなんて、なんて、自分勝手だ。

思わずその、余りにも軽い身体を抱えて飛ぶ。
突然の重力からの開放に、老人は声を上げた。
「なななな!?猟兵!何をする!?」
じたばたと暴れる脆い身体を大事に抱えて、黒羽は飛ぶ。全力で飛ぶ。

自分勝手と、罵られて構わない。
自己満足と詰られて構わない。
救える力が有るっていうのに、見殺しになんて出来るものか。
「……文句は、後で、聞きます!」
ごうごうと風を切って進みながら、声を張り上げる。

「皆さん!!!来ます!!」

下ではフルムと水之江が呼んだもの達が、最後の荷物を持って、走っている。

全員が頷く。
これが、この村で出来る、最後の行動だ。

ウォンウォンと音がする。バイクの音にもよく似たそれは、不協和音を轟かせ、柵も、畑も、建築物も、砕き飲み込み喰らって雪崩れる。
どうどうごうごうぞうぞうと。

一番高い家屋の屋根で、フルムは吼える。
どうどうごうごうぞうぞうと、響く音にすら負けない振動を、遠く、遠く空へと。
いいや、向かってくる蟲の群れへと。
「ゥウうううッ!ぅうるぅーーーーるぉおォオ!!!」
子狼が出せる最大の咆哮をもって、空気を震わせ蟲の群れへと制圧射撃。ボロボロと落ちる蟲は、けれども勢いを止めはしない。それでも撃ち続ける。空いた穴を埋めるその数秒が、村人の一歩に、猟兵の十歩に繋がるのだから。

「これで最後の転移だ!大丈夫か!」
声を上げるメルクリオに、柩が頷く。
「ああ、向こうで待っていてよ。全員連れて行くからさ。」

駆ける白馬を見送って、彼も持てる荷物を抱えて走り出す。
同じ様に荷物を抱えた子狼や妖精と共に、水之江の案内に従って。

近付く虫をホークアックスで薙ぎながら、最後にフルムが村を出る。

村人は誰も残っていない。
骨になる者はここには居ない。
荷物も、家畜も移動は済んだ。

完璧と言える、避難が済んだ。
村は、あっという間に蟲達が、呑み込み次へと進んで行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
【WIZ】
……当たり前だろう。
(男の言葉に呟き、罠作りへ)

レギオンの骨灰を用いた粉塵爆弾は、如何か。
二の村に【ガラスのラビリンス】を敷き、中を骨灰で満たし、虫を誘い込む[地形の利用]。
暮らしの跡を、罠に用いるのは心苦しいが。せめて善き人々の為になるよう、努めよう。
人は近づかないとは思うが、救済者方には念の為、作戦に伴う危険勧告を伝えておく。
火は[属性攻撃]の黒炎を使う。[おびき寄せ]る囮は、僕が。
爆破で可能な限り、数を滅して[部位破壊]を狙おう。
(人喰い虫への恐怖を隠し)
(すくみそうな足を動かして、行動)

負傷は[覚悟]。
[怪力]の[カウンター]でも喰らわせてやる。
助けに繋がれば、それでいい。


ナイ・デス
第二の村へ【ダッシュ】
避難呼びかけた後、誘導は必要なら他猟兵任せて
私は第二村に残って、待ち構えます

私は、大丈夫、ですから

罠は、私自身、です

【地形の利用】地縛鎖大地に繋げ、魔力吸い上げ【力溜め】して待ち

【第六感】でまだ遠い蟲の群れに気付き【覚悟】改め
【範囲攻撃】『生命力吸収光』

加減は、難しい……加減は、いらない、ですね

闇の世界に、光をひろげる

光は【鎧無視攻撃】蟲の甲殻など気にせず【生命力吸収】して消滅させていき

殲滅には及ばず、飲みこまれる

腕と【念動力】で頭は【かばい】喰われながらでも【激痛耐性】

最後まで、光続けて

蟲減らし
私は骨だけに

ヤドリガミ
本体無事なら生きている
自然と、再生
第三の村へ、急ぎます


寧宮・澪
さてさて、罠づくりー……頑張りましょー。ここから先には、行かせぬようにー……。

さて、どんな罠がいいでしょー……眠らせて、叩き落としましょか。
揺り籠の謳、歌ってー……ぐるりと村を覆うように、風を起こしましょー……その風に、乗せるのはー、眠りを誘う甘い蜜。
甘い香りで、おびき寄せー……眠りを、毒を、振りまいてー……虫の進軍を、阻みましょー。
おやすみ、おやすみ。良い夢をー……飢えずに、安らかに、眠りませー。
骸の海にて、安らかにー……。
傷は、飢えは、癒やしますがー……目覚めぬ眠りを、ご案内ー……。
これより先は、通しませんよー……村の人も、守りましょー……。
アレンジ、連携、歓迎ー……ぜひ、ご自由にー。



●第二の村

村へと蟲の羽音が近付くその頃、村人の避難と共に罠の作成に取り組んでいた澪とナイ、狩人が現在の進行状況と、これからの行動を確認する為に集まっていた。
狩人が口を開く。
「迷宮の準備は、もうすぐ終わる。時間をかけられたおかげで、村全体を迷宮に出来そうだ。」
「おぉー……それは、よかったですー……」
ぽやぽやと眠たげに首をこくりと縦に揺らす澪は、眠いのか、頷いたのか。言葉を汲むに頷いたのだろう。
「こちらも、準備は、出来ています。」
村人も、残って、いません。とナイが拳をグッと握る。
「ではー、私はー……蟲さんの様子をー……見てー来ますねー……?」
とん、と地を蹴り、黒い翼を大きく打ち付け、空へとふわり舞い上がる澪。
よろしく、と見送った狩人は、迷宮を完成させる為に集中を続けながら、言葉を探す様にごにょごにょと口を動かした。
「……本当に、いいのか?僕は、出来る事なら止めたい、けど」
狩人は、ナイの顔を心配そうに見つめながら、結局そんな言葉を零す。
けれどナイはその顔を真っ直ぐに見つめ返し、自分の胸をとん、と拳で叩く。任せろ、というジェスチャー。
「心配、ないです。私は、ヤドリガミ。本体が無事、なら、復活します。」
揺らがぬ視線が決意を湛えて、心配そうに揺れる視線と、交差し、数秒。
狩人は静かに目を閉じた。
「……分かった。すまない、その決意を疑った訳ではないんだ。これは、僕の弱音だ。忘れて欲しい。」
ただ、誰かが理不尽に傷つく事を嫌う狩人に、この作戦は重かった。
それだけなのだ。
「弱く、ない、です。ありがとう、ござい、ます。」
実際、怖く無いという訳では、無い。
痛い物は痛いし、苦しい物は苦しい。
それでも、他に今、方法は無い。
「お礼なんて……ごめん、君に任せるしか、無くて。」
困った様に笑って、狩人は迷宮を完成させる。

ガラスで出来た透明な迷宮は、入口は大きく、けれど出口は小さな一つしか存在しない。
ばさ、と翼の音が聞こえた。
「お二人ともー……来ましたー……おそらくー、あと10分程でー……到着しますー……」
ふわふわと降りながら蟲の進行度を伝えてくれた澪に頷き、狩人は迷宮をごん、と叩く。
「今回は特別性。赤い線に沿って進んでくれ。そうしたら、出口があるから。」
頷いて迷宮へと足を踏み入れ様とするナイと狩人に、零が静かに、声をかける。
「お二人ともー……どうか、ご無事で」
祈り、風が揺れる。
二人は手を軽く上げてそれに応えると、迷宮へと消えて行った。

「さてー……それじゃぁー、がんばり、ましょー……」
おー、と小さく手を上げて、一人、気合を入れ直す澪。
ふわり、零の周囲から甘い香りが漂う。
それは蟲を呼ぶには充分な、柔らかな花の香り。蜜の気配。
風に乗り広く漂うそれは、誘導する為の、第一の餌。

今回の澪の役目は、そうなのだ。

「けれどもー……そう簡単にはー……食べられませんよー」
耳を澄ませずとも音が聞こえる。
ウォンウォンと風を切る、不気味で巨大な鳴り声が。

空を見る。
ああ、灰色の空を覆う雲さえ、覆いつくす嵐が見える。


●一番手、寧宮・澪(ねいみや・みお)

「むーしーさーん、こーちらぁー……てーのなーる……ほーうへー……」
ぽふ、ぽふ、とゆるく手を鳴らしながら、澪は甘い香りを風に乗せ、自分の立つ迷宮の入り口へと集束させて行く。
それだけで、横へと広がっていた蟲の群れが、集束していく。
もちろん蟲がそんな小さな手の音など聞いている筈は無い。
引き寄せられているのは甘い香りであり、その出処。つまりは聴覚では無く嗅覚、いいやもっと単純な、食の直感だけが理由だろう。
で、あれば。
どうどうごうごうぞうぞうと、それらはたった一人の女に、億を容易く超える飢餓を向けて荒れ狂う。
どうどうごうごうぞうぞうと、風を切る音は歪んで歪んで、最早濁流にしかなっていない。
無意識に、身体が動こうとする。この場を離脱しろと羽が動く。
本能が言うのだ。
喰われる、逃げろ、と。
けれど
「……まだ、ダメ―……ですー……」
零は自身の翼を握る。
逃げる訳には行かないのだ。
接触するまで、引き寄せなければ。多くの蟲が迷宮へと入らない。
手が震える。それでも見据える。
ああ、もしかしたら。羽を持たない者の見る土砂崩れという災害は、こういう物なのかもしれない。
理不尽の接触まで、5秒
4 3 2 

バチバチと音がする。
柔い肌へと蟲の硬い皮膚がぶつかる音だ。
澪は羽ばたく。蟲がぶつかり上手くは飛べない。
溺れた羽蟻が藻掻くが如く、それでも何処か上へと向けて、足掻く。羽ばたく。
背後に感じる蟲の流れは、間違いなく迷宮へと続いている。
ミチッ ブツッ 音がする。
痛みはない。あるいはこの音が、痛みなのかもしれない。
わからない。ただ、ここに居てはいけない事だけは、分かる。容易く解る。
故に足掻く。足掻く。足掻いて、登る。
甘く優しい眠りへと導く匂いを防具に、漸く美しくもない空へと出られた頃には、彼女の羽も、肌も、ぼろぼろだった。
遠く、蟲よりも高い位置まで飛んで、息を吐く。

迷宮の上を覆っている蟲のせいで、中の様子は見えないが、きっと、上手くやっている。
「…………行かなくちゃ……ですねー……」
周囲の蟲を落としながら、彼女は羽ばたく。
向かうは、迷宮から出て来るであろう二人と落ち合う場所。
村から少し離れた場所で、傷を癒して次の村へと向かうのだ。

「……待ってます。待って、ますからー……ねー……?」
迷宮の奥、作戦を遂行しているであろう二人の無事を祈りながら、澪は先ず、自身の怪我を癒す事へと専念する為に、この場の戦線を離脱するのだった。


●二番手、大紋・狩人(だいもん・かろうど)

狩人は走る。獲物を追い詰めるための脚は今、獲物から逃げる為に全力を賭している。
ごうごうどうどう音がする。僅か奥から、意志持つ土砂が雪崩来る。
ガラスで出来た迷宮を跳び荒ぶ、幾重にも重なるその音は地鳴りと言って過言では無い。

狩人は逃げる。獲物に喰われまいと逃げる。
猟をされているのは自分か。纏わりつく蟲を身を捩じりながら掃い、走る。
否、否!
迷宮に敷き詰められた骨灰が、踏み込む度に宙へ舞う。
後追う蟲がさらに巻き上げ、可燃性の灰は地へ落ちず、迷宮全てに満ちていく。

息が途切れそうだ。灰が呼吸の邪魔をする。
ぜぃと息を吸う為に、数歩遅れた。それだけで、蟲が再び襲い来る。ブチ、ミチ、羽音が満ちる迷宮に、別な異音が聞こえる気がした。
ぶちっ みちち きちちと聞こえるそれは、耳が拾った音ではなくて。
ぶち、みぢぢ それは間違いなく、身体が訴える痛みの音だ。
引き千切られる。嚙み千切られる。擦切る様に、肉が小さな口の数だけ、抉られていく。
筋繊維が伸びて千切れる衝撃が、痛みでは無く音として、頭を叩く。
ブチブチと音がする。ミチミチと音がする。
食われる。
喰われている。
「ぁ、あっあ”ああ”あ”あ!!」
叫ぶ。恐怖と怒気とを孕んだ声を。
絶望の叫びか?

否、否。

戦士はそれを、吼え立て己の力へと変える。

負けてたまるか、止まってたまるか!食わせてなど!やるものか!!
元より負傷など、覚悟の上だ!来い!まだ!この足は、僕は、誇りは未だ!生きている!!

食まれながらも、走る。走る。
松明を持ったナイが立つ、出口が見える。
振り返る。
後ろに、朦々と白が舞い踊る。
酸素良し。
可燃良し。

出口へと駆けながら、叫ぶ。

頷く気配。
投げ込まれる松明が、自分の背後で蟲とぶつかる。
炎が飛び、火が、走る。

走る。

地鳴りよりも尚揺れる、轟音が狩人の身体を吹き飛ばす。
狩られるのは、僕か?
否。
獲物を多く仕留める為の、餌となっただけの事。

粉塵爆発。可燃性の粉塵を、充分な酸素と共に宙へと舞わせ爆発させる。
ユーベルコードでさえ耐えうる迷宮に、ヒビが入る暴力だ。

数十メートル吹き飛び転がったその先で、咳き込みながら起き上がる。
迷宮に居たほぼ全ての蟲を燃やした。その筈だ。

けれどその炎さえ掻き消す様に、蟲はぞうぞうと再び迷宮へと押し寄せる。
「は、くっそ、どのくらい減ったかさえ、分かりやしない!」
ごほごほと噎せながら、立ち上がる。
迫る蟲へと歩みを進めるナイの背中を見ながら、狩人は、それでも離れるしかないんだと自分に言い聞かせて、歩こうと脚を叩いた。
自分に出来る事は、今はここを離脱する以外に無いのだと。

分かっていて、それでも、蟲へと歩く幼い姿を、追おうとしてしまう。
嫌だ。喰われるのを見るのは嫌だと、ドウドウ心臓が五月蠅くて適わない。

くるり、ナイが振り返る。
遠く、硝子の先で目が合った。
走ろうとする足を、意志ある瞳が止めて、頷く。
『心配、ないです。私は、大丈夫、です。』
声が聞こえずとも、口は読めた。そして、揺らがぬ瞳も。

ナイは背を向け、また歩き出す。
その背を今度は、戦士の意地も止めようとはしない。
出来ない。

小さく、深く、息を吐く。

駆けだす。この戦線を、離脱しよう。


●三番手、ナイ・デス

音がする。
どうどうごうごうぞうぞうと、有象無象の蟲どもが、蠢き犇めく音がする。
灰と化した蟲の死骸で視界は狭い。
けれどもナイは前を見る。
近付く音を聞きながら、両の足で迷宮を踏みしめ力を溜める。

発光。
体内に埋め込まれた宝石が光を増幅し、爆発的な光がガラス走り迷宮全体へと広がってゆく。
乱反射する光は七色に分かれ、また一つに戻り、さらに反射しまた分かれ、合成を繰り返す。
あまりにも複雑な色の濁流が、蟲を分解し吸収し、そうしてまた分解する。
圧倒的な力の差による、殲滅。
迷宮が光で埋まる。
それは外にまで溢れ、迷宮の上を走る蟲すらも灰へと還す。
三度目の殲滅。
ここに闇は無い。全ては生まれながらの希望が包む。

けれど、光はやがて落ちるのだ。

どう どう 
ごう ごう
ぞうぞう

と、蟲は湧く。
どこからともなく湧き続ける。
無限かと思われる程の命の群れは、今尚空を覆い続ける。
仲間の身体が影を造る。光の届かぬ影を縫い、蟲は堂々行進をする。
空気を揺らし、迷宮を震わせ、数匹はやがて轟々轟く群となる。
増々光を埋め尽くし、蟲は命を食む為に進む。
餌を求める音がする。
ギチチキチチと鈍い歯車が出す様な、空腹の音が木霊する。

止まらぬ飢餓はやがて、彼の元へと辿り着く。
柔らかな肌に、葉を磨り潰す牙を立て、みちりみちりと食んでいく。
最初は小さな点だった。
直ぐに消える塵だった。
けれども、塵は積もれば山と化す物だ。

怖くはないか、と問われれば、そんなものは怖いに決まっている。
末端から抉られ食われ死んで無となる感覚を、誰が心地良いと、思うものか。

痛みはないか、と問われるならば、そんなもの、あるに決まっているのだ。

けれど彼は光り続ける。
だって、そうすると決めたのだ。
勇気を持って。決意でもって。

人を助ける為の身代わり、生け贄

否、否!

人を助ける勇者として、ここに立つと決めたのだ。

だからこそ、激痛などに屈しはしない。
気合で立つ。この背に護れる者が居るのなら。

肉が削がれる音がする。熱湯を浴び続ける様な痛みが襲う。
けれど意識が途切れるまで、彼は光る事を止めはしない。
一匹でも多く、少しでも長く。

光はやがて肉となり、果ては白い骨と化す。
そうしてうぞうぞと群がる蟲は、喰う場所の無くなった物を放置して、迷宮の外へと雪崩始める。

行進は、尚止まらない。

蟲が過ぎ去り半刻、三人は集合しボロボロのまま再び歩み出す。

空を覆う蟲の群れは、けれど確かに、僅か空が見えるまで、減っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ルーク・テオフィルス
【炎心】
アドリブ・連携歓迎

理不尽が当たり前の世界なんて知らない
知りたくもない
何と言おうと助けるぞ
相手が虫なら僕にだってできることがあるはずだ
【光を運ぶもの】で赤く燃える炎を創造して
共に闘うものに、村の人に
絶対の力と守りを
現れた想像よりも遥かに大きい塊…大群には怯みそうになるけれど
…でも大丈夫
大丈夫だ
だって、ジークは負けない
アイツが大丈夫と言ったから!

虫が光によってくるのならルークの炎を赤々と照らしてやろう
もっと大きくもっと赤く
人に希望を与えるような優しい光を
敵を飲み込む強い炎を
想像しろ!
炎の存在感で虫を誘い燃やし尽くす
それがなんであれ生き物が燃える臭いに鼻を覆いたくなるけれど
守るって決めたんだ


ジークムンド・コンラッド
【炎心】
アドリブ・連携◎

ホントなら姫さんには後ろに下がって避難の手伝いにまわって欲しいところだが
アンタが言い出したらききゃしないのもわかってる
いざとなったら肉盾になる事も視野に入れ
大丈夫、ちゃんと蹴散らしてやりますから
アンタは村の連中が不安にならないように
堂々としててください

姫さんの炎に力を受け武器をとる
大きく振り回してぶつけるのは【唯の暴力】
斬るより凪ぎ払い
風圧で地面に叩きつける
数が膨大なら巻き込む風を竜巻の様に
殺気を込めて恐怖を与えれりゃ御の字だ
怪我をしようが悲鳴をあげるような無様な真似はしねぇ
すぐそこの姫さんを不安にさせないように
獰猛な笑みで迎え撃つ
俺は負けねえよ
アンタの守りがあるからな


尾守・夜野
「…蟲だと?…ふざけるな
田畑を食い荒らすだけでなく人までも食い物とするのか…!!

蟲に食わせる物などねぇ!」

とりもち、砂糖を混ぜたこの世界の土を元に【粘着、誘惑、暗闇】特性を備えたハエトリグサ、ウツボカズラ、モウセンゴケ等を生やそう

「そちらがこちらを食べるつもりなら…徹底抗戦だ」
むしろこちら(植物)が食べる

生えた側から元に戻し種にし更にそこから【苦離捌】で実際の植物に
とりあえず繁殖力強化で撒き…
「はや?!いや確かに強化したけど」
めっちゃ繁ってる…
これで射程は解決
後はスレイに乗ってこれをあちこちに仕掛けまくる
【誘き寄せ・誘惑・範囲攻撃・騎乗・ダッシュ・空中戦】

この世界で見る事が早々ない緑が沢山


ダビング・レコーズ
当機に課せられた最終命令はオブリビオンの殲滅
究極的には人類の守護と解釈しています
いかなる状況下であれ、この命令を遂行する事が当機の存在意義です
これで返答になっているでしょうか
不躾であったならば謝罪します
もし当機に本来の意味での心理があれば、より適切な返答が出来ていたのかも知れません

【POW・全歓迎】

三番目の村へ急行
蟲の侵攻を阻止します
当機は航空戦力として空対地攻撃を開始
低空から主兵装セントルイスの制圧射撃にて敵群をなぎ払います

やがて推進剤が尽き弾薬も撃ち切る頃、友軍が斃れ逝く中で当機もまた蟲の波に呑まれるのでしょう
しかしプラズマバーストを発動
「まだ終わらない」
最期に壊れ、止まるその瞬間まで。


花邨・八千代
えー、バルサン焚こうぜバルサン。
虫ってちっさすぎて俺不向きなんだよなァ。

まァ喧嘩で相手は選ばんスタンスだ、やるか。
終わったらスッフィーに飯作ってもらお。

◆POW判定
武器は南天、血を吸わせてでっけー「ハエ叩き」に変化させんぞ。
ある意味武器だろコレも、おっけーおっけー。

あとは簡単、ぶっ飛んでってぶっ叩くだけだ。
「怪力」の大盤振る舞いだぜ、「空中戦」でぶっ飛びながら「なぎ払い」。
「2回攻撃」で広範囲巻き込みつつ蝗を叩き潰してくぞ。
攻撃は「第六感」で避けつつ出来るだけ当たりたくねーが、喰らったら「カウンター」だ。

来いよ、来いよ!
鬼に虫が勝てると思うんじゃねーぞ!
全部纏めて佃煮にしたらァ!!!



●戦闘

「開始します」
機械は空を駆ける。技術の粋は、鋼鉄でさえ空へと招く。
ごうごうと音を立てるエンジンに呼応するかの様に、蟲が目の前でをんをんと鳴いている。
それは小さな羽が幾重も空を切っている事実があるだけで、決してその生き物の警戒音でも、まして怒りの声でも無い。
彼等は、進む。そこに餌がある限り。本能で、進む。遺伝子のプログラミングに従って。
「敵の進行、視認。機能、オールグリーン。これより殲滅へと移行する」
人であれば目と呼べる、ライトが青く輝いた。

溜まる蟲へと、速射モードのセントルイスが閃光を連続で放つ。
荷電粒子による制圧は、そこに灰すら残さない。
けれど彼が持つセントルイスは大型と言えどライフル。一掃には遠く及ばぬ雷光だ。
縦へ、横へ、上へ、下へ。焼き払われる事から逃れた蟲は、ダビングへと纏わりつく。熱を感じる。これは食べ物か。
齧りつく。貪り付く。歯が立たずとも、関係は無い。
群がり、死ねば次が群がる。
僅かな欠けを重ねて、装甲から異音が走る。
関節へと群がる蟲は、的確に薄い装甲を削り、削り、熱に焼かれ尚喰らい付く。

それでも尚、ダビングは飛び続け、撃ち続ける。
やがて燃料が切れ頃、ダビングは重力に逆らう術を失い落ちて行く。
ギシギシと悲鳴を上げる装甲を食い破ろうと、蟲がその後を追う。
まるで網にかかった魚の群れだ。
ぐしゃぐしゃと、がしゃがしゃと、命が群れる。命を食もうと、終わらせようと。

「まだ、終わらない」

『EMフィールド反転』
外へと流れていたエネルギーを、切り替える。
内へ、内へ。
粒子が揺れる。結合と分裂を繰り返す、それはまるで原子炉だ。
『リアクター出力、強制解放』
閃光。次ぐ衝撃、遅れ届く爆発音。
群がっていた蟲は、灰も残らず荷電粒子の光へ消える。
半径62mの内に居た蟲は、衝撃でバラバラとその命ごと落ちていく。

けれど、ダビングもまた無事ではない。
燃料が切れ、装甲が数千の力で僅かずつ歪み、自由落下を殺す術は無い。

問題は無い。計算では、このまま地面へと落ちたとして、壊れはしない。
次の戦闘で不利にはなれど、戦えない損傷ではない。
前方を映し出すカメラが、再び軌道する。
キュインと小さな音と共に確認したその先に広がるのは、緑。

いつの間にか展開された植物の群れ。
他の猟兵が呼び出した、蟲を喰らうだけの無力な生物。
「……これは」
環境の変化としてセーフなのか?そんな疑問を出力する前に、ダビングは動く草のクッションへと突っ込んだ。

「……」『機体、外殻、内部、合わせ損傷20% エネルギーが回復し次第、行動可能。これより修復を開始します。』

蟲が喰らう事は無い緑の外壁に囲まれて、ダビングは仰向けのまま空を見る。
曇天、未だ晴れず。

けれど雲は、レンズにその姿を収めていた。


●信頼

「理不尽だ」
村の者が作った作物を食い荒らし進む蟲は、耳慣れぬ警報にも似たヲンヲンと喧しい羽音で飛び回る。
今も尚、空を覆う程の飢餓の群れ。
どのくらい減ったのだろうか。分からない。
どれだけ減らせるのだろうか。分からない。
けれど
「それが当たり前の世界なんて、僕は知らない」
知りたくもない。
「だから、僕は戦うぞ。いいか、僕は、引かない!」
震えを奮え。言葉で変えろ。
僅か引きそうになった足を前に踏み出し、皇子は仁王で前に立つ。
戦うのだと、決めたのだから。

「姫さん、無茶はせんといてくださいよ?」
獣の耳を揺らしながら、従者はその先へ立つ。
「無茶なもんか。だってジークが居るだろう?」
信頼の目。
「お前は負けない。絶対に」
手が背へと触れ、グレイヴへと炎が灯る。
「……なるほど」
ふむ、と頷いてグレイブをくるくると回す。準備運動。
「そいつは確かに、大丈夫ですね。」
いざとなれば身を盾にする事すら厭わない。けれど従者はそんな事を決して悟られぬ様、強かに笑う。
まぁそもそも、そんな事にさせはしない。

凶暴な笑みに応える様に、信頼の炎は猛る。
全てを飲み込む程の炎が、赤く、赤く、燃え盛る。
もっと大きく、もっと赤く。

強い光と熱に、単純な蟲の群れは誘われる。
ぞうぞうと質量を持った嵐が、さらに密を上げ襲い来る。
ジークムンドは怯まない。怯む要素は何処にもない。
何故なら此処に、ルークの炎があるのだから。

大きく武器を旋回させ、広範囲へと炎と衝撃を叩きつける。
薙ぎ払われごっそりと空いた穴は、けれどすぐに埋まるだろう。
それがどうした。
炎は強くなる。

これは光だ。
希望の陽だ。
敵を飲み込む最強の焔だ。

ジークムンドの周囲に、竜巻が如き暴力が巻き起こる。
蟲が歯を鳴らし肉を喰らう。
それを炎が焼き払う。
何度も、幾度も、赤は猛る。
肉を抉られ引き千切られ、それでも無様を晒す事は無い。
そんな事をすれば蟲が軋んで死に逝く様に、後ろで吐きそうになってる顔が、さらに不安で歪んでしまう。

安心しろと、火の中で笑う。
少なくとも、俺は負けない。
「負ける訳が無いんだよ。アンタの守りがあるんだからな。」
独り言は羽音に飲まれ、けれど思いが呑まれる事は無い。

ルークが、光の矢を放つ。
「ああ!そうだとも!」
矢は続く。途切れる事を己が赦さない。
「僕は、守るんだ!」
お前も、あの村人達も、この理不尽な世界から。

やがて、嵐は過ぎる。
蟲に抉られたのはお互いにそうだ。疲労は強い。
けれど、イメージは未だ揺らがない。
息切れしながら、けれど休む事を嫌がる君主に、従者は兄貴面で手を貸し進む。

決戦まで、あと少し。



●防衛線

「ここが最終防衛地点って事で合ってんだよな?」
夜野により、天高くわっさわっさと作られていくバリケード。
食虫植物製。沢山あるお口がキュート。
キュートか?
「おう。そうだった気がするぜェ!」
元気に応えた鬼は、そう言いながらバットよろしく巨大ハエ叩きを振り回す。

城壁の様に聳え立つ獰猛な花の群れ。これは彼のユーベルコードであるハーヴェストとクリエイトにより制作、大量繁殖されて造られている物である。

ちなみにこれ、放っておくとこのまま大量に繁殖するからむしろ害になるんだけど、後で全部燃やすからいいよね!!
いいよ!

「だいたい、なんだよ田畑を食うだけじゃなく、人まで食い物にするって……許せるもんじゃねぇ……っ」
強く手に力を込め、夜野は種を蒔く。
にょっきにょっき。
「こちらを食べるつもりだと言うなら、いいだろう。徹底抗戦だ。」
むしろこちらが食べ尽くしてくれる。
にょっきにょっき。
生い茂る、蟲さん食べ食べ植物。
「……なぁ、お前それ、育てすぎじゃね?」
首を傾げる八千代。
頷く夜野。
「俺もちょっとそう思った。」
けど育ってるもんは仕方ない。
ちょっと繁殖力強くなりすぎたなこれ。
怒りに任せすぎたな。
そんな夜野に、ふんすっと胸を張りながら鬼が言う。
「いいか、あいつら後で食うんだ。だからちゃんと残しておけよなァ!」
二度見。
「えっ!?嘘だろ!?お前あれ食う気なのか!?」
「おうよ、佃煮!いい案だろ!」
聞こえた羽音に駆けだしながら、八千代はガハハとサメの様に笑う。
その背に届かぬ手を伸ばしながら、夜野は叫んだ。
「なぁ!おい!!」
聞けよ!
「おぉい!!オブリビオンって灰になるんじゃなかったっけ!!?」
一瞬の沈黙。
「しーーらねェーーー!!!!」

鬼は嵐へ向かって跳ぶ。
中空を蹴り飛ばし、弾丸の様に上へと駆ける。
ごうごう唸る嵐に向かって、ハエ叩きの南天一閃。
怪力で抉られた空へと頭から突っ込み尚止まらない。
地面を踏みしめる様に蟲を踏みしめ、走る。
髪が食われる。肌が食われる。
痛くはない。鬼が躊躇をするものか。
大きく開いた口へと入り込む、蟲の頭を噛み砕いて餓鬼は笑う。
「来いよ、来いよ!てめェら虫ごとき、鬼に勝てるとおもうなよォ!」
喰らえ、食らえ、夜叉が通るぞ!
地の代わりにされた蟲が落ちる。
叩き壊された命が落ちる。
落ちた先で緑に食われ、消えていく。
おいしいか?
否、否。
関係などあるものか。
食える物は喰うのだ全て。

茂る緑は、地を走る蟲を誘き寄せ、絡め、生け捕り、喰らう。
喰らう、喰らう。収穫祭。
その地で嘶く神の馬。
嵐を物ともせず、8本の脚で蟲を踏み絞め進む。
虫の羽音になど後れは取らぬ、戦馬の蹄鉄を聞くがいい。
「スレイ!無茶はするなよ!ここで終わりじゃないからな!」
愛馬に声をかけながら、夜野は剣を振るい蟲を切る。
縦横無尽の斬撃、捕食、蹄の前に、小さな命は羽を揺する。

オォン!ォオオ!!

「すんなり通れると思うなよォ!」
八千代と夜野に行く手を塞がれ、蟲はぐるぐると渦を巻く。
空腹が、癒えない。癒えない。
戻ろうにも、戻ったところで餌は無い。

ウォンウォンと蟲は鳴く。
腹が減ったとぐずる子供の様に。

けれど餌は何処にもない。
目の前の敵を殺さなければ、餌は無い。

自分たちでは殺せない。
この空腹では、殺せない。



●足掻きの末

おん をぉん

蟲が渦巻く。
蟲が蟲の後を追い、前の蟲を喰らって進む。

をん をぉん

おなかがへった おなかがへった
ころさなければ たおさなければ

ばりばり喰らう蟲の群れ。
隣を喰らう蟲の群れ。

「あいつら……共食いして、やがるのか……?」

夜野が呟く。

ここに来て、単純な食の本能しか持たない蟲が、空腹以外の意志を持つ。

喰らった力をその身に宿し、群は統率を得た軍となる。

広範囲に居た蟲が、共に喰らい、まとまり、形を成した。
100を1へと凝縮させた最終形態。
100を喰らう必要が無くなった、1を殺すか、生かすためだけの、最後の手段。

除け、殺せ、食わせろ。
倒せ。
全てを食わせろ。

戦慄く群れが、集まりつつある猟兵を、確かに見据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『暴食飛蝗の群れ』

POW   :    選択進化
戦闘中に食べた【肉】の量と質に応じて【各個体が肉を喰らう為の身体へと進化して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飢餓
戦闘中に食べた【動植物】の量と質に応じて【少なければ少ない程に攻撃性を増して凶暴化】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    大繁殖
戦闘中に食べた【動物の肉や植物】の量と質に応じて【群れの個体数が飛躍的に増殖して】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


蟲が鳴く。それは間違いなく警戒音だ。
命同士の意志疎通。
をぅおぉん オォン

蟲はやがて二手に分かれる。
目の前の敵を殺す為の、食う事を目的とした三分の二。

ここに来て、逃走を始めた三分の一。

猟兵を振り返りもせず、相手にもせず、三分の一は最短距離を最も速い速度で駆けて行く。
その時速凡そ80km

目的など分かって居る。
逃げている蟲の意志はただ一つ。

領主へ、伝えるのだ。

仲間を喰らってでも逃げ切り、伝えるのだ。
この領の危機を。

おんおぉん
蟲は壁となり立ちはだかる。
食わせろ。お前たちを食わせろと。

1匹も、逃すな。

意志は同じだ。どちらの意志も。

猟兵は武器を構える。
蟲に食われ擦れる肉が、熱に近い痛みを歌う。
身体は上手く動くだろうか?
咆哮は未だ轟くだろうか?
意志は、まだ健在か?

1匹逃せば、領主へと伝わってしまうだろう。

殺せ。逃がすな。
小さな命、ひとつを逃すな。

武器を取れ。敵は害悪。過去の虚像。

ここに残るは猟兵のみ。
さぁ、全力を。

殲滅の時間だ。
イージー・ブロークンハート
あっ無理。群れは嵐か亡霊のようだ。ほんと無理。心が挫けそう。挫けた。
だがそれ以上に心が挫ける。無理。無理だ。
「マジで勘弁してくれよ…!」
誰かがこういうのに食い荒らされる痛みなど想像するだけで心が挫ける。
畜生。
左心房の玻璃へ囁く。どうなっても戦えるよう強化する。
つづき硝子の剣で自らの左手を貫く。剣に血を与え、そのまま剣を半分にへし折って、砕く。
きらめく破片は剣に戻らず宙を舞う。範囲攻撃を最初から入れる。
破片への命令は単純。
一匹も逃すな。
相手が虫で助かった。破片でも十分、切り落とせる。
食うなら食ってみせろ、お前たちが肉を求め邪魔と砕く、その破片がお前たちを屠る。
(アドリブ・共闘・ピンチ可能です)



●it is not easy

ウォンををんと大地を揺るがす音害に混じり、パリン。何かが砕ける音がした。

薄く硬く脆い何かが、儚く綺麗に砕ける細やかな振動が鼓膜を揺らした。気がした。
「無理だよぉぉおぉ!!なんかめっちゃ強そうになってるもんんんん!!ほら見て!違うわ聞いて!?すっごい警戒音!オレあれどっかで聞いた事あると思ったけどモヒカンが乗ってたバイクの音だよアレ!!虫が出して良い音だと思う!?オレは思わなぁーーい!!!」
元気いっぱい絶望いっぱい。イージー・ブロークンハートのハートはそりゃもう簡単に砕けていた。名が体を語っていてえらい。
ちら、と森を見る。

まだきっと、逃げている村人達が近くに居るんだ。
「……なぁ、おい、マジで勘弁してくれよ……お前らに食われたら痛いじゃん……痛いだろ絶対……痛いの嫌なんだよこちらとら?正義のヒーローとか絶対なれないタイプなんだよオレ?どんだけ心挫けやすいと思ってんの?正解はなぁ!もう現時点で挫けまくってるぐらいだよぉ!!!」

左心房の瑠璃へ囁く。なぁ、おい。どうなっても動いていろよ。
次いで左掌を貫いた。透明な刃が赤く塗れ、そいつを無理矢理へし折り砕く。

パリン

この場に不釣り合いな程、涼やかな音が静かに響く。
水滴が生み出す王冠にも似た煌きは、波紋を描くより早く濁流へと飲まれて消える。
爆音が耳を貫く。前が見えない。五感は在って無きが物。
うるせえうるせえうるせえなあ!!!!
ガリガリガリガリガリと、バリバリブヂブヂパツバツと
「うるせえいてえ辛ぇにも程が有んだろドアホぅが!!!!」
喰われながらガラスを振るう。
透明な膜が周囲を幾重に包む。されど膜。簡単に喰われ千切られ消えるそれを、蟲は肉の障害として排除する。
喰らう。喰らう。
けれど何故か喰らい尽くせず、膜は在る。

蟲に、人程の知性が有れば気が付いただろうか。
喰われた膜が、仲間の腹を裂いては出て来るその様に。

「一匹も、逃がさねぇ。この先には、行かせねえ。」

だってさぁ、想像だけで泣きそうなんだ。心が砕けて堪らねぇんだ。

「誰かがさぁ、お前らに泣きながら食われる未来なんて、オレが砕けるとか挫けるとか折れるとか、どうでも良いくらい阻止してえんだよ。いやどうでもはよくないけど!」
だから食えよ。
喰えるもんなら食ってみろよ。

オレを喰らうのに邪魔だと砕いた、その破片がお前を屠る。

「いやでもやっぱ数多いわ!!誰か助けて!体当たり強すぎうっそぉ!?むりむり挫ける心が割れる!パリーン!ああーーー!ほら今砕けたもうやだ誰かーーーーー!!!」

成功 🔵​🔵​🔴​

フルム・コラルト
【WIZ】アドリブ・連携歓迎

『恐怖に震えているであろう村人と、言葉を理解してるかも分からない大群へ向けてへの言葉』

確かに数人程度じゃ足りない。かなわない、絶望を知る。でも、みんな願う事は一緒なの。生きたいの。明日を見たいの。だから、見るの。目の前の現実から、わたし達から目をそらさずに。これが、絶無の希望の灯だとっ!今踏み出すのが…未来への一歩だと知って!

避難は、あの子達がやり遂げたの。だから、今度は…わたしの番。これより先、一匹も通すもんか!村も!人も!何も食わせないっ!だから、お前達は、今ここで…朽ちていけっ!

一言一句に想いの丈を、怒りを、滅殺の意思を、全魔力を込めて詠唱してUCを解き放つ。



●灯せ、灯せ

絶望が、迫って来る。
どうどうぞうぞうごうごうと迫る大群に、闇の救済者は恐怖を堪えるだけで精一杯だった。
それが突然共食いを始め、そうして何処かへと帰ろうとする。
逃げたのか、と問う声に誰かが言った。
 ちがう、あれは領主へ伝えに行ったんだ、と。
そんな、と動揺が走る。ざわざわと揺れる。
「そんな、それじゃあ……それじゃあもうどうしようもないじゃないか!」
闇の救済者である誰かが叫んだ。
「あんな災害、こんな数で、全部を止められるもんか!」
視界が歪むまま前を指す。その指先は震えて止まない。
領主に伝われば追撃が来る。もっと大きな数かもしれない。
もっと強いやつらかもしれない。
せっかく逃げ切ったのに、光が、見えたのに。
「無理だ!死ぬしかないんだ!くっそ、俺達はただ、生きていたいだけなのに!」
武器を希望と共に投げ出そうとしたその手を、幼さの残る手が止める。

「棄てないで」

それは祈りにも似た願いだ。

「確かに、数人じゃ足りない。かなわない。絶望する。」
力が無い者の集いであれば、尚更、そうだ。
率いる者が弱ければ、群れは喰らわれていくしかないのだから。
「でも、みんな願うことは一緒なの。」
強者であれ、弱者であれ。
「生きたいの。明日を見たいの。」
拳を握り、高く、掲げる。
「だから、見るの、みんなで!」
率いる者は、吼える。
希望の火を灯せと、怯え縮まる命へ振り立てる。
「わたし達から、目を、そらさずに!」
見ていてくれと、狼は吠える。
絶対に、敗けないからと。
「これが、絶無の灯だとっ!今みんなで踏み出すのが……」
大きく、強く、前へと進む。
「未来への一歩だと知って!」
ぅーーぅううるるる、るおおおぉおん!!
遠吠えは響く。蟲の羽音を切裂く程の強さでもって。
同時に、狼は駆ける。

「避難は、あの子達がやり遂げたの!」
小さな狼達は、戦えない者達を確かに送り届けた。今はきっと、向こうの指示に従って、無力を支えている。
「だから、今度は……わたしの番!」
銃を放つ。蟲が避ける。躊躇なくそのまま走り、ホークアックスで叩き潰す様にして敵を墜とす。
「ここから先、一匹も通すもんか!」
誓い。宣言。あるいは、鼓舞を。
「村も!人も!何も食わせないっ!だから!」
大きく後ろへと跳び、闇の救済者達の前へと再び立ちはだかる。
その背は、小さい。けれど、兵だ。
怒りを湛えた覇気を纏った、命を奪い、命を護る。誇りある者の背中だ。
「お前達は、今ここで!朽ちていけ!!」
空気が揺れる。滅殺の意志が熱となる。

「演目の果て、灰香る軍の庭!」
熱は赤い炎となり、彼女の周囲へと次々に灯る。
「踊れ、踊れ、踊れ!揺らめく熱と共に!」
思いで震える彼女の声に呼応して、巡る炎は青へと変わる。
「境界を超え!那由他の瞬きを知らしめよ!!」
その手を大きく前へと振り出した瞬間、凡そ200もの火焔の矢が、撃ち出された。

核の炉を満たす青い炎が、向かい来る蟲を消滅させる。
灰すら残らず、音すら無く、脅威を容易く屠っていく。
呆けた様に見ていた者達が、強さに沸き立った。
「す、すごいぞ!見ろ、あの光を!蟲をあんなに容易く!」
「勝てる、のか?」
ヲォン、るぉおん!蟲の音をかき消し狼は吼える。
「そう、勝つの!みんなで!」
逃げる蟲すら追う焔を、それ以上は見ずに武器を構える。
蟲はまだ、来るのだから。
「お、おお!」
その姿に感化され、人々は武器を構え直す。
もう逃げる様な者はいない。
絶望に震える者も居ない。
「倒すぞ!俺達だって、負け続ける訳にはいかない!」
「おお!」
「おぉ!おお!!」
遠吠えに似た気合の声に頷いて、フルムは前に踏み出した。

後ろはもう、大丈夫。

大成功 🔵​🔵​🔵​

尾守・夜野
「っち!セルフで蟲毒を行うたぁ蟲の癖に知恵が回る…ってか?

だがまぁ数で来られたら困ったものを…自ら数を減らしてくれるってなら歓迎だな」
軽口を叩きつつ森?の中に潜もうか
あちこち飛び飛びに作った森?を起点に飛び回り切り刻み回ろう
普段であれば足が致命的なダメージを受けるが…
植物ってのは生命体って事でな
【生命力吸収】が常時できるのと変わらんよ
つまり…回復速度のが上回るのさ!
「蟲さんこちら。手のなる方へ」
軽く挑発しながら食虫植物の森を飛び回り【誘き寄せ】植物に食われるならそのままに
植物を喰らい飢えを満たすなら俺が倒しで数を減らしていこうか



●刈り取り

夜野は、所々森の様に群生する食虫植物の中に潜みながら、襲い来る強化された蟲を殲滅させる準備をしていた。
大群がやって来るだろうと思っていた。

けれど、その思惑に反して蟲はさらに分かれて行く。
一人の力では殺し切られぬ様に、戦力を分散させたのだ。

舌打ち。
「……セルフで孤独を行うなんざ、蟲の癖に知恵が回る、ってか?」
をんをんと羽音を鳴らし向かってくる群れに、鎌を向けた。
「だが、まぁ。数で来られたら少うし困った所だったが……自ら数を減らしてくれたってんなら、歓迎すべきだ。」
ユーベルコードが起こる。

黒い風が、吹いた。

疾風。そう呼ぶに相応しい黒が駆ける。
触れれば塵へと返す致死の一撃が、羽音を立てる最も近い群れを撫でては植物の中へと消えていく。
「蟲さんこちら。手の鳴る方へ。」
そんな言葉、意味は無い。けれど音は、呼吸は、意味を成す。
其処に餌があるのだと、蟲は再び襲い来る。
どうどうと、風が吹く。
その度群れは、その黒い鎌の、或は命を喰らう植物の、力によって鎮められる。

風が吹く度、地面が抉られていく。
ユーベルコードの速さに付いていけなかった、夜野の肉が落ちる。
蟲が喰らう。それ以上を殺す。
「普段だと、足が致命的なダメージを受けるんだが……」
踏みしめた周囲の植物を枯らしながら、夜野の脚は肉を再び形成する。
「こいつらのおかげで、時間があるんでな!その大量にある首、残らず寄越しな!」
命の気配で誘き寄せ、かかった獲物の数を確実に減らす。

無限かと思われた蟲の数は、もうただの塊だ。
終わりは見えている。

黒い風は吹き荒ぶ。
「逃げたやつらを追いかけてる連中、上手く行ってっかなぁ。」
まぁ、オレはオレの殲滅をするだけだと、瓦解するが故に追いかける事は出来なかった足の肉を溢し、走り続ける。

蟲が消え去るまでか、あるいは、この虫を喰らう森が、枯れ果てるまで。

成功 🔵​🔵​🔴​

花邨・八千代
まっっっずい!!!
え、ビビるくらいまずい……食材の才能ねぇわこいつら…。
というかめっちゃ血ィ出てんだけどやべー、余計腹減る……。

つっても終わらせなきゃ帰れねー訳だし、割りに合わん仕事よなァ。
まー結局猟兵なんてのはそんなもんか。
なァ、そうだろご同輩さんよ。

折角だし楽しんで行こうぜ、猟兵ども!
一匹残らず磨り潰して二度と甦れねェようにしてやる!

【雷声】でがなって喚いて、溢れる血は南天へ。
相手どるのはでかい方だ、固まってくれんならやりやすい。
南天を大太刀に変化させ片っ端からなぎ払う!

切るっつーより叩き潰すが正しいか。
結局やることは変わらねーよ、踏んで叩いて噛み潰して。
派手に暴れてやるだけさ、俺は。


空廼・柩
蟲の癖に随分頭が回る
いや、こう言っちゃ蟲に失礼か
意外と頭良いし…まあ良いや
今は兎に角害虫駆除に勤しまないと
行く手を阻むなら完膚無き迄に叩き潰すだけだ

眼鏡を外し拷問具を手に取る
【咎力封じ】で多少なりとも敵の動きを封じつつ
出来るだけ多くの個体が集中している地点を拷問具で叩く
仕留めた感触、匂いを感じたら即座に標的を次へ移そう
凶暴化が著しい敵は極力優先して排除
他の猟兵へ牙を向いた時はその者を庇い、拷問具で攻撃を受けた後にカウンターを仕掛ける
…肉を食われたら超痛いだろうね
まあ激痛耐性で耐えてやるけれど
こいつ等に痛がる姿なんて見せたくないし
空腹だってなら幾らでもくれてやる
…ほら、やれるもんならやって御覧よ


ルーク・テオフィルス
【炎心】
アドリブ◎
守るには弱く、追いかけるにはスピードも足りない
戦場に出る度に自覚する
無いものだらけの自分自身
それでも力になりたくて
駆け出そうとしたところで止められた

ジークを見て真っ直ぐに告げる
命令だ、ジーク
一匹だって逃がすな
追いかけて、追い詰めろ
差し出した手から【光を運ぶもの】でジークへ炎を

想像しろ…!
誰より速く駆ける脚を
想像しろ…!
誰よりも強い力を
その全てを、ジークに授ける炎を…!
それが、アリスナイト〈僕〉の戦いだ!

ジークが駆け出した後も
その背を見詰めながら祈るように強く願う
己の身を守るように掲げた炎を越えて来る敵がいても構うもんか
目をそらすな!
もっと強く、もっと熱く
僕の想像の限りをここに


ジークムンド・コンラッド
【炎心】
アドリブ◎

駆け出そうとする姫さんの腕をつかんで引き留める
力何てないような細っこい腕
けどそれだけじゃないのを知っている
だから、偽物の絆でもとりあえずついていこうと思ったんだ

…俺の全てはアンタのもんだ
だから…うまく使ってくださいよ
さあ、命令を

【忠誠を誓え】、姫さんの炎を受け取って
上がった速度で一気に駆ける
逃げようとする蟲の群れに飛び込んでなぎ払い
…姫さんに見られてるんじゃぁ
情けない姿は見せられねぇよなぁ…!
攻撃を食らっても激痛耐性で呻きすら飲み込み、2回攻撃
こっちとら、覚悟は決まってんだ
蟲に効くかわかんねぇが
相手も生命なんだ
殺気で恐怖を与えて怯ませて
その隙を叩く
一匹たりとも逃がしゃしねぇよ



●焔

ルークが、最前線へと走り出そうとする。
けれどその身体は、誰かを守るには余りにも弱く、蟲を追いかけるには遅すぎた。
その事を、ルーク自身分かっている。
けれど、出ずにはいられない。誰かの力になりたいと、願わずにはいられない。

その細い腕を、掴む手がひとつ。

「……ジーク……?」
見下ろす黒い瞳は、どこまでも真剣だ。
それでも、ルークがこのままでは止まらない事も、知っている瞳だ。
「……なぁ姫さん。アンタは……アンタのその細い腕じゃなきゃ、出来ない事があるだろ?」
彼にしか出来ない何かがあると、あの時思った。
だから偽物の絆だと分かっていながら、ついて行こうと思ったし、今もまだ、隣に居るんだ。
これからも。

「俺の全てはアンタのもんだ。だから……うまく使ってくださいよ」
見上げる琥珀の瞳が、確かに掴んで離さない。
忠誠を誓え。さあ、命令を。
「命令だ、ジーク。一匹だって逃がすな」
差し出された小さな手を、武器を握る為に有る大きな手が、静かに受け取った。

「追いかけて、追いつめろ」

炎が点る。
小さな手から溢れる赤々と燃える炎が、ジークへと渡され、灯る。

エンジンに火が入った様に、身体全てに力が満ちる。
まだ距離があった蟲の群れへと、一気に詰め寄りグレイヴを振るう。
炎を纏う武器の一撃で生まれた円形の穴もそのままに、逃げる蟲達を尚追いかける。
脚を強化する炎が猛る。
もっと速く、もっと強くと彼の意志が燃えるのだ。
ジークは吠える。
「逃がすものか!」
吹き荒れる嵐にも似た殺気でもって、蟲の動きを鈍らせる。
散り散りに逃げようとする蟲の動きよりも速く、その群れを薙ぎ払い、燃やし、次の群れへと炎と共に駆けて行く。

灼熱を纏った突風だ。
光は尾を引き、蟲は灰へと変わって落ちる。

未だ蟲は多く、油断していれば食い千切られた。
けれどその呻きすら飲み込んで、何度でも攻撃を繰り返す。
「蟲ごときが、消せる物なら消してみろ!この最も強い炎を、消せる物ならな!」
忠誠を吼え、力の劣らぬ武器を大きく振るう。
何度でも、何度でも。
炎が、その勢いを崩す事は無い。


――蟲が、向かってくる。
ルークは炎の中で、ジークの背中を見ていた。
彼が誰よりも速く、強くなる為の炎を、創り続ける為に。
自身を守る炎が、向かう蟲を焼き殺す。
吐きそうな短い呼吸で、けれど決してジークの背中から視線を逸らしはしない。
「これは、僕の戦いだ……!」
ジジジジと、生き物が呻き焼かれる音がする。その音をかき消す様に、まだ細い喉から声を張る。
「これが、アリスナイトである僕の!戦いだ!!」
炎は猛る。負けてなど、なるものか!
彼が纏うこの炎は、何よりも強く、決して消える事は無い!
そうルークが信じ続ける限り、決して崩れる事は無い。

けれど、それはジークが纏う炎へと注視し続ける彼は、焼かれ死ぬ蟲の音に紛れ近付く羽音には気が付かなかった。

幾重に重なる蟲の群れ。
影が、背後から炎を突き破る。


●支援

群れとルークの間に入ったのは、柩だった。
眼鏡の無い顔へと襲い来る歯を叩き落し、振り返ろうとするルークを制す。

「大丈夫、あんたは前を向いて。それがあんたの戦いなんだろう?」
「で、でも!」
「心配しないでよ。さっき、おまじないもしてきたからさ。」
涼し気に、余裕のある声音がルークの耳へ静かに通った。

「……わかった。でも、無理はしないでよ!」
僅かの間。炎が、柩へと移る。
熱くはない。けれど確かに、これは炎だ。
「ふむ……こいつはすごいな。ありがとう。」
「ああ、僕の炎は、最強だからね!」
「うん。その通り。」
そこまで。
互いに、前を向く。
それぞれの戦いを続ける為に。

喧しい羽音が鼓膜に響いて仕様がない。
「いやはや、群れを分けるなんて、蟲の癖に頭が回る。」
はてと首を傾げながら、対象の動きを阻害する、ロープ、枷、網を投擲。
「この物言いは、虫に失礼か。意外と頭良いし。」
まぁそんな事は良い。
「今は兎に角、害虫駆除。叩き潰させて貰うよ。」

頭上へと拷問器具を召喚、群れへと落とし、潰す。
ひとつでは足りない。
故に次を。
それは乙女の形をしていただろうか。棺の形を成していただろうか。
あるいは牛か。車輪だったかもしれない。
一か所潰せばまた次へ。
なるべく多く潰せる場所へ、的確に、耽々と、次から次へと苦痛を与えるそれらが落ちる。

それを越えなお柩に喰らいつこうとする蟲を、炎が焼き払った。
「ふむ……おまじないは、しなくてもよかったかな。」
こんな奴らに痛む姿を見せるのは不愉快だと、苦痛を耐える覚悟はしていたが。
どうやら杞憂で済みそうだ。
肉を得ようと開く口の群れを、拷問器具で叩き潰す。
「やって御覧よ。そう簡単には、食われずに済みそうだけど。」
静かに、けれど明確な殺意でもって、召喚を幾度も繰り返す。

けれど、数は未だ、多い。
体力勝負はあまり得意では無いんだけれど、なんて呟いたところで蟲はその音すら聞かないだろう。

ごうごうブチブチばちばちと、やかましい羽音が頭を埋める。
呟く声はかき消され、応援の音すら僅か離れれば届かない。

そんな中、閃光にも似た怒号が、鳴った。


●大喝采

『しゃ!っら!!くせぇぇええェエエエ!!!!』

轟くそれは、蟲を音圧だけで吹き飛ばす。
同時に支援の炎が強くなったと、誰かは気が付いただろうか。

鬼は笑う。
ゲラゲラ嗤う。
「滅入る数だなァ!こいつらビビる程にまずいしよォ!!」
喰われた身体から流れる血に、ぐごるる腹の鳴る気配。
「食材の才能皆無の蟲こんだけ倒して、そうじゃなきゃァ帰れねェ!」
血を吸わせた南天を、大太刀へと変えて振り回す。
落ちた蟲を踏みつけ、次へ、次へ。

「割りに合わねェ!だがよォ!猟兵なんてのは、そんなもんだよなァ!!!」

口を最大まで開けて笑う。飛び込んで来た蟲の頭を食い千切り、吐いて踏みつけ押し潰す。

「なァ、そうだろ御同輩さんよ!!」
ニヤリ、鬼は叫ぶのだ。
『折角だァ!楽しくやろうぜ猟兵共!!!!なァ!!』
ゲラゲラ響く。それが羽音を圧して潰す。
普段なら眉をひそめたかもしれない笑い声が、ここでは、こんなにも頼もしい。

ぐっと前を睨むルークの火が、赤々と滾る。
やれやれと肩をすくめた柩の攻撃速度が、上がる。
煌く硝子の欠片が、人々の持つ武器が、遠吠えが、黒い鎌が、その力を強くする。

誰も、やる事は変わらない。
炎で焼いて、得物で切って、殴って落として、踏んで、叩いて、噛み潰して。
そうして、一匹残らず殺す。
それだけだ。

「声出してこうぜェエ!!俺達は、どーーーっせ負けねェんだからよォ!!」

恫喝に似た激励が飛ぶ。

嵐はまだ、これからだ。
動々蹴散らせ。
今度はこちらが、嵐となるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​


●追跡

逃げた群れへと追い付いたジークは、けれどそれ以上追うかを悩まざるを得なくなっていた。
理由は単純だ。
殺し切るにはあまりにも、広いのだ。
追い付く事は簡単だ。
殺す事も簡単だ。
けれど、細い直線だけでは、どうにも出来ないのだ。

思わず漏れた舌打ちと共に、一閃。炎が広く燃え盛る。
それでも、全てには到底届かない。

「ここから奥は、僕達が引き受けよう」
ジークを止める声が一つ。
「僕達が残してしまったものを、君が。どうか一匹も逃さずに、追いつめて欲しい」
黒いドレスを纏った青年が、灰色の瞳に怒りを灯し、頼む。と一つ頭を下げた。

撃ち漏らしを炎で焼き払ってくれと頼むその言葉に、しばし考える。
これ以上奥に進めば、ルークの目では炎さえ見えなくなってしまう。

頷く。
「ありがとう」

ここから先は、追う者達が引き受けよう。
大紋・狩人
逃走を始めた三分の一を、[追跡]する。
追うのは厳密には僕だけじゃない。
僕の怒りも、だ。

(脳裏を灼く、先だっての光景)
志願した囮だったとはいえ、
お前等は──先程、彼らを、喰らったな?

【おそれは零時に熔けて】!!
[限界突破]した憤怒が薪だ!
追尾する炎の嵐と、[属性攻撃]の黒炎を纏わせた骨灰の怪物で、
先行く蟲どもを可能な限りに[焼却]しろ!
[部位破壊]で薄い翅から焼き尽くせ!

先程流した血は、無駄になどするまい、
(当人知らず、滴る首の血も含め)
“甘美芳醇”の血液を以て、[おびき寄せ]の補助に。
向かって来られる恐怖への[覚悟]?
とうに済ませた!
繁殖される前に落とせ!
これ以上、誰も僕も喰わせてなるものか!


ジェイクス・ライアー
●行動
逃走する群れの追跡及び殲滅
〝神速[ダッシュ]〟ならば追いつける

【UC:不倶戴天】と【UC:飛燕】併用
素早く空飛ぶ敵陣に飛び込む

個が織りなす〝群れ〟は穴をものともしない無形の化物だ
仲間との連携は必要になってくるだろう
状況により臨機応変に対応する


人命は救われた 考えうる限り最良の形で
ここで貴様らを逃せば全てが無に帰す

元を辿れば対人間に磨いた技術
対郡は得意な部類ではない
村は仲間に託そう 彼らなら大丈夫だ

速く 速く
逃しはしない
呼吸は穏やかだ
村へ向かった時を思えばずっと

よく見えるぞ お前たちの羽の羽ばたきすらも

「Look before you leap.」

ーーなんて、蟲に言ったところで何になろう


ナイ・デス
……私は、大丈夫、です
【覚悟、激痛耐性】
真の姿開放、ボロボロの体、光に解いて回復し

『イグニッション』

それも一瞬。光の体、黒剣で覆い黒騎士姿となって

鏖殺しましょう。塵も残さず、喰らい尽くします

時速325kmで飛翔して【空中戦】
【念動力】で自身【吹き飛ばし】更に加速して
全身が黒剣でもある鎧。一挙手一投足の全て、攻撃の意思あれば9倍で
両腕刃で【2回攻撃鎧無視攻撃】蟲の硬い体も無視して切り裂いて
【生命力吸収】死体も残さない、食べさせない
蟲を喰らい得た力で更に喰らう【継戦能力】止まらない

今度は、喰らうのは私、です

この数なら、逃さない


華折・黒羽
そう易々と逃がすと、思うな

脚で駆け、風を打ち付け空へ飛び
動ける限りに動き続けて揮う屠
凍てついた刃先が敵の身に触れる度
氷の花群を網の様に広げ蟲の動き止めようと

命を諦めさせたりなんてしない
誰かの代わりに差し出していい命なんて一つたりとも無いんだ
脚が動く限り
腕を伸ばせる限り
鼓動が胸打つ限り
俺は生きていてほしいと伝え続ける

我儘だと、偽善だと吐き捨てられようと
この命だって守られ救われ此処にある命だから
あの子に怒られる様な生き方はしたくないから

熱もつ傷など、感じぬように
薙いで振り下ろし凍てた影が一閃する
──動く限りは、止まるものか



●怨嗟

ジークからの視線を背に、狩人は奥へ奥へと逃げる蟲へと駆ける。
その周囲に、60を優に超える骨灰の怪物を生み出して。

大きく息を吸う。
奮え、揮え!
「これが!彼らを喰らった、お前等への、僕の怒りだ!!」
咆哮に呼応し、炎が怪物の周囲へ吹き出す。
それは、背後で燃える赤い炎とは、違う。

憤怒という感情が、殺すという意志が、黒い炎となって怪物の周囲へ嵐を造る。

ゴウゴウ唸るそれらを携え、怪物は我先へと蟲を追い、走り出す。

「思い知れ、そして味わえ!僕は、絶対に許さない!」
甘い香りに誘き寄せられる蟲は居ない。
どれも一心不乱に逃げている。
一匹でも逃げれば良いのだと、その行動全てで語る。
「逃がすものか!」
殺意と共に前へと振り下ろされた手に合わせ、怪物の速度が上がる。

「これ以上、誰も、喰わせてなるものか!!悲しませてなるものか!!」

最大速で駆ける第一陣の炎が、蟲の羽を焼く。
けれど、撫でただけでは硬い甲殻は傷つかない。

だが、羽を焼かれ落ちた蟲を、第二陣が焼いて進む事は、容易い。

距離を開けぬよう組まれた隊列で、黒炎が全てを焼き尽くす。

焦土と化した地面は、けれど元より、草一本生えてはいない。
全て蟲に喰われていたのだから。
逃がせば、同じことが起こるのだ。

花さえ咲かない場所なんて、哀しすぎるじゃないか。

「絶対に!止めて見せる!」
横や上へと逃げた蟲を深く追う事は無く、先へ、先へと怪物と共に駆ける。

大丈夫だ。僕たちは一人では無い。


●決意

黒羽は、蟲が翔る様を空から見ていた。
焼き尽くす黒い炎の馬から逃れ、右へと広がる蟲は翔る。

だが、しかし
そう易々と逃がすと、思うな。

その声は、羽音に紛れ聞こえない。
けれども行動は、如実にその決意を示す。

急降下と共に、氷が咲いた。
ひとつ、ふたつ
よっつ、やっつ
十を超え六つ、あっという間にそれは視界を覆う。

蟲は、羽ばたこうとして、その薄い膜を割る。
凍て付いた翅は、動きにすら耐えられない。
脚でさえ錆び付いた鉄の方がマシな動きだ。

白い花の群れが、その脚を、羽を、捥いでいく。
尚逃れようと跳ぶ蟲を追う。

「俺は、命を諦めて欲しくない」
呟く声は、小さい。けれど、揺らぎはしない。
諦めた目で空を見ていた老人を思い出す。

これがただの、偽善としても。
なにも解らぬ部外者の、世界を知らぬ言葉だとしても。

「誰かの代わりに差し出していい、命なんて、一つたりとも無いんだ」
それが今、自分の抱える本心だ。

「だから、俺は、伝え続ける!」
自分の脚が動く限り、腕を伸ばせる限り、そこにこぼれ落ちる命があるのなら!
「生きていて欲しいと!その為なら、この力に躊躇などしないと!」

この命もそうだ。
あの時、守られ、救われ、ようやく此処にある。

だからこそ、あの子に怒られる様な生き方は、しないと決めた。

「俺は、止まらない。動く限り、お前たちを殲滅する。」

身体が熱い。
喰われる痛みを越えた、火が、灯った様な疼きを無視して。
黒羽は構える。

凍土を造れ。
屠が一閃、描く。
引かれた線から花がまた咲く。
一つ、二つ、数百、千と
咲いては落ちる、花吹雪と言うには質量の有りすぎたそれが、まるで雪原を錯覚させる程に詰み上がり、道を敷く。

寒さで鈍る動きで、けれども群れは動いて行く。

それでいいと、深く追いはせず黒羽は自分に出来る範囲の殲滅と進行妨害を続けていく。

屠が線を描く。
氷の花が咲く。

音さえ凍て付いたのかと錯覚するその場所に、空気を裂く音が響いた。
来たか、と空を見る。

黒い暴力が、爆風と共にすべてを薙ぎ倒していた。


●一掃

未だ作戦の痛みを引きずる身体を心配する様に伸ばされた手に、ナイはゆるく首を振った。

「私は、大丈夫、です」
だからどうか、自分の戦いを。と、言葉にはせず。
離れる姿を見送らず、少しだけ待って、ナイは真の姿を解放した。

光が、溢れる。
その中へと解け、傷を、疲労を除き再度構築する。

けれどそこに創られるのは、柔らかな人の姿ではなく。

『イグニッション』

光を覆い閉じ込める。
黒く硬い鎧は、彼の思う暴力を、全て集めて塊にした様にも見えた。

「鏖殺しましょう。塵も残さず、喰らい尽くします。」

狙うはどちらの攻撃からも逃げた、蟲。

宙を切裂く音がする。
瞬間加速。空を滑る。
己を吹き飛ばし、さらに速度を上げ、瞬きの間に離れていた距離を詰めた。

爆音を轟かせ、黒い暴力が全てを吹き飛ばす。
それは、間違いなくナイの姿だ。

氷によって動きの鈍っていた群れとの接触は、一瞬。

けれどそれで事は足り得る。
両腕の刃が、撫でる様に斬り落とす。
音に近い速度は、触れるだけで全てを殺す。
攻撃の意志も無くただ逃げるだけの蟲が、いとも容易く瓦解する。

死骸すら、残さずに。

「今度は、喰らうのは私、です」

随分前へと飛んでしまった身体を、蟲へと向き直し再びの加速。
二回目の攻撃は、炎で足止めされていた蟲へと迫る。

「この数なら、逃さない」

暴風、嵐、そんな言葉すら生ぬるい。
災害よりも尚荒れ狂う、蹂躙が再び空気を裂いた。



●最後に

一人、離れた場所に居た紳士は息を吐いた。
猟兵とは化物ばかりだと、ただの人間たる彼は思うのだ。

自分は、炎を纏う事は可能か?
否。
では化物を召喚する事は?
否。
対象を凍て付かせるなんて事はどうだろう。
機材を使えば、あるいは可能かも知れない。

あの速度で、空を飛ぶ事は?
出来る筈が無い。

首を振って、空を見る。
この世界はどうにも暗くて宜しくない。

「私の力はどうにも、外付けばかりでね。」
羨ましい限りだよ。と、誰にも聞こえていない声が溶けていく。

遠く、爆音に混ざりわずかに聞こえる羽音が幾つか、耳へと届く。

駆ける。ああ、居た居た。
傘の先から散弾が弾け、三匹がバラバラに砕け散った。
距離を開けようと跳んだ一匹を刃の付いた靴の踵で斬り落とし、五匹目を着地で踏み潰す。

ふぅ、と息を吐く。
音に紛れ、被害に紛れ、草に紛れ、土に紛れ、細やかな幸運を幾重に重ねて逃げ果せた僅かな虫を、見つける為に彼は此処に居るのだ。

鼓膜が音の大小を間違える事の無い様に、紳士は僅かな声で一人呟く。

「さて」

右、1km先に一匹
左、2km先に一匹

駆ける。
速く。速く。
決して逃しはしない。

全速力に関わらず、呼吸は思うよりもずっと穏やかだ。
村へ行く道中の方が、余程苦しく、痛んだとも。

ナイフで一刺し。
とん、と向きを変え、反対方向へと再び駆ける。

「よく聞こえるとも」

また二匹、逃れて来た蟲の音がする。。
距離のある蟲に銃を当てられる程、上手くは無い。
故に接近し、殺す。

「遅いな」
羽ばたきすらも、見える様だ。
蟲は成す術もなく消えていく。

戦場の音は、もう聞こえない。
あちらはどうやら、終わったようだ。

一匹、一匹と消え損ねた蟲を零さず灰へと還していく。

最後の気配が、目の前で力強く跳ね横をすり抜けようとする。

「Look before you leap.」

飛ぶ前に見る事だ。紳士は静かに語る。
万が一の為に準備してこその、勝利があるのだと。

「なんて、蟲に言ったところで意味は無いがね。」
ばぎゅり、手の中から音が一つ。
ナイフを使うまでも無く、握り潰した最後の一匹を地面へと捨て、ジェイクスはようやく大きく息を吸った。

蟲の気配は、一つも無い。
ただの、一つも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『明日を生き抜くために』

POW   :    資材や物品の搬入や購入物資の運搬を行う

SPD   :    我先にと購入しようごった返す人々の整理を手伝う

WIZ   :    貧困に苦しむ人達のために少しばかり値切るか差額を払う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●そして弱者は、明日の朝日に夢を見る


戻って来た君たちは、きっときょとんとしただろう。

避難場所としていた場所は、何故か開拓が進んでいる。

木は伐り倒され、土は整備され、道は無くとも人が通り座れる場所があちらこちらに作られている。
火が灯り、その周囲で人々が休み、あるいは残っていた猟兵から指示を得ている。
被災したばかりだと言うのに、そこには活気があった。

最初の一歩は、此処を護っていた猟兵の行動だったのかもしれない。
このままでは、人々が落ち着いて眠れないからという。

けれど、それに続いたのは間違いなく、彼等だ。

それは切り替えの速さだったのだろうか。
それとも、何かしなければ変わらないのだと知っているからこそ動くのか。
なんにしろ、これが絶望の中でも足掻き続けていられた弱者の、強さだったのかもしれない。


戻って来た猟兵達の姿を見て、村人が仕事を放り出して駆け寄って来る。

「救済者様!救済者様!ご無事でしたか!!」

そこから先は早かった。
先ずは全員で、300人程が眠れる場所の確保をする為に、地面を整備した。
次の日には水を引く為に村人と怪力を連れて移動する組みと、家を造る為に木々を倒しバラす作業をする者とに分かれた。
勿論そこには、怪我をした者、心に傷を残した者、その痛みを癒す為に尽力する者の姿も見られた事だろう。

猟兵と『闇の救済者』を名乗る一般人には、街を造る為に必要な地図が二枚ずつ渡された。

一枚は、新しい村の図面だった。
ここから大きく逸れるつもりが無ければ、大体何をしても上手く村は動くだろう。

もう一枚は、周囲が描かれたマップだった。
材料や食物の確保に使えそうな場所、水や田畑を整備する箇所が、そこからはきっと読み取れるだろう。

まぁ、つまりは、猟兵達はしたいようにすればいい。
そのバックアップは、人々か、あるいは慣れた者がする。

ただそこに、彼らを助けたいと、救いたいと思う気持ちがあれば、最良かもしれない。



(※プレイングに記載してもらうと嬉しい事。①滞在期間。あるいは来る頻度。②ぼんやとした、したい事や行動指針(無ければ案内人が勝手に仕事を割り振ります。③この村に対する心情)

(以上の事は、書いてあってもなくても大丈夫ですし、どっちにしろアドリブは多くなります。)
(また、呼んで頂ければグリモアベースに立ってた金髪も出ます。愚痴や相談、ちょっと筋肉やギャグが足りねえ等、お好きにご活用ください。)
フルム・コラルト
【まるっと1年半ほど滞在】アドリブ・連携歓迎
生活を軌道に乗せられるよう手助け。

【滞在中UCで召喚したまま】
ひとつ、小さな傷から大きな怪我を含め、病魔に侵された人達の治療。ふたつ、住み慣れた村を離れざるを得なかった嘆きはあるけど、泣いたり笑ったりするのも大事。ごちそうを食べて力をつけるの。みっつ、不衛生なとこじゃ、気分も落ち込んじゃう。身近なとこから綺麗にするの。死骸なんかは危ないから、こっちで受け持つの。

【村での生活】
畑を耕したり、狩りをして日々の恵みを得る苦労を分かち合う。子供たちと駆けっこしたりかくれんぼ。小難しい事より遊びを通した方が生きる術が身に付きそうという考えがあったりなかったり。



「へ?救済者様は1年と半年も居て下さるんですか!?」

闇の救済者である村人の言葉に、こくり、とフルムは頷いた。
「みんなの生活が、うまく行くようになるまで、手助けするの」
けれど、闇の救済者の青年は問う。
「それは、我々としては大変嬉しいですが……」
周囲を見渡す。
此処には、何も無い。
いや、貧困はあるかもしれない。
娯楽は少なく、苦労は多い。
光は差し込まず、闇が覆う世界だ。
「救済者様にも、生活はあるでしょう?救うべき者も、居るのでは……」
この場所に、そこまで時間をかけてしまっていいのかと、青年は問う。

「いいの」
そんな青年の心配をよそに、フルムはまた頷いた。
「わたしは、みんなと過ごしたいの。」
静かな決意は揺らがない。
彼女の意志が強い事は、戦場を共にした青年にはよく解る。

数十秒の沈黙。
「……わかりました。」
青年は、頷き、でも、と言い難そうに言葉を足した。
「1年経ったら、猟兵としての力を使う事は、控えて下さい……我々が、その力に依存する事の無い様に。」
我々が、貴女の存在を同列と、決して見ない様に。

拒絶とも取れるその言葉に、フルムは少し考えた。
「……わかったの。でも、1年は、なにがなんでも全力で、サポートするの。それなら、いい?」
こて、と首を傾げて訊ねれば、青年は泣きそうな顔で、笑いながらその小さな手を取った。
「ええ、ええ!是非に!」
どうか我々を助けて欲しいと願われれば、答えは一つだ。

「もちろんなの。みんなで、わらうの」

さて、そうと決まれば人手が必要だ。
フルムは青年から離れると、限界まで息を吸い込んで、笛を思いっきり長く、長く吹き鳴らした。
高くどこまでも通る音が周囲に響く。
しばらくすれば、がさがさと草や枝が揺れ始める。

ひょこ、と白い耳が揺れる草の向こうに現れた。
「るぅ!」
「ぁおん!」
リーダーの笛に応じ現れた彼女らは、灰狼卿の信奉者、つまりはフルムの仲間達だ。

手に手に薬の入った壺や、鍋や箒、スコップなんかを携えて44もの仲間が集まった。
「この子たちも、一緒に、がんばるの」
ふんす、と胸を張る。

だから大丈夫よ。と
ここに光はあるのと、伝える様に。

「あぁ……ありがとうございます……救済者様、本当に、本当に……」
「ん」

すぐにはどうにもならないだろう。
世界は一日で造られた訳では無い。
全知全能な神様だって、穴だらけの彼の世界を造るのに、なんと七日もかかったのだ。

全知全能に程遠い、無力に近い生き物が集まって、新しい世界を作るのだ。
そりゃもう途方もない事なのだ。

「だからまずは、怪我した人や、病気の人を治すの。それから、ごちそうを食べて、力をつけて……周りを綺麗にして、みんなが元気に、明日を迎えるの。」
行く行くは一緒に畑を耕したり、狩りをしたり、子供達と遊んだり、そういう所から何かを一緒に学んだり、したい。
色々な事を、彼等と分かち合って、笑い合って、すごせる様になりたい。

けれど今は、出来る事からしよう。
それしかない。
最初の一歩は、いつだって小さいのだから。

「わたしは、フルム。フルム・コラルト」
救済者様、と呼び続ける彼らに名乗る。
これが、自分の名前だと。

「これから、よろしくお願いします。なの」

未だ少女である小さな狼は、そう言って新しい仲間に、ぺこりと頭を下げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大紋・狩人
豪奢ドレスは解き、動き易いローブドレス姿へ
怪力に運搬、姿形に似合わぬ膂力で水や畑を整備
不足した農具工具があれば【灰白鳩】で作り出そう
滞在期間は
名残惜しくとも一週間

植物の育つ土に、安堵
立ち直りが早いのは良い事だ
……誰も何も残らなかった僕の故郷
だからという訳ではないが
無事な人々がいて
暮らしに繋がるものがあり
早くも活気の点るこの村が
元の村に増して良い場所になってほしい
泥撥ねの手で、祈る。

宝探しに動物使い
ふいに灰の鳥が食料の一助になる野草野菜の種と
花の種を咥えてくる。
勿論、食べられるものが最優先
余裕が出来たら、花も
綺麗な眺めを喜ぶ人は
きっと村にもいるだろうから

花壇や花畑ができる頃
また、此処へ。



そもそも、彼らはドレスを滅っっ多に見ないのだ。

故に、こう言われても仕方が無い。

「我々がやりますから!!我々がやりますからぁ!」
お召し物が汚れてしまいます!と何度止められた事か。
「ええい、うるさいうるさい!僕は大丈夫だと言っているだろう!?」
止められながらもなんのその。
狩人はローブドレスを翻し、灰白鳩の道具で切り出した木材を肩に乗せてずんずこ歩く。

それはもう力強く。

「この服の方が気合が入るってだけなんだよ!気にしないでくれ!」
と、さっきからもう何回も言っているのに、隣で半分の量を運んでいる闇の救済者は心配そうにおろおろと同じことを口にするのだ。
「ですがーー!」
「もーー!だから大丈夫だってば!」
思ったより元気な抗議に、なんだか懐かしい気持ちになってしまう。
でも笑ってる場合じゃないんだ今は。
「いいから!君たちだけでも、僕だけでも、今日中に次に進まないよ!ほら余計な体力使ってないで、これ運んだらまた取りに戻るんだからね!」
自分は、長くても一週間しか居ない。

あまり長く居ては、離れられなくなってしまう。
それはいけない。
恐らく、今の彼女では、この場所で生きる事は難しい。

だから離れなければいけない。
村人にも、自分にも、悲しみの残らない期間で。

水路の整備をする狩人に、灰の鳥が成果を報告にやって来る。
その嘴には、食料に成り得る物の種や、果物、それから花の種が有った。
少し考えてから、狩人はそれぞれを小さな袋に入れて、村人へ渡す事にした。

食料が優先されるべきだとは思っている。
けれど、色とりどりの花が持つ力は、案外強いものなのだ。

「……今度は、その眺めを奪わせたりしない。」
オブリビオンとの戦いに決着が付く可能性が見えれば、自分達猟兵が全力で潰す。
全てが喰われ、無くなった村の二の舞に、決してさせはしない。


帰り際、テンションの高い村人に畑まで連れて来られた狩人は、示された場所を見て、灰色の目を大きく開いた。

小さな芽が、確かに見えた。

「な!?な!しっかり芽が出たんだ!これなら冬に間に合うかもしれねえ!」
「ありがとう救済者様!!あんたたちのおかげで、俺達は冬の夜に死なずに済む!」
「はは!こんなに広くてやわらけえ土だ!問題無く育つだろうさ!」
やいのやいの、手を合わせてはしゃぐ彼らは、なんなら踊り出しそうだ。
思わず、狩人も声を出して笑った。
「ははっ!ふふふっ、あっはっはっは!ああ、本当に!本当にな!」
ばしばしと背中を叩く村人の、背を叩いて笑う。
「ああ、よかった。ここにはまだ、あるんだな!」
希望も、実りも、未来も。
光の様な、笑顔も。

そっと、畑を後にする。
いいのか?と問う声には、いいんだ。と返して。
「また、来るよ。この村に、花が咲く頃」

今度はきっと、二人で来よう。

12時を越えれば灰被りの魔法は解ける。
けれど、ボロボロになったドレスは、魔法じゃない灰被りが積み上げた努力の証だ。

お祭騒ぎの背後に祈りを捧げ、彼は堂々とした足取りで、グリモアの光へ踏み込んだ。

だから、そう。このボロボロのドレスは、勲章なのだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

花邨・八千代
うー……俺、頭使うの苦手なんだよなぁ…
だからうまく俺のこと使ってくれよ、力仕事なら得意だぜ

長期間滞在はできねーけど、まぁある程度生活できるようになるまでちょいちょい顔出すぜ
建設に使う木材の運搬やら食い物の調達やら、そういった方向で仕事をこなしていくぞ
あ、でも救済者って名前で呼ぶの止めてくれよな
俺ァ八千代って名前あんだからさ

仕事の合間に村のちびっこと遊ぶぞ!
なんたって逃げに逃げ続けた日々だ、遊ぶ暇なんてなかったろ
子供はな、よーく遊んでよく食ってよく寝るのが仕事だ!
俺にもおんなじくらいの子供がいるんだぜ

というわけでいでよスッフィー!!!
そのはち切れんばかりの筋肉を駆使して全力で!遊ぶぞ!!!


ジェイクス・ライアー
●滞在期間:2章終了後から24時間まで
その後はひと月に一度
※次回来る約束はしないし、言及もしない

●行動指針
死骸があればその後片付け
他に、したい事は特にない
普段ならば、埋葬の手伝いなどをするが、その必要も幸いない
ダンド、お前からの指示があれば聞いてやる

●村について
命は最良の形で救われた
特別の感慨はない
被害が少なくて安堵したくらいか
ここから先に私が役立てることは少ない
すぐに帰ってもいいが、今は人足が必要だろうから手を貸す。それだけだ。

●他
ダンドの復旧活動の補助として入るイメージ
どうせお前のことだから意気揚々と村人と計画を練っているのだろう
一日だけ私の時間をやろう
せいぜい効率よく使うことだ



「俺さァーー、頭使うの苦手なんだよォ~~~」
だから何をすればいいか、と聞きに来た八千代は、そう言って腕を組み仁王立ちしていた。
「と言う訳で、俺の事上手く使ってくれよな!!」
「……こいつと同じ事を言うのは癪だが、私も概ね同じ立場だ。お前が上手く指示を出せ。」
出来るだろ。と、紳士は紳士で腕を組んで、目の前の金髪を半目で見ている。
指示を受けると言うには、余りにも高圧的ではなかろうか?金髪は少し思ったが、言及をしない程度には賢かった。えらい。

「……とりあえず、二人とも24時間以内に帰るという事で、問題無いか?」
グリモアを出すのは一度で良いのか、という確認を取る。
「おう!ちょっと短いかもしれねェけど、帰りをまってくれてるハニーが居るからな!」
その代わり、ちょくちょく手伝いに来るぜ!と鬼は笑う。
紳士の顔を窺えば、反論は無いと最低限の頷きが見える。

「わかった。それなら……」


●八千代

そんなこんなで八千代は今、340ある怪力で木を雑草みたいに根っこごと引き抜いていた。

最初は驚いて距離を取っていた村人達も、しばらくすれば悪戯好きの子供みたいに笑う鬼に、好感でもって近付き始める。
ぽーい、ズォオン この辺に集めてと言われた場所に引っこ抜いた木を投げ積み上げる。
これらは家や家具になるんだそうだ。
切断は、また別な者がやってくれるだろうと、気楽に邪魔になる物を退かして行く。
道にしろ畑にしろ、家を建てるにしろ、土台となる土に岩や根が残れば台無しになる。
本来であれば、十人単位で働いても数か月と長い時間のかかる、とても地道な作業である。

けれどそれは人の道理。
鬼にそれは通じない。

「救済者様!こちらの岩をどうにかして頂けますか!」
村人からの声に、八千代はむぅと眉を顰めた。
「だーーかーーらーー!俺の事は八千代って呼べって言ってるだろー!」
宿題やろうと思ってたもんテンションで言われ、村人はたじろぐ。
「ですが……」
「でももへちまもねェんだよォーー大体俺、救済者様って名前じゃねェもん!」
とは言いながら、泥だらけの手もそのままに近寄って来て、岩の前で腕を組む。やる気は満々だと雰囲気は語っているが、顔はやはりむっすりだ。
「ほら、もっかい!様もいらねェ!親しみ込めて、もっかい!なァ!」
耳に手を当て、repeat after meのポーズをキメる。

「や、やちよ、さん!?この岩退けてください!」
勢いに押されそう言った村人に、鬼はにししと明るく笑う。
「まっかしとけェ!!でも次はもっと砕けて話しかけろよなァ!!」

邪魔な物は退けるに限る。
それは無意味な壁にも、言える事だろう。

岩を放り投げる鬼に、子供たちがやんややんやと拍手を送る。
「うぉーーー!やちよすげえーーーー!!」
焦る母親がこら、と小さく叱る。
「救済者様を呼び捨てなんて、ダメでしょう!」
ごめんなさいと頭を下げる母親に、いいやいいやと鬼は手を振り笑った。
「うはは、俺にもな、お前ぐらいの子供が居るんだ!オォイ!友達集めてちょっとまってろナァ!この後あっちに居るでけえ金髪と、一緒に遊んでやっからよォ!」
きゃーと喜び走っていく子共と、ぺこぺこと頭を下げる母親を見送って、八千代はまた木を引っこ抜く。
出来るだけ効率的に、一本でも多く、1分でも早く。
遊ぶと約束したならば、憂いは少ない方が良い。
「折角ならよぉ、沢山遊ばせてやりてェもんな」
そしたら夜もぐっすりだしな!なんて大きく笑って、優しい鬼は木を投げる。
えんやこーら、えんやこーら。
「八千代様ーーー!!」
「だから様とかいらねェっつってんだろォーーー!!?」
鬼を呼ぶ、声がする。



●ジェイクス

静寂は好ましい。
と言うよりも、余計な喧噪が無いというのが好ましい。

葉の揺れる音、鳥の鳴き声。
その程度しか聞こえない道では無い道を行き、定期的にメモを取る。

紳士が頼まれたのは、精度の高い地図を作る為に、必要な情報を集める事だった。
『貴殿だって軍従事者なら地図ぐらいかけるだろ?』
と、紙とペンを渡された時の返事は は??? だった訳だが。

「なぁーーーにが、遠くまで欲しい!貴殿が一番適任!お願い!だ。もっとあるだろう言い方とかそういったものが!」
ぶつくさ言いながらもきっかり3km毎にメモを取る。

道の高低差、木々の種類、命の密度、土の柔らかさ。
数十秒の筆跡に残された多大な記号に含まれるどの情報も、持って帰れば重要だ!と喜ばれる事は分かり切っている。

風に揺れる木々を見上げ、零れる小さな光に僅か、考える。
今後の見通しの為に情報は、多ければ多い程全員の力に変わる、と。
そう説く声と、普段よりもまぁ多少強いかと思わないでやらなくもない目に、僅か圧されたのを、認めるか否か。

息を吐く。
まぁいい。やると言ったからにはやるのだ。
タイムリミットまで出来るだけ頼むと、普段は気を遣いすぎて腹立つ事もあるアホが言うのだから、仕方がない。

「やってやろうじゃないか。仕事は完璧にこなす主義だからな。」
ふん、と顔を上げてまた歩き出す。

歩幅は一定で、決して崩れない。
距離を測っているのだから、当然だ。

求める情報は多大なれど、最も重要だと言われたのは
『人間が歩ける道足り得るか』

崖があってはいけない。
土が軟すぎてもいけない。
子供が転げ落ちてはいけない。
荷物を持って歩ける上で、けれど敵に即座に察知されるほど、分かり易い道ではいけない。
河から離れすぎてはいけない。
木々が少なくとも、多すぎても、いけない。

だが、それをつぶさに見るのは自分では無いと、ジェイクスはただメモを取る。
夕刻頃には、一度休憩を取らねばならない。
なにせ夜の違いも出来れば欲しいと、アホがずけずけ言うのだから。

「……まったく」
徹夜を覚悟し直して、ひたすらに歩く。
あの野郎、団地じゃなくてグリモアベースに送ったらはっ倒す。
そう心に決めながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

尾守・夜野
①3日程滞在、行商に月1程
俺も村あるからな…だが一人で用意するには限りがあるし
定期取引先が出来るなら越したことはねぇ
…人手のいる作業は流石に一人で進めるの無理

②今後よろしくさせて貰うにも当面の生活の基盤は整えてぇな
家も必要だが当面の食料もいるだろう…
という訳で
「畑作るならここらでいいのか?そうか…植える予定のと残りの食料の量は?」
畑予定地の周りの土を植える予定の植物に変え、その上で植物を操り…畑を耕させよう
運次第になるが種も撒けるだろうな
光当たらぬ地の土だし、痩せているだろうから【飢餓耐性】あたりの特性がつきそうだな

③強い奴らだな…と
ガッツのある奴らは好きだぜ



「手伝えるだけ手伝って行きたいのは山々なんだが、俺にも村があるからなぁ……」

とは言え、考える。
「あの村には俺しか居ないし、全部一人で用意するの大変なんだよな」
だから、出来る事ならこの村と行商がしたい。と、闇の救済者と話をすれば、願ってもない事だと大いに喜ばれた。
定期的に物が交換出来る場所が在る事は、案外重要なのだ。

と、まぁそんなこんなで今後の予定なんかを取り決めて、夜野は畑へと顔を出していた。

「まー、なんだ。今後よろしくさせて貰う為にも、生活の基盤は整えて行きたい所だな。」
相手にも、こちらにも、余裕がある事。それが先ずは重要なのだ。

「畑作るのってここらでいいのか?」
木々や岩が引っこ抜かれ、村人達が小石を拾っている所に声をかける。
「あぁ、救済者様!はい、その為に今、他の救済者様にも手伝って頂いております!」
ふむ、と夜野は頷いた。
「それなら、小石を退かすのと耕すのは、俺に任せてくれないか?あんたらは休むなり、家を造る算段立てるなり、した方がいいだろ。きっと」
ですが、それなら我々も!と手伝いを申し出る声にぱたぱたと手を振り、移動する。
「そんな事より、此処には何を植えるつもりだったんだ?」
促されるままに伝えられた植物の種類は思ったよりも多かった。
じゃがいもや、玉ねぎ。ニンジンや豆、稲やら葡萄。なにしろ全て無くなったから、兎に角いくつも育ててみて、定着する物を見るんだそうだ。

UCを発動させる。
ぼこぼこと土が動き出し、中から植物が現れた。
通常の物よりも大きなそれらは、自らの根を使い、土をほっくりかえし進んでいく。
小さな石は、前回に引き続き参戦しているウツボカズラの中にほいほいと放り込まれ、人間がやるよりも余程スムーズに、彼らの行進は続く。

夜野はまた一区画移動して、同じ様に力を使い、もう一度半径76mの植物達の列を作り、行進を開始させる。

そうして、植物のゴールまで歩いて行き、座って待つ。
救済者様救済者様と気遣われる度、俺はただ休んでるだけだ、気にするな。と笑って。

あとはただ、これを繰り返す。
UDCの農耕機具程では無いが、それなりに早く、そう三日もすれば、予定されている場所を全て耕し切る事も出来るだろう。

「……種まで撒いて行ければ、良いんだけどな。まぁ、そこは運しだいか」
雨が降れば、作業は遅くなる。
その場合は種だけでも置いて行こうと思ってはいるのだが。
「飢餓に強い種が出来そうな気がするんだよな。というか、そうじゃなきゃここの土だと育ちにくいだろうし」

ウツボカズラはおまけだけれど、畑の横にでも生やして置けば蠅や蚊、蜂等の害虫をそれなりに防いでくれるだろう。
もちろん、完璧には程遠いが。
それでいいのだ。
無くなった時に機能しないなんて、きっとその方が困るだろうから。

ごろり、土塗れになるのも構わず転がり空を見る。
土を耕す草達が、来るまでにはまだ時間がありそうだ。

風が運ぶ村人の声は、被災直後とは思えない元気の良さだ。
今だって、猟兵の力にやいのやいのと興奮する声が聞こえる。

「まー、今回はサービスさせてもらうさ。ガッツのある奴らは、嫌いじゃないしな」

小さく笑って呟いた。それに頷く様に、雲から少し、光が見えた。
そんな気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナイ・デス
たくましい、ですね
……何でもやってあげればいい、とは限らないでしょう、けど
出来るだけ、手伝いましょう

『生まれながらの光』で怪我人の治療や
痛んだ道具などを修復してからは、疲労回復や他の事件解決の為に帰還

日中……他の世界では。この世界では、他の世界では昼間の時間も、暗い
に、平和な時に、ダンドさん見かけたら声かけて、お手伝いにくる
オブリビオンが襲ってこない限り、猟兵の助けがなくても生きていけると、思えるぐらいまで

行動は『生まれながらの光』による水源の浄化や
田畑の食物の成長促進など

果物の樹から枝をとり、枝を元の樹にまで再生させて増やしたり
一粒の種から、収穫前のもっと実っていた時にまで戻したりする



「……たくましい、ですね」

道を、畑を、家を、何が必要で何を後回しにするか、わいのわいのと話し合いながら作業の準備をしている村人たちを見ていれば、そんな言葉がナイから零れた。

空元気なのかもしれない。
そんな心配も過る。
それが悪いとは、決して言わない。
でも、それなら、いま無理に笑っている人たちが……沈んで泣いても良い様に。一刻も早く、この村を安定させたい。
決意も新たに、ナイは闇の救済者や村人が集まっている場所へと、近付いて行った。

「なおしてほしいの、ない、ですか?」
人だかりにひょっこりと顔を出した少年は、そう言って首を傾げる。
彼のユーベルコードは、治療、整備に適した物だ。
幸い、村人に怪我を負ったものは少なく、壊れている荷物の整備がメインになっている。
それならこれをと渡された沢山の袋を、受け取って頷く。
そうやって麻袋をユーベルコードで十枚程一気に直していたそんな時、赤子が全力で泣くものだから、ナイは驚いて顔を上げた。

「どうし、ましたか?」
具合が悪いのかと近付くナイに、母親は困った顔だ。
「実は、おしめの替えの布が、無くなってしまいそうで……」
洗いに出ようにも、此処から川までは距離がある。それに、川までの道は作業で混んでいる。
子供を連れて行くにも、置いて行くにも、誰かに頼むにしても、気が引ける。だから、どうしようかと悩んでいると言う。
「近くに、小さな水辺はあるんですが……なにせ沼なもので、どうしようかと……」
川が繋がり水が流れれば有効活用出来る場所なのは事実だが、現状では雨水が貯まっただけの沼だ。汚れが酷過ぎて、使えない。
「やっぱり、川まで行くしかないんじゃないか?俺が行くよ。袋も直して頂いた所だし!」
休んでいろと言われたばかりの、若い男が立ち上がる。
その裾を引いて、ナイが提案した。
「わたしが、使える様に……でき、ます。」

~そこから30分~

ナイは澱んだ水の中にいる。
下の方に何が入っているかもわからないその場所は、けれど底無しではない事が確認出来ていた。
だからこそざぱざぱと躊躇無く入り、そして体から光を溢す。

じわじわと、その周囲が清んだ色へと変わっていく。
水に伝わる光が、阻害する全てを浄化し光が届く範囲を広げる様に。

どれほどそうしていただろうか。
すっかり透明になったその場所を、沼と呼ぶ人間はもう居ないだろう。
様子を見に来た闇の救済者からは、どうやったのか、神の御使いなのか、感謝します救済者様と崇められてしまい、動くに動けなくなった。
結果として森に自生する果物の実や枝を採取し、持ち帰る仕事を共にする事で仲が深まった。気がする。多分。

何に使うのかと訊ねられれば「増やし、ます」と応える。
「増えますかね」
闇の救済者の青年は、不安を滲ませた声で呟いた。
「果物が成るには確かな土壌と、時間が必要になります」
話を促す様に首を傾げるナイから、青年が視線を逸らし見上げた空は、雲に覆われ太陽は薄い。
「もしも、誰かは食べられるのに、誰かは食べられない。そんな事が続けば争いの元になるのではないかと、俺は不安でなりません」
袋を握るその手に、力が籠る。
無力を嘆く唇を噛みながら、眉根を寄せる。
「これほどまでに我々に与えられる救済者様がたの善意を、我々は自分達のエゴと愚かさで、無に返してしまうかもしれない。それが、俺は不安で、仕方ないのです」
懺悔にも似た振り絞る声。
先の見えない不安と戦うには、この世界の心はあまりにも緩く、脆い。
それでも
「心配、ない、です」
そこにある光は、そう答える。
「出来るだけ、手伝い、ます。全部は、出来ないけど……力に、なり、ます」
だから大丈夫だと。
それは、青年が欲しい答えではなかったかもしれない。
けれど、真っ直ぐな赤い瞳が、絶対に大丈夫だと謳うから、青年はふすふすとくすぐったそうに笑って、袋を持ち直した。
「……ありがとうございます。救済者様」

この後、帰ったナイが種から木を増やし、木からさらに木を増やし、とりあえず5本程果物の木を作り、驚愕されたという事はここに記述しておこう。

グリモアベースへの帰り際、金髪の男へ挨拶をひとつ。
「わたしはまた、ここに、来ようと思い、ます」
だから、よろしくお願いしますね。とペコリ下げられた頭に、男は深く頭を下げる。
「ありがとう。貴殿の力は、間違いなく彼等の希望だ。」
果物も、来る度に一軒一軒の軒先に生やしていこうと思っていると話せば、なら分かり易いようにそれ用の地図を用意しておこうと微笑む。
そうして男から見れば小さなその手をしっかりと握ってから、彼はグリモアを展開させた。

「彼等と共に、感謝を。ただ、貴殿もあまり、無理はしないようにな?」
それじゃあ、また。
手を振る姿が消えれば、そこはグリモアベース。
次の助けを待つ誰かが、居る場所だ。

ナイは少しだけ辺りを見渡して、そっと歩き出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
視線をぐるり人探し
避難時に無理矢理抱えて飛んだ
おじいさんの姿を

文句を聞きに来ました

あとで聞くと言ったから
なんてそんな律儀な理由は後付け
他にも話したい事はあった

手荒な真似をしてすみませんでした
目の前で誰かが死ぬのを見たくなかった
…俺の勝手な自己満足で
あなたを助けた

言ってましたよね
自分は食い扶持を減らすだけだと
…違うと俺は思います

誰かと食べるご飯は
すごく美味しいんですよ

これはただの餓鬼の我儘ですが
誰か一人でもあなたに生きていて欲しいと思っている人がいるなら
…どうかその人の為に生きていてほしい

俺が生きる事を願ってくれた
あの子を想う

おじいさん
一緒におにぎりを食べましょうか

一週間程共に過ごして返る心算



黒羽は、人を探して居た。

自分が抱えて飛んだ、年老いた男の姿を。

「あっ」

他よりも少し高い場所で腕を組み、どっしりと構えている姿が目に入る。
「おじいさん」
近くへと来た黒羽の姿にちらりと視線をやれば、やはりすぐまた遠くに目を向ける。
「……何をしに来た、猟兵。わしは礼なんて言わんぞ」
拗ねた様にも映るその顔に、なんと言えば良いか分からず、黒羽の口からはあーとかうーとかそんな事が小さく漏れる。

「えっと……文句を、聞きに来ました……」
あとで聞くと、あの時言ったから。と、困った顔で言う黒羽を見て、男はふんと鼻を鳴らす。
「文句なんて、言える訳が無いだろうに」
遠くはしゃぐ声は、子供のものだ。柔らかくなる男の視線に、それがきっと彼の大事な者の声なのだろうと、気付く。
生きたくない者などいない。死にたい者などいる筈がない。
救われた命だと自覚をしている。それ故に、それに唾を吐ける程、この老人は愚かではないのだ。

「だけど……」
なんと言ったら良いだろうか。黒羽はごちゃごちゃな頭の中から言葉を拾う。
「貴方を掴んで飛んだのは、俺の勝手な、自己満足です。」
肉球をもにもにと合わせて言葉を探す。
「自己満足なんです。目の前で誰かが死ぬのを、見たくなかった。」
懺悔にも似た吐露は、老いた目を見つめるには重く、下を向いてしまいたくなった。
その時また、子供の笑い声が届いて前を向く。
生きる事を、願ってくれている人がいる。
あの時の俺にも。この人にも。
「俺、」
言葉を続けようとした黒羽を、皺の寄る手が遮った。

「猟兵。もう一度、飛んじゃあくれんか」

――――――――――――――――――――――――


ごうごうと空気を切る音が鳴る。
黒羽にしっかり抱えられた老人は、最初こそおっかなびっくりだった空の上を、今や全力で楽しんでいる。

「おい猟兵!向こうだ!もっと高く飛んでくれ!」
「わっ、飛びますから!あんまり大きく動かないで下さい、落としちゃいますから!」
言われるがままに高く高く上がっていく。
その眼下には、鬼の手で引っこ抜かれる木々の山、岩の山。動く植物の群れで、耕されている畑。そんな光景が広がっている。
光の力で見る見る伸びる木が、向こうには知らなかった泉が、見える。
山となった木を綺麗に斬って整える村人達の姿が、ずっと先ではどんどんこちらに伸びる川の道が、見える。見える。

腕の中の身体が震えるのが分かって、黒羽は慌てた。
寒いのかと高度を落とそうとしたその時、笑い声が耳に響く。

「ふは、はーーーっはっはっは!!」
細くて脆い身体から、力強い声が鳴る。

「うははは!わしらが、何っ年もかけて積み重ねた物が!猟兵の手じゃ、数日か!!」

年老いた男は大きく笑う。
「羨ましいのう!妬ましいのう!うははははは!!」

そのしゃがれた声は、泣いている様にも、心底喜んでいる様にも聞こえて、黒羽は言葉が見つからないまま空を飛ぶ。

無力を呪う。それも人だ。
ぽたぽたと彼の瞳から降る雨に、黒羽は祈る。
けれど、どうか

「ははっ、ははは!なぁ、猟兵。眩しくて何も見えやしねえ!あんたらは、わしらには眩しすぎるわい!」

弱さを呪わず、生きてくれ。

「ああ、ぁぁ、こんなに笑ったのは、生まれて初めてだ」

ありがとうよ。

小さく聞こえた言葉が、嬉しかったのか安堵したのか、心が熱くなって黒羽は、へにゃりと笑う。
はい、とも、いいえ、とも言えずに、半獣は男が満足するまで飛び続け、降りる頃ようやく訊ねられた。

「お腹、空きませんか?」
俺、おにぎり二つ持ってるんです。誰かと食べるご飯の方が美味しいって、知ってるんです。教えてもらったから。

差し出した包みを老人が受け取れば、ゆっくりと、話をしよう。

自分がまだもう少し、ここに居るつもりなこと。
あなたが、あなたの大好きな人達を心配しなくていいぐらい、手伝って行くつもりなこと。

そんな話を聞いて、願わくば
この餓鬼の我儘を、仕方ねえなと今度は笑って、受け入れてくれます様。

成功 🔵​🔵​🔴​

イージー・ブロークンハート
【POW】
滞在すんなら、5日ぐらいかな。本来はもっといるべきだろうけど、ごめんな。時たま寄るようにはするよ。根無草だし。
で、何するかだけど、そおね。周囲の地図の資源確保とか手伝いに行こうかな。木材とか食物の確保とかは力仕事だもんね。
…あとはそうだなあ、剣ぐらいだったらちょっと教えられるかな。せっかく立ち上がろうとした人たちだもんね。ちょっとでも助けになればいいよな。
…オレ、下町生まれの大家族育ちだからさ、こういうなんか皆でワイワイやって協力して生きようってとこって、すげー好きなんだよね。
出来る限りのことはするから、くじけずに立ち上がってさ、大変かもだけど、なるたけ、笑って生きてって欲しいな。



滞在期間は、5日。
それ以上は、根無し草としてちょっと怪しいから。

「とは言え、また来るよ。俺、ここの雰囲気、好きだしな。手伝う事も残ってるだろうし。」
わいのわいのと身を寄せ合って、肩を組んで笑う大人も、母親に怒られながら逃げる子供も、めぇめぇ鳴く羊を撫でる兄ちゃんも、なんだかとても、懐かしい。

一日目の終わり、イージーが獲ってきた猪やらでかい蛇やらを捌いて囲んで、簡素な宴が始まっている。調味料は貴重品だが、今は猟兵が居るから大体全部が美味しく食べられる。

「おっ、兄ちゃんどっちの村から来たんだ!?」
肩を組まれて訊ねられたイージーは、村?!と言う意味を込めて「へぁっ!?」と返事をした。
まぁ肩を組んで来たおっさんに近い兄ちゃんに、そんな事は関係無い訳だが。
「聞いたか!このでけえ猪、救済者様が獲って来てくれたんだとよ!すげえよなぁ!」
いや~~それ俺です~~とは言えず、ははは、と曖昧に笑うイージーの背中を、村人がバンバン叩く。
「喰え喰え、兄ちゃん細いし、しっかり食って、明日からまた頑張ろうな!」
持っていた肉をイージーの皿に追加で置いて、おっさんに近い兄ちゃんは笑って去って行く。
「…………えっ、俺もしてして猟兵だと思われてない?」
パリン、膝を付くイージー。
いやでも仕方なく無い?だって硝子剣ないとモブだもん。曇空は語る。

こうして、村人と間違えられ続けたイージーは、結局村人と同じ場所にむぎゅっとまとまって、眠る事になった。
子供の盛大な寝がえりで、腹に見事な踵落としが入って起きる。
「お、おっま、豪快~~~こいつは将来有望だな~~~ほら腹冷やすぞーー」
言いながら、蹴とばされていた毛布を掛け直す。
屋根はない。だから星がよく見える。

この共同体の姿が、在り方が、なんだかひどく懐かしい。
郷愁だろうか?好ましいと思えるのは。

なんだが居心地が悪い気がして、毛布から抜け出そうと試みる。
が、さっきの蹴りを入れて来た子供に服を掴まれていて、抜け出せない。
「……くっ、こいつ案外力が強いな!?」
起こさない様にもそもそしてみたが、やはりダメだ。
諦めて、そのまま仰向けに寝る。

あの日も、こんな風に掴まれていたら、ふらっと消えたりしなかったんだろうか。

その考えに首を振る。
いやいや、きっと出て行った。
例えその日出て行かずとも、別な日に。

5日後には姿を消すのと同じように。

星を見上げて目を閉じる。
明日は、家を造る手伝いだ。
材料は確保出来たから、器用なら手伝ってくれと言われている。
そんなに器用でも無いけれど、まぁ、人並みには出来て、人並みよりも力はあるのだ。
頑張ろう。

家が一区切りついたら、有志に剣でも教えてみようか。
どこまで役に立つかは分からないけど、知っていて損は無い筈だ。

折角だから、今度は出来れば、出来るだけ長く笑っていて欲しい。

そんな事を思いながら、朝日が昇るまで夢を見る。
二日目の朝日まで、あと5時間。

ついでに猟兵だと気付かれて、平謝りされるまでは、あと2日。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルーク・テオフィルス
【炎心】
アドリブ◎
*滞在期間1週間

力仕事はできないから
かわりにどんな木でもパンケーキみたいに楽に斬れる斧を
想像から創造してジーク達に渡す
ジークは僕のぶんも3倍がんばるんだぞ!
ジークが頑張っている間女の人や子供たちと一緒に
教わりながらできることをしよう
こういうのは初めてだけど…
少しでも力になれたらいいな

同じ年の子達と初めて過ごしたから
お別れは寂しいな…
だからせめて2冊の本を創造して子供たちに渡そう
1冊は僕らの旅の記憶
開けばエフェクトの出る魔法の本
もう1冊は猟兵たちとこの街のこれからの本
見ていて
想いを込めてページをめくれば真っ白のページに絵が浮かぶ
希望をこれからも繋げるように
これは僕からの贈り物



「それじゃあ、こんな話をするとしよう」
夜、眠る前。
焚火を囲みながら子供達がきらきらとした瞳でルークを見上げる。

語られるのは彼の経験談。
けれど、この世界の子供にとってそれは、夢の中よりも奇想天外な魔法の物語だ。
ドキドキする冒険譚。怖い化物と戦った話。悲しかった事、嬉しかった事。
泣きそうな女の子も、俺だって戦えると言いたげな男の子も、想像すら出来なくてきょとんとする幼い子も、ルークの話に夢中で耳を傾ける。

言葉は力だ。
夢は命だ。
希望は光だ。
ひとつ話をする度に、彼らの瞳に陽が灯る。

お別れの前夜。
子供達がいつも通りやって来る。
「きゅうさいしゃさま、あした、かえっちゃうんでしょう?」
おにいさんからきいたのよ。と、裾を握った子供は琥珀を見上げる。
冒険譚が大好きな、男の子がぐずる。
「嫌だよ!俺達もっと、救済者様の話聞きてえもん!」
少し引っ込み事案な少年が、それに続いて声を上げる。
「そうだよ、ねぇ、もっと居てよ救済者様……!」
救済者様なら出来るだろ!だって救済者様だもん!
奇跡を起こした猟兵に、そう言う子供は愚かだろうか。

「止めなさいな、ほらみんな。救済者様困っているわよ?」
泣き出した男の子をなだめながら、ルークと年が近い女の子は、困った顔で笑う。
「ごめんなさいね、救済者様。この子達救済者様の物語が、光の様に好きだから」
取り上げられる様で嫌だと、我儘を言うの。と、彼女は優しく子共たちを撫でながら宥めていく。

ルークは、思ったかもしれない。

まだ、居てもいいんじゃないか。
だって、こんなにも彼らは、救いを求めている
まだ、早いんじゃないか。
もう少しだけなら。

「いいえ、いいえ。救済者様」
揺れる琥珀と目を合わせ、女の子は首を振る。
「いいのです。私達は、この別れを、笑って迎えられないけれど」
よく見ればその手には、蔦と花とを編んで作られた不格好な紐が、握られていた。
「それは、悪い事では、ないでしょう?」

よかったら、と渡されたそれは、ちっとも整ってなくて、綺麗とは言えなくて、むしろ格好悪いかもしれない。
「子供達が、救済者様を喜ばせたいんだって、がんばって集めたんですって」
ね。と子供達に優しい声が降れば、それぞれがこくこくと強く、弱く、頷いた。
「あなたの事が、大好きだって。その気持ちだけ、良ければ連れて行ってくださいな、ルークさん」
ね。と救済者の目を見て笑う女の子は、ほらみんな、我儘はだめよ。と、子供達を落ち着かせる為に、顔を下げた。

その手にあった不格好な紐を、小さな手が受け取って、ルークへと渡す。
「ねぇ、きゅーさいしゃさま。きょうは、どんなおはなし?」


次の日、ろくに眠れないまま迎えた朝日が目に痛い。
大事に抱えた、本が二冊。

「この本を、あげる。だから、皆で、喧嘩せずに仲良く使って。約束だ」
子供達へ渡されたその本の、1つはルークとジークの冒険譚。
捲れば、エフェクトがこぼれ落ちる魔法の絵本。

「開いてごらん?」
促されるまま少年が本を開けると
ぽん!と、軽快な音と共に鳥が空へと飛び立ち消えた。
次のページを開けば、光がキラキラと宙を舞い、さらに開けばページの上へと花が降り、別なページでは僅かに熱持つ火が点る。

見入る男の子達から一歩引いて、女の子が裾を引く。
「もういっこ、は?」
少女の問いに、ルークは笑って本を渡す。
「開いてみるかい?」
「うん!」
少女が本を開くと、そこにはただ、上質な紙が在るだけだ。

ルークを見上げ首を傾げる少女から、見ていてと本を受け取り、ルークが願いを込めてもう一度本を開く。

そこには、村人が無事に避難所に到着する姿と、手助けをする猟兵達の姿が描かれている。
次のページを開けば、新しい村を共に造る猟兵と村人達の姿が浮かぶ。

駆けまわる子狼。
ドレスで河の道を造る者。それを手伝う者。
綺麗な泉を作る者。木を引っこ抜く鬼。
皆で家を建てている姿。
森の中を歩く者。空を飛ぶ者。植物を操り畑を耕す者。
子供達と共に在る者。

さっきまで何も無かったのにと、本とルークを交互に見る少女の頭を、優しく撫でる。
「その本は、想いを込めてページを捲るんだ」

言われるがまま、少女は強く何かを願う。

真白のページに描かれたのは、皆で囲む焚火の絵。
猟兵も、子供も、大人も、皆が笑顔で囲む夜の陽溜まり。
楽しかった思い出。夢の様な日。

「……それは、僕ら猟兵達と、この街の、これからの本」
しゃがみ、琥珀の目を少女に合わす。
「辛い時、哀しい時、どうしても挫けそうな時、その本を開いてごらん。きっと、希望を見失ったりしないから」

本を大事に抱えて、子供は笑う。
「わかった!かなしいことがあったら、みんなで、みるね!」
うん。約束だよ。
指切りをして、立ち上がる。

「やっべ、姫さん、行きますよ!このままじゃ行列が出来そうだ!」
「わかってるよジーク!それじゃあ、僕たちはもう行くよ。皆、くれぐれも仲良くね!」

ルークは大きく手を振って、次へと向かう。
もう充分に、この街は整い始めた。
だから、ここに止まり続ける訳にはいかない。

不器用に編まれた糸に、願いをかける。

さぁ、先に進まなくては。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジークムンド・コンラッド
【炎心】
アドリブ◎
*滞在期間1週間

力仕事なら得意分野だ
はいはい、3倍どころか5倍でも10倍でも働いてみせますよ
姫さんから貰った斧で必要な木材を切り出そう
運ぶのも任せな
なんせ俺は『力もち』だからな
疲れている人の荷物もひょいっととって
重い物を率先して運んでやる
けどまぁ組み立てたり何なりは任せるぜ
そういう学はないんでな

戻ったら同い年の奴らと遊ぶ姫さんを眺めつつ
こっちに来るヤツがいるなら力いっぱい遊んでやるか
…ああ、俺の記憶じゃねえのに、懐かしいな…

姫さんがずっとここで暮らしたいならいてもいいんですけどね
そういうわけにもいかねえか
遊んだヤツらの頭をわしゃわしゃ撫でて
また、何かあったら呼べよ



「……長く居過ぎたんじゃないですかねぇ」
無闇に傷つく必要は無いと思うけれど、すると言ったら聞かないのだから、仕方ない。
膝を抱えて蹲る、赤い髪をぽすぽすと撫でる。
「俺は、姫さんがずっとここで暮らしたいなら止めやしませんよ」

少しして、手の下の頭が横に振られる。
「そういうわけには、いきやしませんね。」
頷きに揺れる髪を、また撫でる。
分かっている。
彼は、故郷の様子を今も気にかけている。

だから、ここで歩みを止める訳にはいかないと、お互いに分かっている。
「難儀ですね」
優しすぎるんですよと笑う。
「おまえだって……」
「はい?」
呟く声に、首を傾げる。
「……おまえだって、彼らのこと、好きだろ……」
僕だけがこうな訳じゃないと、不満が聞こえた。

「ははっ、そりゃそうですよ。村人も、闇の救済者も、気の良いやつらです。」
裏の無い者ばかりだ。無垢とは言えない。純粋でもない。それでも誰しもが許し合い生きている様は、植え付けられた過去の記憶からすれば、眩しいぐらいだった。

こんな環境なら、と思いかけて首を振る。
隣の芝生は青いものだ。
こんな環境でも、従者は死んだかもしれないし、彼が逃げるしかない何かがあったかもしれない。

「子共達だって、可愛いもんですよ。慣れた今じゃ、放り投げてくれってやかましいぐらいにまとわりついて来る。元気がいいのはいいんですがね?いかんせんうっかり踏んだり、ぶつかったりしないかって、気が気じゃない」

ふす、小さく笑った。
経験の無い記憶が、懐かしいと謳うものだから。
じわと広がる記憶の陽が、心をやわく揺するのだ。

「……さぁ、姫さん。起きたら本を作るんでしょう。さっさと寝ますよ」
「うん……」


そうしてやって来た次の日は、いつもと変わらない天気だった。
雲が厚くて、陽は遠い。
ダークセイヴァーという世界では、いつも通りの。

本を渡す姿を見守る。

焚火を背に、語る姿を思い出す。

この記憶が見られなかった光景を、自分の目が記憶に刻む。
子供が一人、駆け寄って来た。
思わず、しゃがんで問いかける。
「どうした?」
子共は答えない。
ただ首を横に振る。

記憶に、有る様な気がした。

わしわしと、小さな頭を撫でる。
子共は答えられずに、泣いている。

「また、何かあったら、呼べよ」
いつだって呼んで良いんだと、その時の記憶は言ったらしい。

「姫さんと一緒に、駆け付けてやるから」
すぐに駆け付けてやるからと。
顔を上げた子供は、本当か、と問う。

「本当だ。なんなら飛んでくるぜ?」
こんな風にな!と、子供を持ち上げぽーんと投げる。
わぁーー!
空へ手を伸ばす小さな体を受け止めて、また投げる。
きゃー わーー
笑い声が含まれた頃、ジークも笑いながら子供を地面へと降ろす。

「どうだ、心強いだろ?」
うん!と今度は明るく上げた頭をわしわしと撫でて、ほら行けと背を押す。
本から目を離し、遊んでほしそうな子供と目が合った。

「やっべ、姫さん、行きますよ!このままじゃ行列が出来そうだ!」
「わかってるよジーク!それじゃあ、僕たちはもう行くよ。皆、くれぐれも仲良くね!」



―――――――――――――――――――――――

1日
1週間
半年

救済者は、やがてこの場を去って行く。
それを素直に喜べる者は、少ないだろう。
不安はいつだって、尽きないのだから。

けれど、願う。

きっとお互いに、願う。

どうか
旅立ちの日は、明日は
晴れでありますように、と。

救済者は、願う。
救済者へ、願う。

どうか彼等に
灯、有れかし、と。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月16日


挿絵イラスト