晩夏の車窓から~豪華列車でスイーツを~
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夏も盛りを過ぎたとはいえ、まだまだ暑さの残る9月。
続く暑さや気温の上下にぐったりしている人もいるのではないだろうか。
そんな夏の疲れを癒すために、ひとつ短い旅行はどうだろうか?
「スイーツ列車というものがあってね」
三池・葛士郞(三下系クズイメン・f18588)が、ふぁさりとキザを通り越してわざとらしく前髪をかき上げながら、見目麗しく装飾されたパンフレットを差し出してきた。
そこには『豪華列車でスイーツのフルコースを楽しもう』という主旨の案内が書かれているようだ。
「このためだけに誂えられた専用の、内装も豪華で美しい列車の中で、目にも舌にも楽しいスイーツのフルコースをいただく――。素晴らしいと思わないかい? うん、まさにイケメンのボクに相応しい旅行だ!」
鼻息も荒く胸を張る葛士郎だが、言動の残念さゆえにアーハイハイと適当に猟兵にあしらわれて3秒後には肩を落としているので気にしないでもらいたい。
ともあれこの旅行。
本来ならそこそこお高いものではあるのだが、今回はUDCのはからいで猟兵たちの貸切、かつご招待として無料で参加できるという。
「……ええと、まぁ、つまりだね。せっかくだし行ってみないか、というお誘いなわけさ」
別にボクはゴージャズには慣れているし一人では不安だとか心細いとかじゃないけれどね、たまにはこういう優雅なひとときもいいんじゃないかと思っただけで云々。
葛士郎は何か一人で言い訳じみたことをだらだらと垂れ流しているようだが、それはともかくとして。
列車の中という非日常で、その内装やサービスの素晴らしさで演出される空間ごと楽しむ、おいしい旅行。
一人でも誰かと一緒でも、きっと楽しむことができるだろう。
夏の終わり、秋の手前。
季節の狭間の景色を車窓から眺めながら、上質なスイーツと贅沢なひとときを味わってみるのはいかがだろうか。
江戸川壱号
※このシナリオは【日常】の章のみでオブリビオンとの戦闘が発生しないため、獲得EXP・WPが少なめとなります。
お久しぶりです江戸川です。
今回は1章日常のみのシナリオで、豪華列車でスイーツフルコースを食べようというものになります。
基本的には乗車後、スイーツが出されるあたりから描写予定。
某九州の某とある列車をイメージしていただければよいかと。
フルコースのため、プレイングはメニューの1~2個に絞った方が良いかもしれません。
◆お友達と参加される場合
プレイング冒頭に同行者の【ID】、または【グループ名】を記載してください。
また、できるだけプレイング失効日が同じ日になるように送信してください。
(8:31~翌日8:30までの間)
◆座席について
・1~2名様用の個室
・食堂車のようなオープンなテーブル席
・並んで食べられるソファ席
があります。
指定があればプレイングにその旨お書き添えください。
◆飲み物について
珈琲、紅茶、ソフトドリンク各種。
指定があればプレイングにその旨お書き添えください。
◆お品書き
<軽食(弁当)>
豚肉とサツマイモの炊き込みご飯
牛すね肉の煮込み
鮮魚のカルパッチョと地野菜のサラダ
南瓜の冷製スープ
※木製の特製弁当箱にて提供
<スイーツ1品目>
マンゴーとパイナップルのカクテル
パッションフルーツの泡ソースを添えて
※カクテルグラスで提供
<スイーツ2品目>
バニラジェラートを蜜柑とチョコレートで彩って
※スープボウルのような大きめの深いガラス皿で提供
<スイーツ3品目>
リコッタチーズのレモン風味ケーキ
マスカット、ブドウ、梨を添えて
※陶器皿で提供
ソースや花びらで綺麗に装飾されています
<ミニャルディーズ>
青柚子のタルト
南瓜のパイ
抹茶と黒糖のマカロン
※3つに区切られた長方形の皿で提供
一口サイズのスイーツ3種盛
◆他
案内に居た三池・葛士郎も隅っこにいます。
プレイングにて呼ばれれば登場しますが呼ばれなければ空気と一体化していますのでご安心ください。
★プレイング受付期間★
9月6日(金)8:31から受付開始とさせていただきます。
第1章 日常
『【Q】旅行とかどうでしょう』
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POW : とにかく気力体力の続く限り、旅行先を満喫する
SPD : 旅行先で目ざとく面白いものを見つけて楽しむ
WIZ : 事前に下調べを行い、綿密に計画を立てて楽しむ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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豪華列車と銘打つだけあって、その列車は確かに『特別感』に溢れていた。
専用乗り場へと案内された猟兵達がまず目にするのは、上品に輝く黄金色の車輌である。
ひとつ開いた乗車口の足元には赤い絨毯が引かれ、その傍らではスタッフが乗り込む乗客ひとりひとりを笑顔で迎えているのだった。
中に入れば高級レストランの給仕のような黒のスラックスにベストのスタッフが席に案内してくれる。
だが自分の席につく前に、とても列車の中とは思えないほど美しく彩られた内装に目を奪われる者も珍しくなかった。
花を思わせる装飾を施した格天井が頭上を彩り、窓を飾るのは組子を用いた戸と御簾である。通路に出れば、ドアのガラス部分をステンドグラスが覆っているのを目にすることもできるだろう。
さすがに広さはないものの、備え付けられた机も椅子も上質で、走っていなければここが電車の中であることを忘れてしまいそうな空間だった。
なにしろ目に見える部分には、設備を留めるネジにまで専用のロゴが施されているという徹底ぶりである。
座席も向かい合わせの二人掛けの席四人掛けの席が並ぶ明るくオープンなものから、組子の透かし戸で区切られた個室まで幅広い。
丁寧なスタッフの対応も、整えられた設備も、美しく飾られた内装も、すべては乗客に『上質な非日常』というサービスを提供するためのもの。
もちろん、この後に出されるスイーツフルコースもまた乗客を上質な非日常へと誘ってくれることだろう。
期待高まる猟兵たちを乗せて、貸切スイーツ列車はいよいよ出発するのだった――。
ラフィ・シザー
アナンシ(f17900)とアリア(f19358)と♪
スイーツのフルコースを食べられるなんて幸せだぜ〜♪
アナンシとアリアと一緒だからさらに嬉しい!
あ、あのソファーの席なら三人でも座れそうだな!
ふふ、アリアの言ってるのはマザーグースだな知ってるぜ。
俺は男の子だけど甘いものでできたりしないかな…それくらい甘いものは好きだし。
あ、二人とも紅茶を飲むなら俺が入れるぜ。紅茶は時計ウサギの嗜みだからな♪
あぁ、ほんとどれもこれも美味しいし飾り付けも綺麗だ…俺はこのジェラートと蜜柑とチョコレートのやつが好きだな。アリアみたいに上手に表現はできないけれど…俺はこれが一番好きだな。
アリア・モーント
アナンシパパ(f17900)
ラフィお兄さま(f19461)と
パパ、お兄さま
女の子は甘いものと可愛いスパイスそして秘密で出来ているのよ?
ご存知かしら?ご存知よね!
男の子は子犬のしっぽよ、パパ
でもお兄さまはうさぎのしっぽね♪
きらきら素敵な食堂車もいいけれど、ふわふわなソファのお席も魅力的なのよ
わたし、飲み物はお兄さまのおすすめ紅茶がいいの
ミルクたっぷりシュガー控えめで
淑女ですもの
パパとお兄さまはどれがお好きかしら?
どれもとっても美味しいのよ?
でもわたしはやっぱりチーズケーキ!
レモンでさっぱり
可愛いフルーツが甘さを補って
お花とソースが可愛くて
小さなお花畑を食べてるみたい
ふふ、もうお腹いっぱいよ、パパ
アナンシ・メイスフィールド
アリア君f19358、ラフィ君f19461と共に
二人とも転ばぬ様気を付けるのだよと笑いながら二人の後を追いつつソファに
ふふ、知って居るよ可愛いレディ
女の子は素敵な物、男の子は…何だったかね?
でもラフィ君も同じ位『すてきなもの』で出来ていると思うのだよ
後そうだね…私は紅茶で出来ている事にしてみようか
ラフィ君、勧めの紅茶はどれかね?とメニューを広げ淹れて貰った紅茶を口に運ぼう
私は先の牛肉も美味しかったけれども…このマンゴーとパイナップルのカクテルは爽やかな甘みがとても好ましく思うのだよ…と
二人とも足りるかね?
足りなければ追加を頼むゆえ言ってくれ給えよ
今日は可愛い子達の笑顔を見る為来たのだからね
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美しく磨かれた床の上を跳ねるように歩いてくる人影がある。
軽やかに一歩を踏み出すたび黒髪がサラリと揺れて、同時に形の良い頭から生えている兎の耳もまたひよんと持ち主の弾む心を表すかのように揺れていた。
甘い物に目がないラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)にとって、スイーツのフルコースという言葉は幸せの塊と同義で、しかもそれを大好きな二人と一緒に味わえるというのだから、何倍も嬉しい。
心も足取りも、ついでに耳も、弾んでしまうのも当然なのだった。
はやくはやくと二人を急かしていたラフィは、先導してくれるスタッフの先にちょうど良さそうなソファ席を見つけて、身につけた鋏の刃と似た色の瞳を輝かせる。
「あ、あのソファーの席なら三人でも座れそうだな!」
ラフィが指さしたのは、コーナーを利用して2人がけのソファと1人掛けのソファを90度に並べた席だった。
これまでに幾つかの席を通り過ぎてきたアリア・モーント(四片の歌姫・f19358)も、美しい模様が描かれた座り心地の良さそうなソファを見て小さく何度か頷いてみせる。
「きらきら素敵な食堂車もいいけれど、ふわふわなソファのお席も魅力的なのよ」
ではあちらにご案内しますね。と請け負ってくれたスタッフを追い越しはしないものの、そわそわとはしゃぐように歩を進める二人を見て笑みを深めたのは、少し後ろを歩いていたアナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)だ。
「二人とも転ばぬよう気を付けるのだよ」
黒のスーツにインバネスコートという出で立ちは、豪奢なこの列車の中にいると妙にしっくりと馴染む。
案内してくれたスタッフへの対応もそつなく上品にこなしたアナンシは、ラフィとアリアが並んで座るのを見届けた後で1人掛けのソファへと座った。
ラフィとアリアはさっそくテーブルの上に置かれた本日のメニュー表を見て楽しげに語り合っている。
アナンシも目を通してみれば、聞いていた通りとはいえ最初に供される軽食以外はみごとにすべてスイーツメニューばかりだ。
「パパ、お兄さま。女の子は甘いものと可愛いスパイス、そして秘密で出来ているのよ? ご存知かしら? ご存知よね!」
すると並ぶメニューが琴線に触れたのだろうか、アリアが歌うように言葉を並べて問いかけてくる。
「ふふ、もちろん知って居るよ。可愛いレディ」
「アリアの言ってるのはマザーグースだな。ふふ、俺だって知ってるぜ」
えへんと胸を張って応えるラフィと、目元を和ませて微笑むアナンシ。
艶やかな赤い髪に、雨上がりの紫陽花を閉じ込めたような瞳を輝かせるアリアを見ていると、外国に古くから伝わる童謡の一節も、なるほどと思わせられた。
「女の子は素敵なもの、男の子は……何だったかね?」
「男の子は子犬のしっぽよ、パパ」
カエルにカタツムリ、それから子犬のしっぽ。
きらきらした言葉が並ぶ女の子に比べて、男の子を形作るものはなかなか辛辣である。
「でもお兄さまはうさぎのしっぽね♪」
くすくすと笑いながらアリアの目が追うのは、ラフィの頭についたウサギの耳と、それから小さな執事のような格好からぴょこんと生えるまん丸のしっぽだ。
「たしかに、うさぎのしっぽの方が似合うがね。ラフィ君も同じ位『すてきなもの』で出来ていると思うのだよ」
アナンシがにこやかに本心から告げたけれども、ラフィは子犬かウサギかよりも、別の部分が気になる様子。
「俺は男の子だけど、甘いものでできたりしないかな……。それくらい甘いものは好きだし」
なにしろラフィはカエルや子犬のしっぽより、よっぽど甘いものを追いかけているので。
「ふふ、それも素敵ね! どんなお菓子でできているかしら?」
「うーん、どれも好きだから難しいなー。……俺たちが甘いもので出来てるなら、アナンシは?」
不意に話を向けられて少しだけアナンシは目を瞠る。
かの童謡では男の人は何で出来ていると言っていただろうか?
ため息と流し目と嘘の涙――。
どこかミステリアスな雰囲気のアナンシに似合ってしまいそうで、あまり洒落にならないかもしれないラインナップだ。
「そうだね……。では、私は紅茶で出来ている事にしてみようか」
それを彼自身が知っていたかどうかは分からないが、アナンシはにこりと目を細めて笑みを浮かべると、そんな風に答えたのだった。
ともあれ列車は進んで、料理が運ばれてくる。
最初はお弁当形式の軽食。
それが終わるとあとはスイーツが1皿ずつ順番に。
食事とスイーツの共として選べる飲み物は幾つも種類があったが、3人が選んだのは当然のように紅茶だ。
「わたし、飲み物はお兄さまのおすすめの紅茶がいいの」
「そうだね、私もだ。ラフィ君、勧めの紅茶はどれかね?」
飲み物だけが書かれたメニューには、紅茶も一種類ではなく幾つも名前が並んでいる。
それを開いて尋ねられたラフィは、ピンと閃いて二人に言った。
「そうだ! 二人とも紅茶を飲むなら俺が入れるぜ。紅茶は時計ウサギの嗜みだからな♪」
時計ウサギと紅茶はなかなか切って離せない。ラフィ自身も紅茶は好きだし、淹れ方にも自信がある。
これから出てくるスイーツたちを味わうのに、最も相応しい紅茶をみんなで楽しみたい。
「まぁ、素敵。素敵ね! お兄さまの紅茶で、列車の中でお茶会が開けるなんて」
「ああ、とても楽しみだ」
普通は列車のスタッフが淹れるのだろうけど、大事なのはお客様に最高の思い出を作っていただくこと。
かわいいお客様の申し出に、テーブルについていたスタッフはにこやかに応えて紅茶を淹れるセットを用意してくれた。
ラフィの手によって淹れられた紅茶は、とても香りがよいのに主張しすぎない、これからのスイーツにピッタリなもの。
「わたしはミルクたっぷり、シュガー控えめでお願いするわ。淑女ですもの」
それぞれにミルクと砂糖を必要なだけいれたら、いよいよスイーツの登場だ。
車窓を流れゆく景色を見ながらいただく、美味しい紅茶と美味しいスイーツ。
楽しく美味しい時間はあっという間で、気付けば最後のミニャルディーズまですっかり3人のお腹のなか、という状況でラフィの紅茶をお供に語るおしゃべりは自然とスイーツの感想になった。
「どれもとっても美味しいのよ?」
そう前置きした上で、アリアは紫陽花色に染めた氷砂糖のようにキラキラの瞳でメニュー欄の下から2番目を指差す。
「でもわたしはやっぱりチーズケーキ! レモンでさっぱり、可愛いフルーツが甘さを補って、お花とソースが可愛くて。小さなお花畑を食べてるみたいだったわ。――パパとお兄さまは、どれがお好きかしら?」
ラフィも食べたスイーツの余韻に浸りながらほぅっと溜息と共に答えを紡ぐ。
「あぁ、ほんとどれもこれも美味しいし。飾り付けも綺麗だ。……俺はこのジェラートと蜜柑とチョコレートのやつが好きだな。アリアみたいに上手に表現はできないけれど……うん、俺はこれが一番好きだな」
ラフィが気に入ったのは2品目。
そして紅茶の香りをゆっくりと堪能していたアナンシは、少しばかり考えたあとで長い指をメニューの上へと滑らせる。
「私は先の牛肉の煮込みも美味しかったけれども……このマンゴーとパイナップルのカクテルは、爽やかな甘みがとても好ましく思うのだよ」
そこでふと顔をあげたアナンシはラフィとアリアの顔をよく見ながら問いかけた。
「……と、二人とも足りたかね? 足りなければ追加を頼むゆえ言ってくれ給えよ」
落ち着いた大人であるアナンシと違って、二人は食べ盛りの子供である。
ここへ来たのだって、アナンシの主たる目的は可愛い子達の笑顔を見る為。
スイーツの味は満足したようだが、量が足りたかは分からない。
満面の笑みで終えてもらいたくて問えば、アリアとラフィは顔を見合わせた後でくすくすと笑いだす。
「ふふ、もうお腹いっぱいよ、パパ」
「そうそう、これ以上は入らないって」
その二人の笑顔をみれば、己の目的は充分に果たされたと言ってよく。
味わったスイーツと同じかそれ以上の幸福と楽しさをアナンシにもたらしてくれたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宙夢・拓未
◎▼
個室で一人でゆっくり
最初から最後まで、全部美味しくいただくが
一番印象に残るのは3品目のレモン風味ケーキだな
テーブルへ提供された時に、思わずこう尋ねる
「写真撮っていいですか?」
すぐにフォークで崩してしまうには、あまりに綺麗だったから
許可がとれたら、デジカメで【撮影】
しばらく目で楽しんだ後、そっとフォークでブドウを刺す
「……いただきます」
口に運び噛みしめれば、甘い果汁が広がる
梨もマスカットも、幸せをぎゅっと閉じ込めたよう
ケーキは、優しい甘さのリコッタチーズと、爽やかなレモンのアクセント
(画像はずっと保存しておけるけど……これを味わえるのは、今この時だけ、か)
一口一口、じっくり、幸せに浸ろう
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宙夢・拓未(未知の運び手・f03032)が案内されたのは、組子細工の透かし戸で区切られた個室だった。
他の乗客やスタッフの様子があまり気にならない席であり、落ち着いた内装なこともあって拓未は安心して優雅な列車の旅と美味しいスイーツに集中することができた。
スイーツはどれも綺麗で美味しかったけれど、拓未にとって一番印象に残って、見た目も味も美味しいと思ったのは3品目である。
真っ白な陶器の皿をキャンバスにしてまるで一幅の絵画のように飾られているのは、レモン風味のリコッタチーズケーキ。
細長く上品にカットされたケーキの周りを果汁を使ったソースが彩り、薄くカットされたブドウや梨、そして花びらが飾り立てる。
「写真撮っていいですか?」
あまりに綺麗で、すぐに崩してしまうのは勿体なくて。
持ってきてくれたスタッフに思わず聞くと快く了承してくれたので、持ってきていたデジタルカメラで念入りに撮影する。
ひとしきり写真をとって思い出として残した拓未は、自らの目でもしばし堪能した後で慎重にフォークを取った。
「……いただきます」
まずはフォークを伸ばしたのは、周りを飾るぶどうから。
そっとフォークをさせば瑞々しい果肉が押されてじわりと果汁が滲み出てくる。
口に運んでゆっくりと噛みしめると、濃い甘みが口の中に広がった。
スイーツではないのに驚くほど甘くて、いま食べたのは本当にブドウかと疑いそうになる。
続いて食べた梨もマスカットも綺麗に円に切られていて、やはり味が濃い。
まるでぎゅっと幸せを閉じ込めたように感じられた。
そうしてひととおり果物を味見した拓未は、ついにメインであるチーズケーキへとのばす。
フォークがふんわりと沈み込んでいくそれは、どうやらスフレとレアを層にして重ねたもののようだった。
一口分を切って崩さないように口に入れると、ほろりと崩れるスフレ部分ととろけるようなレアの部分が絶妙な食感を生み出す。
二つの食感を楽しみながらそうっと噛みしめれば、リコッタチーズの優しい甘さにレモンの風味が爽やかなアクセントとなって、しっかり甘さとチーズの味を感じるのにくどくない。
噛みしめている時は濃厚に思えるのに、飲み込んだ後はさっぱりとしていて、これならいくらでも食べられそうな気がした。
(「画像はずっと保存しておけるけど……これを味わえるのは、今この時だけ、か」)
もちろん、それはそれでいいものなのだけれど。
拓未は思い出を刻むように一口一口をじっくりと味わい、幸せに浸るのだった。
メインが終わり、紅茶のお代わりをもらったところで出てきたミニャルディーズに好物のマカロンがちょこんと載っているのをみて、もう一度幸せを噛みしめることになるのは、もう少し後のこと。
大成功
🔵🔵🔵
薄荷・千夜子
【朝野・向日葵(f18432)と】
ふふふ、豪華列車にスイーツフルコースも初めてなので楽しみですねぇ、ひま君!
とはいえ、列車も初めてですし、これは……どこに座れば???
あ!葛士郎さんにお伺いすれば分かるのでは?でお声がけに行きますね
もしよければご一緒にいかがでしょう?
確かにご褒美スイーツな感じもありますね!
スイーツどれも楽しみにしてたのですが、私は一番楽しみにしてたのが『バニラジェラートを蜜柑とチョコレートで彩って』なんですよね、チョコに目がなくて!
美味しいのは間違いないと思ってましたが最高ですね!!
葛士郎さんとひま君は気になるメニューはありましたか?
朝野・向日葵
薄荷・千夜子(f17474)と
「いやぁこんなゴージャスな旅が出来るなんて猟兵やっててよかった、三池君には感謝だな」
特製弁当に舌鼓を打ちつつ
「他の皆もこれれば良かったけどねぇ、皆の分まで楽しもう」
これにお酒もあれば言うことをないんだがねぇと言いながらも大満足といった顔で緑茶を頂きます
「特に千夜子ちゃんはエンパイアウォーで頑張ってたからな、たまには楽しんでもバチは当たらないさ」次の頑張りへの励みだな!と言いながらも
「あ、三池君このじぇらーと?ってなに?すごい美味そう」
いい話をしながらもバニラジェラートに手を伸ばす姿はお前が一番楽しんでないか?と言う突っ込みを受けそうに旅を楽しみます
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「ふふふ、豪華列車にスイーツフルコースも初めてなので楽しみですねぇ、ひま君!」
「うんうん。いやぁ、こんなゴージャスな旅が出来るなんて猟兵やっててよかった。三池君には感謝だな」
楽しげに語らいながら列車の前にやってきたのは、薄荷・千夜子(鷹匠・f17474)と朝野・向日葵(刀を抜かない侍・f18432)の二人組だ。
金色の列車を見上げたり窓から中を覗き込んだりしていた千夜子は、いざ中へ入ろうという段になってハテと首を傾げる。
「とはいえ、列車も初めてですし、これは……どこに座れば???」
「勝手に座っていいのか、決まってるのか……どっちだろうねぇ?」
二人でどうしたものかと悩んでいた時、この旅の話を持ってきた三池・葛士郎(三下系クズイメン・f18588)が入口の近くに立っているのを見つけ、千夜子が向日葵にそちらを指し示した。
「あ! 葛士郎さんにお伺いすれば分かるのでは?」
「なるほど。ちょっと聞いてみようか」
何しろ話を持ってきた当人だ。きっとこの列車のサービス形式にも詳しいだろう。
そう思って聞きにいけば、なんだか挙動不審だった。
「席? ……ま、まぁボクはこういうものには慣れているからね! もちろん分かっているとも! ええと、そう。こういう時にはスタッフの案内に従うのさ。さすればしかるべき席に案内してくれる! はずだ!」
自身満々そうな態度の割りに不安の残る物言いである。
ともあれスタッフに声をかければ、どちらにしろ席は分かるだろうと判断して中に入ることにした。
その前にと、千夜子が振り返って入口近くに一人で立っていた葛士郎にもう一度声をかける。
「もしよければご一緒にいかがでしょう?」
「!? う、うん。知らない人ばかりだと不安だからな! わかるとも。ならばボクが隣の席を埋めてあげようじゃないか! その……ありがとう!」
「はい! ではまたあとで」
偉そうなんだかそうじゃないんだか微妙な葛士郎の様子にくすくすと笑って、千夜子と向日葵は列車の中へと乗り込んでいった。
2人が案内されたのは、比較的オープンな雰囲気の2人掛けのテーブル席。人ひとり通れるだけのスペースあけてもうひとつ2人掛けのテーブルがあり、そちらには葛士郎が座ったようだ。
「他の皆もこれれば良かったけどねぇ、皆の分まで楽しもう」
「ふふ、そうですね。皆とはまた別の機会にして、今はしっかり楽しみましょう」
出発とほぼ同時に運ばれてきた軽食の弁当に舌鼓をうちつつ、会話にのぼるのは同じ旅団の仲間達のこと。
皆と一緒ならばもっと楽しかっただろうけれど、それはそれとして。
「特に千夜子ちゃんはエンパイアウォーで頑張ってたからな、たまには楽しんでもバチは当たらないさ」
つい先頃に終息した戦争で、千夜子が多くの戦場を駆けていたことを向日葵は知っている。
故郷を守るために必死に戦ったのだから今くらいは戦いから離れて心から楽しんでもいいはずだと笑みを浮かべる向日葵に、千夜子も晴れ晴れとした笑みを返した。
「確かに、ご褒美スイーツな感じもありますね!」
「そうそう。次の頑張りへの励みだな!」
お疲れ様、と労いをこめて緑茶で乾杯をした2人だが、向日葵がこっそりと「これにお酒もあれば言うことないんだがねぇ……」なんて思っていたことはナイショだ。
そして弁当が終わればいよいよスイーツフルコースの始まりである。
その中で千夜子が特に目を輝かせたのが2品目のチョコレートのスイーツだった。
ガラスボウルの底を埋めるスープのようなチョコレートソースに浮かぶバニラのジェラート。その上を極薄いチョコレートの板が覆い、器のあちらこちらを蜜柑を使ったソースが飾っている。
「どれも楽しみにしてたのですが、一番楽しみにしてたのがこれなんですよね。チョコに目がなくて!」
千夜子とチョコ。名前が似ているからだろうか。
わくわくとした様子でそっとスプーンですくって口にいれると、濃厚なチョコソースが舌に絡む。けれど重そうな見た目とチョコの味に反して、あっさりめのバニラジェラートと蜜柑のさわやかなアクセントのおかげで意外にも後味がさっぱりとしたスイーツだった。
「~~~っ、美味しいのは間違いないと思ってましたが最高ですね!!」
「あ、そんなに? 俺もこれ気になってたんだよねぇ。すごい美味そうって」
弁当が運ばれてくる前。気になるメニューの話をしていた時、隣の席にいた葛士郎に『じぇらーと? ってなに?』と尋ねたのだが、いまいちイメージを掴めなかったのである。
どうも『普通のアイスより柔らかく滑らかで冷たくて美味しい』とのことだったので、美味しいことは間違いなさそうなのだけれど。
千夜子に続いて、向日葵も『じぇらーと』をスプーンですくって食べて見る。
ひやりと冷たくて、甘い。けれど舌にのせた途端に溶けてすーっと消えてしまうそれは、ついもうひと口と次を求めてしまう美味しさだった。
千夜子のようにチョコレートと蜜柑のソースを絡めて一緒に味わってみれば、ジェラートだけの時とはまた違って濃厚な甘さと香りを堪能できる。
「ほんとにすごい美味いな……!」
「ひま君も気に入りました?」
大きく頷いて、これはゆっくりじっくり食べようと思ったけれど、食べる手は止まらなくてスイーツはあっという間に消えていく。
千夜子のご褒美に代わりと言った割りに自分も十分すぎるくらい楽しんでしまった向日葵だけれど、向かい合う千夜子もまた幸せそうな顔で極薄チョコレートを食べていたので、きっと同じくらい楽しめたのだろうから。
最後まで、遠慮なく思いきり楽しむことにしたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラティファ・サイード
そういえばわたくし、列車という乗り物は初めて
幼子のように高揚してしまいます
ねえ三池様、わたくしの初めてにお付き合いくださる?
一人で味わうには惜しい経験ですもの
シンプルな黒のロングドレスで向かいましょう
瀟洒な佇まいには微笑みが綻びます
エスコートはお任せしてよろしいかしら
わたくしこちらが気に入りましてよ
レモン風味ケーキに舌鼓
リコッタチーズの自然な甘さがレモンで引き立ち
コーヒーの苦味ととてもよく合います
もうひと切れ口に運べばくすぐったく笑む
そういえば三池様はどうしてこの列車をお知りになったの?
スイーツの可愛らしさとは
あまりにそぐわないのではないかしら
うふふ、冗談ですわ
本気で取らないでくださいましね
●
「そういえばわたくし、列車という乗り物は初めて」
シンプルな黒のドレスを纏ったラティファ・サイード(まほろば・f12037)は、瀟洒な佇まいをみせる金の車輌を見上げながらほのかに胸を高鳴らせ、笑みを綻ばせる。
伸びた背筋に洗練された所作は常に彼女を堂々たる妖艶な美女として見せていたが、初めての乗り物を前に幼子のように高揚する部分も合わせもっていた。もしかしたら、それがまた彼女を蠱惑的な美女に魅せる理由のひとつなのかもしれないが。
ともあれラティファは、列車の前でいつ乗り込もうか迷っていたらしい葛士郎の方へと優雅に足を進め、笑いかける。
「ねえ三池様、わたくしの初めてにお付き合いくださる?」
初めての列車。
初めての列車での食事。
それもスイーツ・フルコースという時間をかけたもの。
一人で味わうにはもったいない経験だからと誘いをかければ、葛士郎は目に見えて狼狽しているようだった。
「ぼ、ボクかい!?」
そして葛士郎がわざとらしく咳払いして気を取り直すのを待ってから、すっと手を差し伸べる。
「ええ。エスコートはお任せしてよろしいかしら?」
「ふ……もちろんさレディ。なにしろボクはイケメンだからね! イケてるエスコートをお見せしよう!」
胸を張って言い切るものの、ラティファの手をとり己の腕へと導く様は明らかに緊張してぎこちなく指も震えている有様だ。
もちろんわざわざ指摘するような野暮なこと、ラティファはしないのだけれど。
お陰でなんとか体裁を保てた葛士郎のエスコートで、ラティファは列車内へと足を踏み入れるのだった。
そうして案内された席につくと、ラティファは軽食の弁当に始まり順次運ばれてくるスイーツのひとつひとつをじっくりと味わっていく。
晩夏のスイーツを彩る果物はさっぱりとしたものが多いが、そうした甘味にはあまり馴染みがないのか、興味深げにカトラリーを操る姿が見られた。
その中でも特にお気に召したらしいのは、3品目のチーズケーキである。
リコッタチーズの自然な甘みをレモンの爽やかな香りがひきたて、二層の食感がより深い味わいを生むそれは、薫り高いコーヒーとよく合った。
すっきりとした苦みが甘さをリセットしてくれた後に改めてまたもう一口食べれば、普段の妖艶さともまた違うくすぐったそうな可憐な笑みがこぼれ落ちる。
そうして最後のミニャルディーズに取りかかる折り。
「そういえば、三池様はどうしてこの列車をお知りになったの? スイーツの可愛らしさとは、あまりにそぐわないのではないかしら」
隣席の二人とも時折会話をしながら随分嬉しそうにスイーツを食べていた葛士郎に、ほんの悪戯心でそんな問いを投げてみた。
案の定、葛士郎はあわあわと無意味に手足をバタバタとさせて焦っている様子。
「いや、なに、その。別にスイーツが大好きとか誰か道連れにできそうなものを探していたとかではなく、たまたま。そう、たまたま見かけただけだとも、レディ」
言いたいだろうことの説得力はゼロだが言っていることは十分伝わる内容に、くすくすと笑ってラティファは口元を手で隠す。
「うふふ、冗談ですわ。本気で取らないでくださいましね?」
途端にほっと胸をなで下ろしている姿は更なる笑みを呼んだけれど。
小さな南瓜のパイへと白く細い指をのばし上品にいただくことで、それ以上の追求はしないであげたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
英比良・與儀
ヒメ(f17071)と個室で
そんなに来たかったのか
まァ、つきあってやるけど
ヒメ。おい、ヒメ。そんなにはしゃぐな、お前は、子供か
個室で正解だった(頷き
木製の弁当箱ってのは洒落てるな
あ、炊き込みうまい。お前これ作れるだろ、作れよ
牛すね肉もほろっとしてて、贅沢だな
あとはスイーツか……
交換? いや同じのあるだろーが
交換も何もねーだろ。同じなのに交換する意味がわからん
そもそも、俺はそんなに甘いのは得意じゃないんだが
でてきたもんは食べねェとな
しかし、一品目のマンゴー甘そうだな
パッションフルーツの泡ソースって面白い
けど、一口食べたらなんかもう十分……ヒメ、やる
葛士郎もいるだろ。通りがかったら捕まえようぜ
姫城・京杜
與儀(f16671)と
折角だから個室で!
おお、豪華列車でスイーツのフルコースか、すっげー!
超楽しみだよな、與儀っ!(わくわく
分かってるって、俺がそんなはしゃぐわけないだろっ(でもそっときゃっきゃ
うんうん、オサレだし味もいいな!
炊き込みか、勿論作れるぞ(どやぁ
隠し味のごま油が効いてる感じか(研究
てかこの木製弁当箱、オサレで写真映えしそうだし欲しいぞ(じーっ
與儀、スイーツ気に入ったのあったら俺のと交換こする?
え、確かに同じのだけど…スイーツの交換こは定番だろ!(女子的思考
おっ、くれるのか?
貰う貰うーっ(きゃっきゃ
そういや葛士郎もいるんだっけ?
…ま、見かけたら声掛けるか!(貰ったマンゴー笑顔でぱくり
●
「おお、豪華列車でスイーツのフルコースか、すっげー!」
透かし戸で区切られた個室のひとつに、楽しげに響く声がある。
声の主は赤髪に愛色の瞳の長身の青年で、その向かいにはどことなく尊大な雰囲気の金髪の少年が座っていた。
「超楽しみだよな、與儀っ!」
「ヒメ。おい、ヒメ。そんなにはしゃぐな、お前は、子供か」
長身の青年――姫城・京杜(紅い焔神・f17071)の方が期待に目を輝かせていて、見た目の年齢も背も京杜と比べると随分と小さく見える少年――英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)の方が落ち着いて窘めている様子なのが面白い。
「わかってるって。俺がそんなはしゃぐわけないだろっ」
そう言った端から内装やニューなどあちこちを興味深げに見てはしゃいでいる京杜に與儀の方は少しばかり呆れた様子だったけれど、そんなに来たかったのかと思えば付き合ってやった甲斐もあるというもので。
あらかじめ個室を選んだのは正解だったと頷くに留めて、メニュー表に目を移した。
最初に運ばれてきたのは、つやつやに磨かれた木の箱に入ったお弁当。
「木製の弁当箱ってのは、洒落てるな」
蓋を開ければ同じ木で作られた四角い小鉢が3つ収まっていて、それぞれに別の品が収まっているようだった。
「うんうん、オサレだし味もいいな!」
早速食べ始めている京杜に続いて與儀も箸をとり、一口食べてみる。
「あ、炊き込みうまい」
豚肉とサツマイモの炊き込みご飯は、豚肉のしょっぱさとサツマイモの自然な甘さが後をひく美味しさだった。
つづいてもう一口食べてから、視線もあげずに京杜に向けて声をかける。
「お前これ作れるだろ、作れよ」
なんと問いかけですらなく既に確定事項な上に命令系だ。
「炊き込みか、勿論作れるぞ」
ところが答える京杜も当然のものとしてそれを受け止め、かつ『どやぁ』と書き文字が背後に見えそうな様子で胸を張っている。
二人にとってはどうやら日常茶飯事のやりとりらしい。
「お。この牛すね肉もほろっとしてて、贅沢だな」
舌でとろけるような柔らかい煮込みを與儀が食べている間に、京杜はすっかり炊き込みご飯の再現研究に意識を向けているらしく、真剣な顔でゆっくりと噛みしめていた。
「ふむふむ、隠し味のごま油が効いてる感じか。出汁は……」
よく噛んで味わいながら調味料や調理法をひとつひとつ推理していく様は、とてもさきほど子供のようにはしゃいでいた姿と同じ人物とは思えないない真剣さである。
しかも京杜は味だけでなく見た目も気になるのか、食材の切り方や盛り付け方、さらには器もじっくり見始めた。
「てかこの木製弁当箱、オサレで写真映えしそうだし欲しいぞ」
残念ながらこの弁当箱はこの列車のために作られた特製品のため非売品なのだが、この様子では自力で作り出してしまいそうな勢いである。
味わいつつも研究にだいぶ傾いていた弁当タイムが終わると、いよいよスイーツの出番だ。
弁当が下げられ一品目のスイーツを待っている間、再びわくわくと楽しそうな表情に戻った京杜がふと與儀へと問いかける。
「與儀、スイーツ気に入ったのあったら俺のと交換こする?」
「交換? いや同じのあるだろーが」
すがさず與儀のツッコミが入った。
なにしろコース形式なので、飲み物以外のメニューは全員同じ。
京杜とてそんなことは分かっているのだ。ただ。
「え、確かに同じのだけど……スイーツの交換こは定番だろ!」
という強固な認識があるだけで。
放課後カフェに友達と通う女子高生のような思考を持つ25歳成人男性――。
京杜はかっこよさとかわいさを兼ね備える男なのであった。
「交換も何もねーだろ。同じなのに交換する意味がわからん」
実際その通りのため、さくさく與儀にあしらわれて交換こは行われず。
しょぼんと肩を落としていた京杜だったのだが――それもスイーツが運ばれてくるまでのこと。
カクテルグラスに入った1品目が目の前にくれば、途端に顔が輝き出す。
ころころ変わる表情やテンションもいつものこととはいえ、そんなに喜ぶものなのかと與儀は自分の手元のスイーツに目を落とした。
実をいえばあまり甘いものは得意ではないのだが、出てきたものを残すというのも気が引ける。
スプーンでひとさじ掬って口へ入れてみると、マンゴーの甘みとパイナップルの酸味をパッションフルーツの泡ソースがまとめていて確かに美味しい。
特に口に入れた途端にふわりと溶ける泡ソースは甘みも控えめで、こういうのもあるのかと面白く味わった。
……の、だけれども。
やはり、甘い。
特にマンゴーの甘みはフルーツの中でも濃厚だ。
美味しくいただくのならこの辺りで十分だと判断して、グラスを京杜の方へと滑らせる。
「……ヒメ、やる」
「おっ、くれるのか? 貰う貰うーっ」
口直しに水を含む與儀の向かいで、既に完食していた自分の分のグラスを代わりに與儀の前へと置くと嬉々として2つ目を食べ始める京杜。
この様子では1分と立たずに完食してしまいそうだけれども。
ともあれ京杜が満足そうなのでまぁいいかと流し、與儀はついと透かし戸の先へと視線をむける。
「そういやここに葛士郎もいるだろ。通りがかったら捕まえようぜ」
「お、そうだな。見かけたら声かけるか!」
あっという間に完食した京杜が頷いた少し後。
ちょうど手洗いの帰りらしい葛士郎がタイミングよく通り掛かったのだが――。
「!? しょ、所長!?」
テーブルに頬杖をついた態勢でそちらを見、にやりと笑った與儀を見た瞬間。
特に何を言われたわけでもないのに葛士郎は何故か無条件で土下座して挨拶をしてしまい、あやうく成人男性を土下座させる美少年という風評被害と與儀に与えそうになったのだった。
大成功
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