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博愛と友愛の小夜曲

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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 ――何処、どこ、ドコ?
 あの子は一体、何処にいってしまったの?
 いつも、ずっと一緒だったのに。
 あの子は……あのこは……アノコは……。
「……っあ゛」
 少女の姿を認めた幼子達は、その手に持つ蝋燭で現れた彼女を照らし出す。
 ――その口許に見る者全てを蕩かしてしまいそうな、天使と悪魔の笑みを浮かべながら。
「ようこそ、煉獄(ラクエン)へ」
「貴女は試練を乗り越え、煉獄に辿り着くことが出来ました。貴女に待ち続けているのは無限の幸福です」
「あの御方から与えられる無限の幸福と無償の愛を、煉獄での幸せな日々と共に享受致しましょう」
 幸せそうな、恍惚とした笑みを浮かべた少女達。
 ――でも。
「違う」
 ちがう、ちがう、チガウ、チガウ……!
 ここに『あの子』はもういない。
 私の『ココロノササエ』だった、『アノコ』は。
「お前、達は……!」
 ――殺す、ころす、コロス、コロス……!!
(「カエ……シテ……」)
『アノコ』を、返して。

 ――『私達』
 ……チガウ。
『ワタシ』と、もういない『コノコ』の為に命を諦めた『アノコ』を――!


「実に悪意に満ちた楽園だな。いや――違うか」
 グリモアを通して伝わってくるそれに軽く額を手で押さえながら北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がグリモアベースの片隅で溜息を一つ。
 彼の様子が気になったのであろうか。
 ふと、優希斗が顔を上げれば、猟兵達が集まっていた。
「やあ、皆か。ダークセイヴァーである事件が一つ予知出来たよ。どうやら、とあるオブリビオンの少女が、煉獄を作り上げようとしたオブリビオンを殺戮すべく、その館を強襲しようとすると言う事件の様だ」
 つまるところ『同族殺し』さ、と優希斗が軽く肩を竦めた。
 しかしその表情は苦渋というか、何処か皮肉げですらある。
「皆には、オブリビオンに支配されたこの土地を解放するためにも、この『同族殺し』と協力して煉獄の導き手として村人達を生贄にし、煉獄とやらに送り込んだこの村の領主であるオブリビオンを殺して欲しい。と言うよりは、この同族殺しのオブリビオンを利用しないと皆ではこの館を突破できない程度には、強敵のオブリビオンが支配している場所だ。皆の力だけでは少々手に余る。だからこそ、利用できる札は幾らでも利用しよう、と言う訳だ」
 その上で……と優希斗が目を瞑り、小さく息を一つ吐いた。
「利用するだけ利用して、この土地を支配してるオブリビオンを倒したら、『同族殺し』のオブリビオンの少女も倒してしまって欲しい。或いは……」

 ――彼女は、『誰か』を強く求め、探している。

 その『誰か』、或いは『彼女』が執着する何かについて調べて対話を行なえば、『同族殺し』の説得も、不可能では無いかも知れない。
「ただ、仮に説得に成功したとしても、それは『同族殺し』の魂を満たし、消滅させることが出来るだけだ。『同族殺し』のオブリビオンを救うことが出来ない事実は変わらないだろう」

 ――もしかしたらそれは、同族殺しである『彼女』にとってより残酷な結末になる可能性さえある。

 ……それでもただ戦い、倒すことに、どんな意味があるのだろうか。
「『同族殺し』に対して最終的にどう対処するのか、それは皆に任せるよ。まあ『同族殺し』を何とかする前に、この土地を支配するオブリビオンとその配下を倒すことが出来なければ意味の無い事だしね。一先ず『彼女』を利用しなければ、この土地をオブリビオンから解放するのは難しいと言う事だけは了承してくれ。どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の言葉に導かれる様に。
 光が猟兵達の周りを踊り……程なくして、猟兵達はグリモアベースから姿を消した。


長野聖夜
 ――愛憎と煉獄の果てにあるものは。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 今回はダークセイヴァーに現れた『同族殺し』の物語をお送り致します。
 さて、この物語にどの様な結末が齎されるのか。
 それは全て、皆さんの選択次第です。
 尚、『同族殺し』については、第3章及び『同族殺し』に何らかのアクションを掛けなければ背景と化します。
 が、その場合は『同族殺し』が暴れている間に、皆さんが残敵を掃討する、と言うシナリオになりますので、『同族殺し』について調査を進めるか否かは皆さんにお任せ致します。
 戦場については、そこそこ大きな館くらいに設定しておりますので、何かの支障になるなどそう言った事は特に考えて頂かなくて大丈夫です。
 このシナリオの第1章のプレイング受付期間及びリプレイ執筆期間は下記の予定としております。
 プレイング受付期間:9月14日(土)8時31分~9月16日(月)12時頃迄。
 リプレイ執筆予定:9月16日(月)13時頃~。
 第2章以降につきましては、その章の冒頭の業務連絡及び、マスターページにて告知致しますので、其方もご参照頂けます様、お願い申し上げます。
 また、日程の変更なども、マスターページにて告知致しますので、ご参加をご検討頂く際には、マスターページをご参照頂けると大変助かります。

 ――それでは、己にとって最善の結末を。
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第1章 集団戦 『『願望少女』アリスシスターズ』

POW   :    あなたの全てを受け入れるわ
戦闘力のない【純粋なる好意又は善意】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【全てを肯定し受け入れ破滅に導く誘惑】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD   :    自信がないならわたしが与えてあげる
【純粋なる好意や善意によって】【根拠の無い励ましや応援で過剰な自信を与え】【根拠なく成功を確信する破滅へと導く誘惑】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    あなたの願いを叶えて欲望を満たしてあげる
【願望又は欲望】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【燭台の炎が描く魔法陣】から、高命中力の【願望や欲望を叶える代償に破滅へと導く誘惑】を飛ばす。

イラスト:葛飾ぱち

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
同族殺し。人だって人を殺します。オブリビオンだって同じということでしょう。
人と同じように、その領域に踏み込むには何かがある――。

まずは領主の手の者から片付けていかないといけませんね。
オブリビオンのお姉さん、手伝いますよ? お名前、伺っていいですか?

『彼女』が暴れてくれている間に、スチームエンジン、トリニティ・エンハンス、Spell Boostをセット。

では始めましょう。
仮想砲塔展開、Elemental Cannon, Fire!
『彼女』を巻き込まないよう留意しつつ、敵集団に叩き込みます。

願いは誰かに叶えてもらうものじゃありません。自分の手で手に入れるから尊い。


荒谷・つかさ
煉獄……確かとある宗教で死後、地獄に堕ちる程でもない小罪を清めるための所のことよね。
……まあ深く考えても仕方ないか。
所詮はオブリビオンの……歪み果てた過去の残滓の戯言だものね。

純粋な好意や善意で誘惑して、破滅に導く、か。
……で、それって私の筋肉より強いの?

【超★筋肉黙示録】発動。
このコードは、私の筋肉への絶対的な自信と、強さへの執着により生まれたもの。
強さへの執着とはそれ即ち向上心、言い換えれば現状の否定。
つまり、全肯定の対極にあるもの。
力を渇望し歩みを止めない私が、そんな誘惑に負ける筈がないでしょう?
(自身に言いくるめ)

無造作に近づき、腕なり首なり頭なり、無造作に掴んで握力だけで握り潰すわ。


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可

どうにも、嫌な予感しかしない
この同族殺し、まさか…?
(伝聞でしか知らないので口には出さない)

…今はまず、この配下を蹴散らすべきだ
同情の余地が欠片もない、こいつらを

【魂魄解放】発動
…思うところはあるだろうが、頼む

同族殺しの邪魔をせぬ様行動
浮足立つ輩に対し「先制攻撃」を仕掛け
「早業、2回行動、範囲攻撃、なぎ払い」+衝撃波でまとめて斬る

お前らから与えられる自信など、ただの虚構だ
ここで領主ごと討ち取るという「覚悟、気合」を見せ
「殺気、挑発」で相手の根拠のない誘惑を揺らがし相手のUCの回避を試みる

攻撃しながら同族殺しの言葉、態度を可能な限り観察
…想いを遂げさせるべきだろうか


彩瑠・姫桜
>同族殺し
探している子がいるなら探すのを協力したいと伝え、一緒に戦うようにしたいわ

猟兵を敵視しているかもだからできるだけ警戒は和らげておきたいところね

【コミュ力】【情報収集】駆使して
戦いながらでもできるだけ話しかけてみるわ

敵を倒すための援護もさせてもらうわよ
できるだけ積極的に前に出て、少女を【かばう】ことも意識しておくわね

>煉獄の少女達
【咎力封じ】使用し動きを封じてから【串刺し】にしていくわ
できるだけ苦しませないように一撃で倒せるようにしていくわね

願いも欲望も、誰かに叶えてもらうものじゃない
自分で動いてこそのものなのよ

だから、煉獄なんていらない
貴女たちは、私が責任を持って骸の海へ帰してあげるわ




「どうにも、嫌な予感しかしないな……」
「敬輔さん? どうしたの?」
 領主の館の目前で、苦虫を噛み潰した表情になった館野・敬輔の呟きに、彩瑠・姫桜が呼び掛ける。
「いや……」
 そこまで告げた所で敬輔は言葉を区切り、黙する様に目を瞑った。
(「あくまでも伝聞だ。根拠がない事を口にしても……」)
 そう思い直し、黒剣を抜剣し両手で正眼に構える敬輔の気持ちを知ってか知らずか、荒谷・つかさがふと、何かを思い出したかの様に言の葉を紡ぐ。
「煉獄……ラクエンなんてあいつらは言っているけれど……本来、煉獄って、確かレンゴクって呼ぶのよね?」
「はい、そうですつかささん」
 ルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付けられたスチームエンジンを起動させ、周囲で惰眠を貪っている水の精霊達に呼び掛けて、氷の精霊と組み合わせて火力を強化し、加えて儀式魔法に近い大魔術『Elemental Cannon』の核となる火・水・地・風の四大精霊達の力の粋を集めた赤・青・黄・緑の魔法陣を十重二十重に用意しながらそうつかさに答えたのは、ウィリアム・バークリー。
『同族殺し』である『彼女』が、『幼子』達との戦いを始めているその間に、戦支度を整える、そう言う様子であった。
「煉獄って、確かとある宗教で死後、地獄に堕ちる程でもない小罪を清めるための所のことよね?」
(「筋肉は絶対、筋肉は無敵、筋肉は最強……!」)
 そう自らに強く、強く心の中で深い暗示を掛けながら問いかけるつかさに、姫桜が敬輔と共に、戦い始めた『彼女』の様子を見ながらそうね、と答えた。
「あれは……花、か?」
 桃色と白色の花弁達が舞い、『幼子』達を襲う様子を見ながら、敬輔が口元に手を当て考え込む様な表情になってそう呟く。
 何かを譫言の様に言っている様に見えるが、まだ少し離れているこの距離では、それを聞き取ることは出来そうにない。
(「皆……思うことはあるかも知れないけれど、力を貸して」)
 ――いいよ。
 ――分かっている。
 ――私達、いつも一緒だよね、お兄ちゃん。
 黒剣を通して伝わってくる彼女達の感情に、微かに口元を緩ませながら白い靄を全身に覆う敬輔。
「とにかく現場に行くのが先ね」
 つかさ、ウィリアム、敬輔が其々に準備を整えた姿を確認した姫桜の促しに応じて、敬輔達は戦場に向かって駆けだしていく。

 ――何かを求め探し続ける花弁と、全てを受け入れ、愛しき主の元へと犠牲者を導く炎飛び交う戦場へ。


 ――許さない、ゆるさない、ユルサナイ……!
「お前、達は……お前、達を……!」
 激しい憎悪を煮えたぎらせ、桃色と白色の入り混じった花吹雪で、容赦なく幼子達を滅ぼしていく少女。
「何故、何故その様に私達からの幸福を拒むのです?」
「貴女はあの御方に選ばれ、煉獄へと至る事を許された。それ以上に、何を求めると言うのですか?」
 ――それは、邪気なき純粋なる『善意』
 無邪気に与えられるそれに、悪意はない。
 だが……望まぬ相手から与えられるそれは、時に与えられた側にとって大きな迷惑となる事を、『幼子』達は知っているのだろうか?
「オブリビオンのお姉さん? 手伝いますよ?」
 不意に、『少女』の背後から聞こえた声音。
 けれども、既にまともな理性を失った『彼女』にその声が届くとは思えない。
 ――煩い、うるさい、ウルサイ……。
 そうやって、笑顔で自分達に近づいたお前達は、全てを奪っていったじゃないか。
「貴女が探している子がいるのだったら、私達も探すのを手伝うわよ」
「モウ……ソンナノ……」
 ウィリアムと姫桜の呼び掛けにも耳を貸さず、桃色の髪を頭を振って激しく動かし、その頭に抱いた花冠を、桃色と白色の花弁へと変化させて、全てを撃ち抜く棘の様に撃ち出す『彼女』
 猟兵も、オブリビオンも問わず纏めて薙ぎ払おうとするその攻撃を、つかさが無敵の筋肉で弾き返して、ふん、と荒く鼻息を一つ。
「おやめなさい、おやめなさい選ばれし御方。その様な事をなさっても、貴女には何の救済も齎されません」
 何人かの仲間が『彼女』のそれに撃ち抜かれて倒れこむのを横目にしながら、『幼子』達が、全てを癒す天使の微笑みを浮かべて『彼女』を宥めようとする。
「……お前達には、何の遠慮も要らないな」
 ――お兄ちゃん。
 ――『彼女』を見てはダメ。
 ――『あの子』を見たら……お兄ちゃんは……。
「……?」
『同族殺し』に対する少女達の恐怖の感情を同調することで感じ取った敬輔が、微かに怪訝そうに青い瞳を見開きながら、黒剣を大地に滑らせ撥ね上げる様に振り抜く。
 三日月形の弧を描いた斬撃が、『彼女』の放った花弁に仲間達が倒されたことに浮足立った『幼子』達を真っ二つに斬り裂き、そのまま声を上げる間もなく消滅させる。
「異端者、異端者がいる……!」
「試練を乗り越え、『あの御方』に選ばれてもいない者達が、どうして此処にいるというの……?!」
 敬輔の一太刀によって動揺を隠せぬままに動きを鈍らせた『幼子』達に、手際よく【手枷】を嵌めこみ、煉獄に選ばれたらしい『彼女』へと純粋なる善意をぶつけようとした『幼子』に【猿轡】を噛ませ、更に【高速ロープ】を放って、まとめて『幼子』達を締め上げる姫桜。
「私達は、貴女に敵対するつもりはないの。少し、ほんの少しでも良いから話を聞いて貰えないかしら?」
「許さない、ゆるさない、ユルサナイ……!」
 姫桜の呼び掛けに対して返答にならぬ怨嗟の念を籠めた譫言を呟きながら、かっ、と鋭い視線を『幼子』達に叩きつける『彼女』
 叩きつけられた『幼子』達が、不意に顔面を蒼白にし、喘ぐ様に必死で呼吸をしようと息を吸い、そして吐こうとしている。
 それが、『彼女』の視線によって首を締め上げられているが故だ、と虹の様に周囲に展開していた十重二十重の魔法陣を『スプラッシュ』の先端に収束させて、巨大な魔力砲塔を練り上げ絶好のタイミングを見計らっていたウィリアムが気が付くのに、それ程時間は掛からなかった。
(「同族殺し。人だって、人を殺します。オブリビオンだって同じということでしょう」)
 —―それは良い。
 人は自らの意志を持ち、時にその感情を持て余し、そこから思いもかけぬ行動に出ることがある。
 恐らくそれは、多くの戦いの中で見てきたオブリビオン達も同じ事。
 ――だから。
(「『彼女』が人と同じ様に、その領域に踏み込むには、何かがある――」)
 いつ爆発してもおかしくない程に、凝縮された魔力。
『スプラッシュ』が火・水・地・風、相反する魔力を強制的に融合し、それを維持しようとする力に限界を迎えようとしているのか悲鳴の様な鍔鳴りを鳴らすのを聞いたウィリアムが、両手で『スプラッシュ』の柄を握りこんだ。
『……Elemental Cannon Fire!』
 避けて下さい、と心の裡で祈る様にしながら、ウィリアムが『幼子』達の群れの中心点に向けて、圧縮された虹色の巨大な魔力の塊を射出する。
 解き放たれた太陽のコロナを思わせる虹色のそれが、『幼子』達の中心点で、極大の大爆発を起こし、『幼子』達をその手に持つ燭台事纏めて焼き払った。
「今です、つかささん、姫桜さん、敬輔さん!」
「願いも欲望も、誰かに叶えて貰うものじゃない、自分で動いてこそのものなのよ! だから私たちは、煉獄なんて要らない……!」
 ウィリアムの呼び掛けに応じる様に、姫桜が大爆発の圧倒的な熱量に嬲られ、体の半分を吹き飛ばされたり、或いは拘束具を嵌められて動けなくなっていた『幼子』達を、schwarzとWeißの二槍で払い、貫きながら叫んだ。
「だから……貴女達は私達が責任を持って、骸の海へと帰してあげるわ!」
 そう咆哮しながら、姫桜が二槍を水平に広げ、自らを中心点として円の様に回転しながら二槍を突きだし、まだ動いている『幼子』達を、次々に串刺しにして止めを刺していく。
 そうしながら、ウィリアムの采配により術式の範囲から辛うじて逃れた『彼女』に気遣う様な眼差しを向けていた。
「燃えろ、もえろ、モエロ……! アノコ達と同じ様に……! ワタシ達と同じ様に……アガキ……クルシメ……!」
 桃色の髪を翻し、狂笑を浮かべる『彼女』は、深く濃密な、それこそ決して晴れることのない、この世界を覆う『闇』の様に深い『何か』に彩られていて、姫桜はそのあまりの『闇』の深さに息を呑み、微かにその身を強張らせている。
(「この、深い闇は……」)
 ――チクリ。
(「っ?!」)
 ――お兄ちゃん、ダメ。
 ――今は、ダメ。
 まるで、警告の様に。
 白い靄と化した『少女』達の意志に同調した敬輔が『彼女』の脇を超高速で駆け抜けて、傷を負い、動揺している『幼子』達へと、刺突を放つ。
 鋭利な棘と化した衝撃波で、体を熱で嬲られている『幼子』達を貫いて止めを刺しながら、敬輔がもし形容するとすれば『黒』であろう、重い溜息を吐いた。
(「俺が……私が感じているこの感情は……」)
 ――ならば、やはり『彼女』の目的を遂げさせてやるのが最善なのか?
 『彼女』の事を肯定するなら……?
 迷いを心の裡に育む敬輔の横を、白い流星の如く駆け抜けていくつかさ。
 その手に聖典の様に大切に握りしめられているのは、『超★筋肉黙示録』とでかでかと金箔で本の拍子に描かれた、やたら分厚い強大な大辞典。
(「純粋な好意や善意で誘惑して、破滅に導く、か」)
 そもそも、煉獄……地獄に落ちるほどではないにせよ、小罪を犯した人々のその罪を清めるとされる世界が、何故、ラクエンなのであろうか。
 罪を清め、贖う事が人々にとって真の幸せ、だとでも言うのか。
 それとも、本当に煉獄こそがラクエンなのだと信じているのか。
(「まあ、所詮はオブリビオン……過去の記憶の残滓の戯言だものね。考えてみるだけ無駄か。と言うか、一番重要なのはそこじゃないのよね」)
 ――そう。そんな宗教的なあれこれは、破戒僧となったつかさにはどうでも良い。
 重要なことは、ただ一つ。
 それは……。
「……で、それって私の筋肉より強いの?」
「はっ?」
 ウィリアムの【Elemental Cannon】の範囲を辛うじて逃れ、それでも尚、『彼女』達に幸せを呼び掛けてきた『幼子』に向けて、真顔で問いかけるつかさのそれに、煉獄への案内人を自称する『幼子』達は、毒気を抜かれた様な表情を浮かべた。
 そんな彼女たちの怪訝そうな表情に何の頓着も見せぬままに、『超★筋肉黙示録』を天井へと放り投げ、その圧倒的な後光を背に、近くにいた『幼子』達に拳を振るい、裏拳を叩きつけ、或いは足払いを掛けて転ばせて、その頭を踏み潰すつかさ。
 脳漿が飛び血飛沫がつかさに振り掛かるが、つかさは意に介さない。
「こ……この、ケダモノ……」
「で、ですが、あ、あなたの様な方こそ煉獄に……!」
 目前で行われた残虐行為に震えが生じたか、何人かの少女達が、恐怖にワナワナと身を震わせつつ、つかさに好意的な言葉を掛けてくる。
「そ、そうです。貴女の様な方こそ、あの御方が与える無償の愛を授かるに相応しい。さ、さぁ、私達と共に煉獄へ……」
「ねぇ、貴女達。このユーベルコードが、どうやって生まれたか知っているかしら?」
 瞳に獲物を狙う肉食動物の剣呑な光を宿し、口元に肉食獣の笑みを浮かべながら。
 震えながらも純真から生まれる好意を向けてその先にある全てを肯定し受け入れさせ、破滅させる為に誘惑し、堕落させようとする『幼子』達に、つかさがそう呼びかけた。
「な……何を……ギャピッ?!」
 怪訝そうにした『幼子』の首を手刀で断ち切り、その圧倒的な筋肉で捩じ切る様に『幼子』をまた一人屠りながら、つかさが淡々と話し続ける。
「これは、私の筋肉への絶対的な自信と、強さへの執着により生まれたもの」
 ――強さへの執着。
 この際、どうして『それ』に執着するのかは重要ではない。
 重要なのは、自らの強さへの執着、そしてそれを決して曲げぬ強い心、その根源となるものなのであろう。
 そしてそれは……。
「即ち、向上心よ。つまり、貴女達にも分かり易く言い換えれば、現状の否定だわ」
 
 ――その心は。

「自らへの全肯定の、対極よ」
「フギャァ?!」
 完成された想像上の無敵の筋肉に包まれた分厚い拳で裏拳を叩きこんで『幼子』の鼻を砕きそれでも尚、次々に呼び掛けてくる『幼子』達を捕らえて、力任せに脊椎を圧し折り、或いはその足を踏み砕き、その頭部を破砕しては放り投げる。
 そうして進むつかさの道は、『幼子』達の血の色に彩られて。
 けれどもつかさは一切恐れることなく……いや、愉悦さえ感じながら――笑った。
「力を渇望し歩みを止めない私が、そんな誘惑に負ける筈がないでしょう?」
 それは『幼子』達の一部の戦意を挫き、心を折るに相応しい一言であった。


 ――何処、どこ、ドコ……?
 つかさが『幼子』達を蹂躙し生み出した血の絨毯を見つめながら、譫言の様に『彼女』は呟く。
「あの子は……アノコハ……アノ……コ……ハ?」
 
 『私達』

 ……違う。
(「違う、ちがう、チガウ、チガウ……!」)
 今はもういない、『ワタシ』の『ココロノササエ』だった『コノコ』と『ワタシ』の代わりになった『アノコ』は……?
「ソコニ……ソコニ……イルノ……?」
「……貴女」
 何処か夢見心地で、虚ろげな眼差しの『彼女』の姿が痛ましく、ぎゅっ、と姫桜が自らの心臓のある辺りを掴む。

 ――まだ戦いは終わらず、彼女の真実も定かではないままに、不吉な予感だけが、姫桜と敬輔の心に、重い帳を垂らし込めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

宇冠・龍
由(f01211)と参加

「……誰かに会いたい、そう願うことは罪なのでしょうか?」
少なくとも、私はそうは思いません
しかし私たちは猟兵で、相手はオブリビオンという事実も覆ることはない。心苦しいですが、意味のない被害が拡大する前に足を止めてもらうことにしましょう

「願いと欲望……ふふっ、それはこういうことかしら?」
【竜逢比干】にて亡き夫を召喚
私の願いは、夫を、お腹にいた子を蘇らせたい。しかしそれは叶わない。死霊術士だからこそ、過去は決して今に置き換わらないことは分かっています

残念ですが、そのまま炎ごと凍らせてもらいます
広範囲の氷の息吹で願望少女たちの動きを封じ込めましょう


宇冠・由
お母様(f00173)と参加
別描写でも構いません

(願いや願望を映す炎。同族殺しの瞳に映るのは、一体どなたなんでしょうか……)
「私は全身地獄の炎のブレイズキャリバー、火力勝負なら自身はありましてよ!」
※煽てられると弱いタイプです

踊るように得意の空中戦を駆使しながら、二振りの火炎剣を投擲しての攻撃
攻撃する力を減らされようと、百火繚乱の技にて更に火力を増し、百の炎の刃で焼き切って差し上げます

(もしかして、同族殺しの探し人は、子供……? だとすると、お母様と同じように、我が子を失った?)


カタリナ・エスペランサ
「……嫌な戦いだね、まったく」
オブリビオンとして立ち塞がる善意に満ちた少女たち、そして同族殺しの姿に溜息を一つ吐いて。

UCは【天下無敵の八方美人】を使用。
同じく《誘惑》に秀でる者として敵UCの甘言を《見切り》、彼女らを殺める自分にその善意を受け取る資格は無いと断じる事で影響を遮断。

ダガーに魔力を通して敵の殺傷に適した形態へ《武器改造》し、《早業》《暗殺》で急所を貫き無用の苦痛を与えないように仕留めていきます。

戦いの傍ら同族殺しを観察して《情報収集》、会話を試みるのに最適な《演技》を構築。折を見て《コミュ力》《礼儀作法》を発揮し話しかけ事情を聞こうと試みます。
相手の攻撃には《武器受け》で対処。


鈍・小太刀
同族殺し…ね
オブリビオンであるからには倒すべき相手なのだろうけど
それでも、いやだからこそ
その想いと結末を見届けたいと思う

仲間と声かけ連携して行動
先ずは状況把握が大事よね
【視力】【聞き耳】【第六感】も使い【情報収集】
冷静に状況を【見切り】ながら戦う

同族殺しとも弓の【援護射撃】で共闘の姿勢を見せ
少なくとも敵対は避ける
可能なら会話を通して
何故同族と戦うのかその理由を探りたい

もし直接話してくれなくとも
願望少女は同族殺しの『願望』も狙うだろうから
その中にもきっと手掛かりがある筈よ

『根拠』は大事
選択は自分で見極めてしたいから
同族殺しに共感できるかどうかは内容次第だけど
少しずつでも『理解』できたらと思うから




 ――会いたい。あいたい。アイタイ……。

『アノコ』にも、『コノコ』にも。

 だから――返して。

『ミンナ』を、返して。

 ――ソレガ、タトエカナワヌネガイダトシテモ。

『ワタシ』ハ、ソレヲネガワズニハイラレナイ。


「……嫌な戦いだね、まったく」
 まだ戦いの途中だが、既に漂いつつある血の臭気を強く感じたカタリナ・エスペランサが眉を顰めて溜息を一つ。
 カタリナの目前にいるのは、桃色と白色の花弁を吹雪の如く吹き散らして『幼子』達と戦う『彼女』
 既に2/3程の『幼子』達は殺されているのだろう。
 それでも尚戦うのを止める気配の無い『彼女』の姿は、凄惨の一言に尽きる。 
「……同族殺し、ね」
 血の色に染め上げられた地面を見て、鈍・小太刀が微かに遠くを見る眼差しになりながら、黒漆塗りの破魔の弓、白雨の弦の具合を検めていた。
 その左手には、静謐なる夜を思わせる黒に塗り込められた1本の矢。
 ――パチパチ、パチパチ。
『幼子』達の持つ燭台に灯る炎が、見る者の目を思わず引きつけてしまいそうな、何処か陶然とさせる光となって『彼女』を照らし出している。
「さあ、試練を乗り越えし者、選ばれし方よ。あの御方の下へと参りましょう」
「そして、共に享受しましょう。永遠に生き続けることの出来る幸福を」
「差し出しましょう。与えましょう。この燭台を。貴女の望む真の幸福を」
 生き残った『幼子』達の甘美な囁きと共に、妖艶な輝きを持つ焔が『彼女』を照らし、その思いを曝け出そうとする。
「……例え、最後には決着を付けなければならないオブリビオンであっても」
 ――否。
 燭台に灯る焔に吸い込まれる様に『彼女』の目が吸い寄せられた時、小太刀がその手の漆黒の矢を白雨に番え、そして弓を引き絞り。
「だからこそ、貴女の結末を、私は最期まで見届けたい」

 ――ヒョウ、と矢を放つ。

「今、貴女を此処でやらせはしない。ただ……貴女の想いを見届けさせて貰うわ!」
 小太刀の叫びに応じる様に。
 白雨より飛び出した黒矢が放物線を描いて空中を舞い……そのまま落下する直前、250の黒き矢となって、『幼子』達へと降り注いだ。
「今よ!」
 小太刀の援護射撃に背を押され。
 カタリナ達は、『幼子』達に向かって駆け出した。


「まだ、異端なる方々はいらしたのですね……!」
「何故です?! 私達は、ただ、あの御方の所へ『彼女』を迎えに来ただけの召使い。何故あの御方が与えて下さる真の幸福を……真実の救済を、貴女方は拒むのですか?!」
「いいえ。貴女方もまた、『選ばれた』者達なのでしょう。その様に選ばれた貴女方であれば、私達は心から歓迎致しますわ。皆様への気配りが足りておりませんでした。どうか、その怒れる炎をお鎮めになって、私達と共に煉獄で待つあの御方のところに参りましょう。貴女方なら、きっとあの御方もお認め下さいます」
 小太刀の解き放った破魔と水の属性を得た静謐なる黒の矢の攻撃を受け、先程まで『彼女』を幻惑していた燭台の炎を消化された『幼子』達が、あらん限りの美辞麗句を、前に飛び出してきたカタリナと宇冠・由へと囁きかける。
「そうです! 私は全身地獄の炎のブレイズキャリバー、火力勝負なら自信はありましてよ!」
「……酷い話だ、本当に」
『幼子』達のおだてに乗って、エッヘン、と胸を張る由と対照的に、カタリナはその渋面を、益々顰めていた。
 ――『幼子』達は、自分達の言葉に、行動に一切の疑義を抱いていない。
 何故なら『幼子』達は煉獄に赴く事で、真の幸福に導かれると心から信じ、それを自分達へと蕩々と語る完全な『善意』に満ちた少女達なのだから。
 その善意が、どれだけの悪意の刃となって同族殺しを傷つけているのか。
 そして……それ程の幸福を得られる権利を捨ててまで、『幼子』達に抗う『彼女』の真意は何処にあるのか。
 ただその真実を考えていくだけでも、心底気が滅入ってくる。
「倒せれば、それに越したことは無いってだけなら良いのに……そうならないのは、本当に不条理な話だね」
「ですが、『彼女』の誰かに会いたいと言う願いは罪ではありません。……例え、決して手に届かぬものであったとしても、『彼女』にとっては犯されざる聖域なのでは無いでしょうか?」
「お母様……」
 宇冠・龍が、カタリナにそう答えながら愛おしげに自らの腹部を撫で、想いを馳せる様に息を吐くその姿に、それまで『幼子』達の何の根拠も無い、自らの炎への美辞麗句に乗せられていた由が涙ぐましげな表情になって軽く頭を横に振る。
 キュッ、と地獄の炎で作り上げられた自らの腕が、人であれば恐らく心臓のある辺りになるであろう胸に置かれていた。
 小太刀とカタリナも龍の言葉の端々に乗る重みを感じ取ったか、痛ましげな者を見る様な視線を、龍と『彼女』に交互に向ける。
「しかし小太刀様の言う通り、あの方が、オブリビオンという事実は覆りません。一度コップから零れた水は、もう、戻ることは無いのですから」
「……ええ。そうね」
 龍の言葉に頷きながら、矢を番えては射り、番えては射りを繰り返し、『彼女』に向かおうとする燭台の蝋燭を射止め、『彼女』を守る小太刀。
 小太刀の援護射撃を受けながら、『彼女』は桃色と白色の花弁の棘を射出し『幼子』達を射貫く。
 そこでカタリナは、遊生夢死 ― Flirty-Feather ―に小太刀の破魔の黒を受けて淡い輝きを発させながら、その手のダガーに自らの内に眠る大量の魔力の源……『魔神』の魔力を送り込んで細い針の様に鋭い切っ先を持った短剣へと変形させ、双翼を羽ばたかせて一気に『幼子』達の懐に飛び込もうとする。
「おお! これぞ正しく神の御業! 貴女の様な方ならば、必ずやあの御方も、貴女様を迎え入れ……」
「そうはさせません!」
 ――フワリ。
 地上すれすれを飛翔する様に疾駆するカタリナと対極的に、地獄の焔で作り上げた自らの義体……そう、即ち焔であること……を存分に利用して、一体の地獄の焔として天へと舞い上がった由が、その周囲に浮遊する100本の火炎剣の内、2本を手に取り、滑空しながら突進。
 その由の動きに合わせる様に、残る98本の火炎剣が、まるで独自の意志を持っているかの様に踊り出し、驟雨の如く、『幼子』達に急襲を掛ける。
「あっ……ああ! 何という事を!!」
「この様な事をなさっても、貴女方には何の得にもなりませんのに……!」
 由の火炎剣が肩や足に突き刺さり、その内側から発される地獄の業火で焼かれ、自らの体が焼かれる『苦痛』と、自分達の事を理解して貰えない苛立ちを叩き付ける様に悲鳴を上げる『幼子』達。
(「せめて、これ以上苦しまぬ様に……!」)
 胸中で手向けの言葉を掛けながら、カタリナが針の様に鋭利なダガーでその心臓や目、喉仏を貫き、そこから小太刀の撃ち出した黒矢が突き刺さり、『幼子』達の体を蝕んでいた『破魔』の力を流し込む。
 流し込まれたそれが毒の様に『幼子』達の体を巡り、幼子達は眠る様に瞼を閉ざし、その場で蹲る様にして息絶えていく。
 しかしその間にも、『彼女』を自分達の側へと取り込まんと、付け直した燭台の炎を『彼女』に突きつけ、『彼女』の心を焼いている『幼子』達は、確かにいた。
「ウ……ウァァァァァ……! ソコニ……イルノ……? アノコ……コノコも……ミンナモ……?」
「そうですわよ、あの御方の試練を乗り越えし者。さぁ、私達と共に参りましょう。そうすることで貴女はその幸福を、永遠に得ることが出来ます……。さぁ……さぁ……」
『幼子』達の甘美なる囁きに、『彼女』の体が光の様な何かに包まれる。
 燭台に灯された蝋燭の灯が、そんな『彼女』を艶やかに照らし出し、確実に永遠の幸福と、甘美なる世界の中に閉じ込め、緩りとした破滅へと『彼女』を向かわせようとしていた。
「しっかり……しっかりしてよ!」
 ――何かが、起きている。
 あの燭台の灯により植え付けられた欲望と願望……そこには、2つ……それとも、2人、か? の何かがあるのでは無いかと言う推測を立たせる小太刀だったが、それを叶えてしまえば『彼女』は、ただこの場で果てるだけの存在になってしまう。
 その生命に、何の意味も見いだせぬままに。
 そんな事を許すわけにはいかず、白雨に番えた黒矢を放ち、放心させられかけている『彼女』の援護を行なう小太刀だが、それだけでは圧倒的に手数が足りない。
「さあ、貴女方も自らの願いと欲望に素直におなりなさい。さすればあの御方は貴女方の永遠の幸福の為に、その力を出し惜しみせず、貴女方にそれを与えて下さることでしょう」
「何をはき違えていたのかは分かりませんが、『彼女』は既に、自らの願いと欲望の虜。もう、元に戻ることはありますまい。さあ、貴女達もそれの解放を……」
 滑らかに歌う様に。
 甘美なる囁きを『彼女』と小太刀達へと掛ける『幼子』達のそれに、龍が笑う。
「願いと欲望……ふふっ、それはこういうことかしら?」
 ――何処か諦めた様な、悟った様なそれを、その笑みの中に紛れ込ませながら。
(「お母様……」)
 龍のその笑みの真実を知る由が、思わずきつく二刀の火炎剣を握りしめた。
「由さん? 龍さんは、一体……」
 ――それに、『彼女』も。
 由の展開した100本の火炎剣、そして由自身と背中合わせになり互いに互いをフォローし合って、『幼子』達に安らかな永遠の眠りを齎していたカタリナの問いかけに、由が悲しげに眉を顰めて首を横に振った。
「……直ぐに分かりますわ」
『強き猛き尊き者、共に歩みてその威を示せ』
 由の呟きにその背を押される様に。
 歌う様に呪を紡ぎ、その左薬指に嵌め込まれた宝石のついた指輪に触れる龍。
 それに呼応する様に、龍の手の内にひっそりと収まっていた黒い竜玉が鈍い輝きを発し、同時に龍が背に背負っていた青白い槍が光に包まれて、ふっ、と消える。
 代わりに龍の前に姿を現したのは、武装したドラゴニアンの男。
 その手には、先程まで龍に背負われていた青白く光る槍が構えられていた。
「お父様……」
「えっ?」
 由の小声が、青白く光る槍から発せられる風に乗って、カタリナの耳に届く。
 そして奇しくもそれは『彼女』の耳にも届き、それまで狂気一辺倒で放心状態に陥っていた筈の『彼女』の瞳にも狂気を孕みつつも何かを見て、感じることの出来る獣の様な光を取り戻させることに成功していた。
(「お父様?」)
 由の言葉は小太刀にも聞こえていたが、由のその言葉の意味を理解する……受け入れると言っても良いだろう……心の準備がまだ出来ておらず、状況が理解できずただ瞬くだけだ。
 しかし、彼女の脳裏に雷の様に鳴り響いていた警鐘は、次の龍の言の葉によって完全に立証された。
「私の願いは、夫を、お腹にいた子を蘇らせたい、です」
「――っあ゛」
 最初にそう声を上げたのは、果たして誰であったのだろうか。
 しかし、その声を上げた主が誰であるのかが判明するよりも先に、『幼子』達へと、龍が目前の、蘇らせたが結局黙したままに、召喚主に従う存在でしかなかった『夫』の姿を見つめて言の葉を紡いでいた。
「……しかしそれは、叶う願いではありません。死霊術士だからこそ、過去は決して今に置き換わらないことは分かっています」
「……っあ゛……っあ゛あ゛……」
(「……っ!」)
 敢えて極力感情を排した声音で淡々と現実を語る龍。
 そこには、どれ程の想いが籠められているのだろう。
 その様を想像し、痛ましい想いを胸に抱く小太刀だったが……彼女は、気が付いてしまった。
『彼女』が震える様に呻きを上げる、その姿に。
「さあ、終わりにしましょう」
 龍が粛々とそう告げて。
 蘇らせた己が夫……実体はただ召喚主に従うだけの人形……に指示を下す。
 指示を受けた『彼』は、自らの手にある氷風の槍に向けて、自らの口から『氷』の息吹を吐き出した。
 吐き出された『氷』の息吹が、氷風の槍の纏った風と混ざり合い、普段よりも遙かに広範囲な『氷』の息吹……吹雪となって扇状に広がっていき、生き残った『幼子』達を、一人残らず氷の棺の中に閉じ込めていく。
「由、カタリナさん、小太刀さん、それに……『あなた』も。今です」
 龍のその言葉を引金に。
 それまで一連の流れをまるで時が止まっていたかの様に見つめていたカタリナが我に返り、氷の棺に閉じ込められた『幼子』達の急所を的確に貫いて永久の眠りへと『幼子』達を誘い。
(「お母様……お父様……」)
 揺り起こされた嘗ての記憶に震えの止まらぬ由が、唇を噛み締める様にしながら、100本の火炎剣と共に、氷の棺の『幼子』達を焼き尽くし。
「カエラナイ……カエレナイ……モウ、ニドト……!」
『彼女』が桃色と白色の花弁を飛ばして、凍てついた『幼子』達を貫き、鮮血を迸らせる。
(「そう言えば……」)
 あの花弁は、確か『イオノプシス』という花では無かったか?
 その花言葉は……。
(「美しい、人……」)
『彼女』が意識的にそれを使っているのか、それとも無意識にその花言葉を持つ花を選んだのかは分からない。
 けれどもその意味の花言葉が選ばれたのは、偶然では無く、必然なのでは無いだろうか。
 その想いを胸に抱いたまま、小太刀が『白雨』に番えた静謐を与える黒の矢を解き放つ。
 破魔と、火葬の意味を籠めた、『炎』属性を纏わせた黒矢を。
 かくて小太刀に放たれた1本の黒矢は、250本の矢となって地上を水平に飛んで、凍てついた残りの『幼子』達を、一人残らず燃やしきったのであった。


 ――シン。

 耳に痛い静寂が、辺り一帯を支配する。
 その静寂の中、狂気を瞳に宿した同族殺しである『彼女』は息を付く様に荒々しく両肩を下ろして、彷徨える魂宜しく、最奥部へと向かおうとした。

 ――コツ、コツ、コツ。

『彼女』が前に進む甲高い靴音が虚しく辺り一帯に響く中……。
「……ねぇ」
 静かな水面の上に、一滴の雫を垂らす様に。
 優しく、けれども何処か突き放す様な、そんな声が響き渡った。
 打てば鳴り響く鐘の様なその声音に、『彼女』はふと、その声の主を見つめる。
 声の主は、カタリナ。
 遊生夢死 ― Flirty-Feather ―に魔力を籠めて、白き双翼へと変貌させたその姿は、さながら罪深き迷える子羊の懺悔を聞く天使の様だ。
「……テン……シ……?」
 ポツリ。
 たどたどしく呟く『彼女』に小さく頷き、深く尊き慈愛に満ちた笑みを浮かべてカタリナは問いかけた。
「貴女の目的は、『取り戻す』事? それとも、『やり遂げる』事?」
 これ以上、多くのことを語ることは出来まい。
 既に理性を失っている彼女に問うことが出来るのは、ただ、それだけの事。
 或いは『幼子』達の言う『あの御方』との戦いの中で理性を取り戻す可能性も否定できないが……その為には、彼女の抱える事情を完全に理解した上でそれにどう対処するかを考えねばならないだろう。
 故に、カタリナの問いは簡素でありながらも的を射ていた。
 カタリナの問いに、『彼女』は簡潔にこう答える。
「ヤリトゲタイ」

 ――もし、その目的を達する邪魔になるのであれば……。

 言外に含まれたその意を、彼女の周囲を漂う殺意と共に諒解したカタリナは、ただ、分かったわ、と頷くだけだった。
「行きなさい。為すべき事を、為すために」
 カタリナの解に答える必要を感じなかったか。
 何も言わずにその場を後にして、屋敷の奥へと消えていく『彼女』
「同族殺しの探し人は、子供、では無いのですか……? でも、同族殺しは、お母様と同じように、我が子を失っている……?」
 由の呟きに、小太刀がそうね、と顔を俯けながら暗い声音で話を続けた。
「それだけじゃ、無さそうよ」
「何かに気がついた様ですね、小太刀さん」
 龍の問いかけに、ええ、と暗い表情のままに頷く小太刀。
「彼女の使っていた花弁なのだけれど……あれ、確かイオノプシスって言う花だったと思うの。その花言葉は、『美しい人』」
「『美しい人』……ね」
 先程までの泰然とした態度こそ崩したものの、生真面目な言葉遣いを止められぬままにカタリナが呟く。
 カタリナの呟きに、小太刀がええ、と静かに首を縦に振った。
「『アノコ』、『コノコ』、『ミンナ』……。失われたお子様がこの中に含まれているのは、間違いなさそうですわね」
 浮かない表情で呟く由に、恐らく、と龍が頷き告げる。
「『コノコ』が、そうだと思いますわ、由。私だったら、『この子』と呼んでいたでしょう」
 そう言って自らの腹部を優しく撫でる龍に、由が更に辛そうな表情に。
 小太刀もカタリナも、その意味を諒解して何かを口に出そうとするが、これ以上何を言っても慰めにもならないことも同時に理解した2人は、ただ、静かに首を横に振り、『彼女』が消えていった最奥部へと視線を向ける。
「行きましょう、皆さん」
 その龍の呼びかけを呼び水として。
 小太刀達猟兵は、最奥部にいるであろう、『あの御方』と『彼女』の下へと向かって行った。
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『煉獄への導き手・エリー』

POW   :    召喚:少女と人々の嘆き
戦闘用の、自身と同じ強さの【悪意でできた、数多の絶望した信徒達と黒竜】と【憎悪でできた、攻撃を跳ね返す拒絶の障壁】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
SPD   :    投映:煉獄(ラクエン)への微笑
【煉獄へ導く使徒としての微笑を見せて】から【相手の深層に眠るトラウマや心の傷、闇】を放ち、【過度の心的外傷】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    投映:煉獄(ラクエン)への道標
対象のユーベルコードに対し【相手の深層に眠るトラウマや心の傷、闇】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:壱ル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナターシャ・フォーサイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は、9月22日(日)となります。その為、プレイング受付期間は9月19日(木)8時31分~9月21日(土)一杯となります。何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――屋敷、最奥部。
「ようこそ、煉獄へ。これで貴女は、永遠の幸福を得ることが出来るでしょう。漸く貴女は、幸福なるこの世界にやって来る事が出来たのです」

 ――ナシトゲタイ。

『少女』の呼びかけに、答える必要性を感じなかったか。
『彼女』は無言で、目前の『少女』へと狂気と殺意の籠もった眼差しを向けた。
『彼女』の様子を見た『少女』は周りを見回して、怪訝そうな声音を上げている。
「貴女は、あの試練を乗り越え、煉獄への道に辿り着いた筈。何故、私が貴女の為に遣わした使者が共にいないのですか?」
 心底不思議そうな『少女』だったが、まあ、良いでしょうと『少女』は軽く肩を竦めた。
「いずれにせよ、貴女は『選ばれた』。これから貴女は、私の下で永遠の幸福と永久の生命を享受することが出来るのです。……これは非常に喜ばしいことではありませんか。何よりも、私の下で煉獄にいられるのですから」
「――ダマレ」
『少女』の呼びかけに、『彼女』は低く呻く様に呟いた。

 ――怨嗟に満ち満ちた、その声を。

「オマエハ、スベテヲワタシからウバッタ。『アノコ』も、『コノコ』も、『ミンナ』も……!」

 ――だから、償え。

『アノコ』と、『コノコ』と、『ミンナ』の生命を、その命で以て償え。
 殺意に満ち満ちた『彼女』の表情に、『少女』は軽く肩を竦めた。
「どうやら、貴女には少し教育が必要な様ですね。このままでは『私』の煉獄の住人に相応しくありません」
 そう呟いて椅子から降りて鎌を構えて、『彼女』と正面から向き合う『少女』

 ――今、『煉獄への案内人』たる『少女』と、『彼女』との戦いの幕が、切って落とされようとしていた。

*判明している情報について
 第1章の判定の結果、『彼女』について幾つか判明した情報がありますので開示させて頂きます。
1.『彼女』の使うUCの一つに、『イオノプシス』の花弁を使う攻撃がある。
2.『イオノプシス』の花の花言葉は『美しい人』
3.『彼女』は嘗て子供を身籠もっていた。
4.『彼女』の言う『コノコ』とは身籠もっていた子供の事。
5.身籠もっていた子供は、身籠もっている間に喪われた。
6.『彼女』は試練を乗り越えた『選ばれし者』である。
7.『彼女』と会話をすることで情報を引き出すことは困難。
 尚、『彼女』が理性を取り戻す可能性は0ではありません。
『彼女』は自分が此処に来た本当の目的に『気がつけた』からです。
『彼女』の調査をどうするか否かは、皆様の選択にお任せ致します。

 ――それでは、良き選択を。 
ウィリアム・バークリー
身籠もっていた子供――最後に会った依媛も、仮初めの子供を失っていたら『彼女』のようになっていたのでしょうか?
いえ、感傷は禁物。猟兵ならオブリビオンを狩り尽くさなければ。
共闘するのもあと少し。

Active Ice Wall展開。投射型の攻撃が多いみたいですから、盾をしっかり用意した方がいいでしょう。
ではいきますよ。Icicle Edge!
場所を移動しつつ何波も放って、相手がこの攻撃に慣れてきた頃に、SlipやStone Handで動きを封じにかかります。
そのタイミングで皆さんに集中攻撃をしてもらえれば。

討滅出来ましたか。あの『少女』は、『コノコ』を生贄にでも捧げたのでしょうか。何か残っていれば。


カタリナ・エスペランサ
「煉獄、楽園……そういうのは生き抜いたその先に待ってるものだよ。まだやる事のある人をゴールの方から迎えに来るなんて、興醒めもいいところだ」
本来心の支えとなるべき“楽園”が村人を生贄として生を取り上げたという、転移前に優希斗から聞いた情報で以てエリーの行いを否定して。

使用UCは【失楽の呪姫】。
《祈り》を捧げ魔神の魂を励起する事で精神干渉への抵抗力を増幅し、《属性攻撃》による同族殺しへの《援護射撃》を軸に立ち回ります。

カタリナのトラウマは過去たるオブリビオンが今を生きる人々を虐げるこの世界の光景そのもの。
故にオブリビオンを駆逐し人々に希望と未来を取り戻すのだと《気合い》を入れて立ち向かいます。


彩瑠・姫桜
『彼女』が敵にトドメを刺せるように【咎力封じ】で援護する
敵からの攻撃は極力【武器受け】【かばう】で引き取る
攻撃はドラゴンランスで【串刺し】にしていくわ

このオブリビオンが、煉獄への試練と称して
村人達を生贄にし虐殺したってことになるのかしらね

(「スベテヲワタシカラウバッタ」からそんな想像を巡らせる
違うかもしれない
けれど『彼女』がそんな村人達の一人だったとしたら
目の前のオブリビオンに殺意を見せるのは、当然のことだとも思う)

何にせよ、私が今できる最善は目の前のオブリビオンを倒すこと
立ち止まっている場合じゃない

(人の姿の相手を手にかけるのは
どれだけ経っても怖いままだけど
トラウマを払うように首を横に振り)


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可

成し遂げたい、か
僕はその意思を尊重する
…狂気に侵されても忘れられない想いはあるよな

引き続き【魂魄解放】発動
…彼女たちは何を思うんだろう

微笑を見せても心揺らがぬよう
『少女』を倒すという「覚悟」を胸に
常に「殺気」を放ちながら黒剣を振るう
この闇を引きずり出されたら…僕自身が壊れかねない
※心の闇:狂笑浮かべ魂を喰らう残虐な戦闘狂の一面

高速移動で接近したら
「早業、先制攻撃、2回攻撃、怪力」でひたすら全力で黒剣を振るい、叩き斬る
『彼女』の邪魔をしないよう、細心の注意を
止めは『彼女』に譲るさ

調査中の猟兵への攻撃は「かばう、武器受け、オーラ防御、覚悟」で阻止
…情報の有用性は認めるからな


荒谷・つかさ
ここまでくると『アノコ』と『ミンナ』が何者なのかも気になる所ね。
まあ、戦いながらわかる範囲で様子を見て情報収集しましょうか。

兵隊を出してくる上に障壁持ち……少々厄介ね。
まあ、やれないこともないけれど。

【鬼神鉄爪牙・天地粉砕撃】発動
召喚された敵のうち、重量的に可能であれば黒竜の、不可能であれば信徒の方の顔面を掴み、ぶん回して周辺に叩きつける
この時出来るだけ他の召喚された敵や『少女』も巻き込む(範囲攻撃、なぎ払い、衝撃波)
『少女』へは障壁で防がれるでしょうけれど、目的は彼女の周辺の掃除
ある程度一掃したら、改めて『少女』へ掴みかかりコード発動するわ

障壁には投げ技って、相場が決まってるのよ!


宇冠・龍
由(f01211)と参加

少女の言うラクエンとは、何を指すのかが気になりますね
同族殺しもオブリビオンなら、既に過去の亡霊
しかし「やり遂げたい」と未来を望むなら、似た境遇の者として放ってもおけません

全力で事にあたります
(私にトラウマは通じませんよ、その光景は毎夜夢で見ているのです……。ずっと胸に、そしてこの体に刻まれ続けているのですから)

【人中之竜】で、『彼女』を含めた味方全員の能力を倍化
そして『彼女』に憑依させた霊を通じて、この場を煉獄などではなく、『彼女』の想い出の地に塗り替えます
きっとそこには、トラウマではない、成すべき純粋な願いが詰まっていると思うから


宇冠・由
お母様(f00173)と参加

(あの技、お母様の身体に極端な負荷を与えるから今まで絶対に使用してなかった筈なのに……!)
一秒でも早く戦いを終わらせないと

「貴女が煉獄を尊ぶなら、私は地獄の鬼に成りましょう」
【七草仏ノ座】を使用して30Mの大鬼に変身
煉獄と口にするんですもの、この炎はラクエンの信徒たちをおびき寄せるはず
私は皆様の盾となり、より戦いやすく

幾度も再生する地獄の身を以てかばい、悪意も絶望もトラウマも一切を灰燼に帰させます

お母様の技で力は倍増。そして時間経過で倍々に火力の増すこの技
拒絶の障壁を火炎剣でたたき割り、『彼女』が宿敵を討つための道を切り開きましょう


鈍・小太刀
コノコ、アノコ、ミンナ
子供、親友、仲間?
大切な人を亡くした彼女
もしかして彼女自身の手によるのかな
煉獄へ招かれるという事は
神に許されながらも『償うべき罪を持つ』という事だから
そして彼女が『復讐』を願うのは
罪へと導いたのがこの少女だったから

だったら私に出来るのは
引き続き彼女を援護する事
救える訳じゃなくても
その想いを願いを遂げさせられたらと思う

敵味方彼女の動きを【見切り】【援護射撃】
彼女が止めを刺せるよう援護する

トラウマ?
そうね、昔旅の途中でね
気の合う友達が出来たの
でも私はその子を手にかけた
オブリビオンだったから
彼の願いを叶えるには
それしか道が無かったから
後悔はしない
私は私の選択を信じるよ
彼の為にも




 ――そこに咲き乱れるは、美しい白と桃色の花。
 懐かしい……。
 あの頃は、皆幸せだった。
『ミンナ』がいて、『アノコ』がいて、『コノコ』もいて……。
『ミンナ』は『ワタシ』と仲良くなって、そうして一緒に幸せに過ごして。
『ワタシ』は一角の幸せを得て『コノコ』を宿して、それを『アノコ』が祝福して……。
(「『その子』と『貴女』は、私が守るよ」)
『アノコ』は私に笑いかけ、『ワタシ』も頼りにしているよ、と言ったんだっけ。
 ――でも。
 災禍は突然やって来る。
「おめでとうございます」
「この村には、『試練』を受ける資格が与えられました」

 ――それは、燭台を持った『幼子』達。

「あの御方は、煉獄への切符を、皆様へと采配下さいました」
「ですが、そこに至ることが出来るのは1人です」
『幼子』達は口々にそう告げて、燭台についた蝋燭を『ミンナ』に振るう。

 ――それがこの物語の、終わりの始まりだった。


 ――ザザァ……サー……サー。

(「これが……『彼女』の思い出の地ですか」)
 桃色と白色の花……イオノプシスの花に溢れた、闇の中でも細やかな幸せを満たす為に作られた美しき花畑と、この世界の普通の村人達。
 その村人達の中で、一際可憐な少女が花の様な笑みを浮かべて、此方に向かって笑いかけている。
(「恐らくこれが『彼女』の……」)
『成し遂げたい』という想いの結実なのだろう、と宇冠・龍はそう思う。
「やっぱり、『アノコ』は……」
 自分の周囲に現れた温かな母の胎内の温もりを思わせる穏やかな波音と、淡い水色と紫の波動に包み込まれた周囲の光景を見つめながら、鈍・小太刀は自分の推測に一定の確証を得て、そう呟かざるをえなかった。
「『アノコ』と『ミンナ』が何者なのかは気になるところだけれど……龍の『彼女』の為に生み出した光景を見る限り、あの幻の少女と村人達が、『アノコ』と『ミンナ』、なのかしらね?」
「つまりこのオブリビオン……『少女』が煉獄への試練と称して、村人達を生贄にし、虐殺したって事になるのかしら……?」
「……分からない」
 彩瑠・姫桜がschwarzとWeiß、黒と白の波動を放つ二槍を腰だめに構えながらのの問いかけに、両目を赤く光らせながら軽く頭を振って返すは館野・敬輔。
「ただ、分かっていることもある。それは、『彼女』は成し遂げたい、と思っているという事だ」
「本当に、それを『成し遂げる』事が出来るとお思いなのですか? だとしたら私の『煉獄』で享受できる筈の永遠の幸福を自ら捨て、ただ私に殺されて、『煉獄』から何も無いあの海へと戻る……それが貴女の定めであり、貴方達猟兵の辿り着く先です。私に刃向かうと言う事は、即ちそう言うことなのですよ?」
 鎌を構えながら、その両手に人の心の深淵に土足で踏み込む漆黒の闇を纏った『少女』がそう敬輔達へと鈴の鳴る様な愛らしい声で呼びかける。
 くいっ、と小首を傾げる様は、あからさまな嘲笑であろう。
 その嘲笑を見ながら、先程の戦いで龍が使ったあの技が、最愛の母の心に深く圧し掛かる負担を知る宇冠・由は、母の、そして『彼女』の想いを嘲笑する『少女』の姿に怒りを禁じ得ない。
(「今まで絶対に使用していなかったお母様の身体に極端な負荷を与えるあの技を惜しみなくお母様に使わせ、剰えお母様達や『彼女』の想いを踏みにじる様な者が……!」)
 ギリリッ、と狂おしい程に胸が締め上げられるそれに、一刻も早くこの『少女』を滅さなければ、と強く心に決める由。
 胸中に宿った思いは、嘗て御稲荷様として祭られ、そして自分達が鎮め、ともに歩んだ狐の神々の共感を強く呼び込み、それが由の全身に覆われていく。
 気がついた時そこにいたのは、全長30m程の鋭い一角を持つ巨大な鬼。
 その周囲に炎を纏った無数の狐達が顕現し、まるで由と他の猟兵達を守護する様にその場に佇んでいた。
「貴女が『煉獄』を尊ぶなら、私は地獄の鬼に成りましょう」
(「『皆』と、同じ……?」)
 大鬼と化した由の姿を見た自らの黒剣に纏われた白い靄の少女達の反応を見て、微かに敬輔が驚きを感じて軽く目を瞬いた。
 ――お兄ちゃん。
 ――あの狐様達とあの鬼は……『カミサマ』だよ。
 ――でも、あの『カミサマ』とは少し違う。
 ――多分、『狐様達』は、皆を守る『神様』だった。
(「神様がどう言うものなのかって、分かるものなのか……?」)
 ともあれそれを自分に伝えてくると言う事は、由の事は信じても良いと言う事なのだろう、と敬輔が思い直す。
 その敬輔の体を賦活するのは、まだ、オブリビオンに襲撃されるよりも前、平和だった頃の村と、その村人達の温もり。
(「この間里帰りをしたけれど……『皆』との思い出は、やはり……」)
 思いながら、中段に黒剣を両手使いで構える敬輔。
「最低だよね、アンタは」
 その身に宿りし邪神を顕現させ、プリズムに輝く遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を、由の地獄の炎で照らし返した憤怒の赤を思わせる色へと変じさせながら。
 瞳から血の涙を零しながらも、不退転の決意を祈りと共に絶やす事無く。
 カタリナ・エスペランサが鋭く突き刺さる様な声音で『少女』エリーを糾弾した。
 ――此処へと送り出した、あのグリモア猟兵の言葉に言外に籠められていた、本来心の支えとなるべき“楽園”が、村人を生贄として生を取り上げたと言うその話を思い出しながら。
「何が最低なのですか? 私が与える『煉獄』は、『試練』に敢然と立ち向かい、その戦いを生き残った者に与えられる無限の幸福なのですよ。何処が間違っているというのです?」
 予期せぬエリーのその言葉に、低く唸る様な声音をあげる『彼女』と、事実関係を察しやっぱり、と呟く小太刀。
 気遣わしげなその瞳は、『彼女』へと向けられていた。
「『彼女』は『アノコ』を……」
 ――小太刀のその呟きに、思わず瞼を大きく開くカタリナ。
 同時に姫桜も『スベテヲワタシカラウバッタ』から巡らせていた以上の想像を絶することが『彼女』達の身に起きていたのだと気がつき、そこにある尚も暗く深い闇に気がついて、思わずうっ、と息を飲み込んだ。
 桜鏡が、『生贄』の真実を感じ取った姫桜の心の動揺を示す様に、大きな、大きな波紋を浮かべて広がっていく。
(「でも、そうならば目前のオブリビオンに殺意を見せるのは、当然のことだけれど……」)
 カタリナも、その事実に気がついたのだろう。
『少女』が強制した『試練』、それをオブリビオンと化して生き残った『彼女』の壮絶な経緯に思い至り、その瞳に苛烈なまでの怒気を孕ませて鋭く叫んだ。
「煉獄、楽園……そういうのは生き抜いたその先に待ってるものだよ。まだやる事のある人をゴールの方から迎えに来るなんて、興醒めもいいところだ」
「許さない、ゆるさない、ユルサナイ……! 『ミンナ』と『アノコ』、『コノコ』ヲウバッタオマエダケハゼッタイニ……!」
 憎悪と負の想念の塊となった『彼女』の様子を見ながら、ウィリアム・バークリーはふとある事を思い出す。
 それは、エンパイアウォーの戦争であった『依媛』の物語。
(「身籠もっていた子供――最後に会った依媛も、仮初めの子供を失っていたら、『彼女』のようになっていたのでしょうか?」)
 と、此処でウィリアムはある事を思い出した。
 つかさが他の猟兵達と共に依媛の腹部を刺し貫き、『それ』を失った時の、天災の如き土蜘蛛の苛烈な攻撃を。
 今思えばあれは……『子』を失った『母』故の……。
(「いえ、感傷は禁物です」)
『彼女』の境遇には、同情すべき余地があるのは分かる。
 だが、龍も既に悟っている様だが、既に『彼女』はオブリビオンと化している。
 化して、しまっていた。
(「ならば……オブリビオンは狩り尽くさなければ」)
 過去により、未来を塗り潰す。
 そんな彼女達の存在を見逃しては、人々に更なる災禍が散る。
 ――故に。
(「共闘するのもあと少し。現状で隙を突いて『彼女』を害そうとするのは、全体の戦況に不利を及ぼしかねないですね」)
 ――ならば今、ウィリアムがやるべき事は一つ。
 ルーンソード『スプラッシュ』の先端で、十重二十重の青と深緑色の混ざった魔法陣を描き出しいつもの様にその呪を紡ぎ、すっ、と『スプラッシュ』の剣先を突き出し叫ぶ。
「……Active Ice Wall!」
 叫びと共に魔法陣から無数の氷塊の盾達が発射され、氷塊が戦場を満たすのを合図に。
 つかさ達と、『彼女』と、『少女』の戦いが始まった。


「オマエダケハ……オマエダケハ!」
 怨嗟の呻きをあげながら、その瞳を怪しく黒く煌めかせる『彼女』
 先の戦いで『幼子』達を締め上げた不可視の光が『少女』を射貫き、その身を締め上げ動きを封じようとするが。
「ようこそ……煉獄へ」
『少女』はただ、その口元に天使の様に愛らしい微笑を閃かせた。
『幼子』達とは、以て異なる、その微笑みを。
「……っ!」
 見るだけで蕩けてしまいそうになるその微笑みを行なう唇の動きを敬輔は咄嗟に読み取り、自らと少女達のオブリビオンへの憎悪を乗せた殺気を白き靄と共に叩き付ける。
(「この微笑みに囚われれば……」)
 今、龍によって自らの力となってくれている『思い出』達が、牙となって敬輔に突き立ちその心を砕くであろう事は、想像に難くなかったから。
 緋色に輝く遊生夢死 ― Flirty-Feather ―を羽ばたかせ天空へと駆け上がりながらカタリナが幻視したのは、オブリビオンが今を生きる人々を虐げるこの世界の光景そのもの。
 ――グレイブ達は、救えたけれども。
 救えなかった者……自分達が知らぬ間に虐げられ、虐殺された今を生きる人々が無数にいる時の事を思い、それが自らの心に突き刺さり、その傷を抉る。
 ――どうして、救ってくれなかったの?
 ――誰か助けて、助けてよ。
 ――何で、私達が殺し合わなくちゃ行けないの?
 ――これも全て、『ラクエン』のため……。
 悲嘆、嘆願、猜疑、そして……諦念。
 様々な悲劇を生み出すそれらの感情の全てが、絶望という一つの結末を齎す事実が、容赦なくカタリナの心を揺さぶり打ちのめさんと襲いかかろうとする。
「! 絶対にやらせません!」
 鋭い声音が、辺り一帯に響き渡った。
 気付けば炎の鬼と化した由が、二刀の火炎剣を十字に構えてカタリナの前に立ち塞がって、その微笑みを、カタリナの視線から遮断していた。
 ウィリアムの氷塊も敬輔や、姫桜達の目に『少女』の微笑みが移らない様に視界を遮る様に舞い、姫桜達がトラウマに囚われ動けなくなる可能性を封じている。
(「『あなた』は、この絶望を憤怒に変えたの?」)
 ――そうして、『彼女』は此処に居るの?
 先程一瞬垣間見えたカタリナのトラウマが、まるで『彼女』が見ていたであろうそれと重なり合うのでは無いかという考えが、ちらりとカタリナの脳裏を過ぎった、その時。
「グ……ウァァァァァァァァァァ! 『ミンナ』が……『アノコ』が……『コノコ』のために……! 『楽園』なんて要らない、幸福なんて要らない……その為に『ミンナ』を……!」
 姫桜が咄嗟に庇ったものの、『彼女』の心に残った瑕疵に、『彼女』が永久に囚われ続ける苦しみに喘いでいる。
 その様子を上空から見て取ったカタリナがその瞳から血の涙を流しながら、羽を羽ばたかせ叫んだ。
「敬輔さん、小太刀さん、合わせて!」
「分かった!」
「ええ、任せて!」
 叫びと共にカタリナの羽根が天空から飛散し、終焉を招く劫火の欠片と化して一斉に『少女』へと降り注ぐ。
「あくまでも私の邪魔をするというのですね、貴女達は。残念な事……生にしがみつき、限りある生命を無益に費やすことに、何の意味があるというのかしら? 私の下にいらっしゃれば、永久の幸福と永遠の命を享受し続けられるのに」
 煩わしげにそう呟き、鎌を振るって終焉を招く劫火の欠片を叩き落とす『少女』
 だがその間に小太刀が、彼女の『願い』を遂げさせる『想い』を籠めた、純白の輝きを発する破魔の矢を、白雨に番えて、ヒョウ、と放つ。
(「貴女も、罪を抱いているのね……」)
 煉獄(レンゴク)へ招かれるという事は、神に許されながらも、『償うべき罪を持つ』という事。
 つまりそれは、『彼女』もまた罪人だ、と言う事でもある。
 恐らくそれが、その村の村人達が生贄となった『試練』なのだろう。
(「アノコ、コノコ、ミンナ、試練、生贄……」)
 これらのキーワードを掻き集め、小太刀は一つの結論に辿り着いた。
『彼女』達が、目前の『少女』に強いられたもの、それは……。

 ――たった一人が『煉獄』に至るために、『少女』によって強制された、『互いに互いを殺し合う』、最悪の儀式。
 
 その『儀式』で『コノコ』……今は亡きその身に宿していた『彼女』の子供と、『彼女』が生きるため、『彼女』は『アノコ』……恐らくオブリビオンと化する前の『彼女』の親友である『美しい人』……をその手で殺めると言う『罪』を犯した。
 勿論そうすることが、『少女』によって強制されたものであろう事は、疑う余地が無い。
 つまりそれは、『彼女』に『アノコ』……彼女の親友をその手で殺めさせるという『罪』へと導いたのが、この少女だったと言う事になる。
 それならば、『彼女』が『少女』に復讐を果たさぬ道理は無きに等しい。
 故に放たれた矢は、吸い込まれる様に『少女』に張り付いた微笑に突き刺さり、破魔の光となって彼女の『微笑み』を焼き払った。
 ――お兄ちゃん。
 ――あいつは駄目。
 ――許せない。
 ――『あの人』を傷つけたこの『少女』は……!
「ああ……許せない!」
 少女達の同情・憐憫そして……エリーへの憎悪は、敬輔を奮い立たせるに十分であり、故に敬輔は大上段から黒剣を振り下ろす。
 力任せに振り下ろされた斬撃により、切り離される様に放たれた白い靄達が空間を断つ鋭い斬撃の一閃となって『少女』に強かな一撃を加え、続けざまに肉薄した敬輔が、振り下ろした黒剣を撥ね上げた。
「何故私の救いを……『煉獄』への道を歩むことを拒むのですか? その先に待つのは私の下での永遠の幸福と生命の享受だと言うのに……!」
「……ふざけるな。貴様に与えられるものの何処が永遠の幸福だ、永遠の生命なんだ!?」
 激昂と共に更に斬撃を繰り出そうとする敬輔に少し固いながらも微笑みを浮かべる『少女』
 だがその時には『スプラッシュ』の剣先を天へと掲げ、星形の青い魔法陣を召喚していたウィリアムが術の詠唱を完了している。
「……Icicle Edge!」
 天空に描き出された魔法陣が明滅し、同時に天空に200を越える氷柱の槍を射出。
 射出されたそれらの氷柱の槍がそのまま怒濤の様に『少女』へと降り注ぎ、『少女』は鎌でそれを辛うじて受け流すが、その腕や足の一部を貫かれ、血を溢れ出させながら苦痛の呻きを上げた。
「くっ……ですが……!」
 呻きながら後退し、鎌を円状にグルリと回転させる『少女』
 浮かび上がった灰と黒の魔法陣。
 その中でも黒い魔法陣から生み出されたのは……。
「ミ……ミン……ナ……?!」
 戸惑い、荒れ狂う様な呻きを上げながら、白と桃色の無数の花弁を解き放つ『彼女』
 しかし彼女の放った『イオノプシス』の花の乱舞を、灰の魔法陣が拡大し、『少女』を覆う様にして生み出された結界が一欠片も余すこと無く受け止めた。
 闇よりも尚深い、自らの『煉獄』を望まぬ者を拒絶する……絶対的な障壁が。
 同時に呪詛の様に『彼女』の動揺を誘ったその表情を、お互いに殺し合わなくてはならないという絶望に覆われた『ミンナ』が嘆く叫びこそが、『少女』と『それ』にとっては悦楽だったか。
 黒き魔法陣の怪しげな輝きがより一層増し、人々の魂に絶望を呼び起こさせる咆哮が上がった。
 その咆哮の主は……。
「黒竜、ね。まあ、大量に現れないだけ、ドラゴンテイマーの時よりはマシかしら」
 反射されたイオノプシスの花弁による乱舞を、龍によって作り出された嘗て『母様』も、『父様』もいた、あの幸福な時代を思い出させてくれる温かな空間に強化された巨大な守りの鬼と化した由が盾となって代わりに受け止めてくれたのに軽く礼を述べながら小さく呟き、由の影から飛び出すつかさ。
 そのままウィリアムの呼び出した氷塊を渡り歩いて、絶望した信徒……或いはそれを模して作られた存在の群れを一息に飛び越え、そのまま巨大な咆哮を上げて突進を仕掛けようとした黒竜に突進。
「つかさ様!」
 追随する様に由がつかさの後を追い、龍が己が力を注ぎ込み、『彼女』と由達の力を更に上げていく。
 そんな龍を邪魔するべく信徒の群れが襲いかかろうとするが、その時には敬輔がその前に飛び出す様に立ちはだかり、黒剣を水平に構えて信徒達の攻撃を受け止めていた。
「敬輔さん……」
「……龍、あんた達は、『彼女』について多くの情報を俺達に齎した。ならば、俺は、龍達を守る。……情報は、何よりも大事な武器になるからな」
 敬輔のその言葉に、その口から血を滴り落としながら、龍が黒い竜玉を優しく撫で
ると同時に、龍の周囲を漂う無数の霊達が再び淡い輝きを発し始める。
『月は満ち欠け巨竜を跨ぐ、育め育め一と全、矍鑠赫灼機を満たせ』
 連続した詠唱による寿命の削れを感じながらも尚、詠唱を止めることの無い龍の姿に背を押される様にして、つかさが黒竜の背後に疾風の如き速さで回り込んでその尻尾を掴み取り、ブンブン、とまるでハンマー投げの如く振り回し、悉く攻撃の邪魔をする召喚された信徒達の群れを叩きのめし、更に『少女』の拒絶の結界に容赦なく黒竜の体を叩き付けた。
 ――ガツーン! ガツーン!
 ――ピシッ、ピシピシピシ……っ!
 それは、結界が破れる音か。
 はたまた、『少女』の声なき悲鳴だったか。
「由、今よ」
「はい! つかさ様!」
 その音をどちらでもある、と判断したつかさの呼びかけに応じ、それまでウィリアムや小太刀の『盾』に徹していた由が『少女』に肉薄。
 30mという巨体からは想像も付かないほどの軽やかな足取りと速度で『少女』に肉薄した由が、自らの周囲を舞う無数の狐の姿を象った地獄の炎を、灰色の巨大な結界に向かって叩き付けた。
 叩き付けられた狐の姿をした地獄の炎達が、その憎悪を浄化するべく光り輝き、結界の核である『生者』への憎悪に罅を与える。
「皆様! お願い致します!」
「行くわよ!」
「Icicle Edge!」
 自らが鬼となる力を与えてくれた狐達の思わぬ増援に『少女』の結界が綻びを生じさせた事に気がついた由の叫びに応じた小太刀が、弓を引き絞って純白の輝きを発する一矢を解き放ち、ウィリアムが、今度は地を這う様に呼び出した氷柱の槍を灰色の巨大な結界に突進させる。
 純白の矢に籠められた『彼女』の願いを叶えたいという想いが破邪の閃光となって結界の生きとし生けるものへの弱められた憎悪とぶつかり合って爆ぜて甲高い悲鳴を上げ、更に氷柱の槍が結界に突き刺さりながらビキビキと結界を凍てつかせていく。
「ばっ……バカなっ!? 何故、私の煉獄を拒絶する結界が、こんな猟兵達如きの攻撃に弱められるのです?!」
「それは……そこにお母様と皆様の願いが、力が込められているからです!」
 甲高い悲鳴を上げる『少女』の結界を両断する様にその手に持つ地獄の炎で生み出された二刀火炎剣を十文字に振るう由。
 龍の祈りと想いの籠められた精霊達による身体強化、そして剣速の圧倒的な上昇。 それによって生み出されるのは、無限にも等しい地獄の焔達の死の舞踏。
 流れる様に振り抜かれた二刀が背負った地獄の炎が『少女』を守っていた結界を大きな音と共に破砕させた。
「そっ……そんな?!」
 目を見開く『少女』に向けて、掴み、スウィングしていた黒竜を叩き付ける様に投げつけるつかさ。
 自分に飛びかかってくる様にも見えるその黒竜を躱すべく、咄嗟に横に飛んだ『少女』の軌道をまるで読んでいたかの様に、つかさが『少女』の懐に飛び込んだ。
「ねぇ、知っている? 外壁が強固であれば強固であるほど……内面ってのは脆いものってこと!」
「なっ……何を……?!」
 信徒達も、黒竜も召喚しているため、未だに戦えないという制限から解放されていない『少女』の鈴の鳴る様であり、嘲笑する様でもあった声音が、完全に上擦り、引き攣っていた。
 つかさがそれに鱶の笑みを浮かべて、腰から上を掬い上げる様に『少女』を掴み上げようとする。
「ひ……ひぃっ?!」
 明らかに恐怖と狼狽を孕んだその声音と共に、慌ててつかさの魔手から逃れようとする『少女』
 だがその時には……。
「……Stone Hand!」
 左手を大地につけ、『少女』の足下に黄土色の魔法陣を描き出していたウィリアムの呼び出した岩石で出来た大地の精霊の腕が『少女』を掴み取り、その動きを封じていた。
「つかささん、今です!」
 ウィリアムの呼びかけに頷き、そのままつかさが『少女』をがっしりと掴み、叩き付ける様に『彼女』達の方に向けて巴投げの要領で放り投げる。
 そのまま放物線を描いて空中を舞う『少女』に向けて、カタリナが天井スレスレを滑空し、追走しながらその羽根をあらゆる守護を貫く黒雷へと変化させしめて貫いた。
「が……がぼぉっ?!」
 全身を文字通り電流に刺し貫かれて、ビクンとその身を痙攣させながら地面にその体を叩き付けられる『少女』
 全身を苛む激痛から鎌を取り落とし、更に恐怖からであろう、表情を青ざめさせている。
「こ……こんなバカなことがあって良いはずがありません! これは夢! 悪い夢なのです! 私の『煉獄』が、この『煉獄』への導き手たる、神の使徒である私が、お前達如き低脳な輩に敗れるなど……!」
 子供の様な甲高い喚き声を上げながら、ふと、何かに気がついたか、強張った微笑を口元に浮かべ、更にとある光景と人物の影を、小太刀と龍へと放つ『少女』
 その口元の笑みは、姫桜の瞳を吸い寄せる様に捉えていた。
 その上で小太刀と龍に向けて解き放たれたのは……其々の、『あの時』の記憶。
(「これは……」)
 何本目かの純白の矢を解き放とうとした小太刀が見たのは、昔、旅の途中で出来た気の合う友達を……『彼』を手に掛けた、自分の姿。
(「それが……彼の願いだったから」)
 でも、その時。
 彼はどんな気持ちで、それを受け入れたのだろう。
 目前にいる『彼』は、今、自分を詰っている。
『なんで……僕を殺したんだ』
 ――それしか……貴方の願いを叶える道は無かったから。
『僕はもっと生きたかった。もっと、他の方法があったんじゃないのか?』
 ――もし時間があれば、確かにそれはあったのかも知れない。
 でも……あの時、貴方を殺した事を、私は……。
「後悔、してないから」
 だってそれが、あの時、私が貴方に出来る最善だったから。
 だから、今でも私は……。
「私の選択を信じているよ。……貴方の、為にも」
 微かに震えた声音で、その光景に対してそう呟く小太刀。
 ――もう、泣かなくなった。
 その筈なのに。
 何かが目から零れてしまいそうな、そんな気がして、自らの唇をキツく噛み締め、その光景を乗り越える小太刀。
 その一方で……。
「私に、トラウマは通じませんよ」
 口から血を垂らし、寿命が削れてきている感触を覚えながら。
 龍もまた、『その時』の事を見つめている。
 ――あの時……夫を目前で殺され、腹部に大きな傷痕が出来……『この子』を失ったその時の事を。
「この光景を、私は毎夜夢で見ていますから」
 それは、ずっと胸に、龍の体に刻み込まれ続けたままの瑕疵。
 そしてそれは、どんなに嘆いても、悲しんでも決して変わらない事実だと、夫を蘇らせたあの時から、完全に理解してしまったから。
 ――だから。
「さあ、『あなた』。自らの大切な人達の仇を討って下さい」
 深く心に穿たれた穴を抉るその光景を軽々と乗り越え、龍が『彼女』にそう優しく告げられたのは、必然だったのかも知れない。
 その間に地面に叩き付けられた状態から、態勢を立て直そうとした『少女』に向かって姫桜が戦場を疾駆する。
『少女』の口元に浮かべられた微笑を目のあたりにし、そこから想起させられる目前の『人型』の相手を手にかける事……姫桜にとって、何時までも決して拭えぬトラウマであり、恐怖ですらあるそれを、首を横に振って打ち消しながら。
 姫桜が小太刀にその身を撃ち抜かれ、敬輔の黒剣から放たれた棘の如く変貌した白き靄に足を貫かれ、カタリナの羽根から吹き荒れる、終焉を招く劫火の欠片にその体を焼かれて絶叫を上げながら鎌を振り回そうとする『少女』の両腕に【手枷】を嵌め込み、その口元の微笑を【猿轡】を噛ませて塞ぎ込み、そして【拘束ロープ】で『少女』の全身を締め上げた。
「道は……開きましたわ!」
 由の。
「後は、『貴女』次第よ」
 姫桜の。
「……狂気に侵されても、忘れられない想いがあるのならば」
 敬輔の。
「その願いを……想いを満たして」
 小太刀の。
 呼びかけを聞いた『彼女』……否、『イオノプシス』を操るオブリビオンは。
「罪を償え……! 『あの子』の、『皆』の、そして……『この子』の命を互いに奪わせる罪を犯させ、私から全てを奪っていったその罪を……!」
 今までに無いほど明瞭な声音と共に。
 イオノプシスで編まれた花冠を、無数の花弁へと変化させて五月雨の様に降り注がせて、『少女』の全身を貫いた。
「何故……私が……貴様如き『名も無き』オブリビオンに……! 誰の記憶にも残らず……私の下で永遠の幸福を享受するお人形になる筈だった、オマエ……二……」
「慄け咎人、今宵はお前が串刺しよ!」
 呻き声をあげる『少女』が拘束を無理矢理解いて尚も動かそうとするその足と腕を二槍で串刺しにして縫い止める姫桜。
 そこに『娘』が、鋭い視線を『少女』へと浴びせかけた。
 浴びせかけられた視線が、不可視の締め付けとなって『少女』の首をきつく、きつく締め上げていきそして脳に達する酸素を断って『少女』を殺していく。
「ワタ……ワタ……シニヨル……ワタシノ……タメノ……コマヲアツメタ……ラクエンガ……コンナ……ヤツラ……二……」
「……自分に尽くし、自分のためだけに働くだけの力を持つ者達を集めた場所……それが、あなたの『ラクエン』でしたか」
 龍が短く溜息をつくその姿を見ながら全身から体液を零して『少女』は泣き喚く。
「イヤ……ワタシ……シニタク……シニ……タ……ク……」
 血の泡を吹きながら、白目を剥き、グッタリとその場に頽れる『少女』
「キエ……タク……」
 喉を締め付けられる苦しみの中で、足掻く様に告げられたその言葉が……『少女』の、最期の呟きとなった。


「終わった……終わったよ、皆……! やっと……やっと……!」
 感に堪えないといった様子で。
『娘』は明快な言語で歓喜の声を上げている。
「……理性を、取り戻した……?」
 カタリナがその明瞭な『娘』の言語を聞いて微かに息を呑みながら『娘』を見る。
『娘』は、そんなカタリナ達の方を振り向き花冠を解体、『イオノプシス』の花弁へと変化させて――笑った。
「全部、思い出した。『あの子』の事も、『皆』の事も。そして……もう、『私』には、何も残っていない事も」
 ――皆が笑ったあの村は、『少女』の儀式によってもう失われ。
 ――最愛の友達だった『美しき人』は……『私』と、『私の子供』の永遠の幸福を願って、最後の最後で私に殺されて犠牲になり。
 ――けれども、あの村から此処までの距離はあまりにも遠くて。
 ――遠くて、遠くて疲れ果て……『この子』は胎内で無残な最期を遂げ、そして『私』も力尽きた。
 ――その時の強き怨念が……妄執となって今の『私』になった。
「だから……復讐を終えた後でも、私は、生き続けなきゃ行けないの」
「……例え、オブリビオンとしてでも、か」
 ぐっ、と唇をきつく噛み締める敬輔に、そう、と『娘』は静かに首肯する。
「他の誰かを犠牲にしようとも。この世界が死ぬその時まで、『親友』と、『皆』の命を喰らって生き延びた私には、生き続ける義務がある」
「それが、貴女の望んだ結末なのね?」
 小太刀の問いかけに『娘』はそうね、と静かに首肯した。
「ねぇ、皆。私の復讐に付き合ってくれた心優しい皆。貴女達は、そんな私を止められる? 今の私が……復讐を果たした私が、あの子達の為に生きたいと願うその意志を、否定出来るの?」
「一つ、聞いて良いかしら?」
 姫桜の問いかけに、何、と問う『娘』
「貴女は、私達の話を聞くつもりはあるの?」
「そうですね」
 姫桜の呼びかけに、同様に頷くは龍。
 その問いかけにそうね、と『イオノプシス』の花弁を周囲に展開したままに。『娘』が静かに首肯を一つ。
「皆がそれを望むなら。私は、皆の話を聞くつもりよ。最も、それに納得できるかどうかは、また別の話だけれど」
「分かりましたわ」
 由が頷き、ウィリアムが軽く溜息を一つ。
「対話を望めばそれを聞く、と言う訳ですか。こうまで譲歩されると、罠の可能性を疑いたくもなるのですが」
「あなたを信じる、信じないは私達の自由。……そう言うことでしょ?」
 つかさの問いかけに、ええ、と『娘』は頷いた。
「その通りよ。さぁ皆、選んで頂戴。対話か、それとも戦いかを」
『娘』の言葉に、猟兵達の、出した答えは……。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『シラナイトモダチ』

POW   :    花冠
自身の装備武器を無数の【貴方を求める花(イオノプシス)】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    ゲイザーアイ
【貴方の知らない面影(視線)】を向けた対象に、【不可視の絞めつけ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    メモリージャック
全身を【貴方の大切に思う面影(幻影)】で覆い、自身が敵から受けた【感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:まつもとけーた

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠弦月・宵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


*業務連絡:次回更新予定は、9月25日(水)夜~9月27日(金)迄となります。プレイング受付期間は、9月24日(火)8時31分~9月25日(水)一杯です。何卒、宜しくお願い申し上げます。何らかの事情があって予定の変更がありましたらマスターページにてお知らせ致しますので、此方をご参照下さいませ*

 ――ねぇ、猟兵の皆。

 ――聞かせて、貰えないかしら?
 
 ――皆の物語を。
 
 ――そして、私に見せて頂戴。

 ――皆の望む最善の結末と……私の結末が交差する、その時を。

*第2章の判定結果、第3章は下記ルールで運営となりました。

1.全ての記憶を取り戻し、復讐を果たした結果、理性を取り戻しましたので、『彼女』との対話が可能になりました。
 この章は『対話』か『交戦』、どちらかを皆様に選んで頂くことになります。
 冒頭に『対話』、または『交戦』とお書き下さい。
 プレイングも上記選択に沿ったものをして頂けます様、お願いします。

2.『対話』:『彼女』がどんな対話を望むかは、第3章断章、及び第2章迄の状況を確認して、考えて頂ければと思います。
 『対話』の内容が上手く行かないと判断した場合、その『対話』は『失敗』判定となりますが、『対話』の難易度は低いです。
 『対話』の場合『彼女』のユーベルコードの描写は自動的にWIZとなります。WIZのユーベルコードで望む描写を書いて頂ければ、状況によっては採用致します。

3.『交戦』に関しましては、通常通りの戦闘判定です。
 しかし判定の結果、理性を取り戻したこと、更に第2章までの消耗が少ない事も有り、かなり厳しめに裁定致します。
 成功になる確率は低い点、ご理解下さい。
(目安は、通常の戦闘プレイングだと一段階低い評価になる、と言った感じです)

 ――それでは、最善の選択を。




 
荒谷・つかさ
『対話』

基本的にオブリビオンは存在するだけで世界を破滅へと向かわせるものらしいし、事実として大半のオブリビオンはそのように振舞っている……けれど。
中には人を愛し、共に在ろうとしたオブリビオンも存在している。
……同族殺し。これはもしかしたら、世界そのものに変化が起きる前触れなのかしらね。

フォーミュラ級オブリビオンが出てきたら、それは討伐しなければ世界が終わる。
けれどそうでないオブリビオンは、それが即座に破滅を呼び込むわけではない……つまり、危急の事態でさえなければ様子見ができるわ。

私は結末を、交差を望まない……「いきつづけなさい」。
私達が平行線である限り、貴女を討伐する理由もないのだから。




 ――オブリビオン。

 それは、過去から生まれ出で、未来を食みし者の総称。
『彼女』は……『娘』は。

 嘗て理不尽な暴力によってその未来を奪われた、怨嗟をその身に背負い、過去から産声を上げて蘇りし、未来の簒奪者。


(「……故に過去に囚われ、世界を破滅に導く存在。それが、私達の知る典型的な『オブリビオン』」)
 目前で微笑み、母の面影を匂わせる娘の姿を取り、正面から向き合ってくる『娘』と相対しながら荒谷・つかさはそう思う。
 その胸中を過ぎるは、嘗て自らが相対したあの狂竜とオラトリオの娘の記憶であろうか。
(「あの竜は、人を愛し、そして人との共存を願っていた……」)
「あなたの望みは私と戦うこと? それとも私と話をする事?」
『娘』の問いかけに、軽く頭を振るつかさ。
「先日、この世界で戦ったあなたと同じ、同族殺しの事を少し思い出していたのよ」
「私と……同じ?」
 つかさの解に、コトリ、と首を傾げる『娘』
 それにつかさが、ええ、と首を縦に振る。
「その同族殺しは、あるオラトリオの娘を愛していた。一方で貴女は、人であった頃の記憶を強く残し、故に同族殺しとして『煉獄』の使者を名乗るあの少女と戦った。……貴女達を見ていると、こう思うのよ。私達の世界は今、大きな変革の時を迎えようとしているのではないか、って」

 ――オブリビオンにとって、同族殺しは禁忌。

 これは、オブリビオン達にとっての暗黙の了解。
 だが、『人』や『世界』を自らの目で見て、その禁忌を破るオブリビオン達の存在が多く予知される昨今の状況は、何かの兆候と言う気がして止まないのだ。
「それじゃあ貴女は、私と戦う事を拒むというの?」
「ええ。……貴女は、フォーミュラ級オブリビオンでも無いのだから。もし貴女がそれならば……貴女を見逃せば世界は滅びるから、見過ごせないけれどね」
 つかさの微かに挑発的なそれに、『娘』はそうね、と微睡む様な眼差しをつかさに向けて微笑んだ。
「私は確かに『それ』では無いわ。あなたの言葉を借りれば、復讐の為に貴女達の敵でもあるオブリビオンを刈るオブリビオン……『同族殺し』と呼ばれる者よ」
「そう。あなたは『同族殺し』。この場で私があなたを見逃した所で、危急の何かが起きるとは思えないのよね」
「それが、貴女が望む答えなの?」
『娘』の問いにつかさがええ、と確固たる意志と共に首肯を一つ。
「そう、それが私の答え。私は、私と貴女の結末の交差を望まない……ただ、貴女に『いきつづけなさい』、とだけ言わせて貰うわ」
「『いきつづける』……生き続ける、在り続ける……色々な言葉に取れるわね」
 つかさの言葉を繰り返す『娘』に、ええ、とつかさが頷きを一つ。
「少なくとも私達の道は今の所、平行線よ。ならばその限りでは……私が貴女を討伐する理由は無いわ」
「だから『いきつづけなさい』なのね……」
 コロコロと、それを味わう様に。
 舌を転がす様に呟く『娘』に、つかさが小さく頷いた。
「……他の人達がどう思っているのかは分からないわ。貴女に消えて欲しいと願う人もいるでしょう」

 ――貴女が、『オブリビオン』だから。

 暗示されたつかさのそれに、カラコロと鈴の鳴る様な声音で『娘』は――笑った。
「不思議なものね。オブリビオンと猟兵。本来であれば本能のままに憎み合い、戦うべき『敵』である筈なのに。それなのにこんな風に、私の事を気に掛ける『猟兵』もいる」
「そうね。貴女が最後にどんな結末を辿るかは分からない。けれども、それは全て貴女が見聞きし、そして選ぶことになる道よ。それだけは、忘れない方が良いわ」
 それは予言か、忠告か。
 そう言い残してつかさは『娘』に背を向けて、そのまま彼女の前を後にする。

 そのつかさの背を……『娘』は、口元に微笑を浮かべて見送った。

 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
対話

大切に思う面影:白騎士ディアブロ
敵ながら騎士の矜恃を教えてくれた忘れがたい好敵手として

……分かりました。ひとまず剣は鞘に納めます。

あなたは復讐を果たし、それでもなおオブリビオンの身で生きたいと言われる。
なら、あなたの親友や村人の『みんな』もまた、復讐を果たしその後も生き続けたいと願うのではないでしょうか。
そして、オブリビオンの非道で生命を落とす人はあなたの村だけでなく、この世界全土にいる。その人々全てが復讐の為に蘇れば、オブリビオンの二大勢力が一般人を犠牲にしながらぶつかり合う地獄と化すでしょう。
あなたはそれを望みますか?

非道なオブリビオンを討滅する役目、ぼくら猟兵に託してもらえませんか?


カタリナ・エスペランサ
『対話』
相手のUCで生じる面影は現在もこの世界にある故郷に暮らす家族、失踪して行方の知れない実姉、そして今対話している『娘』自身の姿。

「猟兵はオブリビオンを骸の海に還すのが役目。そこに例外は無いけれど……でも、それだけじゃないの」
交戦の意思は無いと示すように、手にしていたダガーは納めてみせつつ。
「貴女は幸福である事を願われ、自分には生き続ける義務があると言う。だけど、その生に貴女の幸福はあるの? 貴女の大事な人たちは、貴女が“他の誰かを犠牲にしようとも”独りでただ生き続ける事を望むと思う?」
愛した人の為の覚悟は果たして自分でも気づかない内に破綻してはいないか……静かな問いを、確かめるように。




 ――誰にでも、心に残る『面影』はある。

 例えばそれは、好敵手であったり、家族であったり、或いは、今目前で対峙している『彼女』であったり。
『娘』の名は、シラナイトモダチ。
 その人に、とって忘れられぬ面影を無意識のうちに照らし出す……その人の心の中にある『それ』を照らし出す鏡。


「カタリナさん……」
 立ち去る猟兵をちらりと見送ったウィリアム・バークリーが、隣に立つカタリナ・エスペランサに問いかける。
「ええ、分かっているわ」
 ウィリアムの問いに、カタリナが同意の頷きを一つ。
「『対話』か、『交戦』……あなた達が私に教えてくれる物語はどちらかしら?」
「そうですね。一先ず、僕達はこうします」
「私達猟兵は、オブリビオンを骸の海に還すのが役目。そこに例外は無いけれど……でも、それだけじゃないの」
 ウィリアムが抜剣していたルーンソード『スプラッシュ』を鞘に納めるのと同時に、カタリナが抜いたままだった鋭い針の様なダガーを懐に戻す。
「そうね……あなた達がただそう言う人じゃ無い事は、さっき教えて貰ったわ」
 ウィリアムとカタリナが警戒態勢を解除したその姿を見て穏やかに微笑み、『娘』が周囲に展開した『イオノプシス』の花弁を花冠へと戻して戦闘態勢を解除した。
「猟兵って、不思議よね。私を信用するかどうかを決めるのはあなた達次第ってちゃんと言ったのに、そんな私の言葉を信用して、武装を解いてくれるのだもの」
「それは……僕は只、貴女のその姿を見ていると思い出すからですよ」
 ウィリアムの呟きに、キョトン、と瞬きを一つして首を横に傾げる『娘』
「思い出す? 何を……? 誰を……?」
『娘』の問いかけに、ウィリアムがその胸にそっと手を置いて答えた。
「嘗て僕に、敵ながら騎士の矜恃を教えてくれた、忘れがたい好敵手を」
 ウィリアムのその意を諒解したかの様に。
『娘』の地面に映し出された影が、未来を読む白き騎士の姿へと変わってゆく。
「……そう。貴方には私が、『この人』に見えるのね。それが、貴方にとっての大切な面影」
「はい。……貴女と同じで、既に過去の存在ではあるのですけれどね」
 ウィリアムの記憶を読み取ったのか。
 小さく、そう、と呟いた白騎士の面影を残したそれに影を変じさせながら、『娘』は、カタリナへと視線を向けた。
 翡翠色の『娘』の瞳が、『桜色』の瞳を持つ娘を映し出し、小さく呟きを一つ。
「貴女には、大切な者が沢山いるのね。その中には、私にとっての『この子』の様な存在もいる」
「ええ、そうよ」
 ゆっくりとトレースする様に。
 カタリナの大切な……今も尚『この世界』に存命の……カタリナの家族達の姿を取った『娘』は、懐かしそうにその瞳を細めて頷いた。
「この空気、この感覚……懐かしくて、温かい……。でも、寂しくもあり、悲しくもあるわね……」
 とある一人の女性……今は失踪してしまったカタリナの『姉』の姿を取った時の『娘』の呟きは、何処かカタリナへの同情や労りも籠められていて。
 自らの心を直に覗き見られている様な感覚に、心臓が跳ね上がる様な感覚を感じながら、そうね、とカタリナが『娘』の感慨に頷き返した。
「姉さんや家族の皆がどう思っているのかは分からないけれど、私は、家族に幸せな生を全うして欲しいと願っているわ」
「少しだけ、貴女が羨ましいわ。貴女には、まだそう思える人が生きているのだから」
 語りながら、でも……と微かに声を萎ませる『娘』
「私には、もうそんな人達はいない。でも、だからこそこう思っている。皆はきっと私に生き続けて、自分達の記憶を伝え続けて欲しい。そう、願っていると……」
 元の姿に戻りながら、そっと自らの掌を見つめる『娘』
 その手にハラリと花冠から、『イオノプシス』の花弁が落ちてくる。
 その『イオノプシス』の花を見つめる『娘』を気遣う様に見つめながら、ねぇ、とカタリナは問いかけた。
「貴女は幸福である事を願われ、自分には生き続ける義務があると言ったわね」
「ええ、言ったわ。そうしなければ……私のために死んでいった皆の恩義に報えないもの」
 頑なにそう告げる『娘』が再びカタリナの家族へとその姿を転じるのを見ながら、カタリナはだけど、と問いかけた。
「その生に、貴女の幸福はあるの?」
「……えっ?」
 微かに驚きの声を上げ、『イオノプシス』の花弁を見つめていた元の姿に戻った『娘』がその視線をカタリナへと転じる。
 翡翠の光放つその瞳を正面から受け止めながら、足を潜める様に慎重に言葉を選び、カタリナがそれをゆっくりと紡ぎ出した。
「貴女の大事な人達は、貴女が“他の誰かを犠牲にしようとも”独りでただ生き続ける事を望むと思うのかしら?」
 一語一句、言葉の意味を理解して貰える様、祈りを心の内で捧げながら。
 カタリナのそれに目を見開く『娘』
(「少し……効いている様ですね」)
『娘』の見開かれた瞳からそれを読み取ったウィリアムが、ところで、と話を引き取った。
「貴女は復讐を果たし、それでも尚、オブリビオンの身で生きたい、そう言っていますよね?」
「ええ、そうね」
 その瞳に揺蕩う漣の様な揺らぎを抱きながら。
 ウィリアムの瞳を覗き込む様にして首を縦に振る『娘』
(「揺らいでいますね」)
 そう思いながら、ウィリアムはでしたら、と軽く人差し指を横に振って『娘』に見せながら問いかけた。
「もし、貴女に生き続けろ、と願うのが、貴女の親友や村人の『みんな』であれば、彼女達も、貴女と同じ様に復讐を果たし、その後も生き続けたいと願うのではないでしょうか?」
「……つまりこの感情を抱くのは私だけでは無い、と言いたいの?」
 白騎士ディアブロの姿へと転じ、ウィリアムが向けてくる『彼』への敬意を感じ取りながら。
 首を傾げて問いかける『娘』に、それだけではありません、とウィリアムが諭す様に語りかける。
「つまり貴女の言葉通りであれば貴女と同じ感情を、貴女の親友や村人の『みんな』も当然抱き、オブリビオンと化します。そうして彼女達は、自分達の非道で、今度は生きている他の村の村人達の命を奪うでしょう。つまり……貴女方オブリビオンの非道で生命を落とす人は、貴女の村だけでなく、この世界全土に広がっていきます。その人々は、少なからず貴女と同じ憎悪を抱き、また『同族殺し』のオブリビオンとして蘇ってくるでしょう。その先にこの世界で待っているのは、オブリビオンの二大勢力が、一般人を犠牲にしながらぶつかり合うと言う地獄です」
「……!」
 息を飲んで、絶句。
 その反応が、ウィリアムの出した仮定に『娘』が抱いた感情を何よりも雄弁に語っていた。
「それだけじゃないわ。もし、貴女に私の大切な人達の命を奪われたら、私も、貴女を憎んでしまう。……貴女が、貴女の望みを叶えるために他者を犠牲にする必要があるのならば、私達には……その憎悪の連鎖を断ち切ることは出来ないわ」
 その時の事を想像し、軽くその身を震わせながら。
 ウィリアムに同意を示すカタリナの様子に、『娘』は狼狽した表情を見せ、微かにその瞳に涙を溜めていく。
 その様子を見て、ウィリアムがそれでも、と問いかけた。
「あなたは、それを望みますか?  非道なオブリビオンを討滅する役目、ぼくら猟兵に託してもらえませんか?」
 ウィリアムの問いかけと、カタリナの気付いて欲しいと言う願い。
 それらを真っ直ぐに受け止めた『娘』は……ほぅ、と微かに息を一つ吐き、それから小さく頭を振った。
「貴方達の想いや願いはよく分かったわ。私の願いが、『私達』と同じ境遇の人を生み出す可能性についても」
 でも……それでも。
「まだ、私には分からないの。あなた達の言っていることの全てが正しいのかどうか。だから……もう少し考えさせて」
「……分かりました」
『娘』の回答にウィリアムが小さく頷きカタリナが軽く頭を振る。
(「願わくば、『彼女』の願いが……愛した人の為の覚悟が……」)
 自分でも気づかない内に、破綻しているのでは無いかと気がついて貰えます様に、と小さく祈りを捧げながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

彩瑠・姫桜
『娘』と対話を希望

*アドリブ・連携歓迎

死んでしまった『皆』の命を背負って生き続けたい
という貴女の気持ちは理解はできるわ

…でも、今回については、私は、貴女に生き続けてとは言いたくない
だって、ひととしての貴女は、もう死んでしまっているのだもの
大切な人達の命を喰らったと貴女は言うけれど
その分、大切な人達の命と想いを背負って
貴女は復讐を果たしたじゃない

私は、それで十分だと思う
これ以上は背負う必要はないって思うの

貴女に背負う罪があるというなら、その罪ごと私が引き受けるわ
命を背負って生きていくことは、未来へ進む私達の役目よ
過去としてオブリビオンになってしまった貴女の役目じゃない
もう、解放されていいと思うの


鈍・小太刀
『対話』

貴女が人として生きていけるなら
それが一番いいのにね
でも叶わぬ夢である事を私達は知っている
何故なら貴女はオブリビオン
人の命を奪う存在となってしまったから

でも貴女がオブリビオンとしてここに来たからこそ
次の被害は防がれた
私達だけではエリーを倒せなかったから
貴女の大切な人が貴女を護り送り出してくれたからこそ
護られた命が沢山あるの
繋がったその命を貴女の手で奪わないで

貴女は何の為に復讐を果たしたの?
何も知らない誰かの命を好き勝手に奪って生きた
あの導き手の少女と同じ事をする為に?
そんな悲しみと憎しみの連鎖を
貴女の大切な人達が望んでいると思う?

無理しないで
骸の海へ還るといいよ
大好きな皆の魂の眠る場所へ




 ――どうして人と、オブリビオンは。

 こうも相容れぬ存在(モノ)なのだろう。
 それは宿命か、それとも運命か。
 多分、私の意志は正しくて。
 猟兵の皆の意志も、また正しい。
 そんな輪郭は、朧気ながら掴んでいるけれど。
 それでも私は、皆のために、生き続けたい。

 ――皆の命を喰らって生き延びた私はきっと、皆の想いを背負い続けなければ……許されない、と思うから。


「……そうね。貴女の死んでしまった『皆』の命を背負って生き続けたいという貴女の気持ちは……願いは私にも理解できるわ。もし、貴女と同じ立場に立ったとしたら、きっと私も同じ様に思ったから」
 その腕に嵌め込まれた銀の腕輪、桜を象った玻璃鏡の表面がざわめく様に揺れるのを見つめながら。
 彩瑠・姫桜が、目前の『娘』に同意する。
「……本当は、貴女がオブリビオンとしてでは無く、『人』として生きていけるなら、それが一番良いのにね」
 涼やかで抑揚の無い、けれども何処か郷愁を誘われる声音でそう言の葉を紡いだのは鈍・小太刀。
 小太刀の呼びかけに、どうして? と娘が静かに問いかけた。
「オブリビオンが、貴女達と一緒に静かに暮らすことって、出来ないのかしら?」
「……そうね。出来れば、本当に良いのにね」
 微かにその瞳に、寂寞を感じさせる光を宿らせながら。
 小太刀が軽く頭を振って、でも、と言の葉を紡ぎ出す。
「貴女は『オブリビオン』……人の命を奪う存在になってしまったの。それが意味する事を、今の貴女は感じているんじゃないかしら?」

 ――頭ではなく、その心で。

 言外にその意を籠めて問いかける小太刀にそれは、と小さく呻く『娘』
「小太刀さんの言うとおりね。貴女は……そう、『ひと』としての貴女は、もういない」
 俯き加減になりながら、心苦しそうに。
 呻く様に呟く姫桜の腕に嵌め込まれた銀の腕輪が、姫桜の心に敷かれた重石を代弁するかの様に、薄暗く見える玻璃色の光を発していた。
「そうね。確かに私は、私の記憶を取り戻した骸の海から蘇った『私達』の過去の残滓。そう言う意味では、確かに私はもうひとでは無いのよね……」
 淡々と、只その事実を受け止める様に。
 重苦しく頷く『娘』に姫桜と小太刀が同時に頷く。
「でも、貴女は『オブリビオン』として此処に来たわ」
『オブリビオン』と口遊んだ小太刀の声に微かに含まれるは、労りと感謝の念。
 只の仇敵、人類の命を奪う存在として見ている様には見えぬそれに、目を瞬く『娘』へと、姫桜が小太刀のそれを補足する様に続けた。
「そう……貴女はやってきたわ。貴女の大切な『親友』や、『村人』……そしてお腹の中にいた、『嬰児』の思いをその身に背負って」
『嬰児』と告げた時の姫桜の声音は震えている。
 何故ならそれは、『過去』と言い捨てるには、まだあまりにも鮮明に脳裏に焼き付いている『記憶』の欠片を姫桜に思い起こさせるものだから。
 ――ピチャン。
 不意に波の音が、辺り一帯を静かに叩く様に響き渡った。
 その音の躍動は……生あるそれに、満ち満ちていて。
 その音に呼応させる様に歌を紡ぎ出しながら、『娘』が花冠を『イオノプシス』の花弁へと変え、波の音に合わせる様に、風に乗せて周囲を舞わせる。
 ハラハラと落ちていった花弁が、本来であれば視認できる筈の無い穏やかな波の音の波紋に触れて輪を作り、多くの命を育む海に広がる波飛沫の様に弾けて散った。
 その様子を見ながら、小太刀が小さく頷きを一つ。
「貴女がこういう力を持って、戦えるオブリビオンとして此処に来たから、次の被害を防ぐことが出来たのよ」
「次の……被害」
 小太刀のその言葉に、先程対話した猟兵達との会話を思い起こし、微かに理解した様な表情になって首肯する『娘』
「だって私達だけだったら、エリー……貴女の復讐の対象である、『少女』を倒すことは出来なかったもの」
 そこで少し言葉を句切りつまりね、と小太刀が真摯な眼差しで『娘』……否、『娘』の向こうにいる『娘』にとっての大切な人の残影を見つめて告げた。
「貴女の大切な人が、今の『貴女』を護り、送り出してくれたからこそ、護られた命が沢山あるのよ」
「私を、私として送り出してくれた『あの子』のお陰で、守られた命がある……?」
 小太刀のそれにコトリと首を傾げ、クリクリと翡翠色の瞳を回しながら。
 問いかけてくる『娘』に姫桜がそうね、と小太刀の代わりに頷き答えた。
「大切な人達の命を喰らったと貴女は言うけれど……多分、本当はそうじゃない。その人達は、貴女にきっと託したのよ。貴女達の村の平穏を破壊した『少女』に、自分達の代わりに復讐して欲しいって。だからオブリビオンにこそなってしまったけれども、私達よりもずっと強い力でエリーに対峙して、その手で復讐を果たせたのだと私も思うわ」
「その道を整えてくれたのは、貴女達だった筈だけれど」
 姫桜の言葉に、微かにからかう様な微笑みを浮かべて返す『娘』に、そうね、と小太刀が微笑を零した。
「私達が、貴女に復讐を果たして欲しいと願った理由は、このままエリーを放置すれば奪われてしまったであろうより多くの命を護りたかったからよ。その為に、貴女の力も借りたの。だから……お願い。貴女と私達で繋げたその命を、貴女の手で奪わないで」
「貴女は、貴女と貴女の村の皆のために、復讐を果たしたわ。だから、皆に生かされた、と言う罪を、これ以上背負う必要は無いと思うの」
「これ以上、私が背負う必要が……無い……?」
 ――ポツリ。
 小さく、囁きかける様に呟く『娘』
『娘』の瞳が、何かにざわめく様に漣を立てている。
 動揺する『娘』に対して、ねぇ、と小太刀が小さく囁きかけた。
「貴女は、何のために復讐を果たしたの? 何も知らない誰かの命を好き勝手に奪って生きた、あの導き手の少女と同じ事をする為なの?」
 小太刀の問いかけに、フルフルと頭を振る『娘』
「そうじゃ無いわ。私は、私達の命を踏み躙った彼女を許せなかっただけ。理不尽に奪われた皆の命に報いたかったから……」
 告げる『娘』のその様子に、そうよね、と小太刀が同意する様に頷く。
「だったら貴女は、貴女が感じた悲しみと憎しみの連鎖を此処で終わらせなきゃいけないわ。このままいけば、今度は貴女が、あの導き手の少女と同じ事をしてしまう。貴女がそんな事をする事を、貴女の大切な人達が望むと思う?」
「それ……は……」

 ――答えられない。

 いや……答えたくないのだろうか。
 軽く頭を振りながら、でも……と呟く『娘』
「確かに、あの人達は望まないかも知れないけれど……それで私が消えることを望んだら、私は皆の命を、ただ復讐の為だけに喰らい奪ってしまった事になる。あの人達は、私にそんな事をさせるためだけに、私にあの人達の命を喰らわせた訳じゃ無いわ。それじゃあ、あの人達を犠牲にした意味が無い。それならば私は、生きて贖罪を為さなければ……」
『娘』の呟きに、それなら、と自らの胸を叩いて姫桜が断固とした口調で告げる。
「貴女が、彼等の命を奪った事を罪だと言い、その罪を背負う必要があるというなら、その罪ごと私達が引き受けるわ。貴女達の様な犠牲者をこれ以上増やさないように、貴女や貴女の村の人達に起きた出来事を記憶し、それを伝えていく……そうして、貴女達の『命』も背負って生きていく。それは未来へ進む、私達の役目だから」
「……」
 姫桜の言の葉にじっ、と彼女を見つめる『娘』
 姫桜はその目を逸らすこと無く真っ直ぐに『娘』を見つめながら――答えた。
「何度でも言うわ。貴女達の命を背負って未来へ進むのは、私達の役割。過去として、オブリビオンになってしまった貴女の役目じゃない。……もう、解放されていいと思うの」

 ――復讐という『枷』に縛られ……ずっとこの世界に囚われ続ける輪廻から。

「もう、貴女は無理をする必要は無いのよ。大好きな皆の魂の眠る、骸の海に帰って良いの」
 呟き、そっと桜雨を『娘』に当てる様にする小太刀。

 潮騒の香りが、その波音が……『娘』の心を、生ある者達の生き続けたいという願いで静かに満たしていく。
 それにそっと目を瞑り、じっ、と耳を凝らしていた『娘』が程なくして呟いた。
「仮に私がこの世界にこれからずっといても。私では、その生命を奪うことしか出来ないと言う事は分かったわ。でも……」

 ――それ以上は、胸に広がる感慨に押し潰され、言葉が出ない。

「……まだ、納得できないならそれでも良いわ。でも、それでも私は、今回については、貴女に生き続けて欲しいとは言いたくない。生き続けることはきっと……貴女にとって、とても苦しいことだから」
 姫桜の言葉に、ありがとう、と『娘』は静かに頷き返した。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
『対話』
アドリブ可
指定UCは魂呼び出しのための演出

『彼女』が本懐を遂げた今、討ち取るべき
死した人々のためにオブリビオンとして生きるつもりなら、なおさら
…それが僕の望む結末

でも…黒剣が抜けない
黒剣の中の魂が、僕と激しく同調して阻止している

…わかっている

目の前の『彼女』
黒剣の中の魂
そして…僕

皆、「オブリビオンの被害者」だ

『彼女』は大切な人々の復讐を望み、果たした
僕も猟兵となったことで里の皆の仇を取ると誓った

『彼女』に同情を寄せる余地はある
だが、望む結末はおそらく交わらない

(黒剣の中の魂たちに)
君たちは『彼女』に何を望む?
ぜひ、伝えてあげてほしい

※万が一『彼女』が討ち取られることを望んだら全力で斬る


宇冠・龍
対話

娘の由(f01211)と一緒に
私の面影は、願望少女との戦いで見せた夫ですね。そして……
お腹をそっと触ります
私の夫は、そして娘も戻ってはきませんでした
過去は今に帰らない。それは彼女も同じこと

(しかしそれでも、言いたいことはあるはずです)
【枯木竜吟】にて、彼女の持つイオノプシスに触れてみます
記憶に強く残る親友の面影、あんなにも思い入れがあるんです。きっと影響も強いはず

過去は消えません。しかし過去から新しい未来は作れます
今もそうした過去から育まれてきたんですもの
その手に罪を残すというのなら、もう一度、親友に会い、お話してみるのもいいでしょう

それが死霊術士としてできる、私なりの彼女への対話です


宇冠・由
対話
お母様(f00173)と

私が大切に思うのは、お母様、そして今は亡きお父様

似ています。いいえ、似すぎていますわ。もしかしたら、お母様も彼女と同じような道を辿っていたのかもしれません
いいえ、宿敵への復讐ということなら、お母様も彼女と同じ道をこれからも進むのでしょう。結末は……きっと私が幸せなものにしてみせます
そのために、強くなると決めたんですから

私に直接彼女を救う手段なんてありません
いいえきっと誰も持ってなどいませんわ。決めるのは彼女自身ですもの

せめて屋敷と、荒れ果てた土地を回復させるのが精々
【智天使の抱擁】でイオノプシスの花畑を咲かせます
煉獄とは魂が清算される場所
どうか過去が救われますように




 ――それが、貴女達の答え……。

 それはきっと、正しい事だと私も思うの。
 だって私はオブリビオン。
 貴女達の言うとおり、私は、私の『贖罪』のために、他人の生命を喰らって生き続けることしか出来ない存在。
 けれども私は、私を否定できない。
 貴女達が、貴女達の想いを否定できないのと同じ様に。
 私も、私の思いを否定できない。

 ――でも。
 
(「ねぇ……」)
 
 ――えっ?

(「一緒に、行こうよ」)

 ――誰かが、呼んでいる?

 誰が私の事を、呼んでいるの……?


「……」
 自身がどう言う存在なのかを理解した『娘』と相対しながら、館野・敬輔が軽く左拳を握る。
 その右手を、黒剣の柄に添えながら。
 今この場でそれを抜けば、彼女を討滅する事は容易いだろう。
 それこそが最善の選択だと、敬輔の中の理性が告げている。
 けれども……抜けない。
 目前の敵は、オブリビオン。
 自分の故郷を奪った『復讐』の対象で在るべき存在なのに、黒剣を抜くことが出来ない。
(「目前の彼女も……僕も……僕と共にいる魂達も」)

 皆……敬輔と同じ、オブリビオンの『被害者』

 故に、敬輔は刃を抜けなかったのだ。
「もう、貴方も分かっているのですよね? 過去は戻らない、と言う事を……」
 そっと自らの腹部、嘗て『娘』を宿していたその場所を撫で。
 目前の『彼女』が先程召喚した夫の……そして、胎児である娘となるその姿を見つめながら。
 ただ涼やかに問いかける宇冠・龍に、そうね、と『娘』は静かに頷いた。
「そして……」
「そう……貴女が『オブリビオン』……過去の残滓から、変わることが出来なくなった事も」
 龍の追い打ちを受けた『娘』は、無言でその翡翠色の瞳に、龍の姿を映し出した。
 ――ハラリ。
 『イオノプシス』の花冠から花が零れ落ち、それが『娘』の肩に乗る。
 先程龍が見せた、龍の亡くなった夫の姿をした、彼女の肩に。
「……」
 ――絶句。
 龍と、『龍』の姿をする『娘』……更にその影に寄り添う様に付き従う竜人の姿を見つめた、宇冠・由は唖然とした表情を浮かべている事しか出来ない。
(「似ています……あまりにも似過ぎていますわ……」)
 この『娘』と、お母様は。
 しかし、絶対的に異なる点は、『娘』は『娘』の生命を奪われてその未来を断たれたが、龍は……お母様は生命として生き残った、という事位であろうか。
(「もし、あの時お母様の生命が失われていたら……」)
 目前の『娘』と同じ末路を辿っていたのでは無いだろうか、と地獄の炎で作られた筈のその体に、雨の様に冷たい何かがその背を駆け抜けていく様に感じながら、由が微かに頭を横に振る。

 ――したくもない想像に、その身を無意識に委ねながら。

 悪戯な天使が、『娘』と龍達の間を駆けていく。
 意地悪い天使の姿を幻視しながら、敬輔が黒剣の柄に置いた手を震わせ『娘』と龍達を交互に見つめた。
(「『彼女』は、復讐を果たすために、オブリビオンとなった」)
 一方で、自分は猟兵になった。
 そこに、どの様な差異があると言うのだろう。
 手段は異なるものであれ、突き詰めればその先にある想いは『復讐』だ。
 ただ……。
 それでも、龍が、敬輔と決定的に違う点が一つある。
 それは……龍が、『死人使い』であるという事。
 即ち、それが意味することは。
「ねぇ、あなた」
「なぁに?」
「あなたのその『イオノプシス』の花を、私に一度貸して貰えませんか?」
 龍の問いかけに、『娘』は、自らの肩に乗った花冠から零れ落ちた『イオノプシス』の花を驚きながら見つめて問いかける。
「それ……本気で言っているの?」
 驚愕を押し隠せぬ声音で問いかけてくる『娘』に、龍がはっきりと頷きを一つ。
「もし私に貴女がそれを預けて下されば、貴女が、私達に私達の望む面影を見せて下さるのと同じ様に、もしかしたら貴女が望む『何か』を見せる事が出来るかも知れませんから」
 ――そう。
 こうして、過去の残滓と死者とを再会させる事が出来る可能性があることだ。
「お母様……」
 龍の言葉に、由が唸る様に呟きを一つ。
(「貴女を直接救う手段を、私は持っていないのでしょう。……いいえ。きっと、他の誰も……」)
 何故ならその想いは『彼女』だけのものであり、在り続けるその先で、どうするのかを決める事が出来るのは、『彼女』自身だけだから。
 そう胸中で結論づけているからこそ由は龍のその先の言葉を読み取り声を掛けた。
 『娘』に、『鍵』を求める、母のその背に。
「……分かったわ」
 暫くの沈黙の後。
『娘』は小さく頷き、その肩に落ちた『イオノプシス』の花を龍に手渡す。
 それを受け取った龍が、背後から自分へと声を掛けた由へ微笑みかけた。
「由……手伝ってくれますね?」
「はい、お母様。それが、この御方の望む未来を得るための役に少しでも立つというのならば」
 そして龍にその覚悟があり、それを行なうというのであれば。
(「私も、この力を使うことを躊躇いませんわ」)
 由の瞳に宿る強い決意に一つ頷き。
 龍が、黒い竜玉に鈍い輝きを発させながら、呪を紡いだ。
『眠りし記憶に宿りし霊よ、今こそ蘇り我が前に現れいでよ』
『これ以上の被害は、認めません』
 その呪に合わせる様に、歌う様に誓いの言葉を紡ぐ由。
 己が体を作り上げた地獄の炎が、由の言の葉に応じる様に。
 あの狐の群れ達と共に、黄金の煌めきを伴った黄金の炎と化して、崩れ落ちた辺り一帯の地面を覆う。
(「私に出来るのは、せめて屋敷と、荒れ果てた土地を回復させ……貴女の望んだ本当の煉獄……魂が精算される場所を生み出すこと」)
 呪を紡いだ龍と由の願いは……温かな宵闇を思わせる光と共に天へと舞い、『娘』から預かった『イオノプシス』の花を依り代として。

 ――ぼぅ。

 1人の花の様に美しい『娘』の亡霊を映し出し。

 ――さぁぁぁぁぁぁ……。

『娘』が最も望んでいたであろう、嘗て『娘』が住んでいた村の、最も美しい景色……『イオノプシス』の花々が咲く花畑を、『娘』の瞳に映し出した。


「……あっ……」
 目前の、その光景に。
 目を大きく見開き息を呑む『娘』に、龍は柔らかく微笑んだ。
「過去は消えません。しかし、過去から新しい未来は作れます」
 龍の微笑みとその声が、『娘』の心に響いたのだろうか。
 目前に現れた『あの子』……『親友』と、由が再生した『彼女達』が住んでいた村の中で最も美しいその光景に目を奪われながら、『娘』がその手を『親友』へと差し出している
 亡霊と化した幻の『親友』は、半透明のその手を『娘』に差し出し……その手を取って、花の様に柔らかに微笑んだ。
「漸く……会えた……」
『彼女』の感極まった一言に、『娘』の瞳に溜まるは白い水滴。

 ――ああ、これが。

 奇跡、なのかしら。

「ねぇ……私のこと、どう思う?」
『娘』の問いに、『彼女』は優しく花の様な微笑を崩さない。
 ただ……その瞼を少しだけ熱くしてはいたけれども。
「護るって言ったのに……護れなくて、御免ね。ずっと、ずっと辛かったよね」
『彼女』の涙混じりの謝罪の言葉に、『娘』は静かに首を横に振り返した。
「私は、皆の命を奪って生き残った。だから、これ位の『罪』を背負うのは当然のことよ」
『娘』の返事に、『彼女』は半透明の両手で『娘』の手を強く、強く握りしめる。
「私は、私がそうしたかったから、貴女と貴女の子供の為に、その命を捧げたの。そんな苦しみを抱えたままずっと生きて貰う為なんかじゃ無い。ただ、ヒトとして、貴女達に、私達よりも長く生きて欲しかった」
「ヒトとして……長く……」
『少女』の言葉に、俯き加減になる『娘』
 そんな『娘』に、少女は静かに笑いかけた。
「でも、もうその必要は無いと思う。貴女はもう自分の足で、自分の道を歩いて行けるわ」

 ――だから、背負わないで。

『私達』の生命を喰らったなんて『罪』を、そんな風にしか思えない自分を、もう、許してあげて。
「許す……? 私が、私を……?」
「そう。許せば良いの。誰かの命を奪ってまで生きるなんて考えないで、ただ、自分が何を成し遂げ、何をしたいのか。それを……『あの子達』にも、伝えてあげて」
『少女』がそう告げて、振り向いたその先には。
 目前の光景を、信じられないという表情で見つめる敬輔が、縋る様にして握りしめる黒剣と……その黒剣から放たれた白い靄の『少女』達。
(「皆……」)
 思念のみで『少女』達と会話をする敬輔に頷き、『少女』達が彼女に告げる。
 ――ねぇ。もしも、復讐が望みならば。
 ――私達と、一緒に行こう?
 ――嘗て、『かみさま』を植え付けられて、無理矢理『かみさま』にされてしまった私達と。
 それが、敬輔の黒剣に宿る『少女』達の願い。
 その願いに『娘』は笑い、『親友』に御免ね、と小さく告げた。
「まだ私の魂は、『皆』の所には帰れない、ううん、帰らない。私にはまだ、為すべき事があるみたいだから」
「それがあなたの選んだ道ならば、私達はずっと待っているよ」
 ――過去の残滓の揺籃たる、骸の海で。
 由の生み出した『イオノプシス』の花が風に乗って宙を舞い、『娘』の旅路を見送らんと吹き乱れる。
 それに一つ頷いた『娘』は両手を胸の前で組み、祈る様に敬輔……否、敬輔の持つ黒剣に宿る『少女』達へと語りかけた。
「私の力、役に立ててね。貴女達の為すべき事と、私の為したいこと。それはきっと……一緒だから」
 白い靄が穏やかな光と共に真っ白な手と化して、『娘』へとその手を差し出した。
 ――うん。
 ――それじゃあ、一緒に行こう。
 ――私達の望みを、果たすために。
「ええ。一緒に行くわ」
『娘』の呟きに合わせる様に。
 周囲の『イオノプシス』の花弁がカーテンと化して『娘』に纏われ……程なくしてコロン、と音を立てて、『娘』がその場から掻き消える。
 その場に、『イオノプシス』の花冠を残して。
『娘』の魂は黒い靄となって白き『少女』達と共に黒剣へと宿り、白き靄の向こうで、黒剣の刃先に赤黒い光を放たせた。
 ズシリ、と重くなった様に思える黒剣に、敬輔が思わず溜息を一つ。
(「また、一つ」)
 重くなったそれに……自分は、果たして耐えることが出来るのだろうか?
 そんな不安を、微かに自らの心中に育みながら。


「それが貴女様の選んだ道、なのですね」
 敬輔の黒剣の刃先に宿り、赤黒く光り輝く刃と化した『娘』の姿を見つめながら問いかける由に、敬輔の黒剣が、そうだ、と答える様に淡く輝く。
「親友と会い、その魂を復讐の為に捧げる道を、貫くことを選びましたか……」
 ――オブリビオンとしてでは無く、オブリビオンを憎む『剣』として。
 龍がほぅ、と誰にともなく息を吐くその姿を見た由が、そっと炎に燃える手を龍の手に重ね合わせる様に乗せた。
「でもそれは……お母様も同じではありませんか?」
 ――復讐の為に、己が道を進むその姿は。
 由の心配を孕んだその問いかけに、そうね、と龍は穏やかに頷いた。
「それでも彼女がそれを選んだのでしたら、私は彼女を支持します。由、貴女は……」
「私は、誰かを護る盾。そして最も護りたいヒトは、お母様ですわ」
(「だからお母様の結末を……必ず、幸せにして見せますわ」)
 その為に強くなると、1人心に誓ったのだから。
 由の決意がまるで分かっているかの様に。
 そっと微笑む龍に、由が静かに頷き返す。
 自らの黒剣がまた重くなった事に気難しい表情を浮かべたまま、敬輔が地面に落ちた『イオノプシス』の花冠を拾い上げた。
「これが……この戦いの結末か」

 ――それが『彼女』にとって最善だったのかどうかは分からない。

 分からないけれど……いや、だからこそ敬輔達猟兵は前に進む。

 ――いつかこの世界を、オブリビオンの絶望から、救い出すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月27日
宿敵 『煉獄への導き手・エリー』 を撃破!


挿絵イラスト