トゥ・アイス・アンド・ヴァロウ
●アックス&ウィザーズ:"霜の原野(フロストオーバー・ムーア)"
一面が霜に覆われた北方凍土には、いくつもの部族が暮らしていた。
その中でもっとも武勇に優れ、そして厳格なしきたりを敷く集団こそが、
〈フォーメナー族〉と呼ばれる、屈強なエルフたちの部族である。
だが……誇り高きエルフの戦士たちは、今まさに滅亡の時を迎えようとしていた。
「おのれ、欲深き龍め。父祖から受け継ぎし地を簒奪しようなどと……!!」
ただひとり生き延びた"寒極の"ラァルは、血に塗れた両手で愛槍をしっかと握る。
対して、目の前に聳える巨躯――氷皇竜メルゼギオスが浮かべたのは、嗤笑。
――いじましきかな。同胞を喪い、我が力を識ってなおも立つか。定命の者よ。
長命で知られるエルフですら、強大なるドラゴンにとっては定命の存在に過ぎぬ。
ましてやこの凍てつく龍は、生命のくびきを外れた過去の残骸。
すなわち、オブリビオン。精強な戦士とて、抗うのは難き大敵なのだ。
「黙れ!! "北の焔"の子は、一度握りしめた武器は決して手放さぬ……!!」
――見事、と褒めてやろう。その矜持を胸に、仲間のもとへ逝くがいい。
出血で朦朧とするラァルの視界いっぱいに、邪悪なる氷龍の棘が降り注いだ。
そしてフォーメナー族最後の戦士は、その生命を絶たれたのである。
無残な有様の亡骸を一瞥し、氷皇竜が目を向けた先には、巨大な氷山がひとつ――。
●グリモアベース:ムルヘルベル・アーキロギア曰く
「と、ここまでがワガハイの得た予知の内容だ」
少年めいた宝石賢者は、改めて猟兵たちを見渡し、頷いた。
「"霜の原野"……近隣諸国の民からはフロストオーバーと呼ばれるこの地には、
他にも多くの部族が暮らす。争う者らもいれば、平和に自然と調和する者らも居る。
骸の海から蘇った龍の気まぐれに、彼らの住処と命を奪わせるわけには行くまいな」
気まぐれ。
"氷皇竜"メルゼギオス――氷の棘と無限めいた氷結鎧を持つ強大な邪竜――の目的は、
予知の中に現れた巨大な氷山にあるらしい。
住処に選んだのか、はたまた龍の企みに関与する何かがあるのか。
いずれにしても、虐殺の理由になどなりはしない。阻止すべき惨劇だ。
「とはいえ、敵はメルゼギオスだけではない。彼奴にはリザードマンの配下が存在する。
パストール、という名の連中でな。どうやら幻術や炎の魔術を得意とするようなのだ」
本来であれば、その卓越した弁舌と手腕で貧しい人々を扇動し、
信奉するドラゴンの教義に則った、よからぬ陰謀を巡らせる狂信者どもだ。
武力では劣るとはいえ、虫や蜥蜴の幻影による大攻勢は、要塞すら攻め落とすという。
「オヌシらにはフォーメナー族と協力し、防衛戦の支度を整えてもらいたい。
そのために、くだんの氷山に眠る資源が役立つであろう。無論、防衛陣地としてもな。
つまり最初にすべきことは、巨大な氷山の内部を探索し資源を集めることだ」
問題は、この氷山がフォーメナー族にとっての聖地である……ということだろう。
より効果的に防衛戦を進めていくためには、部族との交流は必要不可欠となる。
「最悪の場合、オヌシらが前に出て戦えば部族の共同体を護ることは出来ようが……。
どうせならば、誇り高きエルフの戦士たちと友誼を深め、手を取り合うべきであろう」
ひとりひとりは短命で脆弱だとしても、その数と多様性で強大な一を圧倒する。
それこそが、未来を目指し生きる人々の強みなのだから。
猟兵たちが本格的に活動を始めてから、対オブリビオン情勢は刻々と変化している。
アックス&ウィザーズもその例外ではなく、群龍大陸の手がかりが集まりつつあった。
「大局のために小事を見落とすなどもってのほかだ。確実に敵を滅殺してほしい」
そう言って、ムルヘルベルは手元の本をぱたりと閉じた。
「さる救世主に曰く、"剣を執る者は剣によって滅びる"と云う。
だが時として、剣を執らねばならぬ時もある――生きていくのならば、な」
その言葉が、転移の合図となった。
唐揚げ
足湯です。まだまだ暑いですし涼しそうな冒険をやりましょう!
今回はプレイング採用数などに関して諸注意がありますので、
下記のまとめと併せてご一読いただくようお願いします。
●シナリオの目的
北方の地に住まうエルフの部族と協力し、ドラゴンの襲撃から部族を守り抜く。
●シナリオ構成
1章:冒険『古の雪山』
2章:集団戦『パストール』
3章:ボス戦『氷皇竜メルゼギオス』
●OPで登場した地名や味方NPCについて
『"霜の原野(フロストオーバー・ムーア)"』
フロストオーバー、とも。A&W北方に存在する凍土平原のこと。
人が住み続けるには過酷な土地だが、多くの部族が自然と調和し暮らしている。
様々な資源や珍しい獣が存在するため、その筋の狩人の間では有名。
『フォーメナー族』
フロストオーバーに住む諸部族の中で、もっとも勇敢で厳格だと云われる部族。
父祖から受け継いだ巨大な氷山を聖地とし、近隣にいくつか共同体を築いている。
男女問わず歴戦の勇士として鍛えられているが、よそ者嫌いの向きが強い。
『"寒極の"ラァル』
フォーメナー族の長にして、部族きっての槍の名手。30すぎの屈強な男性エルフ。
よく言えば実直、悪く言うと頑固。いい意味でも悪い意味でも誇り高い戦士。
そのぶん一度認めた相手には敬意を払い、戦えない人でも見下さずに接する。
●その他諸注意
今回のシナリオは、普段よりかなり少なめの採用数になると思われます。
目安としては『各章ごとに10人前後』といった感じです。
(状況によっては増えるかもですが、隕石が降るぐらいの確率で見といてください)
そのぶん進行スピードは早めになるよう頑張ります。
以上のような事情があるので、本作はプレイング受付期間を特に設けません。
章ごとに断章を投下予定ですので、それを目安にしてもらうといいかもですね。
では前置きはこのあたりにして。
皆さん、モンスターをハントするような感じでよろしくおねがいします!
第1章 冒険
『古の雪山』
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POW : 新しいことに挑戦
SPD : 技巧を凝らし調査
WIZ : 魔力等で探知探索
イラスト:エンドウフジブチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●アックス&ウィザーズ:"霜の原野"
「……そこの冒険者ども。貴様ら、何用があってここへ来た?」
転移を終えた猟兵たちが氷山へと向かおうとした、その時。
何人かの精鋭を引き連れて、屈強なエルフのバーバリアンが立ちはだかった。
おそらく、彼が"寒極の"ラァルだろう。配下ともども、その表情は険しい。
「さては資源目当ての山師か。はたまた魔獣を狩りに来たハンターか。
なんであれ、我らの聖地に踏み入ることは出来ぬ。早々に立ち去れ」
即座に襲いかかることはないものの、よそ者嫌いのエルフたちは剣呑である。
無論、彼らを無視して氷山に入り、仕事をさっさと済ませることも出来る。
だが言葉をかわし互いを理解することで、見えてくるものもあるはずだ……。
コーディリア・アレキサンダ
これだけの旧い山、まして雪に閉ざされた土地なら魔力を蓄えた石の一つや二つ落ちている……かな
利用できればボクが有利に戦えるのだけれど
それじゃあ頼むよ《子竜総統》
ボクの代わりに探しておいて――ああ、探すだけね
変に触れて、彼らを怒らせるのはボクも不本意だから
……やあ、こんにちは
ボクはコーディリア・アレキサンダというよ
見ての通り山師でもハンターでもない。魔法使い、或いは学者かな
土足で踏み込むわけにもいかないと思っていたところなんだ……山の話を聞かせてはくれないかな
キミたちならよく知っているだろう?
ところで挨拶は「こんにちは」でいいのかい?
キミたちの挨拶があればそれを教えて欲しいのだけれど
鳴宮・匡
守りたいもの、か
昔は、そんなのバカらしいと思ってた
……いや、見ないようにしてただけかもな
手が届かないのは、怖いから
フォーメナー族のやつらと話をしてみるよ
遠方の街を拠点としている冒険者だ、と身分を伝え
この地に氷皇竜が迫っていること、それを追っていることを話す
竜退治のための協力を申し出るという体で
手を組むことを提案するよ
この地を守りたい彼らとは利害が一致するから
なんて、尤もらしいことだって言えるけど
……そうじゃなくて
大切なものを守りたいと思っている誰かを
その為の戦いを、助けたいと思う
……その理由まではまだ、俺の中にはないけど
それをいつか見つけたいとも、思ってる
だから、手伝わせてほしい
壥・灰色
先ずは出会ったラァルらとの対話を試みる
何の用が……と言われれば、きみたちを助けに来た、と言いたいところだけど
突然こんなことを言われても、信じがたいというのは道理だろう
今すぐにきみたちに対して、おれが無害だと証明する方法はない
ただ、きみたちも武装してこんな所をうろついている以上、これから何かが起きると膚で感じているんじゃないか
……大きな災厄が来る。きみたちには、そのための備えが必要だ
何なら捕らえてくれても構わない、見張ってくれてもね。きみたちの側に在り、来る災厄を討つ。……それが、おれがここにいる理由だ
それに、聖地を荒らそうにも何が有用な資源かも分からない身でね
それじゃあ荒らしようもないだろう?
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
誇り高くよそ者嫌い、ですか。こういった者達を怒らせるのは得意なんですけどね
交流となると頭が痛くなるな……
放っておいて部族の全滅を招く訳にもいかないでしょうし、
……多少の本音も交えつつ話してみましょう
一先ずは説得するしかありませんね
私欲のために資源を手に入れようとしている訳ではありません
あなた方に危害を加える存在がいる。それらから護るため、この地へと立ち入りたい。それだけだ
慈善活動しようってんじゃないですよ。あんたらを弱者と思ってる訳でもない
ただ敵とするものが同じなだけだ
……俺にはこれ以上は無理ですね。後は彼女に託します
必要な資源はなんとか手に入れましょう
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
もし予知の通りになっちゃったら……ううん、大丈夫だよね
阻止するために来たんだもの
なんとかしよう
頭痛薬なら持ってきたから、無理にでも交流してくれると助かるなぁ
なんて冗談も交えて
ヨハンらしい言葉……
嘘が微塵もないことはきっとラァルさんにも伝わっているはず
彼の言った通りだよ
私達、山師でもハンターでもないもの
……大切な場所に踏み入ることは謝ります
私達の敵がここを襲うから、なんて、今は信じてもらえないよね
でもこの槍に誓って言うよ
事実なんだって
もし嘘なら後でわかるでしょ?
その時はあなたの槍で罰を与えてくれたって構わない
持ち出さないことを約束して、資源を手に入れないとね
●氷を崇める者たち
頭が固く融通が効かない、そのうえ"戦士"という概念にこだわる体力自慢。
UDCアースの日本では、たしかこういう連中を"体育会系"とか云うのだったか。
アメリカならばジョック階級……いや、そんな些末な知識はこの際どうでもいい。
(怒らせるほうなら、自慢じゃないが得意なんだけどな……)
転移を終えた途端の"歓迎"に、ヨハン・グレインは心のなかでひとりごちた。
わざわざ口に出さなくなっただけ、自分としては進歩したものだと思っている。
(あーあ、また面倒そうな顔してるんだから。まったくもう)
そんな恋人の横顔を、オルハ・オランシュは呆れた苦笑混じりに一瞥した。
まあ、こうして黙っているだけ、彼もずいぶん成長したのではなかろうか……。
なんて年下のくせに思うのは、それはそれで自分の悪癖かもしれない。
いや、それはさておこう。今は、目の前のエルフたちと対話を試みるべき時だ。
と――そこで、ふたりが口を開くより先に割って入った男がひとり。
「俺たちは、遠くの街から来た冒険者だよ。別の大陸から船で渡ってきたんだ」
鳴宮・匡である。無論それはブラフなのだが、この世界においては正しい方便だ。
なにせ、アックス&ウィザーズにおいて猟兵は"猟兵"として認知されていない。
あえて遠方の者と名乗ることで、本拠地を探られないようにしたのも、
匡が"そういう仕事"に慣れているから……だろうか。
「そ。あいにくだけど、山師でもハンターでもない。強いて言うなら……そうだね、
ボクに限って言えば魔法使い。あるいは、学者でもいい。あまり違いはないさ」
ひょっこりと姿を見せたコーディリア・アレキサンダが、言葉を継いだ。
匡にとっては見知った顔だが、わざわざ驚きや困惑を表に出すことはない。
とはいえ、彼をよく知る者が注意深くその様子を観察していたならば、
"店長"の手助けに少なからず驚いていたことがわかるだろう。
「"きみたちを助けに来た"――と、その問いに正直に答えたいところだけど、
突然こんなことを言われても、いきなり信じることなんて出来やしないだろう」
壥・灰色の言葉に、ラァルは片眉を吊り上げながら頷いた。
「わかっているならば話は早い。貴様らはいかにも胡乱な連中だ。
遠方の冒険者……なるほど、それは納得できる。山師でも狩人でもなければな」
しかし、とラァルは言葉を続けた。
「助けに来た、か。一体、何を根拠に我らを救うというのだ?
まさか冒険者は冒険者でも、どこぞの教義に従う伝道者、とでも云うのか」
道理である。当然、この場に転移した誰もが、彼らの疑念を予測していた。
「……ドラゴンがこの山を狙ってるんだよ。それもかなりの大物だ。
俺たちはそいつを追って旅をしててね。先回りするのだって苦労したんだぜ」
「匡さんの言葉がすべてです。それを証明しろ、と言われても方法がありません。
だからこそ、俺たちはこうして、あなたたちに言葉で語りかけているんですよ」
ヨハンはできるだけ言葉の棘を抜くように、注意深く間をおいて話した。
「慈善活動をしようってんじゃない。もちろん、あんたらを弱者と思ってもいない。
ただ、あんたたちと俺たちで、敵とするモノが同じだけ……まあ、つまりは」
「利害の一致、だな。もっともらしい言い方をするなら」
匡の言葉にヨハンが頷く。ラァルは顰め面のまま、腕組みをした。
しかし彼らの目から、よそ者に対する疑念と警戒は若干薄れつつあるようだ。
「……たしかに、聖地の資源を求めて足を踏み入れるというならば、
わざわざ我らと問答する理由もない。なるほど、まずはひとつ謝罪しよう。
貴様らの正体はさておき、その誠意に対し相応しからぬ態度を取ってしまった」
(……だって。ヨハンらしい言葉が、きちんと伝わったのかな)
(ああ。それだけ真面目な人間なんだろう)
ヨハンと匡の一歩後ろで、オルハと灰色はぽそりと密かに言葉をかわした。
なるほど"よく言えば実直"というのは、いい意味でも悪い意味でも確からしい。
敵かもしれぬ相手とて、相応しき礼節にはそれを以て報いる、という態度。
ラァルの目礼に対し、猟兵たちもやや緊張を解くことが出来たようだ。
そうして互いに名乗りあった上で、コーディリアが改めて話を切り出した。
「実はすでに、ボクの使役する悪……あー、使い魔を探索に出していたんだけどね」
言いながらコーディリアが人差し指を立ててみせると、
氷山のほうからひらりと舞い戻った子龍が、渡り鳥めいてその指先に留まる。
じろり、とバーバリアンたちの鋭い目線が集まると、魔女は肩をすくめた。
「探していただけだよ。何かを奪ったり傷つけてないし、魔法をかけてもいない。
この子は"見通す"ことしか出来ないからね。だからボクもここにいるわけさ」
「……それで? 一体何を探していたと」
「その前に、ボクのほうからひとつ問わせてくれないかな、族長どの。
――キミたちは、"この山についてどのぐらい知っているのか"をね」
魔女の問いかけに、ラァルの片眉がぴくりと動いたのを、匡は見逃さなかった。
(……ああ、そうか。こいつらも、聖地に足を踏み入れてないんだな)
然り。フォーメナー族は、氷山への立ち入りを厳粛に禁じ続けている。
それはよそ者に対しても、自分たちに対しても、同じように課しているのだ。
彼らが知っているのは、"この山には多くの資源が眠る"ということだけ。
コーディリアは『有用な資源がまったく手つかずでいる』という子龍の情報から、
その事実を推察して言い当ててみせた、というわけである。
「なのにきみたちは、それだけの武装をしてこんなところをうろついている。
それは、"これから何かが起きる"と膚(はだ)で感じているだけじゃないだろう」
灰色は言う。
「きみたちは、そのぐらいの覚悟と信念を以てこの地を守っているということだ。
そんな相手に生半可な口八丁を使ったら、どうなるかぐらいはおれにもわかる」
つまり、自分たちもまた、それに報いるくらいの覚悟でこの場に立っていると。
実際に戦えば勝敗は明らかだろう。だがそれをひけらかすようなことはない。
そんな灰色の言葉に、オルハはおもむろに愛用の三又矛を取り出してみせた。
身構える配下を、ラァルは片手を挙げて制し、じっと少女を見つめる。
「この槍に誓って言うよ。私たちは、あなたたちから何も奪ったりしない。
もしもあなたたちが私たちを罰するっていうなら、おとなしく裁かれるって」
「それは」
口を挟もうとしたヨハンを、オルハは視線で留めた。代わりに、灰色が頷く。
「ラァルさん。あなたも槍使いだよね? なら、わかってくれるんじゃないかな」
真に力あるものは、いたずらにそれを振るうことは決してしない。
力で解決出来るからこそ、それ以外の道を尊び、選ぶことを躊躇しない。
まさしくそれは、フォーメナー族が重きを置く、理想的な戦士の在りようだ。
それはわかる……が、ヨハンとしては気が気ではない。
(まあこの様子では、本当に罰が下されることなんてないでしょうが……)
頭痛の種は増えるばかり。ヨハンは誰にも聞こえないようにため息をついた。
「さっき、俺は"もっともらしいことを言うなら"って言っただろ?」
それまで口を閉ざしていた匡が、おもむろに顔を上げた。
「でも本当はそうじゃない。……いや、"そうじゃなかった"っていうべきかな」
独り言めいて呟く。過去の己ならば、きっと"どうでもいい"と切り捨てただろう。
護るという行為は非合理的だ。どうせ戦うならばさっさとやったほうがいい。
信念だ、イデオロギーだ、形もないものを掲げたところで何にもならない。
どれだけ崇高な使命を口にしたところで、死ねば終わり。殺せば終わり。
そういう敵/味方を、彼はこれまで何度も見てきた。そして、殺してきたのだ。
「……大切なものを守るためなら、どんな相手とだって戦うんだろ。
俺は戦うくらいしか出来ないからさ、それを助けたいと思うんだ」
「それは、貴様が戦士だからか?」
ラァルの問いかけに、匡は首を振った。
どう答えるべきかと理性が考える。どういう答えが"最適"で"自然"なのか。
人でなしを自認する男は、そういう視点がなければ日常すらそれらしく送れない。
けれど今は、その思考を棄てた。息を吸い、己の思うままに答えるべきだと。
「わからないよ。俺は戦士の誇りなんて持ってないし、正直理解できない。
だから、助けたいと思いはするけど、その理由まではまだ見つからないんだ」
エルフの戦士は、じっと匡を見つめていた。
「……けど、それをいつか見つけたいとも、思ってる」
猟兵たちもまた、匡をじっと見つめている。魔女はふっと目を細めた。
「"助けてやる"、じゃなくて……手伝わせてくれないか。その戦いを」
「……ああ。おれたちは、きみたちの傍に在り、来る災厄を討つ。それだけだ。
そのためにおれは此処に居る。きみたちがどう言おうと、おれはそうする」
少し長い沈黙のあと、灰色はそう言って、拳を握りしめた。
「おれたちの答えは、もうここに来た時点でとっくに決まってるんだ。
だから、伝えるしか出来ない。どうするかは、結局、きみたちの勝手だよ」
「それはそれで、突き放した物言いだからボクとしては気が咎めるけどね」
なんて冗談めかして言い、コーディリアは肩をすくめる。
「けどこうして、ボクらは互いに言葉を交わし、理解できる知性があるわけだ。
なら、せっかくある道具(もの)は使わないと損だよ。便利なんだし」
「まじない師らしい理屈だな」
「魔法使い、だからね。だからボクから頼みがあるとしたら……ああ、そうだな」
少しだけ思案したあと、コーディリアはくすりといたずらっぽく笑った。
「キミたちの挨拶を教えてくれないかな。ほら、まだ挨拶してなかったしね。
あるんじゃないかな? キミたちの部族特有の、きちんとした挨拶が」
ラァルはしばし瞑目した。配下たちは族長の言葉を待っている。
「…………ガェ・メヴォンナ。旧き言葉で"良き出会いに感謝を"という意味だ」
「ボクらが口にしても?」
「……もう少し時間をくれ。我らすべてが完全に納得したわけではない」
十分だ、とコーディリアは頷く。ラァルの言わんとしていることを理解したのだ。
「……えっと、つまり? ラァルさんは納得してくれたってことかな?」
「そこは黙って納得しておくべきところですよ、オルハさん……」
ヨハンの呆れたツッコミに、オルハは、あっ、と声をあげて口を抑えた。
さっきまで警戒していた部族らのうち、何名かは、その可憐さに肩を揺らす。
……気づけば、エルフたちの剣呑さは、完全にとはいかないが和らいでいた。
「まったく、誰も彼も……頭が痛くなるばかりです」
「頭痛薬持ってきたよ? もう飲む?」
「それよりもう少し気をつけてくれませんかね、色々と」
少年と少女のやりとりに、誰かが吹き出した。灰色は肩をすくめる。
「これからおれたちの仲間もやってくるはずだ。聖地に踏み入らせてほしい」
「我らが同行することを受け入れるならば、認めよう」
願ってもない言葉だ。灰色は一同の反応を確かめたあと、代表として頷いた。
どうやら、ひとまず敵視されることは避けられたらしい。匡は静かに安堵した。
「……キミらしい、いい答えだったんじゃないかな?」
「からかわないでくれよ、店長。慣れてないんだ、ああいうの」
くすくす笑う魔女を見て、匡は困ったように頬をかくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
どーも、フォーメナー族の長殿
まずは俺から名乗ろうか…ヴィクティムだ
俺が来た目的は一つ──龍を墜としに来た
ここにすぐに、邪龍が訪れる…氷山を狙ってな
リザードマンまで連れてくるみたいだぜ
…アンタ達だけじゃ負ける、とは言わないが
どうせなら、「どんな犠牲も出さずに」勝ちたいと思わないか?
龍を相手にする危険性は分かってるはずだ
その危険を最大限に抑えて、勝たせてやる
任せろ、こう見えても龍は何度か殺してる
ん?俺に得がないって?
んじゃ、美味い飯を食わせてくれ
燃費が悪いんでね…働きに応じて、よろしく
タッパが小さいだの、腕っぷしが強く見えないだのは関係ない
俺のニューロンはもう…100通り以上のプランが詰まってるぜ
ヌル・リリファ
アドリブ連携歓迎
やまにくわしいひとの協力があったほうがよさそう。
(普段と同じ格好の子供が話しかける)
どっちでもない。ここをおそいにくる相手をたおしにきたの。
邪竜とその配下がくるんだって。
お兄さんたちもよわくはないだろうけど……。あぶないとおもう。
わたしはマスターの人形だから、つよいもの。やくにたてるよ。
それでもだめっていわれるとお仕事できなくてこまるから。
どうしたらみとめてくれるかおしえて。
(模擬戦等基本何でもします)
みとめてもらえたら一緒につかえそうなものをさがしにいく。
マスターがいうならわたしはなんでもするけど。
そうでないときはだれかをまもるほうがたのしいようなきがする。
……頑張るよ。
●戦うための理由
「……なるほどね。手伝わせてほしい、か」
先んじた五人にやや遅れて到着したのは、ふたりの猟兵であった。
奇しくもふたりは、フォーメナー族を説得した匡の友人でもある。
すなわち、ヴィクティム・ウィンターミュートとヌル・リリファだ。
「ま、おかげでこっちがあれこれ言葉を弄する必要はなくなったわけだろ?
なら匡と、みんなに感謝しないとな……って、100%解決したわけじゃねえか」
「うん。エルフのひとたち、ずっとわたしたちのことみはりつづけてるよ」
「そういう台詞は聞こえねえように言っとけって……互いに了解済みなんだけどな」
ヌルは『どうして?』と無表情のまま、空色の瞳をぱちくりさせている。
ヴィクティムはそんな様子に呆れたように肩をすくめつつ、頭上を仰いだ。
……匡らの説得により、フォーメナー族は猟兵の入山を許可した。
ただし、部族の面々が猟兵たちに同行し、監視した上で、という条件付きだが。
それでも、実際に聖地に足を踏み入れるようになったのは大きな収穫だろう。
ヴィクティムは、聳え立つ氷山の威容に、人間の本能的な畏怖を抱いた。
ウェットな話だ。サイバーカウボーイの自分が自然の偉大さに敬意を抱く?
ヴィーガンにでも目覚めようってのか、アホらしい。苦笑して息を吐き出す。
「いき、しろいね。さむくない?」
「……ん? ああ。体温調節機能ぐらいついてるからな、そっちこそどうなんだ?」
「わたしは人形だから、さむいとかあついでこまることはないよ」
だろうな、と、ヴィクティムはヌルに言った。
そんなふたりのやりとりを、族長であるラァルがじっと見つめている。
「……で? 族長殿は何をご所望なんだ? 俺らも申し開きしたほうがいいのか?」
「それか、わたしたちの説明を、まだうたがってるとか、かな」
ふたりの言葉に、ラァルは腕組して瞑目し、言葉を探すように太く息を吐いた。
「そのすべてと、他にも多くだ。"邪竜がしもべを従えて来る"などと言われて、
はいそうですかと信用できるはずはあるまい。だが我らは、その気概を信じた」
「気概、ね。俺には無縁の話だな、そういうのは」
「わたしも。メリットとかデメリットじゃ、だめなのかな」
ふたりは同じようなことを言っているが、"無縁"とする理由はそれぞれ別だ。
ヴィクティムにとっては、戦士の誇りだどうだ(特に誇りの点)は他人事だ。
生きるためにどんなことでもやってきた、泥水を啜って這い上がった少年は、
プライドなんてものが一文の得にもならないことをよく知っている。
(……だのに一流の端役ってか? ハ、チルなアイロニーだな)
心のなかで自嘲めいて呟き、誰にも悟られぬよう口の端を歪めた。
一方でヌルのそれは、根本的に理解が出来ていないという意味である。
人形をアイデンティティとする少女にとって、感情の機微は未知の塊だ。
そんな不確定で不安定なものに、命を預けたりするような行為は、
合理性から見れば絶対にありえないレベルの話である。
だが、それこそが、彼女にとってよき友人たちの力を引き出すことを知っている。
匡が族長らに頼み込んだというのも、おそらくはそういうことなのだろう。
なら、それは理解するに足る事象だ。
(……マスターの人形として、やくにたつから? それとも――)
知りたい。理解したいと思った心の理由は、本人にも定かではない。
ぱちぱちと瞼を瞬かせ、思考を打ち切り、視線をラァルへと戻す。
「お兄さんたちはよわくはない……と、おもうよ。でも、あぶないよね」
「その言い回しはよくねえ気がするな。"戦士は恐れたりしない~"とか……」
「言わんよ。貴様こそ、私の前でわざとらしくそんなことを言うべきではないな」
無論、わざとである。ヴィクティムはへらへら笑いながら詫びてみせた。
そしてすぐ表情を引き締め、じっと族長の目を見る。
「だがなリーダー、ヌルの言っていることだって間違いってわけじゃない。
アンタたちが負けるとは言わんさ。だからな、こう考えてみちゃどうだ?」
「…………?」
ヴィクティムは笑みを浮かべた。それはいかにも悪童めいた意地の悪いものだ。
「"どんな犠牲も出さずに"勝ちたい。……これは、誰だって同じだろ?
卑怯でも卑劣でもない。完璧な形で勝利するってのはごくごく自然なことだ」
その危険性を最大限に抑えて、勝つ……いいや、"勝たせてやる"と彼は言う。
「竜退治ならもう飽きたさ。なんなら悪魔殺しも経験ありだぜ」
「いっぱいいっぱいころしたよ。ねえ、これならみとめてくれるかな?」
ラァルはしばらく口を閉じ……ぽつりと言った。
「……わからんのだ。あの若者(匡らのことだ)たちについては理解はできた。
だが貴様らはなぜここへ来て、我らを襲う敵と戦うというのだ?」
「……? マスターの人形だから、マスターの敵になりそうなのは殺すよ」
「こいつはこういう性格なのさ、気にすんな。ああ、ただ俺は、そうだな――」
得がない。なるほどそれは盲点だ、とヴィクティムはこぼした。
「……じゃあこうしよう。全部終わったらうまい飯でも食わせてくれ」
「メシだと?」
「燃費が悪いんでね。働きに応じてランクアップ、ってのはどうだ?」
こめかみをとんとん叩きつつ、カウボーイは皮肉げに笑ってみせた。
「わたしも演算性能は、まけてないし」
「ああ、わかったわかった。じゃあヌルも大盛り喰うか?」
「……たべたほうがいいの?」
「そういう流れだろ」
「…………そっか。よくわかんないな、だれかをまもるって」
少女はそう言ってから、ぽつりと呟いた。
「でもすこしだけ、たのしいようなきはする」
「……不思議な冒険者たちだな、貴様らは」
ラァルは、苦笑とも呆れともつかぬ表情で言い、彼らを山の奥へと案内する。
資源回収と防衛陣地の構築は、緩やかに確実に進み始めていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
龍之・彌冶久
呵々、気風の良い益荒男がおるなぁ!
凛としつつも厳かなる事氷山の如し。
良い善い、お前のようなおのこは好ましい。
とは言え爺も物見遊山だけで来たわけではない故なぁ。
のこのこと帰る訳にもいかんのだ。
ではこうしよう。
一合撃ち合う。
俺が負ければ素直に引こう。
勝負へと運べれば尋常に。
賜る脈は"魄"、俺の魂から刃を紡ぎ。
そして、"阿僧祇の構え"。
此方を射抜かんとする槍の一突き、それを見定め見切り、弱すぎもせず強すぎもせず。
拮抗する力を持って槍を受け切り止める。
(属性攻撃:魂/防御力特化)
――うむ、見事。怜悧なる一突きよ!
さて、強き戦士は一合撃ち合えば相手のことがわかるというが。俺の事は理解して貰えたかな?
ジョルジオ・サニーウィッキー
現地の人間との対話!
冒険者時代の腕の見せ所だな!
〈コミュ力〉全開で行くぜ~?
正直に言おうか、今からここに冬を纏った竜が現れる
ここに来たのはそいつが理由だ
そいつは人の命も何もかも、取っ払っていくだろう
――なんて脅し文句はやめにしよう
戦おうぜ、北の戦士よ
竜と―いやまずは俺からでもいい
口だけの男が気に入らないって言うならこの盾に武器を突き立てて俺ごとぶち抜いてみせればいい
〈盾受け〉でその攻撃、どんな力でも何回でも―耐え抜いてやろう
"仕事"と別にここに寄り付いたのは、力の為でもある
冬と共に生きる力にまみえる為
「聖地に足踏み入れるんだ。容易い手段はとらねぇさ!!」
アテナ・アイリス
同族の危機なら、私が行かないでどうするの。
ラァルに会って、一緒に戦いたい旨を伝える。でも、語り合うのは言葉では無くって、剣を合わせて語り合うわよ。
「ブーツ」の力で足場に関係なく俊敏に動き回りながら、【武器受け・見切り・第六感】を使って攻撃を躱し、【カウンター】を使って反撃をする。
特殊攻撃は、UC「守護女神の煌めき」を使って攻撃予測し回避する。
わたしの実力を見てもらうわよ。
龍なんて何体も倒してきてるんだから。だから、一緒に戦いましょうよ。
戦い終わった後に、フォーメナー族にとっての聖地への入場許可をもらって、必要な素材を集めて防衛線が有利になるようにする。
誰一人犠牲を出さずに勝つわよ。
●共に戦う、ということ
ざくざくと、瑞々しい雪を軽快なリズムで踏みしめる足音が響く。
それは、場所を問わず兎めいて飛び跳ね俊敏に動き回る、
アテナ・アイリスが奏でるステップのテンポであった。
「は、疾い!」
「こちらから攻めるぞ!」
「いぃやッ!!」
槍を構えた屈強なエルフ三人が、アテナの着地地点に先回りした。
そして回避不可能な空中のアテナめがけ、三方から同時に槍を突き出す。
串刺しになった――誰もがそう思った。猟兵たち以外は。
「「「い、いない!?」」」
「ここよ、ここ」
エルフたちは声のする方を見て、ぎょっと腰を抜かしかけた。
アテナは突き出された槍の鋒を蹴り渡り、はるか頭上の岩蓋に着地したのだ。
「……十分だ。お前たちは下がれ。日暮れまで粘ったところで当てられはすまい」
族長であるラァルが言うと、エルフたちはおとなしく槍を下ろして引き下がる。
殺し合いをしていた……と、いうわけではない。
アテナの提案で、フォーメナー族の戦士と力比べをすることになったのだ。
女神の啓示によって最適な回避軌道を導き出すアテナからしてみれば、
ユーベルコードを使えず、またオブリビオンでもないエルフたちの攻撃は、
鋭く疾いとしても避けるには易いものである。
「納得してもらえたならいいわ。これで信用する材料は増えたでしょ?」
「呵呵! 女だてらにようやる! ま、話は早いほうがよかろうしなあ。
ん? そうであろう、寒極の。お前とて、うすうすわかっていたのであろうが」
などと、好々爺めいた口調で、しかし若々しい青年がラァルをからかう。
龍之・彌冶久。アテナの力比べという提案に、乗り気で賛同した猟兵のひとりだ。
「戦士というのは、相手の力量を測れるようになってこそ一流というもの。
その割り切りの良さと気風の良さ。うむうむ、お前のような益荒男は好ましい」
「そうだねぇ。脅し文句で不安にさせて焚きつける、なんて俺も御免だからよ。
先に来た連中が、最低限の話を通しておいてくれたのはだいぶ助かったぜ」
彌冶久と同じく、力比べを提案した男、ジョルジオ・サニーウィッキーが言う。
右の目元から頬にかけて縦に刻まれた古傷はいかにも痛ましく、
その風采と口ぶりはややもすれば適当、胡乱と云われるたぐいのものだが、
彼はエルフたちを揶揄したり、挑発するようなことは決してなかった。
それだけ、真摯にフォーメナー族と向き合っているということでもある。
ともあれ三人は、すでに聖地である氷山に足を踏み入れていた。
そこかしこから、猟兵たちが資源を集め内部を探索する物音が聞こえてくる。
「……でも、ちょっと不思議ね。最低限の信用はしてくれてたわけでしょ?
なのにどうしてわざわざ、"貴様らの力量を知りたい"なんて言い出したのかしら」
アテナの言葉に、ラァルは三人を見やった。
「まずひとつは、貴様らを完全に信じきったわけではないからだ」
「さもありなん。して、他の理由は?」
「……戦士としての単純な興味だ、不可思議な男よ」
寒極と渾名される槍使いのまっすぐとした瞳を、彌冶久はからからと笑って見返す。
次いで一瞥を受けたジョルジオは、剽げた顔つきで肩をすくめてみせる。
「お前たちは自ら力比べを提案した……が、それだけではない。
何か他のモノらとは違う……信念、威風、そういうものを感じたのだ」
「そんなだいそれたものじゃないんだけどね、わたしは。
同族の危機なら、エルフであるわたしが働かないでどうするの? ってね」
こっちのふたりはどうか知らないけど、と、言いながらアテナは男たちを見る。
「呵呵。俺は爺とはいえ、物見遊山だけで来たわけではないぞ?
斬るべきものが来る。そして――興味があるのは、俺も同じなのだよ」
「右に同じ、ってとこかね? この場合は。俺はもうちょい穏やかだけどな」
すっと目を細める彌冶久に対し、ジョルジオは掌をひらひら振ってみせた。
「あんたたちは、この人間が住むにゃ寒すぎる土地でずっと暮らしてるんだろう?
……そのたくましさ、冬とともに生きる力。俺はそいつにまみえたいのさ」
「なんだかスピリチュアルね」
「だろ? こう見えても俺、パワースポット巡りが趣味なんだよなぁ」
アテナは、そのきざっぽい見た目からは思いつかないジョルジオの言葉にきょとんとした。
そこでラァルは、おそらくここに来て初めて、笑みらしきものを見せたのだ。
「いいだろう。先は部下たちのなかで貴様らを疑っている者たちを出したが、
次は私が相手になりたい。どのようにして、貴様らの力を測ればよいだろうか」
「あら。わたしは女だから、剣を交えてくれないの?」
唇を尖らせるアテナに対し、ラァルは返す。
「貴様とはそれをするまでもないと思ったのだよ、同胞よ」
そして、男たち三人は視線を交わし、頷きあったのだ。
……ややあって、まずジョルジオとラァルが対峙することとなった。
「あいにくエルフのお嬢ちゃんみたいに跳んだり跳ねたりは苦手でねぇ。
代わりに俺の愛用する盾(こいつ)で、古典に倣うとしようや」
こんこん、と白い鱗で重ねて作られた盾を叩き、ジョルジオが言う。
「あんたのその槍で、俺のこの盾を思いっきり貫いてみせるがいい。
何回でも、どんな力でも耐えてやる。さあ、どうだい寒極のラァルさん」
「二言はないな」
もちろん、という首肯を確認した上で、ラァルは身構えた。
……空気が張り詰める。ジョルジオはしかし薄く笑ったままだ。
「せいッ!!」
鋭い呼気。踏み込みは、氷山そのものが鳴動したかのように重かった。
ぞわりっ、と周囲の雪が舞い上がる。満身の力を込めた刺突!
――ガギンッ!!
「ぬうっ」
「こいつは……たくましいな!」
ラァルは退く。そしてでいや、と腹から息を吐いて、刺突を連打した。
ジョルジオはこれをいなすでも弾くでもなく、足を踏ん張って受け続ける。
「……よくやるわね。子供みたい」
「ハハハ! 言い得て妙だな。寒極のも意固地になってるぞ」
彌冶久がからかってからさらに一分後、ようやくラァルは手を止めた。
顎を伝う汗を拭い、野太く息を吐く。
「……その盾、よもや龍鱗で鍛えたのか」
「お目が高いねぇ! いやみんな信じちゃくれないんだけどなぁ」
傷一つない聖盾を自慢気に抱え、ジョルジオはにかっと笑ってみせる。
ラァルは完敗だ、と頭を振った上で、しかしすぐに彌冶久を見た。
「呵呵。ほうぼうの体だろうに、俺もか。爺遣いの荒いことだ。
ならば何度でも、と言うまい――一合、それだけで勘弁してくれ」
彌冶久は言いながら身構え、ふと己の胸郭に手をやった。
そこから糸を抜くような仕草をすると、きらきらと光る"脈"が指先に灯る。
「これは俺の魂そのものから賜る脈。すなわち"魄"よ。
戦士の魂は得物に宿る。撃ち合うならば似合いの品であろうが」
「…………」
ラァルは何も云わない。――言えない、というのが正しかった。
泰然自若と佇んでいるようで、すでに彌冶久は必殺の構えを取っている。
それがわかる。どれほどの鍛錬をかければ、ここまでの領域に辿り着くのか。
……山だ。聖地そのものに比肩しうる山が、そびえているように思った。
「いい目をしよる。やはり戦場に立ってこそ、か――善き哉」
アテナも、ジョルジオも、そこに口を挟むことは出来ない。
……ふと、緊張に耐えかねてか、ずしりと雪が一塊落ちて崩れた。
「――しィッ!!」
ラァルが仕掛けた。彌冶久は目元をほころばせるように細めた。
緩く、それでいて柔くない、威風堂々とした挙措でこれを受け切る。
「……おぉ」
さしものジョルジオすら、感嘆の吐息を漏らすほどであった。
ぎん! と鋭い音ひとつ。澄み切った金属音は山の中を幾重にも木霊する。
「…………うむ、見事。怜悧なる一突きよ」
構えを解いたのは彌冶久が先だった。莞爾と笑い、その槍働きを称える。
ラァルは無言であった。槍を振り、残心し、収めてからようやく息を吐く。
「……どう? わたしたちが本気で、十分強いってわかってくれた?」
「同胞よ。その質問は意地が悪いというものだ。私はどう答えるべきか……」
ラァルは苦笑した。戦士として、純粋な力量差を知らされたのだ。
なによりも、各々の猟兵たちが戦いのなかで貫いてきた信念を垣間見たのだ。
「貴様らは、強いな」
ぽつりと溢れた一言が、力比べで得た答えであり、信頼と言える。
「いまさらすぎるわね~。ほらほら、わたしたちも資源採集手伝いましょう!」
「ふうむ、俺はどちらかというと酒の肴になりそうな獣肉などをだなぁ」
「お、あんたいける口かい? 実は俺の素晴らしき酒コレクションがあってさぁ」
「そういうのはあーと! ほら、行くわよ!」
交わす声音にも、どこか穏やかなものがあるように聞こえた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
逢坂・宵
―――貴殿らの住まうこの地に騒々しき靴音で訪う無礼をお許しください。
僕らは、この世界の冒険者に似て異なる者。一種のギルドに身を置く力ある者とお受け取りください。
貴殿らの聖地たる氷山を狙い、凶悪なる竜がこの地を襲撃するとの知らせがありました。
竜殺しは我らとしても誉れとなるところ。ぜひ、お力添えをと思いまして
申し遅れました、僕の名は逢坂宵。一介の術師にございます。
わたくしごとではございますが、精霊を扱う僕にとっても聖なる地域というのは尊きものです。神秘が住まう場所は、ひとはもちろん精霊たちも力が潤い、居心地がいいのです
だから、貴方がたの聖なる地を―――ともに、守らせていただきたいのです
飛鳥井・藤彦
聖地言うだけあってえらい綺麗な場所やなぁ。
寒うて敵わんけど、1枚くらいなら風景画描けるやろか。
大自然ありのままの美しさ、あまり人の手ぇ入れたくない気持ちもわかるわー。
しかし、強そうなエルフの兄さん。
この綺麗な場所を俺ら以上に脅かす存在が近づいてんねん。
邪竜とその配下共や。
せやからここの恵み分けて貰うて、一緒に厄災に備えてくれひんやろか?
人の手が入るのが嫌ならこの子に手伝って貰おう思うとるんやけど。
(探索の手伝いとして、描きあげた雪狐を踊ル画精で使役)
僕としては兄さんたちとは上手くやりたいんやけど、いきなり仲良しこよしは無理やろ?
せやから僕が信頼に足る人物か兄さんのその目で確認したってや。
●凍てつく聖地にて
先遣となった猟兵たちの説得により、部族は猟兵の入山を許可した。
無論それは彼らの同行と監視の上、完全な信頼を得たものとは言いがたい。
……言い難かった、というべきだろう。いまはそれも相当に進歩している。
少なくとも族長であるラァルは、猟兵たちの(言はともかく)その腕前と信念に対しては、敬意を払い信を置いていることが見えた。
だからといって、部族の戦士たちが、みな猟兵に心を開いたわけではないのだが。
ゆえに、逢坂・宵と飛鳥井・藤彦のふたりは、さらなる対話を求めた。
「まずは改めて、僕からひとつお詫びをしたいのです、異郷の戦士よ」
宵は自らを冒険者ギルドに属する"力ある者"とした上で、慇懃に礼をした。
「貴殿らの住まうこの地に、そして貴殿らにとって何物にも代えがたいこの聖地を、
騒々しき靴音で訪(おとな)う無礼。完璧なご納得は難しいかと存じます」
「……無論だ。だが、遠き街の冒険者たちよ、少なくとも私は理解している。
貴様らにはそうするに足る理由があり、そしてその力と信義があることを」
実直な戦士の言葉に、宵はにこりと穏やかな笑みを浮かべた。
「では、我らの目的と警告も、ご理解はいただけたと考えてよいのでしょうか」
「……そうだな。凶悪なる邪竜が、軍勢を率いてこの地を狙っているという言葉。
胡乱ではあるが、これまで見せてもらった貴様らの腕前自体は嘘ではない……」
ふう、とラァルは嘆息した。
「部族の戦士たちも、徐々にこれがただならぬ事態だと理解しつつある。
むしろ我らのほうが詫びるべきかもしれぬ。貴様らの誠意に報いるには――」
「よいのですよ、族長殿。無礼を働いているのは我らの方なのですから」
ただ我らは来訪者として訪れ、役目を果たし去っていくだけのこと。
その言葉に、戦士は重々しくうなずくのであった。
「なんや、そら正しいけどいまいち寂しい台詞やなあ」
と、そこで、話を聞いていた藤彦が軽口を叩いてみせる。
「こないなええ景色のとこで、まあいまはのんびりしながら話が出来るんや。
せっかくやし、ここはひとつ僕の得意技を披露させてはくれへんかな?」
部族の戦士たちのなかに、猟兵への不信感が未だに存在するというならば、
その力量を様々な形で披露することが信頼へつながるだろう。
そう考えた藤彦は、ゴッドペインターとしての自らの得意技……、
つまり絵画の腕前を披露し、見事な雪狐を一歩つ描いてみせた。
描かれたそれはたちまち三次元の存在となり、ふるふると毛づくろいをすると、
資源の輸送や防衛陣地の構築など、あちこちの作業に散らばっていく。
「どや。僕が描いた絵、生きがええやろ?」
「驚いたな。冒険者とはこのようなことも出来るのか!」
部族の戦士たちにもどよめきが奔る。宵もまた、感心したようにうなずいた。
「時間はあるんや。いまから殺気立っても仕方あらへん。
互いに相手がどういう存在か、じっくり確かめてみてもええんやないかな?」
その言葉に、ラァルはもはや異議をもたなかった。
戦士たちの瞳にも、徐々に……猟兵たちへの尊敬の念が宿り始めていたのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
三咲・織愛
誇り高いエルフの戦士……
会ってみたい……なんて理由で駆け付けるのは不純が過ぎるでしょうか
助けたい気持ちが一番ですけれど、……聞いてみたいこともたくさんあって
……でも先ずは、防衛戦のための資源集めが一番かしら
先にお話をした方々と同じ、お手伝いをしたいと思っています
私も同じエルフです
私には一族というものが無くて、だから憧れる気持ちもあって
あなた達が守ろうとしているものを一緒に守らせて欲しいんです
代々受け継いできた土地を荒らされるのは、きっと許しがたい事なんですよね
私にもあったのでしょうか……生まれた場所、わからないけれど
防衛戦に役立つ資源って何かしら
詳しそうな方がいれば教えてもらいながら探しますね
非在・究子
にゅ、入山の、許可は、貰えた、感じ、か?
あ、新しい、マップの、探索は、どんな時でも、なんとも、心が躍る、な。
と、とは言え、せ、聖地とやら、らしい、し。こ、今回は、刻限も、差し迫ってる、から、た、タイムアタック、的に、効率的に、いこう。
ゆ、UCで、普段から、使ってる、『マップ機能』を、強化して、エリア、全域の、情報を、走査する、ぞ。
け、経路や、資源の、ありそうな、場所、野良の魔物の、場所とかに、あたりを、つけたあと、共有、する。
な、なんで、分かるの、かって? ぷ、プレイヤーには、そう言う、仕様の、ゲーム、なんだ。あ、まて、そこの足元、注意だ。く、崩れる、トラップが、ある、ぞ。
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
先に話を通してくれた人たちのおかげで、とりあえず話くらいは聞いてくれそうねぇ。
けんもほろろに突っ返されるだけならまだしも、石もて追われる可能性もあったんだし。ひとまずよかったわぁ。
えーと、ラァルさん?
できればでいいんだけど、あたしたちにあの氷山…「聖地」?について教えてくれないかしらぁ?
…あ、中がどうなってる、とかじゃなくて。
どんな言い伝えがあって、どうしてあれが「聖地」と呼ばれてるのか。そういう伝承について教えてほしいのよねぇ。
…恥ずかしながらあたしたち、あれが聖地と呼ばれてて資源がたくさんある、ってことくらいしか知らないんだもの。
お願いできないかしらぁ?
●聖地が聖地たる所以
猟兵たちの行動はフォーメナー族の一定の信頼を勝ち得た。
かくして、来たるべき戦いに備えた防衛準備が粛々と進められていく。
だがそんな中、ティオレンシア・シーディアがこんなことを言ったのだ。
「ねぇ、ラァルさん? できればでいいんだけど、教えてほしいことがあるわぁ。
……この氷山……つまり"聖地"は、どうして"聖地"なのか、その所以をねぇ」
作業を進めるエルフたちを指揮していたラァルが、ティオレンシアを見やる。
「そ、それ、き、気になる、な。ロアも嘗め尽くしてこその、ゲーマー、だし」
「……? ロアってなんです?? よくわからないけど気になるのは同意です!」
非在・究子のゲーマースラングに首を傾げつつ、三咲・織愛も同意した。
もっとも織愛の場合は、学術的興味やティオレンシアのような今後のためではなく、仮にもエルフの生まれ――とはいえ、彼女は己がどんな場所で、誰のもとに生まれたのかを知らないが――にある者として、同胞たちのルーツを知りたがったのだ。
「……そうだな。我らの成り立ちを、共に戦う者らに教えるのはやぶさかではない」
ラァルは腕組みをして頷き、滔々と語り始めた――。
……曰く、フォーメナーとは、彼らの父祖に当たるエルフの言葉らしい。
「フォーメナーとは、外の民の言葉に寄らせた訛りのようなものでな。
より正しい発音に則すると、フォル・メン・ナールというのが近いだろう」
「……それは、何か意味のある言葉なんですか?」
同じエルフといえど、長い時間をかけて分化した部族特有の言葉は、
織愛の耳にとっても異郷のそれとして響く。ゆえに、彼女はその意を問うた。
ラァルは頷き、このように答える。
「おおよそ訳するならば、我らの部族の名は"北の焔"という意味なのだ。
この凍土に根付いた父祖たちの、燃え上がるような生命の輝きを示した名だ」
――黙れ!! "北の焔"の子は、一度握りしめた武器は決して手放さぬ……!!
「ああ、なるほどねぇ。そういうことだったのかしらぁ」
グリモア猟兵が語った予知のなかで、ラァルが吐き捨てた言葉。
その所以と由来を理解し、ティオレンシアは納得したようにうなずいた。
「い、いかにも、ファンタジーっぽい、な。エルフだし、な。
じゃ、じゃあ、この聖地ってのも、そ、その先祖の住んだ場所、なのか?」
究子の言葉に、ラァルは重々しく肯定の意を示した。
「かつては別の場所に住んでいた父祖たちは、大いなる争いを避けてこの地へ来た。
大地を血に染め、数多の同胞の命を奪った火を畏れ、そして忌まわしく思った。
そして揺るぎなき大山のおおらかさと、生命を試すような氷に意を見出したのだ」
「……なるほど。だから、フォーメナー族の皆さんは、この地を守っている……」
言いながら織愛は、山頂のほうを見上げた。
フォーメナー族の祖先がここへ来たのは、はたしてどれほど昔のことなのか。
言い伝えが完全に真実なのかは、実際のところ織愛の目から見ても怪しいが、
いまに伝え語られるだけのいきさつが、その父祖たちにはあったのだろう。
この極寒の地こそが、彼らにとっての理想郷だと信じられる程度には。
「やむを得ず極地に住み着いた部族の話は、あたしも聞いたことあるけどぉ。
好き好んでこんな寒い場所で暮らしてるなんて、ほんとに誇り高い人たちねぇ」
悪く言えば頑固で頭でっかち、ということでもあるが。
ティオレンシアの声音には、少なからず部族に対する敬意があった。
「そ、そのおかげで、色んな資源が遺されてたわけだし、な。うひひひ。
い、いい感じでマテリアル、集まってる、ぞ。データ、共有しておくからな」
この間にも、究子は電脳魔術で聖地全体のマッピングを行っていたらしい。
この手の広大なフィールドを探索し、資源を集めるのはゲーマーの愉悦である。
生息モンスター――と彼女が呼ぶ魔獣――の所在地もバッチリだ。
おかげで、来る戦いには、十分な備えが出来るだろう。
「で、でも、例のドラゴンは、そういうの無関係に此処に来るん、だな。
ど、ドラゴンってそういうモンだけど、ほ、ほんと、はた迷惑なヤツだ」
「そうですね……せっかくフォーメナー族の皆さんが守り続けてきた土地なのに。
生き延びるための侵略ならともかく、愉しみで虐殺して奪おうとするなんて」
生地を知らない織愛でも、住む場所を奪われる苦しさは想像するに余りある。
ぎゅっと細い拳を握りしめ、織愛はラァルをじっと見つめた。
「私は皆さんのように、エルフであることに誇りを持っているわけではないです。
けれど、だからこそ……あなたたちの考えを、その理由をもっと知りたいと思います」
だから、と織愛は言葉を続ける。
「……私は、猟兵だからとかじゃなくて……私自身の気持ちで、えっと」
「みんなを手伝いたい、ってことよねぇ? いいんじゃないかしらぁ、それで」
甘ったるい声で、ティオレンシアが助け舟を出した。
「あたしも、その誇りがどーとか、正直自分で言うような人間じゃないけどぉ。
自分なりのこだわり持ってしっかり立ってる姿って、かっこいいと思うしぃ?」
「く、クソゲーも、縛りプレイすると楽しいから、な!」
「……それはちょーっと、いやだいぶ違う気がするけどねぇ」
究子の、やや抜けた発言にはツッコミも忘れない。
「だからぁ、なんていうかぁ……もっと肩の力、抜いたらぁ?」
ティオレンシアの言葉に同調したのは、意外にもラァルであった。
「私が言うことではないが、その言葉には同意する。そうであろう、同胞の娘よ。
我らはお前たちを信じよう。だからどうか、ともに戦ってはくれまいか」
実直で堅固な戦士は、不器用に微笑みめいた表情を浮かべてみせた。
織愛はそんな表情に驚いたように目を見開いてから、満開の笑みを咲かせる。
「はいっ! そうですね。エルフだからとか、猟兵だからとか、そうじゃなくて。
私は私として、皆さんも皆さんとして、一緒に戦う。うん、それだけですっ!」
ようやく悩みが吹っ切れたのか、普段通りの活発さを取り戻したらしい。
「さっそく資源採集を進めましょう! えっと、まずどこへ行けばいいですか?」
「そ、そっちは違うぞ、と、トラップがあるから、な!」
「誰が仕掛けたのよそんなのぉ……え、もともとあったの?」
かくして三人もまた、他の猟兵たちとともに雪山の探索に移る。
聖地と呼ばれた氷山は、ただ揺らぐことなく聳え続けていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
第2章 集団戦
『パストール』
|
POW : ディス・イリュージョン
自身からレベルm半径内の無機物を【昆虫や爬虫類の幻影】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
SPD : ドラゴニック・リボン
【召喚した伸縮自在のリボン】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : ジャッジメント・パヴィリオン
【杖】を向けた対象に、【巻き付く炎のカーテン】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●氷山の死闘
――小癪なり。
"聖地"から大きく離れた氷原に、その巨大な龍は鎮座していた。
"氷皇竜"メルゼギオス。予知されていた、聖地を簒奪する邪竜である。
メルゼギオスは、そのドラゴンとしての鋭い感覚によって悟っていた。
己が奪おうとしていた土地に、すでに忌まわしき仇敵どもがいることを。
そして天敵どもは、惰弱なエルフどもと結託して守りを固めていることを。
――だが、斯様な小物どもに、我が牙を振り下ろすことなど笑止。
『ならば我が君よ、我らにお任せあれ!』
メルゼギオスは足元を睥睨した。そこには無数のパストールの群れ。
『我らの幻術と信仰を以て、御身に仇名す天敵どもを鏖にしてくれましょうぞ!』
――よかろう。ならばその献身を見せてみよ。我がしもべどもよ。
パストールの群れは忠誠を示すように土下座し、そして立ち上がった。
各々が杖を掲げ祝詞を唱えると、氷塊や岩くれがみしみしと音を立てて変化し、
無数の爬虫獣(ドレイク)や、巨大な蟷螂(マンティス)に変化していく……!
『者ども、殺戮のときぞ! 我らの君に、偉大なる龍に血を捧げよ!』
そして来る。狂信者と、それが生み出した虫・爬虫類の軍勢が聖地に迫る!
「……ついに来たか。"北の焔"の戦士たちよ。準備はいいな!」
ラァルの号令に応じ、部族の戦士たちが各々の武器を掲げて鬨の声を上げた。
「異郷の冒険者たちよ。その力を貸してくれ。我らは誇りを以て報いよう!」
十分な時間を稼いだことにより、聖地には防衛陣地が敷かれている。
ドレイクを退ける馬防柵、はたまた遮蔽を取るための壁や塹壕。
あるいは魔力を高める魔法陣、敵を陥れるためのトラップ……種別は千差万別。
各々の知恵と勇気、そして経験を巧みに活かし、恐るべき攻勢を返り討ちにする時だ!
龍之・彌冶久
エルフの者らが描いた陣の上にて敵を待つとする。
何やら疲れを癒す陣だとか。
此度使う刃らは使うと少し疲れる故有難い。
寿命なぞ俺には無いような物とは言え疲れぬに越した事は無いからなあ!
さて、さて。
聖の山に踏み入らんとする不届者らよ。
此処を超えたくばこの老耄れを倒してけ。
ただ、この境を越える者即ち
龍の怒りに触れるぞ。
"九頭龍・春宵一刻"。
九刃九閃瞬きの間も無し。
帯も幻魔も敵めらも悉く斬って捨てる。
刻を織り交ぜ疾く奔るこの刃。遍くものに流るる龍脈を
刹那の間にその身で味わってゆけ。
(属性攻撃:天・地・陽・陰・焔・濔・颯・霆・魄)
ふぅやれやれ、老骨には些か堪える――
が、陣のお陰でまだ行けるなあ!さあ次だ!
コーディリア・アレキサンダ
……ボクとしては、フォーメナー族を巻き込むのは本意ではないのだけれど
そうも言っていられない規模だしね、こればかりは仕方ない
思ったよりも、守りを備えることを認めてくれたみたいだし
“壊さないように”気を付けないといけないね
ボ ク
そういうわけだ。紐解こう――全智の書を
観測対象は敵の放つ「炎のカーテン」
これを目に付く限り、〈高速詠唱〉で追いつく限り無力化しよう
そうすれば敵は飛び道具を一つ失い、戦場は待ち構えるボクらが優位を取りやすくなる
最適な悪魔の選定を開始――――“燃える双眸” キミの出番だ
知らしめせ、本物の炎を。“魔法”という外法を
逢坂・宵
寒極のラァル殿、そして勇猛なる北の焔の戦士の方々
こうしてともに戦えること、実に誇りに思います
ええ、この聖地を狙う竜を屠るため、この聖地を護るため。
我らが猟兵は、奴らにこの牙を剥きましょうとも!
「第六感」「視力」をもって敵の陣容、頭数、動向を察知
それをもとにして「戦闘知識」により最も「範囲攻撃」を撃ち込むのに適したエリアを推測
必要ならば「誘導弾」にて敵を追い込み密集させましょう
そして「高速詠唱」「属性攻撃」を用いて
【天撃アストロフィジックス】で「一斉発射」「範囲攻撃」を行いましょう
攻撃が向いてきたならば「オーラ防御」「激痛耐性」「火炎耐性」で防ぎつつ
「カウンター」で「衝撃波」をお見舞いしましょう
アルトリウス・セレスタイト
まずは躓け
天楼で捕獲
出口は自身に設定
押し寄せる敵勢の最前線、オブリビオンとそれが実行する攻撃が目標
原理を紡ぎ「迷宮に囚われた」概念で縛る論理の牢獄に閉じ込める
押し寄せる群れの最前が突然自由を失えばどうなるかは知れたこと
原因が見えも聞こえもしなければ混乱は加速しよう
明確に出口を目指せば先へ進める
但し迷宮は真っ直ぐに進める訳ではない
曲がり、戻り、分岐も行き止まりもある
混乱した軍勢を背負ってどこまで動けるか見せてみろ
対象でない者、猟兵や聖地守護の軍勢には攻撃も移動も制約は皆無
対して内から外へは何もできん
原理に囚われ減衰する攻撃で迷宮を破壊するか、消え去る前に俺に辿り着くか
存分に楽しめ。時間は短いがな
壥・灰色
勇気ある“北の焔”の氏族よ
この凍れる地にて、いまなお猛く燃え息付く者達よ
貴君らの勇気と武に、この“魔剣”を預ける
この身は神を砕き貫く剣
第六の天災 『壊鍵』
貴君らが最後の一人まで戦う限り
この刃もまた折れはしない
――続け
武を示せ、フォーメナーの一族よ!
壊鍵……起動ッ!!
余剰魔力が蒼白い電雷と成って天を衝く
それは引いた肘から伸びた、大翼の如く
突撃を宣言するなりその姿は消失
超高速での機動に入った壥・灰色の移動軌跡は、削れ飛ぶ地面に依ってのみ明らかとなる
地面が爆ぜ割れるたび
敵のトループに突撃、迫撃砲めいた『衝撃』を伴う拳で
ザコを砕いて暴れ狂う
俺の役割は士気を上げ、前衛で敵をかき回す一番槍
一体でも多く殺す
●聖地防衛戦、第一陣
多対多の戦闘において、もっとも勝敗を左右する要因は何か。
――言わずもがな、それは数である。
よほどの特殊な理由がない限り、戦闘は数の利を得たほうが勝つ。
そして今、パストールの軍勢は圧倒的なまでの数の利を得ていた。
ユーベルコード"ディス・イリュージョン"による無機物の幻影変換は、
ただのこけおどしではない。実際に存在し、人々を害する生きた災厄だ。
むしろ命ある存在ではなく、無限に生成可能な幻影であることが厄介なのだ。
無論、それだけではない。術者であるパストールの数も単純に多い上に、
一体一体が達人級のウィザードを軽くしのぐ、強力な術者ばかりなのだ。
神のごとく崇める氷皇竜の前にありて、その戦意は天を衝くよう。
大規模軍勢は、全体の三割が戦闘不能になった時点で『全滅』と表現される。
士気とは、それほどまでに戦闘に密接に関わる重要な要素なのだ。
その点に於いても、パストールの軍勢に潰走の二文字はありえなかった。
そしてパストールの軍勢が選んだ戦術は、シンプルでゆえに強力なものだった。
すなわち、幻影で創造した虫とドレイク部隊による、一気呵成の突撃。
パストールどもに恐怖がないように、幻影の軍勢にも後退の二文字はない。
数で勝り、生命力と膂力で上回る獣の群れが、数百・数千なだれ込むのだ。
(どれほど彼奴らが守りを整えていようが、所詮は蟷螂の斧も同然よ)
指揮官役にあてがわれたパストールは、立ち並ぶ無数の軍勢を見てほくそ笑む。
『いざ、定命の者どもを蹂躙すべし! 我らの君がご照覧あらせられるぞ!』
蛮獣どもが雄叫びをあげる。雪崩を打つのは、凍気ではなく魔獣の群れだ!
「ふうむ」
対して、聖地の麓。
地平線を埋め尽くさんばかりの軍勢を前に、顎を撫でながら片眉を釣り上げる男。
すなわち龍之・彌冶久――万物万象を流れし"龍脈"を手繰り、
一切合財を両断せし刃となす剣の神である。
傍目から見れば、その年頃は20ばかりの青年に見えるが、
不老不死たる神の例に漏れず、精神的な年齢は自称するところの"翁"であった。
しかしこの男、こと戦いとなると、やや年甲斐を忘れるきらいがあった。
……早い話が、鉄火場における高揚に、いささか弱いタイプの修羅なのだ。
「呵呵。おうおう、蜥蜴も虫もようく揃えたものだ。従えるのも蜥蜴と来たか。
善き哉、善き哉。人であろうがあるまいが、戦いに勤しむのは善きことよな」
とまあこのように、敵であろうと、勇ましい輩には好々爺めいて笑みを見せる。
よくみればそんな彌冶久の足元には、なにやら複雑な文様が刻まれていた。
おそらくは古代のエルフ語と思しき魔術的な文字と、いくつかの記号。
「……これから戦いだというのに、まるでパーティでも始めようって顔だね。
まあ、怯えていたり狂乱しているよりは、頼りがいがありそうでいいけどね」
そんな彌冶久のウキウキした様子に、魔女めいた装いの少女が肩をすくめた。
コーディリア・アレキサンダ。その身の裡に、数多の悪魔を宿す魔女だ。
彼女が魔法陣に最後の一文字――これはフォーメナー族伝来のエルフ魔術に、
コーディリアを初めとした他の魔術師がアレンジを加えたものだ――を刻み込み、
準備万端、といった様子で、帽子の"つば"をあげて、彌冶久とともに彼方を見る。
その表情が、訝しむように――あるいは難儀そうに顰められた。
さしもの魔女とて、あの地平線を埋め尽くす大群には荷が勝つと見えるか。
「思ったよりも数が多いですね。これはなかなか、手間がかかりそうです」
と、コーディリアを挟んで、魔法陣の対岸に立つ優男……逢坂・宵が言った。
彼もまた、ヤドリガミとして星の魔術を修めた一流の魔術師であり、
ラァルとの交流を初めとして、今回の防衛戦に先立っては多大な労力を割いた。
「ああ、そうだね――"壊さないように"気をつける必要がありそうだ」
だがコーディリアが口にしたのは、敗戦の懸念に対する不安ではなかった。
大軍には勝つ。問題は、いかにして"聖地"を傷つけず、無事に済ますか。
だから顔を顰めたのだ。一切合財を吹き飛ばして話が終わり、とはいかなそうだ。
「なに、そもそもあちらを聖地の中まで寄せ付けなければ話は済みましょう。
よしんば踏み込まれたとして、そのために備えてくださっている方は数多い」
にこりと、宵は慇懃な笑みを浮かべ、彌冶久とコーディリアを見やった。
「そのために我らは馳せ参じた。そうでしょう?」
「然り、然りよ。案ずるな、俺は斬るのと同じぐらい、斬らぬのも得意ゆえな!」
「はいはい、じゃあその腕前を頼りにさせてもらうよ。ボクらは"見"に回るからね」
彌冶久は挑発的にふたりを見て、にやりと笑って頷いてみせた。
魔術師たちはすぐには動かない。すでに、出迎え役は定まっているのだ――。
ドレイクやマンティス、はたまた丘ほどの大きさを持つセンチピード。
幻影の獣たちは、一体一体がヒトの身の丈を軽々と超えたモノばかりである。
小さき虫はうぞうぞと群れて致命的な羽音を立て、毒液を滴らせる。
他にも丸太じみた胴体の大蛇や、口元から涎を垂れ流す低知能のリザードマン、
はたまた小型のワイヴァーンなど、その種別と体格は千差万別である。
だが、共通していることはひとつ。
それは全て、オブリビオンの眷属に相応しき邪悪な存在であること。
迎え撃つ生者どもを引き裂き、臓物を食い荒らす欲求に飢えて餓えていた。
そして軍勢が、いよいよ聖地に展開した防御陣地を視認した。
ひときわ巨大なドレイクが、鬨の声じみて、大気を震わす大音声をあげる。
殺戮の時間だ。そして、幻ならざる軍勢は、鏃めいて獲物を蹂躙――。
……する、はずであった。
だがどうだ。見よ。最前線を突き進んでいたドレイクが、突然蹈鞴を踏んだ。
まるで見えない壁にでも当たったかのように、虫も獣もうろたえて足踏みする。
『なんだ? 何が起きた。進軍せよ! 恐れをなすべからず!』
後から追いついたパストールの騎獣隊が、杖を振り回して激昂する。
そこでようやく、騎獣隊の面々も気付いた。これは、恐慌などではない。
『……見えない壁が、我らを遮っているのか!?』
然り! 大軍勢の眼前には、不可視かつ強固な"壁"が聳えていたのだ!
『否! 壁だけに非ず。これは……なんたることか、まるで迷宮ぞ!』
そしてアストラルを視る術士蜥蜴どもは、即座にその正体を朧気ながら感知した。
魔術防壁であるとか、金縛りめいて獣を足止めするというレベルではない。
数百を超える大軍勢、これをすっぽりと蓋で覆い閉じ込めたかのように、
超巨大な迷宮が、一瞬にしてパストールどもを飲み込み展開されている――!
「ほう。視えずとも存在を知覚することは出来るか。伊達に幻を操りはしないな」
そんな大軍勢の狼狽を、天高くから悠々と見下ろす男がいた。
雪原の寒風になびく髪は、その青ざめた肌と相まって風花めいた銀色だ。
対して、決然と敵を見下ろす瞳には、たしかな意志の蒼い光が宿っていた。
「だが、わかったところでもう遅い。お前たちはもう、"天楼"の裡に在る」
術士――アルトリウス・セレスタイトの謎めいた物言いに呼応するかのように、
その傍らにふわりと蒼い燐光が浮かび上がり、それは器めいた形状をなした。
パストールどもは知る由もない。否、並のオブリビオンでは理解など出来まい。
これが世界の規矩に干渉し、万象の存在根源そのものを揺るがす"原理"の端末であることなど。
天楼。それは、世界原理を以て構築される、不可視・不出・必殺の迷宮術式。
アルトリウスが"捕らえる"と決めた獲物だけを確実に捕らえ、迷宮に閉ざす。
この迷宮空間そのものが、毒でも火でもなく術式によって目標の存在を融かす。
自壊自滅の原理は、触れずとも、唱えずとも獲物を融かして滅ぼすのだ。
さながら、国をも飲み込む神話の大罪獣が、その胃液で獲物を呑むが如く。
「しかしこれは迷宮だ。お前たちが死物狂いで抗えば、あるいは逃れられる。
曲がり、戻り、分かれ、時には止まるこの不可視不可知の迷宮のなかを、
獣同然のお前たちが、ヒトのように冷静に確実に進むことが出来るなら、だが」
アルトリウスの声音に、嘲弄や嗜虐、あるいは憐憫の色は一切なかった。
睥睨する藍色の瞳も同様――淡々と無慈悲であり、容赦なく、ただ平坦だった。
敵に対して哀切は抱かない。憎悪を抱くこともない。
向かってくるならば、その力と智慧を以て当然のように叩き潰す。
アルトリウスは、そういう男なのだ。
「惑え。そして存在根源から滅びていくがいい。それがお前たちの必然だ」
"端末"が燐光を放つ。アルトリウスはそれを一瞥し、開いた掌を握りしめた。
すると混乱していた獣が、虫が、一匹……また一匹と、倒れ伏し消えていく!
『バカな! 我らの術が……幻が! 斯様な人間(マンカインド)風情に!』
「いかにも"らしい"驕りだ。その増上慢を抱えたまま滅びるのも見ものだな」
アルトリウスは目を細める。
「――だがお前たちには、そんな緩慢な滅びさえ許されないぞ」
その言葉は、パストールが問い返すより先に、実際に結果として証明された。
すなわち、軍勢に真上から降り注ぐ、すさまじい威力の衝撃によって。
それは、稲妻――いいや、もはや天がそのまま落ちてきたような一撃だった。
怒槌だ。山が浮かび上がって落下したと言われても、信じそうになるほどの衝撃。
何が起きた? 生き延びたパストールどもは、それを理解しようとした。
だが急速に進む"自壊"の原理が、その頭脳を肉体を、一気に崩壊させていく。
ダメ押しとばかりに降り注いだのは、これもやはり"衝撃"であった。
バチバチと、衝撃の残滓とともに青白い電雷が、火の粉めいて氷原に散った。
巨大なクレーターの中心、拳を突き立てて片膝立ちになった男が、立ち上がる。
『……なんだ、あれは。何が起きた? 我が軍勢の先触れが、一撃で!?』
指揮官級のパストールは、遠見の魔術でそれを目視し、驚愕した。
そうだ。降り注いだ巨大な"衝撃"が、迷宮に取り込まれた敵を消し飛ばしたのだ。
その衝撃をもたらしたのは、たったひとりの青年である。
「……勇気ある"北の焔"の氏族よ」
壥・灰色は静かに言う。凍れる風が、灰色の前髪を揺らす。
その合間から揺らめく瞳が見据えるのは、ただひとつ。――眼前の敵のみ。
「この凍れる地にて、いまなお猛々しく燃え息づく者たちよ。
貴君らの勇気と武に、この"魔剣(おれ)"を預ける」
『進め! 攻めよ! あの敵を――猟兵共を、殲滅しろぉ!』
指揮官級の号令に応じ、第二陣が引き絞られた矢となって解き放たれた。
先ほど以上の大軍が、来る。灰色の双眸は、それだけを捉えている。
「この身は神を砕き貫く剣。第六の天災――造反の魔剣、"壊鍵(ギガース)"。
……貴君らが最後のひとりまで闘う限り、この刃(こぶし)もまた折れはしない」
灰色の隣に、"寒極"と謳われた戦士が並ぶ。
その二つ名、極点の凍土の如き、研ぎ澄まされた槍働きによる。
そして揺らぐことなき絶対零度のように、誇りと敬意を貫くがゆえ!
「――続け。武を示せ、フォーメナーの一族よ!!」
「然り! いざ! 戦士よ、氷に起て(ハンガド・ヘレク・ヘイド)!!」
戦士たちがいさおしを求め、雄叫びじみたウォークライをあげた!
灰色はそれに応えるように片手を掲げる。尖塔のように高く伸びる蒼き電雷!
はたして彼はそれを弓のごとくに引き絞る。塔は風を読む大いなる翼となる。
――そして翼がはためいた瞬間。灰色の姿は、誰よりも早く消えていた。
バギャンッ!! と、永久凍土が砕け散る。一直線に、矢の軌跡の如く。
それはまさしく、灰色がまっすぐな撃力を噴き上げて先陣を切った証。
ドウ、ドウ――いくつも刻まれる亀裂は、すなわち彼が地を蹴立てた合図。
戦士たちはその軌跡を追う。厳しき雪をかき分け生きる逞しき生のように!
迫りくる敵めがけ。打ち倒すべき邪悪をめがけ! まっすぐに!!
パストールの群れは、いま目の前で起きている現実を否定しようとした。
ありえぬ。我ら、我が君の寵愛を賜りし術師の集めた幻影が、こうも尽く。
囚われ、融かされ、かと思えば蒼い電雷とともに衝撃に砕け散る。
降り注ぐ威力は流星の如くであり、視えぬ壁はさながら天蓋のようであった。
『ありえぬ! 進め! 我らには火の加護ぞあり! 恐れよ、人間風情が!!』
パストールの術師部隊は横列を築き、地を揺らすような祝詞を唱えた。
すなわち、招来せしは永久凍土をも融かすほどの巨大な焔のカーテン!
ジャッジメント・パヴィリオン。その魔杖は、邪竜の敵対者を灼き焦がす。
焔の織の抱擁は、すなわち慈悲深くも恐るべき死となって降り注ぐのだ!
「――来たね。突撃を無効化されれば、当然あちらは飛び道具に頼るわけだ。
なにもかも想定通り……となれば、そろそろボクも働き時、かな?」
コーディリアは冗談めかすようにいうと、宵のほうを見て合図をした。
宵もまた視線に頷きで答え、星の術式の魔力を練り上げる。
蛇めいてうねる熾火が、空を焦がす。さながらそれは燃えるオーロラだ。
幾重にも重ねられた術式は、人はおろか聖地そのものを百足のように捕らえ、
その氷も、戦士も、術師も、歴史も何もかもを灼き焦がすだろう!
「事象観測、測定完了。なるほど、キミたちの龍魔術はなかなかのものだろう。
だがしかし、ボクはその焔を破る力を知る。そのための術(すべ)を識っている」
コーディリアがふわりと開いた魔導書が、ぱらぱらとひとりでにめくられる。
それは彼女にとっての手帳。己が己と、己に宿る悪魔を識るための書。
そこに智慧はない。なぜならば、魔女を構成する総てはその裡にあるのだから。
「キミたちの術式(ぶき)は、もう十分に識った。破る術は己(ここ)にある。
覚えておきたまえ。これが全智の書(アルス・ノヴァ)――"ボクら"の力だ」
ぱらぱら……ぱらり。白紙のページを魔女の指先がなぞる。
すると何も記されていないそこに、鬼火めいた光が印形を刻みつけた。
見よ。たちまち足元の魔法陣はそれと励起し、本物の極光を束の間生み出す。
とぐろを巻いて来る焔の蛇を――飲み込み、咀嚼し、雲散霧消せしめる光!
『……バカな!?』
指揮官級パストールは狼狽した。無理もない!
「かくして極光が焔を喰らい、凍てつく天(そら)はここに取り戻されました。
永久(とわ)の氷天を輝かすは、邪なる魔力ではなく清廉なる星々なのです」
続いて、宵が謳うように呟く。それは吟遊詩人の吟じる四行詩めいていた。
そこに織られた魔力が、それを紡ぐに至ったヤドリガミの閲した時が、
音韻のひとつひとつを分厚い書の如くに情報を搭載し、紡がれる詩となるのだ。
「闇夜はいずれ去りしもの。東の空より伸びゆく太陽の輝きは凍土を照らす。
そして大地が煌めかし輝きを受け、月のかんばせは美しく儚く燃えましょう――」
それは輪廻だ。たとえ生命の存在が厳しく許されぬ氷天の凍土であれ、
空には太陽が上り、やがて沈みゆけば月が星々とともに地を照らす。
星はいつもそこにある。人々の営みを、悠久の歴史を廻り廻りて見守り続ける。
ならば、その大いなる輝きが、邪悪なる者共に牙を剥いたらどうなるか?
「龍の眷属よ、邪竜を崇める者ならば覚えておきなさい。これこそは星の怒り。
空を支配せんとする愚者たちに、身の程を知らせる穿翼の流星矢……!」
きらり、きらりと空に星が光る。呼応するように宵の魔力が瞬いた。
歌い、踊るは星の精。その数は五、十、否――百! 二百! まだ足らぬ!
「――さあ、宵の口と参りましょう。星よ、護国の牙となりて降り注げッ!」
天撃、アストロフィジックス! 降り注ぐ無数の流星矢!
火炎魔術を無効化されて混乱した戦線に、無慈悲なる星の裁きが下った!
天術の使い手たる宵だからこそ生むことが出来る、破滅にして浄化の輝きだ!
『おお、おおお……! ありえぬ、空を支配せしは我らの君……!』
「それが驕慢だと言っているのです、龍の眷属よ」
遠く離れてなお、うろたえる龍の眷属に、宵の声はしかと届いた。
当然だ。彼が操るのは星の魔術。そして星はあまねく天地をしろしめす。
逃れることなど出来ようか。偉大なりや、廻りし宙の魔術よ!
「ですが星の輝きに打たれ、なおもそれを理解できぬというならば――」
ちらりと、宵は方陣の中央を見やった。そして敵を見る。
「識るがいいでしょう。真なる龍の怒りを手繰る、その力を」
その声に応じたのは――死物狂いで聖地を目指す、敵の一気呵成である!
「さて、さて――」
だが、ここにいるのはコーディリアと宵だけではない。
彼らが築いた陣の中央、呵呵と笑い、徒手空拳にて腰を落とす優男。
「なおも聖の山に踏み入らんとする不届き者ら。そのわからず屋、愚かだがよし。
だが此処を超えたくば、その前にひとつ、この老いぼれを倒してけ」
彌冶久はにんまりと笑っていた。そうとも、たしかにその表情は笑んでいた。
だが見よ。迷宮のくびきをかろうじて逃れ、衝撃の蒼雷をも躱し、
星の裁きをもくぐり抜けて、ようやっとふもとに現れた獣と虫と眷属。
そのすべてが、男を見てびくりと身をすくめた。本能的な恐怖を覚えた。
眼だ。その双眸。たしかに笑んで、愉快げに弧を描いているはずのその眼。
それはしかし、敵対する愚者どもにとっては、いかなる刃よりも鋭く恐ろしい。
「如何にする。龍を崇める者らよ。あるじの命を己の生命に換えて果たすか否か。
その忠義も善き哉。だがな、ただし――俺はひとぉつ、忠告しておくぞ」
修羅が殺気を解き放った。ぴしりと、永久凍土に消えぬ罅が走る。
「――この境を越える者。すなわち、龍の怒りに触れるぞ」
見よ。徒手空拳であるはずのその片手、刃を握るように構えた片手。
空であるはずのその掌に、生まれしは銀とも金ともつかぬ色に輝く絹糸。
否である。其れは糸などではない。糸の如く細く、されど大河のように太く。
なべてを横たわり流れるもの――すなわち、"刻(とき)"を紡ぎし龍の脈。
「此処に至るは宵の口。ならば一刻、ここは春の宵の夢の舞台といったところか。
さあて、さて。来るか、獣よ。去るか、蟲よ。俺はどちらでもいいぞ――」
『……進め。進めぇ!! すべてすべて、踏み潰せぇ!!』
狂乱の号令! 恐怖をねじ伏せ、獣と蟲と眷属が迫る!
「呵呵。そう来るか。善き哉……であれば、一手披露仕ろう。
これはちぃとばかし疲れるでな――有象も無像も、見逃してくれるなよ!」
おお、振り抜かれし刃の挙措、まさに大山鳴動するが如し。
だが。だがなんたることか。一度に視えた剣の擊、払った刃は九を越える!
刻の裡に揺らめくは、すなわち万物万象より紡がれし九の事象!
天・地・陽・陰・焔・濔・颯・霆・魄! 紡ぎし龍脈の大盤振る舞いだ!
見える。捉えられぬ速度の斬撃が、あまりに疾すぎるゆえに重なり、見える。
九頭竜だ。雄々しき九頭竜の如き剣閃の渦が、彌冶久から生まれ暴れている!
「そら――そら、そら、そらそらそらそらそらそらそらァ!!」
斬、斬、斬、斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬・斬・斬ッ!!
斬っていく。天も地も、幻も魔も、獣も蟲も有象無象も一切合切容赦なく。
瞬きの間もなく振るわれるその神剣。刹那の間を縫うがごとき絶技の剣閃!
『ありえぬ。ありえぬぞ! なぜ、ヒトの身でこれほどの――』
「……呵呵。これは嬉しい言葉だ」
翁は愉快げに言った。
「俺を人間と見てくれるか。重畳よ、久方ぶりの台詞よなあ」
――残心。殺到せし幻と眷属、ゆうに数百、断ち切られ燼滅せむ。
男、野太く息を吐き、氷のような凍気を吸って、莞爾と笑った。
「老骨にはいささか堪える――だがこの陣、なかなかのものだな!」
「それはなにより。フォーメナー族のみんなのおかげだね」
「我らの魔力も意気軒昂。然らば次なる一手を放つといたしましょう!」
宵の言葉に頷き、彌冶久は剣を、コーディリアは燃え上がる双眸を練り上げた。
解き放たれし悪魔は焔のそれ。偽りの蛇に非ぬ、真なる悪魔の軍団なり。
「教えてあげようか。"魔法"という外法の真価をね」
魔女が薄く笑んだ瞬間、解き放たれた炎は応報のように空を埋め尽くした。
……戦乱渦巻く凍土を、アルトリウスはただ静かに睥睨する。
向かってくる敵を次々に自壊の原理迷宮に捉え、圧し潰し、融かす。
(それでもなお来るか。勝てぬと分かっていてなおも)
その愚かさを哀れみはすまい。だがむべなるかなと心のなかでひとりごちた。
(過去の残骸たちよ。だからこそ、お前たちは出口(みらい)へ進めない。
――かつての俺がそうであったように。だが、いまの俺はもう違う)
アルトリウスは光を識った。ヒトの繋がり、仲間という名の光を。
ゆえにこそ天楼の術式は獲物を捕らえる。残骸にあるべき滅びをもたらすため。
「進め。進め戦士よ。おれが此処に居る。おれたちがここにいるッ!!」
そして灰色。その姿は現れ、水面の月のように揺らめいて消える。
それほどの神速。敵の応報を恐れぬ、一番槍の如き最速にして最強の拳。
撃力は砲撃のように降り注ぎ、大地もろとも敵陣を抉り、砕く。
圧倒的。そして無慈悲。それはまさに敵を味方を切り裂く魔剣のよう。
もはや鞘から刃は奔った。ならばあとは、眼前のすべてを吹き飛ばすのみ!
「焔の子らよ! 我らには、生命より重きふたつの輝きあり! 応えよ!」
ラァルが叫んだ。
「「「母なる氷よ! そして我らの武勇こそ!」」」
戦士たちが応えた。
「然り! ならば我らは如何とする。生命を案じて退くか!」
「「「否! 氷と武勇によりて(to ice and valow)、いざや進まん戦場へ!」」」
「そうだ、進め!」
灰色が云う。
「進むぞ! 皆ともに!」
ラァルが続けた。
「「「雄々――!!」」」
すべての戦士が吠えた。そして前へ。前へとひた走る。
永久凍土の中でも脈動せし、焔のように燃える生命の拍動のままに。前へ!!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
地鉛・要
【アドリブ可】堕神リカィと連携
所詮、烏合の衆よな。
蟲の使い方が成ってない
【生命力吸収】と【属性攻撃】で雷を付与した大百足を召喚
それと同時に俺自身を大百足の体内に潜らせ、大百足を最大サイズの860mにまで巨大化させて暴れさせる
リボンで大百足を巻いて焼けるかもしれないが、俺を封じた訳じゃない
だが、万が一と言うのも有るので巻き付かれたリボンは大百足の体内から影業を伸ばして切断する
さあ、蹂躙するぞ
堕神・リカィ
地鉛・要 (f02609)と連携
「強き者に従うというのなら、相手を間違えてるわね。アタシは神よ? たかが邪竜ごときに負けないんだから!」
「アクセルを解き放て。ブレーキを踏み潰せ。黄色の旗目指す疾きゲイム、スタート!」
接敵と同時にUC【ホロプシゲイム/アクセライド・ウォー】を発動、黄色いゲイムアーマーを纏って走り出す
リボンが当たればUCを封じられる、ならば当たらなければいい
戦場を駆け抜けながら、暴れる要をサポート
可能ならば【カウンター】と【念動力】でリボンを相手に当てるべく動く
「さぁ、振り切るわよッ!」
●蟲を喰らう蟲、信ずるものを討つ神
かくして力強き戦士とともに、最前線を担う猟兵たちが敵陣に突撃した。
幾度も押し寄せる大蛇じみた火炎は、強大な魔女と星術師によって打たれ呑まれ、
恐慌したパストールの騎獣隊もろとも、幻影の軍勢もまた消えていく。
蹂躙であった。意気軒昂、かつ連携を勝ち得た猟兵と戦士連合軍は強い。
だが、いよいよその第一陣の半分を飲み込んだかというところで、
地平線を再び"黒"が埋め尽くした。
「敵だ!」
誰かが叫んだ。
「敵の増援が来るぞ!」
「奴らは諦めていない!」
それはすなわち、戦いがまだ続くことを意味していた。
「……諦めが悪いわね。いまのぶつかり合いでもう勝ち負けは見えてるじゃない」
そんな文字通り雲霞の如き第二陣を、聖地の山頂付近から見下ろす少女あり。
その名を堕神・リカィ。寒風に髪をなびかす表情は、いかにも自信を感じさせる。
「無理もない。狂信者なんて言えば聞こえはいいが、所詮は"狂った"連中だ。
恐怖を捨て去ったような奴らには大局的、戦略的な判断なんて出来ないんだよ」
リカィの言葉に、すとんと表情の抜け落ちた青年……地鉛・要が応えた。
そこには高揚もなければ、敵に対する蔑視も、驕慢も、冷徹さもない。
淡々と、当然のように、彼我の戦士としての力量差を判断したまでに過ぎない。
「つまり――所詮は烏合の衆だ。手勢の、特に"蟲"の使い方がなってない」
その足元に伸びる影が、ゆらりと蠢いた。
否、それは錯視だ。実際に使役されているものは影から生まれるモノではない。
戦場に流れし血を啜り、骨肉なくして影の如き黒によって編み上げられるモノ。
すなわち、"害血"の大百足。その丸太の如き胴体が、伸びる、うねる。
「ああ、それは確かね。第一、アイツらは従うべき相手を間違ってるのよ」
ふっとリカィは挑発的な笑みを浮かべて、軽く腰を落として諸力を漲らせた。
バチ、バチバチと全身を巡る電脳魔術めいた、この世界に本来あらざる魔力が、
やがて神じみた威圧感によって現像を成す……そのさまは、まさに、
戯画化されたゲイムのそれである。これが、"ゲームの神"であるリカィの姿。
「アタシは神よ? たかが邪竜ごときに、そのしもべに負けたりするもんですか。
来るというならぶち抜いてやるわ。誰よりも疾く、誰よりも派手にねッ!」
ちらりと、リカィの視線が傍らの青年を見やった。
表情こそ虚無的に存在しないものの、要もまたその視線に眼差しで応じる。
肩を並べての共同作戦は、先のエンパイアウォーにまで遡る。
強敵・織田信長を前にして一歩も退かずに繰り広げた戦いが脳裏をよぎった。
「好きに突っ込んでくればいい。俺も、いつもどおり俺らしくやるだけだ」
送り出す言葉としては、ややつっけんどんなようにも思えた。
だが要はそういう男であり、その声音に自分自身を慮るような気配はない。
リカィもまた、それで十分とばかりに頷き、強烈な脚力で斜面を蹴立てた。
風が吹き抜ける。矢のように、少女の姿をした神が空を貫いて疾走する。
後を追うようにして、大河のような巨大な大百足が、うねりながら蹂躙を始めた。
『怯むな怯むなァ! 我らには御方様の照覧あり! 死は我らに在らず!
すでに滅びたこの身、勝利の礎となりて天敵どもを滅するのだ! 進めェ!』
あらたに指揮官役に収まったパストールが、唾を吐き捨てて鬨の声をあげる。
狂熱に染まった同族個体たちは、まさに怪鳥じみた雄叫びをあげていた。
ならば彼奴らが召喚・使役する軍勢は、もはやレミングスめいた殺意の群れだ。
もともと生命が存在しない幻の獣たちに、およそ自滅への恐怖はない。
大地を削り取り、大気すらも灼き焦がすような攻勢に真正面から突き進み、
砕け散った仲間の残骸を盾とし足場とし、無理矢理に押し切って聖地を目指す。
この戦いに大義はない。あったとして、それを重んずるような能が奴らにはない。
あまりにも狂っていた。尋常の軍勢ならば、相対してはならぬ暴威である。
――が。
ガリガリガリガリガリガリ!! と、凍った地面を削り取る黒き大河。
否、それは血を呑み啜り肥え太った、おぞましき百足の胴体であった。
蠢くいくつもの足が永久凍土を踏み鳴らし、獲物を踏み潰して轢殺粉砕する。
巨大すぎる。その全長、頭頂から尾先までは500メートルをとっくに超えているか。
S字にうねりながら常に蠢いているために正確な全長は測定不能だが、
そんなサイズの巨躯が、全身の筋肉を躍動して動き回ればどうなるか。
文字通りの蹂躙である。影の如き身の裡に、虚無じみた目の青年がいた。
「ただ狂って生命"如き"を棄てたぐらいで、俺たちに勝てると思っているのか?
そんな戦い方は、あいにく俺は嫌というほどやっている――前提ですらない」
自己破滅願望を薪として燃やし、玉砕前提のような前のめりの戦いを選ぶ要には、
その狂信は脅威としては映っていなかった。
本当に、己を顧みず闘うとはどういうことなのか。
狂気のように敵を蹂躙し、すべてを食らいつくすとはどういうことなのか。
雷鳴を響かせながら地を滑る大百足の暴威が、それを知らしめている。
『な、なんだこれは、なんだこいつは!?』
「わからんだろうな。分かる必要もない。害意と嫌悪に呑まれて毒の露となれ」
狂乱の声もろとも、軍勢を大百足が飲み込み、その身の血を濃くする。
足のように突き出てうねるのは影の業。その攻撃に、防御に死角はない。
その頭上を疾風のように駆け巡り、時折地面に"着弾"する光があった。
然り。その身を纏う黄色の電脳鎧は、太陽か流星のようにまばゆく光を放つ。
リカィである。一撃ごとに、己がもたらした威力によって加速されて疾さを得る。
「遅い遅い遅い、遅いッ! 邪竜のしもべが聞いて呆れるわね!!
アタシが神として裁定を下してあげるわ。全員失格(ゲームオーバー)よ!」
ドウ、ドウドウドウドウッ!! ガガガガガッ!!
鋭角的な蹴撃は着弾のたびに放射状の衝撃波を撒き散らす。
爆発的に増大したスピードは、もはや音を越えて視覚を凌駕していた。
パストールの群れは術式を編み上げ、これをなんとか拘束しようとするが、
そもそも五感を使ってその姿を捉えようとしている時点で、後手も後手である。
己を絡め取ろうとするリボンをあざ笑うようにすり抜けて、神たる少女は叫んだ。
「アクセルを解き放て、ブレーキを踏み潰せ。ゲイムはまだまだ続くわよォ!!」
大百足をせき止めようとする敵を念入りに踏み潰し、加速に加速を重ねる。
疾すぎる攻勢は、むしろ追いつこうとする敵の術式を敵軍そのものに絡みつかせ、
おたおたと右往左往する愚か者どもを一瞬にして消し飛ばした。
「こんな雑魚をいくら消し飛ばしたところで、スコアアタックにもならないわ!
出てくるならさっさと出てきなさい、氷皇竜! アタシが相手になるわよッ!」
勇ましき不敵な挑発は、はたして空を木霊して睥睨する竜にまで届いたか。
呼応するように、第三の波が地平線を埋め尽くす。リカィは喉を鳴らして笑った。
「おかわりが来たわよ、どうする!?」
「決まってる。全員蹂躙するだけだ」
百足が鎌首をもたげる。疾風と化した少女がその速度を重ねて舞う。
これはまだ始まりに過ぎない――万の軍勢であろうと、ふたりは全て砕くだろう。
そのためにこそ、ふたりはこの凍土へやってきたのだから!
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴィクティム・ウィンターミュート
最初に言ったことを現実にしてやるよ
「誰も犠牲にせずに勝つ」
これまでの時間のおかげで、味方の力量は知れてる
何に秀で、何が苦手で、どれだけ走れるか。スタミナは?命中精度は?パワーは?スピードは?魔力は?──全部把握してる
故に、最高効率の指揮が可能なんだ
体力の多い連中は「引き撃ち」で戦え
向こうの攻めっ気を利用して罠に【おびき寄せろ】
魔法を使えるなら魔方陣で魔力チャージ、大火力で群れを潰せ
第一陣、治癒と強化を受け取る為下がれ
第二陣は盾で圧しつつ前線上げろ
いいか?最高の指揮は戦意を向上させ、余裕を生む
逆に向こうはどうだ?焦りが募り、連携が乱れる
司令官の格一つで、勝敗は決まるんだよ
覚えておけ、スクィッシー
ヌル・リリファ
アドリブ連携歓迎です
周囲のものから軍勢をつくれるなら、術者を直接たたかないとだめそうだね。
右眼で戦場を把握して(【視力】)、あぶなさそうな場所があれば武器をとばすかアイギスをなげて【かばい】つつ、のこった武器で相手をできるかぎりつぶしていく。術者本体への攻撃を優先するよ。
攻撃はされるまえにつえを破壊するかはじきとばす。
それでもまにあわなかったらシールドを展開、【盾受け】で対処。
わたしはほのおではだがこげてもそこまで深刻なダメージになるわけじゃなしなおせるけど(【火炎耐性】)、まだこのあと竜がくるから回復で余計な魔力をつかいたくないからね。
……貴方達にここのひとたちの大事なものはわたさないから。
リア・ファル
SPD
アドリブ共闘歓迎
さて知り合いはいるかな?
防衛戦ならボクもできることがあるさ
少しお節介を焼こうじゃないか
「やあどうも。素敵な差し入れの配達だよ?」
UC【神出鬼没の緊急配送】で登場
相手に合わせたスペシャル物資でケアを
「視力」や「情報収集」結果を用いて、
「拠点防御」、指揮情報伝達後方支援を行う
イルダーナもあるから「逃げ足」迅速安全、裏方もバッチリさ
必要なら「時間稼ぎ」「救助活動」「運搬」で立ち回りつつ
「医術」「全力魔法」で治癒サポート
「鼓舞」と「優しさ」で皆を励ませれば上出来かな
「それじゃあ、もうひとふんばり追い返そうか!」
鳴宮・匡
折角遮蔽があるんだ、活用させてもらいつつ交戦を
どの術をどういう場面で使用してくるのか
予備動作や詠唱はあるか
どの程度の射程があって、どういう軌道を描くのか
それらを読み取って回避の助けにする
似たような個体なら癖も酷似してるだろうから
一度に得られる情報量もそれだけ多い
群で来てくれるのはありがたくすらある
周囲で戦うエルフたちにも注意喚起し
敵の術を撃ち落とす、敵の足を縫い留める
攻撃手段を奪うなどで援護
全て俺たちの手で済ませてしまうのは簡単だけど
“守る”という彼らを、手伝うと約束したのだから
勿論、彼らにはどうにもならない事態や
命の危険があるような状況ならば
敵の排除に是非はない
散々視てるんだ、外しやしないさ
●聖地での戦い:そこに狂熱はなく
「ハッ! なんだありゃあ。"軍勢"なんて言葉をくれてやるにゃ有象無象すぎる。
統制もない。戦略もない。勢いに任せてぶつかる、流れる川みたいなもんだぜ」
敵味方、双方ともに雄叫び木霊する戦場を、冷笑的に見下ろす少年がいた。
ヴィクティム・ウィンターミュートの言葉には、敵への哀れみすら籠もっている。
無理もない。なにせ彼はこれまで、数多の戦場を駆け抜けてきたのだ。
猟兵となる以前からも、生き延びるために影の世界を疾走(ラン)してきた。
取りうる手の全てを使って、泥を啜ってでも生き延びようとする敵を踏みつけ、
ラクダが通るほどの大きさもない針の穴をくぐり抜けるかのように、
誰も価値をつけちゃくれない生命を抱えて生き延びてきたのだ。
もはや生命を賭したあのエンパイアウォーも遠いかのように思えるが、
それに比べれば、この永久凍土のぶつかり合いのなんといじましいことか。
「相変わらず"チル"だね、ヴィクティムさん! はい、お届け物っ」
そんなヴィクティムの隣に、閃光とともにリア・ファルが姿を表した。
愛機イルダーナに跨るリアは、ユーベルコードによって空間跳躍を可能とする。
だがその言葉と裏腹に、ヴィクティムにくれてやるようなアイテムはない。
ちらりと、電脳のハッカーがそちらを見た。"受け渡し"はそれで十分なのだ。
「Thx、"受け取った"ぜ。これで十分だ――敵の力量も理解(ワカ)ってきてる」
「それならなにより。じゃ、次の配達に行ってくるね、バーイ!」
リアの姿が電脳化されて消える。ヴィクティムのサイバネアイが戦場を見た。
その瞳には、常人が知覚できる情報の数百倍以上のストリームが流れている。
リアがもたらしたのは、彼女が転移とともに集めてきた、敵味方の"情報"である。
熟れた果実のようなそれを電脳魔術によって受け取り、咀嚼し、体得した。
スーパーコンピュータですら耐えきれずに爆発四散するような情報演算を、
ヴィクティムは汗一つかかずにリアルタイムにこなし、戦場に反映する。
十分な時間があった。この戦場に馳せ参じた猟兵すべての力量を把握し、
肩を並べるエルフの戦士そのひとりひとりの戦い方を把握するだけの時間が。
何に秀で、
何が苦手で、
どれだけ走れるか。
持久力(スタミナ)は?
命中精度(アジリティ)は?
膂力(パワー)は?
速度(スピード)は?
魔力、精神力、耐久力、恐怖耐性、はたまた呪詛や毒への抵抗力――。
すべてわかる。脈拍も、視線の行き先も、狙いも、思考も、何もかも。
チェス盤だ。コンマ秒ごとに変わる戦局をも、盤面のように見下ろしている。
「お前ら、聞こえてるな? ――ラァルにも言ったことだが、これは"証明"だ。
"誰も犠牲に勝つ"っていう解を弾き出すための、簡単な証明式さ」
用いる数字は敵味方の存在そのもの。
演算するのはカウボーイ。それを実証するのはすべての戦士たちである。
「やってやろうぜ。俺たちなら出来る――だから従え、端役(オレ)の指示に!」
01のストリームが電脳を駆け抜ける。最高(ウィズ)なハッカーズハイがキた。
ヴィクティムは両手を広げて高笑いする。まるで聖者のように!
その神のごとき視点とリンクした空色の瞳が、ぱちぱちと瞬いた。
常に送り込まれる情報を受け止め、中継点として働くのはヌル・リリファの右眼。
ヴィクティムを司令塔とすると、いまの彼女は情報ストリームの"ハブ"である。
視覚から得られた情報を電脳魔術によってヴィクティムへと送り届け、
いくつもの指示をリレイされればそれを各所へ伝達し、また自らも演算する。
銀髪をなびかせ、人形少女は凍土に舞う。きめ細やかな風花がそのあとに続いた。
空中を撫でる指先の軌跡から、いくつもの光の剣矛が生まれて降り注ぐ。
狙いは付ける必要がない。雪崩れこんでくる敵があまりにも多すぎるからだ。
『敵だ! 縛り付けて焼き殺せッ!』
「無駄だよ。そんなみえすいた攻撃に、わたしがとらえられるわけないもの」
端的な言葉は、厳然たる真実をそのまま伝えてやった慈悲でしかない。
最高の性能を求められた人形は、ありのままの能力を発揮して必然を掴む。
すなわち、のたうつ蛇の群れのような焔の織を軽々と躱し、幻の軍勢を貫き、
横列を組んだパストールの群れの脳天、あるいは胸部を光剣で串刺しにするのだ。
ふわりと着地したヌルに、爬虫類と蟲の混成部隊が襲いかかろうとした。
だが、出来なかった。所詮それは、かりそめの幻でしかない。
砕かれた凍土こそがその正体であり、かけらはばらばらと四方に散って転がる。
「……魔力、このちょうしならもちそうかな。むだづかい、したくないな」
ヌルが懸念するのは、どれだけリソースをペース配分していくかということだけ。
敗北など考慮するにも値しない。この戦い、猟兵と戦士たちの勝利は前提である。
「っとぉ、お疲れヌルさん! キミの隣にDag's@Cauldron、ただいま到着っ!」
「リアさん。うん、だいじょうぶ。わたしはつかれたりしないから」
「あはは、そうだったね。けど無理はしないように、っとね!」
ヌルの右眼がかすかに輝き、転移してきたリアの電脳と一瞬だけリンクした。
人形少女が演算・予測したデータが、新たなストリームの枝葉に乗る。
その瞬間、リアは交換としてヌルのサイキックエナジー集積体に、
亜空間から汲み上げた電脳のエネルギーを幾分か送り込み、彼女のリソースを補填。
「ヴィクティムさんもヌルさんも、あんまり物量で戦うタイプじゃないからねぇ。
ボクとしては持ち運びがラクでいいんだけど、不思議な気分になったりするんだ」
「リアさんはバーチャルキャラクターなのに、そうなの?」
「……言われてみればそうだ。ボクもそれだけ物質界(こっち)に慣れたのかなぁ」
あはは、と世間話のように笑って、リアはイルダーナのエンジンを吹かした。
形なき電脳のデータやエネルギー体ですら、Dag's@Cauldronの取り扱う"商品"だ。
もちろん、あちこちの防衛陣地を維持する戦士たちに物資を届け、
常に最善の防御を維持することも彼女の仕事のひとつである。
最前線の猟兵たちが、後ろを顧みることなく前へ突き進むことが出来るのも、
リアのような裏方が聖地を駆けずり回っているおかげだろう。
現代で喩えるならば、インフラを維持するためのエンジニアといったところか。
「じゃあ次のところへ行ってくるよ。何かお届けものはある?」
「だいじょうぶ。まだ戦いつづくし、敵を殺してまわるのがわたしの仕事だから」
「ん、了解。無茶はしないようにね!」
リアの体がイルダーナごとワイヤフレーム状に分解され、消失した。
光の雨によって生まれた空白に、新たな敵の群れが濁流めいて雪崩込む。
「――あなたたちに、ここのひとたちの"大事なもの"はわたさないよ。
だから全員、しんでね。そのつもりでかかってきてるんだから、当然だよね」
ヌルの攻勢に慈悲はない。敵にかける慈悲など、完璧なる人形には存在しない。
そして再び、幻影をも切り裂く光の雨が、凍土に突き刺さり敵を串刺しにした。
目に見えない情報の流れ……それそのものを彼は"視る"ことは出来ない。
なぜなら彼は、あくまで五感がずば抜けて秀でた"だけ"の人間だからだ。
……人間。そう、そのカタチ、生態、機能はあくまでも人間の範疇にある。
だが、彼は――鳴宮・匡は、自己をそうとは認識していない。
認識出来ない。そのために必要なものの多くを、彼は沈め棄ててきた。
皮肉なことに、そんな自己認識を悪魔じみた鋭敏感覚と脳処理力が肯定する。
電脳魔術が運ぶ情報網の輝き、それ自体を視覚で捉えられずとも、
その情報に従って動く人々――および敵の群れ――の"結果"ははっきりと感じる。
どこを向き、
何を見て、
何を狙い、
どう動き、
走り、
飛び、
構え、
武器を振るい、
何を叫んで、
どのように意思疎通し、
どれほどの力と速度で戦うのか。
現実に起こる物理現象は、紐解いて言えば那由多の如き情報の濁流だ。
それを匡は知覚する。出来てしまう。だから彼にも、視えているのは同然だった。
『ポイントT-7に獲物が命中(ヒット)した。ルート228を経由してくれ』
「了解。途中でエルフの援護に入るよ。そっちの援軍はいい」
『アイアイ、サー』
ヴィクティムとの通信は最低限、かつ最速だ。音声情報は電脳で伝達される。
思考速度をさらに切り詰めた意思疎通をナノセコンド単位で完了させ、
止まることなく影から影を走る匡の瞳に、死神じみた青ざめた光が垣間見えた。
それはヒトの瞳である。だが映し出すものは、ヒトが捉えてはいけないものだ。
だから彼は、自分をヒトだとは思えない。ヒトならざるものだと認識する。
世界は認識で構成される。死を映す瞳は、その意志のままに世界を見せる。
BRATATATA。物陰から飛び出すと同時にコンパクトな三点バースト。
エルフの友軍小隊に飛びかかったドレイクを的確に射殺し、パストールを射止めた。
命中(ヒット)。たたらを踏んだ敵は仕掛けられていた地雷を踏む。KBAM。
「術者は15メートル――いや、20メートル先だ。いまの煙のところにいる」
任せたぜ、と言葉を残し、匡は冷たい風のように斜面を駆け下りた。
そこへ並走する虫の群れが、おそらくは強い毒素を孕んだ小針を放つ。
匡は避けない。軌道上に最適な遮蔽があることを彼は識っている。針は防がれた。
『物資は必要か? リアのジャンプポイントがそのへんにあるだろ』
「こっちでコンタクトするよ。K-9の敵は排除。次はどこに行けばいい?」
『そこで第一陣の撤退を支援してくれ。治療のために戦線を引き上げる』
「――守れってことか。わかった」
リロード。コリオリ効果を計算に入れた上で山なりの偏差射撃を見舞った。
斜面を駆け上がり撤退する友軍、その頭上を飛び越えて弾丸が風を切り裂く。
ヒット。斜め上からの奇襲じみた射撃に、パストール四体が脳天を貫かれ絶命。
「感謝する、冒険者よ! 氷と武勇にかけて!」
「――ああ」
すれ違いざま、傷ついたエルフの戦士が祈りの言葉を投げかけた。
匡はマガジンを手に軽く腕をあげて、一見無興味そうにそれに応じる。
どうでもいい、と感じているわけではない。ただ彼らを視るわけにはいかない。
死を映し捉えるその瞳が、眼差しが、彼らの生命を奪いそうな気がしたのだ。
(迷信だな。けど、このほうがいい)
彼らの血潮が、誇りに生命を賭ける生き様は、青ざめた瞳には眩しかった。
きらきらと散る風花に、戦士たちのかんばせと背中が映り込む。
(俺はこれで十分だよ)
その鏡像を見た。今ここは戦場であり、彼らの背中を守ることが任務だ。
ならば、魔眼が射すくめるべきは、倒れた敵を踏みしめて来る新たな群れ。
BRATATATA。駆け込んできた敵軍に狙いすました予測射撃、ヒット。
「ハロー、匡さん! 弾薬お届け、ナイスタイミングでしょ?」
パッと真横にリアが出現し、弾薬入りのボックスを岩陰にシュートした。
「ああ、助かるよ。ヴィクティムが指示してくれたのか?」
「それもあるけど、匡さんとは付き合いも長いからね。このくらいは朝飯前だよ」
にこりと朗らかな笑みを浮かべるリアに、一瞬だけ匡は目を向けた。
――戦いばかりの生だが、それでもすべてが無意味だったわけではない。
空色の瞳をした人形の少女が光を生み出し、敵を貫くさまが肌で感じられる。
全軍に指示を飛ばし、戦場という盤面を操る戦友の舌鋒が耳に届く。
『敵は焦ってるぜ! 術師隊、砲撃開始だ! ありったけの火力で薙ぎ払え!』
『あわせるよ。反撃はアイギスでうけとめるね』
空中に火球がいくつも生まれ、いじましき敵の拘束魔術を飲み込み焼け焦げる。
焔の中から飛び出した燃え上がる虫の群れは、光の盾に阻まれた。
エルフたちの歓声が、山肌をびりびりと震わせて聖地に木霊する。
「――なあ、リア」
「ん? なんだい匡さん、まだ必要な物資あった?」
「いや」
言葉を短く切り、匡は言った。
「……守るっていう戦い方は、まだまだ難しくてさ」
「"これ"で合ってるんじゃないかな。それに戦ってるのは匡さんだけじゃないから」
電影の少女は微笑んで、イルダーナのスロットルを開いた。
「まだまだ踏ん張って追い返していこう! 伝達事項とかあるかな!」
「…………いいや。銃(これ)でそのぶんをこなすよ」
ジャコッ、とスライドを引いてみせた匡に対し、リアは頷いた。
弾薬(さつい)が装填される。匡は視線を外し、再び戦場へと目を向けた。
(俺に出来るのは、このくらいだから――今は、まだ)
垣間見えた蒼に、少しだけ光が視えた。
かくして、聖地を舞台とした戦いは、相変わらず猟兵たちの優位で続く。
誰一人犠牲とすることなく。負傷はすれど、寄せては返す波は被害を許さない。
「どうだ? お前の下僕はごらんのざまだぜ。こいつが司令官の格の違いさ」
ヴィクティムは遠い空を見た。たしかに、そこから龍の凝視が感じられる。
届いているだろう。問うまでもない。不敵に笑い、首を傾げてみせた。
端役の両足を支えるのは、増幅された勝利に対する飽くなき欲求。
戦士たちはそれに心を震わせる。心地よい高揚が鋼の体を駆け巡る。
――ああ、やはりいい。勝利を求めることこそ、己らしい戦い方なのだ。
「覚えておけ、蜥蜴野郎(スクィッシー)。俺は龍の尾だってくすぐるのさ」
もはやストリートの警句など、冬の静寂に愛されしカウボーイには関係ない。
戦局は、その意のままに推移していく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
非在・究子
ま、まずは、雑魚との大規模バトル、だな。
こ、こっちの準備は、万端とは言え……あ、相手は、オブリビオン、だし、な。
え、NPC達には、十分以上の、脅威、だよな。
……こ、ここは、サポートに、徹すると、しよう。せ、せいぜい、NPCの、生存スコアを、稼がせて、貰う、ぞ。
ゆ、UCの力で、一定範囲の、戦場を、支配下に、おいて、改変する。た、タワーディフェンスゲームの、始まり、だ。
(起動したゲーム機の中には、現実の戦場が映し出され)
せ、戦場を、俯瞰しつつ、押されてる、所に、と、トラップや、自動攻撃する、バリスタ・砲台、防御用の、バリケードなんかを、追加していく、ぞ。
ぐ、ぐひひっ。た、楽しませて、貰うぞ。
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
備える時間が十分あったのは幸いだったわねぇ。
〇罠使いでフルに〇地形の利用して、全力で〇破壊工作仕掛けられたわぁ。
落とし穴・マイントラップ・武装召喚etc、思いついたのは片っ端から仕掛けたし。○拠点防御の準備は十分ねぇ。
むこうの雑兵はあのリザードマンたちが幻影で作ってるのよねぇ?
なら…そいつらを潰せば、その分の雑魚は減るのよねぇ?
○先制攻撃の●射殺で○暗殺仕掛けるわぁ。
首狩り戦術はこういう場合の常套手段でしょ?
わざわざ防衛陣地に平押しかけてきてくれてるんだもの。狙わないほうが損よねぇ。
あんたたち前座なんかに手間取ってられないの。
邪魔なんだからとっととブッ潰れなさいな。
●コマンダー&アサッシン
ワイヤフレーム状格子模様が風船のように膨れ上がり、地を染めた。
それは電脳魔術によって生み出された、空間そのものを書き換える術式だ。
たちまち、凍りついた凍土のすべてはドット模様めいて戯画化され、形を変える。
つまり――いかにも"ゲームめいた"風景に早変わりした、というわけだ。
「ぐ、ぐひひっ。た、タワーディフェンスなら、やり飽きてるから、な」
その術式の中心に在るのは、バトルゲーマーである非在・究子。
認識の歪によってあらゆる空間や物体を"ゲームナイズ"してしまう彼女の力は、
およそ50メートル強の範囲内にまで作用することが可能だ。
究子が携帯ゲーム機を起動すると、そこにはまさしく現実の戦場が表示される。
そこへ押し寄せる無数の大群。彼女が担当しているのは聖地の"向こう側"だ。
「て、敵が、一方向だけから攻め込んでくるわけは、な、ないもん、な。
で、でも、来る方向がわかっているなら……ぐひひ、あとはこっちのもの、だ」
設営された防御陣地が、究子の"操作"によって投石機だのレーザー発射台だの、
時代もテクノロジーレベルもちぐはぐな『防衛施設』に変化していく。
のっぺりとしたいかにもモブらしい"キャラクター"が防衛施設に詰めかけると、
弾丸を装填して、迫りくる軍勢に対し矢や石、あるいは弾丸で攻撃を始めた。
よくあるタワーディフェンスゲームのゲーム画面によく似た……いや、
現実に起きているのはまさに"それ"だ。ちなみに、お金も入ってくる。
「き、きちんと設備のアップグレードもしておかないと、押し負けそうだ、な。
ふひ、ふひひ……け、けどこれも、けっこう楽しいぞ。バリケードも、設置だ」
よだれを垂らして暴れまわるドレイクも、
鋭利な爪を振り回すマンティスも、
毒針を備えた羽虫の群れですら、
究子が支配した空間のなかでは『ゲームキャラクター』として扱われる。
倒すたびに、なにやらお金のようなアイコンの隣で、数字が増え続けていた。
どうもリソースまで溜められるらしい。無駄に本格派なユーベルコードだ。
「あの様子なら、雑魚の方は大丈夫かしらねぇ……」
そんなふざけたような防衛戦を、手でひさしを作って遠くに見やる女。
つまりティオレンシア・シーディアの足元には、パストールの死骸が転がっている。
究子の防衛しているラインとは別のところから忍び込もうとしていた敵を、
音もなく近づいてゼロ距離射撃を仕掛け、見事に"射殺"してみせたというわけだ。
本来であればもっと遠くからスナイプ出来るが、あえて接近したのは、
敵の出方と"術師を殺すことで配下を消せるかどうか"を試すためである。
そしてティオレンシアの推測通り、パストールを抹殺したことによって、
彼女を包囲しつつあった幻の軍勢は、すべてみなかき消えた。
「……けどまあ、そこは相手も織り込み済みよねぇ。面倒だわぁ」
ティオレンシアがゼロ距離射撃を試みたのは、パストールの警戒もあった。
敵は遠距離からの魔術的・物理的な攻撃に対し、"肉の壁"で己を囲んでいたのだ。
しかしこうしてその一部隊を仕留めたことで、相手の練度と構成は見えた。
ならば、やりようはある。聖地の山腹からは仲間からの情報も逐次伝達され、
全体的にどのようにして行動すべきかがリアルタイムで指示されてくる。
「こっちはねぇ、籠城戦とか防衛戦とか、職業柄いつだって備えてるのよぉ。
トラップ仕掛ける時間もあったしぃ? あたし以外の面子もたくさん居るしぃ」
銃弾をリロード。遠くに見えた一群めがけ、神業じみたスナイプを放つ。
今の射撃で敵はこちらの存在に気づいた。一目散に攻め込んでくるだろう。
だが、それでいい。ティオレンシアは射撃直後に駆け出し、凍土の寒波に紛れた。
奴らが今さっきまで居たところに来たところで、備え付けの罠が出迎えるだけ。
「狂信者かなんだか知らないけどぉ、踏んできた場数と意識が違うのよねぇ。
――前座はとっととブッ潰れなさいな。あたしたちの目的は、アンタじゃないの」
猿(ましら)めいて軽やかに山腹を駆け上がり、ひときわ高い岩陰に滑り込む。
ダン! と地面を踏みつけると、雪のなかに隠されたクロスボウが浮き上がった!
ティオレンシアはそれを掴み取り、腹ばいにしゃがみ込むと同時に射撃を開始。
パシュウ――KA-BOOM!! 地平線の彼方で特殊グレネード弾が爆裂した!
ティオレンシアと究子の"防衛戦"のスタイルはまるで異なっていたが、
ふたりはある点で共通していた。
それは、フォーメナー族の戦士たちには、誰一人として手出しさせなかったこと。
「え、NPCの生存スコアは、で、デカいからな」
などと究子は言っているが、まあ彼女なりの思いやりといったところか。
ティオレンシアの方は、戦術的判断からそうしたまでのようだが。
(交戦領域に入る前に狙撃しちゃえばぁ、仲間の被害を考える必要もないわよねぇ。
あっちのほうでみんなが暴れてくれてるおかげでぇ、やりたい放題だわぁ)
女だてらにフィクサーを営んでいるわけではないのだ。
ゲーマーとガンナー。心構えもやり方もまったく異なるが、狙いは同じ。
誰一人として殺させることなく、足を踏み入れさせることすらせずに敵を殺す。
すべて。なにせこれは前哨戦に過ぎない。
「ぐひひひっ、た、他愛もないな!」
「格の違いってやつを見せつけてあげるわぁ――代金は生命でいいわよぉ」
そして互いにプロフェッショナルであることも、また共通していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
三咲・織愛
ラァルさん達の大切な地をむざむざと奪われる訳には参りません
誇り高き方々のため、私に出来ることがあるのなら
共に槍を振るうのみです
この凍てついた地でなお、燃え上がるような輝きを示す名を持つ人……
同じ戦場に立つのならば、私も示してみせましょう
折れない、負けない、生きるための戦う姿を!
覚悟を胸に、ノクティスと共に戦場を駆けます
敵の攻撃は見切り、武器受けを駆使し間合いを詰め
時間を掛けない、一敵一撃、急所の串刺しを狙いましょう
駆ける先にいる敵には槍を投げ回収しながら進みます
無手を見せてトラップまでの誘い込みも狙います
リボンは見切ってカウンターの叩き込みを。捉えられUCを封じられたら顔面を怪力で殴ります
●ひとりのエルフとして
対する敵本隊に面した山腹では、敵味方を問わず怒号が荒れ狂っていた。
超大量の軍勢と、白兵戦を恐れぬ戦士&猟兵のぶつかり合いである。
狂信と誇り。破壊と守護。相反するアイデンティティの激突。
それはすなわち、永久凍土を焦がすほどの死闘となって現出した。
「どれだけ数を揃えようと、無駄です! 退(ど)きなさいっ!!」
その狂乱の戦場を、三咲・織愛は風のように疾く、激流のように力強く駆ける。
相棒である藍龍ノクティスが変じた龍槍を握りしめ、棍めいて振り回し、
襲い来る獣の牙を弾いてその腹を串刺しにする。
降り注ぐ血を拭うこともせずに、次の獲物へ。鬼神の如き槍働きだ。
「戦士たちよ! 同胞を旗印に進め、進めッ!」
そのすぐあとを、"寒極の"ラァルが続き、雄々しき号令で友軍を指揮した。
織愛が道を切り開き、そのあとを戦士たちが雪崩込んで道に変えるのだ。
「ラァルさん! ここは私ひとりでも――」
「見損なってくれるなよ、同胞の娘よ! 戦場、そして戦士に貴賤はなし!
貴様が我らととともに戦ってくれるならば、我らもまた貴様と肩を並べるのだ!」
身の丈を越える機械な巨大昆虫を薙ぎ払い、たくましきエルフの男は笑った。
織愛はきょとんとしたあと、こくりと頷いて表情を引き締める。
(そうだ。私だけ前に出ても、この戦いには意味はない――)
たしかに猟兵たちの実力ならば、フォーメナー族の支援がなくとも勝てるだろう。
だがそれは、"共に戦う"という選択にふさわしい結果ではない。
結果として何を為すか、何を得るか……それだけではなく、どう戦うか。
どんな道筋を歩むか、その過程にこそ、物事の本質はあるはずなのだ。
『死ねぇっ、猟兵めぇ!!』
そこへパストールの拘束リボン! 織愛はコマめいて回転しながら身を沈めた!
頭のすぐ上すれすれをかすめながら、織愛は敵が仰天した隙に大きく踏み込む。
ばきりと永久凍土が罅割れ、クモの巣状のヒビを描くほどの踏み込みだ。
「はぁああっ!」
その反発力でロケットのように跳躍前進した織愛は、速度を乗せた刺突を一撃。
逃れようとしたパストールは胸部を貫かれ、血反吐を吐いてうなだれる。
織愛は串刺しにしたパストールの死体を遠心力で敵陣の中央へ叩きつけ、
足並みが乱れた同族個体めがけてノクティスを投擲した!
「いい前のめりさだ! 貴様ならばこの凍土でも生きていけるであろうよ!」
「寒いのは苦手ですが、そう言って頂けるのは嬉しいです、ねっ!」
莞爾と笑うラァルの称賛に笑顔で応えながら、織愛は龍槍を引き抜き回収した。
そこへ飛びかかる獣は、寒極の名を持つ男の切り上げによって両断される。
『あの小娘から殺せ! 術式を封じればただの女だ!』
「――見くびられたものですね。なら、証明してさしあげましょうか?」
『は? 何を――ごぶっ!?』
己を取り囲んだパストールどもの顔面に、織愛は鉄拳を叩き込んだ。
瞬きのうちに四のストレート! 蜥蜴人どもの頭部は花開くように爆ぜた!
「私は、ノクティスがいなくたって戦えるんですよっ!」
むんっと握り拳を見せて勝ち誇る織愛。少女は、共に戦う仲間たちを見やる。
「――けど、ノクティスや皆さんがいてくれるなら、もっともっと戦えます!」
少女の言葉は、奮戦する戦士たちを鼓舞するなによりの賦活剤となった。
その歩みを先触れとして、防衛軍はさらなる猛攻を耐え凌ぐ!
成功
🔵🔵🔴
ジョルジオ・サニーウィッキー
※連携アドリブ大歓迎
仕込みいっぱいの防衛線!いたずら心を刺激してくれちゃうねーッ!
せっかく作ったんだ、使えるだけ使わなくっちゃな~!
〈コミュ力、存在感〉で敵連中を煽る!虫の軍勢が言葉理解できるかはわからんが、術者のパストール達を重点的に煽ればまあ軍勢をこっちに向けてくれるだろ!
追ってきた奴らを罠に出来るだけかけて、消耗させることが主な対処だな。
もちろん罠を多く使うからには~…こっちで次の罠を補充してくぜ!
【工作神の端材】発現!聖痕がぴかぴか光ると共に、150本!の光の柱を出現させ、新しい柵、進軍を止める壁、ついでに炎のカーテンの防御…
創意工夫こそ工作神への奉納品ってな!
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
フォーメナー族と猟兵の共闘だなんてわくわくしちゃう
部外者である私達の言葉を受け入れるのは、簡単なことじゃなかったよね
ラァルさん達の気持ちに応えなくちゃ
魔力を高める魔法陣を活かしていこう
ヨハン、全力でお願いね
トラップのある場所は頭に入ってるから
そこに誘導するように私が攻撃を仕掛けるよ
罠にかかった奴らを一気に仕留めちゃって!
言葉には出したくないけれど、元々は魔術士の家系
この槍術は魔術を融合したもの――
魔法陣に力を分けてもらえるのは私も同じ
槍に魔力を纏ったなら一気に前へ
トラップへ追いやるように攻撃を
複数体を巻き込めるようにリーチを活かそう
あとはヨハンがなんとかしてくれるはず!
アテナ・アイリス
まだ本番じゃないから、わたしはサポートに回りましょうか。前は任しても大丈夫そうだしね。
右手に「アーパスブレード」、左手に「フレースヴェルグ・ブラスター」を持って、剣と銃の二刀流で戦うわよ。回りの状況を見て、手助けが必要なところへ移動するわ。近ければ、【武器受け】で危険な攻撃を割り込んで受け止めて、遠ければ、【誘導弾】を撃って牽制して相手をひるませるわ。
パストールが炎の呪文を使おうとした時に、UC『プロテクション・フィールド』を使って、火属性のダメージ無効もしくは大幅軽減する魔法を全員に放つ。
さあ、誰一人として犠牲を出すことなく勝利するわよ。勝利の女神がついているだから絶対大丈夫よ!
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
共闘か
侮り嘲るようなつもりはありませんが、いざという時は助けなければならないんじゃないですかね
そうなると手間が増えて非常に面倒くさいですけど
まぁ……気持ちに応えるというのは悪くない
そんな気分だ
魔法陣を活かさない手はないですね
連携していきましょう。いつも通りに
魔力を練り彼女が誘導するまで待つ
言われなくとも、全力で行くつもりです
少しでも憂いを残すと面倒ですからね
敵の追い込む場が決まっているのなら一点集中だ
広範囲に広げる必要が無い分、力を集中させる
影からの黒刃で四肢を切り裂いてやろう
愚かだな
死地へと追い込まれたと気付けぬままに逝くといい
●聖地防衛:第一次会戦――終着
一説によると、世界史における戦争の実に七割以上が、
宗教的な問題に端を発しているのだという。
国を問わず民族を問わず、信ずるものこそが争いの火種となる。
それは実に愚かで悲しいことだ。だがある意味で必然とも言えよう。
一つ一つの争いの正当性や、いかなるものかという点については、
この場では解像度を高めることなくさておきたい。
重要なのは、"人は信じるもののためならば生命を賭けられる"ということだ。
狂信、とも呼べるだろう。神への、あるいは同じほどに尊ぶ何かへの信心は、
己の生命を焚べ、他者のそれを奪うことへの苦痛と恐怖すら洗い流す。
ではもしも、その崇拝対象が実在するとしたらば、どうだろうか。
寄せ手の生命をも棄てた猛攻は、まさにその問いかけの証左であった。
パストールどもは、誰一人として生き延びることを考えていない。
あるいはその時点で、実力差以前に決着はついていたとも言えるだろう。
『!! ……敵陣が、退いたぞ』
指揮官の座に収まった何体目かのパストールが、呆然と言った。
然り。敵――つまり猟兵とエルフの戦士たち――は突如として前線を退き、
聖地と呼ばれる山麓に撤退を始めた。あまりにも不可解な行動だ。
『我らの君の威風ここにあり! 者ども、かかれぇっ!!』
だが、いかに術を操るとて、所詮彼奴らはオブリビオンである。
龍の威風に恐怖し、畏敬を抱き、己の生命の使い所すら誤ったモノども。
その意図を訝しむより先に、さらなる狂乱と凶気と喜悦をもって雄叫びを上げ、
これ幸いとばかりに一気呵成の大攻勢を賭けた。
もとより、この場を生き延びようという心算は誰にもない。
天敵どもを討てればよし。
それと肩を並べるマンカインドどもを殺せればよし。
蛮勇である。しかし蛮性は、だからこそ油断ならぬ爆発力を持つ。
黒い波濤が、獣と蜥蜴と虫の群れが、凍土を踏み砕き聖地に雪崩込む……!
「……来たか。まさに猪武者とはこのことよ。まこと醜いものなり」
フォーメナー族の音頭を取る男、"寒極の"ラァルが吐き捨てた。
「まあそう言うなって。あんたらとしちゃ業腹かもしれんがね?
これが最適だって、みんなが言うんだ。一網打尽にすりゃいいのさ」
「わかっているとも。いまさら、土足で踏み入る失礼をとやかく言いはすまい」
ジョルジオ・サニーウィッキーの軽口に対し、ラァルは顰め面で頷いた。
思うところがないといえば、嘘になる。だが戦端はすでに開かれたのだ。
猟兵とともに戦うと決めたときから、その覚悟は出来ていた。
「たっぷり仕込んでおいたからねぇ、目にもの見せてやろうじゃないの!
で、終わったらたっぷり酒を浴びようや! 俺の秘蔵のコレクションでなっ」
おちゃらけた赤髪の男の振る舞いは、エルフたちの緊張をほぐした。
この状況にあって、なおもタフな軽口を叩く。ああ、なんという勇ましさ。
ラァルには、フォーメナー族の戦士には、しっかりと分かっているのだ。
彼の――彼らの言葉の裏にある、たしかな誇りと信念が。
――とはいえ、それは自分(おれ)には無縁の話だ。
と、魔法陣の真ん中に佇みながら、ヨハン・グレインは言葉なくして想った。
誇りだの、信念だの、勇気だの。そんな暑苦しいものは、自分にはない。
非才の身であがきにあがき、ようやっと掴み取ったこの魔術。
誇れるようなものでもない、されど己にとっては譲れぬこの闇の力。
彼らのように生命を賭けるような矜持も、胸を張るべきものもないのだ。
(……なんていちいち言っていたら、怒られそうだな)
今まさに、誘い込んだ敵を相手に大立ち回りを繰り広げているであろう恋人、
つまりオルハ・オランシュの様子を思い浮かべ、ヨハンはため息をついた。
そう。ここで猟兵たちが戦線を引き下げたのは、敵を一網打尽にするため。
雪崩込んできた敵を大量の罠にかけて足止めし、一気に殲滅する。
オーソドックスなカウンターだ。しかし相手の数はあまりにもこちらを勝る。
成功させるには、敵を誘導し足止めする前衛の存在が必要不可欠。
オルハはそれを買って出た。そこに、言いたいことがなかったわけではない。
「……手間が増えると面倒なんだよな。誰が傷ついたって手間になるんだ。
けど――いや、だからこそ、そんな手間を起こす前に"やってやる"とするか」
ぽつりとこぼしたつぶやきに応じるかの如く、指輪から闇がこぼれ落ちた。
それはうぞうぞとヨハンの周囲をたゆたい、やがて魔力と混ざり合う。
魔法陣がかすかに輝き、この地の脈と結びついて励起した。
自分に誇りや信念だとか、胸を張るような歴史なんてものはありはしない。
ただ――彼らの想いに応えることは、悪くないことだと思えた。
そんな風に自分を変えてくれた、オルハの気持ちに報いるためにも。
闇の奥。無藍想な瞳が、じっとその時を待ち、見据え続ける。
そして最前線は、地獄じみた有様となっていた。
狂乱の頂点に達したドレイクやマンティス、はたまたスパイダーなどの、
気味の悪い化け物どもがしゅうしゅうと唸りを上げて爪を牙を振るい、
ヒトならぬ異形ゆえの上下左右からの多彩な攻撃で守りを崩そうとする。
「すごい数……っ、けど、悪いね。私たち、これでも歴戦だからっ!」
そんな嵐のような敵の猛攻を、オルハは愛槍ウェイカトリアイナでいなし、
返す刀とばかりに獣や虫の腹を切りつけ、ヒットアンドアウェイで立ち回る。
ばさりと羽ばたいて後退したオルハを追って、ドレイクが雪崩込んだ。
その足元にびきびきと亀裂が走り、巨大な落とし穴の間口が開かれる。
トラップだ。殺意に飢えた獣どもは奈落じみた闇の中へ墜ちていく。
「ふふん、こっちは全部頭に入れてあるんだよ! 足元注意――っと!」
ヒュバッ! と大気を切り裂いて飛来した魔法のリボンを、オルハはかろうじて躱す。
鞭めいて、あるいは意志を持った大蛇のようにうねり追いすがるそれは、
言わずもがなパストールどもが召喚・操作する封呪の戒めである。
「カメレオンみたいな連中ね! そうはさせないわよっ!」
オルハを絡め取ろうと三方から同時に放たれたリボンを、アテナ・アイリスが撃墜した。
右手に握るは、氷めいて透き通りし魔剣"アーパスブレード"。
左手にはプラズマ銃"フレースヴェルグ・ブラスター"を構え、
遠近対応のフレキシブルな二刀流によって敵を迎撃する。
ZAP!! 大気を灼くプラズマ銃の熱線が、パストール隊をめがけて翔んだ。
『障壁を展開せよ! あの程度おそるるに足らず!』
バチバチバチ! 並列励起展開された魔力防御が熱線を阻む!
「鬱陶しいわね……! やっぱり各個撃破は難しいかしら……」
だがこうして断続的な攻撃によって敵の集中をかき乱せば、
あちらが炎の術式を発動することはほとんど出来なくなるだろう。
自分たちの仕事は、とにかく敵を翻弄して奥へ奥へと引き込むこと。
現に、これまでの時間に用意されたトラップによって、敵は数を減らしている。
痺れを切らすのは向こうが早いはずだ。それまで耐え続けなければならない!
だがその時、KRAAAASH!!
二人が遮蔽利用しようとした防御柵が、大蜥蜴の尾によって破壊されたのだ!
「……! どうしよう、退避先を変えなきゃ……!」
「いいえっ、その必要はなさそうよ!」
とっさの判断に迷ったオルハに、アテナは不敵な笑みを浮かべて言った。
すると彼女の言葉を肯定するかのように、空からいくつもの光の柱。
カメラは急速に山麓にズームする。そこには聖印を輝かせるジョルジオ!
「これぞ"工作神の端材(ワークス・ランバー)ってなぁ!
我が知は拙く未熟なれど、神達の御手はここにあり。来たれ巧緻なる骨子よ!」
カツン、カツン! と突き立つ光の柱が、新たな防御柵を生み出す。
それだけではない。オルハとアテナが退避するための防壁を生み出し、
なおも意地汚く飛来するリボンを、あるいは炎の術式をも遮るのだ!
「そうこなくっちゃね! 誰一人として犠牲を出すことなく、勝利する。
それがわたしたちの唯一の勝利よ。これ以上、聖地は汚させないわっ!」
ZAPZAPZAP!! アテナのブラスターからいくつもの光がほとばしる!
だがそれは、敵を灼く熱線ではない。仲間を守る防御障壁なのだ!
「――うん! あとはここで、一瞬でもあいつらを止めれば……っ!」
その障壁による敵の混乱に乗じて、オルハが一気に体の向きを反転させた。
永久凍土をも削り取るような、魔力を乗せた強烈な下段薙ぎ払いを敵陣に撃つ!
SMASH!! 風圧によって舞い上がる風花が、きらきらと合図めいて輝いた!
「ヨハン、ここだよ! 一気にやっちゃって!」
オルハが振り仰いだ先、ふたたび視点がズームして少年を映し出した。
瞑目していたヨハンが目を開くとともに、魔法陣の輝きが最大に昂ぶる。
「言われずとも全力でいきましょう。――いつも通りに、いつも以上に」
"闇"が泡立った。たちまちそれは、雪崩のような波濤へと膨れ上がる。
ヨハンのいる場所から"飛び上がった"それらは、純粋な魔力の塊であり、
同時に獲物をずたずたに切り裂く非物質的な刃の群れだ。
まるで超巨大なアメーバ生命体が獲物を飲み込むかのごとくに、
最大強化された闇の刃の濁流が、立ち往生した敵陣に真上から叩き込まれる!
『そ、空が、暗く……!? う、うおおおおおおっ!!』
指揮官級パストールは吠えた。龍以外に恐れるものなきはずの狂信者が。
その悲鳴すらも飲み込み、闇の刃は術師も蜥蜴も虫も別け隔てなく切り裂く。
精算のときがやってきた。北の焔の戦士たちが鬨の声を上げる!
「我らも続くぞ! 誰一人、侵入者どもを生かして帰すなあっ!」
「「「オオオオオオッ!!」」」
ラァルを先頭とし、闇の刃の着弾点にエルフの戦士たちが雪崩込む。
後衛の放った矢が先触れとなり、生き残った敵を槍が、斧が叩きのめすのだ。
「――ハッ、いいねぇ。猛々しいぜ、それでこそだ!」
そのさまを、聖印を輝かす剽げた男は呵呵と笑って見下ろした。
そしてジョルジオは、弾かれたように氷天の空を睨みつける。
「さあどうする――ご自慢の手勢はご覧の有様だぜ、トカゲちゃんよ。
そろそろ高みの見物はやめて、かかってきな。遊ぼうじゃないか!」
その言葉、驕り高ぶる龍へと届いたことだろう。
かくして第一の戦いは、猟兵と戦士たちの快勝を以て幕を閉じる。
しかし侮るなかれ。ここからが、此度の戦いの本懐なのだ――!
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
第3章 ボス戦
『氷皇竜メルゼギオス』
|
POW : アブソリュート・ゼロ
【物体を一瞬で分子レベルまで氷結させる冷気】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : アイシクル・ミサイル
レベル×5本の【標的を高速追尾する氷結】属性の【鋭く尖った氷の棘】を放つ。
WIZ : アイス・リバイブ
全身を【無限に再生する氷の鎧】で覆い、自身が敵から受けた【負傷を瞬時に回復し更に負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:ハギワラ キョウヘイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ノエル・スカーレット」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●to Ice and Valow/氷と武勇によりて
――不遜、なり。
ばさり、ばさりと威圧的な翼音とともに、"それ"は舞い降りた。
勝利に沸き立っていたフォーメナー族の戦士たちは、みな言葉を失った。
さもあらん。なぜならばそれは、絶対の強者にして抗い得ぬ災厄そのもの。
あらゆる世界の神話において、災いの化身として謳われるもの。
邪竜(ドラゴン)。永劫を閲し、定命を喰らいし傲慢不遜なるもの。
――我が意を阻むこと、我が前に立ちはだかること、我を倒せるとのたまうこと。
――何もかもが不遜である。この"氷皇"を前に、増上慢も甚だしきなり。
氷皇竜メルゼギオス。その威風はあまりにも圧倒的であった。
巨体はゆうに十メートル……いいや、実際に測ればもっと巨大であろう。
音を立てて凍てつく鎧は、無限を形とした、まさに不壊の鎧である。
吐息は万物を凍てつかせ、放たれる棘はなべてを貫き、絶命せしめる。
――定命(モータル)よ。己の分をわきまえぬ人間(マンカインド)どもよ。
――知るがいい。この空の、大地の真なる覇者は誰なのかを。
――その生命を以て、不遜の汚名を浄化せん。
「…………ふざけるな」
金縛りめいた体に活を入れ、ラァルが言った。
「我らの父祖の地を、貴様のように驕り高ぶった魔獣にくれてやるものかッ!!
ああそうとも、今ならばわかるぞ。異郷の冒険者たちよ。貴様らの言葉の意味!」
たしかに我らはこの龍に敵うまい。
全身全霊を懸け、生命を振り絞ったとしても逆襲は出来まい。
だが、それがどうした。
我らはここにいる。お前たちとここに立っている。
「氷と武勇によりて。我らは我らの意志によって武器を執ろう! いざ!!」
呆然としていた戦士たちが、族長の言葉に応じて応、と吠えた。
邪竜は双眸を憎たらしげに細め、そして猟兵たちを睨めつける。
――天敵よ。愚か者に与したゴミどもよ。ならば貴様らも諸共に死ね。
――それが、龍たる我のもたらす裁定である。
己こそが覇者たらんと驕る蜥蜴(ワーム)を、その武勇と技術によって撃ち陥とせ。
氷天に決戦の刻、満ちる。ここが正念場だ!
壥・灰色
勇気あるフォーメナー族の戦士らよ
その氷と武勇に、巨人の加護を捧ぐ
ラァル、照覧あれ
共に戦った魔剣の力を
――無限に再生するらしいな、竜種
ちょうど良かった。あの軟らかいザコ共は、一発二発で壊れてしまう
おまえみたいな、堅くて、手応えのあるサンドバッグが欲しかったんだ
力を以て滅ぼさば、力を以て滅ぼされると知れ
全魔術回路をフル・ドライブ
壊鍵最大出力
反射神経の反応レベルを最大に
筋力を最大限に加速
これぞ魔剣六番器の最大出力
残像を残し、音速を超え、衝撃波を伴い、高速機動
邪竜の前後左右上下
六合より戦槌めいた打撃を叩き込む
負傷に比例して回復せども
それ以上を叩き込む
メルゼギオス
氷は、砕けるが定めだ
ここで……朽ちろ!!
●嚆矢
「"裁定"、か」
傲岸不遜極まる龍の言葉に対し、最初に応えたのは、壥・灰色であった。
「おれたちの運命を、お前が決めると? 決められるとでも云うのか」
龍の双眸は、死人めいて動かぬ灰色の表情と微かな瞳孔の収縮、
そしてその声音から、彼が言わんとしていることを、感情をありありと察した。
――不服か。さもありなん、されど我が宣言が、
「"宣言"? それは違う」
長く響くような龍の言葉を、灰色が遮る。
「お前の台詞は、"譫言(せんげん)"と云うんだ」
おお! なんたる不敵。ドラゴンの言葉をうわ言・戯言であると喝破するとは!
対する氷皇竜は――嗤った。マンカインドの身の丈に合わぬ大言壮語を。
――カ、カカカ、カ! 小さきものよ、巨人にでもなったつもりか!
「よくぞ見抜いた。おれは、"そのもの"だ」
ざしゃり。灰色が足を止める。
「勇気あるフォーメナー族の戦士らよ。そしてその長ラァルよ、照覧あれ。
その氷と武勇に捧ぐは巨人の加護。これこそが、共に戦いし魔剣の力だ」
――こそばゆいわッ!!
龍の咆哮! なおも威風堂々たる灰色に、先制のブレスが迸った!
ボシュウウウ……! と、極低温の冷気を浴びた大気が凍りついて異音を上げる。
世界から善きものを、いのちの暖かさを奪うかのような龍の吐息。しかし!
「――ぬるいな」
見よ! 灰色はそのブレスに、氷の波濤に自らまっすぐ身を投じた!
突き出した拳が凍りつく。だが裡なる撃力が根を張る霜を叩き壊す!
熱いのだ。その拳に込められた力、想い、撃力を回す鼓動は、あまりにも!
絶対零度に等しい龍の吐息ですら、けして凍らせられぬほどに熱く、雄々しい!
おお。さながら、巨大な衝角を得た砕氷船が、永久凍土を割り開くかのごとく、
白煙じみたブレスを拳が叩き割り、接近した灰色の左拳が――KRASH!!
――ガッ!?
十数メートルの龍の巨体が、"ジャブ"の一撃を食らってざりざり跳ね除けられた。
一撃。一撃である。それは灰色にとっては本命のストレートですらない。
――この重さ……! なるほど、巨人を名乗るだけはあるか、だが……。
「ああ、そうとも。この程度は序の口。"だが"よかった」
灰色の双眸が、氷よりもなお冷たく、刃よりも鋭く細められた。
その眼差しが見つめるのは、左拳を叩き込まれたメルゼギオスの胴体である。
並のオブリビオンなら四散して果てたであろう撃力。耐えてみせるは龍の力か。
ぱきぱきと音を立て、その巨体を分厚い氷の無限鎧が覆う……!
「あの軟(やわ)らかい雑魚どもは、一発二発で壊れてしまう。張り合いがない。
おまえみたいな、堅くて、手応えのある木偶(サンドバッグ)が欲しかったんだ」
みしりと。氷が軋むような音を、龍は、戦士たちはたしかに聞いた。
はたしてその力に耐えられず、永久凍土が罅割れたかと誰もが思った。
「……違う」
しかし、ラァルは言った。
「父祖よ。なんたることか……あれは、まさしく巨人ではないか」
戦士としての皮膚感覚が捉えていた。灰色に満ちる強烈な撃力を。
その全身に刻み込まれた魔術回路が全開励起(フル・ドライブ〉したのを。
目に見えぬ力の高まりを。引き絞られた弓弦のごとき、骨肉の軋みを!
「……"壊鍵(ギガース)"、最大出力(リミットオーバー)。
反射神経伝達(ニューロン・リアクティブ・スピード)――最速(アクセル)」
――ボッ!!
海底火山が勢いよく噴き出したかのような、空気の破裂音が響き渡った。
灰色の姿が、消えた。全身の筋力をしなやかに発揮し、バネめいて加速したのだ。
わずか一瞬だけ、何物にも囚われぬ最速の世界へと踏み込んだのだ!
――後ろかッ!!
しかし、その残滓を捉えたるはやはり龍たるものの力か。彼奴は視えていた。
いかにも視えていた。だがその視えたものをこそ、彼奴は疑うべきだった。
「そこに、もうおれはいない」
ドガガガガガッ!! 龍の尾が背後を薙いだ瞬間、突き刺さる六の衝撃!
前・後・左・右・上・下! 遅れて衝撃波が角笛めいて泣き叫ぶ!
――バカ、な……ッ!? 我が、見たのは……残影だと……!?!!?
然り。灰色の姿を捉えはした。しかしそれは"もう駆け抜けたあと"の影。
そして一瞬姿を見せた灰色も、再びスピードの世界に踏み込んでいる。
――小癪なァ……我(ドラゴン)を嘗めるなァ!!
戦鎚の如き六打は氷を砕き、鱗を砕き骨肉を砕いた。だが!
またたく間にヒビは修復され、龍の憤怒(レイジ)が解き放たれる。
ガンッ! ドガンッ!! すさまじい双衝撃が天地を揺らした。対応している!
「半分は見切ったか。褒めてやる」
――ぐ……!?
ズド、ドンッ!! 打ち返した四打と同じ数の衝撃が再び身を砕く!
「覚えておけ、龍よ。力を以て何かを滅ぼそうとすれば――」
――……ガァアアアッ!!
ドウ、ドドドドドウッ!! KRAAASH!! ZZZZZTTTTTT……!!
ぶつかり合う衝撃。拳に、足に、龍の爪と尾と牙と吐息が追いすがる。
そう。メルゼギオスは守勢に回っていた。そうせざるを得ないほどの波濤。
そして彼奴がいなした攻撃の隙間に、灰色の拳は到達し龍の身を砕いている!
「……力を以て滅ぼされると知れ。氷は、砕けるのがさだめだ」
メキメキメキ……バガンッ!! と、耐えきれず凍土が砕け散った。
氷の結晶めいて割れて沈んだ大地。龍の巨体が逃れようと空を舞う。
――否! その摂理をこそ嘲笑うが過去(われら)の業ならば!
ゴバッ!! 瀑布の如き吐息が吹き上がった冷気ごと灰色を襲う!
誰も踏み込めぬ。あまりにも疾すぎる。あまりにも重すぎる!
――自然の法則(ロウ)をも蹂躙しつくそう! 我は龍(おう)なり!
「ならば、その傲岸を砕いてやる。おれは、巨人(ギガース)なのだから」
灰色はこの致命的ブレスを拳圧で叩きのめし、跳んだ。跳躍点破砕!
「ここで朽ちろ――メルゼギオス! ありふれた過去のようにッ!!」
――オオオオオオオオ……ッ!!!
咆哮。激突。炸裂――衝撃!!
かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。龍の苦悶が響き渡る!
大成功
🔵🔵🔵
地鉛・要
【アドリブ可】堕神・リカィと連携
なんか予想以上に小さいな・・・いや、俺よりは確かに大きいんだが・・・
まあ、良い。俺は単純に大百足をぶつけるだけだ
【生命力吸収】と【属性攻撃】で炎を付与して凍らない状態にした大百足を最大サイズで召喚
俺は大百足の中に入らず大百足には拘束及び翻弄、足場を担当させる
巨体での攻撃は洒落に成らないだろうからな
攻撃のの対処も任せた
大百足を足場にして影業と【地形の利用】を使って飛び回るように移動しながら
戦争機構から閃光爆弾と音響爆弾を取り出して目と耳を潰す様に行動
隙を見ては口の中に手榴弾を入れたりして徹底的に動きを阻害
ああ、そういえば知ってるか?大百足の好物は龍なんだぜ?
堕神・リカィ
地鉛・要 (f02609)と連携
「姿を現したわね、魔龍。龍がもたらす裁定ですって?」
笑わせてくれる。龍など所詮、紛い物。裁定を下すのはいつだって
「全なる神と、一なる人よ!」
UC【ホロプシゲイム/Xオーバークロニクル】を発動、これは仲間との絆を具現化するゲイムアーマー、ゆえに
「"コード:要"、【デュプリケイト・ヘカトンケイル】ッ!」
巨大な百足の姿をした武者鎧を呼び出し、アーマーの上から纏う
龍を斬りつけながら、要のムカデと連携して左右から挟み潰す動きを取る
【全力魔法】と【一斉発射】で要の属性攻撃に上乗せ
「ああ、そうだ。センチピードっていうゲームを知ってるかしら?」
※アドリブ歓迎です!
●激突
ごおおおお……ぱち、ぱちぱち……と、呪詛を孕んだ焔が寒気に揺らめく。
おお。呪わしき焔に苛まれながら、苦しげに身を捩るは害意と血に塗れし百足。
古来より極東の国では、百足は妖異のなかでもことさらに強大なものであった。
ある地の山に巣食った大きな百足の悪霊には、龍神すらも手をこまねいたという。
ならば皇帝を僭称する龍に対し、これをあてがう地鉛・要の皮肉は的確か。
常から揺らぐことなき双眸は、常人を萎縮させる龍の威風にも一切慄かない。
――たかが然様な焔で、我の吐息を防げると思うておるのか……小癪!
「ずいぶんと囀るじゃないか。見た目だけじゃなく度胸も小心と見えるな」
舌鋒ここに極まれり。全身を罅割れさせた龍は、怒りと屈辱に震えた。
ごおうっ!! と独楽めいた強烈な回転によって、対峙していた猟兵を退かせ、
ぎろりと要を見下ろす。なんたる凝視。だが男の無表情はやはり虚無のようだ!
そこへ降り注ぐ、巨大な滝のようなすさまじいブレス! 絶対零度の死の吐息!
両者の間に割って入り、これを防いだのは――堕神・リカィである!
「図星を突かれて大慌てかしら!? たかがそんなブレス、ごときで!
アタシを、要を! 凍てつかせられるとは思わないことねッ!!」
かざした手からほとばしる神気が、見えない盾となって白い破滅を退ける。
ならばとメルゼギオスは咆哮し、ハリネズミめいていくつもの氷柱を纏った。
シュパパパパパ――生まれた氷の棘が、ミサイルのように飛来する!
だが、今度こそ大百足の番だ。とぐろを巻き、焔纏う体で氷の槍雨を防御!
「龍など所詮は紛い物。この世界の運命に対し裁定を下し、切り開くのは……、
いつだって全なる神と、一なる人よ。それを知りなさい、傲慢なる過去よ!」
――神? 神だと? 笑止! 人間(マンカインド)風情がよく吠えた!
「信用できないのも無理はない。龍ごときにそこまでの小賢しさは期待してないさ」
要は冷笑すらなく切って捨てると、ちらりとリカィのほうを見やった。
「あいつの動きは俺が防ぐ。デカいのをくれてやってやれ」
「オーケィ、なら力を借りるわよ要。"ホロプシゲイム/Xオーバークロニクル!"」
どがががが……! と大地を砕き震わせながら、大百足が進軍する。
要はその巨体を軽やかに飛び渡り、氷の雨を躱しながら龍の巨体に飛びかかった。
攻守が入れ替わる。片手を掲げたリカィの体を、電脳の魔力が鎧う。その姿は!
まさに龍と組み合い鋏角を鳴らす、あの大百足めいた武者鎧だ。
百輝矢虹――ただ一つとして同じものなき、仲間との絆を汲み上げた夢幻の光。
要との絆を編み上げた形こそが、この百足の武者鎧。すなわち!
「二重百手(デュプリケイト・ヘカトンケイル)! さあ行くわよ!!」
リカィが空中を滑る。まさにその瞬間、龍の尾と大蛇めいた百足が激突した!
KRAAAAAASH!! 大気をもたわませる強烈な衝撃……要の姿はいずこに?
――そこか! このメルゼギオスの死角を突けるとでも思ったか!
背後である! 氷皇龍は、裏拳めいて強靭な爪でその体を掻きむしろうとした。
だが、どれだけ鋭い爪であろうと、風そのものを引き裂くことは出来ぬ。
海を真っ二つに割ることも、山を微塵に砕くことも出来はしない。
泰然自若にして揺れることなき男は、大木じみた爪擊をふわりと回避した。
「なるほど、目と耳はいいらしい。なら――それを潰す」
……KA-BOOM!! 投擲された閃光・音響爆弾が、龍の眼前で炸裂した!
――ぐ、おぉおおオオォオ……!?!?
いかな強健なるドラゴンとて……いや、だからこそか。これは痛烈!
メルゼギオスは両手で顔を覆い、視神経を灼く閃光にのたうち回る!
百足が濡れた布めいて巨体に絡みつき、ちろちろと燃える焔で氷を苛んだ!
「隙だらけね! さっきまでの威勢はどうしたの、ドラゴンッ!」
さながら破城槌じみた、リカィの強烈な斬撃が氷の鎧をざっくりと切り裂く。
血とともに飛沫をあげるのは、無限鎧を構成する冷気そのもの。大気が凍てつく!
――この、程度で……いい気になるなッ!! カァアアアアッ!!!
「悪あがきをする……ッ」
要は一瞬早く攻撃の兆しを読み、百足に拘束を解かせて再び盾とした。
全身に生えた氷の棘が、手榴弾の炸裂めいて全方位に放射される。危険!
「ありがとう、要!」
「役割分担だ。もう少し躾が必要らしいからな」
怒り荒れ狂う龍の顎(あぎと)めがけ、砲丸投げのように爆弾が投げ込まれた。
……KBAM!! 龍の体内で衝撃が炸裂。メルゼギオスが血を吐く!
「知っているか? 百足の好物は――龍なんだぜ」
要の言葉を肯定するかのように、大百足の牙が龍の首筋に食らいついた!
悶絶するメルゼギオス。ダメ押しのリカィの剣が……虹のように燃え上がる!
「食らって味わいなさい。神の一撃をねッ!!」
無限鎧を貫き、鱗を……龍の骨を、肉をも断ち切る強烈な斬撃。
円弧を描いて放たれた光の剣が、盛大な血飛沫を伴い龍を傷つける……!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と
あの高圧的な言葉、気に入らないと思わない?
あいつにとっては、私達なんてすぐ捻り潰せちゃうくらいの弱者なんだろうね
でも、思い通りになんてさせないよ
ラァルさん達を守りながら……ううん
大丈夫だって信じてる!
氷の棘は可能な限り見切りを狙って
難しければ槍で相殺できないか試してみよう
見た目通りの堅さだね……
ヨハン、タイミングを合わせて同じ部位を狙おう
ラァルさんの狙いに私達が合わせるのも有りかも
敵は独りだもの
連携は私達だからこそ成せるもの
この最大の武器を活かしていかなきゃね
ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と
驕り高ぶる者を叩き落すのは楽しそうですよ
高圧的であればある程ね
あの傲慢さが歪むところを見てやりましょう
……信じる信じないの問題ではなく、俺はより効率的に動きたい
彼らへの手助けが必要だと判断したら、すぐに動けるようにはしておく
『焔喚紅』から黒炎を喚び、【全力魔法】と【呪詛】で強化
氷の棘は黒炎で溶かす
溶かし切れずとも勢いを減じさせるくらいは狙おう
負傷が回復されてさらに強化もされるのなら、下手なダメージは敵の助けにしかならないな
彼女の声に応え、狙いを合わせる
片腕を切り落とすだけでもいい
回復する暇さえない速さと力で、滅してみせる
無限に再生されようと、幾度でも鎧を剥いでやる
●龍の傲慢、ヒトの強さ
――小癪。小賢しい。小者どもが……死ねェい!!
猟兵の奮戦により強烈な乱打を受けたメルゼギオスは、怒りの咆哮をあげた。
そして全身にパキパキと氷の棘を生み出し、氷柱めいたそれらを乱れ撃つ!
凍土をも割り砕いて突き刺さる棘。受ければ当然、一本でも致命傷だ!
「ヤツに息つく暇を与えるな! 飛び込むぞ!!」
"寒極の"ラァルは愛槍を掲げ号令をかけ、戦士たちとともに敵に突撃する。
危険だ。その頭上を雲のようにわだかまり守るのは黒き闇の焔である!
「弾幕に対し多数で目くらましをする、というアイデアは評価しますがね。
こうして守らなければいけないのでは、あまり意味が――」
「とか言いつつ、私が何か言う前にやってくれるんだから。さすがヨハン!」
共に肩を並べるオルハ・オランシュの言葉に、ヨハン・グレインは鼻を鳴らした。
……別に、彼らを信用していないわけではない。評価はしている。
あくまでも効率性の問題だ。無駄な戦いをしたところで不要な争いを生むだけ。
必要だと感じたならばそうする――それだけの話だと、彼は心のなかで言う。
口には出さない。きっとオルハにはからかわれるだろうから。
ヨハンは黒い焔にさらに魔力を流し込み、降り注ぐ氷の雨から戦士団を守る。
その守りを得たラァルら戦士たちは敵に肉薄し、メルゼギオスを矢と槍で攻めた!
――地を這う人間(マンカインド)が、数を揃えたところで何が出来る!
「いかにもドラゴンらしい台詞だね、メルゼギオスっ!」
頭上! 戦士団を陽動としたオルハが龍よりも高く跳躍し三又鉾を構える!
重力を味方につけて振り下ろされたウェイカトリアイナ、しかし龍の爪と激突!
小虫を払うような鬱陶しげな手付きにより、オルハはぐんと振りほどかれた。
そこへ狙い済ませた氷の矢が飛来する――が、間一髪、黒焔が帳のように燃えた。
「突っ込みすぎですよ、もう少し冷静になってください」
「ヨハンがいるから大丈夫! 信じてるからね!」
「――まったく。困りますよ、そう簡単に信用されても」
少年の声音が、まんざらではなさそうなのは聞き違いではないだろう。
なおも飛来する氷の棘は焔に相殺され、その隙にオルハがばさりと羽ばたく。
そして彼女は猛禽のように滑空し、氷の棘を足場にドラゴンへ接近した!
「はぁああっ!」
がぎんっ!! だが振り下ろしたウェイカトリアイナは無限鎧に弾かれる!
――我が守りを、そんなやわな槍で貫けるものかっ!!
「なら、こうやって融かすのはどうですか?」
守勢に回っていたヨハンの黒焔が、じわじわとメルゼギオスの体に取り付いた。
オルハによる槍の一撃は、この焔を運ぶためのフェイントでもあったのだ。
じくじくと徐々に黒焔は燃え上がる。メルゼギオスは鬱陶しげに身を捩らせた。
――無駄だ。我が鎧は絶対零度の守り。いかな火種でも融かせはせぬぞ!
「……?」
飛来する氷の棘を躱し、足場にして跳躍しながら、オルハは訝しんだ。
たしかに敵は強大だ。なるほど、腐ってもドラゴンということだろう。
あの高圧的な物言いは気に入らないが、それに足るだけの力が敵にはある。
自分たちなど、まさに虫のように簡単にひねる潰せるのだろう。
だが、なぜだ? なぜわざわざ、"炎は通じない"ということをアピールする?
強大なドラゴンであるならば、さっさとあれを消してしまえばいいのに。
勝ち誇るため? それもあるだろう。だが、違和感はそこではない――。
オルハは眉根を顰め、苛烈な攻撃の合間に敵の体を注視した。
そして理解した。黒焔は消えていない。メルゼギオスには"消せない"のだ!
「ヨハン!!」
「なんですか、オルハさん!」
「――私にタイミングを合わせて! 一気に攻めよう!」
遠く空を舞うオルハの瞳が、じっとヨハンの藍色の瞳を射抜いた。
かつての己ならば、そのまっすぐな輝きから思わず目をそらしてしまっただろう。
だが、いまは違う。ヨハンはしかと、その眼差しを受け止めて、見つめ返す。
ふたりにはそれで十分だった。ヨハンには確かに伝わったのだ!
「戦士たちよ! いざ進め! 我らはいまや全にして一つの刃であり鏃である!
敵がいかな強大なドラゴンであろうと、勝利のための兆しを生み出さん!!」
応――!! 戦士たちは守りを棄て、猛攻の中を一直線に進んだ!
――そこまでだ、増上慢は見るに堪えぬ。潰れてひしゃげて死ぬがいい……!!
メルゼギオスの注意が、勇猛なる戦士たちに逸れた、その一瞬!
「たった独りのくせに、私たちの力を見くびらないでくれるっ!?」
ほぼ垂直に急降下したオルハの三又矛が、がぎん! と鎧に罅を入れ、
「――沈め。二度と舞い飛べないように、無限の混沌の中に」
ヨハンの生み出した黒闇が、イソギンチャクめいて偽足を伸ばし殺到した。
狙いは一点! 穿たれた穴は大きい、だが敵はそれをも味方につける。
そう、ただの攻撃であればそうなる。しかし、ヒビに入り込むのは闇の炎だ!
――ぬ、ぐぅおおおおお……っ!?
メルゼギオスは苦悶した。守りの内側から己を灼く炎の痛みに!
如何にその守りが強大無敵とて、一瞬の攻撃には強くとも締め付けるような衝撃には脆い。
ましてや、精神力で練り上げられた魔の炎ならばどれほどのものか!
「我らの武勇を見せてやる――連携し力を合わせる、ヒトの力を!」
そして好機を得た戦士団の総攻撃が……龍に、痛烈な一撃をもたらした!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
多弁なのは恐れ震えるモノにしか勝てぬ自覚があるからか
身の程を弁えていて結構
顕理輝光を運用し交戦
『超克』で“外”より常時魔力を汲み上げ供給
状況は『天光』で漏れなく把握
『励起』『解放』で個体能力は人型の極限まで強化
『絶理』で自身を理から切り離し『刻真』で「別の時間」に置き続け受ける攻撃の影響を回避、必要に応じ固有時加速も
魔眼・封絶で拘束。動き出す所を捉え躓かせる
高速詠唱の技法と『刻真』を併用して最大限加速
全力で魔力を注ぎ最大強度で拘束
以後拘束中は魔眼の力を瞳の中に循環させて保持
逃れる度に拘束し続ける
行動も能力発露も封じる魔眼
飛ぶこともできずユーベルコードも霧散する
近いほうが威圧しやすかろう。喜べ
アテナ・アイリス
さあ、メルゼギオスを倒しましょうか。
でも、決着はフォーメナー族でつけないとね。
じゃあ、ラァル。一緒に戦うわよ。わたしの力を使いなさい!
UC『勝利女神の祝福』を使って、ラアルに自分の能力値を加算する。自分は、ラアルの肩にミニサイズになって幽体化し、座っている。茶化したり、アドバイスなどおこなって、最大限の力でラアルが戦えるようにする。
流血しながら、勝利を信じて祈り続ける。
わたしの力を全て貸したんだから、これで勝てなかったら怒るわよ。さあ、全力で戦って、一族を守るよの。
「さあ、あなたが決着をつけるのよ。」
「勝利の女神の力、すべて貸してあげるわ。」
「なにやってるの、もっと動けるはずよ。ほら、右!」
非在・究子
ら、ラスボスの、登場、だな。
お、驕り高ぶった、悪竜、らしくて、いい感じじゃ、ないか……倒し甲斐が、ある。
と、とは言え、持ってる、UCは、驕り高ぶっるだけ、ある、ニート揃いだ、な。
……ちょ、ちょっとばかし、ムリをすると、しよう。
ゆ、UCを使って、TASさんの、力を、借りる。じ、自身の、パラメータ、から、周辺の、物理変数まで、何でもかんでも、【ハッキング】して、スピードを、超えた、スピードを、見せて、やる。
つ、追尾の、弾幕も、この、速さの、前には……空にかかった、敵への、短縮ルート、でしか、ない。全スピードを、乗せた、ゲームウェポン(モードドラゴンキラー)を、叩き込んで、やる。
●ドラゴン・キラー
燃えていた。
全身を影めいた闇の焔に包まれ、無限に等しい鎧を蜘蛛の巣めいて罅割れさせ、
無敵不滅を謳った強大なるドラゴンは、苦しみに苛まれて燃えていた。
――オ、オオオ……!! 定命の者の攻撃が、我を苛む、だと……!?
「いいざまね、氷皇竜。これでわかったかしら? "小さき者"の力が!」
アテナ・アイリスはその金髪を揺らし、決然と言い放った。
一撃を加えた戦士たちと肩を並べる様は、エルフの誇りに満ち溢れている。
メルゼギオスは、血の涙を流しながら彼女を、彼女らを凝視した。
憎らしや。我を見下し、討てるものと驕り高ぶる、愚かなモータルども。
憎らしや! 我が、強大にして皇帝たる我が、こんなものに討たれるだと?
あってはならぬ。
あってはならぬ!!
――あってたまるか……斯様な事態! 斯様な終末! 我は認めぬゥ!!
おお、さすがは強大なる竜か。その怒りは天地を揺るがし凍土をひび割れさせる。
メキメキと無限めいた氷の鎧が変形する――歪なる無数の棘に!
「!! 来るぞ、全員盾を構え――」
――守りなど、させぬわ! 全員串刺しになり、死ね……ッ!!!
ラァルの号令よりも、アテナが防壁を展開するよりも早く、氷の棘が爆裂――否!
――……なんだ……これ、は!?
めき、めきめきめきめき……!!
まるで永久凍土が罅割れ、砕け、離れていくような轟音が響き渡る。
それはメルゼギオスの怒りが巻き起こしたものではない。
むしろ、逆だ。メルゼギオスの巨体を縛る、魔眼の呪力による拘束の軋み!
はるか頭上に浮かび上がり、蒼い燐光を纏うアルトリウス・セレスタイトの呪いだ!
「強大を謳い、無敵を誇り、されどのたうち回り多弁を振るう。無様だな。
だがそれも、恐れ震えるモノにしか勝てぬ自覚ゆえか。身の程を弁えていて結構」
寒波が、男の色あせた銀色の髪を揺らした。双眸の藍色は些かも揺るがない。
世界の外側、宇宙の根源を統べる法則を汲み上げるとの力は、不壊にして不屈。
いかな強大たるドラゴンであろうと、もはやユーベルコードを解き放てられぬ。
暴れ狂うメルゼギオスの怒りと、アルトリウスの呪力とがせめぎあい、
氷が軋んで砕けるような轟音をもたらしているのだ……!
――ぐ、ぅおおおおお……!! 我を、縛るか……定命の者風情がッ!!!
「貴様が真に強大だというならば、その"定命の者風情"の力など跳ね除けてみろ。
だが、出来まい。それが貴様の限界であり、俺たちの力だ。所詮は悪あがき……」
強烈な龍の力のフィードバックが、アルトリウスの網膜を燃やす。
藍色の瞳の目尻から一筋血を流しながら、しかし魔眼の力を緩めることはない。
「喜べ。空よりも地に転がるほうが、我々に近くて威圧しやすいだろう?
それとも多弁も尽きたか。ならば、いよいよ身の程は知れたようだな……!」
ドラゴンは、見えない鎖の拘束を逃れようと巨体でもがき苦しむ。
アテナはその姿を見上げ、唖然とするラァルを見つめ、言った。
「ここが攻めどきよ、ラァル。決着はあなたたちフォーメナー族がつけるのよ」
……わたしの力をすべて貸すわ。そして、あなたたちに味方するのはわたしだけじゃない!」
アテナの全身が光に包まれ、ラァルの体に流れ込んだ。
寒極の戦士は、奇跡の力――ユーベルコードの力を体感し、身震いする!
『さぁ、行くわよ! わたしがあなたたちの勝利の女神となってあげる!』
「……応! 戦士たちよ、今一度進め! 攻めよ! 龍を討つ時だ!!」
おおおお……! 鬨の声が、決戦の大地を震わせる!
――これはいい。いかにもらしい最終決戦(クライマックス)だ。
驕り高ぶったドラゴンは、その驕慢ゆえに堕落し、最後には討たれる。
手垢のついた大団円。だからこそ王道と人は云う。
古今東西、あらゆる神話・寓話・逸話で描かれてきた古典的ストオリィ。
「れ、レゲーって感じがして、さ、最高だ、な! だ、だから――。
あ、アタシも、アタシなりに、て、手伝うぞ。お、お助けキャラ、だ!」
おお、見よ! 空から現れたのは、ゲームの力を味方につけた非在・究子だ!
魔眼の拘束を力任せに振り切ろうとするメルゼギオスの脳天に、
真上から流星めいて叩きつけられる、物理法則を無視した超スピードの打ち下ろし!
――がぁああああっ!? な、この、小娘……!!
「ぐ、ぐひひひっ。お、お前なんかに、と、捉えられるわけ、ないだろ?
な、なにせ、TASさんの速度は超一流(チート)、だ、だからな!」
かきむしるような竜の爪を、究子は嘲笑うような空中機動で回避する。
龍の尾が戦士団を薙ぎ払おうと掲げられれば、これを掴んで無理やりひねり、
ならばと立ち上がろうとしたメルゼギオスの胴体に、超スピードの蹴りを一撃!
現実そのものをハッキングした電脳の少女は、もはや手のつけようがないのだ!
『ほら、ラァル! ぼけっとしてないで、あなたたちも行くのよ!』
「わかっている! あまり耳元で怒鳴るな……!」
フェアリーのようなサイズで肩にちょこんと乗ったアテナの激励(茶化しとも云う)に、ラァルは辟易としながらも戦士たちの指揮を執る。
アルトリウスの魔眼拘束は、龍がそれ自体に適応したことで少しずつ、
徐々にではあるが緩んでいる。だが、自由にさせる気など毛頭ない!
「貴様は、強大な存在だと驕り高ぶり、その気まぐれでこの地を狙ったのだろう。
つまり、この最期も、所詮は因果応報だ。ドラゴンらしく、討たれて滅びろ」
血のしずくが頬を伝う。蒼の燐光はむしろ強まる!
――あ、ありえぬ! ありえぬゥウウウ……!! 我が、我が、このような……!
「ぐ、ぐひひ、ひっ。ど、ドラゴンの最期って、泥臭いもんだよ、な。
リソース使い果たした末の火力合戦って、あ、アタシは嫌いじゃないぞ」
ガン! ガギンッ!! ゲームウェポンの攻撃が鎧を砕く。引き剥がす!
龍は吐血した。何故だ。何故自分は地に縛り付けられこうも追い詰められている。
脆弱な定命の者どもに。小さき者どもなどに。何故!
――……猟兵……! 我らの天敵、我らの怨敵! 貴様らが、貴様らがぁああ!!
『わかってないわね、メルゼギオス』
文字通り血を吐くように悪言を撒き散らす氷皇龍。それを見下ろすアテナ。
彼女とともに、龍の頭部に屹立するのは、聖地を守らんとした戦士である。
『あなたが敗れるのは、わたしたちだけでも、ラァルたちだけでもない。
この地を守ろうとした全ての人々、その力と想いの前に敗れるのよ……!』
龍は何かを言おうとした。だが、流星のような輝きを遠くに見た。
物理法則を嘲笑い、最速をも超えた究子の輝き。振り上げられた電脳の剣。
「――滅びよ、悪龍よ。当たり前のように、必然のように、滅びよ!」
「ドラゴンキラーの時間だ、ぐひひ……っ!」
龍が放ったのは、悪言でも罵倒でも、懇願の言葉でもない。
己の最期を理解できぬ、驕り高ぶった邪竜の断末魔に他ならぬ――!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
ハロー、ウィズワーム
高みの見物はお終いかい?随分余裕が無さそうだけど、何かあった?
そう怒るなよ!高貴な龍が、こんな矮小な雑魚に腹立てちまったのか?
──舞台はここからだよ、焦るなって
さぁーて、龍が書いた脚本はセンスが無い
再生だと?しぶとすぎる悪役じゃ却って冷めるぜ
そんな脚本は…編集しちまうに限るね
セット、『Dirty Edit』
発動予知、ウィルス散布を開始
構成情報にアクセス──書き換え、終了
鎧も負傷も、もう再生することは無い
これ以上強くなることも、生命力を吸収することもない
散り際くらいは美しく、潔くやろうぜ?
かくして悪しき龍は英雄たちに滅ぼされました、っと
いいね、王道で実に良いとは思わないか?
鳴宮・匡
――自分の足で歩くと決めたんだ
たとえこの裡に何もなくたって
自分で視て、考えて、決めたことから逃げないでいようと
真の姿を解放、全知覚を強化
“崩壊”の銘を持つ光線銃を引き抜いて走る
何度でも負傷を回復するなら
それができないように一撃で殺すしかない
自身と味方へ迫る氷の棘を撃ち落としながら
粘り強く戦い、観察して機を見極める
持久戦になるけど構わない
戦場では焦れたやつから死ぬなんて当然のことは
良く、知っている
一瞬だって構わない、それで十分
【千篇万禍】の一撃は、視えた急所を違いはしない
この眼は一度捉えた死を取り溢すほど、優しくはない
――これは間違いなく、殺すための力だけど
今だけは、それを守るために使いたいんだ
ヌル・リリファ
人形が頭を垂れるのは主人(マスター)にのみ。
主人じゃない貴方にたいしてわきまえる分なんてない。
シールド展開、【盾受け】で冷気は減衰させる。【かばう】こともするよ。
わたしは魔力をとおせば必要なパーツはすぐ再生できるけど、フォーメナー族のひとたちはそうじゃないだろうしね。
……防御力には自信があった?でも、残念だけど、こうすれば意味がないよ。
UCでできるだけ広範囲の鎧や鱗を変質させていく。余裕があれば攻撃してくだくけど、それよりは変質のほうを優先させる。
この状態なら猟兵の攻撃もとおりやすくなるし。
……きっと、フォーメナー族の戦士たちも一矢報いることができるだろうから。
●大団円はまだ遠く、されど子らは諦めず
かくして驕り高ぶった邪竜は、人々の勇気によって討たれた。
戦乱は終わり、聖地には静けさが戻り、人々は幸せに暮らしましたとさ――。
「……と、綺麗に終わらせりゃあいいものを。まったく見苦しい」
ヴィクティム・ウィンターミュートは、うんざりした様子で肩をすくめる。
ラァルら戦士たちと、それを手助けする猟兵たちによって、
確実に息の根を止められたはずの邪竜、メルゼギオス。
……その巨体が、突然びくりと痙攣し、再び立ち上がったのだから!
「やっぱり、うごきだした。匡さんが見抜いたとおり、だね」
「……ああ」
ヌル・リリファの言葉に、双眸に深い蒼を揺らめかせる鳴宮・匡が頷いた。
鋭い知覚力を研ぎ澄ませた匡は、メルゼギオスの異変を察知していたのだ。
たしかに奴は"死んだ"。だがまだ滅びてはいない――つまり、復活するのだと。
彼奴の纏う無限に再生する氷鎧が、体内にまで浸透しその体を動かしていることを……!
――認め、ぬ。我は、認めぬ。斯様な決着など、認めぬ……!!
ずうんと、いびつな氷によって一回り以上巨大化した龍が、身動ぎした。
あちこちの傷を無理やり氷の鎧によって塞ぎ、繋ぎ止め、存在を維持する様。
あまりにも醜く、恐ろしく、そして追い詰められた獣の意地を感じさせる。
すなわち、龍の傲慢と驕慢を捨て去った、ヤツにとっての最期の姿だ!
「ハロー、ウィズワーム。悲しいねぇ、御高説はもうおしまいかい?
ずいぶん余裕もなさそうじゃねえか。だのにまだ現世にしがみつくってか?」
ヴィクティムの挑発に対し、メルゼギオスの全身からビキビキと異音がした。
氷の鎧によって今の形をかろうじて留めているその全身が、
怒りによって軋み、あちこちから氷の棘を生やして威嚇する音だ。
然り。敵は怒っている。小さき者、定命の者の減らず口に苛立っている。
ヌルは無表情のまま身構える。対する匡は、見慣れぬ銃を手に、駆け出した!
「図星だからって怒るなよ! 高貴な龍(ドラゴン)が、こんな矮小な"雑魚"に、
まさかマジで腹立ててるなんてそんなわけ――ねえよな? ン、どうなんだ?」
ビキビキビキ、ミシッミシミシ……そして風船のように、氷の棘が、爆ぜる!
「匡、ヌル!!」
だが、その程度ヴィクティムは予期済みだ。ヌルは頷いてシールドを展開。
フォーメナー族の戦士団に襲いかかった氷の棘の雨を、見事に受け止める!
一方の匡! 蒼の瞳でじっとドラゴンを見据え、一直線に駆ける。
その手に握りしめるのは"崩壊(ディスインテグレーション)"の銘を持つ光銃!
ZAP! 類まれな精密射撃が、自らに降り注ぐ氷の雨を崩壊せしめた!
――定命ごときがァ、我を見下すかァアアアアアッ!!
怒りだ。ドラゴンの怒りが、嵐となって吹き荒れる!
氷の雨、さらに冷気のブレス! ヌルの盾で防ぐにも限界がある!
「けど、そんな攻撃、わたしを壊すにはたらないよ」
それでも、ヌルは自壊を恐れない。敗北の可能性を畏れたりはしない。
ピシピシと割れて砕けそうな盾を支えるように、自ら冷気の嵐の中に飛び込んだ。
手足が霜を張り凍りつく。すれ違ったラァルが、そのさまを見て叫んだ。
「少女よ! 死ぬ気か!?」
「――しなないよ。だってわたしは、マスターの最高傑作だから」
循環する魔力が、罅割れたヌルの凍傷を癒やして急速に回復させる。
盾もまた同様に再生し、さながら牢獄めいてメルゼギオスを取り囲んだ。
――無駄だ、無駄だ! 我は死なぬ、我は滅びぬ! 我は龍ゆえに!!
なんたる驕慢。だが、その言葉は強がりや単なる大言壮語ではない。
このなかで誰よりも、すべての現象を見通し察知する匡には、それがわかる。
敵には――メルゼギオスには、そう豪語するに足るドラゴンのしぶとさがあると。
(でも、悪いな。お前みたいな敵(ヤツ)は、もう飽きるぐらい殺してきたんだ)
ヌルの防壁を貫いて飛来する氷の棘。
雨のようなそれらを、自他問わず撃墜しながら、匡は心のなかで思った。
ドラゴンキラーなど飽きたもの。この世界での戦いなど何度経てきたことか。
強大な敵がいた。恐ろしい敵がいた。共に戦った仲間たちも数多に居た。
そしてみな殺してきた。この力で。研ぎ澄ませ/擦り減らしてきたこの技術で。
そうとも、これは確かに殺戮の力。生きるために振るわざるを得なかった刃。
何も産まず、何も遺さず、何も築き上げられないモノ。だとしても。
――感じるぞ、小僧ッ!! どれだけ這おうが転がろうが、我からは逃れられぬ!!
ぎろりと。
メルゼギオスの赤く輝き双眸が、辛抱強く立ち回る匡を捉えた。
蒼い瞳が睨み返す。龍はきっと、己のこの虚ろをすら見通したのだろう。
――言ったはずだ。我は殺せぬと。貴様らには、貴様には、何も出来ぬ!
「そうでもないさ」
匡は言った。頬を切り裂く氷の棘を無視して、銃口を構えた。
「俺はひとりじゃない」
そう。待ち続けた一瞬。無限の再生をも、絶対零度の冷気をも貫く間隙。
狙い定めた急所。幾億度も繰り返した一撃を、再びここに。
「――お前と違って、俺には"頼れる仲間"がいるんだよ」
メルゼギオスはその時、唐突に、虚無に落ちたような錯覚を感じた。
何が起きた? 嵐のような冷気が、氷の棘が、ふっとだしぬけに止んだのだ。
双眸が遠くの猟兵を捉える。薄く笑うヴィクティムと、無表情の人形を。
ハッカーが、悪童めかして唇を動かした。
"テメェの筋書きは、センスがない。だから書き換えてやったのさ"
いともたやすく行われる、脚本(シナリオ)の編纂(リライト)。
向けられた右腕から与えられた、見えない電子の力は、龍を絡め取っている。
再生も、
冷気の嵐も、
氷の棘も、
何もかも封じ無効化する見えない帳が、絡め取っている。
「もう、あなたをまもってくれるものはなにもないよ」
人形が静かに言った。
その魔力が、絶対無敵であるはずの氷の鎧すらも変質させていた。
熱線が放たれる。崩壊の光が、スローモーションでメルゼギオスを貫く。
訪れるはずの再生は訪れず、
防げるはずの鎧は魔力によって損なわれる。
赤い双眸が蒼を見た。何も映さぬ水面に映るのは、ただ一つ。
「恨んでくれてもいいぜ。俺は、それだって見届けて持っていくからさ」
再びの死をもたらした、死神の如き射手の、冷たく研ぎ澄まされた眼差し。
それによって討たれた、己の愕然たる相貌であった。
大成功
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龍之・彌冶久
(そう言えば、予知にて耳にした言葉があった。)
"北の焔"か。
ラァルよ、お前達を示す言葉であろう、此れは。
では、なぁ。極寒の地にて尚燃える焔の子らよ。
たかが凍てつく氷如き。
お前達の心に宿る燈が負ける筈もないよなあ!
然りと言ったな!その意気や良し!
ならば北の焔の子らよ!
その燃ゆる心、"魄"を一紡ぎずつこの老骨に貸すが良い!!
"矜羯羅"。
敵に立ち向かう者共の"魄"から紡ぎしこの刃。
見よ氷龍。
なんとも見事な
燃える焔のようじゃあないか!
(属性攻撃:魂・心)
棘如きが何するものぞ。賜った刃にて氷棘を斬り伏せ進み、天から地に掛け一閃。
――呵々、なあラァルよ。
北の焔、確かに邪竜をも灼く火と相成ったぞ!
●"北の焔"
フォーメナーという聞き慣れぬ言葉は、どうやら部族の言語であるらしい。
北の大地に逃れたエルフたちの、いにしえの言葉が訛ったものだという。
それが意味するところは、すなわち、"北の焔"。
予知にて聞かされた、彼らが彼らたる所以。エルフにとっての誇りの言葉。
「ラァルよ。北方の凍土に住まう戦士らよ。それが、お前たちを示す言葉だろう。
お前たちにとっての誇り。守るべき矜持。受け継ぐべきいのちの言葉なのだろう?」
龍之・彌冶久はそう言って、好々爺めいて目を細め、にっかりと笑った。
彼方で、龍が再びの滅びにまみれる。再生すら赦されぬ熱線に貫かれて。
「……ああ、そうとも。我らは北の大地にて強く燃える、いのちの焔。
父祖が紡ぎ、受け継いできた焔を燃やす者。それが、我らの銘(な)だ」
「呵呵。それはいい。ああ、いい銘だ。力強く、素朴で、それでいて美しい」
この大地は、寒く険しい。生命が生きるには辛く苦しい環境だ。
だが、そこを我らの終生の地と定め、その加護を謳う戦士たち。
――龍が、翁の眼差しの先で立ち上がる。
再び訪れたはずの終末(おわり)を拒絶し、悪辣に、無様に、醜悪に。
「ならば、極寒の地にてなお燃える焔の子らよ。負けるわけにはいくまいな」
彌冶久は笑んだまま言った。
「たかが凍てつく氷、たかが邪竜ごとき。その心に宿る燈(ひ)が!
あのような輩に、負けるはずもないよなあ! んん? どうだ、戦士らよ!」
龍が吠える。その威風が、戦士たちの心を折りかけていた。
だが。彌冶久の言葉に、エルフたちは呆然として――そして、頷いた。
「……無論だ」
「なんだ? 聞こえんぞ!」
「無論だ! 我らは"北の焔"、父祖より聖地を受け継ぎし強き戦士たち!
たとえ邪竜が幾度蘇ろうと、我らは負けぬ! なぜならば我らはひとりではない!」
ラァルが言った。
「――ともに絆を結んだ、貴様たちがいるならば。けして負けぬ!!」
呵呵、と翁は笑う。
「よく言った! その意気やよし――ならば、"北の焔"の子らよ!
その燃ゆる心を、"魄"を! 一紡ぎずつ、この老骨に貸すがいい!!」
戦士たちは吠えた。ラァルだけではない、すべての戦士たちが。
応、と! 力強く吠えたのだ!
――なんだ、それは?
三度立ち上がった龍は、それを見た。
己の前に立ちはだかる男ひとり。その男が手にした刃を。
虹のように輝き、糸のようにゆらめき、闇のように深淵なる刃を。
――なんだ、それは。何物だ、貴様は!?
「呵呵。お前が云うたのであろう? "たかが定命の者"だとな。
……信じられぬか? 応とも、俺にも信じられぬ。この燃える焔の如き輝き!」
龍は吠えた。それは怒りのようでもあり、恐怖のようであった。
降り注ぐ無数の氷の棘を、彌冶久はその刃で斬り伏せ、また一歩。
「これなるは北の焔の子ら、お前が見下した定命の者たちの燃やしたいのちの焔よ!
さあ龍よ、いまだ滅びを拒む者よ! お前は嗤った。あいつらを見下したのだ!」
ならば。その因果応報、その身と生命で支払うべし。
ラァルたちが吠える。戦士たちの声が彌冶久の背中を押す。
「人の魂と御心の強さ――如何なるものか、ここで味わうがいい!!」
燃える焔の如き刃が、魄脈の剣が! 怯える邪竜を、真っ二つに――叩き斬る!!
大成功
🔵🔵🔵
リア・ファル
POW
アドリブ共闘歓迎
キミたちは負けない
竜すら下すのは人間の勇気と叡智、って相場は決まっている
ボクがいるんだ、一人だってやらせはしない!
キミたちには明日があるんだから
UC【召喚詠唱・白炎の不死鳥】を連続召喚
白き炎が、霜の原野の地に燃え盛る
味方から知り合いから、フォーメナー族の戦士たちまで、
全員まとめて治癒蘇生
『コードライブラリ・デッキ』の治癒技術もフル活用
空と大地の覇者がなんだって?
ボクも誰が呼んだか三界の魔術師だ
その支配に楔を打ち、地に堕とす
シニカルな彼ならこう言うかもね
「人間を舐めんな、トカゲ野郎(ウィズワーム)!」
(救助活動、時間稼ぎ、医術、拠点防御、鼓舞、全力魔法、高速詠唱)
ジョルジオ・サニーウィッキー
※アドリブ連携、大歓迎
見てくれが良けりゃあでかい口も叩けるもんだな。
……舐めるな。たとえ力が確かだろうと、ここから逃げる奴ぁ一人ったっていない!
真の姿……聖戦士の鎧、装着!
兜に聖痕浮かぶ俺の全力の姿だ
この状態で近接距離にて戦う!
〈盾受け、火属性攻撃〉で冷気を全力で耐える
剣で傷をつけられる機会があれば一度だけでいい…【輪廻の火】はお前の不遜と、奪った命と……その罪を薪としてお前を灼く
火を他の奴に移そうとすれば逐一消すから問題はない
断罪の炎よ、北の焔とともに燃え上がれ……!
こいつが俺なりの、彼らへの、仲間への景気づけとしようじゃないか!
逢坂・宵
ええ、不遜。そうでございましょう、災厄の化身たる貴殿と比べれば矮小な僕らが刃を向けることなど、貴殿にとっては不遜という言葉で表現することすら甚だしいでしょう
ですが、僕らにも譲れぬものがあるのです
弱きものが歯向かってはいけないと、どの神も定めておりますまい?
「戦闘知識」により敵を視認しつつ最も攻勢に適した位置に陣取り
「高速詠唱」を行い「属性攻撃」「鎧無視攻撃」「破魔」「全力魔法」を重ね掛けした
【天響アストロノミカル】で「一斉発射」を行い攻撃しましょう
敵からの攻撃には「氷結耐性」「激痛耐性」を添えた「オーラ防御」でしのぎつつ
「カウンター」で「精神攻撃」「マヒ攻撃」をのせた
「衝撃波」で反撃しましょう
三咲・織愛
何が己の分と言うのでしょう
この地はフォーメナー族の方々の大切な地です。横合いから掠め略奪しようなど傲岸不遜にも程がある
分をわきまえるべきはあなたですよ
盗っ人風情が、真なる覇者とは笑止千万です。地に落ち這いずる姿を見せなさい!
氷の棘は見切りと武器受けで回避を試みます
ラァルさん達に向かう攻撃も出来る得る限り槍で払って
負傷しようと足を止めるには至らない。こんなところで止まる訳にはいかない
狙いすまして、一投。槍投げを。――戻ってノクティス
愚直であろうとなんであろうと、氷を、竜を砕くまで、繰り返します
隙を見て閃撃を撃ち込めるように、他の方とも連携していきましょう
●トゥ・アイス・アンド・ヴァロウ
燃え盛る斬撃が、強大なる邪竜の巨体を真っ二つに叩き斬った。
都合三度の死。並のオブリビオンであれば即座に燼滅するほどのダメージだ。
だが。おお――これこそがまさに、ドラゴンの強大さだとでもいうのか?
切断面から触手めいた氷の蔦が生え、両断された巨体を"繋ぎ止める"!
――猟、兵……我らの、天敵……認めぬ……我は、断じて、認めぬ……。
びきびきと音を立てて、再接合される大顎が、読経めいて恨みを呻いた。
気まぐれで人々を脅かし、父祖から受け継がれた大地を簒奪する。
暴君のごとき、道理も何もあったものでもない振る舞いを行うだけの邪悪。
それを現実にするだけの力……暴力が、彼奴にはたしかにあるのだ。
だからこそのオブリビオン。理由なく、必然によって未来を破壊する者!
「ええ、そうでございましょう。災厄の化身たる貴殿に比べれば、僕らは矮小。
そんな"脆弱な存在"が刃を向け、あまつさえここまで足掻き続けることなど、
貴殿にとっては不遜という言葉で表現することすら甚だしいでしょうとも」
いびつなる龍の末路に対し、まっすぐに、真っ向から、逢坂・宵が対峙する。
「ですが――僕らにも、譲れぬものがあるのです。奪わせるわけにはいかぬものが。
弱き者が歯向かってはいけない……などと、如何なる神も定めてはおりますまい」
――戯言を……抜かすな。神など識らぬ。我こそが、皇であり支配者……!!
「……どこまでも捻じくれているのですね、あなたは」
三咲・織愛は、哀れみすら込めて嘆息し、頭を振った。
「この地はフォーメナー族の方々が、先祖代々受け継いできた大切な地。
それを横合いから掠め略奪しようなどと、傲岸不遜はあなたのほうでしょう。
ましてや、与えられて死を、滅びを拒絶して、龍であることすら捨てるなど……」
自然の法則にすら反した、圧倒的な自我(エゴ)。だからこその龍か。
否。もはや彼奴は龍ですらない。龍のカタチをした、ただの残骸だ。
これまで討ち滅ぼし、これからも討ち滅ぼすであろう残骸どもと同じモノ。
「オブリビオンよ。私たちはあなたを滅ぼします。これまでも、これからも、
真なる覇者を僭称する盗人風情、地に落ち這いずる姿を以て分を弁えなさい!」
高らかに言い、エルフの少女は雄々しく、勇ましく、槍を掲げた。
ラァルはその姿を見て頷き、戦士の咆哮とともにこれに応じる!
龍は……その武勇を、星々のような生命の輝きを、怒りの咆哮で迎え撃った。
再生し、二回り以上巨大になった威容が、その爪を以て彼らを薙ぎ払おうとする!
「それでボクらを片付けてハイ終わり、なんて。させるわけないだろうっ!」
颯爽たる声! そして同時に、大地から湧き上がる白き冷気!
いや違う! ごうごうと燃え上がるそれは、冷気ではなく白い焔だ!
不死鳥めいた炎は、龍の巨体に匹敵するほどに力強く、高く壁めいて立ち上り、
瀑布じみた恐るべき氷のブレスを相殺し、退ける!
「フォーメナー族のみんな! キミたちは負けない。ボクらがここにいる!
龍すら下すのは、人間の勇気と叡智――って、相場は決まっているんだからね!」
頭上! 愛機・イルダーナに騎乗したリア・ファルの喚びし電子の焔だ!
燃え上がる不死鳥の白焔は、傷つき疲弊した戦士たちの体に活力を与える!
「もう絶対に、ただのひとりだってやらせやしないぞ、メルゼギオス!
この地に住む人々の、この世界の未来(あす)は、奪わせないっ!!」
――ちょこざいな……!! 矮小なマンカインドごときがぁ!!
「そのちびどもに追い詰められといて、まだでかい口叩けるもんだねぇ!」
ごうっ!! と、白い焔を切り裂き、光り輝く影が矢のようにまっすぐと、
尾を以て敵を薙ぎ払おうとしたメルゼギオスの巨体に突き刺さった!
ジョルジオ・サニーウィッキーだ! だがその姿は、飄然とした男のものでなく、
まさに聖戦士と呼ぶにふさわしい白金の鎧に包まれていた!
にやりと不敵に笑うと、兜に神々しき聖印が浮かび上がり、輝きを放つ……!
――邪魔だ、死ねぃっ!!
再びの冷気! だが、ジョルジオはこれを真正面から盾で受け止める!
たったひとりで、強大な龍の威風に立ち向かい、あろうことか拮抗するのだ!
「……嘗めんなよ。ここに居る奴ぁなあ、わかってて立ち向かってんだ!
お前がどれだけ勝ち誇ろうが、怯えて逃げたりはしねえんだよっ!!」
絶対零度の凍気が、盾を越えて鎧に霜を張り、その身を凍てつかせようとする。
だが、耐える。ジョルジオは退かぬ。避けもしない。真っ向から挑む!
その背中を、戦士たちは見た。猟兵たちも同様に。勇ましき聖者の姿を!
「さあ、ラァルさん、フォーメナー族の皆さん! 行きましょう、ともに!」
「ケガのことは考えなくていいよ、たとえ死んだってボクが治すからね!」
織愛、そしてリアの激励を受け、戦士たちは再び咆哮しジョルジオに続く!
その焔の如き力強き生命の力が、生命の力を守り育む白焔の輝きが!
――人々の願いを受け、たしかに輝くジョルジオの聖印が!
冷気のブレスそのものを押しきり、龍の巨体をもたじろがせた!
――ぬううう……!! 小癪な……ならば串刺しになり、死ね……!!!
ぱきぱきと、凍土が罅割れて砕けるような音を立てて、氷の棘が生える。
巨体とかしたメルゼギオスの範囲攻撃は、とてつもなく強化されているはずだ。
解き放たれれば、無事とはいくまい。そこで、ふっ、と穏やかに笑う男あり。
「なるほど。身の丈が大きくなれば大きくなるほど、回りの些事には目が行かぬと。
いかにも寓話らしいものでございますね――灯台下暗し、とはよく言ったもの」
宵だ。いつのまにか、彼はメルゼギオスの死角を取っている!
そして一瞬のうちに練り上げられた魔力は、星の精霊となって周囲をたゆたう。
きらきらと舞い散る風花のように、精霊たちは星の輝きを放つ……!
「ならば、空の皇帝を驕る龍よ、ひとつ手品をお見せいたしましょう。
これこそは、あなたが支配したと豪語する空よりもさらに上に輝くもの。
――天地を見下ろす、星々の御業。宇宙の輝きを降らせる我が術式……!」
おお。空を見よ。それは龍の翼をもっても、決して届かぬ神々の庭。
輝きは徐々に大きくなる。――墜ちてきているのだ、空に輝く星そのものが!
「天より響け。流星群よ、この地にあまねく降り注げ……ッ!!」
――ぐ、うおおおおおおッ?!?!?
二百をゆうに超える隕石の雨が、氷の棘もろともメルゼギオスを討つ!
いかな巨体であろうと――否、その威容を誇る巨体だからこそ避けられぬ!
放たれようとした氷の棘は尽くが砕け、割れ、龍もまた隕石によって燃える!
「空と大地の覇者とやらが、聞いて呆れるね! けどまあ落ち込む必要はないさ!
なにせボクらはキミたちの天敵。そしてボクは、誰が呼んだか三界の魔術師さ!」
龍は見た。高らかにいうリアの放った三つの鎖が、手足に絡みつくのを。
隕石の猛打に堪えきれず、メルゼギオスの巨体が地に落ちる。
それこそが終わりの始まりだ。神鉄の鎖は、その身を戒めもはや離さない!
そこへ殺到する戦士たち。彼らとともに剣を、槍を掲げる聖者ふたり!
――バカ、な……!!!
「って、キミたちみたいな大物ぶった悪党は云うんだよね。これも定番。
だからボクも、シニカルで皮肉屋な彼に倣って、もう一度言ってあげるよ」
にやりと笑い、リアは言った。
「人間(マンカインド)をナメんな、蜥蜴野郎(ウィズワーム)!」
龍は吠えようとした。その頭蓋を、鉄槌のごとく投擲された龍の槍が貫く。
「もはや、その不遜な物言いはさせません」
織愛。燃え上がるような怒りと覚悟を込め、少女はしかと龍を見下ろした。
そして重力とともに落下し、突き刺した龍の槍を、金剛の拳で殴りつける!
KRAAASH!! 氷の鎧を砕き、さらに深々と突き刺さる宵槍ノクティス!
「氷と武勇によりて! 我らの意地をここに! 我らもともに参るぞ!」
「ああ、みんな一緒だ! 教えてやろうぜ、あの蜥蜴野郎に!」
そして、ジョルジオ。ラァルとともに肩を並べ、武器を掲げ、鋒に焔を灯す。
それはいのちの焔。凍土においても消えることなきいさおしの輝き。
「――最後に聞いとくぜ、メルゼギオス。懺悔と改心をするつもりはあるかい」
超然とした面持ちで、ジョルジオは言った。龍はうなり、もがいた。
「だろうな。ならばその罪業、この一撃を以て灼いて清めてやるぜ!
――巡る輪廻の果ては未だ遠く。いのちの焔は北の氷天に燃え上がる!」
断罪の炎は、いのちを育も白き炎と、星の輝きと混じり合い高く高く燃えた。
天地を切り裂き、我らはここにありと世界そのものに告げるように。
「景気づけの一撃だ! 派手に燃えな、氷皇龍――っ!!」
おお、永遠に続く輪廻の火よ、罪深き龍を灼きて清めたまえ。
断末魔とともに燃え上がる輝きは、凍土を照らし氷天をも飲み込むように。
そして巨大にして邪悪なるものが滅びた後、炎とともに響くのはただひとつ。
傷つき、それでも戦い抜いた戦士たちの、勝利を祝う凱歌の声だ。
これまでも、これからも。未来を求める人々の声は響き続けるだろう。
過去を越え、過去を滅ぼし。前に進むために、力強く燃え上がる炎とともに――。
大成功
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