終わりの始まる物語
『きょうは みんなで うみに いきます。
せんせいと みんなと ゆうなは うみにきました。』
手にしたのは、青いクレヨン。
青い空と、青い海と。
遠くで泳ぐ、クジラさん。
『すると にんぎょうの おとこのこが やってきました。
「ぼくの おともだちに なって」と おとこのこは いいました。』
(あれ……?)
違う、違うよ。
手にしたのは、黒いクレヨン。
だってここは、ペンギンのおじいちゃんが出てくるはずだったの。
『けれど みんなは ゆうなの ともだちです。
おとこのこの おともだちには なれません。
おとこのこは いいました。
「じゃあ もういらないや」』
手にしたのは、赤いクレヨン。
先生が、赤くなりました。
みんなも、赤くなりました。
(やめて、やめてよ)
私が書きたいのは、こんなお話じゃないのに。
もっと楽しいお話なのに。
どうして? なんで!
(クレヨンが、手から離れないよ……!)
『そして ゆうなは ひとりに なりました。
ゆうなは とびらをくぐって ふしぎなくにに いきました。』
――おしまい。
●
「みなさま、みなさま!急いでUDCアースに行って、『ゆうな』さまを助けてあげてくださいまし!」
猟兵達の足元で、慌ててぴょんぴょんしているのは、ケットシーのグリモア猟兵――フィリオ・グラースラム(煌氷の刃・f10324)であった。
「孤児院に居る女の子が、もうすぐUDCアースからアリスラビリンスへと送り込まれてしまうにょです!」
アリスラビリンスという世界では、オウガの餌として『アサイラム』と呼ばれる場所から異世界人が召喚される事がある。
魔術儀式【Q】を行った事で、この『アサイラム』と呼ばれる場所の1つが、UDCアースの精神病院や刑務所といった『外界から隔絶された収容所』だと判明したのだ。
今回、アリスラビリンスへ送られようとしているのは、とある孤児院にいる『ゆうな』という名前の、6歳の女の子。
両親を事故で亡くし、孤児院に来ることとなったのだが。
両親を亡くしたショックに加え、生来の口下手が災いして、孤児院に上手く馴染むことが出来なかったらしい。
まともに声を聞いたことはなく、何を考えているのか分からない。
遊びの時間には1人で絵本を描いている、変な女の子。
それが、周囲の『ゆうな』に対する認識だった。
絵本に書かれているのは、『ゆうな』にとっての幸せな世界。
両親が生きていて。
絵本の中の『ゆうな』はお喋りで、先生ともお友達とも色々なお話をして。
七色の鳥と冒険をしたり、ネズミのどろぼうさんをお友達と一緒にやっつけたり。
そんな、ちょっぴり不思議で、楽しい毎日を送る物語。
けれど、その想像の世界は、あまりにも楽しくて。幸せで。
つい、思ってしまったのだ。
現実よりも、こっち―絵本―の方がいいと。
「たぶんそれが、アリスラビリンスへ招かれてしまった切っ掛けだと思うのです」
アリス適合者に覚醒しつつある『ゆうな』は、現在ユーベルコードが暴走している状態だ。
彼女のユーベルコードは、【描いた絵本やキャラクター】で出来た迷路を作り出すというものなのだが、そのユーベルコードの高まりを感知して、UDC怪物――オブリビオンが、孤児院に押し寄せようとしている。
「まずは、このオブリビオンを何とかしないといけませんの」
孤児院に現れるオブリビオンは、『深淵に至る亡者』と呼ばれる集団と、それらを率いる『閉鎖機構:ヴァーリ』と言うアクアリウムの少年だ。
『深淵に至る亡者』は、仲間を。『閉鎖機構:ヴァーリ』は、友達を求めて、人間を見つけると取り込もうとしてくる厄介なオブリビオンであるため、注意してもらいたい。
孤児院の人々は、『ゆうな』の絵本の登場人物であるため、今は『ゆうな』のユーベルコードによって保護されてはいるのだが……。
「けれど、ヴァーリもまた迷宮を作る力を持っていて、水槽の迷宮で、絵本の迷宮を壊そうとしているのです」
猟兵たちが駆けつけた時には、水槽と絵本の迷宮がせめぎ合っている頃だろう。
勿論、絵本の迷宮が完全に壊されてしまえば、孤児院の人たちは、オブリビオンに取り込まれてしまう。
そうなる前に、まずは迷宮の外に展開している、深淵に至る亡者たちを倒してもらいたい。
「絵本の迷宮が壊される前に、オブリビオンをやっつけて欲しいのですが、数が多いので中々難しいかもしれませんの。でも、『ゆうな』さまを元気付けられれば、絵本の迷宮も頑丈になるはずなのです!」
暴走しているとはいえ、絵本の迷宮を作っているのは『ゆうな』だ。
そのため絵本のお話が、『ゆうな』にとって望ましい展開になれば、迷宮の強度は上がり、逆に望ましくない展開になると下がる。
「つまり、みなさまがヒーローや騎士のように、派手な攻撃でオブリビオンを倒したり、カッコいい事を言ったりすると、絵本の迷宮の強度が上がるにょです!」
だが逆に苦戦したり、孤児院の人へ被害が出たりすると、迷宮が脆くなるという訳だ。
絵本の迷宮の強度を保てるよう、上手く立ち回ってもらいたい。
深淵に至る亡者たちを全て倒してしまえば、ヴァーリも絵本の迷宮を壊す事を止め、猟兵たちの相手をするしかなくなるだろう。
ヴァーリは猟兵たちを分断したり鹵獲するといった、搦め手を得意としている。
動きを止められて、一方的に攻撃される事がないよう注意して戦って欲しい。
「でも、オブリビオンを全部やっつけても、まだ終わりではないのです」
オブリビオンはあくまでも、ユーベルコードに引き寄せられて来ただけで、アリスラビリンスへの召喚とは無関係なのだ。
召喚を止めるには、『ゆうな』が作り出してしまった絵本の迷宮から、『ゆうな』自身を助け出す必要がある。
「なので、絵本の迷宮の出口から入って、中心にいる『ゆうな』さまの所まで向かってあげてくださいまし」
罠の類いは無いものの、迷宮はかなり複雑で、『ゆうな』までたどり着くのは容易な事ではない。
その上あまり時間を掛けていると、『ゆうな』はアリスラビリンスへと招かれてしまう。
だがもしも、『ゆうな』へ掛けてあげたい言葉があるのなら。
それは迷宮の何処に居ても、『ゆうな』まで届く。
『ゆうな』が、優しい絵本の世界よりも、現実の世界を見つめられるようになったなら。
あるいは、現実の世界を見ようと思う、切っ掛けを与える事ができたなら。
迷宮は自ずと、『ゆうな』への近道を示してくれるだろう。
「『ゆうな』さまの事、きっと助けてあげてくださいまし」
最後に、ぺこりとお辞儀をして。フィリオは猟兵たちを送り出すのだった。
音切
音切と申します。
章の途中からでも、一部の章のみでも、気軽にご参加いただけましたら幸いです。
【成功条件】
オブリビオンを全て倒し
『ゆうな』がアリスラビリンスへ招かれる事を阻止する事。
【1章】
孤児院の人々は、絵本の迷宮に守られているため
庇ったり避難誘導をする必要はありません。
ですが、絵本の迷宮が破壊されてしまうと
孤児院の人々が犠牲となり、ゆうなもアリスラビリンスへ召喚されてしまいます。
【2章】
問題なく2章に進めた場合、ヴァーリは皆様との戦いに集中します。
この章では、もう絵本の迷宮の強度を保つ必要はありません。
【3章】
ゆうなが召喚されてしまう前に、ゆうなの元にたどり着く必要があります。
時間との戦いです。
【その他】
筆は遅い方なので、一度★をお返しする事になりそうな時などは
マスターページにてご連絡させて頂いております。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 集団戦
『深淵に至る亡者』
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POW : 私は此処にいる・俺は待ってる・僕は望んでいる
技能名「【おびき寄せ】」「【誘惑】」「【手をつなぐ】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : 僕は君の仲間だ・私はあなたと一緒・俺はお前と共に
敵を【無数の手で掴み、自らの深淵に引きずり込ん】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ : 俺は幸せだ・僕は全部理解した・私は誰も赦さない
【妄執に魂を捧げた邪教徒の囁き】【狂気に屈したUDCエージェントの哄笑】【邪悪に巻き込まれた少女の無念の叫び】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『おとこのこは いいました。
「じゃあ もういらないや」
いっぱいの ガラスと おみずと
それから
いっぱいの おててが でてきました。
せんせいを みんなを つれていこうと しています。
みんな 「たすけて」 と ないています。』
綺麗に並んだクレヨン箱に、黒いクレヨンを戻して。
ゆうなの手は滑るように、ゆっくりと。色を辿って動きます。
その小さな手が止まったのは、赤い色。
違うのに。違う色がいいのに。
ゆうなの手はとまりません。
だって描き続けないと。
このお話はもっともっと、こわいお話になるって。
そんな気がするのからです。
でも、このまま書き続けても。
このお話の『おしまい』は――。
おや?
これは、どうしたことでしょう?
ゆうなの手は、赤いクレヨンを置いて。何故かまた動きだしました。
手にした色は――。
ニレッド・アロウン
ならば今日の私は蛮族役です!え、いつものこと?なんのことやら。
相手は……うわめっちゃ手が多い。気持ち悪っ!
みたいな感じで適当に罵声浴びせて【挑発】で迷路に行かないよう、こっちに誘導できないか試してみましょうか。
こっちに来るなら御の字、来ないなら突撃です。
水晶鋏に魔力をチャージしつつ、余った魔力で障壁張って【オーラ防御】で広い範囲を一気に吹き飛ばしながら突撃です!掴もうとするなら鋏でチョッキンですよ
え、周りから一気に掴まれた?突撃するとか阿呆か?
馬鹿野郎、こっから巻き返すのが格好いいんでしょうが。
鋏に溜めた魔力を解放し、聖【属性攻撃】で一気に昇天させますよー。深淵じゃなくて骸の海に戻るんですよー
猟兵たちが辿り着いた孤児院は、既に、建物の姿形は失われていて。
代わりに広がっていたのは、巨大な迷宮。
元々あった建物を、白いクレヨンで塗りつぶしてしまったかのように。
広がる白紙の壁には、沢山の、クレヨンで描かれたキャラクター達。
まるで絵本のページをめくるかのように、壁が折り重なって形を変えながら、まだまだ広がろうとしている迷宮を、しかしもう1つの迷宮が侵食していた。
透明なガラスが、絵本のページ――迷宮の壁へと突き刺さって。
ゆっくりと、水が押しよせてくる。
この水槽の迷宮が、絵本の迷宮を壊してしまう前に、立ちはだかる無数の手――『深淵に至る亡者』たちを何とかしなければならないが。
――ゆうなさまを元気付けられれば、絵本の迷宮も頑丈になるはずなのです!
そう、グリモア猟兵は言っていた。
今この孤児院で起きている事件が、そのまま反映されている、ゆうなの絵本。
そのお話が、ゆうなにとって望ましい展開になればいいのだと。
そう、これは絵本の中の物語。
●
ならば、私は――。
「今日の私は蛮族です!」
ドレスにも、拘束服にも見える群青色のローブを纏って。
手にした水晶の大鋏を、勇ましく肩に乗せて。
ニレッド・アロウン(水晶鋏の似非天使・f09465)は、高らかに宣言した。
この声が、果たしてゆうなへ届いているかは分からないが。
とにかく、『登場人物』になる事は、ゆうなへの印象を強める意味でも、有効なはずだ。
ゆえに、蛮族。
勿論これは、絵本の登場人物になるための、役作りだ。
「うわめっちゃ手が多い。気持ち悪っ!」
相手を挑発する言葉がすらすらと出てくるのも、目を隠しているはずなのに、侮蔑の色が見て取れる表情を作る事ができるのも。
あくまでも、蛮族という役になりきっているから――。
ふと、視線を感じて。
ニレッドが振り返ってみると、共に戦う仲間の猟兵と目が合った。
サムライエンパイアの装いに身を包んだあの猟兵とは、確か以前にも、同じ戦場で戦った事があったと思うが。
……彼からの視線に、あえてセリフを付けるなら、こうだろうか。
『そういえば、以前もあんな風に、敵を挑発していたなぁ』
……。
いや。きっと気のせいだと、誤魔化すようにごほんと咳払いをして。
気を取り直し、大鋏を構え直す。
「ほらほら、来ないなら、こっちから行きますよ!」
自分が誘っているのか。
それとも、おいでおいでをする手の動きに誘われているのか。
ニレッドには、どちらでもいい事。
この悪趣味な手の塊が、絵本の迷宮の方へ行かなければ、それでいいのだから。
手にした鋏に魔力を込めながら、余剰の魔力で守りのオーラを展開して。
深淵に至る亡者たちへと、ニレッドは飛ぶ。
「ここにいる ほしい ほしい ほしい」
迫りくる、血の通わぬ白い手に。しかし、ニレッドは鋏を突き出して。
出過ぎた枝を切るように。
歩みを阻む邪魔な手は、この鋏でチョッ――……おっと、いけない。
なにせ、この絵本の対象年齢は6才なのだ。
あまり過激な表現はよろしくない。
しかしここからが、いいところ。
周りは敵、敵、敵だらけ。
囲まれてしまった蛮族の運命やいかに!?と、ドキドキハラハラしながら、子供たちは次のページをめくるのだ。
だから、添える文章はこう。
『けれど ばんぞくのおねえさんは まけません。
はさみを ふって。 てをふりはらって。
これから わるいおててを こらしめます!』
●
離れた地で、ゆうなが手にしたのは青いクレヨン。
ふわりと裾の広がるローブに身をつつんだ。
『ばんぞく』という天使様。
大きな鋏を、天へと掲げて。
その鋏が、キラキラまぶしく光ります。
『「しんえんじゃ なくて むくろのうみ に もどるんですよー」と
ばんぞくのおねえさんは いいました。
こわい おててが しゅーっと きえていきます。』
これは――反撃開始の物語。
成功
🔵🔵🔴
イル・ラース
アドリブ、連携歓迎
これが迷宮…そう、優しい『居場所』ね。誰かを閉じ込めるのでもなく、寂しい心を包んでくれる。ゆうなさんは、優しいのね。
でも、この世界はゆうなさんだけのもの。優しい夢にいるだけじゃ、何も変わらないわ?本物の何かを得るのは、迷宮の外だけだもの。大丈夫、ゆうなさんは優しさを知っている。だってこんな世界を知っているんだもの。これを本物にできたら、きっとすごいことよ?
わたしの手を取るのは、怖いかしら?(虚空に手を伸ばして)
でも、この世界を無理矢理壊そうとするのはいけないわ。
かわいそうだけど、その手を『ゆうな』に触れさせるわけにはいかないわ。わたしの世界に切り刻まれて…ね?
パラパラと、絵本をめくっているように。
白い壁が重なったり、離れたり。刻々と形を変えていく、絵本の迷宮。
そこに紡がれているのは、ゆうなを囲む、沢山の人たち。
みんなが笑っていて。ゆうなも笑い返す。そんな世界。
それはきっと、暗闇の中に差し込む、一筋の光のように。
眩しく輝いて、あたたかいのだろうと。
迷宮を見上げて、イル・ラース(堕天の翼の娘・f16345)は、ぼんやりと思う。
(そう、優しい『居場所』ね)
出口のある迷宮であるがゆえに、誰かを閉じ込める事もなく。
寂しい心を、隠して。包んでくれる。
誰も傷つける事のない、誰も傷を負う事のない、優しい世界。
ならば、それを作った、ゆうなもまた――。
年の数で言えば、ゆうなと変わらないイルだけれど。
あともう少ししたら、また1つ年を重ねる。
それに、満ち足りた寂しいも、一人の寂しいも。その両方を知っている分、身も心も、イルの方が少しだけお姉さんだから。
今、独りぼっちのゆうなに。手を差し伸べてあげたいと思う。
ゆうなの描く絵本の世界は、綺麗で。優しくて。
とても、あたたかいけれど。
ゆうなの本当に欲しいものは。それを、得られるのは。
きっと、この優しい迷宮の外側にあると思うから。
青い双眸で、迷宮を見上げて。
それからイルは、絵本の迷宮に背を向ける。
「この世界を無理矢理壊そうとするのはいけないわ」
今はまだ、ゆうなに声を届ける時ではないから。
まずは、この悪い手たちを……オブリビオンを倒さなければ。
耳を覆いたくなるような、哄笑が。悲鳴が。戦場へと響き渡る。
血で濡れた亡者たちの手が、伸びて来るけれど。
「その手を『ゆうな』に触れさせるわけにはいかないわ」
絵本を、そんな怖い『赤』にする訳には行かないから。
イルの武器が、赤い花へと変わっていく。
「顕現して、私の世界……」
夢と現の境が、限りなく薄くなって。
夢が、現へと溢れ出す。
はらはらと風に遊ばれているように、舞っていた花は、徐々に速度を上げて。
鋭利な刃へと変われば、瞬く間に亡者たちの手を切り刻んでゆく。
もしも、ゆうなが迷宮を出る勇気を持てたなら。
きっと、創り上げた優しい世界も、本物にできると思うから。
決して、邪魔はさせない。
●
今はまだ声の届かぬ地で、ゆうなが手にしたのは 赤いクレヨン。
でも、誰も赤くはなりません。
描くのは、小さな天使さんの髪に咲くのと同じ花。
たくさん、たくさんの、赤い花。
『「かわいそうだけど、わたしの世界に切り刻まれて……ね?」
ちいさな てんしさんが いいました。
あかい おはなが とんでいって。
わるいおてて が はなれて いきます。』
――これは、優しいに手を伸ばす物語。
成功
🔵🔵🔴
青霧・ノゾミ
やあ、ゆうな。
王子様の登場も、きみの物語に加えてくれるかな?
これは、皆を必要としていて、皆を大切に想っている子の物語。
…誰も必要としていない、呪うばかりのオブリビオンが出てくる場所じゃないなあ。
迷宮には近づかせないよ。
氷の矢を側面から亡者へ射かけ、
亡者の群れの端から出てこようとする者を倒す。
回避を織りまぜ一箇所に留まらず、動き回って敵を翻弄。
進撃させないよう手数で威嚇し、注意をこちらへ向けさせ、
不規則な多方向へのランダムな動きを抑えこむことが狙い。
高速詠唱で隙を作らず、ひとつの大きな動きへと変化させ、
亡者が一塊になったところを倒す。
接近戦になれば、腕の付け根、手の関節など部位破壊し斬り落とす。
絵本と水槽。
2つの迷宮は形を変えながら、押し合うようにせめぎ合っている。
今はまだ、水槽の迷宮が少し押し気味だろうか。
けれど、絵本が傷付けられるたびに、ページをめくるように。
壁が折り重なって、傷を塞いでいく。
さぁ、ページをめくり続けよう。
物語を、紡ぎ続けよう。
終わりが始まってしまわぬように。
その結末を、変えるために。
物語のヒロインが、ピンチになったなら。
助けに来るのはいつだって――。
「やあ、ゆうな」
艶やかな黒髪に、アイスブルーの瞳。
この迷宮の奥にいるのだろう、まだ見ぬヒロインに向かって。
青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は、胸に手を当て、ゆっくりとお辞儀してみせる。
「王子様の登場も、きみの物語に加えてくれるかな?」
その姿は、優美な仕草は。紛う事なき、おとぎ話の王子様。
それは、絵本において、正義と幸福の象徴。
ヒロインの姿は、今は見えないけれど。声はきっと届いていると信じて。
絵本の迷宮に背を向けて、冷たい刃を構えれば。
血に濡れた手の塊が、迫ってくる。
視界を埋め尽くす無数の手の、一体どこから聞こえてくるのだろう。
耳を覆いたくなるような、哄笑に悲鳴。そして、闇に誘うような囁き。
深淵に至る亡者の手はどれも、仲間を求めて。
共に行こうと、捕らえようとしてくる。
そんなものが、もしも迷宮に入り込んでしまったら。
孤児院の人たちが連れていかれてしまう。
伸びてくる手をすり抜けながら、側面へと回り込むようにノゾミは走る。
それと同時、ノゾミの周囲には、何処から水が湧き出て。
「凍れ!」
凛とした鋭い号令と共に、一瞬で凍てつく。
形成された数え切れぬ氷の矢が、悪しき手たちへと降り注げば。
その敵意は、ノゾミへと集中する。
――これでいい。
伸びてくる手を見切りながら、足だけは止めないように。
ノゾミは戦場を駆けた。
同じ、『求める心』でも。
ゆうなは、亡者たちとは違うのだ。
それは何よりも、あの絵本の世界が物語っている。
みんなと仲良しな世界。みんなと笑っている世界。
ユーベルコードは暴走しているはずなのに。それでも、孤児院のみんなを守っている。
これは、みんなを大切に思っている子の物語。
だから、その物語が、オブリビオンの呪いに染められてしまわぬように。
1体たりとも、迷宮には近づかせないと、不規則に体の方向を変えながら。
ノゾミは、足を動かし続ける。
伸びて迫る手を、凍てつく刃で幾度か斬り返して。
ずっと待っていた『時』に、整った口元は、素早く呪文を紡いだ。
●
ヒロインが手にしたのは、水色のクレヨン。
『そして おうじさまは いいました。
「もう かこへ かえるんだ」
のろうばかり の おぶりびおん は
ここに いては いけない のです。
おうじさま の て から
こおりのや が いっぱい でてきて
わるいおてて を たおしていきました。』
――これは、王子様がヒロインを救う、物語のアーキタイプ。
大成功
🔵🔵🔵
勘解由小路・津雲
※アドリブ等歓迎
幼子を励ますのはなかなか難しい。……そのためには、多少道を外れた行いもやむを得ないだろう。
【行動】
「千里鏡」で「ゆうな」の両親の姿を探し、それを鏡にうつして掲げる。
「ゆうな、どこかで見ているか? あんたのお父さんお母さんに頼まれて助けに来たぞ」
【戦闘】
わかりやすくかっこよく戦う方がよさそうだ。それならば。
【歳殺神招来】を使用、歳殺神の加護を受けた戦士の霊を召喚。燃え盛る炎の槍を手に戦う。
本体は戦士をサポート。敵が宿すは亡者のたぐいか? それならば「破魔」で阻害してみよう。
死者の名をかたることが罪ならば、私はその罪を甘んじて引き受けよう……。
猟兵たちの猛攻に、深淵に至る亡者たちは確実に数を減らしている。
だが、絵本と水槽。
迷宮同士の戦いは、一進一退といったところか。
猟兵たちの勢いに、迷宮の硬度は増しているはずだけれど。
ヴァーリもまた、深淵に至る亡者たちを盾に、十全な状態で迷宮に力を送り込み続けている。
水槽の迷宮が押し込もうと、勢いを増してうねる度に、絵本の迷宮の何処から悲鳴が聞こえて。
いつ、絵本の迷宮が崩れてしまうかと、ハラハラさせられる。
――ゆうなさまを元気付けられれば、絵本の迷宮も頑丈になるはずなのです!
そう、グリモア猟兵は言っていたが。
相手は、人間の幼子。増して女の子。
せめて目の前に居てくれれば、掛ける言葉も見つけられようが。
このような危機的な状況で、今は離れた場所に居るとなると……さて。
「今日の私は蛮族です!」
何処からか、聞き覚えのある声が聞こえて。
津雲は、顔を上げた。
青いローブに、金糸の髪を持つあの猟兵には、見覚えがある。
確か、以前も同じ戦場で戦って。
そしてその時にも、あのように敵を挑発していたような……。
しかし、なるほど。
あのように『蛮族』と名乗り、絵本の登場人物として登場する事は。ゆうなへの印象を強め、励ます効果を上げる事に繋がるだろう。
同じような事を、自分も考えていたのだから。
ただその、思いついた方法は。本当に、やってもいいのかと。
何処かで引っかかっていた。
人を守る為と言っても、やってはいけない事はあると、津雲は思う。
これから自分がしようとしている事は、間違いなくそれに該当している。
もっと時間があったなら。
他の方法はないかと、探していただろう。
だが、状況がそれを許さない。
悠長なことをしていれば人の命が、心が、失われるのだから。
だから、これは『やむを得ない事』なのだと。己の心を誤魔化して。
手にした鏡は、今は亡き人の姿を映し出す。
「ゆうな、どこかで見ているか? あんたのお父さんお母さんに頼まれて助けに来たぞ」
張り上げた声は、届いただろうか。
鏡に映したその姿は、あくまでも唯の鏡像。
魂は、そこには居ないけれど。
絵本の中に、両親は生きているのだと描く程に。
ゆうなが、両親を愛しているのなら。
両親が、ゆうなを愛していたのなら。
これはきっと、限りなく本当に近い嘘。
けれどこれは、しかと背負わなければいけない罪。
殺気を司る神の名を借り、呼び出すのは古代の戦士。
血に濡れたおぞましい手たちが放つ、少女の声色をした叫びと哄笑を。
地を揺るがすような咆哮で、かき消して。古代の戦士は猛然と突撃していく。
●
幼子が手にしたのは、黒と白のクレヨン。
『おおきな せんし は ほのおのやりを もって。
わるいおてて を たおします。
わるいおてて は せんしを つかもうと してきます。
でも おふだが とんできて。 ピカピカ まぶしく ひかりました。
わるいおてて は ひかりには さわれません。
どこかへ にげて いきました。』
――これは、優しい罪の物語。
成功
🔵🔵🔴
秋穂・紗織
自分の理想、夢を世界にと形にして描けることは、素敵なこと
少しだけでも自分を勇気づけてくれる何かがあるって大事
勿論、それを現実の世界に、少しでもっていうのも大切ですけれど
「小さくて儚い夢ほど、守りたいものですからね」
まずはこの迷宮を紡いだ心に
少しだけ優しい光と風を届けにいきましょう
押し寄せるのは、握りつぶす腕と掌
迷宮を傷つけないよう範囲を絞りつつ、伸びる腕の動きを見切り、避けながら、早業で斬り払いましょう
ふわり、くるり、するりと
不思議な世界を、風に踊り、悪夢の腕を断つよう
少しでも、心を守る風であれるようにと
幼き『ゆうな』の想いを、太刀振るい、風纏う姿で、鼓舞する為にも
夢は、ほら、あたなの手で届く
秋穂・紗織(木花吐息・f18825)の前で、大きくうねり、形を変えていく迷宮。
これは、小さな女の子が描いた絵本で出来ているという。
未来と言う輝きを握れる筈の、今は小さな手で。
懸命に創り上げた、世界。
こうして、描かれたキャラクター達をこの目で見れば猶の事、分かる。
これはきっと、ゆうなという少女にとっての『理想の自分』なのだろう、と。
両親が笑ってくれる。
先生や友達と、一緒に笑いあえる。
ささやかで、小さくて。
それゆえに、儚い夢。
だからこそ。
「小さくて儚い夢ほど、守りたいものですからね」
紗織がくるりと、身をひるがえせば。
風に揺れる花のように、衣の裾が翻る。
迫りくる異形の腕たちは、この理想の世界を破壊する、悪夢の化身。
ならば、1本たりとも残さずに。断ち切ってみせようと。
茶色の瞳にしかと見据えているのは、異形の手たち。
けれど、携えたこの刃は。
創り上げた世界から出られなくなってしまった、女の子のために振るおう。
白刃より巻き起こる風に、長い髪がなびく。
共にゆこうと伸びてくる手へ、一線を薙げば。斬撃は、空を渡って。
閉じた世界を切り開き、吹き抜ける風となって。
一陣の風は早く静かに、異形の手たちを切り伏せる。
普段ならば、ただ『斬る』と。
その一念で、刀を振るうのだけれど。
今日は、少しだけ違う。
背筋を伸ばして。
刃を振るう腕も、その足さばきも。
速く。しかし、その動線は柔らかく。
振るう刃と共に起こる、この風は。
悪しき夢だけを斬る守護の風と、女の子に届く様に。
迫りくる異形の手をすり抜けて、沙織は舞う。
あの絵本はきっと、『現実が、こうだったらいいのに』から。
『こう在りたい』という思いから、始まっているのだ。
その理想に、手が届かないように見えても。
現実の世界に、1歩、踏み出す勇気があれば。
その手はきっと、夢をつかみ取れるはずだから。
この身、この刃は、その追い風となるために。
●
女の子が手にしたのは、橙色のクレヨン。
『おねえさんは くるりくるりと おどります。
しろい かたなを ふると かぜがふいて。
あきいろ の ドレスが ふわふわと ゆれて。
わるいおててを こらしめました。』
揺れて舞う、静かな刃は――夢渡る花風の物語。
成功
🔵🔵🔴
アリス・フォーサイス
ゆうなちゃんが書くお話もおいしそうだな。
彼女を連れていかせはしないよ。
ぼくはゆうなちゃんの書く絵本の世界を否定しない。むしろ肯定するよ。
でも、現実でも絵本の世界のようなことが起こり得るってこと、見せてあげようかな。
ゆうなちゃんが絵本の中で一緒に冒険した七色の鳥をアナロジーメタモルフォーゼでビー玉から作りだすよ。
さあ、一緒にゆうなちゃんを助けよう。
邪教徒の囁きも、狂気の哄笑も、少女の無念の叫びも、ぼくたちは恐れない。ゆうなちゃんを守るためならね。
いくよ、これがぼくの全力魔法だ。
『うさぎの おうさまが そういうと――』
『――すると そらから いっぱいの おはなが――』
『らいおん の そんちょうさんは くびを かしげて――』
『――そして つきの おかを こえて――』
迷宮に紡がれたお話は、UDCアースという世界ではちょっぴり不思議な物語。
たくさんの笑顔があふれる物語。
それは、彩り鮮やかで。
アリス・フォーサイス(好奇心豊かな情報妖精・f01022)にとっては、とても『おいしそう』な物語。
どうせなら、デザート―クライマックス―まで、味わいたいのだけれど。
振り返って見てみれば、そこに蠢いているのは。暗い声を上げ、血にまみれた沢山の手。
このオブリビオンたちは、物語に余計なスパイスを加えようとしているばかりか、シェフである紡ぎ手の女の子まで、攫おうとしているという。
(彼女を連れていかせはしないよ)
このお話が『おいしそう』なのは、きっと彼女――ゆうなちゃんが、この物語をとても大切に、そして丁寧に創り上げているから。
もしも誰かが、この絵本の世界を否定したとしても。
アリスは決して、否定しない。
色を選んで。描いて。言の葉を綴って。
ゆうなの物語は、誰もが手で触れて、目で見られる形となって今ここに存在しているのだから。
想像は。物語は、ちゃんと『形』になるのだから。
「ゆうなちゃん、よく見ててね!」
友達に話しかけるように、迷宮に向かって言葉を紡いで。
アリスが取り出したのは、カラフルなビー玉。
ポロポロと、手から零れ落ちるそれは。アリスの魔力を受けて、地面に落ちる前に1と0に解けていく。
現実でも、絵本の世界のような事は起こるのだ。
ほら、こうして。こうやって。
現実的な2つの数字は、情報妖精の手によって、魔法と見紛う神秘へと変わる。
厚みを増した濃い7色は、クレヨンの色味。
大きく羽を広げた姿は、羽ばたく鳥。
ゆうなの絵本で描かれていた虹色の鳥が、そのまま立体的な姿で具現化して。
ふわりと、アリスの傍に降り立った。
「さあ、一緒にゆうなちゃんを助けよう」
心を締め付けてくるような叫びも、怖くないと自らを奮い立たせて。
手にしたロッドへ魔力を込めれば、鳥の鳴き声が高く響いて――。
●
手にしたクレヨンは――七色全部、順番に。
『「これが ぼくの ぜんりょくまほうだ」
にんぎょうの おんなのこが まほうのつえ を ふると
にじのとりさん は とびました。
おおきなはねを ひろげて
わるいおてて に ぶつかって いきます。
にんぎょうの おんなのこ の まほうで
にじのとりさん は とっても つよいのです。
わるいおてて は あっというまに にげていきました。』
色鮮やかに描かれた、これは――羽ばたく創造の物語。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『閉鎖機構』ヴァーリ』
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POW : 一緒にいようよ。
戦場全体に、【段々水が注がれていく水槽】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
SPD : きみが欲しいよ。
【随伴硝子球】から【水槽に引き込む不思議な水】を放ち、【鹵獲】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : さよなら。
自身が【さみしさ】を感じると、レベル×1体の【骨になった魚たち】が召喚される。骨になった魚たちはさみしさを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:なすか
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「エンゲージ・ウェストエンド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『わるいおてて は すっかり いなくなりました。
けれど おとこのこは あきらめません。』
手にしたのは、青いクレヨン。
白い紙を塗りつぶす、いっぱい、いっぱいの水。
どれだけ塗っても、ゆうなの手はとまりません。
これは、みんなを連れていく。こわいこわいお水。
でも、塗るのを止める事はできないのです。
なぜならお話は、まだ終わっていないのですから。
『おとこのこは くびを かしげて いいました。
「どうして じゃまを するのかな?」
「あぁ …… それとも きみたちが ぼくの ともだちになってくれるの?」
ちがうよ と いっても おとこのこは きいて くれません。
「じゃあ いっしょに いようよ」
おとこのこ は そういうと
ふしぎなみず や ほねのおさかな を だしてきました。』
――さぁ、次のページをめくりましょう。
青霧・ノゾミ
これ以上、迷宮に水が満たされることはないよ。
……なぜなら、すべて凍ってしまうから。
【氷と雪の嵐】を発動させ、
敵から注がれる水を凍らせることに集中する。
流れてくる水の動きを全て止めるつもりで。
氷でせき止めれば水の流れも変わるから、
波打ち寄せ来る水も造形するがごとく凍らせ、
骨魚の移動を阻んだり、盾にしたり。
先を尖らせ攻撃の手段にしたりもする。
王子が弱音を吐くなんてありえないからね。
攻撃を喰らっても耐え、余裕の笑みを崩さない。
さよならは、終わりじゃないんだよ。
僕も、ゆうなの大切な人達を守るよ。
ゆうなを一人きりにはしないから、
無理はしないで。
ゆうなが迷宮を強固なものにしなくて良いように、励ましの声を。
ニレッド・アロウン
一緒に居ようよ?やなこったです。
で、どんどん水が注がれてくるんですけどー?鬱陶しいですねー?
なので一旦飛び上がり、水が注がれる所を氷の魔力で栓でもしてしまいましょうか。
そんで水槽の素材、何でしょうか?
まー、知らんですけど何とかなりますか。炎の魔力を纏い攻撃強化、そのまま炎【属性攻撃】により水槽を溶かしましょうか。まー、そう簡単に溶けないでしょうし、駄目なら【全力魔法】で一気に溶かしていきますか。
その勢いのまま、こんなことしている奴のところまで乗り込みます。
で、太腿まで水が来ているくらいでしょうかね?ならいいです。勢い付いている炎の魔力を水にドン。高温の蒸気で私ごと蒸し焼きにしていきましょうか。
「じゃあ、一緒にいようよ」
友達が欲しいのだと、そう言って。
しかし、ヴァーリが差し出すのは手ではなく、呼び出した水。
絵本の迷宮を壊そうとしていたはずの、水槽の迷宮も。いつの間にか、猟兵たちを囲むように展開されていた。
『一緒にいる』とは。つまり、この水槽の中に居ろという事だろうか。
いずれ、全てが水に満たされてしまうだろう。この水槽の中に。
「一緒に居ようよ?」
ヴァーリの言葉に、ニレッドは鼻を鳴らした。
「やなこったです」
はっきりと言い放ち、大鋏を構えれば。
徐々に水位が上がっている、水槽の迷宮の奥……その透明な壁越しに、ヴァーリが表情を曇らせる。
「どうして? 友達なら、一緒にいるものでしょう?」
ヴァーリがそう言うと、まるで猟兵たちを逃がさないとでも言うように。
足元を濡らしている水槽の水が、勢いを増した気がする。
「鬱陶しいですねー?」
どうにも『友達』を勘違いしているヴァーリの物言いと、じっとりと水を吸って張り付いてくる湿った衣服の感覚が、益々ニレッドの神経を逆撫でしてくる。
まずは、この水を堰き止めてしまいたい所だが。
水が注がれる場所を上空から探してみようかと、見上げてみるけれど……視線の先にあったのは、壁と同じく透明な天井。
(本気で逃がさないつもりですね、これ)
……こうなってくると。
もう、迷宮を形作っている当人をぶっ飛ばすのが、一番手っ取り早いだろうか。
迷宮の壁は、ガラスのように思えるが。ユーベルコードで作られている以上、不可思議な力で強化されていてもおかしくはない。
既に、ふくらはぎの辺りまで、水位が上がってきている。
あまり悠長にしている時間もなさそうな事だし。何にしても、やってみるのみ。
何とかならなくても、何とかするの精神で。ニレッドは、手にした鋏に炎を灯す。
熱く。より熱く。
魔力を込めた炎熱に、ガラスの壁は赤みを増していくけれど。
水の満ちたこの空間で、壁を溶かすには、まだ足りない。
だが、そこに。
汗ばむ額を冷やすように、冷たい風が吹き抜けて。
パリン、と。
いともあっけなく、ガラスの壁が砕けた。
「これ以上、迷宮に水が満たされることはないよ」
掛けられた言葉に、ニレッドが振り返ってみれば。
頬を撫でていた冷たい風は、更に冷たい、凍てつく冷気へと変わっていく。
「……なぜなら、すべて凍ってしまうから」
はらはらと氷雪の舞う、その真ん中に立っていたのはノゾミ。
気まぐれな自然の力は、制御が難しいけれど。
王子様はいつでも、仲間に優しく。そして、敵には毅然と立ち向かうもの。
だから、余裕の表情は崩さずに。
ヴァーリの水だけに、意識を集中させれば。
ゆっくりとだが、確実に。水槽を満たしていた水が、凍り始める。
膨張し砕けた氷片が、冷気が、ニレッドの熱した壁に触れれば。
その急激な温度差に、ヴァーリの迷宮も耐えかねて。
パリンと、割れ落ちる。
熱疲労。
なるほど、こういう手もあったかと感心しつつ、ニレッドが顔を上げて。
眼帯の奥に隠した瞳は、ヴァーリを見つめる。
あと数枚、壁をぶち抜けば。やっと挨拶が出来そうだ、と。
ガラス混じりの氷片を踏みしめて、ニレッドが駆けだせば。ノゾミもまた、その後を追おうとして……その前に、絵本の迷宮へと振り返った。
「ゆうなを一人きりにはしないから、無理はしないで」
ゆうなを怖がらせないように。穏やかな声色で、ノゾミは紡ぐ。
今、この時も。
ゆうなは、クレヨンを手に戦っているのだろう。
水槽の迷宮からこぼれ出る水を拒むように。絵本の迷宮は未だに、登場人物たちを包み込んだまま、ここに在るのだから。
それは、無意識にしている事なのかもしれないけれど。
「僕も、ゆうなの大切な人達を守るよ」
王子様はいつでも、優しい女の子の味方なのだから。
氷雪の嵐を纏って、ノゾミは颯爽と駆ける。
ニレッドの熱した壁に、強い冷気をぶつければ。ガラスの壁は、次々と割れ落ちて。
「どうして。水槽を壊すなんて、酷いよ」
迫りくる猟兵たちの姿に、ヴァーリが顔を歪めた。
「友達じゃ、ないの?」と、問いかけるヴァーリの言葉と共に、その周囲に浮かぶ硝子球からするりと魚が飛び出して。
「友達じゃないなら、いらないよ。さよなら」
骨だけの体をカタカタ鳴らして。宙を泳いで、猟兵たちへと迫りくる。
仲間の邪魔はさせないと。
纏う氷雪に、意識を集中して。解き放てば。
凍てつく風は、仲間をヴァーリの元へと導く、氷の道となって。
荒れ狂う氷雪は、刃の渦となり怪魚たちへと襲い掛かる。
ヴァーリの言った「さよなら」は、ただ拒絶するだけの終わりの言葉。
けれど、その本当の意味は。
終わりじゃないんだと、彼女に――ゆうなに伝わるように。
ノゾミへと、狙いを変えて牙をむく怪魚に。
余裕の笑みを崩さぬままに、冷たい刃を振るう。
さぁ、反撃を始めよう。
冷たい、氷の道を強く蹴って。ニレッドが飛ぶ。
手にした鋏に宿すは、ここまでの道のりでより熱く昇華した炎の魔力。
ヴァーリの周囲で騒めく水が、その炎を消さんと迫ってくるけれど。
構わずに、ニレッドが鋏を振り下ろす。
ある一線を越えた炎は。熱は。
水を消すのだと。その身に刻むといい。
大量の水蒸気が噴き上がり、視界を白く染め上げる。
それは、炎よりもなお熱く、ヴァーリの体を焼いて。
ニレッド自身もまた、その熱に侵されながら。
けれどその唇は、緩く弧を描く。
友達と、言いながら。
自由を奪い、鑑賞するような、こんな『牢獄』のような場所を、粉々に出来るのならば。
甲高い音と共に、ガラスの壁が。迷宮が崩れていく。
キラキラと輝く鋭利な破片が降る中で。
金糸の髪を持つ天使は、ざまぁみろと笑っていた――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
勘解由小路・津雲
いつぞやの戦場でお会いした方か、それは頼もしい。
さて、ここは戦闘に集中せねばな。あんた、なぜ友が欲しいか知らないが、そんな強引なやり方じゃ、本当の友人なんてできはしないぜ。
【戦闘】
範囲が広すぎて使いにくい技だが、この状況ならいけるか?
【氷術・絶対零度】を使用。ただし先に相手に攻撃をさせる。そして、不思議な水で鹵獲しようとしたタイミングでUCを発動。
範囲内を無差別攻撃する技だが、これならおれの周囲はすべて相手の水槽から出て来た水。それが冷気を遮断してくれるはず。
そして凍った水を破壊し脱出、敵本体を「玄武の錫杖」で攻撃する。
「悪いな、ヴァーリとやら。あんたの物語は、おれ達猟兵が終らせる」
秋穂・紗織
どうして邪魔をするのか、友達にならないのか
それは貴方が水槽に閉じ込めるように、私達の言葉を聞いてくれないから
どうして一緒にいこうとしないのか
それは、決して、その先で微笑むことも出来ないから
きっと、心や感情を汲んでくれない、貴方には届かないことでしょうけれど
ならばと、花風として想いを刃を届け、刻みましょう
常に最速で動くのではなく、ダッシュ+フェイントで緩急をつけた動きで当てを惑わし
水が伸びてくるのなばジャンプも用いて飛び退いて避け、捕まらないように
カウンター+早業で返しの太刀を一閃
元々、硝子球から放つ水を扱うのなら、その硝子球を斬り
更に二回攻撃で本体を
空渡り、夢渡るならば
閉ざす水の牢を斬り裂いて
猟兵たちを閉じ込めていた水槽の迷宮が、音を立てて崩れていく。
津雲の視界の先、ヴァーリ本体へと突撃をかけた者の1人は、やはり。以前にも、戦場を共にした猟兵。
その姿に、頼もしさを感じながらも。
津雲は油断なく、錫杖を構え直した。
まだ、戦いは続いているのだ。今は、そちらに集中しなければ。
「……逃がさない。みんな、僕の友達になるんだ」
「あんた、なぜ友が欲しいか知らないが……」
硝子球から水を呼び出して、猟兵たちを見据えるヴァーリの瞳に浮かぶのは、異様なまでの執着の色。
到底、友達に向けるような、それではない。
「そんな強引なやり方じゃ、本当の友人なんてできはしないぜ」
肩をすくめる津雲に、しかし返って来たのは、水による攻撃。
「友達は、一緒にいるものでしょう?」と。
駆け違えてしまったボタンのように。根本的な何かが、噛み合わない。
それは、相手がオブリビオンであるからなのか。
それとも生前から、そのように生まれてしまったのか。
知る術はないけれど。
流動的に蠢きながら迫ってくる水を、さらりと交わして。
紗織は白刃を構え直した。
どうして邪魔をするのかと。友達にならないのかと問いながら。
この水による攻撃は、止まる気配がない。
問うていながら、答えを聞こうとしていないのだ。
主張するばかりで、相手の言葉は聞かずに。
まるで標本か何かのように、その水槽に閉じ込めて。
笑いあう事さえできない関係を、どうして友と呼べようか。
枝分かれし、捕らえんとしてくるヴァーリの水。
しかし揺れ動く水の動きなら、こちらにも心得がある。
速く。緩く。流水のように揺らぐ足さばきで、すり抜けるように交わして。
紗織は、白刃に風を纏わせ、機を計る。
きっと、何を説いても。どんな言葉も。ヴァーリには届かないのだろう。
あるいは――。
「欲しい。僕だけの、友達。一緒に、いようよ!」
自分自身の感情しかない、ヴァーリの叫びに。
ふと。その可能性に気付く。
あるいは、紗織が日常と言う平穏を、掴めないように。
ヴァーリにとってもまた、ヒトの心、感情は『掴めないもの』なのかもしれない……と。
ヴァーリの叫びに呼応するように、壊れた水槽の迷宮からこぼれた水が波打って。猟兵たちへと迫る。
徐々に収束し、迫ってくる水の壁に津雲は周囲を見回すけれど。
――逃げ道が、ない。
周囲の景色が歪むほどに、分厚い水の壁。
物理的な攻撃では、とても貫けそうにないが。
――いや、この状況ならば。
逆に、『巻き込む』心配もないか。
気合の声と共に、錫杖を打ち鳴らせば。
込めた霊力は、冷気となって放たれる。
それは、自分の意思とは関係なく、全てを巻き込む壮絶な氷の刃。
下手をすれば仲間を巻き込む、危険な技だけれど、今ならば。
津雲を襲わんとする、この水の壁が。
逆に、津雲から仲間を守ってくれる防壁となる。
凍てついた氷の壁に、周囲の光景は白くかすむけれど。
ヴァーリの居た方向は、しかと覚えている。
――パリン、と。
高い音が響いて。
勢いのまま、氷片を踏みしめて津雲が駆けた。
「悪いな、ヴァーリとやら」
新たな水を呼び出す暇は与えない。
一足飛びに、距離を詰めて。錫杖を振りかぶる。
「あんたの物語は、おれ『達』猟兵が終らせる」
飛び退くヴァーリに。振り抜いた錫杖は、その体をギリギリ掠めるに留まるが。
そのまま真横へと、体を交わせば。
津雲が駆け抜けた、その道は。
紗織の射線へと変わる。
水が動きを止めた、この一瞬。
構えた刃の風に、一層の力を籠めれば。勢いを増した風に、纏う衣が翻る。
――ヒトの心を、想いを掴めない貴方には。
「きっと、届かないことでしょうけれど」
けれど、分からずとも。掴めずとも。
思いを想像して。尊重する事が、ヒトには出来るはずだから。
「花風として想いを刃を届け、刻みましょう」
白刃を、速く静かに振り抜ぬけば。
纏う風は空を渡って、暗く閉ざされた水の牢獄に、光りを届けた。
そして、もう一陣。
日常に馳せる想いを、ヒトがヒトを想う心を乗せた、夢渡る風は。
ヴァーリの体へと、吸い込まれたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アリス・フォーサイス
ゆうなちゃんのおいしいお話を感じたよ。もっとがんばるね。
今度はお友達になる話だよ。
ヴァーリちゃんはお友達がほしかったんだよね?
じゃあ、お友達になろう。ぼくのちびアリスと。
「さみしいの?」
「だったらぼくたちとあそぼう」
「いっしょにいこう」
たとえ悪者に見える人も、手を繋げば友達になれるんだ。
そして遠くへ誘うよ。誰にも迷惑をかけない遠くへね。
イル・ラース
アドリブ、共闘歓迎
おともだち…?それがあなたのほしいものかしら?
あなたはお友達に何を欲するの?ただそばにいて欲しいだけ?思い通りになる存在?
そうね…わたしは、なってあげてもいい。でも今のあなたとはおともだちになれそうにないわね。だって、無理矢理だもの。引きずり込まれるのは嫌よ?
寂しさは、わたしにもわかるわ。けれど、寂しさを埋めるためにおともだちを欲するのはいけないわ?きっと、あなたもおともだちも不幸になってしまうもの。
……ああ、お魚さん達が邪魔ね。花に裂かれなさい?
ヴァーリさん、ゆうなさんを無理矢理連れていくなら、あなたも。でも、おともだちとして最期まで寄り添ってあげる。手を繋ぎましょう?
猟兵たちの猛攻に、水槽の迷宮は砕けて。
ヴァーリ自身の体もまた、ひび割れた所から、水が零れだしていく。
「僕の……友達。に、なって……」
言葉は、既に途切れ途切れで。
けれど、ヴァーリは止まらない。
猟兵たちへと向けて、手を伸ばし、1歩2歩。踏み出してくる。
「おともだち…?それがあなたのほしいものかしら?」
イルが首を傾げれば、その隣でうんうんとアリスが頷いて。
「ヴァーリちゃんは、お友達がほしかったんだよね?」
最初からずっと。ヴァーリは「友達になって」と。
「一緒にいようよ」と言っていた。
今もこうして、手を伸ばすのならば。
「じゃあ、お友達になろう。ぼくのちびアリスと」
アリスがロッドを掲げれば、元気よく現れ飛び出したのは、50を超えるちびアリスたち。
「さみしいの?」
「だったらぼくたちとあそぼう」
二頭身のデフォルメボディで、短い手足をぱたぱたさせて。
「いっしょにいこう」と、ヴァーリへと駆け寄っていく。
背にした絵本の迷宮には、いつの間にか猟兵たちがキャラクターとして描かれている。
そこから感じる、暖かな何かは、とても『おいしそう』で。
だから、がんばって。見せてあげたいのだ。
その物語に、『お友達になるお話』が『仲良くなれるお話』が増えるように。
たとえ悪者に見える人も、手を繋げば友達になれるんだ、と。
真っ直ぐに信じる、アリスの心に応えて。
ちびアリスたちが駆けていく。
その光景に、ヴァーリは水色の目を見開いて。
「友達……僕の、友達」
けれど、差し出した手が呼び出すのは、鹵獲の水。
宙を流れる水が渦を巻き、ちびアリスたちを攫っていく。
瞬く間に、水槽へと閉じ込められてしまって。
その水の中、ちびアリスたちは苦し気にじたじたと手足を動かすけれど、とても出られそうにない。
「あなたはお友達に何を欲するの?」
その光景に、イルが静かに問う。
閉じ込められてしまった小さなアリスたちは、ユーベルコードの効果で現れた存在だけれど。
もしもヒトが、あのように閉じ込められてしまったら。
あっという間に、溺れ死んでしまうだろう。
「ただそばにいて欲しいだけ? 思い通りになる存在? そうね……わたしは、なってあげてもいい」
ただ純粋に、友達になりたいと言う願いなら、応えてあげられるけれど。
「でも今のあなたとは、おともだちになれそうにないわね」
ヴァーリの想いは、ただただ一方通行で。求めるばかりで。
その求めに応じる声も、拒む声も。どちらも聞いてはくれない。
イルの言葉に、イルと同じ色の瞳が、悲し気に揺れて。
「ぁ、ぁ……どう、して。僕の……友達に」
なってくれないの? と。
絞りだすようなヴァーリの声に呼び起こされた骨の魚たちが、カタカタと音を立てた。
――それが。
その、連れて行こう。傍に置こうという姿勢が、そもそも違うのだと。
どう伝えれば、ヴァーリに届くのだろう。
水気に満ちた空気の中に、ふわりと花の香りが漂う。
この声が。心が、届かないのなら。
どうしても、ゆうなを連れていくと言うのなら。
「花に裂かれなさい?」
現実に溢れた赤い花が、刃となって飛んでいく。
イルは、『寂しい』を知っている。
心に穴が開いてしまったように、寒くて、暗くて。
誰かの名前を呼びたいのに、呼んでも誰も応えてくれない事実だけがそこにある。
そんな寂しさを知っている。
けれど。
無理矢理に連れ去って、おともだちを傍に置いてみても。
きっとその穴を埋められない。
ただお互いに、不幸になるだけだと思うから。
赤い花が舞う。
その中を、アリスはゆっくり進んでいく。
切り刻まれて、体のヒビが広がっていくヴァーリに向かって。
相手はオブリビオンで。
どうしても相容れない事もあるのかもしれないけれど。
アリスの唇は、否定の言葉を紡がない。
だってこれも、1つの物語だから。
ヴァーリと言う名前の、人形の男の子が紡いだお話なのだから。
ただ、誰にも迷惑をかけないように、導こう。
体が崩れていくヴァーリに、微笑みかけて。手を伸ばす。
紡ぐ言の葉は――。
●
足が砕けて。
世界がぐらりと揺れて、暗くなっていく。
暗い。痛い。冷たい。――寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
寂しい。寂しい。寂しい。
僕は――。
「いっしょにいこう」
「手を繋ぎましょう?」
誰かの声が聞こえて。
両の手が、何故か温かい。
なんだろう? わからない。
あぁ、でも。
これは、とても暖かくて。
少しだけ、寂しくない。
――手のつなぎ方を知った、男の子の物語は。これで、おしまい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 冒険
『ラビリンスを突破せよ』
|
POW : とにかく諦めずに総当たりで道を探す
SPD : 素早くラビリンスを駆け抜け、救出対象を探す
WIZ : ラビリンスの法則性を見出し、最短経路を導く
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
『――おとこのこ の ものがたり は これで おしまい。』
真っ白だった絵本のページも、ほとんど埋まって。
あとは最後の8文字を。
物語のおしまいは、いつだって「めでたしめでたし」で終わるもの。
けれど。
ゆうなは触れていないのに。絵本のページがぱらりとめくれて。
勝手にお話が進みます。
クレヨンを手にしていないのに。
誰も描いていないのに。
白いページに、勝手に絵が浮かび上がって。
すらすらと、文字が綴られていくのです。
『せんせい も おともだち も
みんなみんな ぶじでした。
でも ゆうな は いかなくては いけません。
とびらは もうすぐ ひらくのです。
もうすこしで ひらくのです。
でも だいじょうぶ。
ゆうな が とびらの むこうに いっても
だれも さびしく ありません。
だって ほんとうの ゆうなには
おとうさん も おかあさん も
おともだち も いないのですから。
さぁ このせかい に さよならを。
あたらしい せかいへ いきましょう!』
こわい、こわい。この絵本は。
もうゆうなには、どうにも出来ません。
この世界の、最後の居場所。
ゆうなだけの物語は、もう無くなってしまったのです。
その新しい世界に行ったなら。
こんな気持ちを知らずに済むのでしょうか。
――物語は、終わりに向かって。最後のページが開きます。
アリス・フォーサイス
よし、それじゃあとはゆうなちゃんを救えばめでたしめでたしだね。
わかるでしょ?ぼくは、ぼくたちはゆうなちゃんを助けに来たんだよ。
ゆうなちゃんが救われなければめでたしじゃないんだ。
今度は絵本の中でやっつけられて改心した、ネズミのどろぼうさんをビー玉から作って強力してもらうよ。
言ったでしょ。絵本の世界のようなことが現実でも起こり得るって。七色の鳥やネズミのどろぼうさんがゆうなちゃんを救うために現実に現れたのと同じように、お友達を作ることも、現実で起こり得ることなんだよ。
ゆうなちゃんがあと一歩前に進めばね。
秋穂・紗織
どうにも出来ないと、諦めてしまうことこそが悲しい
こうだったらいいのに、を、こう在りたい、と変えてしまえる力
それが思いで、感情で、守る迷宮を産み出した力の筈
私は切実に思うこと、心の重さをしっかりと感じることは出来ないですけれど
それでもと、抱くものはあるのです
届けたい、叶えたい祈りはあるから、今は駆け抜けましょう
難しいこと、複雑なことは今は捨て置き
ゆうなの為に今、翔るひとがいるということを
あなただけの物語はなくなったとしても
新しいひとと、楽しい物語を踏み出せるのだと
現実で笑い合うことこそ嬉しいのだから
妖剣にて寿命吸われても
心ばかりはと、悲譚に染まらぬよう
「心は、気持ちは、決して終わらないのですよ」
ニレッド・アロウン
ああん?これで結局失敗とかざけんなです。気分悪くなるじゃねーですか!
空になった魔力振り絞って障壁展開、鋏を構えクレヨンの迷路へ突貫です!UCで加速し、【怪力】を活かし鋏を突き立て、加速した勢いそのままで壁をぶち破って助けを求める奴のとこまで行きます!鋏が砕ける?壁への衝撃で痛い?壁が固く突破できない?知るか、【覚悟】キメて歯ぁ食い縛ってぶち壊していきます!
こんな風に、あなたを救おうとしている奴がいるんですよ。私以上にめっちゃ頑張っている奴もいるんですよ。だから一人だとか何だとか物語がなくなったとかで落ち込んでんじゃねーですよ!少しくらい頑張って耐えてろ、とっとと助けに行きますからね!
イル・ラース
悪いものはいなくなった。それでも書きかけた物語は終わりまで止まらない…そういうこと?
新しい世界はゆうなさんにとって楽しい世界になるかしら?でも、多分この絵本の世界のように優しくはないのでしょうね。わたしは、この世界を現実にしてほしいと思うわ。だから、ゆうなさんをきっと助ける。
どうしたらこの世界を最短距離で進めるのかしら?
終わろうとする世界をわたしの世界に閉じ込めて、無理矢理道を開くかしら…?
飛んでまっすぐ行けたら良かったのに。
ゆうなさんはどこにいるかしら?絵本を描くのはどのお部屋?きっと、どこか絵本と一緒にいるはずよね。
早く行って、その手を取りましょうね。
ヴァーリが消滅して。
そのユーベルコードによって呼び出されていた大量の水もまた、ゆっくりと消えていく。
それでもまだアリスの手には、ヴァーリの手を取った感触が残っていた。
最後の最後に、少しだけ。握り返してくれたように思う。
「それじゃあとは、ゆうなちゃんを救えばめでたしめでたしだね」
ヴァーリの物語――その章は、これでおしまい。
あとは、最終章『ゆうなの物語』を「めでたしめでたし」で締めくくるのみだ。
けれど、そんな猟兵たちの前へと立ちはだかるのは、ゆうな自身が創り出した絵本の迷宮だった。
「書きかけた物語は終わりまで止まらない……そういうこと?」
みんなを守る為に、絵本を書き続けていたのなら。オブリビオンが全て倒された今、これ以上は書かなくても大丈夫なはずなのに。
絵本の迷宮は依然として、猟兵たちの目の前に存在し続けていて。
イルはきょとりと首を傾げる。
「これで結局失敗とかざけんなです。気分悪くなるじゃねーですか!」
迷宮の出口前で仁王立ちした蛮族……いや、素のニレッドが「ああん?」と声を荒げて。
猟兵たちは、互いに顔を見合わせた。
オブリビオンはあくまで、暴走しているゆうなのユーベルコードに引き寄せられて来ただけなのだと、そう聞いた。
この迷宮を突破して、ゆうな自身を迷宮から救わなければ、ゆうなはアリスラビリンスへ召喚されてしまうのだと。
その世界は、果たしてゆうなにとって楽しい世界になるのだろうか?
もしも優しい世界、楽しい世界となるならば、召喚を止める理由はないけれど。
イルは、思考を巡らせてみる。
召喚されれば、ゆうなはUDCアースでの記憶を失って、様々な不思議の国を旅する事になるだろう。
それで、UDCアースでの辛い記憶や悲しい感情とは、『さよなら』できるのかもしれないけれど。
それは、優しい世界と言えるだろうか。
人肉を喰らうオウガにも、常に狙われる事になる。
オウガから逃げ伸びて、生還を果たしたとしても。やはり、このUDCアースに戻ってくる事になるのなら。
(わたしは、この世界を現実にしてほしいと思うわ)
迷宮の壁に描かれた、笑顔のキャラクターたち。
誰かと笑い合うこの世界を、実現にする事にこそ、意味があるはずだから。
「ゆうなさんをきっと助ける」
自身の想いを定めて、イルが言の葉を紡げば、うんうんとアリスも頷く。
「ゆうなちゃんが救われなければ、めでたしじゃないんだ」
「ゆうなさんはどこにいるかしら?」
きっと、どこか絵本と一緒にいるはず。
絵本を書くのは、どのお部屋だろう。
迷宮の中央と、グリモア猟兵が言っていた気はするが。
最短距離でそこまで進みたい気持ちはあるけれど、出口から覗き込んでみた迷宮は、幾本もの道に分かれていて。
「飛んでまっすぐ行けたら良かったのに」
そう言って見上げてみるけれど、残念ながら迷宮は天井で閉じられている。
嘆息するイルに、しかしニレッドが進み出て鋏を構えた。
「行けますよ。こんなものは『真っ直ぐ』飛んで、ぶっ壊せばいいんです!」
あの絵本の迷宮は。ゆうなという少女が、自分自身で作り上げてしまった牢獄。
助けてくれる人が、手を伸ばしてくれる人が、確かにいるのに。
その少女は、自ら目を閉じ、耳を塞いでしまっているのだ。
その事に、ニレッドの心は苛立ち、怒る。
けれど、この荒ぶる感情の大波は。牢獄壊すために必要なもの。
だからこそ、真剣に怒る。
「行きますよ!」
全身を、鋏をオーラで覆って。ニレッドが飛ぶ。
波立つ感情を糧として、一瞬にして速度を上げて飛び出せば。
その、進路上。迷宮の壁に描かれたキャラクターたちが、慌てて逃げだして。
凄まじい衝突音が、迷宮中に響いた。
隕石でも落ちて来たのかと思う程の、衝撃。
だが、それ程の速さを以ってしても、ニレッドの体は壁に止められて。
構えた鋏の先端が、突き刺さりこそしたものの、それ以上進まない。
ニレッドの突飛な行動に、取り残された猟兵たちは目を丸くしていたけれど。
いち早く、我に返った紗織が、思わずくすりと笑みをこぼす。
こうして、集った猟兵たちがいる。
ゆうなと言う少女に、様々な思いで、心で、向き合おうとしている人たち。
そして、自分にもまた。
伝えたい想いが、叶えたい祈りが、この胸に確かにあるから。
白刃を手に、紗織はニレッドの後を追う。
立ちはだかる絵本の迷宮は、現実を変えていきたいと願って創り上げた筈のもの。
今はそれが、ゆうなだけの物語はなくなったのだとしても。
新しいヒトと、楽しい物語を踏み出せるのだと知って欲しい。
現実で笑い合うことこそ、嬉しいのだから。
だから、諦めないで。
どうにも出来ないと、言ってしまわないで。
それを、どのような言葉にすれば、ゆうなという少女に伝わるのか。
人が思い描く事。その心の重さは紗織には、どうしても形が見えなくて。掴み取れなくて。少し、迷っていたけれど。
「真っ直ぐ飛んで、ぶっ壊せばいい」なんて。
そんな風に、シンプルに言い切られてしまったら。
それを迷わず実行されてしまったら――。
難しいことは置いておいて、自分も、まずは駆けよう。
心は、気持ちは、決して終わらないのだと。そう伝えるのは、少女と顔を合わせてからでいい。
上手く伝わらなければ、何度でも、言葉を重ねよう。
めでたしめでたしの言葉で、この物語が締めくくられるまで、何度でも。
だから。
手にした白刃より溢れ出す怨念が、紗織を包んで。
魂が冷えてゆくような、悲しみが。慟哭が、肌を通して染み込んでくるけれど。いつもの穏やかな笑みは絶やさぬように努めて。
ヒトの心と心が、伝わって、響き合っていくものならば。
纏う怨念の悲譚はだけは、伝わってしまわぬように、そっとこの胸に隠して。
一閃、刃を振るえば。斬撃は衝撃波となって、絵本の壁にぶつかっていく。
ニレッドの突進に、紗織の斬撃。
二重の衝撃に、壁のヒビが広がっていく。
ふと、イルが横の方を見れば、他の壁へと逃げていった絵本のキャラクターたちが、恐る恐るといった様子で、その光景を眺めていた。
あのキャラクターたちのように。もしかしたらゆうなも、猟兵たちの行動に驚いて……少し怖がっていたりするだろうか。
けれど、急がなければ。
この優しい世界は、どこにも結び付かずに、終わってしまうのだから。
「早く行って、その手を取りましょうね」
手を伸ばす勇気が出ないなら、まずは私の方から、手を取りに行こう。
だから、まだ行かないで。もう少しだけ、待っていて。
描く世界は、夢は。ちゃんと現実に出来るのだから。
赤い赤い、私の世界。
イルがそう呼びかければ、夢見る花の世界が。現実に、開く。
ふわりと舞い跳ぶ赤い花の斬撃が、更に壁のヒビを広げて。
――あと、少し。
自分自身の速さがもたらす圧力に、手も足も、千切れそうに痺れていて。
それでも、歯を食いしばり、ニレッドは耐える。
どれだけ堅固なのだ、この壁は。自身で自身を閉じ込める、この牢獄は。
こんなにも、こんなにも――。
「あなたを救おうとしている奴がいるんですよ!」
ちゃんと『物語』として見ていたのら、知っている筈なのだ。
これ程の人が、手を差し伸べている事を。
ゆうなという少女のために、これ程までに頑張っている事を。
それなのに、落ち込んでいられるほどの不幸が、一体何処にある?
どこかの血管でも切れただろうか。眩暈がするけれど。
ゆうなという少女は、今決して一人ではない。
だから皆の声を聞け、目を開けと。精一杯空気をかき集めて、ニレッドは声を張り上げる。
「少しくらい頑張って耐えてろ、とっとと助けに行きますからね!」
3人がかりでの、強引な迷宮突破。掛ける言葉も、少し乱暴だけれど。
ふふっと、アリスは笑って。迷宮の中央へと語り掛ける。
「ぼくは、ぼくたちはゆうなちゃんを助けに来たんだよ。」
わかるでしょ?
『ばんぞくの おねえさん』『かぜの おねえさん』『ちいさな てんしさん』
そして勿論『にんぎょうの おんなのこ』も。
ずっと、絵本として見て来たのだから。
パラパラと散らばる、カラフルなビー玉は。今度は『ネズミのどろぼうさん』へ姿を変えて。
元気よく、迷宮の中を駆けていく。
そのうちの1匹を、アリスが抱き上げて見せれば。風呂敷包みを背負ったネズミは、チュウ!と一声鳴いた。
「七色の鳥やネズミのどろぼうさんが、ゆうなちゃんを救うために現実に現れたのと同じように、お友達を作ることも、現実で起こり得ることなんだよ」
目の前に、ゆうな本人が居るかのように。
言ったでしょ、と。アリスは微笑みかけた。
絵本の世界のようなことが、現実でも起こり得るのだから。
創り上げた物語のように、友達だって作れる。
まだ自分から手伸ばす勇気がないのなら、今からぼくたちが行くから。
「だから、もう少しだけ待っててね」
その手を取るのは、最後の1歩を踏み出すのは、ゆうな自身でなければ意味がないから。
アリスの呼びかけと同時、壁が砕けて。
猟兵たちは突き進む。
まだ2枚目、3枚目と壁は多く残っているけれど。
その硬さは、確かに。脆くなってきていると、手ごたえを感じながら。
最短で、一直線に進んでいく――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
勘解由小路・津雲
さて、迷宮の突破と、ゆうなの説得か。なかなかきついね、これは。
【行動】(WIZ)
道具「式神」を飛ばし、手分けして迷宮をゆく。霊符をはって目印に。通った道の確認のため、あるいは行き止まりには×型にはり、仲間たちの目印にもなるように。
自分や「式神」、出会えれば仲間からも「情報収集」し、法則性があるなら解き明かしたいが。
そしてゆうなにかける言葉。――すいませんもう一度、その名を騙ります。私に力を、あの子を助ける力を貸してください!
「ゆうな、見ているか? お父さんお母さんに言いたいことはないか」
口下手な子だというが、伝えたい思いが話し出すきっかけに、そして未来を生きるきっかけになってくれればいいが。
耳に届いて来たのは、羽音。
鳥のそれよりも、穏やかに軽い音をたてて。
中空を滑るように飛んで来たのは、鳥の姿を模した津雲の式神だった。
「そっちも行き止まりか」
傍まで戻ってきた式神は、ふと力を失い、はらりと紙へ戻ってしまって。
こうして、壁に×印に霊符を張るのも、一体何度目かだろうか。
かなり複雑な迷宮だと聞いて、覚悟はしてきたつもりだったが。
(なかなかきついですね。これは)
ゆうなの所まで、どれ程近づいているのだろうか。
もう、それなりの距離を歩いたように思うが、厄介な事にこの迷宮、壁に描かれたキャラクターたちが『動く』のだ。
ネズミが描かれた角を、右に曲がったと思いきや。その通路を歩いている間に、ネズミが津雲を追い越して。
次の曲がり角に、また同じネズミがいる……と言った具合。
直接危害を加えてくるような罠こそないものの、気を抜くと惑わされてしまう。
あまり悠長にしている時間は無いと言うのに。
似たような曲がり角。さっきも見たような分かれ道の連続に、気ばかりが急く。
手にした鏡の縁を撫でて。
しかし、逡巡は一瞬。
――すいませんもう一度、その名を騙ります。
とある家に代々伝わってきた大切な鏡に触れるのは、そのほとんどが大人であった。
子供という存在が、どのようなものか。知識はあっても、絶対的に『実感』が足りていないのだと。
子供にかける『自分自身の言葉』が、これほど出てこないものかと。思い知る。
それでも、ゆうなを助ける為に。今は手段を選ばない。
「ゆうな、見ているか? お父さんお母さんに言いたいことはないか」
再び鏡に映した両親の姿を掲げて。
迷宮の何処かへ、ゆうなへ、語り掛ける。
(私に力を、あの子を助ける力を貸してください)
想いを伝えるのが、上手じゃなくても。
伝える事自体を諦めてしまっては、そこから前には進めない。
声は届いただろうか。
津雲が目を細めた、その時。
迷宮の壁に、黒い線が走って、文字を象る。
『あいたい』
真っ直ぐな言葉が、胸に痛い。
けれど、ゆうな本人に会えたなら。
その『あいたい』と思う気持ちは、自然な事だと。一人で抱えずに、言葉にしてもいいのだと。
そう、伝えてみようか――。
ふと、視界の端で何かが動いて。
横の壁を見れば、クレヨンで描かれた親子が壁を滑るように歩いていく。
お父さんとお母さんと女の子が、手を繋いで。
津雲を追い抜き、迷宮を進む。
その、あたたかな光景に、誘われているような気がして。
親子を追う津雲の足は、自然と、迷宮の中央へと向いていた――。
成功
🔵🔵🔴
青霧・ノゾミ
迷宮にはゆうなが助けた、
お友達も。先生達も。
皆がいるんだよ。
新しい物語のための準備をしよう。
まだ迷宮にいるであろう子どもや先生を救助して歩きながら、
皆で集まってゆうなのところへ行こう、
ゆうながあなた達を守ったんだよ、と伝え。
本当は皆と一緒にお話ししたり、遊んだりしたかったけど
できなかったこと。優しい子だから一人で悲しみと辛さを
抱え込んでいたことをお話する。
答えの誘導みたいなことはできないし、しない。
子どもの率直な声はそのままゆうなに伝わる、けど。
ゆうなに話しかけて、お友達になってもらえないかな。
時間はかかるかもしれないけど、待ってあげて。
見守りながら寄り添ってもらえませんか、とお願いする。
迷宮に入って、ノゾミは直ぐに気付いた。
この迷宮に描かれたキャラクターたちは、動き回る事ができるのだ。
壁の上を、滑るように走っていくキャラクターの後を追いかけると、不思議な事に次々と子供たちや先生が見つかって。
今では、すっかり大所帯。
暴走していても。ゆうなの手を離れてしまっても。
この物語にはまだ、ゆうなの心が残っているのかもしれない。
リボンを付けた、女の子のおともだちを追いかけて。
最後の子供を見つければ、無邪気な歓声が上がる。
先生たちも、ほっとした表情を浮かべていて。
これで、新しい物語を始めるための準備は整った。
「少し、僕の話を聞いてくれるかな」
集まった1人1人の子供たちと、先生と、目を合わせて。
それからゆっくりと、ノゾミは語り始める。
絵本の中で、『王子様』の役に収まっているノゾミの言葉は。この『物語』の中では、よく響いて。
子供たちの目が、耳が。自然とノゾミの方へ向く。
時間が惜しい所だけれど。
それでも、子供たちにしっかりと伝わるように。早口にならぬよう気を付けながら語るのは、ゆうなの事。
この迷宮は、ゆうなが作ったという事。
この迷宮がなければ、みんな怖い怪物に襲われる所だった事。
「ゆうながあなた達を守ったんだよ」
何一つ嘘のない、ノゾミの言葉に。
けれど、直ぐには信じられないのか、子供たちは顔を合わせて、ひそひそと話し始める。
「ゆーなちゃんが?」
「そういえば、いないね」
……素直過ぎる子供の言葉は、少し残酷で。
けれど、素直だからこそ。
きちんと伝えらえれば、分かってもらえるはずだから。
「ゆうなはね、本当は皆と一緒にお話ししたり、遊んだりしたかったんだよ」
「ほんと?」
「でもゆーなちゃん、ムシするんだよ」
騒めく子供たちに、「仲良くしないといけないよ」と、言ってしまう事はできるけれど。
それでは意味がないから。
皆みたいに、お話するのが上手じゃなくて、言えなかったのだと。
事実だけを伝えて。
「時間はかかるかもしれないけど、待ってあげて」
だって、ほら。
ゆうなの絵本には、『みんな』がいただろう? と問えば。
ノゾミの声に誘われたのか、迷宮の壁に描かれた『みんな』が、ひょこっと顔をのぞかせる。
あれはわたし、あっちがせんせい! と。
『みんな』を指さす子供たちの声が、徐々に明かるい色へと変わっていく。
「おえかきとか、いっしょにしてくれるかな?」
「きいてみようか」
「ゆーなちゃん、どこにいるのかな?」
元気な声が響き始めると、壁に描かれた『みんな』が、こっちこっちと走り出して。
導かれるままに。
一団の歩く道は、迷宮の中央へと続く――。
●始まりの始まる物語
めいろのまん中に、ぽっかりと空いたおへやは、
いつのまにか、たくさんの人たちでいっぱいです。
絵本の中にしか、いなかったはずの、たくさんの人たちに、
ゆうなは、目を丸くしています。
「たすけに来たよ」
「手をつなぎましょう」
女の子たちはそう言って、
ゆうなのクレヨンでよごれた手を、にぎってくれました。
「このめいろ、ゆーなちゃんがつくったの?」
「いっしょに、お絵かきしてくれる?」
みんなが、いっぱい話かけてきます。
それは、あたたかくて。ドキドキして。
おへんじを、したいのに。
ドキドキしすぎて、目もグルグルして。
ゆうなはやっぱり、うまくお話できません。
「ゆっくりで、いいんだよ」と。
だれかが、そう言ってくれました。
色いろなことがあって、なにを言えばいいのか、わからないけれど。
みんなが、待ってくれたので。
とっても長い時間をかけて、ようやく一言だけ。
ふるえる声で、お話できました。
「ありがとう」
それは、きえてしまいそうな、
小さな、小さな声だったけれど。
ゆうなにとっては、いっぱいゆうきを出した
大きな大きな1歩で。
みんなに、たしかに伝わりました。
おもいを口にできない女の子のお話は、
これでおしまい。
――めでたし、めでたし。
大成功
🔵🔵🔵