8
イッツ・ディズィー・スキーム、チーフ

#ヒーローズアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ヒーローズアース


0




 ヒーローズアース某所の工場、その内部にて。
 ゴウンゴウンと重い機械音が絶え間なく響く。薄暗い空間にはベルトコンベアがいくつも並び、無数の黒い鉄塊を運び出していた。鉄塊の正体は、六輪の装甲車である。
 ロボットアームが装甲車の側面に触れ、大鴉のエンブレムを彫る。わずかに散る火花が闇を照らす中、空間に女の溜め息が沁みた。
『……目眩がします、主任』
『おーっと、どーしたのぉガブりん。寝不足?』
『いいえ』
 陽気な男の返事に、女の声が呆れ気味に言い返す。
『何故、このようなことを? あの者たちにコレを察知できるとは思えませんが。あの時とは状況がまるで違います』
『まーねぇ? でもほら、そこは実験だよ。その程度ならわかるのかっていうさ』
 男の声がトーンを下げた。
『むしろ、大っぴらにやってる方だよ? これぐらい、気づいてもらわなきゃあ困る。でないとさ、ほら。オレたちの方が困るだろ……?』
『それは……そうですが』
『ハハハハハハ! けどま、心配ないって! 奴らは来るよー! そうでなきゃ、期待外れだ。そうでしょガブりん!』
 軽い調子で笑い出す男に、女は溜め息だけで応えた。男の哄笑が激しさを増す。
『さー早く来いよ猟兵どもォ! 早くしないと、街ひとつがぶっ飛んじまうぜ!? アハハハハハハハハハ!』
 狂的な笑い声が、工場の闇を駆け抜けた。


「……と、相手の思い通りになっちゃうわけなんですけどもー! 放っておくわけにもいかずー!」
 お立ち台に立ったシーカー・ワンダーが、熊耳装飾の拡声器を使って叫んだ。
 ヒーローとヴィランが日々激突を繰り返す世界、ヒーローズアース。善悪の戦いがシノギを削るこの場において、ブラックマーケットは裏社会でもかなり盛り上がる市場のひとつとなっている。
 こうしたマーケットには、ヒーローの装備を作る会社や、技術者として腕を振るうヴィラン、落ちぶれた元ヒーローなどが集うのであるが――――ここ最近、かなりの大がかりに動いている場所がある。
「このマーケット……『エクスキャッター』って呼ばれてるんですが、どうやらとあるヴィランが装甲車の競りを行ってるようでして」
 装甲車のディーラーは、それぞれ『主任』、『ガブリエル』となのる二人組のヴィランだ。彼らは高額で自作した装甲車をマーケット利用者に売りさばき、大きな利潤を手にしているらしい。そして、装甲車が一定数売れたところで全てを暴走させ、大きな被害をもたらそうと企んでいる。
 かなり大っぴらな動きであるため、調査をしていたヒーローたちもいたのだが――――どうやら、主任たちと取引したオブリビオンにより全員倒されてしまったようだ。つまるところ、今頼れるのは猟兵たちのみとなっている。
「早く阻止はしたいんですが、エクスキャッターがどうやって運営されているのか、主任たちがどこに居るのか、正直わかってないことが多くて……ここから先は、皆さんの足で調べてもらうしかないんです」
 まず、猟兵たちにはエクスキャッターで潜入捜査をしてもらう。そこで利用者から情報を得て、主任たちの居場所を割り出し、彼らの潜伏場所へ向かうという流れだ。
 オブリビオンについてだが、ヒーローを倒したあとの行方はまだ確認されていない。どう出てくるかわからないが、こちらの存在がバレない限り襲ってくることは無いだろう。
「ともかく、まずは情報収集! お客さんもお店の人もヒーローの敵対者なので、派手に動くと大変なことになってしまうかもしれません。慎重に慎重にお願いします。バレなければ、どんな方法で捜査しても構いませんので! では、よろしくお願い致します!」


鹿崎シーカー
 ドーモ、鹿崎シーカーです。ブラックマーケットネタはロマン。

●舞台設定
 ヒーローズアースのブラックマーケット『エクスキャッター』が最初の舞台。街の地下にあるクラブのような雰囲気の市場で、ヒーローと敵対するあらゆる犯罪者が潜んでいます。ここで『主任』の居場所を探ってください。
 全体的にシステマチックで、デジタル化された市場です。

●第一章『裏市場 IN ヒーローズアース』(冒険)
 調査パートです。バレないように、主任の居場所を調べてください。
 店には様々な種類があり、武器・義肢・アイテムツールなど品ぞろえも数多く存在します。

●第二章『食い止めろ!暴走事故!』 (冒険)
 主任の居場所が判明すれば、次はそこへ乗り込みます。襲撃を検知した彼らは、工場や出荷された装甲車を暴走させ、街を壊滅させようとします。なんとしてでも食い止めてください。
 リプレイ執筆前に追加OP挿入予定。

●第三章『???』(???)
 追加OPにて公開します。

 アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。

(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
116




第1章 冒険 『裏市場 IN ヒーローズアース』

POW   :    さて、何か面白いものはあるかな?(客に紛れ込む)

SPD   :    抜き足差し足忍び足(隠密行動)

WIZ   :    如何ですか?買って行きませんか?(売り手に紛れ込む)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可

何だかいい様に使われてんじゃねぇの俺らって。ま、いいけどよ

潜入調査っつーことで【インビジブル・トラベラー】を発動。【地形の利用】をした【迷彩】…今回は闇市場の景色を使ったダークな感じかな?
【忍び足】で【追跡】する対象は…先に活動していたヒーローが返り討ちにあったらしいし、手柄を自慢してそうな奴とか居そうだな。そういう奴にしよう。大声で話したりはしないだろうが…こういう時って、大体口が軽ーい奴が居たりするのが定番だよな。こういうのからコッソリ【情報収集】したいところだな。
バレたら? まあ、その時は「交渉」だな。【怪力】とか【グラップル】とか【ロープワーク】とか。


ザザ・クライスト
【POW】客に紛れ込む

『喫煙コーナーがあるンかねェ』

裏市場といっても高級クラブやカジノに近いか?

端末を操作して【情報収集】
有力な噂話が流れてないか【聞き耳】も立てておく

「想定以上の規模だな。"巣と取引"があってもおかしかねェな」

オレの所属する"狼の巣"は民間軍事プロバイダー
任務は主に"火消し"が多いが、それだけに軍需物資とは無縁じゃねェ
まァ世界平和をお題目にしてンだからヴィランとは相容れないがな
裏稼業の雰囲気を出して【おびき寄せ】る

「大した質に量だ。噂の主任さんは相当デキるらしィ」

一度お目にかかりたいモンだ

アドリブ歓迎
男にはヘル・苗字、女にはフラウ・苗字で呼ぶドイツ風の敬称
一人称はオレ



 ズンツクズンツクズンツクギュワギュワ、ズンツクズンツクズンツクギュワギュワ。
 歪んだテクノコアミュージックが響くのは、照明無きブラックストリートだ。光源は壁・天井・壁を走る蛍光ケーブルに加え、ストリート左右に軒を連ねる店員の、蛍光ドクロフェイスペイント。
 背格好・年齢も様々に行き交う人々は、そこかしこから飛ぶ声や並ぶ商品に目移りしていく。売られているのは電子機器、武装、錠剤、ドリンク。天井から吊られた義手義足。果てには盗難車やバイオモンスター、兵器の数々。
 ここはブラックマーケット、『エクスキャッター』。犯罪の種をまく闇の商業区域だ。


 ざわつくエクスキャッターの雑踏を、二人組の男が歩く。
 片や、オールバックにした黒髪に赤いメッシュを入れたロングコートの男。コートの下はワインレッドのダブルスーツで、首元には赤の襟巻が垂れている。サングラスで目元は見えない。
 片や、全身黒ずくめの衣装に色白の肌をした青年。相方より背は低く、薄く笑んだ顔には自信が満ちている。
 両手にポケットを突っ込んで歩く青年が、左右の違法ショップを交互に見やる。視線を受けた店頭のチンピラたちが、小瓶や大型銃器を掲げて呼び込み出した。
「どーだい兄ちゃん! 今ハヤリのパーフェクト・ユーフォリア! 天にも昇る気分になれるぜ!?」
「あーそこのトッポいの! 丸腰で歩いてちゃー危ないぜぇ? コレとかどうよ! 今なら安い! どうだ?」
 暗闇に光るフェイスペイントに、黒ずくめの青年――――ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は適当に手を振る。彼は楽しげに喉を鳴らすと、傍らの男に話しかけた。
「お呼びがかかるねェ。金持ってると見られてんのか、カモりやすいと思われてんのか。それとも……」
 ザザの赤い瞳が、男の顔をチラリと見上げる。
「その恰好、かなり板についてんのかもな、ヘル・ツヴァイク」
「……喜んでいいのか? それ」
 オールバックの男、もといアーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)が口元を微妙な顔で頭を掻いた。
 現在彼の恰好は、変装と迷彩のユーベルコード『インビジブル・トラベラー』によって偽装したもの。ザザは周りに聞こえぬよう、小さく囁く。
「一応喜んでおけよ。上手く溶け込めてるから、捜査もスムーズに行くと思ってなァ」
 溜め息で返したアーサーは、明後日の方を見やりつつ内心でぼやいた。
(何だかいい様に使われてんじゃねぇの? 俺らって。ま、いいけどよ)
 もう一度溜め息を吐いて首を振る。気を取り直したアーサーは、改めてマーケットの通りに首を巡らせて言った。
「初めて来たけど、結構まっとうに賑わってんのな。なんか、表にも普通にありそうだ」
「ブラックマーケットがまっとうってのもどうかと思うが……気持ちはわかるぜ」
 ザザが笑い、右のポケットから手を引き抜いた。取り出したるは携帯端末。スイッチを入れると、広々としたマップと三角形のマークが映る。別の仲間から送信された、エクスキャッターの地図である。
 自動でズームアウトした全体図を見る限り、マーケットは碁盤の目状。ザザは顎に手を据える。
「見た限り、想定以上の規模だな。巣と取引があってもおかしかねェな」
「巣?」
 アーサーが片眉を上げてザザを見る。ザザは横目で視線を返した。
「職場だよ。オレの所属する狼の巣は民間軍事プロバイダー。任務は主に火消しが多いが、それだけに軍需物資とは無縁じゃねェ」
「なるほどな。同じ穴のムジナってやつか」
「ムジナじゃねェ、狼だ。まァ、世界平和をお題目にしてンだから、ヴィランとは相容れないがな」
「ここで買い物してる時点で、どっちもどっちな気はするけどな」
 ザザは小さく笑って肩を竦めた。その時、彼の手中で携帯端末がピロンと鳴る。二人がそろって画面を見下ろすと、地図の一部に金色ピンが突き刺さった。ニヤリと上がるザザの口角。
「おっと、ナイスだフラウ・アーヴェスピア。そこの角か」
「行くぞ。慎重にな」
 歩き出すアーサーの後にザザが続く。自然な早歩き程度の速度で進んだアーサーが十字路を右に曲がると、先と大して変わらぬ通路が真っ直ぐ伸びていた。だが、彼の瞳はサングラス越しに居並ぶ店のひとつ、軒先で商談する二人を注視する。
 店員らしき、薄汚いエプロンに機械で覆った右目を持つ老人。老いた技師が機械のボタンをカチカチ押しながら検分しているのは、毒々しい青と紫のまだら模様を持つガントレットだった。肘先から指先までを覆う形で、掌底部分には噴出孔がついている。
「……ふーむ……」
 うなりつつ、老人は顔を上げた。店の前に立つのは、商業スマイルを貼り付けたビジネスマン風の男性だ。眼鏡をかけ、髪型を七三分けで固めた男に、老人は切り出す。
「旦那、コイツを買い取って欲しいとか言う話だったが」
「はい。何か不都合でも?」
「不都合っつーかな……」
 老人が長く伸びたアゴヒゲをなでる。
「見覚えがあるんだよ。これ、確かアシッドルールとかいうヒーローのアイテムだろう。それにこれだけじゃねえ。ここ最近、色んな奴のアイテムが俺ンとこに舞い込んで来やがる」
 老人は機械化した両腕をカウンターに突き、前のめりにビジネスマンを覗き込んだ。生身の左目、機械の右目が仮面じみた笑顔を睨む。
「一体どこで手に入れた? ヒーローのアイテムはオーダーメイドだ。そう簡単に手に入りやしねえ。そいつをホイホイと……誰の差し金だ」
「ルートは教えられません。ですが、これは間違いなくアシッドルールのアイテムですよ」
 眼鏡をクイクイと押し上げるビジネスマン。老人はがっくりと肩を落とすと、指先でガントレットを叩く。
「……ヒーロー狩りか。最近、ここいらを嗅ぎまわってる連中を一人残らずブチのめしたっつー」
「企業秘密ですよ、ご老体。それ以上はお互いのためになりません」
 男の瞳に冷酷な光が宿った。それを聞いた老人はハンズアップし、観念して首を振る。
「わかったよ、買い取ってやる。いつも通りでいいのか?」
「はい。それでは、今後ともよろしくお願いします」
 ビジネスマンは言い放ち、ロボットめいた動きで店を離れる。ザザはアーサーに告げた。
「ヘル・ツヴァイク」
「ああ、ちょっと行ってくる」
「無理はするなよ」
 小走りでビジネスマンを追いかけ始めるアーサー。雑踏に紛れ込まんとする背中を青い瞳で捕捉し続け、人混みを滑らかに抜けていく。
 一方、ロングコートの背中を見送ったザザは、ビジネスマンが居た店舗に歩みを向けていた。こちらに背中を向け、先のガントレットを天井に吊るす老人に、にこやかに声をかける。
「失礼するぜ、ヘル。なんか、新しいの入荷したか?」
「ん……?」
 老人がザザを振り返り、左の眉毛を持ち上げた。怪訝そうな面持ちで、店頭に出てくる。第一段階、食いついた。
「見ねぇ顔だな」
「そうだな、初対面だ。しかし、オレのバックとは顔見知りじゃねェか?」
「ほう?」
 老人は左右に伸びた口髭をモゴモゴと動かし、ザザを値踏みするように見る。自信家な彼の表情を数秒見つめたのち、老人がようやく口を開いた。
「五体満足の小僧が、一体なんの用だ。ウチは見ての通り義肢屋だぜ」
「義肢屋ねェ」
 カウンターに頬杖をつくと、ザザはククッと喉を鳴らす。
「それだけじゃねェんだろ、ヘル。さっきの商談、ちょっと立ち聞きしちまってな。それに……」
 端末を掲げ、店奥に吊るされた無数の義肢をフレームに収める。Snap。画面に映し出された写真が即座にスキャンされ、そのいくつかが金色に染まった。ザザは口笛を吹く。
「こいつァ驚いた。売りモンのー……三割ぐらいか? ヒーローのアイテムじゃねェか」
 SLAM! 突然の音に通行人たちが振り向いた。周囲が沈黙する中、カウンターを両手で叩いた老人は、殺気立った表情をゆっくりとザザに近づけた。
「脅迫か? 小僧。この場で、ブツの是非を問おうってのか?」
「いいや」
 ザザは肩をすくめて首を振る。
「そんなつもりはねェさ。ただな……っと、一服いいか。それとも、喫煙コーナーがあるンかねェ?」
 老人が不愉快そうな顔で顎をしゃくった。それを同意とみなし、ザザは煙草を加えて火を点ける。紫煙を頭上に吹かしつつ、それとなく一言。
「大した質に量だ。噂の主任さんは相当デキるらしィ」
「……主任?」
 老人の顔から殺気が薄れ、代わりに怪訝なものに変化する。眉間にシワを寄せた老人は、ザザと鼻が付きそうな距離まで詰め寄った。
「小僧。お前、あの車屋の何を知ってる」
 かかった。肉食獣じみた微笑みを浮かべるザザに、老人は厳めしい顔で問う。
「手前ェ、ヒーローってわけじゃあねえだろう。第一、この辺の連中は全滅したって聞いている。何モンだ?」
「狼だよ」
 不敵な宣言と共に、ザザは老人と向かい合う。周囲の雑音に耳を傾け、噂話を探りつつ。
「美味そうな獲物がいるらしいじゃねェか。一度お目にかかりたいモンだ。なァ、ヘル」
 赤い瞳が、鋭く光った。


 同時刻、アーサーサイド。
 BGM遠のく路地裏は、蛍光ケーブルの光すらない暗黒の通路だ。周囲から隔絶され、通行人も見向きしないそこへビジネススーツの男がためらいなく踏み入った。先ほどヒーローアイテムを売りさばいていたその男は、路地裏を数歩進んだところで立ち止まる。
 立ち止まったまま、数秒の停止。――――やがて、男は肩を震わせて笑い始めた。
「くくくくくくッ! 他人に尾行されるというのは、あまりいい気分ではありませんねぇ……」
 酷薄な笑みを貼り付けた顔で、ゆっくりと振り返る。ネオンカラーの光を背後にたたずむ人影。マフィアじみた服装のアーサーが、サングラスを外した。暗闇に眼光が瞬く。
「バレてたのか」
「不覚ながら、どこから尾行されてたかはわかりませんでしたがね。まあ、視線や気配である程度わかるものです。でなければ、このような界隈では生きていけない。さて……」
 男は腰裏に右手を回し、左掌を差し出す。
「お望みは?」
 アーサーがからかうように肩を竦めた。
「聞いてくれんのか? 案外親切なんだな」
「勘違いされては困ります」
 男の右手が、スラックスに差し込まれた拳銃のグリップを握る。眼鏡奥で素早くアーサーを検分し、武器を持っていないのを確かめた男は勢いよく銃を引き抜いた!
「私が聞いているのは、遺言のことですよッ!」
 腕が閃き、サイレンサー銃をドロウ! 一方のアーサーは音も無く撃ち出された銃弾を無言で見据える。スローになった視界の中、彼は無造作に左手を振った。響く金属音。赤い機械手甲に包まれた手で弾丸を弾いたアーサーは、目を見開く男に手の平を向けた。
「!」
 一瞬たじろぐ男に、アーサーの掌底がワイヤーフックを射出した。真紅の筋がビジネススーツの左鎖骨付近に命中すると同時、アーサーはワイヤーを手繰り男を引っ張る。ワイヤーに引かれ前後反転した男の首にアーサーの片腕が回り、思い切り締め上げた。
「ぐッ……!」
 苦悶する男の爪先が床を離れる。拳銃を落とし、男の両手がアーサーの腕をつかむ。しかし、アーサーの腕はなおのこと深く食い込み、男の首骨をメキメキと軋ませた。アーサーが告げる。
「それじゃ、交渉の時間だぜ。教えてもらおうか。ヒーローが返り討ちになったって話について、詳しく……!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ガーネット・グレイローズ
オブリビオン御用達のブラックマーケットか。
ここにいる客とコネを作れば、「主任」とやらに
たどり着けるかもな。
企業人としての営業経験を活かし、売り手に紛れ込んで
情報収集だ。品物は宇宙船の装備と私物をピックアップし、
テロ屋相手に商売している人間を装って参加。
「どうです、我社の人気商品『クロスグレイブ』。ビームブラスターですが、これ一本で幾つもの射撃モードに対応可能、破壊力も折り紙つき。今ならお安く出来ますよ」
見積書を作りながら、顧客から〈コミュ力〉〈世界知識〉で
このマーケットに関する情報を聞き出そう。
「このマーケットでは装甲車が人気なんだとか……ええ、カラスのエンブレムの。もしかして貴方も?」



 エクスキャッターは東西南北にエリアが分けられ、それぞれ売り出すものが決められている。例えば北では、一定以上の大型兵器類。即ち彼女が展示しているような。
 北エリアの端、東エリアと隣接する位置に設えられた円盤状ブースの上に、巨大な十字架がそびえ立つ。ブースの前に立ったガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)は、白のライダースーツを着た女性に営業をかけていた。
「どうです、我社の人気商品『クロスグレイブ』。ビームブラスターですが、これ一本で幾つもの射撃モードに対応可能、破壊力も折り紙つき。今ならお安く出来ますよ」
「はぁー! すっごいわねえ! 触ってみても?」
「ええ、もちろん。こちらへどうぞ」
 女性を引き連れ、ガーネットはブースに上がった。手で十字架を示すと、女性は迷いなくそれを持ち上げる。十字架下部が左右に開き、四角い銃口が顔を出した。女性は銃口をあちこちに向けつつ、
「ふーん。ま、流石にビームは出ないか」
「店頭ですので。エネルギーパックはお買い上げの際にお付け致します。ご不満があれば返品や取り換えも承ります」
「ハハッ、サービスいいねえ。ここじゃ結構珍しい」
「珍しい……ですか」
「そりゃそうさ」
 ライダーの女は十字架を下ろし、片目を閉じてガーネットを見る。
「あんた、ここで売りに出すのは初めてだろ?」
「ええ。貴方は?」
「アタシは買い専。けど、なんだかんだ長く来てるよ。あるのは大体横流し品に盗品。新品もそこそこあるけど、やっぱりピンキリなことに変わりはないし。ただ、イイやつは凄くイイ。最近だとー……そうさな」
 十字架に背を預け、胸の下で腕を組む。ガーネットは神妙な面持ちで口を挟んだ。
「このマーケットでは、装甲車が人気なんだとか……」
「ああ、流石に知ってる? ま、ここに来るような奴ならある程度は知ってるか。気になってるんだろ? 名称不明の企業が作った、バケモンみたいな性能の装甲車」
「ええ、カラスのエンブレムの。もしかして貴方も?」
「まーねぇ。趣味じゃないけど、ある程度何が出回ってるかは知っておきたいし」
 苦笑すると、女は十字架から背中を離した。右手を上げ、手の甲で十字架を叩く。
「これ、買いだ。見積もり頼めるかい?」
「はい、すぐに。ではこちらへ」
 ブースを降り、簡素な机に女性と向かい合う形で着席。ガーネットがファイルから書類を何枚か取り出して差し出すと、女は机のペンを取って走り書きを始めた。
 さらさらと必要事項をしたためながら、女は世間話を持ち出してくる。
「実のところ、あの装甲車についてはよくわかんなくてねぇ。出所不明。売り場に売り子は割れてんだけど、作ってんのがどこなのか、なんていう企業が作ってんのかもわからない。売り子の女も、企業としか言わないしね」
「しかし、人気なのですね」
「不思議とね。性能いいって話だし。値段も、一台当たりフツーの車と同程度。ココであの性能なら、売値の百倍は吹っ掛けられるってのにさ」
「どこで売っているかはご存知ですか? 南の奥だ。騒ぎになってるからすぐわかる。物好きな連中が、自発的にオークションやってんだ。はいよ、これでいいかい?」
 突き返された書類を受け取り、目を落とす間も、ガーネットは会話を続ける。
「自発的なオークション、とは?」
「まんまの意味さ。最初はなんてことない商売だったんだけどさ、どこぞの奴が売値の倍出すから買わせてくれって言い出してね。あれよあれよと言う間に、同じ車を競り始めやがった。運営の方は何故かお咎め出さないし、ここのところずっとお祭り騒ぎだねえ」
「そうだったのですか。……はい、問題ありません」
 ガーネットは書類のうち写しを女に差し出し、椅子を立つ。同時に立ち上がった女は、背中を伸ばして骨を鳴らした。ガーネットが書類をファイルにしまう。
「発送は後日。入金は着払いで」
「あいよ! 性能、期待してンだ。裏切らないでくれよ?」
 頭を下げるガーネットの肩をバシバシと叩き、女がその場を去っていく。白いライダースーツの後ろ姿に一礼したガーネットは、スーツの襟に着けたバッジをひねる。超小型偽装通信機がZAP音を発するのを待ち、周囲に聞こえぬように言った。
「聞こえたか? 南エリアの奥でオークションをやっているらしい。私は引き続き情報を集める。以上だ」
 再度バッジをひねると、ガーネットは何食わぬ顔で呼び込みを始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神代・凶津
今回は胡散臭いブラックマーケットへの潜入か。
さてと、ここは式神で主任とやらを探しつつひとつ商売に来たヴィランの振りをして情報収集といきますか。

珍しい東洋の商品はいらんかねぇ!
そこの道行くあんた、俺の商品買っていかないか?
ん?俺はご覧の通りの呪いの仮面、この女の体を乗っとった絶賛売り出し中のヴィランよッ!
商売しながらこの体でも使える武器を探しにきたって訳よ、そう例えば装甲車とか。
ただとは言わねぇ、情報くれりゃこの霊力がみなぎるおはぎを格安で売ってやるぜ?

こんな感じで情報収集よ。

「・・・おはぎにそんな効果はないよ?」
口から出任せだからな相棒。
まあ、騙して悪いが仕事なんでな。


【アドリブ歓迎】



『主任は南エリア。装甲車のオークションをやっているとのこと。東エリアとの境目に貴方用の店を登録しておいた。活用して』
 スマートフォンに来たメールを黙読し、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は小さな声で賞賛した。
「流石だぜ、メンカル。仕事が早ぇ」
 屈んだ状態で顔を上げ、周囲に目を配る。彼がいるのは、古き日本の屋台を模した小さな店舗。看板のネオンサインは点滅し、『ブッダの旅』『働く薬』の文字を出していた。
「しかも、店の雰囲気も悪くねえと来た! やるじゃねえか!」
 喜ぶ鬼面ヒーローマスクの裏側、凶津に体を貸した少女が胡散臭げな顔をした。ブッダの旅、働く薬。よくよく見れば、店名の下に『Buddha Trip』『Working Drug』と蛍光ペンで記されている。
 日本人の少女は、なんとも言えない面持ちで呟く。
「……日本語、間違ってない? ブッダの旅って……」
「あァン? まぁ気にすんなよ。前任の奴が頑張ったんだろ」
(そうかなぁ……)
 釈然としない様子の少女。反面、凶津は少女の腕を操り、札を数枚取り出した。
「ぐだぐだ言ったってしゃあねえ。さっさと始めようぜ」
「…………」
 嫌そうな溜め息を吐くと、少女は札を一枚ずつ床に広げる。墨絵で描かれたネズミに、『式』の漢字を記したそれらの真上で人差し指と中指を立てて一言。
「……式、召喚『捜し鼠』」
 少女の指先にスミレ色の光が灯った。薄紫に照らされた札の『式』の字が消え、墨絵のネズミが平面から這い出し立体になる。呼び出され、鼻を鳴らしながらキョロキョロするネズミたちに、凶津が命じた。
「主任っていうヴィランを探せ。ここの南でオークションやってるらしいからな。……行けッ!」
 凶津が店の外を指差すと共に、ネズミたちは三々五々に散って消えていく。
 式神のネズミによる捜査網を作りだした凶津は少女を立たせ、カウンター裏に置いた重箱を開いた。中身はぎっしりと詰め込まれたおはぎ。
「んじゃ、次は商いと行くかね。ンッン!」
 咳払いをした凶津は、店の外に目を向ける。道行くパンクスたちに向かって、勇ましく声を張り上げた。
「珍しい東洋の商品はいらんかねぇ! ブッダも驚く憎くて愛しい、黒い甘味だ! 安いよ? 美味いよ? 一度食えば病みつきになること間違いなしだ! ジャパニーズ・ゴッドブレスを体験してみねぇかい!」
(……何を言ってるんだろう)
 げんなりした心持ちのまま、少女が凶津の呼び込みを聞く。そんな相棒には気づかず、鬼の面は間の前を横切ろうとしたパンクス四人に目をつけた。
 全員そろってモヒカンヘアで、筋骨隆々の胸に革のベルトを交叉させている。鋲付きの肩パッド、黒いズボンもおそろい。しかし凶津の意識は彼らの会話に捉えていた。
「しっかしどうなってんだ、あの車ぁ。普通の単車買える程度の値段って聞いてたのによ」
「いやー、高ぇ高ぇ。どいつもこいつも札束抱えてやがるぜ、ありゃあ」
「ま、いいじゃねえか。代わりにいいモン買えたしよぉ。扱い辛いパーツとかって話だが、最新型が負けるわけねえだろ!」
 直感で察した凶津は、四人が通り過ぎる寸前で声を張り上げた。
「そこの道行くあんた、俺の商品買っていかないか?」
「あん?」
 パンクスの一人が振り返り、他の三人もつられて凶津の方を向く。視線は凶津が借りた少女の体に注がれていた。少女は背筋を震わせながら、内心で訴える。
(……嫌な目で見られてる)
(辛抱しろ。なァに、相棒に手ェ出させたりしねぇよ)
 凶津が声も無く励ましている間に、パンクス四人が店頭にやってきた。彼らの一人が顔を凶津に顔を近づけ、仲間の方に振り返った。
「おーう、見ろよ。なんか変わった嬢ちゃんが店出してるぜ?」
「なんだそのマスク。流行りなのか?」
「つか、男みてぇな声出てた気がするぜ。どうなってんだ?」
 口々に疑問を出しつつ、視線は巫女服を押し上げる胸元に集中している。か細くうなる少女をよそに、凶津はいたってフレンドリーな口調で少女の顔にへばりついた自身を親指で示した。
「ん? 俺はご覧の通りの呪いの仮面、この女の体を乗っとった絶賛売り出し中のヴィランよッ!」
 四人がそろって驚いた表情をし、口笛を吹く。
「仮面のヴィランって、仮面の方が本体なのかよ!」
「コミックで見たぜそんなの。ていうか知ってるぜ、オレ。それジャパニーズゴブリン・オニのマスクだ」
「すげェ。そんなん居やがんのか。……で、そのマスク様が一体全体こんなとこで店出してんだ?」
 凶津が剽軽に肩をすくめ、首を振った。
「なに、女の体を乗っ取ったのはいいんだけどよ。見ての通り、非力な女だったんでな。商売しながら、この体でも使える武器を探しにきたって訳よ。そう例えばー……」
 少しもったいつけ、人差し指を一本立てて言い放つ。
「装甲車とか」
 沈黙。直後、パンクスたちは一斉に噴き出し、腹を抱えて爆笑し始めた。膝を叩き、背を反らし、よろめきながら身をよじる。大笑いしながら、彼らは凶津を指差した。
「装甲車!? ハハハハハ! ジャパニーズマスクがか!?」
「どうやって運転すんだよ! フロントガラスにへばりつくのかァ?」
「これがホントの覆面車両ってか! ウワーッハッハッハッハッハッハ!」
 BGMを消し飛ばす四人の哄笑。少女が半眼でパンクスを睨む。
(うるさい……)
(我慢しろって)
 少女をなだめ、凶津はさらに言葉を連ねる。
「まぁそういうこった。で、ここにちょうどいいのが売ってるって耳には挟んだんでな。ただとは言わねぇ、情報くれりゃこの霊力がみなぎるおはぎを格安で売ってやるぜ?」
「ハハハハハハ! ハァー、ハァー……レーリョク。レーリョクってなんだ、ゴブリンマスク」
 ようやく笑いを収めたパンクスの一人が問う。凶津は返答に困った。霊力の概念を、彼らにどう伝えたものか。少女は不機嫌そうに黙り込んで意見をくれない。腕を組んだ凶津は、仕方なく言った。
「あー……っと。アレだ、ゴーストパワーだ」
「ゴーストパワー!?」
 質問パンクスが三人の仲間を下卑た笑顔で振り返った。再び四人そろっての爆笑。凶津は、少女が内心重い溜め息を吐くのを聞いた。
「ブハハハハハハ! オイ聞いたか! ジャパニーズゴーストパワードラッグ・オハギだってよ!」
「ゴーストパワードラッグ!? そうかわかったぞ! ブッダの旅だ!」
「ブッダトリップ! こりゃジーザスもひっくり返るぜ!」
「どっちもマッシュルーム食って死んじまったけどな!」
『ウワーッハッハッハッハッハッハ!』
(……帰っていい?)
 うんざりした少女の声が凶津の脳裏に木霊する。凶津は四人に気づかれないように首を振る。
(もうちょっと我慢しろって。重要な話聞けてねえんだから)
(本当に聞けるの? それに霊力みなぎるって……おはぎにそんな効果はないよ?)
(ったりめーよ。口から出まかせだからな、相棒。まあ、騙して悪いが仕事なんでな)
(もう……)
 しぶしぶ引き下がる少女。これ以上は本気で怒られそうだ。凶津は内心冷や冷やしながら、会話に打って出ることにした。
「で、どうだいお客さん方。買うか? 買わねぇのか?」
「ハッハッハッハッハッハ!」
 バシバシと手を叩いて笑っていたパンクスの一人が一歩前に出る。カウンターに置かれたおはぎ重箱を指差し、逆の手で紙幣の束を叩きつけた。
「おもしれえ! 箱まるっとくれや!」
 別の一人が、注文パンクスの後頭部を引っ叩いた。
「痛ってェ!」
「買い過ぎだバカ! アンコ中毒になる気かっての!」
「その前に値引きだろ。えーと、装甲車の話だっけか。ここで装甲車っつったらアレな。オークションの奴しかねえ」
 注文パンクスと突っ込みパンクスを押しのけ、四人目がカウンターに迫る。嫌がって後ずさろうとする少女の体を引き留め、凶津はパンクスと向かい合った。
「詳しく聞かせてもらえるかい」
「いいぜ。つっても、そんな知ってるわけじゃねえけどよ。……まず、あっちこっちのヴィランやらテロ屋やらがこぞって買いに来てるっつーこと。中にはバラして調べようっつー連中がいるらしいんだが、バラそうとした奴らは軒並みこのマーケットに来なくなってる」
「あー、あとアレだ。どこから発送されてンのかわからねえって話。知ってるか? こないだ例の装甲車が爆発したって事件があったんだけどよ……」
 その時、パンクスの手が少女の胸をわしづかみにした。鬼面の奥で少女は顔を真っ赤にし、腰に下げた刀をつかむ。凶津は慌てて少女の手を硬直させた。彼の脳裏に、少女の声なき怒声が響く。
(――――――――――っっっ!)
(おい待てバカ刀出すな刀! しまえ! 重要なとこなんだから今は耐えろ! こいつは後でブチのめすから! な!? な!?)
 パンクスに斬りかからんとする少女と体の支配権を巡って争う凶津。傍目には見えない揉め事を繰り広げる凶津に、パンクスは下卑た笑顔を向けた。
「なんだよ?」
「い、いや、なんでもねえ。続けてくれ」
「おう。その爆発に巻き込まれたヤツがな、装甲車の売り子に発信機つけたって言いふらしてたらしいぜ。多分、データも木っ端微塵になってるだろうがな。……こんなところか?」
「ああ、オーケーだ。ありがとうな」
 そうして、パンクスはようやく少女の胸から手を離した。凶津は焦りを必死で押し殺し、おはぎの箱を押し付ける。
「じゃ、約束だ。コイツはタダでくれてやる!」
「マジかよマスク! お前良い奴だな!」
「ありがとよー! 今度は一緒に遊ぼうぜ! ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ!」
 おはぎを手にしたパンクスは、早速ひとつずつ口に押し込みながら歩いていく。談笑と笑い声が遠のいていくのを確認し、凶津は安堵の息を吐いた。しかしそれも束の間。カウンター裏に屈んだ少女は、自分の顔から凶津を外す。
「え?」
「………………」
 凶津は少女を見上げて凍り付いた。黒い瞳が氷河じみた冷たい光を放ち、彼を見下ろしていたのだ。凶津は震え声で呼びかける。
「お、おい相棒? ちょっと待て待て待て待て握る手が強いって! ああああミシって言った! ちょっと待て悪かったって! ちょっ、ギャアアアアアアアアア!」
 悲鳴を上げる凶津と、指に力を込める少女。その足元で、式神のネズミがビクッと身をすくませた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神羅・アマミ
車両暴走テロを画策とな…ふむ、実に興味深い!
ヴィランの手口を知り後学へ繋げるためにも、実地に赴き詳細な調査を行う必要があるのー!

市場ではまずコード『操演』にて召喚した蜘蛛型ドローン、オクタビアスくんを予め”展示品”のように仕立て、適当な店員を捕まえスペックや用途等の質問責めにかける。
そもそもが商品でない上、実は妾自身仕組みがよくわかっとらんオーバーテクノロジーの代物をどう説明できよう!
そこで「えー?ちゃんとわかる責任者呼んでよー」と上司に掛け合うよう指示。

店員が例えば携帯やレシーバーを起動させた場合、オクタビアスくんで送信先を探知できれば御の字じゃが…
そこは所謂出た目次第という奴じゃな!



 エクスキャッター南側、機動兵器ブース。
 小型の円形ステージに設置された、ドローンやパワードスーツを取り巻く人々。他のエリアよりスポットライトがある分明るく、コンパニオンが運ぶカクテルの色は照明の光を反射し一層鮮やか。
 集うのは上流階級じみた装いの者たちばかりで、ブースに立つ売り子の他に客同士でも会話している。彼らは実際、高価な自立機械や大型機動兵器を買えるだけの財力を持ち、なおかつ暴力を欲する反社会勢力だ。
「近々、カレイド・ストリートでパレードが始まるそうですな」
「ええ。ファンファーレはウチのトランペットが担当します」
「奏者もかなりの腕前と聞き及んでいます」
「後夜祭の用意もあるそうで……」
「しかし、本当に良いのですかな? 主催者が、あのような外様で……」
 ロックなBGMを背後に交わされる会話は、全てスラングを用いた暗号によるもの。社交パーティじみた交流の本質は、テロの打ち合わせに他ならない!
 だが、間にちょくちょく混じるチンピラたちは気づかず、マフィア風の男は静かに耳をそばだてる。大型機械は高級品で、買うにも売るにもビジネスチャンス。そしてビジネスチャンスは即ち、コネクションを広げる機会! ALAS! 社会の闇はこのようにして根を広げるのだ!
 うっすらスモークがかかったような、注意せねばわからぬ緊張。そんな談笑響く市場の一部に、少女の声が木霊した。
「ちょっとー! ねえちょっとー!」
 客の数人が、声の方を振り返る。そこには、『STAFF』と書かれたジャケットを着た若い男と、男の袖を引っ張る神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。アマミは玩具をねだる子供じみた仕草で、ブースのひとつを指差していた。
「あのドローンについて説明欲しいんだけど。詳しく解説してもらえる?」
「んあ……?」
 男がうざったそうな表情で、アマミの指差した先に目を向けた。円形のステージの上に佇む赤の機体。小型のレースカーほどもある真紅の蜘蛛型ドローンがその場に鎮座し、ステージと一緒に緩慢な動きで回っている。スタッフは面倒そうな表情でアマミを見下ろす。
「んん……あーと、お客様? そちらのブースには担当者がおられるはずなので、そちらに伺っていただければ……」
「担当者? どこにいるってのよ?」
 アマミが両腰に手を当て、ブースを一瞥。スタッフはもう一度そちらを見るが――――確かに、ステージの周囲に人がいない。面倒事の気配を感じたスタッフは眉根を寄せると、一歩下がった。
「いや、いないはずはないので……席を外してるんじゃないですか? 戻ってくるまで、もうしばらく待っていただくしか」
「はあ?」
 アマミは片頬を膨らませ、一歩スタッフに詰め寄った。
「こっちはもう二時間も待ってるの。なのに担当者とかぜーんぜん来ないし。ていうか、あなたここのスタッフでしょ? 説明してよ」
「い、いやいや。俺……じゃない、私は担当の者じゃないので……」
「えー? ちゃんとわかる責任者呼んでよー」
 スタッフは逃げるようにあちらこちらへ視線を飛ばす。そして一か所で止めると、アマミを見もせずに告げる。
「……少々お待ちを」
 逃げるように離れるスタッフ。その行く先を確かめたアマミは、口を三日月型に歪めて見せた。スタッフが向かった先には、彼より年上の――――小太りで浅黒い肌をした中年のスタッフがいた。駆け寄ったスタッフは、年上の男に後頭部をかきつつ頭を下げる。
「すんません、ちょっといいですか?」
「どうかしたか?」
「向こうの、クモみたいなアレについてなんですけど」
 若いスタッフは蜘蛛型ドローンを指差し、続いてアマミを指差した。その頃にはアマミは腕組みし、不機嫌そうな顔で爪先で地面をつつく。もちろん演技。だがスタッフ二人は気づかず続ける。
「あちらのお客様がですね、担当者がいないから説明しろと」
「ああ? ……チッ、面倒臭えな。どこのどいつだ、自分の展示品ほっぽり出してる奴は。っていうか、あんなのあったか? カタログ!」
「う、うっす!」
 うなずいた若いスタッフがタブレット端末を操作し始める。ややあって、彼はタップ、フリップする手を止めた。
「ええと、登録されてすね。製造コード・オクタビアス……しかしスペックが不明……」
「不明? どういうことだ」
「いや、んなこと俺に聞かれましても……」
 困り顔でスタッフが言う。その姿を遠目に、アマミは内心で快哉を叫んだ。
(惑っておる惑っておる! ハッキングは上手く行っているようじゃな!)
 エクスキャッターで供される品は、規格から売値まで登録されている。だがオクタビアスは、アマミが自身の能力で呼び出した蜘蛛型ドローン。それをハッキング担当の猟兵による偽装で展示品扱いにしてもらい、実在しない担当者を仕立て上げたのだ。
(そもそもが商品でない上、実は妾自身仕組みがよくわかっとらんオーバーテクノロジーの代物をどう説明できよう! さあ、泣きつけ! 上の者に!)
 口を引き結んで不機嫌顔を保ちつつ、胸の内ではニマニマとあくどい笑みを浮かべるアマミ。やがて、彼女の元に先のスタッフが駆け戻ってきた。奥では相談を受けたスタッフが通信端末を取り出している。アマミは会心の笑みを浮かべた。
(来た! オクタビアスくん、逆探知開始じゃ!)
 肩越しに蜘蛛型ドローンを一瞥。直後、オクタビアスは五つのマシンアイを光らせ、通信をかけるスタッフをフォーカスした。彼の声がオクタビアスの電脳へと流れ込む。
『失礼します。南エリアの展示品について、ちょっと確認したいことが……』
 オクタビアスの視界がトランシーバーに引き込まれた。白いグリッド線で作られたトンネルを飛翔する光景。科学技術を超えたアクセスがトランシーバーの通信先へとワープしていき、データを別の者へと送り届ける。
 そのデータの受信者は――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
主任…どうやら油断できない相手のようね…
確実に解決する為に頑張りましょう

まずは居場所ね…デジタル化された市場で助かったわ
私は適当な場所でお茶を飲みながらノートPCを広げ、遠隔【ハッキング】よ
最初は大雑把に【情報収集】
隠されたデータは【失せ物探し】、パスは【鍵開け】
罠には【罠使い】で対抗…勿論私の痕跡は【物を隠す】で隠しつつ、ね
何か発見したら【追跡】で細かく探りましょう

得た情報は作戦に参加している他の同僚さん達にも流すわよ
それと得た情報も流してもらいましょう
バラバラに動くよりかは、私を中継点に情報共有した方が上手くいく筈
他に電子的なサポートが必要な同僚さんが居るなら協力するわ

※アドリブ・絡み歓迎


メンカル・プルモーサ
【一人称:私 二人称:貴方・(敵に対して)お前 三人称:彼・彼女 名前呼び】
…ふむ、これはかなりデジタル化されている…ここの運営はかなり良い腕してるね…挑戦しがいがある…
…まずは装甲車の競りのシステムを調べて…あるなら身元を誤魔化して参加…
…装甲車を競り落として入金・商品受け渡しの過程でハッキング…
…競りがないならシステムにハッキングして過去の取引データから探るね…
…情報収集中は目立たないように迷彩を何重にも施して…セキュリティは慎重に無力化していくよ…
…主任達のアドレスを手に入れたら仲間に連絡、これを足掛かりに居場所を探る…
…装甲車の現物手に入ったら施されている「仕掛け」を探りたいね…



「ん、来たわね」
 ノートPCの画面に照らされ、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)の顔がぼんやりと浮かぶ。紙パックのお茶を片手にタイピングを始めた彼女のPC画面には、複数の違う映像を映すウィンドウ。
 手早くPCを操り始めるエメラの向かいで、タブレット端末を使っていたメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)がなんとはなしに独り言。
「……ふむ、これはかなりデジタル化されている……ここの運営はかなり良い腕してるね……挑戦しがいがある……」
「ええ、助かったわ。おかげで、情報収集も楽だもの」
 返答したエメラが細かく動き、情報を精査していく。彼女たち二人がいるのは、エクスキャッターの未使用区画。メンカルのハッキングにより誰もいない店をひとつ作り上げ、そこを拠点にマーケットシステムに侵入していたのだ。
 メンカルはエメラの方を見ずに言う。
「……それじゃあエメラ……私、装甲車の競りに参加してみる……」
「わかったわ。こっちは他の同僚さん達に情報まとめて回しておくから」
 エメラはタイピングの手を速め、手早くメール文書を仕上げて送信。エクスキャッターに潜入した面々の情報をひとまとめにし、全員へ拡散。エメラに集まった情報が猟兵たちに送り込まれ、メンカルが必要に応じてフォローを入れる。例えば、店や展示品の偽装登録。
 メールシステムを素早く閉じたエメラは別のウィンドウを立ち上げた。宇宙に浮かんだ無数の星を線でつないだかのような立体映像。そのうち光点のひとつがズームアップし、誰かの音声を拾い上げる。
『だから、オクタビアスなんてモノは搬入されてねーって!』
『じゃあ、あそこにあるアレはどう説明する? っていうか、出品者まで登録されてるんだぞ!』
『あークソッ。営業役はどこ行った! アイツは何か知らねえのか!』
『それが……さっきから連絡取れなくて……』
『なんだとォ!?』
 アマミに惑わされたスタッフと、その通信相手の声である。
(その営業役なら、路地裏で失神してるわよ。なんなら、全部吐いてくれたし)
 エメラは胸の内で呟きながら、さらに高速タイピング。光点がズームアウトし、四方八方に伸びる光の線を俯瞰する。データスキャン。情報を絞り込み、行きたい場所に繋がった線のみをピックアップ。全ての光線が消えたのち、新たな線が一本光点から伸びた。
(ビンゴ)
 隠されたアクセスを発見したエメラは、画面を残った線へと突進させる。光の線が太くなり、画面を光で覆った瞬間、ワープじみて光の奔流があふれ出した。
 凄まじい速度で流れる画面に、ひとつのウィンドウが現れた。ふたつのテキストボックスを備えたそれは、パスコードの入力画面だ。エメラが軽くキータイプすると、パスコードウィンドウはノイズに包まれて霧散。あっさりと鍵を開いた。エメラはさらに打鍵を連ねて追跡を続行。
(逆探知解除、カウンターウイルス機能停止、次元式パスコード認証凍結……)
 セキュリティシステムを無効化していき、エンターを叩く。直後画面は暗転し、無数の文字の羅列が上から下へ流れ始めた。文字列に目を通したエメラは、やがてカーソルを一点に合わせてクリック。タイピングでデータを解析。
「ん、出たわ。……あったあった」
「……何かわかった?」
「待って。今そっちに送る」
 メンカルのタブレットが軽い電子音を立てた。手元に降りた彼女の眼鏡に、ラインマークの付いたマップが映し出される。
「……これは……」
「爆破されたっていう誰かが残した、発信機のデータでしょうね。生憎途中で切れちゃってるけど……」
「……ん、充分。……むしろ、裏を取る手間が省けた……ありがとうエメラ」
 紙パックのお茶を持ち上げ、メンカルはストローを口に含んだ。エメラは改めてPC画面に向き直る。
「こっちはこっちで、もうちょっと探ってみるわね。ところで、そっちの首尾はどう?」
「……うまく行ってる。今、オークション中……」
 メンカルはお茶を置き、タブレットに目を落とす。そこでは、大鴉のエンブレムを刻まれた装甲車が今まさに競られているところだった。
『8000万』
『9500万』
『一億』
「……一億二千万」
 小さく呟き、メンカルは金額の表示をタップする。装甲車の競りシステムを調べた彼女は、身元を別の人物に誤魔化してオークションに参加していた。
 装甲車オークションはマーケットによらない独自システムのようだが、オークショニアを務める女性のPCにはしっかりと競売システムが組み込まれていた。魔術と電子の複合迷彩に加え、セキュリティは無力化済み。ハッキングはバレていない。
「……一億七千万」
「出すわねー……」
 エメラが呟き、半ば呆れた顔でメンカルを見る。
「お金持ってるの? 破産なんてしたら……」
「……大丈夫。払う気はないし……電子マネーだから、ハッキングでなんとかする……」
 そう返し、メンカルはさらに金額を上乗せした。競りが沈黙し、やがて入札成功の表示がタブレットに浮かぶ。
(……よし)
 メンカルが眼鏡を押し上げ、凄まじい速度でタブレットに指を躍らせる。入金システムを踏み台に、オークショニアのPCに侵入。中のデータを漁り始めた。
(……参加者の登録は全てデジタルでされている……それなら……)
 目まぐるしく切り替わる画面に目を走らせていたメンカルの手が、ピタリと止まった。次の瞬間、彼女の指は液晶画面を乱打したのち、真上に画面を滑らせる。メンカルは動画の一時停止めいて動きを止めた。
「……見つけた。……エメラ、そっちに送るから……貴方に照合、お願いしてもいい……?」
「良いわよ。そっちはどうするの?」
 メンカルはタブレットの電源を落として立ち上がる。耳にかかったグレーの髪を後ろにやりつつ、彼女は言った。
「……装甲車の現物、もらってくる……」
「そう。いってらっしゃい。情報は送ってあげるから」
「……お願い」
 手を振るエメラに背を向け、メンカルは暗がりに消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『食い止めろ!暴走事故!』

POW   :    件の整備工場による細工で暴走している自動車を身体を張って食い止め、その隙に通行人を避難させる

SPD   :    本当の整備というものを教えてやる!件の整備工場に忍び込み修理して暴走しない様にする

WIZ   :    既に暴走してしまった自動車による事故を最小限に食い止める為、交通管制システムにハッキングする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●お知らせ

 第二章のプレイングは、9月2日(月)の朝8:35より受け付けます。
 エクスキャッター南端。装甲車のオークションを終え、落札を逃した参加者たちが無念の表情で立ち去っていくブースにて。一人ブースの傍らに残った金髪眼鏡の女性が、耳に嵌めたインカムに片手を触れた。
「主任、本日の販売が終了しました」
『オッケー、ガブりん。順調じゃなーい? ……で、連中の動きはどうなのさ』
「今のところ、見られません。ただ……」
『ただ?』
 女は眼鏡越しに、鋭い視線を周囲に向ける。
 戦車、バイク、大型ドローン。既に見慣れた販売空間の光景に変わりはない。だが、女はうなじをヤスリ掛けされるような感覚を味わっていた。嫌な予感だ。
「……今日は、新しい店がいくつか出ていると風のうわさで聞きました」
『へーぇ。ま、いいんじゃないの? どっちにしてもオレたちにとって損はないさ』
 インカムから響く声は楽しげ。女は耳から手を離して通信を終えると、改めて周囲の光景を睨んだ。
 他方、彼女の預かり知らぬところで、猟兵の鼻が彼女たちの本拠地を嗅ぎ当てていた。
神羅・アマミ
こちらの動向がある程度相手方にも勘付かれ、車両の暴走が避けられぬ事態とあらば…
まずやっておくことは敵本拠地の車両出入口の数と位置のチェックじゃな。

ある程度内部が把握できたなら、コード『特機』を発動。
古典的手法ではあるが、出入口に一番近い各車両のタイヤ部分へまきびしのように予めソードビットを設置しておくという寸法よ!
タイヤも当然強化されとるじゃろうし、それに合わせビットも何本か束ねて狙う車両も絞った方が良いやもしれぬ。
初動に横転や玉突き等で出入口をスタックさせられれば、彼奴らに取って大きな痛手となること間違いなし!

一旦騒ぎになってしまえば、やはりビットのタイヤ狙いで機動力を削ぐよう努めるのじゃ。


エメラ・アーヴェスピア
さて、情報は集まってきたけど…そろそろ相手が動き出しそうね
動きが無いかだけはしっかりと確認しないといけないわ
それじゃあ、引き続き頑張りましょうか

とりあえず、【情報収集】を継続…それと防諜も考えないと
同僚さんのサポートで無事に終わればいいのだけど…

車が暴走を始めたのならドローンを【追跡】させるわ
暴走車の位置情報は同僚さんや警察に送信、被害を減らすわよ
出来ればドローンを車に降下させ、経由で車に【ハッキング】
一斉に暴走するという事は、何処からか命令が送信されたと言う事
ならそれを逆探知できればかなりの情報になると思うわ
…現物があるなら私が直接【メカニック】で調べてもいいしね

※アドリブ・絡み歓迎


天門・千里
一人称:私
二人称:だいたい呼び捨て
美影、とものとともに介入。
乗り物はルールを守って乗るものだ。みんなも守ろう、
私はたまに守らないけど!

●WIZで暴走してしまった自動車事故を食い止めるため、交通管制システムをハッキングする

私、乗り物はともかく管制システムなんてよー知らんのだけど、
まずは【情報収集】。こういうのはマニュアルとかあるもんでしょ。
その後、【世界知識】と【学習力】にてふんふんなるほどこういうものね、とシステムを【操縦】。とにかく暴走車と普通の車を接触させないよう
交通システムを【見切り】、操作。きっと普段乗り物で戦ってる
【戦闘知識】が役に立つ、はず。
敵の介入とかあったらUCの出番っと。


柚月・美影
せっちゃん(千里)、とものちゃん達と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎

●事故を食い止めるために
応援に参上!ってね…
さて、それじゃあお仕事お仕事
得意のSPDで整備というものを教えてやる!
整備工場にはクライミングで壁をよじ登ったり、念動力で死角から入らせてもらうわ
気付かれそうなら時空超航行を使って灰色の世界に逃げる
潜入出来たらこっちのもの
暴走しない様に徹底的に整備してあげます!
クイックドロウで道具を引き出し、世界知識で車種の情報を確認
野生の勘で当たりをつけ、メカニックとしての技能をフル活用するわ
「ふふん、こんなもの飛空艦に比べたら屁でもないわよ!」


ガーネット・グレイローズ
すでにオークションに出された多数が成約済か……
ならばいつ暴走してもおかしくないな。
愛車のヒーローズカーBD.13に乗り込んで
暴走車両を追跡開始だ。(同乗者歓迎)
車はネットワークにコネクトした状態で情報収集は
味方の猟兵に任せ、私は最短ルートで装甲車の元に車で向かう。
【血統覚醒】でヴァンパイアの力を解放し、人間離れした
〈運転〉技能で対象の車両を追いかける!
「人的被害が出る前に、こいつを止めてみせる!」

車の窓を開けて手を突き出し、ブラックバングルから
〈衝撃波〉を放って、装甲車に直接攻撃。
ダメージが通りそうにないなら、鋼糸を〈念動力〉で操り、
高速で震動させる。糸鋸の原理を利用した〈鎧無視攻撃〉だ。


ザザ・クライスト
【POW】民間人の避難を最優先

「チィッ、もう始まってやがる!?」

民間人を【かばう】

【鉄血の騎士】を発動

盾を強化して車を【盾受け】

「さっさと逃げろ! 轢かれてェのか!?」

【ダッシュ】で駆け抜けて救出
猟犬レオンも避難誘導を手伝わせる
"牙"を鞭や鋼糸に変えて工場内をワイヤーアクション
合間に煙草を吸って【ドーピング】

「車とマトモにやり合ってられっかよ!」

ボヤキも出るが子供が巻き込まれそうなら身代わりも辞さない

「ガハァァッ……!!」

吹っ飛ばされるが【激痛耐性】は伊達じゃねェ
ドローンで暴走してる車を探して最悪バラライカで破壊

アドリブ歓迎
男にはヘル・苗字、女にはフラウ・苗字で呼ぶドイツ風の敬称
一人称はオレ


メンカル・プルモーサ
…ふむ、これは良い代物だね…それだけに暴走されると厄介…
…『主任』の腕前はどれほどの物かな…
【闇夜見通す梟の目】を用いて解析用ガジェットを召喚…
…ガジェットの1つからダミーのオンライン信号を出して購入した装甲車は完全オフラインに…
…装甲車にハッキング、バックドアや暴走プログラムなど仕込まれたを全てチェック…
…予知に寄れば、一斉に暴走…と言う事は時限式か、オンラインからの命令で暴走すする可能性が高い…ガジェットの補助も得てそれを解析…
…そして、暴走を止めるためのワクチンプログラムを作成…通信を逆用して全ての装甲車にそれを流す…
…あとは周囲の猟兵も拾って装甲車で『主任』達のところへ乗り付けるよ…


神代・凶津
いい加減機嫌なおせよ相棒。
そうだ、帰りに甘い物でも食っていこうぜ。
・・・食べ物にはつられない?そういうなよ相棒。

っとどうやら暴走した自動車が現れたようだぜ。
んじゃ派手にぶっ壊してやるぜッ!
「・・・その前に逃げ遅れた人達を避難させるのが先。」
OK 相棒、なら『破魔弓』の出番だぜ。

暴走車に狙いを定めて結界射ちで動きを封じてやるぜ。
くらいやがれ、ゴーストパワーッ!

暴走車を止めることに成功したら避難誘導は任せたぜ相棒!
「・・・ッ!こちらの方が安全です!落ち着いて避難してください!」

主任だか何だか知らねえがこれ以上好き勝手させるかよッ!


【使用技能・スナイパー】
【アドリブ歓迎】



 赤銅色の金属で作られた天井を這い回るパイプ。壁に立てかけられた蒸気駆動の機関銃、機械盾、機械猟犬の数々。噴き出す蒸気の音が響く金属性の空間は、ユーベルコードで生み出された亜空間武器庫兼工房である。空間の端側、鋼鉄の机でPCを叩く彼女の。
「……逆探知なし。セキュリティチェック、よし。スキャン完了。システム・オールグリーン」
 ピーピピーピーボッ、ピーピピーピーピー。
 電子音を吐くPC画面をにらみつつ、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)はエメラルドの瞳に意識を集中。英数字の羅列を一文字も見逃さんとする彼女を余所に、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が工房中央に座す黒鉄の車に手を触れた。
 黒い光沢を持つ、大型の装甲車。側面には大鴉のエンブレム。先ほどブラックマーケットで競り落としたそれを撫でながら、メンカルは呟く。
「……ふむ、これは良い代物だね……それだけに暴走されると厄介……」
 アンダーリムの眼鏡越し、眠たげな目がきらりと光る。
 好奇心を刺激されたメンカルは、背後でタイピングに熱中するエメラを振り返った。
「……エメラ、まだー……?」
「もうちょっとだけ待ってくれる?」
「……んー……」
 待ち遠しげな表情でじっと見てくるメンカルはさておき、エメラは新たなブラウザを呼んだ。
 白地に箇条書きの文章。仲間たちが集めた情報のまとめを再確認しつつ、腕を組んで片手の拳を口元に添える。
(さて、情報は集まってきたけど……そろそろ相手が動き出しそうね。動きが無いかだけはしっかりと確認しないといけないわ)
(プログラムは構築できたし、あとは何をどれだけ呼ぶかだけど……作業しながら三桁数は扱えないし……)
 しばらく沈黙思考し、エメラはキーボードに右手を伸ばす。
 片手で手早くタイピングすると、新たに出現した黒地のウィンドウに無数の英数字列が書き込まれていく。エンターキーが叩かれた瞬間、エメラから見て左側、工房の壁に小さく四角い穴が空いた。
 穴から生える滑り台めいた形の物体。そこを無数のアルミ缶じみた物体が転がり、カラカラと音を立てつつ床に散らかされていく。エメラは缶を横目に指を鳴らした。
「全機起動。リコネサンスドローン」
 主の命令を受け、缶の表面が六分割されて展開。六つ足で起立したそれらの正体は、エメラが操る魔導蒸気駆動ドローンだ。隠密属性を得て稼働する偵察機を放つUC、その名を『ここに始まるは我が戦場』。機体数90体。
 六つ足の隙間からか細い蒸気を噴き出したドローンたちが、事前に組み込まれたプログラムに従って三々五々に散っていく。
 壁際に辿り着いた傍から消えていく従属たちを見送ったエメラは、机に両手をついて立ち上がった。ウェーブのかかった金髪を後ろに払い、落ち着かない様子のメンカルを見る。
「待たせたかしら?」
「………………ちょっとだけ。貴方にしては、時間かかったね……」
「少し手回ししてたから。それじゃあ、引き続き頑張りましょうか」
「ん……」
 こくんと頷いたメンカルは、銀の三日月をあしらった杖を持ち上げ、床を突く。軽く両腕を広げたエメラとメンカルの足元に、それぞれ金と青の魔法陣が広がった。二人は互いに呪文を歌う。
「……賢き眼よ、出でよ、視よ。汝は検分、汝は助力。魔女が望むは黄昏飛び立つ森の知者」
「コンバットエンジニア、出動。各員、速やかに作業を開始なさい」
 二色の魔法陣が眩い光で周囲一体を塗り潰した。一瞬のフラッシュが消えたあと――――工房に座した装甲車を、機械フクロウを肩に留めた蒸気ロボットが取り囲んでいた。
 フクロウ、人形共に魔導と蒸気で動く機構。神秘・文明の複合技術を扱う二人は、改めてヴィラン製の装甲車に向き直る。メンカルが軽く杖を掲げると、フクロウの一匹が装甲車のルーフに乗った。機械の両目が互い違いに明滅し、頭部が青白い光の波紋を周囲に広げる。
 杖を下ろし、メンカルは言う。
「……ダミーのオンライン信号を出した……これでこの装甲車は完全オフライン……」
「上出来ね。電脳面は任せてもいい?」
「……ん。じゃあ、ハードは貴方にお願いする……」
「わかったわ。全機、分析開始!」
 エメラが片腕を突き出すと同時、蒸気ロボットたちが装甲車に取りつき作業を開始した。
 運転席の中に潜り込んだり、バンパーを開いたりする従属たち。エメラは屈み、足元に空いた穴から迫り出した工具箱の中身をのぞく。工具をいくつか取り出しつつ、メンカルに告げた。
「メンカルさん。一斉に暴走するという事は、何処からか命令が送信されたと言う事。ならそれを逆探知できれば、かなりの情報になると思うわ」
「……そうだね……一斉に暴走と言う事は時限式か……オンラインからの命令で暴走すする可能性が高い……。……バックドアとか、暴走プログラムとかもチェックする」
 メンカルはタブレットを手に操作を速める。はやる気持ちに従って目まぐるしく切り替わる液晶画面を見下ろしながら、灰色の魔女は密かに両目を輝かせた。
「……『主任』の腕前はどれほどの物かな……」


 15分後、ヒーローズアース市街地。
 CABOOOOOM! 車道のど真ん中で大爆発が巻き起こり、車や信号機が宙を舞う。
 流星めいて地面に次々と突き刺さった車が爆発・炎上。信号機をぶら下げた鉄柱がビル壁を貫いた。
 悲鳴を上げ、爆心地から逃げ惑う人々。だが炎から飛び出した一台の装甲車が恐るべき速度で追いかける! 赤い光を照り返す大鴉のエンブレム。ルーフに設置されたガトリングの銃身が回転し、鉛弾をバラまき始めた!
 BRRRRRRRRRRR! 360度全方位、ビルも道路も人も物も無関係に穿つ暴威! 装甲車後部に設置されたミサイルポッドが火を噴き、マイクロミサイルを雨あられと降り注がせる。連鎖爆発!
 爆音と破砕音鳴り響く街を疾駆し、逃げ惑う市民の合間をすり抜けながら、ザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は口元を歪めた。
「チィッ、もう始まってやがる!?」
 連絡を受けてエクスキャッターを飛び出した彼は、跳躍して渋滞を起こす車の列に飛び乗った。道行く人々を避け、全速力で駆け抜けていく。途中で指笛を鳴らした彼の隣に、狩猟犬が並走。そちらを横目にしたザザは、狩猟犬に命じる。
「レオン、避難誘導だ! アレは……」
 CRAAASH! 渋滞の果てから車が吹き飛び、木の葉めいて空を裂く。ザザは踏み込んだ足をルーフに食い込ませ、膝から背中を一気に曲げた。
「オレが止めるからよッ!」
 ザザの姿が掻き消え、ソニックブームが拡散! 主の命令を受けた狩猟犬レオンハルトは直角ターンして車列を飛び降りるのと同時、ロケットじみて飛翔したザザは左腕を引き絞る!
「黒鉄と血が盾と化す! ジークフリート!」
 ザザの袖を引き裂いて鮮血が噴き出した。赤い奔流を薄く渦を巻かせて大型の円盾に変化させ、ザザは目前まで迫ってきた車をガード! 盾を伝って骨まで響く衝撃に顔を歪めながらも、左腕を振り抜いて車を弾いた。
 ビルに突っ込む車体を無視して前方を見下ろす。そこにはガトリングとミサイルをまき散らしながら渋滞を蹴散らす一台の装甲車! その車列のうち、オープンカーに乗った少年が運転席の父を揺すって泣き叫んでいた。無慈悲に迫る暴走装甲車!
「クソッ!」
 舌打ちしたザザは右手を振って大型のダガーナイフを取り出した。無数の繊維状に解ける純白の刃を打ち振り、オープンカーのバンパーに糸状の刃を突き立てる!
「アレより良い車だが、命にゃ代えられねェからな! 許せよッ!」
 ザザが叫ぶと共に、繊維状の刃が彼をワイヤーアクションめいて引っ張り寄せる! 斜めに落下したザザは車のバンパー部分に着地。車を吹き飛ばして目と鼻の先に現れた装甲車の突進に、血の円盾を掲げてみせる。CRAAAAASH! 車ごと後方に押しのけられるザザ!
「ぐォッ……!」
 左腕から肩までがミシミシと軋む。歯を食いしばり、オープンカーのバンパーをさらに凹ませて踏みしめながら、ザザは肩越しに背後を振り向く。涙目で唖然とする少年に、半ば怒鳴るようにして叫んだ。
「さっさと逃げろ! 轢かれてェのか!?」
「ひっ……!」
 顔をくしゃくしゃに歪めて硬直する少年。恐怖と異常状況を処理しきれずフリーズした彼に、ザザは歯噛みをした。少年の父と思しき男はハンドルに突っ伏し動かない。頭を打ったか。
「ああクソッ! マジで車は諦めろよ!?」
 言い捨てたザザはその場で軽く跳び、車のルーフにドロップキック! 後部の跳ね上がった車からカタパルトめいて少年と父が射出され、装甲車の真上に達する。ガトリングガンの銃口が二人を狙うその寸前、装甲車を駆け上がったザザが銃口を血の盾で銃口を塞いだ。
「ぶっ壊れろ!」
 ガトリングの銃身が赤熱して膨張し、BOOOOOM! 行き場を失った銃撃エネルギーの暴発により吹き飛ぶ銃身。ダガーを腰のベルトに吊ったザザは素早く拳銃を引き抜き、壊れたガトリング踏み越えてミサイルポッドに弾丸を叩き込んだ。弾頭に鉛弾をめり込ませ、跳躍!
 CABOOOM! ミサイルポッドの爆発を背に受けたザザは、空中で少年と父親をキャッチ。そのままアスファルトにハードランディング着地し、勢いが弱まったところで二人を下ろした。
「ふぇ……?」
 ぽかんとした顔で見上げてくる少年を置いて、ザザは立ち上がる。傍に駆け寄って来た猟犬を撫でながら、彼は言った。
「こいつについていけ。安全なとこまで連れてってくれる」
「え……でも、あなたは……」
 控えめな少年の声を、猛るエンジン音が塗り潰した。武装を破壊された装甲車がUターンし、ザザめがけて疾走してくる! ザザは軽く腰を落として言い放った。
「オレはアレ、なんとかしなきゃならねェからな。早く行けッ! 死にたくなきゃァな!」
 ロケットスタートするザザ! 猛スピードで突っ込み、シールドバッシュを仕掛ける彼と装甲車が真正面から――――CRASH! ザザが砲弾じみて吹き飛び、T字路を作るビルに背中から激突!
「ガハァァッ……!」
 肺が空気を絞り出し、酸素を求めて咳をする。壁に半ばめり込んだザザは、猟犬に小突かれながら路地に逃げる少年を視界端に捉えて苦笑。
「ったく、難儀なことだよなァ……」
 ぼやく彼に、装甲車の追撃が襲いかかった。


 一方その頃、ザザより北東に4キロメートル離れた地点。
 神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)が依代の少女と共に逃げ惑う人々の間をすり抜ける。遠くに見えるビル群からは黒煙が立ち上り、時折爆発音が木霊していた。
「随分ハデなファンファーレだな。急ごうぜ、相棒。乗り遅れちまう!」
 軽口を叩く凶津に対して、依代となった少女は不機嫌そうな無言を返す。彼女の拗ねたような態度に、凶津は溜め息。
「いい加減機嫌なおせよ相棒。別に胸揉まれたくらい減るもんじゃ……」
「………………」
 少女が凶津にアイアンクロー! 五指に力を籠められ、鬼面が軋む。凶津は少女の怒りを察して内心滝のような汗を流した。
「あっマジスミマセン! いや待てって! わかった、俺が悪かった! 今こんなことしてる場合じゃねえから急ごうぜ! な!?」
 慌てて言いつくろう凶津の前方100メートル、ビルの壁を突き破った装甲車が歩道でドリフト! 凶津は少女の体を操り黒い和弓を手に取った。少女は自分の意志で足を速める。装甲車のルーフでガトリングガンが回り始めた!
「っと、どうやら暴走した自動車が現れたようだぜ。んじゃ派手にぶっ壊してやるぜッ!」
「……その前に、逃げ遅れた人達を避難させるのが先」
「OK相棒。ならコイツだ!」
 凶津は少女が背負った矢筒から矢を一本引いて弓に番える。先に札を結んだ矢で装甲車を狙う二人を、真紅のオーラが包み込んだ!
「食らえ、ゴーストパワ――――――――ッ!」
 SHOOOT! 赤い光が装甲車から離れとする群衆の隙間を突いて駆け抜け、装甲車に命中! 直後、矢尻に結ばれた札からオーラが膨らみ、円柱状の結界と化して装甲車を閉じ込めた。ガクガクと痙攣する銃身を眺め、凶津は少女の腕でガッツポーズ。
「うしッ! 避難誘導は任せたぜ相棒!」 
「……ッ! こちらの方が安全です! 落ち着いて避難してください!」
 少女が声を張り上げ、腕を振り回して避難を促す。装甲車が停止した隙を突き、少女の両脇をすり抜けて逃げていく住民たち。しかし、彼らの行く先でビル壁を吹き飛ばして新たな装甲車が出現! 少女がそちらを振り返った瞬間、凶津が叫んだ
「跳ぶぞ、相棒ッ!」
「……っ!」
 少女の返事より早く少女の体が飛翔し放物線を描いた。虚空で身をひねらせた凶津は二の矢を番え、新たに現れた装甲車を射る! ボンネットに突き刺さった矢からほとばしる赤い稲妻が、漆黒のボディを塗り替えた。
 スタンする装甲車のルーフに着地した少女は、腰を抜かしたり足を止めたりした住民たちにストリートの一方向を指差して示す。住民たちが視線を向けると、そこには地下鉄の入り口!
「地下鉄へ! そこまでは車も入ってこれません! さあ慌てず、急いで、一人ずつ!」
 少女の誘導を聞いた人々は口々に声をかけ合い、地下鉄の入り口へ殺到していく。
 子供を抱き上げ、老人を背負い、並んで駅へ滑り込む住民たち。密かに胸をなでおろす少女に、凶津が警鐘を鳴らした。
「油断してる場合じゃないぜ、相棒。あいつ、そろそろ動き出す!」
 少女が一台目の装甲車を見ると、車体の痙攣は先より激しくなっていた。結界が悲鳴を上げるようにバチバチと稲妻を散らし、ひび割れる。嫌そうな溜め息を吐く少女を、凶津はなだめる。
「いい加減機嫌なおせよ相棒。そうだ、帰りに甘い物でも食っていこうぜ」
「……食べ物には、つられないから」
「そういうなよ相棒。好きなもん食わしてやるから……今は、やるッ!」
 少女の握る和弓が光と化して手の平に収束。弓だった光球は長く伸びて内側から爆ぜ、一本の日本刀を外気にさらす。両手で持った刀を顔の横に引いた少女の体に、激しい紫電がまとわりついた。紫色に変色した凶津が号令をかける!
「ぶちかますぜ、相棒ッ!」
「転・身ッ!」
 少女に晴天の霹靂が一筋落下し、ZGRAAAAK! 爆発した雷を斬り裂いた少女は、雷まとう紫の巫女服を来た剣士の姿に変身していた。アメジストじみた光沢を放つ胸当てと肩当てを光らせ、両膝を曲げて跳躍体勢! 装甲車が赤光の結界を打ち破ると同時、少女は弾丸めいて飛び出した!
「ぶった斬ってやるぜぇぇぇぇッ!」
 水平飛翔しながら刀を振り抜かせ、凶津が少女の体を使って素早い連続斬撃を繰り出した。装甲車の後方にスライディング着地する彼の背後で、装甲車に紫電の剣閃が幾重にも走る! 次の瞬間、装甲車は爆散し細切れの鉄片と化した! 凶津は少女ごと前後反転!
「もういっちょ行くぜッ!」
「人使い、荒い……!」
 少女の苦言を余所に、凶津は刀を大上段に振り上げる。刃に落雷が落ち、天突く稲妻の刃を形成! 派手なエンジン音を吹かして赤い稲妻をふっ飛ばした二台目に、一歩踏み込み背を逸らす!
「食らえ、雷神の一撃! サンダーフォール・スラ――――――――ッシュ!」
「……鳴・轟・斬ッ!」
 凶津と少女が互いの意志を同調させ、雷の刃を振り下ろした。ZGRAAAAAAK! 大地に打ちつけられた雷はアスファルトを引き裂きながら装甲車に接近し、黒い車体を真っ二つに引き裂く。
 パックリと鏡開きされた装甲車が爆発炎上して動かなくなったのを確認し、少女は急いで周辺に目を配る。周辺は既に無人となっており、人の気配は無い。
「……みんな、無事かな」
「全員逃げられたんなら無事だろ。移動しようぜ。他んところもこんなザマだってんならやべぇ!」
 不承不承ながら凶津に同意する少女。その時である! 彼女の真上、ビルの壁とガラスを爆砕して装甲車が突き出した! 空を仰ぐ少女を覆う黒い影。凶津は即座に状況判断!
「転がれ相棒ッ!」
「……!」
 横っ飛びから地面を転がり、少女は装甲車の墜落を回避! 高所からの落下を難なく耐えた装甲車に刀を向ける二人。だが直後、立ち並ぶビルが次々と倒壊し、装甲車を次々と吐き出す! 獲物を狩るサメの群れめいて少女と凶津の周囲を旋回し始める二十台近い装甲車! 少女が鋭く息を呑む。
「……ッ!」
「多い多い! いきなりめっちゃ来やがったなァおい!?」
 動転した口調ながら、凶津は三重円を描いて走行する装甲車を見分していく。一台にひとつ取りつけられたガトリングガンの銃口は全てこちらを照準しており、いつ蜂の巣にされてもおかしくない状況!
(畜生、包囲網が厚い!)
(いくら神速のスパークフォーム・ツー形態だからって、集中砲火に対応できるかどうか! っつーか、相棒の寿命は保つか……!?)
 『スパークフォーム・ツー』、依代の少女に曰く『雷神霊装・二ノ型』は雷をまとい速度を爆発的に上げる戦闘形態。しかしその代償は少女の寿命だ。
 妹分に強いて一か八かの突破を試すか、それとも別の方法を考えるべきか。心臓を握られたような感触を味わう凶津は、回り始めるガトリングガンの銃口を見て決断を下す!
「しょうがねえ! ちょっくら死なねえ程度に無理するぜ相棒ッ! ここさえ抜けりゃあこっちのもんだ!」
「っ!」
 力強く頷き、腰を落として構える少女! 二人が覚悟を決めて足に稲光をチャージし、装甲車の軍勢が鉛弾を放ちかけた、その寸前。VOOOOONG!
 派手なエンジン音を立て、真紅のスポーツカーが装甲車の包囲網を飛び越えて少女の真横に着地しドリフト! 後部車輪で円弧を描く2ドア車体の運転席、窓から半身を出したのはガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)!
 顔に片手を当て、瞳を紅に光らせた彼女は車外に見える装甲車の包囲網に手の平をかざした。手首に嵌まった黒い腕輪が赤黒いオーラを灯す!
「消し飛べ!」
 ガーネットの手から赤黒い衝撃波が放たれ、包囲網を形作る装甲車の横腹を直撃! ドミノ倒しに装甲車が横転し、衝撃波の範囲を逃れつつも旋回不可能となった車体がブレーキをかける。ガーネットは腕を出したのとは反対の窓を開け、立ち尽くす少女に声をかけた。
「無事か?」
 唖然とする少女に代わって凶津が答える。
「おかげさまでな! 助かったぜ!」
「それなら良かった。早く乗れ!」
 凶津が一瞬背後を振り返ると、横転しなかった装甲車がヘッドライトを少女に浴びせた。鬼面によってジャンプさせられた少女がルーフに着地すると共に、ガーネットはアクセルペダルを踏みしめる!
 ギャルルルルルルル! タイヤが高速回転し、車のマフラーが火を噴いて加速! ニトロターボを決めたクーペは崩れた装甲車の間隙を貫き車道に飛び出した。その後を追って横転しなかった装甲車八台が疾駆! さらにガトリングとミサイルを乱射! 凶津が上擦った声を上げた。
「うおおおおおっ! めっちゃ来てやがるし撃ってやがる!」
「見ればわかるさ。ああ、屋根に捕まるといい。そのままだと恐らく落ちる」
 言うが早いか、ガーネットはハンドルを高速で左右に切り車体を激しく蛇行させた。BOOOMBOOOMBRRRRRRR! ミサイルの爆発と飛び交う銃弾の嵐を掻い潜って走る2ドアクーペ。
「おあああああああッ! 絶対離すなよ相棒! 死ぬ! ここで離れりゃ心中だ!」
「……っ! ………………っ!」
 ルーフにへばりついた少女と凶津が頭上を掠める弾丸に震えあがる中、ガーネットはハンドルについたボタンのひとつを押した。ハンドル中央にホロウィンドウが浮かび、『SOUND ONLY』の文字を表示する。特殊通信!
「交通規制は終わったか? ナビゲートを頼む」
『んあー……? あー、はいはい』
 気の抜けた声を返したホロウィンドウに地図が映った。道路のいくつかにバツ印をつけたそれは、通行止めや渋滞のサイン。リアルタイムな交通情報だ!
 ウィンドウがまたも気だるげな言葉を紡ぐ。
『はい、今交通状況こんな感じ。管制システム操作したの初めてだからよくわからんけど』
「……闇雲にドライブするよりはマシだと思おう」
 苦笑したガーネットは軽く首を振り、バングルの手首を口元に寄せる。腕輪に巻きつけた鋼糸を歯に引っ掛けて引き解くと、小さく呟いた。
「……やれやれ、先まで暴走車を追う立場だったのだがな。早いところ処理して、次の相手を追うとしよう」
 噛んだ鋼糸を引き延ばし、窓からバングルの腕を突き出して真上に振るう。ガーネットの腕から伸びた鋼糸はルーフにくっついた凶津の目前に達した。素早く糸の端をキャッチさせ、凶津は屋根の上から問いかける。
「おい、なんだこれ?」
「合図をしたら、それを装甲車に打ち込んでくれ。どれでもいいし、どこでもいい。とにかく命中が第一だ」
「打ち込むって……この状況でか!?」
「この状況だから、だな。一網打尽のチャンスだ。あまりこれだけに時間は割けない。一気に打開する! 構えろ! 3、2、1……!」
「ちょッ……!」
 凶津の静止すら待たず、ガーネットの2ドアクーペは道端のジャンプ台から飛び出した! 高架線路を飛び越える赤い車のルーフで、凶津は動転する少女を立ち上がらせる。身にまとう紫電を、服を脱ぎ捨てるように剥ぎ取り元の姿に戻った少女の手には弓!
(撃ったら即伏せ撃ったら即伏せ……!)
 心の内で繰り返しながら、凶津はスローになった世界で少女に弓矢を構えさせる。矢の後端にはガーネットの腕に繋がる鉄鋼線! 迷わずクーペが使ったジャンプ台に突撃する装甲車の一台に狙いを定め、凶津は弓の弦から手を離させた。
 SHOOOOOT! 流れ星めいて空を裂いた矢は、先頭の装甲車に突き刺さった! すぐさま少女がルーフに伏せた瞬間、時間は元の速度に戻る! ガーネットの車は放物線を描いて立体駐車場の三階にエントリー! 着地の衝撃が凶津たちを揺さぶった。
「ぬおッ!? しっかりしがみつけ相棒ッ! 落ちたら一緒にお陀仏だ!」
「簡単にっ……!」
 ガリッ。少女が舌を噛んだ少女が涙目になる。激しくドリフトする車体から振り落とされまいと全霊を尽くす凶津は、ガーネットに叫ぶ。
「こっからどうするつもりだ!?」
「あまり叫ぶと舌を噛むぞ」
「もう噛んでんだよ! 相棒がな!」
「それは失礼した」
 ガーネットは言いながら腕を曲げ、吸血鬼化した筋肉に全力を込める。他方、ワイヤー接続された装甲車が立体駐車場に飛び込み、ワルツを踊る2ドアクーペに振り回されて半円を描く。一拍遅れてさらに七台、装甲車が立体駐車場にダイブし着地の勢いのままガーネットの車に突進!
「ここ、だッ!」
 腕を回して手にワイヤーを巻きつけるガーネット! 彼女はそのまま腕を振り、腕力と遠心力を乗せて鋼線接続された装甲車を強制ドリフトさせ自車を遠巻きに一周させた。接続装甲車は突進してくる七台の後方を真横に滑って壁に激突。同時に、SLASH!
「え……」
 少女が凶津の下で目を丸くした。正面衝突をしかけに来ていた装甲車七台が、全て上半分を斬り飛ばされて激しく蛇行したのち横転。2ドアクーペの両側を滑走して抜けていったのだ。
 何が起こったのか? 答えはガーネットのワイヤーである。彼女はサイキコキネシスで鋼糸を超高速震動させ、糸ノコギリの要領で硬い装甲を引き裂いたのだ!
「うぐッ」
 ガーネットは顔をしかめて歯を食いしばり、ハンドルに額をくっつけた。汗が滴り、舌が干からびてヒリヒリ痛む。呼気が乾いた喉を撫でる感触を、絞り出した生唾を呑み込んで耐える。ヴァンパイア化の影響にさらされたガーネットを、腹が凹んでいくような感覚が苛んだ。
(もう少し……もう少し持ってくれ……!)
 窓から出した腕を思い切り引っ張り、装甲車のフロントガラスに刺さった矢を抜いて回収。バングルに巻き取られていくワイヤーを見ながら、ガーネットは車の前後を反転させた。
「すまない。あと一台……頼めるか?」
「頼めるか? じゃねェよッ! おぼえてろ! あとでスイーツバイキング奢らせてやる!」
 凶津は叫ぶと、四つん這い状態で残る装甲車をにらみつけた。斬り捨てられた七台とは違い、矢に射抜かれ振り回されただけの一台はエンジンを吹かし直している。鬼面の口元に橙色の火球が膨らむ!
「お前もいつまでも追いかけて来てんじゃねェ! 燃えやがれェェェェッ!」
 火球が一気にバレーボール大にまで膨らみ、BOMMMB! 放たれた火球は最後の装甲車に肉迫し、CABOOOM! 橙色の爆轟を置き去り、ガーネットの車は立体駐車場の三階から飛び出した。



 ヒーローズアース郊外、主任の工場にて。
 薄暗い部屋で一人、女性がデスクトップPCと無言で向き合う。彼女の名はガブリエル。主任を名乗るヴィランと共に暗躍する者である。
 ガブリエルはPC画面光を反射する眼鏡を押し上げた。軽くタイピングし、独り言めいて呟く。
「主任。市街地の装甲車が全停止しました」
『あ、そうなんだ! で? それが何か問題?』
「……大問題だと思います、主任」
 ガブリエルは溜め息をぐっとこらえた。
 市街地の装甲車を暴走させて一時間。全ての機体をモニターしていたが、何故かその全てが一斉に動きを止めたのである。
「例の者を出動させるべきかと」
『アハハハハハ! 早い早い! それはまだ尚早ってヤツじゃないかなぁ、ガブりーん!?』
「いえ、丁度良いタイミングかと思いますが」
『いやいやぁ、まだまだだよ。だってさ……ホラ!』
 デスクトップPCの上に三つのウィンドウが開く。それを見上げたガブリエルは両目を見開いた。
「これは……!」
『いやあ、笑っちまうよねえ! 連中、力技だけが能かと思ったら……まさか暴走止めるプログラムを組む奴がいるんだからさあ! しかも一体どんな手を使ったか……』
「…………」
 ガブリエルは席を立った。暗がりに響く主任の声がおどけてみせる。
『おっと、今度は流石に怒っちゃったかな? ガブりん』
「……いいえ。ですが主任、万が一の準備をさせて頂きます。よろしいですね?」
 ガブリエルに返って来たのは、短い笑い。その意味を問いただす時間すら惜しく、ガブリエルはPCから離れ暗闇に姿を消した。

 他方、その工場の別所。完成した装甲車が無数に並べられた広大な空間に、カチャカチャと金属同士が擦れあう音がする。音の出所は、装甲車のうち一台の下部。スマホ片手に、装甲車を背する形で屈んだ天門・千里(銀河の天眼・f01444)の真横からだった。
 千里はスマホを操作しながらやる気の無い声を出す。
「美影ー。私もう充分仕事したし帰っちゃダメ?」
「だーめっ。もうちょっと付き合ってよ」
 車の下部から、仰向けになった柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)が滑り出てくる。
 背中にスケートボードを敷き、皮手袋を嵌めた手にスパナ。すぐさま装甲車の下にもぐり直す美影に、千里が言う。
「付き合ってって……大体全部美影がやっちゃってるし。私、交通管制のハッキングで脳疲れたんだけど」
「まぁそう言わないでよ。折角ここまで一緒に来たんだしさ」
 太ももに肘をついて頬杖を作り、千里は嘆息した。
 美影の潜入ルートは、工場の外壁をロッククライミングの要領のよじ登るというものだった。千里は急な壁を這って上がる美影の背中に括り付けられ、半ば連行される形でここに入って来たのである。仕方なく、交通管制システムをハッキングをしつつ運ばれるままにされていたのだが。
「っていうか、美影って装甲車の整備とか出来んの? バイクと同じってわけでもないでしょ?」
「ふふん、こんなもの飛空艦に比べたら屁でもないわよ!」
 装甲車の底に積み込まれたパイプ配線などを見ながら、美影は強気に言い切った。
 豊富な知識とメカニックとしての腕、野生動物めいた勘をフル活用して手早く細工を行っていく。やがて、美影は装甲車の下から滑り出て来た。
「終わった?」
「もちろん! ……まぁ、半分はエメラさんとメンカルさんのおかげだったりするけど……」
 照れ臭そうに笑いながら、美影は上体を起こす。千里がゆらりと立ち上がり、感情の薄い瞳で辺りを見回した。かなり広い空間――――サッカースタジアム以上の面積を誇る工場にところ狭しと並ぶ装甲車。千里は猫背気味の体勢で問う。
「終わったんならいいけど。……で? これ全部に同じことやるわけ?」
「まさか。そんなことしてたら日が暮れちゃうでしょ?」
 同じく立ち上がって背中を伸ばした美影が、腰に下げた四角いホルダーを開いて一枚のカードを取り出した。『銀河感染』と書かれたそれを右手指二本で挟み、左手に装備したデバイスを起動。展開される扇形の光に、美影はカードを振りかぶる!
「速攻魔法発動! 『ギャラクシー・パンデミック』!」
 叩きつけるようにカードが置かれ、デバイスが電子音を響かせる。直後、美影が潜っていた装甲車が淡い銀河色に輝き、光の波紋を拡散させた。それらは暗闇の中を走って装甲車全体に行き届き、淡い銀河色に車体を染める。
 両耳をそばだてていた美影は、波紋の広がる音が四方を囲む壁にぶつかったのを聞いて腕を下ろした。
「……これで良し、と!」
「終わった?」
「うん。それじゃ、出よう」
 だらんと下げた千里の手を取り、美影は装甲車が一様にヘッドライトを向ける先へと走り出した。
 『銀河感染』。対象としたものにかかる状態異常を、他のものにも伝染させる。これにより工場に並ぶ装甲車全ては、美影が整備した装甲車と全く同じ細工を仕込まれた状態となった。即ち、暴走しないようになったのだ。
 何台目かの装甲車の隙間を抜けた美影の前で、巨大なシャッターがスルスルと開く。その奥にいたのは、赤い蜘蛛型のドローンに乗った神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)。
「何か妙な光が出て来たが……用は済んだのかの?」
「ええ。これでバッチリ! あとは街の方のが止まってれば完璧ね!」
「それは重畳。じゃがつまらんのう」
 アマミは両腰に手を当て、不満げな顔をする。彼女は彼女で何か仕込んでいたのだと察した美影は、頬を掻きながら苦笑いした。
「あはは……ごめんね。登るの手伝ってもらっちゃったのに」
「まぁ良い。ひとまず主任とやらの鼻っ柱を折れることには違いないしの。ひとまず出るぞ。何、万が一動いたとしても追ってはこれまい!」
 改めてニッと笑顔を浮かべたアマミが蜘蛛型ドローンごと振り向いた、その時!
 SMACK! 薄暗い工場内に光が満ちた。唐突に明るくなった視界に三人が顔をしかめ、手で覆いを作って周囲を警戒。そんな彼女たちに、空間に響く声がした。嘲笑する主任の声だ。
『アハハハハハハハハ! ハーッハッハッハッハッハッハッハ! よく来たなァ、ネズミ共ォォォ!』
「げ……」
 千里の無表情がわずかに嫌そうなものになる。だが主任は饒舌に、愉悦の詰まった声で言い放つ。
『いやぁ、街の方に固まってるもんだと思ったからビビッちゃったよ。まさかこんなド辺境まで御足労願えるとは思わなくってね!?』
 アマミが腕を組み、頭上を見上げた。
「フン。今更気づいたとてもう遅いわ。お主がコソコソしていた隠れ家も割れ、御自慢の装甲車すらもはや動かぬ。こんな状況でどうするつもりじゃ?」
『いやーハハハハハハハ! ま、そうなんだけどね!?』
 アマミは怪訝そうな顔をした。主任は愉快げな態度を崩さない。装甲車は全て美影が止め、万一動いてもアマミが起こした仕込みで無理矢理押し止められる。
 ただわかっていないだけか、それとも。美影とそろって主任の真意を測りかねるアマミを余所に。千里のスマホが鳴り出した。ノータイムで通話をオンにして耳に電話を当てると、千里は変わらぬ態度で会話を始める。
「もしもし、メンカル? あ、うん。今? 工場にいるけど。……あ、ごめん。ちょうど今バレたところ。……細工? ああ、美影がなんとかやってくれたし。ていうか街は? ……ああそう。それじゃ、こっちで合流ってことで。……ん。じゃーね」
 スマホを下ろして通話を切ると、千里はアマミたちにならって天井を見上げた。
「連絡来た。エメラたちとガーネット御一行様、もうちょっとでここに着くって。エメラとメンカルで装甲車パクッたっぽい。……っていうか、街の方は収まったってさ」
『あんらァ――――――――――そっかァ――――――――――――ッ!』
 わざとらしい声を上げる主任。その態度は、圧倒的に余裕!
『じゃ、しょうがないか。オレたちはここまでってことでひとつ。手の内はおおかた潰されちゃったしね!』
 美影の眉がピクリと動いた。腕を組み、起動しっぱなしのデバイスと肩越しに装甲車を見る。デバイスは正常に起動している。ということは、銀河感染の力もしっかり働いているということでもある。美影は天井に問いを投げた。
「大方? まだ装甲車でも残してるっての?」
『いやいや、そうじゃなくてね!? あ、聞いてない? オレたちが車売ってたブラックマーケットを嗅ぎまわってたヒーローがさ、まとめてやられたって話!』
 THOOOM! 工場内が揺れた。即座に身構える三人。工場は二度、三度と地鳴りに襲われて震動する。まるで巨人の足音に揺れてるように。
『オレさ、最近オブリビオンと取引すんのにハマッててさぁ。ハハハハハハ…………! あいつら単純だよなァ!? ちょっとメリットくれてやったらスパッと食いついて来やがんの!』
 千里がだらんと下げた腕の袖から青のダガーナイフ飛び出させる。刃に彗星めいた青白いオーラをまとわせ、身を屈める形で戦闘態勢! 体の向きは装甲車居並ぶ大空間!
 空間奥から徐々近づいてくる地鳴りの警戒を千里に任せ、アマミは主任との対話を続ける。
「……解せんの。何が言いたい?」
『まァ、つまり……あれだ。用心棒雇ったんだよね! ハッハーッ!』
 美影たちの目の前、床下で地鳴りが止まった次の瞬間、CRAAASH! 床を粉砕して巨体が姿を現した! 機械の巨大雪だるまに、丸っこく膨らんだ両肩パーツをつけたかのような姿。白よりのグレーで染め抜かれたボディは、頸部や腹回りから生えたパイプから冷気を噴き出す。丸太めいて太い両腕には三本指の武器腕だ。
 巨体を見上げて目を丸くする三人のうち、アマミは頬を引きつらせて天井に叫んだ。
「貴様……オブリビオンに技術提供したな!?」
『そういうこと。んじゃ、オレはこれで逃げるからさ。後はよろしくー!』
 ブツッ、という音を最後に通話が途切れる。千里は半歩後ろに下がり、冷や汗を頬に垂らした。
「あー………………。ヤバくない?」
「ヤバいわね。みんなが来るまで持ちこたえれば、なんとか……」
「とりあえず、じゃな」
 ZMMMMMMMMMM。雪だるまが重く低い駆動音を響かせ片腕を振り上げる。直後、三人は一斉に踵を返して飛び出した! 蜘蛛ドローンに全力疾走させながら、アマミは言った。
「逃げるぞ! なぁに、本当は装甲車に使う気じゃったが、奥の手もある!」
 三人の前には果て無く遠い広大な通路。後ろからは、キャタピラ駆動した雪だるまロボが拳を振りかぶって三人を追う。
 通路にキャタピラの音が鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『サマースノウガール』

POW   :    サマーフローズンウェーブ
【陽を遮る雪の津波】と【海を凍らす氷の津波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    エキサイトアイスゲーム
【着弾時に氷の爆発を生むビーチボール】【直撃時に氷の衝撃波を放つスイカ割り棒】【振り回すと猛吹雪が発生するビーチパラソル】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    スノウサービス
戦闘用の、自身と同じ強さの【主人をもてなし続けるイケメン雪像群】と【邪魔者を凍らせ排除する水着美女の雪像群】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。

イラスト:白目ろこ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ポーラリア・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 暑い暑い日は嫌いなの。
 熱い熱い人嫌いなの。
 だから全部凍らせちゃうの。
 季節外れの雪だって、別に悪くはないでしょう?

 ――――『忘却骸海』第8章より抜粋。

●追加OP情報。
 主任と取引したオブリビオン『サマースノウガール』とのボス戦です。
 サマースノウガールはブラックマーケットを嗅ぎまわるヒーローの殲滅を依頼され、対価として専用の大型ロボ『ジャックフロスト』をもらったようです。
 ジャックフロストは巨大な雪だるまのような形をしたロボットで、所謂ガチタン。サマースノウガールのユーベルコードを全て大幅強化している上、自動操縦で動いているので、ユーベルコード『スノウサービス』のデメリットを完全に解消しています。
 サマースノウガールはジャックフロストの胴体部分のコックピットに引きこもり、ひたすら範囲攻撃を繰り返すため近づくことすら用意ではありません。不用意に近づけば、たちまち氷漬けとなるでしょう。
 倒すためには、『ユーベルコードをかわしながらジャックフロストに接近する方法』が必要不可欠です。
 戦場は主任の工場に備え付けられていた通路となります。一度に大量の装甲車を放つため広大かつ長大で、巨大ロボでも好き放題暴れることが可能です。ちなみに、ジャックフロストは工場の奥から出口に向かって進軍し、工場から出るとどこかへ逃げてしまいます。工場の床には対装甲車用に仕込まれたソードビットが隠れているので、上手く活用してください。
 装甲車は暴走プログラムの解除と整備を施されて完全に沈黙しています。動き出すことはありません。主任とガブリエルは逃走してしまったようです。

 プレイング受付は9/8の朝8:31から9/10の朝8:29までです。
 途中参加歓迎。
柚月・美影
age body
せっちゃん(千里)、とものちゃん達と参加
一人称:アタシ
二人称:年上はさん、年下・同年代はくん、ちゃん付け
アドリブも歓迎

●戦闘
ああ、もう…仕方ない、まずはあのデカブツからね!

相手の全体攻撃は野生の勘で強弱を見つけカウンター
仲間と協力して念動力を使い相殺して道を開く
「罠カード発動!銀河流星雨!」

雪人形達には呼び出したモンスターで対処
念動力で強化してなぎ払いよ
「頼むわよ、銀河の時空神竜!ギャラクティック・オーバーブラスト!」

道が出来たら素早くバイクを運転しながらとものちゃんをジャックフロストまで運搬
野生の勘とメカニックで構造を見極め、ハッチをこじ開けていく
「後は頼んだわよ!」


天門・千里
一人称:私
二人称:呼び捨て、君

一難去ってまた一難というやつだまったく
愚痴ってる場合じゃないね。対策を考えよう

広範囲にわたる攻撃だ。弱い箇所くらいあるでしょ、と【情報収集】しつつ、自分の眼による【見切り】で弱い部分を見つけたら味方と共有。
UCを【高速詠唱】【全力魔法】光の【属性攻撃】で熱量をぶつけて一瞬でいいから風穴を開ける。開けた穴が閉じる前に【咄嗟の一撃】。【鎧砕き】できる武器を【投擲】する。
なお、吹雪に突っ込んで攻撃する味方がいれば【オーラ防御】やUCによる【援護射撃】で突破をサポート。
そっちのが吹雪が弱い。行くならそこね
なお、吹雪が直撃しそうになったら装甲車に隠れつつ【オーラ防御】


アルフォリナ・アスタロギア
千里、美影、とものに遅れて合流
到着即範囲防御展開、全開でよろってこういう事でしたのね…まったく!

連戦となる仲間達を【鼓舞】しつつ
【世界知識】【情報収集】を駆使し戦場及び周辺の三次元構造を把握し
リアルタイムで仲間に共有
遮蔽をとる
構造物を破壊させ進路や視界を妨害
ソードビットの連鎖機動に敵を巻き込む等
【地形の利用】【おびき寄せ】【だまし討ち】を駆使し立ち回る

敵の範囲攻撃から【オーラ防御】防御魔術の【高速詠唱】で味方を防御

狙いが自身に向いたら
【カウンター】【スナイパー】【鎧無視攻撃】【毒攻撃】で反撃
物理的には頑丈でも対電子防御が脆弱ですわね
自動操縦に処理能力を食われすぎな上
そこが止まれば木偶同然ですわ


神代・凶津
主任って野郎には逃げられちまったかッ!
仕方ねえ、このオブリビオンをぶちのめす方が先決かッ!
「いくぜ、相棒ッ!」
「・・・転身ッ!」

雷神霊装・ニノ型で引き上げたスピードと反応速度で縦横無尽に駆け回って翻弄しながら敵が召喚した雑魚を斬り刻んでやるぜ。

んで雪ダルマロボに隙を見て攻撃する。
敵が範囲攻撃を繰り返すっつうなら攻撃終わりから再攻撃の間に僅かでも隙があるはずだぜ。
その瞬間を見切ってユーベルコードで極限まで上げたスピードで急接近して破魔の雷を纏った斬撃をお見舞いしてやる。
そして即離脱、ヒットアンドアウェイよ。

「・・・倒します、貴女を。」
おうよ、相棒ッ!


【使用技能・見切り、破魔】
【アドリブ歓迎】


エメラ・アーヴェスピア
またすごい物が出て来たわね…
それでも負ける気はしないわ、やりましょう

場所が判っているなら『我が元に響くは咆哮』
パワードスーツ装備の操機兵を向かわせるわ
自立稼働する私の兵士(にんぎょう)よ、【空中戦】で自由自在に飛び回り回避しなさい
それに元々魔導蒸気兵器、稼働率を上げれば熱くなってそう簡単には凍らない筈
まずは重火器から装甲を貫通しそうな装備を選択射撃
隙を見つけて突撃、蹴りを叩き込みなさい

そして私は…遠隔で暴走できるなら、遠隔で操作も可能よね?
【ハッキング】で装甲車の武器を乗っ取り、火力の足しにするわ

確かにそのロボットは予想外で私達は驚いたわ
ただそれでも…勝ったのは我々よ!

※アドリブ・絡み歓迎


神羅・アマミ
彼奴ら、尻尾巻いて逃げ出しおったな!
今回の妾、口しか動かしておらぬではないか~!
ストレスフルにして鋭気は十分、ボッコボコのグチャミソにしてやるから覚悟せよ!

発動するはコード『結髪』!
太陽の爆発にも匹敵する(自称)、眩き光子の熱量によって奴の氷雪攻撃を相殺するぞ。

そして蝉ファイナル状態で床に横たわったソードビットがあるなら是非活用させてもらおう。
ロボのコクピットと思しき部分を狙い射出、取り囲むようにして刺す!
無論、それだけでは本体に攻撃が届くわけはなかろう。
しかし…そこへブラストを照射し続ければ一体どうなるかな!?
超高熱を帯びた特殊金属に炙られたとあらば、なかのひともタダでは済まされまい!


ザザ・クライスト
【POW】他の猟兵と共闘する

「クソデケェッ! オブリビオンってかロボじゃねェか!?」

前にも言ったぞ、このセリフ!
遮蔽を確保しつつバラライカで【先制攻撃】かつ味方に【援護射撃】

接近する味方がいれば、

「オイコラ、デカブツ! テメェの相手はオレ様だろォが!」

飛び出しながら派手な銃撃を浴びせて【挑発】し【おびき寄せ】る
同時に【監獄の鎖】を発動

「逃げられると思うなよ……ってやっぱデカすぎだろ!?」

逆に振り回される始末

「シャイセ!」

凍結攻撃に盾はオシャカ
隙を見て肉迫し【呪殺弾】にマガジン替えて【零距離射撃】

「くたばれ!!」

アドリブ歓迎
男にはヘル・苗字、女にはフラウ・苗字で呼ぶドイツ風の敬称
一人称はオレ


ガーネット・グレイローズ
ちっ、主犯は逃げたか。あんなロボまで隠していたとは、
敵の技術力は侮れないな。

【戦闘法】
引き続きBD.13を運転して戦場に乱入。そのうえで
【ブレイカーシップ・ブレイブナイツ】を発動させ、
52機の小型宇宙船を自身の護衛とさせる。
これらは自律行動し、私の代わりに攻撃を受けたり、
ビームとミサイルによる〈援護射撃〉で
私がジャックフロストに近づくのをサポートしてくれるだろう。
設置されているソードビットは〈念動力〉で起動させ、
緊急時の攻撃相殺に利用させてもらう。
うまくジャックフロストの懐に飛び込めたら、
車の屋根から大きく〈ジャンプ〉、ブラッドエーテルによる
波動を至近距離から叩き込む〈鎧無視攻撃〉だ!


メンカル・プルモーサ
む……逃げ足だけは早い…とは言え、あのジャックフロストをどうにかしないとね…
まずは工場の掌握…からソードビットを利用して他の人を援護するよ…
ジャックフロストはともかくイケメンや水着美女ぐらいなら排除できるかな…
さて、問題はあの巨大ロボ…ハッキングできれば良いけどスタンドアロンの可能性もあるし…
【尽きる事なき暴食の大火】でビーチボールやらスイカ割り棒を迎撃すると共に魔法陣に仕込んだ浸透破壊術式【ベルゼブブ】でモニタを介してウィルスを送り込む…
…狙いはUC強化機能の破壊と…自動操縦機能の停止……
…それにより動きが止まったら重奏強化術式【エコー】で強化した【尽きる事なき暴食の大火】を撃ち込むよ…


潦・ともの
美影達と参加
主任の『お手伝い』を警戒したくなる

装甲車に爆薬的な物をセット
後部を開けて置き
アクセルに重しをぽいんと
ジャックフロストに向けて走らせるor【フォース】で飛ばし
程よいところでshoot
攻撃を相殺もしくは隙を作りたい

無理そうなら装甲車を美影に運転してもらい接敵を狙う


【フォース】&【時間稼ぎ】+【念動力】で範囲攻撃の速度を落としたり
使えそうなものを盾にしたり
【第六感】【見切り】で隙を見てハッチかハッチにしたもの(物理)から
タンクの中に乗り込む行動的【鎧無視攻撃】

中に入れば遠慮なく暴れて内側から切り崩す!

【武器改造】でセイバーの出力を上げ
仲間が高火力叩き込むための穴を内側から切り開く



 BFOOOOOM! 鋼の回廊に猛烈な吹雪が荒れ狂う。
 弾幕の如く飛び交う大粒の雪と、刃物の嵐じみて鋭く肌を切る暴風。装甲車発進用のサーキットを零下の温度に塗りつぶしつつ、吹雪の発生源たる雪だるま型巨大ロボ『ジャックフロスト』は逃げる小さな影を追ってキャタピラを回す。
 つぶらな黒いマシンアイが見下ろす景色を鉄の体内で眺めているのは、旧式スクール水着にマフラーとツララの垂れた鍔広帽を被った幼女だ。
 ビーチチェアにクッション代わりの浮輪を設置し、アイスキャンディー片手にくつろぐオブリビオン『サマースノウガール』。彼女は足をぶらぶらと揺らし、ジャックフロストの視界とリンクした画面を見つめた。
 大型のビジョンには、こちらに背を向けて全力疾走する三つの人影。サマースノウガールは問う。
「ふーん。あれが、しゅにーの言ってたの?」
『そーそ! いやぁ、あいつらにちょっとばかしイジめられちゃってねぇ……。オジサンの代わりに仕返しして欲しいのよー!』
 白一色の球状コックピットに響く声。主任が送り込んで来る通信に、サマースノウガールがアイスを揺らしながら冷徹な顔を返す。
「いいよ。しゅにーはなにくれるの? とりひきなんでしょ?」
『もぉ――――――ちろんさぁ! あいつらこらしめてくれたら、全自動アイスクリーム製造機をプレゼントしよう! 色んな味作れるやつなんだけど……どう?』
「ん」
 スノウガールはアイスの先を一口かじった。そしてケーブル付きリストバンドめいた物体を着けた左腕を持ち上げ、右手のアイスで軍配のように画面に映る人影を差す。
「おっけー。それじゃーやっちゃって、ジャックフロスト」
『ZUMOMOMOMOMOMOMO!』
 雪だるま型ロボが両腕を振り上げて吠える。一層強まる吹雪を背に受けた天門・千里(銀河の天眼・f01444)は、うなじを雪に撫でられてぶるぶると震えた。
「うえっ、冷たっ。この時期にこんな目に合うとか……一難去ってまた一難というやつだ、まったく。でさ、アマミ」
「なんじゃ!」
 千里がくるっと隣に目をやる。下駄履きの足で走りつつ振り返った神羅・アマミ(凡テ一太刀ニテ征ク・f00889)の額、薄く浮いた青筋は無視して千里は言う。
「装甲車用になんか用意したって言ってなかった? アレ使えないの?」
「愚問じゃな。既に使っておるわ!」
 ジャックフロストを肩越しに見たアマミは、目に吹きつけた吹雪に思わず顔を背けた。
 丸っこい大型機械の足元、無限軌道が進軍する回廊の地面には剣山めいて無数の剣刃が生え、踏み潰されては砕かれている。額の青筋を浮き上がらせつつ、アマミは忸怩たる思いで述べる。
「が、やはり装甲車よりは硬い車輪しておるな。まだ止めるには至っておらん」
「あ、無理なの?」
「それも愚問よ!」
 アマミが口の端を吊り上げ、憤怒混じりの笑顔を作る。
「甘く見るでないぞ。彼奴らは尻尾巻いて逃げ出しおったが、今回の妾、口しか動かしておらぬではないか! ストレスフルにして鋭気は十分、ボッコボコのグチャミソにしてやるから覚悟せよ!」
「頼もしい。愚痴ってる場合じゃないね。対策を考えよう。ってなわけで美影」
 不意に呼ばれて顔を上げた柚月・美影(ミラクルカードゲーマー・f02086)を置いて、千里は足を速めて先に行く。美影は慌てて手を伸ばした。
「ちょ、せっちゃん!?」
 千里が美影に振り向き、サムズアップ。
「私、一旦分析に集中するから。初撃はよろしく」
 親指を畳んで人差し指を伸ばし、ちょいちょいと美影の後ろを指し示す。走りながら後方を見返った美影は頬を引きつらせた。追いすがるジャックフロストが両手に白いオーラをまとわせ、ちゃぶ台返し予備動作めいて後ろに引き絞っていたのだ!
「ちょっと待っ、あれはせっちゃんにも手伝って欲しい雰囲気……って、遠いし!」
 気づけば大きく離れた千里の背中に悲鳴を上げると、美影は頭をガシガシと掻いた。
「ああ、もう……仕方ない!」
 美影はアマミと一緒に軽く跳ねて前後反転! 後ろ脚でブレーキをかけると、左腕のデバイスからカードを一枚引き抜き叫ぶ!
「まずはあのデカブツからね! やるわよアマミちゃん!」
「応ッ! グズグズのグッチャグチャに溶かしてやるぜぇ――――――ッ!」
 アマミが両膝を折り曲げて跳躍した、次の瞬間。ジャックフロストは白いオーラを励起させて両手を振り上げる!
『ZUUUUMUOOOOOOOOORGH!』
 SNOWWWWWWWW! 巨大な雪の津波が湧き上がる! さらにその下からは地面を覆う氷河が走り、回廊の床をたちまち氷漬けにしながら三人に肉迫。上下からの氷雪挟み撃ちを前に、美影はカードに銀河色の光を灯した。
「罠カード発動! 銀河流星雨!」
 空のアマミへ手裏剣じみてカード投擲! 一直線に空を駆けた銀河色の光はアマミに衝突し、彼女を銀河色の光で包みこむ。アマミは背負った和傘を引き抜き、石突を津波へ突きつける! 美影は勘に任せて声を張った。
「足元と津波の上らへん! 多分その辺狙えばイケる!」
「ふはははははははは! まとめて熱湯にしてカップ麺の足しにしてくれるわ! 死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
 和傘の石突に銀河色の光がチャージされ、ZGGGGGGGGGGGGGG! 恐るべき速度のビーム乱射が津波の上部を横薙ぎに爆破していき、さらにその下方に降り注いだ光線の雨が連鎖爆発を引き起こす! BBBBBBOOOOOM! 連続する爆炎が壁となって雪の津波をせき止めた!
 押し寄せる白の質量攻撃を端から蒸発させつつ、アマミは得意げにに言い放つ。
「どうじゃ! 太陽にも匹敵する光子の熱量! 雪なんぞで突破できる道理はないぞ!?」
「……ふーん」
 ジャックフロスト内部で、サマースノウガールがつまらなそうに鼻を鳴らした。雪だるま型のロボは彼女の左腕についたケーブルを通じてユーベルコードの光を受け取り、サマースノウガールの予想通りに動き始める。
『ZMMMMMMMMMMM……!』
 竹刀を持つように構えられたジャックフロストの両手から、長大な氷の棒が伸長! 凍てつくスイカ割り棒を振り上げ、ジャックフロストはキャタピラを駆動させて突撃を敢行! 自分で出した氷雪の津波を蹴散らして進む!
「やっちゃえ。どーん」
『MUOOOOOOONNNNG!』
 スノウガールがアイスを軍配めいて掲げると同時、ジャックフロストは湧き立つ白の壁を突き破る。滞空するアマミを襲う氷柱の一撃! アマミの顔を意地の悪い笑みが彩った。
「来おったな!? 飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ――――――――ッ!」
 アマミは氷柱に和傘を向けてビームを放った! 銀河色の光線とスイカ割り棒の打撃が激突し、BOOOOOM! 真っ白な衝撃波が爆発的に膨れ上がってアマミを飲み込み、さらに飛び下がりかけた美影をも急襲! その後方で迫りくる衝撃波を眺めた千里は、右拳を大きく振りかぶる。
「よし、そこだ。そーれっ、と」
 投げ槍に拳を空撃ちした千里の頬を、後ろから蒼の閃光がかすめて吹雪へ飛翔! 光をまとった剣杖が衝撃波に真っ向から突っ込み、ドリルじみて穿孔していく。
 光から発せられる高熱が衝撃波の氷を蒸発させていき、やがて純白の領域を突破した。衝撃波の爆心地でアマミの光線と競り合う氷のスイカ割り棒、その根元部分を剣杖が貫通破壊! 氷棒の上部を銀河色の光線が吹き飛ばし、ジャックフロストの眉間を直撃した。
『ZMOOOOOOORGH!』
 のけ反りながら後退するジャックフロスト! 霧散する衝撃波の風穴からそれを見た千里は、左手五指に蒼の短剣を挟んで投げた。四条の蒼光が衝撃波の穴を翔け抜け、ジャックフロストの右肩装甲に突き刺さる!
「壊れろ」
 千里が指を鳴らすと共に短剣の刃が青く発熱し、BOOOM! 丸いショルダー部分の一部が爆発! クレーターじみて丸く抉れた肩装甲を押さえたジャックフロストに、虚空を蹴って跳んだアマミが迫った!
「逃げられると思うてかァ! 死ねェ! 『結髪』ッ!」
 傘の先端からビームが噴き出す。ZGYAAAAAM! ジャックフロストは後退するキャタピラを止めて右手を真横に伸ばすと、手の平を霜で包み込む。湧き出す白い煙から霜の降りたビーチパラソルが飛び出した瞬間、鋼の雪だるまはそれを横薙ぎに振るう!
『ZOOOOOOMOOOOOOOOOOORGH!』
 BLLIZAAARRRRRRD! 発生した大吹雪が回廊もろとも銀河色の光線を飲み込み進軍! 回廊を埋め尽くす雪の暴風がアマミを呑み込み、床壁天井を凍らせながら膝を突いた美影を襲う。美影は霜焼けした全身にムチ打って立ち上がり、左腕のデバイスからカードを引き抜いた。
「ぐぅっ……こんなの、食らってられないわよ……! せっちゃん!」
「おう」
 千里の振り上げた右手の先に、五本の蒼い短剣が召喚された。美影は振り向きざまに、千里へとカードを投擲!
「速攻魔法、銀河旋風!」
 銀河色に輝くカードは一直線に千里へと飛んでいき、彼女の胸に吸い込まれていく。同色のオーラを足元から噴き上げた千里は、垂直に掲げた右手を後ろへ引いた。
「任せろ美影。大体見切った」
 一歩踏み込み、右手を振り下ろして短剣射出! 銀河の閃光と化した五つの刃が猛吹雪と正面からぶつかり合った―――――が、ジャックフロストがもう一度ビーチパラソルを振るうと、吹雪が圧力を増して短剣を力尽くで押し返す! BFOOOOOM!
「げ……」
 千里が緩い無表情の頬に冷や汗を垂らす。二度振られたビーチパラソルにより吹雪の威力は実際二倍! 突き出した右腕を左手でつかんで力を込める千里だが、吹雪は五本の短剣をふっ飛ばして高速急襲! 千里のオーラが弾け飛び、尻餅をつく。
「せっちゃん! くっ……!」
 美影は一瞬千里の方を見て、先に倍する速度で押し寄せる猛吹雪と向き合った。デバイスの山札に二本指を置く暇もあればこそ。吹き寄せる吹雪の余波が美影の目を潰し、服から露出した首や胸元に氷を這わせる。美影が息を詰まらせて動きを止め、吹雪に取り込まれそうになった、その時である!
「範囲防御展開! 『ガーデン・オブ・アルフォリナ』!」
 美影の足元を横切る形で巨大な木の根の柵が突き上がり、複雑に絡み合ってオーラをまとった防壁を形成! 吹雪をガードする樹木の巨壁。背後から響く複数のエンジン音に、美影と千里は同時に振り返った。そこには、回廊を疾駆してくる無数の車影!
 掌握された複数の装甲車のひとつ、ルーフの上に立ったアルフォリナ・アスタロギア(星詠みのお嬢様・f04639)は杖を掲げながら声を張り上げた。
「千里! 美影! 無事ですわね!?」
 千里が両腕をだらんと落とし、気だるげに両目を細める。どこか不満げな表情を浮かべ、呟くように言った。
「アルフォリナ、遅いぞ」
「遅いぞ、ではありませんわ! 全開でよろってこういう事でしたのね……まったく!」
 頭痛をこらえるように眉間を押さえるアルフォリナ。彼女はスマホを取り出して耳に当てると、合図を飛ばす。
「ともの! 今ですわ!」
『はーい、せんせー!』
 一方、吹雪の奥でジャックフロストは後方を振り返った。装甲車の車庫からなるはずの無いエンジン音が鳴り響く。いくつも重なり合う重低音のサラウンド。それがどんどん音量を増し、回廊を地鳴りめいて震わせた次の瞬間、車庫から無数の装甲車が飛び出した!
 先頭を走る装甲車の屋根、腕組み仁王立ち姿勢の潦・ともの(星達のパダ=ワン・f04019)が得意げな顔でジャックフロストを見据える。
「よし、動いた。わたしのたーん!」
 両手を装甲車のルーフに叩きつけ、赤いオーラの波紋を広げる。オーラの波紋を受けた装甲車は前の方から一台ずつ浮き上がり、虚空を疾走しながら上昇! そのままジャックフロストへと突っ込んでいく!
「ダイレクトアターック!」
 とものがジャックフロストを指差すと共に、彼女の後方から装甲車が魚群めいて飛翔した。ジャックフロストはビーチパラソルを振るって吹雪を起こし、飛来するこれらを吹き飛ばさんとする! が、壁の如く密集した装甲車は吹雪を正面から受け止めた。とものは両手を装甲車の防壁にかざす!
「ほいっと」
 さらに飛行装甲車を追加! 装甲車の壁にさらに装甲車の壁が二重、三重に重なり吹雪を無理矢理押し返さんとする。吹雪の勢いと拮抗する黒鉄の防御! ジャックフロストはパラソルの先端を装甲車の壁に向け、くるくると回転させ始めた。
 勢いを増して装甲車の壁を押し返さんと強まる吹雪! だが、それに反比例する形で美影たちに放った吹雪が力を弱める。杖から伝わる振動で吹雪の弱体化を察知したアルフォリナは、装甲車のルーフに片膝をつく。
「攻撃の勢いが弱まりました。突破するなら今ですわ!」
「了解よ」
 装甲車の内部、ハンドルを握ったエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は樹木の壁をにらみつける。助手席に座ったメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)が横目で見守る中、エメラは零した。
「さて、間に合ったのはいいとして……あの奥ね」
「……ん。どうする……?」
「決まってるでしょう?」
 エメラは不敵な笑顔で言い、アクセルを踏み込んだ。
「連れて来たコレに露払いさせるのよ! さあ仕事よ! 前に出なさい、前に!」
 次の瞬間、エメラが乗る車の左右を無数の装甲車が爆走して突っ切っていく! 主任の手を離れ、メンカルのプログラムとエメラのドローンによって掌握された装甲車の大群は、樹木の壁へと迷わず特攻! アルファリナは杖を樹木の壁に向け、横薙ぎに振るう。
「ガーデン・オブ・アルフォリナ、解除!」
 樹木の壁を地に引っ込んでいき、強風程度になった吹雪が噴き出す。かなり薄くなった冬風を爆走する装甲車群、その列に混じった赤い2ドアクーペの窓から頭を出したザザ・クライスト(人狼騎士第六席・f07677)は、こちらに背を向けたジャックフロストの威容を目にして思わず叫んだ。
「クソデケェッ! オブリビオンってかロボじゃねェか!? 前にも言ったぞ、このセリフ!」
 ザザの声を聞き、運転席のガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)が顔をしかめる。
「装甲車だけでなく、よもやあんなロボまで隠していたとは。敵の技術力は侮れないな」
「感心してる場合かよ、フラウ・グレイローズ……」
 肩を落とすザザ。刹那、凍った回廊の床が絨毯爆撃じみて爆散! 立ち上る氷煙の中から現れた執事服のイケメン雪像群と水着美女の雪像群が装甲車たちの道行きを塞ぎ、一斉に走り出した。
 飛び込んできては装甲車に取りついては自分もろとも氷塊に変えていく雪像たちを見つつ、ガーネットは舌打ち。
「ちっ、そう簡単に通してはくれないか。勇敢なる騎士たちよ、今ここに集え!」
 ハンドルについたボタンを押し込んだ瞬間、ドアクーペの上空にF1レースカーサイズの小型スペースシップがいくつも出現! ガーネットは耳に着けたインカムマイクに向かって命令を放った。
「発進しろ、『ブレイカーシップ・ブレイブナイツ』!」
 52機ものスペースシップがジェット噴射して飛翔する。ビーム砲を雨の如く乱射して迫りくる雪像群を蹴散らす中を、ガーネットはハンドルを切って凍った装甲車を避けつつ疾走! 彼女はそのまま頭上に向かって呼びかけた。
「行けッ!」
「おうよ!」
 2ドアクーペのルーフ上、神代・凶津(謎の仮面と旅する巫女・f11808)は依代の少女と共に薙刀を構えた。激しく蛇行する車の上で心を静め、姿勢を保つ!
「ロボの次は装甲車かよ……。まぁグダグダ言っても仕方ねえ、このオブリビオンをぶちのめす方が先決かッ! いくぜ、相棒ッ!」
「……転・身ッ!」
 少女が薙刀を頭上に掲げて高速で回転させる。薙刀は紫電の円を描き出し、周囲に稲妻をまき散らしながら雷の竜巻で凶津を包み込んだ! 竜巻が内側から斬り裂かれ、爆散するとそこには紫の法衣をまとった少女の姿! 紫の鬼面となった凶津は、両目部分を光らせて咆哮した。
「よっしゃあ! ぶった斬ってやるあああああああああッ!」
 ルーフを凹ませて跳び出した少女は、着地と同時に走り出す。大挙して押し寄せる雪像たちの前で電光を残して姿を掻き消し、彼らの背後に瞬間移動。直後、紫の剣閃が雪像の群れを一閃し、爆ぜる雷電と共に細切れに変えた。再疾走する少女に、ジャックフロストが振り返る。
「テメェもバラバラにしてやるぜデカブツ! 覚悟しやがれッ!」
『ZMMMMMMMM……』
 ジャックフロストは逡巡するように、吹雪に押し返されつつある装甲車の壁と凶津を交互に見やった。――――やがて、鋼鉄の雪だるまロボは手中のパラソルを崩壊させ、両手で足元を殴る!
 THOOOOOM! 激しい地鳴りが回廊を震わせ、ジャックフロストの前後に豪雪の津波が噴き上がった! 床にたたきつけられた津波は、人の背丈を遥かに超える白の瀑布となって装甲車の壁と凶津たちをそれぞれ強襲! それを遠目にしたエメラは指笛を噴いた。
「さぁ、一仕事してきなさい! 『トゥランライオット』!」
 エメラが操る装甲車の上空で真鍮色の光が弾け、大柄な蒸気機械パワードスーツが現れた。背負ったジェットパックから水蒸気を噴き出して飛翔するパワードスーツ。その背中にメンカルが片手をかざす。白衣をうっすらと包む青白い光!
「……我が護りよ、削れ、防げ。汝は喪失、汝は絶壁。魔女が望むは五色届かぬ防魔の理」
 メンカルと同じ青い燐光をまとったパワードスーツが、白い津波へ果敢に突撃していく。取り残された装甲車の中で、メンカルは膝に乗せたタブレットを手早く叩いた。
「……エメラ、準備出来てるよ……」
「オーケー。それじゃあ向こうは任せて、こっちはこっちの仕事を済ませましょうか」
 そう言って、エメラは足元に立てたノートパソコンを引っ張り上げた。ルーフの上では、アルフォリナもまたタブレット端末を片手にジャックフロストへ向かう仲間を見送る。
「皆様、ご武運を祈りますわ……!」
 液晶画面に向き合う三人。他方、白い津波を前にしたガーネットとザザは2ドアクーペの扉を開けて転がり出ると、そのまま跳躍! 浮遊するスペースシップの群れを飛び移りながら上昇し、真下を押し流す雪崩を余所にジャックフロストの威容を見据えた。
「フラウ・グレイローズ! こいつら遮蔽に使っていいか!?」
「好きなように使え!」
 スペースシップの一機にサーフボードめいて飛び乗ったザザは、雪津波の上空を飛ぶ。腰のホルダーから引き抜いた拳銃で、ジャックフロストの顔面をひたすら銃撃! BLABLAMBLAMBLAM! 
「オイコラ、デカブツ! テメェの相手はオレ様だろォが!」
『ZMMMMMMMMMM!』
 ザザに振り向いたジャックフロストは片手に氷のスイカ割り棒を呼び出し、逆袈裟に振るった。ザザはスペースシップからジャンプしてこれを回避! 空中前方回転三連続して虚空で制動、引き絞った両腕に黒い光の鎖を巻きつけた。
「己が身を戒める鎖を嗤え! 『チェーンプリズン』ッ!」
 ダブルパンチと共に放たれた黒い鎖がジャックフロストまで一直線に伸び、機体の両手首に直撃して爆破! すぐさま両手を引いて鎖を張ったザザが獰猛な笑みを浮かべる。
「逃げられると思うなよ……って」
 ザザの笑みがすぐに引きつる。ジャックフロストは鎖の繋がった両手をそろえ、ザザを軽々とジャイアントスイング! 物凄い速度で振り回されつつ、ザザは絶叫!
「やっぱデカすぎだろおおおおおおおッ!?」
『ZMOOOOOOOONG!』
 鎖を真横に振り抜かれ、横壁に叩きつけられるザザ! その前を横切ったエメラのパワードスーツが大型パイルバンカーを構え、赤銅色の杭を撃ち出した。空気を引き裂いたパイルを、しかしジャックフロストはスイカ割り氷棒を振り下ろして起こした衝撃波で跳ね返す!
 BOOOM! 氷風の衝撃波がエメラの機械兵を吹き飛ばす下方、紫電をまとって雪の津波の上を走る凶津の行く手を無数の雪像たちが塞ぎにかかる! 凶津は少女の体を操り神速の剣閃を繰り出した。
「邪魔すんじゃねェよッ!」
 SLLLLLLLLLLASH! 一瞬で紫電の斬撃が雪像たちを引き裂いていき、粉々にする。すぐさま雪の海から再出現する豪雪の軍勢。思わず舌打ちを零す凶津に、巨大な竜影が覆い被さる!
「あん!?」
 思わず頭上を仰いだ凶津の目に銀河色の体躯を持つ巨竜が飛び込む! ドラゴンの肩に乗った美影は、真っ直ぐ下方の雪像たちを指差した。
「頼むわよ、銀河の時空神竜! ギャラクティック・オーバーブラスト!」
『GRRRAAAAAAAAAARGH!』
 激しく咆哮した巨竜が、彗星の如く輝くブレスを吐いた。雪像たちを焼き払い、灼滅していく銀河の炎! 星空のように煌びやかな炎獄を展開するドラゴンに、ジャックフロストはビーチボールを手の平に生み出す。軽く放り、SMASH! 高速で飛来した氷球がドラゴンの横面に直撃!
『GYAAAAAAAARGH!』
 悲鳴を上げ、大きくノックバックするドラゴン! その長い首にしがみついて支えにした美影は友の名を呼ぶ。
「とものちゃん!」
 次の瞬間、ジャックフロストの後方で雪の津波をふっ飛ばし、無数の装甲車がミサイルめいて飛翔する。飛んでいく車の屋根から屋根へと飛び移りながらジャックフロストへ接近していくともの! ジャックフロストがそちらへ振り向きざまに氷棒を振るって衝撃波を放つ!
「ほっ!」
 回転跳躍で衝撃波を回避したとものは両手を前に突き出し、引き寄せるようなムーブ! 直後、赤いオーラをまとったエメラの機械兵がジャックフロストの後頭部へ飛び蹴りを叩き込んだ! ともののサイキックを乗算した一撃が、ジャックフロストをよろめかせる。
 一瞬の硬直に目を着けたガーネットは、指揮者めいて腕を振った。
「そこだ! ブレイブナイツ!」
 一斉飛翔したスペースシップがミサイルやビームを次々と繰り出し、ジャックフロストの背中に打ちつける! BOOOMBOOOMBOOOMBOOOM! 爆炎に包まれる巨体へ、雷をまとった凶津と少女が一気に肉迫!
「隙アリだ! 行くぜええええええッ!」
「……斬ッ!」
 一回転の勢いを乗せて放たれた斬撃がジャックフロストの脇腹を斬り裂いて抜ける! ジャックフロストは氷棒を手にコマめいて回転、全方位に猛吹雪を放った。BFOOOOOM! 放射状に広がる吹雪を、凶津と少女は加速して退避! とものは腕を真下に振り下ろす!
「美影、千里! これ使って!」
 消滅する銀河色の巨竜、その真下から豪雪を突き破って凍てついた装甲車の塊が出現した。ドラゴンから飛び降りた美影と遅れてやって来た千里が、装甲車氷塊の後ろに隠れて吹雪をやり過ごす。千里は取り出した青の短剣を無造作に放り上げた。
「よし、行け」
 くるくると回転していた千里の短剣は斜め上に刃を向けて停止し、ロケットじみて飛翔! 行先には暴風に煽られ墜落するスペースシップに乗ったガーネット! スペースシップに突き刺さった短剣がオーラを注ぎ、ガーネットもろとも吹雪から守る。もちなおす宇宙船!
「感謝する。ブレイブナイツ、援護射撃再開!」
 機首を上げた宇宙船がミサイルとビームを乱射! オーラをまとったそれらは吹雪を切り裂き、回転し続けるジャックフロストに次々と命中していく。だがジャックフロストの勢いは止まらず、吹雪は止まぬ! ガーネットは歯噛みした。
(これでは足りないか……!)
「これでは足りぬ。今、そう思ったじゃろ」
「!?」
 ぎょっと振り向いたガーネットの真後ろに、いつの間にかアマミが立っていた。悪い笑みを浮かべた彼女は、組んでいた腕をおもむろに解く。
「足りないと思うから足りないんじゃよ! ホラこうやってやればッ!」
 アマミが両手を振り上げたその時! ジャックフロストのキャタピラ真下でソードビットの束が突き上げ無限軌道を貫いた! ジャックフロストの回転が止まり、金属が軋む嫌な音が回廊に響く。アマミは和傘を肩に担いで得意げに言った。
「どうじゃ! キャタピラだろうが装甲車だろうが、止めるのに大した手間はかからぬわ!」
「お見事だ。そして……」
 スペースシップの上で膝を折り曲げ、ガーネットは跳躍体勢! 真紅の光に包まれた彼女は、両目を輝かせて宣言した。
「これでチャンスがようやく隙が出来た! 行くぞ!」
「応よッ! ついでにオマケじゃ!」
 派手にジャンプしたガーネットの後方で、アマミは指をパチンと鳴らす。豪雪の下から飛び出した複数のソードビットが、黒髭危機一髪めいてジャックフロストの全身に突き刺さっていく! それに気づいたメンカルは、タブレットをタップする。
「……ん、ごめんエメラ……ちょっとだけ、手を離す……」
「ええ、後は一人でも大丈夫だから任せて。術式、借りるわね?」
 高速でタイピングするエメラを余所に、メンカルは車外に降りていたアルフォリナとアイコンタクトを交わした。二人そろってタブレットを操作した次の瞬間、さらに大量のソードビットが雪を引き裂いてジャックフロストの目を潰し、関節部分を穿っていく!
 ハリネズミと化す機械の巨体の周囲を高速で旋回しながら薙刀で斬り裂いていく凶津とともの。激しい雷鳴を余所に、壁にめり込んでいたザザは背中を引きはがした。腕から氷漬けになった盾が崩落し、毒づく。
「シャイセ! クッソ、盾がおじゃんじゃねェか……!」
 溜め息を吐いて拳銃を取り出し、マガジンリロード。鋭い眼光でジャックフロストをにらんだザザは、ロケットスタートして雪原を駆けた。
「好き放題してくれやがって! くたばれ!」
 疾駆しながら銃撃を繰り出す! BLAMBLAMBLAMBLAM! 放たれた赤黒い輝きを帯びた呪殺弾がソードビットの隙間に命中し、弾痕から赤いひび割れを広げていく。ジャックフロストは断末魔じみて咆哮!
『ZMOOOOOOOOOOOOORGH!』
 視界を奪われた状態で闇雲に振り上げる氷のスイカ割り棒! そこにエメラの機械兵が体当たりをしかけ、ガッシリとホールド。両目を点滅させる機械を媒介として、エメラはPC叩いてハッキングを敢行!
「それじゃあ借りるわね……! 浸透破壊術式『ベルゼブブ』起動! ……貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔!」
 エメラがエンターキーを押すと同時に機械兵が白い炎に包まれた。炎をスイカ割り棒を伝って燃え広がり、ジャックフロストをも飲み込んで炎上! 機体からジジジと音が鳴り響き出す。炎を媒介にして流し込まれたハッキングウィルスが、機体のシステムを侵食していく!
 氷の棒を振り上げた体勢でガクガクと痙攣するジャックフロストを遠くに、アルフォリナは髪を払った。
「物理的には頑丈でも対電子防御が脆弱ですわね。自動操縦に処理能力を食われすぎな上、そこが止まれば木偶同然ですわ。さ、やってしまいなさいな!」
 声援を贈るアルフォリナ。同時に、バイクにまたがった美影は動きを止めたジャックフロストに向かって一直線! 瞳を素早く動かして機体を操作し、背中の一部に当たりをつけた。
「そこッ!」
 バイクをジャンプさせてカードを投擲! 装甲に突き刺さったカードは銀河色の爆発を引き起こし、機体のハッチをこじ開ける。バイクと共に雪原に着地した美影は仲間たちに叫ぶ!
「開いた! 後は頼んだわよ、とものちゃん!」
「任せろ美影!」
 美影の前に滑り込んだとものはハイジャンプしてハッチに飛び込む! その時、アマミは傘の先端からビームを放ってジャックフロストに刺さったソードビットに照射した。赤熱するビットを伝って熱が機体に雪崩れ込む!
「太陽の如き超高熱で特殊金属を炙られたとあらば、なかのひともタダでは済むまい! 蒸し焼きになって死ねええええええええッ!」
 物騒な咆哮を上げるアマミ! 徐々に熱されていく機体を駆け上がった凶津の依代たる少女は、毅然として告げる。
「……倒します、貴女を」
「おうよ、相棒ッ!」
 凶津が答えると共に、ジャックフロストの首を紫電まとう薙刀の一太刀で斬り落とす。切断面に垂直落下したガーネットが真紅のオーラをまとった拳で瓦割りパンチ! SMAAASH! 衝撃音が伝う機体内部で、とものはビームソードを振り回す!
 BOOOM! BOOOM! BOOOM! 内部から爆炎を吹くジャックフロスト。少しずつ装甲を剥がされていくロボットを見通し、装甲車から降りたエメラは鼻を鳴らした。
「確かにそのロボットは予想外で私達は驚いたわ。ただそれでも……勝ったのは我々よ!」
 確固たる勝利宣言。それに応えるかのように、ジャックフロストは首の切断面から噴火した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御影・雪乃
ふむ、ポーラさん(f06947)アレを倒せば良いんです?では、出来ることはしてみましょう

50ある【氷結耐性】で相手の冷気や凍結に対抗しつつ、【聞き耳】で駆動音や凍結音を聞いたり埃や光の反射を見るなどで敵の攻撃を察知して【見切り】、即【高速詠唱】や【早業】を用いて【全力魔法】や冷気の【属性攻撃】を込めたユベコによる相殺をしながら近づきます
寒さや冷気は得意、私の居る場所がむしろ冬

動きから構造を【情報収集】し弱そうな所へ武器を突きたて【部位破壊】を狙いつつコックピットの蓋を剥がしにかかりましょう
…フフ、さあ出てきなさい。そのまま氷漬けにしても良いのよ?(邪悪な微笑で剥がしていく

アドリブアレンジ歓迎


ポーラリア・ベル
【雪乃お姉ちゃん(f06012)と参加 アドリブ連携歓迎】
夏の混ざった素敵な気配…きっとあの子だわ。
真夏の海を真冬に変えるのが大好きな、氷の神様。舞台を海から変えたのね。
雪乃お姉ちゃんも誘って凍らせ合いっこしにきたら
ふわぁ!ゆきだるロボさん!?

素敵!あたしたちものせてー♪
わ、止まらない!?雪乃お姉ちゃん、止めてくれるの?

雪乃お姉ちゃんを盾にしつつ氷結耐性で抵抗。
敵の近くで床を凍らせ、全力魔法で床氷を爆発!地盤沈下だよ!
陥没したジャックの殻を、怪力でこじ開けて、スノウちゃん出てきたら
元気にしてた?冬が来たよ―と【絶対冷凍】♪
氷の男子を侍らせた、氷の女王様なスノウちゃん。
永遠に雪だるさんの中だね―



 ZGAM! ZGAM! BOOOM! BOOOM!
 真っ赤に染まったコックピットで、サマースノウガールは不満げな顔をしていた。
 ムスッとした彼女の前には砂嵐となった画面。けたたましい警告音が鳴り響き、空間内はサウナめいた高熱に包まれている。ジャックフロストは動かなくなり、爆発が機体を激しく揺さぶる。
「………………」
 サマースノウガールはアイスキャンディーを一口かじった。不機嫌を隠そうともせず溶けかけのそれを咀嚼すると、大きな溜め息を吐く。
 鍔広帽子から垂れ下がった氷柱も溶けて雫を落とす。『はずれ』と書かれたアイスの棒を捨てると、彼女は両拳を突き上げて叫んだ。
「駄目じゃん! しゅに――――――――――っ!」
 ビーチチェアに座ったまま足をバタバタと動かし、頬を膨れっ面で膝を抱える。
「なーにが無敵の冬将軍よ。ぜんっぜん弱いじゃない! あーあ、アイスたくさん欲しかったのに……駄目じゃない。駄目駄目じゃない。はぁ……」
 不服をぶちまける間にも、ジャックフロストは爆発によって激震を繰り返す。だが、サマースノウガールは特に意にも介さない。主任の取引によって譲り受けた機体だが、大して思い入れは無いのだ。
「どーしよ。しゅにー逃げちゃったし、アイスもらえないし……。海に帰ろっかな……?」
 欠伸をしながらブツブツ呟く。膝を抱えたまま揺り椅子めいて前後に揺れつつ、今後のことを考え始めたその時。サマースノウガールの真後ろで、金属を削るようなサウンドが響き渡った。
 サマースノウガールが気だるげな表情でそちらを振り返ると、コックピットの壁を隔てた向こう側から無邪気な声。
「夏の混ざった素敵な気配……きっとあの子だわ。真夏の海を真冬に変えるのが大好きな、氷の神様。舞台を海から変えたのね。ゆきだるロボさん! とっても素敵! ね、雪乃お姉ちゃん!」
「そうですね、ポーラさん。……フフ、さあ出てきなさい。そのまま氷漬けにしても良いのよ?」
 CRASH! CRASH! 繰り返される破砕音。金属を引っかき、引き剥がされる音が三度鳴ったところで、鉄の壁から人形めいて小さな手が二つ突き出した。
「……うへぇ」
 げんなりした面持ちをするスノウガールの前で、突き出した手は壁をつかんで鋼の壁を引っ張り寄せる。壁が折れ曲がって変形し、力尽くで引っぺがされた。壁の奥には、御影・雪乃(ウィンター・ドール・f06012)と、引き千切られた鉄板を頭上に掲げたポーラリア・ベル(冬告精・f06947)!
 二人の目がサマースノウガールとかち合った瞬間、雪乃は邪悪な微笑みを浮かべた。
「おや、いましたね。ポーラさん、彼女で合ってますか?」
「うん! この子で間違いないわ!」
 ポーラリアは鉄板を脇に投げ捨て、サマースノウガールに向けて屈託の無い笑顔を見せる。
「見ーつけたっ! 元気にしてた? 冬が来たよ―!」
「……………」
 無邪気な表情を見たサマースノウガールは、重い溜め息を吐いて一言。
「めんどくさい……」
 直後、雪乃は飛行後退してくるポーラリアを両手で優しく包み込み、全身から冷気を噴き出した。発熱した機内が一瞬にして白く染め上げられ、ぼーっとした顔のサマースノウガールを取り囲む! 吹き荒ぶ冷気が消えた次の瞬間、コックピットの中身は広大な雪原に変化していた!
 銀世界に佇んだ雪乃は両手を開いてポーラリアを解放し、腰に吊ったナイフを抜き放つ。
「アレを倒せばいいのですね? 出来る限りのことはしてみましょう」
「お願い雪乃お姉ちゃん!」
 ポーラリアが言うが早いか、雪乃は雪原を爆ぜさせて加速! ナイフを真横に振りかぶって低姿勢ダッシュで距離を詰めてくる彼女に、サマースノウガールはビーチパラソルを片手に浮遊した。
「まったくもー……」
 人差し指と親指を口にくわえ、指笛を吹く。サマースノウガール周囲の雪から剣山じみて大量の氷柱が飛び出し、内側から弾け飛んで男女の雪像群を召喚! サマースノウガールは冷徹に告げる。
「めんどーくさいし、早く死んで」
 蝿を払うように手を振るサマースノウガールのムーブに合わせ、雪像群が雪乃に向かって一斉に駆け出した! 大挙して押し寄せる雪像を睨んだ雪乃は瞳を細かく動かして雪像群の動きを見切る。氷拳を繰り出すイケメン雪像の攻撃を回転跳躍で回避し、大群の中をジグザグダッシュ!
「ポーラさん、はぐれないように!」
「んっ!」
 背中にくっついたポーラリアの声を聞き、雪乃は四方から迫る美女雪像四体を垂直跳躍でかわす。虚空で突き上げた右手から冷気が噴き上がり、雪乃の頭上で巨大な氷球を形成! 真下の雪像たちを見下ろした雪乃はサディスティックな微笑を浮かべた。
「まとめて潰して差し上げます……グラビティ・アイス・クラッシャ――――――――ッ!」
 振り下ろされる右手に応じて氷球が鉄槌じみて垂直落下! 集った雪像群をまとめて押し潰した氷球を中心に、衝撃波が放射状に広がった。広大な雪原に亀裂が走り、CABOOOOOM! 派手に雪煙を吹き上げさせる! 雪乃は微笑んだまま頭上に再度氷球生成!
「さて、もう一撃行きますよ。潰れて凍るかそのまま凍るか……末路を選べるのは今だけです」
「雪乃お姉ちゃん! 手伝うわ!」
 雪乃の背にしがみついたポーネリアが片手を巨大氷球にかざす。雪原のあらゆる方向から噴き上がって来た吹雪の奔流が、雪乃の巨大氷球をくるんで超巨大な雪玉へと変貌させた。雪原を丸ごと飲み込む黒い影!
 雪乃が掲げた右手を振り上げ、雪玉を突き落とそうとした瞬間、大地を埋め尽くす白い霧を貫き氷のビーチボールが飛来! 雪乃はとっさに逆手に持ったナイフでビーチボールを防御し、真上に斬り上げ受け流す! 直後、雪乃の目前に海老背になったサマースノウガールが出現!
「もー! もぉ――――――っ! みんな嫌いっ! やっぱり全部氷の海に変えてやる――――――っ!」
 振り上げた両手を振り下ろすサマースノウガール! 脳天狙いのスイカ割り棒は雪乃の右腕によって防御されるも、彼女をダンクシュートめいて叩き落とす! 一拍遅れて放たれた冷たい衝撃波が、虚空に氷のトゲを無数に形成。降り注いでくるそれらに、雪乃は落下しながらナイフを掲げた。
「舞いなさい、ブリザード・ロンド!」
 冷気に包まれたナイフが爆散し、雪の花びらが竜巻と化して空を飛ぶ! 氷柱を巻き込んだ竜巻はそのまま天を覆う雪玉に手を突き刺したサマースノウガールへ肉迫。しかし彼女は大して焦るでもなく鼻を鳴らし、雪玉にさらに手を深く押し込んだ。同時に雪玉表面がボコボコと隆起!
「これが海、私の世界……」
 雪玉が一瞬膨らみ、BACKFOOOOOM! 大爆裂し空を覆い隠した雪と氷を、サマースノウガールは雪乃に投げつけるように腕を振るって解き放つ! 巨大な蒼白の海竜を模ったそれが大口を開けて雪乃へ特攻をかけた。
「食べちゃえ」
『ARRRRRRGH!』
 大口を開けた海竜は雪の花吹雪を食らいながら斜めに落下し、雪乃をも氷雪のアギトに捕らえて飲み込む。海流の体内、大渦を巻く雪崩に巻き込まれ、洗濯物めいてもみくちゃにされた雪乃は口と鼻を手で押さえて呼吸を確保。だが背中のポーネリアまでは手が回らぬ!
「ポーラさん、平気ですか……!」
「大丈夫っ! ちょっと待ってね、雪乃お姉ちゃんっ!」
 必死になって雪乃のドレスにくっつくポーネリアは、小さな体に淡い燐光をまとわせた。暴力的な雪の奔流に抗い、括目して光を強める!
「冬のおしおきだよ! エレメンタル・ファンタジア!」
 刹那、氷雪で出来た海竜が、体の半ばを風船めいて膨らませてBOOOM! 爆散し、飛び散るダイヤモンドダストから飛び出した雪乃は残った海竜の後ろ半分に飛び乗り走る。海竜の崩壊から全力疾走で逃げつつ、サマースノウガールの下へと踏み込んでいく!
「潰れちゃえばよかったのに……」
 毒づきながら、サマースノウガールは海竜の体を伝って昇る雪乃へ霜の降りたパラソルを向ける。くるくると回転する傘に雪と風が渦巻かせ、思い切り振りかぶった。
「えーきさーいと―――――――っ!」
 パラソルが振り切られ、BLLIZAAARRRRRRD! ドリルじみた吹雪が雪乃めがけて突進していく! しかし雪乃は足を速めて吹雪に突っ込み、掌底を腰だめに引き絞った。雪乃の手袋下から前腕部にかけて青いライン模様が数本走る!
「吹雪を起こすだけならば、私にだって出来ることです。ミレナリオ……」
 踏み込みと同時、腰のひねりをくわえて掌底を繰り出す!
「ブリザード!」
 BFOOOOOM! ドリル状の吹雪が放たれ、サマースノウガールのものと真正面からぶつかりあった。屈み合わせの吹雪は互い違いの回転によりシノギを削り、しかしサマースノウガールの吹雪がわずかに押し込む!
「くっ……!」
 後ろへ押し下げられた雪乃は、歯を食いしばってさらに腕を押し込める。全力魔法で形作られた吹雪は拮抗するが、サマースノウガールもまたパラソルを強く押し込み吹雪を強める! その時、雪乃の背中にいたポーラが、伸びきった雪乃の肩に両手を置いた。
「私だっているのだわ! 雪のお姉ちゃん、頑張って!」
 白い光が雪乃の肩から腕を伝って手の平へ! 直後、雪乃の吹雪が密度を増して一回り巨大化し、サマースノウガールの吹雪を押し返し始めた。だが後方から迫る足場の崩壊! 肩越しにそれを見た雪乃は足を踏みしめ、思い切り跳んだ。
 主を失った吹雪が放散し、サマースノウガールの吹雪に貫かれて消滅! 雪乃は真下を突き抜ける雪嵐には目もくれず、刃を失ったナイフを逆手に構えて下段へと引く。
「雪たちよ、つぼみなさい」
 崩れ落ちた海竜の残骸から舞い上がる雪の花びら。螺旋を描いて雪乃の下へ飛び戻った白い花弁はナイフの柄に収束して刃して形成。ナイフ片手に飛びかかってくる雪乃を見上げたサマースノウガールは、パラソルを横薙ぎに振るいBFOOOM! 広域に展開した猛吹雪へ、雪乃は体を丸めて飛び込んだ!
「ふわぁ……ぁ」
 サマースノウガールは勝利を確信した大欠伸をかます。
 サマーフローズンウェーブの応用で繰り出した氷雪の海竜に加え、真横に吹き荒れる吹雪。常人なら既に体温を失い死んでいる頃! 海をも絶対零度の大地に変える力で振るわれた吹雪は――――しかし、サマースノウガールへ体を丸めた雪乃を吐き出した!
「んんっ!?」
 欠伸中に驚愕してむせ返るサマースノウガール! 体を伸ばした雪乃は逆手に構えたナイフを振りかぶって告げる!
「寒さや冷気は得意、私の居る場所がむしろ冬。その程度、私にとって子守歌のようなもの! さあ、氷漬けになる時です!」
「けほっ! ……ふんだ」
 咳を押し殺したサマースノウガールは、手に氷のスイカ割り棒を呼び出した。真横に振りかぶって雪乃を迎撃!
「凍るのはそっちだもんね」
 横薙ぎ一閃されるスイカ割り棒! がら空きになった脇腹を打ち据える一撃を、雪乃はバク宙して回避! その勢いで投擲されたナイフがサマースノウガールのマフラーを貫通して喉笛に突き刺さった!
「ぐえっ……!」
 サマースノウガールは呻き、ナイフを見下ろして目を見開いた。喉笛から伸びた刃と、そこに繋がる柄。それらをつかんだポーラリア! 雪乃は仰向けに落下しながら声を張る!
「辿り着きましたよ、ポーラさん!」
「ありがと、雪乃お姉ちゃん! なにもかも、冬の静寂の如く凍てつき止まる。あたしの奥の手、見せてあげる!」
「……っ!」
 サマースノウガールの顔から気だるげな表情が吹き飛ぶと共に、ポーラリアの小さな体が純白の光を噴き出した!
 SMAAACK! 眩い閃光が雪原を満たし、消滅した次の瞬間。ポーラリアと雪乃は扉を剥がされたジャックフロストのコックピット前に立っていた。
 雪乃の足元には小さなスノウドームが転がっており、ガラス越しに煌々と白い光を放射している。ポーラリアは雪乃の胸元へひらひらと降りると、器状に構えられた両手の中に着地した。そこからスノウドームを見下ろし、一言。
「氷の男子を侍らせた、氷の女王様なスノウちゃん。永遠に雪だるさんの中だね―」
「ええ、世界で一番美しいお墓だと思いますよ」
 にこりと笑った雪乃がポーラリアを胸元に抱え、その場を走り去る。光の消えたスノウドーム。その内部には、円陣を組んでかしずく氷の男性像と、氷塊に閉じ込められたサマースノウガールの姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月13日
宿敵 『サマースノウガール』 を撃破!


挿絵イラスト