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猟と贄

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 雑草を踏み荒らし、所々骨が飛び出す四足獣が群れとなって南下する。
 垂れた涎は慣性に従って彼らの顔をべっとりと濡らし、粉塵がこびりついて汚らしい。唇を突き破る巨大な牙は不格好で、何かの動物の形を象っただけの別物であろうことは察せられた。その牙は、一度噛みつかれたらそう容易く振りほどけはしないだろう。
 近しい動物で例えるならば、狼だろう。
 狼を真似たその獣は、牛と同程度の大きさを誇る。踏み出す足が倒木を踏めば、彼らの足跡を凹みとしてそこに残す。あるいは、真中から折れるか。曲がりくねる尻尾は鞭のようにしなやかで、後続の顔を容赦なく叩いた。唯一よく類似してると言える点は、頭部にちょこんと似つかわしくない小さく真っ直ぐな耳がある程度だ。全身が赤い毛で覆われ、異端であるだろうことは窺えた。
 呼称を仮に、狼とする。
 群れる性質は変わらないのか、狼たちは塊となって駆けていく。運ぶ足は徐々に速くなり、よろめいた仲間を踏みつけて後続が続いた。骨の折れる音が鳴る。進む狼は構いやしない。まるで何かに急かされているかのように、狼の群れは猪突猛進に進んでいた。

 どこへ?
 人里へ。

 その獰猛な牙が罪なき人間の血潮で染まるまで、あと数分。
 その硬質な爪がか弱き子供の首を切り裂くまで、あと数分。
 刻一刻と、惨劇の時間は近付いていた。

 ――くすくすくす。
 囀るような笑い声がどこかで響く。
 ふらりゆらり、黒衣の少女が滅びゆく村を見下ろしていた。
「カワイイ、カワイイ、わんちゃん。わたしの、わんちゃん」
 いいこね、と嬉しそうに笑う少女は足取り軽く惨劇の村へと近付いた。


 夜のとばりが降りる頃。忍びよる睡魔に誘われ、人々が夢と現の狭間にいる時間帯。
 闇に紛れる黒のコートを翻し、イェロ・メク(夢の屍櫃・f00993)はグリモアベースに姿を見せた。吹きこむ風に銀糸が揺れる。
「ああ、良かった。まだ人がいるね」
 猟兵達の拠点となっているグリモアベースが空になることはまず珍しい。それでも、時刻によって混雑具合が変わってくるのは確かだ。
 眠気に目を擦る猟兵や、これからが活動時間だと言わんばかりの猟兵を見据え、イェロは手のひらを空へと翳す。ざわざわと葉擦れのように騒めく室内では、誰かが何をしようがあまり興味を引かれない。
 ぽっ、と。
 小さな灯が空に生まれ、ちろちろと火花が零れ落ちるように光を落とし、不安定でいびつな形を描く。箱というには歪んだそれは、形こそ違えど感じるものは同じだろう。
 グリモアだ。
 猟兵達の目つきが変わる。一瞬にして視線を集めたイェロは満足げに微笑んだ。
「仕事の時間だ。――そして、時間が惜しい」
 イェロは空いた手で端末を取り出せば、器用に電源を入れて画面を見せる。映っているのはどこかの人里だ。そう大きくはない。その暗さと雰囲気から、大体の世界を予測できるだろう。
「ジェヴォーダンの獣、という言葉は知っているだろうか」
 ジェヴォーダンとは、かつてどこかの世界に存在したという地方の名前だ。その地方では、突如沸いて現れた狼の如き群れが大勢の人間を襲った。一人や二人ではない、何十という単位で食い殺したのだ。
 その獣の姿形は狼の如くではあったが、その種はどこにも確認されなかった。一番近い造詣が狼だったため狼の仕業とされているだけだ。
 イェロが見た予知はその出来事を彷彿とさせるものだった。
「すまない。どれだけ急いだとしても、被害は出る」
 この予兆を見たのはつい数分前だ。突然、ぐらりと眩暈のようなものに襲われ血みどろの光景が眼前に広がった。狼にも似た、巨体の四足獣が村人を襲う。一人、また一人と彼らの胃に収められていく光景は凄惨なものだった。吐き気さえするものだ。
 猟兵達が担うのは、人命救助。狼の怪物に食い殺されるはずだった人間を一人でも減らす事だ。
「手段は問わない。例え怪我を、……手足を一本失ったとしても、命には代えがたい」
 方法は猟兵達に任せるとする。どんな作戦をとるべきか、より多くを救うにはどうすべきか、個人の得手不得手と考えに従うべきだ。
「一対一でようやく拮抗する相手だ。君達が誰かを庇えば、あるいは複数を相手とれば、相応の怪我を負う事になるだろう」
 ぴ、と音を出して端末の画面が暗くなる。腰のポーチに雑に落とし入れ、イェロは何事かを声に出そうと口を開いた。しかし、言葉が紡がれる前に閉ざされる。
 数秒訪れる沈黙。どうかしたのか、早くしろと訝し気に窺う猟兵を前に、イェロは軽く頭を振ってみせた。
「どうにも妙でね」
 こめかみに指を押し当て、頭痛の残る脳を回転させる。いくつか予兆を見てきてはいるが、今回のものに限ってひどく短い。狼の怪物が人里を食い荒らす、という事件自体は解決すべきものではあるのだが。
 しかし違和感はどうにもぬぐいきれない。靄がかかったような不快感が残った。表現のし辛いもどかしさだ。
「もしかしたら、だが。これだけで終わるとはどうにも思えない」
 イェロは眉間にしわを寄せたまま可能性を告げる。この不快感の存在自体が常ならぬ事であり、陰謀を疑わずにはいられない。あるいは、予知能力で確りと把握できないなにものかを、ひとまずの警鐘として訴えかけているのか。
 もしこれが空振りだったとしても、徒労となるだけで実害は出ない。ゼロパーセントと言い切れないのであれば、警戒するに越したことはないだろう。
「何か裏で動いているのかもしれない。君達にはそちらの対処もして貰う事になるかもしれない――が、目下存在する助けを呼ぶ声を放置するわけにもいかない」
 まずは、眼下の悲鳴を救って欲しい。
 言いながらイェロはグリモアを手のひらで包み込む。途端に光の箱は形を変え、大きな光の羽根を携えたペンへと相成った。
 空へと筆を滑らせて、送るべき世界の名前を宙に刻む。
 ダークセイヴァー。イェロにとって、その世界は少々訳アリの場所だ。書ききる前に筆が止まり、ため息を吐く。
「……いってらっしゃい。どうか、気を付けて」
 ちらりと猟兵達を見据えれば、最後の一文字を書ききった。
 転送紋の形成。予知ポイントの特定。座標割り出し。
 全ての準備が整った瞬間、ふらりと手を振るイェロの姿を最後に、猟兵達は異端の神々が跋扈する世界へと放り出されるのであった。


驟雨
 驟雨(シュウウ)と申します。
 当シナリオは決して気持ち良く終わるような爽快なシナリオではありません。
 胸糞悪い結果が残る可能性を承知の上でご参加ください。責任は取りかねます。
 詳細は下部に記載します。


 世界 :ダークセイヴァー。
 分類 :冒険/純戦。
 難易度:HARD(時には失敗する事もあるでしょう)

●前提
 判定はダイスで行います。基本は2回振ります。

●第一章について
 撤退戦です。襲われている村から人々を救ってください。
 ただし、全員を一度に避難する事は猟兵にも不可能です。
 足止めや囮など、敵へ働きかけるプレイングを選んだ方は、🔴が出る度にどこかで1名死人が出ます(単)。複数敵を相手とる際はダイスを-1します(複)。
 避難誘導や村人守護など、村人へ働きかけるプレイングを選んだ方は、苦戦以下で死人が出ます(村)。カウントは上記と同様です。
 また、🔴の数に応じて参加PCに重大な損傷が生じる場合があります。
 損傷具合は「重:複=村>単:軽」です。

●第二章について
 第一章の残存勢力+亡者との勝負になります。一方的に負けるバランスにはしませんのでそこはご安心を。
 二章では、最低2体の亡者が確約されています。第一章の結果により増加します。

●第三章について
 黒幕です。多くは語りません。
 第二章で雑魚は全て一掃済みとなりますので、ボス戦です。

●重大な損傷について
 真の姿解放、ヒール、技能を用いる事で次章では回復します。記述がない場合は引継ぎとなりますのでご注意ください。
 手足がトんだり中身がどろっと出てしまう可能性がありますので、これを加味した上でご参加願います。
 血や痛覚等、損傷に伴う描写に影響があるものは記載頂くと解釈違いが起こりづらいかと思います。

●ご注意
 同行者がいる場合は名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも構いません。

 真の姿を解放したい方はプレイングのどこかに「★」をご記入ください。容姿メモを添えておくとお得かもしれません。
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第1章 冒険 『【撤退戦】村からの脱出』

POW   :    守りが薄いところを狙って突破。力で敵を足止めしつつ逃げる。

SPD   :    見つからないようにこっそりと脱出。速さを生かして敵を撹乱する。

WIZ   :    敵を罠にはめて時間を稼ぐ。姿を変えたり隠したりして逃げる。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 降り立った猟兵達は、まず腐臭にも似たにおいに気がつくだろう。視界が開ければ、そのにおいが眼前に広がる村らしき場所から届けられることも判明する。
「いやああああああ!!」
 空を切り裂いて絶叫が響いた。
「ひっ、ああ、わたしの、ああ、シャーロ」
 シャーロット、と。
 声は途中で切れた。異形の贄となったのだろう。代わりに轟いたのは肉を潰したようなおぞましい音と狼の如き遠吠えだ。
 猟兵達は駆け出す。ひとりでも多くの人々を救い出す為に。既に出た被害はいかようにもし難いが、少しでも食い止めることが重要だ。
 眠りに落ちていた人々が騒音で、悲鳴で、違和感で、少しずつ夢から醒める。
 彼らを迎え撃つのは決して夢の続きではない、地獄なのだ。

 白い髪を黒に隠し、女は駆ける。夜風がヴェールを攫って靡かせた。スカートの裾を摘まみ、膝下を覗かせた足は大地を蹴る。
 は、と赤髪の少女が息を吸った。送り出した仲間の背を見て、少女は自身の役目を果たす。
 ――皆々、すゝめ。止まることなく。
レイブル・クライツァ
寝起きにまともに動けるかなんて期待出来ないし
既に死体が転がっているなら、それで吐いたりしてしまうでしょうね。
逃げる人に臭いを感じさせない為、マスクをさせつつ
無くなったら私のスカート辺りも破いて
服の一部で良いから、掃除をする時みたいに口と鼻を隠すといいとアドバイスしつつ
暗視と聞き耳と第六感を駆使して、逃げ道を確認しながら足早についてきてと先導
足を怪我した人が居れば圧迫法で止血し移動補助
まともに走れなさそうな子供が居たら背中に担ぐ

基本的に村人の撤退補助を優先
敵との遭遇で、他の猟兵からの協力が望めない際は
巫覡載霊の舞で撤退側方向とは違う向きへ敵を薙ぎ払う。
怪我しても(痛覚有)パーツが出るだけ、平気よ


吹鳴管・五ツ音
眠りに落ちた方々をまずは起こすが先決でありますな(村)

錬成カミヤドリで操る複数の喇叭で起床呼集を吹鳴
村全域に喇叭を響かせ、同胞たちの小銃斉射(威嚇射撃)で緊急事態であることを知らせましょう。

転進せよ!転進せよ!
生きて明日へ向かうため、焦らず、急いで、足を動かすであります!

合間合間に呼びかけを挟み、吹き鳴らすのは速歩行進

村の皆さんが恐慌に陥らぬよう鼓舞しつつ、猟兵一同を強化し事に当たるでありますよ

……万一”狼”に襲われようとも、これだけ目立ち、おびきよせれば自分が食いつかれる内に村の方々の撤退は叶うはず。

ええ。
我が身の痛み如きで喇叭の音は止めません
シヌマデ ラッパヲ
其れが自分の覚悟であります



錬成カミヤドリで複製した喇叭を吹鳴し、吹鳴管・五ツ音(ひとりきりの軍楽隊・f06593)は村民を起こす為に繰り返し喇叭を鳴らした。その音は本来の目的通りに村民達の一部を叩き起こす。
 近くの家からは子供を連れた家族が、男女の連れ添いが、独り暮らしの女が、それぞれに困惑と苛立ちを含めた表情を見せて現れた。
 遠くでもそれは変わらない。喇叭の音が届いた範囲ではアクションが起こる。例え、猟兵が辿り着く前だったとしても。
 それが吉と出るか凶と出るかは猟兵らの運次第だろう。どんな英雄も犠牲なくしては存在しえない。不条理は起こるし、理不尽は常に隣で息を潜めている。
 ――その意味を、彼らは知る事となる。

 何事だと目を擦り、顔を見せた男の前に影がかかった。
「起きなさい、死ぬわよ」
 黒を基調とした薙刀がその影を切り取る。途端、真横で猛るのは狼の吼え声だ。
 土に塗れた腕を斬り飛ばしたレイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)は降りかかる血を余所に男を引き摺りだす。目を白黒させた男は寝起きの上、眼前で血に濡れた女を見てぽかりと口を開けたままろくに動きが取れなかった。
 視界の端、惨殺された女の死体が転がっている。その横には、胴が潰された小さな人間が置いてあった。
「あ、あ……ああ……!」
 男が紡いだ声は確かに誰かの名を呼んだ。
 慟哭は吐き気に呑まれ、男は地面に吐瀉物を散らす。視線の先を見たレイブルは一瞬目を伏せ、男の視界からそれらを隠した。
(「妻子"だった"のでしょうね」)
 長く瞑目している時間はない。祈りすら聞き入れられない地獄は眼前に染み渡りつつあるのだから。
 前足を飛ばされ痛みに唸っていた狼が、執念に憑りつかれたように身体を引き摺る。立ちはだかるレイブルには目もくれず、その血走った眼は男を狙っていた。
 警戒。加えて逃げ道となりそうなルートを割り出す必要がある。単純な解は猟兵達が転移してくる地点へと踵を返す事だ。増援が見込まれ、かつ奇襲される心配がない。
「立ちなさい。今、あなたがやれる事をすべきよ」
 胃を空にしてなおえずく男を鼓舞し、レイブルは薙刀を構える。心の整理がつくまで待ってくれる程、敵は理知的でも親切でもなかった。
 近い距離、狼が迸る。断面を地面に擦り血が溢れようとも止まらず、男へと牙を剥いた。
 白黒だけでは止められない。残る前足を斬り飛ばした所で万が一が起こりうると瞬時に判断したレイブルは、腕ごと狼へ差し出した。
 心霊体となったレイブルにも痛覚は存在する。互いに突撃する形で一人と一匹は衝突し、レイブルの腕を、肩口を、牙が抉った。
「――、いきなさい!」
 ぶつりと芯が切られる感覚にレイブルは眉根を寄せる。しかし、なおも凛と振る舞い男を叱咤した。
 人の如き女の腕からパーツが飛び出る。人形から紅血は零れない。
「残念ね。私の勝ちよ」
 自由な片手で短く薙刀を構えたレイブルは死を告げる。不格好にも振るった刃は食らいつく狼の胴を両断した。

 男は走る。
「進め。進め。前へ、進め!」
 その背中に五ツ音の喇叭の音と声が届く。次々とすれ違う猟兵達とは真逆に走り、亡き愛し人に涙しながら村を去った。
 喇叭の音に負けじと轟く狼の声。遠吠えがひとたび響けば、五ツ音の吹鳴をかき消して狼どもが呼応した。
 遠くに音が届かぬならばと五ツ音は傍の民家に飛び込み呼びかける。肉体を得た今なれば、それすらも可能なのだから。寝惚けた夫婦に声をかけ、大丈夫だと激励しながら村の外へと誘導する。
 吼え声が止めば再び金管の音が鳴り響いた。行軍喇叭は同胞の背を押した。
 そんな五ツ音の耳に異音が届く。低く地を這う様な唸り声は獣のものだ。はっと顔を向ければ物陰で腰を抜かす女と怪物の姿が見えた。
 吹き鳴らす喇叭はそのままに。
 五ツ音はその音で自身に注目させるべく進行方向を切り替える。一瞬でも隙を作れば、逃げる時間を作ることが出来るのだ。
 ――そこを狙われたのは、ひとえに運の悪さと言えよう。
 音の発信源として目立ちに目立っていた五ツ音は虎視眈々と狙われていた。一匹や二匹といった数ではない。全ての獣たちが五ツ音の存在を少なからず意識していた。
 五ツ音の意識が全体から個へ向いた。
 瞬間、獣が飛びかかる。
 声が出るよりも先、五ツ音の身体を獣が突き飛ばした。八つ当たりでもするように、苛立って物に当たるかの如く目障りな音の鳴りやまない器物を壊しにかかった。 
 濁音を吐いて五ツ音が転がる。視線の真逆から突き飛ばされた五ツ音は、見えた女の元へと不本意ながら近付いた。
 女を襲おうとしていた猛獣の意識がようやく五ツ音へと向く。底の見えない瞳と真正面にぶつかって、五ツ音は思い切り息を吸った。
「走って!」
 声に女の肩が跳ねる。声も出ない女は何度も何度も頷くと、狼の視線が戻らぬうちによろけながら身体を擦る。
 五ツ音の決意は変わらない。ごほりと一度咳き込むと、肺に流れ込んだ血が逆流した。二度三度咽ては口を覆う。喇叭を鳴らす手のひらを、五ツ音の血が赤く濡らした。
 鈍痛が襲う。
 冷たい指先がぴくりと跳ねると、行軍喇叭の上を這う。これだけは、止めてはいけない。その間に、どうか。
「――、」
 あの人を助けて。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 その声を、確かに拾う者がいた。
リーゼ・レイトフレーズ
SPD
あのグリモア猟兵、イェロと言ったか
こんな所に放り込んでトラウマになっても知らないぞ

私に全員を助ける力はない
だから老人や足を負傷、敵の群れに囲まれている者は無視
家族、まだ襲われていない者を優先して救助に当たる
群れの出現方向が一定だったならその反対側へ避難誘導しよう
パニック中だろうから逃げる方向を提示すれば後は勝手に向かうだろう

もし襲われそうになってる人がいたら距離を見て
マスケット銃で牽制するか
構える余裕のない対物ライフルで鈍器代わりに殴りつけるか
身を挺して庇うか
私の手足程度で救える命があるならお安い御用だ
腕一本あれば引き金は引けるんでね

どんな時も淡々と冷静に
他の参加者との絡み、アドリブOK



「来て」
 端的でそっけない言葉。しかし、これ以上分かりやすい指示語もなかった。
 五ツ音の頭上を何かが通る。それが何かを認識する前に、骨を砕く鈍い音が耳に届いた。踏み付けていた獣の足が宙に浮き、悲痛な声をあげて地面に横たわる。脳天をぶち抜いた対物ライフルは血と脳漿に塗れたが問題はなさそうだ。
 リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)は振り抜いたその姿勢のまま、次なる獲物に目を付ける。それから目をそらした瞬間が、勝負の時になると気付いていた。
 パニック状態に陥っていた女はリーゼの短い言葉に従い駆け寄った。
「行って。ここは危ない」
 見たところ、狼の群れは猟兵達のテレポート地点とほぼ真逆から来ている。反対側へと走れば他の猟兵のカバーも入る。
 よろつきながらも走り出す女を見る事もなく、リーゼは目前に迫る狼の異形との駆け引きに入った。
 どちらが先に動くか。
 距離は詰まる。食事を邪魔された歪な狼は時折顎を揺らして牙を鳴らし、硬質な爪で地面を抉り返した。
 対してリーゼは静かに佇んでいる。周囲の騒然とした悲鳴、雄叫び、駆ける音、全てが遠く別世界の出来事になっていく。
「……夢に出そうだな」
 ぽつりと零したその音が、ぷつりと緊張の緒を切った。
 涎を撒き散らしながら獣が駆け出す。その距離、数メートル。助走は足りなくとも、巨体が突っ込めば相当のダメージだ。
 頭蓋骨を容易く貫き砕いてしまいそうな牙が迫る。鋭い牙が緑眼を抉ろうと狙いを定める。
 ――が。
「単細胞で助かるよ」
 ただそれだけを返し、リーゼは身を捩る。攻撃パターンは単純で、予想することなど容易かったのだ。
 空振りをした獣が勢いを減速しきれずに家屋に突っ込む。その脇に置いてあった木箱をバラバラにぶっ壊しては、大したダメージもなく再び突進しようと構える。
 その醜い顔を、銃弾が貫いた。
「じゃあな」
 途切れる事なく銃声を鳴らし、リーゼは淡々とその顔面に銃弾をぶち込んでいく。遠慮はない。全ての弾丸を使い切る勢いで躊躇いなく引き金を引いた。
 薬莢が全てリーゼの足元を転がる。火薬のにおいが周囲一帯に充満し、積まれた木箱へその巨体ごと突っ込んだ獣が再び動く事はなかった。
 どろりと零れる血はどす黒く、緩やかに地面に染みこんでいく。靴先が血に濡れる前に、リーゼは踵を返した。
 まだ、やるべきことは残っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

麻生・大地
※撤退支援の足止め

【時間稼ぎ】【盾受け】【武器受け】【情報収集】

【レグルス・タイタンフォーム】で変形。図体のでかいほうが抑えるのには
効果はあるでしょう

後方にドローンを飛ばしておいて、逐次前線の状況は伝えておきます
敵の予測進路、残存勢力などのデータは役に立つでしょうから

出来るだけ大暴れして、出来るだけこちらに引き付けるようにします

自身の損傷が3割を超えたら徐々に後退を始めます
状況を考えたら一度穴が開いてしまえば戦線維持は不可能でしょうし
損傷度が4割に達する前に変形を解いて、バイクで即座に後方離脱します

「全てを救おうなんてはなから思っていません。僕は全知でも全能でもないですから」




 災厄はまだ続いている。
「今の所は、まだ大きな被害もなさそうですが……」
 猟兵達に導かれ、あるいは喇叭の音で叩き起こされ自らの足で、それぞれに獣から遠ざかっている。
 麻生・大地(スチームハート・f05083)はドローンを通して支援にあたる各員に情報を伝達していく。重傷者がいるようなら真っ先に伝えておけば、一命をとりとめる可能性だってあるのだ。
 群れで行動していた割にはばらばらに村人を襲い始める怪物も偏りはある。奥に踏み入るほどにその数は目に見えて増えた。
 大地は目の奥にプログラムを走らせ、可変試作型バイク『レグルス』のハンドルに手をかけると接続を試みる。レグルスはすぐさま大地の呼びかけに応えその姿を変えた。と、同時に大地の体にも変化が及ぶ。
 レグルス・タイタンフォーム。
 人の身に似せた大地の体が三メートル越えのロボへと変わっていく。人らしい骨格はそのままに、全身が機械混じりのフォルムに変形する。
 まさに、人力の砦だった。
 唸る獣とその先にいる村人達の間に割り込み、砦と化す。立ち向かってくる獣はその身体で抑え込み、でかい図体で圧をかける。
 その姿を見た村人が一瞬足を止めるが、大地が避難を呼びかければすぐにその横を駆け抜けていった。
 関所となった大地は猟兵を送り出し、獣を防ぎ、村民を通す。背にいくつもの命を送り出し、正面切って突撃してきた獣をその巨体で押し止めていた。
 風が吹く。
「あ、……あ、たすけ……て……」
 その声は微かだったが、拮抗する大地の元へと風に乗って届いた。視線を向ければ、今まさに獣が咀嚼しようと狙いを付けた老婆が視界に入る。
 迷いは、一瞬だった。
 この手を離しては、後ろに控える子供が救えない。
 この足を動かしては、獣は女目掛けて力尽くで押し切ってくる。
 胴を抱えるようにして拮抗している大地にその老婆を救う手立てはあっても、今度は背を走る人々を救う事が出来なくなる。
「――……、」
 全てを救おうなんてはなから思ってはいない。自身の手の届く範囲なんて分かりきっていて、無謀は馬鹿のすることだ。
 今は、被害の拡大を防ぐ為に、避難誘導する仲間の為に、足止めに徹するべきだと判断を下した。
 手の届く範囲から零れ落ちた老婆は最期に短い悲鳴をあげると、その頭部を獣に噛み砕かれ息絶えた。
(「……僕は、全知でも全能でも、ない」)
 だからこそ、出来る範囲で救う。

成功 🔵​🔵​🔴​



 大地の横をすり抜けて、狼の屯する地帯へと踏み出す。
 この先は、死地だ。しかし、救わねばならない命がある。
伊兵・ミカ
ひどい…
本当に。一人でも多くの人を生かす…!

POWで行動
なるべく派手に動く
例えば大声をだして、例えば敵を罠に追い込んだりして
逃げる村人の背中を守りながら、武器受けを使用してできるだけ大勢を逃す

村人は身を呈して守る
「俺の命なんて、彼らに比べれば…!」

二度、三度避難誘導する場合も逃走経路のしんがりをつとめる

他にも協力してくれるメンバーがいて、傷の具合で中衛にも移動する
その場合の役割は襲いかかる敵のつゆ払い
「やらせるか…!」



――その為ならば、足は止めない。
 一人でも多くの人を救うのだと、伊兵・ミカ(PigeonBlood・f05475)は躊躇いなく先へと進む。
 老婆の亡骸の横を通る瞬間だけは目を閉じて。弔いの言葉をかけるのは後だ。
 眼前に広がる光景はなにも幸せなものじゃない。庇いたてる猟兵の姿がちらほらと見えるが、どの人間も傷付き血のにおいが鼻につく。
 その一角。ミカは今まさに猪突猛進に襲い掛かる巨体の狼と、その先で座り込む少年の姿を見た。
「俺の命なんて、彼らに比べれば……!」
 奔る。四足獣は止まる様子を見せず、間に合うかも定かではない。それでも、見逃すなんて出来なかった。
 身を挺して同年代にも見える少年と獣の間へと身体を投げ出すも、獣は怯むことなく速度を上げる。
 無敵城塞のユーベルコードの発動――と、ほぼ同時だった。
 加速した異形の狼は地響きを鳴らしミカへと追突した。五分五分。ほぼ無敵と成る筈の技は不十分に構築され、ミカの体を激痛が走る。
 背に守るべきものがあるミカと、何も持たない獣。時に前者が勝る事もあるが、常にそうある訳ではない。
 まるで闘牛の牛だ。邪魔だと言わんばかりにミカの身体を咢で貫き、振り回すように家屋へと叩きつければ餌へと足を進めた。
「あ、」
 か細い声と重なるように、肉が潰れる音がした。声は絶叫に変わり、少年が泣き叫ぶ。
「それ以上、やらせるか……!」
 絞り出した声が獣に届く事はない。痺れる手足は思うように動かず、武器をとる手が震えた。
 動け、動け、動いてくれ!
 ミカは自らの体に鞭を打ち、気力で以て立ち上がる。牙が貫いた身体からぼたぼたと落ちる血液は止まることなく、朱い宝石は今どす黒い血で濡れていた。
 これぐらい、なんともない筈だ。過去に受けた辱めに比べれば、こんな傷は、痛まない。
「うあああああ!」
 駆け出す。捨て身ともとれるミカへ、獣は興味を示さなかった。ぐちゃぐちゃと汚らしく肉を食む音だけが返った。
 振り上げた武器が獣へ突き刺さる。鼓動しない心臓部を貫き、内臓をぶち抜き、地面へと縫い付けた。みっともなく喚き散らす狼は自分のものではない血肉を辺りに振りまき、暴れ、――まもなく、絶命した。
 ミカはそれに目もくれず、守り切れなかった命を見下ろす。見開かれたままの瞼を指先で閉ざし、唇を噛みしめ静かに黙祷した。
 直前まで呼吸をしていた身体は、温かかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シエル・ティリス
村人守護

状況はあまり良くなさそうかな……?
どれだけ役に立てるかわからないけど頑張らなきゃ
私の力は誰かを守る為にあるって教えて貰ったから!

最初に【祈り】を使用
神頼みって訳じゃないけどこうすれば上手くいくような気がする
周囲の状況確認をして隠れながら進めそうなルートを選択しようかな
その方が安全そうだし
私は殿を務めよう

いざ交戦する時は敵の動きを注意深く観察しながら【見切り】を使って攻撃や回避の癖がないか探すよ
村人を守る事を優先しないといけないしね
敵が複数いて私を無視していこうとした場合は【なぎ払い】でこちらに意識を向けさせる

この人達は守ってみせるんだから

怪我人には【生まれながらの光】を使用

アドリブ歓迎




 曇天の空に祈るシエル・ティリス(月詠・f03232)は走る。どう見たって状況は最悪だ。
 隠れながらも進めるルートを選択する事は狼から身を隠す事にも成功はしたが、仲間からも身を隠す事となった。気付けばシエルは孤立していた。
「あなた、ねえ、あなた!」
 シエルの耳に女の声が届く。そちらへ目を向ければ、取り乱した女が吠えていた。
「どういうことなのよ! ねえ! 説明して貰えるんでしょうね!」
「あ、あの」
 少女に向かって捲し立てる姿はみっともなくはあったが、突然緊急事態に放り出された身では仕方ないとも言える。
 だが、賢い行動ではなかっただろう。
 女の声を聞きつけ、獣が路地から唸り声をあげて近付いて来たのだ。
「後ろに! 私が守ります!」
「もうこんなところに居られないわ!」
 発狂した女はシエルの言いつけを守らずに走り出す。
「待って!」
 その先は、獣達がうろつく通りだ。猟兵達が対処に当たっているが、何の対策もなしに身を投げ出せばどうなるかなんて分かりきっている。
 シエルの手が虚空を掴む。
 そして、迫っていた獣の咢はシエルの胴を目前に捉えた。はっと振り返るももう間に合わない。
 太い牙が腹部に食い込む。肉を食い破っては止まらない。聞くに堪えない音を出しながら、シエルの体を激痛が襲った。
 獣の猛進は止まらない。女にぶつけるようにシエルを投げつければ、女は短い悲鳴をあげて尻もちをついた。
 ごろごろと地面を転がる。背を壁にぶつけたところでようやく止まった。
「私の、力は……」
 誰かを守るために、あるのに。
 シエルの視界が赤く染まっていく。指先の感覚が徐々になくなっていき、動かす事すらも難しくなっていく。
 遠ざかっていく意識の中、泣きそうな顔でシエルへと手を伸ばす女の姿が最後に映った。
「いやあああああああああああ!!!」
 金切り声が鼓膜を揺らす。手を掴んであげたいのに動かない。
 ――……ごめんなさい。
 あの人が言う事を聞いてくれたら。
 あの狼が迷わず走り出さなかったら。
 あれが。あれが。並べ立てればそれこそ悪運だったと誰もが言うだろう。
 それでも、シエルは全てを否定して自分の力不足なのだと悔いた。例え事実がそうでなくとも、少女は胸を痛め涙した。
 守ってみせるんだから。
 意識が途切れる瞬間まで、シエルは諦めきれなかった。しかし、無慈悲にも、シエルの意識はそこで切れた。

失敗 🔴​🔴​🔴​



 獣が飛び出す。
 口の周りを血に濡らし、豚のように鳴く狼は満足げに舌で唇を舐めた。
 更なる獲物を求めて狼は往く。血の籠る路地から姿を見せると、――その顔面を横殴りに飛ばされた。
エンジ・カラカ
アァ……相変わらず絶望的な世界だ。
誘導?守護?任せる。
遊ぶ方が楽しい

目立たないを使って敵の背後から先制攻撃。
なーなー、アーソーボ。
鬼ごっこトカ楽しいけどなァ……
同じ足止めのやつらと協力して足止めするかァ
死にたくなかったら泣き喚いてさっさと逃げるんだな
2回攻撃も使えれば使って足止めする

逃げ遅れたやつがいれば間に割り込むコトはしよう
なァ……さっさと逃げろよ
大きな声をあげて村人を避難させてるやつにヒトがいることも伝えるか
同時に敵サンも誘き寄せできれば。
アァ……鬼の役は楽しいナァ


須藤・莉亜
【SPD】
「頼むよ、コシュタ。」
召喚した首なし馬に乗って敵を撹乱する。
基本はヒットアンドウェイで敵を切っていこう。狙いは足かな?
【傷口をえぐる】でぐちゃぐちゃな傷を増やして血をいっぱい流してもらおうかな。
村人の方に向かって行きそうな奴を優先的に切って行ければ良いな。

「敵さんの血をたくさん飲めば、ちっとはこの胸糞悪い気分も収まるかな?」」
一人でも多く助けるためにちっとは頑張りますか。



「アァ……?」
 狼の気配を感じてノンタイムで殴り飛ばしたエンジ・カラカ(六月・f06959)は不快気に眉を顰める。鼻につくにおいは確かに人間のものだ。
「おまえ……食ったな?」
 ピクピクと痙攣する狼へ向けて鼻を鳴らせば、エンジは首を傾げ近付いた。
 そこを狙ったかのように狼が牙を剥けば、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の『首なし馬』の蹄が狼の頭を踏み抜く。
「助け、呼んどいた」
 金切り声を聞けば警戒に易い。そこから血のにおいを撒き散らしながら満足げに現れた狼があるのなら、何があったかなど誰でなくとも察するものだ。
 助かる余地はないだろうが、調べておくに限る。狼にトドメを刺したコシュタを撫でながら、莉亜は次の狼を指差した。
 血のにおいにつられ、狼の群れが二人を囲う。顔を見合わせた二人は隙なく構えた。
 莉亜のコシュタはその図体のでかさから目立ちやすい。コシュタを暴れさせながら、陰に潜むように移動したエンジがトドメを刺す。エンジと莉亜の方針は合わせやすく、これまでも何匹も狼を仕留めて来ていた。
 目を擦り、莉亜は端から一匹ずつ狼を見る。
「敵さんの血をたくさん飲めば、ちっとはこの胸糞悪い気分も収まるかな?」
 気だるげな眼差しを最後の一匹へと向ければ、首なし馬の胴を撫ぜた。とんとんと励ますように叩けばGOサインを出す。音の無い嘶きと共に、コシュタは駆けだした。
 巨大な馬にとっては眼前の狼など子供のようなものだ。逞しい脚で蹴り上げれば数十センチ跳ね飛ばし、勢いよく尻尾を振れば鞭となって強かに身体を打つ。
 だが、大きな体は的にもなる。着地した瞬間を狙って牙を突き立て、あるいは向きを転換する隙に胴を狙って突撃を仕掛ける。
 狼の攻撃がコシュタを襲う度、生命力を共有した莉亜の体に激痛が走る。外傷はないが、内を抉るような痛みは常にあった。
 それに喘いでる暇はない。自らもまた攻勢に出てダメージを加算していかなければ。
「……?」
 そこで、莉亜はある事に気付いた。
 一匹、狼が外を向いている。エンジでも莉亜でもコシュタでもなく、どこか違う方を向いている。
 視線の先を辿った莉亜は、無表情なりにその瞳を揺らした。
「エンジ」
 コシュタに軌道を変えるよう指示を出しながら、莉亜はエンジに呼びかける。声に応じたエンジはすぐに莉亜の意図を察して走り出した。陰陽の如き役割を果たしていた二人だからこそ、エンジの邪魔は一匹もない。
 平屋の入り口に、身を小さくするようにうずくまる親子の姿があった。
 狼が走り出す。その後ろをコシュタが追うが、他の狼が許さない。血に飢えた四足獣は目前にある馬を、ひいては細身の男を食い物にしようと喰らい付く。
 エンジが身体を割り込ませたとき、飢えた獣は数十センチの距離にいた。もはや思考の隙はない。
 地面を削って速度をゼロにしたエンジは、逆ベクトルに今度は踏み出す。向き合う一人と一匹は、その直後に接触した。
 噛み砕こうと開いた口がエンジを食む。口裏と下歯に手をかけ、閉じる力に逆らうエンジは左肩に激痛を感じた。
 牙が、肩口を貫いている。
「なァ……さっさと逃げろよ」
 苦し気に顔を顰めながら、エンジは背に隠した親子を見やる。迫る脅威に震える親が泣きそうにくしゃりと顔を歪め、何度も何度も頷きながら我が子を腕に立ち上がった。
 ぼたぼたと、エンジの肩口から血が落ちる。食えないと悟った狼が牙を引き抜くと、血の勢いは更に増して身体を濡らした。
「アァ……鬼の役は楽しいナァ」
 牙を自身の血で濡らした狼越しに、同種を蹴散らしながら跳ねあがったコシュタと莉亜の姿を見てエンジは口の端に笑みを張り付ける。
 着地は、獣の上だった。
 肉と内臓を重力加速度を載せた巨体が押し潰す。餌を欲して親子を襲った狼は今、胴を潰され即息絶えた。
 折角逃がした親子を別の狼に狙われてはたまらない。エンジと莉亜は再び戦場へと身を投げ、襲い来る脅威と戦った。
 溢れ出る血。肩口にぽっかりと穴の開いたエンジは服の裾を千切り止血を試みる。命の源は止まる事を知らず、徐々に体が冷たくなっていくのを感じた。
 莉亜もまた、目立った外傷はなくとも呼吸が荒い。コシュタの体に複数ついた傷口は、そのまま莉亜に共有される。体のいたるところを斬られたような感触はしばらく消えないだろう。
 これ以上は、進めそうにない。
 あらかた蹴散らした莉亜とエンジは避難に走る村人の背を見、その後を追うように後退する。前線を張ることにならずとも、逸れ出でた狼を狩る事ぐらいは出来るだろう。
「もう少し。頼むよ、コシュタ」
 エンジをコシュタの背に乗せ、莉亜は首なし馬を走らせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)と一緒に行動】
……まるで地獄だな
思い出したく無い事を思い出す

敵の呼称は狼か
念の為 耳と尻尾はしっかり隠しておけ
錯乱した村人が勘違いするかもしれない

それと、絶対に無理はするな
分かったな?

【POWで行動】
今回は剣一本での戦いだ
恐らくあまり長くは持たないが、やれるだけの事はやろう
もちろんダメージも覚悟の上だ

分担はこうだ
俺が敵を引き付けて足止めをする
その隙にリリヤは村人を逃がす

いいか、ハッキリと言っておくぞ
自分の救える範囲の人間だけ救え
……あとは見捨てろ

戸惑うな、躊躇うな、覚悟を決めておけ
それができないのなら、ここで待っていろ

よし、行くぞ

※アドリブ改変歓迎、NGも無しだ


リリヤ・ベル
■ユーゴさま(f10891)と一緒に

帽子を目深に被って、尻尾は服の中。
はい、きをつけます。
ユーゴさまも、どうぞご武運を。

【WIZで行動】
村人たちを連れて脱出を。
狼の動きをよく見て、足止めの隙を突くように。
建物の中を通り抜けたり、火の手や煙に紛れて、村の外へ。

だいじょうぶです。
わたくしは、かしこいのですよ。
あしでまといにはなりません。

……でも。
かしこいので、ユーゴさまがこころを痛めていることだって、わかっているのです。

手足の一本は、猟兵であれば尚軽い。
追いつかれたら、割って入ってでも止めましょう。
わたくしができることは、わたくしの救える範囲です。

ふりかえらないでくださいましね。


※改変などご自由に




「……まるで地獄だな」
 ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)はぼやく。そう言いたくもなるだろう。か弱い親子を囲うように狼が二匹陣取っていたのだから。
 リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)と共にその間へと割り込んだユーゴは構えた剣でしきりに威嚇し距離を置かせる。邪魔の入った狼は前足で地面を蹴りながら、飛びかかる隙を狙っているようだった。
 ハッキリと言っておくぞ、と前置きしたユーゴが真っ直ぐに前を見据えたまま語り掛ける。
「自分の救える範囲の人間だけ救え。……あとは、見捨てろ」
 その言葉は強く、決して拒否権など認めない言いようだった。
 リリヤは頷く。
 村人を横取りされて苛立っているのであろう狼へとユーゴが重心を低めにして構えれば、リリヤ達へと目を向ける事無く駆け出した。
 その背中を見送ってリリヤは静かに目を閉じる。
「だいじょうぶです」
 わたくしはずっとかしこいのですよ。
 懸命に剣を振るうその背が、その心が、痛みにないていることだって知っている。届く事のない声を、リリヤはそっと胸に秘めた。
 赤子を腕に抱いた女を招き、走り出す。背をユーゴに託したまま、真っ直ぐ前を目指して。
 遠ざかっていく足音を意識の外に追い出し、ユーゴは剣を振るう。二匹は連携など取れていないのだろう。ユーゴの知らぬ所で互いに牙で傷つけ合い、その爪先で互いの身体を抉る。
 しかし、その傷に動揺する事なく眼前の人間を喰らおうと喉奥を見せた。
 あまり、長くは持たない。
 ユーゴ自身その事は理解していた。だから、今やることは足止めだ。そして、やれるのなら一匹だけでも仕留める。
「悪いが、タダでやられる気は更々ない!」
 上手く敵を誘導して、互いに突撃する位置につかせる。飢えた狼が目の前の餌を前に我慢なんて出来るはずがない。
 突進させて、その隙をつく。
 ――結果として言えば、それは成功した。そして、同時に失敗もした。
 身を引き、眼前で起こった衝突に追い打ちをかけるように剣を握った側の狼の首を落とす。剣は狼の首半ばまでめり込むと、そこで勢いを失った。引き抜く事も、斬り落とす事も出来ずユーゴは武器を失う事となる。
 片方の狼から血が噴き出す。それはユーゴの身体を濡らし、一瞬だが確かに視界を妨害した。
 その一瞬が、命とりだった。
 一歩二歩、よろめいた狼が怒りのままにまた前進する。同類の亡骸ごとユーゴの身体を軽々と吹き飛ばし、その場で暴れて吠えた。
 そして、ふっと。
 音が途切れたその時、狼の視線はとある方向に固定されていた。その方向に誰がいるのか、ユーゴは知っている。
 手足が痺れる身体で出来る事など限られていた。それでも、手を伸ばす。頭から垂れる血が目に入り、視界が霞もうとも構わない。獣の足を掴めば、あるいは。
 しかし、その願いは叶わなかった。
 虚空を掴んだユーゴの手を、狼の後ろ脚が踏み潰す。骨の砕ける音が鳴り、繊細な神経を持つ手のひらだったものから激痛をユーゴの身体に駆け巡らせた。
 獣のような声が出る。喉を震わせていたのは、ユーゴだった。
 
 悲鳴のような声を帽子ごしにリリヤは聞いた。その声を聞き間違えるはずはなく、リリヤは下唇を噛みしめる。
 それから間もなく、声にならない叫びを聞いた。
 咄嗟に手を出したのは、手足の一本なれば軽いと覚悟を決めていたからだろう。赤子を抱えた母親を突き飛ばし、リリヤは真横にそれを見る。
 唾液を引いた赤黒い口腔。不揃いで汚い歯牙。
 バツン、と何かが千切れる音がした。
「――……!」
 肉塊が飛ぶ。それが何かを、リリヤは身に走る激痛を以て理解させられた。
 リリヤの片腕だ。
  痛みで叫ぼうとした声を懸命に喉の奥に押し留める。いずれユーゴの知る事となるかもしれない。
 それでも、今は。
(「わたくしは、あしでまといになりたくはないのです」)
 ぼたぼたと止まることなく断面から溢れる血液は空気に触れた途端から徐々にその色を黒く染まらせていった。
 転がる腕。るるうと喉を鳴らした狼は、あまりに空腹だったのだろう。敵意を見せる獲物を狙うよりも、動かぬ餌をとることにした。
 リリヤの眼前で自らの腕が食われていく。脇目もふらずに齧りつくさまを数秒見詰め、目をそらした。
「ああ、ああ、あなた……」
 自らを突き飛ばした代わりに片腕を喰われたリリヤを見て、女は口元に手を寄せる。時折肩が跳ねるのは、吐き気を抑えているからだろう。我が子の視界を自らの胸で塞ぎ、女は泣きそうに顔を引きつらせた。
 服を破って根元を縛ったリリヤは簡易の止血を施して深く長く息を吐く。未だ狼の目はこちらを向かない。
「……だいじょうぶです。いきましょう」
 無理して笑むリリヤの顔は歪んでいた。それでも、まじないのように大丈夫なのだと繰り返して。
 ――どうか、きづかないでくださいましね。
 未だ想うのは、あの人の事。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



「こっちだ! 振り向かず走れ!」
 その声は、リリヤと親子を光明へと導いた。
ジロー・フォルスター
暗闇は恐怖と不安を増幅させる
聖者としてその闇を祓えるなら、徹底的に抗ってやる

・行動
「こっちだ!振り向かず走れ!」

『生まれながらの光』で周囲を明るく照らし、村人が何処に逃げりゃいいか示す
高速詠唱・全力魔法・医術・祈り…全部注ぎ込んで回復だ

地形の利用と暗視で周囲の事は把握できるだろう
全員でなくても一人でも多く手を伸ばし、救う

目立つからな、俺自身も狙われるだろう
「くく、待ってたぜ」

攻撃は見切って受け(武器受け、敵を盾に)ジャマダハルでカウンター(傷口を抉る、串刺し)
奪った血を吸血し、生命力吸収で疲れを癒して回復の力に変える

狙われた村人は激痛耐性頼みでかばうぜ
オーラ防御や各種耐性もある、何とかなるさ



『生まれながらの光』が辺り一体に差し込む。その光の中から、ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)は手を伸ばした。
 この世界は闇と夜に満たされている。
 暗闇は恐怖と不安と増幅させるのだ。なれば、ジローは聖者としてその闇を祓い徹底的に抗うのだと決めている。
 広げた手は遮断機のように、ここで行き止まりなのだと暗に狼に告げた。
「くく、待ってたぜ」
 辿り着くまでに幾匹もの狼と対峙してきた。それらを往なし、傷口を抉り、死骸を蹴り上げ盾にして立ち回ってきた。
 伴い、疲労は貯まる。村人たちを癒してきたのだから余計にだ。
 常ながらの余裕を滲ませながらも、その額には汗が伝った。
 ――どう出るか?
 ジャマダハルは血脂に濡れているが、まだその切れ味を落としていない。
 血を奪う事が出来れば吸血で糧にし、生命力吸収で少しは疲労も軽減できるだろう。
 どの選択を取るのか、ジローは注意深く狼を観察しながら常に思考を回転させ続けた。
 常なれば、その集中を切らす事はなかっただろう。
 だが、一瞬。ジローは一呼吸する瞬間だけ、僅かコンマ以下の時間だけ集中を切らした。
 そして、獲物を逃がし神経質になっていた狼は本能でその一瞬を捉えた。
 奔る。遅れながらもジローは胴を切断しようと狙っていた咢を打ち、軌道を逸らせた。
 熱く燃えるような熱が脇腹を襲う。ぐちゅりと、人間が肉を食んだ時に聞く様な音が腹から聞こえた。
 何が起こったかを理解するよりも先にジローは行動へ移す。体勢を崩しながらも肉を抉った狼の心臓目掛けてジャマダハルを刺し貫いた。
 口に肉片を残したまま、狼は地面を滑っていく。数秒、もがくように暴れた後にぷつりと動かなくなった。
 終焉までねめつけたジローは息を吐く。やられた、と僅か眉根を寄せた。
 ま、何とかなるさ。
 ジローは軽く零すが、そう甘く見れる傷ではない。放置しなければ死ぬことはないだろうが、確実に命を蝕んでいた。
 零れ落ちる臓器を手で支えれば、白いグローブは徐々に赤く染まっていく。癒しの光を宛がい誤魔化すも、鈍い痛みは断続的に続いていた。
「少し、下がるか」
 狼の群れに向かって突き進むのはナンセンスだ。希望を騙って歩みを止めず、分かりきった絶望の元に膝をつくのはリアリストのする事ではない。
 幸いにも、村人の避難は進みつつある。〆は後続に任せるとして、ジローは家屋の壁に凭れ掛かった。

成功 🔵​🔵​🔴​



「万が一の時は置いてってちょうだい」
 灰色の女が言う。
「気が向いたらな」
 緑眼の男が応える
 辿り着いたその場所は、小さいながらも町一番の広場に思えた。
 唸る狼。棒切れを構えた男。蹲る家族。横たわる老婆。元のカタチが分からない何か。肉を貪る獣。ぱっと見て入ってくる情報は様々だ。
 そして、微かに届くこのにおいは間違いなく血であった。
四辻路・よつろ
偶然見かけたクレム(f03413)に声をかけて共闘
援護はなるべく任せるけど
万が一の時は置いてってちょうだい


騎士と蛇竜を召喚、蛇竜は先陣と撹乱を
騎士の方は私達の護衛に残らせるわ
まずは村の中にどこか裏道か抜け道がないか、聞いてみましょう
ないのであれば、腹を括って味方が多く居るところから強行突破するわよ

どの道死ぬ未来なら
一か八か生き残る可能性が僅かでもある方に賭けなさい
ここで仲良しこよし、全員死ぬよりまだマシでしょう

蛇竜は火を噴き、村人の逃げ道を作る
私と騎士は炎を掻い潜って襲いかかる獣の相手を

全く、嫌になるわね
骸の厄介さはよく知ってるもの
おいたはダメよ、わんちゃん


クレム・クラウベル
……随分なところで鉢合わせたものだな、よつろ(f01660)
背は預かろう。傷を負うのは不味いのだろう
幸い【援護射撃】は得意だ
そちらへ向かう敵がいれば牽制しよう

見捨てたいわけなどない
平気なわけも。痛まないわけも、当然
それでも今は――惑う暇もない
目視出来る範囲で脱出に向くルートや敵の潜める箇所確認
敵の目を避けて逃がせそうならそこから村人を逃がそう
嗅ぎ付けられれば道は使えなくなる
負傷のない身軽なものから脱出させる

強行突破等必要な場合は射撃で対処
狙えるなら足狙い機動力を下げる

神に縋るより、今は己だけを信じろ
祈るだけで救われなどしない
動け、立ち止まるな
……動けぬもの全てまで救える程、俺達は万能じゃない



「背は預かろう。傷を負うのは不味いのだろう?」
「そうね。お願いしようかしら」
 死臭を纏った騎士と蛇竜を召喚した四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)は顔見知りを一瞥する事もなく歩を進める。
 新たに増えた音にまず反応するのは狼達だ。一匹、二匹。弱っているものと転がっているものを除けばそんな所だろうか。
 蛇竜の背を指先でなぞり送り出し、騎士は護衛に残した。よつろの繰るユーベルコードは術者に負傷があってはいけない。クレム・クラウベル(ヴェスペラ・f03413)が言動もこれがあっての事だろう。
 両者出方を窺っている状況で、クレムは銃を片手に避難すべき人々の位置を確認する。突入地点から左右に広がっている状況は最悪だろう。
 そして。
(「――ああ、嫌になる」)
 救うべき人間。見捨てるべき人間。その瞳は全てを救う事を願いながらも、現実的に救える人間を選び抜いていた。
 老婆はもう助からない。その近くの男の足も食いちぎられていて避難は困難だ。奥の棒を手にした男はまだ持つ。家族は無傷。ゴミ箱横の女は、もう肉塊だ。
 ぎり、と奥歯を噛みしめる。まだそこにある熱を、クレムは今から捨てようとしている。
 しかし、やらなくてはならない判断だ。ここに存在する全てを掬い上げてやれるほど、万能でもなければ神でもない。
 クレムはよつろへ現実的なルートを提案すれば、灰色の女は無言で頷く。使い捨ての蛇竜はそのまま先行させた。よつろはヒールを鳴らし、肉塊の横を通る。まだ乾いていない血が跳ねて足元を濡らした。
 棒切れを持った男を囲う狼二匹の間に騎士を滑り入れる。金属の壁が出来たところで、蛇竜はかぱりと口を大きく開いて火を噴いた。
 よつろが背を見やる。唸る獣の声は近付いては遠ざかり、遠ざかっては近付いて、いつこちらに飛びかかってくるか分からぬ状況だ。
「助けにきた。全員、走れるな?」
 行動裏に任されたクレムはまず家族を守っていた青年へと声をかけ、次に膝をついて家族の様子を見た。母に、祖父に、子が二人か。この青年が父親なのだろう。
 震えていた女がクレムの言葉でぽそりと呟いた。
「ああ、かみさま……」
 その言葉に弾かれるようにクレムは顔をあげる。そんな祈りの言葉で全てが報われるほど、世界は上手に出来ちゃいない。
 沸々と込み上げる熱は今呑みこんで。
「立て。走れ。祈るだけで助けてくれるような神はいない」
 子の手をとる女の腕を掴む。強引に引っ張り上げれば、よろめきながらも女は立ち上がった。涙ぐむ瞳は縋るようにクレムを見るが、その鋭い眼差しを正面からぶつけられれば静かに頷く。
「相談は終わった?」
 まるで他人事のように返すよつろの表情は芳しくない。その声と同時、ガァンと金属がひしゃげる嫌な音が響いた。
「全く、嫌になるわね」
 平坦な声で吐き捨てて、よつろは一歩下がる。いくら死霊の騎士で止まる事はないと分かっていても、物理的に動けなくされてはどうしようもない。足なし騎士など無用の長物だ。
「切り開くわ。仲良しこよし、全員死ぬより賭けた方がまだマシでしょう」
「頼む」
 蛇竜に火だるまにされた狼達は劫火に焼かれようとも怯む事がない。生きているのか死んでいるのかそもそもが疑わしい生物を前に、よつろはその厄介さに舌打ちする。
 撤退路はひとつ。敵は二匹。こちらは守りながらの攻防だ。本来避けられるべき攻撃を避けては後ろの妻子が餌になる。
 ガチン、と牙が噛みあう音と同時に蛇竜が掻き消えた。
 四足獣はよつろの耳を噛み千切っていた。裂傷は召喚獣の死を意味する。クレムが通り過ぎていく獣の横顔へと銃弾を撃ち込むが、堪えた様子はない。
「やだ。おいたわダメよ、わんちゃん」
 頬を血の紅で濡らし、よつろは笑う。
 弱き獲物が狙われては身を挺して庇い、傷を増やしながら二人は村人を広場の外へ誘導する。
 このままでは押される一方だ。
 クレムは意を決する。矢の射る向き。敵の位置。目的物とベクトルを合わせ、吹っ飛ばす瞬間を狙っては狼を往なした。
 そして、放つ。
 顎を穿った矢は決してその一撃だけで仕留められるようなものではなかったが、狼共の視界にそれを収めることには成功した。
 もう動かぬ肉片。元々、人間だったものの塊。そして、未だ生きる両足を失った男の存在。
 腹を空かせた狼は、それらを思い出して目の色を変える。跳ねるように起き上がれば、ごちそうを目の前にした子供のように駆け出した。
「立ち止まるな」
 そう長く意識を逸らせるものではない。食い終われば、また自分たちの番だ。苦虫を噛み潰したように眉根を顰めたクレムは一瞬、瞑目した。
 撤退していく二人を見る双眸がひとつ。母を喪い、両足を失った男は迫る狼には目もくれず、ただただ去っていくその背中を見つめていた。
 牙がその首を捉え、噛み千切るまで、――あと数秒。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニコラス・エスクード
盾として生まれ、盾として生きる我が身だ。
此の場に無くて何処に在ろうか。
我が刃、我が身体、我が全てで以って、
無辜の民を救わねばならぬ。

故に我が眼前には件の狼を。
村人を追う一匹の凶爪を【かばう】と【盾受け】をもって受け止め、
己の足を止め、敵の足を止めてみせよう。
【怪力】にて力づくでも押し留めてくれる。

防戦は承知の上だが、一方的に噛まれる趣味もない。
血が流れるのであれば、
それを得物の贄として『ブラック・ガイスト』を用い反撃を。
隙あらば、素っ首叩き落としてやろう。

腕の一本や二本程度は呉れてやっても構いはしない。
一人でも多くを救う為。
此の身はその為にあり、その為に使わねばならぬのだ。




 此の場に無くて、何処に在ろうか。
 万民に身を捧げ守り抜いた者の誇りを抱き、幾万の戦場を耐え抜き遺ったとある盾。
 その者が、今此の場に無くして何処に往くというのだろう。
(「我が刃、我が身体、我が全てで以て、無辜の民を救わねばならぬ」)
 それは人の身で抱く心か、それとも宿る盾が抱いた心か。ニコラス・エスクード(黒獅士・f02286)は村人を追いかけ走る狼の凶爪をその盾で受け止め庇っては弾き飛ばした。
「往け。此処は俺が立つ」
 泥にまみれた子供は肩で息をしながらニコラスを見た。再び牙を剥く狼に短い悲鳴を上げるものの、その必殺の凶器は子に届かない。
 がちりと狼が噛んだのはニコラスの盾だ。
 そのまま力尽くで押し返せば、ある一点で更に力をかける。ただ押し返すだけに留めず、牛ほどもある獣が盾を噛んでいる事を良い事に振り回せば家屋へと突っ込ませた。
 時間稼ぎぐらいにはなる。再び姿を見せる前に、怯える子供の背を押した。
 そうして、幾度盾になっただろうか。
 ある時は夫婦の。ある時は青年の。
 沢山の盾となり、ニコラスは狼と対峙した。時間が過ぎる毎に、回を重ねる毎に疲労と傷は蓄積する。
 黒鉄の鎧に隠れて見辛いが、足元を見やれば確かに血だまりとなって激戦の様子を表していた。
 それでも、ニコラスは変わらない。
 盾を手に、血を奮うニコラスはなお変わらず戦場に在った。
 襲いくる狼は既に誰かを食った後なのだろう。口周りを紅に濡らし、牙を見せる度にどこか血のかおりが漂った。
 ひとりの手の届く範囲は、狭い。救う手立てのない人間はどこかに存在してしまう。
 ならば、せめて。
「我が盾の錆びにしてやろう」
 ここで仕留めて、その可能性をゼロに近付ける。
 疲労で動きの鈍ったニコラス腕にかじりついた狼はその勢いそのままに牙で鎧ごと抉り、その奥にある肉まで到達する。ぶちぶちと繊維が切れるような音がした。
 全身を針で刺されたかのような痛みが駆け巡る。
 しかし、ニコラスはそれに構うことなく、溢れる血を殺戮捕食態に変えて狼の首を抉った。その奥にある心臓を狙い、果てには脳を狙った。急所と言う急所を、ブラッド・ガイストの餌食にして狼を喰らった。
「信念無き獣如きに、負ける俺では無い」
 獣と自身の血が交じり合った地面に暫し視線を落とし、ニコラスは次なる戦地へと赴く。
 助けを呼ぶ民が在るのなら、此の足は進み続けるのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ――くすくすくす。
 その声は、唐突に猟兵達の耳に届いた。
 村人の避難を終えた猟兵達は一旦テレポート地点付近へと戻ってきていた。村中をまだ狼が彷徨い歩いてはいるが、一先ずの人命救助という点では一段落ついたからだ。
 そんな時だった。
「かわいい、かわいい。わたしの、わんちゃん。いじめたのは、だあれ?」
 振り返る。数舜前までそこには何も存在しなかったはずの場所に、黒いローブを羽織った少女がいた。
「でも、いいの。わたしの、おもちゃ。いっぱい、できたわ」
 猟兵達へ背を向けた少女が微笑む。何を言っているのかと、問い詰めようと足を踏み出した猟兵の前で、ぽっと篝火が灯った。
 ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽつ。
 ひとつならず、沢山の炎が少女によって生み出される。それはふらりくらりと揺れては村の方へと泳いでいった。そうして、一瞬、何かに当たった瞬間に大きく膨れ上がる。
 ゆらり。
 動いたのは、転がっていた女の死体。動いたのは、胴が潰れた子供の死体。
 少女が『おもちゃ』と称したものは、村人達の死体だったのだと誰もが悟った。
 軽やかな足でスキップを踏み、村の奥へと少女が去っていく。
 その少女へ続く道を、たった今村人の死体で作られた亡者と、その村人を殺した狼が立ちはだかった。
「あ、ア、……ナンで、だすげ、……」
「ま、マア……どコ……」
 辛うじて聞き取れる、聞き取れてしまう言葉を亡者が語る。無残に殺された姿そのままに、口にする。
 ――これだけで終わるとはどうにも思えない。
 転送前に聞いた言葉が脳裏に過り、心身ともに癒しきれぬ傷を抱えた猟兵達は再び村へ戻る事となる。

 次なる敵は、助けられなかった、見殺しにした、嘆きを叫ぶ村人達だ。
ニコラス・エスクード
――嗚呼、そうか。
死者の声が聴けるとはな。
亡者の嘆きを聞かされるとはな。
この身の痛みなど忘れ去ってしまう心地だ。

死出の旅に戻してやらねばならん。
安寧を呉れてやらねばならん。
その苦しみを、痛みを。
抱いた恐怖を、絶望を。
必ずや彼奴に送り返してやる。
必ずや、報復を。

この身も心も既に憤りの炎で焦がれている。
死者の篝火など、我が盾にて払い除けてやろう。
既に流した血も啜った血も十二分、
ならば次に喰らうは死者達の嘆きだろう。
【捨て身の一撃】を以っての『ブラッド・ガイスト』で、
一刀にて、死者を黄泉路へと。

謝罪も懺悔も吐きはしない。
受け止めるが盾の有り様だ。
恨みも、嘆きも、全て。


境・花世
ああ、随分な悪趣味だ
怒るでもなく呟いて、
早業・逃げ足、身軽な躰を活かし
骸の指を掻い潜る

黒幕の影を追おうとして――
くるり振り向き眉を下げる

そのままで、いたい?
そのままじゃ、痛い?

燔祭から放つ衝撃波で
可哀想な屍の動きを暫し留めながら

わたしにはよくわからない
けど、きみ、斃してあげたら
探してるママのとこにいけるかなあ

右目から零れる牡丹の花が、
散って、散って――【花開花落】
いのちのお終いはせめて、
仮初めでもいい、きれいなもので

天国はお花畑だっていうなら
この世界よりも楽しいかもしれないな
ねえ、そのうち、教えてよ
わたしもきみとおんなじとこへ行く筈だから

そうしてまた、戦場を駆け出してゆく

※アドリブ、絡み大歓迎


ジロー・フォルスター
『闇が深い時ほど光は明るく輝く』

激痛耐性込みでも吐きそうだが、いつか聞いた養母の声に体を起こす


・行動
皆、体も心も傷だらけだ
聖痕と医術で外傷は癒せるが心はそうはいかない

『檄』に聖者の得意技、言葉(優しさ・コミュ力・祈り)を乗せる

「まだ救い終わってない。オブリビオンに操られてる村人があんなに苦しんでるんだ。呪縛を絶てるのは俺たち猟兵だけだぜ」

「あと少しで刃が届いたってなら、今度は俺が支援する。次は届かせるからな」

周りの猟兵の士気を上げ戦闘能力を増強する
全力魔法・高速詠唱の聖痕の力で癒す
心を支え聖者の気配で死を跳ね返す

支援とはいえ見切り・カウンター・武器受け・オーラ防御・火炎耐性で自分の身は守るぜ




「嗚呼」
 それは誰が零した言葉だっただろうか。
 眼前にした亡者が助けを乞う聲を耳にした猟兵達が零した、憂いた、嘆いた、溜息だ。
 ニコラスは内に灯る静かな焔が熱く篤く身を焦がしていくのを感じていた。内側から全身を包み込むようなこの衝動は、宿った魂が揺れ動く熱だろう。今にも溢れ出しそうな情を奥歯で噛み殺して、一歩を進む。
「まさか、まさか、亡者がかたるとはな」
 ぼたぼたと零れ落ちる命の水は、眼前の亡者を喰らう為の赤黒い刃と化した。辿った軌跡に赤い花が咲き誇るが、ニコラスは最早ただ一点のみを見つめていた。
 取れかけの首をぐらぐらと揺らし、助けを求めるように手を伸ばす女の亡者を。
 潰れた胴に辛うじてくっつく四肢で這い、母親を求める子供の亡者を。
 膨張した情動は痛みさえも殺した。
「随分な悪趣味だ」
 後方で支援にあたっていた境・花世(*葬・f11024)がふらりと前に出る。耳につく少女の笑いが脳内に木霊する。一歩、二歩、進む足が徐々に速くなっていつしか駆け出していた。
「あ……あァ……」
 縋るように伸びる指が欠けた掌を潜り抜け、狼の牙をすんでの所で躱し、少女の影を追った花世は土を逆ベクトルに蹴り風を切る。同時に身体を捻ると、内臓が零れ落ちて地面に血の絵を描く亡者の背を見た。
「そのままで、いたい?」
 花世が燔祭に触れる。花世に応えて明滅する燔祭を亡者へ差し出した。
「そのままじゃ、痛い?」
 二択を示した花世の手の内にあった燔祭がより一層暗く灯った瞬間、鎌鼬の如く衝撃波が地面を駆け抜け亡者を食い止める。何ものかに噛みつかれたかのように、亡者たちは動きを止めた。
 上がる悲鳴は、女子供のもの。
 耳を劈いた悲鳴にジローは一瞬眉を顰める。
(「身体も心も傷だらけだ。俺達だけじゃない……あいつらも」)
 潰えた筈の四肢を再び動かされる気持ちはいかほどだろう。そこに込められた何某が例え別物だったとしても、身体は確かに生前の人間のものだ。
 死んでなお、使われる。
「クソな気分だ」
 言い捨て、ぱらぱらと零れ落ちる牡丹の花弁を視界の端に見たジローは息を吸う。
「届かせる――天国でも、地獄でも、何処へでもな」
 もう誰も傷付かないように。癒しを声に込め、心を音に乗せ、ジローは声をあげた。檄は猟兵達を強化する。挫けようとする心を言葉が支える。
 耐性すらも貫いて激痛が走る身体に鞭打ち、リフレインする言葉を自身に対しての檄に代えジローは喉を震わせた。
 対してニコラスに語る言葉はない。
 盾はあらゆるものを受け止めるからこそ盾であり、懺悔や贖罪を吐く口は不要だ。一文字に唇を縛り、血潮をその身で受け、足を進める。
 最後の最期まで、ニコラスは瞬きひとつすらなく、凝視し続けていた。その有様を、一瞬たりとも見逃さぬように。全てを受け止めるように。
 女が雄叫びをあげて篝火を辺りに振りまく。誰に、などと狙ったものではない。挙句隣の子供すらも焼きぐらぐらと皮一枚繋がった頭を揺らした。
「ま、マぁ……!」
 泣き叫ぶ。
「なんでェ……あだ、わたし、どおじでえ……」
 ただ嘆く。
 その亡者は酷い有様だった。敵意はひとかけら程で、後はただただ現世に対する恨み辛みに嘆きをあげて目前の生者にぶつける。
「わからないよ」
 ぽつり、花世が零した。
 子供が求めてること。女がなぜと嘆くこと。背に増える亡者が口々に語る、数知れずの嘆き事。
 でも、皆がどこにいくのかは知っている。
 でも、皆がどうあるべきかは判っている。
「そのうち、教えてね。わたしもおんなじとこへいく筈だから」
 手のひらから零れ落ちた薄紅の牡丹。一枚一枚、花弁が剥がれて空に舞う。途切れたいのちが、風に乗って、花に乗って、天国へと登れるように。
 逝く魂が迷わぬように、天高く空へと導いた。
 足掻くように亡者が叫ぶ。まだ留まるのだと、この地に未練があるのだと花びらの中でもがく女ががむしゃらに花弁を焦がし、目に留まったものへ篝火を振る。
 女が手を伸ばした先、視線を投げた先、――亡者の炎が身を焼こうとも、ニコラスは身じろぐことなくそこにあった。
 亡者が動かぬものとなり、絡む炎が解ける頃、ようやくニコラスは目を閉じる。死出の旅へと還った二人を想い、開けた視線は先を見た。
 蠢く亡者は増えている。死んだ村人が立ち上がる。
 その全てを輪廻に還し必ずや報復してやるのだと、内に抱いた消えぬ炎を滾らせ進む。受け止めるだけだったかつての盾は止まらない。
「まだ、救い終わってない」
 この先に待ち受ける亡者がどんなものか、誰しもが理解していた。ジローはその背を押すように、わざと明るく声を出す。
 強がりだと思われても構わない。作りだとバレても構わない。
 これは必要な事だ。
「オブリビオンに操られてる村人があんなに苦しんでるんだ。呪縛を絶てるのは、俺たち猟兵だけだぜ」
 足を完全に止めてしまう者はいないだろう。しかし、迷い、躊躇い、立ち止まりかける者はきっといる。
 その背を、ジローは自身の言葉を以て押した。傷付いた心を癒すまでは出来ないが、どこか迷いが生じた時に、自らの言葉をふと思い出せばそれだけでも言う価値がある。
 先んじて進むジローは振り返り、全猟兵の前で鷹揚に笑う。
「行こう」
 闇が深い時ほど、光は明るく輝く。
 立ち込める闇を切り開くのは、きっと自分達の役目だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

レイブル・クライツァ
あの二人は……
嗚呼、本当に悪趣味ね。
亡骸を弔う時間はこれからだわ。
今度は始めから見捨てずに済むから、どれだけ恨まれても気が楽よ
『今度こそ』助けるわ

腕の損傷は拷問具の鎖を巻いて、フェイントに振り回す用。
厳しければヴェールを、医術の応用で首から肩を経由し腕を安定させるよう巻く
焼けたら歪だけど、塞がるから大丈夫。
火炎耐性に過信せず、燃える部分によっては壁や地面等に押し付け消火。
丁寧に潰さないと玩具にされるから、敵の影に触れぬよう位置取りに気を付け
何度も巫覡載霊の舞で切り刻むわ。
囲まれないよう常に距離感に気を配り、第六感と見切りで警戒は怠らず
他猟兵と連携&隙が出来ないようフォロー出来るなら積極的に行う


麻生・大地
【忍び足】【暗視】【だまし討ち】【時間稼ぎ】

【ハイドクローク】起動
姿を隠し、仲間の死角の援護をしながら戦います

効率は悪いかもしれませんが、高周波ブレードで確実に首を、あるいは
急所を斬り飛ばします

対処が間に合わない場合は、脚を優先的に斬り飛ばして侵攻を遅らせます

一通りカタが付いたら、遺体はまとめてブラスターで焼却します
どんな形で再利用されるかわかりませんから

「あなたたちを見捨てた僕たちを恨むのなら、存分に恨んでください。
良い訳なんかする気はありません。けど…」

あなた方をこんな目に合わせた畜生にはきっと相応の報いを与えますから
だから、せめて、どうか迷わずに召されるように




 呼び覚まされたその二人が、誰なのかを知っていた。
「おもちゃ……ね」
 冥土へ導く高貴な花に埋もれた亡骸を見下ろし、レイブルは呟く。込み上げる吐き気にも似た感情は噛み殺し、次なる亡者の姿を視界に捉えた。
 盛り上がる黒布はこぢんまりとしている。その中から首なしの胴体が現れた。しわくちゃの手が何かを探すように宙を彷徨う。
 老婆だ。頭部を噛み砕かれた事により、死んだ老婆だ。
「今度こそ、助けるわ。この村の全員、誰一人として残さずに」
 眼前にいる老婆を。足を潰され臓物を抉られた少年を。母親の胸元で眠っていた胴のない赤子を。恐慌の表情のまま首をもがれた女を。
 存在する全てを見捨てずに、助ける。
 それが今、レイブルに出来る事だ。全ての亡者を刈り取る事で成し遂げられる唯一の救いだ。最悪の状況はこれ以上最悪にはなり得ない。全てを見捨てずに済む現状はまだ気が楽と言えた。
 きつく縛った拷問具の鎖は噛み砕かれた腕の血を止める。迷わず老婆の亡者に歩み寄れば、自由な手でなぎなたを構えた。仕える獣が低く唸るが、もはや視界の外にある。
 駆け出した。
 動けぬように足を。
 這えぬように手の先を。
 もがけぬように腿を。
 全ての中枢となる脊髄を。
 何度も何度も何度も何度もレイブルは切り刻む。どうか再び起きぬようにと、込めた願いの大きさだけその刃は鋭く亡者を切り裂いた。
 邪魔する狼の存在が疎ましい。ついでのように刃を翻し、老婆にするよりも荒く、大雑把に、心の臓を抉った。慈悲はない。これらがいなければ嘆く亡者は存在しない筈だったのだから。なぎなたを取る手に知らず力が籠った。
 血によく似た炎が周囲に飛び散る。火の粉が成長し、動かぬ妻子を包み込む前にレイブルは足で踏みつけ火を絶やした。
 そうするだろうと読んでいた老婆――いや、あるいは、黒衣の少女がそう動くように仕向けた老婆が、篝火を手にレイブルへと振りかぶる。あわよくば気絶でもさせて手先にでもしようとしたのだろう。
 しかし、篝火は振り下ろされる事なく鎮まる事となる。
「おやすみなさい」
 ハイドクロークで姿を消していた大地が首なし老婆を真っ二つに斬り飛ばす。胸元と、胴以下と、腕が二本。心臓部を斬り飛ばした大地の眼前でばらばらと老婆の身体が文字通り四散する。鈍い音を立てて肉が地面を転がった。
 未だ残る篝火が老婆の死体を這う。再度起きよと促すように、傷口を塞ぐように火の手が伸びる。
 その時、――轟と焔が亡者を舐めた。
 篝火程度の微かな炎ではない。それは身体全身を包み込んで老婆の悉くを燃やし尽くした。灰がぱちりと爆ぜ、空に消える。
「あなたたちを見捨てた僕たちを恨むのなら、存分に恨んでください」
 眼前で視線を逸らせた大地の事をどう見ただろう。死ぬその間際、絶望に打ちひしがれて召されたのだろうか。今となっては分からぬ事だが、決して希望を見出して死んだ訳ではない事ぐらいは分かる。
 それに対して言い訳などしない。その選択肢を選んだのは確かに自分なのだから。それを他者に押し付ける事も、状況に押し付ける事も、老婆に押し付ける事も、しない。
 それだけはしてはならないと理解っている。
 ――ただ。
 湖面のように静かに言の葉が零れる。
 誰にも届かぬ言葉を紡ぎ、大地は先に控える少女の背を幻視する。愉快気に笑う黒衣の少女。沸々と機械の身体に熱が籠る。
 それは錯覚なのかもしれない。ブラスターの熱が照り返しただけかもしれない。
 だが、内に感じるこの熱は疑いようもない。
「せめて、どうか、迷わず召されるように」
 綺麗な言葉で取り繕って、大地は燃え盛る亡者を過去にする。畜生に抱くとりどりの感情は、畜生にだけ向ければ良い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

吹鳴管・五ツ音
雑嚢に入れた包帯で肺腑を保護し、血に塗れた口腔を水ですすげば十分であります
残りの医療具や、治療の手があるのなら、是非に村の方や怪我が深刻な方に

…瞑目し、一度葬送の譜を吹鳴したら意識を切り替えるであります

今を生きる者を脅かすなら過去の亡者とはすなわち敵軍

(ぐい。と、力任せに軍帽のつばを引き下げ)

謝りはしません
惜しみはしません
ただ。
ただ再度の死を以て報いましょう

起床呼集、吹鳴

喇叭の音で敵軍を誘き寄せ、村の地形を利用し拠点防御の要領で遅滞戦闘展開

戦闘を重ね敵軍の力量を見極めたら、五体満足でも戦闘力の低い者…気絶者の可能性を残した者を避けるよう細心の注意を払い
小隊の小銃斉射で敵軍を撃滅するであります




 牙を剥いた狼を小銃斉射で撃ち抜いた五ツ音は、一度振り返る。
 この喇叭の音が避難した人々に届くかは分からない。五ツ音の紡ぐ音がどんな意味を持つのか理解できずとも、どうか届けばいいと願った。
 葬送の譜。吹鳴する機会がない方が良いその音を、五ツ音は滑らかな旋律で吹き鳴らした。
 瞑目し、一瞬息を止める。再び息をする五ツ音の目からは揺らぐ感情が消えていた。
 今を生きる全ての者を脅かす存在ならば。
 過去から今を食い殺す為に存在するならば。
(「――すなわち、敵軍」)
 力任せに軍帽の鍔を引き下げ、五ツ音はうつむき加減に視線を下げる。心はもう決まっていた。
「起床呼集、吹鳴」
 顔をあげた五ツ音は真っ直ぐ前を見据える。迷う心はもうない。惑う心はもうない。だって、そう。
 謝りはしない。自分達は最良を以て挑んだのだから。
 惜しみはしない。その結果、齎された今が全てだから。
 ただ、縋る亡者を再度の死を以て報う。
 五ツ音は喇叭を吹き鳴らし小隊を率いる。五ツ音に縋るように伸ばされた手は、もう掴んではいけない亡者のものだ。
 もう、十数センチ。その距離まで近づいた亡者の手が、突如として吹き飛んだ。
「自分は迷いません」
 五ツ音が号令を出す。横一列に整列した小隊が正面へと小銃を構えればぴたりとその照準を合わせる。
 未だ飢えて歯向かう狼。食い散らかされた中途半端な死体の亡者。先行する猟兵の背を見ながら、五ツ音は狙いを付ける。
 そして、時は来た。
「はなて」
 五ツ音の声をかき消すようにして銃声が響く。仲間は避けながら、隙間を縫っていくつもの弾丸が迸った。
 それらは狼の頭を、耳を、目を、口を、胸を、肩口を、腿を、爪先を、それぞれに貫き穿つ。小さくとも強烈な弾丸の穴から多量の血を噴き出し、狼は瞬く間に息絶えた。
 亡者もまた、言わずもがなである。痙攣するように身体を跳ねさせた後、指先の末端すらも動かさずに朽ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



 前方を猟兵が駆け抜ける。横から縋る狼を遠慮なく殴り飛ばして進んでいく。守るべき者達が背にない猟兵達は、少女の背に追い縋る。
リーゼ・レイトフレーズ
【WIZ判定】
私だけ無傷だったとは運が良いのか悪いのか
とりあえず、漸く私の仕事だ

STARRY SKYは伊達にこんな形をしてる訳じゃない
20mm口径を脳天にぶち込めばどうなるか
少なくとも皆を戸惑わせる言葉は発することが出来なくはなるよね
そうやって村人の亡者を片っ端から
【スナイパー】しながら黙らせてく
味方の【援護射撃】は第一にな

何も気にせず動ける私が頑張らないとな
【第六感】で立ち回りながら相手の動きを【見切り】
汚れも厭わずに【零距離射撃】
SHOOTING STARも使い兎に角多くの亡者を屠る
恨みも嘆きも私が受け止めてやる
だから、もう眠れ、これ以上苦しむな

他参加者との絡み、アドリブOK


須藤・莉亜
「本当に悪趣味な敵さんだよ、まったく。早く追いかけたいし、僕のとっておきを出そうかな。」

取り敢えず、近くの猟兵さんたちにはちょっと離れてもらってから、腐蝕竜(ドラゴンゾンビ)さんを召喚しよう。
腐蝕竜さんには体当たり、噛みつき、爪でのひっかき、尻尾での薙ぎ払いなんかで攻撃してもらう。
彼には体がバラバラになるまで敵に喰らいついてもらいたい。

僕はその後ろについて行って、腐蝕竜さんの攻撃で隙ができた亡者に攻撃していく。狙いは首、出来なければ足。
体は戦う前に万能血液で治したとはいえ、無理しないようにしよう。

「くだらない悪夢はもう終わりにしたいね。」



「本当に悪趣味な敵さんだよ、まったく」
 一歩後ろ。開いた空間の真ん中にぽつりと莉亜が立つ。追いかける気が無いわけではない。むしろ、その逆だ。だからこそ莉亜は今ここに立っている。
 屈む。地面を撫ぜる。何事かをぽつりと呟くと、そっと莉亜は後退した。
 続けてパキ、と何かの音がした。莉亜の触れた地面が銃痕を刻むようにひび割れ、徐々に徐々に広がっていく。下から何かがせり上がり、お椀のように盛り上がった地面はいくつかの塊となってぼろぼろと落下していった。
 現れたのは、20mにほど近い腐蝕竜だ。
 土塊を振り払い覗かせた瞳は仄暗く、腐臭を吐いて頭蓋を起こした。一歩進めば大地に足跡を刻み、一歩進めば牙を立てた狼を易々と踏み潰す。
「全部、食べちゃって? 食い残しはだめだよ」
 再び亡者が呼び起こされぬように。再び猛獣が食い荒らさぬように。
 そうして、最後には。
「くだらない悪夢はもう終わりにしたいね」
 あの黒衣の少女をバラバラにして、終わらせる。
 対物ライフルを肩に引っ掛けたリーゼは駆ける。莉亜の横を通り抜け、振り払ったドラゴンゾンビの尾の先端に足をかければ一気に背まで上り詰める。
「借りるぞ」
 腿の力だけで暴れるドラゴンゾンビにしがみつき、リーゼは手早くSTARRY SKYを展開する。支えとなる二脚を広げ、ゾンビの背に突き刺した。スコープ越しに見える景色がリーゼの手の届くすべてとなる。
 自由に暴威を奮う莉亜の腐蝕竜の上、ぶれる土台にも関わらずリーゼはそのブレにも対応してぴたりと照準を定めた。
 一瞬定まれば、それでいい。
 その瞬間に打ち込めば、下が動いていようか止まっていようが関係ない。どんな状況でも弾丸を打ち込めなければスナイパーとしての腕前は半人前だ。
 ひやりと冷たいSTARRY SKYのストックに頬を付け、リーゼは息を止める。時が来れば、この対物ライフルが火を噴き轟音と共に獲物を貫くだろう。
 サン。
 ニ。
 イチ。
「もう、眠りな」
 轟と土埃を立てて銃弾が迸る。込めた精霊弾は周囲を抉りながら爆発的な威力で少年の亡者を抉った。顎から上が消滅する。一本だけ欠けた下歯が空に晒され、ぐらぐらと身体と篝火を揺らし未だ前へと進んでいく。潰された足で懸命にもがく。
 そこを、莉亜の腐蝕竜の爪が捉えた。
 真横から亡者の身長程もあろうかという爪が振るわれ、軽々と小さい身体を吹き飛ばした。ドラゴンゾンビの爪先に赤い贓物がぶら下がる。
 少年はもう二度と動く事はないだろう。ぱちぱちとくすぶっていた篝火を、莉亜はその手で握りつぶした。
「おやすみ、ぼく。良い夢を」
 ドラゴンゾンビの後を追い、莉亜は進む。死者を現世から断ち切ることが出来るのは、猟兵達だけだ。
 召喚した竜の足元を進む莉亜の姿を確認し、リーゼは再びスコープを覗く。風の流れを読み、ハイライトの灯らぬ緑眼で戦場を俯瞰する。
 切り捨てるものは今はない。――今は。
「嫌な風だ。まだ何か、隠してる?」
 対空機関砲の射程よりも先、篝火を辺りに撒き散らしながら進む黒衣を見る。一瞬吹いた強い風に乗って、くすくすと笑う少女の声をリーゼは聞いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエル・ティリス
WIZ


ごめんね……ごめんね……
謝っても許されないとわかっていながら私はその言葉を口にする
もっと上手く立ち回れていたらこの結果はなかったのかもしれない
それでも今諦めるわけには……
だってまだ何も終わっていないんだから!

その身に神を降ろし、真の姿を解放
金色のオーラを身に纏う

基本は見切りやなぎ払いを使って戦う
敵の数が多い場合や強い場合は巫覡載霊の舞を使用し、敵を撃つ
舞の解除は状況をみて判断

あまり使うなって言われてたけど仕方ないよね
今楽にしてあげるから……
それが何もできなかった私のただ一つの贖罪
ううん、自己満足かな

周囲の戦闘を含め、ひと段落した場合、死者に祈りを
せめて安らかに眠れるようにと


アドリブ歓迎




 目が覚めた時、鉄錆にも似た臭いが濃く周囲一帯に立ち込め、何かが居たのだと分かる血だまりだけがそこにあった。
 あの人はどこへ行ったのだろう――その答えを、シエルはすぐに知る事となる。
 ふらりと姿を見せた亡者を前に、シエルは思わず目を瞠った。
 それは、人間の形をしていなかった。
 手を足に、足を手に、二本と二本で分かたれるべきそれらが一本と三本に分かたれている。両手と片足で地面を這い、やや斜め上に突き出た足の指先がぴくぴくと動く。
 唯一、それが何かを知らしめる物体が傾いたまま置かれていた。
 顔だ。絶叫に顔をひきつらせたまま息絶えた、女の顔だ。
「ああ……」
 くしゃりと顔を歪ませて、シエルは泣きそうに女を見た。涙する事は許されないと知っている。込み上げるものをぐっと喉の奥に堪えた。
「アなだ、ねェ……ぁア……」
 どこから絞り出しているのか、脳裏にこびりつく悲鳴と似た声がシエルに届く。
 死してなお、現世に囚われた亡者。最悪の結末を迎え、体中を生きたまま食まれ、命が尽きたかと思えば何者かに弄ばれる。
 これほどの悲劇が他に在ろうか。
「今、楽にしてあげるから……」
 歪な亡者に伸ばした指先から金色のオーラが発生する。流星が零れ落ちるように、きらきらと光りが溢れればシエルの体を包み込んでいった。
 長い髪がふわりと揺れる。星砂が零れ空に溶けていく。
 その身に神を降ろしたシエルは、真っ直ぐに女を見据えた。
「どうか、安らかに眠って。それが私の願い」
 斬り払った亡者は容易に崩れる。篝火の上を金色を纏った指先が通れば、瞬く間に火は消えていく。
 亡者は篝火を広げてシエルを呑みこまんとした。
「ごめんね……これ以上、苦しまなくていいから」
 とん、と軽く地を蹴ればシエルが肉薄する。頬を篝火が焼くが構わない。すれ違うと同時、女の核を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​



「たすげテ……たす、ゲ……」
「アァ……ゥア……」
「ままア……」
 連なる嘆きは亡者のもの。嘆く聲は村人のもの。
エンジ・カラカ
アァ……うるさいうるさい。嘆きの声は聴き飽きた。
もうたくさんだ。
辰砂、辰砂、賢い君…
できるよなァ…お前は賢いからできるよなァ?

先制攻撃で咎力封じ。拷問器具の辰砂を操る。
新鮮な血が大好きな賢い君。
代償の血はココにあるだろ。犬共に噛み付かれたのが幸か不幸か。存分に味わってくれ。

敵サンの動きは常に注視、囲まれたら圧倒的に不利だ。
2回攻撃で敵サン封じは確実に、敵サンの攻撃は見切りで回避
金切り声も聴こえないふり、知らないふり、うるさいうるさい……

トドメは任せた。
馬鹿みたいに後先考えず突っ込むより
支援に徹する方が性にあってンだよ。
アァ……うるさい。
その喉に噛みついてしまう前に、はやく。



「アァ……うるさいうるさい。もうたくさんだ」
 エンジは耳を塞ぐようにして首を振る。音をよく拾う人狼の耳には嘆きの声が重奏のように響いていた。
「辰砂、辰砂、賢い君……」
 焦点の合わない瞳を揺らしながら、エンジはぶつぶつ名前を呼ぶ。辰砂、辰砂、賢い君。血を吸い華やぐ辰砂はエンジに呼ばれ覚醒する。
 ゆらり、頽れるように現れた亡者を前に、エンジはその声を聞く前に辰砂を振るった。
 亡者から溢れる血は少ない。しかし、辰砂はエンジの思うように戦場を舞う。
 鮮血を求む辰砂が糧にしているのは、エンジの肩口から溢れる新鮮な血。服を赤黒く染め、脈動毎にその勢いをややに増す血が腕を伝って辰砂に流れた。
 辰砂が亡者を捕縛する。そこにあったのは老婆のくしゃくしゃな顔だ。
「あああアアアあア……!」
 拘束ロープがきつく身体を縛る度、しわがれた金切り声が辺りに響く。振り回した篝火は火の粉の後を振りまくが、拘束を解くには至らない。鮮血を得た辰砂はそれを凌駕する。
「ヤめでえェええ、タスけデえエ……!」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい……」
 カチカチと奥歯が鳴る。無意識の内に何度も何度も歯を噛み鳴らし、苛立ちを隠さず辰砂を繰る。
 必要以上に近付かない。むやみやたらに突っ込むのは怒りに狂う連中に、悲しみに嘆く連中に、そして正義感に奮う連中に、任せる。
「アァ……くそ、うるさい」
 舌の根元に歯を立てエンジがぼやく。鋭い痛みと共に口の中に鉄の味が溢れた。
 一歩、二歩、距離を置く。
「はやくおわれ」
 嘆きを叫ぶその喉に、噛みついてしまわぬように。

成功 🔵​🔵​🔴​

四辻路・よつろ
大丈夫?クレム(f03413)あなたひっどい顔してるわよ
辛いのなら、なかった事にするのも悪くないわ
こんな事が日常茶飯事だなんてとことん憂鬱な世界なのね、ここ
まあ、全滅じゃないだけマシと思っておきましょう
私達は神様じゃないもの、全員は救えないの

おもちゃと呼ばれた死体を前に
おいで鈴丸、と大刀を持った巨躰の男に動物たちの死霊を呼び出す
さっきの耳のお礼とばかりに死体や狼たちをなぎ払い
最後にクレムの炎で焼き尽くす
守り重視の戦いをしなくていいのならば、思いっきりやっていいのよね
物量で一気に押すわよ

あなたのおもちゃと私の死霊
どっちが強いか試してみましょうか?
年季の違いを見せてあげるわお嬢ちゃん


クレム・クラウベル
問題ない、とよつろ(f01660)へは頭を振り
このくらい初めてではない
此処ではよくある事だ、慣れている
奪われゆくも溢れゆくも
……拾えたものがあるだけマシな方だ
ああ。そうだ、全てなど叶わない
だからこそ掴めた分は――護り抜く

炎には炎を
【祈りの火】で包み、篝火諸共焼き尽くそう
いくら生者を真似ようと死者は死者でしかない
……安心しろ
この程度で揺さぶられる程はもう、純真でもない
炎は攻撃だけでなく支援にも転用
敵の退路塞ぎ、よつろの攻撃を補助しよう
追い込んでくれるならこちらもやりやすい

憎しみは、嘆きは受け止める
届かなかった事実からは目を逸らさない
……送ろう。せめて安らかに眠れる様に
祈る資格などないのだとしても




 夜と闇に包まれたこの世界は、どう足掻いたって明日を喰らわんと絶望が忍び寄る。
 それは誰と限られるものではない。この世界に生きる全てのものの隣に潜んでいるのだ。
「――……」
 息が詰まりそうだ。クレムは細く長く息を吐き、再び吸う。脳裏にこびりついた双眸を振り払うように頭を振った。
「大丈夫?」
「問題ない」
 クレムの顔色を見たよつろが何ともなしに声をかける。一方のこちらは無感動に歩を進めては、足元に転がる狼の死体を邪魔そうに小突いた。
「今日は何もなかった。それでも悪くないわ」
 ぬぞり、亡者が現れる。
 口を開きかけたクレムが、足元に狼を伴ったその姿を認めて僅か眉を潜めた。
 見たことがある、程度で終わるものか。その双眸はつい数舜前に自身を見つめていたのだから。
「問題ない」
 繰り返す。
「此処ではよくある事だ。奪われ往くも、溢れ逝くも」
 首から下げたマレ・オラティオを人差し指でなぞる。クレムは足のもげた男の亡者をただ真っ直ぐに見据えた。
「だからこそ掴めた分は――護り抜く」
 例え再び、今度は己が手で殺す事になろうとも。
「私達は神様じゃないもの。全員は、――あなたは、救えないわ」
 平坦な紫の瞳が亡者を眺める。足がなく、手で這う姿はよつろの瞳にどう映っただろう。
 醜いだろうか。無様だろうか。感情の見えない双眸からは何も窺えなかった。
「おいで鈴丸」
 それは、唐突に陰から現れた。瞬きの間に、よつろのやや後方に控えるように現れた。
 大刀を持った巨躯の男。その背をやや丸め、主人たるよつろに傅く。足元にはもはや犬とも言えぬ形をした獣がいた。それはどちらかと言えば、村人を喰らった獣に近い。
「私、あなた達のご飯じゃないの。分かる?」
 気だるげに払った髪の奥、噛み千切られた耳は血の跡を残している。乾いた血糊を指先で払えばぱらぱらと風に乗って落ちた。
 腕を組み、よつろが男を見上げる。
「あなたのおもちゃと私の死霊。どちらが強いかしら」
 弱者に興味はないというように、よつろが自身の死霊を嗾ける。口振りに反して、下品に食い散らかす狼と不格好な亡者に劣る気はしていなかった。
 獣が駆ける。守るべきものがなく、数の利を得たよつろに遠慮はない。
 その横をクレムが過ぎた。一瞥したよつろの視線を受け、クレムが苦笑を零す。
(「……俺も、変わったな」)
 かつてなれば、心を痛ませ歩む足を止めていたかもしれない。共感し嘆く純なる心を抱いていたかもしれない。
 しかし、踏み出す足に迷いないクレムに、その純真さはもう存在しなかった。
 真正面に男をねめつけ、頭の隅に追いやっていた祈祷文をなぞる。確か、そう。
 祈りよ灯れ、祈りよ照らせ。灯火よ消えるなかれ。陽の射さぬ朝も、月無き夜も迷わぬように。
 一節を口にする毎に、狐火の如くクレムの周囲に白い炎が巻き起こる。小さな火種がクレムの言葉に呼応して、その勢いを増した。
「送ろう。せめて安らかに眠れるように」
 よつろの死霊が狼と死体を薙ぎ払い、一所に押し込めている。漏れた狼はクレムの浄化の炎が迫ればその足を止め後退った。
 一進一退の攻防を続ける最中、よつろが短く息を吸う。
「終わらせて頂戴」
 それは合図だった。
「さよならだ」
 地面を舐めた白き炎が全てを呑みこんだ。酸素を得て膨らむ炎は轟轟と音を鳴らし、二人を多量の熱が襲う。
 よつろの死霊ごと焼いたクレムの炎は篝火の青き灯を無に還し、退転した亡者諸共灰燼に帰した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユーゴ・アッシュフィールド
■リリヤ(f10892)と一緒に

……無事の範囲がキツすぎるだろう。

リリヤの腕については今は気付かないふりをしてやろう。
無理をしやがって、帰ったら説教だ。

リリヤの歌声のおかげで少しは動けそうだ。
剣を拾い、杖がわりに立ち上がるとするか。
……年だな。足腰にきてやがる。

次の相手は死体か、本当に趣味が悪いな。
救ってやれなくてすまなかったな。
せめて苦しまないように逝かせてやる。

俺は【トリニティ・エンハンス】で風の魔力を纏おう。
これなら、このボロボロの身体でも剣を振るえる。
リリヤ、そのまま周りの回復を頼む。
お前にかかる火の粉は、俺が払う。

ああ、そうだな。
俺もあの悪魔は、許せそうにない。


リリヤ・ベル
■ユーゴさま(f10891)と一緒に

ごぶじでよかった。
いのちがあるのは、ごぶじのうちです。

わたくしの腕は、そっとかくしておきましょう。
それよりも優先するべきは、ユーゴさまやみなさまの傷を癒やすこと。
喉があれば、うたえます。
【シンフォニック・キュア】で、回復に専念を。
周囲に気絶したひとがいたら、操られないよう戦場の外へ連れ出しましょう。

ユーゴさまが守ってくださるのなら、声が震えることもありません。
目は閉じずに。
ちゃんと行く末を見届けるように。

亡者となってしまったひとたちを、治すことが叶わないのはかなしい。
おもちゃだなんて、そんな、……――ねえ、ユーゴさま。
わたくしは、あのこが、ゆるせません。




「ごぶじでよかった」
 リリヤの第一声がそれだった。
「無事の範囲がキツすぎるだろう……」
 ユーゴの言いようも尤もだ。
 ユーゴは踏み潰された手とは逆の手に剣を取り、地面に突き刺し進むことでようやく動けていた。リリヤに至っては、濃い血のにおいが辺りに漂っている。
 ふくらみの欠けた片腕を、ユーゴは気付かない振りで誤魔化した。色々言ってやりたい事はあるが、眼前で繰り広げられた景色を前に優先すべき事ではない。
 共に帰ったその時は、一言二言説いても罰は当たらないだろう。
 何とも言えない顔をするユーゴの前で、リリヤは臆した様子もなく命があるうちは無事なのだと言い添える。
 亡者の群れは凡そ排除されただろうか。多々の猟兵が進む道ではそう長く生存していられない。
 残党の狼に一人の亡者。その奥に黒衣の少女が見えた。
 手が届きそうだ。少女はそれ以上進むことなく、広場の一角に腰かけて足を揺らしていた。まるで高い椅子に座った少女がそうするように。
「ひとつずつ、おわらせましょう」
 暫し少女を見つめていたリリヤが不意に目を逸らす。ユーゴを見上げ、ひとつ頷いた後に息を吸った。
 リリヤが紡ぐは癒しの歌。朝露輝く幸せな朝、暖かな日差し降り注ぐ満ち足りた昼、星々の袂で脅かすもののない眠りにつく夜。一日を巡る幸せの歌に癒しを込めて、高らかに歌い上げる。
「無理はするな」
 言いはするが、ユーゴはその言葉をリリヤが守るとは思っていない。信頼しているからこその結論だ。
 死の淵から呼び戻された亡者が苦しまぬように、そして、生きる人々がこれ以上苦しまぬように、ユーゴは剣を構え躊躇いなく踏み出す。これが最適解なのだと理解していた。
 生み出した風の魔力で体の負荷を低減し、ユーゴは飛びかかる狼を一刀に伏す。複数で囲まれなければこの程度、気を抜かなければやれる相手だ。
 返す刀で喉を裂き、身体を水平に捌く。目を白黒させる狼は、自覚を得る前に二枚に下ろされ絶命した。
 そこへ亡者の炎が奔る。リリヤを狙った篝火を見れば、ユーゴが間に割り込みその身で受けた。
 傷を負うと同時、リリヤの歌がユーゴを癒す。リリヤの紡ぐ声に後押しされ、ユーゴは炎を剣で切り開き、亡者へと急接近した。
「苦しまずに逝かせてやる。これが、今の俺に出来る唯一の弔いだ」
 どんなものも、核を失えば機能を停止する。ユーゴが狙ったものは――心臓。
 緩みそうになる手に力を籠め、確りと柄を握りなおせば女の死体に刃を入れた。腕を斬り、心臓を斬り、内臓を抜け、空へ走る。支えを失った亡者はどちゃりと嫌な音を立てて地に墜ちた。
 けほ、とリリヤが咳き込む。幾度となく歌い唄い癒してきた喉は酷使され、音を奏でる毎に痛みが走る。
 それでも、リリヤはうたう事を止めなかった。
「もうすぐ、そこです」
 やけくそに飛びかかる狼の咢を打ち砕き、ユーゴがリリヤの見据える先を見る。ゆっくりと呼吸を整えれば、痛む身体に鞭打って足を引き摺った。
 リリヤの隣に来れば剣を地面に突き刺して立ち止まる。癒しの歌で癒されきらない手の傷を服の裾で縛り留め、リリヤの傍で膝をつく。
「……――ねえ、ユーゴさま」
 リリヤが静かに続けた声を風が攫う。癒しを唄った声で、リリヤは確りと口にした。ゆるせない、と。
 声を聞き届けたユーゴはリリヤを見やる。リリヤの瞳には、つよい意志が灯っていた。
「ああ、そうだな」
 短く応える。
「俺もあの悪魔は、許せそうにない」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ゼラの死髪黒衣』

POW   :    囚われの慟哭
【憑依された少女の悲痛な慟哭】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    小さな十字架(ベル・クロス)
【呪われた大鎌】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    眷族召喚
レベル×5体の、小型の戦闘用【眷族】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「あら。あら。わたしの、おもちゃ。こわして、しまったの?」
 広場の一角。木箱の上。
 黒衣を纏った少女がこてりと無邪気に首を傾げて猟兵に問う。
 ざわついたのは何も風が吹いたからではないだろう。どこまでも無邪気に笑う少女に殺気立った者も多い。人命をおもちゃと称し、弄び、嗾けた少女に慈悲など向けようもない。
「かわいそう。でも、いいの」
 少女は変わらず、唄うように声を紡ぐ。どこかつたない言葉は子供の純真さを彷彿とさせた。
「わたしと、あそんでくれる?」
 とん、と少女が木箱から降りる。月の弧を描くように空をなぞれば、銀の刃が姿を見せた。首を刈り取る形をしている大鎌は所々赤い染みがこびりついていた。
 武器を手にした猟兵達を一人ひとり眺め、少女はあっと声を出した。
「『このこ』、こわれちゃう、かしら?」
「この子?」
 誰かが返した。誰の声だったかは分からないが、引っかかるものがあったのだろう。怪訝そうな声に反応して、少女は満足げにステップを踏んだ。
 くすくすくす。
 変わらず笑う。深く被ったフードをぱさり落とせば、長い銀髪を風が攫った。
 覗く瞳に感情はない。真っ白なガラスのような双眸に猟兵を映して、口元だけは感情豊かに笑みを象る。
「『わたし』が、『このこ』を、えらんだの」
 曰く、黒衣が少女を選んで憑りついたのだと。
 曰く、少女をひどく傷付けなければ助かるのかもしれないのだと。
 曰く、加減を間違えばあなた達が少女をも殺すことになるのだと。
 ねえ、ねえ。
 楽し気な声で少女は猟兵に呼びかける。にこりと笑う口元と、にこりともしない目元は確かに乖離を感じさせた。
 信じるも、信じないも、各々の自由だ。
 黒衣のローブが本体であり、少女はただ操られているだけの可哀想な犠牲者の一人なのか。
 それすらも少女の作り話で、猟兵達を弄んでいるのか。
 猟兵達が歩んできた道で、確かにこの少女は狼を操り村人を殺し、その上殺した村人達を亡者として遣わせた。事実は変わりようもない。
 血生臭い街道を進み、突如歌うように紡がれた少女の言葉を前に、猟兵達は自身の信念に基づいて結論を出さねばならない。
 何が正しいのか――その答えを、誰も持たない。

「『わたし』を、たのしませてくれる?」

===========
!CAUTION!

 『猟と贄』第三章は以下のルールで判定します。

 1.プレイングは失効日が同じ日程のものからダイスで処理順を決定します。合わせプレイングは纏めてひとつとカウントします。
 2.🔴が5-12個の域を越えた時点でよくないことが起こります。5個、12個はセーフです。
 3.2の判定は👑達成時の🔴の個数でカウントします。

 どのような結果になろうと、悪者はいません。どの選択肢も正義です。
 望まぬ結果になったのであれば、それは――そう、運が悪かったのです。

===========
モルツクルス・ゼーレヴェックス
失礼、参加させていただくっす

「自分は魔法使いっす」
ちちんぷいぷい、で解決したいもんっすね!

「変形せよ!変身せよ!変転せよ!変換せよ!我が示す真実を現したまえ!」

猟兵の報告書という【世界知識】によると確かに相手の本体は黒衣!
【物質変換】で布をびりびりに形状変化させたり木屑に材質変化させてやるっす!

敵の反応をよく観察して【情報収集】【学習】してより有効な攻撃【コミュ力】で偽情報を見抜き【高速詠唱】で次々攻撃

例え外れても【戦闘知識】監修の有利な地形を構成していくっす
その【地形を利用】して追いつめていくっすよ!

自分【存在感】あるんで狙われるっすけど【オーラ防御】っす
むしろ敵の攻撃引き受けることで援護!




「自分が行くっす!」
 騒めく猟兵の中、躍り出たのは一人のオラトリオだ。真白の翼を堂々広げ、モルツクルス・ゼーレヴェックス(近眼の鷹・f10673)は胸を張った。
「自分は魔法使いっす」
「ふふ。それで?」
 黒衣の少女が面白おかしく笑ってみせる。この青年は一体どんな選択肢を選んでくれるのか。
 その眼差しにモルツクルスは真っ向から勝負を仕掛けた。
「まずっすね、これは自分の知識と報告書から導いた事っすけど」
 はきはきと喋るモルツクルスはその場の空気を気にせず我の道を突き進む。
 曰く、相手の本体は確かに黒衣であると。
 曰く、引きはがせば少女は無事帰ると。
 似たような報告書に目を通していたモルツクルスは、眼前の黒衣も同様のオブリビオンと断じてみせた。
 モルツクルスの論を少女はおかしそうに目を細めて聞いている。ゆらゆらと錆びた刃を揺らせながら、それであなたはどうするの、と小首を傾げた。
 モルツクルスの応えは決まっている。
「――変形せよ! 変身せよ! 変転せよ! 変換せよ!」
 モルツクルスの手を起点とし、高速詠唱により瞬時に物質変換術式が組み上がっていく。物質を形成する基を変換術式で強制的に書きかえ、質量密度に関わらず転換するユーベルコード。
 余裕を湛えた少女を見据え、モルツクルスは口の端に笑みを乗せて宣言した。
「我が示す真実を現したまえ!」
「やん」
 少女が跳ねる。取り残された黒衣の端が術式に掠り、傍から量子分解されて散っていった。少女は僅か眉を顰める。
 次々と射出される術式を前に、少女は裾をたゆませ抵抗した。黒い靄が辺り一面に広がり一気に膨張する。
 眷属だ。
 数え切れぬ程の漆黒の蝙蝠が飛び立ち、猟兵らを呑みこまんとその牙を剥いた。
「まだまだっす!」
 迫る蝙蝠を分解し、転換し、還元し、モルツクルスは攻撃を防ぐ。取りこぼしの牙を受けながらも、それこそが本望とばかりにモルツクルスは声をあげた。

成功 🔵​🔵​🔴​



その横を、黒き風が過ぎた。
レイブル・クライツァ
命乞いみたい
只、これだけで終わるとは思えないって聞いたから違和感を探してた。
可能性があるなら最後まで足掻く
それが責任よ

未だ足りない?欲張りね。
少女の意識が有るなら、心は護れてない。
第六感と戦闘知識と見切りをフル活用でミレナリオ・リフレクションをし、あくまでそうとしか行動しない風を装い
淡々と相殺しつつ、多少攻撃で欠けても再現出来るなら無問題。目的を悟らせない面出来る位集中。
ローブへ鎧砕き狙いで、捲り上げる様に攻撃って本命をお見舞いする。可能なら2回攻撃で畳み掛け、阻まれたら敵の攻撃手段を絞らせる為距離を詰める

殺した事は変わらない、だから大丈夫よ
判断材料は多い方が良いわ。
躍らされるのはどちらかしら



「命乞いみたい」
 極めて淡々と、感情を殺してレイブルが言う。蝙蝠の群れを同様の飛翔生物を生み出しては相殺し、少女への道のりを切り開いた。
 距離を開け、並走するは黒衣の少女とヴェールの女。
 ぱちりと合った視線の奥、少女の双眸に宿る光を探して金色が動いた。
「遊び足りないなら、私が遊んであげるわ」
 口は言葉を紡いで止まらない。
 少女が繰り出す眷属を真似、共食いさせては散らしていく。討ち漏らしの牙が肌を裂く前に、重心を落として、あるいは跳ねて避けていく。衣服の端々を食いちぎられる事は諦めた。
 悟らせてはならない。
 揺れそうになる瞳を一瞬瞼で隠し、短く息を吸う。再び少女を視界に収めたレイブルからはただ一つの目的を感じられた。
 少女は笑う。
「ぶきよう、ね」
 ミスリードだと気付かずに。
「そう思う?」
 軽く肩を竦めたレイブルは、平行線を辿っていた足で突如地面を削った。鋭角に切り込むと少女が驚いたようにあっと声を零す。
 咄嗟に身体を庇った少女の腕をレイブルの薙刀が斬りつける。刃は肉を貫き、少女の身体は容易く血を噴いた。
 ――なんて、事にはならない。
 レイブルの狙いは初めから黒衣だ。少女が欺き弄ぼうというのなら、レイブルもまた少女を躍らせ駆け引きをする。どちらが一枚上手か。軍配はレイブルにあがった。
 黒きローブを狙ったその攻撃の意図は分かりやすい。少女は初めて目を見開いて、細く短い悲鳴をあげた。
「残念ね。私、そこまで非情じゃないの」
 違和感の正体を探してた。
 少女の口から迸る悲鳴とは裏腹に、その双眸に揺らぎはない。まるで、湖面のように静かだ。
 距離を取らせるために吐き出された多量の蝙蝠を切り伏せ、レイブルは翻した刃を防御に割り振る。もう一刃を狙いはしたが、簡単にはいかないようだ。
「踊らされるのはどちらかしら」
 判断材料がまたひとつ。
 可能性があるのなら、最後まで足掻くと決めている。

成功 🔵​🔵​🔴​

シエル・ティリス
WIZ


今の話は本当なのかな?
でもこんな酷いことをする相手を放っておくことなんてできない!
だってここで倒せなかったらまた襲われる人が出ちゃうから!
……最善は尽くすけど救えなかったらごめんね

その身に神を降ろし、真の姿を解放
金色のオーラを身に纏う

見切りを使いつつ、敵を観察し、弱点や攻撃の予備動作がないか分析
攻撃にはなぎ払いを使用
要所で巫覡載霊の舞を使用
舞の解除は状況をみて判断

トドメは祈りを使いながら刺す
どうか救えますようにと
叶わぬならせめて苦しまずに逝けますようにと

どういう結末になっても私は受け入れなきゃね
それは私が選んだことなのだから
願わくば少しでも光ある未来でありますようにと……

アドリブ歓迎




 迷いはあった。
 けれど、数々の暴挙を前に、迷いは暈けた。
 もし本当なのだとしたら、救う方法が分からない今戦うべき相手ではない。
 それでも、シエルは選んだ。
「最善は尽すけど、救えなかったらごめんね」
 歩んできた道のりで、沢山の死体を見た。
 少女の足跡を追うごとに、沢山の亡者を見た。
 もう二度と、繰り返してはならない悲劇。目の前で死に、亡者となり弄ばれ、己が手で再びの死を与えた村人達の為にもここで終わらせなければならない。
 きらきらと金色の星が零れ落ち、シエルはその身に神を降ろす。組んだ指先は祈るように天に捧げられ、全身を聖なる力が駆け巡る。
「私はもう、失いたくないよ」
 眷属による黒い靄で身を隠した少女の駆ける音だけがシエルに届く。その足音は徐々に近づき、ぷつりと機に途切れた。
 ――来る!
 瞬間、鈍色の刃が金色のオーラに触れた。
「……私ね、あなたには救われてほしい」
 金色の軌跡を斬った少女の大鎌はシエルの肌に赤い線を付けた。丸く血の珠が浮き上がり、張力が限界を迎え地に墜ちる。
 刈った、と油断をした黒衣の少女に隙が生じた。奇襲を狙った一撃は大振りで、細い少女の身体はその鎌に振り回される。
「でも、あなたは違う」
 どうか、救えますように。
 そう願うのは少女に対してであって、惨い仕打ちをしてきた黒衣に対してではない。
 その一閃に迷いはなかった。振るった薙刀は少女の胸に食いこみ、確かな感触をシエルに返す。しかし、これで終わるとは到底思えない手応えだ。事実、少女は素早く身を翻す。
「逃がしません。そう、選んだのだから」
 どんな結末を迎えようとも、最後まで見届ける。どんな結末が訪れようとも、受け入れる。
 願わくば少しでも光ある未来でありますようにと願う心だけは胸に秘め、鬼ごっこの様に惑う少女を、シエルは決意を以て見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

麻生・大地
目の前の、外道行為を働いた者の言葉の真意はどうあれ、止めなければいけないことは事実です

【情報収集】【武器受け】【盾受け】【時間稼ぎ】【二回攻撃】

初動で、グラビティバインド起動準備
僕が採る行動は、出来る限りの情報を集めること
相手の足を止めること

高周波ブレードで足を止めずに斬り抜けながら戦います
ただし、攻撃は浅めに、手数は多めに
特にローブに対する斬撃の反応は注意深く見ておきます
情報は、ドローンで逐次仲間と共有しておきます

相手の攻撃をしのぎきれなくなったら、距離を取ってグラビティバインド起動、相手の足を止めます

「僕だけでどうこうしようとは思いません。頼みましたよ、皆さん…」




 彼の者が話した言葉は本当だろうか。
「いたい、いたいわ。どうして?」
 黒衣の少女は嘆いてみせる。一瞬、刃を振る手が止まった猟兵の腕を大地は掴んで引っ張り寄せた。
 そのすぐ後、猟兵が居た空間を少女の大鎌が過っていく。
「あら。あら? ざんねん、はずれちゃった」
 くすくす、笑う少女は平然と見下す。
「姑息な手を」
 大地は体内の動力機関を駆動させ、重力コンバータに熱を通す。愚鈍に回り始めた歯車は力場を展開させる動力を作り始めていた。
 極めて冷静に、大地は現状を俯瞰する。
 敵の眷属に紛れて放ったドローンは未だ健在だ。それが集めた情報が、例え些細なものでも猟兵達の判断を助ける一助となればいい。
 引いた手を離し、大地は駆ける。衣服の隙間を縫って伸ばされた内臓式のブレード『ゲブラー』を構え、軽やかに跳ねる少女を捉えた。
「つぎは、あなた? こわいわ。やめて」
「僕に偽言は無駄ですよ」
 怯えるように震えた声で紡がれた言葉は、大地の返答で途端に笑い声へと変わる。
 黒衣の少女とつかず離れずの攻防を繰り広げる大地は、ふとその違和感に気付いた。手数の多さが気付かせた。
 その少女は、頭や心臓、急所となる部分は積極的に差し出した。貫こうと思えば易々と貫けるだろう。そうと感じさせるほど、頻繁に無防備を晒す。
 しかし、他はどうだろう。
 大したダメージにも繋がらないであろう斬撃を、少女は身を捻って無理にでも躱した。
 違和感を確かなものとするには、大地に残された時間は少ない。人外の如く自由気ままに振るわれる大鎌は、確かに大地の四肢を刻みダメージを齎した。
「僕だけでどうこうしようとは思いません。頼みましたよ、皆さん……」
 ざくりと肩口を大鎌で抉られた大地が後方へと身体を落として距離を取る。同時に、準備が完了した重力コンバータを展開の短い一言と共に生み出した。
 大地の力場操作により素早い動きを封じる。少女の忌々しそうにねめつける視線をものともせず、大地はただ足止めに努めた。
 そして、訪れるは――。

成功 🔵​🔵​🔴​



 ――好機。
エンジ・カラカ
アァ……厄介だなァ、実に厄介だ。
うるさいのが終わったと思ったらサ…
ローブが本体なんて聞いてないなァ。

……遊び相手くらいならなってやろー
薬指の傷を噛み、拷問器具の辰砂に再び新鮮な血を分け与える。
今日は賢い君が良く働く日だなァ……。
このチビを殺す理由があればさっさと封じるケド復讐を命じられたわけじゃない。
…加減かー、難しいなァ。

一先ずは咎力封じで敵サンの攻撃を封じてみる。回避手段は見切り。
戦闘は援護重視で足の速さを生かして立ち回る。

賢い君、賢い君、加減は難しいか?
(アァ……チビは殺したくないなァ。)
誰かが殺せと命じてくれたら楽に殺れるンだけどなァ。


吹鳴管・五ツ音
戦場に楽しみなど在りはしません。
ただ、死と勝利へ進む道が在るのみ。
我らはただ、今を生きる者の未来のために歩むのみ。
(”右眼”を見開けば、質量さえ感じさせるほどの死の気配が瘴気を伴う風の如くに吹き付ける★)

ーーそこに生きる者があるのなら。我らはその誰かを護るためにこそ歩きましょう。

(突撃喇叭吹鳴)

敵将が黒布であると名乗るのならば、そのように。
小隊長殿、抜刀突撃にて肉薄し、少女の身動きを封じることに専心していただけますか。

小隊員各位は小隊長殿が敵将に肉薄する行動を火力支援にて援け、肉薄して以降は敵将たる黒布に火力を集中してください

では征きましょう
死を踏み越え、戦場を進み往きましょう
小隊、突撃、始メ



 黒衣の少女が悲鳴を上げた。
 それほどまでに存在感のある何かしらの気配を感じ、銀髪の髪を振り乱して少女は元凶を見やる。
 女がいた。
 渦巻く死の気配の中心に、行軍喇叭を抱えた女が立っていた。
 風が吹く。――いや、それは風というには重過ぎた。触れるもの全てを拒絶する瘴気が溢れ、周囲一帯を支配した。一陣の風が五ツ音の髪を攫ってはためかせる。
 その奥に、見開かれた双眸があった。
「――そこに生きるものがあるのなら。我らはその誰かを護るためにこそ歩きましょう」
 耳を劈くは喇叭の聲。
 それは誰だっただろうか。何処の戦場だっただろうか。安寧を奪う宝珠が呼び寄せたのは屍の兵隊だ。
 骨を軋ませ、既に腐敗した身体を引き摺り、小隊長と歩兵は進む。五ツ音の喇叭がそうさせる。
「小隊長殿」
 五ツ音が口を開けば、兵隊は止まる。戦場に響き渡る喇叭の合図を待っている。
 指示は至って簡潔に。明瞭に。五ツ音は淡々と指示を出す。
 一騎、飛び出す影。
 それは五ツ音が呼びだした兵隊とは違い、生ける者の足音。
(「うるさいのが終わったと思ったらサ……アァ、もう。厄介だなァ」)
 目的の少女を追い詰めて、静かにさせる。ただ淡々とそれが出来たらどれほど良かったことだろう。
 まさか、黒衣が本体だなんて。
「遊び相手、探してるンだろ」
 脅威を感じたか、五ツ音目掛けて駆け出した少女の前にエンジは割りこむ。刻まれた左手の薬指の傷に牙を立て、辰砂へと差し出した。
 ほうら、新鮮な血だ。
 辰砂はエンジの血を喰らい、いま一度脈動した。
「あなたが、あそんでくれるの?」
 少女は気を良くしたのか楽し気に声をあげる。エンジの躊躇いを察してか、吹き渡る死の気配に怯えた素振りは消えていた。無辜の少女という盾を振りかざし、黒衣の少女はエンジに詰め寄る。
「アァ……そうだなァ。賢い君。やれるか?」
 それは、少女をという意味ではない。加減を、少女を殺さない立ち回りをという意味だ。賢い君は沈黙している。
 胸中を吹き荒れる惑いは、エンジの足を鈍らせた。それでもなお速い立ち回りは少女を上回った。溢れ出る眷属がぴたりと止まる。
「やん。わたしの、ともだち。かえして?」
 拘束具を引き千切り、少女は暴れる。なお捉える辰砂は嫌な音を立て少女に食い込んだ。
(「……チビは殺したくないなァ」)
 宥めるようにエンジは辰砂を撫ぜる。エンジに応じたか、辰砂の気紛れか、少女の肉体をそれ以上傷付けるまでは至らなかった。
 迫る死の気配を感じ、エンジは振り返る。一個小隊が行軍を始め、その後ろに佇む赤毛の少女が知ってか知らずか微笑んでいた。
「では征きましょう」
 拘束を目的としたエンジに対し、黒衣の少女に縛りはない。徐々に崩れかけていた均衡が崩壊し、銀髪の少女は大鎌を振った。
 しかし、賢い君は最適解を導き出していた。解けたのは、何も少女の奮闘のお陰ではない。
 五ツ音が招じた小隊長が黒衣の少女に肉薄し、その動きを相対する事で相殺する。小隊員はその補佐だ。集る眷属を打ち落とし、肉薄ののちは黒衣を狙う。
 少女の意識が小隊長へと傾いた。――その、瞬間。
「――あっ」
 エンジの辰砂が再び少女を拘束する。より確実に、より複雑に。
「はなして……」
 弱弱しい声は少女のものだろうか。あるいは、黒衣がそうさせているのだろうか。
 勢いを弱めようと心に訴えかける企てだったのだろうが、五ツ音の眼差しはただ真っ直ぐ前を見た。エンジもまた、辰砂に血を分け与え活性化させる。
 黒衣が、刻まれる。傷ひとつない白艶の肌がその後に残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジロー・フォルスター
どうやら俺は相当諦めが悪いみたいだ

迷ったまま勝てる相手じゃない
なら、今できる事の中から確実な手を選択していこう
答えが無い中で少しでも真実に近づく

・行動
少女の血を手に入れたい
他の猟兵が得ていれば貰う、まだなら流させる

敵の眷属をリフレクションライトで相殺
光で目を眩ませた隙に近付く
ジャマダハルを先端につけた銀の鞭を血とロープワークで操り、敵の動きを見切って傷を負わせる

手に入れた血を吸血
味を確かめて、事実だけを仲間に伝えるぜ
医術、世界知識、情報収集も役に立つかもな

・生者の物か死者の物か
・人間の物か吸血鬼の物かその他の物か

半吸血鬼として普段は血液パックで凌ぐ身だが、敵の人間や吸血鬼の血の味は知っている




 ジローは眷属の間を縫って接敵する。多少牙が肉を破るが関係ない。今優先すべきものがある。
「どうやら、俺は相当諦めが悪いみたいでね」
 黒衣の少女がかたった言葉。
 語りが真実なのであれば、過去の因縁をぶつける相手はこの少女ではなく黒衣という事になる。
 しかし、騙りなのであれば、この少女は惑う猟兵達の姿を見てほくそ笑み、あわよくば隙を狙って命を刈り取ろうとしている事になる。
 いずれにせよ、ここで止めなければならない事だけは事実としてあるが、ひとつの命の命運を握っているのはジロー達だ。
「見縊っちゃいない。だからこそ、確実な手を選択させて貰う」
 先の猟兵の一人がつけた傷からは未だ血が流れている。ジローの接近に気付いた少女が口を開けると、悲鳴のような音が響き渡った。
 再び湧き出す蝙蝠の眷属を前に、ジローは手のひらを向けた。
「もう見飽きてんだよ」
 眷属は幾度となく現れる。その全てをジローは観察し、パターンを解析し、性能を理解していた。
 蝙蝠の軌道を全て算出し、ジローは光の鳩で相殺する。不規則に跳び回る蝙蝠を一匹残らず食いつぶせば、その光をカモフラージュに少女へ手を伸ばした。
 拘束具を振り払って少女が下がる。
 ――届かない。
 咄嗟にそう判断したジローは伸ばした手とは逆の手で銀の鞭を握りしめた。離れる距離を埋めるように、血とロープワークで操った鞭を少女へ投げつける。その先端にはジャマダハルが括りつけられていた。
 少女は苦悶に顔を顰める。
 引き寄せた武器の先端、赤く染まったジャマダハルの刃を指でなぞれば赤く染まる。迷いなく、その指先に舌で触れた。
 血を通じて情報が流れ込んでくる。敵対する人間や吸血鬼の血の味は元から知識としてあった。
 ジローは真実を手に掴む。
「――ああ、彼女は生きている」
 紛れもなく、人間の、少女だった。

成功 🔵​🔵​🔴​



 ――それが、どうかしたのか。
ニコラス・エスクード
――それがどうかしたのか。
復讐者の盾として、必ずの報復を呉れてやる。
我が刃に淀みなど、ありはしない。

その黒衣が根幹であるのなら、
ただソレごと断ち切るだけの話だろう。
何一つ変わりはしない。
踏み込み、件の少女へと相対するに変わりなく。

この悲痛に濡れた叫びが少女の嘆きであろうと。
この刃を振り下ろす身に血が通っていようと。
受け止めるに変わりはなく。

彼の嘆きを、彼女の悲痛を、人々の怨嗟を果たさねばならん。
この一身にて受けた彼らの嘆きの炎の痛みを、
其の身にくれてやろう。返してやろう。
鎧砕きで黒衣諸共、『報復の刃』にて。
「さぁ、報いを受けろ。」

その結果が如何なものであろうと。
受け止める。
それが俺の有り様だ。



 ニコラスの歩みに迷いはない。復讐者の盾として、数々の暴挙を犯した少女に復讐を呉れてやると決めている。
 彼の者の刃に淀みは存在しなかった。
 たとい少女が純真無辜の存在だとしても、少女が為した行いは消えやしない。
 村人を蹂躙し、あまつさえ亡者として蘇らせ、命をガラクタと同じように消費してみせた。
 根幹が黒衣であるのならば、その元凶ごと断ち切るだけだ。むしろ、断つべきものを自ら示したその黒衣に感謝せねばならない。報復した先が全く別物で、悪の根源が残るだなんていう状況が一番あってはならないのだ。
 ニコラスの足は惑いなく進む。
 肩で息する少女はニコラスを見上げ、そこに存在する気配に口元を歪ませた。
「あなた、ねえ。こわれちゃう」
「知らん」
 この歩みの先にどんな結末が待っていようと、ニコラスはそれすらも受け止める覚悟を持っていた。
 これが、ニコラスの在り方だ。
 短い悲鳴をあげた少女が大鎌を構える。震える刃は果たして、少女のものか黒衣のものか。
 どちらにせよ、ニコラスの選択は揺るぎない。
「俺は果たさねばならん」
 耳にした、数々の怨嗟。村の端から今に至るまでに受け止めて来た大量の嘆き。
 その全てを背に負って、ニコラスは剣を手に取った。
「さぁ、報いを受けろ」
 それは、悲鳴を上げて逃げる村人を守った際に負った傷。
 それは、立ち塞がる猛獣共に立ち向かった際に負った傷。
 それは、嘆きの亡者が振るった炎を収める際に負った傷。
 ――すべては、この元凶たる少女が齎した傷痕だ。
「いや、ああ、あああああ!!」
 黒衣の少女が目を見開き、唇からは悲鳴を迸らせた。黒衣が解け、少女の体が衝撃波の前に投げ出される。
 ニコラスの刃に迷いはなかった。ただ一直線に少女へと、報復の刃を差し向けた。少女を、黒衣を、報復の刃が一閃する。
 薄い唇から血が溢れる。白い肌を赤が彩り、地面に落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「やっと追いついた。まずは挨拶からかな?」

挨拶がわりに召喚したままの腐蝕竜さんを突撃させる。
隙が出来れば、僕が大鎌で攻撃出来れば良いかな。

腐蝕竜さんがやられた場合は【時喰らい】を使って攻撃して行く。
大鎌のリーチを活かしてあんまし近寄り過ぎないように立ち回る。
ヤバそうな時は【時喰らい】を使って無理矢理攻撃を躱す。腕一本くらいですめば御の字。

「君の血は要らないかな。」


アドリブ歓迎




「まずは、挨拶からかな?」
 大地を砕き、突き進む腐蝕竜が広場の石畳を踏み割った。勢いは止まらず、吐血した少女が顔をあげたその瞬間に腐蝕竜の尾が振るわれる。
「ガッ、」
 らしくない声が口から洩れ、少女は壁に叩きつけられた。血の跡をどっぷりと壁に擦りつけ、貧相な身体がずり落ちる。
「やっと追いついた」
 莉亜の手が届く距離。
 獣という、自らの手を汚さずに殺せるものを使い。
 亡者という、自らが前に出ずに動かせるものを使い。
 のらりくらりと猟兵達の前に立たずにいた少女が今、眼前で頽れている。
 動かぬ人形のようにぴくりともしない少女へと腐蝕竜が歩を進め、その咢で噛み砕かんと口を開いた。
 ――瞬間、少女の顔が跳ねあがる。
 手にした大鎌で腐蝕竜の喉笛を切り裂き、重さを感じさせぬ足で地を蹴れば腐蝕竜にトドメを刺した。
 元より亡者と獣に食われ燃やされ動いた身だ。ここまで保った事自体が褒められるべきことだろう。
「お疲れさま」
 ぼろぼろと身体が崩れていき、元の形を保てない腐蝕竜を莉亜が撫でる。
 術者として目を付けた少女が莉亜へと急接近して大鎌を振るった。莉亜の首を狙うそれは、喉笛を切り裂いて命を刈り取る。
 来たる未来の予想図を覆したのは、莉亜だった。
 2秒。
 それだけあれば十分だ。
「君の血は要らないかな」
 その声が届くのは、2秒先の事だけど。
 ぴたりと止まった刃の軌道から身体を退けて、莉亜は少女の行く先を予測する。
 捉えた、と確信した少女が止まった時間の先で大鎌を振り切り、驚愕と共に無防備を晒した。
「僕はこっちだよ。こんにちは、さようなら」
 戸惑いながらも再び攻勢へと移った少女を前に、莉亜は静かに言葉を投げる。
 繰り返す2秒。世界を支配する莉亜は、少女の隙を作りだして傷口を抉った。

大成功 🔵​🔵​🔵​



「まだ。まだ、あそぶの。わたし」
 壊れた人形のように、少女は語る。
尾守・夜野
言うことが真実だとて
助けても村人に殺されるだろう

別の村にだって受け入れ余裕なんてねぇ

それがなんだ?
今の俺には助けを選ぶ事ができる
見捨てるしか出来なかった無力なあの時とは違う!

まず手を狙って切りかかるぜ
鎌を手離させて 攻撃手段を減らさせる事が目的だ
【生命力吸収・吸血】しながら行くぜ

攻撃を受けたらその方向に自分から飛んで威力を抑えつつ受けた演技をし、Nagelで鎌持つ手を狙う【騙し討ち】

Nagelの弾丸に紐を結んで飛ばし、伝うようにブラッド・ガイストを伸ばし服を喰う

他の村人に被害出そうなら見切りつけて殲滅に移る

動ける範囲の負傷は狼のパーツとか、取り込んで誤魔化し動くぜ

助けられたら二人旅でも
…回復後



「もう、遊べねえよ」
 眷属を嗾け一旦引いた少女を追うは、尾守・夜野(群れる死鬼・f05352)だ。
 ふらふらと覚束ない足取りの少女を見据え、夜野はNagelの撃鉄を叩き起こした。
 全力で殺しにかかる猟兵もいる。戸惑いながらも救おうと努力する猟兵もいる。そのどちらも正しい選択だ。
 そんな中で、夜野が選ぶ選択肢はただひとつ。
 例え、黒衣の少女の言葉が真実だったとして、救われた少女が殺されずに済む未来が無いとは言い切れない。
 村人たちは確かにこの少女の眷属に食い殺され、未来をすり潰されたのだ。
 かといって、他の村に保護してもらうなんて言うのももっての他だ。ダークセイヴァーにそんな余裕のある村なんて存在しないに等しい。
 それなら、見捨てるのか?
 ――答えは否だ。
「見捨てるしか出来なかった、無力なあの時とは違う!」
 目の前で零れ落ちる命を見るのはもううんざりだ。
 Nagelの弾丸はぶれる事無く少女の手に吸い込まれる。黒衣が刻まれ、晒された真白の細い腕は狙い辛いが、夜野には些細な障害だ。
「っ、いたい。やめて!」
 貫いた弾丸は血の痕を引き地面に転がる。少女の腕を赤い血が伝った。もう随分と出血している。
 空薬莢を排出し、夜野は続けざまにNagelの弾丸を装填しては次なる狙いを定めて駆ける。
 少女の絶叫が耳に痛い。夜野は悲痛な慟哭に耳を傾けながらも、歯を食いしばって弾丸を撃ち込んだ。
 涙目の少女が真っ直ぐ夜野を見つめている。
 夜野もまた、乱れた黒衣の少女を見つめ返した。
 ――もしがあるなら、どうか二人で。
 ちらりと頭をよぎった考えは今胸に秘め、夜野はNagelの引き金を引く。猟兵達の血を吸い切り裂いた大鎌が、少女の手から滑り落ちた。

成功 🔵​🔵​🔴​



 それは、よくある不幸のものがたり。
リリヤ・ベル
ゆるせません。ゆるせない。
どうあっても、ここで逃がしはいたしません。

眷属を抑えながら、彼女までの道をつくりましょう。
直ぐ近くに寄れたなら、【人狼咆哮】を。
なるべくなら、周囲のひとを巻き込まないよう気をつけて。
風の後押しを受け、黒衣を引き剥がすように。

ほんとうでも、うそでも。
それは、よくある不幸です。
理不尽に道をふさがれるのは、よくあること。

……でも。
さいごまでなにも選ぶことができないのは、きっとかなしい。
起きたことと、わたくしのきもちと、あのこがじぶんをゆるすかは、別のおはなしです。
選び取れる道をひらけるなら、そのように。

おおかみでよかった。
この姿なら、顔も声も、わかりませんから。



銀色の大狼


ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)と一緒に行動】
そうだな、リリヤ。
ここで終わらせるぞ。

【真の姿を使います】
道を拓く事は、リリヤに任せる。
俺はそれまで【トリニティ・エンハンス】で風を呼び続けよう。
今の俺ができる最大の【属性攻撃】ができるように。

リリヤの咆哮が聞こえたら、一気に黒衣まで駆ける。
他の奴の功績で黒衣と少女のどちらが本体か分かっているなら本体を
分からないのであれば黒衣を、荒れ狂う暴風の剣撃で切り裂く。

……何が英雄だ。
結局救えない者だらけだ、あの頃から何も変わっちゃいない。

■真の姿
見た目は何も変わらない。
人の姿のまま、人外の力を得る。

※改変アドリブ歓迎、自由に動かしてくれ



 ゆるせません。
 そうだな、リリヤ。
 どうあっても、ここでのがしはいたしません。そうでしょう、ユーゴさま。
 ああ。ここで終わらせるぞ。
「ひげきのしゅうえんを」
「悲劇の終焉を」
 一歩、二歩、進んだ先で二人は一人と一匹に変わった。
 二足は四足に変わり、リリヤは低い視線で地を歩く。風が撫ぜる毛並みは黄金色を銀色に変えただけの穂波のように揺れ輝き、強靭でいて鋭い爪は容易く大地を抉り返した。
 るる、と喉が鳴る。真の姿を解放したリリヤは今、銀色の大狼と化していた。
 その隣を往くユーゴに然したる変化はない。しかし、彼もまた内から湧き水の様に噴き出す力を体の隅々にまで行き渡らせていた。人でありながら、そのうちに人成らざるものを飼う。常人に見えて非凡。それが、彼の真の姿だ。
「あなたたちも、いじめるの。わたしを、あたしを」
 風が渦巻く。ユーゴを台風の中心として魔力の奔流が生まれていた。
 周囲一帯の音が止む。全ての空気はユーゴに支配され、音を運ぶ振動すらも生み出さない。ただ唯一轟轟と逆巻く風だけがユーゴの周りにあった。
 大鎌を喪った黒衣の少女が二人へ向けて手を伸ばす。
「やめて……」
 嘆きの声はユーゴの風に呑みこまれ消えた。
 主を護るように飛び交う蝙蝠が自信の身を犠牲にして飛び込んでくる。ユーゴの風に入った途端に錐揉みに刻まれ解けていく。
 リリヤの眼前にもまた、眷属が蔓延っていた。それを爪で、牙で、咆哮で、かき消していく。
 少女へ向かって進む足は止まらない。音の無い世界でも、リリヤにとっては優しい風がその背中を押してくれる。
 震える少女を狼の双眸が捉えた。
 リリヤは想う。
 少女の言った言葉が本当だとしても、嘘だとしても、それはよくある物語だ。どこかの書架に埋もれた一冊の物語。
 理不尽に道を塞がれ、主人公は膝をつく。
(「でも、おはなしは、そこでおわってはいけないのです」)
 できるなら、ハッピーエンドが良い。誰だってそうだろう。最後まで何も選べないストーリーに、何の価値があるだろうか。
 一歩、一歩、踏み出すごとに、少女が為してきた数々の所業が頭を過る。村人を殺し、あまつさえ呼び起こし、玩具のように捨てた事実は変わらない。
(「わたくしの、えらぶさきは――」)
 最後の眷属を爪で引き裂き、リリヤは眼下に少女を捉える。
 抵抗とばかりに少女が息を吸い、刃となる悲鳴をあげた。
(「――ああ、おおかみでよかった」)
 リリヤは心底そう思う。
 大口の裂けた顔は、人の様に多様な表情を表に出すには不向きだ。
 唸り声しか鳴らさぬ喉は、リリヤの透き通るような声を奏でるには不向きだ。
 この姿でいられる限り、顔も声も、分からない。リリヤが抱く感情はリリヤだけのものだ。
 顔を仰け反らせ、リリヤは少女の悲鳴を潰して天高く吼える。響き渡る狼の咆哮は物量を以て周囲全てを無差別に傷付けた。
 黒衣の少女が逃げ切れずに、その身体に傷を増やす。少女だとしても、黒衣だとしても、その身体はもうボロボロだ。
「やめて。やめて……」
 縋る声は狼の耳にもよく届く。
 そして、迫る足音もよく届いた。
(「……何が、英雄だ」)
 噛みしめた歯がぎしりと鳴る。振り返る過去が胸を縛り、ユーゴは手にした剣の柄を握りしめた。
 他の猟兵から齎された情報は、迷いを断ち切るには不十分で。
 それでも、ユーゴは信じるべき――信じたい、道を選んだ。
 可能性がゼロパーセントでないのなら、ひとかけらでも救える可能性があるのなら、最後の一歩でその道を選ぶことの躊躇いは消えた。
 あの頃から、何も変わっちゃいない。手の届く範囲は限られていて、手の届かない所の嘆きは零れ落ちていくばかりだ。
 それでも性懲りもなく剣を手に取るのは――。
「ここで、――終わらせるッ!」
 宣言通り。リリヤに誓った通り。
 リリヤの咆哮で怯んだ少女へ――否、黒衣へ、ユーゴは暴風の剣戟を振るった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーゼ・レイトフレーズ
その子がしたのか君がしたのか
それは別にどうでもいいよ
私はただ、脅威を排除するだけだからさ

味方に危険な攻撃が及ばないように【援護射撃】をする
皆がその子を助けたいと言うならそれを手伝うだけだ

大鎌は【第六感】【見切り】で避けるか【武器受け】
眷属はSphere blazarの火の魔力で瞬間的に身体能力を強化して
【零距離射撃】と【2回攻撃】で蹴散らす
慟哭はヘッドホンでカバー
そもそも慟哭に怯むような感情は持ち合わせてないが

死なない傷なら厭わないから
確実に当てられる距離まで近づいて
【零距離攻撃、属性攻撃、全力魔法】のPerseusを叩き込む
救うにしろ、殺すにしろ
傷を負わす必要はあるだろうからね




 自身の身長の1.5倍はあろうかと言う対物ライフルを抱え、リーゼは眼前のやり取りを見据える。
「……ふうん」
 リーゼにとって、少女がやったことなのか、黒衣が少女にやらせたことなのかはさして重要ではなかった。
 どうでもいい。
 それがまず最初に出た感想だった。
 周りを見れば、言葉に惑わず殺気立つ者、傷を抱えながらも少女を救おうと手を尽くす者、様々だ。
 各々の信念や思想に基づき、黒衣の少女に立ち向かっていく。その姿は、どこか別世界の出来事の様にも見えた。
 淡々と襲い掛かる眷属を打ち落とし、振り下ろされる鎌の軌道を銃弾で逸らし、援護を続ける。
 今に至るまで、戦闘を見てきた。
 そして、猟兵達が選ぶ選択を見てきた。
 渦巻く風の魔法に紛れ、リーゼはSTARRY SKYの銃身を撫でて動き出す。引き摺るように、それでも地面に傷痕を残すことなくリーゼはライフルを担ぎ走り出す。
「救うとか、殺すとか、興味ないな」
 唯一、脅威を排除するという目的だけはある。
「だから、まあ。選択は任せるよ」
 風が霧散した。その瞬間にリーゼは懐に潜りこみ、ぼろぼろのローブを纏った少女を視界に収める。
 ゼロ距離。
 少女の細い身体に、STARRY SKYの銃口が叩き付けられた。腹を突くようにして叩き付けた対物ライフルはすでに赤熱している。
 込められた弾はリーゼ特製の精霊弾。長く、細く、援護をしながらこの時の為に込めた魔法。そこへ更に出せる全力を上乗せして、引き金を引いた。
「――……ひ、ァ!」
 まるで紙屑の様に少女の身体が宙に浮く。縋るように伸ばされた少女の手がリーゼの手に触れ爪痕を残したが、リーゼがSTARRY SKYを離すことはない。
 手の甲に走る赤い線。じわじわと走る痛みを無表情で見下ろし、リーゼは煙を吐くSTARRY SKYをもう一度撫ぜた。
 もしトドメが必要なら、迷わず再びこの引き金を引くだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​



「全く、容赦ないわね」
 女が呆れた調子で笑った。
「――それでも、まだ、可能性はある」
 男が掠れた声で言った。
四辻路・よつろ
クレム(f03413)の視線に気付き、肩を竦める
あなたの好きにしなさい、私はどちらでも構わないもの
私達の決断がどうであれ、正しい答えなんてものは存在しないわよ
――生きてりゃいつかは死ぬわ、それがたまたま今日だっただけの事
運が悪かったのよ

傷付けてはいけないだなんて面倒ね
私では確実にあの少女を殺しかねないでしょうし、援護に回るわ
蛇を呼んで少女の足を絡め取って転ばせ
そのまま身体全体に這わせて巻き付け、死なない程度に締め付けあげて動きを止める

クレム、後は任せたわ
その蛇ごと焼いていいわよ

とはいえ警戒は万が一、に備えて解かないでおくわ
蛇と同時に召喚した大鷲を空中で待機させ
何かあればそれで対処


クレム・クラウベル
視線は問う様によつろ(f01660)へ一瞥
嘘か或いは無駄だと分かれば躊躇しないが
可能性がある内は他猟兵にその気の者がいるなら合わせる
……ああ、心得てる
どうにもならないものなら、もう十分見た
終わりがどうであれ傷にはしないさ

しかしあまり身体を傷付けない様にとは面倒だ
極力身体を避け黒衣を狙い撃つ
動き先読みし距離を取り鎌の射程逃れつつ
黒衣のみを祈りの火で焼くか、ジャッジメント・クルセイドで撃ち抜く
支援は有り難く借り受け狙い撃とう

結末がどうなるとしても、オブリビオンは此処で祓う
絆され逃し、これ以上を食い荒らされる事などはあってはならない
終幕を。その意志だけは揺らがさず
過去へ還れ、……もう二度と目覚めるな



 一瞬交わした視線で、よつろはクレムの望む所を把握した。数秒の後に肩を竦めて靴先で地面を叩く。
「好きにしなさい。偶には年下らしく、我儘にしても許されるわ」
 ずるりと影から大蛇が現れ、鳴らした靴先に絡みつく。振りほどくまではしなかったが、さっさと退けないと踏み潰すわよと示すかのようにヒールを地に落とした。
 串刺しを避けた大蛇と、いつの間にか背後に控える従者がよつろの周囲に死臭を漂わせる。空には大鷲が旋回していた。
「生きてりゃいつかは死ぬわ。今が時でないと思うのなら、頑張りなさい」
 無関心を貫くよつろの隣、クレムは銀の十字架を指でなぞり瞑目する。
「感謝する」
 礼は最低限に済ませ、決意に満ちた双眸で地に伏す少女を見据えた。
 少女の身体はもう限界を迎えるだろう。そして件の黒衣も、所々に大穴が開き襤褸切れ状態だ。
 顔をあげた少女と目が合う。その瞳は感情を持たないが、口元が悔し気に引き結ばれていた。
「まだ。まだ。あそび、たりないわ」
「それなら、俺が遊んでやる」
 軽微に痙攣する手で、地面に転がっていた大鎌を掴めば少女は立ち上がる。緩慢な動きの後に、黒衣の少女は素早く地を蹴った。
 予測済みだ。
 クレムは迫る少女から離れるようにバックステップで後退する。懐には潜らせず、かといって深追いをすべきではないラインを見せずの距離を保った。
 決死の少女はもはや周囲の状況に頭が回らない。
 ――そう、足元に不自然な蛇が這っていようと。
 跳ねるように蛇の頭が擡げる。ぐるりと少女の細い足を、その数倍はあろうかという体躯で巻き取り動きを抑えた。
 派手に転びはしなかったが、突如推進力を奪われ少女は前へつんのめる。鎌の先端が地面に突き刺さった。
「いいこね」
「いや、もういや。いまは、もう、いいの!」
 よつろの指示通りに動いた蛇は、褒めの言を貰って意気揚々と少女を締め上げる。死なぬ程度に、緩やかに。逃さぬ程度に、きつく。
 助けを求めた少女の嘆きは、残り僅かな眷属を呼んだ。蛇と術者たるよつろを狙ってそれぞれに散開する。キィキィと鳴く声が耳に煩い。
 少女を救わんが為に滑空した蝙蝠たちは、狙いに辿り着く前に捕食者に捕らわれた。よつろは変わらず無感情に捕食現場を眺めている。
「あら、もういなくなってしまったわね」
 まるで他人事のようによつろは言う。あまりの抑揚のなさに、少女の方が悲鳴を上げた。逃げようともがくその姿の上に、男の影が重なる。
「なんだ、遊び足りないのだろう?」
 歩み寄るクレムは指先を蛇の尾へ触れさせた。
「クレム、後は任せたわ」
「――終幕りだ。」
 小さな火が、蛇の身体を伝って少女の周りを照らした。
 それは確かに微かで、今にも風で消えてしまいそうな小さな火だ。
 しかし、どんな風に煽られようとも、決して消える事の無い火だった。
 クレムの祈り。どうかと口にしたその声が、火の根源。
 突如として膨らんだ火は焔となり、少女の身体を包み込む。
「いや、あ、いやあああああアアアア!!!!!」
 悲痛な叫び声が上がる。燃え盛る炎の中に、暴れ狂う少女の姿が浮かび上がった。
 頭を、咽喉を、腕を、足を、全身を掻き毟るように少女が暴れる。黒い襤褸衣が引っかかった手を、炎の中からクレムへ伸ばす。
「過去へ還れ。その祈りは餞別だ」
 弾けた火の粉が手にかかった黒衣を燃やし、塵へと帰した。
 手を掴む。細く白い少女の手首をクレムが取る。
「もう二度と、目覚めるな」
 引き寄せた少女の身体から黒衣が剥がれた。勢いを増した祈りの火が、少女を残して黒衣を焼く。
 くたりと寄りかかる少女はまだ温かく、澄ませば鼓動の音がした。


「……、」
 少女を地面に横たえ、猟兵達は様子を見る。諸悪の根源たる黒衣が剥がれたのであれば、この少女はただの人間という事になる。
 癒しの力を持つ者達で最低限の癒しを施し、ひとまず命を落とす事のないように傷を塞いだ。
「きっと、大丈夫っす」
 モルツクルスが持ち前の明るさで笑う。黒衣を剥がせば少女は助かると、数々の報告書で知っていた。
 白黒を撫でながらレイブルも少女の様子を窺う。最後のその時まで、目を逸らさないのは自身に課した責任の為。
「どうか、起きて……」
 祈りの言葉を口にするシエルは少女の手に触れた。温かなこの手が冷たくならないように、最善は尽した。
 結末を委ねた大地は、眼前に横たわる結果がどう進むかを静かに見守る。出来る限り情報を集め、多々に提供してきた。それが救う手の助けとなったのも確かなのだ。
(「賢い君、賢い君」)
 加減を心得た自らの得物を労いながら、エンジは少し離れた位置で少女を見た。血のない拷問具は沈黙している。
 今を生きる者の為、選んだ道に後悔はない。敵将を討った今、五ツ音は終焉に向かう戦場で一人立っていた。
「頼むぜ、嬢ちゃん」
 起きてくれ、とジローの言葉に懇願の色が混じるのも致し方ない事。罪のない少女が命を落とす世界はあってはならないのだから。
 血に濡れた壁に背を預け、ニコラスは横たわる少女の身体を見下ろす。少女が再び刃を向けるようであれば、刻む覚悟を胸に秘めたまま。
 その隣で、莉亜は静かに展開を見据えていた。じっと見つめる眼差しは、未だ感情を映さずに凪いでいる。
「まさか終わり、なんてことはないよな?」
 長きにわたり目を覚まさぬ少女の傍で、落ち着きなく夜野が零す。握りしめた手は震えていた。
「後は、この子次第だ」
「はい」
 ぺたりと地面に座るリリヤと、その横で控えるユーゴの二人は抱く気持ちのやり場を探しながら、それでも少女の無事を願う。
 とん、とん、とライフルの銃身を撫でながら、リーゼは集う猟兵達を眺めていた。と、と止まった瞬間、どうやら再び振るう必要はなさそうだと察する。
「あ……」
 ゆっくりと開いていく瞳を見つめ、クレムは目元を緩ませた。
 煙草の煙を燻らせたよつろが一言クレムに声をかけ踵を返す。感動のシーンに自分は似合わない。
 ゆっくりと身体を起こす少女を前に、猟兵達はほっと胸を撫でおろした。暴れるような事もなく、少女は困惑した眼差しで猟兵を見る。
「おはよう。悪夢は、終わったぞ」
 ――祈りは、通じたのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト