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エンパイアウォー㊴~侍

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #オブリビオン・フォーミュラ #織田信長 #魔軍転生

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 戦乱の火が燃えている。
 ただそれは風前の灯火にも見えた。
 魔空安土城は既に地に墜ち、信長軍は幕府軍に押さえ込まれていると云っていい。魔軍将は次々に斃れ、この戦の終焉も遠くはないのかもしれない。
「ただ、まだ儂が残っている」
 広間の板を踏みしめて、織田信長は呟いた。
 この第六天魔王がまだここに存在すること。それこそが最後にして最大の可能性だと知っている。
 そして秘術さえ使えば、自分はただの一人でも無いのだ。
「のう、サル」
 最後まで付き合うてくれるか。
 まるで背後霊のように背に浮かんだその存在は、フェン、と一つ声を聞かせた。
 それで十分。
「──征くぞ。この織田信長、決して勝利を諦めては居らぬ」

「皆様の尽力によって、オブリビオン・フォーミュラ「織田信長」との戦いが可能になりました」
 千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は集まった猟兵達へと語りかけていた。
 戦乱が続いてより暫く。ついに魔空安土城を地に落とすに至った。信長軍の本隊も、今は幕府軍が相手をしてくれている。
「こちらは万全の状態をもって、突入が可能です」
 皆様の手で、織田信長との決着を、とレオンは言った。

「魔空安土城において戦うのは織田信長一人となります」
 加勢する敵の軍勢も無いので、信長単騎の討伐に集中できる状態と言える。
「ただ、織田信長は「魔軍転生」なる秘術によって、配下の魔軍将を背後霊のように「憑装」させる事ができるようです」
 能力もその力を借りたものに近くなり、その一つ一つが強力だと言った。
 信長が憑装させているのは豊臣秀吉だ。
「中でも力に特化した能力が、黒槍殲撃です」
 秀吉を融合させた鋼鎧から無数の黒槍を放つ能力だ。純粋に威力が高いばかりではなく、かなりの広範囲を覆う攻撃だ。威力とそのリーチに警戒しておく必要があるだろう。
「それから、速度に特化した能力が黒粘剣戟術です」
 これは秀吉の黒粘液によって摩擦抵抗をなくすことで、超高速の移動を駆使することを可能にする能力だ。
 こちらに纏わせることで行動の自由を奪っても来るので、対象をよく見定めることが肝要となるだろう。
「戦略的な攻撃といえるのがシャドウクローニングでしょう」
 小型の豊臣秀吉を喚び出し、その多数で攻防を行う。囮や挟撃など、様々な策を利用すると思われるので、警戒が必要だと言った。
「元より、単純な戦闘力も強力なものです」
 オブリビオンと言えど、命を賭して戦ってくる覚悟を持った相手。こちらも全霊を以てあたるといいでしょう、と言った。
「この戦いの趨勢が、この世界の行末を左右することになるでしょう」
 より良い未来にたどり着くために。
 参りましょう、とレオンはグリモアを輝かせる。


崎田航輝
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。

●現場状況
 魔空安土城内。
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第1章 ボス戦 『第六天魔王『織田信長』秀吉装』

POW   :    黒槍殲撃
【秀吉を融合させた鋼鎧から無数の黒槍】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    黒粘剣戟術
【秀吉の黒粘液で全身から刀まで全てを覆い】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
WIZ   :    シャドウクローニング
レベル×5体の、小型の戦闘用【豊臣秀吉(フェンフェンだけで意思疎通可)】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:UMEn人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

篝・倫太郎
【華禱】

先制攻撃は夜彦とタイミング合わせて対応
見切りと残像で躱す
無論、それだけで対処し切れるとは思っちゃいねぇ
槍は拘束術で叩き落とし狙い
落とせないまでも射線を逸らして致命傷を避けるくらいは出来るだろ
それでも間に合わねぇならオーラ防御で防ぎつつ華焔刀で受け流し

受け流し直後に夜彦とタイミング合わせてカウンター
合図もアイコンタクトも不要
そんなもんなくても夜彦の動きは判る
間合い、呼吸、タイミング
確認しねぇでも合わせられる

華焔刀でのなぎ払い
刃先返しての2回攻撃
同時に拘束術で攻撃
攻撃には総て衝撃波と鎧無視攻撃を乗せてく

いつだって、俺と夜彦はそうしてきたし
多分、これからもそうしていく

確実の一撃は夜彦に任せる


月舘・夜彦
【華禱】

倫太郎殿と連携して先制攻撃に対応
相手の攻撃に合わせて抜刀術『陣風』
視力・見切りにて攻撃を見極め
躱せるものは残像にて躱し、困難なものは武器受けにて流す
全てを受け流せなくても致命的なものさえ受けなければ良い
痛みは激痛耐性にて耐え、攻撃を凌ぎ切る
隣に並ぶ彼を案ずる暇は無いとは思いますが
彼ならば、同じく耐え切るでしょう

攻撃を受け流した後、倫太郎殿と合わせてカウンターによる斬り返し
共に何度も戦ってきた彼とならば、言葉も目配せも不要
只、合わせるは呼吸のみ

早業にて防ぐ間もなく、鎧すらも通し砕く一閃
好機と見た時、その一撃を彼は必ず私に譲る
そう……如何なる相手であろうとも私達の戦い方は変わらない



 軋む床板の上を奔ると、薄暗い空間に行灯があるのが見えてきた。
 一帯は静謐であるのにも拘わらず、そこからだけは風にも似たものが吹き付けて、若草色と深い夜色の髪を靡かせる。
 それはきっと、未だ姿も見えぬ敵が漂わす気配。
 存在するという事実だけで寄るものを慄かせる威厳。
 その先にいるのが確かに、戦乱の世で最強を名乗って憚らぬ魔王だと判るものだった。
「なぁ、夜彦」
 故に篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、戦いを前に隣に視線を送る。
「はい」
 と、声を返す月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)も翠の瞳を向けた。
 沢山の言葉を交わすことはしない。
 言いたい言葉は幾らでもあった。けれどその全てを伝える暇すら今はないから。
 戦いが始まれば尚の事、互いの身を案じる事すら容易にできなくなるだろう。
 ここは既に猶予も自由もありはしない、死地。
 けれど二人には、信頼があった。
「行くぜ」
「ええ」
 だから、多くの言葉を短いやりとりにだけ凝縮して。
 一度だけ視線を合わせてから、後は同じ速度で前へ。その存在が座する広間へと止まらず踏み込んでいった。
「来たか、猟兵よ」
 空間の中央に立つのは、堂々、仁王立ちに迎える武将。
 第六天魔王『織田信長』。
 憑装の存在──豊臣秀吉だけを傍らに置き、軍も側近もなく、ただ己自身を最後の牙城とする一人の男。
「討ちに来たぜ」
 総毛立つ程の戦意を見せる敵に、倫太郎はそれでも怯まずに。巫術の力を手元に収束させながら軽く声を投げてみせる。
 だがそれに対する答えとして、信長は鋼鎧に秀吉を融合。濃密な黒靄を揺蕩わせその表面を鳴動させ始めていた。
 瞬間、靄が形を取るように槍へと変貌。二人の全身を穿つほどの本数が打ち出されてくる。
 一撃一撃が苛烈な、衝撃の雨。
 ほんの一呼吸を置く猶予すら無い鋼の嵐。
 だが、先制攻撃が来るのは元より判っていたこと。
 倫太郎は速度を落とさぬまま浅く跳躍。槍の殆どを残像に受け止めさせ、自身は身体を捻りながら回避に力を注いでいた。
 ここまでほんの一瞬の挙動、だけに倫太郎は隣の姿を窺う事すら出来ないが──それでも彼の動きは判る。
 倫太郎が期待する通りに、夜彦もまた迫りくる槍に惑わなかった。
「──」
 弾丸の如き速度で飛来するそれを一瞬だけ見据え、動線を観察。
 自身の胸部、腹部、腕が的になっていると見て取れば──神速の抜刀。美しき銀の刃を逆袈裟に奔らせて数本の槍を弾いてみせる。
 抜刀術『陣風』。
 その速度は槍が宙を奔る速度をも凌ぎ、同一平面上に迫る矛先を返す刀の連撃で打ち落としていた。
 同時に体を僅かにずらすことで、剣先が及ばぬ槍までもを避けている。
 とは言え、無数の矛の全てを避けきるのは困難。弾いた槍とは微かにだけ軌道の違う一本が迫っていた。
 躱せない。だが、致命にさえならなければいいと夜彦は怜悧なまでの判断をしている。手を添えた刃の腹で薙ぐように、火花を上げながらその弾道を体の中心から逸らして──脇腹を貫かせた。
 激痛が奔るが、それに耐えさえすれば動作に不便はない。
 ならば、受けきったも同然。隣を確認することは出来ないが──。
 ──倫太郎殿ならば、耐え切るでしょう。
 その心が不安に淀むことはなかった。
 事実、倫太郎も術力を形にして、災いを縛る鎖を具現。回避できなかった槍も叩き落として対処してみせている。
(全部は落とせねぇか。だが)
 文字通りの拘束術を駆使するように、残る槍の角度をずらした。大腿を穿ったそれは鮮血を零させるが、この程度の傷なら寧ろ儲けものだ。
 しかと両足で立った倫太郎は同じく、隣への信頼があった。
 ──夜彦ならしっかり、耐えてるだろ。
 そして思いが重なった時、二人は全く同時に弾かれるように疾駆。信長へ距離を詰めて反撃の歩を踏み出している。
「……!」
 信長が微かに目を見開いたのも、さもあろう。二人は言葉を交わすでもなく、ぴたりと呼吸を合わせて挟撃を仕掛けていたのだから。
 その疑問に答えてみせるよう、倫太郎は華焔刀に鮮やかな弧線を描かせて斬撃。刃先を返しての連撃を叩き込み、夜彦の横一閃の剣撃に繋げている。
 合図、目配せ、言葉。
(そんなもんなくても夜彦の動きは判るんだよ)
 間合いも、呼吸も、タイミングも。
 わざわざ確認せずとも合わせられる。それが経験であり、信頼であり、体で触れ合わずとも背を預けるという感覚なのだ。
「──ええ」
 夜彦もその心の声に返事をしてみせるように。倫太郎が信長の腕を鎖で押さえた一瞬、流れるが如き剣舞を見舞っていった。
 何度も共に戦ってきた倫太郎とならば、このくらいは造作もない。全て、記憶と経験が裏打ちしてくれる。
 交わした沢山の言葉。
 戦いの癖や、一緒に歩んだ道のり。
 その笑顔も声も、共に善戦した事も苦戦した思いも、全てが今を支えているのだ。
 間断のない刃の応酬に、信長も微かに称賛の色を示す。
「見事也。いつの世も、恐れるべきは人の絆か」
 声音の感情は隠さない。
 だがそれ故に、反抗の心がありありと生まれるのもまた見て取れた。
 信長は攻撃を受けながらも再度秀吉の力を借り、至近から槍を放射。二人を退けようと目論む。
 まるで自分達の連携を以て、倫太郎と夜彦の間を崩しにかかるように。
 その結びつきがいつまで続くのかと、試してみせるように。
「簡単に途切れやしないさ」
 だが呟く倫太郎はゼロ距離にあって戸惑わない。
 二度目ならば見切るのも難しくはなく──撓らせた鎖で槍を巻き付け、纏めてその攻撃を明後日の方向に逸らしていた。
 それは勿論、夜彦に最大の好機を作ってみせる形で。
 二人で来たのなら、共に戦い二人で帰る。そのつもりで来ているから、その心で戦っているから──簡単に切れる絆じゃない。
「いつだって、俺と夜彦はそうしてきたし──多分、これからもそうしていく」
「そう……如何なる相手であろうとも私達の戦い方は変わらない」
 夜彦は風のように疾く、そして静かに信長の真正面を取っていた。
 動きに一切の歪みはない。最も重要な一撃を、倫太郎が自身に譲ると知っていたから。
 同時、倫太郎は信長の足元だけを拘束し、自身は剣閃の邪魔にならぬようにと跳んでいた。
 ──夜彦の渾身の一撃は、痛烈だぜ?
 そう言ってみせるように。
 刹那、夜彦は裂帛の力を籠めて一刀。
 早業にて防ぐ間もなく、鎧すらも通し砕く一閃──その剣撃が確かに傷を刻みつけ、信長に血を流させた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

茅原・紫九
死人を纏って何になんだよ、ゆっくり眠らせてやりゃあいいと思うんだがな。

数には数をぶつけんだよ!作戦で大量の魔弾を出して応戦だ。基本的には右翼に多く攻撃を集中させて回り込むように信長に近づければベスト。
普段なら初動は威力が気になるとこだが今回に限っちゃ一撃消滅で気にしなくていい、数で負けてるのを補うには速攻一点突破か時間かけて陣が手薄になるのを待つか、戦場全体を見て臨機応変に駒を進める。

信長に接近したら全身全霊、剣の一振り……に見せかけ畳に潜航させておいた魔弾1本に全てを託す!階下や床中には秀吉も潜めねえから威力減衰なしのフルパワーアタックだ

誰が正面から戦うか!徹底的に小手先の策に頼るぞ俺は!



「もうそろそろ、か」
 回廊を駆け抜け、階層を上がっていくほどに空に近づいていく気がする。 
 一歩一歩、敵の気配が迫るのを感じながら茅原・紫九(風に流され来たる紫煙・f04064)は奔っていた。
 他の敵は居らずとも、空気は一貫して張り詰めている。だが紫九の呼吸に乱れはなかった。 
 いつも通りに無造作な髪とフードを棚引かせ、心境に変わりはない。
 たどり着いた先が戦場なら、そこで戦うのみ。流れるままに行き着く先が死地だというなら、そこで全力を出すだけだ。
 緊張はなく、さりとて油断も介在させず。
 広間に飛び込むと、そこに立つ第六天魔王──織田信長の姿を視界に捉えていた。
「居たか、敵将」
 呟きながら、紫九は素早く魔法剣を握りしめて魔力を通わせている。
 だが信長も疾い。こちらを確認すると同時に憑装の霊体──豊臣秀吉と共鳴し、召喚の魔法紋を宙に出現させていた。
 フェン、と一つ声を上げた秀吉はそれきり姿を薄めて信長と同化していく。
 紫九は刃を魔力に輝かせながらも、その姿を短い時間見つめていた。
「魔軍転生、っつったか。死人を纏って何になんだよ」
 淡い光と共に周囲に現れるのは小さくなった無数の秀吉の霊体の姿だ。その数、一見するだけでも百は下るまい。
 最期の戦いのために発揮された力。視線を巡らせてから紫九は信長を見返した。
「──ゆっくり眠らせてやりゃあいいと思うんだがな」
「かも知れぬな」
 信長は衒わずに応える。
「この戦いが儂の負けで終わるのなら、サルも儂と共に、幾度と死ぬばかりだろう。だが儂は勝利を捨てているわけではない」
 ならば呼びかけに応えてくれたサルの力を発揮させずにどうする、と。
 信長は小型秀吉の軍を紫九に収集させた。
「気合十分ってわけだ」
 紫九は言いながら僅かに瞳を細める。
(実際、囲まれたらただじゃすまねぇな)
 だが、こちらも無策で臨んだわけではない。紫九は膨大な光量を帯びた刃から、振り抜くように魔弾の群れを放っていた。
「──数には数をぶつけんだよ!」
 “錆びついたドアノブが回った日”──それは眩く煌めき、拡散する魔力の塊。
 百八十を数える弾は一つ一つが独立した軌道を描き、小型秀吉を貫いていく。
 普段ならば初撃は威力を重視する必要もあったろう。だがこの秀吉の軍は、一体が確実に一撃で消滅するという最大の弱点を持っている。それを見逃さぬ紫九には、自身の至近に迫る敵を退けることは決して不可能ではなかった。
 一度に殲滅を狙わず、右翼に攻撃を集中させる形で道を切り拓き、回り込むように信長に接近してもいる。
「この数に圧倒されぬか」
 信長が褒めてみせるように言いながら、紫九へと個体数を集中させて来ても──紫九は焦らず静止しその場で撃退。眼前の数を減らすことだけに集中して凌ぎきった。
 そうして敵への動線が繋がれば──床を蹴って加速し、一息に肉迫する。
「圧倒されりゃ終わりだからな。そうしないようにするだけだ!」
 輝かせた刃を振り上げる紫九。
 その戦意と動きを見て、信長は無論斬撃を警戒。小型秀吉数体に受け止めさせるよう、防御を厚くしてきた。
 けれど。
「──誰が正面から戦うか!」
 紫九が言うのと同時、全く明後日の方向から魔弾が飛来する。
 それは交戦中に予め畳に先行させていた一弾。
 剣ではなく、その一撃に全てを託す。
「徹底的に小手先の策に頼るぞ俺は!」
 それで勝てるというのなら、何の問題もないのだから。
 何よりこれは、紛うことなき戦で在るが故に。
 慈悲も容赦もなく。威力の減衰のないフルパワーを籠めたその魔弾が、信長の背を深々と穿っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鞍馬・景正
貴公の夢は夙に本能寺にて潰えた筈。
あくまで布武の完遂を望まれるならば、治国平天下の剣でお鎮め致す。

◆対POW
十分な間合を取りつつ、千成瓢箪が如き槍襖を【視力】を凝らして注視。

放たれた槍の速度と勢いを【見切り】、【第六感】にも従いながら回避専念。

躱し損ねても刀と甲冑による【武器受け】で、致命傷のみは外し、【早業】で穂先や柄を足場に駆け上り、そのまま公の頭上目掛けて跳躍。

甲冑に覆われず、かつ自身を傷付けぬ角度――即ち公の直上は槍の死角になると推測。

博打になるが、挑まぬ選択肢は無い。

◆反撃
槍襖を逃れる事が出来れば、後は全身全霊の【怪力】を込めた【太阿の剣】による【鎧砕き】で、信長公ごと断たせて頂く。



 嵐の前の静けさ。
 迅風を前にした凪。
 足音すら大きく反響して耳朶を打つ、そんなしじまに広間は包まれていた。
 豪雨の雲間のように、戦いの中でも静謐は訪れる。
 激しい剣戟が続く中にあって、鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)が戦場に入ったのはその静かな一瞬だった。
 開いた襖の向こう、見えるのは佇む一人の武将。
 第六天魔王『織田信長』。
 佩いた刀の柄を握る景正の姿を見て、ほうと片眉を動かしている。
「練達の侍と見える。儂を、斬りに来たか」
「如何にも」
 未だ互いの距離も遠い中、魔王の視線と澄明な藍の瞳が見合った。
 信長の眼は、まるで物理的な圧力を持つほどの眼力を有している。或いはそれは死してなるものかという意志の強さであるのかも知れなかった。
 けれど、景正は気圧されぬ。
 涼やかなおもてと裏腹に、景正とて文字通りの剣鬼で在るが故に。一歩だけ踏み寄り真っ直ぐに声を向けていた。
「貴公の夢は夙に本能寺にて潰えた筈」
 命を喪い、現世の存在ではなくなっても未だ剣を振るうのかと問うてみせるように。
 信長は戦意を消さぬことでその答えとしてみせた。
「炎は、全てを消し去りはしないものだ。好機の心も、若き野心も、戦う理由も」
「あくまで布武の完遂を望むと申されるか」
 景正には、第六天魔王を名乗るその存在の心が、全く判らないわけではない。
 武家の嫡男であればこそ、嘗て覇道を目指す者がいたということは身に実感している。
 信長にとっては、未だ道半ばということなのだろう。
 だがそれが世界を手にかけることになるというのなら。
「──治国平天下の剣でお鎮め致す」
 すらりと抜き放つ濤景一文字に、優美にして絢爛な濤乱刃を煌めかせた。
 無論、信長は退きはせずに爛々と殺意を湛えてみせる。
「面白い、ならば斬ってみせるが良い」
 できるものならば、と。 
 刹那、背後に抱く秀吉と融合。無数の矛先を突き出してきた。
 その槍襖、千成瓢箪が如く。途切れ目も見えぬほどの数によって景正の全身を貫かんとしてくる。
 けれど十分な間合いと予見、そして実力があればこそ、初見でも対処は不可能ではない。
 その刃が腹を穿とうとした一瞬、景正は脚に力を込め横へ。第六感にも従うよう、速度を重視し回避に重きを置いた。
 僅かに遅れて、小袖袴の端が槍に貫かれる。
 肉体に傷はない──だが安堵は出来ない。微かな時間差を置いて、次々に放たれる槍先が追い縋ってきていたのだ。
 だがそれも承知の上。
 景正は甲冑にその一端を突き刺させ防御。自身の首へと伸びてくる槍は、刀を唸らせて両断してみせた。
 それでも脚先や手先を数本が掠めるが、浅い血煙が散るだけなら行動に支障はない。
(──今!)
 機を見るとそのまま床を蹴り、穂先を足場にして宙へ駆け上がっていた。
 隙間の無いほどの槍だというなら、それが敵への道になる。景正は力を籠めて柄から跳躍すると、ゆるく廻転しながら一気に距離を詰めていた。
 その速度疾風の如く。
 狙うは甲冑に覆われておらず、且つ信長自身を傷付けぬために槍の密度が薄くなっている角度──即ち直上。
 脳天を見下ろす形で、景正は丁度刀を掲げる体勢をとっていた。
 博打ではあったが、元より挑まぬ選択肢はなかった。
 その勝負には、勝ったと言っていい。
「斬ってみせろと申されましたね。私の全身全霊の一刀を、見舞わせて頂く所存です」 
 怪力を籠めて刀を握りしめ、狙いを違わず定める。
 陽炎の如き戦気を揺らめかせるそれは、魔の力というよりも剣技の粋を極めた業。
 ──太阿の剣(アルイハウンヨウノタチ)。
 その瞬間、確かに景正は剣鬼だった。
 繰り出す斬打は時空断層すら発生させる程の鋭さ。振り抜いたその一刀で膚を破り、鎧に消えぬ亀裂を刻み、信長自身の体も大きく吹っ飛ばしていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
可愛らしい秀吉公をお連れのようだね
数が物を言いそうな技だというのなら…まずはそれを、蹴散らさねばね
小型の秀吉公へ向けて白紙から華断を展開
信長公は狙わなくていい。彼の相手は私ではない
「私」は非戦闘要員なんだ
君の道を拓くのが、役目なんだ
君を邪魔する猿殿を、花と共に散らそう

対峙するのは「僕」です
花が残っている間に鋒で血を得て、拷問具を顕現
エンパイアの武将は腹を切るものなのでしょう?
介錯が必要でしょうから…その役目、僕が請け負いましょう
刀の扱いに慣れているわけではないので、使う刃はギロチンのものですけど
首を落としても、構いませんね?
…そのつもりで挑まなければ、貴方に傷を負わせることはできそうにないので



 こつり、こつり。
 リズムの崩れぬ靴音で、城内奥部へ静々と歩み入る麗しき男が一人。
 鮮やかな程の朱の髪に、行灯の火をぼんやりと美しく反射させ。小さく揺らがせるのは不可思議な空気を湛えたぬいぐるみのストラップ。
 柔らかな表情は目を惹く程だけれど、その内奥に何か凄絶なものも潜ませる──エンティ・シェア(欠片・f00526)。
 広間を眺めてなるほどと一つ声を零していた。
 動乱の戦において、あらゆる地方で争いを巻き起こしてきたその最後の戦いが、静謐に満ちたたった一つの部屋で行われるなど──。
「どこか不思議な気分だね」
「戦いの結末は、望む通りに行かぬのが常よ。儂とて、ここを終の戦場にするつもりは無かったのだからな」
 否、と。
 そこに立つ男、第六天魔王織田信長は言ってから首を振った。
 今もなお、ここで終わるつもりはないのだと。
「ここは始まりの戦場だ。それを可能にする力を、儂は既に得ている」
 それを示すようにちらりと見やるのが、憑装させた背後の霊魂の姿だ。
 おや、と。エンティは顎にそっと指先で触れる。
「可愛らしい秀吉公をお連れのようだね」
「その力は、並ではないぞ」
 それを見せてやるとしよう、と。
 あくまで勝利を貪欲に求める表情で、信長は秀吉の姿を風に揺らがせた。
 瞬間、大きな魔法紋が虚空に瞬いて全方位に向く。秀吉の姿が溶け込んで消えゆくと同時──その紋から小さな秀吉の大軍が現出していた。
「ふむ」
 エンティは、自身を包囲せんとするその群を見回している。
「数が物を言う技のようだ。ならば」
 ──まずはそれを、蹴散らさねばね。
 呟くその表情には焦りの色はない。ただ遣るべきことを見据えるように、その手はしらかみの本に触れていた。
 頁の一枚をそっと破ると、指で挟んだそれが瞬間、無数の花びらに変じて宙を舞う。
 華断(タチバナ)。
 踊る橘の花弁は淡くも美しく。木漏れ日の如き光を湛えて吹き荒び、秀吉の群を消滅させていく。
 狙いは数を減らすことだけ。信長は狙わなくていい。
(彼の相手は私ではないからね)
 あくまで「私」は非戦闘要員。
「だから君の道を拓くとしよう」
 その邪魔をする猿殿は、花と共に蹴散らしてみせよう、と。
 ときに薙ぐように、ときに叩き伏せるように。花嵐を吹き抜けさせて、道を塞ぐ敵の群れを払っていった。
 そうして信長と対峙するに至れば──エンティの表情を、その動作を、形作るのは既に「私」ではない。
 黒熊のぬいぐるみに触れることで、奥部で回転扉のように入れ替わった「僕」。
 奔って接近するその姿に、信長は微かな驚きを見せていた。
「先刻までの主とは、別物か」
「さてどうでしょう」
 言ってみせながら、エンティは花が消え去らぬうちからナイフを抜き、自身の血を零している。それによって顕現させるのは鋭利な拷問具だった。
 何にせよ、と。
 エンティが見せるのは魅力的な程の笑み。
「エンパイアの武将は腹を切るものなのでしょう? 介錯が必要でしょうから……その役目、僕が請け負いましょう」
 刀の扱いに慣れているわけではないのでこれを使わせて貰いますが、と。
 握るそれはギロチンの刃そのものだった。
 信長は愉快げな色を浮かべる。
「儂に切腹せよと申すか」
「そうでなくても、斬らせては貰いますが」
 と、跳躍して刃を翳す。
「首を落としても、構いませんね?」
 尤も、それが言葉通りに叶うとは思っていない。
 だが少なくとも、そのつもりで挑まなければ傷を負わせることもできそうにない。それほどの相手だという感覚は肌に感じていた。
 信長も、小型の秀吉を呼び寄せることで受け切ろうとする。
 未だ無数を数える敵は、全てとはいかずともかなりの頭数を以てエンティを阻害しにかかっていた。
「判っていますよ──簡単に行かないことは」
 けれどエンティの動きは淀まない。
 既にできることはやっていたから。瞬間、宙に残る花びらが踊り、エンティの目の前だけをしかと開けるように敵を消滅させていた。
 瞬間、一刀。
 その一撃は、首を刈ることは叶わずも──確かに首元を抉り、鮮血を零させていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

霧島・絶奈
◆心情
お二方、この逢瀬を愉しみましょう

◆行動
敵の先制攻撃対策として【オーラ防御】を展開しつつ回避
【範囲攻撃】する【衝撃波】を【二回攻撃】で放ち、秀吉を迎撃
一撃でも当たれば良い
こういう場面に於ける利便性は範囲攻撃の特権ですね

また、信長公の動きも警戒
集団に紛れての奇襲は私も良く使う手ですので…

負傷は【生命力吸収】で回復

可能なら回避中にも【罠使い】として罠を設置
反撃の足掛かりとします

可能なら敵の先制攻撃に呼応して、無理なら先制攻撃対応後に『暗キ獣』

【目立たない】事を活用
軍勢に紛れつつ罠を設置し接近

軍勢と連携し、死角から【二回攻撃】する【範囲攻撃】の【マヒ攻撃】
罠と併せた複合攻撃で敵に【恐怖を与える】



 回廊は敵に会うための経路でありながら、待ち人と逢うための道でもあった。
 静寂のインターバルの中で、霧島・絶奈(暗き獣・f20096)はその先に如何な戦いが待っているかと物思う。
 そして如何な殺戮を繰り広げられるか。
 静寂の相貌の中にあるのは、鋭利な恋慕の如き感情でもあったろうか。
 広間にすたりと踏み込めば、その気配を察して織田信長はすぐに目を向けてきた。
 人にして人にあらぬ、そんな絶奈の存在を見て声を零している。
「不思議な存在だ。尋常のものでは無いようだな」
「あなたもまた、そうでしょう」
 絶奈はそう言ってみせた。
 敵の威容は魔王の名に違わぬものだ。同時に憑装された豊臣秀吉が、その力と存在をもう一つ上のものに押し上げている。
 故に絶奈は、この二人の敵を強いと単純にそう思っていた。
 だからこそ全霊の戦いができるとも。
「──お二方、この逢瀬を愉しみましょう」
「愉しむ、か。その心意気や良し」
 ならばこそ決死だ、と。信長は秀吉の姿を空中に溶け込ませたかと思うと、不思議な色に光る文様を生み出す。
 そこより現れしは無数の小さな秀吉。憑装させていた霊魂を無数に分解複製し、思うままに統制のとれる軍として顕現させたものだった。
「なるほど、強力です」
 絶奈は確かにそこに脅威を感じる。たった一呼吸の間立ち止まっているだけで、この軍勢に飲み込まれ死んでしまうだろう。
 だが軍勢の扱いならこちらにも覚えがあった。
 ゆらり。
 蒼白き燐光を抱いた霧が揺蕩ったかと思うと、それが絶奈の体を包む。妖しい明滅を経た後──その絶奈の様相が変化していた。
 それは異端の神々の似姿。
 使役するのは屍獣と屍者。
 暗キ獣(ソラト)。
 濃密にして強力な疫病と、鋭利にして無数の槍衾。
 空間を満たすほどの軍勢となって攻め出したその群れが、小さな秀吉を病に侵し、刃で貫き、消滅させていく。
 尤も数で言えば敵も劣らず、合間を縫って絶奈へ攻め入ろうとする個体も多かった。
 けれど絶奈自身、進軍を警戒していないはずもない。
 自身を霧に重ねたオーラで護りながら、同時に刃から衝撃波を放ち迎撃。広範囲を薙ぐことで敵を近づけさせなかった。
 そのまま敵の追手を振り切る形で移動しながら、さらに罠も設置していく。存在の大きさに合わせ魔力を発動する形態にし、確実に信長にかかるようにした。
 そこまで来れば小型秀吉の数も減り始め、信長の動きも警戒しやすくなる。
 元より絶奈は、信長の位置を常に把握していた。
(集団に紛れての奇襲は私も良く使う手ですからね──)
 敵がそれを目論むと見れば、その気配も察知できようというもの。
 絶奈は罠を設置しながら、逆に回り込むように接近し──信長がその一つにかかったところで距離を詰めていた。
 その罠は神性な魔力を爆発させることで、魔の存在を縛る力を持つ。光を身に受けた信長は、足元の一端を焼かれて確かにその動きを静止させていた。
 絶奈はそこへ一斉に軍勢をけしかけ、自身もまた死角から飛び込んでいく。
 疫の苦痛に槍の威力。そして絶奈の連続の剣撃が嵐のように襲い、さしもの信長もとっさに対応は出来ない。
 それでも秀吉を召喚し直し、数を以て防壁にしようとするが──絶奈は攻撃に生命力吸収の力を乗せて凌ぎきっていた。
「倒れはしませんよ」
 殺すべきものをまだ殺していないのだから。
 鋭い空気を湛えたまま絶奈は更に踏み寄り一撃、信長の腹を貫いていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ラジュラム・ナグ
邪魔するぞー!
遂にお前さんの元へ終わりを届けに来たぜ?信長さん。

相手さんの大将を骸の海まで送り届けてやろう。
…と息巻いてみたが相手さんは強敵だ。
この命尽きようとも必ずやこの刃を届けてみせよう。

相手さんの攻撃に合わせて後ろに飛び、攻撃の威力減衰を狙ってみようか。
装備中の「全てを奪う闇」を前方へ展開し同様に技の威力を奪えるか?狙ってみるぞー!
大剣を盾代わりに[怪力]で[武器受け]だ。
上手く力点をずらし受け流せれば重畳。

今度は此方から参るぞ!
UC《強奪時間》を発動!
大剣を左手に持ち替え右手で闇を剣の形状で握る!
大剣を振るう遠心力を活かし連撃で一気に攻めるぞ!
お前さんの能力を奪い、上乗せしてお返しだ。



「邪魔するぞー!」
 ざっくばらんにも思える声音が死戦場の只中に響き渡る。
 畳を踏み、広間に歩み入るのは一人の男。
 剣先を遊ばすかのように揺らし、大股の歩幅で進む──ラジュラム・ナグ(略奪の黒獅子・f20315)。
 その仕草はぴんと張った空気とは裏腹なもので、豪放なほど。
 ただそれは戦意を有していないわけではなく。歴戦の経験が決戦の中でも心を惑わさないだけのことだった。
「遂にお前さんの元へ終わりを届けに来たぜ? 信長さん」
 そう言ってにかりと笑う、その表情の奥には確かに研がれた鋭さも内在している。
 大将を骸の海まで送り届けてやろう、と。
 その意気を感じたのだろう、織田信長は歓迎するように好戦的な色を見せた。
「大言壮語する輩は嫌いではない」
 ならばその力を見せてみよ、と。
 試してみせるかのように、背後に抱く憑装体──豊臣秀吉を鎧へと融合させている。
 瞬間、闇色の靄が揺蕩ったかと思うとその全てが鋭利な槍へと変貌。無数の矛先がラジュラムへと伸びてきていた。
(──疾いな!)
 目を見開いたラジュラムが瞬間的に感じたのは、単純な速度。広範囲に及ばせることのできる攻撃だということを除いても、避けにくい刺突だ。
 とはいえ、それも予想していなかったわけではない。
 何より信長が強敵だということは始めから判っていたこと。
 その上でやってきたのだから──。
「この命尽きようとも、必ずやこの刃を届けてみせよう」
 明朗に言って見せる声音には、確かにその覚悟が滲んでいた。
 瞬間、ラジュラムは脚に力を入れて後方へ跳躍。相対的な速度を落とすことで威力を減衰させてみせる。
 それでも面前に迫る槍の群を受ければ無事では済むまい、が。
 ラジュラムは手元から不定形の暗色を明滅させていた。
 それは“全てを奪う闇”。
 あらゆるもの奪ってみせる、概念にも似た茫洋とした塊。前方へと展開したその闇色は触れた槍の形状、速度、威力を奪い取ってしまう。
 その上で、ラジュラム自身に届いてくる矛先があらば──大剣を盾代わりにし、その膂力を以て弾き返した。
 凌ぎきれば、後は反撃に移るだけだ。
「さあ──今度は此方から参るぞ!」
 一転して真っ直ぐに疾駆するラジュラムは、勇烈にして勇壮。大剣を左手に持ち替えると、右手にも闇を剣の形状にして握って躊躇なく距離を詰めていた。
「……受け切るとはな」
 信長は軽く吐息しながら、それでも近距離からもう一度同じ攻撃を放とうとしてくる。
 けれどラジュラムは退かない。
「お前さんの能力を、お返ししてやるとも!」
 瞬間、大ぶりに振るった剣から無数の槍を放っていた。
 それこそ、闇が飲み込んだ敵自身の矛。
 強奪時間(ディス・イズ・マイ・タイム)。奪った能力を剣撃に乗せ、同時に自身の力と速度も加えることで強烈な攻撃と成す。
 敵の槍は威力の上乗せされたこちらの槍に弾かれ消滅。
 そのまま剣撃が信長に命中すると──ラジュラムは遠心力を活かして連撃。廻転斬撃を叩き込み、信長に真一文字の傷を連続で刻んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

三ヶ月・眞砂
あなたも共に戦う仲間がいるんすね
最後まで共に居てくれる仲間が…
なら尚更――スティルも俺も、改めて覚悟を決めたっす
相手を見据え襟を正し
俺は三ヶ月眞砂。若輩っすけど、相棒と共に全力全霊でお相手仕る!

黒槍攻撃は焦らず戦闘知識を以て
距離を取り見切りと武器受けで対応
機を見て槍型のスティルを構え
思い切り力を溜めれば蘇る先の戦いの傷の痛み
…今は気合いが入る勲章っす!
鎧無視の投擲攻撃で串刺しを狙う
即座に竜型に戻し急上昇させながら【一等竜星】で鱗を放つ
追撃の幻竜の顎を目眩ましにもしながら
ダッシュで接近し刀でなぎ払い

信頼、忠義、あなたたちの絆は本物だ
けれど勝ちを譲る気は無いっすよ
縁あるこの地を、守ってみせる…!



 静寂の中を走るのは不思議な気分だった。 
 そこが大軍勢を以て戦乱を仕掛けてきた敵の、最後の牙城であればなおのこと。
「戦いの終わりも近いんすよね──」
 その実感が、どこか寂しさにも似た景色の中にあることに三ヶ月・眞砂(数無き星の其の中に・f14977)は少しだけ物思う。
 あれだけの戦をしてきた敵も、最後にはたった一人で抗戦することになるのか、と。
「……いや」
 と、広間に踏み込んだ眞砂は首を振った。
 そこに佇むのは、決してただの一人ではなかったから。
 第六天魔王『織田信長』、そして──それと共にある存在、豊臣秀吉。垣間見えるのは一個体にして二人の敵。
 眞砂は声を零す。
「あなたも共に戦う仲間がいるんすね。最後まで、共に居てくれる仲間が……」
「幸運にもな」
 信長はそうとだけ応えた。
 多くの感情を含まない声音。だがそれだけ、憑装させたその存在に対する信頼に似た何かを感じさせる。
 故に眞砂は一度目を伏せた。
「なら尚更──スティルも俺も、改めて覚悟を決めたっす」
 相手が仲間と共に全霊でかかってくるのならば。
 自分も同じことをするだけだと。
 目を開き、信長と秀吉を見据えて襟を正して。
「俺は三ヶ月眞砂。若輩っすけど、相棒と共に全力全霊でお相手仕る!」
「いいであろう、かかってこい」
 信長は言葉を真正面から受け止めて、その鎧に秀吉の姿を融合させる。
「儂は第六天魔王織田信長、憑装せしは豊臣秀吉──その力を存分に見せてくれようぞ!」
 刹那、黒色の空気を纏ったかと思うと、それを槍へと変貌。熾烈なまでの速度で眞砂へと撃ち出してきていた。
 ただ、眞砂は焦らない。
 刺突が来ることは判っていたが故に、十分な間合いを取っている。
 無論、それだけで避けきれるものでは無いが──間近に迫る矛には刀を抜き放ち対応。素早く斬閃を滑らせて動線をずらしていた。
 被害は浅い。とはいえ、彼我の距離が大きければ敵への攻撃が仕掛けにくくもあったが──。
 それでも眞砂には相棒がいる。
 その手にしかと握るのは、槍型にした竜のスティル。
「さあ、行くっすよ」
 思い切り力を溜めれば、蘇るのは先の戦いの傷の痛み。ぴり、と奔る鈍い感覚に一瞬だけ苦痛を感じた、けれど。
 ──それも今は気合いが入る勲章。
 スティルと共にあるならば、挫けない。
 そして力を合わせれば勝てるはずだと信じているから。眞砂は振りかぶり、大きく竜槍を投擲した。
 剛速で宙を奔り、一直線に突き抜ける矛。それは何ものにも遮られずに敵にまで到達。その甲冑を貫いて血潮を散らせた。
「……!」
 信長が驚愕を浮かべる中、槍は留まらない。
 即時に竜型へと戻ったそれは天井へと急上昇。美しき蒼銀の鱗を、星屑の如き礫として放っていた。
 一等竜星(イットウリュウセイ)。
 その煌きに触れると、襲いかかるのは一等星の如く耀く巨大な幻竜の顎。その鮮やかさと衝撃に、文字通りの幻を見た感覚に襲われたか、一瞬だけ信長の動きが止まる。
 そこへ眞砂が駆けていた。
 僅かに遅れて信長もそれに気づく、だが眞砂の一刀の方が疾い。
「信頼、忠義、あなたたちの絆は本物だ。けれど勝ちを譲る気は無いっすよ」
 なぜなら、こちらの絆だって負けやしていないのだから。
 何より、数多の命のためにも。
「縁あるこの地を、守ってみせる……!」
 信念の一刀がたがいなく魔王を捕らえる。振り抜いたその斬撃は信長の胸部を鋭利に切り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

華折・黒羽
駆け続けた戦場の果て
最後の将たる“魔王”前に
今一度柄を握り締め

意思燃やし続けるその視線に
敬意を払い名乗りを

華折黒羽
勝負です──第六天魔王、織田信長

猛る炎の熱を拒む様火炎耐性
さらに屠を伴って纏うのは縹の氷
迫りくる豊臣の群れに退かず地を蹴り跳び出す
野生の勘は鋭く研ぎ澄まし
武器受け、なぎ払いにて凌ぎながらカウンターで隙あらば攻撃を狙う

激痛耐性により傷の痛みを無視しながら
視線が向かうは迷い無く魔王の首狙い

一閃した屠より織り成す氷花の壁
身一つを狙うかと見えた壁は
敵の身に届く直前で軌道分かたれ囲う様高々と咲く
僅かでも隙が出来れば僥倖
全ては続く仲間に託した一手

この地の平穏、返して貰います

※アドリブ、連携歓迎


フィオレッタ・アネリ
信長さん、すごい威圧感
でも、絶対にここで止めなきゃ…

ミニ秀吉さんの召喚に合わせて、範囲攻撃で城内の床や天井や壁に
《メリアデス》の蔦を這わせて網の目に展開

正面から来る秀吉さんは《ファヴォーニオ》の風で吹き飛ばして
死角からの攻撃や挟み撃ちは張り巡らせた蔦で絡めたり打ち払ったり
囮はよく観察して見切り、ゼフィールに援護射撃してもらうね

秀吉さんの攻撃を凌いでチャンスが来たら
破魔の力を込めたわたしの神性で、部屋一面を花園に!

そして全力魔法を乗せた《エレメンタル・ファンタジア》の
「花」の「竜巻」で信長さんを巻き込むよ

春満たす花よ、渦となって踊れ――思うままに!

※アドリブ・連携 歓迎です!



 凪にも似た無風なのにどこか肌を刺すようで。
 冷たくすらある空気が、不思議と膚を焼くようだった。
 その感覚の全ては、ただ一人残る敵の戦気によるものなのだと、奔る華折・黒羽(掬折・f10471)は気づいている。
(敵が、近い)
 駆け続けた戦場の果て。
 そこに最後の将たる“魔王”がいるのだと感覚が告げていた。
 そうして広間に立つその姿を見つけると──びりびりと、しびれる感触。轟々と、風がかき混ぜられる音。
 気のせいであって気のせいではない。対峙したものの五感を鷲掴みにするほどの威容を、その存在に確かに感じとった。
「信長さん、すごい威圧感──」
 金糸の髪が独りでに揺れる感触。それにフィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)は物理的な風圧にも似たものを覚える。
 けれど、拳をぎゅっと握りしめるその心は真っ直ぐで。
 その表情も春の空気の如く澄んでいる。
「でも、絶対にここで止めなきゃ」
「──ええ」
 頷く黒羽も今一度刃の柄を握りしめていた。
 そして敵の、意思を燃やし続ける視線に対して。敬意を払い名乗りを上げる。
「華折黒羽。勝負です──第六天魔王、織田信長」
「いいであろう。その礼に力を以て応えてやるとしよう」
 尋常に、と。
 信長は言葉を受けるように言ってみせると、鋭い殺気を放った。
 瞬間、背後に抱く秀吉を空気に溶け込ませる。
 そして宙に円陣として展開された魔法紋から、秀吉を無数の霊体として召喚。大軍の様相を成していく。
 空間を覆うほどの軍勢。それは正しく数の脅威だった。
 だが漆黒の髪と毛並みを靡かせながら、視線を巡らす黒羽に惑いはない。
 先ずは猛る炎の熱を拒む様、火炎への心構えを身に宿す。同時に黒剣・屠を伴って纏うのは縹の彩抱く氷。
 熱さも冷たさも、鋭い激情も拒んでみせるように護りを固めると──迫りくる豊臣の群れに退かず跳び出した。
 敵の群も追い縋ってくる。だが黒羽は突進を刃の腹で逸らし、挟撃を薙ぎ払って凌いでいく。
 無論、数え切れぬほどの群は容易に振り切れるものではない。 
 けれどフィオレッタもそこへ春の力──精霊魔術《メリアデス》を行使していた。
「さあ、お願いね!」
 喚び寄せるのは樹精。
 その祝福の力を存分に顕現させることで広間の床、壁、そして天井にまで瑞々しい翠の蔦を這わせていく。
 網の目に絡んだそれは、フィオレッタに挟撃を仕掛けようとしていた個体ばかりか、黒羽を追おうとしていた敵までを打ち払い消滅させていた。
 一撃で散る敵にとっては、広域を浚うその攻撃こそ脅威であったことだろう。
 それでも数の力で押すように、真正面から集団が迫ってきたが──。
 フィオレッタの魔術はそればかりではない。
 精霊魔術《ファヴォーニオ》によって風精を招来。正面に突風を吹かすことで、迫りくる敵を纏めて吹き飛ばしていた。
 明らかに誘引を目論む個体があると見れば──そこへ狙いをつけるのは緑翅の風竜ゼフィール。フィオレッタの招いた春の風に泳ぐよう、素早く宙を翔けると、疾風の如き吐息を放ちその個体を散らせていく。
「ありがとう、ゼフィール!」
 傍らに戻る風竜に笑みかけると、フィオレッタはそのまま敵を退け続けていった。
 その中で、黒羽は素早く前進を続けている。
 自身の剣撃とフィオレッタの魔術を以てしても、場の秀吉を一掃できるわけではなく、黒羽に食らいついてくる敵は少なからずいた。
 それでも、黒羽は耐え抜くことで傷の痛みを無視しながら前へ。その視線が狙うは迷いなく──魔王の首。
 間合いに入り、掲げられた刃には信長も警戒せざるを得なかったろう。鎧と、そして傍に置いた秀吉をも協力させてしかと防御しようとしていた、が。
 黒羽が一閃に振るった屠より織り成されるのは、清廉なる氷花の壁。
 身一つを狙うかと見えたそれは、敵の身に届く直前で軌道を分かち──信長を囲う様、高々と咲いていた。
 信長ははっと目を見開く。
「──これは」
「刀を佩いていようとも、俺自身が斬る必要はありません」
 黒羽は静かに応えた。
 僅かでも隙が出来ればそれで僥倖。元より全ては、続く仲間に託した一手だった。
「この地の平穏、返して貰います」
 曲がらぬ意志で云うと、黒羽は後方へと飛び退る。
 同時、フィオレッタが破魔の力を込めて神性を発揮。華やかな芳香を漂わせたかと思うと、周囲に花を咲き乱れさせていた。
 鮮やかな大輪、可憐な小花。
 豊かな色彩、見惚れるほどの可憐さ──広間へと咲き続いていく花はいつしか全体を満たし、花園の景色を作り上げている。
 空間が春で一杯になると、フィオレッタはそこで全力の魔力を込めてエレメンタル・ファンタジア。
「春満たす花よ、渦となって踊れ──思うままに!」
 風を舞わせることで花々を巻き上げて、鮮烈なる花の竜巻を生み出していた。
 美しくも熾烈な衝撃の奔流は、氷の壁とも融合して嵐となる。
 その風圧と芳香、飛び舞う細氷に膚を切り裂かれ、信長は紅の血潮を溢れさせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
さぁ、ここが勝負どころだ
かわせるならかわしたいが
まあそう上手くはいかねえだろ
自分もアレスを守りたいと言う気持ちをぐっと飲み込んで
先制攻撃は任せたぜアレス

アレスがしのいだその隙に
『歌』で身体強化して躍り出る
そんなに強くはねぇが
数が多いのが厄介だな
攻撃を『見切り』交わし『2回攻撃』
炎の『属性』を纏った剣を秀吉に打ち付ける
挑発のひとつもしてやりたいところだが…ただ頼りっぱなしは性にあわねぇんだ
軽口の代わりに口ずさむのは故郷の歌
【赤星の盟約】
防戦一方だと
この猿を追うので手一杯だと思わせといて
本命は俺じゃねぇよ
アレスを『鼓舞』するようにニヤリと笑い
―さぁ、アレス
でっかいのぶっこんでやれ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

世界の為…この合戦に終止符を打とう
セリオス。攻撃は僕を防ぐよ
…君は僕が護る

先制攻撃にはセリオスを『かばう』ように前に出て
『シールドバッシュ』の要領で『オーラ防御』を展開した『盾で受け』止め、護る『覚悟』と『怪力』で押し返すように攻撃を凌ごう

凌いだ後は信長に攻撃を仕掛けようとする…が
黒槍によって近寄れず、『見切って』剣で弾くか盾で防ぐか…『激痛耐性』を以て防戦一方
…に見せかけ、一瞬でも油断を誘おう

ああ。僕達の剣は貴様には届かない
…だが、光はどうだ
瞬時に【天聖光陣】を地に展開
セリオスの歌によって強化された全力の光柱を
信長の足元から天へ穿つが如く放つ
これが僕達のーー反撃の刃だ!!



 漂う空気がどこか独特の重さを持ったように、肌に纏わりついてくる感覚があった。
 単なる怨念とも違う。
 簡素な殺意とも違う。
 それは過去が──沈んだ時間の集積が大気に澱みを持たせて、来るものを拒んでいるかのような感触だ。
 まるで未来になど、進ませぬというように。
 けれどその中にあって、艷やかな黒色と夜明けの金色は立ち止まらない。
「もうすぐ着くぜ。準備はいいか、アレス」
 端麗なおもてを向けるセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、口ぶりにも淀みなく。隣に明朗な声音を聞かせてみせる。
「大丈夫。セリオスも、問題ないな?」
 肯き声を返すアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)も同じ。異界のごとき牙城にあって、退こうという心積もりはない。
 この先にいる存在を討つことが、数え切れぬ命を救うことになるのであれば。
「世界の為……この合戦に終止符を打とう」
 アレクシスが真っ直ぐを向けば、セリオスもまた頷いて続き、奔った。
「──さぁ、ここが勝負どころだ」
 回廊を進み広間の前に着けば、すぐにその気配が感じられる。
 一人で以て戦乱の形勢を覆してみせようとする武士の将。その男が数歩進んだ場所にいるのだと感覚で判った。
 敵は、強い。こちらが先手を取られる確率は十割。
 故に、アレクシスは前に出た。
「セリオス。攻撃は僕が防ぐよ。……君は僕が護る」
 今、その誓いを改めて形にしてみせるように。力強いというよりも、柔らかだけれど決して折れない芯の通った声で。
「……ああ」
 だから、セリオスもまたこくりと首を縦に振る。
 自分もアレスを守りたいという強い気持ちもあった。
 でもその言葉はぐっと飲み込んで。アレクシスがそう言ってくれるなら、自分もまた彼の力になるよう動きたいから。
「任せたぜアレス」
 絶対だぞ、と。小さく付け加えて。
 星の青と朝空の青、二つの視線が短い時間、見つめ合った後。それきり二人は迅速に戦場へと飛び込んでいった。
 その姿を見つけた第六天魔王、織田信長は何を思ったろうか。迷いなきアレクシスの視線を見て──爛々と瞳に殺気を漲らせる。
「濁りなき戦気、歓迎するぞ。儂とこの秀吉の全力を以て、叩き伏せてやろう」
 刹那、憑装させた豊臣秀吉の姿を明滅させると、その存在を鎧に同化させる。
 揺蕩う靄として再臨させたその姿を──無数の槍へと変貌。弾丸の如き速度で撃ち出してきた。
 鋭利さも速度も、想像以上。
 或いはこの魔王が、本当に一人で戦況を覆しかねないと思わせるに十分な初撃。
 だが、アレクシスは決して下がらない。
 その背にセリオスがいるならば、下がる理由がないから。美しき白銀の盾を早天の光で輝かすと、真正面へと突き出してシールドバッシュ。槍の勢いにも劣らぬ威力の積極的防御で、飛んでくる槍を逸らし、弾き落とし、へし折ってみせた。
 無数の矛はすぐには止まず、嵐の如き連続の衝撃を伝えてくる。
 だがアレクシスは強い覚悟を以て怯まず、怪力を以て押し返されない。寧ろ一歩一歩と歩を進めるように槍の雨をこじ開け、道を拓こうとしていた。
「今のうちだよ、セリオス」
「よし、俺の出番だな」
 槍が防がれているその間に、セリオスは周囲に視線を奔らせている。
 というのも、脅威は槍だけに留まらない。信長は初手に連撃を放つよう魔法円を展開。耀く紋の中から小型の秀吉の霊体を出現させていた。
 一体一体が強くないことは明らか、だが──。
「数が多いのが厄介だな」
 こちらも容易には退けられまい。
 故にこそ自分の番だと、セリオスはすっと息を吸い、その唇から旋律を紡ぎ出していた。
 清らかに、美しく。
 囀るように響くその声音は魂に反響し、生命の巡りに影響を与えるかのようにセリオス自身の身体を強化する。
 そのまま跳び出したセリオスは、その手に光を纏った麗しき剣を握っていた。
 まるで持ち主と対を成すかのような純白。セリオスはその刀身の光を緋色に変えて、炎の力を宿させると連撃。迫りくる集団へと焔を打ち付けた。
 火の粉の散る強烈な衝撃に霊体達は四散していく。殲滅というわけにはいかないが、自身とアレクシスを守るだけの事は実現できた。
 この間に、アレクシスは信長へと攻撃を仕掛けるために前進をしている。
 だが、それは上手く運んでいないように見えた。
 再度黒槍を放たれれば一度は止まって防御せねばならず、距離を詰めていけない。その上で近づけば槍の密度がなお上がり、体の端々を矛先に掠められていく。
 セリオス自身も秀吉の撃退を続けるが、囲んでくる個体を退ける以上の成果は現れていなかった。
 進行も殲滅も行わず。
 様相は、防戦一方。
 二人を見て、信長は勇壮な声を聞かせてみた。
「そのままでは、儂を斬ることは叶わぬぞ」
「……ああ」
 そうだろう、と。
 アレクシスは同意するように呟いてみせる。
 事実、信長に接近するのは容易ではなく、仮にそれが叶ったところで効果的な一撃を打てるかは怪しかった。
 セリオスにしても同じ。際限を知らぬ程の数の秀吉に対し、圧倒できているとは自身でも思っていない。
 ──だがそれが不利だというのは、あくまで表層のこと。
 無数の敵、対峙するアレクシスと信長。
 セリオスはそれを見て、挑発の一つでもしかけてやろうとも思っていた。けれど、その先をアレクシスだけに任せるのは、決して自分の納得するところではない。
(ただ頼りっぱなしは性にあわねぇんだ)
 護ってくれるとというなら、自分はそこに寄り添って支えることくらいはしたかった。
 故に軽口の代わりに、故郷の歌を口ずさむ。
 赤星の盟約(オース・オブ・ナイト)。失った故郷の旋律を編むその音律は、優しく揺蕩うようでありながら、それでいて力強さを宿す効力を持っていた。
 信長はそれに気づき、はっと視線を向けるが──。
「本命は俺じゃねぇよ」
 言ったアレクシスは、アレスを鼓舞するようにニヤリと笑っている。
「──さぁ、アレス。でっかいのぶっこんでやれ」
「もちろん」
 と、アレクシスは応えて床を大きく輝かせていた。
「確かに、僕達の剣は貴様には届かない。……だが、光はどうだ」
 陣を形作る輝きが、眩いほどの光量を湛えていく。
 それこそが、最初からの狙い。
 信長が圧倒的な戦闘力を持っているのは事実。
 こちらがそれに苦戦していたのもまた、事実。
 だがそうして自分達が苦境にある姿を見せることそのものが、戦況をひっくり返す布石だったのだ。
 全ては信長の一瞬の油断を誘うため。
 今、その瞬間が訪れた。
 光陣から立ち上るのは燦めく光の柱。
「受けると良い。これが僕達の──反撃の刃だ!!」
 淀んだ空気を払拭するその明るさが、その鋭さが、立ちはだかる壁を打ち砕く一撃。
 天聖光陣(テンセイコウジン)。
 敵の全身を包むその耀は、足元から上半身までもを貫き、鎧を灼き──苛烈なまでの威力で信長の命を削り取ってゆく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鎹・たから
勝利をあきらめない
それでこそ魔王信長なのでしょう

ですがあなたは過去の存在
こども達の未来を奪うあなたを
たからはほろぼします

黒槍の動きをよく見て残像のこし
疾走とジャンプを繰り返し可能な限り避けていきます
多少の痛みなど、こども達の未来のためならば
【情報収集、ダッシュ、空中戦、オーラ防御、残像、覚悟、勇気】

槍を足蹴に飛びかかり
オーラと連珠を纏った拳で連打
防具を壊してしまいましょう
【暗殺、ダッシュ、空中戦、2回攻撃、鎧砕き】

更に隙を作らず畳みかけ
防御の構えを取られるよりも先に氷を纏う一撃を
【グラップル、気絶攻撃、衝撃波、部位破壊】

相討ちになろうとも
たからはあなたにこの拳を届かせます
この世界をすくうために



 紅いスカーフがふわりと靡き、一瞬遅れてくすんだ髪にも揺らぎが波及する。
 距離が近づくほどに度合いの強くなるその正体は、奥に佇む人影の放つ熱気なのだとすぐに判った。
 ひんやりとした頬にその気流が触れると、まるで灼けるようだったから。
 熱い焔のような戦意。
 刺し貫くような殺気。
 漂う鋭利な気配の中──鎹・たから(雪氣硝・f01148)はそれでも歩を止めず広間へと踏み込んでいた。
 水面に張った氷のように透明な表情。
 そんなたからに、しかし色濃い意志のようなものを感じ取った第六天魔王織田信長は、挑戦的な表情を見せていた。
「羅刹の少女よ。儂を討つか」
 死すとも容易に死にはせぬぞ、と。
 この野心が続く限り決して勝ちをを捨てはせぬぞ、と。
 精悍な顔に野望を燃やして、その敵将は自身の戦欲を顕にしてみせる。
 けれどたからは相貌の色を変えず、こつんこつんと進める歩も止めはしない。
「勝利をあきらめない。それでこそ魔王信長なのでしょう」
 威容を間近で見て取って、敵の大言が決して虚勢などではないのだとたからは感じる。彼は本当に言ったことを現実にするだけの力があるのだろうと。
「ですがあなたは過去の存在」
 現在に、未来に剣先を向けて、それを傷つけ破壊してしまう諸刃の骸。
 それは生きとし生けるものの可能性を握りつぶしてしまうものだ。
「だから、こども達の未来を奪うあなたを……たからはほろぼします」
 信長はその言葉に、笑んだ。
 嘲笑でも無謀と見下す感情でもなく。鋭く美しい刀を見る心にも似た、感嘆の吐息だ。
「美しく、いい眼をしている。その瞳は未来を見ているのであろうな」
 だが、と信長は膝を落として戦いの姿勢を取る。
「儂にもまだまだ見てみたい地平があるのだ。仮に誰かの未来を奪うことになろうとも──」
 それが戦というものよ。
 言葉と共に燃え盛るような殺意を見せると、信長は憑装の存在、豊臣秀吉を自らの鎧へと融合させていた。
 瞬間、渦巻くのは黒い靄。
 それが鋭利な形を取ると、剣山にも空目する程の無数の矛となって放射された。
 だが、たからは一瞬だけその動きを注視すると──直後に真横へ力を込めて跳躍。脚先にだけ槍を掠めさせて回避している。
 着地すると床で一回転分転がって、速度を落とさずに疾駆。偏差射撃の如く襲ってくる槍を追いつかせぬよう、避け続けていった。
 動きが先読みされると見れば、残像だけを置いて直上へ。形なき己の残滓だけを槍に貫かせ、自身は柱を蹴って離れた位置に降り立っていた。
「忍びの心得があるとみえる。見事な身のこなしだ」
 信長は言いながら、それでも次は逃げ場を作らぬようにと槍をばらまいてくる。
 たからは体を捻り、数本は回避してみせた。けれど雨のような矛先の全てを避けきることは叶わず、足元を破られ血潮を零す。
「……っ」
 ほんの少しだけ瞳が瞬き、そこに痛みがあることを表した。
 けれどたからは止まらない。
 動けるなら、迷わず動く。
 多少の痛みなど、こども達の未来のためならば何でもないのだから。
 たからは初動から敵への間合いを徐々に詰め、既にその距離を半分近くにまで縮めていた。そこから眼前に迫る槍を足蹴にして、跳ぶ。
 きらりと、燦めくのは色とりどりのビー玉を連ねた連珠だった。
 それをしかと握り込んで冬色のオーラを着せれば、拳と色彩が鋭利で透明な艶めきに満ちる。そのまま振りかぶったたからは、真っ直ぐ敵の鎧に狙いをつけていた。
「……!」
 信長が双眸を見開いたのは、その拳に眩さを覚えたからだけではない。迫りくるたからの静かな相貌の中に、何者にも退かぬ威容を感じたからだ。
 或いはそれはちいさな羅刹が作り出す、無垢な迫力。
 ぞっとした、わけでは無いだろう。
 だが確かにその跳躍と速度に対応できなかった信長は──痛烈なまでの拳の一撃で、鎧に深い亀裂を奔らせていた。
「──何という膂力」
「まだ、終わりません」
 たからは床に足が触れると同時、反対の拳にも澄んだ氷塊を纏い打突。冰雪(コオリユキ)──信長に防御の構えを取る暇を与えず超高速の連撃を叩き込んでいる。
 意識を飛ばすような衝撃に信長はたたらを踏んだ。それでも鎧の無事な部位から槍を伸ばし、確かにたからの片腕を貫く、が。
 血が滴っても、たからはなお倒れない。
 激痛が奔っても、この腕を振るえるならそうするまで。
「……たとえ相討ちになるとしても。たからはあなたにこの拳を届かせます」
 この世界をすくうために。
 熱気が、僅かに薄らぐ。
 たからが信長を大きく吹き飛ばす、その拳から零れる氷片が、はらはらと美しく舞っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──オブリビオン・フォーミュラ、織田信長
ここでテメェを討つ
散り際の言葉を、今のうちに考えておけよ

秀吉の群れが初手で来るな…
【ダッシュ】で逃げながらUC起動、セット『Conquer』
挟撃や囮を抑制するには…やっぱ、壁を背にするしかねえか
【覚悟】を決めて背水の陣だ
【ハッキング】でサイバネの出力を強制限界突破
投擲速度超向上──ナイフやその辺にあるものでもなんでも、高速投擲して爆発、群れをゴリ押しで殲滅しにかかる

群れがいい具合に消えてきたら、信長に向かって投擲をシフト
俺は決してテメェに近づかない、呼び出した秀吉も爆発で薙ぎ払う
爆炎がテメェを殺し尽くすか、俺の弾が切れるか…
どっちが速いかの勝負だぜ



 不可視光によるセンサと、高速演算によるルート探知。それらを組み合わせれば広いと言える城内でも迷いはしない。
 素早く奥部の果てへとたどり着いたヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、サーマルビジョンによって遠くから既に敵影を確認していた。
「……居たか」
 一つ呟いてひた走ると、程なく素の状態の視覚でもその姿を捉えられる。
 部屋の中心にいる、第六天魔王。
 継続する戦いの中で確実に傷つき、装備も些かの破損を見せている。だが戦気こそ未だ衰えず、油断の出来る状況では全く無いだろう。
 なればこちらも持てる力を注ぐのみ。
「──オブリビオン・フォーミュラ、織田信長。ここでテメェを討つ」
 広間に踏み込むと、まっすぐに口を開いて。
「散り際の言葉を、今のうちに考えておけよ」
 不敵にそう言ってみせていた。
 信長はこちらに目を向けると、より一層熱意を増した声音で返す。
「素晴らしき戦意を、歓迎しよう。儂と秀吉の力を注ぐに十分な相手だ」
 さあこの力を見るがいい、と。
 まるで霊のように浮かぶ憑装体──秀吉の存在を薄らがせると、無数の小さな霊魂として再召喚。数え切れぬほどの軍勢へ展開してけしかけてきていた。
 ヴィクティムはゴーグル越しに視線を奔らせる。
「初手から容赦ねえ群れだぜ」
 僅かの時間を譲るだけでも、囲まれて集中攻撃を受けてしまうだろう。敵の軌道計算もしながら素早くダッシュし、対策を練ることにする。
(一体一体は弱いだろうな。だが挟撃や囮を防ぐの自体は簡単じゃねえ)
 少なくとも動き回っている間は、敵にあらゆる方向から狙いをつけさせることになるだろう。
 そこで一度でも不意を突かれれば、後は雪崩式だ。
「そうなりゃエースオブスペーズ……。なら、策は一つだな」
 ヴィクティムが方向を変えて見やるのは壁際。
 単純に背を取らせず、囮にもかからないように前面に出ない位置を目指す。決して安全策とは言えなくとも、それは確かに解の一つだった。
「背水の陣だな。やってやる」
 覚悟を決めれば迷う時間も無駄なもの。
 そのまま奔りながら──同時に全身の電脳デバイスを同期。性質変換モードへと自身を変遷させている。
 そうして壁を背にすると、生体機械ナイフ──エクス・マキナ・カリバーンを手に握り、ハッキングによって自身のサイバネの出力を強制限界突破。
 投擲速度を超常的な域にまで高め、その一振りを真っ直ぐに投げ飛ばしていた。
 刹那、それは巨大な爆炎を上げて眼前の集団を吹き飛ばし灰にしていく。
 Attack Program『Conquer』(バクエンタズサエシセイフクシャ)。
 投擲物を爆発性物質に変えるそのモードは、ナイフに限らず手にとったもの全てを凶器と成す。
 爆発で転がった木の破片もそのまま再利用するように投げれば、大量に分裂しながら炸裂し、噴煙を上げながら秀吉達を粉微塵にしていった。
 信長は声音に驚きの感情を含めている。
「不思議な空気を湛えているとは思っていたが。力まで超常のものだとはな」
「そろそろ、そっちにも投げてやるさ──ファイアレーンも繋がる」
 秀吉の数が減って射線が開けば、ヴィクティムは標的を変更。礫を信長へと投擲し、追尾性の爆撃を加えていく。
 信長は腕を交差して受け止めながら、それでも確実に傷を深めていた。
「接近戦は好まぬか」
「危険だからな。俺は決してテメェに近づかない」
 ヴィクティムは返しながら、新たに喚び出された秀吉も爆発で薙ぎ払ってみせる。
「爆炎がテメェを殺し尽くすか、俺の弾が切れるか……どっちが速いかの勝負だぜ」
 その言葉に信長は瞳を細める。
 そして防戦一方になることを危惧したか、自ら床を踏み接近を目論んだ。
 だがそうなれば──。
「集中砲火だぜ」
 敵が自分から身を晒すなら、ヴィクティムは火力を集中させて爆炎で包み込むだけ。
 そうして信長の動きが止まれば、壁伝いに素早く位置を変更。再び間合いを取った状態で──ナイフを拾い投擲。
 一層苛烈な焔を上げて、信長の全身に灼熱を見舞っていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
……まだ戦いますか。
あなたさえいればまだ勝機があるというのであれば、あなたを討ち、戦いを追わらせましょう。

動きが読みづらい……回避は難しそうですね。
ですが、剣を振るう腕の動きは変わりません。摩擦が減ったことを利用して動いているのであれば高速移動の代償に踏ん張りは効かないはず。剣の軌道を注視しフィンブルヴェトで『武器受け』します。

剣を受け止めてこちらの武器に付着した粘液は氷の『属性攻撃』で凍結させ滑らないようにしながら継続して防御を。

そうして『時間稼ぎ』をしているうちに【絶対氷域】で緩やかに気温を下げていき、ある程度まで下がったところで急速に冷却、纏う粘液ごと織田信長を氷結させます。



 陽炎に火の粉が煽られて、歪む景色を明滅させていた。
 氷銀色の髪を撫でる熱気は灰の薫りを孕んで、僅かに血の匂いも交える。
 そこは戦火の只中にはそぐわぬ静寂でありながら、激しい戦いの余波を感じさせる場所だった。
「……織田信長」
 広間に踏み入ったセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が見たものは、戦いによって深い傷を負った第六天魔王。
 動乱の雲間のような静謐で、自らの血溜まりに立つ敵将の姿だった。
「猟兵か。予想に違わぬ猛者揃い共よ」
 視線を向けた信長は、ありありと猟兵というものの実力を感じたように、声音に微かな敬いの念すら込めてみせる。
 それでもセルマは深冬色の瞳で、その男が戦意を失っていない事を知った。
 こちらを見る目は未だ勝利を捨てず、殺気に滾っていたから。
 もはや戦乱の形勢は決しつつある。この牙城に残るのは信長一人。
 その信長自身が、傷を負っている。だというのに。
「……まだ戦いますか」
 セルマの声音は或いは畏敬、或いは呆れともつかぬ静かなもの。
 それに対し信長は笑みを作ってみせた。
「戦えるのならば、戦わねば武士ではあるまい」
 儂さえ勝てば、この戦を勝利で飾れるであろうからなと。呵呵と快活な声音を作る。
 そうですか、と。
 応えたセルマは相貌の色を変えず、細腕に銃を握っていた。
「ならばこちらも退きません。あなたさえいればまだ勝機があるというのであれば、あなたを討ち、戦いを終わらせましょう」
 それが世界を救う方法であるならば、こちらもまた迷う余地など無いのだから。
「善き哉──不要な問答は要らぬな」
 言ってみせた信長は憑装させた背後の影──豊臣秀吉から黒く滴る粘性の液を発現。それを全身に纏い、黒色の陽炎を携える。
 瞬間、こちらの眼前から消える程の速度で移動し始めた。
(……疾い、ですね)
 セルマはとっさに前方にステップを踏み、今まで信長がいた空間に飛び込むことで間合いを作る。そして素早く視線を周囲に巡らせていた。
 信長はこちらの背後を取ろうとしていたのだろう、丁度一瞬前のセルマの後ろの方向に佇んでいる。
 瞬間でかなりの距離を移動していたのは、粘液を纏ったことで摩擦を殺し、まるで滑るように高速で動いていたからだ。
 一瞬後に信長は距離を詰め始めてくるが──まるで壁から壁へ蛇行して動くように、こちらの予想する動線からずれてくる。
(動きが読みづらい……回避は難しそうですね)
 剣撃を避けようとしたところで、その方向が判然としないのであれば意味がない。
 ならば──受けきればいい、と。
 セルマは唇をほんの少しだけ引き結び、その動きを注視した。
 付け入る隙は、ある。
 敵は単なる高速移動の手段を得たわけではなく、あくまで摩擦を減らすことでそれに似た機動力を得ただけだ。
 ならば本人自体の膂力や素早さは変わらず──剣を振るう腕の動きも元と同じもの。
 セルマは肉迫してくる信長の、その動作をしかと見切って愛銃フィンブルヴェトを掲げ、盾代わりにしてその剣撃を受け止めていた。
 そのまま銃身を横にして、払う。
 摩擦が無いのであれば、踏ん張りが効かないということ。速度の代償に生まれたディスアドバンテージを見逃さず、セルマは敵が刃を振り抜けないでいる内に威力を逸らしていた。
 壁へ後退した信長は、ほうと息を零す。
「受けきるか。だが、その黒色はお主の体を蝕むぞ」
「……問題有りませんよ」
 だがセルマはあくまで平静の色。
 敵の攻撃によって付着した粘液──そこに凍気を巡らせることで、ぱり、ぱり、と。その全てを氷結させていた。
 完全な個体としてしまえば、敵が狙う程の粘性は発生しない。そのまま幾度攻撃を受けようと、凍らせて凌ぎ切っていく。
 信長は始め、それでも自身の優位を疑ってはいなかった。セルマは防御をするだけで明らかな反撃はせず、戦況は一方的に見えたから。
「そのまま防戦に終始するつもりか?」
「──勿論、違いますよ」
 と、セルマが応えたその時。
 信長は初めて、周囲を包む違和感に気づいたように見回している。
 それは気温の変化だった。
 セルマが時間稼ぎをしながら、周囲に巡らせていた絶対氷域──全てを凍てつかせる冷気によるもの。
 敵が気づかぬ程度に緩やかに展開していたそれを、セルマはここで急速に効力を上げて一帯を冷却していたのだ。
 信長が警戒を浮かべた頃にはもう遅い。
 その体を包む空気は高速で冷え、絶対零度に到達。纏う粘液ごと氷結させていた。
「がっ……!」
 細かな氷片が針のようになり、信長自身を襲う。身動きの取れぬ状況でそれを退けることができるわけもなく──信長は凍った血煙を噴出させていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェレス・エルラーブンダ
やさしいやつがかなしむのを見たくなかった
はじめはそれだけ
でも
無理やり起こされたしかばねの、うらみのこえをきいた
かぞくだったものに蹂躙される、なげきのこえをきいた

たたかうことはこわい
いたいのもいやだ
でも
それよりも、もっと
……『いくさ』は、きらいだ

黒槍の軌道を身体中に仕込んだ刃を投擲しぶつけて逸らす
目立たない+残像+見切りを交えて躱す
相手が黒を纏ったとしても、手数の多さならまけない
命中率を優先した棘檻を用いて確実に当てる
それでも届かないなら
これまで戦場で聞いてきた、にんげんたちの声を思い出す
その声がつよいほど、おおきいほど
夢纏が私の牙を、棘を、鋭くする

『生きたい』
それは、私だけのねがいじゃないんだ



 靴音が煩いくらいに反響する。
 奔るほどにその音が段々と、鼓動と重なっていく。
 不思議な造りのこの建物を登って、昇って、駆け上がると──段々と空に近づいているはずなのに、視界が昏くなっていく気がした。
 空気は重くて、どこか苦しい感触がして。
 それはきっと争いの中に身を飛び込ませている感覚そのものだった。
(敵が、いる)
 動物的な感覚で、フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)はそれを察知する。眼にはまだ見えていなかったけれど、野良猫の少女はそれを肌で、予感で感じとった。
 一瞬後に見えたのは、遥かな威容を湛えた男。
 深手を負いながらも未だ斃れずに佇む敵将。
 彼──織田信長は、現れたフェレスを見つめる。
「良い敵意を秘めているな」
「……」
「とても強い意志を感じる。漫然と戦う戦士とは違った、研ぎ澄まされた意志を」
 一歩歩み寄り、信長はそんな声をかけた。
 フェレスは頷きを返すことはしない。
 自分が抱いているものが、この男が言うような強い意志なのかどうかは判らなかった。
(やさしいやつがかなしむのを見たくなかった)
 始めはただ、それだけ。
 そうして気づいたら、この世界に降り立って。
 戦乱と言われるものの中で刃を振っていた。
 それは別に、遠大な目的なんかじゃなくて。それ以外の気持ちを自分が抱くなんてことは予想していなかったのだ。
 でも。
 ──無理やり起こされたしかばねの、うらみのこえをきいた。
 目を閉じるとその戦いの記憶が蘇ってくる。
 苦しげで、でも虚ろで、空虚で。
 人ではなくなってしまった者達の怨嗟の呻きを。
 ──かぞくだったものに蹂躙される、なげきのこえをきいた。
 それをきっと自分は、忘れることはないから。
(たたかうことはこわい、いたいのもいやだ)
 でも、それよりももっと。
「……『いくさ』は、きらいだ」
「それを終焉させるために来たか。ならば確かに、儂を討つより他はあるまいな」
 だが儂とて簡単にはやられぬぞ、と。
 信長は背に抱く憑装の武将、豊臣秀吉の存在を鎧に融合させていた。
 纏うのは黒い靄。そこから耀くほどに鋭利な矛先を生み出すと──殺意をそのままぶつけてくるよう、フェレスへと撃ち出してきた。
 危険だ、とフェレスは思った。
 あれに刺し貫かれれば、きっと無事では済まない。ここで斃れてしまうかも知れない。本能に訴えるような光景。
 だが、ここが死地だとは分かってやってきたのだ。
 瞬間、フェレスは両の袖内から四本のナイフを取り出し投擲。矛先に刃先をぶつけるようにしてその軌道を逸らさせる。
 それでも飛んでくる残りの槍は──弾道を見切って横に跳躍。残像だけを貫かせ、縫うようにして躱してみせていた。
 決して手数の多さなら負けない。
 フェレスは駆け抜けながら身体中に仕込んだ刃を投げ、放ち、追いすがってくる槍を退ける。そのまま信長を射程に捉えると、鋭い短刀を計八本指に挟んで力を込めた。
 刹那、全力の振り抜きで投げると、間髪を入れず同様の投擲を重ねる。
 棘檻(イバラオリ)。
 名の如く逃げ場の無いその刃の応酬に、信長は僅かに唸った。だが自身の至近に槍を伸ばすことでそれを盾とし、僅差で受け止めている。
(まだ、届かない)
 フェレスはそれでも諦めない。
 ぎゅっと唇を引き締めて、これまで戦場で聞いてきた人間達の声を思い出す。
 苦しむ声、嘆く声、咽ぶ声。
 そして感謝や希望、喜びの声、その全てを。
 思えば思う程。心の中でそれが大きく響けば響くほど。夢纏(ユメマトイ)──その思いが自分の内奥で強い力になる。
 そうしてフェレスの牙を、棘を、鋭くするのだ。
 次に放った十本の刃が、信長の狭い範囲の槍を全て弾き飛ばした。直後に信長が次の手を打つ前に──フェレスは肉迫、ナイフを強く握り込んでいる。
「『生きたい』、それは、私だけのねがいじゃないんだ」
 だから、たたかう。
 それは確かに、真っ直ぐな強い意志。フェレスの突き出した一刀が、信長の体を深く、深く貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

霑国・永一
迫力あるのに纏ってるものの見た目のせいで緊張感に欠けるなぁ。油断はしないけどね

では先制攻撃へ対抗しないとなぁ。
どういう斬撃にせよ、滑りがいいなら防ぐの難しくても受け流すのは楽になってるはず。飛び退いたり、煙玉投げて煙幕使ったりで回避を主体にしつつ、相手の斬撃を完全に受け流すのは無理でも致命傷を避けるようにダガーで逸らしてみるかな。
此方に纏わせてきたら不格好でも同じように滑走して移動試みよう。出来れば躱したいけどね

先制攻撃の後は此方のダガーで相手の高速剣戟の速度を盗んで速度で上回る努力だ。盗み技術を兼ねた早業なら信長より上の自信はあるよかなぁ。
そのまま鎧の間を縫って刻み続けていきたいところだよ



 争乱は、未だ止まない。
 戦火の余波をその身に感じながら、広間にたどり着いた霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)が目にしたのは膝をつく第六天魔王、織田信長の姿。
 猟兵達の波状攻撃を受け、その身には消えぬ傷が刻まれていた。
 だが、信長はすぐに立ち上がる。
 永一の姿を見て、未だ殺意を充満させた笑みを浮かべて。猟兵が来ることをまるで歓迎しているかのようだった。
「猟兵よ。まだまだ儂は斃れるつもりはないぞ。死ぬ気でかかってくるがいい」
 それに対し、退かず対峙する永一、だが。
 眼鏡越しの視線を向けて少しばかり、うーんと観察する。
「迫力あるのに纏ってるものの見た目のせいで緊張感に欠けるなぁ……」
 と、見つめるのは信長が背にする憑装体──豊臣秀吉の姿だ。
 永一の視線を感じたか否か、「フェン」と一つ鳴いて存在をアピールしているかのようだ。
 すると信長も一度背を見やって、笑みを零す。
「見てくれはこうでも、その力は目を見張るものがあるぞ?」
「それは勿論、判ってるよ」
 永一は頷きながら、手元にくるりとダガーを携えた。
 元より油断するつもりはない。
 信長もまたそれを目にして戦意を滲ませる。
「いいだろう、ならば戦いの時間である」
 言うが早いか、秀吉から闇色の粘液を生み出させ、それを纏うことで漆黒の光を帯びる。同時、凄まじい速度で跳び出し距離を詰めようとしてきた。
「おっ──と」
 永一は真横に跳躍することでとっさに位置をずらし、その突進を躱してみせる。すぐに視線を周囲にやると、既に別の角度の壁際にいる信長の姿が見えた。
 ふむ、と永一は軽く息を吐く。
「速度はかなりのものだね」
「これこそサルの力よ。儂が使えば──万物を斬り捨てられる」
 言ってみせると、信長は壁を蹴って再び加速した。
 やはりそれは目で追うのも困難なほど、だが。
(滑りがいいのは、ただ速いってことじゃない)
 摩擦を殺した分だけ速度に転化されているのなら、摩擦を使った動きはその分苦手になるということでもある。
 即ち細かな方向転換や曲線運動。
 永一はそれを素早く見取り、敵の進行方向から逸れることに注力。上手く躱すとそのまま煙玉を投げ、煙幕を張った。
 こちらの姿が確認しにくくなれば、信長も性格な角度を定めにくくなる。
 その上で永一はダガーをしかと握り──精彩を欠いた信長の剣撃を受け止め、そのまま勢いを逸らしていた。
 そうして敵に隙が生まれれば、肉迫して一刀。ダガーで切り込んでいる。
 その一撃だけならば、掠める程度のダメージにしかならなかったが──。
「──奪わせてもらったよ」
 永一は金色の瞳を僅かに細め、柔く笑んでいた。
 刹那、床を蹴った永一の速度が一瞬前と比べ物にならぬほど上がる。
 盗み斬る狂気の速刃(スチールスピード)。
 速度を“盗む”その技は、信長の利点を打ち消してしまうだけの効果があった。
 摩擦を減らした以上敵は完全に自由な挙動を取れるわけではない。それに比して永一は自由を保った上で速度を上乗せしているのだ。
 故にその挙動は信長の疾さを越えており──懐に入り込むのにも苦労はしない。
 そのまま永一は連撃。刃を奔らせて鎧の隙間を縫い、傷を刻み込んでいった。
 信長は血滴と共に声を零す。
「……儂に速度で勝るとはな」
「盗みの技術を兼ねた早業なら自身あるんだよねぇ」
 永一は言ってみせると、間断を置かず信長の背後へ。相手が振り向くよりも早く──その背に刃を突き立てた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユノ・フィリーゼ
圧倒的な、脅威
―恐怖はある。でも、負ける気はない
だって私も一人では無いから
自身を鼓舞するよう、そう心に唱えたなら
真っ直ぐ前を見据え
貴方が手にする未来に勝利は無いわ
夢は此処で終わりにしましょう

焦らず努めて冷静に
見切りと残像・第六感を働かせ黒の刀撃を躱す
放たれた粘液も同様に
躱しきれないものは銀剣から放つ衝撃波で掻き消し
時にはジャンプやダッシュ・地形も利用して
狙いを定められぬ様に、身軽さを活かし地を蹴り宙を舞う

凌ぎ切れたなら深風の祈誓を纏い
烈風の刃で黒鎧と秀吉ごと裂いて
一瞬でも動きを止められたなら、
風の力を借りた高速移動からの銀剣での一閃を
傷ついた箇所を狙って、確実に
この一手に全ての想いと力を乗せる



 暴風が吹いている、と思った。
 強烈な威圧感が突き抜けて、目も開けていられない程。
 静謐を吹き飛ばすような威容に、たたらを踏んでしまう程。
 ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)はその敵将が未だ鋭いまでの戦意を放っているとその身に実感している。
 ふらつきながら立ち上がる織田信長は、血に塗れながらも未だ死には至っていなかった。
 今なお烈々と戦意を滾らせ、自らの死を認めぬというように。
「猟兵達よ。今まさに儂は斃れ、お主らの思う通りに相成ろうとしている。だが儂はまだ死なぬぞ」
 こうして立って戦うことができるならば最大限の抵抗をしてみせよう、と。
 そして未来を掴んでみせよう、と。
 憑装させた豊臣秀吉と共に、事実全てを覆しかねない力を湛えながら、熱意の焔を燃やしている。
 感じるのは圧倒的な、脅威。
 だからユノは、ほんの僅かにだけ躊躇いを覚えた。
(──ううん)
 ただ、それは本当に一瞬だけ。
 恐怖はある。でも、負ける気はなかった。
(だって、私も一人では無いから)
 多くの仲間がいる。故にこそ、此処までたどり着くことが出来たのだから。
 自身を鼓舞するよう、そう心に唱えたなら──真っ直ぐ前を見据えて。
「貴方が手にする未来に勝利は無いわ」
 声音は凛然と、爽風のように澱みなかった。
 すると信長はそれに真っ向から抗するように。秀吉から黒色を纏い、その身にすべらかな力を宿している。
 高速度の移動と斬撃を実現可能にする能力。直後には前進を以て距離を詰め、ユノへと斬りかかってきた。
 それでもユノは焦らず、努めて冷静に。
 直進してくる予想はついていたから先ずは見切って逸れるように跳び、回避。紙一重だが確かにその刀撃に空を切らせる。
 そのまま空中で一回転。ひらりと着地すると、素早く銀剣を抜き放っていた。
 既に敵が最接近し、剣撃と共に粘液を放ってきていたから──そこへ衝撃波。前面の全てに突風にも似た衝撃を見舞ってかき消してみせる。
 敵の突進自体は逸らす事は出来ず、僅かに剣先を掠められる──だがそれ以上は許さずに。連撃を喰らう前に高々と跳んでみせると、柱を蹴って宙返り。そのまま空中を滑るように離れていた。
 そうして十二分に間合いを取ることができれば。
「──踊りましょう」
 ユノは着地せず、宙を蹴ってふわりと翔んでいた。
 深風の祈誓(ミカゼノキセイ)。
 その身に纏うのは自由なる風の祝福。
 風に流されるよう、風に乗るよう、ときに曲線を、ときに直線を描いて流麗に飛び──信長の後方側の上を取ると、剣風と共に烈風の刃を放っている。
 それは鋭利なまでの風の塊。
 決して止まらぬ決意の刃。
 その衝撃が信長を纏う粘液と鎧を引き裂くと、同時に満身創痍と言ってよかった秀吉をも斬り裂いた。
 信長がはっとして背後を見る、その頃にはユノが風の力を借りて加速し肉迫している。
 仲間達と共に辿り着く地平。
 仲間達と共に実現する平和。
 それがこの先にあるという思いが、実感を伴ってユノの中に強く湧き出した。
 信長はとっさに刃を振るい受け切ろうとする。
 だが、ユノが剣を振り抜く速度の方が勝った。
 これは自分の力であると共に、仲間達皆の手で掴み取った一撃。
 その一手に全ての想いと力を乗せて。
「貴方の夢を此処で終わりにしましょう」
 風のように靭やかで、それでいて強烈な斬撃。
 ユノの放った銀色の一閃が、第六天魔王織田信長の心臓を裂いてその生命を両断する。
 自身の死を知った信長は、僅かにだけわなないてから、ぐらりと斃れた。
 床に降り立ったユノは、それを少しだけ見下ろす。
 小さく息をついて、それから周りを見回すと──不思議と暴風が止んだ、という感覚がよぎった。
 戦場は変わらず静謐であったのかも知れない。それでも先刻までにあった圧迫感のようなものはなく、風が吹き抜けるような心地がある。
 ユノは一度目を閉じると、改めて皆を見遣って。
「行きましょう」
 城を後にして、自分達の陣へと帰っていく。
 敵は強大だった。
 けれどそれは乗り越えられない壁ではなかった──皆と力を合わせれば。ユノは温かな感覚と共に、その身に爽風を感じていた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月28日


挿絵イラスト