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エンパイアウォー㊳~炎ノ献身

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #オブリビオン・フォーミュラ #織田信長 #魔軍転生

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●第六天、睥睨す
 威厳に満ちた声が響く。静かに開かれた瞳は、赤く炎の色をしていた。

「遂に来たか、猟兵達よ」

 宙に浮かんでいた魔空安土城は、首塚の一族の呪詛により地へと引き摺り下ろされた。その安土城の外では幕府軍と信長軍の本隊が交戦中で、刀と刀の打ち合う金属音、火縄銃の銃声、突撃する兵士の雄叫びがひとつに混ざった喧騒が遠く聞こえる。
 猟兵たちによって魔軍将はその大半が撃破され、今も残ったのは弥助アレキサンダーと豊臣秀吉のみ。猟兵たちの襲撃を待ちながら、信長は冷静に戦局を見極める。

「さて、もはや儂に万にひとつの勝ち目も無かろうが……。億にひとつでもあるのならば、賭けてみるのも一興よ」

 立ち上がった信長の背後で、炎が燃え上がる。かつてを思わせる様な赤い炎に包まれた信長。だがその炎が彼を傷つけることはない。燃え盛る火焔の五芒星は信長の隣にゆらりと揺らめく、一つの影を形作った。

「秘術「魔軍転生」。サルよ、弥助よ、儂に憑装せよ……!」

 炎の中より出でたるは黒き肌の大柄な、筋骨隆々とした彼の忠臣。闘神の独鈷杵、逆賊の十字架、大帝の剣を持つ、大帝剣『弥助アレキサンダー』の姿。主を守るように、仁王の如き面構えで、彼は信長の背後に燃え盛る炎となって付き従っている。

「では、猟兵よ。──来るがよい」

 鞘より抜刀し、振り払った抜き身の刀が炎を受けて赤く輝く。威風堂々、戦況の不利など意にも介さない黒い甲冑の男は、まさに魔王と呼ぶに相応しい。

 ──エンパイアの未来の為。最後の戦いが、始まろうとしていた。


 魔空安土城の中へと繋がったゲートを固定した状態で、甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)はゲートの前に集まった猟兵たちの顔をぐるりと見渡した。その金色の目に浮かぶのは強い信頼だ。自分の送り出す君達ならばと、勝利を信じて疑わない確信だ。戦の始まりからここに至るまで、一度もこの光は消えていない。

「ここまで来れば、余計な言葉は不要であるな」

 クヌギは頷いて、手にした巻物を広げる。力強い字で書かれているのは必勝祈願の神の名前と、信長に対して行った予知の結果だ。刀を抜いた黒い甲冑の背後に、もやもやと丸く黒い頭をしたもへじ顔が大きく描かれている。

「信長は己の配下の力を秘術「魔軍転生」によって、背後霊のように「憑装」させて戦っている。これから向かう先にいる信長が憑装しているのは大帝剣『弥助アレキサンダー』。対峙した者がいるならば、その力はよく知っているだろうな」

 敵の力は強大だ、これまでの強敵の様に信長もこちらの先手を取って動く。それをいかに防ぎ、反撃の一手へ繋げるか。それが重要だとクヌギは語る。

「第六天魔王信長、奴を倒せばこのエンパイアにも平和が訪れる。故に我輩の送る言葉は、ひとつきりだ!! ──勝ってこい!!!」

 張り上げた鼓舞の声は法螺貝よりも大きくて、猟兵たちの耳をキィンと貫いた。


本居凪
 ついにエンパイアウォーも最終面ですね。エンパイアの信長は非常に渋くて大変魔王らしい第六天魔王だと思います。この顔の隣にあふれるアフロのインパクトが強かったので、弥助さんにご登場して頂きました。アフロのスタンドかな……!
 というわけで、魔空安土城を彼の再びの本能寺としてやりましょう。
 以下はいつもの諸注意です。よく読んだ上でのご参加をお待ちしています。残りの日程的にも、リプレイは早め早めにお返ししていきます。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。

 合わせプレイングの際はお名前・ID・団体名をお忘れなく。また戦争シナリオの性質上、成功達成数があまりに超過、オーバーキルすぎる、とこちらで判断した場合はプレイングをお返しさせて頂く場合もあります。何卒ご了承ください。
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第1章 ボス戦 『第六天魔王『織田信長』弥助装』

POW   :    闘神の独鈷杵による決闘状態
【炎の闘気】が命中した対象を爆破し、更に互いを【炎の鎖】で繋ぐ。
SPD   :    逆賊の十字架による肉体変異
自身の身体部位ひとつを【おぞましく肥大化した不気味な鳥】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    大帝の剣の粉砕によるメガリス破壊効果
自身の装備武器を無数の【大帝の剣型】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。

イラスト:UMEn人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ナミル・タグイール
真っ黒にゃ…偉いヤツなら金ぴか鎧着てると思ったのににゃー!
金ぴかじゃないならいらないにゃ!ザックリ倒すにゃ!

闘気なんて避けれないにゃ!最初から爆破されて繋がる覚悟してくにゃ
【呪詛】を体に纏わせてなんとなくガードもするにゃ
熱いのは…頑張るにゃー!

繋がったらUC発動で呪いのもふもふになるにゃ
理性失うけど繋がってるなら関係ないにゃ!高耐久でどっちかが倒れるまでゴリ押しバトルにゃー!
相手が動きを止めるとか対策してきても熱くて暴れればダメージ入るハズにゃ。
周りなんて知らないにゃ!大暴れして全部倒すデスにゃー!

【呪詛】纏った攻撃なら憑装してるアフロも一緒に口撃できないかにゃ。
まとめてザックリしてやるにゃ!



●炎上艶笑・カースドビースト
 漆黒の甲冑を纏い、その背に炎を背負った信長を前に、ゲートから飛び出したナミル・タグイール(呪飾獣・f00003)は鮮やかなピンクと金色の眼をカッと見開き、わなわなと震え、次の瞬間にはまた強い眼差しを信長へと向けた。

「真っ黒にゃ……偉いヤツなら金ぴか鎧着てると思ったのににゃー! 金ぴかじゃないならいらないにゃ! ザックリ倒すにゃ!」

 ギラギラと欲に満ちた鋭い眼差し。ナミルの虹彩異色の双眸が見つめるのは彼女の求める金銀財宝それのみである。今は地に落とされようとも天にも浮かんだ安土城、その城主たる男がもし金ぴかの鎧を着ていたならそれを奪ってやろうと、期待にふわふわの黒い毛並みと胸を膨らませていたのに、ただ刺々しく黒いだけの鎧とは一体全体どういうつもりか。ナミルの期待は戦う前からバッサリと斬り捨てられてしまったらしかった。
 だがそれならそれで構わない。鎧を奪う必要がないのなら鎧ごとあの真っ黒い奴をぶちのめしてしまおうか。切り替えの早い強欲の獣は牙を剥き出し威嚇する。
 しかし信長はぴくりとも顔色を変えない。それは背後に控える爆発頭の仁王も同様で、眉間の皺がより深く刻まれ、大剣を握る彼の巌のような腕の筋肉がぎちりぎちり、軋んだくらいだ。

「黄金を好むか、まるでサルのような事を言いおる猫だ」

 信長は僅かに笑みを浮かべたようだった。ナミルの傲慢なその欲深さが、かつてはうつけと呼ばれた男の琴線に触れたのだろうか。未だ威嚇を続けるナミルを前にして、彼は冗談めいたことを口にする。

「ならば儂は、その頭蓋で作った盃を所望しよう……フ、なに、戯れだ、許せ」
「ヨユーたっぷりデスにゃ、ナメてマスにゃー?! ならそっちの! 黄金の……どっこいしょ! 慰謝料ってことで貰ってくデスにゃー!」

 燃え盛る劫火を背に負いながらする会話ではない。だが軍勢がほぼ壊滅したこの窮地にあっても尚、逆転を狙う程の胆力の持ち主である信長にはまだ精神的な余裕があるらしい。ファイティングポーズを取るナミルに信長の背後で炎となった弥助がその手に持った闘神の独鈷杵を掲げれば、炎は闘気となってナミルを襲う。収束した炎の闘気は爆発し、爆風が周囲を揺らがせる。濛々と立ち込める煙が相対する二人の姿を隠すが、どちらの影も動く様子は無い。徐々に煙が薄らいでいく。

「ほう、案外と猫とはしぶといもののようだな。それとも猟兵だから、か?」
「はぁ? んなもんしらねーデスにゃ!」

 熱かったけど頑張れば意外となんとかなるもんだったにゃあ、ナミルは焦げた毛先を気にしつつ、己の体に纏わせた呪詛が残っていることに息を吐く。その腕に嵌る黄金の装飾品に紛れるようにじゃらりと伸びる炎の鎖、それは彼女と信長をまっすぐに繋いでいる。

「でも、これでおまえもアフロもまとめてザックリですにゃ! 今から暴れるデスにゃー!」

 ぐわりと。ナミルの体が揺れる。爛々輝く獣の眼光、爪が牙が、がちりと鳴って。理性を押しのけた欲望がナミルの心を支配する。彼女の纏う呪詛が一段と濃くなって、四肢を地に、低く唸る姿はまさに、欲望に身を任せた一匹の獣であった。

「フシャァァァア……!」

 炎の鎖を掴んで、ナミルは駆け出した。滑る様に走る彼女の装飾品と鎖の双方から、金属の擦れるじゃらじゃらとした音が聞こえる。信長に向かって爪を振り上げれば、それは刀で受け止められた、が。超強化された彼女の爪は刀身をぺきりと軽く圧し折って、ただの鉄塊にしてしまう。信長が腕を振り抜き、鎖に繋がったナミルの体が床に叩きつけられても、彼女はすぐさま跳ね起き爪を振るって。
 鎖で繋がった身、逃げられないのはどちらも同じ。炎にまかれながらもナミルは信長の分厚く堅牢な黒甲冑に噛み付いて、切り裂いて、蹴りつける。

「……まったくもって、手負いの獣とは厄介なものよ」
「にゃはははははははははは!!!!!」

 赤い糸のように、燃え盛る炎の鎖で繋がる二人。
 ナミルの跳ね上がった耐久力の尽きるまで、その大暴れは続いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

秋穂・紗織
戦の最後の最後まで諦めない姿は見事
万が一の勝ち目を得る将とは、貴方のような人をいうのでしょうね
借りうる部下達からの信もきっと、強い
けれど、此処まで来られたのは、私ひとりの力ではない


「さあ、第六天魔。参りましょうか――人の世に吹くは無常の風。夢幻の花と、散りゆくは」
斬り散らし、鳴り散らしましょう
弔いの斬奏を

常にダッシュ+早業での動きで視界の外へと動き続けて、私を確りと狙えないようにつつ
フェイントで攻めると見せて攻撃誘い、肉体変異の兆候を見切りで捉え、回避を
完全にとはいかずとも、深手と妖刀の天峰白雪持つ手だけは避け

噛みつきで生命力を吸い出されるより速く
2回攻撃で頭部の目や口、柔らかい部分へと連閃を


霧島・クロト
メガリス……っつーのは知らねぇが、配下を経由すりゃ
使い放題砕き放題ってどーなんだよ!?

防御すると確実にジリ貧なんで、
基本は【見切り】ながら【残像】で撹乱して【逃げ足】【忍び足】。
音消しながらも間合い取られないように一先ず振り切る方向で。

やーだよ。誰が好き好んで間合いに入ってやるもんか。
【高速詠唱】から【氷戒装法『貪狼の狩人』】。
高機動になってから【空中戦】も取り入れて更に徹底して引き撃ち狙い。
氷の波動を絡めた【属性攻撃】と
【マヒ攻撃】【呪殺弾】【鎧砕き】【部位破壊】で徹底的に
変異した頭部を氷の魔弾の【2回攻撃】でボコボコにすんぜ。

防御しなければいけない場合のみ【オーラ防御】。
※アドリブ・連携可



●秋霜烈刃・ブリージングエッジ
 獣の暴れた痕跡残る城内に、新たな人影を信長は見つける。風に吹かれた木の葉の様に、あるいは鳥の落とした羽根の様に、ふわりと柔らかな栗毛を揺らして、戦場の似合わない少女はそこに現れた。秋の陽向のように仄かな暖かさ感じる微笑みを浮かべ、秋穂・紗織(木花吐息・f18825)は静かに語りかける。

「戦の最後の最後まで諦めない姿は見事。万が一の勝ち目を得る将とは、貴方のような人をいうのでしょうね」

(そして、借りうる部下達からの信もきっと、強い)

 信長の背後に立つ仁王が如き黒人の男の表情こそがその証し。忠に命を傾けて、彼の力となろうとする。オブリビオンと甦っても尚途絶えぬ忠誠は、それこそ世界を破壊するほどに強いのだろう。
 なればこそ、妖刀『天峰白雪』を握る紗織の手にも力が込められる。

(此処まで来られたのは、私ひとりの力ではない。多くの戦場で戦い、敵の策を封じてきた多くの猟兵たちの力もあってのもの)

 共に戦ってきた彼らの存在が、彼女の戦意を支えてくれる。

「美しき女人、美しき刀の持ち主に、見事と言われ喜ばぬ者はいなかろう。世辞であろうとその言葉、確かに受け取った」
「さあ、第六天魔。参りましょうか――人の世に吹くは無常の風。夢幻の花と、散りゆくは」
「人も同じよ、命散るさま、夢幻のごとくなり──」

 炎の熱は確かにあった。だが二人が刀を構えた一瞬だけは、燃える火の熱など感じさせないほどの冷たい静寂が場を支配する。天峰白雪の鍔元で、鈴音がりん、と小さく鳴った。甦りし過去を葬りさる弔いの斬奏。その最初の、一音。

 信長の背後に立つ弥助が、逆賊の十字架を信長の手へと差し出す。受けとったそれを一瞥すらせずに信長は十字架の力を発動させた。黒い甲冑、手甲に十字架から拡散した光が集まっていく。光はバチバチ、明滅したかと思えば今度は彼の腕を装甲ごと膨れ上がらせ、おぞましく肥大化した不気味な鳥の頭部へと変形させる。

「うわ、気持ち悪ぃな……それにメガリス……っつーのは知らねぇが、配下を経由すりゃ使い放題砕き放題ってどーなんだよ!?」

 配下の力を自分の物の様に使う信長に、霧島・クロト(機巧魔術の凍滅機人・f02330)が疑問の声を投げかける。

「配下が捧げた、ならばそれは儂のものだろう。儂が儂のものをどう使おうと、勝たねば終わるこの戦、負ければ終わりの大一番、使えるものを使わぬは、どんな軍師も愚策と言おう。持てるものはすべて使う、配下も武具も、すべてだ」

 信長の左手がむくりと起き上がる。嘴を開いて、ぐぎゃあ、と潰れたような声で鳴く鳥が、ぎろぎろと血走った目をして紗織とクロトを見つめている。あの嘴に噛み付かれるのは、危険だ。二人はほぼ同時に、信長の間合いから距離を取った。

「ほう、見かけによらず、すばしこいな」

 信長の言葉通り、紗織は信長の視界から外れようと素早い動きで撹乱する。クロトも黒いパワードスーツの脚をフル稼働させて信長の間合いから残像を残し離れていくが、体重を掛けない忍び足、紗織と比べその足音は無音に近く、信長が少しでも目を離せば移動した彼を見失ってしまっていただろう。しかし信長は捉えきれない速さで走る二人を前に、落ち着き払った態度を崩さない。

「逃げてばかりではつまらなかろう。儂に一太刀、浴びせたくはないのか。それがお前達の目的のはずだが?」
「いいます、ね、っ……ッ!」

 挑発を口にする信長に対して紗織は一歩前へ出る。黒い甲冑に刃が届きそうな距離まで肉薄し、下段から浮かせた刀身を横薙ぎの形に変え、胴を狙って──瞬間、信長の腹から嘴の先端が突き出される。
 刃の触れるか触れないかの寸前で紗織は刀を引く。腕を引く。踏み込んだ足を軸に、更にもう一歩、転がるように横へ飛びのいた。

「きゃ、あ……!!」

 がちり、と噛みあう嘴の音。彼女の肩が痛みに熱く燃えている。しかし刀はまだ支えられる。先の一閃も信長の攻撃誘う為のフェイント、嘴の出現を見逃さなかったお陰で深手は負っていなかった。

「あと少しだったようだな、惜しいことだ。そら、そちらのお前も、もっと近くへ寄るがいい」
「やーだよ。誰が好き好んで間合いに入ってやるもんか」

 赤いバイザーの向こうで、バイザーにも負けない赤い瞳が不敵に歪められる。機械の体に刻まれた彼の魔術回路が熱を帯びる。高速ではじまり終わる詠唱は、氷戒装法『貪狼の狩人』発動のための一手。

「我が身に北天に座す『貪狼』の加護を」

 クロトの体の周囲に氷の魔力が纏わりつき、白い冷気が彼の身体をぐるりと囲んだ。炎の熱が溶かした氷の魔力が雫となって床を濡らす。

「今の俺はとんでもなくクールだぜェ? こいつを溶かせるものなら溶かしてみろってな!」

 言って、再びクロトは走る。今度は避ける為ではない、攻撃の為だ。黒い篭手の両手首からは青い冷気が迸る。クロトは氷の波動を放出する反動で後方に下がりながら、信長の体から生えたおぞましくも膨れ上がった鳥の頭を狙い撃っていく。刀と鳥の首で信長が反撃しようとしても、高機動になった彼の身体は跳躍すれば軽々と空中に翻り、信長の頭上を飛び越える。凍てつく氷の魔弾は鳥の頭を痺れさせ、凍傷を与え、その動きを鈍らせていった。

「まるで軽業師のごとくに鮮やかに動くものだな、面白い、興味深い」
「笑うのはそこまでですよ、詠うならば、奏でる刃を響かせて……!」

 紗織が振るう天峰白雪の刀身が、風を切ってかたかたと鳴る。【斜陽斬奏】、白く輝く刃をもって舞い手は刀と舞い踊り、動きの鈍った鳥の頭、ぐるりと焦点の合わない眼を、嘴の奥に見える赤い舌を、平らかな額を九つの斬撃が鋭く切り裂く。

「ク、」

 斬撃にぱっくりと割れた鳥頭から血は流れ出ない。力を失った頭部は淡い光となって、ほろほろ解けて消えていく。だが、元に戻った信長の纏う黒い甲冑は紗織の斬撃にひび割れ、クロトの氷で白く凍りついていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ステラ・アルゲン
ついにここまで来た
あとはお前を倒して決着をつけるのみだな!

敵の先制攻撃を防御する
水【属性攻撃】を【オーラ防御】に纏わせ【火炎耐性】を強化する
それでも防げないなら【激痛耐性】で耐えるまで

炎の鎖で動きを制限するか
だがそれは互いに同じこと
信長も鎖で繋がれている今、剣を投擲しても当てやすいはず!
剣を投げ【凶つ星】を発動
懐に入り込めばこちらのもの、【全力魔法】で【怪力】を上げ【鎧砕き】の重い一撃を叩き込む!
(アドリブ・連携OK)


武蔵天狗・弁慶
ぬしの力だけでなく憑装も加わり更に強くなっておることじゃろう。
じゃが、これ以上故郷を荒らす事は許さんぞ!
好き勝手にはさせん!
ゆくぞ、牛若!

牛若の身軽さを活かして【残像】で攻撃を避けるぞ!
食らってしまったところで、鎖で繋がって仕舞えばこっちのもんじゃ!
信長に近付き一撃を食らわす!
攻撃を食らいそうになったら【カウンター】でぶん殴る!
わしらの〈灰燼拳〉は2人分じゃ……重いぞ!

【アドリブ、連携可】



●魔鎧粉砕・天狗星
 冷気の残る城内にゲートより颯爽舞い降りたふたつの影、武蔵天狗・弁慶(feat.牛若丸・f14394)とステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、それぞれの刀と剣を構えて信長と睨みあっていた。

「おうおう、わしこそ武蔵天狗弁慶! 信長よ、ぬしの力だけでなく憑装も加わり更に強くなっておることじゃろう。じゃが、これ以上故郷を荒らす事は許さんぞ!」
「ついにここまで来た。あとはお前を倒して決着をつけるのみだな!」

 威勢よく名乗りを挙げて呵々と笑う天狗面と若侍、高らかに告げる白き流星の騎士。彼らの声に漆黒の魔王は一瞥をくれるが、猟兵たちの攻撃で相当のダメージを負っているだろうにも関わらず、その目にはまだ猟兵を倒そうとする彼の野望が燃え盛っていた。
 だがしかし、にしては。顎に手を当てて、彼らの獲物を品定めでもするかのような視線を感じて、ステラはやや、訝しむ。

「腰の二刀の拵え、その西洋剣も実に良い見目だ。……あの陰陽師のやつの水晶も中々に美しくあったが、刀と鍛えさえて愛でるには、ちと脆かった」
「何を、」
「美しい剣だと褒めている、お前たちの手にあるには惜しいと思うほどにな」
「なにぃ、この世の刀を狩ってよいのはわしだけじゃ! もうこれ以上も好き勝手にはさせん! ゆくぞ、牛若!」

 怒れる天狗の面が、長い赤鼻振り上げて牛若丸を急き立てる。抜刀された名刀・松竹梅と妖刀・凩、二振りの白刃がすらりとその身を露わにした。
 信長もまた鞘より太刀を抜き放つ。炎を反射し輝く刀身、それがぎらりと獰猛な光を帯びてこちらを見る。ばちばちと燃える炎の音、背後の弥助がぐわりと両手を広げれば、可視化された炎の闘気が猟兵たちへと襲い来る。

「くるぞ、牛若ぁっ!」

 野太い声に背を押されるように羽ばたく薄緑。牛若丸は残像残る速さでもって、爆炎を避けようと身軽に走る。ステラもまた迫り来る炎を前にして、その身に纏う蒼いマントをばさりと翻す。途端、ステラの周囲を覆うひやりと冷たい水の気配。淡い青に光るオーラが爆風と炎に巻かれる彼女の体を包み込み、身を焼き焦がそうとする爆発の衝撃を少しでも軽減しようとする。
 だが、視界全部を覆い尽くさんとする爆炎からは逃れられない。天井を揺るがすほどの衝撃が収まる頃には、二人の腕には信長に繋がる炎の鎖が絡まっていた。めらめらと燃える炎の鎖は熱くは無かったが、簡単には外せそうにない。

「さぁ、これにて逃げ場は失せたな。圧し切るか、貫くか、……この一太刀にて終いなら、せめて死に様は選ばせてやるが」
「なぁにが! 鎖で繋がって仕舞えばこっちのもんじゃ!」

 弁慶の威勢のいい声が飛ぶ。信長にぐいと鎖を力強く引かれて二人の体はバランスを崩して倒れそうになり、しかしつんのめり、前へ倒れ込もうとする重力にステラは逆に身を任せ、流星剣を低い姿勢から振り抜くように信長へ向けて──投擲した。

「炎の鎖で動きを制限するか、だがそれは互いに同じこと。お前にこの剣、避けられるか!」
「ム、……ッ!!」

 シュッ、と空間を切り裂いた剣は一条の光となる。【凶つ星】が一つ、炎の鎖の伸びる先へとぐんぐんと速度をあげながら、流星の様に飛んでいった。
 剣はまっすぐに衝突し、信長の纏う黒甲冑にヒビが入る。小癪なと歪む赤い鷹の目、しかしその視界には既にステラの姿は無い。消えた彼女を探して眼をぐるりと動かした信長は耳元で凛々しく涼やかな声を聞く。

「それとも私が、彗星のように……飛んでやろうか?」

 声は近い。そして信長が声の方に体の軸を移し振り向こうとしても、もう遅い。ステラが流星剣を彼の鎧の胴へと叩きつけるように振るう寸前、首だけで振り返った信長の視界に映る青い瞳には、散った火の粉を映した炎の色が垣間見えていた。

「ぐ、うう……っ!」

 裂帛の気合と共に傷の入った甲冑の上から重い一撃を食らって、信長はまた呻く。魔力で増した怪力で振るわれる剣の一撃は、罅割れた黒き籠手を叩き割り、袖は剥され、黒甲冑だった鉄の破片がぼろぼろと信長から剥がれ落ちていった。
 鎧を失った信長を守るように、弥助の炎がステラとの間に割り入って盾の様に炎の壁で二人を隔てるが、その隙を狙って弁慶と牛若丸が駆けていく。

「覚悟せい、信長!」
 
 ひょういと跳んだ天狗の手元で凩閃く。信長を翻弄するような軽快な動きは鎖に縛されていようとも、一閃の鋭さは鈍ることなど無い。圧し切るような二刀の連撃が、信長を少しずつ追い詰めていった。

「糸に繋がれた羽虫が如き有様で、ようよう飛ぶものだな、天狗め……!」

 信長の手が手繰り寄せた鎖を掴みただでさえ近い距離を強引に詰める。距離の分だけ浮いた鎖で刀を絡め取った信長は、右に握った刀の刃筋を立てて正中線、距離が近づく牛若丸の胸の中心目掛け突かんと腕を突き出す。
 
「甘ぁい! わしらの〈灰燼拳〉は2人分じゃ……重いぞ!」

 絡め取られた刀を捨てて、空いた拳が握られる。
 迫る刀の一突きに、素手の一突き、相対し。
 交錯する一瞬、戦いの余波で城内のあちこちに付いた炎が更に大きく燃え盛る。

 ──ガツン!

 鉄の鎧を叩き割る衝撃が信長の体を揺らして魔王の鎧に拳大の穴を開けても、刀を取り落とさなかったのは流石、と言うべきか。薄緑色の装束、布一枚まで肉薄した刃。牛若丸の長く伸ばされた金糸がはらりと幾本か散って、炎の中に消えていく。
 がしゃがしゃと音立てて、崩れ落ちていく魔王の鎧。それは信長を守るすべてが、壊れていく音でもあった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三寸釘・スズロク
アリンちゃん(f06291)と同行

俺は結構、織田信長…つってもUDCアースの話だけど
好きな武将なんだよなァ
徹底した実力主義、カリスマ、懐の深さ…弥助を重用したエピソードもな
魔王の作った天下が続く世界も、ちょっと見てみたかった
わかってるよ、オブリビオンじゃなきゃの話

熱ッ!?アリンちゃんそれホントに大丈夫…?
言いつつ防壁頼りに後方で『Jinx』準備
噛みつき攻撃後の肉薄した瞬間を狙って飛び出して
【人形師の手繰る糸】信長本体へ撃つ
知覚操作で距離感を狂わせて回避行動を阻害する

大丈夫、平和な未来が訪れれば
アンタは永劫語り継がれるし、子孫がトップアスリートにでもなってくれる
渡来連中の事も、後は任せてくれって


アリン・フェアフィールド
スズロクくん(f03285)と同行

そっか、UDCアースとエンパイアは似てるんだ
信長も弥助って人も、悪い人だったわけじゃないんだね…?
でも、ここはもう彼らのいない未来なんだ

二人分の力にはこっちも二人分!
まず前に出て攻撃を凌ぐよ
炎の闘気は、敢えて避けない[覚悟][火炎耐性]
隕石だって砕いてきたんだから…決闘、上等!
鎖の繋がった相手の攻撃なら
いっそ正面から受け止めやすくなるって位の覚悟で!

噛みつき攻撃にはスズロクくんを後ろに[かばう]で
スクラップハンドを大きく広げて[盾受け]
彼らの動きを抑えられたら
【スクラップ・ジャイアントの手】ビッグ・パンチモード!
野望も悔恨も全部、骸の海まで吹き飛ばしてあげる!



●気炎共振・オーバーラップスパーク
 その身に纏う漆黒の甲冑は、鎧というにはあまりにも、心もとなかった。城内は今や、信長を守らんとする弥助の炎が隅々まで広がりごうごうと燃えている。破壊された甲冑と、彼の受けた数多の傷。もはや風前の灯火といった姿だが、信長の負傷の度合に反比例するかのように、炎と変じた弥助が主を守らんとより激しく己を燃え盛らせているのだ。

「俺は結構、織田信長……つってもUDCアースの話だけど、好きな武将なんだよなァ。徹底した実力主義、カリスマ、懐の深さ……弥助を重用したエピソードもな」

 文字通り忠義に燃える男を見て、三寸釘・スズロク(ギミック・f03285)は顎に手を当てしみじみと呟く。歴史小説、テレビドラマにサブカルチャー。かつて人びとに魔王と呼ばれ恐れられた存在は現代でも尚、良くも悪くも有名である。

「そっか、UDCアースとエンパイアは似てるんだ。信長も弥助って人も、悪い人だったわけじゃないんだね……?」
「まァ、善か悪か、あれこれとハードウェア……外装は弄られたりもするが、存在感だとか、カリスマ性だとか、根底にある性質はだいたい同じなんだよな。だからそんな魔王の作った天下が続く世界も、ちょっと見てみたかった……かもなァ」

 隣で小さく首を傾げるアリン・フェアフィールド(Glow Girl・f06291)に、ふとちいさく漏らしたのは信長という存在への憧れと、イフの可能性を思う浪漫だ。天下統一を前にして、命半ばに消えた男がもし生きていたら。そんなありがちだが心湧き立たせる物語をけして嫌いとは言うまい。

「それがオブリビオンでなかったら、の話だけどなァ」
「昔の人に会えたらすごい、なんて思ったりもするけど、でも、ここはもう彼らのいない未来なんだ」

 未来は誰の先にもある。だがその有様は決してひとつではないし、誰かが決めていいものでもない。アリンは晴れ渡った快晴の空の様な青い瞳で厳しく勇ましく、信長を見つめる。信長の生き様も死に様も、アリンはあまり詳しく知らないが、世界を破壊し未来を砕こうとする彼を止めなくてはならないことは解っている。
 彼女の左腕で、戦いに備えて装着された無骨なスクラップハンドが炎の赤に照り輝く。大きく小さく形を変えて輝くそれは、まるで息づいているかのようだった。

「未来のために、世界のために……止めるよ!」

 信長の背後で一際大きく炎が膨らんだ。独鈷杵を通じて、子どもの頭ほどもある大きさの火球となった炎の闘気がふたりへと向けて放たれる。
 勢いよく進む火球は猟兵たちを丸ごと飲み込み焼き尽くしてしまおうと大きく口を開くけれど、炎を前にしてもアリンは一歩も退かなかった。覚悟に満ちた瞳でもって迫る火球を睨みつける。だって、宇宙バイクにスモールシップで駆けてきた宇宙育ちには、正面から飛んでくる自分よりも大きな障害物なんて、慣れっこだ!

「スズロクくん、くるよっ!」

 一歩前へと出たアリン。爆発の衝撃と同時に、ごっ、と、正面から熱波が吹き付ける。飛ばされそうな勢いと、炎の熱さに後ろから慌てたような気配を感じながらもアリンはぐっと意識を保ち、顔の前で構えたスクラップハンドで炎を散らした。

「熱ッ!? アリンちゃんそれホントに大丈夫……?」
「平気、平気っ、なんか腕がすっごくあっついけど!」

 ネイルガンに釘を装填する音と共にそんな声が聞こえてくるが、アリンはぐっと耐えて耐えて、爆風の過ぎ去る時を待つ。熱を帯びた鉄の腕も、我慢すればその内に熱は引いていく。

「小細工結構。だがそれで終わりではないだろう?」

 闘気の爆風過ぎ去り、正面から炎で熱されるふたりは身を焼く熱さに息を吐く。前に立って爆発をもろに浴びたアリンの腕に掛けられた炎の鎖は、信長の腕に繋がっていて、いくら振り払おうとしても鎖が外れることは無かった。

「この程度の鎖で儂の腕が塞がれた訳では無い。分かっていような、猟兵よ」
「隕石だって砕いてきたんだから……決闘、上等!」
「おぅよ、むしろこっからだ……、ぜ、っ!」

 両足強く踏み締めて、四つの光が信長を見る。それを受け止めて、深く頷いて、それでこそと、今にも崩れそうな甲冑を振るわせて──魔王は呵々と笑ったのだ。

「儂に、万にひとつの勝ち目も無いと思わせたのだ。すべてを賭けて、億にひとつの勝ち目を取ろうと思わせたのだ。ならばそちらも、全身全霊で討ちに来るがよい」
 ──でなければ、つまらない。
 爆風の名残か、風に火の粉がはらはらと花びらのように散る。炎を背に負い、腕を炎の鎖でつながれようと、彼こそは、彼こそが、神をも畏れぬ第六天魔王。その背後に垣間見える幻は本能寺。かつての彼が人として最後を迎えた因縁の地、そして過去より甦りし男の戻るべき地獄である。

「行くぞ、弥助。どこまでもついてくるがいい」

 臣下の携えた逆賊の十字架が光を帯びて信長を覆う。彼の首から上がぐぶぐぶと膨れ上がり、ぞわりぞわりと形を変える。伸びていく口は硬く嘴に、吊り上がっていく眼は鷹の様に鋭くなって、黒く結われた髷は天に突き立つ冠羽となって、眼はぎょろぎょろと血走りおぞましさを感じさせる凶鳥は、甲高い声で強く鳴いた。
 狙いはアリンの後ろに立つスズロク、信長の前で盾となった少女の後ろで彼が何かをしようとしていた。信長はアリンに繋がる鎖を掴み、引き寄せた少女の体を力任せに地に叩きつけて、嘴を開いてスズロクに噛み付かんとする。

「させ、ないっ、て……ば!」

 信長の体を押し止める巨大な掌。機械のがらくた、けれど誰かを守るための腕。少女の止めた一瞬はきっと十秒にも満たなかったが、狙いを付けて引き金を引くにはきっと十分すぎる時間だったろう。

「アンテナ設置オッケー?  悪いけど、アンタをハイジャックさせて貰うぜ」

 パス、と軽い音が、スズロクの手の中にある黒く四角い、細かな傷だらけの釘打機からした。信長の頭、平たい鳥の眉間に刺さる三寸釘の痛み。長くはない、短くもない、だが鳥にせよ人にせよ、頭を貫くには十分な長さの釘だ。そして釘打機から射出されるのは釘にあって、釘にあらず。自分の脳がぐらぐらと揺らされる感覚に、思わず信長は手を額に伸ばしていた。

「お、おぉぉお……っ、なにが、いや、なにをしたぁ!」
「ヘッ、言葉通りさ、乗っ取らせてもらったぜェ、アンタの頭の中!」

 電脳ゴーグルを掛けたスズロクの視界に広がるパネル。カタカタと空中でキーを打ち鳴らし、信長の脳信号を混線させる。【人形師の手繰る糸】に狂わされた知覚では、信長はただ立っていることしか出来ない。

「否、否だ!! 見えずとも、すべて破壊してしまえば同じよ!!」

 鳥の頭から人へと戻っていく信長の、カッと見開いた赤い眼はぐるりと裏返り、結ばれない焦点を結ぼうと上下左右に目まぐるしく動く。黒き甲冑を壊されようとも手離さなかった刀が、彼の手の中で千々に砕けて大帝の剣の形をした花びらに変わっていく。鋭く睨むその目にも負けぬ鋭い剣先が、この場にあるもの全てを破壊しようと、ふわりと信長の周囲に浮かぶ。

「──ゆけ、大帝のつる、ギ……ッ!」
「追加でもう一本、くらっとけ! アリンちゃん、今だ!」
「うん!」

 スズロクのネイルガンが更に信長の額に刺さる。振り上げた手を下ろせない信長に、アリンはスクラップハンドを強く固く握って、大きく振りかぶった。

「わたしが皆を守るんだ! この手で! 【スクラップ・ジャイアントの手】……ビッグ・パンチモード!」

 ぐぐ、と大きくなったスクラップハンド。それはアリンよりも信長よりも大きくなって、まるで隕石の様な握り拳が静止した信長をしっかり捉える。

「野望も悔恨も全部、骸の海まで吹き飛ばしてあげる!」
「ァ、ガッ、こ、の……儂、が……!」

 隕石が衝突したかの如き衝撃が、天も地も揺るがせる。振り抜いたアリンの拳は床に当たって、信長を中心に大きなクレーターを作ったのだった。
 そのままばったりと倒れ込んだ信長は動かない。窪んだ床の中央に仰向けて倒れる信長に、スズロクとアリンは恐る恐る近づいていく。

「は、ハハハハハ……! ようやったものよ、猟兵! 儂の野望はここまでか!」

 鎧剥がれて、刀も折れて、結った髪すらも紐が切れたのだろう、総髪を広げた信長は、倒れたまま満身創痍で笑っていた。黒い甲冑の下に着ていた衣も、流れ出た血で真っ赤に染まっているのに、なんとも楽しそうに信長は笑っている。

「いやはやまこと、実に残念。この身最後の大博打、結局儂は勝てずじまいか」
「大丈夫、平和な未来が訪れれば、アンタは永劫語り継がれるし、子孫がトップアスリートにでもなってくれる。渡来連中の事も、後は任せてくれって」
「ほう、儂の血の果てにはそのような未来もあったのか。ますますここを滅ぼして、別の世界も侵略してみたかったものだな」
「ここを滅ぼすのは絶対なんだね……?」

 わからないなぁという顔をするアリンに、儂らは皆そういうものだと信長は途切れ途切れの言葉を返す。過去より甦った時点で、世界の滅亡しか頭にないうつけ者よと、すっきりとした顔で血を吐きながら、信長はにやりと笑って言った。

 彼の背で炎はまだ燃えていた。だが、それも信長の体が光の粒子となっていくと共に少しずつ火の勢いは弱まっていた。弥助の形をしていた炎はとっくに形を保てなくなっていて、炎は最後にあの強い眼差しだけを残してだんだんと小さくなり、やがて火の粉も残さず消えてしまう。

「同じ場所へ還るだろうに。弥助もサルめも、最後まで忠義者なことだ」
「それだけ、好きだったんだよ、あなたが」

 アリンの言葉に、信長は一言、知っておる、と。にやり歪めた口からただそれだけを溢して、光の中に消えていったのだった。
 燃え盛っていた炎が消え、城内に静寂が戻ってくる。だがそれは緊迫した状況に感じるような冷たい静寂ではない。平穏を伝える、仄かな暖かさを感じる静寂だ。

 ここはエンパイアウォーの終点、魔空安土城。
 ここに至るまで実に多くの困難と戦いがあった。だがそれを乗り越えて、猟兵たちとエンパイアに生きる人々はついに平和をこの手に掴んだ。その証拠に、城の中からも、外からも、城を震わせるほどの勝ち鬨が上がっているのが聞こえてくる。
 猟兵たちも傷だらけだったり、焦げたりしているお互いの姿を見て、疲労も残れど、達成感に満ちた顔を見合わせて。

 そうしてみんな、昇る朝日にも負けないくらい、輝く笑顔で笑い合うのだった。




 エンパイアウォー、これにて終幕──めでたし、めでたし!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月31日


挿絵イラスト