エンパイアウォー㉞~虎吼を纏いて魔王は来る
●羽織る力
「ついに此度の戦争最大の敵が現れました」
グリモアベースへと集まった猟兵達、その眼前の巨大スクリーンに映し出されるのは漆黒の鎧を纏うたオブリビオン――『第六天魔王』織田信長の姿だ。
関ヶ原の戦いに勝利をおさめ、首塚の一族によって、魔空安土城へと乗り込むことができるようになり、残った侍の協力を受け内部にいるとされた精鋭部隊を相手にする必要がない。つまり、猟兵達の相手をするべきは織田信長一人、大将首に専念できるということ。
「ですが、敵は実に厄介な能力を保有しております」
そう言い、スクリーンを操作するグリモア猟兵オクタ・ゴート(八本足の黒山羊・f05708)。次に画面に映し出されたのは、なぜか魔軍将の二人、弥助アレキサンダーと豊臣秀吉、そして虎頭の赤漆鎧――武田信玄である。
「此度のオブリビオンフォーミュラ、織田信長は配下の魔軍将を背後霊のように「憑装」させて戦う能力を有しています。その名も【秘術「魔軍転生」】。皆様に相手をしていただくのは、この武田信玄を憑依させた織田信長――ということです」
軍略の天才、甲斐の虎。【Q】によって復活を阻止したはずが、このような形で現れるとは……流石に、これを予想したものはそう多くないだろう。
虎の力を宿した魔王は、更に猟兵達に先制攻撃を仕掛けてくる。対策を練らねば一蹴されてしまうだろう。もしそれを潜り抜けたとて敵は強大な力を持っている、苦戦は必至だ。
「――と、ここまで敵の脅威を語ってまいりましたが、皆様なら必ずかの敵を討ち果たして頂けると信じております」
山羊は、鼓舞するように猟兵達へとそう語った。
猟兵達はこれまで数多くの戦場を勝利へと導いてきた。徳川の軍に一切の被害を出すことなく、道中に立ちはだかる幾人もの魔軍将を討ち倒し、そして此度の武田信玄でさえもオブリビオン化を防いだ実績さえある――そう簡単に、敗れるはずがないのだ、と。
「それに、こういうでは御座いませんか。『人は城、人は石垣、人は堀』――と」
魔性の力を帯び、天に坐した敵の城よりも。力によって絡めとった協力よりも。猟兵達の団結の方が、よほど固く強いに決まっている。
正八面体の赤きグリモアが、導きとなる――魔王を討つ、勇者の為に。
佐渡
●今回のシナリオに関する注意事項
第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
また、このシナリオは「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
佐渡と申します。
今回のシナリオは、ついに現れたサムライエンパイアのオブリビオン・フォーミュラ『第六天魔王』織田信長を打倒する任務です。敵は「武田信玄」を付き従え、その力を用いて戦います。先制攻撃も行う、実に強力な相手です。
ここまでの戦いを勝ち抜いてきた皆様の戦いを、全身全霊で格好良く描写させて頂きたいと思っておりますので、何卒宜しくお願い致します。
第1章 ボス戦
『第六天魔王『織田信長』信玄装』
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POW : 風林火山
【渦巻く炎の刀】【黒曜石の全身甲冑】【嵐を呼ぶ樹木の翼】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 甲斐の虎
自身の身長の2倍の【白虎状態に変身した武田信玄】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : 武田騎馬軍団
レベル×5本の【武田軍】属性の【騎馬武者】を放つ。
イラスト:UMEn人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宇冠・龍
連携希望
【談天雕竜】にて、百の亡霊を武器の銃と共に召喚
騎馬武者相手では機動性では不利。先に動かれるというならば、サムライエンパイアらしく「三段撃ち」で迎え撃ちましょう
呪詛と毒属性を込めた弾丸を放ちます。信玄公の死因は結核らしいですし毒は有効のはず
(救助活動で得た知識がこんな形で活用されるのも悲しいですね)
多勢に無勢ですが、霊一体一体が私と同じ強さを持ちます
そしてここは安土城内部。騎馬全体を展開できるほどの平野でなく、逆に銃の射線が通りやすい
騎馬隊を近づけさせず乱戦を誘えば、それだけ他者が動きやすくなります
抜け道や伏兵に注意しつつ時間稼ぎを行いましょう
遠呂智・景明
信玄公と信長公が手を結ぶたぁかの神君が生きてたら腰抜かすんじゃねぇの?
まあ、そんなことはどうでもいいか。
大蛇切 景明、推して参る。
相手は武田の騎馬武者。
我が一振は馬の脚など容易く斬り落とす。
それが二振であれば騎馬など恐るるに足らず。
まずは自身の足元を切り刻み脆い部分を作り出し、敵の進行方向を固定する。数が少ねぇ方が斬りやすい。
騎馬隊の動きを見切りつつ、敵が突っ込んできた所へかうんたぁ。その脚の破壊を狙う。
馬が崩れりゃ上の兵士の首を取る。
さあ、どんどん来やがれよ。
ある程度片付いたらこちらの番よ。
七体よ精霊を敵の背後に呼び出し、捕縛。
動きを止めた信長の首、取らせてもらおう。
第六天魔王、討ち取ったり
●猟兵三段撃ち改
「――来たか、猟兵」
安土城、天守。
乗り込んだ猟兵を前に、座っていた黒鎧の男が、がしゃりと鈍い金属音と共に立ち会がる。表情は読めぬ、なれど纏う気迫は足が竦むほどに強大だ。
「是非もなし。さあ、死合おうではないか」
言葉少なに、腰に提げた刀を抜き放つ。それと同時に溢れる赤色の炎は彼の背に一匹の虎を顕す――人語を話すこともなく、陽炎の如く揺らめきながら。物々しく軍配を持ち上げるは甲斐の虎。戦国乱世の雄が今、一体となって猟兵へと牙を剥く。
次の瞬間、広い天守のその端から端を埋め尽くす勢いで現る騎馬武者。皆一様に朱染めの具足であり、それが信長ではなく、信長の召喚し自らに宿した武将、武田信玄のものであることは明白。逸話に名高き武田の騎馬軍団。
それを前に、頬に手を添え待ち受けるは黒のドレスに白髪を三つ編みの淑女。されどその頭には角、腰からは龍鱗を持つ尾を生やす。
宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)。彼女は静かに目を伏せ呟いた。
「得た力を、このようにして使わなければならないとは――」
苦し気に呻くその訳は、居並ぶ騎兵に対する絶望ではなかった。それは、自らの編んだ計略に組み込まれた無慈悲さに対する哀しみ。
それでも彼女は意を決する、手段を選べる相手ではなく、選んでいる暇がある悠長な場ではない。
「行け!」
信長の命に従い、先制にして必殺の突撃が猟兵の身を轢き潰さんと迫り来る。
『悪鬼百鬼と数えれば、七転八倒列を成す』
――応じるは、負の情念によりこの世へ留まる魂魄の化身達。百を超す悪霊は龍の言葉に従い横隊を組む。しかし、それでも戦力には雲泥の差があった。一騎当千の荒武者と、揺らぐ悪霊では話にならない。
それでも彼女は決して焦らない。悪霊の手に持たせるその武器こそ、彼女の編んだ策の真髄。
火縄銃。無敵とまで言われた武田の騎馬軍団を葬ったその武器、そして他でもない織田信長が実行した陣。再発射に時間のかかる火縄銃を三人が交代しながら連射するそれは後世で、「三段撃ち」と呼ばれていた。
ここは如何に広いとはいえ屋内の天守、遮蔽物などなく射線は通りやすい。更に幅に制限がある以上余りに多くの兵は呼び出せまい、と龍は考えた。
「笑止、我が策を模倣しただけで敵うと思うか!」
魔王は吼える。戦場が狭いという事は、つまり騎馬隊が敵陣に到着する時間もまた早いということ。龍の召喚した悪霊が一射目を放つよりも、敵陣に騎馬が到着する方が先だ。しかし、それでも白髪黒尾の淑女は表情を変えない。
彼女の目の前で……白の紋付が揺れた。
「二番煎じじゃあ通じない――だから、俺がいるのさ」
轟と風が生まれ、馬の足を鈍らせる。その突風の後に見れば、漆塗の床は無残に切り裂かれ、木々が逆立ち細かな槍衾のように成り果てた。
しかしそれでもなお僅かに残った道に、騎馬兵たちが殺到する。しかし、既に一度鈍った動きではもう届かない。信長は既に「先手」を使い終えた。兵を呼び、号令を出し、そして敵へと向かわせた。既にこれだけでも十分に先制であろう。今、遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)の技により、攻守の順序は逆転する。
どどどう、どどどう。
お行儀よく並んだ馬の頭を、そこに跨るお侍の兜を、無慈悲に貫く鉄の雨。一度崩れればもう逃れる事はできない、足元に連なる骸に道を塞がれ、脚が止まれば二度目の銃撃。
更に退避しようとするならば、追い立てる剣士が逃さず殺す。騎馬の背に立つ精霊が兵を抱き留めてしまえば、ユーベルコードによって形作られたその肉体は猛烈に弱体し、その隙に飛び込む景明の二刀が馬と兵の両方の首は簡単に刎ね飛ぶ。
一張羅は夥しい返り血で赤黒く染まり、手にした二刀にこびり付く血糊を振るい落とすや再び敵へと挑みかかる。修羅の如きその戦いは、力によって呼び出されただけの残影にさえ恐怖を抱かせるほどのもの。
甲斐の虎たる信玄と、第六天魔王たる信長が力を合わせるというこの状況を、神君家康が見たら泡を吹くかもしれないと、彼は戦いに出る前ぼんやり考えていた。
実際にそれは恐ろしい強さである。完全な統率による動き、引き際を理解し陣を立て直そうと、既に攻撃ではなく後退へと切り替わっている指揮官の判断。並のものなら到底敵うまい。
――が、生憎と景明も。龍も。全くもって「並」ではなかった。
ぐろろ、と苦し気に呻く信長の後ろに在った信玄。力の源たる君主が弱まったことで召喚された者達にも影響が及ぶ。
龍の作戦、後悔の原因。……人命を救助する知識を逆手に取った、呪毒の弾丸。信玄の死因である「結核」に似た症状を引き起こすそれを悪霊たちに撃たせていたのだ。
三段撃ち、結核。過去より来る者、逸話が残る名将。だからこそその穴を弱点を徹底的に狙う。世界を守る、その為の最善策。
「………」
それでも、胸が痛む事には変わりがない。そんな彼女の姿を見てか見ずか、景明は七つの精霊と共に信長へと斬り込んでゆく。
敵のユーベルコードを封じる力を帯びたそれらを、信長は数体までなら対処し、切り刻むはずだ。それでも、自らに憑依させた力が弱れば本体にも影響がでるのは必然。
「第六天魔王、討ち取ったり!」
敵を切り刻み浴びた鮮血よりなお赤きその瞳が、魔王の瞳とかち合った。そして、二刀は翻り、閃光が瞬く。
――大きな傷を負った魔王は一度骸の海へと引き下がった。同時に二人も又、グリモアによって帰投するだろう。
騎馬隊との乱戦の中で負った景明の傷は、龍が治すに違いない。互いの動きを合わせた結果掴んだ勝利を分かち合い……戦場で覗いた恐ろしき修羅を抑えるのにも、命を救う術を奪うため使った胸の痛みを抑えるのにも、その休息は十分な役割を果たすに違いない。
力による共同ではなく、力を合わす共闘。その優劣は既に明るみに出た。次に魔王へと挑むのは、誰か。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ソフィア・リューカン
……え、虎なの?信玄さんそれでいいの?
ともかく、敵は白虎に乗って攻撃して来るわ!
喉元を喰われないようジェファーソンを素早く動かし、内部の仕掛けから強烈な電流による【マヒ攻撃】を発射して、私に攻撃が行かないよう【かばう】ように動かすわ。
虎は猫科の生物!信玄としての人間も混ざっているけど……人形の武装を召喚、ジェファーソンにはそのまま猫じゃらしっぽいのを渡して行動を誘導、レイニーにはマタタビエキスたっぷりの卵爆弾を持たせておくわ!
相手は素早いから慎重に狙いを定めて卵爆弾を【投擲】、マタタビに酔って動きにくくなっているうちに『星縫い』で白虎を突き刺すわ!場所は動きにくくなるよう、足首当たりを狙うわ!
杼糸・絡新婦
先に倒しとった武将まで
憑依させるとか狡いやろ、ほんま。
出来るだけ力を抜き先制攻撃を受け止め、
オペラツィオン・マカブルを発動させる。
可能なら
【見切り】をするように敵の動きを観察、
【フェイント】で動きこちらに誘う。
出番やで、サイギョウ。
他の猟兵を【かばう】ことにより
排出させカウンターのように返す。
逆に他の猟兵に気を取られているなら【忍び足】で
接近し不意打ち狙いで攻撃を行う。
●scapedolls
骸の海より舞い戻り、傷を癒した織田信長。その前にいたのはそれぞれ異なる人形を手にした猟兵であった。
白の着物に絹の様な黒髪。十指から延びる鋼糸が繋ぐは狐面に狩衣を纏う絡繰人形。信長の後ろに控える赤鎧の虎を見、物憂げにため息をついたのは杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)。
「先に倒しとった武将まで憑依させるとか狡いやろ、ほんま」
疲れた様に、呆れた様に、規格外の力に対して恐れる事もなくただ反則ではないかと非難じみた声を上げる。飄々として掴みどころのない雰囲気はあるが、その肝の太さは並ではない。糸で操る狐面の人形もまた、腕を組んで繰り返し頷いている。
一方、彼の隣でちらちらと信長ではなくその後ろでうなっている白虎に対して興味を示す少女もまた、白髪と青髪の人形を携えている。銀髪を揺らし、愛らしいドレス姿のまま困惑顔で呟く。
「……え、虎なの? 信玄さんそれでいいの?」
数多の逸話を遺し『甲斐の虎』と恐れられる武田信玄が、まさか本当に虎だとは思わなかったのだろう、ソフィア・リューカン(ダメダメ見習い人形遣い・f09410)は疑問でしょうがなかった。
「……行くぞ、信玄」
世界の命運がかかった戦いにしてはやや気の抜けた二人のやり取りを受けつつも、魔王は決して手を抜かない。命を下せば揺らぐ姿の鎧が崩れ、人の二足より獣の四足へ立ち姿を変える信玄。言葉を吐かぬ信玄は肯定も否定もなく、ただ白虎となり呻きながら、信長を背に乗せ二人に襲い掛かる。
閉所であれども縦横無尽。否、虎とは狭い範囲で狩りをする生き物。故に騎馬とは違い確実にその爪牙を猟兵達に突き立てんとする。
しかし、ただ喰い殺されるのを待つ猟兵ではない。絡新婦とソフィアを庇うように、ソフィアが手にした青髪の方の人形――ジェファーソンが、身を挺して猛虎の口中へと飛び込んでいく。
牙が人形の四肢を引き裂くその寸前、ぱっと飛び散る紫電。それは、絡繰り仕掛けのジェファーソンの内部に仕込まれた強力な電流。目を眩ませたその隙を狙い、ジャファーソンは次々小粒の雷電を投げつけ麻痺を引き起こそうとする。
とはいえ人形一人では、到底巨大な虎をいつまでも封じ込める事はできない。何より只荒ぶる獣ならばいざ知らず、その背にはその虎を操る信長がいる。目敏く、庇われていたはずの絡新婦がゆらりとその陰から外れたのを目撃していた。
反転し、狙いをソフィアとジェファーソンから絡新婦へと移す信玄。しまった、という顔でソフィアは叫ぶ。
「危ないっ!」
しかし、間に合わない。飛び上がり伸ばされた爪が、その線の細い肉体をばらばらに……したかに、思えた。
が、違う。そんなことにはならなかった。
『おいたは、いけませんなあ』
爪撃を確かに浴びた彼の口元はにんまりと歪み、拡がる沁みのような影となったかと思えば、その黒色の闇より出でるは、狐面を被った歪な獣の絡繰人形。
かつての持ち主が作った人形を模す、彼の操るサイギョウ。相手の力を相殺する形へと変わったその姿は、仮面を被った狐。虎と狐では格落ちのように見えるが、狐もまた肉食の狩人である。
幽幻の白虎、人造の黒狐。二つの獣が互いに喰らい合う。そんな中で、ソフィアも負けじと人形たちへ力を授けた。
『ジェファーソン、レイニー! これを使って!』
ユーベルコードによって生み出されたのは、武器とは言い難い二種のもの。一方は猫じゃらし、一方は卵の形をした大きな塊。しかし、それを受け取った二人の人形はすぐさま行動を開始する。
かち合う二つの獣の間に割り込む青髪の人形ジェファーソン。猫じゃらしと電流によって意識を自分へと集中させようという狙いだ。しかし、それを妨害するのは上に乗った信長。
「ええい、浄瑠璃紛いの我楽多が!」
怒りをあらわに刀で振り払おうとするが、虎の背の上は馬上と勝手が違う。信長の剣は空を切り、周りを飛びまわる人形に流石の信玄も痺れが切れる。
だが猟兵は、その油断を逃さない。さっと飛びのくサイギョウ、直後降ってくる奇抜な色の卵。レイニーの放ったそれは、ネコ科の弱点といわれる木天蓼の匂いをまき散らす爆弾。ぼんという音と共に弾け、煙幕をもうもうと上げる。
……如何に信長の力で形作られその力を鎧うだけの信玄とはいえ、今は特に明瞭な実態を得ている。効果は覿面、そして命を共有する信長もまた思考に靄がかかったようになり、抵抗ができない。
――計略は、成就したのだ。
その何分か後。煙幕が晴れた天守には、信長と信玄の姿はなかった。二人の猟兵の一斉攻撃で両者は深手を負い、再び骸の海へと姿を消したのだ。
鋼糸による急所を突く攻撃と、大きな縫い針による足に対する攻撃。息の合った連携を見せた二人の人形遣い。絡新婦はソフィアの戦いに敬意を表する言葉を紡ぎながら飴を取り出すが、ソフィアは受け取ろうとしない。頬を膨らませ、彼を睨んでいる。
「……自分、なんかしたかなぁ?」
眉を下げて問うた彼へ、ソフィアは非難の声を上げた。
「カウンターをするなら最初に言ってくれればよかったじゃないですか!」
そう、最初の一手で自分だけでなく味方を守ろうとしたソフィア。その後自分の背後からふらっと外れた絡新婦に彼女は声を上げていた。それは心からの心配だったのだ。それに対して彼はああと手を打った後、へらへらと笑ったのだった。
「敵を欺くには味方から、っていうやろ――お嬢さん、堪忍な?」
その後、グリモアベースでは一人の猟兵が、十程離れた猟兵に説教をされる光景が目撃されたという。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
宇冠・由
連携希望
私は空飛ぶヒーローマスク
地形の影響は受けません
城内での戦闘であれば乱戦が予想されます
信長も死角から不意打ちや、通路を利用した三角飛びを行ってくるかもしれません
皆様をかばいながら盾として、時に剣として戦います
【百火繚乱】にて片方の火炎剣を投擲し百へと分裂
更に炎のオーラを纏わせ再生する多重の盾として展開
相手の先制攻撃に備えます
そして私の狙いは盾への接触による延焼のカウンター
勿論それだけで信長が止まるとも思っておりません
動きが鈍ったところをもう一振りの火炎剣で攻撃
狙いは白虎の腹部
ビーストマスターですもの、四足動物の弱点は分かります
騎乗を解けば上々、そうでなくとも繋がった信長にも傷は通るはず
アリス・レヴェリー
あなたが二人でくるのなら、こちらも二人よ!
先じて召喚を終え、襲いかかってくるであろう信長達の攻撃は割れ爆ぜる結晶【世界の雫】の投擲による牽制と、【刻命の懐中時計】の結界を使って防ぎましょう
僅かでも隙を見つけたら【友なる金獅子、勇猛の調べ】で、炎と大地の力を御する金獅子、ダイナを召喚、こちらも騎乗するわ
相対時はわたしは攻撃の【フェイント】や結晶での信長への牽制や、結界でダイナのサポートに徹する
騎乗するわたしが純粋な戦闘で信長に届かない分、生命力の共有を利用してダイナのダメージはわたしが引き受けるわ
基本的な攻め方は彼の力による大地の振動や隆起、陥没
姿勢を崩した瞬間に渾身の【炎】の大渦で飲み込むわ!
●剣を手に
二度の敗北を経てなお、第六天魔王は安土城の天守へと戻る。その野望の炎はいまだ尽きず、三度虎を纏いて猟兵を待つ。
……現るは、一人の猟兵。いや、一見すれば一人に見えるだろう、しかし実際は二人いる。
金の髪に蒼い瞳。人形のように愛らしい少女という喩えをそのまま形にしたような、真鍮の装飾を纏いしドレスを纏った少女、アリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)。そして、そんな彼女の胸の中に抱かれたうさぎの着ぐるみ、その頭。だがそれはただの着ぐるみではない。宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)、意志持つ冠、彼女も又この世界を守るために戦場へとやってきていた。
「これが、最後の戦いか」
信長は、既に限界を悟っていた。しかし退く事はない、再び信玄を巨大な白虎へと変じさせ、その背に跨り猟兵達へと啖呵を切る。
「来るがいい、猟兵! 我が野望、我らが覇道、止めて見せよ!」
吼え、猛る。床を蹴った虎は俊敏に、その得物を確実に仕留めんと狙いを定めた。
『ごめんあそばせ』
突如、真鍮の姫を取り囲むようにして現る剣。赫々とした焔によって作られたそれらは、敵を斬り倒すためのものではなく、味方を守り抜くための陣を敷く。とはいえ軽々しく突っ込めば、火の輪くぐりなどさせず焼き尽くすだけの力も持つ。そしてそれを統べるのは、既にアリスの腕の中より離れ、豪炎によって自らの肉体を生み出した由だ。
同時に火中の姫も、決して剣の中で守られ怯えるのではない。素早き虎へ投げる結晶は、七色の輝きと共に冷気や電撃、炎に旋風といった属性の異なる攻撃でその動きを鈍らせんとする。そして、共に戦ってくれる味方を含めて守り抜く結界をも生み出し、先制へと備えを作る。
爪が、牙が、二人の乙女に迫るだろう。だが、それらは決して届かない。炎剣の形作る刃盾、そして世界樹の雫を代価にした結界。堅牢は崩れる事はない、如何に荒ぶる力を増せども、魔の手は払われる。
「おのれ、おのれ!」
怒る信長。しかし、それも無理はない。
最後まで、信長は信玄を利用するだけであった。臣下に対する情ではなく、かつての宿敵を使うという意識しかない。
それでは、到底届かない。厳しい戦いに挑む味方の為にその身を差し出し戦おうとするもの、そんな意図を感じ取りそんな同胞の為勝利を掴む決意をより固くするもの。その戦場で出会った縁でも互いに協力し、信頼の上で背中を預け合う。
最初から、優劣は明白であったのだ。
ついに、反撃の隙のある甘い攻撃が炎の盾を叩く。同時に一斉に百を超す剣が刃を返して一斉に虎を狙い放たれる。高温、そして燃焼。生物であれば必ず傷を負うそれらが狙うは、白き虎の腹。由のビーストマスターとしての知識が導き出した、マストカウンター。
ぐおう、と痛みに吼える信玄。俊敏な動き、信長の援護もあり全てを受ける事はなかったが、それでも無数の剣がその身を傷付け、大きく動きは鈍ることになる。同時に上に乗った信長もまた、炎の熱に当てられ無傷ではいられない。
……こうして命を分かち合い、互いのダメージを共有してなお、両者の間に絆はなかった。
『猛る金獅子、気高き王よ、勇みて謳う、わたしの友よ!』
それを見、アリスの胸中に去来するのは怒りか、それとも哀れみか。然し彼女の意志が揺れる事はない、翳したブローチから現る黄金の獅子。それは、彼女と絆を育んだ一匹の獣。彼の鬣を一撫でし――彼女も又、その背に飛び乗った。
「小娘が、我と一騎打ちをするつもりか!」
傷を負い、それでもなおその姿を一笑に付す信長。それにアリスは答えずに、ただ真っすぐその目を睨む。
信長とアリス、白虎と金獅子、二つが、交差する。
由はその激しくも美しい戦いを固唾をのんで見守る。けれど、徐々に焦りを隠せなくなることだろう。
――アリスが、押されているからだ。
天守という人工の建造物故に、その力を十全に発揮できない獅子。動きでは決して負けていないが、アリスと信長の力量の差は否定しようがないほど開いている。
虎の爪牙が獅子の身を抉る、だというのにそのたび傷付くのは乗っているアリスの方だ。……彼女は、命を共有する友、金獅子の傷の全てを肩代わりしているのである。
自身の傷を信玄へと任せきる信長とは対照的なその姿、一見すれば不合理に見えるそれは、他でもない、信頼と友愛の証。そしてそれは、確かに勝利への足掛かりだった。
「ふん、この程度か。ならば、これで終わりだ!」
勝利を確信し、吶喊する信長。しかし……傷付いたアリスは、笑みを浮かべた。
がくり、と突如信玄が変じた白虎は崩れ落ちた。それに戸惑う信長。二人の戦いは確かに信長優勢……しかし一切無傷であったわけではない。差が開いた原因は、信長か全ての負傷を逆に信玄に押し付けていたせいだ。
信玄は力の塊、信長が召喚し『憑装』させたもの。とはいえ、今はその体はいきものの形をとっている、疲労も、負傷も、コンディションに大いに影響するのだ。
そして、もう一つの誤算。それは。
「私の事を、お忘れではなくて?」
宙へと浮かび上がるうさぎの頭。そう、由の存在だ。
彼女がここまで静観していたのは他でもないアリスの頼み。全ては、この瞬間の為に力を温存していたのだ。同時に、この危険な作戦を自ら提案し、そして実行し成功させた同胞への敬意と、蹂躙を重ねた敵への激情を薪に火力を高める。
再度点火した炎の剣。そしてそれは、金獅子『ダイナ』の咆哮によって一層燃え上がり、一本一本が巨大な両手剣の意匠へと変化するだろう。大地の力に加えて炎をも自在に御する友の能力を、この瞬間に十全に発揮してもらう為……彼女は、この瞬間を耐えたのだ。
すべては、信頼によって導かれた勝利。もはや、信長に策はなかった。
「お願い、ダイナ――尊大でわがままで、威張りん坊で……とても優しい友達」
傷つき、それでも気丈に戦い抜いた人形は、彼の背で倒れ再び鬣を撫で。
獅子は、そんな無謀を為した友と戦い抜いたうさぎの冠に応えるように……その紅蓮の力を、悪しき魔王へと炸裂させた。
剣に貫かれ、炎に焼かれ、信長の眼に見えたのは……果たして、なんだったのだろうか。
魔王は、燃え盛る火の中で討たれた。猟兵は、勝ったのだ。
こうして、サムライエンパイアを恐怖に陥れていた敵は猟兵達によって倒された。まだ完全なる消滅には至っていないだろうが、大きな傷を与えたことには違いない。
いくさは続く、しかし、そう遠くないうちに決着はつくだろう。
そしてこの戦いは、猟兵達の中で一つの確かな証となるはずだ。仲間と手を取り合い戦う、その意味を。そして、それが生み出す、奇跡を超える無限の力を――。
成功
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