エンパイアウォー㊳~黒坊主の忠義
墜ちた安土の城の上、その天守の天辺に男は立っていた。
南蛮風の黒鎧に、佩くは天下五剣が鬼丸か。傲然と眼下を睥睨するその姿は覇者たるを体現するかのよう。彼こそが、織田前右府信長その人であった。
「かかる戦況、是非に及ばず。しかし、万に一つの勝ち目がなかろうと、億に一、否兆に一でもあるならば、抗うには十分であろう」
思い返すは金ヶ崎崩れの記憶だ。あの時も、後背で裏切った浅井がために命からがら撤退した。あるいは青年だった頃の稲生の合戦。当時は敵だった柴田権六が自らの本陣にまで迫り、一時は死すら覚悟した。生きていた頃さえ幾つもの危難に直面し、それを全て踏み越えてきた。それでこその第六天魔王なのだ。
「なれば、この地が儂にとっての本能寺たりうるか。見極めてみせようぞ、猟兵どもよ」
絶体絶命の危機にあって、彼の瞳には迷いは感じられない。その必要はない。ただ戦い、そして殲滅してやるだけだ。そこには一切の躊躇など、存在するはずもなかった。
「秘術『魔軍転生』。弥助よ、儂に憑装せよ」
その言葉とともに、背後に一人の男が現れた。肌は黒曜石のごとく黒く輝き、身の丈は六尺を超える偉丈夫。信長の家臣の一人、弥助であった。
●第六天魔王現る
「連戦お疲れ様です。皆様の尽力により、幕軍は肥前国島原まで到達し、信長軍の包囲に成功しました。そしてその上空にあった魔空安土城は、首塚の一族が成功させた呪詛により地上に叩き落とされましています。これにより、我々猟兵もかの本拠地に突入する事が出来ます。心よりの感謝を」
集まった猟兵を前に、レイア・プラウテス(天秤の衛・f00057)が深く頭を下げた。
「しかし、敵の首魁である織田信長はまだ討たれてはいません。彼を滅ぼすまでは、サムライエンパイアの危機は続くのです。もう少しだけ、その力をお貸しください。城内の敵は既にほぼ制圧されており、対処しなければならないのは信長のみ。そしてその信長は、『魔界転生』なる術を使い、弥助や信玄、秀吉の力を借りて戦うようなのです」
レイアがそれぞれの姿を模した木彫りの駒を、安土城の地図の上に置いた。
「今回、あなた方に撃破して頂きたいのは、このうち弥助を『憑装』した信長になります。信長本人も武装として刀を所持してはいますが、今回はそれは使わないようです。弥助が扱っていた独鈷杵、十字架、大帝剣の三種のメガリスを使い分けて攻撃してくるようですね。それから……」
申し訳なさそうな声音で、彼女が言葉を続けた。
「信長は極めて強力なオブリビオンです。猟兵である皆様の力をもってしても、先制攻撃を受けるのは避けがたいことになるでしょう。何とかして対策を取らない限り、こちらから打って出る前に成すすべなく倒されてしまう可能性もあります。危険の大きい戦いではありますが、どうか、どうか皆さまお気をつけて。無事で帰って来てください」
祈るように、猟兵達にそう伝えたのであった。
二条河原
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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落書をなんかする前にサムライエンパイアが救われそうでアイデンティが危機な二条河原です。ついに信長のもとまで到達しましたね。後は、この第六天魔王を倒してエンパイアに平和をもたらしましょう。
以下、本シナリオの注意事項となります。よくご覧になった上でご参加ください。
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第六天魔王『織田信長』は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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本シナリオの難易度は『やや難』です。
相応の判定を行いますので、難しい戦いになるかもしれません。
見事、弥助を憑装した信長を出し抜くような、そんなプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『第六天魔王『織田信長』弥助装』
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POW : 闘神の独鈷杵による決闘状態
【炎の闘気】が命中した対象を爆破し、更に互いを【炎の鎖】で繋ぐ。
SPD : 逆賊の十字架による肉体変異
自身の身体部位ひとつを【おぞましく肥大化した不気味な鳥】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ : 大帝の剣の粉砕によるメガリス破壊効果
自身の装備武器を無数の【大帝の剣型】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:UMEn人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「この戦さ、儂にとっての桶狭間か、あるいは本能寺か――」
そう呟いた信長は、懐より扇を取り出だすと『敦盛』の一節を舞い踊った。
――人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり
一度生を得て 滅せぬ者のあるべきか――
「皮肉なものだな。第六天魔王を名乗り、地獄の果てより蘇ったこの儂が人間(じんかん)の儚さを舞うとは」
これは、一之谷にて平敦盛を討ったことを苦にし出家した熊谷直実が、世を儚み語ったとされる一節である。下天とは六欲天の最下位にあたる四大王衆天のこと。須弥山の中腹、四天王に四方を囲まれたこの世界の住人の一昼夜は、現実世界の五十年に相当するという。この一節は、人の世では五十年もの月日が経ったとしても、下天でさえ一昼夜のことに過ぎないという儚さを説いているのであった。今の信長にとっては、どれほどの皮肉に満ちたものであろうか。
「弥助、湯漬を持て」
信長の命に応じ、弥助が背後から湯を満たした茶碗を差し出した。茶碗を受け取った彼は、それをさらりと掻き込むと、
「いざ、出陣である」
安土城に、法螺貝の音が響き渡った。
美国・翠華
アドリブOK
「魔王トゾンビダッタラドッチガ上ダロウナ?」
黙って……そんなの関係ない
【戦闘】
敵の攻撃はこちらを喰らうものであるらしいわね
あらかじめ毒使いで自分を毒状態にして
自分の身体の猛毒と合わせて攻撃を対策しておく
でもせめて早業などのスキルで攻撃を回避が防御しておきたいわね
ユーベルコードを発動させたら
自分にさらに毒を打ち込ませて
自己強化し、反撃に転じる…
毒酒を呷る覚悟を互いにしましょう…
「儂の方から出向く必要もなし、と。その力、儂の手にあらば金柑頭に不覚を取る事など有り得んかったのだろうが。そうは思わぬか、娘」
転移により出現した美国・翠華(生かされる屍・f15133)が目にしたのは、そう言って嘆息する信長の姿であった。彼が翠華に掛けた言葉はいっそ親しげですらあったが、その声音には敵対の意思がありありと込められていた。
『魔王トゾンビダッタラドッチガ上ダロウナ?』
翠華の視線が信長の紅いそれと交錯した瞬間、彼女の脳裏に声が響いた。耳障りなそれは、彼女にとって力の源泉であると同時に、決して身を委ねてはならない寄生者の声。
「黙って……そんなの関係ない」
魔王とは、言うまでもなく眼前に佇む第六天魔王のことだろう。ではゾンビは? かの存在の気まぐれにより一命を取り留めた自分のことに違いない。楽しげにすら聞こえるその声を、翠華は首を振って払いのけた。ここから先は決死の戦場。無益な会話に意識を割く余裕なんてなかった。
「辞世は済んだか。では去ね」
信長の言葉と同時に、彼の左腕が軋みを上げた。みちみちと嫌な音を立て、鎧の籠手を食い破って出現したそれは、硝子玉の瞳に猛禽を思わせる嘴を備えていた。どう見ても鳥の形である。それも、とびきり不吉で、不気味な。間髪容れず、鳥頭は翠華に向かっていた。予知によって『来る』と警告されていたとしても、回避のしようがないタイミング。
(やはり、早い……!)
翠華が足を一歩踏み出す前に、それは既に彼女のもとに到達していた。左半身に走る激痛は、嘴が柔らかな脇腹を容赦なく抉っていったためである。それでも、彼女は意識を繋ぎとめていた。鳥頭が迫る一瞬の間に、彼女はナイフを引き抜きその軌道を僅かに逸らしていたのだ。
「ほう、耐え凌いだか」
信長が興味深そうに声をあげた。彼としても、仕留めるつもりで放った一閃である。無策に受けていたならば、それだけで戦闘不能にするだけの威力は備えていたのだ。
「耐えた、だけ……じゃない」
「娘、儂に毒を盛ったな」
信長に応えた翠華の言葉は、苦しげな呼吸とは裏腹に好戦的な響きを帯びていた。それに訝しむと同時、信長も気付いた。末梢の痺れに僅かな脱力感。この感覚は、そう。毒を受けた時の感覚である。信長の嘴が翠華を抉ったその瞬間、彼女もまた攻撃を仕掛けていたのだ。伝説に語られる毒娘のように、翠華の身を流れる血液は強い毒性を帯びている。それは、体外にあってはあらゆるものを溶解し腐敗させる性質のもの。一度死んだ彼女を生かした何者かの力によるそれは、相手がオブリビオンであっても十全に効果を発揮していた。
「だが、娘。貴様も限界であろう」
「そんなこと……ない。私に宿れ……さらなるUDC……!」
「生き急ぐか。それもまた良し」
言葉と共に、翠華が宿す禍々しい気配が強くなった。逆手にナイフを構える姿は、痛々しくもなお戦意に満ちていた。そして、そこから駆け出そうとして。
「どう、して……」
鳥の頭がそれを阻んだ。縦横にナイフを振るっても、舞い散るのは羽毛ばかり。脇腹の傷からは際限なく血が溢れ出し、刻一刻と体力を削っていく。
「そら、足が止まったぞ。死にたいのか」
「違うわ……毒酒を呷る覚悟を互いにしましょう」
翠華の動きが止まった一瞬の隙をついて、再び鳥の頭が彼女を襲った。大きく開いた嘴が、頭から翠華を丸呑みにしようとする。その瞬間、高速の突きがナイフから繰り出された。嘴の中の、柔らかい所を狙った一突きだ。その効果たるや覿面といっていい。今にも襲い掛かろうとしていた鳥の動きが止まり、ついで後退したのだから。
「悔しいけど……ガハッ。ここまで」
しかし、翠華のほうもそれが限界だった。足がもつれ、膝が地につきそうになる。これ以上は無理だと、戦場を離脱せざるを得なかった。
「儂が甘かったか? 否、娘の覚悟に競り負けたか」
翠華が消え、ふたたび一人になった戦場の中央で、人のものに戻った左手を眺めながら信長が呟いた。その掌の中央には、ナイフで付けられた大きな穴が空いていた。
苦戦
🔵🔴🔴
ヒルデガルト・アオスライセン
一人だけでよかったんですか?最期の御供は
明りに照らされている物体は全方位に光を放ちます
嘴が放つ反射光を肌で感知し、防御行動に役立て
イーコアで武将の速度と距離を察知
闇のオーラ防御を、重い泥の膜形状で発現
盾を地中に潜らせて信長へ突撃させ、戦地に穴を作ります
初撃を、籠手と靴でこじ開ける様に力比べの真似事、頭に泥のオーラを浸透させたい
嘴の間に背の大剣を詰め、支え棒のようにして逃走
デカい頭部を逆手に取って小回り近接格闘
損傷覚悟で接触の度に、泥を吸わせるようにして動作を鈍らせます
盾、大剣、凝縮閃光瓶を持たせた身代わり聖者を突撃させ時間稼ぎ
状況確認される前に、UCで戦地の穴を通過して奇襲します
※諸々ご自由に
「一人だけでよかったんですか?最期の御供は」
「少なくとも、今は弥助一人で十分だ。それに、最後とも限るまい? サルにも信玄坊主にも、グリードオーシャンに至るまで働いてもらわねばならぬからな」
「そうですか……」
ヒルデガルト・アオスライセン(リベリアス・f15994)の言葉に、信長は唇の端を吊り上げて返した。そのさまは圧倒的なまでの覇気には満ちていたが、それでもやはり、どこか空虚さが漂っているように彼女には感じられた。
「御託はよい。力もて儂に示して見せよ。弥助」
ヒルデガルドの身体から光が放射されたの同時に、信長が今なお鮮血を滴らせる左手を掲げた。間を置かずに変形した、おぞましい鳥頭がヒルデガルドに向かって直進する。その速度は目を見張るものではあったが、
(問題ありません。いけます)
彼女の金の瞳は、正確に彼我の距離を捉えていた。視線そのものではない。放ち続けている光の反射が、それを可能にしていたのだ。
成功
🔵🔵🔴
アプロヂ,テーの血を流す、そは透明の清き液、
そは慶福のもろ/\の神明の身に宿る液、
神明素より麺麭めんぱうを喫きせず、葡萄の酒飮まず。
――『イーリアス』第五歌
そはイーコア、あるいはイーコールという。今や廃れた古き神話にて語られる、神の血のことだ。あるいは十字架を掲げる一神教にて信仰される、葡萄酒で象徴される救世主の血のことだ。いずれにしても、ヒルデガルドが宿したそれは、鳥の動きを見切っていた。
鳥の頭がヒルデガルドと衝突すると同時、がん、という鈍い音が響き渡った。鳥がヒルデガルドを食いちぎった音ではない。サイボーグやウォーマシンではないのだから、金属音が響くなどありえない、はずなのだ。見れば、何ということだろうか。大きく開いた異形の嘴の上下を、彼女は身に帯びた靴と籠手でこじ開けていた。一点だけなら押し切れるはずのそれも、全身を――とりわけ手足を包む泥状の力場が力押しを許さない。こうなれば、後は鳥とヒルデガルドの我慢比べであった。鳥が白目をむいて防御を抜こうと踏ん張り、ヒルデガルドが身体いっぱいに力をこめてそれに対抗する。この瞬間、戦況はまさに膠着していた。
「……そろそろ、ですか」
「何っ、おのれ!?」
その膠着は、唐突に終わりを迎えていた。信長が後ろに向かって飛びのくと同時、元いた地面が割れて盾が飛び出してきたのだ。それもただの盾ではない。その先端に剣呑な刃の光を帯びた盾であった。
「さて、ここからは今のようにはいきませんよ」
「ほう。何を見せてくれるというのだね」
信長が退避した瞬間、そちらに意識が割かれていたのだろう。嘴の力が緩んでいた。その隙に、彼女は大剣をつっかえ棒の代わりにして鳥から逃れ出た。大剣を吐き出した鳥が再び空を舞って彼女に襲い掛かるが、今度は正面から捉えることもできない。ヒルデガルドと鳥頭が交錯するたびに、鳥の速度が落ちていく。オーラを纏った手足を啄ませることで、泥を吸わせていったのだ。とはいえ、そのようなことをしていては無傷ではいられない。胴体はともかく、手足の装甲は瞬く間に傷を増やし、そこかしこから金色の血が流れ出ていった。
「鳥の大きさも計算のうち、ということか」
「その通り。それから、あんまり余裕を見せていると、足元を掬われますよ?」
目に見えて機動力を落としていく鳥頭を前に、信長が肩をすくめて言った。それに対するヒルデガルドの声は、どこか不敵なもので――。コインを弾く音が響いた。
その瞬間、彼女は信長に向けて突撃していた。盾で半身を隠し、大剣を振りかぶりながら進む姿は中世の騎士か、あるいはいにしえのアテーナーか。反射的に迎撃の構えを取った信長だったが、気づけば娘の姿はどこにも見られない。
「面妖な。どこに行ったというのか」
「意外に目が悪いのですね……!」
疑問の声は、背後から返された。同時、熱風が信長に襲いかかった。光速のプラズマが起こした余波である。左腕を見れば、肩当てが跡形もなく吹き飛んでいた。
正面から突撃していたヒルデガルドは、彼女の作り出した幻であった。本物の彼女は、コインを弾いた瞬間にプラズマと化し、先ほどエングレイブエッジが開けた地中の穴を通って信長を奇襲していたのだ。その速度は、信長すら攻撃を受けてなお気付かなかったほど。
「やってくれるな。しかし二度は通じぬ」
「残念、二度はありませんよ」
ヒルデガルドとて、このような奇襲が二度通用するとは思っていなかった。そもそも、身代わり聖者が使えるのは一度きり。いずれにせよ、ここで帰還するしかなかった。
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎
信長……魔王と言うだけのことはある
正直こわい
けど退くわけにはいかない
負けるわけにはいかない
櫻の故郷は渡さない
これからの季節もずっと
この世界で君と過ごすんだから!
先制攻撃は僕がうける
絶対、櫻を守ってみせる
君の進む道をつくるから
歌唱に込めるのは君への鼓舞と、世界という事象への誘惑
そして大剣の花を《なかったこと》にする『薇の歌』を歌う
全力で
僕の歌はこの為にあるのだと
櫻を傷つける花弁などにさせない
そんな花は潰す
櫻を燃やす炎は消す
相殺しきれなかったものはオーラ防御の水で
櫻への攻撃を防ぎ守る
この身を盾にしてでも
覚悟の上
何度でも歌う
歌いきる
君の刀を届かせる
大丈夫
櫻ならできるよ
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎
信長……なかなか雅じゃない
大丈夫よリィ
あなたは私が守るわ
邪を祓うは陰陽師の勤め
私は歌うあなたを守りましょう
リルの作った隙は無駄になんて出来ない
桜花の花弁はオーラ防御、守り広げ
薙ぎ払い、花弁は打ち落としいなし
怪力こめて思いきり衝撃波を放つ
斬撃に生命力吸収の呪詛こめて傷を癒すわ
第六感働かせ見切れるものは見切り
無理ならそのまま受け一太刀でも多く斬る
傷を抉るよう2回攻撃―「穢華」
死合うは愉しくて楽しくて
それ以上に掻き立てるのは
リルを傷つけさせない
私の故郷…大切な人達が生きる世界、私を受け入れてくれた人達のいる世界を渡しはしないという意地
背後霊ごとその首を斬ってやるわ!
「そろそろ来ると踏んでおったぞ。それ、舞うがよい」
誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)とリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)が最初に目にしたものは、視界いっぱいに広がる無数の刃が自分たちに迫りくる光景であった。
「そんな、どうして……!?」
「知れたこと。確かに貴様らの扱う術は理解できぬがな、その本質は既に把握した。天鳥船の神通力か何かだろうが、来ると分かっていれば対策も取れよう。それに」
刃の華が咲いた向こうで、信長が凄絶な笑みを浮かべているのがなぜかはっきりと見えた。
「戦さ場における読み合いで、儂に勝とうとは思わぬことだ。青二才ども」
「櫻、後ろに回って。僕の鰭のなかに」
嘲笑交じりの声には応じず、リルが剣の嵐に踏み込んだ。瞬く間に、無数の刃が白皙の肌を斬り裂いて紅の血を宙に散らしていく。水のオーラを全身に纏ってはみたものの、その程度の防御はあっさりと破られた。
(信長……魔王というだけのことはある)
全身に走る鋭い痛みに耐えながら、リルは考えていた。敵は、かつて覇者として六十有余州にその名を轟かせた英傑だ。この戦争で相対して来た敵手は数多いが、そのなかでもとびっきりの大物である。陰陽師たる安倍晴明は言うに及ばず、軍神として名高い上杉謙信と同格、いやそれ以上だろうか。正直なところ、あの紅瞳と正面から相対するのは恐ろしい。そもそも彼は歌謡い。櫻宵のような剣鬼、闘いにあって咲き誇る血濡れ櫻というわけではない。怖くないわけがないのだ。それでも、ここは。ここばかりは。
「けど、退くわけにはいかない。負けるわけにはいかない!」
この地は、サムライエンパイアこそは、今もすぐ後ろで寄り添っている櫻宵のふるさとなのだ。水底の、ほの暗い青色しか知らなかった籠の人魚に色を見せてくれた、彼の。
「櫻の故郷は渡さない。これからの世界もずっと、この世界で君と過ごすんだから!」
叫び声と時を同じくして、刃の雨に変化が生じていた。それらがリルの身体を裂くと、かわりにその刀身が溶解していくのだ。うたかたの間をたゆたう、七色をしたシャボンのように。ぱちん、と泡が弾ける音がした。
"――揺蕩う泡沫は夢 紡ぐ歌は泡沫 ゆらり、巻き戻す時の秒針 夢の泡沫、瞬く間に眠らせて。そう《何も無かった》"
ふと気が付くと、リルの口は歌を紡いでいた。
あの花を、櫻を傷付ける花弁になどさせない。櫻を燃やす炎は消す。絶対に、櫻を傷付けさせたりはしない。
甘い甘いソプラノの歌声が待機を震わせるたび、刃の空白地帯はどんどんと広がっていく。
「いつまでも、リィに守られているあたしじゃないわ。あなたが歌で守るなら、あたしは剣で――あなたを守るわ!」
消えゆく刃の群れに向かい、櫻宵が飛び出した。その手が握るは太刀『屠桜』。あまたの妖の血を吸って鍛え上げられた、魔性の一振りだ。いまだ残る剣を一閃薙ぎ払い、返す刀で唐竹割り。いまだ十歩を超える距離で振るわれた太刀は信長に届くわけもないが、それで支障はなかった。
「剣気を飛ばしおったか。目にするのは姉川の真柄太郎ぶりだな。よほど、剛力無双の使い手と見える」
それを受けたのは、弥助が手にする大帝の剣であった。粉砕していたはずのそれを手にしたということは、花弁による圧殺を諦めたことに他ならない。当然、荒れ狂う刃の嵐は綺麗さっぱり消え失せていた。
「凌いだか。弥助」
「させないよ」
再度大帝の剣を粉砕しようとした信長を前に、いま一度リルが薇の歌を謡う。一度見たユーベルコードだ。二度と発動させるつもりはない。果たして、剣は粉砕されることなく、花弁の雨が広がることもなかった。
「助かったわ、リィ……リィ?」
礼の言葉とともに振り返った櫻宵の顔が驚愕に染まった。その視線の先にあったのは、全身を鮮血に染め上げ、今にも倒れそうになっているリルの姿。最初は純白の鰭に包まれ、ついでは前だけをみて突進した櫻宵が、大帝の剣を一心に受けたリルを見たのはこれが初めてであったのだ。
信長に向き直ってから紡がれた櫻宵の声は、奇妙なほど平坦であった。堪えきれない激情を押し殺したような、一切の抑揚を感じさせない声音。
「邪を払うは、陰陽師のつとめ。今、ここで、その首を刈り取りましょう」
「貴様、声聞師でもあったのか。陰陽師の類は好きになれぬ。晴明もそうだが、どうしても久脩(ひさなが)めのにやけ面が頭に浮かんで仕様がない」
おどけるような信長の言葉にも、櫻宵は答えない。ただ、殺意のみを瞳と刃に宿していて。
地面が、爆ぜた。
櫻宵が地を蹴り跳んだ、その反動だ。先ほどとは段違いの力であった。
「……悪鬼に堕ちたか。儂が言うのも可笑しな話ではあるがな」
鍛冶場で刀を鍛えるような、澄んだ金属音が幾度も響く。櫻宵の屠桜と、弥助の大帝の剣が目にもとまらぬ速度で幾合も打ち交わされているのだ。そんな中、鬼丸の柄に手を添えた信長が、眉をひそめて呟いた。そのわけは、櫻宵の姿にある。常は女性と見まごうほどの美しい容貌が、半ば龍のそれに侵されていたのだ。総身からは蒼き鱗がびっしりと生え、瞳は爬虫類を思わせる無機質なもの。
「――雲州の。八岐大蛇が末裔か。さしもの儂も、熱田の神剣までは持たなんだ」
「うるさい。死ね」
桜の花弁を散らしつつ、櫻宵が冷たく言い放った。同時に屠桜を真直に、信長に向かって突き付ける。瞬間、無数の斬撃が空間を千々に斬り裂いた。
「やりおるわ。確かに、亡霊たるこの身にそれは効こうというものよな……」
苦い笑みを浮かべた理由は、今の斬撃にある。
高天原に坐し坐して天と地に御働きを現し給う龍王は
大宇宙根源の御親の御使いにして一切を産み一切を育て
萬物を御支配あらせ給う王神なれば
一二三四五六七八九十の十種の御寶を己がすがたへと変じ給いて
自由自在に天界地界人界を治め給う
龍王神なるを尊み敬いて
眞の六根一筋に御仕え申すことの由を受引き給いて
愚かなる心の数々を戒め給いて
一切衆生の罪穢れの衣を脱ぎさらしめ給いて
萬物の病災をも立所に祓い清め給い
萬世界も御親のもとに治めせしめ給えと
祈願奉ることの由をきこしめして
六根の内に念じ申す大願を成就なさしめ給えと
恐み恐み白す
――『龍神祝詞』
八岐大蛇は仏教における龍神、道教における四海竜王とも習合されてもおり、陰陽道においての龍は、金烏玉兎集において語られる五帝五龍王である。数多持てる権能の一つは、破魔。
信長をはじめとするオブリビオンたちは、骸の海より蘇ったいわば亡者ともいえる存在である。不浄たる身に、その一閃が堪えぬわけもない。
ユーベルコードを封じるリルの歌を背中で聞きながら、櫻宵が信長に迫って刀を繰り出し続ける。先の一撃が身体を鈍らせていたのだろうか。大帝の剣が屠桜を流し損ね、信長の身体を袈裟に斬った。紅の刃は、金属でできた甲冑などまるで存在しないかのように裂いて、第六天魔王の血を吸い上げる。
「おのれ、貴様――」
鬼丸を引き抜こうとした信長であったが、櫻宵はそれを許さない。
「終わりよ」
返す刀の一閃。それが全て。何か言葉を発しようとした口ごと、太刀が首を跳ね飛ばしていた。
「リィ、大丈夫かしら!? 怪我の様子は? 痛いわよね?」
「だいじょうぶ……でも、少し、疲れた」
信長の首もそのままに、櫻宵がリルに向かって駆けて行く。既に半龍たる面影は露もなく、艶やかな要望に戻っていた。そんな櫻宵に向かって、リルが笑みを浮かべつつ傾いた。受けた傷もそのままに、ずっと歌いどおしだったのだ。緊張の糸が切れた今、倒れ込まないほうが不思議だろう。
そんなリルを抱き留めて、櫻宵は微笑んだ。暖かい体温が、生を実感させてくれる。戦いはまだ続くだろうが、今は帰るときだった。
――誰もいなくなった戦場で。地に落ちた信長の紅瞳が、ぎろりと赤い光を放った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
「死ぬかと思うたわ。いやさ、紛れもなく死んでおったか。しかれども重畳、重畳。儂はまだ死んでおらぬぞ。のう、弥助」
ふたりの猟兵が去ってからややあった後のこと。殺されたはずの信長が、再び立ち上がっていた。刈り取られた首も、吹き飛んだ肩当ても、貫通した掌も、全てが元の通りである。
とはいえ、無傷という訳ではない。その身に帯びる膨大な力は、蘇生においてその数割が損耗していた。周囲を圧倒するその覇気も、心なしか衰えているように見えた。定位置たる背後で頷く弥助を従え、信長は次なる猟兵を待ち受ける。
鎹・たから
相手が魔王でも
たからは何一つ諦めません
あなたをほろぼして、こども達の未来を掴みます
噛みつき攻撃を【残像】のこし【ダッシュ】で避けます
無傷とはいかずとも
相手の回復量を僅かでも減らさなくては
この身に悪鬼を宿しましょう
どのような代償を払おうとも
たからは問題ありません
魔王に立ち向かうための、力です
【覚悟、勇気】
接近してジャンプした先
小柄な身を活かして姿くらまし
腕や脚を狙って手裏剣とセイバーで斬撃を繰り返し
機動力を落としていきます
何度も繰り返した先、再び姿をくらまして
背中や懐へ飛び込んで一気に全力の一撃を
【空中戦、ダッシュ、暗殺、早業、2回攻撃、鎧砕き、部位破壊】
民を守れぬ将軍など
たからがほろぼします
「ふむ、そこか」
鎹・たから(雪氣硝・f01148)が到着するなり聞いたのは、自信に満ちた信長の声だった。その声を聞くか聞かずか、たからは即座に駆け出していた。背後に迫る鳥の嘴。だが、それはたからを捉えきれない。生み出した残像が敵の視界を幻惑し、狙いを絞り切らせないのだ。
――信長は、転移の瞬間を狙って先制攻撃を仕掛けてくる。自分と入れ違いに帰還した猟兵たちからそのように聞いていた彼女は、対策を済ませていたのだ。
「ちょこまかと動きよる。はしこい奴め、まるでサルのようではないか」
左右に細かく振れながらたからを追い続ける鳥の頭部は、少しずつその精度を増していく。彼女が生み出した残像も、きわめて精巧というわけではない。この短い間で、信長の方も対処を学びつつあった。
「余興だ、一つ訊くとしよう。貴様らは何ゆえに、そこまで儂を拒むのだ」
不思議そうに、という雰囲気ではない。猟兵の在り方を見定めようとするような響きが、その声にはあった。
「それは、あなたが世界を滅ぼすから――」
「仕方あるまい。儂はオブリビオンぞ。世界を喰らって、あまねく天下に武を布く第六天魔王である」
「元々は、あなたが治めていた民もいるでしょうに……!」
「そうだな。だからどうした」
事もなげに信長が言った。そこには一切の躊躇は感じられない。
「そうですか……。分かりました。民を守れぬ将軍など、たからが滅ぼします」
「儂もよう分かった。やはり、貴様らとはどこまで行っても相容れぬ。滅ぼしあうしかあるまいと、な」
ついに、鋭い嘴がたからの背を捉えた。抉った傷はそんなに深いものでもなかったものの、受けた衝撃によって前のめりに転倒し、屋根瓦を幾枚も割り砕いた。
「そら立て、走れ。走らねば喰い殺してしまうぞ」
信長が、面白そうにたからを追い立てる。そのさまは、既に廃れた犬追物にも似ていたかもしれない。
(人を狩って楽しもうとは、魔王の名に偽りはありませんね)
走りながら、たからは内心で歯噛みしていた。どこまでいっても敵はオブリビオン。悪辣さという意味では、他の世界のものと大差はない。それでも、生きるためには立ち向かわなければならない。信長と問答したとおり、彼はオブリビオンでおのれは猟兵。絶対に相容れぬ存在なのだ。
たからの逃げ足が止まり、くるりと反転した。今までとは逆に、鳥に向かって突っ込んでいく足取り。小さな身体が嘴で貫かれようとしたその瞬間、たからの姿がかき消えた。ついで鳥から黒い羽毛が飛び散り、そこからどくどくと血を流し始めた。寸前で直上に飛び上がったたからが、六花の手裏剣と玻璃の剣をもって、鳥に反撃を与えていたのだ。
「この身に悪鬼を宿しましょう。どのような代償を払おうとも、たからは問題ありません。魔王に立ち向かうための、力です」
妖怪とは凶事をもたらす荒魂の成れの果て、悪鬼とは仏道における災厄の化身、そして幽鬼とは未練を残した死者のこと。いずれも人に仇名す化け物ばかり。そのようなものを身に宿して力とするなれば、相応の代償を必要とするのは当然のこと。文字通りの血の涙を流しながら、たからは信長に向かって宣言した。
「たからは何一つ諦めません。あなたをほろぼして、こども達の未来を掴みます」
「で、あるか。ならば来るが良い」
再び迫る凶鳥を、残像と跳躍を組み合わせて回避しながら進んでいく。もはや、狙うべきは鳥ではなく信長その人だ。纏わりつく嘴に幾度も啄まれながら、それでもたからは進んでいく。彼我の距離が残り十歩まで迫ったところで、彼女は一気に動きだした。それまでの疾走が嘘ではないかと思えるほどの速度で、『地ではなく宙を駆けた』。
そうして、信長の無防備な背に回り込むと、刃よ砕けよとばかりに硝子の剣を垂直に振るう。
黒き鎧の破片を散らして、信長がくぐもった悲鳴をあげた。
成功
🔵🔵🔴
セゲル・スヴェアボルグ
噛みついてくる鳥頭がどの程度のサイズかわからんが……
まぁそれに合わせてサイズは改造すればいい。
槍を開口具として口の中に立ててやろう。
狙ってくる部分はおそらく露出部分が多いところと考えれば、
動きは読みやすい。そこに構えてやれば問題はない。
噛みつき自体はこれで防げる。口を閉じれば槍が突き刺さるからな。
仮にお構いなしに口を閉じようとすれば、刺さった部分からの水攻めだ。
いずれにしても鳥はもはや使いものにはならん。
攻撃さえ封じちまえば、あとは叩くのみ。
その鳥頭もろとも、信長をかち割ってやるとしようか。
あとは適度に味方を庇うことも忘れんようにせんとな。
ギルレイン・メルキラレバ
アドリブOK
先制されるのだとしたら、一撃で全滅しないだけの体制を整えなくては。
つくづくレイアがいないのが悔やまれますね……。
食まれるのは御免です、ならば。
陣形、戦列歩兵。
前列はパイクで武装。可能な限り後続への被害を減らしなさい。
後列はパイクを捨て炎弾にて攻撃。
世界さえ異なる異国の軍勢に自由神の威をしらしめよ!
攻撃半径に侵入するにあたり戦列の全てが崩壊しなければこちらの反撃も届きます。
どの道、私一人で相手取るわけではありませんからね。
敵手の攻撃手段をひとつ引きつけられればよし。
こちらの攻撃が届けばさらによし。
ふふ、エルフらしくもない。
笑われてしまいますね。
『それ』は、唐突に訪れた。
総身から力が抜けていく嫌な感覚。意図せず膝が崩れ落ちそうになったのを、手を付いて堪えた。
あれほど膨大にあった力が、欠片も残さず消えていた。
このような感覚を抱いたのは、彼にとって二度目だった。
一度目は、忘れもしない本能寺。小姓の蘭とともに燃え盛る寺を脱出しようとした際に、もはや逃げ場あらずと悟った時のことだ。
だから、これが何を意味するのか、すぐに理解できたいた。
「この戦さ、儂の負けのようだな。ここで貴様らを殲滅したとて、我が死は避けえまい」
なあ、猟兵どもよ。
すぐ近くに姿を見せていた猟兵たちに対して、信長がそう語りかけた。
「そうだな、お前さんは負けた。既に大勢は決したぞ」
「できれば、このまま力尽きて消えてもらえればありがたいのですが」
相対して口を開いたのはセゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)とギルレイン・メルキラレバ(己の神に仕えよ・f13190)の二人だ。
「で、あるか」
信長にしても、分かり切っていた答えの確認にすぎない。溜息と共に、短い言葉で答えた。
「だが、諦めるというのも性に合わぬな。窮鼠は大人しく猫に狩られるものか? 否である。外ならぬ貴様らならば理解もできよう」
大帝剣が砕け、左腕が鳥の頭と化した。一切の予兆もない奇襲。
「自由神ギャラリアの加護ぞあれ!」
剣の海に素早く反応したのはギルレインだ。踊る刃に神官衣を染めながらも後ろに飛びのくと、己が神の名を叫んだ。その声に応じ、地面から染みのように黒い影がいくつも浮き上がり、それが人の姿をなしていく。信仰を守るため、かつて戦場に散っていった同志、英霊からなる戦士団であった。
「陣形、戦列歩兵」
三列の横隊が形成された。先頭に並ぶ兵たちはパイクを構え、後ろ二列は無手のいでたち。銀の穂先がずらりと並んだそのさまは、まるで――。
「弥助が陣のようであるな。いささか縦深が貧弱だが」
「あのような古代の戦術と一緒にしないで貰いたいですね。こちらは新時代の密集陣形です」
ファランクスのそれともよく似ていた。自由神の信徒たちが、宿敵たる司法神殿の断罪兵団と信仰をめぐって戦った際、敵の最精鋭たる騎兵部隊を一方的に破った陣形である。
「進軍喇叭を。世界さえ異なる異国の軍勢に自由神の威をしらしめよ!」
高らかに吹き鳴らされた喇叭の音とともに、戦士たちが死の嵐に突き進んでいく。もとより死した者どもだ。再びの死を欠片も恐れないという意味では、信長と同じであった。小さな剣に身体じゅうを切り刻まれ、一人、また一人と男たちが倒れていく。槍兵の穴を埋めるように、後列の者が倒れた者の槍を拾っては前に進んだ。彼らもただ無策に進んでいるというわけではない。後列の戦士たちが炎弾の魔法を詠唱し、進む先の剣を焼き払ってはいる。いるのだが、いかんせん敵の物量は圧倒的だ。
「つくづくレイアがいないのが悔やまれますね……」
「防御が薄いぞ。その程度で新時代の陣形を名乗れるものか」
こういう時、今はグリモアベースで支援に徹している自分の相棒がいれば、どれほど楽だっただろうかと嘆きたくもある。そもそも、彼女は身軽さを身上とするエルフであり、このような正面きっての戦闘が得意という訳でもなかった。
「いいえ。こうやって、攻撃を引き付けている時点で私の勝ちです。ほら、来た」
神官戦士たちと同様に、刃の嵐に切り刻まれて全身を真っ赤に装飾しながらも、ギルレインがほほ笑んだ。
ギルレインが剣雨に突っ込んでいくのと同じころ、セゲルは自らに襲い掛かった鳥の頭と相対していた。
「鳥頭のサイズがわからんかったが……そんなものか。ではこうしよう」
彼の右手に応龍槍【ギュールグルド】が出現した。普段よりも柄は短く、短槍といってもいい長さ。
「鳥の姿というのが徒になったな。確かに動きこそ早いが、読めん道理もないだろう」
嘴を大きく広げ、己を噛み砕こうと迫る黒い翼を正面から見つめる。真っすぐに迫った鳥頭、それが持つ剣呑な得物がセゲルの身体を呑み込もうと閉じ――られなかった。嘴を全開にしたまま、瓦を割って鳥頭が墜落する。その嘴のど真ん中にはギュールグルドが突っ込まれていた。素早く差し込まれたこの槍がつっかえ棒の役割を果たし、嘴を閉じることができないのだ。
「その口、閉じれば刺さるしかないぞ。とはいえ、どの道逃がす理由もないが。『待てば海路の日和あり。今こそ出航の時だ』」
言葉に応じ、槍の穂先からこんこんと水が沸き出でた。それは流水からうねりへと変じ、うねりは波濤へと変じる。波の音とともに、鳥の頭が消し飛んだ。
鳥の頭にとって不幸だったのは、信長の意識がそちらに割かれてはおらず、ほぼ自動的に攻撃するほかなかったこと。ここに、能力こそ複数人のものを併せ持つが、意思決定を行えるのは信長ひとりという憑装の弱点が露呈していた。
「ついでだ。受け取れ、信長」
ギルレインを襲う剣の嵐を押し流しながら、波は信長めがけて進んでいく。戦士たちと危うい均衡を演じていた弾幕に、もはやそれ押しとどめる力は残っていない。
「おのれ、そのような児戯に――!」
波の先端が槍の穂先のような形をとると、それが放った言葉ごと信長の臓腑を抉り取った。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
九条・救助
恐れをごまかし、怖くない、と嘘をついて立ち向かう
織田信長。あんたの首を獲りにきた
オレは……“ウェンカムイ”だ!
大帝剣が来る……範囲ごと制圧する気か!
迎え撃つ!氷【属性攻撃】!氷矢レタルアイを生成し、氷柱混じりの暴風で敵の攻撃を相殺する!
撃ち合いにになるだろう。向こうの方が強いのは間違いない。だけど、敵の攻撃も無尽蔵じゃない。緩む瞬間があるはずだ
だから、突破する!
UCの起動までこぎつければ【封印を解く】!カムイライズ!
【捨て身の一撃】だ!【オーラ防御】は気休めにしかならねーが……オレは敵の攻撃の中を突っ切り、最短距離で敵の眼前に飛び込む!
真っ向勝負だ!歯ァ食いしばれッ!クトネシリカでブン殴るッ!
その感覚は何度目だろうか。骸の海、死の向こうから現世へと帰還する感覚だ。
「何度経験しても、いい気分にはなれぬな」
九条・救助(ビートブレイザー・f17275)の目の前で再び立ち上がった信長が、首をならしてひとりごちた。もはや死に体とはいえ、この身体に力が残っている以上はまだ復活も可能ではあったのだ。
「そのまま寝てくれていたほうが楽だったんだけど」
「そう言うな。この余興、まだまだ付きおうて貰うぞ」
自らの生存に執着しなくなったせいもあるのだろうか。赤く光るその瞳は、得体の知れない恐怖を感じさせた。
「どうした。動かんか。儂が怖いか?」
「怖くねーよ。織田信長。あんたの首を獲りにきた」
恐れは押し殺し、あえてふてぶてしく言う。ヒーローが、正義の味方がこんな所で怯んでいてはいけないのだ。
「オレは……“ウェンカムイ”だ!」
「カムイといえば、蝦夷地におる化外の民の神であったな。悪神の名を名乗るか。フハハ、よくぞ言った。この第六天魔王に向かって!」
哄笑とともに、ふたたび大帝の剣が砕け散った。
「……範囲ごと制圧する気か! 迎え撃つ!」
大気が急速に冷えていく。宙に舞う無数の剣の切先に霜が降り、きらきらと煌いていた。それは、救助が用意した氷矢レアルタイの副産物だ。大気中の水分を凍結させて生み出された無数の氷柱が、これまた無数に分かれた大帝剣を迎撃した。
「信長……やはり強い!」
「どうしたどうした。大見得を切った以上は最後まで貫いてくれんとな。儂のように」
だが、どうしても物量の差には抗しがたい。少しずつ、迎撃ポイントが救助に近くなっていく。打ちもらした剣が少しずつ増えていき、救助の身体を薄く斬った。圧倒的に不利な展開。だがそれを待っていた。頬から流れ出る血を拭うと、救助が叫んだ。
「今だ、突破する!」
救助まで攻撃が到達した瞬間、信長の攻め手が一瞬緩んだのを彼は見逃さなかった。全身を襲う剣を全て無視し、救助が信長の元まで走る。突き刺さった刃が鮮血を散らして激痛をもたらすが、今はそれに気を取られている場合じゃない。
「いくぜ……カムイライズ!」
その言葉と共に、全てが凍結した。救助の身体から舞い散る紅も、大帝剣すらも。逃れていたのは信長ただ一人であった。
「ほお、この距離を」
「真っ向勝負だ! 歯ァ食いしばれッ!」
感心したような声をあげる信長の顔に、絶対零度の暴風を従え加速する救助の拳が打ち込まれた。
成功
🔵🔵🔴
緋翠・華乃音
「絶対は絶対にない」のだろう? 億が一の可能性に掛けるのも悪くないよな。
……さて、来いよ信長。終わらせてやろう。
必ず先手を取られると分かっているのなら何かしらの策は立てられる。
――ユーベルコード。俺はそれを攻撃ではなく回避に使わせて貰う。
後の先――狙うは必撃のカウンター。
勿論それをユーベルコードに頼りきるつもりは一切無い。
常人よりも優れた視力、聴力、直感、今までに培ってきた膨大な戦闘経験全てをただ一撃を避ける為に消費しよう。
【見切り】は確実に攻撃を避け【スナイパー】は確実に攻撃を当てるもの。
This is where it periods.(ここで終わりだ)
凍てつける拳を正面から受けて吹き飛んだ信長の先にあったのは、緋翠・華乃音(終ノ蝶・f03169)の姿であった。
「……さて、来いよ信長。終わらせてやろう」
「誰が、終わりなど」
そう嘯く信長ではあったが、誰の目にもその弱体化は明らかであった。先制の切れこそ鈍らずとも、万全であれば凌げたはずの猟兵の反撃も受けている始末である。だが、信長の瞳に諦めはない。
「『絶対は絶対にない』のだろう? 億が一の可能性に掛けるのも悪くないよな」
「その通り。確かに儂は既に死んだやも知れぬ。しかし、ここで貴様らを滅せばそれも変わる可能性もあろう」
「だからこそ、俺が終わらせてやる」
「抜かせ、小僧」
ボロボロの左腕が、再びおぞましい異形をした鳥の姿へと変じた。空高く舞い上がったそれが、一之谷の逆落としのごとく華乃音を貫かんと迫りゆく。
「必ず先手を取られると分かっているのなら」
直上より落ちてくる鳥を、藍青色が見据えて。
――銃声が鳴った。
見れば、地面に鳥が堕ちていた。対する華乃音には一切の傷もない。
ラズリの瞳は絶対回避を実現する。誰の目にもその過程は理解できなかったが、もはやその過程は重要ではない。『回避した』という結果に対してその過程が逆算される、理不尽極まる絶技であった。
「貴様、何をした」
「さて? 分からないなら君はそれまでの男ってだけだ、第六天魔王」
右手で脇腹を押さえた信長が、華乃音に向かって問いかけていた。対する華乃音の答えは素気のないもの。
実のところ、銃声は鳥を狙ったものではなかった。そもそも鳥頭は自らの落下速度により、狙いを誤ればそのまま墜落する運命にあったのだ。それを分かっていたから、彼はその銃口を鳥ではなく信長に向け、そしてその狙いは完全に成功していた。
「This is where it periods.」
混乱覚めやらぬ信長の心臓に、狙撃銃の銃口を突き付けて。引き金を引いた。流星はけして狙いを違えない。まして、動きすらしない敵を相手に、零距離といっていい射程だ。外す道理もない。
放たれた箒星が信長の胸に大穴を穿った。
成功
🔵🔵🔴