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エンパイアウォー㉛~フロム・ボトム・オブ・オーシャン

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #鉄甲船

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「皆さん、お疲れ様です! 戦況は良い感じのようですね!」
 積み上げた箱の上でパタパタ手を振り、シーカー・ワンダーは歓声を上げた。
 日野富子の撃破により、彼女が巨万の私財をはたいて建造した巨大鉄甲船の存在が明らかとなった。
 この船は多額の金をつぎ込まれただけはあり、再利用できれば大きな利益となるだろう。戦後のサムライエンパイア平定にも一役買ってくれるはずだ。
 しかし、このまま放置すれば、船は海の底で朽ち果ててしまう。もはや持ち主はなく、放っておいても無為になるもの。なので、猟兵のユーベルコードを利用してサルベージしてしまおうというわけだ。
「侍たちなら、商船なり軍船なり……あるいは、航海の旅に出たりするかもしれませんね。今までの戦場の外側も気になるところではありますし」
 引き上げ船の修復や使い道などは、戦後の幕府が協議の上で決めるようだ。
 戦争がこの先どうなるのかはまだ不明。まして終戦後のことなど予測もつかない。だが、この船は未来への懸け橋。オブリビオン・フォーミュラが倒されたあとのサムライエンパイアにとって、新たな時代を踏み出す一歩になるだろう。
 過去の具現たるオブリビオンの作ったものが、まだ見ぬ世界のその先を作る。製作者にとっては皮肉だろうが――――。
「まあ、俺たちもサムライエンパイアの侍さんたちも、未来に生きる命ですから。こういうのもいいんじゃないかと思います。折角ですし、有効活用させてもらいましょう!」


鹿崎シーカー
 ドーモ、鹿崎シーカーです。沈没船とお宝はロマン。

●第一章(巨大鉄甲船引き上げ作戦)
 海の底に沈んだ巨大鉄甲船をサルベージしてください。サムライエンパイアには引き上げ技術などはなく、海中で使える労働力もありません。猟兵のユーベルコードで引き上げることとなります。

 アドリブ・連携を私の裁量に任せるという方は、『一人称・二人称・三人称・名前の呼び方(例:苗字にさん付けする)』等を明記しておいてもらえると助かります。ただし、これは強制ではなく、これの有る無しで判定に補正かけるとかそういうことはありません。

 サポート役として、シーカー・ワンダー(ファーフロムホーム・f00478)を使うこともできます。その場合はシーカーのユーベルコードを確認の上、プレイングで指名してください。(指名しなくてもマイナス補正はかかりません)

(ユーベルコードの高まりを感じる……!)
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第1章 冒険 『巨大鉄甲船引き上げ作戦』

POW   :    重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる

SPD   :    海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる

WIZ   :    海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セシリア・サヴェージ
こういった作業に従事した経験はもちろんありませんが、要は鉄甲船を海中から引き揚げればよいのですよね?ならばUC【闇の魔力】による【念動力】で持ち上げてしまいましょう。

適当な船で鉄甲船が沈む位置の真上につけて、鉄甲船を確認できさえすれば作業自体は単純かと。問題は重量が私の想定を上回っていた場合ですが……【気合い】と【全力魔法】でなんとかしましょう。
私自身はこれといった案はありませんが、何か良いアイデアを持つ方がいて人手が必要なら喜んでお手伝いしましょう。

この国は海に囲まれ、その向こうには何もないと聞きましたが、これを機に新大陸を目指して航海するのも面白そうですね。

(わたし・あなた・名前+さん)


ルルティア・サーゲイト
【妾・お主・名前呼び捨て】
 ふーむ……モーゼめいて海を斬って引き上げ、は流石に無理か。ここは正攻法、即ち潜って担いで運ぶというシンプルな手で行こう。
 さて、何に変異するか。人魚と言うのも優雅で良いが、力は出まい。パワーのある怪異、下半身をタコにするスキュラを使うとしよう。これなら水中でも高速で泳げるし、鉄甲船を持ち上げる力もある。後は殺戮者サン借りた水中呼吸の指輪を付ければ完璧である。
 しかし、アレじゃな。この姿では当然はけないし、隠す物も無い。下半身丸出しである。まあ、タコなので見た側もどうとは思わぬじゃろうが……
「何か、妙な昂りを覚えてしまうのう!」


ケイ・エルビス
★連携アドリブ台詞等大歓迎
ソロ避けたい

POW

普段運び屋稼業や猟兵仲間のサポートに使ってる
戦術輸送機「アトラス」で巨大鉄甲船引き上げ作戦に挑戦だぜ


オレが率先してやるけど時間が惜しい
シーカーや猟兵仲間にも手伝ってもらい


超丈夫な普段自前のトラックに使ってる
運搬用の牽引フックとロープを
船の各部分の損傷の程度
形や重量
加わる力を計算してメモを書いて見せ
均等に力が加わるようバランス良く設置


その後すぐ輸送機を操縦しゆっくり上昇していき
船が順調にサルベージできてるか上空のオレに渡しておいた
装備のトランシーバーでシーカーに地上から連絡してもらう
急に引っ張る力が加わると壊れるかもしれねえからな
運び屋の腕の見せ所だぜ


メンカル・プルモーサ
鉄甲船のサルベージか……あれは確かにそのまま放棄するには勿体ないものだね……
…ひとまず箒に乗って現地へ…
…まずは【夜飛び唄うは虎鶫】を召喚…海中の捜索とともに周囲の地形と海流、あとは一時的に巨大鉄甲船を引き上げられる島か何かが無いかを探して…この辺りの情報は仲間の猟兵と共有だね…

…鉄甲船を見つけたら状態の確認…海中でどうなってることやら…丈夫だろうし、バラバラなってたりしないだろうけど…
…上手く引き上げる方法があればそれで引き上げ…
…そうじゃないなら近くの島に移動して【彼方へ繋ぐ隠れ道】で鉄甲船を引っ張ろう…
…あとはガジェットに船の中にあった細かい荷物を引き上げさせるか…こっちも勿体ないしね…



 陽光煌めき、さざ波立つ海原の上を、一機の飛行機が飛んでいく。モグラ、あるいは犬の鼻めいた機首。側面には五芒星の上から『DARK STAR』の文字を重ねたペイントが光る。
 海風を切って空を滑る小型機の近く並んで飛行する箒と、それに座ったメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)を窓越しに眺めるセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)。副操縦席で頬杖を突く彼女に、操縦席のケイ・エルビス(ミッドナイト・ラン・f06706)が声をかけた。
「さーて、もうそろそろ目標ポイントに着くぜ。鉄甲船とやらとご対面……の、前に引き上げだな」
「ふむ……」
 セシリアは居住まいを正し、ケイの方を向き直る。
「こういった作業に従事した経験はもちろんありませんが、要は鉄甲船を海中から引き揚げればよいのですよね?」
「ま、そうだな。ただ時間が惜しいし、手伝ってもらうぜ」
「ええ。わたしで良ければ喜んで」
 しっとりと頷いたセシリアが、再び窓の外を見た。タブレットを操作していたメンカルが顔を上げ、視線がぶつかる。だがセシリアの銀の瞳は、彼女の後方――――遥か遠くを横切る水平線に向けられていた。
「この国は海に囲まれ、その向こうには何もないと聞きましたが、これを機に新大陸を目指して航海するのも面白そうですね」
「お、行ってみるかい? オレの飛行機で……ってのもいいけど、せっかくだ。船使うっていうのもアリだよな。……っと、着いたか」
 計器類を確認したケイが操縦桿を手前に引いた。飛行機が徐々に速度を落とし、やがて海上15メートルの位置で静止する。飛行機を滞空させたケイは操縦席から立ち上がった。
「んじゃ、仕事しますか! ルルティア! 手伝い頼むぜ!」
「うむ! 準備は出来ておるぞ!」
 コックピットの扉が勢いよく開く。そちらを振り返った直後、セシリアとケイは絶句して凍り付いた。
 勇んで入ってきたのは、長い黒髪から曲がった角を生やしたルルティア・サーゲイト(はかなき凶殲姫・f03155)。勝気な笑顔から視線を下にずらしていくと、ゴスロリドレスめいた改造を施された着物、腹部から突き出した犬の六頭。そして、うごめく巨大なタコ足に行きつく。
「………………」
「………………」
 セシリアが神妙に目を細め、ケイの片頬が引きつった。無言の二人に、ルルティアはきょとんとした顔で問いかける。
「なんじゃ、お主ら。狐につままれたような顔をして」
「いやー……狐にっつーか、タコに……?」
 コメントに困ったケイは、視線でセシリアに話を振る。アイコンタクトを受けたセシリアが代わりに言った。
「ルルティアさん……その下半身は一体。先ほどお目にかかった時は、人間の足だったと思うのですが。それと、犬の頭も生えていなかったかと」
「む? ああ、これか?」
 ルルティアが自身の腹部を見下ろし、犬頭のひとつを撫でた。
「何、最初はモーゼめいて海を斬って引き上げようかと思ったのじゃがな? 流石に無理じゃろうと考えた故に、正攻法でなんとかしようと考えたのじゃ」
「正攻法というと、力尽くですか?」
「うむ! 潜って担いで運ぶことにしたのじゃよ!」
 得意げに胸を張るルルティア。ケイは片眉をピクピクと動かす。
「で、そのー……なんだ。それで、なんでタコに?」
「タコではない、スキュラじゃ。ケイよ、知らんのか? 船を襲う神話の怪物、なんなら語って聞かせてやるが……」
「いや、いい、いい! 時間無いからな!」
 ケイが慌てて首を振った瞬間、天井に青白い魔法陣が浮かび上がった。三人がそちらを見上げると、光のわだかまる陣中央からメンカルの上半身が生えてくる。眠たげな表情で、メンカルはタブレット片手にそろった面子を見下ろした。
「……三人とも。データ収集、終わったよ」
「お、お疲れメンカル。どうだった?」
 問いかけるケイに、メンカルは無言でタブレットを叩く。三人それぞれの目前に青いホロウィンドウがいくつか出現。表示されているのは、船を横と上から見た図、実際の映像写真、破損状況の箇条書き、周辺海域の海図。
 液晶画面を見ながら、メンカルは眼鏡を押し上げる。
「……鉄甲船は全長300メートル、横幅は一番広いところで36メートル……状態は結構悪くて、装甲板はかなり錆びてる……推定満載排水量は二万五千トン。海流は緩やかで、この辺に船を乗せられるような島は無い……どうしても、自分たちでなんとかするしかないみたい……」
 ずらりと並ぶ上方の羅列。ルルティアが八本をうねらせながら、困った様子で頬を掻く。
「えーっと? まんさいはいすいりょー? とは何かの?」
「……すごく簡単に言うと、乗組員、弾薬、燃料、水とかを全部乗せた時の船の重さ。今は海の底だし、水は満杯。中に積み荷も色々あるし、水圧とかもかかってるはず……」
「つまり、どういうことじゃ」
「……すごく重い」
「なるほど」
 ルルティアが頷く一方、セシリアとケイは提示された情報をじっくりと眺める。
「ともあれ、やることは代わりませんね。このまま朽ちさせるわけにもいきません」
「だな。ま、こっちも対策はしてるし、なんとかなるだろ。ルルティア、ロープとフックはあったろ?」
「あったぞ! 準備も出来ておる」
「よし」
 ケイは左手の平に右拳を打ちつけた。
「それじゃ、仕事と行きますか。三人とも……」
 不敵な微笑みを浮かべ、輸送機の主は言い放つ。
「鳥になって来いっ!」
 即座に身をひるがえしたルルティアがコックピットを出、後ろに積み上げていたフックロープの束を抱える。そして機体横のスライドドアを開き、輸送機から飛び出した。海面へ頭からダイブする彼女の後を追うセシリア!
「メンカルさん、船を」
 セシリアが呟くと同時、上空からメンカルを乗せた箒が急降下してくる。メンカルは横向きに腰掛けたまま、銀の三日月を装飾した杖を水面に向けた。
「……世に漂う魔素よ、変われ、転じよ。汝は財貨、汝は宝物、魔女が望むは王が呪いし愚かなる黄金」
 詠唱に応え、水面に魔法陣が展開。噴き出す黄金色のフラッシュのあと、そこには波に揺られる金のクルーザーが現れていた。セシリアは前方回転して足を下に向けると、クルーザーの甲板に垂直落下!
 THOOOM! 着地の衝撃で船がシーソーめいて揺れ、波紋が広がる。セシリアの隣、甲板に飛来した箒から降りたメンカルは、タブレットに声をかけた。
「……ルルティア、フックをつける位置は指示する……」
『しっかり頼むぞ! お主が頼りじゃからな!』
 海中、一緒に素潜りする機械鳥を横目にルルティアが潜航速度を上昇させた。周囲を取り囲む青が群青、紺色に代わり、漆黒に塗りつぶされる。ルルティアの周りに追加で四匹、機械の鳥が並んで両目を発光。ライトで道行きを示してもらいつつ、ルルティアは中指に目を向ける。
 中指に嵌まった指輪は真紅の光を放ち、海の闇もあって一層明るい。それは実際、ルルティアが借りてきた水中呼吸の指輪であった。
(殺戮者=サンに借りた指輪も機能しとるし、この姿でも問題なく行動できるな。うむ、良い! しかしアレじゃな……)
 ルルティアの視線が、うねる自分のタコ足に移る。
(この姿では当然はけないし、隠す物も無い。下半身丸出しである。まあ、タコじゃしセシリアもケイもどうとは思わぬじゃろうが……)
「何か、妙な昂りを覚えてしまうのう!」
 悪戯っぽく笑ったルルティアが一気に海の底へと潜った。ややあって、闇の奥に点々と動く光が見え始める。ルルティアに並ぶ機械鳥の一体が、メンカルの声をクチバシから出す。
『……ん、着いたね』
「ほう? ……おおっ!?」
 ルルティアの両目が丸くなる。彼女のはるか下方には、無数の機械鳥のライトに照らし出された巨大な船が鎮座していた。メンカルの鳥型ガジェットが蝿か蛍の群れに見えるほどの威容! 外板のところどころに広い錆が出来てるものの、天突くマストは今だ健在。それもかなり巨大で太い!
 暗闇の中、巨大神殿めいた船をホロウィンドウで見たセシリアとケイが息を呑む。メンカルは冷静に、上からルルティアと並んだ機械鳥の視界をタブレットで確認しつつ指示を飛ばした。
「まず、左側から……」
『合点じゃ!』
 威勢良く応えたルルティアが鉄甲船の左側面めがけて加速。右脇に抱えたフックロープをひとつ、マスト左側の縁に引っ掛け方向転換! 船の外周を泳いで巡り、メンカルの合図に合わせてフックをひとつずつ噛ませていく。
『……そこ。…………ん、そこ。…………そこ。船首まで来た。今度は右……』
「応ともよ!」
 ドリフトめいてUターンを決め、ルルティアは鉄甲船右側を走る。ガチン、ガチンと音を立てて船のヘリに噛みつくフック。半ばを超え、やがて船尾へ。鉄甲船後方で再度ターンし、飛ぶように遊泳しながら残りの場所にフックを着けた。
 船の縁から少し距離を取り、ルルティアは隣の機械鳥に言う。
「よし、全てつけたぞ! 妾は下から持ち上げる!」
『……うん。ちょっと待ってね』
 金のクルーザーの甲板で、メンカルはスカートの腰裏につけたトランシーバーを取り出した。スイッチを押して一瞬のノイズ。
「……ケイ、準備出来たよ……」
『よし、オレの出番か』
 輸送機のコックピット、操縦桿を握るケイは傍らに浮かんだウィンドウを一瞥する。それは船を上から見た図で、装甲版を示す外側の線に赤い丸点がいくつも描かれていた。ルルティアがフックを設置した位置を示しているのだ。
(均等に力がかかるように設置はしてある。あとは……)
 操縦桿を握る手にじっとりと汗をにじませつつ、ケイは真剣な面持ち。一呼吸おいて、操縦桿中央に取りつけたトランシーバーに声を投げる。
「それじゃあ、サルベージするぜ。メンカル、指示出しとか様子見とか頼む」
『いいけど……ケイ、中に細かい荷物いくつかある。私の方で引き上げられるけど、どうする……?』
「あー、じゃあそっちは機内に入れといてくれ。ロープの負担は、少ないに越したことないしな」
『……ん。秘されし標よ、拓け、導け。汝は道程、汝は雲路。魔女が望むは稀人誘う猫の道』
 ZANK! 機体に振動が走り、高度がほんの僅かに下がる。ケイは胸元に手を当て、跳ねた心拍をなだめた。輸送機後方に鉄甲船内の小物が転送された音だろう。
「ふー……」
 ゆっくりと息を吐き、ケイは再び操縦桿を両手で握った。瞳に宿る光は鋭い。
「さあて、運び屋の腕の見せ所だぜ」
 呟き、ゆっくりと操縦桿を手前に引っ張る。輸送機が徐々に徐々に上昇し、海面から伸びたロープが張り詰めた。それを見たメンカルはセシリアに目配せ。セシリアはひとつ頷くと、緩く両手を持ち上げた。
 黒い籠手を嵌めた手に、黒い炎めいたオーラが湧き立つ。
「暗黒の力よ、我が手に……!」
 松明めいてオーラを燃やし、セシリアは両手をクルーザーの甲板に振り下ろす! SPLASH! クルーザーから波紋が広がり、水飛沫が飛ぶ。黄金の船を突き抜けた不可視の波動が海を垂直に落下し、深度をどんどん増していく。
 見えざる力はやがて海底の鉄甲船に到達。巨大な船体を黒いオーラの火で包む。セシリアは甲板に触れた両手を引きかけ、眉根を寄せた。
「……っ!」
 両腕が震え、折り曲げた指先が甲板に食い込む。肘から先が千切れそうになる感覚。セシリアは内心で舌を巻く。
(重い……少々甘く見積もっていましたか。しかし……)
「ふっ……!」
 鋭く息を吸い込み、力いっぱい両腕を引く。周囲でキシキシと軋む音。張り詰めた牽引ロープが悲鳴を上げているのだ。歯を食いしばったセシリアの顔が紅潮し、額から汗が流れる。メンカルは腰を折り曲げ、セシリアの横顔を覗き込んだ。
「……大丈夫……?」
「ご心配、なく……!」
 詰まった声を上げ、セシリアは両肘を折り曲げるように後方へ引いた。貼りついていた手の平が甲板から数ミリ離れたその瞬間、メンカルの真横に浮いた魔法陣からルルティアの声!
『よしよしよし! ちょっと上がってきておるぞ!』
「……ルルティア、もう少し左にずれて。うん、そう……もう少し。そこ」
 ガジェットと繋がった魔法陣を通じて、細かく指示を出すメンカル。他方、コックピットで硬い表情をしていたケイが、機内の計器を確認して独り言を零す。
「そろそろいいか。巻き取り開始っと!」
 計器の近くに配置された銀のレバーを四つ、親指で順に跳ね上げる。輸送機機体の両側面に取り付けられた、大きなロープ巻き取り機構が駆動を開始。緩慢な動きでピアノ線じみたロープをキリキリと持ち上げていく。
 ケイは生唾を飲み込み、トランシーバーに問う。
「どうだ、メンカル。上手く行ってる?」
『……とりあえず。ロープは切れてないし、順調。……ただ、少し時間かかるかな』
「そりゃま、このデカさと深さじゃあな。焦りは禁物だぜ」
 半ば自分に言い聞かせるケイ。甲板では、セシリアが歯の間から苦悶を零す。
「っく、ぐ……!」
 二の腕を覆う黒いインナーの下から、筋肉の筋が浮き上がる。手の平は甲板から数ミリ浮いた所で震え、凄まじく緩慢に離れていく。深海、船の底を腹の辺りまで持ち上げたルルティアは、真横を飛ぶ機械鳥に呼びかけた。
「なあメンカルよ。もしコレ、このまま真上にぶん投げたら……どうなる?」
 機械鳥はルルティアを見て沈黙した。巻き取りは少しずつ、着実に進んでいるが、数ミリずつでは海から完全浮上するのは難しい。かと言って投げればどうなるか? しばしの沈黙思考を経て、メンカルは機械鳥越しに言った。
『……バラバラにはならないと思うけど。多分、ロープ切れる……』
「ふむ」
 小首を傾げ、ルルティアが続ける。
「セシリア。このままではラチが明かん。一気に投げ上げるからお主、ロープが切れぬように支えるのじゃ」
『簡単に、言ってくれますね……』
 張り詰めたセシリアの声を出す機械鳥に、ルルティアは強気な微笑みを見せた。
「なーに、安心せい。妾も一緒になって支える。お主だけに負担はかけぬよ」
『だ、そうです。ケイさん、いかがですか?』
『んんー………………!』
 輸送機のコックピットで、操縦桿を握りしめてケイは唸った。
 鉄甲船の落下をロープだけで支えるとなれば、その分だけロープに負担がかかる。メンカルの言葉通り、恐らく切れる。いくらトラック運搬用の牽引ロープを何本使っているとしてもだ。だが、落ち切る前に支えられれば、そのまま巻き上げ速度を上げれば――――。
 ケイは深呼吸をして自分を落ち着かせ、苦笑する。
「……ちゃんと支えてくれよ?」
『うむ! では行くぞ。せぇーのっ!』
 ルルティアは両腕に力を込めて、THROWWWWWWWW! 鉄甲船が水を切って急上昇する。が、激しい水圧を受け、わずか数秒で勢いが緩んだ。即座に垂直上昇したルルティアが船底に手を当て、押し上げんとする!
「頼むぞセシリア!」
「はあっ……!」
 甲板のセシリアが全霊をかけて腕を引く! 先に倍する勢いで彼女の両手が浮き始め、肘先を覆うオーラが勢いを増した。張り詰めて軋んでいた状態から、緩んで余裕が出来たロープを見上げるメンカル。輸送機のケイは銀レバー横のスイッチを長押しした。
「巻き上げ加速だ! 耐えてくれよな……!」
 キュラキュラキュラキュラ! 輸送機の巻き上げ機構が速くなり、ロープをどんどん引き込んでいく。鉄甲船を取り巻く黒がうっすら青みを帯び始め、濃い群青色に変化した。ルルティアとセシリアは船を引き上げる手をさらに強める!
「ぬおおおおおおおおおおっ!」
「っっっっっ……!」
 ルルティアのタコ足が激しく水中を引っかき、両目をつぶったセシリアの二の腕で血管が千切れて血を噴き出す。他方、メンカルはタブレットに目を落とした。船を横から見た図式、その斜め右上に表示された深度計がスロットマシンめいてめまぐるしく変化していた。
 同じ図式を輸送機で見たケイは、緊張に胸を高鳴らせた。メンカルから力加減の指示を受けつつ、目を機内の計器や操縦桿に走らせる。
(慎重に、慎重にだぜ、オレ……!)
 息を吸って止め、操縦桿を力強く引き寄せる!
「上、が、れぇぇぇぇぇ――――――――――――――っ!」
 その時、黄金クルーザーの真下で、海が小高い丘のように盛り上がる。海面の隆起はどんどん進み、頂上に乗ったクルーザーを滑り落とす。バランスを崩したセシリアの背を支えるメンカルの目の前で――――SPLAAAAASH! 海水をぶち抜いて巨大なマストが飛び出した!
 雨の如く降る海水。続いて甲板が水を押しのけながら現れ、ザバザバと滝を流しながら錆びかけた装甲版が外気に触れる。
 鉄甲船の後方まで押し流されたクルーザーの甲板に膝をついたセシリアは、そびえたつ巨大な影を見上げてだらんと両腕を下げた。
「これが……例の……」
 呟くセシリアの前で、巨大な船が海面から浮き上がる。水を滴らせながら引き上げられていく船の真下でルルティアが満足げな笑顔を作った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月24日


挿絵イラスト