2
エンパイアウォー㉛~新たな『物語(みらい)』の為に

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #鉄甲船

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー
🔒
#鉄甲船


0




●沈黙した鋼鉄の船
 戦の喧騒は既に遠かった。
 南海道方面を進む江戸幕府軍を壊滅させるために、魔軍将が一人、大悪災「日野富子」が巨万の富を費やして建造したという、巨大鉄甲船。村上怨霊水軍を搭載したその戦船は、今や没し、海の藻屑と化そうとしていた。
 この世界を滅ぼす者によって生み出され、己が世界の敵となる事を宿命づけられた彼らは、静謐なる海の底にて今何を想うのか。

●彼らに新たな『物語(みらい)』を
「お手隙の猟兵の皆さん、お力をお貸しいただけませんか?」
 グリモアベースで真月・真白(真っ白な頁・f10636)が声を上げる。それを耳にした幾人かの猟兵達が足を止める。敵か?
「いいえ、今回は戦いではないのです」
 集まった猟兵達に礼を述べた後で、真白はそのように前置きをして本体である本wの開き説明を始めた。
 オブリビオンフォーミュラーである魔王織田信長との一大決戦、サムライエンパイアにて起きているエンパイアウォー。戦いは猟兵達の尽力によって未だ江戸幕府軍の優勢に進んでいる。織田信長の部下である魔軍将も次々と撃破の報告が入っている。
「その織田信長軍には村上怨霊水軍という水上戦力がありました。これは既に猟兵の皆さんによって撃破済みです。かの軍が用いた巨大鉄甲船は全て撃破、沈没させられています。今回皆さんに行っていただきたいのは、この巨大鉄甲船の引き上げ作業なのです」
 敵の船を? 猟兵の一人が疑問の声を上げる。それに対して真白は尤もな意見だとうなずき、その上で答えた。
「脅威であったために沈めはしましたが、これは魔軍将である日野富子の富で作られています。であればこれを幕府軍が徴収出来ればとてつもないメリットになると考えたようです」
 船としては申し分ない高性能である巨大鉄甲船。これが幕府軍の物となれば、この戦争の後に色々な使い道があるだろう。
「この戦争自体に直接影響するものではありません。ですが、この時期を逃せば船は完全に海の藻屑と化してしまうでしょう」
 猟兵達の様々な道具や技術、ユーベルコードを用いれば巨大鉄甲船を引き上げる事は可能だ。
「巨大鉄甲船は、サムライエンパイアを害する為に生み出されたものです。けれど『彼』はまだ何も為していない」
 今ならば、作り主に与えられた『過去(のろい)』から船を解き放ち、新たな『物語(みらい)』を与えられるだろう。
「サムライエンパイアの未来の為、どうかお力をお貸しください。よろしくお願いします」
 本を閉じた真白は、集まった猟兵達に深々と頭を下げ転送の準備を始めた。


えむむーん
 閲覧頂きありがとうございます。えむむーんと申します。

●特記事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●シナリオの概要
 沈没してしまった巨大鉄甲船の引き上げを行います。
 これ自体は戦争の結果に直接関係はしませんが、一隻でも多く引き上げに成功すれば、戦後のサムライエンパイアにとって益となると思われます。
 頑丈な船ですので、ハッキリ破壊するという行動以外なら色々無茶は効くかと思われます、よろしければ色々試してみていただけると嬉しいです。

●合わせ描写に関して
 示し合わせてプレイングを書かれる場合は、それぞれ【お相手のお名前とID】か【同じチーム名】を明記し、なるべく近いタイミングで送って頂けると助かります。文字数に余裕があったら合わせられる方々の関係性などもあると嬉しいです。
 それ以外の場合でも私の独断でシーン内で絡ませるかもしれません。お嫌な方はお手数ですがプレイングの中に【絡みNG】と明記していただけるとありがたいです。

 それでは皆さまのプレイングをおまちしております、よろしくお願いします!
41




第1章 冒険 『巨大鉄甲船引き上げ作戦』

POW   :    重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる

SPD   :    海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる

WIZ   :    海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アーク・ハインド
「……アーク・ハインド海賊団、今回の任務はあの船の死を略奪することっす。」
「正直、戦争には興味がなかった、敵の舟にも興味はなかった、でも……これは、見捨てられない。自分と同じ末路をたどる船は少なければ少ないほどいい。」
そう言いながらUCで召喚した船員達に船の修繕や海流の計測などをするよう船長に頼んで自分もそれに交じり船の引き上げや修繕などを一心不乱に行います。
その際浸水が酷い等あった場合は技能:属性攻撃の火による蒸発か、雷による電離か、氷結させて外に運ぶかとその場による適切な判断を行います。

「あんたはまだ海を走れるっす、絶対走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ…!」


エグゼ・シナバーローズ
なるほどな、どんな道具も使うヤツ次第だもんな。
まだ生きられる可能性があるなら使ってやりたい。
よし。引き上げて海を行かせてやろう。

特に引き上げる労力がかかりそうなところに道具やガジェットを設置・使用して引き上げる補助をするぞ。
飛んで空からどんな向きで沈んでいるかできる限り特定。
道具の使う場所を決めて必要数を決めたら、どうにか腰おろせる場所を見つけてそこで道具を組み立てる。
それ持って潜水、セットだ。
ジャッキの類で持ち上げたり浮力・揚力を生み出す装置で動かすことになるかな。

泳ぐとき翼が邪魔なんだよなー。
濡れる?今仕事中だぞ、そんなの気にしてるときじゃねーよ。

手伝いを求められたら率先して動くぜ。



●埋葬された骸
 夏の日差しを照り返し碧く輝く海からの風は、アーク・ハインド(沈没船・f03433)の頬をくすぐり、銀色の髪を揺らす。穏やかな光景をしかし彼女は痛ましそうに見つめている。
「……アーク・ハインド海賊団、今回の任務はあの船の死を略奪することっす」
 普段とは異なる呼びかけに、彼女の背後に現れた幾人もの海賊然とした人影は腕を振り上げて応える。
 その中の一人にアークは、他の船員へ引き上げの為の修繕作業や海流の計測などをしてもらうように頼んだ。その服装はアークにどこか似ている……いや逆だ、アークこそがその人物の、己に乗っていた船長の服装を真似ているのだ。
 かつての、いや、幾千の時を超えてなお『相棒』であるアークの求めに、船長は笑顔で頷く。そして船員達へ的確な指示をし始めた。
「へぇ! それがお前の『お仲間』か、頼りになりそうだな。俺はエグゼだ、よろしく頼むぜ」
 アークに声をかけたのはエグゼ・シナバーローズ(4色使いの「転校生」・f10628)だった。彼はアークを引き揚げ作業を受諾した仲間だと判断し、声をかけたのだ。
 アークもまた簡単な挨拶を交わし、改めて船が眠る沖合を見た。
「正直、戦争には興味がなかった、敵の舟にも興味はなかった、でも……これは、見捨てられない。自分と同じ末路をたどる船は少なければ少ないほどいい」
 彼女は知っている。この海の穏やかさは、沈んだ船にとっては墓地のそれと同じだと。彼女は知っている。風を受け軽やかに海上を駆けるべく生み出された者にとって、海の底へに沈むということが、、水圧という名の鎖にその身を縛られ、動くことを許されずただただ朽ちていくという事の残酷さと恐怖を。沈んでしまった船のヤドリガミである彼女は、その身をもって知っているのだ。
「なるほどな、どんな道具も使うヤツ次第だもんな」
 エグゼはアークの言葉を聞きながら己の愛用する精霊銃を、収めたホルスター越しに撫でる。
 まだ生きられる可能性があるなら使ってやりたい。緑の瞳にそんな決意を込めたエグゼはぐっと拳を握って宣言する。
「よし。引き上げて海を行かせてやろう」
 先にちょっと見てくるぜ、とアークに言うとエグゼはその白い翼を羽ばたかせ空へと飛んだ。
「エグゼつったっすか……自分達にゃあれは無理だから助かるっすね。さて、自分らも行くっすよ!」
 アークの声に船員たちは声を上げて応え、用意した船に次々と乗り込んでいくのだった。

●再誕せし命
「あれだな」
 エグゼは上空から海面を見つめていた。キラキラと光を返す水面のその奥に、うっすらと船影が見えたのだ。
 彼はそのまま、どのような形で船が沈んでいるかを調べた。どうやら形はほぼそのままに、真っすぐに沈降したらしいことが見て取れた。
 そうこうしているうちにアークと船員達を乗せた船が近づいてきた。彼女も沈没した船の場所を特定したようで、船員の何名かが海へ潜る。
 エグゼも船に降りて合流する。潜った船員達の持ち帰った情報と照らし合わせた所、どうやら左側面に穴が開いてしまったことで浸水、船が沈みはじめた事で他の損傷個所からも浸水が始まり加速、沈没へと至ったようだということが分かった。鉄の装甲を纏う船だといっても、海面に没する棚板などは木材部分がむき出しだったのだろう。
「っつーわけで破損個所の修繕と水のかきだしが必要っすね。もっともまずは引き上げないといけないんすが」
「船を浮かせる手助けになりそうなガジェットや道具は持ってきたぜ。アークのお仲間に手伝ってもらえば設置もしやすそうだ」
 船員達はエグゼの言葉に任せろとばかりに力こぶをつくり不敵な笑みを浮かべる。元々が海に生きる海賊達な彼らの海に関する知識、それに加えて今や亡霊となったその体は呼吸を必要としない。沈んだ船に装置を取り付けるような時間のかかる水中作業にはうってつけの人材だった。
「上手く浮けば今度は海流の影響を受けるっす」
 アークはそういって船員達が調べ上げた海流の情報を伝える。折角浮いた時に、海流によってあらぬ方向へ流されないよう、それを考慮した引き上げプランを練り始める。
 エグゼはその情報を頭に叩き込みながら持ち込んだ道具を広げ始めた。ジャッキのような道具から何やらしぼんだ玉のようなものもあった。
 興味深そうに見ていた船員達に、これは持ち上げるために使う、こっちは浮力や揚力を生み出すんだ、と道具の性能や使い方を説明していった。
「作業開始っす!」
 やがて準備の整った彼らは、アークの号令を受けて再び海中へと没する。今度はエグゼの持ち込んだガジェットや、自分達が持ち合わせたロープ等を手にしながらだ。
 ジャッキの様な道具を持った船員達は海底へ、岩などの凹凸によって隙間が出来ている場所を重点的に、どうしても必須だが海底に完全に接してしまっている場所は、海底を掘って隙間を生み出しながら設置していく。
 浮力を生み出す為の装置は船首から船尾へ、二重三重の輪となるように巻き付けていく。
「設置完了した? それじゃあいくか。あぁでも泳ぐとき翼が邪魔なんだよなー」
 船員からの報告を聞いたエグゼは、お前はここで待ってろよ、と常に共にある相棒の火の精霊を待機させると泳ぐ準備をはじめた。
「せっかくの綺麗な羽なのに濡れちゃわないっすか?」
 アークの心配する声にエグゼは自信たっぷりの笑顔を見せた。
「濡れる? 今仕事中だぞ、そんなの気にしてるときじゃねーよ」
 そのまま深呼吸をし、たっぷりと肺に空気を詰めて潜り始めるエグゼ。そのまま潜行し、鉄甲船に取り付けられたガジェットに次々と触れて起動させていく。ジャッキは自動的に力を籠め、少しずつ船体を押し上げはじめ、巻き付けた道具には何処からか空気が入り込み膨らみはじめ浮力を生み出す。魔導蒸気文明が生み出した脅威のミラクルツールであるガジェットを操れるのはガジェッティアを置いて他に居ない。これはエグゼにしか出来ない仕事だった。
 エグゼが船に戻るのを合図に、アークと船員達は鉄甲船に巻き付けた無数のロープを引っ張り始める。
 それは途方もない苦難だった。ガジェット等の手段が助けになっているとはいえ、巨大でかつ鉄板装甲を持つ鉄甲船を引き上げようというのだ。
 汗などかくはずもない亡霊の船員達ですら、生前の感覚に引っ張られ額から汗を流しながらロープを引っ張る。生身であるエグゼやアークに至っては、手に塗れた汗でロープが滑ったり、足元に水たまりが出来て滑らないかという心配まで必要な程だった。
 それでも流石は猟兵。少しずつ少しずつ、鉄甲船は上昇していた。海中で船体がきしむ音が伝わり、まるで断末魔の様な音を響かせる。否、これは断末魔ではない。骸となって海という墓へと葬られた存在が、今再びの命を与えられ、海という殻を破り生まれんとする抗いの声だ。
「あんたはまだ海を走れるっす、絶対走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ……!」
 徐々に近づく海中の黒い影に、アークは必死に縄を引っ張りながら語り掛ける。 
 そして、遂に再誕の時が来る。海を割り、水しぶきをあげ、今巨大鉄甲戦の一部が水面に顔を覗かせた。それは船の中央に眷属された砦の屋根部分。城もかくやと思わせる作りに、鉄板を張り付けた堅牢なる海上要塞のその一部が再び日の目を見たのだ。
「よっし、次はエグゼさん。あなたの翼を借りたいっす」
「あぁ、任せとけ!」
 引き上げが順調に進んだことで、アークは次の行動に入る。エグゼに助力を請い、彼の飛行能力で姿を見せ始めた鉄甲船へと移動する。まだ足場も少ないこの船の露出部分を調査し、内部に残留する海水を輩出するつもりなのだ。
 海水が残れば単純にそれだけ重量が増えてしまうし、なによりバランスを欠く。これで鉄甲船が途中で横倒しになった、等という結末はあまりにも笑えない。
 アークと彼女を運ぶエグゼは、は海水の残り具合や状況に応じて的確に蒸発させたり、凍らせて運び出したりと、軽くする作業に努めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・杏
折角船として作られた鉄甲船
うん、新しい物語を探しに、また漕ぎ出して欲しい
この、どこまでも続く海を

わたしは事前に戦の現場にいた幕府水軍の人に聞いて情報収集
ん、戦のあった場所、船が沈んだ位置、ここね
地図に印をつけて

小船を借りて現場周辺に
潮の流れ……、海底に塊が落ちてたら少し変わってる……ここ?

【白銀の仲間】で透明の巨大水竜を一体
海の魚達を怖がらせないように、静かにね?
海底に潜り、鉄甲船をゆっくり押し上げ
そのまま浅瀬まで押していく

ね、幕府軍で船の設計士の人、いる?
鉄甲船の設計図、作れそう?
設計図があれば修理もし易くて
新しい船も作れるかも

与えるだけじゃなく、真白な物語を作り出す
そんな未来、あれば嬉しい


アーク・ハインド
「第一段階は終了、あとは穴の応急処置を完璧にしつつ排水っす。」
「まさかやり方を忘れたなんて言うバカは自分に乗ってた野郎どもにはいないとは思うっすけど、やれるっすよね?」

等と顔をのぞかせた船に心底安心しつつ信頼している自分達の海賊団に次の頼みを軽口を叩きながらお願いします。
内部侵入後も技能:属性攻撃による適切な排水を行いつつ
技能:見切りで船にとって致命的な損傷でありまだ修繕可能な場所を探りどこからか技能:盗みでとってきた木材などを使用し海賊団と共に修繕に入ります。
「自分ら海賊っすよ?略奪上等っす」と盗んだことに対する反省は多分しないでしょう。

「もうひと踏ん張りっす、絶対助けて見せるっすからね。」



●浮上
 巨大鉄甲船の引き揚げ作業は続いていた。船の中央に建造された砦も、そのほとんどを再び露出させていた。あともうひと踏ん張りで甲板も海の上に戻るだろう。船員たちが活動している船へと戻ったアークは心底安心し笑う。
「もう少し浮き上がれば第一段階は終了、あとは穴の応急処置を完璧にしつつ排水っす」
 そうして船員達を振り返る
「まさかやり方を忘れたなんて言うバカは自分に乗ってた野郎どもにはいないとは思うっすけど、やれるっすよね?」
 挑発するかのようなアークの口調に、船員達は次々に腕を振り上げて肯定の意を示す。その様子を見た彼女が満足そうにうなずいた時、異変は起きた。
 最初に気付いた船員が急いでアークを呼ぶ。そしてアークが見たものは。
「な、なんすかこれは!」
 先ほどまでの引き上げる速度を超えて、船が浮き上がり始めたのだ。まるで下から何かに押し上げられているようなその動きに、まさか鯨のような巨大な生き物がぶつかったかと慌てて海面を確認するアーク。其処には、確かに何かが居た。海に溶け込んでいるのか、形ははっきりとは捉えられないが、何かか、長く海を生きた彼女でも見た事の無い何かが。

●真相
 時はしばし遡る。アーク達が沖合に出発した後でこの地に訪れた猟兵がいた。木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)だ。彼女はまずこの戦場跡を管理する任務に就いていた幕府軍兵士の元へと向かった。
「おや? 近くの村の子かい? お嬢ちゃん、怖い幽霊はもういなくなったが、まだ危ないからここに遊びに来ちゃいけないぞ」
 どの世界においても住民に違和感を与えない猟兵の特性で、兵士は人形を抱えた杏を普通の子供だと思ったのだ。
「ん、違うの、私は……」
 怖がらせないようにという気づかいか、しゃがんで杏と同じ目線で笑いかけてくれるその兵士に、杏は懐から取り出した一枚の符を見せた。
「こ、こりゃ、天下自在符!? ということはお嬢ちゃ……い、いや、貴殿はいぇいがぁ殿!?」
 目の前の少女が、魔王信長と激戦を繰り広げている勇士の一人であると気付き、慌てて無礼を詫びようとする兵士をとりなし、杏はこの海域で戦のあった場所、船の沈んだ場所に関する情報を聞き出した。
「ん、戦のあった場所、船が沈んだ位置、ここね」
 地図に印をつけた杏は早速小舟を借りて沖へと漕ぎ出すのだった。
「潮の流れ……、海底に塊が落ちてたら少し変わってる……ここ?」
 杏が現場に着いた時、ちょうどアークと船員達による引き揚げ作業が行われていた。徐々に姿を見せ始めた巨大鉄甲船に、自分の目星が間違っていなかったことを安堵する杏。早速作業を手伝う為に小舟を近づける。
 アーク達に合流はまだしない。猟兵と言えど少女である杏一人が加勢して引き揚げ作業に劇的な変化は起こせないだろう。なので彼女は彼女の仲間に助力を願う。
「静かにね」
 囁く杏に応える様に、白銀の光が一度煌き、そして海中に巨大な質量が生まれる。請われた通り静かに、微動だにせず佇み、海上の杏を見つめるその姿はまさしく竜。巨大な透明の竜が其処には居た。
 巨大水竜はその威容に反してゆっくりと静かに海中を進む。海は船と船乗りにとって死の棺に等しい世界。だが、一転して海に住まう者、魚などにとっては生に溢れた日常の世界、杏は自分達の都合でその世界がかき回される事を厭うた。彼らを怖がらせないようにと巨大竜に願ったのだ。
 主であり仲間である杏の願いを、巨大水竜は大切にした。静かに海底まで潜り、浮き上がり始めた巨大鉄甲船のそこへと滑り込む。全身でしっかりと抱え上げるとゆっくりと押し上げていったのだ。

●略奪の時間
「ははーん、そういうことだったんすか」
 そして現在、杏はアークの船に乗っていた。船は浅瀬へと向かい進む。その後ろには縄で繋がれた巨大鉄甲船の姿。一番の大穴はまだ塞がってはいないが、杏の呼びだした巨大水竜がしっかりと下から支え押してくれているので問題は無かった。
「陸に近い方が作業はしやすいっすからね、助かるっすよ」
 やがて作業に適した場所に辿り着いた一行。アークは改めて船員達に命令する。
「かつて自分とともに海に散った亡霊の海賊共!略奪の時間っす!武器を持て!勝鬨の声を上げろ!今、再び、略奪を開始するぞ!!」
 そうして彼らは海の底よりこの船を完全に奪い取るための『略奪(しゅうふくさぎょう)』を開始する。 手に手に武器……すなわち木材や修繕道具を 持った船員達が鉄甲船へと乗り移る。その様子を見ていた杏はあれはどうしたのかとアークに尋ねた。
「自分ら海賊っすよ?略奪上等っす」
 意気揚々と答えるアーク。彼女は沈んだ現場に向かう前に、幕府軍が修復作業で使ってもらうように用意していた材料や道具を『略奪』していたのだ。無論、そのために用意されたものなので誰も困りはしないのだが。譲ってもらう恵んでもらうは海賊の矜持が許さないのだろう。
 船の内部を進む一行。船員達からの報告を聞きながら、的確に致命的な個所を見抜いて修繕を行っていくアーク。
 海の上で生きる者にとって、板一枚下は地獄だ。彼らは常にそれと共に暮らしている。海賊、いや船乗りにとって海は最大の友であり、同時に最大の敵だ。隙を見せればいくらでも牙で貫かれる。
 故にアークとアーク・ハインド海賊団にとっても、浸水は海との『戦い』だった。他の海賊や外敵との戦い以上に緊張と迅速な行動を強いられる戦いだった。彼らが最期に眠ったその時だけが沈没の危機だったのではない、その時に至るまで、彼らは数えきれないほどこの『戦い』を勝ち抜いてきていた。その経験を基にアーク達は『戦って』いった。
「もうひと踏ん張りっす、絶対助けて見せるっすからね」
 そういいながら最後の板を張り付けていくアーク。
 こうして見事、一度死した巨大鉄甲船は再誕を果たしたのだった。

●どこまでも続く海を
 無事に甦った巨大鉄甲船の甲板で、杏は船べりを撫でながら語り掛けていた。
「うん、新しい物語を探しに、また漕ぎ出して欲しい
この、どこまでも続く海を」
 そんな杏へ声がかかる。それは最初にこの地に来た時に話しかけた兵士だった。浅瀬にやってきたこの船を見つけて小舟で出迎えに来たらしい。
「いやぁ、流石いぇいがぁの方々だ、見事船も直りましたな」
 感心したように船を見回す兵士に、杏はずっと考えていた事を話す。
「ね、幕府軍で船の設計士の人、いる? 鉄甲船の設計図、作れそう?」
 彼女は考えていた。敵の作り出した船を直して手に入れるだけでなく、設計図があれば修理もしやすく新しい船も作れるかもしれない。
 この船に与えるだけではない。自分達で最初から、真白な物語を作り出す。
「そんな未来、あれば嬉しい」
 紺碧を映し込む金色の中で、彼女はいずれ訪れるかもしれないその『物語(みらい)』を読み、胸躍らせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月27日


挿絵イラスト