エンパイアウォー㉗~少年よ、大志を宿せ
●生きる為の路
関ヶ原の戦いに勝利した幕府軍。
軍は現在、太平の世で失なわれていた侍の力と自信を取り戻しつつあった。
今、求められているのはこの力を確固たるものにすること。
つまりは的確な訓練だ。
「そんなわけで、僕たち猟兵にできることをしましょう!」
グリモア猟兵のひとり、ミカゲ・フユ(かげろう・f09424)は仲間に呼び掛ける。
今回やることは兵の大特訓。
幕府軍を猟兵の力で導き、練度と士気を高めればこの戦の力になれる。結果的に信長軍との戦いにおいて侍や兵たちが生き残りやすくなるのだ。
「戦いに勝っても被害が大きければ、それは完全な勝利とはなりません。僕たちは戦いに慣れているけれど、この戦争は猟兵だけで戦っているわけじゃありませんから……!」
ぐっと拳を握った少年は今回の訓練相手を紹介していく。
場所は或る練兵場。
其処に集っているのは年若い少年少女たちだ。
「戦のために志願して集まった皆さんは剣術や槍術、薙刀術などを学んでいるようですが実戦経験は少ない人たちが多いようです」
今まで太平の世だったのだから無理はないとしてミカゲは続きを告げてゆく。
それゆえに先ずは猟兵のユーベルコードの力を、それも攻撃に関するものを見せてやって欲しい。そうすることで少年たちの士気も高まり、続く訓練にも力が入るだろう。
「ユーベルコードを打つ対象は練兵所にある木人です。遠慮なく、すごいのをどーんとやっちゃってください!」
そして、その後は各個人それぞれの訓練指示を行って欲しい。
訓練は基本的に一対一となり、手取り足取り教えることも出来る。実践的な動きを見せる、組手をする、いざ敵と対面したときの心構えを教えるのも良いし、大切な人を護る為の意思を伝えるのも良いだろう。
「どんな訓練をして士気を上げるかは皆さん次第です。よろしくお願いしますね」
そうしてミカゲは練兵場への道を示す。
この先、続く戦で多くの兵が生き残れるように――今こそ猟兵の力が必要なときだ。
犬塚ひなこ
このシナリオは「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●お話の流れ
1:まず練兵場の木人にユーベルコードを放ち、猟兵の力を見せる。
2:一対一で少年兵たちに訓練を施す。
どなたさまもこの流れで描写することとなります。
ユーベルコードは純粋な攻撃系を推奨いたしておりますが、後の訓練に役立つものでしたら攻撃以外のユーベルコードでも大丈夫です。
UCは出来る限り格好良く、もしくは雰囲気にあった描写を目指します。
訓練を行う相手は十代の少年または少女となります。名前や特性などは基本ランダムですが、どんな相手に教えたいか希望がある場合はお知らせください。(例:薙刀を使う少女、など)犬塚の過去シナリオで登場した少年・迅も訓練対象となりますので気になる方はご指定ください。
シナリオの傾向上、お一人様参加推奨ですがお誘い合わせの上で二人同時のご参加でも大丈夫です。
また、こちらは早期完結を目指しております。プレイング受付を早めに締め切ることもありますのでご了承ください。
第1章 冒険
『幕府軍の大特訓』
|
POW : 腕立てや腹筋、走り込みなど、基礎体力を向上させる訓練を施します
SPD : 危険を察知する技術や、強敵からの逃走方法などを伝授します
WIZ : 戦場の状況を把握して、自分がやるべきことを見失わない知力を養います
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鞍馬・景正
何方もまだ年若い。
私の弟妹たちと同年代くらいでしょうか。
──伝えられる術は全て伝えねばなりますまい。
◆木人
【太阿の剣】を披露。
極めれば雷光の如くして地軸まで断つ。
これも鍛錬の成果です。
◆鍛錬
構えは高く取る事を指南。
構えは身の守り。頭と胸を防御すれば命を奪われる確率も減ります。
そして目は敵の腰辺りに。
経験の浅い時は、眼光に居竦まされる恐れがある。
故に腰を基準に四肢を観察し、動きを見切るのです。
これらを手解きし、最後に……必ず生き延びて欲しいと伝えましょう。
敵はこの世を滅ぼそうとする者ら。
しかしそれを乗り越えても未来を紡ぐ若人が喪われれば結果は同じ事。
勝って再会できる日を楽しみにしています。
●未来を見据えて
第六天魔王、織田信長との決戦を控えた或る日のこと。
練兵場に集っているのは様々な少年少女たち。世界の危機を知り、志願兵として幕府軍の兵となった彼らの志は勇ましい。
だが、未来あるその命がただの蛮勇として散ることは好ましくない。
鞍馬・景正(天雷无妄・f02972)は練兵場を見渡す。
何方もまだ年若い。自分の弟妹たちと同年代くらいだろうかと考えた景正はそっと目を閉じ、裡に宿る思いを言葉にした。
「――伝えられる術は全て伝えねばなりますまい」
勝つ為の力を、そして其処から生き残るための術を教える。
それが己の役目だとして、景正は少年たちを見つめた。
そして、景正に師事することになったのは侍を目指す少年。
真新しい刀を携えている彼は竜彦という名らしい。景正は互いに名乗った後、先ずは力を披露するために木人の前に立った。
濤景一文字を抜き放ち、正眼に構える。鞘の内に在った間は静謐さを宿していた刃だが、ひとたび抜けば鋭い雰囲気が周囲に満ちた。
参ります、と一言を告げた景正は力を紡ぐ。其処から放たれたのは太阿の剣。
一見は単純で重い斬打。
だが、剣を極めた彼の一閃は雷光の如く空間と刻までもを斬り裂く一太刀となって迸った。たった一瞬のことではあったが、地軸まで断たれた木人に残った刃の跡がどれほどの威力だったのかを物語っている。
「すごい……これが猟兵の力……!」
「これも鍛錬の成果です」
竜彦が木人に駆け寄って触れると辛うじて形を保っていたそれが崩れ落ちた。
しかし景正は決して驕ることはなく、弛まぬ鍛錬が力を生むのだと告げる。少年は瞳を輝かせながら景正の佇まいを見つめ、改めて鍛錬をして欲しいと願った。
「景正さん、俺に稽古をお願いします!」
「では始めましょうか」
景正と竜彦は向かい合い、基本の構えを取ることから初めてゆく。
「第一に、構えは高く取る事」
構えは身の守り。頭と胸を防御すれば命を奪われる確率も減る。
指南する景正の言葉を真剣に聞いた少年は教えられた通りに構えた。それだけで筋が良いと分かり、景正は指南のし甲斐があると感じる。
「そして目は敵の腰辺りに」
経験の浅い時は、眼光に居竦まされる恐れがある。それが信長軍であれば余計に後れを取る可能性が高いだろう。
「腰を基準に四肢を観察し、動きを見切るのです」
「はい、先生!」
少年は景正の教えをよく聞き、自らの構えを直していく。
そうして彼らは暫しの間ではあるが師弟のような遣り取りを交わし、生きるための剣を教え、教わった。
やがて、出来る限りの手解きを終えた景正はふっと息を吐く。
志願するだけあって基本は出来ている。後は実戦にて少年がどう動けるかだ。
景正は刀を下ろして鞘に収め、真剣な表情で彼に語りかける。
「最後に……必ず生き延びてください」
「……生き延びる、ですか」
景正の言葉に竜彦は神妙な面持ちで頷いた。
敵はこの世を滅ぼそうとする者。命を賭して立ち向かうことも大切だろう。
しかし、それを乗り越えても未来を紡ぐ若人が喪われれば結果は同じ事。そう告げた景正の瞳を真っ直ぐに見つめ返し、少年は決意したように拳を握った。
「わかりました、景正師匠!」
「師匠、ですか」
先生から師匠へ。呼ばれ方に少しばかり照れくささも感じたが、景正は穏やかに頷きを返す。これも少年なりの敬意の示し方なのだろう。
ひとときの邂逅であっても、青年と少年はちいさな縁を紡いだ。
「勝って再会できる日を楽しみにしています」
叶うなら、この縁がより善い未来に繋がっていくように――。
未だ視えぬ世界の行く末を思い、景正は静かに願った。
大成功
🔵🔵🔵
朝日奈・祈里
ぼくの出番だな?!
よーし!任せろ!
ん?ぼく?ずっと研究室居たから実戦経験皆無だよ?
大丈夫さ!理論上はね!
てな訳で、やってみせようか
指先に魔力を集中させて空気に魔法陣を描く
そこから弓を取り出そう
これ?魔法関係ないただの弓。
コード:イフリート
弦の張られてない弓に、概念の矢をつがえて、射る!
ね?簡単でしょ?
やってみてよ
は?
違う!もっとこう、ずーん、ばーんっ!って!するの!
年上だろうが気にしねぇ
だから違うって!なんでわかんないかな!
ここにどーん、て来るから、ばーん!なの!
そしたらあそこにべーん!ってなるから!
違う違う違う!
そこはどーんじゃなくてばーん!
天才の頭の中は言語化するのって難しーんだな
●天才魔法使いと弓使いの少女
訓練、鍛錬、修行。
とにかく何でも良いからよく分かった。分かりすぎるほどに理解した。
つまり――。
「ぼくの出番だな?! よーし! 任せろ!」
練兵場にて、朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)はどーんと胸を張った。
なぜか呼ばれた気がして飛び出してきた現状、祈里の元にはひとりの少女が宛てがわれていた。その少女の名は音子。ねず、と読むらしい。
弓を持った音子は少し年下らしき祈里を見て、おろおろと戸惑っている。
「あのう、戦ったことはあるんですか?」
「ん? ぼく? ずっと研究室居たから実戦経験皆無だよ?」
やっと絞り出した音子の質問に祈里は堂々と答えた。悪気など欠片も見えない。あそこまで自信満々な幼女を見たことがないとは誰の談だっただろうか。
「ふええ……」
「大丈夫さ! 理論上はね!」
更に戸惑う少女には構わず、祈里は自分の胸に拳を当てて見せる。
本人は自信満々だが教わる側からすると不安しかなかった。だが、祈里も一応なりともれっきとした猟兵だ。
「てな訳で、やってみせようか」
「は、はぃい~」
音子は不安げな表情を隠せぬまま、木人の前に立った祈里を見つめる。
すると祈里は魔力を集中させ、指先で空中に魔法陣を描いた。其処から取り出したるは一見普通の弓。だが、弦が張られていないようだ。
「これ、すごいものなんですか?」
「ううん、魔法関係ないただの弓だよ」
少女が問いかけると祈里はさらりと答えた。そして更に魔力を紡ぎ始める。
――コード:イフリート――
途端に弦のなかった弓に概念の矢がつがえられた。そして炎の矢となったそれは一気に解き放たれ、木人を真正面から貫く。
「ね? 簡単でしょ?」
「えっ」
「やってみてよ」
「ええっ」
祈里からの無茶振りに音子はあわあわとしはじめた。しかし、彼女もまた志願兵であり多少の覚えはあるらしい。
懸命に魔力を紡いだ少女は見様見真似で弓に力を注いだ。
もとから持っていた弓矢にちいさな魔力が宿る。そしてひといきに引き絞った矢が木人に向けて解き放たれた。しかし、魔力と矢を射る両方に意識が分散してしまったのだろう。矢は地に落ち、ぺしょ、と情けない音が響く。
「は? 違う! もっとこう、ずーん、ばーんっ! って! するの!」
「あわわわ、ごめんなさい~!」
すかさず祈里から指摘が入り音子は涙目になった。年上だろうが気にせず指南する祈里の教え方はいわゆるスパルタ方式だ。
「こ、こうですか?」
「だから違うって! なんでわかんないかな!」
「わ、わわ、こうですね!」
「惜しい! ここにどーん、て来るから、ばーん! なの! そしたらあそこにべーん! ってなるから!」
弓に魔力をつがえ、放つ。しかし祈里は容赦なく指示してゆく。
それを何度繰り返しただろうか。音子はなんだかコツを掴んできたようだった。
「どーん! べーん!」
むしろ自棄になったというべきか。
「違う違う違う! そこはどーんじゃなくてばーん!」
「はっ、はい。ばーん!」
少しずつではあるが少女は感覚的に弓に魔力を乗せる方法を会得してきているようだ。されど当たり前だがまだまだ祈里のレベルには届かない。
「なかなか難しーんだな」
天才の頭の中を言語化するのは、と呟いた祈里は軽く肩を落とした。
「わたし、がんばります!」
「よーし! その調子!」
だが、音子もなかなかやる気のようだ。
この鍛錬がどのような結果になるかはさておき、きっと祈里と出会ったことで少女の中には諦めない心が生まれたことだろう。
大成功
🔵🔵🔵
月宮・ユイ
アドリブ◎
*ヤドリガミ:身に<誘惑の呪詛>宿し呪詛/呪操る
信長と本拠地たる城は未だ全容不明。
時間の許す限り出来る事をやっておきましょう
まして、年若い彼らの生存率を上げられるのなら尚更でしょう
▼披露
《機能強化》
<知識>基にこの世界の武器の扱いを<情報収集>
<催眠術:早業学習>で戦闘技術を身に刻み底上げ
<念動:オーラ>身に纏い身体能力強化と動作補助
[ステラ]使い武器を生成
身に刻んだ一流以上の技術で以て実演。
派手さが必要なら<属性攻撃>上乗せ
炎:斬ると同時に燃やす、雷:突き穿ち放電、等
▼訓練
手合わせで動き見、修正点など指導
折角の機会です<学習力向上の呪>施した上で、
手取り足取り丁寧に教えましょう
●未来に続く一手
――機能強化。
情報収集開始。世界指定、サムライエンパイア。
電脳魔術を操り、月宮・ユイ(捕喰∞連星・f02933)はこの世界における有用な武器の扱いを調べてゆく。
そして早業による戦闘技術を向上させ、念動力を展開して動作補助を始動させる。
見る間に彼女の身体に戦う力が宿っていく様を見つめる少年は目を輝かせていた。
「ユイさん、だったっけ。すげー!」
「はい、これくらいは何でもありません」
興味津々にユイを呼ぶ少年の名は寅次。槍を扱う志願兵だ。
どうやら彼は活発で人懐こい性格らしく、すっかりユイを気に入っている。少しばかり距離が近過ぎはしないかと感じたが、ユイは冷静に少年の相手をしてゆく。
この時点で、第六天魔王・織田信長と本拠地たる城は未だ全容不明。
「では時間の許す限り出来る事をやっておきましょう」
「おう! 宜しく頼むぜ……じゃなくて、頼みます!」
寅次から血気盛んな返事が返ってくる。
きっと彼をはじめとした少年たちは戦う術を持っていても、生き残るという覚悟や実践での生存方法をまだよく知らないはず。
年若い彼らの生存率を上げられるのなら尚更にこの役目を全うしなければならぬとして、ユイは少年の稽古を開始した。
まず、披露するのはユイ自身の力。
連星型共鳴コア――『ステラ』を手にしたユイはそれを剣の形に変じさせた。
おお、と少年から声が上がる中でユイは刃を構える。
見据える先には木人が数体。
その身に刻んだのは一流以上の技術であり、今から実演が始まる。
「行きます」
少年が動きを捉えやすいよう声を起点としてユイは地を蹴った。一瞬で木人との距離が詰められ、振り上げた刃が対象を斬り裂く。
更に刃を切り返したユイは其処に炎の属性を乗せ、二体目の標的を斬ると同時に燃やした。それだけではなく、雷を纏ったユイは三体目に狙いを定める。
しなやかに、流れるように突き穿たれた的に雷撃が加わった。
そして最後。残り一体は刃に乗せた呪詛で以て斬り伏せる。
美しく、かつ隙のない演舞めいた力の発現が終わった直後、辺りには少年がぱちぱちと叩く拍手の音が響いていた。
「ユイさん……いえ、ユイ様! 御見逸れしました!」
寅次は今しがた見せられた動きに感動しているようだ。俺もああいうことができたら、と羨望の眼差しを向ける少年にユイは首を振る。
「様は要りません」
「えー! じゃあ、ユイ師匠?」
「そうですね、その程度でしたら構いません」
ユイの言葉に不服そうだった寅次だが、師匠と呼ぶことを許されると破顔した。
そうしてひととき、師弟としての時間が流れてゆく。
「まずは手合わせで動きを見ます。遠慮なく打ってきてください」
「押忍! てりゃああ!」
ユイが構えると寅次は踏み込み、槍のリーチを活かして一撃を入れようとした。だが、その一閃は大振りで見切り易い。身体を僅かに逸らしたユイは剣で槍の切っ先を打ち返す。すると槍が少年の手から落ちてしまった。
「甘いですね」
「そ、そんなあ……。でも次は頑張るぜ!」
見るからにがっかりしている寅次だが、真剣さは伝わってきた。ユイはそっと彼に近寄って学習力向上の呪を施し、まだこれからだと告げる。
そして――ユイは手取り足取り、少年を一から鍛えていった。
どんな世界もきっと、こうした熱い若者がいてこそ良い未来が紡がれる。その一助になれるならば力を尽くそうと決め、ユイは静かに双眸を細めた。
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
参考にゃならねェがしれねぇが…見せ物として楽しんでくれりゃあ上々だな
派手な技ァちいと気恥ずかしいんで、手慣れた方で
こういうのは馴染んだモンのがエエってね
さぁ、刮目しゃあがれ
筆は四つ
ひと度振れば、軌跡が無数の千鳥へ変わる
群れを筆毎別々に操って、或いは人の隙間を、或いは空へ
そのまゝ三つ地にぶつけて吉祥紋を描いたら、その上に立って渾身のひと塊を木人へ
…お粗末様
なんっかむず痒いな
それはそうと、迅がいるらしいじゃあねェか
ちいと顔見てくか
三日も合わにゃあ面も変わるだろうよ
棒か槍なら多少心得はあるが…入り用なら鍛錬も付き合うぜ
後ァ俺に出来る事は少ねェからな
吉祥図を守り代わりに描いてってやるくらいなら大歓迎サ
●邂逅と再会
練兵場の一角にて。
訓練用の槍を手にしている少年は今、菱川・彌三八(彌栄・f12195)に礼儀正しく一礼していた。
彌三八が稽古の面倒を見ることになった彼の名は巳介。
何でも亡き父からの遺言により、戦が起これば幕府のために兵となれと云われて育ってきたようだ。その言葉を真摯に受けて育ったらしき巳介は彌三八に告げる。
「父の志を継ぎ、私は今此処にいます。ご指導のほど宜しくお願い致します」
「随分とお硬いもんで。気ィ張りすぎるとすぐ疲れちまうぜ」
どうやら少年は緊張しているようだ。それを解すために彌三八は薄く笑ってみせ、絵筆を手に取った。
先ず披露してやるのは自身が扱う力。
「参考にゃならねェがしれねぇが……見せ物として楽しんでくれりゃあ上々だな」
「筆、ですか?」
不思議そうに問う巳介はこれから何が行われるか疑問に感じているようだ。
戦いといえば刀や槍だと思っているらしい。
だが、彌三八が猟兵として振るうのは型にはまらぬ、粋の世界だ。
「派手な技ァちいと気恥ずかしいんで、手慣れた方で。こういうのは馴染んだモンのがエエってね」
よし、と軽く絵筆を宙に向けた彌三八は呼吸を整える。
そして――口端をあげた彼は力を揮い始めた。
「さぁ、刮目しゃあがれ」
筆は四つ。
ひと度振れば、その軌跡が無数の千鳥へと変じたかと思うと宙に舞ってゆく。
彌三八はその群れを筆毎に別々に操り、巳介の傍へ飛ばす。目を見開いた少年の様子を眺めながら、彌三八は更に空へと千鳥を舞い上がらせた。
しかし、千鳥たちはただ飛ぶだけではない。
「さてと、そのまゝ――」
彌三八は三つを地にぶつけて吉祥紋を描き、その上に立つ。其処から渾身のひと塊を木人へと飛ばして一気に標的を穿った。
「お粗末様」
「なんと……素晴らしいです」
彌三八が力を披露し終えると、巳介は率直な感想を言葉にした。
「なんっかむず痒いな」
「刃でなくとも斯様に戦えるとは。私も其のような力があれば……」
羨望の混じった眼差しで彌三八を見つめる巳介は、同時に力のない自分に憂いているようにも見える。
おそらく父の遺言とやらが其の身に重く伸し掛かっているのだろう。
そう感じた彌三八は少年の肩を叩き、己の思いを告げる。
「何も命を投げ捨てて戦えとは誰も言やしねェ。真っ当に戦って、生きる事がお前さんらの役目だ」
たしかに猟兵は幕府軍からの要請を受けて此処に来ている。だが、訓練を行う目的は戦死するための人員を増やす為ではない。
「生きること……」
「手合わせでもして戦に備えようや。その緊張くれぇは解いてやっからサ」
「……はい!」
少年と同じく槍を手にした彌三八は快い笑みを浮かべた。対する少年もぎこちなく笑み、此方をしっかりと見つめ返す。
そして、この先を生き抜く為の指南が其処から始まる。
それから暫しの時間が過ぎた頃。
「おおい、迅じゃあねェか」
「アンタは……いや、貴方は彌三八さ……じゃなくて彌三八殿!」
稽古を終えた彌三八は見知った顔に手を振り、彼もまた手を振り返す。
三日も合わにゃあ面も変わる。そんな言葉が示すように迅少年はあの事件から随分と成長しているように見えた。例の侍に鍛えられたのか口調も微妙に、本当に僅かだが礼儀正しくなっている。
「はは、畏まらずとも構わねェ。息災そうで安心したぜ」
「ああ! 今からあの人に稽古を付けて貰うんだ。良かったら見ててくれ!」
彌三八の言葉に破顔した迅は木人の近くにいる猟兵を示した。其方で待つ猟兵もまた、以前の事件を共に解決したひとりだ。
頑張ってこいよ、と陣を送り出そうとした彌三八はふと思い立つ。
「ちょいと待ちな。後ァ俺に出来る事は少ねェからな、ほら」
彌三八は吉祥図を描き、守り代わりだと迅に伝えた。それを有り難く受け取った少年は意気込み、稽古の場へと駆けていく。
その背を見送った彌三八はこれから始まる戦を思う。
迅少年も、そして今日出会った巳介少年も――。
願わくは無事に生き伸び、代わりのないひとつきりの命を繋げて欲しい、と。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
木人は複数並べ
早業併せ抜刀術『陣風』、瞬時に多くの木人を斬り倒します
訓練は迅殿と
他の方と訓練なら挨拶をして他の者と訓練へ
その後、お変わりは無いからこそ此処に居ると思いますが
一緒に居た羅刹、倫太郎殿も気にされていたもので顔を見られて良かったです
武器の構えから立ち回り等の基礎指導
彼等の錬度は低い、如何仕掛け防ぐかを覚えさせなくてはなりません
そして一つ
不利と判断した時点で撤退しなさい
無理をして命を散らした所で戦いが終わるはずもなく
残された者は戦い続ける
……此度の戦で私を庇って亡くなった方が居ます
使命を全うした彼ですが、私は彼の死も優しい笑みもきっと忘れられない
だから、身の程を弁えた戦いをしてください
●ひとつの教え
それは久方振りの再会だった。
月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は以前の事件で出会い、その生命を救った少年と共に訓練を行う手筈を整えていた。
そして、夜彦は裡に刻まれている記憶を思い返す。
すれ違いから生まれた復讐劇を経て少年は己を知った。あのときのことが懐かしいと感じられるほどに世界の変動は激しく、今や戦火が飛び交う状況だ。
そんな中でも少年の成長とは早いもので、迅少年の背丈はあれから随分と伸びているように思えた。
「夜彦さ……夜彦殿、今日は宜しく頼むよ」
「ええ、出来る限りを教えましょう」
やや畏まった少年からの願いに快く頷いた夜彦はそっと笑んで見せる。
「知り合いが教えてくれると思うと少し緊張するな」
「今日は顔を見られて良かったです。一緒に居た羅刹の彼も心配していて……」
「ああ、倫太郎さんか!」
夜彦が語る青年に思い至ったのか、迅は嬉しげに破顔する。お変わりは無いようで、と告げようとした夜彦だが、彼の顔付きから凛とした雰囲気が見て取れた。
聞いた話によると例の侍と共にあれから修業を重ねていたらしく、戦に志願した兵として迅は申し分なさそうだ。
夜彦は少年の現状に安堵を覚え、木人の方へと向き直る。
並べた木人は複数。
見ていてください、と告げた夜彦は居合の構えを取り、標的を見据えた。
そして――抜刀術、陣風。
一瞬で木人との距離を詰めて急接近した彼は、刀を抜くと同時に無数の斬撃を放った。たった一瞬で多くの標的を斬り倒した夜彦は地を蹴る。
即座に元の場所まで下がった彼が再び刀を鞘に収めた時、木人が一斉に倒れた。
その見事な技により、周囲で技を見ていた他の少年たちから拍手が巻き起こる。
迅も真剣に太刀筋を眺めていたらしく、感心と尊敬の目を向けていた。
「流石だな……」
やっぱり猟兵はすごいな、と口にした迅の元へ夜彦が歩を進める。
味方の猟兵がこれほどの力を持っていると知ったことで、周囲の少年少女たちの士気もかなり上がっただろう。
そうして夜彦は実際の訓練に入ってゆく。
先ず行うのは武器の構えから立ち回り等の基礎指導。迅は他の少年兵よりも僅かに飛び抜けているとはいえ、彼等の錬度は低い。
如何にして仕掛け、如何に防ぐかを覚えさせるのが今回の夜彦の役目だ。
「どうぞ、先ず打ち込んで来てください」
「……はあっ!」
構えた夜彦へと迅が刀を振るう。だが、その太刀筋を見切った夜彦は逆に迅へと刃を振るい返した。
されど迅も負けず、何とか夜彦について行こうと懸命になっている。筋は悪くないのだから彼はもっと強くなれる。夜彦はそう感じながら手合わせを続けた。
それから暫く、刃が重なり合う稽古の音が響いていた。
やがて稽古も終盤に差し掛かった頃、夜彦は重要な心構えを解いてゆく。
「一つ、不利と判断した時点で撤退しなさい」
「え? 戦いを捨てるのか?」
いいえ、と夜彦は首を横に振る。
無理をして命を散らした所で戦いが終わるはずもなく、残された者は戦い続けるのだ。そして彼は更に語ってゆく。
「……此度の戦で私を庇って亡くなった方が居ます。使命を全うした彼ですが、私は彼の死も優しい笑みもきっと忘れられない」
「そんなことが……」
死という事実を伝えると迅も神妙な面持ちになる。
誰かを亡くすということについては少年もよく知っている。夜彦は自分の思いを理解してくれたであろう迅へと、最後に切なる言葉を送った。
「だから、身の程を弁えた戦いをしてください」
「身の程、か……手厳しいな。でも、分かった」
怖れて逃げるのではない。
戦においての撤退は命を繋ぐ為のものであり戦略でもある。夜彦は未だ若い命を無為に散らさぬ為に出来る限りのことを伝えたのだ。
そうして、稽古は終わり――ふたりの間で静かな笑みが交わされた。
大成功
🔵🔵🔵
月山・カムイ
見せるユーベルコードは剣刃一閃
教えるべきは、何時如何なる時でも一撃一撃を大事にする事
例え足元を掬われた時でも、体勢を立て直し攻撃を叩き込む事
苦し紛れの攻撃を弾かれてしまうと、それで負けですからね
私の剣は所詮我流ですが、可能ならちゃんとした道場に通い、型を身体に馴染ませ覚え込ませて下さい
無論その土台となる身体造りも必須ですからね?
走り込みや反復横跳び等の足腰を鍛える訓練
両手、片手の素振りをそれぞれ10回数セット
最後は竹刀での立ち会いを行う
打ち込ませて大振りになった所で素早く手を撃ち、竹刀を弾き飛ばして
確実に大振りにならないよう、戦い続けられるように鍛えていく
●信念と太刀
呼吸を整え、前を見据える。
少年からの視線を受け止め、月山・カムイ(絶影・f01363)は刃を構えていた。
兵として志願し、猟兵による訓練を願った少年は亥之助と名乗った。彼が扱うのは大太刀であり、刀を使う者に教えを請いたいということだった。
大柄な少年に先ずカムイが見せるのは自らの太刀筋。
「――参ります」
静かな一言が落とされた刹那、カムイは地を蹴った。設置された木人は動かない。それゆえに彼と標的であるそれの距離が詰まるのはたった一瞬。
斬撃による一閃が迸る。
刃が振り上げられる瞬間すら視えぬほど、それは見事な一撃だった。
「すげぇ!」
興奮した様子の亥之助はカムイに尊敬の眼差しを向ける。
だが、ただ技を見せただけに留まってはいけない。カムイが教えるべきだと感じていたのは、何時如何なる時でも一撃一撃を大事にすること。
その思い通り、木人に刻まれた一閃は確実な一手となっていることが分かる。
亥之助は大太刀を抱えたままカムイの近くまで走ってきた。
「カムイさんは何処かの流派に属してるのか?」
その問いに首を横に振り、カムイはそうではないのだと話す。
「私の剣は所詮我流です。可能ならちゃんとした道場に通い、型を身体に馴染ませ覚え込ませて下さい……と言いたいところですが」
「ああ、今はこんな情勢だからな」
カムイが暗に示したように、現在は戦の最中。
今はこうして訓練の時間が取れているが、此処にいる少年兵たちも何れは戦場へ、もしくは信長軍からの侵攻を防ぐ為に町々に配置されるのだ。
それゆえに彼らは猟兵から学ぼうとしている。
誰かを殺すための力ではなく、大切なものを守るための力を――。
少年とて覚悟しているのだと悟り、カムイは木人を示して言葉を続けていく。
「いいですか。例え足元を掬われた時でも、体勢を立て直し攻撃を叩き込む事。苦し紛れの攻撃を弾かれてしまうと、それで負けですからね」
「押忍!」
カムイの教えをひとつずつ受け入れていく亥之助は実に素直な性質なようだ。
彼のような若者が未来を作る礎となるのだろうか。
カムイ自身もそれほど多くの歳を重ねているわけではないのだが、何故だかそんな風に思えた。そして、カムイは訓練へと入ってゆく。
「無論その土台となる身体造りも必須ですからね?」
「というと……?」
首を傾げる亥之助にカムイは告げる。
「まずは走り込み、反復横跳び等の足腰を鍛える訓練。それから両手、片手の素振りをそれぞれ十回数セットです」
「おお、そういったものなら得意だ!」
基礎が出来ていなければ何も出来ない。その意志に同意した少年は大きく頷く。
何よりも実際の戦では常に動き回っていなければならぬときもある。どれほど疲れていようとも根気で動けるようにしておくのも大切なことだ。
そして――鍛錬の時間が過ぎてゆく。
すべてのメニューをしっかりとこなした亥之助を褒め、カムイは最後の訓練を行うことに決めた。
「締めは竹刀での立ち会いを行いましょう。準備はいいですか?」
「はは、正直体が悲鳴をあげてる、が……! これくらい何のその!」
亥之助は竹刀を受け取り、力強く構える。
カムイはこれが鍛錬の結果になるとして、一気に打ち込みに来ると良いと告げた。そして少年はカムイを狙って竹刀を振り上げた。
されどそれは大振り。素早く手を撃ち、竹刀を弾き飛ばしたカムイは指摘する。
「確実に大振りにならないよう、打ち込みを鍛えましょう」
「うっす!」
それは戦いを続ける為の立ち回り。
細やかに素早く、それでいて力強く。カムイは己の戦い方を少年に教え込もうと決め、容赦のない指南を続けていった。
しかし、それは確実に彼の力になるものだ。
彼の少年が如何なる戦場に立ち、誰を守るのか。それは未だ知れぬことだが、カムイは確信めいた思いを抱いていた。
きっと彼は立派に与えられた役目を果たすのだ、と――。
大成功
🔵🔵🔵
木槻・莉奈
折角だから、ちょっと派手なのいっておきましょうか
見せるユーベルコードは【神様からの贈り物】
木人に対してと、見せる相手の傍にタイミングよく枯葉か何か降ってきているようならそちらもUCに風の『属性攻撃』をのせて真っ二つに
一対一で相手をするなら剣持ってる子かな
こちらも剣を持ち組手をしつつ、その子の攻撃の癖、防御の癖等の見極めから
見極められたら、出来る限り弱点を潰すような指導を
特に防御面、隙がある部分があれば容赦なく指摘
無理に踏み込む必要はないわ
相手の隙を作りに行くのも手だけど、基本は自分に余裕を作るところから
まず生き残る事を考えなさい、話はそれからよ
自分も守らなきゃ、人の事を護るなんて出来ないもの
●ちいさな出会い
夏の風が練兵場に吹き抜けてゆく。
木から渫われた葉が飛んでいく様を振り仰ぎ、木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)は薄花桜の名を関する剣を握った。
「折角だから、ちょっと派手なのいっておきましょうか」
莉奈が対峙しているのは訓練用の木人。戦いの指南を望む少年少女たちに猟兵の強さを示すために彼女は力を紡いでいる。
淡い青紫の刀身が陽を受けて燦めいた瞬間、力が顕現してゆく。
――過ぎ去りし日は戻らぬ幻想。過去は過去へと、還りなさい。
落とされた静かな声はオブリビオンへと向けるものと同じ色を宿していた。掲げられた剣は一瞬のうちに茉莉花へと変わり、花片が舞い上がっていく。
花で景色が曇り、標的が花弁の彩で覆われる。
そして、視界が晴れた瞬間。
莉奈が放った風の一閃が標的を真正面から貫いた。
崩れ落ちて真っ二つになった木人。その切り口は鋭利であるうえ、散った花弁がまるで手向けの花のように周囲に舞い落ちていた。
「わあ、お見事にございます!」
その光景を見つめていたのは刀を携えた少女。未夕という名の彼女が今回、莉奈が稽古をつけることになった娘だ。
年の頃は十代半ば。莉奈よりもふたつみっつほど年下だと思われる。
「莉奈様はとても華麗な戦術をお使いになられるのですね」
「少し張り切ってみたからね。褒めてくれたなら嬉しいわ」
丁寧な物腰の未夕に対して莉奈は微笑む。
まるで武家の姫とそのお付きの者であるような雰囲気がふたりの間に流れる。勿論、莉奈のほうが姫側だ。
ユーベルコードを示し、此方の実力を知ってもらうことは出来た。
此処からは実践形式で行くと告げた莉奈は剣を構え直す。
はい、と素直に頷いた少女も刀を抜いた。
「遠慮しなくていいから、打って来て」
「わかりました。いざ尋常にでございます!」
莉奈に向かって駆けた少女は刃を振り上げた。一閃目は正面から受けようと決めた莉奈は未夕を見つめる。
そして、下ろされた刀は身を引くことで躱す。
「太刀筋が少し右に逸れる癖があるかしら。次はそれを意識してみて」
「はい……!」
「でも今度はこっちから行くわ」
「――!」
次の瞬間、莉奈から未夕へと一撃が放たれる。咄嗟に身を逸らして避けた少女だったが、莉奈が加減をしているのが分かったらしい。だが、本気であったならば彼女が斬られていたことは明白。
「大丈夫。斬られない為にはそこにもうひと動作を入れればいいの」
攻撃の癖、防御の癖。
それらを的確に見極めた莉奈はひとつずつ丁寧に指導してゆく。
特に防御面は要。幾度か打ち合いをして隙がある部分を細かく詰めていけば、少女の生存率は確実に上げられるだろう。
「そこ、今のを受けなければ斬られてたわよ」
「……っ、もう一度、お願い致します!」
傍から見れば厳しい指南のように見える。だが、未夕の方も挫けぬ心で指導をしっかり受けていった。そうして莉奈は攻撃面について語っていく。
「無理に踏み込む必要はないわ」
相手の隙を作りに行くのも手だが、基本は自分に余裕を作るところから。
未夕に教えているのは人を殺すための剣ではない。世界を護るために生き延びるための立ち回りと心掛けだ。
「まず生き残る事を考えなさい、話はそれからよ」
「はい、莉奈様……いえ、莉奈師匠!」
強く頷く少女の視線を受けた莉奈は薄く笑む。呼び名が妙にくすぐったく、それでいて不思議な響きに感じられたからだ。
「自分も守らなきゃ、人の事を護るなんて出来ないもの」
己を顧みず誰かに差し伸べる手など、きっと届かせられないから。
此処で縁を紡いだ少女もいずれは戦場に出るのだろう。この先に巡る戦いで生き残って欲しいと願い、莉奈は更に指南に力を入れていった。
大成功
🔵🔵🔵
西条・霧華
「所詮私にできるのは殺人剣まで…。でもそれで使い手を生かせるのなら…。」
折角ですから刀を使う方に教えたいと思います
他の武器にも十分応用できる技術ですけれど、見たままに真似できる方が良いかなって思います
では、行きます
【残像】を纏って眩惑し、【破魔】と【鎧砕き】の力を籠めた[籠釣瓶妙法村正]にて『幻想華』
どうでしょうか?
この技の極意は、自分を見切らせず相手を見切る事
私は勁力で速力を加えていますけれど…動線を外す、死角に入る、間合いを見誤らさせる…それが縮地法です
そして居合術とは、場や相手を読んだ適切で高効率な武器の使用法です
受けに活かせば自分を守る術にもなります
この技を活かして、どうか生きて下さい
●護りの立ち振る舞い
――所詮、私にできるのは殺人剣まで。
西条・霧華(幻想のリナリア・f03198)は携えた刀の鞘に触れる。これまで斬り伏せてきたオブリビオンを思い、霧華は俯いた。
しかし、こうして此処に訪れたのならばやるべきことがある。
「でもそれで使い手を生かせるのなら……」
顔をあげた霧華は決意した。
この刃が血に濡れていたとしても、練兵所に集った少年らは力を求めている。
万が一にでも誰かの生に繋がる可能性があるのならば、この刀を振るう価値はあるはずだ。霧華は木人の元へと向かい、構えを取る。
その傍には霧華が教えることとなった兎吉という少年がいた。
彼もまた刀を得物とする者であり霧華に師事したいと申し出たのだ。そして霧華もまた、自分が担当するに相応しい少年だと感じていた。
居合のスタイルは他の武器にも十分応用できる技術だが、見たままに真似できる方が教える側としても伝えやすい。
「では、行きます」
木人を見据えた霧華は呼吸を整える。
此方を見つめている少年が捉えやすいよう起点を定め、そして――ひといきに駆ける。纏う残像は眩惑の力を宿し、其処に破魔と鎧砕きの力が籠められた。
刹那、籠釣瓶妙法村正が抜き放たれる。
反撃すら往なす理合の幻想華は空気ごと斬り裂くかのように鋭く迸る。
元より木人は動かぬものであり為す術もなく崩れ落ちていった。だが、今しがた放たれた一閃は実戦であっても相手を斬り伏せるものであることが十二分に分かる。
「どうでしょうか?」
「…………」
構えを解いて問いかけた霧華に対し、兎吉はこくこくと頷いた。
其処に言葉はないが、不服や不満があるわけではなさそうだ。どうやら元から無口な少年らしい。
彼がしかと見ていてくれたことを知っていた霧華は話を続ける。
「この技の極意は、自分を見切らせず相手を見切る事。私は勁力で速力を加えていますけれど――」
動線を外す、死角に入る、間合いを見誤らさせる。それが縮地法。
そして居合術とは、場や相手を読んだ適切で高効率な武器の使用法。
分かりやすく技の説明をしていく霧華の言葉に、少年はじっと耳を傾けていた。
「……」
そして霧華を見つめた兎吉は籠釣瓶妙法村正にも目を向ける。
その視線からは称賛と羨望。それから、自分もそういった技を使えるようになるかと問いかける意思が宿っていた。
「ええ、弛まぬ稽古をすれば必ず」
「……よかった」
そのとき、はじめて兎吉が言葉を発した。きっと彼は口下手で奥手なのだろう。だが、そんな少年でもこの世界を護るために志願して幕府軍に加わった。
彼の心意気と思いを無駄なものにはさせたくない。
それゆえに此処で、教えられる限りのことを伝えておこう。そのように感じた霧華は更なる指南を続けていく。
「受けに活かせば自分を守る術にもなります」
「……」
変わらず兎吉は頷いて答えるのみだが言葉を交わさずとも伝わる意志もある。
霧華は出来得る限りの知識と戦術を伝え、少年も一言一句や一挙一動を逃さぬよう耳を傾け、目を向けてゆく。
それは決して長くはない時間だったが互いに有意義なひとときだっただろう。
「この技を活かして、どうか生きて下さい」
「はい。……ありがとう、ございました」
訓練が終わった別れ際、少年は静かな声で精一杯の礼を告げる。
手を振って彼を見送った後、霧華はそっと籠釣瓶妙法村正の柄を握り締めた。
己が鬻ぐは不肖の殺人剣。
「それでも、私は――」
その先に続く言葉はなかったが、普段紡ぐ声よりもそれは幾分か柔らかい響きを含んでいるように思えた。
大成功
🔵🔵🔵
ユヴェン・ポシェット
見せるとなると、あれが良いか…。ミヌレ、行くぞ。
槍となったミヌレでの、勢いをつけた一突き…からの召喚されたドラゴンによる協力な破壊の一撃(ドラゴニック・エンド)を披露。
剣も扱えない事はないのだが、普段から槍を扱っているから同じ様に槍を扱う者と訓練できれば、と思う。
槍は剣より少し間合いが取れるから攻撃しやすいのだか、その分隙もできやすい。出来るだけその分をカバーできる動き方や、的確な突きに関するポイントを伝授できればと思う。
その為には、腕の筋力は勿論だが足腰の動きも必要になるからそっちも鍛えないとな。
ぶっきらぼうに見えて意外と面倒見が良いので基礎から応用、自身が使う小技までみっちり教えます。
●護りたいもの
練兵場に差し込む陽は強い。
それはこれから巡ることになる決戦の熱を暗示しているのだろうか。
ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は戦いの最中にあるこの世界の現状を思い、訓練用の木人が並ぶ一角に進んでいく。
ユヴェンは今、自分が訓練を担当することになった少年と共にいた。
後ろを健気についてくる小柄な彼の名前は戌丸。人懐っこそうな少年であり、ユヴェンと同じ槍使いのようだ。
「見せるとなると、あれが良いか……。ミヌレ、行くぞ」
「そのこ、ミヌレっていうんだね」
ユヴェンが槍竜に呼びかけると戌丸はふわふわと笑む。可愛い、と続いた言葉にミヌレも少しばかり嬉しげな様子だ。
そしてユヴェンはミヌレを槍へと変え、身構えた。
見据える木人に狙いを定めて戌丸に目配せを送るユヴェン。それから一瞬後、やるぞ、という合図と共にユヴェンは動いた。
「――穿け」
地面を蹴り、勢いをつけた一突き。木人が真っ直ぐに貫かれる中、其処から召喚されたドラゴンが強力な破壊の一撃を叩きつけた。
見る間に壊れ、崩れ落ちた木人。
戌丸はユヴェンとミヌレの協力攻撃とも言える一閃に目を丸くしていた。
「すごい、ぼくにもそういう力があったらなあ」
感心する少年にユヴェンは修行次第だと告げる。
竜槍を持たぬ彼がいますぐに会得できることではないだろうが、希望がないわけでもないはずだ。ユヴェンの言葉に嬉しそうに目を細めた戌丸は、どうやら今の演舞を見たことでかなり士気が上がったらしい。
「ユヴェンさん、さっそくだけど指南をおねがいしたいな」
「もちろんだ」
そうして、其処から実践と組み手形式の指導がはじまる。
まず少年の構えを見たユヴェンは姿勢を正してやりながら、槍の扱いの基本を改めて教えてゆく。
「槍は剣より少し間合いが取れるから攻撃しやすいのだか、その分隙もできやすい」
「間合いがあるからって油断しちゃだめってことだね」
こくこくと頷いて聞く戌丸の授業態度はとても真面目だ。
ひとつ不安があるとすれば彼がとても穏やかで、戦いには向いていないかもしれないということ。だが、彼もまた何らかの思いがあって自ら戦いに身を投じることを選んだのだろう。
ユヴェンは話を続け、槍を軽く振って見せる。
「そうだ。だからこうして、その分をカバーできるよう立ち回る方法がある」
自ら動いて見せたユヴェンは戌丸に手本を示した。
的確な突きに関するポイント。
フェイントを入れて相手の体勢を崩してから猛攻を仕掛ける方法。
自分の知っていることを出来る限り伝授できればと願い、ユヴェンは丁寧に教えていった。一見はぶっきらぼうに見える彼だが、戌丸がしっかり懐いて聞いていることから面倒見の良さもうかがえる。
「ふむふむ。なるほど」
「だが、その為には腕の筋力は勿論だが足腰の動きも必要になる」
「うん、ぼくちゃんと鍛えるよ」
基礎が大事だと伝えるユヴェンに少年もしっかりと頷く。
そんな中でユヴェンは戌丸に何故兵として志願してきたのかと問いかけた。すると少年は遠い目をして答える。
「ぼく、家族が妹しかいなくて……あのこを守りたい、から」
「……そうだったのか」
きっと少年は何らかの形で家族を亡くし、唯一の家族を守りたいがゆえに戦に出ることを決意したのだ。
ならば尚更のこと、生き延びるための力を宿してやりたくなった。
ユヴェンは槍を握り、この少年にすべてを教えようと決める。
「では次はとっておきの技だ。小技だが応用が効く」
「うん、教えてユヴェンさん!」
護るべきものの為に強くなりたい。そう思う気持ちを全面に出している少年に優しげな眼差しを向け、ユヴェンは竜槍を構えた。
伝えた一手が、そしてこのひとときが、どうか確実な力になるように。
この先に続いていく戦模様を思い、ユヴェンは静かに願った。
大成功
🔵🔵🔵
シエル・マリアージュ
まずはユーベルコードの披露ですね。
空より木人たちの中へと舞い降り、天上の乙女〈再臨〉を発動、美しい乙女たちの武勇を御覧頂きましょう。
訓練では、女の子を担当しましょう。
実際に一戦交えて、相手の能力や癖などを調べて、悪い部分は指摘して改善方法を良い点は誉めてそれを伸ばせるようにアドバイス、そして非力な女の子でも有効なフェイントや敵の足を払う戦いにおける駆け引きを伝授。
こうしていると、先代から訓練を受けていた頃を思い出します。厳しかったですが、おかげで私は今も生きています。
「戦いの後で未来を築いていくのも貴方達の役目ですから、生き抜きなさい」
戦争が終わったら再会を約束して訓練を終わります。
●約束
不意に吹き抜けた風が袴の裾を揺らす。
ざわめいた木々、葉が擦れあう音に耳を澄ませれば夏の気配が感じられた。
「鍛錬日和ですね」
練兵場の中、シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)は目の前の少女を見つめて双眸を細めた。
今日のシエルの装いはこの世界に合わせて袴姿。
それによって親近感を抱いたのか、さよりという名の少女は淡く微笑んだ。
同じく袴姿で薙刀を持った彼女が今回、シエルが指南する相手だ。
年の頃は十代半ば程度。まだあどけない顔立ちではあるが、その瞳に宿る意志は強いように見えた。少女もまた、戦いへの決意を抱いているのだろう。
「ええと、シエルお姉さま……よろしくお願いします」
「まずはユーベルコードを披露します。よく見ていてくださいね」
ぺこりと頭を下げたさよりに頷き、シエルは翼を広げた。
空中に舞い上がったシエルが見下ろすのは何体も並ぶ訓練用の木人たち。呼吸を整え、一度瞼を閉じたシエルは力を紡ぎはじめる。
――聖櫃の扉は開かれり、来たれ天上の乙女達。
詠唱と共に空より木人たちの中へと舞い降りたシエル。すると光り輝く聖櫃より美しい乙女の英霊達が現れ、周囲の標的へと向かった。
天上の乙女の武勇は美しく、華麗に木人を穿ち、斃してゆく。
「わあ……!」
まるで絵画のような美麗な光景にさよりが感嘆の声をあげた。やがて乙女達は還り、シエルは少女の方に振り返る。
「如何でしたか?」
「すごいです。こんな素敵な力を持つ方々が私達の味方なんですね」
問いかけるシエルに少女は興奮冷めやらぬ様子。
これで彼女の戦に対する士気は更に上がっただろう。信長軍は強敵であるが此方とて負けているわけではない。そう感じることによって、戦においての自信や立ち振る舞いも変わっていくはずだ。
ユーベルコードの披露は上手くいったと感じ、シエルは静かに頷いた。
そして、此処からは実際の訓練だ。
「最初に一戦、交えてみましょうか」
「は、はい!」
「緊張せずに思うままに打ち込んできてください」
シエルはさよりと向かい合い、聖硝剣アーシュラを構える。
対する少女は己の薙刀を強く握り、言われるままに攻勢に出た。真っ直ぐな一閃が打ち込まれ、シエルは剣で刃を受け止める。
「良い一撃ですね。ですが、読み易すぎる太刀です」
さよりは素直な性格らしく、それが太刀筋にも出ているようだ。
そのことは悪いことではないが戦に出るとなると工夫が必要になってくる。シエルは自分の持てる限りの知識を伝えようと決め、悪い部分に繋がりそうな箇所や、少女の癖などを的確に指摘していった。
「こうですか?」
「そう、上手です。そのまま斬り返してフェイントを入れてみてください」
厳しいだけではなく、シエルは少女を誉めて伸ばしていく。
更に、男性と比べて非力な女の子でも有効なフェイントの方法や、敵の足を払うという駆け引きも伝授していく。
こうしていると先代から訓練を受けていた頃を思い出す。
訓練の最中、そのことを語るシエルの言葉を少女は興味深く聞いていた。
「お姉さまにも修行時代があったのですね」
「厳しかったですが、おかげで私は今も生きています」
「ふふ、その先代さまはとても素晴らしい人だったのでしょうね」
シエルと少女はそんな遣り取りを交わしながら順調に訓練を続けていく。
そして、暫しの時間が過ぎ――。
「ありがとうございました。私、ちゃんと強くなれた気がします!」
指南は終わり、少女はシエルに深くお辞儀をした。
気付けば周りで鍛錬を行っていた猟兵も其々に役目を終えているようだ。シエルは礼には及ばないと首を振り、最後に思いを告げる。
「戦いの後で未来を築いていくのも貴方達の役目ですから、生き抜きなさい」
「はい!」
快い返事がかえってきたことでシエルはそっと微笑んだ。
今日、猟兵たちが少年少女に教えたのは戦う力。
しかしそれは刃を血に染める血腥いものではなく生きていくための力だ。
この戦が終わったら、再会を。
ちいさな、それでいて大切な約束。交わされた思いも、言葉も、きっと――。
新たな未来を繋ぐ礎になってゆく。
大成功
🔵🔵🔵