エンパイアウォー㉛~遺された船の行き先は
「日野富子が巨万の私財を使って造り出した巨大鉄甲船。敵の戦力だった時は苦戦させられたと思うが、そこに使われた技術は見事なものだったようだな」
クック・ルウ(水音・f04137)がグリモアを閃かせると、集まった者の背後に青い海の光景が浮かび上がる。
そこが南海道の景色であると気づいた者もいるだろう。
一度は沈めた船だが、そのままにしておくのはあまりにもおしい。
そこで、猟兵たちの協力を得て巨大鉄甲船を引き上げようというのだという。
なんでも、商船や軍船としての再利用方や、外洋船に改修して冒険の旅へ出る話もあるのだとか。
しかし戦争が終わるまで待つと、巨大鉄甲船は海の底へ沈み、二度と引き上げられなくなる。
機会は今しかない。
手を貸してほしい、とクックは頭を下げる。
「さて、幾つもの船が沈んでいるが、今回はその内の一隻を引き上げる」
人知を超えた力を持つ猟兵に頼むのだ。
そのための方法は任せる、と言いおいて。
海へ出るための船や、引き上げに使えそうな道具は現地でも用意されている。
すべて好きに使ってほしいそうだ。
人手がいるなら幕府軍や地元の漁師なども協力してくれるだろう。
あとは……釣り糸を垂らせば、残骸を釣り上げることができるかも知れない。
「ついでにうまい魚も釣れるかもしれぬな」
と、一通りの説明を終えてクックは猟兵たちの転移準備をはじめた。
鍵森
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●
お読みくださりありがとうございます。鍵森と申します。
こちらは村上怨霊水軍を短期間で制圧したことで発生したボーナスシナリオです。
一隻の巨大鉄甲船を引き上げる冒険シナリオとなります。
成功すればサムライエンパイアの今後の発展などに影響するようです。
戦闘がないので、少しのんびりした雰囲気になるかもしれません。
今回は戦争シナリオという事で、青玉を充分確保できた場合は、プレイングを却下させて頂く場合がございます。ご了承ください。
ご参加、お待ちしております。
第1章 冒険
『巨大鉄甲船引き上げ作戦』
|
POW : 重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる
SPD : 海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる
WIZ : 海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アーク・ハインド
「……アーク・ハインド海賊団、今回の任務はあの船の死を略奪することっす。」
「正直、戦争には興味がなかった、敵の舟にも興味はなかった、でも……これは、見捨てられない。自分と同じ末路をたどる船は少なければ少ないほどいい。」
UCで召喚した海賊団に修繕や引き上げの用意をさせます。
細かい指示は船長に任せて自分は引き上げ時に放置すると崩れそうな部位を技能:見切りで捜索し属性攻撃で応急処置を、船員達に木材などを用意させ補強させたりします。
浸水区画も属性攻撃の炎、雷、氷などを適切な判断の元排水を行います。
「あんたはまだ海を走れるっす、絶対走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ…!」
海原を波しぶき上げて船がやって来る。
その船には海賊たちが乗っていた。先頭に立つのは白銀の長髪をなびかせる少女だ。
「……アーク・ハインド海賊団、今回の任務はあの船の死を略奪することっす」
アーク・ハインド(沈没船・f03433)の静かな号令に、亡霊の海賊たちは、わっと声を上げた。
かつて大海原を旅した海賊たちの魂は、海賊船のヤドリガミたるアークと共にある。
UCによって創造された亡霊の中には船長らしき者の姿もあり、アークの言葉にニッと口端を吊り上げたようだった。
まったくもって胸躍る獲物だといわんばかりに。
「正直、戦争には興味がなかった、敵の舟にも興味はなかった、でも……これは、見捨てられない」
沈んだ船がどうなるか、アークは我が身をもって知っている。
絞り出すような声で呟きながら、今もまだ本体がいる海底の冷たさを思う
「自分と同じ末路をたどる船は、少なければ少ないほどいい」
事前に示されていた場所に到着するとアークは亡霊の海賊に呼びかけた。
「船長、指示は任せたっす」
細かい指示は自分よりも船長がやる方が良い、とアークは心得ている。
船内を慌ただしく走り回る船員たち、アークはしばしその光景を眺めた。
鎖を下ろし、沈んだ船体へ巻きつける者。
引き上げた後に行う修繕の手はずをしている者もいる。
それがアークの想像によって創造された海賊達の姿だ。
アークにも仕事がある、甲板へ行き鉄甲船の崩れ具合を見て引き上げ時に壊れそうな場所を予め確かめて処置をするのだ。
それはどの船員がやるよりも船体というものを知り尽くしたアークが適任なのである。
まずは船の上から沈んだ影を確認すると、巨大な船体がまだ見える場所で揺蕩っている。
これから時間を掛けて、沈んでいくのだ。最後はとても速く、抗うこともできずに落ちていく。
船体をジッと見る内、ふいに強い感情が胸の中に込み上げて。
アークは甲板の先から身を乗り出すようにして、海面へと叫んだ。
「あんたはまだ海を走れるっす、絶対走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ……!」
走れる、走れるのだ。世界中を何処までも、連れて行ってやれるのだ。
その巨大な体に、人を乗せて、どこまでも旅を続けられるのだ。
激励にしかし海の中の影は、沈黙し動くこともない。
――Yo-heave-ho!
突然。
亡霊海賊の一人が、がなるような大声を上げるのを聞いて。アークは思わず苦笑いのような、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
それが調子っぱずれな歌声だと彼女は知っていた。
――錨を上げな、出発だ!
――ジョリー・ロジャーを掲げて進め!
あんたは生前から陽気な男だったっすね。そんな事を思いながら、耳を傾けて。海賊たちの船は、彼等を乗せていた頃と同じように体を揺らした。
力強い船出の歌は、海に沈む船への。
そして勿論我らが同胞へ捧ぐ歌。
「ねえ、この先どんな船になったとしても……きっと、あんたと旅に出たいって人が待ってるっすよ」
だからこんなところで沈んでる場合じゃないっす。
アークが見守る中、ゆっくりと、船体が引き上げられていく……。
大成功
🔵🔵🔵
ライラック・エアルオウルズ
記憶に残る船は確かに見事な物で、
沈む侭にするには実に惜しい物でもある
――とは云え、僕は其れ程泳げる訳でもない
暢気な物だと呆れられそうだけれど、
魚も釣れたなら其れも僥倖と云う事で
釣り糸ひとつ 垂らさせて頂こう
残骸吊るも魚釣るも、
きっと『コツ』が必要だろうからね
大物をつる為にもと、
漁師たちから《情報収集》をして
何か助言を頂いてから挑む様に
そうして釣り糸垂らしたなら、
《第六感/見切り》も併せて――
さて。はて。
何かしらが、釣れると良いけれど
若しも僕の身に余る大物なら、
少しばかり御協力して頂けるかい?
何て漁師や幕府軍に笑い掛けつ、
若し釣れたならば嬉し気に
残骸は捧げて魚は分け合おう
少し息抜きも必要だろう?
漁師が操る船では、地元の漁師や幕府軍に混じって、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の姿があった。
――記憶に残る船は確かに見事な物で、沈む侭にするには実に惜しい物でもある。
先の戦いで相まみえた鉄甲船の姿を思い浮かべながら、ライラックは紺碧の大海原を眺めた。
沈む船を再び航海に送り出すというのなら、やぶさかではないのだけれど。
――とは云え、僕は其れ程泳げる訳でもない。
そこでライラックは釣具を手にして、船の上を歩き出した。
地元の漁師たちは海に向かって網を打ったりしている。
話しかけてみると、戦いの間中海に出ることを禁じられていた漁師たちは久々の海の仕事に張り切っているのだという。
釣りをしようと思うんだ。とライラックが伝えれば海の男達は瞳を輝かせた。
あれやこれやと助言を口にして、次第にこの辺で穫れる魚の種類まで話し出す程に漁師たちは情熱的だった。
「さて。はて。何かしらが、釣れると良いけれど」
教わったコツを頭の中で確かめつつ、甲板の柵に腰掛ける。
「若しも僕の身に余る大物なら、少しばかり御協力して頂けるかい?」
釣り糸を垂らしながら声を掛ければ、
謙虚で礼儀正しいライラックの物腰に船に乗っていた者達はすっかり打ち解けた様子で頷くのだった。
それから、しばらくして。
「旦那ァ、釣れましたかい?」
「まあまあだね」
答えたライラックの周りや下には小山が出来上がっていた。
船の破片や、載せられていた積荷の一部らしきもの。
しかし大物はなかなか掛からない。
「まあ、気長にやろう」
暢気に目を細めて、海を見つめる。
今度はおもりと針の大きさを変えて、糸を投げ入れた。
深く沈んでいく糸の先が、海流に流れてさまよう。
上からでは見えぬ場所はどうなっているのだろう。
ぼんやり海中に思いを馳せてしまうほど、のんびりとした時間が流れる。
けれども釣りとは急展開するものだ。
突然、ライラックの竿の糸がピンと張った。
「掛かった、かな」
竿を引いて、手応えを確かめると先程までとは比べようにならない程の重みを感じる。
まるで糸が根を張ったような、そんな感触だ。
「誰か来てくれるかい?」
ライラックは慎重に、しなる竿を握りしめた。
声を聞いて、周りに居た男達がすぐに駆けつけてくる。
「おお、この引きは大物に違いない!」
「掛かったー! お前ら早く来な!」
漁師も幕府軍もすっかり浮足立った様子で、ライラックの釣り糸の先を見つめている。
慎重に、しかし勢いをつけて。
竿使いに様々なアドバイスが飛ぶ中、やがて海面に大きな影が浮かび上がってくる。
一人の力では持ち上がりそうもないので、漁師が海に飛び込み縄を掛け、皆で引き上げることになった。
全員が一苦労して引き上げたものが甲板に置かれる。
それは何かの装置のようであった。
流石は日野富子が造らせた船だけのことはある。
複雑に組み合わされた絡繰りは、舶用補機の一つのようだった。
仕組みが解明されれば、この世界の技術は一段と進むだろう。
「おや」
奥まったところにある空洞の部分からなにやら這い出してくる。
その生き物を見てライラックは瞳を瞬いた。
ぬるりとした八本足の軟体動物だ。
「なるほど。蛸は狭い場所を好むというね」
意外なものが釣り上がったと、面白そうに口端に笑みを漂わせる。
それを見て、この辺りで捕れる蛸は美味いんだと自慢気に漁師が声を上げた。
ライラックが他にもなにかいないか探してみると、何匹か魚がいるようだ。
どうやら海に沈んでいる間に、すっかり魚が入り込んでいたらしい。
「この魚は後で分け合おう、皆に手伝ってもらったからね」
その言葉を聞いて、船のあちこちから歓声が上がった。
世界の命運を掛けた戦いは緊張の連続であり、だからこそ少しは息抜きも必要だろう。
さっそく魚をどうやって食べるのが一番美味いか、白熱した議論が聞こえてくる。
漁師のみならず幕府軍も会話に加わっているようだ。
「大漁、大漁」
ライラックは嬉しげに微笑み。
しばらく目を閉じて、喧騒と波音に耳をそばだてた。
大成功
🔵🔵🔵
氏神・鹿糸
戦禍に巻き込まれて、復興も簡単なものじゃないでしょうね。
故郷の為にも、お手伝いをしてあげる。
手伝ってね、素敵な隣人たち。
風の精霊を呼び出して、大きな空気玉を作るわ。
そのまま空気玉に入って海底へ。
船底の中心部へ降りるの。
UCを使って、水と風の精霊で水流を起こして船体を少し持ち上げて。
海底に魔法の豆の木を埋めるわ。
水中では厳しいかもしれないけど、魔力を与えて成長。
海の底から、船体を支える大樹になりなさい。
豆の木を土台に、UCの水流に乗せて持ち上げていくわよ。
沈んだ幽霊船。
水底から見る景色としては、とても幻想的ね。
(アドリブ他おまかせ)
観那月・唯希
【SPD】
ぼく自身は鉄甲船を見てないのでちょっと気になりますね。もちろん、鉄甲船を引き上げれば色々と役に立つみたいですし、お手伝いします!
可能であればまず海にいる鳥や動物達に動物と話して、船の欠片がどの辺りに沈んでいるか大まかにでも把握しておきます
その後は船の欠片が沈んでいる辺りまで船を出してもらい、そこから水中に潜って探索します。この時視力と失せ物探し、水泳を活用します。影になっていて暗ければ暗視も使用
欠片を見つけたら持てそうな物を怪力も使って船まで運びます。ぼくに持てないくらい重い欠片や船に乗りきらないほど欠片の量が多い場合は場所を覚えておいて、他の人達と情報を共有します
阿瀬川・泰史
いやぁ、巨大な船を人力で引き上げる。
なんとも人間離れした所業ですが、猟兵ですからねぇ、出来ちゃいますものねぇ
頑張ってお仕事するとしましょう、えぇ
褌だけを締めて海中に飛び込む
瀬戸内の海ゆえ潮の流れは激しいので、流されないように海藻などを頼りに潜っていく
船が見えたらサイコキネシスを発動
「(海の中と言えども、遠くのものを持ち上げるコツは一緒ですねぇ)」
船体の崩壊が起こらないよう気を付けながら、徐々に海面へと引き上げていく
海面まで引き上げたら船の中身をチェック
「蛸やら魚やら、入り込んでいますかねぇ。蛸と言えば明石とも言いますしねぇ」
連携・アドリブ歓迎
船の引き揚げも後ひと押しのところまできていた。
巨大な鉄甲船を完全に陸まで押し上げるには、海に潜っての作業が必要となる。
ハーモニカの奏でる調べに海鳥が集まっていた。
観那月・唯希(陽光に煌めく琥珀・f01448)は銀色のハーモニカを吹きながら、鳥や動物と心を通わせる。
聴くものの心まで晴れやかにするような明るい音色は、船に居た人々の心まで和ませるようだった。
「海鳥は目がいいですからね。何か見つけたらすぐ教えてくれるはずです」
彼等から得た情報があれば、効率的に船の状態を知り、潮の流れに乗って遠くへ行った破片も回収できるだろう。
海上を飛び回る鳥たちが旋回し、鳴き声を上げている。
唯希は聞き得た情報を伝えるために、船の中を忙しく動き回った。
――戦禍に巻き込まれて、復興も簡単なものじゃないでしょうね。
豊かな青髪が潮風に揺れる。氏神・鹿糸(四季の檻・f00815)は遠くになった陸を見つめ、そっと息を吐いた。
オブリビオンの残した爪痕は深く、この国を抉った、けれどそこから芽吹くものがあるのだとすれば。
「故郷の為にも、お手伝いをしてあげる」
ささやくような声と共に、手をかざす。
風が起こった。
潮風とはまた別の風だ。新しい季節を運んでくるような柔らかな風が、鹿糸を取り巻いている。
「手伝ってね、素敵な隣人たち」
呼びかけに現れた風の精霊へと鹿糸は微笑む。
それはまるで風にそよぐ一輪の花のような佇まいであった。
猟兵達の活躍を眺め、阿瀬川・泰史(酒と杯さえあればよし・f02245)は改めてその力の強大さを感じているのか。
「いやぁ、巨大な船を人力で引き上げる。なんとも人間離れした所業ですが、猟兵ですからねぇ、出来ちゃいますものねぇ」
感心したように、呟く。
しかし泰史もまたその猟兵の一人。
秘められた力は常人とは比べようにならない。
「頑張ってお仕事するとしましょう、えぇ」
おっとりと頷きながら、泰史は小舟を下ろす漁師たちを手伝いに行った。
海に潜る者達は、乗ってきた大船から小舟に乗り移り海面に近づかねばならない。
漁師に混じって綱を引いたり下ろしたりの作業をしていると、
「おや、もしや阿瀬川さまは酒好きでいらっしゃる?」
「いやぁ、そう見えますか」
話しかけてきたのは漁師の男だ。話し方に西の訛りがある。
彼の器物たる腰に吊り下げた徳利に手をやって、泰史は目を細めて笑んだ。
魂を得た徳利のヤドリガミであり、日本酒の飲み歩きを趣味とする泰史はこの漁師が酒好きなのだと瞬時に感じ取っていた。
「船と一緒に魚も獲れれば、一杯やりたいところだと思っていたところです」
「ええですな。ほな、陸に戻ったら儂等と一緒にどないですか、一杯」
漁師が酒を飲む仕草をして見せる。
どうやら地元の漁師達は、今夜酒盛りをするつもりらしい。
「僕がお邪魔してもいいんですか」
「そらもう、大歓迎や。食事も活造りに、酒蒸し、塩焼き、瀬戸の魚はアラ汁にしてもまたおいしゅうございますよって。きっと気に入ってもらえるはずですわ」
顔に満面の笑みを浮かべて話す漁師の言葉に裏はなさそうだ。
戦続きで酒を飲む暇もなかったのだろう、久しぶりにパーッと騒ぎたいらしい。
「明石の蛸もうまいそうですねぇ」
「蛸でっか、それやったらちょっとアテがありますわ」
うまい酒と料理の誘いに、泰史はゆるりと頷いてみせた。
「楽しみにしておきますよ、えぇ」
●
海に入るのは、鹿糸、唯希、泰史の三名。
一緒の小舟に乗り込むと、潜るのに適した場所を目指して漕ぎ出した。
「海の動物がいれば話をしたいですね。ハーモニカを聞いてやって来てくれると良いんですけど」
唯希が話しながら海面を見ていると、やがて泳ぐ影が近づいてきた。
あきらかに魚とはまた別の生き物のようだ。
見た目はイルカに似ているが、背びれなどの特徴が違っている。
「あれはスナメリですねぇ、瀬戸の海にいると聞いたことがありましたが」
「じゃあこの辺に住んでいる子達なんですね」
唯希が話しかけると、好奇心が強いのかすぐに小舟の近くへ寄ってくる。
船を止めると、白っぽい頭が海面から覗いた。
スナメリは少数の群れをつくるらしいが、ここに姿を見せたのは三頭。
「こんにちは、少しぼく達の話を聞いてくれますか?」
小舟の縁から身を乗り出して、唯希は海中の様子がどうなっているのか尋ねた。
キュッ、キュッ、と鳴き声を上げながらスナメリが答える。
「え、ぼくのハーモニカが聴きたいのかい? うん、それじゃあ後でまた吹きますからね」
どこか暢気なスナメリと約束して。唯希はやがて船上の仲間達へ顔を向けた。
「……海中には漂う船体の破片がまだあるそうです。危ないから案内をしてあげる、と言っています」
「船まで安全に近づけるなら助かるわね」
ありがとう、と鹿糸は手の先でスナメリを撫でた。
風の精霊が作り出した空気玉に入り込んだ鹿糸が、海底の奥深くへ潜ってゆく。
スナメリの先導に従って、水の精霊が水流を操り大きな泡を運んでいく。
制御の難しい技を、鹿糸は少しの乱れも見せずに操っていた。
――沈んだ幽霊船。
――水底から見る景色としては、とても幻想的ね。
沈む船を見上げるほどの位置まで来た鹿糸は、スナメリを安全な位置へと離れさせた。
精霊の力によりあたりの海が揺れ、強力な水と風の力が船体を押すように浮かび上がらせる。
それを、すかさず泰史のサイコキネシスが捉えた。
見えない鎖を巻きつけたかのように、ガッチリと捕まえて巨大な鉄の船を海上に向かって引く。
船は着実に海上へ向かっていた。
けれどまだ、支えがいる。
――さあ、芽吹いて。豆の木よ。
鹿糸が海底へ埋めていたのは、異世界からもたらされた魔法の豆の木。
魔力をそそがれて成長する種へ、ありったけの魔力を送る。
おとぎ話のように天空への道を作り、鉄甲船を支える大樹となるように。
下からのお仕上げと支えを得て、海上の負担は格段に減った。
「まだ気は抜けませんがねぇ」
泰史のサイコキネシスが主柱となり、鉄甲船にくくりつけた大縄を集まった船が一斉に陸へと引く。
船の上では、破片の回収を終えた唯希も作業に加わっていた。
怪力を発揮した唯希の力は、漁で鍛えた男達にも引けを取らない。
けれども年端もいかない少年に、無理はしていないかと心配する大人もいた。
「ぼく自身は鉄甲船を見てないですけど……この船がまた動けば、きっと約に立つんですよね。みなさんを広い世界へ連れて行ってくれるんですよね」
その為の手伝いなら、喜んでするのだと唯希は笑った。
サッと風が吹きぬける。
「帆を張れば、風が陸まで押してくれるわ」
海中から船の上へ戻ってきた鹿糸が、船員たちに声を掛けていた。
力強い追い風が、吹き込んでくる。
「帰りましょう」
●
戦いの為に生み出された船は戦いに敗れ役目を終えたかに思えた。
しかし、この船の行き先はまだ海底ではないらしい。
傷だらけの船体が、昇っていく。
再び日を浴びる場所へ、生まれ変わるために。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵