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エンパイアウォー㉙～籠の中の子

作者：夢月

●山中に潜みて…。
　信州のある山にて…。すでに夏真っ盛りのこの時期に、この山だけは、雪が降り積もっていた。この山に住み着いた雪女のせいだと、近くの村の者達は噂していた。その話を聞きつけた武士たちが山に乗り込む。奥羽の地より逃げ出したオブリビオンではないかと考えた彼らは、山狩りを行う。そして、彼らは残らず氷の彫像となった。

「はぁ…」

　雪女は、動かなくなった武士たちを見て、安心したように、氷の椅子に腰かける。そして、やや膨らみをみせるお腹をいとおしそうにそっと撫でる。

「早く出ておいで…愛しい子…」

　慈愛に満ちた表情で雪女は産まれてくる神の子を待ちわびるのだった。

●夏の雪山へ。
「みんな、集まったわね」

　グリモアベースに集った猟兵達の前に立つグリモア猟兵のカナタ・アマガ。

「早速だけど、みんなには、サムライエンパイアの雪山にいってもらうわ」

　「夏なのに、雪山？」と何人かの猟兵が首をかしげる。

「信州の山に、オブリビオンの雪女が住み着いたせいで、雪山になっちゃったの。この雪女がちょっと問題でね。安倍晴明によって、転生邪法がかけられているようなの」

　晴明によって邪法を施されたオブリビオンの体内には、魔軍将や神の力を宿した子が息づいている。その子がこの世に生まれてきた場合、強力なオブリビオンとなって、世界を脅かすことになるだろう。そうなる前に、母体のオブリビオンを倒さなければならない。

「雪女は、お腹の子を守ろうと、逃げようとするわ。オブリビオンにも子どもを思う気持ちがあるのよね…でも、ほうっておけないわ。ここで確実に倒すわよ…」

　そう言ってカナタはテレポートを起動するのだった。

第1章 ボス戦 『『雪女』冷結』

POW   :    氷の制裁 【足を魅せる等して肌から冷気を貯め、指先】を向けた対象に、【対象の場所を起点に発生する氷の塊】でダメージを与える。命中率が高い。 SPD   :    氷の神隠 自身と自身の装備、【そこから吹雪を発しながら自身と】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。 WIZ   :    氷の呟き 【心の底から凍てつく言葉】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。 イラスト：煤すずみ 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　猟兵達は、信州の雪山に入る。さっきまで照り付けるような日差しがどこかに去って、今は雪がチラチラと降っている。

「雪女に子どもが宿るなんてね…昔話にでも出てきそうだ」

　砂月・深影（寒空に光る銀刀・f01237）の言葉に、他の猟兵が、「確かに」と同意する。

「……セイメイは悪趣味なことをするんだね。だからといってこれを放っておくわけにはいかないけど」

　彼女の言葉は、ここにいる誰もが思っていることだった。産まれてくる命を絶つ、それに引け目を感じるが、見過ごすわけにもいかない。

「…いたぞ！」

　やがて、雪女が潜んでいる洞窟を発見する。先行して猟兵の二人が洞窟に突入する。その時、急に洞窟の奥から、冷気があふれ出る。

「まずい…逃げろ！」
「えっ…ぐあ！？」

　氷の塊に吹き飛ばされる二人の猟兵。

「猟兵ども…！この子をやらせはしません…！」

　奥から敵意を向ける雪女が出てくる。その鬼気迫る表情は、子を守る母のそれであろう。

「猟兵としてはお前を見逃すわけにはいかないんだ。……もっと多くの人が嘆き、悲しむことになるから」

　深影が、今度は、仕掛ける。白銀の刃の刀を構え、山の斜面を駆け巡り、狙いをつけさせないように接近する。

「このっ…！」

　雪女が、深影の迫ってくるタイミングを見計らって氷の塊を撃ち出す。

「はぁあああああ！！」

　深影の白銀の刀が炎に包まれ一閃。紅蓮の炎は氷の塊を両断し、雪女の身をも焼く。

「う、うわあああああああ！！」

　雪女は、お腹の子をかばうように炎に耐えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「くぅ…！」

　雪女は、火から逃れるように、転がりながらも逃亡を図る。

「うーむ、オブリビオンって骸の海から湧いてくる奴だけだと思っていたんだけど、お腹から生まれるんだねぇ。ま、敵の事情とかどうでもいいし、遠慮なくやっちゃえ！」

　緋月・透乃（もぐもぐ好戦娘・f02760）は追撃をかける。

「雪女ならやっぱり炎や熱には弱いみたいね！」

　既に弱点は、深影の攻撃で判明済みだ。

「燃え上がれ私の魂！あいつの全てを焼き尽くせー！桃火の一撃、火迅滅墜衝！！」

　透乃が戦斧をふるうと、桃色の炎が飛んでいく。雪女はそれから、お腹の子をかばうように、避ける。

「うぁ！？」

　爆風で吹き飛ばされる。

「まだまだいくよ！」
「くぅ…なめるな！！」

　透乃が再び炎を出そうとするのに合わせて雪女も氷で攻撃をしようとする。放たれる炎と氷。しかし、氷は雪女の着物が焼け焦げることにより冷気を出す部分が増えたため今まで以上に強力なものだった。ぶつかり合い大爆発。

「くぁ！？」

　雪女は、桃色の炎に焼かれながら吹き飛ぶ。透乃はそれ以上追撃することは出来なかった。雪女の放った氷に手足を封じられていた。

「いやぁ…子を思う母は強しってことかな…」

大成功 🔵​🔵​🔵​

「この子は…私の子…やらせるもんですか…」

　全身のあちこちに火傷をおいながらもお腹の子を守ろうとする雪女。

「はぁ……面倒くさいったらないね。望まずならまだしも、自分から欲しがって得てるわけだからねぇ」

　カーバンクル・スカルン（クリスタリアンの咎人殺し・f12355）は、嘆息する。

「でも、あなたが殺した武士にも親がいて、子がいた。……報いは受けてもらうよ」
「っ！」

　カーバンクルの殺気に、雪女は慌ててその場を離れようとする。

「逃がしはしない！」

　彼女が頭上に掲げたのは、無数の針がついた車輪『カタリナの車輪』。それをぶん投げると、車輪はひとりでに雪女を追跡して、拘束する。

「あぅ！」
「観念しな！」

　彼女の腕の動きに合わせて、車輪が雪女を運ぶ。その先は、ぐらぐらと煮えている風呂だ。

「や、やめ…」
「とけて成仏しなよ。そのお腹の子もせめて一緒にな」

　車輪ごとその湯舟に雪女を押し込める。自らの身体を溶かす責め苦に、雪女は悲鳴を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「くぅ…」

　雪女は我が子を守る一心で、カーバンクルの車輪から逃れ、脱出していく。

「貴女もまた、神の御子を身籠ったのですね」

　そんな雪女の前に、ナターシャ・フォーサイス（楽園への導き手・f03983）が静かに舞い降りる。

「そのような方にと言うのは、気がひけますが…、己も宿すも哀れな魂なら、私も使徒として責を果たしましょう」

　ナターシャは、聖人のような笑みを浮かべる。

「産むなとは言いません。幸福の園たる楽園にて、と言っているのです」

　その口から紡がれたのは、死の宣告だった。

「…ときに、貴女に見習いはいませんか？何度か似た方をお見掛けしたので…知らなくとも、それは仕方ないですが」
「そんなもの…知らない！」

　その雪女の冷たい言葉は言霊となって、襲い掛かる。が、その力は弱弱しくナターシャは意にも介さない。

「そうですか。では、どうか楽園へ導かれる貴女にも、ご加護のあらんことを」

　ナターシャは、手にしたサイズを掲げると、彼女を中心に光が広がる。すると、その光に呼ばれて、天使たちが次々と現れる。彼らは一斉にその光を雪女に降り注ぐのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　聖なる光に包まれ苦しむ雪女に、ハロ・シエラ（ソード&ダガー・f13966）が、静かに歩み寄る。

「生まれてくるのが人間だとでも言うのなら躊躇いもします。ですが相手はオブリビオンフォーミュラ。結局、生まれる前に殺すか後に殺すかの違いでしかありません」

　彼女は、決意を表すかのように、銀色のレイピアを顔の前に掲げる。

「だから、今ここで終わらせます」
「っ！やらせるもんですか…！」

　雪女は最後の力を振り絞るように吹雪を巻き起こす。雪の風が雪女の姿を眩ませていく。

「もう、私のことは追えないでしょう…！」
「いえ、もう追う必要はありません」

　愛剣のレイピア『リトルフォックス』を頭上にかざすと、その剣先から炎が迸る。

「逃げ場はありません、そこは私の間合いです！」

　フレイム・スローワー。魂をも焼き焦がす炎が周囲を丸ごと焼き払う。

「うわあああああああああああ！？」

　無念の声と共に、雪女は炎に包まれて消えた。雪女が倒れたことにより、山の雪は急速に溶けてなくなっていく。その場に残されたのは、水晶のような鉱石が散らばっているのみだった。

「…帰ろうか」

　猟兵の中の誰かがポツリという。その声に促されて、無言で一人、また一人と去っていく。最後になったハロは、少し歩みを進めて、振り返る。

「…せめてあの世では、よい親子になってくださいね」

　そう呟いて、その場を去るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月27日