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エンパイアウォー㉛~海が凪いだその時に

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #鉄甲船

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「みんな、手は空いてる? 急ぎの仕事なんだ」
 グリモアベースに駆け込んできたシトラ・フォルスター(機械仕掛けの守護者・f02466)は開口一番、周りの猟兵たちにそう声をかけた。

 現在、サムライエンパイアではこの世界の未来をかけた戦争が行われている。
 敵方が巨大な鉄甲船を用いて仕掛けてきた瀬戸内海での海戦は、記憶に新しい猟兵もいることだろう。その鉄甲船の再利用を幕府が考えているのだという。

「これから夜が明けたら、凪の時間が来るみたいなんだ。その時を狙って、鉄甲船を引き上げよう!」
 凪――陸風と海風が入れ替わる時の無風状態のことだ。
 シトラの予知では周囲が明るくなった朝7時ごろ、静かな海に座礁した鉄甲船を見たという。おそらく、戦いのさなかに暗礁に乗り上げてしまったのだろう。半ば沈みかけているが、修理すればどうにか動かせる状態のようだ。
「船底の穴はふさいだほうが良さそうだね。マストも帆も壊れてるけど、そっちは余裕があればかな。艪(ろ)もめちゃくちゃな状態だから、なんとかして動かす方法を考えた方がいいだろうね」
 瀬戸内海の凪の時間は約1時間。その間に修理を済ませ、暗礁から脱出させなくてはならない。
 そこまで終えて何らかの方法で港まで鉄甲船を運んでいけば、あとは職人が引き継いでくれるそうだ。
「技術のある猟兵や船を運ぶアイデアを持ち寄れば、不可能じゃないと思うんだ。無理は承知だけど、この世界の未来の為に挑戦してみてくれないかな?」


氷水 晶
●注意事項
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●目的
 朝凪で波が静かな間に座礁した鉄甲船を修復しましょう。その後、港へと運んでいきましょう。鉄甲船が座礁した場所は分かっているそうなので、傾いた甲板の上に転移した所からスタートです。

●鉄甲船の状態
 鉄甲船は暗礁に乗り上げて座礁しています。マストは壊れ、帆には大穴が空いている状態です。船を漕ぐ艪(ろ)は大半が壊れているようです。

●主な役割
 最低限、船底の修理が必要です。その際には排水も行わなければなりません。
 船底の修理をした後、暗礁から脱すれば何とか浮くでしょう。
 船を動かす際には動力が必要です。工夫して力を合わせて港まで運びましょう。暗礁の多い海域のようですから、その点にも留意すると良い結果が得られるかもしれません。
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第1章 冒険 『巨大鉄甲船引き上げ作戦』

POW   :    重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる

SPD   :    海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる

WIZ   :    海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 暗礁に囚われはかなく揺れる船は、海の波に洗われるたびにきしんで音をたてた。
 別の船に助けられたか、はたまた違う最期を迎えたのか。巨大な鉄甲船に人影はない。乗せるべき人を失い、航行のための艪(ろ)と帆を失い、傷を直す者もなく。船はいずれより深くへと引き込まれていくだろう。
 風の音が止んだ。海面をざわめかせていた波が消える。絶え間なく揺れていた甲板は、左舷に傾いで動きを止めた。

 朝を迎え、凪の時間がおとずれたのだ。
アーク・ハインド
「……アーク・ハインド海賊団、今回の任務はあの船の死を略奪することっす。」
「正直、戦争には興味がなかった、敵の舟にも興味はなかった、でも……これは、見捨てられない。自分と同じ末路をたどる船は少なければ少ないほどいい。」
そう言いながらUC発動し呼び出した船員達に「海賊時代の修繕力、期待してるっすよ」と声をかけて細かい指示は船長や航海長に任せ海流などの計測を任せます。
技能:属性攻撃などを使って浸水のひどい区画の水を炎で蒸発させたり雷で電離させたり凍らせて運び出したりと一心不乱に行動します。

「あんたはまだ海を走れるっす、絶対走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ…!」



 はためく緋に波打つ銀の長髪が踊る。
 トリコーン(三角帽子)を片手で押さえ傾いた甲板の上に危なげなく着地したアーク・ハインド(沈没船・f03433)は、暁光に浮かんだ船の姿を見て痛みをこらえるような表情で眉を寄せた。
 赤い瞳の視線の先では、黒々とした暗礁が船の腹を食い破っている。
「……正直、戦争には興味がなかった、敵の船にも興味はなかった。でも…………これは、見捨てられない」
 あの日、黒い波に飲まれた優美な船体。
 幾重にも張った帆を風に膨らませ海の上をすべるように駆けたその船は、荒っぽくも気のいい船員たちをその内に抱いたまま海の底へと沈んでいった。
「自分と同じ末路をたどる船は少なければ少ないほどいい」
 ガレオン船のヤドリガミ、アークは呟く。
 深く、冷たく、昏い海底。時すらも凍りつかせた青一色。
 その感触を断ち切るように、アークは腕で目の前の空間を払った。長い緋色の上着がひるがえる。静から動へ、普段は無口なアークは声を張り上げる。
「かつて自分とともに海に散った亡霊の海賊共!」
 声とともに甲板の上に陽炎のような影が揺らいだ。
 アークと同じ色の服。サーベルに銃を掲げる姿。やはり彼らには船上が似合う。
「略奪の時間っす! 武器を持て! 勝鬨の声を上げろ! 今、再び、略奪を開始するっすよ!!!」
 応えるあの日の歓声が、鮮やかに耳に届く。在りし日の『アーク・ハインド海賊団』は記憶の底になお強く焼き付いている。
 手の平をいっぱいに広げて命じる。
「……アーク・ハインド海賊団。よく応えてくれたっす。今回の任務はこの船の死を略奪することっす!」

 周囲の見張りと海流の計測を船長と航海長に命じ、船員を率いて船内へ降りた。
 船底の区画は水面に侵食されていた。水嵩は天井までは達していない。濡れるのも厭わず海水に胸まで浸かり、浮いた木箱を押しのけて船底に空いた穴を確認する。
 まずは穴を塞ぎ、浸水を止めなくてはならない。
 修繕道具を用いる前に、アークは穴の開いた箇所を属性魔法を使って凍らせた。後で修理するにせよ、ひとまずこれ以上の浸水は防げたはずだ。
 更に氷の属性攻撃でアークは抱えられるほどの氷塊を作っていく。階段に並んた船員たちにバケツリレーの要領で外に運び出させる。静かな夏の海につぎつぎに氷塊が投げ入れられ、浮きあがっては溶けていった。残った水を海賊たちは布切れに吸わせては桶に絞り出す。その後をアークは炎の熱を操って乾かしていく。
 傾いだ船底がゆっくりと水平になる。まだ暗礁は脱していないものの、船は確実に浮力を取り戻していた。
「あんたはまだ海を走れるっす、絶対に走れるようにしてやるっす。だから、絶対あきらめるんじゃないっすよ……!」
 一心不乱に手を動かす海賊たちもきっと思いは同じだ。
 今のアークを形作っているのは、かつてともに海を駆けた彼らの記憶なのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アーク・ハインド
「絶対負けるんじゃないっすよ、直に自分らが直してやるっすから…!」

技能:属性攻撃などを使った排水作業を継続したままこんどは
技能:見切りで損傷のひどい区画を探り、技能:盗みでどこからか盗ってきた木材や布などの必要な物品にて穴をふさぐ、帆を張る、艪を用意するなどこの船がこの船として有るために必要なものをそろえていきます。

「後ひと踏ん張りっす、だから、アンタは今を維持し続けるっす。」
「うちの海賊たちはみんな優秀っすから、今まで以上に仕上がっちゃうかもしれないっすよ?」
作業の手は止めず、しかし鉄甲船への激励の言葉も止めずに作業を進めていきます。


エリシャ・パルティエル
アドリブ、連携歓迎
戦いはあまり得意ではないし、魔軍将戦ではあまり力になれそうにないから
せめてできることを何かお手伝いしなくちゃね

レプリカクラフトでマストや艪を作るわ
本物には見劣るけれど、少しの間なら役に立ってくれると思うわ
穴の開いている帆は、持参した布で補修するわね
ふふ、裁縫は得意なのよ
今は凪の時間だから風はないけれど……きっとまた役に立つはずよ
あとは動力ね……他のみんなのいいアイデアがあればそれを手伝うし、
なくても艪を使って人力で動かそうかしら
艪がたくさん必要なら必要なだけ作り出すわね
戦争が終わってもそこに暮らす人々には生活があるもの
人々の笑顔のためにできることを全力でするわ



 エリシャ・パルティエル(暁の星・f03249)は、折れたマストからやっとのことで帆を外した。厚みのあるごわごわした帆布は重く、甲板の中央に持ってくるだけでもかなりの重労働だ。
 砂漠出身で暑さには慣れているはずのエリシャの額にじんわりと汗がにじむ。湿度が高い海の空気は重くまとわりつくようで、からりとした砂漠の環境とは全くの別物だった。
「想像していたよりも力がいる作業ね。少し風が欲しいくらいだわ」
 凪の海は鏡のように空を映して静止している。
 エリシャは金色の髪をかき上げると、よれた帆布を引っ張りまっすぐに直していった。甲板を覆った生成りの布のど真ん中に、周囲が焼け焦げたような大穴があいている。
 その穴にエリシャは用意してきた布をあてた。穴の大きさに合わせてはさみを入れ、いちばん太い針にいちばん丈夫な糸を通す。その場に座りこむと、膝の上に乗せた色違いの2枚を縫い合わせていく。最初はぶ厚い布に針を通すだけでも大変だったが、次第にコツをつかんでいく。
 ミステリアスな外見からか意外に思われる事もあるが、こういった家庭的な作業がエリシャは得意だった。
 しばらく黙々と縫い続け、エリシャは目と手を休ませるように遠く視線を向けた。
 あの水平線の向こう。はるか空のかなた。
 そこでは今まさに、仲間たちが魔軍将たちと激戦を繰り広げている頃だろう。
「せめて今あたしにできることをお手伝いしなくちゃね」
 戦いはあまり得意ではない。それでもこうして自分の力を生かせる場所がある。
 サムライエンパイアでのオブリビオンたちとの戦争が終わった後。生活を立て直していく復興の時こそが、エリシャたちの戦いの始まりなのかもしれない。
「(戦争が終わってもそこに暮らす人々には生活があるもの。この世界の人々のために、できることを全力でするわ)」
 エリシャは剣の代わりに針を手に、敵の代わりに厚い布との格闘を再開する。

 アークは排水作業を続けながら、めぼしいお宝――今回は修繕に必要な木の板や布を探して船内を歩き回った。
 最も大きな船底の穴こそ塞いだが、まだまだ水漏れしている箇所はある。先刻呼び出した『アーク・ハインド海賊団』に命じては積んである木箱を解体し、転がっている木の盾を拾い集める。ガレオン船である自分自身を手入れするために持ち歩いていた『海賊の七つ道具』は、鉄甲船の修繕にも大いに力を発揮していた。
「絶対に負けるんじゃないっすよ。直に自分らが直してやるっすから……!」
 水漏れ箇所と材料を探して歩き回る間にも、アークは鉄甲船に励ましの声をかけ続けていた。
 切り傷を縫い合わせるように、仮の皮膚を当てるように、アークは船の『治療』を進めていく。文化や世界は違っても同じ船同士。アークの目にはこの鉄甲船が大怪我をした仲間のように映っている。
 大切に治せば、いつかこの船に魂が宿る日だって来るかもしれない。
「後ひと踏ん張りっす。だから、アンタは今を維持し続けるっす」
 応急処置が終わって綺麗に繋ぎあわせた木の船底を優しく撫でた。再び血が通いはじめたようなぬくもりを手に感じたのは、気のせいではないはずだ。

 甲板に戻ってきたアークの前にはマストから外された帆布があった。丁寧に重ねて縫い合わされた布には、まるで新たなシンボルのように丸や稲妻の図形が浮かび上がっていた。元々の帆布と修復した布の色の違いが生み出した偶然の産物だ。
 糸を切るとエリシャは凝り固まった背中を伸ばす。
「これでおしまいね」
「帆、直ったんっすね」
 船長のような出で立ちのアークを振り向いて、エリシャは頷いた。
「ええ、あとはユーベルコードでマストを作りなおすわ。本物ほどの強度は無いけれど、少しの間なら役に立ってくれると思うの」
「それなら出来上がったマストは自分が補強するっす。まだ集めてきた木材が余ってるっすからね」
 ばらばらになったマストを撤去するにも新たな帆を張るにも、船に詳しいアークと海賊団がいれば心強い。提案に頷いてエリシャはユーベルコードを使う。
 『レプリカクラフト』で作った新しいマストは細かな造りこそ荒かったが、そこはアークが腕を振るいマストに十分な形と強度へと仕上げていった。
「うちの海賊たちはみんな優秀っすから、今まで以上に立派な船に仕上がっちゃうかもしれないっすね」
「ええ。前よりも立派な船になって活躍してくれるわ。きっと」
 戦いのために造られたこの船が、戦い以外の分野で役に立つ未来が訪れたなら。
 この船はどんな思いを抱いて海に出るのだろうか。

 マストが立ち上がる。新たな帆が張られる。
「あとは動力ね。凪の間は艪を修繕して使うしかないけれど……」
 呟いたエリシャの金色の髪とアークの銀色の髪が揺れる。青いローブと赤いロングコート、そして帆がふわりと風をはらんだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

フィーア・ストリッツ
さて、船の回航ですか
最低限の浮力は回復したようですし、このまま凪が終わる前にさっさと所定の港まで移動させましょう

「手段はええ、力づくになりますが。タッカーボートの真似事ぐらいは出来るでしょう」
自前の宇宙バイクで水上を走り、鉄甲船を縄でつないで引きます
鉄甲、とはいえ本体は木製
UDCあたりの軍船とは比べ物にならないほど軽いですからね
サイボーグ特有の【怪力】で問題なく制御できるでしょう
推進力はバイクの出力頼みですが……
「港につくまで持てばいいので、問題ありません。タイムリミットまで後どれぐらいですか?」

【アドリブ歓迎】


シル・ウィンディア
沈没しているポイントとその周辺の海流
天候状況を予測

スペースシップワールドで仕入れた
高耐久・不侵食性の太いワイヤーロープを持参

海に潜る前に【全力魔法】のUCを使用
【属性攻撃】で手に持った杖に風・嵐属性を付与

後は、水に潜るだけなんだけど…
UCで強化された杖の風の【属性攻撃】で
海面を叩きます
これで、船までの道を作ってと…

道を作れなくても
【オーラ防御】に風【属性攻撃】を付与して
水中で呼吸をできるようにするね

あとは、ワイヤーロープを船体に一杯括り付けて
海中から水上に出るよ

あとは、一般の船の力も借りないとね
ワイヤーロープを各船に配って行って
船体の丈夫なところに括り付けてもらうよ

さぁ、一斉に引っ張ってー



 海は内で起こっていること全てを秘めて、静かに凪いでいた。
 そんな面影がどこか似通っている。
 無表情を崩さず、感情を表に出さない。いつもの表情で、フィーア・ストリッツ(サキエルの眼差し・f05578)は傾いだ甲板から水平線を見つめた。
 青空を途中で折り返したらこんな風景になるのかもしれない。
 黒々とした一枚鏡となった海に、フィーアは宇宙バイクを乗り入れた。海面から数cm浮いたバイクのホバー機構が海面を僅かに波打たせ、さざなみとなって世界を揺らす。
 鉄甲船と暗礁の周囲を回ってフィーアは坦々と現状を把握する。
 船の腹を食い破っていた岩。それを押しやるように船の内側から結晶が生えだした。岩礁の間で浮力を取り戻した船の喫水が、目に見えて浅くなる。
 おそらく、誰かが中から魔法の類で穴をふさいだのだろう。
「(やり易くなった)」
 一度船上に戻ると舳先の近くに縄を結び付ける。縄のもう一方は宇宙バイクにつないだ。
 鉄甲船は木造の安宅船に鉄の板を張り付けて造られている。巨大とはいえ、UDCアースあたりの軍船を考えれば比べ物にならないほどに軽い。宇宙バイクの動力でも何とか動かせるかもしれない。
「タグボードの真似事くらいはできるかもしれません。まずはこの暗礁を抜けられればいいんですが」
 巨大な船を曳航する小さな船のように、フィーアは宇宙バイクのエンジンを全開にした。

 まるで立場が逆転してしまった水族館のようだ。好奇心の強い魚が何匹も近付いてくる。
 オーラ防御を属性魔法で覆った空気の球の中から、シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は海中の様子を確認していた。
「岩礁の位置はここ、潮の流れはこうだから――脱出には使いにくいね」
 水の中で見たものも余さず地図に書き入れる。
 水中で船に結びつけたワイヤーロープを手に海からあがると、すぐ近くに宇宙バイクの姿があった。シルと同じく、縄で船をけん引するつもりのようだ。
 シルはユーベルコード『エレメンタルドライブ・エアリアル』の風の翼で海の上に飛び上がった。フィーアもその姿に気付いて一旦バイクの動力を止める。
「宇宙バイク1台では動力が足りませんね。海に出た後ならともかく、暗礁から脱出するにはもう一工夫要りそうです」
「海底の調査が終わったから、私も空から引っ張ってみるね。それと……」
 地図の裏側にまで及んだメモを見る。
 海流や天候について情報収集しながら、シルは港にある一般の船にも応援を頼みに行っていた。その時、偶然耳にした情報があったのだ。
「地元の漁師さんが教えてくれたの。『もうすぐ満潮』だって。大潮ではないみたいだけど、今から10分後くらいを狙えば――」
「海面が高くなって、暗礁を抜けやすくなるんですね」
 フィーアの言葉にシルは頷いた。
「他の船にも応援を頼んできたけど間に合わないかもしれない。その時はわたしとフィーアさんで」
 2人の猟兵は頷き交わして、その時を待った。

 フィーアは宇宙バイクを始動させ、シルは風の翼をいっぱいに広げた。
「さあ、一斉に行くよ!」「力づくでいかせてもらいます」
 猟兵たちは息を合わせて、海上と上空から縄とワイヤーを引く。船底が海底の岩を擦る。
 あと少しバランスがこちら側へ傾いたなら。そのほんの僅かがどうしても乗り越えられない。
「凪のタイムリミットはあと何分ですか」
「あと20分くらいね。それまでに何とかこの岩を…・・!」
 バイクの起動音に負けぬようにフィーアが問えば、シルは一度力をゆるめ、息を整えて再度ロープを引く。
 その時、ほぼ同時にロープの手応えが変わったのを感じた。
 鉄甲船の上に、修繕の終わったマストが立ちあがる。2色の布として蘇った帆が朝の光を跳ね返して掲げられた。
「帆があるなら!」
 風精杖『エアリアル』。シルは風の精霊の杖を構えると帆いっぱいに風を当てた。膨らんだ帆が今までにない推進力を生みだす。 
 船首が持ち上がる。甲板にいる海賊たちと猟兵は、手近な物につかまった。
「いける――」
 フィーアの声がかすかな熱を帯びる。アクセルを握る手に力が込められる。
 波しぶきがあがる。歓声が聞こえる。一瞬たわんだワイヤーが再び張り詰める。
 岩礁からようやく解き放たれた鉄甲船は、しばらくぶりの海原に着地するとゆっくりと進み始めた。



 シルの作った地図を元にフィーアがバイクで船を先導する。
 鏡のような海の上を、ひとり風を得た鉄甲船は波を立てながら航行した。
「あっ、あれは――」
 マストの上に腰かけて岸の方角を見ていたシルが声を上げた。
 漁船がこちらへ向かってくる。漁師たちは鉄甲船の大きさに圧倒されながら、港へと案内を始めた。

 異国の海賊たち。
 2色の帆。
 唸りをあげる小さな浮舟。
 風を操る少女。
 彼らに率いられた巨大な鉄甲船。

 港に見物に訪れた人々は、その雄姿をいつまでも語り継いだという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月27日


挿絵イラスト