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エンパイアウォー㉛~鉄の棺桶、暁の鋼

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #鉄甲船 #鉄甲船逢魔号

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●鈍色の記憶
 海は全てを平等に包み込む。生も死も、生命も骸も、須らく平等に――。

「集まってくれてありがとう。皆お疲れ様!」
 グリモアベースの会議室、巨大スクリーンを背景にアイリ・フラジャイル(夢見る戦争人形・f08078)が頭を下げる。映し出された映像は先の海戦、村上水軍の巨大鉄甲船の全景だ。これは殆ど退治した筈だが、一体どうしたのかと猟兵が問う。
「今回は皆の攻撃で海底に沈んだ巨大鉄甲船を引き上げて、再び利用出来るようにする作戦なのよ」
 辺りがざわつく。スクリーンに表示されたサルベージポイントは豊予海峡、水深400m近い箇所もあるといい、『速吸瀬戸』とも呼ばれる潮の流れが非常に速い難所だ。
「日野富子の巨万の私財によって建造された巨大鉄甲船が再利用出来れば、戦後のサムライエンパイアにとって大きな利益となるから、可能ならば引き上げようって事らしいわ」
 こんな所で沈んだ鋼鉄の塊を拾い上げるなどと、確かに猟兵の力でなければ難しい所だが……果たして今、それが必要なのかと疑問をアイリへ投げかける。
「まあ、ドリルで船底に穴開けたり、航宙艦隊にボッコボコにされても耐えてたからね……そんな船が回収出来て直せれば、きっと凄い事になるわよ!」
 そりゃそうだ。だがどうして、今必要なのかと強く問われるアイリ。

「だって、引き上げる事が出来なかった巨大鉄甲船は海の藻屑となって、再利用は不可能となるわ。先の事かもしれないけど、やれる事はやるべきと思うの」
 ここでサルベージ出来なければ二度と再利用できないらしい。この戦の後……という事もあるだろうが、万が一戦争が伸びて再び敵が蘇ろうものならば、これらを悪用される可能性だってある。今の内にその芽を潰し、自らの力に変えられれば一石二鳥だろう。
「アタシ達のユーベルコードを利用して海に沈んだ巨大鉄甲船を引き揚げる事が出来れば、商船や軍船として再利用したり、外洋船に改修して冒険の旅に出る事が出来るかもしれないんだから」
 確かにサムライエンパイアの周りに何があるかはよく分かっていない。それらを知る一助になるというならば、戦後の復興に役立つというのならば、その行いは決して無駄な事では無い。
「この鉄甲船が使えるようになればきっと渡来人だって怖くないわ。宇宙戦艦とやりあった脅威のメカニズムよ!」
 流石にスラスターとかつけちゃまずいんじゃないか。まあ言われたらやるけど……と誰かが言った。異世界の技術を持つ猟兵ならば、そんな芸当も可能だろうが。
「うん、アタシもドリルとか付けるべきだと思うけど、引き上げ船の修復や使い道とかは、引き上げる事が出来た隻数に応じて幕府などが協議して決定するらしいの。だからサルベージしながら魔改造は出来ないわ。残念だけどね」
 それならそれで。終わってから考えればいいだろうと続けて。所で幕府などって何?
「まあ、幕府以外にも色々あるんでしょ多分。それでも引き上げた状態で完全な修復が難しい場合もあるから、確認と取り扱いは細心の注意を払って欲しいの」
 実際よく分からないがそこは全く重要じゃない。目的は鉄甲船を引き揚げる事。それも可能な限り元の状態を維持して。そんな事が出来るのは猟兵だけだ。
「それじゃ皆、ヨロシクね♪」
 煌めく小鳥が光の先にゲートを作る。潮風が吹いて、瀬戸内海への道が開かれた。


ブラツ
 ブラツです。
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。1フラグメントで完結し、
 「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 このシナリオは【冒険】となります。
 このシナリオの成功数×隻の巨大鉄甲船を引き揚げる事が出来ます。
 引き上げ船の修復や使い道などは、引き上げる事が出来た隻数に応じて、
 幕府などが協議して決定するようです。

 海や船、サルベージに関する知識を上手に使えば、成功率は上がるでしょう。
 特にバラバラになった船体をどうやって探索するか、
 潮流が速い海域でどんな風に作業をするか、
 引き上げ時の船体のダメージを如何に抑えるか、
 フラグメントの選択肢はあくまで参考ですので、
 自由な発想のサルベージをお待ちしています。

 ボーナスシナリオの都合上、戦争の安全な終結を目指す為、
 大変恐れ入りますが、プレイング募集は8/23(金)8:30以降です。
 それではよろしくお願い致します。
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第1章 冒険 『巨大鉄甲船引き上げ作戦』

POW   :    重量のある船体部分などを中心に、力任せで引き上げる

SPD   :    海底を探索し、飛び散った価値のある破片などを探し出して引き上げる

WIZ   :    海底の状況や海流なども計算し、最適な引き上げ計画を立てて実行する

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

フィーナ・ステラガーデン
炎天下、海の上、そこに吸血鬼の血が濃い私
どうしてここにいるのかしら。絶対私がいるべき場所じゃないわここ!
(船の上でぐったり倒れつつゆらりゆらり)
照りつける太陽、水も苦手できついってのに海の上よ海の上!
吸血鬼的にきついのよ!せめて浅瀬ならまだましなのに・・(ぐちぐち)

何だったかしら。沈んでる船を引き上げるんだったかしら?
私は何もしないわよ。というか出来る状態じゃないわ!
なんか海を見て私の中のマグロが張り切ってるわ
描写とかもうこいつメインでいいと思うわ
マグロに網目上に大きくロープを纏わせてるから引っ張り上げるのよ
おーえすおーえす(倒れつつ小さな白旗ぶんぶん)

(アレンジアドリブ連携大歓迎!)


クネウス・ウィギンシティ
アドリブ&絡み歓迎
「サルベージ……技術職の出番ですね」

【POW】フックショット

「換装完了……」
水中用装備(水着)に換装し、潜水。呼吸器は改造済み(【メカニック】&【防具改造】)なので水中活動に支障はないはず。

「改造して浮上させた方が手軽かつ確実ですが……ユーザのオーダーは叶えるべきものですね」
UCを用いAFからフック弾を発射し、鉄甲船の『装甲(硬い部位)』にフックを複数打ち込みます(【スナイパー】)。

「後は撃ち込んだフックの鎖を海上の船々に付けて牽引するだけ……」
引き揚げ時の船体への力の掛け方(負荷分散)は潜水時に目視した破損箇所の【情報収集】し試算。
「あまり壊さない用に慎重に行きましょう」


アララギ・イチイ
やっぱり正統派サルベージはロマンよねぇ

【選択UC】発動よぉ
艦載艇を発進、本船と合わせてローラー作戦、ソナーで海底地形を【情報収集】、沈没船のシルエットを発見したら目視確認するわぁ(潮流に関しても情報収集、潮の流れを【見切る】

発見後、艦載艇でマリンエアバックを設置、圧縮空気(海上の本船から供給)を流し込み浮力確保よぉ
船体サイズなら、艦載艇、及び搭乗員(幽霊なので酸素不要)で船体の損傷箇所を仮で塞ぎ、上記バックを設置、同時に船体内部に圧縮空気を流し込んで排水しつつ、浮力確保して浮上させてしまいましょうぉ

なお、艦載艇とか本船は【武器改造・メカニック】でサイドスラスターなど、必要設備を増設しておくわぁ


メンカル・プルモーサ
戦後の話とはいえ、海の向こうには確かに興味がわくね…
まずは予め探索地点周囲の地図と海図を手に入れて置くよ…

…そして、探索のために【夜飛び唄うは虎鶫】を使用…ガジェットを海中の四方八方にばらまいて船体の探索と海流のデータの測定を行う…

…引き上げ前に、引き上げた後の船体を置くことのできる陸地に目星を付けるのと
船体及び船の調度品等の場所を一時的に把握、地図に書き込んで…
あとは大きな船体から順に世界知識でサルベージ周りの知識を思い出して引き上げるよ…
ガジェットが回収できる程度の大きさのものはガジェットに回収させるね…

…引き上げが厳しい場所にあるものは【彼方へ繋ぐ隠れ道】で引き寄せるよ…


荒谷・ひかる
あのすっごいお船の引き上げだねっ。
うーん。ちょっとむずかしそうだけど……精霊さん、頑張れそう?
……そっか。ありがとっ。それじゃあ、やってみようっ!

わたしはお船に乗って現場監督っ
事前に大地の精霊さん(「海底」は大地の一部故)と水の精霊さんにお願いして、それぞれ船体等の正確な位置と深さと大きさを観測しておく
そうして沈んでるお船の座標に合わせ【闇の精霊さん】を発動、沈没船を一旦時空の狭間へと吸い込む
その後は浅瀬まで戻って、そこに吸い込んだお船を吐き出してもらうよ
陸に直接出しちゃうと、着地の衝撃で壊れたり、一緒に吸い込んだ海水で周辺が大惨事になると思うから、適切な設備が無さそうなら避けるねっ


ユウ・シャーロッド
鉄甲船さんの【救助活動】をお手伝いします!

初めに聖なる光を海面から正確にまっすぐ下へ等間隔に設置し
探索の為の視界確保、兼、潜る方達の為の目印とします!
日頃の特訓の成果を見せますっ!
あ、因みに私自身はほぼ泳げないので、邪魔にならないよう
端っこで体育座りしてじっと待機です・・。

船の姿が見えたら、「復元」のユーベルコードを使い
動かすと壊れそうな破損箇所や
引揚げ中に受けるダメージを中心に修復します!

皆さんの作業中は、重要な部分が壊れないよう
【第六感】を研ぎ澄ませて探り
引き揚げの補助として、完了までの【時間稼ぎ】に徹します!

・・引き上げられるこの子が、これから先
皆に愛される存在になる事を【祈り】ます。



●朽ちゆく鋼は大海の夢を見るか
「どうしてここにいるのかしら」
 炎天下、海の上、そこに吸血鬼の血が濃い私、何も起こらない訳が無く……。
「絶対私がいるべき場所じゃないわここ!」
 船上で影でぐったりと倒れるフィーナ・ステラガーデン(月をも焦がす・f03500)は、ぱたぱたと扇がれながら臥せっていた。見紛う事無く熱中症である。
「そんな装備で大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ! 問題大ありよ!」
 フィーナを扇ぐのは荒谷・ひかる(精霊ふれんず癒し系・f07833)、精霊さんの力を借りて、ほんの少しだけ涼しい風を送っているのだ。
「それにしても、あのすっごいお船の引き上げるんだねっ」
「みたいね。ああ、私の中のマグロが囁くのよ」
 なんか凄い張り切ってて。困ったわ。そうですねっ。
「お待たせしました! こちらの準備も完了です!」
 元気よく現れたユウ・シャーロッド(白練の杖・f06924)は、そそくさとフィーナの横でしゃがみ込んで状況を説明する。彼女も余り海は得意ではない。そしてこれから潜る海域は潮の流れも速く、水深も深い。だからこそ精霊の聖なる光で、ガイドビーコン代わりに等間隔の光を海中へ展開したのだ。合わせてひかるは水と大地の精霊の力で海中の状態をあらかじめ走査して、実際に回収へ挑む仲間に伝えていた。ここまでは彼女達の仕事。そしてここから先はプロフェッショナル達の仕事だ。
「――何か、回収どころか超時空戦艦に作り直しかねないメンツが集まってる気がするんだけど。本当に」
 大丈夫かしら。別の意味で。

「――パターンチェック、潮流は安定。しばらくは現装備でいけそうですね」
 サルベージとなれば技術職の出番。クネウス・ウィギンシティ(鋼鉄のエンジニア・f02209)は水中用装備に換装し、先の情報を基に残骸とのランデブーポイントを策定していた。水深300m、この世界の人間では到底手を出す事も適わない深度だ。故に猟兵でなければこなせない仕事だと、クネウスは精霊の明かりを頼りに、眼下に沈むであろう鉄塊を探していた。
「安定って言っても、こう流れがきついとねェ」
 その傍で大型潜水戦艦に乗り指揮を執るアララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)は、クネウスを誘導しつつ地形走査レーダーとアクティブソナーの観測結果を流し見て愚痴る。地形が分かっていても、舞い上がる汚泥が視界の尽くを遮り、作業は順風満帆とはいかない状態だった。
「それでも、母船が近いと安心ですよ」
 宇宙同様、暗黒の深海は目印が無ければダイバーは活動が出来ない。それに万が一の補給も浮上せずに出来る。故にアララギの潜水艦は正に僥倖だった。
「……海流のデータを更新、地形は、間違いなさそう……」
 ふとメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)の声が響く。蒸気魔導科学の才媛たる彼女にしてみれば、ひかるの精霊魔術とアララギ達の超科学といった両極端な技術すら統合してみせる。それで弾き出された結論――今やらないとヤバイ。
「成程、南の方から大型の熱帯低気圧が」
 つまり台風が迫っている。それでも大分先だが、もたついていてはこの先起るリスクが更に肥大化する。
 ぼんやりと輝く精霊の光が示す深度は351m、その海底に鉄甲船は眠っている。
「それじゃあ、始めましょうかぁ♪」
 やっぱり正統派サルベージはロマンよねぇ。小型の潜航艇を数隻発艦させ、母船たる潜水艦を徐々に浮上させる。その中央には大型の光源が。
「……じゃあ、ひかる。お願い」
「はーい!」
 ちなみにメンカルは潜水艦にいる。薄緑の魔法陣を多数展開しコンソール代わりに、海上と海中の中継を行っていた。呼び出したのはひかる、精霊の力を借りて一時的に汚泥を吸い上げようというのだ。
「それじゃあ少しだけ吸い込んじゃおう、精霊さんっ」
 瞬間、潜水艦の真下に漆黒の大穴が開かれる。それは更に下の、鉄甲船を覆い隠す汚泥の尽くを吸い上げて、別の空間へ排出していた。
「やっぱり……補助がいるわ」
 吸い上げられた分海水量が減少すれば、その場で激しい海流が発生する。それを打ち消す様に、メンカルの『アバドン』が『エコー』で増幅され、展開したガジェット群から予め用意していた綺麗な海水を流量に合わせて流し込む。
「軽く環境破壊してるわよねぇ」
「まあ、科学に犠牲はつきものです」
 アララギの軽口を神妙な面持ちで返すクネウス。多少の濃度の上下はあろうが、短期間ならまあ、大丈夫だろう。気付けば汚泥はその殆どが吸い上げられ、クネウスの眼下にはっきりと鉄甲船の姿が見えた。

「成程、造りは古めかしいですが……この合金はこの世界のものでは無い?」
「それだけじゃないわぁ。船体をオブリビオン化させる回路じみた術式も施されてるしぃ」
 アララギの潜航艇を率いて艦内へ進入したクネウス。所々深海の生物が住み着き、正に名状し難い恐怖で彩られた空間と化していた。しかし本場のUDCに比べれば可愛いもの……ざっと構造を把握した後は、浮上させるパーツの順番を選定し始めた。
「……これ、迂闊に再生すると呪詛が溢れそう」
 全長200m近い村上水軍のオブリビオンだった船だ。存在そのものが骸の依り代と言ってもいい。故に只直すだけでは駄目で、放置するわけにもいかなかったのだろう。
「うーん……まあ、改造はご法度だしねぇ」
「ええ。改造して浮上させた方が手軽かつ確実ですが……ユーザのオーダーは叶えるべきものですし」
 非常に残念そうな面持ちでアララギとクネウスは作業に戻る。小型の部品はメンカルのガジェットが逐次母船へと運び込み、大きな部材は潜航艇が浮上用のエアバッグを括りつけている所だった。そしてさらに大きな部材は、クネウスが自らフックを打ち込んで持ち運ぶ――正に鉄壁の布陣でサルベージ作業は開始された。

「暇ねえ。しりとりしない」
「熱中症は大丈夫ですか、フィーナさん」
 ぐったりしたまま水平線を眺めるフィーナの妄言にユウが答える。確かに暇だ。海底ではこれから大規模な引き揚げ作業が始まろうというのに、海上は至って穏やかなものである。周囲には大小合わせて10隻の船が。その中央でふと、巨大な水飛沫が上がる。
「おまたせぇ。さあ、楽しいサルベージタイムよぉ」
「……引き上げ後の係留地選定は、終わってるから……」
 突如浮上した巨大な潜水艦からアララギとメンカルの声が響き、合わせてぶくぶくと波間が泡立った。
「な、何が始まるっていうんです……?」
「第三次世界大戦よ」
 むしろエンパイアウォーがそれかしら。三つ目だし。ぼんやりとする頭を振って、フィーナがすっくと立ちあがる。
「それじゃ仕事しましょうか」
 お姉さん的には、年下ばかりに仕事をさせる訳にはいかないものね。

「GEAR:HOOK SHOT。目標を確認、フック弾発射」
 小型の部品は凡そ回収され、中規模の部材も潜航艇が浮上させる。後は大規模な……ほぼ船体そのものである、巨大な鉄塊をクネウスが引き揚げ始めた。アームドフォートから射出されたワイヤーショットが、先端のフックを船体に喰いつかせ、クネウスの大出力スラスターが爆音を響かせてゆったりと浮上する。
「ダメージを考えると余り速度を上げるのは、難しいですからね」
 幸い重量級のマストや各砲座は潜航艇が引き上げた。だが、ただでさえだだっ広い甲板を含む船体は、無理に引き上げれば新たにダメージが発生してしまう。
「……クネウス、ちょっと」
 じっとしてて。不意にメンカルのガジェットがゆったりとクネウスの前に降りる。
「……成程、改造でなければ確かに問題はありません」
 ガジェットが中継して放つのはユウの超常――復元のユーベルコードが軋む船体を元の姿へ徐々に戻していく。『アバドン』で歪めた空間が距離を飛び越えて、その力を発揮させたのだ。ガジェットのカメラで視認さえすれば、作業は出来る。
「……ただ、余りやり過ぎると」
 不意に船体に鬼火のような光が――あれはまさか。
「……村上水軍の怨霊」
 魔術回路が復元されれば、オブリビオンが僅かに戻るかもしれない。でも大丈夫とメンカルが――続いて巨大な黒い影が現れる。そう、マグロだ。
「喰らい尽せッ!」
 船上で吼えるフィーナの声が聞こえる。見れば船に纏わりついた村上水軍の怨霊を巨大な邪神マグロが蹂躙――村上水軍は跡形も無くなった。
『この海はホンマグロの』
「ありがとう、これで一気に上がれそうです」
 何かマグロが言ってる気がしたが、クネウスは急ぎ鉄甲船の引き上げ作業に戻る。時間を掛けられる状態ではない。光のビーコンより水深は200m、大分上昇する事が出来た。
「幸い、修復しながら上げてもらっていますからね」
 水圧の変化で力のバランスが急激に崩れる事も無い。怨霊はマグロが喰らう。最早完璧なサルベージ作業であったが、悲劇は残り水深100mの所で起こる。

「……ここでガス欠ですか」
 補助装備の海水分解型イオンスラスターもクーリングタイム、あと僅かの所で鉄甲船はその動きを止めた。むしろ重みで徐々に下降すら始めている。
「いけない!」
 不意にマグロが鉄甲船の船底に潜り込み、その鼻先で超重量を押し上げる。
「何してるんですか!?」
「クネウスが危ないわ。マグロで鉄甲船を押すのよ!」
「だったら私は潜航艇で水中給油ねぇ」
「精霊さん、少しだけお船を浮かせて!」
「クネウスさん、爆装はしていませんよね……?」
「……ガジェット展開、進路確保」
 各々がクネウスを、鉄甲船を再び大海原へ戻さんと出来る限りの力を振り絞る。
 マグロと精霊が鉄甲船を押し上げ、潜航艇がクネウスを給油する。
 ビーコンだった光が鉄甲船に取り付き、推進力に転化する。
 ガジェットが海流を遮って、浮上への近道を作る。
「これならば――」
 燃料を満載したクネウスが加速――ピンと張ったワイヤーが海中に震動音を振り撒いて、そして遂に海底に沈んでいた鉄の棺桶は、その姿を陽光の下に曝したのだった。人の思いが束になって、鉄甲船は再び大海原へ漕ぎ出す第一歩を進み始める。

「それ、おーえすおーえす」
 船頭の小舟でぐったりと白旗を振るフィーナのリズムに合わせて、マグロがロープで鉄甲船を曳航する。あの後排水ポンプで船内に溜まった海水を押し出して、再び浮かんだ鉄甲船に猟兵達は乗り込み、直せる部分を直しながら係留地へと向かう事になったのだ。
 大体の構造はユウの復元術で大まかに繋げて、機械的構造部分はアララギとクネウスが、呪術的構造部の封印をメンカルが。それらをひかるが一生懸命応援していた。
「はー、それにしてもでっかいわね」
 あのマグロ。そして鉄甲船。これが元に戻った時、果たして何が起こるのだろう。
「まあ冒険だったら楽しいかもね」
 海上作業は、もういいわ。日陰も少ないし。
「そろそろいいかしらねぇ」
 ふとアララギが声を上げる。超常で呼び出した船員たちの作業ぶりを確認し、修復の為に備え付けた装備の数々を元に戻したのだ。
「ええ、これ以上直しては恐らくは……」
 怒られます。クネウスが微笑して作業進捗を伝えた。
「うん、精霊さん達も祝福してるよっ」
 これはもう呪われし船などでは無いと、ひかるが高らかに宣言する。
「……多分、呪詛は消滅してるわ」
 陽の光か、あるいは精霊か。兎も角、懸念事項は無くなったとメンカルが続ける。
「引き上げられたこの子が、これから先皆に愛されます様に――」
 そして祈りを添えて、ユウが締めた。
 願わくば二度と、争い事に巻き込まれません様にと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月27日


挿絵イラスト