エンパイアウォー㉙~燃ゆる徒花
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ああ、憎い、難い悪いにくいニクイ──。
全部全部憎かった、だから燃やしたのだ。
生きているものが憎いのだ。
今も、憎い、胎のこの子を、愛しいこの子を、神のこの子を産むのを阻むこいつらが。
でも、この子を産むのだ、絶対に。
だから、逃げねば。
●
「えー……お手伝い、願えますでしょかー」
寧宮・澪(澪標・f04690)が、猟兵達へと声をかける。
「魔軍将・陰陽師『安倍晴明』が、ですねー……新たなオブリビオンフォーミュラとなるべき『偽神』を降臨させる邪法を、研究していた事が……判明しましたー」
これは『有力なオブリビオンの胎内に、自身も含む魔軍将の力やコルテスが持ち込んだ神の力を宿らせ、その胎内で神を育て出産させる』というものである。
『偽神降臨の邪法』は、人為的にオブリビオンフォーミュラを産みだそうという、恐るべき実験だ。
転生には10月10日の日数が掛かる為、戦争の帰趨に大きな影響は与えない。
けれど戦後のサムライエンパイアの危機に繋がる可能性がある。
この邪法を施されたオブリビオンが、奥羽にあった研究施設から逃亡しているのだ。
「皆さんには、そのうちの一体の、対処を、お願いしますー……」
今回、見つけたのは徒花太夫と名乗るオブリビオン。
強い生者への憎しみを持ち、炎や亡霊を使って戦うのだが。
「今は、胎内に宿った子をー……何より、大事で、産み落とすのを第一に考えています」
奥羽の山中、今は使われていない小屋に身を潜めて、子を産むことへ備えている。
子が大事故に猟兵達が迫れば戦いはするが、隙があれば逃げようとするだろう。
わざと見逃さなければ逃げられないだろうが、何か逃走を阻む工夫をしてもいい。
「産まれいずる、偽神は、世界を壊すものです……どんなにかわいそうでも、倒さねばなりません。よろしく、お願いします」
澪は普段よりは凛とした声で頭を下げる。
それから、奥羽の山の中、徒花太夫のいる付近へと道を紡いだ。
霧野
徒花は、実を結ばない花です。
よろしくお願いします。霧野です。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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●シナリオについて
一章:偽神を胎内に宿した徒花太夫を倒してください。
ボス戦です。
●複数人で参加される方へ
どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」を。
グループ参加を希望の場合は【グループ名】をご記入いただけると、助かります。
●アドリブ・絡みの有無について
勝手に連携していただいたり、アドリブを加えさせていただくことがあります。
以下の記号はプレイングの文字数削減としてプレイングの頭にご利用下さい。
◎ アドリブ歓迎・絡み歓迎。
△ アドリブ歓迎・絡みNG。
× アドリブNG・絡みNG。
第1章 ボス戦
『徒花太夫』
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POW : 傘妖扮人魚
【烈々たる炎の雨を降らす人魚態】に変身し、武器「【傘『開花芳烈』】」の威力増強と、【炎の海を泳ぐこと】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD : 指切立心中
自身の【切り落とした指】を代償に、【馴染みの客の亡霊たち】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【各々の職業に即した武器や青白い幽鬼の炎】で戦う。
WIZ : 怨魂着金魚
自身が【怨み、辛み、妬み】を感じると、レベル×1体の【決して消えぬ怨讐の炎で創られた金魚】が召喚される。決して消えぬ怨讐の炎で創られた金魚は怨み、辛み、妬みを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:古ゐ手
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「多々良・円」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
黒鵺・瑞樹
◎
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
能力としても心情としても戦いにくい相手だな。
等しく生まれる子に罪はなく愛されるべきだと思ってる。でもあんたの子以上に『俺達』にはこの世界に愛し子達がいる。
だから死んでおくれ。
【存在感】を消し【目立たない】ようにし、【先制攻撃】からの【奇襲】【暗殺】をかける。
UCは菊花、代償は寿命。配下より本体狙い。
確殺できなくとも動きの制限狙いで【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
相手の攻撃は基本【第六感】感知の【見切り】で回避。しきれなものは黒鵺で【武器受け】で受け流し、それから【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】でこらえる。
ソフィア・エーデルシュタイン
◎
貴方の胎の子も、愛されて望まれて生まれてくるはずでしたのにね
けれど仕方ありませんわね
見過せば、救うべきと決めた世界を危機に晒しますもの
可愛らしい金魚諸共、煌矢の楔で撃ち抜いてしまいましょう
どこまでもどこまでも追い立てて、胎を穿ってしまいましょう
どうぞわたくしを怨んでくださいまし
妬んでくださいまし
でも、心配なさらないで
貴方と貴方の子の未練はきっとこのあいいろが吸い上げてくれますわ
そうして、わたくしがずっと愛して参ります
ええ、ええ、そうですとも
わたくしは望みますわ。愛しますわ。貴方の胎の子を
力強く抱きしめて差し上げましょう
例え、屍であったとて
さぁ、どうぞ
安心して骸の海に還ってくださいまし
鈴木・志乃
◎
人格名『昨夜』が参戦
なんてことを
なんて、ことを……
この禍根は残しておけぬ
何があろうと絶えねばならぬ
今はただ、目の前の全てが虚しい
オーラ防御常時発動
全ての行動に祈り、破魔、呪詛耐性を付与
第六感で動きを見切り、光の鎖で足払いなぎ払いの転倒を狙う
そのまま念動力ロープワークと光の鎖を併用し早業で縛り上げる
敵UC及び逃走対策には自UC発動
貴女の悲しみが消えずとも
私は祈る! ずっとだ!!
攻撃は光の鎖で武器受けからのカウンターなぎ払い
これ以上の怨嗟を私と志乃は望まない
貴女を救えないことがただただ悔しい!!
私を憎め徒花太夫!!
呪うなら私を、呪え!!
可能なら抱き締めたい
グラナト・ラガルティハ
◎
どこまでも業の深い行いだな…。
オブリビオンが既にそう言う生き物だと言うのに更に罪悪を産めと言うのか。
本来なら生まれてくる子に罪は無いはずなのだが…それすらも否定せざるえないとは。
親と共に逝かせてやるのがせめてもの手向けだろうか…。
怨むなら怨め。なんならその身にいる子の分まで俺を怨め。
好きなだけ怨んだっていい。それを全て受け止めよう。
【高速詠唱】でUC【業火の槍】を発動。【属性攻撃】炎で威力を強化更に【破魔】を乗せ使用
【戦闘知識】で戦場確認。一部の槍で退路を塞ぐ様に穿ちそれ以外は戦闘に使用。
【呪詛耐性】【火炎耐性】で炎の金魚を受け止め油断を誘い残りの槍で金魚および徒花太夫を攻撃。
ロク・ザイオン
◎
過去の骸が。
仔を、孕むのか。
(仔を成すのは、尊い。
それはいのちが巡り未来へ繋がる証左であり
なによりも。
ととさまと契り偉大な森に肉あるいのちを放つ、いとしいあねごの御業でもあった)
(己には決して、与えられなかった御役目)
…ああァアアア!!!
(錆びついた悍ましい声音で咆哮、【恐怖を与え】竦ませる。
【ダッシュ】で肉薄、烙印刀と剣鉈による【早業、二回攻撃】でその首を狙う。
怨みも辛さも妬みも、感じる暇は与えたくない。
それでも金魚が現れるなら、「轟赫」45本を操って金魚を相手取る)
ちがう。
お前ははじめから病(オブリビオン)だ。
病が病を増やすだけだ。
尊き御業であるはずがない。
…せめて灰に。
森の糧になれ。
吉備・狐珀
猟兵になる以上、この様な依頼もあると思っていましたが…。
オブリビオンとはいえ母親からすれば子を奪うのは良い気分はしませんね。
UC【蒼蓮蛍雪】使用。
【属性攻撃】で氷結を強化した狐火を【一斉発射】します。
攻撃だけでなく、逃げられない様に足場を凍らせる。
私の狐火を消せるのは私だけ。
貴女の炎では消せません。
動きを封じたら、人形の炎を飛ばして追撃します。
赤子に罪はなくとも、この世界の脅威になるのなら私は鬼になる。
貴女がお腹の子を守ると覚悟を決めたように、私もどんな戦いになろうとも目をそらさないと覚悟を決めて猟兵なったのだから。
アルバ・アルフライラ
◎
やれ、彼の陰陽師は碌な事をせんな
…っは、怨むならば好きにするが良い
骸の海より出づ災厄の芽は摘まねばならぬ
魔法陣より召喚するは【愚者の灯火】
無論、逃す心算は毛頭ないでな
延焼せぬよう気を配りつつ
操る炎の幾つかで小屋を包囲
残りを重ねる事で火力を上げ、太夫に贈ろう
彼奴が放つ怨嗟の炎はオーラの守りで、そして火炎耐性で威力を削ぐ
宝石の身が焼ける痛みも激痛耐性で耐え忍ぶ
決して消えぬと云うならば甘んじて受けよう
ふふん、斯様な炎
私の抱く熱情と比ぶれば温いにも程がある
高速詠唱により炎を幾重にも重ねては骨の髄まで燃やし尽くしてくれる
…ああ、後顧の憂いを断つ為にも
彼奴は胎の子ごと全て燃やさねばならぬ
*敵以外には敬語
●
山小屋で徒花太夫は身を潜めている。
麓にいる人間も、この奥羽にいる人間も、この国にいる人間もすべてが憎い。
けれども今は、今はこの胎の子を無事生み出さねばならぬ。
憎しみと愛しさを抱えながら、未だ膨らまなぬ胎を撫で。
目を和らげて、産まれる子を思う。
その顔は母の顔であった。
ああけれど、この世にその子を産み落としてはならぬ。
新たな災厄を呼ぶその子は、骸の海へ帰さねばならぬ。
この世界を、他の世界を、守るために。
故に猟兵は母になれぬ骸と産まれぬ子を狩りにくる。
●
グリモア猟兵の転移によって、奥羽の山の中、小屋側へと降り立つ猟兵達。
(戦いにくい相手だな)
右に胡、左手に黒鵺を引き抜いて、黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)は此度の相手を思う。
火を恨みを操る力も、行う行為に対する瑞樹の心的にも、大層戦いにくい。
先を見通すかのような目は、ほんの数歩離れた小屋を見やる。
あそこに件のオブリビオンがいるというのか。
「猟兵になる以上、この様な依頼もあると思っていましたが……」
吉備・狐珀(ヤドリガミの人形遣い・f17210)の心も重い。
かくも陰鬱な心を写してか、空模様も重く暗く、今にも雨が振り出さんばかり。
「オブリビオンとはいえ、母親からすれば子を奪うのは良い気分はしませんね」
そう、これから己らが行うのは子を奪い、母を殺す所業である。
「どこまでも業の深い行いだな……」
グラナト・ラガルティハ(火炎纏う蠍の神・f16720)の眉根は強く寄せられる。
「オブリビオンが既にそう言う生き物だと言うのに更に罪悪を産めと言うのか」
いるだけで世界を破壊するオブリビオン。そこからさらなる破壊を生み出す子を生めと、晴明は企んだ。
「本来なら生まれてくる子に罪は無いはずなのだが……それすらも否定せざるえないとは」
遍く愛されるべき子に、生まれる前から罪を持たせその生を否定し、殺す。
ひどく業の深い行いだ。
晴明の所業も、ひいては己らが為すべき行いも。
「彼女の胎の子も、彼女に愛されて望まれて生まれてくるはずでしたのにね」
ソフィア・エーデルシュタイン(煌珠・f14358)は目を伏せ、子を思う。
おそらく母となる徒花太夫は子を慈しんだだろう。愛しただろう。かつてソフィアが愛されて生まれてきたように。
(けれど仕方ありませんわね)
だから、と見過せばこの世界が大きな危機に晒される。
(救うべきと決めた世界を危機に晒しますもの)
仕方がないのだ、故にソフィアはここにきたのだから。生まれてはいけない子を見過ごせぬ。
(なんてことを)
鈴木・志乃(ブラック・f12101)は、いや『昨夜』は、脳裏で繰り返し呟き続けている。
(なんて、ことを……)
これは見逃すことを許されざる禍根である、と。
(この禍根は残しておけぬ。何があろうと絶えねばならぬ)
たとえそれが、まだ生まれぬ子供でも。
たとえそれが、子を愛した母であろうとも。
殺さねばならぬ。
今はただ、彼女にとって目の前の全てが虚しく写っていた。
「やれ、彼の陰陽師は碌な事をせんな」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は晴明を詰る。
空いた心を埋めんがために、骸で山陰を埋め立てよう、オブリビオンへ厄災を植え付け愛し子と誤認させ産ませよう。
何とも碌なことをしない屍人であった。
「過去の骸が。仔を、孕むのか」
刃が毀れたようなざらつく声で、ロク・ザイオン(明滅する・f01377)は絞り出すように呟く。
握りしめた指が軋む音を聞いた気がした。
(仔を成すのは、尊い)
厳しくも尊く、美しい、その事象を。
すでに死したる病(オブリビオン)が行うという。
(それはいのちが巡り未来へ繋がる証左であり、なによりも。ととさまと契り偉大な森に肉あるいのちを放つ、いとしいあねごの御業でもあった)
目の前が真っ暗に、いや真っ赤に染まる心地だ。
(己には決して、与えられなかった御役目)
それを、それを──穢す、なんて。
「……ぁ、ああ」
森の娘のざらついた声が、唇から漏れた。
●
猟兵は小屋を取り囲む。
目で、仕草で、互いに連携を取りながら。
中に潜む母を、オブリビオンを逃さぬように。
アルバが赤に染めた爪をつい、と空に滑らせれば、なぞるように魔法陣が描かれる。
ほの光るそこから、ぽう、ぽう、と五十に届くほどの魔法の炎が浮かび上がる。
「……っは、怨むならば好きにするが良い」
骸の海より出づ災厄の芽は摘まねばならぬ、故に行われる非道を怨むなら、好きにすればいいと。
自嘲しながら滑らせた指で──灯火を小屋へと向かわせ取り巻いた。
(無論、逃す心算は毛頭ないでな)
中のものを逃さぬよう、包囲を。
同時にグラナトが扉を開く。
中にいたのは小さくか弱い女の形のオブリビオン。
大事そうに胎を抱え、庇うように手で覆い、猟兵達へ憎しみの目を向ける。
「おのれ、おのれ……! この子を奪いに来たか!」
全てをなくしてただよう己に与えられた愛し子を奪うかと怨み、幾匹も金魚の炎が生み出された。決して消えないその炎は猟兵達へと泳ぎよる。
けれど金魚が猟兵に触れる前に、氷を帯びた青玉髄の矢が貫き散らす。
ソフィアが作り出した百を優に超える矢が、焔の金魚を穿ち消し去っていく。
「ああ、アタシの金魚が……!」
嘆く太夫の胎に目掛けて氷の青玉髄が幾つも迫る。金魚で払っても払ってもしつこいほどに。
「しつこい……! 斯様にこの子が憎いか!」
「いいえ、いいえ。どうぞわたくしを怨んでくださいまし。妬んでくださいまし」
美しい水晶の娘は慈しみあふれる笑みを浮かべて執拗に胎を狙う。
「でも、心配なさらないで。貴方と貴方の子の未練はきっとこのあいいろが吸い上げてくれますわ」
愛してほしいと叫ぶ深い藍の石を握りながら、狂気の笑みを浮かべ狙う。
「そうして、わたくしがずっと愛して参ります。ええ、ええ、そうですとも。わたくしは望みますわ。愛しますわ。貴方の胎の子を。力強く抱きしめて差し上げましょう」
ひときわ艶やかに微笑んで、ソフィアは言う。
「例え、屍であったとて。さぁ、どうぞ、安心して骸の海に還ってくださいまし」
愛してあげますから、死んだ骸であってもと。全て愛おしいのだから。
「ひっ……!!」
気圧された徒花太夫は短刀を構え、振り下ろす。子を守るためなら、指なぞいらぬ、と。
触れる瞬間、朱金が短刀を弾き、九つの剣が腕を切り取った。
「ああぁああぁぁ!!」
青い炎を目に宿したロクが唇を引き結びながら短刀を遠くへ蹴り飛ばしておく。
荒れ狂う獣を今は押さえ込んで、閃煌で浅く早く斬りつけて翻弄する。
そうして生まれた隙にこれまで気配を殺し、静かに潜んでいた瑞樹が、目を輝かせながら斬りつけた。
「等しく生まれる子に罪はなく、須く愛されるべきだと思ってる」
人も、動物も、器物も神も。
未来へ進む子らは愛されるものだから。
「でもあんたの子が生まれれば、世界が終わってしまう。『俺達』にはこの世界にあんたの子以上に愛し子達がいる。だから死んでおくれ」
彼にも、彼の師やかつての主人、仲間達。その皆の愛し子がいるのだから。
瑞樹は己を削りながら太夫に九の剣を振るい斬りつけて、金魚も体も削いでいく。
その傷は痺れをもたらし、何度も同じ場所を斬りつけられ抉らて、太夫の力を削いでいった。
「ああ、あぁあああ」
嫌だ妬ましい死にたくない、この子を生むのだ。
その思いで徒花太夫は小屋の入り口へと駆け出した。胎の子さえ無事なら、腕や肉など惜しくない。
血を流して進む太夫の目前、全てを燃やし尽くすような炎の槍が突き刺さった。
怯む太夫の足元を光の鎖がなぎ払い、その身を縛り上げ、同時に倒れた地面と太夫の足を、氷の狐火が覆っていく。
決してこの場から逃さぬように、と。
「怨むなら怨め。なんならその身にいる子の分まで俺を怨め」
己の力を十二分に乗せて強めた火炎の槍を浮かべたグラナトが、厳かな表情で告げる。
(親と共に逝かせてやるのがせめてもの手向けだろうか……)
生まれぬ子を思いながら、許すことなく彼は告げる。
「好きなだけ怨んだっていい。それを全て受け止めよう」
その怨みを受けるのも、業を背負うのも、神たるこの身が受け止めよう。
堂々たる姿で、哀れな母を炎の槍で焦がしてゆく。
「貴女の悲しみが消えずとも私は祈る! ずっとだ!!」
光の鎖で抱きしめるように締め付け、太夫の動きをとどめながら、昨夜が叫ぶ。
その声はどこか泣いているようで、悲しい響きを含んでいた。
「これ以上の怨嗟を私と志乃は望まない。貴女を救えないことがただただ悔しい!! 私を憎め徒花太夫!! 呪うなら私を、呪え!!」
その憎しみも呪いも受け止めよう。
聖者としての使命感だけでなく、彼女の心からの願いである。
だから、少しでも安らかに、どうか、と。
涙をこぼさぬとも、泣き出しそうな顔で昨夜は、志乃は叫んでいた。
「私の狐火を消せるのは私だけ。貴女の炎では消せません」
足元を凍らせた狐珀が狐面の人形を操り炎を浮かべて追撃する。
「赤子に罪はなくとも、この世界の脅威になるのなら私は鬼になる」
目をそらさず、己の行いを見据え、狐珀は炎で徒花太夫を焼いてゆく。
「貴女がお腹の子を守ると覚悟を決めたように、私もどんな戦いになろうとも目をそらさないと覚悟を決めて猟兵になったのだから」
決して、目をそらすことなく。
悲しみを抱いた鬼の狐は、人形の兄と共に、太夫を焼いてゆく。
「……あ、あああああ!!」
太夫は血を吐くような叫びをあげて、金魚を再び放った。こいつらが怨めしい、辛い、憎い、その念を帯びた金魚が、小屋の中を飛び交う。
オーラで防御し、受け流し、受け止め、見切り、撃ち落とす猟兵達の目の前で、徒花太夫は足を炎に変え、鎖を千切り、炎の槍で焼かれながらも泳ぎ逃げようとする。
この子を生まねばならぬ、と。
「ふふん、斯様な炎、私の抱く熱情と比ぶれば温いにも程がある」
けれどそれは許されない。
炎の金魚を敢えて受け、耐えたアルバの幾重にも重ねた炎が、炎の尾を、腕を燃やし尽くす。
(……ああ、後顧の憂いを断つ為にも、彼奴は胎の子ごと全て燃やさねばならぬ)
骨の髄まで、残さぬように。
「……ああァアアア!!!」
流れ星の尾のように髪から伸ばした炎で金魚を捌き、ロクが吠える。
燃えながら竦んだ太夫へ肉薄し、その首を烙印刀と閃煌で一瞬にして断ち切った。
これ以上の怨みも辛さも妬みも、感じる暇は与えたくないから。
「ちがう。お前ははじめから病だ。病が病を増やすだけだ。尊き御業であるはずがない」
(いとしいあねごの御業とは、違うのだ)
自分が任されなかったお役目とは、これは違うのだ、と。
「……せめて灰に。森の糧になれ」
ひび割れ、ざらざらとした刃毀れの声は、どこか哀しげに響いたのだった。
こうして、偽神は生まれいでることなく、脅威は燃やし尽くされた。
猟兵達は此度抱いた思いを抱えながら、次の戦いへと赴くのだろう。
成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月21日
宿敵
『徒花太夫』
を撃破!
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