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エンパイアウォー㉚～蒼色を穢す杯～

作者：遊津

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●酒杯より来る御使い
　瀬戸海に面した地、水の流れ込む洞窟の奥にその祠はあった。
　豊漁と航海の安全を願う信心深い人々たちによって永らく整えられてきたその場所は、しかし今その面影もない。
　蒼く美しかった水は血の赤に濁り、磨かれた祭壇の台座には本来あるべきものではなく、禍々しく光る酒杯が設えられている。
　その周囲では羽ばたきの音が重なり合い、さざめくような笑い声が十重二十重に響いていた――。

●増援妨害作戦始動
「山陽道で行われとった熱波招来の儀式は完全に制圧したで！ひとまずそこは俺らの勝利や！」
　シャオロン・リー（Reckless Ride Riot・f16759）はそう言い、それによって更に得られた新しい情報を話し出す。
「コルテスは「骸の海から渡来人を呼び寄せる」財宝を自前で幾つか持っとったみたいでな、どうやらアイツが以前に侵略した文明からぶん奪ってきたもんらしいわ」
　魔軍将『侵略渡来人・コルテス』。彼はエンパイアに現れるより前にも南米に似た文明を侵略し、その地の民を皆殺し、宝と神とを奪ったコンキスタドールであると自ら口にしているようだ。
　その地からか、あるいはそれよりも以前に侵略した文明からによるものか、それらはまさに「血塗れの財宝」と呼ぶに相応しい。
「財宝は山陽地方にあるあっちゃこっちゃのパワースポットに置かれとって、一定時間ごとに新しい渡来人を自動的に呼び出す仕掛けんなっとんねん。儀式といい、コルテス自身はなんもせんあたりがホンマやらしいわ。――悪事は自分の手ぇ汚してナンボやんなぁ？」
　なんともつまらない、とばかりにため息をついてみせるシャオロン。
　呼び出された渡来人は、２０体ほどが召喚されるとその半分が島原の魔空安土城へと移動を始めてそのまま信長軍の戦力となっているらしい。
「『血塗れの財宝』は海に面した洞窟の中にある祠に置かれとって、周囲には常に１０体から２０体程度の渡来人が留まっとる。仕掛けるタイミング次第で戦況は変わるやろうな。……財宝を壊してまえば、信長軍の戦力を殺ぐことが可能や。このチャンスを見逃す手はないで、畳み掛けたろうや！」
　そうしてシャオロンは最後に「頼んだで」と一言残す。
　八卦のグリモアが光り、猟兵たちの前にゲートが開かれた――。

第1章 集団戦 『万能従者型・渡来の天使』

POW   :    天使の一撃 単純で重い【天使の斧】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    くるくる回る天使の輪 自身が装備する【天使の車輪】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。 WIZ   :    兄弟の危機を見過ごせない！ 自身が戦闘で瀕死になると【新たな別の渡来の天使】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

●GET DOWN TO THE BATTLE
　血に濁った、元は澄んでいたであろう海水が、岩陰に潜む政木・朱鞠（狐龍の姫忍・f00521）の足元でちゃぷりと音を立てた。
敵の数、十四。手に負える人数かどうかを見定めながら、朱鞠は増殖を続ける渡来の天使たちの様子を伺い続ける。
祭壇の酒杯が輝き、その場に新たな渡来の天使が現れる――敵の数、十五。
（――今！）
　朱鞠は天使たちの前に身を躍らせた。祠の中が一瞬しんと静まり返る。その静寂の中に、じゃらりと拷問具『荊野鎖』の鳴る音が響いた。
（雇い主のコルテスと同じで自分が犯した罪を数える気はなさそうだし……無粋な質問はすっ飛ばして、仕掛けさせてもらうよ）
「財宝の効果で召喚されてる貴方達には申し訳ないけど、任務の途中で骸の海にお帰りして貰うんだからね」
　天使の輪と呼ぶにはあまりにも凶悪な車輪が幾つにも分裂し、唸りを上げて高速回転しながら彼女に迫る。
己が身の内に妖を、悪鬼を、幽鬼を宿し、血を流しながらも朱鞠は荊野鎖を振るった。ギャリギャリギャリギャリ、車輪と鎖がぶつかり合う耳障りな音が反響する。
滴る血と痛みに耐えながら、彼女は自身に襲い来る車輪を躱し、時には耐える。受け止めた手のひらをスパイクが抉るが、血を代償に強化された彼女の肉体はその程度では揺るがない。
やがて拷問具は最後まで抵抗していた車輪に競り勝ち、天使の体を捕らえて絞め上げる。
『……！！』
　零れかけたのは悲鳴か、その吐息さえも喉に巻きついた鎖が締め付けて押さえ込む。ぎちぎちと絡みつき、名前の通り茨のごとき棘が裂けた皮膚を更に苛む。絶叫さえ許さない責め苦に絡みつかれた天使はやがて血の泡を吹いて地に落ち、そして光の粒となって弾けて消えた。
「先ずは、一体……！」
　血の色混じりの息を吐き、朱鞠は再び荊野鎖を構えなおした。

成功 🔵​🔵​🔴​

●JUST BEFORE THE LIMIT
（敵の攻撃は、あの大きな車輪か。隙間が開いてるな……）
「行けるでしょうか」
　鈴木・志乃（ブラック・f12101）、否、白い髪と夕焼の瞳を持つ「昨夜」は渡来の天使たちが武器とする車輪を見て、ユーベルコード【Ms.Yesterday】を発動させる。
光の鎖が昨夜の念じるままにうねり、彼女に向かって襲い掛かろうとする幾つもの車輪のスポークの狭間に次々と潜り込んでいく。
やがてそれらが全て繋がりあい、回転するスパイクは昨夜の眼前でぎちぎちと軋みながら一つに縛り上げられた。
「はい、バラバラ操作終了」
　渡来――骸の海より呼び寄せられたばかりの天使がそれならばと斧を振りかぶる。振り下ろされる一撃は、急激に浮かび上がった岩によって防がれた。
「悪いけど私、一切容赦はしないから」
　気づけば岩だけでなく、瓦礫、海水までもが空中に浮かび上がり、そして昨夜の意志によって一斉に天使へと向かっていく。洞窟の祠の中に嵐が吹き荒れた。
屈辱に顔を歪ませた天使が滅茶苦茶に斧を振り回す、そのすべては研ぎ澄まされた第六感によって躱され、或いは光の鎖でもって防がれ、或いは昨夜の身に纏ったオーラによって妨げられる。
今は昨夜が動かしてはいるものの、この体は鈴木志乃のもの。大親友の昨夜にとっては、かすり傷の一つでもつけられることは許しがたいものだ。
　暴風雨のように吹き荒れる岩と瓦礫の中、頭に血が上った天使は気づかなかった。自らの息の根を止める一撃がそこに潜んでいることに。
『……っ、ぐ……！』
　斧を取り落とし、胸を押さえて崩れ落ちた渡来の天使。呪いの侵食がその胸を中心に広がり全身を覆いつくしていく。
それにより息絶えるより先に、再び昨夜が放った呪殺弾が今度こそ天使の息の根を止めた。

「志乃が望むから戦ってはいるものの、もう８０戦越え……」
　戦場に身を投じてきた回数を思い返し、昨夜は息をつきながら眉をひそめる。
「いい加減休ませないと、この体はもたないだろうな……」
　彼女の肉体に蓄積された疲労が、戦争の苛烈さを物語っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

●WOLF & SAMURAI“百花繚乱”
「友達が増え続けるお宝だなんて！なんてすばらしいんだろうね！」
「ですが、召喚されるのは渡来人。早急に手を打たなくてはなりませんよ」
　はしゃぐジョン・フラワー（まごころ・f19496）を、月舘・夜彦（宵待ノ簪・f01521）は静かに窘める。
夜彦の合図と共にジョンは飛び出した。
「やぁ天使君！素敵な武器を持っているね！」
　ひと飛びで渡来の天使に近づいたジョンは興味津々の瞳で彼らの持つ斧の石突から伸びる鎖を掴む。
「この鎖はひっぱってもいいやつかい！？」
　突然に迫られた天使が警戒する間もなく、ジョンの手は鎖を勢いよく引き寄せ、力任せに振り回した。
勢いに引っ張られ、天使は武器から手を離すことも出来ずに洞窟の壁に叩きつけられる。
夜彦もまた一息のうちに天使たちの中に飛び込むと、瞬きも間に合わぬ速さで刀を抜く。そのまま繰り出された斬撃はまさに一陣の風が如く。
くるりと身を翻したときには、幾体もの天使が腕を、脚を、首を刎ね飛ばされ、或いは袈裟懸けに、或いは胸元からざっくりと斬り裂かれて斃れていた。
天使たちの飛ばす車輪をジョンは木槌で、夜彦は刀でいなし、弾き、叩き落し、突いて落とす。
「さあ、もっと、もっと楽しくしよう！」
　天使の車輪を受け止め掴んだまま、ジョンは踊るようにくるくる、くるくると回り、そのまま手を離せば車輪は回転による遠心力で速度を増して天使の胴を、或いは頭をしたたかに打ちのめす。
『……こ、のぉ……！』
　斧を振りかぶって夜彦の背後をついて襲いかかろうとする天使、しかしその直前で天使の目の前から彼の姿が消える。
何故、と思う間もなく。その天使は後ろから胸を貫かれていた。ずるりと夜彦が手にした刀が引き抜かれ、天使は翼の間から血を飛沫かせ、口から紅の塊を吐き出してざぱりと水の中に落ちた。
彼らがそうしたものとは異なり、光の粒となって消える天使たちは血も亡骸も洞窟を汚すことはない。
　天使の車輪を木槌で受け止め、弾き返したジョンの死角から振り下ろされた斧。それはジョンに届く前に夜彦の刃に止められ、鋼同士がぶつかり合ってギィンと音を立てる。
「頼みましたよ、狼殿」
「おっと簪のアリス、すまないね！」
　僅かに生まれた隙、それが見逃される筈も無く。
「斧よりも木槌がつよいってこと、思い知らせてあげるんだから！」
　天使はジョンの強烈なスイングを食らって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると同時に光となって骸の海へと還った。
　
　やがて気づけば、天使の数は最初の半分以上が消えていて――ジョンは口笛を吹きながら木槌を担ぎなおし、夜彦は再び刀を握りなおすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●THE ECCENTRIC“S”SHOW
「この大豪傑麗刃は……いわゆる変態のレッテルを貼られている……思い当たるフシはないではない」
　大豪傑・麗刃（変態武人・f01156）は刀を抜いて前に出た。
「だが、曲がりなりにもサムライエンパイアの出身。今回ばかりは……」
　――ネタ一切抜きの、シリアスでいくのだ。
そんなことが可能なのか。麗刃について何も知らないはずの渡来の天使たちは、しかし何故か一様に同じ感想を抱いたという。
（多数相手に無策で突っ込むのは愚作、策を考えないといけないのだ）
　思考する、その間0.000439秒。結論は出た。
「全員斬ればいいのだ」
　それっぽいかけ声でそれっぽい気合がみなぎる。麗刃の髪が逆立ち、全身が金色に光る！どこかで見たようなユーベルコード、その名も【スーパー変態人】！！
右手にサムライブレイド二振り、左手に脇差にしては大きすぎるバスタードソードとヒーローソードの二振りを指に挟み込み、器用すぎる四刀流いやもうこれ逆に凄いんじゃなかろうか、麗刃は天使の群れの中へと思い切り突っ込んでいった。
それに対してようやく渡来の天使たちも麗刃に向かって動き出す、これはもしや口上が終わるまでご丁寧に攻撃しないでくれる怪人という主人公補正の構図なのか。
そう、ネタを捨てた麗刃は今こそどこに出しても恥ずかしくない英雄大剣豪として生まれ変わったのでは――！？

「……いやいや、これだけ堂々と出てきた的に攻撃させないように立ち回るのも楽じゃないんだがね」
　身を潜め、妨害に徹していた弦切・リョーコ（世界演算機・f03781）は肩をすくめて言った。
麗刃の大振りの一撃を避けた天使は、仕掛けようとした車輪をリョーコの援護射撃によって撃ち落とされ、返す刀によってその身を斬り裂かれる。
振り下ろした斧は奇妙な動きで避けられ、その背後からタイミングを計ったようにリョーコのアクセラレイターからの光が射出され、背後の仲間ともどもに貫かれる。
支援妨害に徹するリョーコの動きは麗刃の動きと奇しくも噛み合い、天使たちは次々と打ち倒されていった。
やがて追い詰められた天使は歯噛みする。
『くそっ……クソ、クソクソクソッ……！なんてデタラメな奴らだ……！』
『財宝からの召喚なんて待っていられないよ！助けておくれよ兄弟たち――』
　血濡れの財宝に頼らず、自力で仲間を召喚しようとする渡来の天使。それに対し、リョーコは口角を上げて、ひどくひどく悪そうな笑みを見せた。
「残念だがね――観測はもう完了してるんだ」
　その場に召喚されようとした新たな天使が、しかし苦悶の声を上げながら光の粒へと強制的に変換されていく。
満身創痍の天使たちの表情が、驚愕と悲嘆に染まる。

　僅かに時は戻って、戦いが始まるより前。
リョーコは増え続ける渡来の天使たちを、じっと観察し続けていた。
（放っておいても戦力が増える……効率的で全く結構だが、ちと無防備だね）
　しかし、面白そうな装置ではある、後学のために見せてもらおう……と。
天使が召喚されるのを、戦いの火蓋が落とされるまでは静かに見続け、学習していたのだ。

「召喚の仕組みは解明し切れなかったが、逆回しで送り還せるくらいには解析させて貰った。アンタらに、助けは来ないよ」
　それは冷たく、一方的で、あまりにも絶望的な宣告。
最後の切り札を奪われた天使たちは、そして麗刃の斬撃によって両断された――


　洞窟に静寂が戻る。羽ばたきの音はもう聞こえない。
血濡れの財宝によって召喚された渡来の天使たちは全て猟兵たちによって斃され、骸の海へと戻っていった。
祭壇に置かれていた酒杯は罅が入り、それはあっという間に全面に広がると、砕けて粉々の欠片となる。
褪せた蒼色も、いずれ穢れは洗い流され、元の美しい色を取り戻すだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月21日