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エンパイアウォー㉗～琵琶湖で、夏の終わりの水練を

作者：小鳥遊ちどり

「関ヶ原の戦いは、順調に推移しているご様子、何よりでござる」
　月殿山・鬼照（不動明王の守護有れかし・f03371）が、猟兵たちと幕府軍の戦いぶりを労った。
「ですが、エンパイアウォーの戦いの神髄はこれから、強敵と直接戦わなければならぬ場面が増えて参ります。そして、幕府軍の侍たちも、これからますます戦場で活躍してもらわねばなりませぬ」
　関ヶ原の戦いを勝利した幕府軍は、太平の世で失なわれていた侍の力と自信を取り戻しつつある。だが、彼らを鍛える余地はまだまだある。
「この戦い、思いの他、海などの水上での戦いが多いようでござるな」
　というわけで、鬼照が幕府軍の武士達を鍛える場として用意したのは……琵琶湖。
「琵琶湖で大規模な水練を行いたいと存じまする」
　琵琶湖は湖であるが、その広大さゆえに海並の波も起これば、深さもある。しかも淡水であるから、ここで水練をしておけば、浮力のかかる海では多少なりとも泳ぎやすく感じるだろう。
　甲冑等の武具を装着したまま泳ぐ訓練や、武具を素早く脱ぎ着して隠密行動を取るための訓練、長く潜水するための呼吸法の訓練や、また漁師のふりをして小舟を操る訓練など、指導すべき点は様々あるだろう。
「猟兵の皆様の技能や知識を、ぜひ幕府軍の侍たちに伝授して頂きたいのでござる」
　訓練に参加する侍は、人並みには泳げるものばかりなので、鍛え甲斐もあるだろう。
　鬼照は張り切った様子の猟兵たちに頭を下げた。
「ぜひ、強敵との決戦までに幕府軍の底上げを計るためにご指導賜りたく、よろしくお願い申し上げる」

第1章 冒険 『幕府軍の大特訓』

POW   :    腕立てや腹筋、走り込みなど、基礎体力を向上させる訓練を施します SPD   :    危険を察知する技術や、強敵からの逃走方法などを伝授します WIZ   :    戦場の状況を把握して、自分がやるべきことを見失わない知力を養います 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　ギィーコ、ギィーコ……。
　琵琶湖を沖に向かう小舟の上には、越喜来・湊偲（f01703）百合根・理嘉（f03365）、そして４人の幕府軍の侍が乗っていた。
　指導する人数を４人に絞ったのは、万が一の時に２人で確実に救助できる人数をと考えたから。理嘉曰く「保険は掛けとこうぜ？　大事な幕府の兵だしよ！」だそうである。
　舟はいわゆる猪牙船である。船首を鋭くした水切りのよい軽快な小船で、船頭1人で漕ぐことができる。猪牙舟は、江戸の町では吉原通いの舟として有名だが、渡し船や運搬船、磯漁などで最も広く使われている舟でもあるため、この操舵をマスターしておけば、役に立つ場面も多かろう。
「そろそろ次の人に舵を代わってくれ……おい、不用意に立ち上がるなよ。小舟なんて、バランスのとり方間違えると転覆すっから」
　操船を叩き込んでいるのは理嘉である。彼は操縦の技能を持っているので、大概の乗り物は操ることができる。
　船尾の舵を握る侍は、皆緊張の面持ちだ。太平の世の中、舟に乗せてもらうことはあっても、自分で漕ぐなどということには縁のない身分の者達である。
　それでも４人は、へっぴり腰ながら代わる代わる操舵して琵琶湖の真ん中までやってきた。
「ようし、よくここまで漕いできたな。湊偲、このへんでいいか？」
　理嘉が、浜はもちろん島影さえ遠い風景を見回しながら訊くと、湊偲はにんまりして頷いた。
「いいでしょう。では、次の指導を始めましょう……せえのっ！」
　ザブーーーーン！
「うわあっ！？」
「ぎゃあっ？」
　２人の猟兵はあろうことか、侍たちを２人ずつ湖に突き落とした。
　ひどい。
「大事な幕府の兵とか言っておきながら、理嘉さん、なかなか豪快に突き落としましたね」
「え？　大事な幕府の兵なんて言ってた？　オレ、そんなこと言ったっけ？　てか、湊偲だって結構ひどかったぜ？」
　侍たちには元よりそこそこ泳げる者たちが選抜されているし、浜で武具を脱がせ、小袖にたっつけ袴の軽快な服装で訓練に挑ませていたが、それでも着物が水を含み身体にまとわりついて泳ぐに泳げない。４人共が必死に舟に掴まることしかできなかった。
「猟兵殿、いきなり何をなさるっ！？」
「着衣水泳の技術をお教えします」
　冷静に言って、湊偲もざぶん、と湖に飛び込んだ。
「これなら武具を装着したままの状態でも、きっと応用できると思いますからね」
水上戦の際には、舟が揺れたり壊れたりして、水の中に放り出されてしまうようなこともあるだろう。そんな時にもきっと役立つはずだ。
「泳ぐ時は基本、服を来ていることは少ないので、水を吸った服には驚くはずです。実際驚きましたよね？　そこで慌てれば溺れる。なので心を落ち着かせて、体を浮かせる事が大事です。俺が背中を支えますのでゆっくりやってみてください」
　湊偲は海洋動物系のキマイラであり、ライフセーバーの資格も持っている。こういう指導はお手の物だ。
　一方、理嘉はというと、舟の上でのんびりと着衣水泳指導を眺めていた。天気もよいし、波に揺られてなかなか気分がよい。
「湊偲もなかなかスパルタだよな」
　まずは『背浮き』して着物の前合わせに空気を含ませ、顔を楽に水面に出す方法を練習させている。元々泳ぎが達者な者を連れてきたので、このくらいはすぐにマスターできそうだ。
　この特訓で学んだ技術を、隊の他の者にも教えてあげてほしいもんだ……などど思っていると、湊偲と目が合った。
　湊偲はニッコリして理嘉に手を振った。
「湊偲、なんか楽しそうだなー？」
　友人の楽しげな様子に、理嘉もちょっとばかり顔をほころばせ、手を振り返したのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　古雅な甲冑を身に纏った鞍馬・景正（天雷无妄・f02972）は、琵琶湖畔に集った幕府軍の侍たちを見回した。
「かつて房総の地には里見という乱世の雄がおりました。彼らの水軍との戦では北条、引いては私の父祖・鞍馬家も苦戦させられたそうで。そこから培った水戦の術を伝授しましょう」
　里見家や北条氏という名だたる戦国武将の家名を耳にして、侍たちのテンションが上がったのを景正は感じた。
「本日は、甲冑と武具を身に纏った際の泳ぎ方を学んでいただきます。では、まず私が手本を」
　景正は甲冑フル装備、しかも太刀を片手にして、躊躇うことなくサムライエンパイア最大の湖へ、ざぶざぶと入っていく。
　すい、と湖水に身を滑らせ、湖畔で景正の一挙手一投足を食い入るように見ている侍たちに向け、注意事項を述べる。
「身体を横向きに、空いた手で前を掻き、足は水を踏むように進みます」
　いわゆる横泳ぎである。顔と太刀を持った腕が水上に出ている。
　甲冑はフル装備で20キログラムほども重さがあるが、重みが全身にバランス良く分散しているし、甲冑の内部に空気が含まれるので、いきなり重さで溺れるようなことはないという。とはいえ、もちろん動きにくいので、鍛錬は必須であるが。
「注意すべきは視線を必ず敵や目標に向け、外さぬこと。視界から敵を見失えば、弓矢や火縄で狙われた時に対応が遅れ良い的になります故」
　傷だらけの黒漆塗筋兜を被った頭は、侍たちの方を見ていたが、敵船がいるかのように、沖の方へと鋭くクイっと向けられた。
「あともうひとつ、大事なことを先に教えておきましょう」
　と、景正は浜の侍たちの中からひとりを呼び寄せた。抜擢された侍は、なかなか上手に景正のところまで泳いできたが、
「申し訳ないが、溺れた演技をしてください」
　と、水面でぎこちなくじたばたさせて。
「溺れた者を救助する際には背中から抱き締めて曳いて行くように！」
　溺れ役の侍の背後に素早く回り込むと、背中に腕を回した。そのまま軽々と浜へと引いていく。
「前から助けようとすれば、しがみ付かれて諸共に沈んでしまう事がありますからな」
　景正は協力してくれた侍と共に一旦浜に上がった。ぽたぽたと鎧兜から水が垂れる。
「では、要領はわかったと思いますので、一人ずつ実際に泳いで頂きましょうか」
「御意！」
　気合いのこもった良い返事が返ってきた。侍たちは、習ったことを早速実践してみたくてうずうずしているようである。
　幕府軍の士気は高い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　シャチのキマイラであるヴィクトル・サリヴァン（星見の術士・f06661）は、ちっとばかし悩んでいた。
「水中は慣れてないと難しい。特訓とても大切――けど俺の泳法は人じゃ参考にならないしなー。尻尾大切」
　得意の泳ぎを幕府軍に伝授したい気持ちは山々だが、なにせ彼はシャチ。シャチの泳ぎを人間に教えるわけにもいかない。尻尾がないからね。
　彼はしばし悩んだ後に。
「……うん、やっぱり特訓法だけでも教えにいこう！」
　と、水着姿で立ち上がった。

「海ばかりと思ってたら痛い目見るよ」
　訓練地琵琶湖へと到着したヴィクトルは、早速ユーベルコード【空泳ぎたちの狂宴】を発動した。
　ピッチピチのシャチを40頭以上も空から召喚し、琵琶湖で泳がせる。
　侍たちは、空からいきなり現れた、淡水湖にいるはずもないクジラ目ハクジラ亜目マイルカ科シャチ属の動物の大群に目を剥いている。
　しかも、ヴィクトルがすごいことを言い出した。
「さぁ、シャチの背中を渡って竹生島まで競争だ！」
　シャチはかなりのスピードで自由に泳ぎ回っている。
「む……むり」
　侍たちはその勢いに腰が引けているようなので、ヴィクトルが、
「不安定な足場の戦いにいい練習になると思うんだ……ホラ、義経の八艘跳びってヤツだよ！」
　平家物語の名場面に例えて挑発してみると、侍たちの目の色が変わった。
「やるぞ！」
「絶対に一番になってやる！」
　我先にと湖に飛び込んでいく。
　その様子にヴィクトルは、うんうん、と頷いて。
「義経伝説って、やっぱり侍の憧れなんだねえ」
　
　つるっとした背中から滑って落っこちたり、勢いあまってシャチの尾っぽに叩かれたり、結局半分くらい泳いだんじゃ？　とか色々あったが、なんとか侍たちは琵琶湖の北部に浮かぶ風光明媚な竹生島へと全員辿り着いた。
　さすがに疲れたのか全員ぐったりと浜に座り込んでいるが、ヴィクトル教官は容赦ない。
「帰りは、みんなとシャチの背ビレをロープで結んでれっつごーだよ！　速度に慣れるのも大事だよね！」
　ちなみにシャチの泳ぐ速さは時速60～70キロメ－トル、イルカと並ぶほ乳類の水泳のスピードスターなのである。
　行きの八艘跳びでそのスピードを思い知った侍たちは青ざめている。
「大丈夫、大丈夫、怪我しない程度の速度にするから。それにシャチのスピードに対応できるようになれば急な海流に落とされても安心、きっと」
　そう言われればやるしかない。それに、浜までの復路を自力で泳ぐのもしんどいし、引っ張ってってもらえれば楽かな……？　などと考えた侍たちは、シャチと縄で身体を結びつけた。
　……だがやっぱり、現実は甘くなかった。
「ぎゃああああーーー」
「うわあああーーーー」
　侍たちの絶叫が琵琶湖に響く。
　猛烈なスピードで引っ張られて浮上した身体が、びしばし水面に打ちつけられるのだ。息をする余裕すらなさそうだ。
　しかも気分よさげに泳ぐシャチの中には、ヴィクトルも混ざってたりして。
「たまには淡水で思いっきり泳ぐのもいいねー」
　来てよかった、と思うヴィクトルなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　琵琶湖の夜が更けた頃。
「えへへ、ニコリネです。お花屋さんの猟兵でーす。宜しくお願いしまーす！」
侍たちに、ぺこりんこ、と頭を下げたのはニコリネ・ユーリカ（花売り娘・f02123）である。
　挨拶された侍たちはというと、ニコリネのセクシーな黒ビキニ姿に目のやり場を失っている様子。
　そんな侍たちを意に介することもなく、ニコリネはてきぱきと訓練内容の説明を行っていく。
「実際の戦では、泳ぎながら戦う不利を取るより、事前に海を渡って有利を得る事が多いでしょ？　移動中や開戦前に役立つ『物を運びながら泳ぐ』訓練をしましょ」
　戦の仕込みや、補給などの任務は隠密行動になることが多いだろうから、敢えて日が暮れてからの訓練にしたのである。
「先ずは早着替え！　こんなのはどうかしら？」
　ニコリネがぱぱっとビキニの上に着たのは、作務衣のような帯のいらない簡素で動き易そうな着物だった。侍たちの多くが身に着けている、小袖とたっつけ袴より、脱ぎ着もし易そうだ。
「直ぐに脱げて、一括りで纏まる衣服を用意します。脱いだものは――」
　ニコリネはまたすぐにビキニ姿になって、
「風呂敷包みにして、こう、頭の上に括るの。さあ、いくわよ！」
　侍たちも同じように頭の上に脱いだ衣類をくくりつけさせ、皆で琵琶湖へと泳ぎ出す。
　昼間よりも水は冷たいが、残暑の折、夜の水練はなかなか気持ちがよい。
「濡れないように、波を立てないようにカエル泳ぎ……そうそう」
　頭の上に荷物を括り付けて泳ぐ技を鍛錬すれば、ある程度の重さのある物資でも運べるようになるだろう。
　ニコリネと侍たちは、ひたすら静かに、目を付けておいた浜辺を目指してスィースィーと泳いでいく。
　目をつけておいた浜辺は、半分が砂浜、半分が岩場になっている。
「さ、陸に上がる訓練も忘れずに……おっと、そっちは駄目よ」
　上がるのが楽な砂浜に向かおうとした侍を止める。
「水中で周囲を警戒しつつ、潜伏し易い場所を探すの。ここなら断然こっちでしょ？」
　と、ニコリネは先頭切って岩場をクライミングの要領でスイスイ上がっていく。
「うふふ、夜の湖で泳いだ後に続けてクライミングなんて、忍者みたいでたーのスィー！！」
　

　夏の終わりの琵琶湖での水練。
　幕府軍の侍にとっては、この先にも待ち受けているかもしれない水上戦に向けてのよい鍛錬になったようだ。
　そして猟兵たちにとっては鍛錬だけではなく――ゆく夏を惜しむレイクリゾートにもなった、かもしれない、ね？

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月21日