エンパイアウォー㉗~明日のための大特訓
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「何でも、おぬしらに幕府軍に対する訓練をお願いしたいらしい」
ガングラン・ガーフィールド(ドワーフのパラディン・f00859)はそう切り出すと、詳しい状況を補足した。
「関ヶ原の戦いを勝利したものの、戦いはまだ続いておる。そのためにさらなる研鑽を、という事なのじゃろう。訓練は実戦のように、実戦は訓練のように――そういう意味では、今この時こそ訓練が必要だというのも頷けるものじゃ」
元より、戦国時代を生き抜いたサムライ達の末裔だ。その魂には、戦いに必要な強く熱いモノが今も宿っている――に、違いない。太平の世で忘れてしまったそれを訓練で呼び起こす……それができれば、この信長軍との戦いのみではなく後のサムライエンパイアにも大きな意味があるはずだ。
「訓練内容はおぬしらが必要と感じたものであれば、なんでも構わんらしいのじゃが……」
みんなに受け持ってもらいたいのは、戦場の主力とも言うべき足軽の訓練だという。彼等は大人数で運用され、その長槍で戦場を支える貴重な戦力だ。ただ、侍達と違って普段は農作業や手に職を持つ者達、職業としての武人の訓練は行なっておらず経験もあまりにも乏しいと言えるだろう。
「しかし、サムライエンパイアの人間はよく鍛えられておるわい。日常の生活自体が、訓練と同じなのじゃろう。体はある程度は仕上がっていると言ってもいいじゃろうな」
足りないのは自信だろう、とガングランは付け足す。戦いとなった時、生死を分けるその一線は「自分がどれだけやれるか?」そこに自信を持てるかが重要だ。
「これだけ体を鍛えた。これだけ武具を扱った。これだけ知識を蓄えた。その積み重ねが刹那の生死を分けるのが戦場よ。猟兵であるおぬしらならば、その自信を与える事ができるはずじゃ……訓練の教官役、しっかりと務めてやってくれ」
波多野志郎
明日のために特訓だ! どうも、波多野志郎です。
今回はみなさんには、幕府軍の大特訓を行っていただきます。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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どんな訓練を行うかは皆様次第、さまざまなアイデアをお待ちいたしております!
それでは、サムライエンパイアの未来のために頑張ってください!
第1章 冒険
『幕府軍の大特訓』
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POW : 腕立てや腹筋、走り込みなど、基礎体力を向上させる訓練を施します
SPD : 危険を察知する技術や、強敵からの逃走方法などを伝授します
WIZ : 戦場の状況を把握して、自分がやるべきことを見失わない知力を養います
👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シル・ウィンディア
【Wiz】
対集団戦の知識というか戦い方を教えるね
基本は指揮官さんの作戦指示で動くと思うけど
戦場に出たら
一人一人で考えないといけないの
基本は…
・1対1は挑まないこと
かな
1対1をしないのは
横から不意打ちもらったら
それで崩れちゃうからね
まぁ、それは逆でも言えるけど…
相手を早く倒す、もしくは下がらせるなら
・1対1をしている敵を見つけて横から援護する
事を心がけてもらえたらいいかな?
不意打ちじゃなくても、声出して攻撃するだけで
相手の気を逸らすことはできるから
隙を見せたらそこから畳みかければいいの
それじゃ、ちょっぴり実践してみようか
わたしが相手になるから
2人以上でかかってきてね
二刀流の短い木剣を構えるね
氷川・権兵衛
WIZ:応急手当ての講義を行う
「良いか、戦いは数だ。即ち、失われる命を最小限にしなければならない。」権兵衛は一呼吸置く。
「戦闘中に負傷した者が治癒師や金創医を待っている光景を見たことがある。だがそれでは遅すぎる。兵が回らない。自分自身で応急処置できるようになった方が良い。」
権兵衛は【医術】【世界知識】を駆使して己が知識を兵達に教え込もうとする。
「君達には正しい包帯の巻き方や緊急時の止血方法等を教えよう。戦場での負傷は終わりではない。」
私はこれで兵全ての命が救われるとは思っていない。だが個人個人が生きる意志を持ってくれれば、生存率は上がるはずだ。
生き残ってさえくれれば、私の治療が間に合うのだ。
二天堂・たま
なるほどな…長きに渡る戦が終わり、カタナから農具等に持ち替えた侍達を再び戦場へ立たせるための訓練か。
時間をかけて研鑽した戦士とは違う。群を束ね、軍となって初めて幕府の戦力になる。
ワタシはUC:アルダワ流錬金術で仮想敵を作り、彼らの訓練を指導しよう。
決して1人で戦わず、互いの肩を近づけ槍の壁を作る訓練だ。
敵のバリエーションは3つ位に絞っておこう。
①人間サイズの人形
②人間の倍のサイズの巨人
③槍が届く程度の高さを浮遊する敵(人間サイズ)
訓練はすればするほど、自分のしたいことが出来るようになる。
時折褒めて鼓舞させつつ、しっかりと戦いの基礎を身体に叩き込んでもらおう。
烏丸・都留
アドリブ共闘可
「厳しいけど、(海兵隊とか空挺部隊を養成してた)教導部隊に訓練でもしてもらう?」
SPD対応
UC:錬成神宿り:自身が部隊として運用していた教導部隊を呼び、死なない程度にブートキャンプを行う。
なお訓練エリアをガードユニットによる範囲防御及びクラスタード・デコイによる擬装により、敵対勢力に訓練状況を悟らせないように対応する。
また仮想敵として、クラスタード・デコイを敵兵に擬装して、戦闘訓練を行う。
負傷時は、メンテナンスユニットにより治癒療養を行う。
アーサー・ツヴァイク
※何でも歓迎、🔵過多なら不採用可
【POW】判定
戦場で使う技術も知力も、体力がなきゃ続かねぇからな。
俺は基本の体力作りの大切さを説き、実践して兵士を鍛えるとするか。【ウェポン・アーカイブ】で竹刀っぽいのを用意して箔でもつけるか。
でも、俺は一番大事なのは「心」だと思うんだ。
幕府の兵士さんらも聞いてはいると思う…関ケ原に陣取っていた洗脳された農民部隊や、奥羽や山陰方面に展開している水晶屍人の群れのこと。
オブリビオンの仕業だから普通とは違うんだけどさ…どんなに力を鍛えても、使い方を間違えちゃダメなんだ。
皆は幕府の看板を背負ってんだ。あんなクソ野郎共には負けねぇっていう【気合い】…こいつは忘れんなよ!
ヒルデガルト・アオスライセン
どの国でも下っ端は、死地に向かう宿命にある筈
人を使う権力者は時に、止むを得ず、情に振り回され、また見識が足りず
兵を使い捨てにする
それを踏まえて兵に必要なもの何か、生存力ですわ
生き続け多彩な経験を経れば、この将は、策はダメだと見切りを付けられるでしょう
伝令や間者の方々とあの岩壁を登りましょうか、より怪我なく、より俊敏に
途中、縄張りを意識した原生動物が石を投げてきますが大丈夫、きっと避けられます
まあ私はステッパーでズルをするのですけれど
滑落しそうですか?めんどく…無論、拾い上げて差し上げます
必要なことは、ある程度の苦難と達成感です
半日掛けて登頂し、地平を見下ろす頃にはやり甲斐を感じるかもしれません
オリヴィア・ローゼンタール
自らの世界は自らの手で守る、本来はそれが望ましいですからね
私も槍の使い手なので、拙いながらも教導できるでしょう
まずは槍の握り方、重心の動かし方、振るい方……
基礎的な、しかし最も重要な部分を徹底的に教え込みましょう(コミュ力・戦闘知識・威厳)
農作業をしていたのなら、日常的に鍬を振るっているのでしょうし、その応用で何とかなるでしょう
あとはそれを……全員が疲労困憊で動けなくなるまで続けてもらいます
自分の限界を知ることで無茶をしなくなるでしょう
もちろん、私も同じ装備でさらに重りをつけてハードにしたものをこなします
最後に【怪力】を以って聖槍を振るい巨岩を粉砕
こういうのとは正面から戦わないようにと注意喚起
鍋島・小百合子
WIZ重視
泰平の世であろうとも何かを守るために戦うのが侍というもの
そこには男も女子も関係あるまい
「情けない者は尻を叩いてでも覚えさせる故覚悟しておれ!」
UC「群制御動陣」発動
召喚した49人の女薙刀兵と訓練に預かった兵とで模擬戦を実施
訓練と言えど本気で取り掛かるよう打ち込ませて訓練兵達の練度を確認
薙刀兵達で足軽の立ち回り方を演舞という形で実演したり、槍衾等の戦術や陣形、奇襲方法等戦いの中で物にしてきた戦闘知識を惜しみなく教授(コミュ力も併用)
以降模擬戦も交えつつ短期養成にて徹底して覚えさせる
緊張ばかりでは逆効果故それをほぐすために訓練兵達に舞を披露(勇気、鼓舞、パフォーマンス、ダンス、誘惑併用)
マクシミリアン・ベイカー
【POW】
これから貴様らを凶悪な兵器に育て上げる。俺に感謝しろ!
貴様らに足りないモノはなんだ。武器か?技術か?
いいや、貴様らには「意思」が足りん!故郷を荒らすイナゴ以下のクソどもを捻り潰すという鉄の殺意を、訓練を通して体に植え付けろ!
走れ走れ!止まるな!足が千切れる寸前まで走れ!
戦場で立ち止まれば死ぬ!貴様らのうち一人が死ねば、戦えない女子供が十人は死ぬぞ!
なんだその槍捌きは!ビビるな!敵をよく見ろ!踏み込め!
死にたくなければ前に出ろ!戦場では敵の懐が貴様の安住の地だ!
……よし、貴様らは今や、土臭い農民から屈強な戦士となった!
国のためではない。家族のために戦い、殺し、生きろ!
以上、解散ッ!
●泣いたり笑ったり
「これから貴様らを凶悪な兵器に育て上げる。俺に感謝しろ!」
整列した足軽を前に、後ろで手を組んだマクシミリアン・ベイカー(怒れるマックス軍曹・f01737)が鋭い声を張り上げる。足軽達の表情は硬い。当然だ、腹の底から放たれるマクシミリアンの声にはそれほどの威圧がある。
「貴様らに足りないモノはなんだ。武器か? 技術か? いいや、貴様らには「意思」が足りん!故郷を荒らすイナゴ以下のクソどもを捻り潰すという鉄の殺意を、訓練を通して体に植え付けろ!」
「え、あ……」
どう答えていいのか狼狽えていた足軽の一人へ、マクシミリアンが顔を近づける。息がかかるほど近くで、マクシミリアンが言葉を叩きつける。
「返事はどうした!? 貴様らは田んぼのかかしか!? 空いとるだけでは敵は愚か、スズメもびびらんぞ!!」
『お、おう!』
「よし、ならば走れ! 訓練場10周だ!」
『おう!』
「走れ走れ! 止まるな! 足が千切れる寸前まで走れ! 戦場で立ち止まれば死ぬ!貴様らのうち一人が死ねば、戦えない女子供が十人は死ぬぞ!」
『――おう!!』
戦えない女子供が死ぬ、その言葉が足軽達に火を点ける。簡素ながら鎧を身につけ、長槍を担ぎながら走るマラソンの速度としては十分な速さを維持し、走り続けた。
(「いい兵士だ。芯がある」)
声を張り上げながら、マクシミリアンは目を細める。戦う理由――もっとも重要で、与えるのが難しいものを足軽達は最初から持っていた。侍の末裔、それもすんなりと信じられる程に。
だからこそ、指導に熱が入る。言葉の汚さは、生き残ってほしいという想いの裏返しなのだ。
「なんだその槍捌きは! ビビるな! 敵をよく見ろ! 踏み込め! 死にたくなければ前に出ろ! 戦場では敵の懐が貴様の安住の地だ!」
『おう!!』
それは別世界であればドン引きするほどの順応力だ。そして、ここに一人――ドン引くのではなく、懐かしさを込めた視線を向けるものがいた。
「……手伝ってあげて。あれならお手の物でしょう?」
『――イエス、マム!』
烏丸・都留(ヤドリガミの傭兵メディック・f12904)の言葉に足軽達よりも手慣れた返事をしたのは、錬成神宿りによって召喚された自身が部隊として運用していた教導部隊だ。都留の記憶に存在する彼らは、それこそマクシミリアンのような海兵隊式訓練のエキスパートだ――マクシミリアンをサポートした。
(「――異常はないわね」)
怒声と罵声をバックミュージックに、都留は周囲に展開したガードユニットからの情報を処理する。敵対勢力に訓練状況を悟らせない――念には念を入れる必要がある、戦場では何が起きるかわからないのだから。
そういう場所に彼らを送り込むのだ……都留は足軽達の姿を胸に刻むように、訓練状況を監視し続けた……。
●戦場ですべき事
シル・ウィンディア(光刃の精霊術士・f03964)は、足軽達に向けて言葉を吟味しながら語る。
「基本は指揮官さんの作戦指示で動くと思うけど、戦場に出たら一人一人で考えないといけないの」
シルが語るのは、対集団戦の知識――戦い方だ。こればかりは、大規模な戦闘に参加しない限り体験する機会がないからだ。
「基本は……1対1は挑まないこと、かな。1対1をしないのは、横から不意打ちもらったらそれで崩れちゃうからね」
戦場は決闘ではない。開始の合図もなければ、対等な条件とも限らない――だからこそ必要な心がけだ。
「まぁ、それは逆でも言えるけど……相手を早く倒す、もしくは下がらせるなら、1対1をしている敵を見つけて横から援護する事を心がけてもらえたらいいかな? 不意打ちじゃなくても、声出して攻撃するだけで、相手の気を逸らすことはできるから隙を見せたらそこから畳みかければいいの」
シルはそう言いながら、二本の短い木剣を手に取る。ヒュン、と軽く振るいながら言った。
「それじゃ、ちょっぴり実践してみようか。わたしが相手になるから、2人以上でかかってきてね」
『おう!』
まず前に出たのは、三人の足軽だ。長い槍を構え、シルを囲む。同じ村の出身なのだろう、視線を交わすだけで直ぐに行動に出た。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
前に立った二人が叫び、一人が突き出す。シルがそれを左の木剣で払うと、すぐに後ろに回り込んでいた一人が槍で突いてきた。
「うん、いい感じ」
しかし、シルは言葉とは裏腹に右の木剣で弾くと一気に一人の懐へ飛び込んだ。
「ぐ!?」
「長い武器を持ってるんだから、すぐに刀に切り替えて。囲んだ時の槍で一番怖いのは同士討ちだよ?」
シルはなすすべもなく胴を打たれた足軽に、そう告げる。
「も、もう一本!」
「うん、いいよ」
シルは微笑みそうになるのを堪え、二刀流の短い木剣を構え直した。これなら間に合う、そう実感しながら訓練を続けた。
●相手に合わせて――
(「なるほどな……長きに渡る戦が終わり、カタナから農具等に持ち替えた侍達を再び戦場へ立たせるための訓練か。時間をかけて研鑽した戦士とは違う。群を束ね、軍となって初めて幕府の戦力になるな……」)
体はできている、と二天堂・たま(神速の料理人・f14723)は髭を揺らす。別の世界の戦国時代の日本人は、異常に筋肉が発達しすぎ骨を歪め成長に影響があるほどだったという。平均身長の低さは、驚くべきことに身体能力の高さゆえだったのだ。
そして、この足軽達もそうだ。日々の生活が体の隅々までを鍛えている、土台は問題ないとたまは判断した。
「ちちんぷいっ! と」
たまのアルダワ流錬金術(クラシカル・アルケミア)が生み出すのは仮想敵の人形だ。大きく分けて三種類。人間サイズの人形、人間の倍のサイズの巨人、槍が届く程度の高さを浮遊する敵だ。
(「まずはこの戦いを生き抜く術を与えるのが重要だ。なら、相対する可能性が高い相手に絞るのが効果的だ」)
たまのこの判断は正しい。徹底的に相対する敵を絞る、その分限定的な状況の経験値を増やしておくのは短期間での詰め込みには有効だ。
「決して1人で戦わず、互いの肩を近づけ槍の壁を作るための訓練だ。キミたちは一人で戦う必要はない。力を合わせて立ち向かうんだ」
『おう!』
土台さえあれば、後はどう積み上げるかだ。足軽達は飲み込みも早い、たまの教えをすぐに身につけていった。
「お、今の感じはいい。大きな相手は足を狙う。定石だが、だからこそ効果は大きい」
「おう!」
たまの流儀は、褒めて伸ばすだ。一人一人の動きをよく観察し、たまはしっかりと戦いの基礎を身体に叩き込んでいった。
●明日のために走れ
「いいか。戦場で使う技術も知力も、体力がなきゃ続かねぇ。だから、徹底的に走ってもらう!」
ガッ、とウェポン・アーカイブによって作成した竹刀で地面を突いたのはアーサー・ツヴァイク(ドーンブレイカー・f03446)だ。
「でも、俺は一番大事なのは「心」だと思うんだ。幕府の兵士さんらも聞いてはいると思う……関ケ原に陣取っていた洗脳された農民部隊や、奥羽や山陰方面に展開している水晶屍人の群れのこと」
「――――」
アーサーが竹刀の柄頭を握る手に力を込めると、足軽達の間に緊張が走る。だが、それは恐れではない。アーサーが語る言葉を一つとして聞き逃してはならない、心の底からそう思えたからだ。
「オブリビオンの仕業だから普通とは違うんだけどさ……どんなに力を鍛えても、使い方を間違えちゃダメなんだ」
この状況は、戦国時代のそれとは違う――アーサーの言葉に滲むのは、苦さだ。一般人を猟兵の戦いに巻き込んでいる、その事に思う事がないとは言えない。
それでも、彼らは自分の世界を守るために立ち上がってくれた。その事を、アーサーは否定はしない。だからこそ、万感の想いを込めてその言葉を贈った。
「皆は幕府の看板を背負ってんだ。あんなクソ野郎共には負けねぇっていう【気合い】…こいつは忘れんなよ!」
――どうか、死んでくれるなという想いを込めて。その想いを、足軽達は言葉ではなく心で理解した。
『――おう!!!』
返す言葉に、熱が帯びる。その熱に背を押されるように足軽達はただ走る、戦場で生き残るそのために。
今日戦うのは、明日生きるためなのだ。足軽達の姿を視線を追い、アーサーは思う。
(「もちろんだ、あんた達の明日は俺達が作る」)
――アーサー・ツヴァイクは改造人間である。邪悪なるオブリビオンの魔の手が力無き人々に迫る時、彼は闇をぶち破る光の戦士・ドーンブレイカーへと変身するのだから……。
●登りきった先の風景
岩壁を前にして、ヒルデガルト・アオスライセン(リベリアス・f15994)は数名の足軽達――伝令役を見た。
(「どの国でも下っ端は、死地に向かう宿命にある筈。人を使う権力者は時に、止むを得ず、情に振り回され、また見識が足りず、兵を使い捨てにする。それを踏まえて兵に必要なもの何か、生存力ですわ。生き続け多彩な経験を経れば、この将は、策はダメだと見切りを付けられるでしょう」)
ヒルデガルトは、足軽達の顔を確認する。緊張にこわばった彼らに、歌うようにさらっと言ってのけた。
「あの岩壁を登りましょうか、より怪我なく、より俊敏に」
『お、おう!』
伝令役に選ばれた者は、みな身の軽さに自信があるものばかりだ。中には拍子抜けした、と表情で語る者もいた。するすると慣れたように岩壁を昇る彼らに、不意にヒルデガルトは告げた。
「あ、途中、縄張りを意識した原生動物が石を投げてきますが大丈夫、きっと避けられます」
「はい?」
その事の意味を、足軽達は身を持って知る。
「ウキキ!」
猿だ。猿は伝令役など問題にならない身の軽さで動き、石を投げつけてくる。
「いや、ちょ!? うお!?」
「滑落しそうですか? めんどく…無論、拾い上げて差し上げます」
「今、面倒くさいって言おうとした!?」
スカイステッパーでズルしたヒルデガルトの見え隠れした本音に、足軽達はツッコミを入れる。それでも、やはり選ばれた者達だ。それぞれが力を合わせ、岩場を登っていった。
「ほら、もう少しで頂上ですわよ?」
「うわ、登りきっちまったのかよ……」
「ないわ、これはないわ……」
ヒルデガルトの言葉に、言葉とは裏腹に足軽達は速度を上げる。岩壁はもちろん、猿に襲われ、ヒルデガルトから煽られ続けたのだ。それが終わると思えば、疲れた体にムチを入れるのも苦にはならなかった。
「……お」
「どうです? 登りきってみる光景は」
登頂し切ったそこから眼下を見下ろし、言葉を失っていた足軽達にヒルデガルトは微笑んだ。彼らに知ってほしかったのは、ある程度の苦難と達成感だ。やりきった先にあるもの、それを知った彼らはどこか照れくさそうに笑った。
「いい眺めだ」
「……ああ、悪くない」
力を合わせ成し遂げる、その事をヒルデガルトにそれを教わった彼らはしばしその達成感を共に味わった……。
●破邪の聖槍
「自らの世界は自らの手で守る、本来はそれが望ましいですからね。私も槍の使い手なので、拙いながらも教導できるでしょう」
痛いほどその気持はよく分かる、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)はだからこそ自分の出来る事を選択した。
「いいですか? 長槍を握る時はこのように腕を絞るように……固定するように構えます」
破邪の聖槍を構えオリヴィアが教えるのは、槍の握り方、重心の動かし方、振るい方――基礎的ながら槍を扱うのに必要不可欠な要素だ。
(「農作業をしていたのなら、日常的に鍬を振るっているのでしょうし、その応用で何とかなるでしょう」)
実際、長槍を構えて体がブレないのは立派だとオリヴィアは思った。本来であればその構えを身につけさせる前段階、筋力強化に時間を割くべきだ。だが、足軽達はその体を作る時間が必要のないほど、鍛えられていた。
「後は、振り続けましょう」
『おう!』
この時、足軽達は気付いていなかった。オリヴィアがまさか、全員が疲労困憊で動けなくなるまで続けさせるつもりだったとは。
「か、は……あ……が……」
倒れた足軽達から、うめき声しか上がらない。何時間槍を振っただろうか? 鍬だってこんなに長時間振った事はない――だというのに、オリヴィアは彼らと同じ装備でさらに重りをつけてさらりとこなして見せたのだ……もはや、恨み言を言う気力もなかった。
「では、最後に――」
オリヴィアは近くにあった岩へと近づく。何事か、とそれを視線で追った足軽達は見た。渾身の力を込めたオリヴィアの聖槍が、岩を粉微塵に破壊する瞬間を。
「こういうのとは正面から戦わないように――いいですね?」
オリヴィアの綻ぶような笑顔に、足軽達は首がもげそうな勢いでうなずいた……。
●模擬戦
「泰平の世であろうとも何かを守るために戦うのが侍というもの。そこには男も女子も関係あるまい」
バサリと扇を広げて告げる鍋島・小百合子(朱威の風舞・f04799)の主張に、足軽達も否定はしなかった。いや、できなかったが正解か。
何せ、小百合子の背後には召喚した49人の女薙刀兵が控えていたのだから。
「情けない者は尻を叩いてでも覚えさせる故覚悟しておれ!」
『お、おう!』
戸惑いながらも、足軽達は悟る。これは駄目だ、気を抜いたりしたら一気に潰されるアレだ……本能が訴えかける警告に、足軽達は気を引き締めた。
「では――武を誇らんと勇む戦女達……かかれ!」
小百合子の扇が足軽達を指し示すと、49人の女薙刀兵が一斉に襲いかかった。足軽達は陣形を組み、槍衾でそれを迎え撃つ。
(「ふむ、動きは悪くないの。ぎこちなさも思ったほどではない」)
上がる悲鳴と怒号の中、扇で口元を隠し小百合子は目を細める。訓練と言えど本気で取り掛かるよう、練度の確認は怠らない。
小百合子は薙刀兵達で足軽の立ち回り方を演舞という形で実演したり、槍衾等の戦術や陣形、奇襲方法等戦いの中で物にしてきた戦闘知識を惜しみなく教授していく――その内に、足軽達も気づく。小百合子の指導が、手慣れたものである事を。
「ほれほれ。足を止めるな。声を張り上げよ。気迫で女子に負けるでない」
『おう!』
時折、休憩時に舞を見せて鼓舞するなど小百合子は緩急をつけて訓練を施していく。
「誰一人脱落せぬか……良い、良い」
小百合子もよく応える足軽達へ、満足げに目を細めて笑った。 男を見る目が厳しく、情けない者は特に蛇蝎視する彼女にとって、足軽達は褒めるのに値する者達だった。
「この国の未来も、捨てたものではないのぅ」
鈴を転がすような笑い声をこぼし、小百合子は自分が教えられる出来る限りのものを足軽達へ託す。これを活かしどこまでできるか――それは、彼ら次第であった。
●戦場における命の価値
「良いか、戦いは数だ。即ち、失われる命を最小限にしなければならない」
氷川・権兵衛(狼頭の生物学者・f20923)は、模擬戦を終えた足軽達と向き合っていた。
「戦闘中に負傷した者が治癒師や金創医を待っている光景を見たことがある。だがそれでは遅すぎる。兵が回らない。自分自身で応急処置できるようになった方が良い」
「えっと……おうきゅうしょち?」
「そうだ」
権兵衛は神妙な表情でうなずき、強い語調で告げる。
「君達には正しい包帯の巻き方や緊急時の止血方法等を教えよう。戦場での負傷は終わりではない」
権兵衛の言葉に、足軽達は戸惑いながらうなずいた。戦う訓練に来た、そう思っていたからだ。だが、その戸惑いは己の知識を伝えようとする権兵衛の熱意に消えていく。
(「私はこれで兵全ての命が救われるとは思っていない。だが個人個人が生きる意志を持ってくれれば、生存率は上がるはずだ」)
権兵衛の脳裏に、多くの被験者達の姿が浮かんだ。人は死ぬ、死ぬのだ。それもあっさりと、簡単に――ほんの一秒前に生きていた者が、瞬きの間に死んだ者になる。死とはそういう、不条理なまでに機能的な結果なのだ。
(「だが、生き残ってさえくれれば、私の治療が間に合うのだ」)
医術は結果を覆せない。権兵衛はその事を、よく知っている。だからこそ、終わらせない術を彼らに教えたかったのだ。
終わってさえいなけば、助ける事はできる。一縷の望みを込めた、教授だった。
「あんがとな、センセイ」
「……何がだ?」
足軽の一人の感謝に、権兵衛は問い返す。まだ少年とも言っていい足軽は、どこか晴レやかな笑顔で答えた。
「オレらァ、生き残ってもいいんだな」
大事なもののために死地へ向かう、その自覚のある者の言葉だった。だからこそ権兵衛は、感情を宿さないよう答えた。
「当然だ」
全員が生き残る事は不可能だとしても、その望むを捨てる必要などどこにもない――権兵衛は、そう小さくうなずいた。
――こうして、猟兵達の指導を足軽達は受けていく。明日のために今日を戦う、そのために……..。
大成功
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コルチェ・ウーパニャン
えへへ、コルチェ、調べてきました!(図鑑をぺらぺら)
このずかんによれば、長槍は皆で同じ動きで突いたり振ったりすれば、敵を寄せ付けないんだってね!
ガングランのおじさんが言うみたいに、
皆で自信を持って、力と息を合わせれば、すごーい力を出せるはずなんだよ。
コルチェがここに来たのは、サムライエンパイアの人達に、とってもお世話になってるから。
皆のチカラにコルチェのチカラも、足したいな!
一緒に特訓、がんばろう!(図鑑をパターンと閉じる)
息を合わせて、槍を突いたり、引いたり、振り上げたり!
隙が出来なければ、こわくない!
ぴたっと合うまで頑張ろうね!
心を一つに、皆仲良く、助けあって、えいえいおー!だよ!
セゲル・スヴェアボルグ
槍と鋤は似たようなもんだからな。正直、俺が教えるようなことはないんだが……何やら期待の眼差しがこちらに向いているようだ。
助手を募って実演でもするとしようか。
槍投げは身を守る手段を捨てるに等しい上、その難度からお勧めはしない。やるならここぞという時だけだ。
槍はその長さを活かした中距離を得意とする反面、接近されてしまえば些か不便だ。故に、単独で持つということは基本的にしない。俺のように盾を持つか、短剣のようなものと一緒に持つのが普通だ。
また、刺突を基本として穂先や柄での打撃で脳振盪も狙えるし、払いによって周囲の敵を薙ぐ事もできる。武器の中でも扱いやすく、距離を取ることで精神的にも……(止まらない)
六六六・たかし
【アドリブ歓迎】
身体がある程度鍛えられているのならば
必要なのは実戦の訓練に他ならないだろう。
つまりは俺と模擬戦をしてもらおう。
勿論俺は殺すつもりなどないがお前たちは殺す気でやってこい。
なぜなら俺はたかし。一般人の攻撃で死ぬような男ではないからな
【SPD】
俺一人だと効率が悪い
UC『悪魔の分身(デビルアバター)』によって
「ざしきわらし」「かかし」「まなざし」をそれぞれ複製して練習台にさせる。
生半可な知識はかえって邪魔になる!
俺たちの特訓で相手からの攻撃からの対処法を身体に染み込ませてやろう!!
覚悟しておけ!
月舘・夜彦
【華禱】
実戦は何よりも身に付く訓練
倫太郎殿を相手に実戦訓練を行います
足軽達には長い棒を、私も木刀を持ちますが見守り
危険な時は割って入りましょう
まずは思う侭に、倫太郎殿に向けて如何仕掛けるか
普段長物を扱っている彼は捌くでしょう
貴方達には体力は十分に備わっています
日々己のやるべき事を熟しているからこそ鍛えられている
ですが、それ等も初めから出来ていた訳では無い
繰り返し覚え、得ていく……戦いも変わりません
そして人の数が多ければ相乗する
槍は刀よりも先に刃が届く
一本であれば捌かれますが皆で向かえば無数の棘と成す
彼でも捌き切れないはず
上手くいきましたが
……倫太郎殿、貴方はもう少し粘らなくては
訓練が必要ですね
篝・倫太郎
【華禱】
夜彦が足軽の部隊を指導
俺が仮想敵として仕掛ける
流石に華焔刀使う訳にもいかねーから
木刀の薙刀使ってく
……うん!ちっと軽いわ!
(木刀ぶんぶん)
つか、皆頑健って感じじゃん?
ま、自信持てつーのは酷な話っちゃ話だよなぁ
職業として戦場に立つ侍じゃねぇんだし
っと、夜彦の指示は元より的確な上に
俺の癖も充分知ってっから、やり難いな
槍をいなして攻撃仕掛けてく
けど、まぁ、綺麗に捌いてくれんじゃん
んっと、夜彦は敵に回したくねぇや
数に押されてこっちが捌き切れねぇって、マジかよ……
あ、無理、マイリマシタ(両手上げて降参ー)
お見事だぜ、マジで
途中から割と本気で捌いてたんだけども、俺
ア、ハイ
ヨロシクオネガイシマス……
●大事な事は、たいがい本に載っている
コルチェ・ウーパニャン(マネキンドールのピカリガンナー・f00698)は、図鑑をぺらぺらとめくりながら言った。
「えへへ、コルチェ、調べてきました! このずかんによれば、長槍は皆で同じ動きで突いたり振ったりすれば、敵を寄せ付けないんだってね!」
『お、おう……?』
「ほら、これこれ」
コルチェが指で示したページを、足軽達が覗き込む。字の方はさっぱりだが、図解が載っているのが便利だ――図鑑を使う、というのはそういう意味ではよいアイデアだった。
「ガングランのおじさんが言うみたいに、皆で自信を持って、力と息を合わせれば、すごーい力を出せるはずなんだよ」
「……お、おう」
「コルチェがここに来たのは、サムライエンパイアの人達に、とってもお世話になってるから。皆のチカラにコルチェのチカラも、足したいな!」
コルチェがニコリと微笑む。足軽達は、その笑顔を吸い寄せられるように見た。笑顔と同じように、コルチェの言葉と想いは一点の曇りもなく本心だった。
「一緒に特訓、がんばろう!」
『――おう』
コルチェが図鑑をパターンと閉じる頃には、足軽達の彼女を見る目も変わっていた。その純粋さに応えたい、誰もがそんな想いを抱いていたのだ。
「息を合わせて、槍を突いたり、引いたり、振り上げたり! 隙が出来なければ、こわくない!」
『おう!』
風を切り裂く音が、訓練場に響き続ける。その音に満足気にうなずいて、コルチェは声援を送った。
「ぴたっと合うまで頑張ろうね! 心を一つに、皆仲良く、助けあって、えいえいおー! だよ!」
『おう!!』
何度も、何度も、槍の突きを繰り返す。構え、突き、引き戻し、構え、また突く――その度に、槍の動きが揃っていく。
やがて、その音は一つになっていく。目の前の少女の笑顔に応えよう、その想いが一つになっかからこそ、足軽達の動きは一つとなった……。
●一投に全てを懸けて
セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は、ふむと小さく唸った。
(「槍と鋤は似たようなもんだからな。正直、俺が教えるようなことはないんだが……何やら期待の眼差しがこちらに向いているようだ」)
幾人もの猟兵から教わっている彼らだ、期待の眼差しは次はどんな教えなのだろうという興味から来るものだろう。
「……そこの。ちょっと前に出てくれ」
「おう!」
足軽の一人にそう呼びかけ、セゲルは助手として協力してもらう事にした。距離を開けて助手と向かい合い、セゲルは応龍槍【ギュールグルド】を手に取った。
「……え?」
助手が、息を飲む。セゲルが迷う事なく、応龍槍【ギュールグルド】を振りかぶったからだ。その意味を問うより早く、セゲルが投擲――ゴォ! と頬をかすめるほど近くを通り過ぎ、地面を穿って土柱を巻き上げた。
その衝撃と突風に足軽達が呆然とする中、セゲルは平然と語り出す。
「――槍投げは身を守る手段を捨てるに等しい上、その難度からお勧めはしない。やるならここぞという時だけだ」
平然と言いながら、セゲルは再び手に取った応龍槍【ギュールグルド】と重盾【スィタデル】を構え直した。
「槍はその長さを活かした中距離を得意とする反面、接近されてしまえば些か不便だ。故に、単独で持つということは基本的にしない。俺のように盾を持つか、短剣のようなものと一緒に持つのが普通だ……この国の場合、盾は地面に立てるものが一般的なようだが――」
ヒュオン、と応龍槍【ギュールグルド】の切っ先が足軽達の眼前で薙ぎ払われる。その威圧感たるや、深海に引きずり込まれた魚のような表情で足軽達の間に緊張が走った。
「また、刺突を基本として穂先や柄での打撃で脳振盪も狙えるし、払いによって周囲の敵を薙ぐ事もできる。武器の中でも扱いやすく、距離を取ることで精神的にも……」
最初は悩んでいたものの、一度語りだせば止まらない。セゲルはそのまま槍の有用性について、講釈を語り続けるのだった。
●何故なら彼は――
六六六・たかし(悪魔の数字・f04492)はフードの下で、目を細めた。足軽達の体の出来具合を、実際に自分の目で確かめたのだ。
「……身体がある程度鍛えられているのならば、必要なのは実戦の訓練に他ならないだろう。つまりは俺と模擬戦をしてもらおう」
この練度なら問題ないだろう、そう判断したたかしはとつとつと言い切る。
「勿論俺は殺すつもりなどないがお前たちは殺す気でやってこい。なぜなら俺はたかし。一般人の攻撃で死ぬような男ではないからな」
「……た、たかし? それはどういう……?」
「たかしはたかしだ。それ以上でも以下でもない」
「お、おう……」
足軽達は、理解した。頭ではなく、魂で……ようはたかしとはそういう類の物なのだろう、と。
「俺一人だと効率が悪い――お前ら、手を貸せ」
タン、とたかしの爪先が地面を打つとざしきわらしにかかし、まなざしという悪魔の分身(デビルアバター)が姿を現した。それに思わずざわめく足軽達に、たかしは告げた。
「騒ぐな。生半可な知識はかえって邪魔になる! 俺たちの特訓で相手からの攻撃からの対処法を身体に染み込ませてやろう!! 覚悟しておけ!」
たかしが地面を蹴った瞬間、足軽達は咄嗟に長槍を構えた。いい反応だ、しかし――甘い。
「その陣形の弱点は、まず『横』――」
左右から挟撃するように、かかしとざしきわらしが回り込む。それに足軽達が振り向こうとした瞬間――彼らの背後に、まなざしが姿を現した。
「『背後』、そして『上』だ」
そう教えながら、上を取ったのは跳躍したたかし自身だ。空中で眼鏡を押し上げたたかしは、言い切った。
「これから五分間攻めまくる――耐え抜いてみせろ!」
まさにスパルタ方式、たかしと悪魔の分身(デビルアバター)達の地獄のシゴキが始まった。
●槍衾の自信
「……うん! ちっと軽いわ!」
ブンブンと木製の薙刀を手に、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)が言う。さすがに訓練に普段使っている華焔刀 [ 凪 ]を使う訳にはいかないという配慮だが……木製であろうと長物だ、相応の技と力がなくばこうはいかない。
(「つか、皆頑健って感じじゃん? ま、自信持てつーのは酷な話っちゃ話だよなぁ。職業として戦場に立つ侍じゃねぇんだし」)
薙刀の感触を確かめながら、倫太郎は足軽達の様子を確かめる。小柄で細身ではあるが、それは無駄な脂肪を筋肉がまとっていない事を意味する――野生の獣のような、しなやかさと力強さを誰もが秘めていた。
だが、それはあくまで体の話。戦うための準備が、不足していた。
「貴方達には体力は十分に備わっています。日々己のやるべき事を熟しているからこそ鍛えられている」
倫太郎の横に立つのは、木刀を持った月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)だ。こちらも愛刀である夜禱はお休みだ。
「ですが、それ等も初めから出来ていた訳では無い。繰り返し覚え、得ていく……戦いも変わりません。そして人の数が多ければ相乗する」
夜彦は、後ろに三歩ほど下がる。そして、その代わりに倫太郎が前に出た。
「まずは思う侭に、倫太郎殿に向けて仕掛けてもらいましょう」
『おう!』
「よし、来い来い!」
ニヤリと笑い、倫太郎は薙刀を構える。足軽達が構えた槍衾は、容赦なく倫太郎へと襲いかかった。
カン! と最初に乾いた音が響き渡った。自分に一番近い槍を、倫太郎が薙刀で弾いたのだ。それだけで足軽達の陣形に狂いが生じる。強引にねじ伏せてこようとする足軽達の無数の槍を、倫太郎は手元のみを動かして受け流していった。
一人で軍勢を受け流す、それは圧倒的実力差がなくては成り立たない。足軽達がその事を思い知っていると、不意に夜彦が木刀を振るった。
「おっと」
ここで初めて、倫太郎が頭を動かして回避する。夜彦が木刀で軌道修正した槍を、咄嗟にかわしたのだ。
「続けて」
「お、おう」
(「っと、夜彦の指示は元より的確な上に、俺の癖も充分知ってっから、やり難いな」)
夜彦は槍衾を木刀で修正していく。その度に、倫太郎の動作が増えていった。足を動かし、体の軸を変え、間合いを計る。夜彦の指示が、倫太郎を追い込んでいった。
「槍は刀よりも先に刃が届く。一本であれば捌かれますが皆で向かえば無数の棘と成す。彼でも捌き切れないはず」
『おう!』
「じゃあ、今度はこっちからも仕掛けるぞっと!」
ついに、倫太郎側からも攻撃を仕掛ける段に至った。無数の槍へ放たれる薙刀、大きく軌道が外れていく槍衾だったが――もう、既に遅い。
「まぁ、綺麗に捌いてくれんじゃん」
攻防一体、既に攻勢を返すのには手遅れだった。苦笑しながら、倫太郎は木刀で修正を続ける夜彦に意識を向けた。
(「数に押されてこっちが捌き切れねぇって、マジかよ……んっと、夜彦は敵に回したくねぇや」)
それから数分後、倫太郎は大きく後方へ跳んだ。そして、薙刀を肩に担いで両手を上げる。
「あ、無理、マイリマシタ」
その降参の意味を十秒以上かけて理解して、足軽達は歓声を上げた。その声に、倫太郎は肩をすくめた。
「お見事だぜ、マジで。途中から割と本気で捌いてたんだけども、俺」
それでもなお、押し切られた。それは事実だ。これで自信を持ってもらえるなら大万歳……なのだが。
「上手くいきましたが……倫太郎殿、貴方はもう少し粘らなくては。訓練が必要ですね」「ア、ハイ。ヨロシクオネガイシマス……」
夜彦の指摘に、倫太郎は冷や汗を流しながら答えた。後日、夜彦の訓練で倫太郎がどんな地獄を味わったのか? そては別の物語である。
――猟兵達の訓練を終えた足軽達の表情は、最初の頃とは随分と変わったものだった。
海軍式の卒業式が行われる中、猟兵達にもまたやり遂げた達成感がある。これから行われるのは殺し合い、誰も死なずにすむとは言えなかった。それでも、一人でも多く生き残ることが出来るのならば――その助けになってくれればと、猟兵達は祈るしかなかった。
大成功
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