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エンパイアウォー⑱~死彩纏う風

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #上杉謙信

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 戦乱の渦中はまるで嵐だ。
 轟々と地鳴りの如き声が響き、甲高い剣戟の音が反響する。
 暴風に煽られるように戦力が散っては消え、死と斬り合いが強雨のように視界を覆う。戦いの続く関ケ原は、静謐とは対極にあった。
 けれどその中心で、台風の目に立つように──上杉謙信は静かな表情を浮かべる。
 そこにあるのは余裕でも無く、恐怖でも無く。
 ただ静かに、幾度でも。
 自身が戦うその時を待ちわびる、静かな相貌。
「──来るか」
 敵の気配が迫れば、十二の刀を携え、展開する。
 眩い属性の力を有したそれは、鮮やかなほどの色彩の残滓を風に漂わせていた。

「本日はサムライエンパイアでの戦争の一端を担って頂く作戦となります」
 グリモアベース。
 千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は猟兵達へと語りかけていた。
 戦乱が続いてより暫く。関ヶ原において、現在魔軍将との戦いが起こっている。
 それが軍神『上杉謙信』。軍神車懸かりの陣という強固な陣を敷いた上で、こちらとの交戦に入ろうとしているのだ。
「魔軍将の名にたがわぬ戦闘力を持った敵です」
 幕府軍の被害が広がるのを避けるためにも、撃破が望まれる。
「そこで皆様にはこの上杉謙信との戦いへ赴いて頂きたく思います」

「敵は一人ですが、強力なオブリビオンです」
 上杉謙信は十二本の毘沙門刀を巧みに操るという。
 刀はそれぞれに異なった属性を有しており、多彩極まると言えるだろう。
「属性は周囲に展開する刀がそれぞれ、水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇。両手で振るう刃はアンヘルブラック・ディアブロホワイト──聖と魔といったところでしょうか」
 それぞれの属性を利用しつつ、遠近で強力な攻撃を行ってくるだろう。
「近距離の物理攻撃一つをとっても、全ての属性を警戒する必要があります」
 また、回転する刀を纏いつつこちらの弱点をつく、攻防一体の能力も行使する。
 刀の魔力を利用して広範囲攻撃も行ってくることにも、注意を払っておくべきでしょうと言った。
「上杉謙信は堂々とした武人だと思われます。その分、戦となれば全霊の力を以てかかってくるでしょう。ですから皆様も、全力で挑んで頂ければと思います」
 それが幕府軍を、引いてはこの世界を護ることにも繋がるはずだから、と。
「では、戦場へ参りましょう」
 言うと、レオンはグリモアを輝かせた。


崎田航輝
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
 つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。

●現場状況
 関ヶ原、上杉謙信と対峙した所。
 このシナリオでは軍神車懸かりの陣とは戦わず、上杉謙信との戦闘から開始します。
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第1章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セルマ・エンフィールド
気になることはありますが……あまり多くを語る人間には見えませんね。であれば、やりましょうか。

私には火と氷は効きが薄い。他は普通に効きますが、最も効くのは毒でしょう。放射される刀は回避およびフィンブルヴェトで『武器受け』、避けきれない場合も毒の刀を『見切り』それだけは受けないように。

刀が放射されたときは回転する刀が減り防御も薄くなっている。『カウンター』の『クイックドロウ』で素早く敵の足を狙う……というのは『フェイント』、【アイスリンク・バレット】で地面を凍らせ、高速移動ができないように。

敵がバランスを崩すか凍結した地面に気付き足を止めたらその一瞬を見逃さず『スナイパー』の技術で一射を。



 敵陣を抜けた先にあるのは首領の居場所。
 争乱する戦場の中でも、最も死地であり、最も張り詰めた場所。であるはずなのに、どうしてかそこには静寂が感じられた。
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は深き蒼玉の瞳で一瞬だけ、その一帯を見回す。
 関ヶ原の只中。
 まるでこの世の戦いの全てが集結しているのかと思われる程の争いの渦中で──薄色の草がさわさわと揺れ、不思議な爽風が頬を撫でる。
 美しい程に色づいた風が吹く。
 その全てはそこに立っている武士のせいなのだとセルマは判った。
「──上杉謙信」
「現れたか、猟兵」
 凪の水面のような声で応える軍神。
 彼の静けさが陣の中心をも静謐の空間に変え、そして彼の抱く十二の刀が、色彩を風に纏わせている。
 謙信は温度を内に秘めた瞳でこちらを見る。
「何かを求めている眼をしている。きっと、識りたい事があるのだな」
「……ええ、確かに、気になっていることはありますよ」
 戦争において未だ詳らかになっていない事象は数多い。
 それは眼前の敵についても変わらないから、セルマは否定をしなかった。
 尤も、元よりあまり多くを語る人間には見え無い。故にセルマは闘いの姿勢を取っている。
「知っていることを教えるつもりはないのでしょう?」
「──ああ。此処へは、戦いに来た」
 故に全霊でお相手致そう、と。
 瞬間、謙信は柔く腰を落とし、二刀を握り込む形で構えをとった。
 すると周囲に浮遊する十刀が緩く動き出し、一瞬後には彼の周囲を巡るように高速回転し始める。
 セルマは僅かに瞳を細めた。
(想像より、厄介ですね)
 彼の周りを巡る刀は、一つ一つを捉えられぬほどの速度だ。まるで多重の色彩を周囲に揺蕩わせているようで──美しくも恐ろしく。
 おそらくこちらの攻撃も簡単には通るまい。
 だけでなく──放射される刀もまた豪速。はっと目を見開いたセルマは、そこで初めて面前にまで刃が迫っていると気づいた。
「……!」
 それでも愛銃フィンブルヴェトをとっさに翳し、盾代わりにして受け止める。甲高い音と全身を痺れさせるような衝撃が伝わるが、ダメージは防いだ。
 無論、何度も狙われればその限りではないだろうが──その前にセルマは敵の隙を見つけ出している。
 弾かれた刀が敵の元へ戻る短い間隙。その間は刀の数が減り防御が薄くなるのだ。
 セルマは装弾済みの銃身を向けて、その間を縫うようにして敵の足を狙う。
 謙信もすぐに気づき、高速移動で狙いから外れようとした──が。
「こちらとて、予測済みです」 
 セルマが始めに付けた狙いは、フェイントに過ぎない。
 瞬間、その照準を地面に向けて、放つのはアイスリンク・バレット。弾頭が弾けると同時に敵の周囲の地面を凍結させ、摩擦を限りなくゼロに近くしていた。
 踏み込みがずれて、謙信は僅かに体勢を崩す。
 その隙を見逃すセルマではない。直後、素早く装填した弾丸を真っ直ぐに発砲。しかと謙信の体を貫いてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
賭すは一瞬。

――恐れず、迷わず、侮らず
――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に

「推して参る。」

調息、脱力、敵を観【視力+第六感+情報収集】据える。
敵の体格・得物・構え・視線・殺気から呼吸を量【学習力+戦闘知識+見切り】る。

踏み込む、と見せかけて石を投擲。敢えて防がせて呼吸を乱す【フェイント+だまし討ち】
その意識の隙を突いて間を殺し、最短距離を【ダッシュ】で懐に入る。

元より斬られるのは【覚悟】の上。
刃を恐れず【勇気+激痛耐性】、回避を捨て、左腕を盾にする。

UCは攻撃強化。
【捨て身の一撃】による裏当てから寸勁の要領で更に一撃【グラップル+戦闘知識+鎧無視攻撃+2回攻撃】を叩き込む。



 肌に触れる風には、既に戦火の匂いがした。
 敵陣を奔り抜け、ぽっかりと空いた穴のような空間に躍り出ると──そこには刃を握る軍神上杉謙信の姿。
(──居たか)
 上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)は背の低い草に覆われた地面で足を踏みしめ、僅かの間隙だけ戦いの助走をとっている。
 この一秒後には、自分とあの武士との闘争が始まるだろう。
 故に彼が目に入り、唯一準備を整えることのできる、この短い好機に集中力を注いだ。
 決して焦らず。
 けれどあの強敵に対し全霊を以て挑めるように。
 ──恐れず、迷わず、侮らず。
 ──熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に。
 ふっ、と調息して脱力。まずは敵を観据え、それが如何な存在であるかと目に見える情報の全てを脳に叩き込んだ。
(十二の刀はどれも鋭利。バランスの悪い箇所、ネックは存在せず──どの属性もが一線級の力を有している)
 謙信がその手に握る二刀は間違いなく脅威だろう。同時に、彼が残る十本の内どれを握っていても、戦闘力に瑕疵は生まれまい。
 体格は戦士としては細身と言っていい、だが弱々しいところは無く仮に肉弾戦でも相応の力を持つことが予想される。
 とは言え、それは刀ほどではあるまい。
 十二の全てが強力で、それが謙信の強さの要であると理解すればこそ──刀をかいくぐることが肝要であるという事実が浮かんだ。
 ならば、賭すは一瞬。
「──推して参る」
 僅かに立ち止まっただけ、と敵には見えたことだろう。
 だがその間に計算も、覚悟も、総てを済ませた。あとはやるべきことをやるだけ、と。修介は真っ直ぐに謙信への動線を奔る。
「……徒手空拳の士。正面から迫ってくるか」
 謙信はこちらを見据えると、剣を握り戦闘の構えを取っていた。
 だが、修介も愚直なばかりではない。
 踏み込むと見せかけて、腕の振りと同時に石を拾い、そのままの動作で投擲。礫を三つ、敵に目掛けて放っていた。
 微かに目を見開きながら、それでも謙信は三刀を使ってその全てを弾き返している。
 それは謙信にとっては別段、痛くもない攻撃。だがほんの少しでも呼吸を乱すだけの意味はあった。
 修介はその一瞬に全力を籠め、一直線に懐へと入っていく。
 この身こそが武器なれば、敵の刀をかいくぐる方法は一つしかない。真っ直ぐに、こうしてゼロ距離に飛び込むだけだ。
 謙信は自身が生んだ隙により、完璧には対応しきれない。それでもおよそ半分、五本の刀を動かすことは可能だった。
 それだけでも十分過ぎる程に強力。
 だが、修介とて元より斬られるのは予期していたこと。
 だからこその覚悟。だからこその勇気。回避を捨て、左腕だけを盾にするように、刃を恐れずそのまま突き進んでいく。
「……僅かの躊躇いも無いとは」
 謙信が抱いたのは少しの驚きでもあったろうか。五刀で切り刻まれ、滂沱の血潮が散ってもなお退かぬ修介の姿に、些かの唸りすら零していた。
 修介は激痛の中で、しかし斃れることはなく。捨て身の裏当てによる強烈な衝撃を叩き込む。
 その威力に、骨が砕ける音と感触がする。
 己の血肉と引き換えに与えた、光明のごとき一撃。
 だがそれで終わらない。敵が衝撃に後退する前に寸勁の要領で最小の動作を以て、拳を握り込む。
 如何な強敵が相手でも、如何な武器が相手でも、これこそが自分の戦いだと言ってみせるように。
 修介は真正面から打突。凄まじい衝撃で謙信を吹っ飛ばす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

霧島・絶奈
◆心情
有能な指揮官が率いる優れた軍勢など悪夢以外の何物でもありません
早急に対処しなければ徒に消耗するだけです

◆行動
『DIABOLOS LANCER=Replica』に【範囲攻撃】の力を込め【二回攻撃】
一撃目は敢えて自分や味方の足元に打ち込み強化効果を得ます
続く二撃目こそが新たに【マヒ攻撃】を加えた本命の攻撃です

味方の損耗が激しければ敢えて【マヒ攻撃】を加えず二撃共回復と強化目的で使用する事も想定
その場合は味方の支援を第一とした立ち回りに切替
【罠使い】の力を活かして罠を設置
戦闘しつつ罠に誘い込み追撃

負傷は【オーラ防御】で軽減し【生命力吸収】で回復
但し可能なら此方の攻撃を止められない様に回避を優先



 確かに、それは嵐のようだった。
 場に吹いている風は優しいほどなのに、耳朶を叩く怒号と剣戟は途切れを知らない。
 今視界を取り巻くこの陣の全てが僅か一人の指揮下にあるというから──霧島・絶奈(暗き獣・f20096)は静かな相貌の中で驚きを禁じえない。
(有能な指揮官が率いる優れた軍勢など、悪夢以外の何物でもありませんね)
 この集団に幕府軍が、猟兵がどれほど苦しめられているか。
 その上で、尤も脅威となるものは今面前に存在する上杉謙信なのだ。
 陣の外も、中も、休まる場所など何処にもない。
(早急に対処しなければ徒に消耗するだけですね)
 元より、迷いはない。
 此処へ踏み込んだ段階で、既にどの場所も敵の間合いに成り得る。ならばこちらも可能な限りの手を打つだけ。
 全霊を以て敵を殺しにかかることができるのなら、それは望むところでもあったから。
 絶奈はそっと手を伸ばすと、眩い煌きを招来していた。
 その瞬きはまるで星のよう。
 その眩さは、蒼空が夜空に取って代わってしまったかのよう。
 ──今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。
 ──かつて何処かの世界で在り得た可能性。
 ──『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ。
 明滅する光が、耀く粒子を散らせながら形をとっていく。美しき銀色の燦めきを抱いたそれは、槍のように見える物体だった。
 DIABOLOS LANCER=Replica。
 巨大な光のシルエットは、眩き尾を描くように風を裂いて高速度で飛翔する。
 謙信はそれに尋常でない気配と圧力を感じ取ったことだろう。刀を前面に集中させ、防御で凌ぎきろうとする。
 が、その光の塊は決して敵を穿つためだけのものではない。
 地面に打ち込まれたそれは、輝く刃紋を広げるように、地面に巨大な光の円陣を形成。弾けるようにして散り散りに散って──銀の雨を降らす祝福になっていた。
 さらさらと、きらきらと注ぐ光の雨滴。
 それは仲間に作用し、体力を癒やしながら戦闘力をも高めていく加護の塊だ。
 負傷していた修介を癒やし、新たに戦いの間合いに入っていく仲間達の力を強める──眩き超常の橋頭堡。
 謙信はそれに微かな驚愕を覚えたか、動きが僅かに淀んでいた。その瞬間、絶奈は同じ輝きを今度は謙信自身に放っている。
 それこそが本命。
 煌きの本流となって突き抜けた槍は、謙信へ命中すると共にその光で体を縛るように動きを制動してしまう。
 謙信は属性を体に巡らせてその幾分かを焼き払う。しかし完全には取り除けずに、体を蝕む麻痺は残っていた。
「……称賛致そう。この世のものとは思われぬ力だ」
「有難うございます」
 ですがこれで終わりではありませんよ、と。
 絶奈は怜悧に応えながら、その手に次の槍を握っている。 
 謙信は無論やらせまいと、距離を詰めようとしてきた。こちらの攻撃が広範囲に及ぶのならば、接近戦に持ち込んで一気に仕掛けようとするのは当然の事。
 故にこそ、絶奈もそれに対処はしていた。
 先刻敵が衝撃を受けていたその間隙に、光に紛れる魔力の罠を設置していたのだ。
 後退した絶奈を追って踏み込んだ謙信は、直下から光の網に絡め取られ自由を失う。
 刃を以てそれを断ち切ろうとするも、麻痺した体では最速での対処は叶わない。その頃には至近から、絶奈が槍を掲げていた。
「貫かれてください」
 瞬間、一撃。 
 熾烈なまでの銀光を伴った衝撃が、違わず謙信の体を穿ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三ヶ月・眞砂
大丈夫っすよ、スティル。
…これは武者震いっす
俺に出来ることは――やり遂げる

スティルは竜型のまま【灯火星】を使用
上空から浮遊する刀を狙って炎を吐かせ
攻撃は戦闘知識で見切れるものは回避
武器受け・なぎ払いで捌きつつ
ヤバい時は咄嗟の一撃が出るといいんすけど!
焦らず着実に…いけそうなら多少無理してもダッシュで前進!

間合いに入ったら捨て身の一撃ッ!
なんて、きっと読まれてるっすよね
…覚悟はとうに決めてたっす
俺は攻撃を「受け」に来たんすから!
全身に力を溜め気合いで踏ん張り激痛に耐え

これは隙を作る時間稼ぎ
僅かでいい
数秒でいい
少しでも動きを鈍らせられたなら勝機はある!
俺は一人じゃない
共に戦う仲間を信じてるっす!



 草を縫い、風を切るように奔る。
 その一歩一歩がほんの少し重いような気がして、脚に力を込める。
 そうすると今度は指先がわなないて──三ヶ月・眞砂(数無き星の其の中に・f14977)は拳を握りしめた。
 疾駆するその横に、羽ばたき並んでくるのは相棒の竜。
 その瞳にどこか気遣うような色を見て、眞砂はいつものような笑顔を一つ作ってみせた。
「大丈夫っすよ、スティル」
 安心させるように優しい声音で言って。
 それから琥珀の瞳を真っ直ぐに向ける。
「……これは武者震いっす」
 目の前を見れば、未だ斃れぬ軍神上杉謙信の姿があった。
 此処まで来たのなら、どちらにしろ引き返せはしないし──引き返すつもりも無いから。
(俺に出来ることは──やり遂げる)
 ただ、それだけ。
 足袋を踏みしめ、しかと体を前に向け。迷わず戦いの間合いへと入っていく。
 謙信は眞砂と、共にある竜を見て刀を構え直していた。
「……竜と共に戦う者、か。人でなくとも刃は下げぬぞ」
 瞬間、刀の中から光と炎の二刀を投擲してくる。
 それも高速、だが一直線上の予期された攻撃であるが故に、眞砂はすんでのところで刀を振るい、横薙ぎに二刀を払ってみせた。
 それからスティルに合図を送り、空へ飛び立たせる。
「心配せずとも、俺の相棒は強いから平気っすよ!」
 刹那、逆光に輝くスティルが上空から蒼い光を燦めかせていた。
 それは激しく燃ゆる蒼き焔。
 まるで彗星の如く、尾を引き剛速で降りかかる輝きの球。
 灯火星(トウカセイ)。
 鮮烈で熾烈な炎熱が、謙信へと命中すると──その衝撃に弾かれるように二振りの刀が宙に投げ出される。
 焔の余波までもが苛烈で、謙信を僅かに下がらせる程の威力。
 それでも謙信が抱く刃は八。それを浮遊させたまま、素早く上下に視線を奔らせた謙信は──地上の眞砂へ狙いをつけた。
 素早い踏み込みで距離を詰めると、多少の間合いを置いたところから強烈な刺突。一気に貫こうとしてくる。
 が、完全には避けきれぬと判断した眞砂は、刀を使って防御。衝撃を横に逸らすことで事なきを得ていた。
(……流石に強力っすね!)
 腕の痛みを感じながら──それでも眞砂は廻転して反撃の斬撃を試みる。
 ただ、敵も直後に飛び退いてそれを避けていた。
 ほんの一瞬の攻防、だが眞砂には敵の実力がありありと感じられる。
(時間はかけられないっすね)
 こちらの手の内を全て見切られれば、相手の上を行くのは難しいだろう。
 故に、少ない好機をものにするしか無い。
 けれどそれは始めから分かっていたこと──やり遂げるための、方法も。
 スティルの炎で、更に二本程の刀を逸らさせると、謙信は刀の回収に奔ろうとする。おそらく今が一番、護りの緩い時。
 そこを狙い、眞砂は疾走して肉迫した。
 すると謙信も警戒していたのだろう。すぐに携えた二刀によって撃退の動きを取り始める。
(読まれてるっすよね──けど)
 眞砂は退きはしない。
(……覚悟はとうに決めてたっす。俺は、攻撃を「受け」に来たんすから!)
 ゼロ距離で謙信の斬撃を受け、痛みが体を駆け抜ける。
 意識が飛んでしまいそうなほどの激痛。だが、視界が暗くなる寸前に眞砂は耐えきり、自らの意識を掴んで引き寄せた。
「倒れないっすよ」
 これは隙を作る時間稼ぎ。
 このすぐ後に、斃れることになるのだとしても。
 僅かでいい。数秒でいい。少しでも動きを鈍らせられたなら勝機はあるのだから。
「俺は一人じゃない。──共に戦う仲間を信じてるっす!」
 そのまま今一度刀を握り込み、捨て身の一撃。
 意志を乗せた刃は、強く鋭い。全霊の一刀は謙信を確かに捕らえ、袈裟に深々と膚を抉り、血煙を零させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
オブリビオンってのは過去からの来訪者、なんて言ってた猟兵が居たが…撃破しても再び帰ってくるってのはズルくねぇか…?ま、何にせよもう一度お帰り頂くしかねぇな。

後の布石の為に二丁銃で相手をするか。遠距離から【二回攻撃】紫雷の【属性攻撃】を組み合わせながら遠距離戦。軍神様の遠距離攻撃の方法ってのはあの浮いてる刀を飛ばしてくるんだろ?距離がありゃ軌道を【見切り】、【残像】で躱すぜ。一本ずつなら被害を減らして戦える。俺の狙いは【挑発】。攻撃回数を使用して刀のほとんどを射出した瞬間だ。引き戻すまでの間に距離を詰めて黒銀の炎から手に神殺しを生み出して、UC。【属性攻撃】【範囲攻撃】【衝撃波】で致命傷を狙うぜ



 音を殺すように奔り、戦場の中心部へと駆けていく。
 そうすると風の匂いが変わったような気がして、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は紫の瞳を少しだけ細めた。
(上杉謙信、か)
 陣を抜けた先、そこに見えるのは武士の姿。
 既に継続している戦いによって、ある程度のダメージを与えることが出来ている。仲間の猟兵による決死の継戦。それは確かに如実に敵の体力を減らしつつあった。
「しっかし、何度も斃されてる敵なんだよな──」
 この車懸りの陣自体が、謙信の復活を助力するために仕立てられたものでもある。故にこうして数度斃されたあの敵は、今なお立っている。
(オブリビオンってのは過去からの来訪者、なんて言ってた猟兵が居たが……撃破しても再び帰ってくるってのはズルくねぇか……?)
 少しばかり眉根を動かして、素直に抱くのはそんな感想。
 死して尚戦いに挑み、こちらに立ちはだかるのは如何なる心情だろうか。
 それでもカイムは軽く首を振る。
「ま、何にせよもう一度お帰り頂くしかねぇな」
 蘇るなら、討つ。
 眼前に仕事があるのなら、それを片付けるのが役目だからと。次にはカイムは二丁銃を抜いていた。
 握りも感触も、使い慣れた武器ならば確認する必要もない。手に携えた動作のまま、一瞬のラグも置かずその銃口は前に向けられていた。
 同時、電子の弾ける音が響くと共に紫色の光彩が燦めく。 
 眩いそれは紫の雷光。放たれる弾丸に強力な属性の力を付与して、宙へと奔らせていたのだ。
 砕けた弾頭が衝撃を齎すと、まずは敵の傍に浮遊する水属性の刀が感電したように一時力を失う。
 それによって初めてその驚異を実感したかのように謙信はこちらを向いていた。
「強力な飛び道具だ。──いや、使い手の腕が良いのだろうな」
「褒められて悪い気はしないが。お返しは弾丸だけだぜ?」
 カイムは二丁を僅かにずらして発砲、弱った水の刀をそのまま弾き飛ばす。
 無論、それでも敵には十一の刃がある。謙信は素早くその一刀を放ち反撃の態勢に移ってきていた。
 とはいえ、カイムもそれは予測済み。完全な回避とは至らずも、衝撃のほぼ全てを残像に肩代わりさせる形で横っ飛び。転げるように敵の攻撃を避け、即時に銃撃を再開した。
 ただ、謙信も同じ轍を踏むまいとしてだろう、土属性の刀を前面に出すことで雷撃を抑え、盾の代わりとしている。
「雷は確かに苛烈であろう。しかし同時に単一の属性でしか無い」
「そうかよっ!」
 カイムは応えながら、それでも射撃をやめはしない。交互のリロードと、ずらした射撃により全く途切れのない衝撃の雨を加えていた。
 尤も、これは力で押し切ろうとしているわけではない。
 敵があらゆる属性を持っていることなどは始めから分かっていることなのだから。
「こっちこそ、どんな属性が飛んで来ようと問題ないぜ?」
 あくまで軽い口調で挑発してみせながら。
 一本、また一本と刀が飛んでくるのを躱し、凌ぎきってみせる。そうして敵の刀が減るのを待っていた。
 敵自身は、銃を防ぐのに大量の刀を必要としていない。故に、謙信の手元から殆どの刀が失われる瞬間は、確かにあった。
 それこそが、狙い。
 敵の携える刀が土属性と両手の二振りだけになったその時、カイムは銃撃を止める。
「──待ってたぜ」
 刹那、その手に握るのは魔剣。
 謙信が放った刀を回収しようとする、僅か一瞬の間に──そこに黒銀の焔を生み出して疾駆、一息に肉迫していた。
 黒銀の咆哮(インフェルノ・ロアー)。
 手元に集め、撃ち放つ焔の塊は、黒く滾る濃密な業火となる。謙信を包むそれは、凄まじい火力を持ってその全身を灼いていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァシリッサ・フロレスク
※何でも大歓迎!

軍神、か。相手にとって不足は無いねェ?

――此方の戦法は、“捨て奸”だ。

「血統覚醒」で反応速度を限界まで研ぎ澄まし、
座して【スナイパー】の如く、「ディヤーヴォル」で毘沙門刀の軌跡を【見切り】、【部位破壊】を狙う。刀の接近を許したら【早業・カウンター】の「スコル」【零距離射撃】で迎撃、多少の被弾は【武器受け】と【激痛耐性】で凌ぐ。

刀を十分撃墜するか、いよいよ本体に間合いを詰められたら、「スヴァローグ」を以て吶喊、【捨て身の一撃】で【串刺し】にしてやる。

……まぁ、アタシが墜ちても、少しでも奴の手札を減らせてりゃ上等だ。

“――凡兵戰之場、止屍之地。必死則生、幸生則死”

さあ、来なよ軍神?


バル・マスケレード
※共闘可

仕掛けるのは接近での防戦
敵の高速移動や刀の軌道を【見切り】、【武器受け】に徹する
俺のトリニティソードは表出する属性を切り替えられる剣
ある程度は敵の属性に対応できる
片手の銃で適度に牽制射撃を加え、本当の狙いを隠す

まったく、腹が立つぐれェ強力な刀だ
だから、そいつを利用する
奴さんが刀を放射してきた瞬間
その角度をこそ【見切り】……避けることなく、受ける
攻撃を受ける瞬間、UCで腹に空けた次元ポータルでな!
あら不思議、取り込まれた刀は謙信の真後ろから出現して
その背中を狙う【だまし討ち】の完成って寸法だ
ポータルを開けた瞬間、俺も正面から剣でもって斬りかかる
前後からの急襲、どっちか一つが通りゃ上等だ!



「あぁ、戦いの匂いがしてきたねェ」
 気流に交じる烈戦の気配。陣を抜け、尚感じる危機の薫り。
 そこに死地の空気を感じ取って、それでもヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は尖った歯をのぞかせ笑って見せる。
 妖艶というよりは好戦的に。爽快というよりは、愉快に。そこに闘争があることに怖じ気の類は微塵も無かった。
「さて、どんな戦いがあるやら──」
「ま、楽な戦闘じゃねェことだけは確からしいな」
 応え、草の間を並走するのは仮面の影。 
 バル・マスケレード(エンドブリンガー・f10010)。目深な衣とその奥のマスクから、前方をしかと見据えている。
 走り込んで到着したそこは激戦の渦中だった。
 猟兵が全霊を以てその力を注ぎ戦う相手──軍神、上杉謙信の姿がそこにある。
「十二の刀を振るう、かよ。厄介そうじゃねェか」
「いいじゃないか」
 ふふ、と。
 ヴァシリッサは眼鏡の奥で瞳に笑みを含めてみせた。
「軍神、か。相手にとって不足は無いねェ?」
 それでこそ全力を惜しみなくぶつけられるというもの。
 血が滾るのを自覚しながら、ヴァシリッサは血統覚醒。瞳を真紅に爛々と輝かせ、ヴァンパイアへと変わり行きながら──早速間合いを取った状態で交戦の準備に入る。
 それを横目にしたバルもまた、少々肩を竦めつつ。それでも自身もよどみなく、すらりと刃を抜いて前を向く。
 ヴァシリッサとは対照的に接近戦を狙うバルは──そのまま速度を上げて距離を詰めた。
 一切の躊躇いもない。ただ至近の間合いに入って剣を仕掛けようとしてみせる。
 高速で迫る影に、謙信は無論刀を以て対応。氷の刀を煌かせ、宙に掲げていた。
「剣に覚えのある者か」
「さァ」
 どうだかな、と嘯きつつ。見せる相貌はあくまで仮面のまま、バルは剣を握り込む。既に謙信が刀を振り下ろして来ており、それを防ぐためだ。
 強烈な衝撃音と共に、剣に刀が打ち合わせられる。
 或いは尋常の刃であれば、そのまま寸断されてもおかしくはない威力──だが、バルの刃は原形を保つばかりではなく、逆に敵の刃の力を奪っていた。
 それはとっさに、剣の属性を炎に変換していたから。相性のいい状態にしてぶつけることで、敵の刀の方へダメージを負わせていた。
「──」
「こっちも愚かじゃねェってことさ」
 バルは同時に蒸気銃を反対の手に握っていた。
 至近から放つ弾丸は蒸気の塊。強烈な圧力を伴った衝撃の紫煙だ。
「見事だ、が」
 謙信は言いながら、それでもとっさに対応。風の刃を大きく振るうことで蒸気を吹き飛ばし、攻撃を相殺している。
 そのまま連撃でバルへと斬撃を加えようとする、が。
 横合いから爆発するかのような衝撃。
 刀とともに腕を払われるように、謙信は体勢を崩していた。
 とっさに間合いを取って謙信が視線を遣る、その先には──ヴァシリッサ。
 座して照準を合わせ、銃架に固定しているのは50口径重機関銃──Дьявол(ディヤーヴォル)。
 引き金を引くと、空気が破裂するかのような震動音が鳴る。同時にヴァシリッサの体に幾ばくかの反動を伝えながら12.7×108mm徹甲弾が飛翔し、熾烈なる威力を以て襲いかかっていた。
 謙信はそれを数度刀で受けるが、あまりの衝撃に一部の刃先がわずかに欠ける。
 それを見て看過出来ぬ威力と悟ったのだろう。素早くそちらに狙いを向け、ヴァシリッサへ向けて刀を放ってきた。
「──望むところだよ」
 ヴァシリッサはレティクルを合わせながら自然と笑みを零す。
 ほんの一瞬、気を抜いただけでそこに映る刀は自身を貫くだろう。だが怯まず、寧ろ愉しんで見せるように──射撃。
 腹の底に響く震動と共に弾を放ち、剣先へ打ち合わせる形で命中。そのまま衝撃で刀を撃ち落としてみせた。
 それを目の当たりにした謙信は、単一の攻撃では迎撃を許すと理解したのだろう。刀を二本用いて、僅かに角度をずらしながら射出してくる。
「それだって、予想済みさ」
 ヴァシリッサは素早く体勢を戻すと、手にくるりとSkoll(スコル)──リボルバーショットガンを携えていた。
 ソウドオフされた一丁は取り回しの自由度が特徴。それでいて威力は切り売りせず、0.729インチの弾丸をばら撒く一射は強力。瞬間的に弾幕を張るように、二刀共の軌道を逸らしてみせていた。
 完全な回避とは行かず、微かに刀はヴァシリッサを掠める。それでも直撃が免れればお釣りが来るほどだ。
 元より此方の戦法は、“捨て奸”。
 少々傷つくことで成果が得られるなら、寧ろ歓迎。そのまま連射し、逆に謙信の体を穿ってみせていた。
 “──凡兵戰之場、止屍之地。必死則生、幸生則死”。
「さあ、来なよ軍神?」
「……いいだろう」
 謙信はそのまま距離を殺し接近戦に持ち込もうとする。
 けれど、その眼前に突き付けられる刃。バルが自由を許すはずもなく、剣を向けていた。
「こっちとも相手してくれよ」
 同時、蒸気銃も連射して、刀の間をかいくぐり数発を撃ち当てて見せる。
 微かによろめいた謙信は、視線を二人の間に巡らせた。
 どちらとも、微かの油断も出来ぬ相手だとは既に理解しているようだ。だがそれ故に、謙信も引かず二人を相手取ることを選択する。
 一刀を操り、すかさずバルの剣と打ち合わせ──同時に自身も止まらずヴァシリッサへと攻めてきた。
「そうくると思ったよ」
 けれどヴァシリッサはそこまで予見済み。
 敵の獲物が刀である以上、それを退け続けていれば最終的には至近の間合いに持ち込まれるのだ。
 故に、こちらが返すのも捨て身の一撃。射突杭スヴァローグを携えると、ゼロ距離から膚を破るように杭を打ち付け、体内へ自身の血を流し込んでいた。
 ヴァシリッサは血液を発火させる能力を持つ。瞬間、それを内部から爆轟させることで比類なき衝撃を与えていた。
「……!」
 謙信が血を吐き、足元をよろめかせる。
 想像以上の威力に驚愕を覚えたか、二人を全力で退けようと、残る刀を全て放射してくるが──。
 それこそ、バルの狙い通りだった。
「まったく、腹が立つぐれェ強力な刀だよ」
 だからそれを利用させてもらう、と。
 斬り合いで成果が薄ければ、此方にはいつかは刀を放射してくると判っていた。
 バルはその一瞬を見切り、避ける事無く受ける。トリックディメンション──腹に空けた、次元ポータルによって。
 それは戦場内であればあらゆる場所につなげる事のできる次元の通り道。吸い込まれた刀はその速度と威力を保ったまま、謙信自身の真後ろに出現していた。
「受け取れ!」
 同時、バル自身も正面から斬りかかる。前後から襲う衝撃と刃の奔流に、謙信は貫かれて血潮を散らせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオレッタ・アネリ
毘沙門天の化身さん、すっごい強そう!
…たぶん正面から戦っても敵わなそうだよね

まずは《カルペ・ディエム》で戦場一帯を花園にして
《クローリス》で自分の幻影をすごくたくさん作るよ

そしたら幻影に紛れて花園に姿を消し、逃げ足で遠くへ…

逃げた後は囮の幻影に注意を向けさせつつ
姿を消したまま《クローリス》の精神攻撃で謙信さんを眩惑
刀の制御を鈍らせる

その裏で《メリアデス》の蔦をこっそり這わせ
謙信さんに届いたら《春の祝福》で《メリアデス》の効果を増幅!
蔦の拘束で自由を奪い、同時に周囲の地面から
枝槍をたくさん生やして攻撃するね!

正々堂々じゃないけど…
春の女神が軍神さまと戦うには、これくらいしないとね



 気流が色彩を帯びて、鮮やかな虹が揺蕩っているようだった。
 それは美しいけれど、同時に肌をぴりぴりと刺激するような鋭さも感じて。彩を抱く風でも季節の恵みとは違うのだと明確にわかる。
 だからフィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)は、空色の瞳に無邪気な驚きを浮かべて、風竜ゼフィールに声をかけていた。
「毘沙門天の化身さん、すっごい強そうだね!」
 寄り添うその精霊竜も、そこに立つ武士──上杉謙信の存在を感じ取り、同意を示す素振りをしている。
 フィオレッタはうんと頷いて、そっと顎に指先を当てた。
「……たぶん正面から戦っても敵わなそうだよね」
 それは鋭敏に感じ取った事実。
 彼の軍神が、ひどい心の持ち主だとは思わないけれど。その気になれば花だって木々だって、無数の命だって一瞬で刈り取ってしまうだけの力があると、フィオレッタには判るから。
 でも、花の力だって春の力だって、優しく弱々しいばかりじゃない。
「それを教えてあげるね」
 フィオレッタは明朗に云ってみせると、手を伸ばしてふわり。まるで芳醇な芳香を含んだような春の風を吹かせていた。
 瞬間、高さの無い草原だったその景色にひとつ、ふたつ。
 蕾が生まれて花開いて。桃色、白色、紅色。無限の花弁が咲き乱れ、一帯が花園へと変わっていた。
 美しくも香気満ちる景色。
 さらさらと花が揺れると長閑な音が耳朶を打つようで、まるで別の世界に迷い込んでしまったかのような眺めだった。
 その色彩の中で、フィオレッタは精霊魔術を編んで淡い揺らめきを作り出す。
 ひとの形を取って、低い空中を踊るように滑り出すのは──フィオレッタの幻影。
 黄金の髪を仄かに波打たせ、薫りまで漂わせるそれは本人と瓜二つ。数多のその幻が花園に舞い始めると、もはや本物のフィオレッタを捉えるのは難しくなった。
 春の夢幻。
 その渦中に佇んだ謙信は──深い警戒を浮かべて見回している。
「幻影の魔術の使い手か……いや」
 と、首を振って刀を握った。
「もっと高位の存在か。この花園は美しさに過ぎる。或いは、神の類の御業だ」
(さすが軍神さまだね!)
 吹き抜ける花風の中で、フィオレッタはその慧眼に感心も浮かべる。
 けれど、それとこの鮮やかな牙城が崩せるかは別問題。
 謙信は躊躇わず、手近な幻へ斬撃を与えて切り捨てていた。けれどどれも本物でなければ、微かな花薫りを散らして消えてゆくだけ。
 そうして謙信の手がふさがっている内に──フィオレッタは花々に紛れて新たな魔術を顕現させてゆく。
 それは《クローリス》。花精を喚ぶことで幻影を操り、精神に触れることを可能にするものだった。
 それに見舞われた謙信は、目に映る花の全てが刃となって襲う幻を見る。
 とっさに全ての刀を招集して受け止めようとするも、あくまでそれは非現実に過ぎない。その内に幻に囚われ、刀の制動も鈍り始めていた。
 フィオレッタはその裏で《メリアデス》も行使。樹精を喚び蔦をこっそりと這わせ、謙信へと伸ばしていた。
 謙信がそれに気づかぬうちに、フィオレッタはその神性を顕にして《春の祝福》──樹木を操作する力を増幅する。
「花よ、森よ、風よ──春と豊穣の恵みあれ」
 すると春の芳香が一層強まって、花々がさざめく。
 瞬間、その蔓は高速で動き、謙信の体を拘束して自由を奪っていた。
「……、これは」
 謙信は驚きを露わにし、刀で振りほどこうとする。だが眩惑の残り香が漂う中ではそれも上手く行かない。
 フィオレッタはその隙に地中へ宿させた植物を操り、枝槍を生やしていた。
 花々の間から、突き出るように伸びた鋭利な衝撃。それは自由の利かぬ謙信の体を穿ち、貫いていく。
「正々堂々じゃないけど……春の女神が軍神さまと戦うには、これくらいしないとね」
 フィオレッタはその間も素早く花園を踊り、謙信から距離を取っていた。
 謙信は枝槍から逃れ、追おうとするも──そこで新たな幻に囚われるだけだ。
 再び蔦で縛ってしまえば、後はフィオレッタの思う儘。鋭き植物が畝り、軍神の命を確実に削り取ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユノ・フィリーゼ
貴方が何であるか理解はしているつもり
だから、余計な言葉は不要よね
此処を貴方の最期の舞台にしてさしあげるわ

仲間とは可能な限り協力して
風は何処までも自由で、気まぐれ
何ものにも捕らわれない
―貴方も知っているでしょう?

深風の祈誓を使い、風の祝福を纏えば
見切りに残像、第六感、空中さえも足場にして
刀の軌道を読んでは剣戟を躱す

銀剣を奮い衝撃波を繰り出し
続け重ねる様に烈風の刃を見舞う

例え彼まで刃が届かずとも
十二の刀、その一つ、何れかは封じてみせる
(そう、出来る迄、何度でも)

貴方に比べてしまったら
私達はとても弱い存在かもしれないけど
守るべきものがある限り、人は幾らでも強くなれるのよ
それを貴方に、証明してみせるわ



 一歩、一歩。小さなアーチを描くように地を蹴って、低い空を翔ぶ。
 風に乗り、風に押されるようにその只中に入っていくと──空気が戦いの色を帯びているのがわかった。
(上杉謙信──)
 ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)はふわりと草の絨毯に降り立って、その視線の先にいる武士の姿を捉えた。
 蒼空から風に乗って現れた蒼の少女に、上杉謙信は刀を構えてくる。
 その身は既に負傷しているが、それでも未だ斃れてはいない。だからユノも顔を合わせたその軍神に対して、多くを語らなかった。
「貴方が何であるか理解はしているつもり」
 だから余計な言葉は不要よね、と。
 涼しくも澄んだ声音で言うと、もう心は戦いに向いている。
「此処を貴方の最期の舞台にしてさしあげるわ」
「……ならば、全霊を以て斬るのみだ」
 その真っ直ぐな心根に、濁りのない戦意で応えるように。ユノの蒼眸を見据えた武士は、自身も言って一歩踏み寄った。
 同時に刀を巡らせ、防壁と攻撃の加速を兼ねさせる。 
 その刀が飛んでくれば、一撃一撃が致命になりうるだろう。
 だから抜けた空の見えるこの空間で、ユノは風に踊るのだ。
 謙信は回転する刀の中から、眩い光属性の刃を真っ直ぐに撃ち出してくる。しかしユノは──その体に風の祝福を纏い始めていた。
 薄雲透かした淡い蒼の髪が、さらりさらりと靡く。透明な気流が優しく渦巻いて、空向きの力をを生み出す。
 深風の祈誓(ミカゼノキセイ)。
 瞬間、とん、と。軽く地を蹴ることでユノは空に翔び出していた。
 素早く真上に避ける形を取ったため、すんでのところで敵の刃を躱す。目を見開いた謙信が、再度斜め方向に土の刀を放ってくるが──その攻撃も、空を足場にするように風を跳躍して前に避けてみせた。
「風を操るか」
「ううん、違うわ」
 仰ぐ軍神に、ユノは小さく首を振ってみせる。
「風を我が物にしてるわけじゃない。風を支配しているわけじゃない」
 だって、そんなことできやしないから。
「風は何処までも自由で、気まぐれ。何ものにも捕らわれない」
 自分はただそれと共にある。
 ただ、それだけのだと。
「──貴方も知っているでしょう?」
 風に彩を映し、風の刀だって携えてみせるのならば、と。
 謙信は、ならばその風を刃を以て裂いて見せようと風属性の一刀を放ってくる。けれど、吹き抜ける風によって微妙にぶれる剣先と、その挙動をユノは素早く見切っていた。
 風の表情をしかと読み取って見せるように、ひらりと体を翻し。鮮やかな空の舞踏をみせるように、ユノはそれをしのいでみせた。
 だけでなく、その手には繊麗な銀剣を握っている。廻転の勢いを弱めぬように、弧を描きながら刃を振るい、衝撃波を繰り出した。
 さらに、それと重ねるように祈誓による烈風の刃も見舞っていく。
 まるで鮮烈な風が吹き付けるような、波状の透明な剣戟。
 謙信は刃を集めて盾として耐え抜く──が、ユノは空を緩やかに旋回しながら、風の雨のような連続剣撃を放っている。
「……!」
 謙信は微かに表情に苦心を見せ始めていた。
 一撃、また一撃と繰り返されるたび、刀の制動が効かなくなり刃先もこぼれてくる。
 その合間を縫って刀を放射するが、それでも衝撃波の壁に阻まれるように速度が緩まり、ユノに命中するには至らなかった。
 さりとて、ユノも完全なる優位に居るわけではない。
 こちらは攻撃を緩めればいつでも敵の刃に襲われる可能性がある。同時に今尚、敵には深い傷を与えられていない。
(それでも、諦めない)
 例え彼まで刃が届かずとも。
 十二の刀、その一つ、何れかは封じてみせる。
(そう、出来る迄、何度でも)
 だからユノは空を翔け、立ち向かい続けた。
「私達はとても弱い存在かもしれないけど。守るべきものがある限り、人は幾らでも強くなれるのよ」
「──」
「それを貴方に、証明してみせるわ」
 ユノは大きく剣を翳し、裂帛の一刀を放つ。
 僅かに歯を咬み、攻撃を耐え抜こうとする謙信。だが、一層強力な意志の乗った刃は、陣風のように駆け抜けて──火の刀の炎を消し去った。
 生まれた好機。
 ユノは烈風と衝撃波を重ね、渾身の刃を撃ち出す。それに完全に反応しきれぬ謙信は、膚に深々と傷と血の跡を刻まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忍冬・氷鷺
名だたる彼の軍神が相手とは
このような形で相見えたのも、何かの縁という物なのだろう
我が名は忍冬氷鷺。いざ、尋常に勝負

瞬き一つした後に蛇氷焉武を起動
創造した氷蛇を苛烈なる刀撃を防ぐ氷壁として利用を

蛇を躱しゆく一撃は残像と力を以て抗戦
手にする黒爪や大苦無の刃にて弾き返し
生命力吸収で命を継ぎながら立ち向かう

俺は何時如何なる時も、
今を生きる者の力で在りたいだけだ
この身が幾度傷つこうとも
我が裡に宿る炎、この信念は決して傷つく事は無い

――理念思想は違えども、貴殿も同じで在ろう?

ふ、と笑み一つ零し
今一度神の名を持つ男へと
己の全てを込めた覚悟の一撃を
神も死も恐るるに足らん
立ちはだかるのならば打ち砕く、それだけだ



 空気の温度が下がった気がして、肌を不思議な感触を覚えた。
 夏に交じる冷たい風。
 ただ、それは冬が入り混じったと云うよりも──死地に吹く慈悲のない風なのだと忍冬・氷鷺(春喰・f09328)は思った。
 冬の峻厳な冷たさと違う、吹きすさぶ死の色。
 それは鋭い刃先に似ていた。
「……上杉謙信」
 肌を刺す空気の中、氷鷺は戦場に入る。すると十二刀を携えた武士はこちらに目をやり、闘いの姿勢を取る。
 静かだけれど、その威容は十二分に感じられた。
 けれど吹きすさぶ風にも、その戦気にも氷鷺は静謐の表情を以て怯まない。此処まで来たのなら、こちらも全力を以て当たるだけなのだから。
「名だたる彼の軍神が相手とは。……このような形で相見えたのも、何かの縁という物なのだろう」
 そうとだけ言ってみせると。
「我が名は忍冬氷鷺。いざ、尋常に勝負」
 刹那、瞬き一つ。
 その瞬間、周囲に冷気にも似たものが吹き抜ける。
 風に交じる冷たい空気──それは確かに戦場に漂うものとは違う、純粋な冬の匂いだった。
 直後、巨大な白色が形を取り戦場に出現する。
 それは仰ぐほどの大きさを持つ氷蛇。氷鷺の周りを畝るように揺蕩い、謙信を見下ろしていた。
 それは文字取りの氷壁。
「……凄まじき冷気だ」
 謙信こそが、その威容に微かに一驚して見せるように。
 ただ、それでも眼前にあるものが氷であり防壁であると見れば、それを突き崩すのが最良と判断したのだろう。謙信は接近し、剣撃を以て蛇を破ろうとしてくる。
 だが氷壁は堅牢にして強固。裂帛の剣撃を受けてもそう簡単には破砕せず、氷晶を散らしてそこに佇むのみ。
 瞬間の隙を突いて、氷鷺が逆に接近。黒爪による鋭利な斬撃を叩き込んだ。
「──強力だな、攻撃も、護りも」
「……まだ、これで終わりではないぞ」
 軍神の称賛にも立ち止まらず、氷鷺は連閃。大苦無での二撃、三撃も加えていく。
 血滴を零しながら、それでも謙信の護りも浅くはない。すぐに刀を巡らせ斬撃を弾き返し、防御を固めていた。
 だけに留まらず、火属性の刀に力を集中。刃を滾らせるように熱を強め、氷蛇を深く切り裂いてくる。
「貴公の氷は確かに厚い。だが、氷である以上そこに付け入る隙がある」
「無論──分かっている」
 氷鷺はそれでも引かず、接近しては斬撃を試みた。
 敵が蛇の一端を切り落とし、氷鷺自身に刃を差し向ければ──残像に切らせることで凌ぎ。それでも刃が迫ってくれば此方も刃で弾き返しながら。
 氷が強みであると同時に、弱みでもあることくらいは承知の上。
 けれどそれが白を抱くということでもある。
 自身の力に、境遇に、もう心を凍てついたままにはさせない。持てる力を以て攻め入るだけの心が、今の自分にはあるのだから。
 切られても退かぬ氷鷺に、謙信は微かな唸りを零す。
「何がそこまで掻き立てる」
「俺は何時如何なる時も、今を生きる者の力で在りたいだけだ」
 途切れぬ剣戟、零れる血潮。
 その中で氷鷺は静かに、しかし内に温度を秘めた声音で言ってみせた。
「この身が幾度傷つこうとも。我が裡に宿る炎、この信念は決して傷つく事は無い」
 ──理念思想は違えども、貴殿も同じで在ろう?
 ふ、と笑み一つ零してせながら。
「……」
 その言葉に、謙信は衒わず、敬いの色を見せた。
「貴公の方が、よほど武士らしいのかもしれないな」
 ならば全霊で、と。より一層の力を刀に込める。
 けれど蛇が砕かれても、氷鷺は退きはしなかった。今一度神の名を持つ男へと、己の全てを込めた覚悟の一撃を放つのみ。
「神も死も恐るるに足らん」
 立ちはだかるのならば打ち砕く、それだけだ、と。
 刃に突き刺されながら、それでも踏み込んで一撃。氷鷺は苦無で謙信の腹を貫通させてみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

村崎・ゆかり
ご機嫌よう、《越後の龍》。あたしのことは《紫蘭》とでも呼んでちょうだい。

「高速詠唱」で巫覡載霊の舞と飛鉢法、執金剛神降臨を急ぎ起動。その隙を狙われたら薙刀で弾き対抗。

薙刀からの「衝撃波」で十刀を「なぎ払い」、執金剛神の金剛杵を防備の薄くなった上杉に「串刺し」に「2回攻撃」で突き立てる。

舞い踊る毘沙門刀は風の「属性攻撃」「全力魔法」で吹き飛ばし、「衝撃波」で剣身に損耗を蓄積させて砕く。

毘沙門刀に囲まれての全方位攻撃が一番怖いから、常に逃げ場があるような位置取りを鉄鉢に銘じて。

悪いけど相打ち覚悟とかいうのには浪漫を感じないのよ。
あなたはここで倒れ骸の海に還る。それがこの世の定めよ。もう眠りなさい。



 草の揺れる音が緩まって、静けさがより深い静謐に近づく。
 微風というよりも凪に近いそれは、戦いの終焉が近いことの予兆であるのかもしれなかった。
 血溜まりに膝をつく上杉謙信は、確かにその体力を弱めつつある。尤も、その状態でさえ、寸分の油断すら出来ない相手だから──村崎・ゆかり(《紫蘭(パープリッシュ・オーキッド)》・f01658)はゆっくりと地を踏むように歩み寄っていた。
「ご機嫌よう、《越後の龍》」
「……猟兵か」
 微かに浅い息で、軍神は顔を向ける。色の薄い相貌には、しかし苦心に似たものも確かに浮かんでいた。
「誰しもが猛者揃いの中で、まだ刺客がいるとはな」
「こちらの数が多いのも、予想済みでしょ? あたしのことは《紫蘭》とでも呼んでちょうだい」
 ゆかりは言ってみせると、紫にきらめく刃の美しい、薙刀を携えていた。 
 瞬間、自身を淡い光で包み込むと飛鉢法。
 微かな明滅を経て華麗な戦巫女の様相へと変貌すると──同時に自身を神霊体へと消化して薄い煌きを帯びる。
 揺らぐ装束、揺蕩う黒髪。
 美しき巫女は無論、その見た目に麗しいばかりではなく。
「──オン ウーン ソワカ」
 空中の空間に陽炎を生み出し、その中に巨躯の影を喚び出す。
 執金剛神降臨。
 降り立ったそれは甲冑と金剛杵を抱く執金剛神。謙信へと攻め込ませながら、同時にゆかりも素早く低空を滑るように攻勢に入っていた。
「悪いけれど、遠慮なく行くわよ」
 一息の内に間合いに入ると、まずは大きく薙刀を振るい、衝撃波。紫に明滅する眩き斬閃の波で、敵を囲う刃の一つを弾き飛ばしてみせる。 
(さすがに柔くはないわね)
 ならばさらに属性の力を持って対抗。返す刀で大ぶりに薙刀を薙がせると──そこに魔力を注ぎ込んだ風属性の力を権限。さらに二刀を吹き飛ばしていた。
 敵の刀の制動が緩まっているのも、刀自体の力が弱まっているのも、猟兵達が蓄積させた負傷の成果でもある。それでいて、ゆかり自身の魔力が苛烈でもあるが故に、その暴嵐が謙信自身にも無数の傷を刻みつけていた。
 ただ、謙信も防戦一方ではなく。合間を縫うように属性の力を高め、氷の大波を放ってきている。
 ゆかりは衝撃波で可能な限り破砕をしながら──それでも全ては消滅しきれず横っ飛びに逃れていた。
「こっちもあんまり余裕はないわね」
 満身創痍であろうとそれは軍神に相違ない。一瞬の気の緩みが死を招く、それは偽らざる真実だった。
 尤も、だからこそゆかりも始めから全力だ。次の衝撃波を放つ頃には──敵の浮遊刀は全て吹き飛ばされて、謙信の携えるのは僅か二刀のみ。
 ゆかりはそこへ機を合わせ、執金剛神を奔らせていた。
「さあ、今よ」
 鋭き金剛杵は、謙信の二刀をも弾きながらその体に突き立つ。鮮血が零れる中、ゆかりがそこへ躊躇なく肉迫していた。
 この好機を逃せば、散った刀はまた謙信の手元に戻るだろう。
 こちらの疲労も被害もゼロではないがゆえに、その時にまた同じ戦いができるかどうかは全く判らい。
 故に、仕留めるならば今しかない。
 戦った全ての猟兵の思いも乗せるように、ゆかりは薙刀を直上に掲げた。
 謙信は唸りながらも二刀を突き出そうとしてくるが──それもすんでで避けてみせながら。
「……!」
「悪いけど相打ち覚悟とかいうのには浪漫を感じないのよ」
 はっとする謙信へ、ゆかりは刃を振り下ろす。
「あなたはここで倒れ骸の海に還る。それがこの世の定めよ。もう眠りなさい」
 繰り出された一撃は、刃の鋭利さと衝撃波の激しさを伴って、謙信の体を散り散りに吹き飛ばす。
 一瞬後に、風が晴れた頃には──そこにはもう軍神の姿はなかった。
「終わった、かしら」
 ゆかりは周囲を見回す。
 吹いているのは夏の匂いを含んだそよ風。死の彩はそこには感じられず──そのひんやりとした感触が何処か、心地良かった。
 戦乱は、既に激動しつつある。
 素早く関ヶ原を抜けた猟兵と幕府軍は、佳境を迎えつつある戦の只中へと、また進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月21日


挿絵イラスト