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黄金の都

#UDCアース

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#UDCアース


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●とある男の終わり
 ——そして、救いが訪れる。
 暗く、何処までも続くかと思われた闇の向こうでそんな声がした。行ってはいけない。逃げなければならない。それが分かっているのに、この体は既に自分で動かすことなど出来なくなっていた。
「欲望を、解き放つです。我々は苦しみを以て肉体を手放し、魂を解き放たなければなりません」
 魂の持つ重さを、救済しなければならないのだと『彼ら』は言う。
「欲望たる心を、栄誉を求める心を、理性たる心を。全ては魂の正しい在り方を定める為、数多の欲望と共に私達は告げなければなりません」
 声は、女のそれであった。少女の声か、女性の声だろうか。
「君、君……、そんなことを言って……」
 年齢も分からず、喘ぐようにそう告げた先で姿を、見た。暗がりに浮かぶ白い顔。表情ひとつ変えぬままに告げる。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い」
「うそ、うそだ。待て、待ってくれそんな……生きているのか? 君は、そんな状況で? 苦痛? まさか、君は、君はどうしてそんな姿に——」
 やめろと叫ぶ声より驚愕が先に走り、訪れる苦痛が男の最後の叫びをかき消した。
「痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる」
 静かに女の声が響く。少女のように、妖艶な女のように声ばかりが響いていた。

●黄金の都
「ま、どうも怪しい話になってきたんだよねぇ」
 集まった猟兵達を前に、そう話を切り出したのは烏丸・千景(陽炎の果て・f11414)であった。
「邪神復活の予兆が出てねぇ。で、怪しいのがこのデパート。このデパートのどっかに儀式場を拵えてるみたいなんだよねぇ」
 少しばかり高級志向のそこは、至極真っ当な会社によって運営され、そこそこの売り上げと地位を確立していたが——何の因果か、とある邪教集団に目をつけられた。
「若しくは、信者が生まれたか、設計段階で目をつけられていたか、だが……まぁそこら辺は分かっちゃいない」
 ついでに言えば、そこを調べている余裕は今回は無いのだ。
「一足先に、 UDCエージェントが消息を絶った。あちらさんに見つかって、もう生きちゃいないだろう」
 連絡を絶った場所で、相当の出血があったのが確認されている。拭き取られてはいたそうだが、そこに書かれていた文字がひとつ。
「あちらさんからのメッセージってよりは、聖句のつもりなんだろうねぇ。『苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い』ってね」
 その言い分から彷彿とされる団体はひとつ。
 要注意団体「黄昏秘密倶楽部」だ。
「苦痛と精神の死を救済と信じてる。奴さん達が絡んでるなら、悠長にはしてられないからねぇ」
 んで、おでかけ。と千景は猟兵達に告げた。
「奴さんらは、このデパートで何らかの儀式をやってるからねぇ、お買い物しに行ってちょうだい」
 取り扱っている商品に、問題は無い。だが、ここ暫く、デパートに入ったきり出てきていない客がいるのだという。
「ま、選ばれてるんだろうねぇ。共通点は客であることだが、少しずつ派手になってきている」
 忽然と消えただとか、錯乱する者がいたとか。
 儀式の影響が客にも出てきているのだろう。
「運悪くそういうのを感じちゃうタイプとかねぇ。ま、既にあちらさんにエージェントが発見されている状況だ。これ以上、気がつかれるような行動はしないように」
 邪神の完全復活を阻止すべく動いている猟兵の存在に気がつけば、彼らは容易く一般人を手に掛けるだろう。
「復活の儀式が僅かに遠ざかっても、そいつは救いだ」
 彼らの理論で言えば、苦痛と精神の死と共に。
「エージェントが最後に残してったメモもあるからねぇ。そいつも上手く使いんさい」
 まぁひとまず、気軽に買い物をして来て良いと千景は言った。
 それが、邪教集団の目を誤魔化すのにも役立つことだろう。
「たぁんと油断させて、片付けて来るように。ま、ちゃんと気きぃつけんさい」
 グリモアの光が淡く灯り、ゆるく笑う男は猟兵達を送り出した。


秋月諒
 秋月諒です。
 どうぞよろしくお願い致します。
 基本的にまったり運営になるかと思います。

●各章について
 1章:深淵からの使者
 2章:現時点では詳細は不明
 3章:ボス戦。現時点では詳細は不明

 1章で調査をし、2章で奥深くに向かい、3章でレッツバトル、という雰囲気になるかと。
 各章、導入追加後、プレイング受付告知致します。
 プレイング受付期間はマスターページ、告知ツイッターでご案内いたします。

 状況にもよりますが全員の採用はお約束できません。

●第一章について
 デパートでお好きに買い物をどうぞ。1章のみのお買い物もどうぞ。
 高級志向のデパートで、デパ地下グルメも人気のようです。
 今のシーズンはバレンタインチョコを色々売っているようです。

 アイテムの自動発行はありません。

 *デパートが取り扱っている商品は普通の商品です。おいしいの、いっぱいあるよ!

●お二人以上の参加について
 シナリオの仕様上、三人以上の参加は採用が難しくなる可能性がございます。
 お二人以上で参加の場合は、迷子防止の為、お名前or合言葉+IDの表記をお願いいたします。
 二章以降、続けてご参加の場合は、最初の章以降はIDの表記はなしでOKです。


 それでは皆様、御武運を。
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第1章 冒険 『深淵からの使者』

POW   :    そのショップに乗り込み直接対話して、店員の正体や目的を調査する。

SPD   :    そのショップの情報を聞き込みをして普段どういう様子なのか調査する。

WIZ   :    そのショップの情報をネットを使って、口コミやハッキングで調査する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●上壁水面デパート
「——そう、アナタ達が今回の増援ってことね」
 デパートに入る前、猟兵達に接触してきたのはUDCエージェントだった。行方不明——死亡した先のエージェントの同僚でもあったという彼は、長い髪を揺らして猟兵達に告げた。
「ワタシの調べだと、店員に怪しいやつはいないわ。経営者に関してもネ。経営母体についてはまだ調べられてないけれど……、実際、デパートに仕掛けられてる儀式の方が問題ね」
 邪神復活の儀式。その余波が出てるのか、時折客が失神することや、一時的な狂気に陥ることがあるという。
「数は少ないケド、そんなものに一般人がほいほい触れちゃうってことの方が問題ヨ。今のところは、色々理由をつけて誤魔化してるみたいだけド、いずれ潰れるワネ、このデパート」
 このまま行けば、の話だ。
「それと、アル……アルフレッドの残したメモがこれよ。ぼかしてあるのは、きっと自分が教団員に目を付けられたのに気がついていたのかもしれないわ」
 手渡されたメモは一枚。数字が二列、並べられていた。

 16 ■ 32 40 ■ 56

 2 10 24 44 ■ 102

「二種類ってことでしょうネ。最初の数字については、店の番号じゃないかと思ってるワ」
 デパートの店にはそれぞれ番地がついているのだという。左が階、右が場所だ。
「二桁まで、ネ。だから、この二行目の数字に関しては別の種類のものでしょうネ」
 単純に空欄に入るものを求めれば良いのか、それ以上の何かがあるのかは不明だという。
「私は化粧品売り場にいるから、何か起きたときは任せて頂戴。
 それに、あいつらが何かを起こすにしても『この後』よ。今は情報を集めるか——そうね、この不幸なデパートのために、買い物でもしていかない?」
 それが欲望の蒐集であっても、魂の対価であったとしても。
「このデパートが楽しい場所だって事実は、私がちゃんと証明してあげるわ」

◆―――――――――――――――――――――◆
第1章受付期間
1月29日(木)8時31分〜31日(日)23時

*メモの内容が(どちらでも)誰か一人でも解けた場合、2章が有利に展開します。
*特に解けなくても進行はします。
*デパートはチョコレートフェスタ中です。

◆―――――――――――――――――――――◆
乱獅子・梓
綾(f02235)と

客が突然失神したり発狂したりするデパート…
そりゃあおっかなくて誰も近寄らなくなりそうだよな

バレンタインチョコ眺めるのなんて大半が女性だろう
野郎二人組がその中に混ざるのはどうも気恥ずかしい
逆チョコ自分チョコとか、それもう販売側の戦略では?
まぁバレンタインチョコの風習そのものが
お菓子業界の戦略で始まったらしいが…
あー、分かった分かったから!

ナチュラルに俺に買わせようとするな
ツッコミ入れつつ一応値段を確認
…高ッ!?
たかがチョコ、されどチョコ…
ふと思った、もしかして俺でも作れるのでは?
料理好きの血が騒ぐ
今度俺が作ってやるから我慢しろ!

…次の休日までに、チョコの作り方を研究せねば…


灰神楽・綾
梓(f25851)と

この世界だったらネットで「いわくつきデパート!」とか
書き込まれて悪い意味で有名になりそうだよねぇ
なんて他愛無い会話をしながら
目に付いたのは沢山のチョコレートが並ぶコーナー

ああ、そういえばもうすぐバレンタインだったね
梓、梓、俺チョコレート見ていきたい
今は友チョコ逆チョコ自分チョコなんて
言葉もあるし気にしない気にしない
あれこれ言う梓のコートを無理やり引っ張っていく

チョコそのものだけでなく
箱や袋など、ラッピングに至るまでお洒落なものが多い
あれもいいなこれもいいなと目移り
梓ー、俺これが欲しいなー
えっ、本当?楽しみにしてるね
まさか梓の手作りチョコが
食べられることになるとは予想外の収穫



●case//...000
 金色のリボンが、大理石の入り口からデパートを飾っていた。3階まで吹き抜けとなっている一階のフロアは、デパートの顔としての豪華さを持っていた。真っ白な壁に、巨大な柱。花の意匠が美しいエントランスを抜ければ、地下の食品店エリアが目につく。
「客が突然失神したり発狂したりするデパート……そりゃあおっかなくて誰も近寄らなくなりそうだよな」
 予想外の人出に、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)はサングラスの奥の瞳を細めた。
「ことが全部、目立つようになっちまえば」
「この世界だったらネットで「いわくつきデパート!」とか、書き込まれて悪い意味で有名になりそうだよねぇ」
 頷くようにして、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は周囲を見渡した。今日の夕食にはシチューはいかが? とコック姿のウサギのキャラクター達が描かれた食品売り場の横には、ちょっとした人集りと甘い香りがふわりと漂っていた。
「——あ」
「……」
 その、声に梓は足を止める。よーし、他所に行こうと視線を逸らすが——先に、綾の手が梓のコートを掴んでいた。
「ああ、そういえばもうすぐバレンタインだったね。梓、梓、俺チョコレート見ていきたい」
「バレンタインチョコ眺めるのなんて大半が女性だろう」
 すっぱり、きっちりしっかりと。
 言い切った梓に綾は「えー」と間延びした声を残す。にっこり浮かべた笑みひとつ、見慣れたそれで言われる言葉は——大抵、ロクでも無いのだ。
「綾」
「今は友チョコ逆チョコ自分チョコなんて言葉もあるし気にしない気にしない」
「……」
 言葉は、言葉だろうとか。そもそも今の時点で、頭一つ周囲の女性の皆様より大きな自分達が目立ってるの分かってるのかとか。浮かんでは消える言葉を梓は舌の上に溶かして飲み干す。
 ——そも、野郎二人組がその中に混ざるのはどうも気恥ずかしいのだ。
「逆チョコ自分チョコとか、それもう販売側の戦略では? まぁバレンタインチョコの風習そのものがお菓子業界の戦略で始まったらしいが……」
 むんずと掴んでいた綾の手が、ぐっとひっぱるそれに変わる。立ち止まっていれば——そう、明らかに、それはもう100%逆に、目立つ。
「あー、分かった分かったから!」
「やった」
 にっこりと瞳に弧を描いて、ほら、とぐんぐんと綾が引っ張っていった先、辿りついたのは黒の内装が美しいショコラトリーだった。
「へぇ……」
 美しい正方形の箱に収まっているのはトリュフだ。三段の小箱は和風をイメージしているのだろう。着物の柄を転写したチョコレートもあれば、見た目も美しい宝石のチョコレートと種類も豊富だ。
「……はい。そうですね、当店はビターなタイプのチョコレートを得意としていまして……」
「……」
 漏れ聞こえた話に、綾はちらり、と視線を向けた。断面も美しいプラリネには、垢の美しいリボンがかけられていた。チョコレートそのものだけではなく、箱や袋など、ラッピングに至るまでお洒落なものが多い。チョコレートに似合いの箱を、添えるに相応しいリボンを。そうして揃え、作り上げているのだろう。
(「あれもいいな……あ、これもいいな」)
 トリュフも良いし、プラリネも良い。シンプルなカレも美味しそうだ。
「梓ー、俺これが欲しいなー」
 最後にひとつ、綾が目に付けたのは宝石の描かれた美しいパッケージの一品だった。人気のプラリネを集めたチョコだ。
「ナチュラルに俺に買わせようとするな」
 ため息交じりにそう言って、綾の告げた先を見据えて——梓は、固まった。
「——」
 青く晴れ渡った空のように美しいパッケージに、金色で描かれた宝石。銀のリボンで飾られた宝石は——……。
「……高ッ!?」
 そう、高かったのだ。
(「たかがチョコ、されどチョコ……」)
 いや、でもチョコレートならば、と梓は思う。
(「もしかして俺でも作れるのでは?」)
 料理好きの血が騒ぐ。チョコレートであれば、特に今のシーズン作り方の紹介は探せば出てくるはずだ。
「今度俺が作ってやるから我慢しろ!」
「えっ、本当? 楽しみにしてるね」
 ぱち、ぱちと二度瞬いて、梓の言葉に思わず綾は声を上げた。
(「まさか梓の手作りチョコが食べられることになるとは」)
 予想外の収穫に、口元が緩む。これからへの楽しみに、ふ、と笑みがこぼれた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

英比良・與儀
ヒメ(f17071)と

チョコレートばっかだな
まぁそういう時期だもんな…
人が多い、はぐれんなよ
迷子になるのはお前だろうからな
まァ、お前デカいからすぐ見つけられそうだが
おい、うろちょろすんな

チョコレート買うなら、美味いのがいい
有名な店のはどれでも美味いから好きに選んでいいぞ
チョコレートは珈琲と合うからな
お前が淹れたのと一緒に食う
ナッツが入ってるものなんかも好き――…おい、動物さんチョコとかはいらねェからな

こうして一緒に買い物するのは楽しい
楽しいが――周囲からみたらこいつが俺の保護者に見えるんだろうな
なんかそれは、ちょっとむかつくから蹴っておく

んで、謎は解けたのかよ?
まぁあってそうだが無駄にドヤんな


姫城・京杜
與儀(f16671)と

俺、デパートで季節もののスイーツ買うのすげー好き!
いろんな店のものが色々見れるしな!(趣向女子

與儀、迷子になるなよ!
迷子センター何階だっけ…(確認
あ!あのチョコ美味そう!

おう、珈琲のお供になるチョコ買う!
與儀は甘くないのがいいよな…
あ、これっ(動物さん
え、可愛いだろ…でも與儀には甘いか
じゃあ俺が動物さんビターチョコ作る!(使命感
主用に、高級なのが数粒入ってるの買う
自分用に動物さんもこっそり
楽しいな、與儀!
でも迷子になるなよ…って、痛!?

そうだ、このメモ
上は8の倍数、下は階差数列かなって
■は24と48と70?
日々買い物してるから数字は得意だぞ!(どや
この店番の店回ってみるか



●case//...2-4_4-8...70
 一歩、足を踏み入れれば二人を出迎えたのは3階までの吹き抜けとなっている広いエントランスだった。金色のリボンに、チョコレートフェスタの文字が躍る。花々の彫刻が施された白い柱は、このデパートが長くこの地にあることを示していた。
「俺、デパートで季節もののスイーツ買うのすげー好き! いろんな店のものが色々見れるしな!」
 周囲を見渡すようにして、姫城・京杜(紅い焔神・f17071)は笑みを見せた。地下の食品店エリアは奥にフーズマーケット、手前には洋菓子店が並ぶ。ショコラトリーの姿が目立つのは、季節柄だろう。
「チョコレートばっかだな。まぁそういう時期だもんな……」
 ほう、とひとつ英比良・與儀(ラディカロジカ・f16671)が息をつく。
 バレンタイン。
 チョコレートフェスタの文字を飾るウサギのマスコット達も、皆、ご機嫌に走り回る。綺麗な箱を頭に乗せて、コロコロと転がったリボンを追いかけて。ショコラトリーにパティスリー、チョコレートを扱った和菓子屋の先には、手作りを求める客の為の専門店もある。
「結構色々あるんだなー、な。與儀」
「そうだな」
 ため息交じりに一つ、頷いてみせたのは楽しげに辺りを見渡している京杜にか。それとも――頭ひとつ、大きくて目立つ己の守護者にか。
「人が多い、はぐれんなよ」
「與儀、迷子になるなよ!」
「……」
 迷子センターは何階だったかと、確認する京杜の姿に與儀は息をついた。
「迷子になるのはお前だろうからな」
 放っておいても目に浮かぶ。ぱさぱさと、金色の髪を揺らして與儀は先を行く京杜を見た。
 期間限定の文字に集まる客は女性が多い。上背のある京杜は、どちらかと言えば目立つ方か。
「まァ、お前デカいからすぐ見つけられそうだが」
 その高い背と良く通る声で、迷子だと連呼される気の方が地味にしているのだが。
「あ! あのチョコ美味そう!」
「おい、うろちょろすんな」
 言った傍から先を行く長身に息をつく。與儀、とぶんぶんと手を振る長身の青年と、ため息をつく少年の姿は女性客達の視線を攫っていた。
 ――斯くして、辿りついたのショコラトリーはカカオ豆の産地にも拘っているという店だった。今の時期はチョコレートのみの取り扱いではあるが、普段は洋菓子も扱うというショコラトリーは、カレをメインにトリュフはベルギー風だ。
「有名な店のはどれでも美味いから好きに選んでいいぞ」
 チョコレート買うなら、美味いのがいい。
 口元を僅か緩めて、與儀はショーケースの中を眺めた。
「チョコレートは珈琲と合うからな。お前が淹れたのと一緒に食う」
「おう、珈琲のお供になるチョコ買う! 與儀は甘くないのがいいよな……」
 とろりと甘いミルクチョコは筈として、生チョコは物によっては甘い部類だろうか。ビターキャラメルを使ったプラリネなら、いやでも珈琲に合うのであればタブレットも良いのかもしれない。右に左に。珈琲の豆の種類も考えていれば――ふとひとつ、可愛らしいリボンのかかった箱が目に付いた。
「あ、これっ」
 動物さんのチョコである。
「ナッツが入ってるものなんかも好き――……おい、動物さんチョコとかはいらねェからな」
「え、可愛いだろ……でも與儀には甘いか」
 くまさんのチョコレートの雰囲気は、特に甘そうだ。
「じゃあ俺が動物さんビターチョコ作る!」
 ぐ、と使命感たっぷりに拳を握り、京杜は與儀の為にプラリネショコラとトリュフが少しずつ入った一箱を選ぶ。自分用に動物さんもこっそりと買えば、綺麗なバックが二つ並ぶ。
「楽しいな、與儀! でも迷子になるなよ……って、痛!?」
 ふいに臑に入った一撃に、振り返れば少しばかり不服そうな顔をした與儀の瞳が、京杜を見据えていた。見目こそ子供だが、主らしいそれで。
「んで、謎は解けたのかよ?」
 ――與儀にとっても、こうして一緒に買い物をするのは楽しいのだ。楽しいのだが――……。
(「周囲からみたらこいつが俺の保護者に見えるんだろうな」)
 なんかそれは、ちょっとむかつくわけで。
 綺麗にきまった蹴りで、とりあえず気を収めつつ、賑やかな食品店エリアを抜ければ腰を落ち着かせるのに丁度良いベンチがあった。
「上は8の倍数、下は階差数列かなって」
 ■に入るのは「24」と「48」と「70」? と京杜は顔を上げた。
「日々買い物してるから数字は得意だぞ!」
「まぁあってそうだが無駄にドヤんな」
 息をついた與儀に京杜は笑みを見せる。
「この店番の店回ってみるか」
 UDCエージェントの話によれば、上段に入る数字は店の番号。下の段については店の番号ではない、という話しだ。それ以外の何かの意味があるのだろう。
「えっと、2階の4番地、4階の8番地に店か」
 そうして調べに行った二人の目に見えたのは、ジュエリーショップと、バックから香水、化粧品まで多岐に取り扱う有名ブランドのショップだった。店内の壁はエスカレーター側がガラス張りになっており、多くの客がエスカレーターから誘われるように店に入っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
白衣の代わりに冬コート羽織ってデパ地下へ
この季節となるとチョコレート菓子の種類が増えるのが良いな
ザッハトルテにチョコモンブランに…その苺の載ったのも頂こうか
パン屋も覗いてチョコクロにデニッシュに、と
甘い物は幾らでも食えるし、弟達への土産にね…と店員さんと話しつつ

デパート内のカフェに行けば惟人の姿
どうだ、解けたか?

一行目は「24」と「48」
二行目は「70」
…だと思うが
これが示す意味までは俺は知らん
一階の彼の意見も聞くか

にしても随分と買い込んで…
俺に謎解き押しつけたんだ、報酬として当然だな

しかし面識は無かったとは言え同僚って事になるか
仇討ちなんてお前の柄じゃなかろうに
俺は引っ込むが、ま、頑張れ



●case//...008
「いらっしゃいませ!」
 デパートの地下食料品売り場は沢山の客で賑わっていた。季節もあるのだろう。金色のリボンで飾り付けられた洋菓子エリアと共に、和菓子を扱う店もバレンタインの文字を躍らせる。
 チョコレートフェスタ。
 艶々としたケーキに、できたてのガトーショコラ。パレットショコラの専門店の隣には、ちょこんと小さなウサギのぬいぐるみが腰掛けたチョコレート専門店にはプラリネやトリュフが並ぶ。
「この季節となるとチョコレート菓子の種類が増えるのが良いな」
 その一角に、一人の青年の姿があった。
 女性客が多い所為だろう。頭一つ大きな双代・雅一(氷鏡・f19412)の姿はよく目立つ。白衣の代わりに冬物のコートに袖を通し、ポケットに入れたままだった手を出して、一つ、二つと数えていく。
「ザッハトルテにチョコモンブランに……その苺の載ったのも頂こうか」
「ベルサイユですね。こちらも、今の時期人気なんです」
 木苺のクリームを使った一品は、アーモンドたっぷりの生地を使っているのだという。にっこりと微笑んだショコラトリーの店員は、雅一を良い客と見たのだろう。
 ――何せ、買っている数が多い。
 にこにこと機嫌良い店員から、最後におためしなのだと渡されたヌガーを受け取る頃には、雅一の後ろにはちょっとした人だかりが出来ていた。
「甘い物は幾らでも食えるし、弟達への土産にね……」
 斯くしてパティスリーとベーカリーショップでちょっとした賑わいを招いた謎のイケメンは、デパートの一階にあるカフェへと姿を消した。

「どうだ、解けたか?」
 カフェ・ルミエールは紅茶と珈琲を専門に扱う店だ。店内にはクラシックがかかり、猫足の丸いテーブルが目立つ。窓際の席を取っていた背にそう声をかければ、雅一と同じ瞳を持つ青年が視線を上げた。
「惟人」
「一行目は「24」と「48」 二行目は「70」……だと思うが」
 吐息ひとつ、零すように紡いで惟人は、トン、と手元に書き上げたメモを叩く。
「これが示す意味までは俺は知らん。一階の彼の意見も聞くか」
 UDCエージェントの一人が化粧品売り場にいるという。
「数字自体はひとつだが、解釈次第でなんとでもなるからな」
 そこまで言って惟人は漸く、己の前に座った片割れを見た。
「にしても随分と買い込んで……」
 ケーキらしい箱に、ベーカリーショップの紙袋。おまけだというヌガーもあれば、小さなテーブルにはの乗せきれなくなる。
「まぁ俺に謎解き押しつけたんだ、報酬として当然だな」
「店の方からは随分と喜ばれたがな」
 賑わっていたし、人気の店だったんだろう、と息をついた雅一に惟人は視線を向ける。
「……」
 瞳を、合わせるような機会がそう在るわけでも無い。双代惟人と双代雅一は双子の兄弟として生まれ育ったが――主人格としてあるのは、雅一であり、多重人格と世に定義される二人が顔を合わせるのは、その手法を今使ったからだ。
「しかし面識は無かったとは言え同僚って事になるか。仇討ちなんてお前の柄じゃなかろうに」
「そうか」
 そうだな、とは言わずにいつもの物腰柔らかな笑みを浮かべた兄に、惟人は息をつくようにして告げた。
「俺は引っ込むが、ま、頑張れ」
 店を出る。カフェから半分ほど階段を降りた先が化粧品売り場であった。トン、と肩に触れた惟人の指先が、冷えた感覚が――影が重なるようにして消えていく。
「声が2人分聞こえた気がしたのだけど」
「そうかな?」
 瞬き一つ、小さく微笑を浮かべた青年は声が響いたのかもしれないな、と微笑んだ。
「それで、彼は――……」
「あぁ、私のお客さんヨ。――そう、前の恋人ナノ」
「……」
「ヤダ、怖い。冗談ヨ冗談。普通に、前の同僚ネ。ちょっと休憩入ってくるわ」

「――それで、初めましてって言うべきかしラ? キャロルよ。それとも何処かで見かけたことがあるかもしれないワネ」
「長い世間話より話すべきことがあるんじゃないか? 例の数字のことだが……」
 唇に浮かべた笑みこそ変わらぬまま、壁に背を預けた雅一にエージェント――キャロルは息をつくようにして頷いた。
「そうね。こっちの、上段の数字についてはお店の場所でしょうね。2階の4番地はジュエリーショップね。4階の8番地は……これ、有名ブランドのショップね」
 取り扱いは、バックに香水、ジュエリーと取り扱いも多い。
「化粧品の取り扱いがメインだったのだけど、いつの間にか売り場も大きくなっていたのよネェ。どっちも女性向けよ」
「……香水か」
「今のシーズンは、ホワイトデーシーズンよりは空いているノ。バレンタインに可愛くいたい女の子向けで賑わっているかもしれないけれど……」
 それにしても、とエージェント・キャロルは雅一に手渡したマップを見る。
「『24』に『48』ねぇ……、どっちも8の倍数よね?」
「そうだな。気になることが?」
「偶然かどうかは分からないけれど、このデパートの閉館時間は8時なの」
「そしてその時間になっても、デパートを出ていない客は行方不明になっている……か」
「えぇ、もしかしたらその時間に何か起きるか――起きていたかもしれないわ」
 相手は一度UDCエージェントを捕らえている。次も同じ時間にことを起こすとは思えないが――……。
「あるいは、あと少し早い時間に、か」
「えぇ、閉館理由なんて、でっち上げるのは簡単だもの。それこそ、客が突然発狂したことがある、なんてデパートじゃね」
 事件一つ起きれば、必要なものだけ取って終わりにすることも、全員巻き込むことも容易い。
「無事でいなさい、猟兵ちゃん。私、そう何度もイケメンを失うのは嫌ヨ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤代・夏夜
デパートって宝箱みたいで私も好きよ
洗練された洋服に小物
舌鼓が止まらないグルメ
ケーキが気になるけどまずはバレンタインフェスね!
ヒントを残してくれた彼とこのデパートの為
たっぷり油断させてやるわ

雪の結晶形チョコは高貴で儚い推しにピッタリ
生チョコトリュフはお菓子好きの推しに
うっそ待って推しの概念チョコが
オリエンタルなデザインのこれも買っておかなくちゃ!

チョコを見ては浮かぶ愛しの君
お札に凄い勢いで翼が生えていくけど大丈夫
諭吉が飛ぶなんてオタクには日常茶飯事だし
日々の稼ぎで私の口座は潤沢よ!

巡った後の両手は素敵な戦果でいっぱい

もう一巡りしたいわね
一周目では気付かなかった魅力に二周目で気付く
よくある話だわ



●case//...000
 大きなガラス扉を開けるようにして中に入れば、吹き抜けのエントランスが客達を出迎える。入り口にあるパティスリーにはバルコニー席を添えて。
『あなたに、特別な時間を』
 謳うように描かれたのがこのデパートの心情であり——出迎えの言葉だった。
「デパートって宝箱みたいで私も好きよ」
 コツン、と足音を響かせるように、軽やかに一歩踏み込んで藤代・夏夜(Silver ray・f14088)は笑みを見せた。
(「洗練された洋服に小物。舌鼓が止まらないグルメ」)
 トン、と一歩足を止めて、見上げた先に見えるのは長く続くエスカレーターだ。二階ずつ、一気に上がれるようになっているエスカレーターからは店がショーウィンドウ宜しく服を飾る。ドールハウスのようにひとつずつ、綺麗に仕上げられた空間は見上げてみるだけでも可愛らしい。くるり、と軽くターンをするようにして夏夜は笑みを零した。
「ケーキが気になるけどまずはバレンタインフェスね!」
 何せ今はチョコレートフェスタ。季節柄、バレンタインを見据えたこのフェスタには海外からも多くの有名ブランドが出展しているという。
(「ヒントを残してくれた彼とこのデパートの為
たっぷり油断させてやるわ」)
 このデパートに『何か』を仕掛けている教団は既に一度UDCエージェントの存在に気がついている。それ以降、今に至るまでこのデパートが無事である以上、邪神復活の儀式は完成には至っていないのだ。
 ——なら、そこに追いつくだけよ。
 たっぷりと油断をさせて、しっかりと掴める。その為にも、お買い物を全力で。ぐ、と心の拳を握ってチョコレートフェスタへと足を踏み入れたのだが——……。
「——うそ」
 思わず、夏夜は息を飲む。口元を抑えて、脳内、広がる姿を思い出す。心の中、その名を——紡ぐ。
(「あの雪の結晶形チョコは高貴で儚い推しにピッタリ……、生チョコトリュフはお菓子好きの推しに」)
 指折り数え、息を飲む。そう、何せ包装のリボンの色が——推しの目の色と一緒だったのだ。なにこの概念。金色の王冠の飾りも最早運命としか思えない。
「宝石のチョコも良いわね。あの色はピッタリだし……、最新話で使った宝石にも——……」
 あれが、と薄く唇を開いたところで足を止める。
「うっそ待って推しの概念チョコが」
 箱には時計盤。中身は二段に分かれていて、コニャック、キルシュなどの洋酒を使ったプラリネショコラ。下段にはコインの形をしたチョコが入る。——曰く、死者に渡すコインである、と。
「オリエンタルなデザインのこれも買っておかなくちゃ!」
 新作のPVで見た幻のあの衣装のカラーリング。箱とリボンと時計盤が全て推しを——示していた。
(「運命ね……」)
 チョコを見ては浮かぶ愛しの君。お札にすごい勢いで翼が生えていくけど大丈夫。
(「諭吉が飛ぶなんてオタクには日常茶飯事だし、日々の稼ぎで私の口座は潤沢よ!」)
 そう、ブルーレイボックスもあれば、推しのイメージジュエリーもある。財布が開くのはいつものことだし、何よりそう——稼ぎは、推しに貢ぐ瞬間に輝くのだ。
「それとこれと……あぁ、あとこれもよろしくね」
 パチン、とウインクひとつ。素敵なお店を巡った後には、夏夜の両手は素敵な戦果でいっぱいになっていた。
「もう一巡りしたいわね」
 ふふ、と夏夜は口元に笑みを浮かべた。
「一周目では気付かなかった魅力に二周目で気付く。よくある話だわ」
 そうして——回った二週目で、気がついたことがある。一部の店だけ、ポスターの背景が違うのだ。海外からの出店であればそこだけ、雰囲気が違うのは不思議もないのだが——……。
(「きれいな夕焼けだけど……、タイミング的にはちょっとあやしいわね」)
 店自体は夏夜もよく知っているブランドだ。偽物という様子は無く——だが、増えた数店舗。疎らに配置されているのが、違和感はあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
暗号は数列ですか。
ひとまず1列目は24と48――2階と4階、でしょうねえ?
2列目は……元素記号かとも思いましたが、謎は解けませんね
まあ、私は探偵には向いていないと、メイドさんにも言われましたし。

特に狙った買い物もないですし上へ行ってみますか。
貴金属店は大体上階ですよね。

時期的にも、恋人への贈り物、とでもいい冷やかしますか。
アクセサリーでも服でも、一流でないと喜んでくれないのですよ、と店員さんに相談し、様子を窺います。
不審なところの有無、周囲に怪しい気配がないか。
警戒は絶やさず、しかして顔に出さぬよう。
返答に困ったら微笑んで誤魔化します。

欲深さを見せれば、秘密の会場へお誘いいただけるでしょうか?



●case//...2-4...4-8...70...Yb
 両手開きの大扉は、人の身には見上げる程の大きさを持っていた。嘗ては専門のドアマンもいたのだろう。真新しさよりは、少しばかり古いが装飾も美しいエレベーターに、エスカレーターは複数階を一気に移動することが出来るようにも作られていた。吹き抜けになっているフロアを支えるように白い柱が4本立てば、デパートというよりは高級ホテルに似る。
「暗号は数列ですか」
 その賑わいの中、柱の影に立つようにして黒蛇・宵蔭(聖釘・f02394)は件の暗号を思い出していた。穴あきの数列は、先にいたエージェントが遺したものだ。隠すのであれば、間違いなく教団に関する情報だろう。
「ひとまず1列目は24と48――2階と4階、でしょうねえ?」
 行方不明になったエージェントと同僚であったという彼の話にもあった。このデパートは、階の他に番地がそれぞれの店についているのだと。
『二種類ってことでしょうネ。最初の数字については、店の番号じゃないかと思ってるワ』
 だが、二行目の数列については勝手が違ってくる。三桁にあたる店の番号が存在しないという以上、全く別の意味があるのだろう。
「2列目は……元素記号かとも思いましたが、謎は解けませんね」
 ほう、と宵蔭は息をつく。ひとつ、ふたつと思いつく先はあるが――ここで元素記号表が分かる訳でも無く、調べに行くかと言われれば、さて。という所だ。
「まあ、私は探偵には向いていないと、メイドさんにも言われましたし」
 もしもこの場にそのメイドがいれば「そうして、謎のままに終わらせているからでしょう」と言ったのだろうが――、その言葉とて、嘗ての探偵は理由として唇に乗せるのだろう。
 敢えて、そのままにであるのか――そこが楽しそうであるからか、ただ本当に興味がないのか。烏羽色の髪が隠す男の瞳から、伺いしれる表情など笑み以外に無いままに。チョコレートフェスタの賑わいの中、その影に潜むように佇む男に、何を呟いているんだと声をかけてくる者もなければ、視線を向ける者も無い。
「ふふ」
 ただ小さく悠然とした笑みだけを浮かべて、男は上へと続く道を見る。
「特に狙った買い物もないですし上へ行ってみますか」
 貴金属店は大体上階だ。
 長く続くエスカレーターは、その階にある品を紹介するようにショーケースがこちらから見えるようになっていた。ドールハウスのように一つずつ、シーンを彩るように作られたそれに宵蔭は瞳を細める。
「まるで……」
 箱庭のようですね、と言葉を選ぶ。吐息一つ、零すようにして小さく笑った男は、二階へと辿りついたところで「おや」と小さく瞬いた。
「2階に、もう宝石店がありましたか」
 ジュエリーショップだ。ブライダルジュエリーも扱うというその店は、時期的にか客も多かった。
「さて、あちらから伺いますか……それとも」
 フロアマップへと視線を向ける。4階にも、やはり宝石類を扱う店はあるようだ。踊るのはハイブランドの文字。有名ブランドが並ぶフロアには、服や宝飾品の他、化粧品も取り扱っているのだという。
「では、折角なので」
 おもしろそうですし、と舌の上に溶かして、宵蔭が向かった先、4階の8番地にあったのは他の店よりも大きな区画であった。バックに香水、ジュエリーと扱いは多岐にわたる。
「何かお探しですか?」
 香水の香りに僅かばかり足を止めた宵蔭に、にっこりと微笑んだ店員がやってくる。捜し物でも見つけたと思ったのだろう。ゆったりとした様子で声をかけてきた店員に宵蔭は微笑んだ。
「えぇ、恋人への贈り物に」
 時期的に不思議も無い話だろう。冷やかすように見て回っていた風を見せれば、金色の髪を揺らす女性店員は笑みを見せた。
「そうでしたか。当店に足をお運びいただき、ありがとうございます」
「アクセサリーでも服でも、一流でないと喜んでくれないのですよ」
 さらり、と表情ひとつ変えずに宵蔭は言葉をつくる。やれ、と軽く息をつくようにした伏せた瞳は――周囲の視線を拾うように。店内は元々広くはあったが、客が少ない。価格帯も理由だろう。2階のジュエリーショップに比べて、こちらの方が高価だ。その分、一人の店員がゆっくりと接客するというスタイルを取っているのだろう。
(「店内は一部ガラス張りになっていて、エスカレーターからもよく見えるようですが……さて、よくある配置ではある気がしますが」)
 幾分か、視線が多い。
 店内に、移動中の客。その多くの視線が店にいれば自ずと集まるように出来てはいるようだが、違和感がある。
「……など如何でしょうか。お客様の大切な方の、好きな色や石などありましたら……」
 ふと、続いていた話に視線を上げる。そういえば、決めていなかったと微笑んで済ます。
「――一流のものを好まれるのでしたね」
「えぇ」
 悠然と微笑んで、相手が勝手に作り上げた応えに言葉を重ねる。視線の違和感を探るように――だが、決して顔に出さぬまま宵蔭は薄く血のように美しい唇をひらいた。
「折角ですので珍しいものを」
「――……あぁ、それは。でしたら、えぇ、でしたら。お客様のような方にぜひ、お見せしたい品もございます」
 特別なお客様にしか、見せていないジュエリーなのですが、と店員は笑みを見せた。窓ガラスに映る店員の表情に何かが重なる。見られている、という感覚が強くなる。
(「……おや、これは。やはり、欲深さを見せれば、秘密の会場へお誘いいただけるようですね」)
 見定める何かの視線に宵蔭は表情ひとつ変えぬまま、ただ微笑みを返す。物腰柔らかに、黒のコートを揺らした男は明るすぎる店内に、影のように立つ。
「当デパートにも、専用のサロンがございます。お得意様専用のサロンなのですが……、この後18時にお時間はございますか?」
 ご用意できるのは、ピンクダイヤモンドです、と店員はさっきまでと変わらぬ笑みで告げた。
 幻の名を以て紡がれる色彩のダイヤの名を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
おそらく上が24と48で下は70ネ
ぼかされた数字の見当はつくけど、さてソレが何を指すのやら
とりあえず数字は頭にいれて、ショッピング楽しんじゃいましょか

買い物は嫌いじゃナイ
自分や誰かに似合いそうだと想像したり
流行りをチェックするのだってナンパ……もとい接客には大事なコト
でもやっぱこの時期、研究をせずして何とする……!
という訳でチョコレートフェスタへ視察よ視察
好みの濃厚ビターなものから見映えするもの
今年の流行りは……と勉強も忘れず色々買って
イートインも忘れず楽しみたいわね

一通り楽しんだらついでのように
メモが示す店に行ってみるわ
何か手掛かりがあるかも
途中メモの他の数字が無いかもチェックしてくねぇ



●case//1-6...2-4...3-2...40...4-8..5-6.
 両手開きの大扉の向こう、艶やかなリボンが大きな白い柱を彩っていた。4本の巨大な柱を見上げればエントランスの広さを知る。3階までの吹き抜けだ。エスカレーターは2階ずつ一気に上がることができるものと、一階ずつ移動する二種類が置かれており、どれも長くこの地にあるとは思えないほど綺麗に磨かれていた。
(「真新しくは無いけど、美しい装飾ってとこかしら」)
 賑わいの中を抜けて、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はフロアマップの前で足を止める。訪れる客の多くは、既にお目当ての階があるのだろう。迷い無く進む姿に小さく笑みを零し、コノハはゆっくりと視線を上げた。
「おそらく上が24と48で下は70ネ」
 エージェントが遺したメモだ。上段と下段で二つ。それぞれ数日、空欄となっている箇所があった。
 上段に「16 ■ 32 40 ■ 56」という数字。
 下段には「2 10 24 44 ■ 102」だ。
 数字の並びから、規則性を見いだせれば当てはまる数字自体は分かる。
「ぼかされた数字の見当はつくけど、さてソレが何を指すのやら」
 上段に関しては、エージェントの話からデパート内の店を示していることは分かる。この場合、2階の4番地と、4階の8番地だろう。
「2階のところは、ジュエリーショップね。若い子向けかしラ?」
 可愛らしい店の名前が並ぶ2階に比べて、4階はハイブランドと文字が並ぶ。高級ブランドの店があるのだろう。問題は、もう一つ。下段の数字「70」の方だが——これが何を指すのか、だが……。
「とりあえず数字は頭にいれて、ショッピング楽しんじゃいましょか」
 買い物客を装うのも、大切な仕事のうちだ。折角のデパートなのだ。季節柄、贈り物に力を入れているデパートには、今季限定出店の店も目立つ。
「……」
 買い物は嫌いじゃナイ。
 トン、と軽い足音を残して、コノハは最大の賑わいを見せる一角へと視線を向けた。
「そうネ」
 小さな雑居ビルの一階、コノハの店は無国籍バルだ。自分や誰かに似合いそうだと想像したり、流行りをチェックするのだってナンパ……もとい接客には大事なコト。
「でもやっぱこの時期、研究をせずして何とする……!」
 ふ、と口元一つ笑みを浮かべて、足取りはそれはもう軽やかに——いざ、魅惑のチョコレートフェスタへコノハは足を踏み入れた。
「視察よ視察」
 ——そう、決して本日限定イートイン『ダークチョコレート・ドリンク』が残っていると聞いた訳では無いのだ。決して。うん。
 斯くして辿りついたチョコレートフェスタでは、様々なショコラトリーが出展していた。コノハ好みの濃厚ビターなものから、見栄えのする宝石チョコレート。カカオ豆の産地から拘ったタブレットや、ナッツやフルーツ、スパイスを使った季節のチョコレートも目につく。
「今年の流行りは……」
 洋酒などを扱ったプラリネショコラに、カカオ本来の深みを引き出したというトリュフ。——大人向けはぐっとシックに、多彩なプラリネショコラは見た目も可愛らしいものも目立つ。中にはひとつ、二つとテーマを決めて作られたものもあるようだった。物語に出てくるお姫様の名前がついたチョコレートを見て回れば、どれも箱やリボンにまで拘っている。
「さて、と。買い物も一通り終わったし、上の店ねぇ」
 そうして、辿りついた2階は若者向けのジュエリーショップとして賑わっていた。季節柄プレゼントということもあるのだろう。壁は一部ガラス張りになっていて、キラキラとした輝きが反射して見える。
「……ソウ。さっきのお店は、若者向けって感じだったけど、こっちは簡単には入れもしないって感じねぇ」
 4階、ハイブランドを取り扱う階は他のフロアに比べて静かだった。流れるクラシックに、そういえば、とコノハは思う。
(「メモの他の数字、16、32,56はそれぞれお店があるみたいだけど——この40って何かしらネ」)
 4階に足を踏み入れた時、出迎えたのは美しいシャンデリアだ。キラキラと輝くそれは宝石というよりは美しいカッティングの硝子だろうか。キラキラと眩い空間は、ハイブランドと言えば似合いかもしれないが——……。
「少し、派手すぎるわ」
 少なくとも、コノハの感覚では眩しすぎる。好みの話かもしれないがと思いながらフロアガイドへと目をやる。4階の0番地にあたるものが、何かあるのかとそこまで思ったところで、足を止める。
(「これって……もしかして、同じ場所カシラ」)
 2階の4番地と、4階の8番地。
 二つの店の場所が、重なるのだ。他の数字の場所は全て違う。店で取り扱っている品は、女性向けのものが多いが——……そこに、何か意味があるのか。
(「意味を考えようと思えば、何でもでっち上げられちゃうからねぇ」)
 情報、そのものをどう扱うか。どう解釈するか。そう考えながらもう一度、フロアマップへと視線を向けたコノハは小さく書かれていた文章に気がついた。何一つ、珍しいものではない。開店時間と閉店時間についての文字。
「閉店時間は……20時」
 上段にあった数字は、8の倍数だった。
(「8の倍数に、店の場所……閉店時間間際に何かがある……若しくはあった、ってとこかしら」)
 デパートから出てこない——行方不明になる客もいたという。
 既に一度エージェントが捕まっている以上、同じ時間に何かが起きるとは考えにくいが——このデパートが閉まる時間に何かが起きる可能性がありそうだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

豊水・晶
「頭脳労働には甘いものが必要ですよね。」と思いながらバレンタインチョコや和菓子を物色しつつ悩んでいます。

「数字の出し方自体は、規則的に数字を入れて隣の数字にしていく形なんでしょうけど、腰を落ち着けて考えたいですね。」物色を終え休憩所で、買い漁ったお菓子をぱくつきながら考える姿勢へ。

「ん~上の段が24と48、下の段が70。上の段はお店の番号ということなので下の段はどうゆう意味なんでしょうか。」うんうんうなりながらお菓子を完食し無料の熱いお茶をずずずっと一息。

「とりあえず、番号のお店に行ってみましょうか。それで何かわかるかもしれませんし。」ということでごみ箱にごみをかたずけ歩いて向かいます。



●case//2-4...4-8...70
 地下の食品店エリアへと足を踏み入れば、甘い香りが豊水・晶(流れ揺蕩う水晶・f31057)を出迎えた。ふ、と薔薇色の唇を緩め、晶は賑やかなチョコレートフェスタへと目をやった。
「頭脳労働には甘いものが必要ですよね」
 遺されたというメモは数字だった。上段と下段、それぞれに違う意味を持つという数字が穴あきの状態で残されていたという。
(「穴あきにしたのは、教団に気がつかれない為と思いますが……」)
 そのエージェント自体は、もう生きてはいないだろう、という話だった。
「……」
 竜神たる晶には、信仰されていた地を持つ。在りし日の農村の姿は、今でもよく思い出せる。その農村が邪神の襲撃に遭ったことも——それと、戦ってきた己の日々のことも。
(「あれから……」)
 邪神を、退かせることはできた。だが、村は荒廃し、信仰は薄れた。指先から零れるように失われていく命を、願うように祈るように残される声を晶は知っている。
「今度こそはちゃんと守らなきゃいけないの」
 賑わいの中、溶けるような声音で晶は紡ぐ。願うように、覚悟一つ紡ぐようにそう言って、祝祭を前に賑わう人々へと目をやった。
 チョコレートフェスタはバレンタインを前にしたちょっとしたイベントだ。この時期にだけやってくるという店も多く、軽く見た回った限りではあるが追加の出店もあったらしい。
「数字の出し方自体は、規則的に数字を入れて隣の数字にしていく形なんでしょうけど、腰を落ち着けて考えたいですね」
 上段が「16 ■ 32 40 ■ 56」という数字。
 下段は「2 10 24 44 ■ 102」という数字だ。
 エージェントから渡されたメモを思い出しながら、晶は宝石のように煌めくチョコレートを前に足を止める。
「これは……」
「えぇ、こちらは本物の宝石のように作ってあるんです。宝石言葉に合わせて、選ばれる方もいらっしゃいまして……」
 宝石チョコレートは、艶々とした美しいチョコレートで作られていた。宝石箱に似せた包装も、リボンも可愛らしい。洋酒を扱ったチョコレートも人気らしく、引き出しタイプの箱にショコラトリー自慢のトリュフとプラリネショコラの詰められたものもある。
「それでは……」
 折角だから、と持ち帰るように二つほどチョコレートを選んで、残りは頭脳労働要員に小さな箱のチョコを選ぶ。イートインコーナーに立ち寄れば、丁度本日限定のチョコレートドリンクと、プリンが残っていた。
「ん~上の段が24と48、下の段が70。上の段はお店の番号ということなので下の段はどうゆう意味なんでしょうか」
 ぱくっとチョコレートを一粒。広がるカカオの濃厚な美味しさに思わず笑みを零しながら、晶は導き出した数字を頭の中で並べていく。
 上段については2階の4番地と、4階の8番地だ。問題は下段の数字「70」の意味だが——……。
「……」
 店の場所ではない、という事は分かっている。そうなれば、全く別の意味があるのだろう。うんうんと唸りながら晶は、チョコレートドリンクに口をつける。
「店の場所でもなく、でも一段目が店の場所である以上、邪教に関係する何か……関与してるか、仕掛けている何かでしょうか」
 プリンの最後の一口を食べ終えて、晶は熱いお茶に唇をつけた。ほう、と息をついて、視線を上げる。
「とりあえず、番号のお店に行ってみましょうか。それで何かわかるかもしれませんし」
 そうして晶が向かった先——2階の4番地は若い女性向けのジュエリーショップだった。季節柄だろう客も多い。キラキラと煌びやかな店内は、一部の壁がガラス張りや鏡になっており他の店よりも良く目立つ。
「賑わってますね」
 店員は客の対応で忙しそうだった。漏れ聞こえる話によれば、ここ最近、特にあの店は忙しいのだという。
「やっぱり、……は人気店だものね」
「だよねー。最近流行に乗ったって言ってたひといたけど、私最初っからここのブランド好きだったし」
「——それに、そうそう。今はあれが人気だよね。ダイヤの——オレンジ」
 賑わいの中、紛れるようにして立っていた晶は小さく、瞬く。オレンジのダイヤ。続けて、あの少女達は言っていなかったか。
(「夕焼けのように綺麗なダイヤ……。珍しい宝石ではあるようですが……」)
 このデパートでの事件、関与が濃厚とされているのは要注意団体「黄昏秘密倶楽部」だ。
「何か意味があるかもしれませんね」
 見れば、デパートの時計も15時を回っている。夕焼けの時間までは後少しという事実に、晶は静かに唇を結んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●case//from Carroll
「——彼のメモ、解いてくれたのね。アリガト猟兵ちゃん達」
 猟兵達に礼を告げたエージェントは、一行目の数字について唇を開く。
「16 ■ 32 40 ■ 56
 これは、当てはまるのは24と48ね。2階の4番地にあるジュエリーショップと、4階の8番地にある有名ブランドショップが当てはまるわ」
 ジュエリーショップの方は、比較的若い子向けで、有名ブランドショップの方は、バックからジュエリー、香水も扱う店だとエージェント・キャロルは告げた。
「最初は化粧品がスタートだったのだけど……どっちも女の子向けね。4階の方が女性向けって感じだけど……」
 お財布事情的にもネ、とキャロルは肩を竦めた。
「高いのよ。勿論ブランド相応の値段って感じだけど」
 次は2列目だ。
「2 10 24 44 ■ 102
 これに当てはまるのは「70」ね。階差数列まで引っ張り出してきて、カレ相当のインテリ系だったみたいだけど……」
 この数字に関しては、一人可能性を上げてくれて助かったの、とキャロルは告げた。
「元素記号ヨ。あれなら、102だってある。原子番号70が意味するのは『イッテルビウム』ネ」
 私、理系も行けるのよ、と一つキャロルは悪戯っぽく笑うように告げて、猟兵達に言った。
「イッテルビウムはガラスの着色剤に使われる。ガラス張りや、ガラスの壁があった場所で彼らは探していたのヨ。贄となる……ターゲットを」
 そして今日はまだ、行方不明となった客は出ていない。教団員が動くのは——これからだ。


第2章 冒険 『エージェントはつらいよ』

POW   :    手っ取り早く殴って倒す。気絶させてからUDC職員に記憶消去をして貰う

SPD   :    言葉や演出で狂気も薄らぐはず! 説得して大人しく従わせる

WIZ   :    その記憶、私が消そう。より強いインパクトで記憶を上書きする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●case//from Carroll
「——彼のメモ、解いてくれたのね。アリガト猟兵ちゃん達」
 猟兵達に礼を告げたエージェントは、一行目の数字について唇を開く。
「16 ■ 32 40 ■ 56
 これは、当てはまるのは24と48ね」
 2階の4番地にあるジュエリーショップと、4階の8番地にある有名ブランドショップだ。
 次は2列目だ。
「2 10 24 44 ■ 102
 これに当てはまるのは「70」ね」
 この数字に関しては、一人可能性を上げてくれて助かったの、とキャロルは告げた。
「元素記号ヨ。あれなら、102だってある。原子番号70が意味するのは『イッテルビウム』ネ」
 私、理系も行けるのよ、と一つキャロルは悪戯っぽく笑うように告げて、猟兵達に言った。
「イッテルビウムはガラスの着色剤に使われる。ガラス張りや、ガラスの壁があった場所で彼らは探していたのヨ。贄となる……ターゲットを」
 そして今日はまだ、行方不明となった客は出ていない。教団員が動くのは——これからだ。
 ——その時だった。
「本日はご来店頂きまして、誠にありがとうございます」
 ふいに店内放送が響いたのだ。
●Agent time
「当デパートは、本日ヲもちまして……終了トさせて頂きマス」
 時計は18時。本来の閉店時間よりも早いその時間に響き渡った放送に、一部の客達が足を止める。床に縫い付けられたように聞き入っている姿は——その顔から、表情が抜け落ちる。
「——黄昏へ」
「黄昏へ」
 輪唱する彼らがいるのは、猟兵達が暗号によって見つけた店の客だ。店員も、客も全てが同じように告げる。繰り返される言葉の先で、店内放送から女の声が響いた。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い」
 さぁ——、と誘う声と共に、厳かな音楽が響き渡る。
「刻限に至れ」

「——シャッターしめようとしてるの!?」
 エージェント・キャロルが息を飲む。一部の客達も戸惑いを見せていた。戸惑いで済んでいるのは、儀式場の影響だろう、とエージェントは言った。
「多少、不可解なことでも「そうだ」って思ってしまうってことネ。儀式の贄として、或いはただの藁にする為に」
 だが、今はこの状況を上手く利用すれば、大きな混乱も無くデパート内に閉じ込められようとしている人々を外に逃がすことができるだろう。
「避難を手伝って頂戴。猟兵チャン達が調べてくれたお陰で、洗脳状態が深いのは例のお店に居る客と店員だって分かったカラ」
 2階と、4階の店の客と店員だ。
「洗脳のキーはガラスよ。そこから見ている筈だから、見えなくなるように手を引くか、気絶させてしまうか。上から布をかぶせてしまうか……或いは罅を入れたりしてみるかね」
 ものがものだけのちょっと強盗みたいだけど、と息をついてエージェントは言った。
「出来ればスマートに、でも難しかったら……後で始末書は任せておいて」
 基本的には工事で今日は早くしまるとか、言ってしまえば儀式の影響を受けた客たちであればすんなりと信じるだろう。
「最後は……行って頂戴。招待状貰ってるでしょう? 『18時に、お得意様専用のサロンへ』って」
 彼ら曰く『特別な客』を迎え入れるための場所。
「サロンへの入り口は6階にあるわ。6階には誰も近づけないようにって、他のエージェントにも言っておくわ」
 客達がざわつき出す。本格的な狂乱が訪れる前に、客をこのデパートから避難させなくては。
◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第二章受付期間:2月16日(火)8時31分〜

●二章の成功条件
 洗脳状態にある客の避難

最後に6階に向かう旨の記載があれば、お得意様専用サロンに到達で成功となります。

一章の調査の結果
▷2階のジュエリーショップ
▷4階の有名ブランドショップ

 にいる客や店員が、洗脳が深く動かずにいるのが確認されています。

 *洗脳にはガラスを介して見て行われています。
 *客や店員は儀式の影響を受けているため、ガラスによる介入が無くなれば多少不思議なことでもすんなりと言うことを聞きます。
 *UDCエージェント達は協力的です。6階に客や店員が近づかないようにしておいてくれるそうです。
 

◆―――――――――――――――――――――◆
豊水・晶
あまり現場を荒らしてエージェントのかたにご迷惑をお掛けするのは心苦しいですし、お客さまや店員さんを手にかけるのも気が引けます。私に思いつくのはこれくらい。
気絶ではなく深い眠りへ。
意識がなくて目を瞑るのであればどちらも一緒ですよね。

あなたが見たのは不思議な夢でした。安心して日常を過ごしてくださいね。
という感じで、UC[リュウノシンジョ]発動します。
アドリブや絡みなどは自由にしていただいて大丈夫です。



●point.2F.004
「——黄昏へ」
「黄昏へ」
 それは正しく『異様』な光景であった。
 賑わうデパートの姿は一瞬にして消え——或いはひた隠しにされていた異様さが顔を出しただけのことかもしれない。
(「隠すつもりも、もう無いのでしょうか」)
 輪唱する人々を視界に、豊水・晶(f31057) は唇を結ぶ。ピリピリ、と僅かに感じたのは、この地で行われようとしている儀式の影響か。邪神の気配か。復活こそまだであったとしても、その道筋だけは仕上がっているのだろう。
「黄昏へ」
「黄昏へ黄昏へ」
 口々に告げる人々は、茫とした瞳のまま。そこに、楽しげな買い物風景などもう無い。
『——それに、そうそう。今はあれが人気だよね。ダイヤの——オレンジ』
「……」
 あの時、そう告げていた娘達は、今や意識を失い、その姿を店の外にいる客たちが戸惑いを見せる。
「どうしたのかしら……あれ」
「そうね、ほんとうに。いったい……」
 どうして、と。
 その程度の戸惑いで終えているのは、この地にある儀式場の影響だろうという話は晶の耳にも届いていた。
「……本来であれば、もっと混乱するのでしょう。今は、恐れを感じないのは……」
 良かった、と言えるのだろうか。単純にそう口にすることはできないまま、晶は店内を見る。
(「あまり現場を荒らしてエージェントのかたにご迷惑をお掛けするのは心苦しいですし、お客さまや店員さんを手にかけるのも気が引けます」)
 ほう、と息をつき、ガラスのショウケースを見据えると晶はゆっくりと手を伸ばした。
「私に思いつくのはこれくらい」
 気絶ではなく、深い眠りへ。
 指先から零れ落ちるのは煌めき。きらきらと光る霧に、ふぅ、と晶は吐息で触れた。
「眠れ。今よりここは竜の寝床。何人たりとてその眠りを妨げることはない」
 光る霧は人々を眠りへと誘う。くらり、と倒れる体をそっと取って、晶は年若い娘たちの体を横たえた。
「あなたが見たのは不思議な夢でした」
 次に目覚めるときは、きっと楽しい買い物が出来ることだろう。楽しい日々で、素敵な1日と——明日が、来るはずだ。
「安心して日常を過ごしてくださいね」
「……」
 意識を失い、眠った客達はガラスの影響範囲から外れる。ふつり、と途切れた声に、晶はほう、と安堵の息を零す。次々と眠りに落ちた人々を避難させるため、晶はUDCエージェント達を待った。

成功 🔵​🔵​🔴​

藤代・夏夜
閉店するなら前もってアナウンスしなくっちゃ
素敵なデパートなのにこんなんじゃあ台無しよ
ま、今日で終わりになんてさせないけど

洗脳が浅い客には
閉店ですって、急いで出なくっちゃ
いきなりで寂しいわ、でも閉店するんじゃ仕方ないわよね
って気さくに声かけつつ2階か4階の人手がいる方へ

あらいいもの発見
纏めて拝借したそれ=人の頭が入る紙袋を
洗脳の深い客や店員の頭にどんどん被せて引っ張りましょ
ガラスはできるだけ傷付けない
素敵なデパートだし
何より、キャロルちゃんのオーダーに応えたいわ

何だかエスコートしてるみた…あっ
ソシャゲイベの推しと同じ事してるわ!

萌えは胸の内に
推しに恥じない人命救助が済んだら6階へ行くとしましょ



●point.1F-4F.008
「当デパートは、本日ヲもちまして……終了トさせて頂きマス」
 妙に歪んだ声を皮切りとするように、人々の動きが止まる。鈍る。鼓動そのものが、緩やかになったかのように瞬きが減り、薄く開いた唇が『その言葉』を紡いでいた。
「——黄昏へ」
「黄昏へ」
 響き合う声が、エントランスの吹き抜けを通って一階まで届いてきていた。
「……」
 一度、上階へと目をやった長身は、まったく、と息をつく。
「閉店するなら前もってアナウンスしなくっちゃ。素敵なデパートなのにこんなんじゃあ台無しよ」
 藤代・夏夜(f14088)は楽しげにチョコレートを眺めていた金の瞳を細める。困った子ね、とでも言うように軽く肩を竦め——す、と周囲に目をやる。
「ま、今日で終わりになんてさせないけど」
 唇には笑みを浮かべ、トン、と夏夜は奇妙な静寂を迎えたデパートの中を歩き出す。黄昏を告げる声は僅か、止まっているのか。上層階に比べてこのあたり——一階付近では、戸惑いを見せる客の方が多かった。
「何があったのかしら?」
「そうね。本当に何があったのかしら……?」
 首を傾げ、不思議そうに瞳を細め——だが、その視線が僅かに定まらない。
(「完璧に何処かを見ちゃうと、ダメってことね。折角の楽しい買い物をしていたんですもの」)
 帰り道まで楽しくね、と夏夜は足を止めた客達——洗脳の浅い彼女達に声をかけた。
「閉店ですって、急いで出なくっちゃ」
 それは、放送で使われていた言葉だ。邪教側が使ってきていた言葉をさらりと唇に乗せて、夏夜は気さくに続ける。
「いきなりで寂しいわ、でも閉店するんじゃ仕方ないわよね」
「へい……てん。うん、そう。そうね、急いで出ないと」
 二度、三度と言葉を繰り返した後に彼女達の瞳が夏夜に定まる。浅い洗脳から、そのまま深くへと引きずられることもないまま——目の前の現実を捉えた彼女達に夏夜は微笑んだ。
「えぇ。閉店時間までにちゃんと出なくちゃね」
 気さくな様子で告げて、歩き出した彼女達を見送る。こっちヨ、と聞こえたのは、UDCエージェント・キャロルの声だ。
「えぇ、こっちから出マショ。そう、今日は特別なのヨ」
 客を誘導しながら、ぐぐ、っと親指を立てたキャロルに夏夜はひらり、と手を振る。
(「また後でね、キャロルちゃん」)
 向かうは4階・ハイブランドエリアだ。
「お出迎えは煌びやかな柱だなんて。ソシャゲの推しとの出会いみたい」
 ブランドに合わせてのフロアの造り、ということなのだろう。一階からここまで来る間、随分と雰囲気も変わった。客がまばらなのは、元々の価格帯が理由だろう。客を避難させる、という一点においては、人数こそ少ないがバラバラにいる人にどう対応するかという問題点もある。
「どうしようかしら」
 シャンデリアの下、考えるように顎に指先を添えたところで目に入ったのは、ショップに並べられていた特徴的な袋。
「あらいいもの発見」
 そう、ショッパーバックだ。店のロゴが入った紙袋を纏めて拝借すると、夏夜は問題の店へと向かう。改めて場所を探す必要は、無さそうだった。
「黄昏へ」
「——黄昏へ」
 繰り返される言葉に、一点を見据える瞳は他の階で見た客たちよりも色を無くしている。深い洗脳状態にあるのだろう。
(「近づいても反応は無し……ね。それじゃぁ……」)
 せーの、と夏夜は持ってきていた紙袋を客に——被せた。
「黄昏へ、たそ——……」
 ふつり、言葉が途切れる。視界の遮断。紙袋をかぶせてしまえば見れず、見られることもない。
「さぁ、残りのみんなにも被せていきましょ」
 この分だと、ガラスを傷つけることなく進められそうだ。
「素敵なデパートだし。何より、キャロルちゃんのオーダーに応えたいわ」
 さぁ、行きましょう、と夏夜はまずは客達の手をひく。他にもこの階に辿りついた猟兵の姿が見える。もう一度戻ってくるつもりではあるが——彼らが上手く避難させてくれるだろう。
「まずは、みんなの移動ね」
 誘うように手を引いて、四本の柱で飾られたフロアへと歩き出す。
(「何だかエスコートしてるみた……あっソシャゲイベの推しと同じ事してるわ!」)
 あれはそう、1周年記念イベント特別シナリオ。あの日の推しの笑みを心に刻み——そして、推しに恥じない人命救助が済めば、夏夜は問題の6階へと向かった。
 お得意様専用のサロンへと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
折角、お誘いいただいたのですから。
後顧の憂いは断って、参りましょうか。

視線を強く感じる辺りのガラスを叩き割り、音と衝撃で注意を引きます。
――ええ、邪教の危機が去れば、うんと綺麗にして貰えるでしょう。
始末書の方は、ええ、彼女の女気とやらに頼りましょう。

本来なら武器でやるのですが、拳で。
血を流すのが目的です。
皆さんに避難していただくお願いを通すなら、このくらいで十分かと。

血を媒介に催眠を。
さあ、善良なる皆さん、このデパートは本日から改装となります。
順々にお帰りください。慌てて怪我のないように。

見届けた後、六階へ移動しましょうか。
さて、彼らはどんな黄昏……深淵を、見せていただけるのでしょうね?



●point.4F.008-6F.xxx
 ――その店は、異様な静けさに包まれていた。否、何一つ声が無いというわけでも無い。一点を見据えたまま瞬きもしない客や店員達は、黄昏の言葉を紡ぐ。
「――黄昏へ」
「黄昏へ」
 言葉は誘いか、到来を告げる者であったか。
 輪唱するように響く声に生気は無く、同時に淀みも無い。
(「――さて」)
 生きてはいらっしゃるようですが、と黒蛇・宵蔭(f02394)は瞳を細めた。死者の気配は遠く、どう生きているかは放っておくとしても、死んでいないことだけは確かなようだ。これが、件の教団の力か――儀式の影響力か。
「どなたが出てくるのか、楽しみですね」
 緩く宵蔭の唇が弧を描く。黄昏へ、と繰り返される言葉が、儀式の一端であればまだしもそれらしい気配は無い。異様でこそあれ、異形の気配は遠く、生者ばかりがあるからこそ、このデパートは――……。
「さて、折角、お誘いいただいたのですから。後顧の憂いは断って、参りましょうか」
 吐息一つ零すようにして、宵蔭は僅かに瞳を伏せる。近づいてくる気配は無く、遠ざかる者も無い。代わりに感じるのは――視線だ。
「――あぁ、成る程」
 ひとつ、ふたつ桁の違うジュエリーが並んでいるショーケースからの視線が強いか。見ている、というよりは半ば、見据えるに近い視線は雄弁だ。指輪を美しく見せるように照明の使われている一角へと視線をやると宵蔭は微笑んで手を伸ばした。
「……」
 とん、とグローブ越しの指先でガラスに触れる。なぞるようにその視線を感じた場所に影を落とし、緩く手を握り――振り下ろした。
「――え?」
 ガシャン、と派手に響き渡った音に、人々の輪唱が止まる。二度、三度の瞬きの後、宵蔭をサロンへと誘った店員が首を傾げた。
「ショーケースが割れて……?」
「――ええ、危機が去れば、うんと綺麗にして貰えるでしょう」
 邪教の危機がされば。
 舌の上に、そう言の葉を溶かして、ぱたぱたと零れ落ちる血で染まるケースを見る。血溜まりが一角には進みが弱い。たたき割ったケースの種類というわけではまず無いだろう。
(「ここが、目の核だった、ということでしょうか。どうやら困らせてしまったようですね」)
 弧を描くように流した血が揺らぎ、やがて割れた硝子の方が堪えきれずに赤く染まっていく。砕かれた故、血に濡れた今「見る」力は容易く弱まっていく。
 ――まぁ、高級ブランドの宝石が並ぶショーケースが砕け散った訳だが。 
(「始末書の方は、ええ、彼女の女気とやらに頼りましょう」)
 さらりと請求書の行き先を決めて、宵蔭は二度、三度と瞬く人々を見る。血濡れの拳を緩く持ち上げれば、ぱたぱたと床が血に染まる。避難させる程度であれば、このくらいで十分だろう。
「さあ、善良なる皆さん、このデパートは本日から改装となります」
 ぱたり、ぱたぱたと落ちる宵蔭の血が対価となって空間を制していく。目が合った先、声が聞こえた先――その血が、香った先に催眠が届く。
「順々にお帰りください。慌てて怪我のないように」
 微笑むようにして告げた男の言葉が、染み渡るように人々がゆらり、と動き出す。
「――あぁ、改装。改装なのね」
「それなら……えぇ、帰らないと」
 黄昏を告げる声は消え、頷き合う人々が避難していく姿を見送ると、宵蔭は視線の失せた店を後にする。行き先は6階。あの時、店員から聞いたお得意様専用サロンだ。
「さて、彼らはどんな黄昏……深淵を、見せていただけるのでしょうね?」
 悠然と笑い、男は足を向ける。底の知れぬ笑みの先、劇場のような豪奢な扉が開かれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
【虹絆】
お前の推理、ちゃんとあたってたな
と…まだ逃げてないやつを助けねェと

下の階から、みていくか
他のやつが助けてるとこは外して次のとこに

洗脳のキーは硝子だったか
ま、この辺にあるもん壊さずにいけるならその方がいいんだろうが
硝子をそのまま見詰めるのがやばいなら、俺は鏡との間に水の壁を一枚
それは揺らめいて、正しい姿は映さないもんだ
気が少しそれたならあとは引っ張って引き離せばいいだろ

ああ、引っ張るのは任せるぞ
おい、俺は抱えられても暴れたりしねェし
そもそも抱えさせてやってるんだよ

離れたなら、あとはエージェントに任せていくべき場所へ
あとは6階のサロンにいくだけだな
行くぞ、ヒメ
…いや迷子になるのは、お前だ


姫城・京杜
【虹絆】
だろ?毎日家計簿マメにつけてるからな、数字は得意だぞ!(どや
よし、助けにいこうぜ!(褒められて超張り切り

洗脳されてない客にも道すがら声掛けつつ移動
こっちの出口の方が、近くて混んでなくて穴場だぞ

2階と4階、人の手が薄い方へ
硝子か、あまり俺も見ないようにしよ…
おお、すげー水の壁!さすが與儀!
じゃあ俺は、気がそれた人を引っ張って引き戻す係!
硝子や鏡を見ようとするなら、マントや神の炎で視界遮る
暴れるなら抱えてでも運ぶ
よく與儀抱える事あるから慣れてるし!
そう遠慮するなって與儀、いつだって運ぶぞ!(にこにこ
手荒な事は余りしたくねェから、気絶させるのは最終手段に

ああ、6階だな
迷子になるなよ、與儀!



●point.2F.004
 デパートの中は、ひどく妙な空間と化していた。
「――黄昏へ」
「黄昏へ」
 人々の輪唱は上階から響いているようだった。淀みなく響く声は賛美歌の類いに近いのか。上へ、上へと届けようとする声が、僅かに揺れる。ひとつふたつと、時折減って届くのは客と店員達の避難に他の猟兵達も動いているからだろう。
「その声が減っても、何かを仕掛けてくる様子は無い、か……」
 足を止め、吹き抜けのフロアから上階に目をやった英比良・與儀(f16671)は、息をついた。
「随分と妙なことになってきたな」
「だな。あっちこっちで聞こえてきてる割に、微妙に静かな気もするんだよなー」
 與儀はこっち、と姫城・京杜(f17071)が傍らに立つ。長身の守護者がそうして立てば、己の今の姿ではすっぽりとその影に埋もれる。
「……おい」
「ん?」
 見上げた先、炎を思わせる赤い髪がぱさぱさと揺れた。ぱち、と一度瞬いた藍の瞳が、緩く問いを作る。
「與儀?」
「――……」
 『そこ』に立ったのは無意識か、と與儀は花浅葱の瞳を細める。デパートのショーウィンドウ――あれは、件の店のものじゃないが、近くにあったそれから己を隠すように立った京杜に小さく息をつくようにして告げた。
「お前の推理、ちゃんとあたってたな」
「だろ? 毎日家計簿マメにつけてるからな、数字は得意だぞ!」
「……」
 それは一般的に家庭派男子の鏡とか言われるやつなのか。どやっとして見せる京杜を蹴るかどうか少しばかり悩んで――與儀は止めた。
「と……まだ逃げてないやつを助けねェと」
「よし、助けにいこうぜ!」
 なにせ、最初に褒めたあたりで力一杯張り切っている守護者が見えた訳で。いや、一発蹴ったところで変わりも陰りもしないだろうが。
(「まぁ、いいか」)
 ひとまず、と向かった先は2階のジュエリーショップだった。黄昏を告げる声が、擦れるように残っている。避難が間に合っていない、というよりは――そもそも、客が多いのだ。
「人気のお店みたいだな、與儀」
「……みたいだな。価格帯か?」
 時期を思えばジュエリーを贈ることも多いのだろう。比較的手に取りやすい価格から、少しばかりの背伸びで届くもの、と取り扱いの幅も広い。
「――れへ」
「黄昏へ」
 だからこそ一度、神たる二人は足を止める。ここにいる人々はきっと、願いと想いを重ねて店に来た人々だ。幸いの日も、きっと近いのだろう。
「洗脳のキーは硝子だったか」
 僅か、瞳を細めるようにして與儀はショウケースを視界に入れる。異端の神の気配は、濃くは無い。だが、確かに何かが「見て」いる気配がある。ちらり、と傍らを見れば京杜が一度唇を引き結んでいた。
「與儀」
 警戒する藍の瞳に、神としての警戒と守護者としてのそれが乗る。肌が粟立つような感覚とは違う、何かがいる、引きずり込もうとしているという感覚に、知らず京杜の声が低くなる。
「何か……」
「――あぁ。妙なやつがいるみたいだな。ま、この辺にあるもん壊さずにいけるならその方がいいんだろうが」
 そうだな、と落ちる主の声に息を吸う。そう、硝子だ。
(「あまり俺も見ないようにしよ……」)
 容易く洗脳されるつもりは無いが、可能性は減らしておきたい。守護者である自分が倒れれば、次に危険になるのは主たる與儀だ。何より――自分が、嫌なのだ。
(「俺の主は與儀だしな!」)
 問題はこの硝子をどうするか、だ。
「硝子をそのまま見詰めるのがやばいなら、俺は……」
 ふぅ、と吐息一つ零すようにして與儀が掌から冷えた空気を零す。吐息はふわり、ふわりと踊るようにして水に変わった。ショーケースや鏡との間に水の膜が作り上げられた。硝子に、窓に映っていた人々の姿が、揺れる。
「それは揺らめいて、正しい姿は映さないもんだ」
「おお、すげー水の壁! さすが與儀!」
 黄昏へ、と告げていた人の声が止んだ。思わず声を上げた京杜の前、二度、三度と瞬いた客が「あれ?」と薄く唇をひらいた。
「私は……何を……?」
「ただ、帰る時間が来ただけだ」
 小さく笑うようにして告げた與儀が微笑むのを見ながら、京杜は残る客や店員達の手を取っていく。
「じゃあ俺は、気がそれた人を引っ張って引き戻す係!」
 一度「あちらからの」視線を揺らがして仕舞えば、深い催眠へともう一度引き込もうとする力も弱いのだろう。未だぼんやりとした人々の手を取り、引き、ばさり、と揺れたマントで彼らの視界から硝子を遮るように京杜は避難をさせていく。
「今のとこ、暴れる人もいないな。いざとなったら抱えてでも運ぶぞ。よく與儀抱える事あるから慣れてるし!」
 そう、圧倒的経験値というやつが京杜にはあるのだ。戦場とか街中とかで。與儀を抱えて走ったり歩いたりした経験値というやつが。
「おい、俺は抱えられても暴れたりしねェし、そもそも抱えさせてやってるんだよ」
「そう遠慮するなって與儀、いつだって運ぶぞ!」
 のにこにこ、と浮かべた笑みに、花浅葱の瞳はそれはそれは美しい笑みと共に――細めらた。
 無事に避難させた彼らをエージェントに任せると、二人は上階を目指す。目的のエリア、6階の特別なサロンへと。
「迷子になるなよ、與儀!」
「……いや迷子になるのは、お前だ」
 手を繋ぐか抱っこするかと始まった会話は結局一発の蹴りを以て終わった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

双代・雅一
ガラスの向こうから見えなくすれば良いんだろう?
手にしたタブレットに表示されるは魔法陣
クロセルさん出番だよ、とUC発動
今日は草津温泉饅頭で持て成し
「それ、地下の物産コーナーの…まぁいいでしょう」

クロセルの天候操作術で対象階全てのガラスに一気に霜を降ろして貰う
向こうからはさぞかし綺麗な結晶の模様が見える事だろう
後に溶ければガラスに傷は付かない

洗脳された客には落ち着きながら声張って告げる
上階でガス漏れ火災が発生したらしい、早く逃げるんだ、とね
その言葉に合わせ白い煙が流入
慌ててくれたら尚良し

白い煙はドライアイスにクロセルが湯をかけたもの
CO2だけ氷結で生成可能だな

客の避難確認して六階へ
何が出てくるかな



●point.004.008
「——黄昏へ」
「黄昏へ」
 ハイブランドを歌うフロアには、煌びやかな装飾が目立っていた。ひどく単純な話をすれば——眩しい。惟人であれば眼鏡に反射するだとか言っただろうが、双代・雅一(f19412)には関係の無い話だ。目を伏せれば不服の声でも聞こえてきそうな片割れに小さく笑い、雅一は客で賑わう店へと視線を向ける。
「見えているだけ……視覚情報の共有とそこからの洗脳は使えるが、というところだろうな」
 避難は進み、教団が贄と見ていた客も店員もデパートから消えて行っている。その状況で、強制的な介入や儀式を無理に進めて来ないのは『見る』ことしかできないからか。
「自由に動かせる手駒が無いか、或いは足らない分をこっちで補うかだが……」
 可能性だけで考察したところで意味も無い。どうせ、次には答えも出るだろう。
「まずは洗脳か。ガラスの向こうから見えなくすれば良いんだろう?」
 手にしたタブレットをとん、と雅一は叩く。明滅の後に表示されるのは魔方陣。
「クロセルさん出番だよ」
 指先を滑らせ、なぞり辿れば——ふいに、風が起きた。常人であれば震えるほどの冷気に、ただコートだけを雅一は揺らす。見上げるほどの位置に立ち、空に腰掛けたのは『かれ』の青い影が雅一の頬に落ちた。
 序列49たる偉大なる公爵。悪魔クロセルは水のように美しい髪を揺らし、ほう、と息をついて見せた。
「雅一」
 世に響く声は、何よりも美しくあった。天使のような翼を広げ、ほっそりとした足を空に滑らせ青年の姿を以て悪魔クロセルは雅一を見据えた。
「——契約者よ、何を望みますか」
「はい、これ」
「……」
 ひょい、と先に渡された「物」にクロセルは眉を寄せた。
 温泉饅頭である。草津温泉饅頭。
 契約の対価として決めたものではあるのだが——ここはまず草津ではない。つまりこれはどうみてもどう頑張っても——来た、やつだ。
「それ、地下の物産コーナーの……まぁいいでしょう」
 だが、あるかないかで言えばクロセルとしては、まぁありであった。ゆるり、と口元笑みを浮かべて応じた雅一を一瞥した悪魔が、指先で空を撫でる。キラキラ、と空間が煌めき——次の瞬間、雅一の吐息が白く染まった。
「さて、と」
 冷気、だ。クロセルの天候操作によって、ガラスに霜が降りていく。小さな音を立てながらショウケースに雪の花が咲き、花弁ひとつ伸ばすようにして白が硝子を覆う。
「向こうからはさぞかし綺麗な結晶の模様が見える事だろう」
 ふ、と雅一は口元に笑みを作る。穏やかな気配を纏い、黄昏と続く声を止めた客に声をかけた。
「上階でガス漏れ火災が発生したらしい、早く逃げるんだ」
 後ろから、声を張るようにして告げる。コツン、と足音一つ響かせれば白い煙が店内に滑り込んだ。
「——え、あれ」
「これ……あぁ、そう。そうだ。ガス漏れ……」
「あぁ」
 柔和な笑みを浮かべ、雅一は戸惑う客達にそう告げる。
「避難が必要だろう?」
 店員へとそう告げれば、言葉が染み渡ったかのように人々が避難の言葉に頷き出す。足先、凍えるような寒さから遠い——少しばかり、ひんやりとした煙はドライアイスにクロセルが湯をかけたものだ。
「さて……次は6階か」
 白い煙の中、ひとり佇む雅一の足元だけは僅か空気が変わっている。氷結の能力を持つ青年にとっては、この舞台は一つ一つ組み上げて作り出したものに過ぎない。
 ——ならば、邪教集団が作り出したのは、或いは作り出そうとしているものは何なのか。
「何が出てくるかな」
 吐息一つ、零すようにして雅一は笑う。穏やかに、だが見る者が見れば何処までも底知れぬ笑みで上階へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ガラス、ねぇ
手っ取り早く全部ぶち壊してぇケド
怪我人出しちゃ本末転倒だし
スマートにいくとしましょか

4階へ
ざっと見渡しガラスのある所へ【虹渡】を広げ
布の代わりに光でガラスを覆うわネ
洗脳されてたヒト達へ
「聞こえた?非常事態だから店外へ避難するようにって
と適当言って誘導するヨ
手を引いたり軽く背を押し促せば、後は流されて避難してくれるかしら

それから……ひとつ気になるンだよネェ
シャンデリア、アレもガラスでしょう
その下にヒトが居ないのを確認したら、落として砕いておくわ
ガラスを介するというなら、影響範囲大きそうと思ってネ
まあ、避難の口実追加にもなるし?
大丈夫、アタシも始末書は得意だから

終えたら6階へ急ぐわネ



●point.4F.008→6F.xxx
 デパートには妙な静けさがあった。輪唱する声も、あの不可解な――半ば、分かりやすい放送もあったが、だが、妙に静かだとコノハ・ライゼ(f03130)は思う。
「避難も無事に進んで、降りてきてる客もいるってのに……」
 上階へと向かう吹き抜けのフロアへと目をやる。聞こえ来るのは黄昏を告げる微かな声、後は避難を告げるエージェントや猟兵の声――それだけだそう『それだけ』しか無い事実が、妙な静けさを感じさせていた。
「お利口だコト」
 邪教集団側からの動きは無い。避難をさせているのだ。あちらからすれば、生贄が奪われているようなものだが、取り戻しに来るような何かが起きている様子は無い。或いは――……。
「出来ないのかしら」
 あちらは『視る』ことで洗脳している、という話だった。見ることに特化しているのでは無く、見ることしか出来ないのであれば猟兵によるこの介入に対応出来ないと言うことも考えられる。
(「後はオレ達も数に入れてるってところネ」)
 ぺろりと美味しく食べられるようなつもりも無く――そもそも、腹を下すが良いところだろうに。ふ、と小さく笑い、コノハはチカチカと光って見えるショウウィンドウへと目をやった。
「ガラス、ねぇ。手っ取り早く全部ぶち壊してぇケド、怪我人出しちゃ本末転倒だし」
 ガラスとなれば、避難する足元には破片は不向きだろう。
「スマートにいくとしましょか」
 4階ハイブランドを謳うフロアは、煌びやかなシャンデリアの出迎えで始まる。大理石を使った柱に、磨き上げられた床。――まぁ、まず走り回るには向かない場所だが、走るような客など来ないのだろう。目的の店の近くでさえ、下の階とは並ぶ商品の金額が桁ひとつ違う。
「そして、ここが噂の店……ねぇ」
 黄昏へ、と響く声があった。4階8番地にある高級ブランドが持つ店舗は他に比べて広い。取り扱っている商品も多いからだろう。ショウケースはあちらこちらに。他の猟兵も来ているのだろう、霜を被った所や僅かにひび割れたケースも見える。
(「確かに、あれが雄弁だしネェ」)
 それまで感じなかった『視線』が此処にはある。店に近づく程に、何かがいるような獲物を見るような視線があるとは思っていたが、ここに感じるのは『注視』に近い。じっと見据えるような何か。引きずり込むような強い視線は、同時に甘露のように甘い誘惑の指先に寄る。二つの店はどちらも宝石を扱うのであれば――望む欲は強欲か。
「光りものがお好きみたいネ」
 ふ、と笑い、コノハは店の中を見渡すと指先で空を撫でた。ひとつ、ガラスから感じる視線を遮るようにして薄氷の瞳はゆるり、と弧を描いた。
「――じゃあネ」
 告げる言の葉と共に顕現するのは淡く広がる虹の帯。布の代わりに光でガラスを覆えば、強く感じていた視線が途切れる。
「黄昏へ、たそが――……」
「……あれ?」
 重ね紡いでいた人々の声が止む。ゆるく首を傾げて不思議そうにするばかりなのは、洗脳の名残だろう。儀式場の影響範囲内にある分、彼らの認識は大分揺らいでいる。
「聞こえた? 非常事態だから店外へ避難するようにって」
 だからこそ、軽くコノハは声をかける。とん、と肩を叩くように背を押せば、客の足が動く。
「避難……あぁ、そっか。避難が必要なんだ……」
「そう。だから誘導もしなきゃねぇ」
 ゆるり、と笑って、歩き出した客の背を見送り店員の手をコノハは引く。一歩、踏み出すように促せば、こくりと頷いた。
「さて、と」
 最後の一人を見送れば、ガランとしたフロアだけが残る。カツ、コツと響く足音を気にせずにコノハは、一角へと目をやった。
「それから……ひとつ気になるンだよネェ」
 エレベーター、エスカレーター共に出会う4階の玄関口。その天井に輝く煌びやかな照明。
「シャンデリア、アレもガラスでしょう」
 見上げた先、チカ、チカと光るそれに僅かに違和感が乗る。妙に光って見えると思っていたのだ。
「……」
 ヒュン、とナイフを投げる。鎖を断ち切れば、キン、と妙に堅い音をたてて――シャンデリアが、落ちてきた。
 ゴォオオ、と唸るような音を残し、ガシャン、と床を叩くようにして落ちたシャンデリアが派手な音を響かせる。
「え、……なに?」
「そう、避難。避難よ……急がないと」
 慌ただしく、下の階まで辿りついていた客や店員達が外を目指す。その背にひらり、と手を振っていれば、全ク、と息をつく一人の声が耳に届いた。
「派手にやったワネ。イケメンさん」
 UDCエージェントのキャロルだ。息をつき、だが笑ってみせる姿を見るに、怒りに来たというよりは状況の確認に来たのだろう。
「ガラスを介するというなら、影響範囲大きそうと思ってネ」
 UDC組織の犬を自称する青年は、ふ、と笑みを浮かべて笑う。
「まあ、避難の口実追加にもなるし? 大丈夫、アタシも始末書は得意だから」
 さらり、と告げて、コノハは上へと続くエスカレーターを見た。向かうは6階。止まる様子も無いエスカレーターに小さく笑い、気配を変えていくフロアへとコノハは向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『黄昏色の啓蒙』祈谷・希』

POW   :    苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い
自身が装備する【『黄昏の救済』への信仰を喚起させる肉輪 】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD   :    黄昏を讃えよ、救済を待ち侘びよ
【紡ぐ言葉全てが、聴衆に狂気を齎す状態 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる
【瞳から物体を切断する夕日色の怪光線 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『黄昏色の啓蒙』祈谷・希
 嘗て、一人の娘が消息を絶った。
 黄昏色の信心・祈谷・希。数十年前に失踪し、UDCエージェント達もその存在を見つけられずにいた。死亡の説も考えられた。彼女の属する団体「黄昏秘密倶楽部」であればその可能性もあるだろうと。
 ——だが。
「欲望を、解き放つです。我々は苦しみを以て肉体を手放し、魂を解き放たなければなりません」
 頭部だけとなった娘の声が空間に響いていた。朗々と読み上げられる言葉は、かの組織の教義であった。
「欲望たる心を、栄誉を求める心を、理性たる心を。全ては魂の正しい在り方を定める為、数多の欲望と共に私達は告げなければなりません」

●黄金の都
 両手開きの扉は、開かれてあった。毛足の長い絨毯が足を沈め——ふいに、滑る。重く沈むような感覚に目をやれば絨毯は赤く染まっていた。ひとつ、その色に気がつけば足元から壁、そうして天井までが赤く染まっていくのが見えた。
「——到来である」
「到来である」
 二度、三度と反響する声と共にフロアに信者達が立った。『現れた』に近いそれは、儀式場が飲み込み——そして生み出した信者達だろう。皆一様に頭から袋を被り、顔は知れず、だが声だけは到来を告げる。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い」
 その信者達の波の向こうに『彼女』は居た。
 白く長いウィンブルに、能面のような顔。布の隙間から見えるのは首であるのか、肉であるのか。
 それは、嘗て失踪した『黄昏色の信心』祈谷・希が『黄昏の救済』の眷属と化した姿。外見の狂気性だけでなく、その能力も神格化を果たした娘は、儀式の核となりその指揮を執る。
「全ては救済の為に」
 それは柱であったか。証であったか。
 表情など変わらぬまま——だが、確かに『こちらを見た』と誰もが思う。それがガラス越しに感じた視線だと気がついた者もいるだろう。
「貴方たちもまた、救済の為に此処に招きました」
 欲望を晒し、その身を示した者を招き、誘い扉を開いた。
「招くべき人々が外界に触れたのは残念ですが——到来の折には全てが救われましょう」
 痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる。
 浪々と告げる声と共にフロアが歪んだ。床にあった椅子が壁につき、テーブルが天井につく。それがまるで正しい形であるかのように。
「——全ての魂よ、苦痛を受け、精神を死へと返せ」
 『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の言葉に応じるように儀式場に生まれた信者達が告げた。
「黄昏を讃えよ、救済を待ち侘びよ」
 赤く濡れた布袋を被ったまま。


◆―――――――――――――――――――――◆
マスターより
ご参加ありがとうございます。
第三章受付期間:3月6日(土)8時31分〜

●戦場について
 儀式場と化したお得意様専用サロン。
 夕焼け色に染まった空間になっており、椅子が壁につき、テーブルが天井にあるなど、異界化している。
 戦うのに問題の無い広さがあり、戦闘で破壊された家具は儀式場が消えた後、元に戻ります。

●戦闘について
▽POW →苦痛と精神の死を救済と信じる声が聞こえてきます。
 振り払ったり、否定してみたり、ふふんとして見せたりご自由にどうぞ。

▽SPD →儀式場に生まれた布袋を被った信者達が襲いかかってきます。信者は儀式場に呼応して召喚されている為、3章終了時には儀式場と一緒に消えます。 

それでは皆様、ご武運を。

◆―――――――――――――――――――――◆
双代・雅一
成る程、確かに肉体を手放したのか君は
で、頭部だけになった感想はどうなのか
興味が湧くな

双氷槍を手に生首と対峙、遠距離から冷気の槍を投げ貫く攻撃から
光線は伏せるか跳ぶかで首や胴へ食らわない様に
医療レーザー並に切れてくれれば接合は容易だ
手足の一本程度と継ぎ当てて――ラサルハグェ、出番だ
と自分に向けUC発動、回復強化を

無差別攻撃は信者も含む、だろう
死んで救いになるなら…赤頭巾の君達は本望かな?
信仰より生を望むなら後で治してやる、この通りな

さて、首のみのお嬢さんは残念ながら治療不能だ
ならば俺に出来る方法は一つ
生憎だけど安楽死、と行かないのは勘弁願おうか
強化された体にて一気に接近、氷槍による突撃を与えよう



●信仰より生を望むなら、と医師は問う
 ——血の、匂いがしていた。
 泥濘んだ足元から血が香る。真新しい血の匂いだ。色は鮮血よりは夕暮れの色彩に似て、炎とも違う。夕暮れ、と口の中、作った言葉を舌の上に溶かすようにして双代・雅一(f19412)は薄く笑った
「黄昏、か」
 誰そ彼。
 夕暮れ時を示すそれを、想起させる為のものでは無いだろう。黄昏、その言葉を思い浮かべさせられれば良い。想像は形無きものの力となり、世に影を落とせば影響力を増す。
 要注意団体『黄昏秘密倶楽部』が信奉する邪神『黄昏の救済』そして、目の前にいる——在る彼女が、UDCエージェントが狂気に飲まれた理由だろう。
「成る程、確かに肉体を手放したのか君は」
 吐息一つ零すようにして、雅一は冷えた視線を『黄昏色の啓蒙』祈谷・希へと向けた。
「で、頭部だけになった感想はどうなのか。興味が湧くな」
「この姿は、身共に託された救いです。『黄昏色の啓蒙』たるこの身は、全て救済を告げる為にある」
 その上で、問うのであればと、嘗て祈谷・希という娘であったものは微笑むような声で告げた。
「歓喜です。喜びです。眷属と化したこの身が、苦痛が、無謬の力を齎したのです」
「成る程な。興味の分は終わったと言っておくべきか?」
「貴方も受け入れるのです。苦痛を、救済の死を——救済が訪れるのですから。さぁ」
 その誘いが雅一の周囲の空気を変えた。来る、と思った瞬間、一歩だけ前に出る。軽く、身を前に出した瞬間——周辺の空気が、凍り付いた。足元から氷が立ち上がり、凪ぐように滑らせた男のほっそりとした指先が冷気の槍を招いた。
「到来である」
「——到来である」
「……悪いが、用事があるのはお嬢さんの方でな」
 ゆらり、ゆらりと立ち、こちらへと向かってきた信者達に軽く告げて、雅一は冷気の槍をくる、と身を回すようにして投じた。ヒュウ、と鋭い音を立て、冷気は届く。血に濡れた空間が一瞬、駆け抜けた冷気と共に白く染まり——その色彩を変じる。ゴォオオ、と穿つ一撃が、儀式の要たる娘に届いた。晒す頬が霜が落ち、だが、笑うような気配に変わった、と雅一は思う。
「苦痛と救済か」
「えぇ。痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる」
 告げる言葉と同時に、『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の瞳が光った。らしいな、と思う暇など無いままに、夕日色の怪光線が戦場に走る。凪ぐように払うように来た光に雅一は後ろに跳んだ。ただ横に退くだけでは足りないのは、見事に椅子を両断していったのを見れば分かる。崩れ落ちた破片を飛び越えれば、胴を両断するように来た光が、雅一の腹を抉った。
「——と」
「さぁ、苦痛を受け入れるのです」
「確かに痛みはあるな。だが……」
 ここで真っ二つになった日には、誰に何処まで怒られるのか分かったものじゃない。腹の傷に手で触れ、チリ、という痛みに腕の傷に気がつく。傷自体は深いが——切り口は綺麗なものだ。
(「医療レーザー並に切れてくれれば接合は容易だ」)
 流した血は気を失うには早い。あのお嬢さんが動き出す様子こそ無いが、体が動く必要自体が無いのもよく雅一にも分かっていた。
 だからこそ、長々と血を流す趣味も無い。
「――ラサルハグェ、出番だ」
 軽く指を鳴らす。手首まで顔を見せていた氷蛇が、一振りの槍へと姿を変じた。僅か、冷気が頬を撫で、白く染まる吐息と共に雅一は己の腕を掲げた。
「さて、時間だ」
 滑るように氷槍が雅一の腕を赤く染め、だが傷口は同時に癒えていく。裂けた筈の腕が、シ赤く染まったシャツだけを残して傷が癒え、ふわ、と冷気を纏う風が、腕の、腹の傷を癒やす。
「……あぁ、貴方は癒やすと」
「まぁ、医者だからな」
 黄昏色の啓蒙の言葉に、ひゅん、と雅一は氷槍を構え直す。軽く視線を向けた先、そこに居た筈の信者達は姿を消していた。
「死んで救いになるなら……赤頭巾の君達は本望かな?」
 あれは、儀式場に呼応して呼び起こされた存在だろう。生者の気配は遠い。この地で作られた信者か、概念として呼び起こされた苦痛と精神の死の記憶か。
「信仰より生を望むなら後で治してやる、と言ってもやれたが……、断られたみたいだな」
 ぬるり、ぬちゃちと血の匂いを纏い、信者が行進する。足並みはバラバラに、だが、だからこそ狂気を齎す。
「到来である」
「——到来である」
 これを見たのが、只人であれば確かに保てはしなかっただろう。
「さて、首のみのお嬢さんは残念ながら治療不能だ。ならば俺に出来る方法は一つ」
 真っ直ぐに視線を向けた先、狂気的な見目を晒し、救いを乗せた言葉を響かせる存在へと雅一は身を飛ばした。揺れる信者達の間を縫い、身を低めて一気に加速して——氷槍を持つ。再び娘の瞳は光るが、今は雅一の方が早い。
「貴方も救いを受け入れ——……」
 ガウンと、衝撃が走る。低く、構えて穿つ。一撃が狂気を帯びた言葉を止める。凍らせる。
「生憎だけど安楽死、と行かないのは勘弁願おうか」
 口元、微笑を浮かべたままに雅一は告げる。
 一拍の後に冷気が走り、今度こそ娘の頬を白く染めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

英比良・與儀
【虹誓】
頭になってまで生きている……と、いっていーのかはわかんねェけど
このままにしといていいもんじゃねェのは確かだろうな
何言ってんだ、お前も神だろうが

苦痛も精神の死とやらも、俺にとっては救済じゃねェ
救われる奴は勝手に救われるし、救われねェやつはどこまでいってもそうだ
俺も神ではあるがそんな簡単に誰も救えねェし
上っ面だけの言葉は何も響かねェんだよ
は、ヒメ
ちゃんと守れよ、俺の守護者

飛んでくる肉輪は水ですべてなぎ払う
ああ、でもこんなのその儘にしとけるもんじゃねェし
ヒメ、お前の炎で燃やしてやれ
その方がきっといい

そう、俺に届かねェように全部燃やしてくれよ
もし怪我したら、俺が治してやるから気にせず好きにやれ


姫城・京杜
【虹誓】

見た目からして何か狂気染みてるな
俺が信仰するなら、與儀みたいな美しくて尊敬できる神がいいけどな…
って、まぁ俺も神なんだけど

何かに縋りたいって人の心は否定しねェけど
強引にとか誑かす様な事する輩は、神として許せねぇし
俺がやる事はいつだって決まってる
與儀は勿論、皆を守るぞ!

苦痛と精神の死が救済?
は、俺はそれじゃ救われなかったしな
俺を救ってくれたのは、生きる意味をくれた主だ
守護者として在れる事が、今の俺の生きる意味で救いだ
苦痛とか精神の死とか、ただの自己満足な甘えって事を俺は知ってる

ああ、神の炎で燃やすぞ
俺は守護者、自分の怪我なんて恐れねぇし苦痛になんか縋らない
與儀に届く前に、全部灰にしてやる



●簡単に救えないと彼は告げ、生きる意味をくれたのは貴方だと彼は言う
 ――それは、ひどく不可解な赤をしていた。この部屋の色が、今更綺麗な壁紙だという気は無い。違和があるとすれば、そう色だと英比良・與儀(f16671)は思う。
(「夕暮れ……、黄昏か」)
 は、と與儀は息をつく。分かりやすい名乗りだった、というよりは『これ』が邪神を――神というものに纏わる儀式場であったとすれば説明もつく。
「その神を奉じる為に、纏わるものを揃えたって話か」
「ん? 壁の色とかの話か?」
 一歩、上背のある姫城・京杜(f17071)の方が前に出ていた。庇うよりは守るように軽く足を引き、構えを取る姿を視界に、與儀は頷いた。
「あぁ、お前の想像通り、色とか、だ。あれだけ黄昏だって言ってたからな」
 いっそ驚くほどに分かりやすかったのは、想起による認識を得るためだろう。神が神たるには、認識を、信仰を得る必要があると――そう、思ったのだろう。
「召喚を成功させる為に」
 一度伏せた瞳を開く。真っ直ぐに見据えた先、儀式の要たる娘は、表情一つ変えぬままそこに在った。『黄昏色の啓蒙』祈谷・希は薄く唇を開く。
「欲望たる心を、栄誉を求める心を、理性たる心を。全ては魂の正しい在り方を定める為、数多の欲望と共に私達は告げなければなりません」
 救済を、と黄昏色の啓蒙は告げる。
「全ては救済の為に」
 その声が、瞳が狂気を帯びているのだ分かる。猟兵以外であれば、正気を保っていることも難しいだろう。
「頭になってまで生きている……と、いっていーのかはわかんねェけど。このままにしといていいもんじゃねェのは確かだろうな」
「見た目からして何か狂気染みてるな」
 警戒するように僅かに京杜の声が低くなる。あぁ、と静かに與儀は頷いた。
「あの見た目も、実際狂気を招いてんだろ」
「俺が信仰するなら、與儀みたいな美しくて尊敬できる神がいいけどな……」
 視線は前に向けたまま、ぽつり、と落ちた京杜の言葉に與儀は視線を上げる。
「何言ってんだ、お前も神だろうが」
「って、まぁ俺も神なんだけど」
「……」
 小さく肩を竦めるようにして笑った京杜を、一発蹴るにも頭を撫でるにしても――此処じゃぁ向かない。つま先の触れるような距離にあって尚、警戒の視線を緩めぬ守護者に與儀は、ふ、と笑うようにして前を――応えを待つ邪神の眷属を見た。
「苦痛も精神の死とやらも、俺にとっては救済じゃねェ」
「苦しみを以て肉体を手放すことを、精神を解き放ち、魂を解き放つ救済を貴方は求めないと? それは未だ、知り得ぬからでしょう」
「そうだな」
 は、と息を吐き、與儀は掌に水を招く。トン、と軽く床を叩けば水泡がひとつ、二つと湧き上がってくる。
「救われる奴は勝手に救われるし、救われねェやつはどこまでいってもそうだ」
 この手から滑り落ちるものもある。望んでも掴めず、だが望まずとも掴める時も――知らぬ場で救われるようなものも在る。
「俺も神ではあるがそんな簡単に誰も救えねェし
上っ面だけの言葉は何も響かねェんだよ」
 真っ直ぐに見据え、言い切れば動かずにそこに在った娘が、儀式の要たるものが笑う。
「――嗚呼、ならば貴方もまた救済に至るべきです」
 美しい笑みを浮かべ、肉輪が緩く回る。二度、三度と回る程に黄昏色の啓蒙の気配が変じていく。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ」
「……話、聞いちゃいねェだろ」
 まぁ、そういうやり口だとは思ってはいた。向こうがそれを信じようが、最初にもう與儀は言ったのだ。
 ――俺にとっては、と。
「ヒメ、来るぞ」
「――救済の日は近い」
 黄昏色の啓蒙の歪む声音が、狂気を招くのと與儀の声が響くのは同時であった。一際空間が赤く染まり、無数の肉輪が戦場に姿を見せた。
「召喚……いや、複製か」
 緩く弧を描くようにして来た肉輪に、與儀は水を放つ。正面、3つは崩したが、まだ数はある。
「ああ、でもこんなのその儘にしとけるもんじゃねェし」
 ただの攻撃よりは、狂気を彼らの言う信仰へ引きずり込む類いのものだ。触れるより先に薙ぎ払ったのはそれが理由だが、このままにしておく訳にもいかない。
「ヒメ、お前の炎で燃やしてやれ。その方がきっといい」
「ああ、神の炎で燃やすぞ」
 舞い踊れ紅葉、と京杜は唇に乗せる。與儀の紡ぐ静謐な水が踊る空間に炎を沿わせていく。ひらひらと舞い落ちる紅葉に炎が灯り、ダン、と一歩強く京杜は前に出た。
「何かに縋りたいって人の心は否定しねェけど」
 肉輪が来る。狂気の影が頬に落ちる。真面に見れば――触れれば、あれはやばいものなのだろう、と京杜は思う。
「強引にとか誑かす様な事する輩は、神として許せねぇし」
 俺がやる事はいつだって決まってる。
「與儀は勿論、皆を守るぞ!」
「は、ヒメ。ちゃんと守れよ、俺の守護者」
 背を押すように響く声に、今は振り返らずに振るう力で京杜は応えた。首筋、指先と狙ってくる肉輪を焼き落とす。ひゅ、と風を切り来る音が、狂気じみた声に似るのはこの空間の所為か。
「受け入れるのです。苦痛を。精神を死へてこそ――……」
「苦痛と精神の死が救済?」
 は、と京杜は口の端を上げる。薄く笑うように、あの日の後悔に自嘲に濡れて。握る拳に力が入る。
「俺はそれじゃ救われなかったしな。俺を救ってくれたのは、生きる意味をくれた主だ」
 握る拳の意味を、この足が立ち続ける意味を――そして歩いて行く意味を、意義を得た。
「守護者として在れる事が、今の俺の生きる意味で救いだ」
 苦痛とか精神の死とか、ただの自己満足な甘えって事を俺は知ってる。
 静かにそう告げて言う姿を與儀は見ていた。救ってくれた、とそう告げる己の守護者を。
「俺は守護者、自分の怪我なんて恐れねぇし苦痛になんか縋らない」
「――……」
 吐息ひとつ、零すようにして與儀はひっそりと笑う。慈愛の滲む瞳は前を向く京杜には知られぬままに。四方から来る肉輪を焼く炎を見る。
「そう、俺に届かねェように全部燃やしてくれよ。もし怪我したら、俺が治してやるから気にせず好きにやれ」
「おう。――與儀に届く前に、全部灰にしてやる」
 避けるより先に、突き出した拳が炎を放った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

藤代・夏夜
あらやだ~熱いお誘い!
でもごめんなさいね
こちとら年中無休でTPOを見つつ欲望解き放ってる人種
魂の解放とやらも毎月のガシャで間に合ってるわ!

苦痛も死ぬような思いも
体がこうなった時にたっぷり味わってる
救われるどころか殺る気満々よぶっ潰してやるわ!

肉輪は引っ剥がした椅子で片っ端からミンチよ
椅子が壊れた?
次の椅子引き抜けばいいのよ、えいっ(怪力
潰しきれない分は念動力でせいっ(床へびたんブチッ

…ちょっと多くない?
ヴルスト屋になる予定もないし
派手にお断りするとしましょ(UC使用

私を救うのは私自身と私が愛してるものだけ
三次元の存在が私を救う?
例外を除いて不可能よ!
スパッと諦めておねんねなさい!



●私が救うのは、と彼は美しく笑う
 信者達は到来を告げていた。デパートの中で聞いた、謳うような声とは違い地の底を漂うような声は赤く染まった空間に妙に響く。淀むように揺らぎ、二度、三度と反響した先で消えていく。足先、血のように滲んだ『それ』に、波のような揺らぎが向かう先、儀式の要として、守りとしてある存在へと藤代・夏夜(f14088)は視線を向けた。
「欲望を、解き放つです。我々は苦しみを以て肉体を手放し、魂を解き放たなければなりません」
 『黄昏色の啓蒙』祈谷・希は、その身を冷気に染めていた。白の衣が凍り付き、晒す肌が変じ——だが、動じはしない。それは苦痛を是とする者であるからか、将又、眷属となった身でそれを口には出さないのか。
「貴方たちにも、救済は訪れるのです」
「あらやだ~熱いお誘い! でもごめんなさいね」
 ほう、と息をつくようにして夏夜は頬に手を添える。
「こちとら年中無休でTPOを見つつ欲望解き放ってる人種」
 レジェントガチャとか、季節限定とか——そう、バレンタインとか天井で、きっちりしっかり魂は開放されているのだ。引けても、引けなくても、引くまで引けば——そう。
「魂の解放とやらも毎月のガシャで間に合ってるわ!」
「ならば、真なる介抱を。——全ての魂よ、苦痛を受け、精神を死へと返せ」
 黄昏色の啓蒙が告げると同時に、空間が震えた。僅か痺れるような感覚に、狂気ね、と夏夜は思う。鋼の指先を空に滑らせ、ただ一度だけの息を零す。
(「猟兵の精神を狂わせる程の力は無いけど、そうじゃない子には辛かったでしょうね」)
 儀式の生贄となった人々も、エージェントも狂気の果てにその命を奪われたのだろう。
「苦痛も死ぬような思いも、体がこうなった時にたっぷり味わってる」
 ゆっくりと一度伏せた瞳を開く。ゆらり、ゆらりと立つ信者達を視界に、その群れに奥にいる救済を告げる狂気を夏夜は見据えた。
「救われるどころか殺る気満々よぶっ潰してやるわ!」
 軽く、とんと身を前に飛ばす。信者達で塞がれた射線を払うように低く跳ぶ。揺れる袋の横を抜け、ぶつかる事無く一気に群れを通り抜けた夏夜の耳に「ならば」と黄昏色の啓蒙が告げた。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ」
 動く。蠢く。
 只の一度もその場を動かず『在るもの』として己を定義していた『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の首にある肉輪が回る。一度、二度緩やかに回転し——鐘の音がした。
「これは……」
 デパートで聞いたのと同じ音。そう夏夜が気がついた瞬間、現れたのは無数の輪。黄昏色の啓蒙がその身に持つ肉輪であった。
「救済の日は近い」
「——それは、困ったわ。明後日までの予定も決まっているのよ」
 私、と言って、身を横に飛ばす。無数の肉輪が大きく弧を描く。追いかけてくる気か。
「それなら……!」
 一気に壁まで走って、張り付いたままの椅子を掴む。ぐ、と力を入れて引っ張れば、バキバキと音を立てて椅子が剥がれ——そのままの勢いで、振りかぶった。
「叩き落としましょ」
 ぶん、とホームランの軌道で肉輪を吹き飛ばす。眼前に迫ってきていた肉輪に今度は椅子を振り下ろせば、ガシャン、と派手に壊れた。
「あら、椅子が壊れた? 次の椅子引き抜けばいいのよ、えいっ」
 むんず、ともぎ取って、盾のように構えるよりは振り払い、波のように来た肉輪に力一杯椅子を叩き付ければ、ひとまずの視界が晴れる。
 ——そう、ひとまず、なのだ。
「……ちょっと多くない?」
 右に二つ、左に三つ。天井あたりにふわふわしているのとか椅子に隠れているのも居そうだし、とそこまで数えて夏夜は息をついた。
「ヴルスト屋になる予定もないし、派手にお断りするとしましょ」
 まずは正面、と背もたれの旅立った椅子を夏夜は投げる。真っ正面、今度こそ完全にひらけた視界に——そこに集まってくる肉輪と操る存在を真っ直ぐに夏夜は見た。
「私を救うのは私自身と私が愛してるものだけ」
「全てに救済は訪れるというのに。貴方は、それを望まないと?」
 ひとつ、ふたつ、みっつ。
 視界を塞ぐように異形が襲い来る。だが、構わずに夏夜は告げた。
「三次元の存在が私を救う? 例外を除いて不可能よ!」
 一差し、空を切り裂くように夏夜は腕を振るう。バチバチと空間に光が走り——頬に、瞳に触れる。
「お行儀の悪い子には“こう”よ」
 瞬間、夏夜の両腕から銀色に輝く電撃が戦場に走った。光は蜘蛛の巣のように広がり、夏夜の間合いにある全て捕まえた。
「な——……!」
 ゴウ、と光が走る。銀雷蜘の庭にて、儀式場と共に現れた信者達がかき消え——その奥にある『黄昏色の啓蒙』祈谷・希に届いた。
「スパッと諦めておねんねなさい!」
「救済、を……私、は、は」
 僅か声が揺れる。電撃を受け、狂気に満ちた声が歪み、薄れる。狂気に満ちた儀式は、今、確かに崩れようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒蛇・宵蔭
黄昏は滅びの象徴だと思うのですけれどね。
自主的に斜陽に向かうならば、それも結構。
洗脳による信者は、こちらの世界へ返していただきましょう。

さあ、鉄錆、お仕事ですよ。
攻撃の鍵となる視線に注意しながら、人影を盾に気配を隠しながら距離を詰めます。
犠牲を出すのも悪いですから、攻撃兆候があれば直前に飛び出し、標的の攪乱を狙います。
その瞬間の負傷は、甘んじましょう。

鉄串を打ち込むことで、余計な動きを阻み、視線を避けながら鞭打を。
疵を掻き裂き、命を啜って帳消しです。

私は平和主義者ですから。
痛みだけを存分に味わっていただきましょう。

行動するのはよろしい。
しかし、救済を叫ぶものを……私は信頼できないんですよね。



●平和主義者と男は語る
 ――随分と、鮮やかな色をしていた。
 毛足の長い絨毯につま先が沈み、泥濘むようにして触れるのは血に似ていた。尤も名残の気配だけだ。生者の名残。或いは痛みの残滓か。軽く肩を竦めるようにして黒蛇・宵蔭(f02394)は息を落とす。
「特別なお客が通されると聞いたのですが……これはまた、随分と変わった造りですね」
 吐息一つ零すようにして、宵蔭は笑みを浮かべる。血のように赤く、けれど――あぁ、血よりも黄昏に近い色は、それを想起させるのが目的だろう。凡そ、信仰は心に根ざすものであり、神は信仰によって形を成す。
「信者が苦痛を恐れないのは、神が愛し信頼する者を見捨てない、でしたか」
 これは、その神とやらを呼び出す為の儀式であり、準備であり、ささやかな門だ。彼らの神がその辺りの流儀を持っているかは宵蔭の知る所では無いが、黄昏に、深淵に、余すこと無く彼らがこのデパートで語って見せたのは、言葉にすることにより存在を強める儀式の一部だったのだろう。
「黄昏は滅びの象徴だと思うのですけれどね」
「――全ては、世界をあるべき姿に戻す為」
 応えは布袋を被った群れの後ろから来た。赤く濡れた布を被ったそれは信者であるのだろう。或いは屍の行列か。
「主の再臨は近い」
 数多、血に染め上げる空間において『それ』は白くあった。衣は既に汚れ、焼け付き、残る首も肉と骨を晒してはいたが――だが、まだ白い。 『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の声はひどく静かに宵蔭の耳に届いていた。
「救済が訪れるのです」
「おや、否定はされないと?」
 ゆるり、細めた瞳と口元に浮かべられた笑みがどこか食い違っていた。だが悠然とした笑みは何処までも美しく――故に、人らしさを見失う。只人であれば、見るだけで狂気に飲まれる程の儀式の要へと、男はその瞳を向けた。
「折角なので、否定されても良かったのですが」
「我らはその先へと向かうのです。肉体を手放し、魂を解き放つ。その救済は貴方方にも訪れる」
 讃えよ、と黄昏色の啓蒙が告げる。信者達が波のように告げる。その言葉の一つ一つに狂気が滲んでいた。肌を撫でていくような気配に、宵蔭は僅かに瞳を細める。狂気に引きずり込む類いの声か。
「自主的に斜陽に向かうならば、それも結構」
 這うような狂気を払うより先に、瞳で射貫く。緩く握った拳に、とん、と一つ武器が落ちた。ゆるく、持ち上げた鞭がしゃらり、と鳴った。
「洗脳による信者は、こちらの世界へ返していただきましょう」
 振り下ろし、穿つ最初は儀式場。強かに床を叩いた有刺鉄線のような鞭が、這う狂気を食い散らす。
「さあ、鉄錆、お仕事ですよ」
 赤く染まる床を這う鞭が鈍く光った。その応えに宵蔭は薄く笑い――前に、出る。トン、と踏み込む足音が最初だけに。床に残った僅かな家具の横を抜け、信者の影を踏む。肩に触れるより先に、縫うようにその隙間を抜けていく。
(「恐らく、彼女は動けないのでしょう。或いは、動かない制約を化すことで眷属としての力を上げている……というところでしょうか」)
 まぁ、勘で動くのはあまり好きではありませんが、と舌の上に笑みを零し、宵蔭は次の影に飛ぶ。身を低め、己が気配を隠すように間合いを一気に詰めれば――ピリ、と肌に感じる狂気が膨れ上がった。
「――あぁ、此処が貴方の間合いですか」
「受け入れるのです」
 告げる言葉と同時に、柱のようにある娘の瞳が光った。周辺の空気が一気に熱せられ黄昏色の啓蒙がこちらを、向いた。
(「あの目で見るものであれば……さて、少し試してみましょうか」)
 鉄錆を引く。別に賭けのつもりでも死線を潜るつもりも無い。ただ、ひとつ思いついただけのこと。
「私は平和主義者ですから。痛みだけを存分に味わっていただきましょう」
「痛みと苦しみが、やがて来る救済の贄となる」
 瞬間、二つの熱が戦場に生まれた。ひとつは黄昏色の啓蒙の瞳から放たれる光であり、もう一つは、その光線より先に宙を――染め上げていた。
「ご安心を。死なない程度の痛みです」
 それは真っ赤に熱した鉄串であった。黄昏の色彩を焼き尽くす程の真紅が、苦痛の雨となって降り注ぐ。打ち込まれた鉄串に、『黄昏色の啓蒙』祈谷・希が始めて身を――捩った。
「ぁあ、ぁああああ!」
 ゴォオオ、と瞳から放たれる光線が揺れる。狙いなど定めることなど出来る訳も無い。荒ぶる光線を、宵蔭は顔を逸らすだけで避ける。浅く腕に受けた傷は置いて、真紅に染まっていく鞭を振り上げた。
「――鉄錆」
 ひゅん、と鋭い音と共に棘の鞭が黄昏色の啓蒙の喉を引き裂く。吸い上げるように真紅に染まった鞭が宙で緩く弧を描いた。
「これで帳消しです」
 その腕にあった火傷は既に消えた。残るは焼けた衣と——血の名残だけ。
「貴方、は……私たちの救済を」
「行動するのはよろしい」
 緩く弧を描いた鉄錆を振り下ろす。引き裂かれた衣が、血を零す。あれも、体を構成する一部か。派手にしぶいた血を払うように鉄錆を滑らせ、その先にある『黄昏色の啓蒙』へと宵蔭は冷えた瞳を向けた。
「しかし、救済を叫ぶものを……私は信頼できないんですよね」
 告げる男の横顔など、誰にも知れぬまま。真紅に染まった鞭が鈍く光を帯びていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雨煤・レイリ
死はある意味では救済かもしれないと思うことはある
つらいと思うことはそこで終わるのだから
けれど、それ以外の全ても終わってしまう
…それは救いではなく、消失に過ぎないんじゃないかって

彼らの信仰に賛同はできない
死してもそれでも良しなのかもしれない
そんな彼らを、俺は見殺しにはできないし、目の前で死んでほしくない
彼らに攻撃が行きそうならば、巨大化させた右手で庇うよ
あの肉輪、美味しそうなものじゃないけど、食い千切る分には構わないよ、朱忌

狙うはあの頭部だけの彼女のみ
君は、そうなって救われたのかな?
肉輪を叩き潰しながら、踏み込んで≪朱喰≫で殴りかかる
他者を巻き込み、死へ引き摺り込む在り様は、看過できないんだ



●けれど、それ以外の全てもと彼は言った
 ——全て、と響く娘の声は狂気に満ちていた。首より下をとうに失い、その大きささえ人のそれを越えた『黄昏色の啓蒙』祈谷・希は、儀式の要としてこの空間に在る。只人であれば、その姿を見ただけで狂気に飲まれたことだろう。
「苦痛を受けよ、肉体を手放し、精神を死に返すのです。救済は貴方方にも訪れるのです」
 黄昏色の啓蒙は、既にその身を欠いていた。首から下を失い、儀式の要としてあるだけの体さえ、焼け焦げ、喉を引き裂かれ——だが、零れる血を泡立たせながら、声は歓喜を滲ませる。
「献身を此処に。黄昏を讃えよ」
 痛みは、もう『彼女』にとって正しく痛みとして認識されはしないのかもしれない。苦しみも何もかも。
「……」
 赤く染まった空間に足を踏み入れて、一度だけ雨煤・レイリ(花綻・f14253)は歩みを止めた。戸惑いよりは、確認に近かったのだろう。血に似た色の赤は、貧血がちのレイリには馴染みがあって——少し、違う色だ。
(「これは、燃えるような夕焼けに似ている」)
 彼らが、黄昏と名乗るのであれば『これ』は似せて作られたのだろう。儀式場と考えれば不思議も無く、ならばあの布袋の人々は、と儀式場が喚びだした者か。赤く濡れた袋の下、感じ取る気配は生者のようでいて僅かに違う。
(「もしかしたら、もう」)
 彼らは生きていないのかもしれない。それが彼らの信じる果てであったのかはレイリには分からない。苦痛と精神の死を救済と信じているとしても。
「死はある意味では救済かもしれないと思うことはある。つらいと思うことはそこで終わるのだから」
 けれど、とレイリは薄く唇を開く。
「それ以外の全ても終わってしまう」
 あったかもしれない幸いの記憶も。指先を辿るようなささやかな想いも。朧気にその輪郭を捉えるだけに終わった想いも。
「……それは救いではなく、消失に過ぎないんじゃないかって」
 名を得る前に終わる想いもあるだろう。その意味を知る前に終わる記憶もあるだろう。それらが、皆、潰えてしまう。
「貴方もまた、その憂いと共に魂を開放する段階に来たのです」
 黄昏色の啓蒙が、揺れる。精神の揺れではない、滲む狂気が強くなったか。す、と短く息を吸ってレイリはゆらゆらと立つ信者達を見る。彼らはもう生きてはいないのかもしれないが。
(「死してもそれでも良しなのかもしれない。そんな彼らを、俺は見殺しにはできないし、目の前で死んでほしくない」)
 たん、と前に出た。赤く濡れた布袋を被った信者達の横を抜ける。彼らより前に出れば、黄昏色の啓蒙が鈍く光を帯びた。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ」
 聖句と共に肉輪がゆるり、ゆるりと回り出す。一度、二度回転した先で——空間に無数の肉輪が現れた。
「——さぁ、黄昏を讃えよ」
 ヒュ、と空を切り裂く音と共に『それ』はレイリに向かってきた。大きく弧を描くそれに、避けるより先に、前に出る。信者達の波を越えるように床に残っていた家具を飛び越えれば、淡く頬に影が落ちた。
(「——来る」)
 身を深く沈めたのは半ば反射だ。着地の先、ついた手が血に濡れる。肉輪が浅く触れたか。狂気を叫ぶ声は耳に届くが——問題は、無い。
「ひとたびの戒めを解く」
 己を使うことを、レイリは厭わない。
 穏やかに笑い、日向の似合う青年は、それでいて盾とあることを是として戦場にある。
「貪れ――≪朱喰≫」
 花弁の幻影が吹雪いた。右手の爪に朱を添えていたそれは、一瞬の後に、籠手から巨大な腕へと変わり——ぐ、と前に出た。
「あの肉輪、美味しそうなものじゃないけど、食い千切る分には構わないよ、朱忌」
 弧を描いてきた肉輪を二つ掴み、食いちぎる。引き裂き投げたそれを置いて、レイリは残る間合いを一気に詰めた。
 狙いは、あの頭部だけの彼女のみ。
「君は、そうなって救われたのかな?」
「えぇ。私は無謬の力と、救いへと辿る道を得たのです。貴方もまた——救われましょう。解き放つのです」
「……そう」
 さぁ、と誘う声と共に来た肉輪を巨大な腕で薙ぎ払う。吹き飛ばせただけでも、行くには十分。最後の加速と共に、朱忌を握った。少しずつ侵食するような狂気に、今は息を吸って。
「他者を巻き込み、死へ引き摺り込む在り様は、看過できないんだ」
 誘いに真っ向から否を告げて、レイリは巨大化した腕の一撃を叩き込んだ。ガウン、と重い一撃が、『黄昏色の啓蒙』祈谷・希に入った。
「望まぬと……そう貴方は言うのですか。苦痛を奉じる彼らさえ守りながら」
 儀式の要たる娘の声が歪み軋む。
「救済を」
 衣が外れ——欠け落ちれば、黄昏色の破片に変わっていく。赤く染まった儀式場が、大きく軋んだ。後、少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
救済、ねぇ
痛みに心を殺すのが救いだというなら、とっくに救われてそうなモンだけど
……ナンて戯言ヨ
生憎、他人に救われたいとは思わないし
醜く生きるこの世が好きだもの

1ミリの共感も覚えず声を鼻で笑い、本体へ向かうわ
天地も無いなら空中戦の要領であるもの手当たり次第足場にして駆けましょ
飛び来る肉輪は軌道見切り【彩月】で全て照らして撃ち落としてアゲル

黄昏は素敵な色ダケド、押し売りはノーサンキューなのよネェ
大体ンなモノに利用すんじゃねぇっての
そう、どうせなら――

カウンター狙い2回攻撃
本体を焔で包み傷口を抉って、その内側までも照らしましょうか

――全部塗り替えられて救われる事無く
オレの生命になるってのは、ドウ?



●他人に救われたいと思わないと、青年は美しく笑った
 血と、炎の名残が空間にはあった。天井に、壁に、張り付いていた家具が一部無くなっているのは戦闘の所為だろう。ゆらり、ゆらりと立つ信者たちは到来を告げ、儀式場となった空間に影さえ残さない。場が生み出した残滓に過ぎないのか。生きた気配は遠く、どちらかと言えば――……。
(「すかすか、ねぇ」)
 それが肉体という檻から解き放たれた姿だとでも言うのか。薄氷の瞳を眇め、コノハ・ライゼ(f03130)は戦場の中心に立つ相手を見た。
「――待ち侘びるのです。到来を。主の再臨を」
 『黄昏色の啓蒙』祈谷・希は既にその身を欠いていた。首より下は元から無くとも、頭部が砕け、首を割かれ――だが、衣は焦げただけに、周囲に零れた血は黄昏色へと変じている。ふつふつと沸くように揺れているのは儀式場の影響か――或いは、その力を使って儀式の要たる己の姿を補っているのだろう。到来は近いと、信者達が声を揃える。
「到来である。到来である」
「全ての魂は、解き放たれるべきなのです。救済を待ち侘びよ。痛みと苦しみこそが――……」
 救済となりえる、と響く声に、トン、とコノハは足音を落とす。毛足の長い絨毯だというのに、音が残るのは此処が儀式場としての形を失いつつあるからか。
(「それでもまだ、あっちは巻き返せるし痛みも苦しみも関係ないってコト」)
 誰が何を信じようが信じまいが、関係の無い事ではあったが――救済、という言葉は少しばかり引っかかっていた。
「救済、ねぇ」
 肌にピリピリと感じるのは、狂気を帯びた声が理由だろう。只人であれば飲み込まれる程の狂気――僅か呪詛に近いか。
「痛みに心を殺すのが救いだというなら、とっくに救われてそうなモンだけど」
 吐息一つを零すようにして、コノハは静かに笑った。
「……ナンて戯言ヨ」
 頬に紫雲の影が落ちる。僅か、伏せた瞳を最後にして、コノハは美しく微笑んだ。
「生憎、他人に救われたいとは思わないし、醜く生きるこの世が好きだもの」
「――ならば、その心ごと貴方を救済しましょう。黄昏を讃えよ」
 高らかに『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の声が響く。二度、三度と反響するように響き渡った言の葉が――瞬間、強い狂気を帯びた。
「苦痛を受けよ、精神を死へと返せ。救済の日は近い」
 それは聖句であったか。告げる言葉と同時に無数の肉輪が戦場に現れた。弧を描き来るそれは複製か。
「――讃えよ」
「遠慮しとくわ」
 軽やかに告げて一歩、前に出る。加速は緩く。ひゅ、と追うように肉輪が来た。背に迫る気配に、身を前に飛ばす。加速の先、向かったのは壁だ。
「さぁ、苦痛を」
「言ったでショ? 遠慮しとくって」
 信仰の狂気へと誘う声にコノハはそう言って、ダン、と壁を蹴った。斜めに蹴り上げた先、身を回すようにして壁にあった椅子に手をかける。トン、と片手をついて身を回し、迫る肉輪をしっかり目に捉えた。
(「右に二つ、後ろに四つ、前に五つ」)
 大盤振る舞いね、と忍び笑い、パチン、と一つ指を鳴らす。
「照らしてアゲル」
 ひとつ、ふたつみっつと。焔は灯る。トン、と床に身を降ろしたコノハの周囲、向かってくる肉輪たちの間に現れたのは数多に灯す月白の焔。熱なき光が黄昏色の空間を塗り替えていく。
「貴方……貴方は、この地さえ変えるというのですか」
「黄昏は素敵な色ダケド、押し売りはノーサンキューなのよネェ」
 玻璃の結晶が突き刺さり、肉輪の全てが落ちていく。ガシャン、と派手な音を立てて砕けたのは肉輪の方だ。
「大体ンなモノに利用すんじゃねぇっての」
「我らが救済を。主の為の祭壇を……!」
 黄昏を、彼らは常に告げていた。客も、この部屋の色彩も、それを想起させる。
 ――信仰は、心に根ざすという。
(「カミサマの事情なんて知らねェけど、それも儀式場の力にしてたってコトでなら」)
 この焔は、その色さえ変える。染まる空間が変じていく。ひび割れるように変わっていく中、低くコノハは前に跳んだ。
「そう、どうせなら――」
 一足、叩き込んだ加速共に『黄昏色の啓蒙』祈谷・希の前にて深く沈む。触れる、一歩手前で、コノハは指先を振り上げた。
「何を――ぁあ、ぁああああ!」
 ゴォオオオ、と月白の焔が黄昏色の啓蒙を包み込んだ。狂気に揺れた声が歪み、あぁ、と驚愕が落ちる。
「この苦痛も、あぁ、全て、全て主の再臨の――」
 為に、と続く筈の言葉が、狂気を帯びた瞳が止まる。内側まで余すことなく照らされた焔から、黄昏色の啓蒙を玻璃の結晶が貫いていたのだ。
「――全部塗り替えられて救われる事無く
オレの生命になるってのは、ドウ?」
 口元に笑みを浮かべ、囁くようにしてコノハは告げる。黄昏色に染まる空間がバキバキと割れていく。
「救済の、為に……苦痛の、精神の死を……全てに――……」
 パリン、と結晶が儀式の核を砕く。狂気に歪み、数多の欲望を苦痛に沈めようとしていた空間が消えていく。『黄昏色の啓蒙』祈谷・希が下から崩れ、骸の海へと帰って行けば――そこには、見覚えの無い、本来の特別なお客様向けのフロアが広がっていた。
「元通り、ね」
 黄昏色の色彩はもう、そこには無い。
 外の見える綺麗なフロアに小さく笑って、猟兵達は守り抜いた平穏を伝える為に扉の向こうへと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月14日


挿絵イラスト