エンパイアウォー⑱~森羅万象操りし軍神
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「【Q】を知り、グリモアの予知を知る軍神上杉謙信か……。どうにも厄介な相手だね」
グリモアベースの片隅で瞼を閉ざした時に視えたその光景を思い起こしながら、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がポツリと呟く。
優希斗の言葉が気になったのであろうか。
何時の間にか、猟兵達が優希斗の周りに集まっている。
「やあ、皆。以前車懸かりの陣を崩すために攻撃を仕掛けて貰った一翼があったんだけれど。皆が破ったその戦場から、『軍神』上杉謙信の所に直接赴く道が見つかったよ。だから、今なら彼の下へと直接皆を向かわせることが出来る」
優希斗の言葉に、猟兵達が其々の表情を浮かべて首肯する。
「車懸かりの陣も戦力が低下して徐々に綻びを見せ始めているし、上杉謙信も幾度か倒された」
だが、それは上杉謙信のいる関ヶ原の戦場を完全に制圧出来た事を意味しない。
だからこそ『軍神』上杉謙信を狙うことの出来るこの機会を、見逃すわけには行かなかった。
「『軍神』を名乗るだけあって彼は強い。けれど、幸いこの戦場では、皆で力を合わせて一気に攻撃を仕掛けることが出来る様だ。上手く連携して上杉謙信を追い込めば、討滅する事も不可能では無いだろう」
告げる優希斗の言葉には、何処か確信が籠もっていたが、程なくして真剣な眼差しのままにまるで何かを戒めるかの様に軽く頭を横に振った。
「勿論、油断して勝てる様な相手じゃ無い。個々の力を存分に発揮した上で必要であれば他の猟兵達と連携を取る」
……それは、ある意味ではいつもと同じ。
ただ敵が『軍神』と呼ばれる程の強敵であり、並のオブリビオンよりも手強いという事実を除いては。
「それでも、皆ならば『軍神』上杉謙信を倒すことが出来ると思う。厳しい戦いになるかも知れないが、どうか皆、宜しく頼む」
優希斗のその呟きに押される様に。
猟兵達は、光の奔流の中に飲み込まれる様に消えていった。
●
――ガラガラ、ガラガラ。
「ふむ……私の人軍一体の陣が崩れ落ちつつあるか」
自らが敷いた車懸かりの陣の一翼を担っていた天使達の群れが崩れ落ち、そこに綻びが生まれたのを見つめながら、淡々と戦況を眺めて言の葉を紡ぐ『軍神』上杉謙信。
程なくして彼は、崩れ落ちた車懸かりの陣の一角で瞬く様な光を見つけた。
「そうか。そこから来るか、猟兵達よ」
胸中で独りごちながら、黒刀『アンヘルブラック』、白刀『ディアブロホワイト』を悠然と構える上杉謙信。
彼の周囲には、水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇の12属性……それは、この世界を現わす一つの形……の力を秘めた全部で12の毘沙門刀が浮遊していた。
「天使達の群れを突破して開いた道を通ってやってきた様だな。良かろう、猟兵達よ。それではこの私、上杉謙信がお相手致そう」
告げながらその太刀を構える上杉謙信の威容は、正しく『軍神』そのものだった。
長野聖夜
――『軍神』との戦いの行方は。
いつも大変お世話になっております。
長野聖夜です。
少々遅くなりましたが、有力敵『軍神』上杉謙信との対決シナリオをお送り致します。
尚、強敵として判定致しますので、戦闘判定は厳し目です、その点ご注意を。
下記、2つのルールが此方の戦場には適用されます。
1.このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
2.=============================
軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
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此方のシナリオは上記2シナリオの戦場の内、『⑱決戦上杉謙信』を担当致します。
今回の判定とは全く異なりますが、一応下記拙著がオープニング中で説明されているシナリオです。
尚、下記シナリオのことを全く知らずにご参加頂いても何の問題もございません。
シナリオ名:エンパイアウォー⑦~軍神の下に集いし天使の舞
URL:https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=12907
プレイング受付期間:OP公開~8月18(日)12:00頃迄。
リプレイ執筆期間:8月18日(日)13:00~8月19日(月)夜。
上記日程が変更となった場合には、マスターページにてご連絡差し上げますので、もしお差支え無ければ其方もご参照頂ければ幸甚です。
――それでは、良き決戦を。
第1章 ボス戦
『軍神『上杉謙信』』
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POW : 毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
イラスト:色
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
清川・シャル
軍神様とお手合わせ願えるとは
何かを吸収させて頂きたいですね
なんて。
骸の海へお帰り下さいな
Amanecerを召喚
スピーカーとウーハーから鼓膜攻撃の衝撃波を発し
同時に熱光線を一斉発射、目潰し、串刺し狙い
不快なモスキート音はあくまで一時しのぎ
12本の刀には、熱光線と、そーちゃんで武器受けを
念の為に激痛耐性と氷の盾を展開してのガードも併せて
第六感と野生の勘も併せて警戒
ガードしてばかりではないですよ?
追加で修羅櫻と櫻鬼でも攻撃を受け流しつつ、UC発動
言いくるめつつ、刀を持たせた見えない人形達に少し託しましょうか
謙信の力が緩まれば一気に行きたい所
チェーンソーモードにしたそーちゃんを一気に叩き込みます
ウィリアム・バークリー
敵は“軍神”。それなら手段を選んでいられませんね。
宇宙バイクに「騎乗」し、「全力魔法」の「オーラ防御」を張った上で、突撃します。
事前準備としてActive Ice Wallを自分を中心に展開して、使い捨ての盾として「盾受け」に使い毘沙門刀の攻撃を防ぎます。
外からは、氷の塊が突っ込んでくるように見えるはず。
毘沙門刀への牽制として氷の「属性攻撃」のIcicle Edgeを「高速詠唱」で連射し、防戦に追い込んでこちらへの攻撃の手数を減らします。
そのまま、氷塊を潰されるより早く一気に上杉に特攻、ルーンスラッシュで切りつけます。
炎の毘沙門刀はStone Handで握って確保します。これだけは封じないと。
リティ・オールドヴァルト
みんなと協力
謙信公倒す
戦の神さまなのです?
すごく強かったって聞いたのです
正しいことのため戦ったとも
でも
今のあなたは正しくないのです
どんなに強くても
ぼくはあなたに負けないっ…!
今は過去に負けたりしないのですっ
気合い入れ
ジャンプで一気に懐に飛び込み串刺し
フェイントも使い攻撃読まれないよう
当たればドラゴニック・エンド
リリィ、おねがいっ!
POW攻撃やSPD攻撃は全神経研ぎ澄ませ見切り
聞き耳で音を聞き分け
第六感も頼る
オーラ防御も展開
高速詠唱の全力魔法で竜巻刀吹き飛ばし
足りない分はなぎ払いで落とし
敵の攻撃を阻みその隙をつき攻撃
絶対当てて倒します
攻撃されたって平気なのですっ
今のあなたの戦いに義はないのです!
吉柳・祥華
◆心情
どうやら先陣をきった者たちがことを成したようじゃな
では、妾も動かねばならぬな
森羅万象を繰る軍神か
ふむ、存在的な意味では妾と同じかのぉ
(なにせ森羅万象たるスピリットであり神じゃからな…)
◆戦闘
「お主が剣なら、妾は神の息吹じゃ…受けてみよ!」
ゴッドブレス!!
※それぞれの属性を持つ複数の頭を持つ半透明の龍が頭上より顕現し一斉にブレスを放つ。
※それでも足りない属性は自身の持つ技能で補う。
※場合によっては攻撃を受けてからのカウンターによる二回攻撃で応戦する。
※自身のユーベルで捌き切れなかった敵の属性攻撃は技能のそれぞれの耐性で防御する。防御しきれなかったら気合いでなんとかする!
◆アドリブ等はお任せ
上泉・祢々
ほう? 十二の刀……壮観ですね
ですが超えさせてもらいましょう
十二の刀は厄介ですが操るのは所詮一人
ではその一人の目を欺けば活路も開く筈
緩急をつけた歩法で視線を誘導し相手の意識に残像を作ります
実像のない影にすぎませんが目を引くには十分です
これで狙いはズレて避けやすく
その間に太刀筋を見切りやすく
必勝の機会を伺い回避を続けましょう
多少の傷は無視をして致命傷になりかねない物だけ手刀で防ぐ
回避を続け好機を得たら残像を残しながら接近
間合いに入り振るわれる刀を咄嗟に残像を残し跳躍して避け
カウンターでそのまま死角である脳天へ踵落としをお見舞いしましょう
見事な太刀筋でした。これで私はまたもう一つ高みへ登れます
クロウ・ファンタズマ
心情:軍神ねぇ。
強さにはそこまで興味はないが、それだけ強いなら、他のオブリビオンを研究するより多くの成果が得られそうだ。
だからこそ、お前の命を貰おうか。
行動:小細工なんて要らない。真っ向からの殴り合いと行こうじゃないか。
指定UCを使用後、真っ正面から向かう。
飛んでくる属性と自然現象の合成は気合いで回避、もしくは【肉断ち包丁】で防ぐ。
たが致命傷にならない攻撃は防御も回避もしない。
攻撃に最大限に手を回す。
軍神相手にビビってられるかよ、ビビったら死ぬつもりで攻め上げる!
【怪力】、更に黒い炎の乗った肉断ち包丁を使って勝負だ。
「さあ喧嘩しようぜ謙信!全力で殺し合おうぜ!」
※アドリブ歓迎
藤崎・美雪
【WIZ】
アドリブ連携大歓迎
一応、車懸かりの陣を綻ばせた場には居合わせたからな
最後まで見届けないわけにはいくまい
この場の皆が同じ目的で戦うことを信じ
「存在感、パフォーマンス、歌唱、鼓舞」で
皆を勇気づけるための【サウンド・オブ・パワー】を
シンフォニックデバイスを通しながら歌うぞ
もし負傷が嵩むなら【シンフォニック・キュア】に切り替えだ
毘沙門刀天変地異はどのような効果があるか分からぬ故
発動を警戒するしかあるまい
発動した時の属性と自然現象を観察し
「情報収集、戦闘知識、学習力」で情報として蓄積
ある程度の情報が揃ったら、発動の度対応する刀を推測し皆に通達してみるか?
何らの対策は取れるかもしれん
館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可
正直、水晶屍人と安倍晴明との戦いや予知で
身体も精神も限界に近い
だが、謙信は【Q】を知っている以上、見過ごせない
信玄復活予知の儀式には、僕も優希斗さんも立ち会った
…だから無理を押してでも出るさ
他の猟兵との連携前提
…何故だろう、心が温かい
【魂魄解放】発動
「地形の利用、視力、目立たない」で死角から高速移動で接近
「衝撃波」で毘沙門刀の柄を狙って弾きつつ
「2回攻撃、怪力、なぎ払い、マヒ攻撃」で謙信本体を背後から奇襲
毘沙門刀車懸かり…厄介だな
黒騎士である僕と黒剣の中の魂にとって大敵そうな光の刀を
先に叩き落しておきたいところ
無理なら「第六感、残像、武器受け、オーラ防御」で回避か防御
マレーク・グランシャール
マリアドール(f03102)と
後に続く猟兵のために回復手段を絶つ
狙いは薬刀と過去刀(傷を元に戻す)と推測されるアンヘルブラック
マリアが十刀を抑え、敵の目を惹き付けている隙を突く
ここまでは未来属性のディアブロホワイトが読んでいるはず
【金月藤門】で残像を生みマリアの側にいると見せかけ、迷彩効果を発しながらダッシュ
謙信本人を狙う演技で真意を隠し、【碧血竜槍】でアンヘルの刃を部位破壊
薬刀は【邪竜降臨】で槍を邪竜に変えて討ち取らせる
敵の攻撃は【泉照焔】で見切り【白檀手套】でカウンター
女が作ったこの機を逃すのは男が廃るというもの
マリアよ、お前を危険に晒してまでの一度きりの大芝居
捨て身の一撃をキメてみせよう
マリアドール・シュシュ
マレーク◆f09171
アドリブ怪我◎
蜜金石は常に笑む
もしマリアが危ない目に遭っても
好機が目の前にあるのなら迷わず掴んで
前を向いていて
約束よ
マレーク(小指出し
実質一度苦戦してる故、敵の脅威は認知
一矢報いる
覚悟有
奇跡の黄金律はこの空の下に
勝利はマリア達の手に(祈り
後方支援
拡声器を変化させ高速詠唱で【茉莉花の雨】使用
敵UCの暴走注意し攻撃を相殺
敵と周囲の剣10本へも牽制+抑止
竪琴で麻痺の糸絡めた旋律奏で敵の注意引く(おびき寄せ・マヒ攻撃
不可視の静流の音で敵を追い詰め容赦無く攻撃(追跡・楽器演奏
マレークが攻撃しやすい様に隙作る
敵の攻撃はケープでオーラ防御
信じていたのだわ(捨て身の一撃に複雑な想い絡むも
荒谷・つかさ
軍神・上杉謙信……
こんな大物とも戦えるだなんて、武人明利に尽きるというものだわ。
十二刀流の剣士だなんて、尋常ではないけれど。
生憎と私も、尋常ではないのよね。
さあ、私の九振りの業物と……沢山の丸太。
お相手して頂こうかしら!
【荒谷流乱闘術奥義・明王乱舞】発動
基本は暁と黄昏の二刀を手に、謙信と真っ向から斬り合う
その他七振りと大量の丸太は空中の毘沙門刀にぶつけ、私達の戦いの邪魔をさせないようにする(範囲攻撃・なぎ払い・衝撃波・武器受け)
謙信との立ち合いそのものは武人としての真っ向勝負を望み、己の持つ力と技、総てをぶつけていく(見切り・怪力・鎧砕き・残像・属性攻撃)
いざとなれば拳も飛ぶ(グラップル)
キリカ・リクサール
毘沙門か…フン、オブリビオンも神頼みをかけるとはな
面白くない冗談だ
シルコン・シジョンを装備し距離を取るように銃撃
射線をコントロールしながらなるべく近づけさせないように撃つ
取り回しの効かなさそうなライフルに距離を取る戦法をとれば
相手は近接攻撃が不得手だと勘違いしてくれるだろう
それともう一つ
奴の車懸かりは高速移動が付随する技だ
距離があれば技の発動が察知しやすい
よく来てくれたな、歓迎しよう
―狂い震えろ、デゼス・ポア
奴がUCを発動して近づくと同時に脱力し
カウンターでUCを発動
毘沙門刀で攻撃したら高速移動で離脱
去り際に追い打ちをかけるように銃撃を行う
どうやら護法善神たる毘沙門天は貴様を見限ったようだな
●
――パチパチ、パチパチ。
崩れ落ちていった陣形を潜り抜け、その奥へと向かった猟兵達を待ち構える様に二刀を構え、十本の毘沙門刀を周囲に浮遊させている『軍神』上杉謙信の姿を見ながら、華水晶の蕾より生まれ落ちた密金石の少女は、花の様な微笑みを浮かべて隣に立つドラゴニアンの青年を見上げた。
「ねぇ、マレーク」
「どうした、マリア」
マリアと呼ばれた少女、マリアドール・シュシュは、絶やすこと無い微笑みをマレーク・グランクシャールに向けたまま柔らかく語り続ける。
「もしマリアが危ない目に遭っても、好機が目の前にあるのなら迷わず掴んで」
「……」
密金石の少女の誓いに、竜人の男は、只静かに少女を見る。
その胸中に宿す感情は如何なものであるのだろうか。
答えぬマレークの目前に、マリアドールが自らの小指を差し出し微笑みを向けた。
「前を向いていて。約束よ、マレーク」
「……ああ、約束だ、マリア」
マリアドールの小指に自らの小指を絡ませながら、切なる願いと誓いを胸に抱き、静かにマレークが首肯を一つ。
――パチ、パチパチパチ。
戦火に包まれしこの戦場を駆け巡る火が火の粉となって散り、風に乗って『約束』を刻むマレークとマリアドールの姿を、静かに照らし出していた。
●
「どうやら先陣を切ったお主達が、事を為した様でありますのぅ」
「ええ。まあ、何とか上手く行った、と言うところでしょうか」
宇宙バイク『ダンシング・スプライト』に跨がり、青と深緑色の結界を正面に展開したウィリアム・バークリーの姿を認めた吉柳・祥華がカラコロと鈴の鳴る様な声音で呼びかけてくるのに、ウィリアムが小さく首肯を一つ。
「私達は、一応あの戦いで車懸かりの陣を綻ばせた場には居合わせたからな。最後まで見届けないわけにも行かないだろう」
「それがおぬしの覚悟でありんすか」
藤崎・美雪の不退転の決意を秘められたそれに、興味深げに祥華が笑う。
「何、そう一人気負う必要が有る話でもないでありんすよ。此度は、妾達も共に行きますからのう……」
朱霞露焔で口元を覆い微笑む祥華に、思わず苦笑を零す美雪。
「美雪ねえさま達が切り開いて下さった道です。でも、戦の神様って、すっごく強かったって聞いているのです」
そう言って、軽くブルリ、と一瞬震えを起こすのは、リティ・オールドヴァルト。
一瞬、か、可愛いと違う意味で身震いしてしまいそうになる美雪だったが、取り敢えずそんな個人的感情はこの際横に置いておく。
「それにしても毘沙門か……フン、オブリビオンも神頼みをかけるとはな」
面白くない冗談だ、と鼻を一つ鳴らしながらVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”を装備し、その銃口を目前の上杉謙信に向けるのは、キリカ・リクサール。
キリカに全くだとばかりに同意を示したのは、クロウ・ファンタズマ。
「正直、軍神って肩書きやら神頼みやらには興味はねぇが、まっ、それだけ強いってんなら他のオブリビオンを研究するよりは多くの成果が得られそうだな」
「そうか。毘沙門天の化身たる私にその様な言葉を申し立てるか」
――カツリ、カツリ。
確実に歩を進めそう問いかけてくるは、上杉謙信。
謙信の言葉と、瞬く間に周囲に張り詰めていく闘気にキリカがシルコン・シジョンを握りしめる手を強張らせる。
(「確か、上杉謙信は生前、自らを毘沙門天の化身と称し、それに違わぬだけの戦果をあげてきたんじゃ無かったか……?」)
黒剣を抜剣、霞の構えを取る館野・敬輔の額から、ヒヤリとした汗が滲み出た。
その目の下にクマを作り、体中に圧し掛かる様な重い疲労感を心身で感じながら、それでも尚、猛々しくも清冽なる闘気……神気と称しても良いのかも知れないが……を発する軍神からの威圧に唇が乾くのを感じ、湿らす様に軽く舐める。
――だが、例えそうであったとしても。
(「謙信は【Q】を知っている以上、見過ごせない」)
思えば自分も、この戦いを予知した優希斗も、武田信玄復活予知の儀式には立ち会った。
なればこそ、【Q】の事までよく知る謙信を見過ごすわけには行かないことが、よく分かっている。
「軍神・上杉謙信ね……お前の様な大物とも戦えるだなんて、それこそ武人冥利に尽きるというものだわ」
「そうですね。この際です、何かを吸収させて頂きたいですね」
敬輔の疲労に気付いているのか、気がついていないのか。
それについては定かでは無いが……敬輔の前に立つ様に、2人の女羅刹と1人の娘が前に立つ様に姿を現す。
その内の一人に、敬輔は見覚えがあった。
「……つかささん」
「ええ、そうよ。まあ、助けに来た、と言うよりは、十二刀流の剣士だなんて、尋常では無い相手と戦える折角の機会だから来たのだけれど」
敬輔の問いに口元に羅刹を名乗るに相応しい猛獣の笑みを浮かべる荒谷・つかさがそう答えまあ、と軽く肩を竦めていた。
「私も尋常では無いのだけれどね」
嘗て大悪魔をも斬り捨てた、と称される母からの形見である大悪魔斬【暁】とその対となる短刀、【暁】を構えながら不敵に笑うつかさ。
――殺神剣【轟雷】。
――零式・改三。
――刃噛剣。
――風迅刀。
――流星。
――禍月。
――瑞智。
そして……その周囲に大量に浮かぶ……。
「……丸太、ですか……」
敬輔の両翼になる様な形で布陣した少女達の中央に位置取る、上泉・祢々の驚きとも、呆れとも取れる問いかけに、そうよ、と軽くつかさが頷きかけた。
清川・シャルも目前に起きている状況に一瞬理解が追いつかなかずパチクリと軽く瞬きを行なうが、程なくして、――なんて、と口元に微笑を綻ばせた。
「何はともあれ、骸の海へお帰り下さいな、軍神様」
気を取り直した様に告げながら、召喚型のインカムであり、スピーカー&アンプ群でもあるAmanecerを召喚しクスリ、と微笑むシャル。
「その十二の刀は壮観でこそありますが……超えさせて頂きますよ」
一方で祢々は徒手空拳。
けれどもそれは、仮初に過ぎぬ。
何故なら祢々にとっての『刀』とは、自らの手足五体を意味するのだから。
(「皆……」)
其々の想いも思惑もあれど。
共に戦うことが出来るその事実に、知らず知らずの内に敬輔の心に、火の様に温かい何かが灯るのを感じた。
「マレーク、皆」
シャル達の姿を認めたマリアドールの呼び掛けに、マレーク達が、マリアドールを見つめる。
薄っすらと口元に笑みを刻んだマリアドールが静かに頷いた。
「敵の攻撃は、マリアが引き付ける。だから……どうか勝利をマリア達の手に」
微笑みのままに祈りの言の葉を紡ぐマリアドール。
そのマリアドールの言葉に応じる様に。
白ジャスミンの花の形をした拡声器、茉莉花の歌環がジャスミンの形をした無数の水晶の花弁と化して天空を舞い。
「――どうか、私達に勝利を齎す導きを……」
美雪の『この戦いでの勝利』を皆が信じている事への祈りを込めた透き通った猟兵達を鼓舞する戦いの歌声が、戦場を彩る楽曲となってウィリアム達の心身の強い活性化を促すのであった。
●
――ジャスミンの形をした水晶の花弁が戦場を舞い、高らかな歌声が辺り一帯に響き渡る。
(「この人数……乱戦になりますね」)
『ダンシング・スプライト』を加速させたウィリアムがそう胸中で結論付け、祥華と会話をする間に自らの四方八方を覆う様に展開していた青と深緑色の魔法陣に命じた。
「……Active Ice Wall!」
叫びと共に、ウィリアムの周囲に展開される無数の氷塊。
盾にも足場にもなるそれらの氷塊達と絡みつく様にジャスミンの形をした水晶の花弁が戦場全体を覆い、自らを傷つけようとしていることを察した謙信がまるで動じた様子も見せぬままに、『炎』と『風』属性の刀を天空へと掲げた。
「天よ、地よ。歌えよ、歌え。神風と炎の勲しを」
不可思議な謙信の呪に応じる様に。
炎と風の刀が雄叫びを上げる様に明滅し、水晶の花弁と氷塊の盾を纏めて焼き払う炎の礫を叩き付ける嵐と化した。
「さあ喧嘩しようぜ謙信! 全力でなぁ!」
漆黒の炎を全身に纏い、雄叫びを上げて炎の嵐に真正面からぶつかっていくクロウ。
ウィリアムの呼び出した氷塊の盾と、マリアドールの呼び出した無数の花弁達による支援を受けて、自らの2倍以上の刀身を持つ肉断ち包丁を横なぎに振るい、それらの嵐を振り払いながら謙信に向かって肉薄し袈裟による一撃を解き放つが、その時には謙信は即座に青く輝く太刀を解き放ってクロウの攻撃を簡単に防ぎ、返す刃で白刀『ディアブロホワイト』を袈裟に振るい、クロウを吹き飛ばしている。
「つかささん、皆さん!」
「そこですね」
ウィリアムの呼び掛けに応じる様に、シャルがAmancerのスピーカーとウーハーからすさまじい音量の衝撃波を放った。
音の暴力、とも言うべき凄まじい超音波に、一瞬謙信がその動きを鈍らせたその隙をついて、暁と黄昏を構えたつかさが一足飛びに飛んで謙信の左側面を取って白刀ディアブロホワイトに向かって刃を振るい、更に祢々が百華流参之型『藤』を駆使して舞踏を繰り広げる様に妖艶なステップを刻んで謙信の鋭く細められた瞳を幻惑、頃合いを見計らって百華流肆之型『桜』で一気に肉薄、百華流捌之型『百合』にて謙信の黒刀『アンヘルブラック』を破壊するべく手刀を一閃。
だが、それらの攻撃の全てを謙信は白刀『ディアブロホワイト』で予知し、つかさと祢々の同時攻撃を双刀で流水の如き見切りで受け流した。
そのまま淀みなき動きで双刀を横一文字に振るい、つかさと祢々を切り裂かんことを欲している。
――その二太刀は、数十の刃に値した。
つかさが解き放った七振りと大量の丸太が一瞬謙信の十刀を足止めしていたが、まるでそれらの刃の動きを一歩先んじて読んでいたかの様に、十刀の反応速度が上回ってつかさの七振りの刃と渡り合い、更に大量の丸太を炎の毘沙門等が焼き尽くした。
「どうした、猟兵達よ。お前達の力は、この程度ではあるまい」
淡々と告げながら容赦なく放たれた『アンヘルブラック』と、『ディアブロホワイト』の切っ先を、咄嗟につかさが黄昏で受け止め、祢々が百華流漆之型『蓮』で、駒の様に自ら舞い、それらの攻撃を辛うじて防御。
先の竜巻の中でも尚、辛うじて耳に届いていた美雪の歌がなければ、或いは致命傷となっていたかも知れなかった。
(「……全て読み通り、と言う事か」)
刻一刻と変化する戦況から、マレークが鋭く目を細める。
自分の中の推測が当たっている可能性に気が付いたからだ。
それが、謙信の練達ゆえの技なのか、それとも白刀『ディアブロホワイト』の力なのかは分からないが。
どうやら謙信は敵の動きを予測し、如何に効率よくそれらの攻撃を捌き、どう対応すればよいのか、それを判断する能力に恵まれている様だ。
(「となれば、俺は……」)
左手の甲に刻み込まれた月と藤の意匠紋を輝かせ、戦況を少しでも好転させるべく黄金律の竪琴を爪弾き、麻痺の糸を絡めた旋律を奏でるマリアドールの傍に自らの分身を置きながら、黒華軍装により、周囲の影に溶け込む様、迷彩を施したマレークが胸中で独りごちるその間に、キリカが近くの高台に陣取り、遠間から、シルコン・シジョンの引金を引いていた。
「これならどうだ?」
キリカの解き放った銃弾に気が付いた謙信がその弾丸を周囲に展開していた10の毘沙門刀の内、つかさの刃と打ち合っていなかった五本で迎撃せんと解き放つが。
「行きますっ。りりィ、おねがいっ……!」
その時には、上空へと飛び出していたリティがドラゴンランスを謙信に向かって鋭く突き出している。
「リティさん、そのまま行っちゃってください!」
上空のリティに呼びかけたシャルがリティを迎撃するべく、空中に浮遊する四本の刀の内、『光』属性の刀を念動力で振るう謙信に向かって熱光線を撃ち出してその動きを食い止め、更に……。
「お主が剣なら、妾は神の息吹じゃ……受けてみよ!」
――光は闇に、闇は無に。
水・火・金・木・土……陰陽五行において、世界の森羅万象を形作るとされる五行相克を司る複数の頭を持つ半透明の龍が祥華の頭上に顕現し、一斉に五行の属性を持つブレスを吐き出して謙信の刃に叩き付け、リティの向かう道筋を作り上げた。
「ねえさま達、ありがとうございますっ! いっけぇぇぇぇ~!」
リティのドラゴンランスの一突きが、ついに反応の遅れた謙信の肩を貫き、更にリリィへと姿を戻したドラゴンランスが容赦なくその牙を謙信に突き立て、その胸元から血糊が地面へと滴り落ちていく。
「オラオラ、畳みかけるぜ!」
「今ならいける……皆、力を貸して……!」
態勢を立て直したクロウが黒い炎を纏った肉断ち包丁を真正面から逆袈裟に振るって謙信に襲い掛かり、更に謙信の背後から、白い靄を黒剣に纏わせた敬輔が袈裟に刃を振り下ろす。
クロウの肉断ち包丁が、左肩から右胸を、敬輔の斬撃を纏った衝撃波が、右肩から左胸を切り裂いている。
「……少しは出来る様だな」
称賛の声を挙げながら、ふっ、とまるで何かが来るのを待つかの様に天を見上げる謙信。
謙信の命に応じる様に、つかさ達の攻撃を受け止めていた10本の毘沙門刀が謙信に集いまるで彼を刃その者にするかの様に変化させる。
その瞬間、両手で握る二刀を構えていた謙信の速度が爆発的に上昇した。
十二本の毘沙門刀による剣舞を燕の様に舞い、そのまま十二刀の毘沙門刀で次々に猟兵達に斬りかかっていく。
クルクルと謙信の周りを踊る12属性の毘沙門刀達は、各々の弱点を見切り、全てにおいて、必殺の一撃を思わせる刃と化して襲い掛かっていた。
(「くっ……せめてあれだけは封じないと……!」)
『ダンシング・スプライト』を操作して辛うじてその動きに対応しているウィリアムが、咄嗟に大地に人差し指を突き出し、黄色の光を射出。
光は関ケ原の大地の一部を穿ち、そのまま土竜の様に大地を駆けて謙信の足元に辿り着き、地中で黄色の魔法陣を形成する。
それを地脈の流れを通じて感じ取ったウィリアムが、地面を指さしていた指を引き上げながら高らかに叫んだ。
『Stone Hand!』
突如として大地が隆起し、岩石で出来た大地の精霊の腕が地中より姿を覗かせて、謙信の十二の毘沙門刀が一つ、『炎』属性の刀を力任せに掴み取る。
(「一瞬でいい……動きを僅かでも鈍らせられれば……!」)
「行って下さい、シャルさん!」
「ありがとうございます、ウィリアムさん」
それまで、炎と毒の太刀による鋭い斬撃を桜色の棍棒そーちゃんと氷の盾で受け止めていたシャルがパチリとウインクをウィリアムに一つ投げかけ、そーちゃんをチェーンソーモードへと変形させながら叫んだ。
『みんな、お願いね? 行って」
それまで、シャルの周りで透明化されて姿を消していた数体の刀を持った人形達が高速でジグザグに動き、シャル達の攻撃を躱すことを欲していた謙信の死角を捕らえ刀を横薙ぎに振るう。
「……読めていた、が……!」
白刀『ディアブロホワイト』でそれらの攻撃を咄嗟に受け止める謙信だったが、その間に肉薄したシャルのチェーンソーモードになり、棘が高速回転していたそーちゃんによる殴打と刺突を完全に躱し切る事が出来ない。
「ぐっ……!」
捻じり込まれる様に深々と突き刺さるその刃に表情を苦痛にゆがませる謙信。
そこにキリカがシルコン・シジョンのスコープを覗き込み、正確に謙信の急所を撃ち抜かんと、銃の照準をピタリと合わせている。
「撃ち抜く」
そのまま引き金を引き、銃弾の雨を謙信に浴びせかけるキリカ。
謙信は体を撃ち抜かれながら一旦後退、猟兵達から若干の距離を取った。
同時に、薬属性の刀と黒刀『アンヘルブラック』が異様な輝きを発し、それまでに謙信が受けてきた傷を癒していく。
(「回復属性か。やはりな」)
可能性としては、十分に想定していた。
車懸かりの陣による高速での陣形の入れ替わりによる自動回復能力を配下達に与えることが出来る程の軍略に長けた軍神上杉謙信だ。
自らの体力の回復に関する何らかの手段を持っていたとしても、おかしく無い。
カチリ、と自らの脳裏でピースが嵌る音がしたのを感じながら、マレークがちらりとマリアドールに目配せを送る。
突然の奇襲に負傷を負った猟兵達を癒すべく、美雪が旋律を仲間達の強化から、癒しの旋律へと変えたその時。
マリアドールは今まで以上に遥かに早く高らかな音色を、黄金律の竪琴で奏で始めていた。
●
「む……」
先程から聞こえてきていた美雪とマリアドールの旋律。
それが今までと明らかに異なるものとなった事に気がついた謙信は、美雪達を狙うべく再び炎嵐の災厄を起こすべく『炎』属性の刀を使用しようとするが、ウィリアムのStone Handに力任せに封じられているその様を見て、やむを得ぬ、と水と毒と風の属性刀の力を借りて、新たな大災害を起こそうとする。
旋律を高らかに奏で上げながら美雪は、先の戦いで学習した事より、次に謙信が又大災害を起こすであろう可能性に気がつき、咄嗟にマリアドール達を見回した。
「そう何度も、思い通りにさせるかよ!」
叫びながら漆黒の炎を這わせた肉断ち包丁を下段から撥ね上げるクロウ。
そのクロウの一太刀を謙信が受け流したその時、それは起きた。
――ポロン、ポロポロポロ……♪
微笑を口元に讃えたマリアドールが黄金律の竪琴で奏で上げた旋律が、シャルによって一時的に痺れていた耳に不思議なほどにするりと入り込み、そのまま内側から、謙信を締め上げようとしたのだ。
「そうか。私は、狙うべき相手を誤った様だな」
『ハルモニアの華と共に咲き匂いましょう舞い踊りましょう──さぁ、マリアに見せて頂戴? 神が与えし万物を』
黄金律の竪琴の音色と糸で注意を引き、爪弾く音色で敵を引きつけ、その身を締め上げる旋律から、不可視の静流の音色へと変えて、一度白ジャスミンの花の形をしたイヤリングに戻した茉莉花の歌環を再びジャスミンの形をした水晶へと変化させ、花吹雪にして襲わせるマリアドール。
怒濤の様なその攻撃に微かにたじろぎつつ、謙信が白刀『ディアブロホワイト』を下段に構え、流水の如き滑らかな動きで一気にマリアドールに迫った。
「くっ……待てっ!」
傍に美雪がいる事も有り、流石に危険を察した敬輔が白い靄達に覆われた状態で謙信に襲いかかろうとするが、その時には、謙信の十属性の毘沙門刀が、敬輔やつかさ、祢々達の動きを束縛せんと驟雨の如く襲いかかっている。
「好きにはさせないわよ……!」
十二の毘沙門刀を自ら纏われた為、一時的に戦わせるのを解除していた七振りの刃と無数の丸太をつかさが呼び出し一斉に十の毘沙門刀に向け解き放ち、祥華が援護とばかりにその頭上に五行を司る龍を呼び出しブレスを吐き出させ、更にリティが、ドラゴンランスを頭上で回転させて竜巻を呼び起こして毘沙門刀を撃ち落とすが、その間に謙信はマリアドールの元に辿り着き、そして、手元に残っていた白刀『ディアブロホワイト』と、黒刀『アンヘルブラック』を大上段からX字型に振り下ろしていた。
(「マリアさん……!」)
美雪があらんばかりの声量を籠めて旋律を変えて癒しの歌から戦いの歌を歌い上げるが、それは果たして覚悟の定まっているマリアドールの心に、何処まで響いていたのであろうか。
首もとに小さなサファイアのブローチがついた深い青のケープが、深海を思わせる青と薄紫色の結界をマリアドールの前に張り巡らせるが、謙信の二刀一閃は、その結界をまるで紙切れの様に容易く斬り裂いていた。
――過去を得て、未来を奪う。
黒と白の禍々しき光に包まれたその太刀に右肩から左脇腹、左肩から右脇腹に掛けてをX字形に刻み込まれながらも、尚、止まぬ旋律を奏でてその謙信に大きな隙を作るマリアドールは微笑んでいる。
その理由は……。
「女が作ったこの隙を見逃すのは、男が廃るというものだ」
ダン、と大地を一気に蹴り上げた、常にマリアドールの傍にいたと思われていたマレークの本体が死角から飛び出し、碧玉が異様な煌めきを放つ優美な長槍、碧血竜槍で、黒刀『アンヘルブラック』の刃を突いていたから。
マリアドールとマレークのコンビネーションの全ては、この一撃に集約していた。
――バキィン!
死角からの思わぬ攻撃に、猟兵達の攻撃から幾度も謙信の身を守り続けた黒刀『アンヘルブラック』が悲鳴と思しき甲高い音を立てて、その刃を砕かれる。
「! 私の刃を狙ったか……!」
驚嘆とも感嘆ともつかぬ声を上げながら、白刀『ディアブロホワイト』をマレークを見ぬままに突き出す謙信。
急所こそ外れているものの、狙い違わずマレークの黒華軍装を易々と貫き、その胸に突き立てられた凶刃を伝って、マレークの血液がX字型に体を切り裂かれ、地に伏せているマリアドールの近くへとポタ、ポタ、と音を立てて零れ落ちた。
――故に。
『我が血をもって目覚めよ、我が身に眠りし暴食の邪竜』
マレークがその血を代償として、【碧血竜槍】に眠る碧目の小竜を、鮮血のヴェールを纏う暴食の邪竜へと変貌させて、他の猟兵達に向けて放たれていた『薬』属性の毘沙門刀に食らい付かせ、その『闇』の魔力で噛み砕かせたのは、必然だったのかも知れない。
「マレーク……」
美雪の回復でも追いつかない程の傷を負い闇へと沈みかける意識の中で、辛うじて口遊さんだ、マリアドールの自らを呼ぶ声を、確かに鼓膜で捉えたマレークは、そんなマリアドールに優しく微笑みかける。
そして、残された十の毘沙門刀を、消えない炎の燃える小さな水晶、泉照焔で照らして回避しようとしてもしきれず斬り刻まれながら、白檀手套に仕込まれたビームシールドを展開して叩き付ける様に謙信に一打を放ち、その一言を紡ぎ出した。
「マリアよ、お前を危険に晒してまでの一度きりの大芝居。この捨て身の一撃をキメて見せよう」
「……そう。信、じて……」
複雑な思いを胸に抱きながらも、その微笑みは絶やすこと無く。
そのまま眠る様に意識を手放すマリアドールに折り重なる様に、マレークもまた倒れ伏した。
●
「一先ず二人、か」
白刀『ディアブロホワイト』を引き抜きながら立ち上がり、次にどの敵を狙うかに思考を張り巡らすべく立ち上がる謙信。
使い物にならなくなった黒刀『アンヘルブラック』を打ち捨て、代わりに『闇』属性の毘沙門刀を握り、構え直す。
その一連の動きを、敬輔、祥華、ウィリアム、つかさ、美雪、リティ、クロウ等、連携慣れしている猟兵達が見逃す筈が無い。
(「皆、頼む……!」)
美雪が最後の力を振り絞って戦いの歌を喉もかれよとばかりに歌い続けるのに背を押され、最初に動いたのは……。
「……Icicle Edge!」
『ダンシング・スプライト』を左手でのみ操作しながら、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、青と深緑色の攻撃的な輝きを発する魔法陣を形成して素早く術を発動させるウィリアム。
200を越える氷柱の槍が態勢を整え直そうとしていた謙信を貫くべく一斉に迫る。
『スプラッシュ』で自分の魔力が失われるその時まで、とばかりにIcicle Edgeを放射し続け、次の一手に動かれぬ様、その場に足止めしながらウィリアムが叫んだ。
「皆さん、今です!」
『巻き込まれるのが嫌ならば、近づかないことよ……乱闘術奥義! 明王乱舞、ご覧あれ!』
ウィリアムの言葉に応じる様に、周囲に浮遊していた七振りの刃と大量の丸太の力を解放し、無数の乱舞を謙信に向けて叩き付けるつかさ。
空中を自由自在に動き回る七振りと丸太達は、幾度もの衝突により、刃渡りに罅が入りつつある謙信の毘沙門刀を斬り裂き、或いは殴り倒さんとばかりに踊り始めた。
手元にあった二刀を含めれば、十二刀あった謙信の刃の内二刀が砕け、結果として九本となった周囲を浮遊する毘沙門刀では、これらの攻撃を受けきるのは中々に難しく、先程よりも遙かに容易に謙信へと刃を突き立て易くなる程の剣速で、謙信に双刀を閃かせるつかさ。
「戦の神様。あなたはすごく強くって、正しいことのため戦ったと聞いていたのです。でも、今のあなたは正しくないのです。どんなに強くても、ぼく達はあなたに負けたりなんかしないっ……!」
クンッ、と軽く後ろに体を引いて勢いを付け、まるでトゥルーパーの様にドラゴンランスを両手で構えて突っ込むリティ。
そのリティの後を追う様にクロウが敵を焼き尽くす漆黒の炎を糧に上空へと飛び上がり、肉断ち包丁を大上段から振り下ろしている。
飛翔を一時的に断ち切ることで重力による落下速度が肉断ち包丁の剣速を加速させ、摩擦熱を取り込んだ漆黒の炎が更に巨大な炎となって燃え上がる。
力任せに叩き付けられた鉄塊による一撃に主君の危機を察したか、『炎』属性の毘沙門刀が立ち塞がるがクロウの一刀はその刃を易々と砕き、黒い焔で焼き尽くしていた。
「うわああああああっ!!!」
そこに正しく自分が槍になったかの様に飛び出すリティ。
力任せのその一撃を、咄嗟に謙信が右手に携えた『闇』属性の毘沙門刀で真正面から受け止めるが、再びリリィへと変化したドラゴンランスが謙信の喉元に食らい付く。
「ぐっ……!」
苦痛の声音を上げながら『闇』属性の毘沙門刀の柄頭をリリィの頭部に叩き付けて引き剥がし、すかさずリティに足払いを掛けて大地に叩き付ける謙信。
リティは地面と体をぶつけ合った衝撃で、ガホッ、と喀血しながらも立ち上がり、つかさと連携して絶え間なく攻撃を仕掛かけていく。
謙信が、流石に忌々しげに舌打ちを一つ。
「ほほっ、上々、上々。おぬし、敬輔と言いましたかのう。此処から先は、おぬしにお任せするでありますよ」
「……ああ、分かった祥華さん……」
謙信を押し始めている様子を見つめてカラコロと祥華が笑いながら、玄武、朱雀、青龍、白虎・麒麟……五獣と呼ばれる者達の力の籠められた宝玉・珠鈴の龍の髪飾り・指輪・金朱の羽根の耳飾り・全身を覆う半透明の龍鱗の痕を弄った。
「参られよ、我が僕たる五獣達。我が元に集いて汝等の力、妾に示せ!」
祥華の呼びかけに応じる様に、蛇の絡みついた亀、龍、虎、鳳凰、麒麟の五獣達が其々に司る力を叩き付ける様に謙信に襲いかかる。
それは、祥華の頭上の半透明の龍の吐き出すブレスと同調し、強大な力となって謙信を嬲った。
「ぐ、ぐぅ……!」
「今の内、だな……」
敬輔が内心で呟きながら白い靄を纏った黒剣を横薙ぎに振るい、つかさの零式・改三とぶつかり合っていた『光』属性の毘沙門刀の刀身を叩き落とす。
水晶が割れる様な甲高い音を伴い、四本目の毘沙門刀が崩れた。
そんな敬輔の命を狙ってか、『毒』属性を持つ毘沙門刀が敬輔を薙ぎ払わんと斬りかかるが。
「好きにはさせませんよ」
告げながらシャルが本差しと脇差しの二振りの刀、修羅櫻で敬輔を狙った刃を叩き落とす。
――ハラハラ。ハラハラ。
斬り裂いた、と言う手応えと共にシャルの修羅櫻から舞い散る桜吹雪。
その桜吹雪に巻かれる様にして、『毒』属性の刃が風に乗って消えていく。
「五本目ですね。さて、次はどの刃が崩れ落ちるのでしょうか?」
「……どうやら、護法善神たる毘沙門天に、貴様は見限られつつある様だな」
残り七刀となった謙信を挑発する様にキリカが呟きながら、シルコン・シジョンを乱射。
縦横無尽にばらまかれた銃弾が、つかさの太刀とのかちあいで、強度を失いつつあった毘沙門刀の内の一刀、『樹』属性の毘沙門刀を撃ち落とした。
「くっ……やむを得ないか」
呟き、まだ辛うじて力の残っている『水』、『風』、『氷』属性の毘沙門刀を自身の元へと引き寄せ、高速で移動してつかさとリティを吹き飛ばし、キリカに駒の様に高速で回転しながら肉薄する謙信。
その様子を見て、キリカがシルコン・シジョンをその場に取り落とし、仰々しく両手を挙げながら一瞬完全なる脱力状態となり、迎え入れる様に淡白に告げた。
「よく来てくれたな、歓迎しよう。――狂い震えろ、デゼス・ポア」
キリカの懐から吐き出されたデゼス・ポア……無邪気な哄笑をあげるキリカの人形が、謙信に残された六太刀が触れる直前、断末魔の様な金切り声を上げた。
――それは、美雪の美しく澄んだ戦いの歌や、マリアドールの黄金を思わせる旋律とは対極とも言える、呪怨の籠められた声。
少女とも、老婆ともつかぬその声が謙信の『闇』属性の毘沙門刀を飲み込んだ。
程なくして、デゼス・ポアから吐き出された『闇』属性の毘沙門刀が謙信の体に深々と突き刺さり、そこから『闇』を送り込み、謙信の体を闇の呪詛で蝕んでいく。
「ぐ……ぐぉぉぉぉ!」
『闇』の毘沙門刀を引き抜きながら後退する謙信に向けて、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を素早く引き抜き、フルオート射撃を叩き付けて謙信の体を穿ちながら、アンファントリア・ブーツによるフルダッシュで距離を取ったキリカが冷たく告げる。
「さて、貴様の戦運も、愈々尽きてきたようだぞ」
薄く笑うキリカの様子に、一瞬動揺の表情を見せた謙信に、百華流参之型『藤』で幾重もの実体の無い無数の残像を作り出した祢々が肉薄。
謙信は、残像事纏めて祢々を薙ぎ払わんと残された六刀全てを同時に十文字に振るうが、祢々が残像の何体かをそれによって消滅させられながらも、謙信の懐に飛び込み、祢々が彼女の間合いに入ることを許してしまう。
「だが、その手は読めている……!」
告げながら謙信が白刀『ディアブロホワイト』を振り下ろしたその一刀を、祢々は左の手刀で受け止めた。
それは祢々の左手の皮膚を容易く破り、骨まで食い込む程強烈な一撃。
下手をすれば腕事手を持っていかれたであろうその一撃を受けたけれども、祢々は決して怯まない。
同時に謙信が自分に起きている異常に気がつき、呻きを上げる。
「肉を切らせて、か……!」
「そうです……この手、この足が私の刀……百華流陸之型『牡丹』!」
自らの体を犠牲にして、一撃必殺の技を叩きこむ超攻撃的型、百華流伍之型『菖蒲』で生まれた隙を、百華流拾之型『菊』で打ち消し、鎧……鋼を砕く百華流陸之型『牡丹』に一瞬で移行し、鋭い右手の手刀による一撃で、白刀『ディアブロホワイト』の刀身を叩き折る祢々。
残り五刀となり動揺の表情を隠せぬ謙信の白刀『ディアブロホワイト』の刀身の一部を左手に残したままに、その重心の変化を感じさせぬ滑らかな動きで跳躍し、空中で一回転、死角となる天空から脳天に向けて踵落としを叩き付ける祢々。
百華流陸之型『牡丹』の型から放たれたその踵落としは、謙信の頭部を容赦なく直撃し、脳震盪を起こさせて謙信に目眩を起こさせる。
「今です、つかさ先輩!」
「これが、私達の真っ向勝負よ……!」
つかさが叫びながら暁を振るう。
「何……それもまた、戦いだ」
目眩から回復した謙信がつかさの暁による一閃を真っ向から受け止めた。
暁が『闇』属性の毘沙門刀に食い込んでその刃を鋭い音と共に粉砕し、それと同時に、つかさが解き放った七振りの刃もまた、謙信に残された三刀を打ち砕いていた。
だが謙信はそれでも怯まず、右足でつかさの右腕を蹴り上げてつかさの暁を叩き落とし、更に黄昏を躱すと同時にその手に手刀を叩き込み、黄昏をも弾き飛ばす。
「……ならば!」
両手の武器を素手で弾き飛ばされたことにも決して怯むこと無く回し蹴りを叩き込むつかさ。
そのまま謙信との肉弾戦に移行したその時……謙信の四方八方から、美雪の歌声に背を押された8人の猟兵達の攻撃が乱れ飛んだ。
「これで終わらせる……!」
敬輔の白い靄を斬撃の衝撃波として解き放った一撃が、謙信の右肩を斬り裂けば。
「此処までだ。いい加減に終わりにさせて貰うぞ」
キリカが足下に投げ捨てたシルコン・シジョンを拾い上げ、"シガールQ1210"との二丁拳銃で無数の銃弾を吐き出させ謙信の背中を撃ち抜いて。
「今のあなたの戦いに、義は無いのです!」
上空に飛んだリティのドラゴンランスによる串刺しが謙信の左肩を貫き、続けざまにランス形態を解除したリリィが謙信の胸に食らい付き。
「謙信! これでお前も終いだぜ!」
クロウの漆黒の炎を纏った肉断ち包丁の一閃が、祢々に踵落としを叩き込まれた陥没していた部分を焼き切る様に斬り裂いて。
「そろそろ、骸の海へお帰り下さいな」
シャルがチェーンソーモードのままだったそーちゃんを謙信の鳩尾に叩き付けて、振動する棘でその体を貫いていく。
「終わりじゃのう、森羅万象を操る軍神よ」
(「……そして、存在的な意味では妾と同じ神たるものよ」)
祥華が、複数の頭を持つ半透明の龍のブレスを浴びせかけながら、結羽那岐之を逆袈裟に振るってその身を斬り裂き。
――そして。
「断ち切れ、『スプラッシュ』!」
『ダンシング・スプライト』から飛び降り、氷の精霊達を凝縮した『スプラッシュ』でウィリアムが背後から唐竹割りに謙信を断ち切って。
「見事な太刀筋でした。これで私は、またもう一つ高みへ登れます」
祢々の右手の手刀が、謙信の総頸動脈を貫いた。
「貴方の負けね。軍神、上杉謙信」
「……四十九年一睡夢 一期栄華一盃酒。この戦いもまた、私の泡沫の夢であったか……」
口からゴボリ、と大量の血を吐き出しながら。
つかさの拘束を解かれた謙信の体がグラリと傾ぎその場に崩れ落ちて消えていく。
――こうして。
此度の戦場の上杉謙信は、最期の時を迎えたのだった。
成功
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