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エンパイアウォー⑱~一盃酒野将と合緑の戦い

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #上杉謙信

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●依頼
「ご多忙の中をお越しくださり、誠にありがとうございます」
 グリモアベースの窓際でルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が正座していた。

「戦場は関ヶ原。魔軍将、軍神『上杉謙信』との決戦でございます」
 ルベルはそう言って説明を始める。

「第六天魔王『織田信長』の居城、魔空安土城へ向かう幕府軍は、最大の難所である関ヶ原に集結いたしました。皆様には、幕府軍を待ち受ける信長軍の魔軍将が一、軍神『上杉謙信』を破って頂くことになります」

「上杉謙信率いる上杉軍精鋭部隊は、軍神車懸かりの陣と呼ばれる堅守陣形を用いております。陣はそれ自体が強固にて幕府軍を蹂躙するに十分な力持ち、合わせて上杉謙信の蘇生助力もしています。上杉謙信が倒れても、軍勢により蘇生時間が稼がれてしまうのでございます」

「別動隊が配下軍勢を抑えてくださる間に、皆様は魔軍将、軍神『上杉謙信』に決戦を挑んで頂きたく存じます」

 配下軍勢と猟兵達の別動隊が死闘を繰り広げる戦場。味方猟兵が切り拓いた道を往き、将を斬る。作戦は明確であった。
 続き、ルベルは敵の情報を共有する。
「軍神『上杉謙信』の武器は12本の毘沙門刀。各々の属性は、水・光・土・火・樹・薬・風・毒・氷・闇・アンヘルブラック・ディアブロホワイト」
 ルベルは言葉を切り、猟兵を視た。
「このような事を申し上げるのは、心苦しいのですが」
 ルベルは申し訳なさそうに頭を下げた。
「僕は、敵の攻手守手を詳しく予知できておりませぬ。故に、現地で頑張ってくださいとしか申し上げられないのでございます」

「でも、そうですね。敵は、強いのだと世間でも評判です。負傷を怖れる方には、お勧めできない戦場……それは、間違いございません」
 運は天にあり、鎧は胸にあり、……あと一つは忘れました――、ルベルはそう言うと猟兵達を戦場へと転移したのであった。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 難易度はやや難の強敵戦です。ギミックなしの純戦、苦戦する可能性のあるシナリオです。執筆はプレイングを送信頂いた順となります。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●天運
 本陣の旗印に毘の字はためきて陽光に白妙の練絹眩しく行人包の美丈夫有り。
 佳人軍配仕舞て刀鳴る。

 人心荒らぶり世は乱世なり。嘆きて僧門に寄らば配下総出で頭垂らして踏みとどましは過ぎし事。雪地にて蘇りしもまた別の日の彼。脚引き摺る事もなく空の眸は透徹なり。

 天の時地の利に叶い人の和ともに整ひたる大将というは和漢両朝上古にも聞こえず 末代有るべしとも覚えず、日の丸に照らされて空視通す戦場に、嗚呼――毘沙門天の加護ぞある。
ヴィヴィアン・ランナーウェイ
アドリブ・連携歓迎

相手は軍神と名高い上杉謙信ですか。

ですが、そんなことは関係ありませんわね。
敵であるというのなら、打ち倒して進むのみ。
UCを使い、己を強化します。
代償は●覚悟の上。

回転する毘沙門刀、そして高速移動とこちらの弱点をつくための刀。
まずは敵の周囲の刀を減らす。こちらへと放射してくれるのであれば好都合。
謙信へ向かう振りをして●ダッシュで周囲を動き回りましょう。
平時なら避けられずとも、この状態の私なら容易い。
近づいてきたならば、槍を振るい敵の刀を弾きます。いくら軍神と言えど、敵を目の前にして刀を拾いには行かないでしょう。

敵の周囲に刀が無くなったのなら、私も剣を突き立てましょう。
お覚悟を!



●道駆け
 日輪に12の刀がぐるりと輝く。
「相手は軍神と名高い上杉謙信ですか。ですが、そんなことは関係ありませんわ!」
 敵であるというのなら、打ち倒して進むのみ、と味方勢の造りし血路を駆け抜けたのはヴィヴィアン・ランナーウェイ(走れ悪役令嬢・f19488)。
その足が一瞬で鈍る。
 ビリリと全身を射抜くような視線が降ってきたのだ。

「猟兵よ、私の名は上杉謙信と申す」
「う……、な、なんですの」
 問答無用で先制を畳みかけようとした足が完全に止まってしまう。戦場全てにひたりと染み込むような静かなる圧が放たれていた。
「別動隊の抑えは見事なものである。よくぞ私の陣を抑えたとこの謙信が賛辞を送ろう」
「……」
 其れが――余りに厳かなればヴィヴィアンは背にじっとりと汗を掻く。少女とて公爵家に生を受けし者、教育は受けているのだ。
「わたくしは、ヴィヴィアン・ランナーウェイですわ。お相手をお願いできて?」
「びびあん、か。私の志の前に立ち、汝が退かぬというならばお相手致そう」
 知らず、一歩が後ろへ退いた。無自覚ながら少女は二の腕を摩り、けれど勝気に顎をあげる。
「退きませんわ!!」

(わたくしだって、覚悟の上ですの!)

 日輪に12の刀が舞う。
「わかってますのよ!」
 草地を蹴り、ヴィヴィアンは周囲を駆ける。
「どなたか! どなたかが! わたくしが引き付けていれば、その隙に」
 味方が来るのだ。少女は其れを胸に刀を避け続ける。舞のようだ――ダンスは、少し苦手だった。勇気の鎧が高い金属音を蒼穹に響かせ、誇り高く刃を拒む。代償と防ぎ切れぬ傷で全身は赤く染まっていく。アリスランスは覚悟に応じて勇ましく尖り風を唸らせ刀を阻む。

 ――疾い。多い。

 氷の刀が足元を凍らせる。つるりと足を取られて滑らせた隙を光の刀が眩く目元にて輝きを発し、たまらず目を瞑れば闇の刃が絶望を導かんと全身に傷を刻む。
「ぜつ、ぼう?」
 いつの間にか地面に倒れていた。
 ヴィヴィアンは眼を瞬かせる。謙信が風凪の湖の如き目を向けていた。

「退け」
 透徹な声がそう言って背を向ける。

「ま、」
 ――待っ、て。

 ひとが、ヴィヴィアンに背を向ける。
 『悪役令嬢は思い出す』。
 待つんですの。お待ちなさい。お待ちなさい。待ちなさい。

「わたくしは」
 濡れた赤髪が陽光に煌いた。
 豪奢な衣装がボロボロだ。舞踏会には――これも好いじゃないですの。

「わたくしは、」
 ドクン、と鼓動が大きく脈打った。心臓が全身に血を送る。熱が全身を巡る。
 敵が足を止めて振り返った。見落としていた何かを見つけたような貌。何かしら?
「失礼をした。戦に臨む心なき娘御かと僅かな侮りがあったようだ――そうではないのだな」
 謙信が刀を一振り手に取って直に手を下そうと歩み寄る。

「――そうですわ」
 そうですわ、そうですわ、そうなのです。
 金色に火が憑いたようにギラリと瞳が燃え上がった。その瞬間、槍が低地から一瞬で放たれ――振り下ろそうとされていた刀を鮮やかに跳ねのけたのだった。

「お覚悟を!!」
 血塗れの少女が喉からありったけの声を放ち跳んだ。何処にそんな力が残っていたか。否や、戦場には儘ある事ではあった。その瞳、麗しき金色には後続の味方がため隙を作ろうという意志と、敵身に剣を突き立てる折れぬ戦意こそが濃く濃く彩られていたのである。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

上崎・真鶴
正直言ってあたしの実力じゃ、まともに戦えるとは思えないけど……
あたしも人任せにしてばかりじゃなくて、たまには身体を張らないとね

軍神相手に斬り結べる気はしないし、最初っから他の人を補助するつもりでいくよ!
敵の注意を引き付けるように真正面から突っ込んで、攻撃を食らう直前にUC【鉄壁】を発動して、その攻撃を受け止める!
敵があたしを攻撃してる間に、他の人が敵を攻撃してくれれば万々歳
他にも味方の誰かが攻撃されそうな所に飛び込んで【鉄壁】を発動して盾になるとかね
とにかくあたしは囮と盾役に徹して、他の人の安全を確保しようと思う
頑丈なのが取り柄だし、何とかなる……かな?

……これはこれで人任せな気もするけどね



●共に
「覚悟なしに戦場に在ったことなど只の一度もない!」
 血塗れの少女に向けて謙信が一刀斬り結ぼうと腕を振る。満身創痍の少女は避けることもせず刺し違えて一撃を入れようとしていた。だが。
「たまには身体を張らないとね」
 胸元で温かな緑光グリモアを輝かせ、虚空より現れて割り込む小さな影、一つ。夜干玉の艶髪は長く背に揺れ、揃いの色の眼が謙信を真っ直ぐに睨んだ。自信に溢れた表情が飲酒的に意識を縫い留める。
「――加勢する!」
 常は立場上猟兵達の支援に徹している上崎・真鶴(人間の剣豪・f00449)が戦場に駆けつけたのだ。
「ぬッ! 新手か!」
 謙信が一刀は一見無策で飛び込んできた少女に無慈悲に命中したようだった。だが、攻撃が成功したわけで無いことは敵の表情が何よりも物語る。刀は――止まっていた。紅の甲冑が、乙女の柔肌が、髪一筋に至るまでも。幾筋刀が奔ろうと傷ひとつ付かずに同僚猟兵ヴィヴィアンを護っている。
 ユーベルコード『鉄壁』は真鶴の全身を鍛え上げた鉄のような強度に変えていた。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になる技は、真鶴自身が全く動けなくなるという欠点を併せ持つ。戦場では味方を活かす前提で使うものだ。

 ヴィヴィアンがランスを苛烈に突き出した。彼女とて仲間と共に戦う意志のもとに敵の攻撃を掻い潜ってきたのだ。志を等しくする仲間が駆けつけたとあらば肉体の限界など何度でも超えてみせよう。迫る槍先はその勢いを各段に増した。
 真鶴が刃を受け止め護った一瞬、炎が燃え上がるが如くランスが峻烈に敵の胸に迫る。謙信は身を捩り回避しようとし――何故か、夜干玉に一瞬ひどく心を乱された。理由を思い当たる間もなく刃が身に。
「くっ!」
「避けられやしない」
 真鶴が真っ直ぐな目を向け、予知をし、言葉違える事無く決死の刃は、――届いた!
 謙信が胸を突かれ驚愕の表情を浮かべた。10の刀が音を立てて地に落ちる。
 真鶴は微かに微笑んだ。鉄壁の構えを解き、成し遂げた少女をそっと支えて後退しながら。
「あたしはいつも、見て来たんだ。大切な仲間達、猟兵達が戦う姿。傷を負いながら諦めない姿。自分を顧みず誰かに手を差し伸べる姿。背を預け合って助け合う姿」

 謙信は手に持つ刀に力籠め、なにやら術式を発動させている。大将首には儘ある光景――傷を塞いで継戦を可能とする技を謙信も持っているのだろう。

 真鶴は後続と入れ違うようにして『仲間』と共に一度後方へと下がった。
「正直言ってあたしの実力じゃ、まともに戦えるとは思ってなかったんだ」
 呟きは少女らしい声色を伴っていた。
「でも、来たかった」
 上崎真鶴は胸元の緑光を穏やかな瞳で見てはにかんだ。紅色の甲冑に身を包みし真鶴の姫武者然とした佇まいからその義侠心と武士道精神がありありと伝わる。戦場の風に吹かれて靡く黒髪は墨を流したがごとく、背筋は凛として。
 声は、鈴を転がすようだ。
「あたしも人任せにしてばかりじゃなくて、たまには身体を張らないとね。頑丈なのが取り柄だし」
 家宝の脇差『駿州助次』を誇らしげに撫で、真鶴は眉を下げて笑った。
(ひぃおじいちゃんなら、助次をどんな風に奮っただろう)
 ほんの少しそんな事を思いながらも、真鶴は目を伏せた。
「……盾になるだけってのも、人任せな気もするけどね」
 戦場に己一人、耐えるのみであれば敵を倒すこと叶わず。ユーベルコードの防護は永遠に続けられるものではない。鉄壁となる間己が身動きできぬ以上、攻撃は誰かを頼らなければならないのだ。
「……ありがとう」
 声はどちらが言ったものだったろう。きっと、両方だ。

 草陰で休んでいた鳥が羽ばたいた。2人の背後でまた剣戟の音が響く。――戦いは、続く。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
運否天賦で勝敗が決まることも確かにあるでしょう。ですが、人事を尽くし全力で戦う者が勝利を手繰り寄せる……そうは思いませんか?

軍神と呼ばれるほどの実力者が相手となれば、身命を賭さねば勝機はないでしょう。UC【闇の解放】……強大な敵に立ち向かうためにこの力はある。
12本の刀を全て捌ききるなどほぼ不可能…ならば負傷【覚悟】の【捨て身の一撃】で勝負を決めます。
可能な限り毘沙門刀を【武器受け】し、攻撃を受けても【激痛耐性】で痛みを耐え、【気合い】で怯まずに暗黒剣を叩き込みます!。
体力の許す限り戦闘を続行する所存ではありますが……退く前に、どこかの【部位を破壊】して後続に有利な状態で託したいものです。



●毘沙門天が耳を断て
 日の光がじりじりと草を熱し、人を炙る。毘の旗が真白く眩く陽光を浴びていた。

「神出鬼没の猟兵は義篤気組にて天運を引き寄せ数にて格上を圧倒する事も多いと聞く。厄介な事よ」
 謙信が二刀を身にあてて体の傷を塞いでいた。黒き刀と薄緑の刀だ。
(アンヘルブラックと薬刀、と見ました)
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が静かに気炎をあげながら声をあげた。
「運否天賦で勝敗が決まることも確かにあるでしょう。ですが、人事を尽くし全力で戦う者が勝利を手繰り寄せる……そうは思いませんか?」
 謙信がふと笑う。
「生を必するものは死し、死を必するものは生く。猟兵、私は今隙があるぞ。猟兵はさしあたっての一戦に勝つことを心がけるものであろうか?」
 セシリアは頷いた。
「私はセシリア。闇に閉ざされた世界にて正しき闇の力以て、弱き者を護る剣となり盾を志す者です」
「ならば、汝が技を見せてみよ」
 謙信が毘沙門刀を再び浮かべていく。薄い緑を浮かべた代わりに白の刀を喚び出して白黒二振りを手に構える姿にはおよそ隙と呼べるものが無い。浮かせた毘沙門刀が属性気を目に見えて纏わせ、獲物狙い輪を狭める肉食動物の群れが如く周囲を巡る。
「ええ。この命を捧げた技、とくとご覧ください」
 セシリアが闇を解放していく。真昼の草戦場に夜を解き放てば周囲の温度が急速に冷えたようだった。

(強大な敵に立ち向かうためにこの力はある!)
 『闇の解放』。

「これは、強大な力だな。代償もさぞ大きいだろう」
 謙信が目を眇めるように闇を視た。
「意気や佳し」

 呼吸するごとに闇が肺腑に染み込むようだ。暗黒の力は強大だが代償として生命と精神を蝕まれていく。力を使うのは、これで何度目か。もはや数えきれないほどの行使によりセシリアの魂は軋み、悲鳴をあげるようだった。
(黙れ)
「倒す、倒す、私が倒す」
 荒れ狂う暴風の如く渦巻く闘気。
 満ち満ちるは真なる暗黒――闇の化身が姿を顕せば毘沙門天の耳も塞がれる。四方より襲い掛かる10の刀が心なしか動きを鈍らせた。
(何故?)
 理由は分からないままセシリアは好機を活かすべく刀を捌く。鈍らせながらも敵は手数の多さでセシリアを翻弄する。セシリアが暗黒の一剣に対し十二が対するのだ、力解放せし歴戦の女傑といえど圧されるも宜なるかな。
「それにしても、器用に捌く」
 謙信が黒の刀を振りながら舌を巻く。闇の化身はするりと刀を横に避け、火炎刀をオーラで防ぎながら脚を絡めとろうと蔦伸ばす樹刀を蹴り飛ばし、蹴撃の勢いのまま身ごと回転させた暗黒剣が背を狙っていた毒剣を弾き飛ばす。謙信が愉し気に笑い地を蹴った。
「!」
「猟兵、せしりあとやら!」
 足元の大地から伸びた土刀を避けセシリアが跳べば跳んだ先に先んじて跳んだ謙信と白き刀が待っていた。
「見事なり!!」
 白き刀が耀き放ちながら降ってくる。
「――これは、ディアブロ!」
(未来を読む刀!?)
 待ち構えていたような刀へとセシリアは暗黒剣を振り上げた。上からの刃が謙信の体重を乗せ重力を味方につけて暗黒剣を押し込もうとする。
「……負けない」
「むっ!?」

 暗黒闘気が膨れ上がった。

 上から押さえつけられる圧倒的な力、絶望を押し付けるような敵。それは、常に絶望的な戦場に身を置き続け走り続けてきた女騎士の闘気を否応なしに駆り立て引き出してしまう。

「お前は悪だ」

 神我狩な剣を上へ斬りはらい、闇の化身が殺気を刃に変えて悪を斬る。
「片耳、貰い受ける」
 行人包を斬り裂いて血の花が咲く。悲鳴は、無かった。耳を斬り払われながら謙信は静かな瞳を闇に向けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
本来槍は剣よりも間合いが広く長い
たが空中に浮く敵の十刀は槍の有利性さえも打ち消してしまう
ならば【炎竜轟天】で炎竜の群れを召喚し、十頭に相手取らせるまで

残るは謙信、お前の二刀と俺の二槍との一騎打ちだ

【金月藤門】のフェイクと残像で分身を生み出し、迷彩効果と【黒華軍靴】のダッシュで一気に攻め込む
【魔槍雷帝】の雷撃で目を眩ませ、麻痺させたところを【碧血竜槍】で刃を破壊する

捨て身の一撃となろうが、【泉照焔】の見切りで敵の攻撃は回避し分身を斬らせる
こちらが一方的に圧されたら、炎竜に攻撃で気を反らせた隙に【白檀手套】でカウンター攻撃

それでも無傷とは行くまいが、刀の一本くらいは道連れにさせて貰うぞ



●アンヘルブラックを破壊せよ
「炎獄の竜よ」
 間髪入れず戦場に男の声が響いた。
「!?」
 業火と爆風が視界を奪った。一呼吸の間に飛来した炎竜の群れが十の刀に一体ずつ躍りかかり、抑え込む。
「竜か」
「残るは謙信、お前の二刀と俺の二槍との一騎打ちだ」
 地を爆ぜさせんばかりに黒華軍靴で蹴ってマレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)が蒼い稲妻を纏った槍を突き出した。
「むっ!」
 雷鳴そのもののの如き鮮やかな突きに、しかし謙信は反応してみせた。上体を反らして槍を避け、手に持つ黒刀で槍の繰り手を斬り払われる。黒刀が妖しい光を放ち、謙信が声をあげる。アンヘル、と。そして、目を見開いた。
「なんと。これは残像か!」
 斬り払われた猟兵の姿が一瞬揺らぎ、消えたのだ。
(分身だったのだが……消された?)
 マレークが眉を寄せる。黒華外套の上に目立たぬよう草模様を纏ったマレーク本人は一気に槍の間合いへ詰めていた。
 本来槍は剣よりも間合いが広く長い。
(だが空中に浮く敵の十刀は槍の有利性さえも打ち消してしまう)
 ならば、とマレークは自身の血を代償に召喚した炎竜十頭に刀を相手取らせ、その隙に敵将謙信に槍で挑んだのだ。だが、マレークは間合いまで飛び込んだところでほんの僅か眉を寄せた。竜が数体撃破され、刀が背に襲い掛かる。前の謙信は白き刀で槍を受け止めようとしていた。
(構うまい)
 背に襲い来る刀は避けようと思えば避ける事ができる一撃だ。槍で受けようと思えばそれもまた容易い。だが、マレークは敢えてそれをしない。
 抑えの炎竜は一時の抑えに過ぎない。勝利の竜の尾っぽは一瞬ですれ違い様に捉えねば逃げていくものだ。逃れたのちに捕まえるは至難。時間をかけての攻略は望ましくない。ゆえに、多少の無理を押して速攻あるのみ。

 ――捨て身にて一気に攻める!

「雷帝、放て」
 低い声と同時に眩く魔槍が光を放つ。
「!!」
 謙信が眼を晦ませ、同時にマレークの背が風の刀に斬り裂かれていた。
「ぐっ!」
 短く苦悶の聲を零しつつ勢いが止まる事はない。視力を奪われている謙信へとマレークは捨て身の槍撃を突き入れた。深く、腹から背に槍が抜ける。白手袋に確かな手応えを感じながらマレークは背に迫る薬刀を逃れて距離を取る。炎竜が数を減らし、自由を得た刀がマレークを狙い飛んでくる。じとりと背を血が濡らし、同時に槍先から敵の血が垂れる。
「ッ、おおおっ!!」
 謙信が血を吐きながら腹を黒刀で押さえていた。傷が塞がっていく――否、傷を負う前に時が戻されていく。
 マレークの英邁なる瞳がハッとした。
「過去に干渉するアンヘルブラックの刀か」
(無論、干渉にも限度はあるだろうが撃破遅延、ひいては猟兵側の疲弊の元となるのは間違いない)
 金月藤門の力によりマレークは再び分身を生み出し、敵に迫る。
「その刀は捨て置けん。道連れにさせて貰うぞ」
 それが叶えばこの敵将の攻略は成ったも同然だ。一人ずつ確実に傷を重ねていけば、いつか敵は倒せるのだから。

 背には傷を負い、なお捨て身にてマレークは継戦する。
 ――ここで勝負の天秤を猟兵側に傾ける。それを為すのは己なのだ!

(この猟兵は、いけない!)
 謙信がマレークの意図を察して総毛立つ。
(この男の槍を跳ねのけねば)
 長き戦い、拮抗した戦いにおいて稀にそういった一撃は存在する。勝敗を大きく左右する核のような一撃だ。戦経験豊富な謙信の全身が訴えていた。アンヘルブラックを破壊させてはならぬ。
「ディアブロよ!」
 謙信が白き刀に吠えた。未来予知の刀が光を帯び、未来の攻撃に備えて謙信が後退しながら虚空舞う自由なる刀でマレークに襲い掛かる。麻痺薬の効能籠めし薬刀が猟兵を捉え――、
「そちらは分身だ」
「視違えたか!」
 眼前に迫りし猟兵の男が表情を変えぬまま白き手袋のシールドで謙信の黒刀を受け止め、いつの間にか分身と持ち替えていた碧血竜槍をその刀身目掛けて突き立てた。
「――貰った」
 碧玉を嵌めた優美な長槍が真の力を発揮する。変じている竜は見た目に見合わぬ暴性を魅せて。
「しまった!」
 ピシリ、アンヘルブラックにヒビが入る。戦いの大勢を決した音と言っても過言ではない。その小さな音は味方にはこれ以上なき快音であり、敵にとっては悪夢の音であった。
「あとは、その薬刀とやらも破壊したいところだが」
 自らの負傷を物ともせずマレークが冷静沈着な瞳を薬刀に向ける。
(黒刀ほどではあるまいが、あれも癒しの力を有しているだろう)
 その背後からは増援の猟兵が駆けてくる。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

上泉・祢々
アドリブ歓迎

さて、相手は12本
とすれば多少の覚悟はあって然るべき
さぁ行きましょうか、あの全ての剣を超えて

厄介は飛ぶ10本を見切るために最初は回避に専念
呼吸を盗み間を把握
チャンスは一度の博打の奇襲を行うための下準備

避けて躱して回避して好機を待ちます

今!
相手へ迫れるタイミングを見計らい駆ける
空を舞う刀の動きは見切りました
剣戟 の間に身体を滑り込ませ間合いへ踏み込む

振るわれる刀を左手で受け
カウンターで滴る血を相手の顔面へ叩きつけ視界を奪う

そして出来た刹那の隙に刺し違える覚悟を持って鎧を穿つ全力の貫手を腹部へ突き刺します

その剣を超える為私は持てる総てを賭けましょう
超えさせていただきますよ! 十二刀!


遠呂智・景明
アドリブ・連携歓迎

上杉謙信、覚悟。
12本の刀、その全てを受けようたぁ思っちゃいねぇ。
●見切りで敵の動きをみつつ、二本の刀で●武器受け、●カウンターの機会を狙う。

多少の傷は織り込み済み。●激痛耐性はある、手を止めるな。
敵の動きに隙が見えりゃあ、●2回攻撃で確実に一撃を刻む。
確実に、敵の武器を、体力を、削る!
邪魔な刀は弾き飛ばせ。手を狙え、足を狙え。その首を狙え。

ああ、多分俺の方が先に限界を迎えるだろうさ。こんだけ無茶苦茶に攻めてんだ。
だけどよ。

​────まだだっ!
まだ、俺は折れちゃいねぇ。
さあ、行くぞ俺。ここからが本当の正念場。やることは何ら変わらねぇ。
●殺気を滾らせろ。
その首、寄越せぇ!


グラディス・ドラモンド
アドリブ歓迎

うーっし行くかねぇ!負傷を覚悟だァ?んなのどんな戦場でも有り得るこった、ここだけじゃねぇな!
我が影の軍勢……13の部隊を呼び出し、纏う十二本の刀への対処、一部隊に一本足止めするだけでも良い、全力をもって落としにかかれ!!
残る一部隊は俺様と同道し謙信本体へ当たるぞ!!
高速移動には多人数による牽制を以て動作の制限、他が間に合わず放射されたなら咆哮による迎撃で落とすぞ!空いた部隊はそのまま謙信に当たれ!!
俺様は影の公爵、如何なる場所にも影は出来る、暗闇を渡った深淵からの奇襲……その首元、噛みちぎってやらぁ!!

───さぁテメェら!!相手は軍神、負けてらんねぇぞぉ!進軍だぁぁぁぁ!!!!



●死合い
「黒刀が破砕された! 後は獲るだけだ」
 戦況は猟兵に傾きつつあった。

「うーっし行くかねぇ! 負傷を覚悟だァ? んなのどんな戦場でも有り得るこった、ここだけじゃねぇな!」
 グラディス・ドラモンド(30の軍団を統べる■■の公爵(自称)・f16416)が漆黒の毛並みも艶やかに低く草地を駆けていく。
「我が同胞よ……その力を……光をも飲み込む影を示せ!! 進軍だぁっ!!!」
 三十の軍団を統べる偉大なる公爵は影の軍勢がうち九部隊に刀への抑えを命じて自身は四部隊を連れて謙信に向かう。
 視界に入りしは見知った猟兵の姿であった。


(さて、相手は12本。とすれば多少の覚悟はあって然るべき)
 上泉・祢々(百の華を舞い散らす乙女・f17603)が後ろで束ねた長い髪を勢いよく跳ねさせ、光刀が眩く眼を奪おうとする刹那にすれ違うようにすり抜け、駆け抜けた。背後で爆発が生じた如き鮮烈な光があがるのを無視して軽く身を捻れば顔目掛けた水の刃が頬の横を通り過ぎていく。一歩踏み出し、軽く前方へ跳ぶ。一拍遅れてつま先の下に樹刃が生えて空ぶりした。着地と同時に謙信が手に持つ二刀、右のディアブロと、破壊されしアンヘルの代わりとなった左の薬刀で体側に死の円弧を描いている。残りの刀は何処にあるのか――考える間もなく体が動く。
 謙信は水の流れるが如き歩武を見せる。白きディアブロの刀は力で揮われることなく手首をやわらかに返して円を描くように運動力を乗せた。遠心力による速さを乗せていた。間合いに踏み込むと共に左薬刀の切っ先が下へ、右のディアブロの切っ先が虚空を滑り空間を斬り落とすように向かってくる。
 祢々は呼吸を読んでいた。百華流は己の肉体を刀と見立てて振るわれる。雛菊、牡丹、山茶花。刀に刀をぶつけるが如く己が拳を、脚をぶつけていく。
(多少の傷は必要経費)
 全身に幾筋もの赤い血筋をこさえつつ、頬を滴る血を拭いもせず青い目は爛々と輝いた。

「上杉謙信、覚悟」
 聴き馴染んだ声が耳に届く。視線を遣る余裕はないが、共に戦う存在が知れた。
(先輩!)

 紅の首巻鮮やかに舞わせ、遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)が二振り刀を勇猛に奮うている。大蛇切 景明と黒鉄が十字に交わり峻烈なる毒刀をしかと受け止め、「破ッ」と裂帛と共に両刀が同時に敵刀を大きく弾く。かつての主の置き土産である黒鉄は陽光に頼もしき光を返し、視界を奪おうとする闇刀の闇を斬り裂いた。
「敵の手数は多いが、こちらも味方が揃ってきたようだな――」
 何より、先駆けの猟兵により敵には蓄積された負傷もあった。
「俺も」
 多少の傷は織り込み済みだ、と景明は口の端を吊り上げる。疾き風の刀が身を刻み、氷の刀が刀持つ手首を凍らせようとし。
(手を止めるな)
「ああああああっ!」
 景明は気迫の篭った雄叫びと共に氷漬く手首を力任せに炎刀に叩きつけた。解凍と同時の灼痛を耐えて笑ってみせ、動きは止まらず負傷を感じさせぬ二刀が柔らか且つ苛烈に敵刀を撃ち落とす。
(確実に、敵の武器を、体力を、削る!)
「邪魔だ!」
 闘気に満ち溢れし真紅の眼が敵を視る。

「───さぁテメェら!! 相手は軍神、負けてらんねぇぞぉ! 進軍だぁぁぁぁ!!!!」
 獰猛な声が響いたのはその時だ。
「刀は受け持とうじゃねぇか!」
 グラディスの影の軍勢が一部隊一刀を受け持つべく押し寄せ、2人の戦友を謙信との戦いに集中させてくれる。
「厄介な刀どもだ。しゃあねぇ、指揮を執る」
 グラディスは部隊指揮に乗り出した。

「影の一部隊は謙信の牽制にまわれ!」
 一部隊が謙信の足元に纏わりつき、動きを制限していく。
 視界の隅で戦友を狙い風の刀が恐るべき速度で宙を奔る。
「咆哮!」
 グラディスの号令により部隊が一声に咆哮を放つ。影の咆哮轟けば風唸り、刀が地に落とされた。
「水は不定形か。まあなんとかしろ!」
 水刀に苦戦する部隊へと大雑把に命令を出し、グラディスは樹刀に絡めとられた影達を救い出す。
「テメェら、影の癖に何縫い留められてんだ! 影ならすり抜けろ!」
 影達は気合を入れ直した様子で樹刀に立ち向かっていった。
「テメェらは影だ。燃えることはねぇ、水で呼吸を塞がれて苦しむこともねぇ、麻痺もきかねぇ、毒も効かねぇと思えば効かねぇ!」
 光には負けるな。氷は平気か? 平気だと思えば平気だな! グラディスは優秀な指揮官だ。影という曖昧な存在である部下達の在り様は彼の言葉により形作られ、確かなものとなる。
 ――それは、存在に働きかける力。

「進め! 壊せ! 噛みちぎれ! 俺の軍に弱兵はねぇ! お前らは勝てる!」
 ――『勝てる! 勝てる! 勝て!』
 声が場を支配していく。気迫は天秤を押した。猟兵の勝利へと。


 ――生を必するものは死し、死を必するものは生く。
「この手、この足こそが私の力!」
 その身ひとつ刀と化し、くるり独楽の如く右へ廻る祢々は馬尾の長髪靡かせてなんと鋼の如き脚撃を繰り出した。常は低く撃たれるこれを睡蓮と呼ぶ。挨拶代わりだと瞳が物語らば謙信が廻転に合わせて体を巡らせた。

「さぁ、まだまだ死合ましょうか」
「おお、毘沙門天よ。この謙信に天運なければ今すぐ私を滅ぼしたまえ」
 太陽が中天に耀く。炎天下、灼熱の戦場にこの日如何ほどの血が流れたことだろう――別動隊が未だしっかりと敵配下を抑え込んでくれている。誰がその任を成し遂げてくれているのかも、彼らは知らない。ただ、ひとつの想いを共に多くの者がこの日、この大空の下で心血を注いで死闘していた。

 ――手を狙え、足を狙え。その首を狙え!
 景明が右から、祢々が左から同時に迫る。謙信は前に歩を進める勢いを乗せて左右の刀を切り上げ同時の打ち込みを弾いた。弾かれるのを予想していたか、祢々がくるりと背で廻り再び駆ける。景明もまた挟むように前からの袈裟斬りを放った。謙信は右のディアブロを水平に掲げて予知したかのように景明の一刀を受ける。景明もまた其れを読んでいた。受け止められた刀を一瞬退いて即左へ斬り下ろす。バネのように膝を使い即座に重心を右から左に移しながらの俊敏かつ重い一刀。それを謙信はやはりディアブロでいなし下ろしつつ、左の薬刀を切り上げ、斜めに振り下ろす。景明は反射の速度で刀をあげて胸元に迫る薬刀の切っ先を払い、大きく脚を開いて体重を移し右に体を逃す。薬刀が降りるとき、ディアブロは昇るのだ。二刀の動きは読んでいた。完全に読み切っていた。空間を開けた左を敵刀が通過していく。その勢いの凄まじい事、掠めただけで鮮血が噴くほどだ。だが、今は完全に見切り避けることができていた。
「嗚呼、嗚呼、見事であるな」
「互いに」
 瞳が至近で合う。殺意籠め、敵意高め、戦意烈しく土煙の中を生死賭す紙一重の死武踏を共に――嗚呼、楽しからずや。
 体ごと回転させた謙信が視線の高さでディアブロを横にぐるりと斬り払う。ちょうど背後からは祢々が蹴りを放つところであった。空振った刀でそのまま蹴りを跳ねのけると、少女は負けん気の強さをうかがわせる瞳でいっそ無防備な突進を見せた。
(捨て鉢になったか、或いは己が身を捨てて仲間を活かすか?)
「よかろう!」
 或いは膠着に集中力を切らしたかと謙信が薬刀を振る。多勢に囲まれての戦い、謙信とて勝ちを未だ捨てていない。
「ふっ」
 祢々は刀を左手で受け止めた。如何なその肉体を刀の如く戦う流派と無傷とはいかぬ。握る指の間から滂沱と血が溢れて少女の眉間には深き皺が刻まれる。苦痛の息一つ――悲鳴はあげぬ。
「先輩ッ!!」
「ぬっ」
 カウンターとばかりに祢々は謙信の顔面に己が血を叩き付け、視界を刹那奪ってみせた。
「一太刀、まいりますっ!!」
 祢々は差し違える覚悟持ち鎧を穿つ全力の貫手を謙信の腹部へ突き刺した。
「その剣を超える為私は持てる総てを賭けましょう。超えさせていただきますよ! 十二刀!」
 鮮やかに目を惹く月下美人は奥義と呼ばれる。
「ぐ、ッ」
 呻き声は紛れもない敵のもの。手応えはあった。
「ふ、っ――」
 祢々ががくりと膝を折る。一撃と共に体が限界を迎えていた。
「ま、まだ、まだです」
 血が滴る地に両手を付き、奥歯を噛みしめて顔は前を視る。決して最後まで意識を失うことはない、まだ戦いは終わっていない、と。
「まだ戦えます。まだ、立てますからね、本当です。これからです、ですから、」
 腕はガクガクと震えていた。だが、声には矜持があった。
「嬢ちゃん!」
 刀落としの指揮を終えたグラディスが駆けつけ、少女の前へと躍り出た。黒き全身がぶわりと毛を逆立たせ、戦友を守るべく立ち塞がる。
「俺様は影の公爵、如何なる場所にも影は出来る、暗闇を渡った深淵からの奇襲……俺様の仲間を獲ろうというなら覚悟しろ。その首元、噛みちぎってやらぁ!!」
 影の軍勢が謙信の足元で動きを牽制している。寄らば一斉に躍りかかる。金の眸は背後を守らんと敵を激しく威圧した。

「上杉謙信――続きをしようじゃねぇか!」
 景明が殺気を漲らせ弾丸のように謙信に猛進した。体力は既に尽き欠けている。それが、他の味方とて同じだろう。
「動くこと雷霆の如く――風林火陰山雷 風の如く、侵掠すること火の如く、越後の虎、越後の龍、」
 全身を刃の如くぶつける男に謙信が不明瞭な視界の中で声を返す。
「我が敵――あな懐かしや好敵手に似た武者よ、おお、おぉ。其処にいるか。其処にいたか!!」
「謙信! 小細工はいらねぇ」
 刀と刀が衝突する。高き音が戦場に鳴り響く。誇り高き音――蒼穹に響きて草揺らす風すらも息を呑む。
「おう、おうよ。おうともよ」
 謙信が笑っていた。
「敵、我が敵よ、負けぬか」
「負けねぇさ!」
「それでこそ、私も負けぬと言えるものよ――はは!」

 手を狙い、足を狙い、首を狙う。
「負けぬ!」
「ああ、負けねぇ!」
 鏡の様に刀が返ってくる。不思議と合わせ舞踏を舞うようだった。打ち合わせなき命がけの舞踏。一瞬遅れればそれで終いだ。汗がしたたり落ちる。暑い。季節は、夏であった。
 遠くで虫が鳴いている。
 日輪輝きて草はギラギラとしていた。
(ああ、多分俺の方が先に限界を迎えるだろうさ。こんだけ無茶苦茶に攻めてんだ。だけどよ)
「譲らぬぞ、勝ちは譲ってやらぬ」
 嗚呼、声は童のようではないか。
 汗が眼に入る。
「目は、視えるようになったか」
 景明は囁いた。
 謙信は頷いたようだった。ほんの数秒。僅かな舞踏。膝が嗤う。肉体はとうに限界を迎えていた。相手も、そうだろう。
「​────まだだっ!」

(まだ、俺は折れちゃいねぇ。さあ、行くぞ俺。ここからが本当の正念場。やることは何ら変わらねぇ)
 運は刀、鎧は刀、手柄も刀。全て刀だ。それでいい――それがいいさ。殺気が滾る。

「嗚呼、心地よい! それでこそ――これでこそ!」
 謙信が楽しそうに刀を振るう。
「国も富も知るものか、名誉など要らぬ。一戦。一戦こそが我が大事よ。お前との一戦こそが我が楽しみよ!!」
 空の眸が熱を込めて吠える。謙信が全力を注ぎし流水の如き刀技が景明を捉えんとした刹那。

「その首、寄越せぇ!」
 殺気が『伸びる』。

 ――風林火陰山雷番外 山・陰。

 景明と重なるようにしたもう一人の景明が謙信の刀に身を差しだすようにしながら主の刀にて謙信の首を断ち切り、刺し違えていた。
「み、」
 ――ごと。

 切断される間際、空気を震わせたのはそのような音であった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月17日


挿絵イラスト