エンパイアウォー⑰~冷酷なる水晶
●水晶の陰陽師
「エンパイアの戦も、佳境の趣でありましょうか」
その男は気怠げに呟く。戦況そのものにはあまり興味はないのだろうか。まるで他人事のようだ。
それもそのはず。彼の――陰陽師『安倍晴明』の狙いは、ただ「持ち帰る」事のみ。あとは全て戯れだ。
手始めに山陰を水晶屍人で埋めてみることにした。材料は簡単に集まる。屍人の大量生産など、彼のとっては造作も無いことだ。今この瞬間も、多くの農民達が飢え死にして屍人と化している。
他にも色々と考えはしたが、どれも特に興味が湧く訳ではない。だが、それらを全て行ったとして――。
「猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……」
薄く笑う安倍晴明。そんな彼の心を映し出すかのように、体から生えている水晶が妖しく輝いた。
●鳥取城へ
「皆さん。急いで鳥取城に向かっていただけませんか」
岡森・椛(秋望・f08841)は猟兵達に声をかける。とても真剣な表情だ。
戦国時代に鳥取城で餓死した人々の怨念が渦巻く、鳥取城。陰陽師『安倍晴明』がそこにいるのだと椛は説明する。
かつて餓え殺しが行われた場所で、安倍晴明はその怨霊を利用して水晶屍人は造り出している。そして今もなお、多くの農民を鳥取城に集め閉じ込め飢え死にさせ、水晶屍人を大量生産しようとしているのだ。
「とても凄惨なやり方で、水晶屍人を造り続けている安倍晴明を、許せません……」
椛は声を震わせる。怒りと悲しみが入り混じる声だった。
「安倍晴明は強敵です。必ず彼の先制攻撃を受けることになると思います」
その攻撃をどうやって防御するか、回避するか。何か対抗策を用意して欲しいと椛は言う。対策を怠れば敗北は必須だ。だが、たとえ対策を考えて挑んだとしても、安倍晴明の一撃はとても重く、必ずしも勝てるという保証はない。
「でも、皆さんならきっと安倍晴明を倒してくださると信じてます。頑張ってください!」
拳を握り、ぐっと力を込める椛。そして、お願いしますと頭を下げた。
露草
露草です。
安倍晴明との戦いになります。
●重要その1
陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
●重要その2
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●補足
純戦ですが、よろしければ心情なども書いていただけると、アドリブを加えながら描写致します。アドリブが苦手な方はお手数ですが一言記載をお願いします。
OP公開直後からプレイングを受け付けます。
早めの完結を目指す予定です。よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:草彦
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
氷川・権兵衛
(共同、アドリブ歓迎)
なるほど、同じ能力値のUCで先制してくるのか。ならば、一番対処がしやすいのはSPDのUC!強化体に変異する前に、私の咆哮で吹き飛ばしてしまおう。
行動:
敵は水晶屍人を召喚する先制攻撃をしてくるはずだ。【第六感】や【野生の勘】で奴らの攻撃を回避して、ここぞというタイミングでUC『人狼咆哮』の【範囲攻撃】を行う。召喚者諸共攻撃できるはずだ。
もし他の猟兵と共同で動くのなら、【挑発】で敵の注意を引きつけよう。そして味方を巻き込まない立ち位置でUCを使用する。良い立ち位置に無傷で迎えないのなら、【激痛耐性】で無理やり良いポジションに移動しよう。
「皆!耳を塞げ!アオーーンッ!!」
文月・統哉
先手取られるのは承知の上だ
屍人が召喚されたら
こちらも箱型のガジェット召喚
内部から黒猫型のナノマシンを大量放出し
屍人の体内に侵入感染させてその行動の主導権を奪う
更に未感染の個体と合体し吸収する事でその威力勢力を拡大させる
目には目を歯には歯を、感染型ゾンビには感染型ガジェットを…ってね
全て取り込んだら眠らせるように屍人の活動を停止させる
死して尚死体まで操られるなんてきっと嫌だろうと思うから
その間に俺は清明を攻撃しに行くぜ
【オーラ防御】で備え
【視力】【第六感】も活用し【情報収集】
清明の行動を【見切り】
攻撃は【武器受け】でチェーンソーにワイヤー絡ませ凌ぎ
【カウンター】に大鎌で斬る
猟兵の底力舐めんなよ!
紅庭・一茶
紅庭が幾ら怒りを向けども、
貴方には何一つ響かないでしょう
――然して、それで良いのです
其の白けた面に喜色浮かべる事無く、
貴方は朽ちるべきなのですからッ!
紅庭は其程強くは有りません
身を熱くし過ぎず、唯々
一撃を叩き込む事だけに専念を
札放つ前触れを《見切り》、
《高速詠唱》で迅速に武器を複製
眼前にと展開し堅く壁を作り、
札を武器で防ぐ様に試みて
叶わぬ物は《オーラ防御》で凌ぎ、
好機まで耐え抜きましょう
そう、防ぎ凌いだ後こそ好機
次が来る前に仕掛けます
壁にせずに背後へと浮かした武器に、
《全力魔法》を込めて《一斉発射》
確実に、確実に、叩き込む
貴方の所為で、
人の子は酷く苦しんだのです
紅庭は――僕は御前を赦さない!
●
鳥取城は澱んだ空気に満ちていた。漂ってくるのは血の臭いだろうか。いや、もっと色々なモノが入り混じった、気分が悪くなる嫌な臭いだ。
城内に足を踏み入れた紅庭・一茶(いばらゆめ・f01456)は眉をひそめる。ここはまるで怨念が渦巻いているかのような場所だと思った。怨念だけではない。今も飢えて苦しんでいる人々がこの城の中にいるのだ。
湧き上がる怒りの感情を抑えつつ、一茶は目的の男が待つ天守閣の大広間へと向かう。共に歩く氷川・権兵衛(狼頭の生物学者・f20923)と、文月・統哉(着ぐるみ探偵見習い・f08510)もまた、同じように憤っていた。纏わりつく瘴気を振り払うように3人は城内を進む。
権兵衛はグリモアベースで聞いた情報を元に、今回の戦い方について考えを巡らせていた。
(なるほど、同じ能力値のUCで先制してくるのか。ならば、一番対処がしやすいのは……)
最適であろう作戦は用意してある。あとはそれを実行し、敵を倒すのみだ。
妙に豪華絢爛な扉が見えてきた。統哉は赤い瞳でその扉を見つめ、きっとこの向こう側にいるに違いないと確信する。
重い扉を押し開けると、やはりその男はいた。
陰陽師『安倍晴明』――倒すべき相手だ。
大広間の中央に座していた晴明は、気怠げに3人へと視線を向ける。
「これはこれは、お揃いでございますか。お待ちしておりました」
全く心が籠もっていないとはっきり分かる歓迎の言葉を述べる晴明。大広間は不自然に広い。恐らくここは晴明が創り上げた異空間と繋がっているのだろう。
「随分と広い部屋だな。邪魔するぞ」
「来てやったぜ!覚悟しろよ晴明!」
権兵衛と統哉は不敵に挨拶を交わし、一茶は晴明の顔をじっと見つめる。この冷めた瞳の優男が何の罪もない人々を戯れに傷つけているのか。
「紅庭が幾ら怒りを向けども、貴方には何一つ響かないでしょう」
――然して、それで良いのです。一茶は凛然とした表情で晴明に告げる。
「其の白けた面に喜色浮かべる事無く、貴方は朽ちるべきなのですからッ!」
晴明は全く表情を変えない。
「猟兵のあなた方がどれほど私の心を動かしてくださるのか、気にはなっておりました。それでは参りましょう」
晴明は両手にチェーンソー剣を握り立ち上がった。その動きは想像以上に疾い。
瞬く間に水晶屍人が大量に召喚される。数え切れないほどの、両肩の水晶に1と刻印された戦闘用の屍人が大広間を埋めていく。3人は屍人の群れに完全に包囲されてしまった。彼らは鎌や鍬を振り上げて猟兵達に襲いかかってくる。
先手を取られるのは承知の上だ。統哉は晴明が屍人を召喚した後に、同じように箱型のガジェットを召喚した。
箱の内部から黒猫型のナノマシンが大量放出される。それを屍人の体内に侵入感染させて、その行動の主導権を奪う作戦だ。統哉の指示の通りにナノマシンは屍人に向かい飛んでいく。
「目には目を歯には歯を、感染型ゾンビには感染型ガジェットを……ってね」
だが思っていたような効果は発揮されない。何故と、統哉は屍人の群れを見やる。
「ここは私の支配圏にございます。私の所有物を我が物として扱うことは叶いませぬ」
統哉の疑問を察知した晴明は淡々と告げる。ナノマシンの感染力よりも晴明の支配力が優っているのだ。
下唇を噛む統哉に屍人が鎌で斬りかかる。間一髪でオーラ防御の展開が間に合った。屍人の鎌はオーラにより弾かれ、統哉はバックステップで間合いを取る。それならそれで対策はある。統哉は気持ちを切り替えた。
一茶は屍人が動き出す前触れをしっかりと確認し、その動きを見切った。振り下ろされた鍬を無駄のない動きで巧みに回避し、高速詠唱でシュガースティックを複製する。このシュガースティックは、砂糖と金属と、それと何か、たくさんの素敵なもので作り上げられた一茶の大切な武器だ。
「お砂糖はひとつ、ふたつ、みっつと――たっくさん!」
35本のシュガースティックを眼前に展開し、堅い壁を作った。次々に繰り出される屍人の攻撃はその壁によって防がれる。壁では耐え切れない痛烈な一撃はオーラ防御で凌いだ。
(紅庭は其程強くは有りません――)
だからこそ、身を熱くし過ぎず、唯々一撃を叩き込むことだけに専念しようと、一茶は好機まで耐え抜く構えだ。
権兵衛もまた、第六感や野生の勘を駆使して屍人の攻撃を回避していた。何せ屍人の数が多い。次から次へと権兵衛に向けて鍬や鎌が振り下ろされる。時にはステップを踏むように左右に素早く身をかわし、時には上体を反らして攻撃を空振りさせる。防炎加工を施してある煤汚れた白衣を翻しながら冷静に攻撃の機会を伺う。
少し離れた場所で屍人が合体しているのが見えた。
強化体に変異する前に、私の咆哮で吹き飛ばしてしまおう。権兵衛は最初からそう決めていた。そろそろ頃合いか。
その為にもと、統哉と一茶に目配せする。ふたりは権兵衛の意図を読み取って頷く。
「さあもっと私の相手をしてくれ!」
権兵衛は敢えて屍人の群れの中央へと突っ込んでいく。挑発行為を行うまでもなく、屍人は権兵衛に群がってきた。
味方を巻き込まない位置でユーベルコードを使用することが目的だが、この状況では良い立ち位置まで無傷で移動することは不可能だろう。激痛耐性を発動させ、最適な位置を目指して無理やり屍人の群れの中を移動する。
屍人の攻撃を回避することも困難で、鎌や鍬を振り下ろされ続ける続ける権兵衛は酷い有様だ。傷を負いながらもなんとかユーベルコードの使用に適していると思われる位置へと辿り着けた。ここなら晴明にも確実に攻撃が届く。残念ながら味方も巻き込んでしまうが、それならばと権兵衛は大声で叫ぶ。
「皆! 耳を塞げ! アオーーンッ!!!!!」
権兵衛は激しい咆哮を放った。自身の周囲にいる全員を高威力で無差別攻撃する人狼咆哮だ。範囲攻撃の効果も上乗せされて威力がさらに高められている。
ビリビリと鼓膜を震わせ脳を揺さぶるようなその激しすぎる咆哮に、屍人達が呻き苦しむ。耐え切れずにごろりと床に倒れこむ屍人も少なくない。権兵衛が晴明を見やれば、その顔は苛立ちが露わになっている。よし、と権兵衛は悦に入った。狙い通りだ。
統哉と一茶は言われた通りに耳を塞ぎ、その咆哮の影響を最小限にとどめた。
今が好機だ。文字通り権兵衛が捨て身で作ってくれたこの機を逃すまい。来る前に仕掛けますと、一茶が動く。
今まで壁となり自分を守ってくれたシュガースティックを背後へとふわりと浮かし、全力魔法を込めて一斉発射した。決して狙いを外さないように、確実に、確実に、叩き込む。
「甘い甘いお砂糖を召し上がれ!」
35本のシュガースティックが光り輝きながら屍人の群れへと向かう。それはまるでお伽話のような光景だった。眩い輝きは流星のように屍人を貫く。2体3体と、一気に複数の屍人を突き抜けていくシュガースティックもある。
あたかも紅茶の中でほろほろと崩れて溶けていく角砂糖のように、次々と跡形もなく消えていく屍人達。彼らが放つ腐臭の中に、甘い香りが広がった。
連続で叩き込まれた広範囲に対する攻撃で、屍人の数は半減している。
道は開けた。いつまでも耐え続けるつもりはない。統哉は晴明に向かって躍り出た。
オーラ防御は展開済みだ。今までも数多の屍人による攻撃から統哉を守ってくれた。持ち前の視力で状況を冷静に確認し様々な情報を集め、第六感も駆使する。
詰め寄ってきた統哉に、晴明は表情を変えずにチェーンソー剣を振り下ろす。統哉は目を逸らさず、その動きを見切る。
「思うようにはさせないぜ!」
統哉は先端に猫の爪型フックのついたクロネコワイヤーでその武器を受け止めた。ガチリと大きな音がする。凄まじい衝撃に転倒しそうになったが、統哉はぐっと足に力を入れて耐える。何があろうとこの両足で立ち続けてやる。
統哉の気迫に押されたのか、一瞬、晴明が怯んだ気がした。すかさず頑丈かつ軽量なワイヤーをその刃にくるくると絡ませて、チェーンソー剣の自由を奪う。晴明は忌々しそうに統哉を見つめた。
今がチャンスだ。統哉は宵という名の黒い柄に漆黒の刃が付いた大鎌を握り締め、晴明に向けて振り下ろした。その漆黒の刃は淡く輝き、美しい軌跡を残す。
「猟兵の底力舐めんなよ!」
「く……っ!」
熾烈な一撃に呻く晴明。ぽたりと床に血が落ちた。
畳み掛けねばならない。権兵衛は屍人を蹴散らして晴明の元へ突進した。鋭い眼光で晴明を睨みつけながら、大きな人狼の左腕を振りかざす。かつて己の身体に限界を感じた彼は、自ら人間の腕を切り落としたのだ。その恐ろしい獣腕で晴明を力任せに殴りつけた。
ドゴッと重く鈍い音が大広間に響いた。晴明はよろめき、膝をつく。
続こう。総攻撃だ。一茶は晴明を見据えると、怒りと悲しみと決意が混じり合った声で叫ぶ。
「貴方の所為で、人の子は酷く苦しんだのです。紅庭は――僕は御前を赦さない!」
祈りのような想いを込め、一茶はもう一度35本のシュガースティックを召喚する。大切な武器に素早く力を込めて、屍人に、そして晴明に向けて一斉に発射した。その衝撃で一茶の長い髪とティーポットの蓋のような可愛い帽子のリボンが揺れる。
残っていた屍人の多くが甘い輝きに貫かれて消え去り、晴明の背で妖しく煌めく水晶がぱりんと音を立てて砕け散った。
明らかに風向きが変わった。このまま追い打ちをかければ――。
だが、ぶちりと統哉のワイヤーが切れた音がした。晴明が断ち切ったのだ。
「私は猟兵を甘く見ていたようでございます。……ですが、まだ足りませぬ」
晴明は薄く笑い、体勢を立て直した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
加賀宮・識
もう静かに眠らせてあげたい場所でなんてことをしているんだ
ギリギリ相手の間合いに入らない所まで近づく
第六感、野性の勘でできるだけ攻撃を避け、それでも避けきれない時は急所を庇い最小限に傷を押さえるようにする
初撃をしのぎ敵の隙を見つけ、月銀鎖で一瞬でも足を止めさせ暗月鎖で2回攻撃、鎧砕き
相手が強敵で一太刀が遠くとも
諦めはしない
死者を冒涜する輩を
許しはしない
(アレンジ、共闘大歓迎です)
ヘンペル・トリックボックス
……因縁?怨恨?勿論あるとも。ここではない場所、既に滅びた世界で、私は一度、お前と相対しているのだから。
だが……なんだその精彩を欠いた顔は。大陰陽師の名が泣くぞ、晴明。繰り返し続けるその生に飽いたなら、ここで果てろ──それが宿命だ、外道。
五芒符は直撃のダメージもさることながら、地形効果による超強化が厄介。なれば──五芒符の射出タイミングと軌道を【見切り】、【高速詠唱】による【早業】で命中率の高いこのUCを発動。音の440倍の速度を誇る雷を以て、五芒符が効果を発揮する前にその全て、悉く撃ち落としましょう。
隙を見計らい晴明本人にもUC発動、【破魔】【属性攻撃】の【全力魔法】を叩き込みます……!
●
鳥取城の天守閣は、もうすぐそこだ。
「もう静かに眠らせてあげたい場所でなんてことをしているんだ……」
闇の呪詛が籠められた外套を身に纏う加賀宮・識(焔術師・f10999)は怒りを感じながら先を急いだ。晴明の話を聞き、識はどうしても許せなかった。今も多くの人が苦しんでいる。死んでしまってからも無理矢理生かされて続けている。早く止めなければ――。
既に扉が開かれていた大広間に駆け込むと、そこに安倍晴明は立っていた。腕から血を流し、背中の水晶も一部が欠けている。だが、この程度の傷は大して気にもしていないようだ。晴明は気だるげな顔を識へと向けた。
「おや、新たなる客人でございますか。歓迎致しましょう」
「……何を言ってるんだ。からかってるのか」
その慇懃な態度に識は顔をしかめ、身構える。
そこにもう一人、紳士が駆け込んできた。ワインレッドの上品な紳士服を着用し、内部に様々な機構を搭載されたシルクハットを被った男。ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)だ。
ヘンペルは晴明の姿を見た途端、おおと目を輝かせた。
会いたかったぞ晴明と、まるでずっと離れ離れだった旧友にようやく再会したかのような感激ぶりだ。言葉遣いも敬語が少々抜け落ち、普段と異なっている。
「……人違いではございませんか? 私は其方のことを何も存じませぬ」
ヘンペルの様子とは対照的に、晴明は冷ややかにそう告げる。
ははは、とヘンペルは笑う。つれない奴だ。……因縁? 怨恨? 勿論あるとも。
「ここではない場所、既に滅びた世界で、私は一度、お前と相対しているのだから」
出身不明、経歴不詳。全時空紳士協会構成員を嘯く、長き時を生きるミレナリィドールの陰陽師であるヘンペル。彼はかつて何処かの世界で晴明に出会ったことがあるのだろう。晴明は何も知らなくとも、ヘンペルの思い出の中に晴明は確かに居るのだ。それが本当の記憶か、はたまた創り出されたものか、それとも別の誰かの記憶なのか。それは全く分からない。
「だが……なんだその精彩を欠いた顔は。大陰陽師の名が泣くぞ、晴明」
旧友を心配するかの如く、嘆くヘンペル。
晴明は何も反応しない。識はヘンペルと晴明にただならぬ因縁を感じ、息を呑んで見守っていた。
突如、ヘンペルの表情が鬼気迫るものに変わった。その目に冷たい光が宿る。
「繰り返し続けるその生に飽いたなら、ここで果てろ──それが宿命だ、外道」
「然様でございますか。ですが、果てるのは猟兵のあなた方でありましょう」
無感動にヘンペルと識を見る晴明。そして何の前触れもないままに、恐るべき疾さでふたりに五芒符を放った。
識は相手の間合いに入らないであろう場所を野性の勘で探り当て、そこに立っていた。だが晴明の放つ符は間合いなどあってないようなものだ。真っ直ぐに識に向かって飛んでくる。
しかし第六感でそのことも感じ取っていた識は回避を試みる。猛烈な勢いで飛んでくる五芒符は識の左肩を掠めそうになったが、すんでのことで何とか避けられた。
五芒符は直撃のダメージもさることながら、地形効果による超強化が厄介だとヘンペルは危惧していた。なれば──と、放たれた五芒符の軌道を一瞬で見切った。体を捻り、僅かな動きで符を回避する。
ヘンペルは晴明の表情を、その動きを、その全てを、誰よりもよく見つめていたのだ。だからこそ一瞬での見切りが可能だった。
間髪入れずに高速詠唱による早業で帝釈天招雷符を発動させる。音の440倍の速度を誇る雷を以て、五芒符が効果を発揮する前にその全てを悉く撃ち落とした。一瞬にして大広間に焼け焦げた臭いが充満する。
識が回避した符も勿論撃ち落とされている。識はヘンペルに礼を言った。いえいえ、どういたしましてと、和やかな笑顔で紳士的に応えるヘンペル。
命中しても回避されても己に有利な五芒業蝕符。だが目論見を潰され、晴明の顔が僅かに歪む。
「……その稲妻は予想外の疾さでございました。認めねばなりませぬ」
晴明の言葉にヘンペルは微笑む。
「お褒めにあずかり光栄だ、晴明」
晴明の意識がヘンペルに向いている。この隙を逃すものか。相手が強敵で一太刀が遠くとも、諦めはしない。
「捕らえる……月銀鎖」
識は全身から月光を鎖型に編んだかのようなオーラを放つ。その輝く鎖型のオーラは晴明を雁字搦めにした。晴明は抜け出そうともがくが、鎖が体に食い込み動けない。月光の輝きは晴明を縛り付けた。夜空に輝く月を愛する識に、月はいつでも力を貸してくれる。
すかさず識は暗月鎖を振り上げた。師匠から受け継いだ、闇夜の如く漆黒の刀身に蒼い紋章が刻まれた鉄塊剣だ。この鉄塊剣の柄を握り締めると師匠と共に戦っているような気持ちになり、力が湧き上がっていく。
「死者を冒涜する輩を、許しはしない」
識はその漆黒の刀身に鎧砕きの効果を纏わせ晴明へと振り下ろす。そして、その細い腕のどこにそんな力があるのだと思わせるほどに素早く、もう一度打ち付ける。怒りと悲しみの感情も、識の力をさらに高めてくれた。
「ぐはっ……!」
強烈な二撃に晴明が呻いた。水晶がバキバキと音を立てて砕けていく。晴明は苛立った表情で己を縛る月銀鎖を力任せに振り解いた。その解放感はほんの僅かな隙を生む。その時だ。
「遍く帝釈天に帰命し支え奉る! 其の権威を以て悪しきを尽く焼き滅ぼしたまへ!」
ヘンペルの声が大広間に響くと同時に雷が晴明を撃ち、爆発を起こした。魔性に対して絶大な威力を持つこの雷は、あらゆる魔を焼き滅ぼすインドラの槍。ヘンペルの卓越した破魔の力も込められ、威力を上乗せして全力で繰り出されたその雷の威力は凄まじかった。
「思わぬ再会は嬉しかったぞ。憎い相手ほど会いたいと願うのは想いが強すぎるせいか。だがここでお別れだ――晴明!」
ヘンペルは普段の温和な表情とは全く異なる形相で叫ぶ。その表情だけで彼の言う因縁や怨恨がどのようなものなのか、察せられた。
焦げ臭い大広間の中央で、晴明は膝を折って沈黙していた。だが、ゆらりと立ち上がり、煤けども美しい顔に嘲笑を浮かべる。
「その雷に二度もやられるとは、少々驚きでございます。実にお見事」
しかしまだこの体は戦えるようでございますと、晴明はヘンペルと識を冷めた瞳で見つめた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
黒門・玄冬
【教会】
…茘繼さんは所定の位置に、頼みましたね
茘繼さんと同時に攻撃を仕掛ける
僕のUCはプログラムド・ジェノサイド
茘繼さんを突き飛ばし
襲う双神殺の射程からずらし
清明へのカウンター攻撃に繋げ動きを
予めプログラミングする
動きを可能にする為に
怪力、ジャンプ、ダッシュ、吹き飛ばしの技能でフィジカル強化
戦闘知識、見切り、だまし討ち、挑発で、
どの角度へずらすか、最も攻撃の当り易い胴を狙えるか
の思考と判断を強化しておく
負傷はオーラ防御のみでは防ぎ切れないと覚悟している
耐性を使って一秒でも長く、拳が揮えればいい
僕の義妹が、君にして貰ったことへの返礼だ
果したところで哀しみは消えはしないが
一矢の報いが弔いになる事を
嘉三津・茘繼
【教会】
はいはーい!
知り合いのにゃんにゃんのリベンジ
おじさんも頑張りまーす
玄冬君と同時に攻撃を仕掛ける
僕のUCは【暴飲暴食】
玄冬君に突き飛ばしで清明の攻撃から無理矢理ずらして貰ってから
水晶屍人相手に乱闘するのが任務だ
なぎ払い、串刺し、投擲、傷口をえぐる、
スライディング、敵を盾にする
やれることは何でもやり尽して喰い散らかすよ
僕は臆病だからね
生まれつき痛いのが嫌いだし
ナノマシンアーマーやきゅーてぃくるで
武器受けと盾受けにも余念がないよ
呪詛耐性と激痛耐性も持ってるしね…水晶屍人って感染するんでしょ
怖ーい
理性も無くなって悍ましいタールの怪獣になるのだし
水晶屍人が無くなったら清明を襲うと思うんだ
もてばね
大広間に足を踏み入れた黒門・玄冬(冬鴉・f03332)は、充満する焼け焦げた臭いに驚いたが、部屋の中央にいる煤けた様子の晴明を見て大凡の状況は理解した。猟兵達が死闘を繰り広げているのだ。
「あれれー? なにか焦げてるなー?」
続いて黒いタールの体をくねらせながら嘉三津・茘繼(悪食・f14236)が部屋へと入ってくる。鼻をヒクヒクさせながら大広間をキョロキョロと見回している。
「ハロー、ハロー。広いところだねー!」
晴明はふたりに視線を向けた。
「来客が途絶えませぬ。ようこそ我が城へ」
「どうも。……義妹の仇を取ろうと思ってね」
「はいはーい! 知り合いのにゃんにゃんのリベンジ、おじさんも頑張りまーす」
玄冬と茘繼の言葉に、晴明は怪訝な顔をする。
「君はさあ、こういうこと日常茶飯事みたいだけどさー。知り合いのにゃんにゃん、君のせいで落ち込んでんの! にゃんにゃんは気丈で普段は無理してでもニコニコ笑ってるけどさぁー。でも夜寝る時に思い出して我慢できなくなって、三―三―言って枕濡らして泣いてたら可哀想でしょ!」
茘繼は捲し立てるように言った。ふっと嘲笑する晴明。
「人の心とは、結びつきにより頑丈となるものと……そのように存じておりまする。それを実感いたしました」
「そうだよー! でもなんかその言い方ムカつくなぁー!」
「茘繼さん、気持ちは分かりますが今はその辺で……」
怒りのせいか元からの性格なのか、妙にヒートアップしている茘繼を玄冬が宥めようとする。はーいと、肩をすくめる茘繼。
「……茘繼さんは所定の位置に、頼みましたね」
玄冬の囁きに、うんうんと何度も頷く茘繼。
さあ、これでいつ先制攻撃が来ても……と思った矢先に大量の水晶屍人が召喚され始めた。瞬く間に大広間が屍人の群れで埋め尽くされていく。その隙間から、晴明がチェーンソー剣を構えるのが見えた。茘繼に向かって双神殺を放とうとしている。
その瞬間、玄冬は晴明でも屍人でもなく、隣にいる茘繼を突き飛ばした。思いも寄らぬ行動に晴明は驚く。仇を取りに来たと言っていたが、いきなり仲間割れだろうか。
だが違う。玄冬は清明へのカウンター攻撃に繋ぐ為の動きを予めプログラミングしたプログラムド・ジェノサイドを使用していた。その動きに従ってまずは茘繼を突き飛ばし、彼を双神殺の射程からずらしたのだ。
脳にプログラムしたその動きを可能にする為に、怪力やジャンプ、ダッシュ、吹き飛ばしの技能で己の肉体の性能を大幅に強化してある。
更に戦闘知識と見切り、だまし討ちや挑発で、どの角度へずらすか、最も攻撃の当り易い胴を狙えるかの思考と判断も強化していた。
万全の準備で挑んだ作戦は上手くいった。茘繼は狙い通りに双神殺の範囲外へと突き飛ばされ、その最中に茘繼は餓えた黒きモノへと変化した。突き飛ばされながら暴飲暴食を発動させたのだ。
「……はぁ、お腹空いた。食べていい?」
超攻撃力と超耐久力を得た飢えた黒きモノはとどまる所を知らない。屍人の群れの中へと突っ込み、暴れ回る。
屍人をなぎ払い、鋭い腕で串刺しにし、軽々と投げ飛ばし、傷口をぐちゃりと抉っていく。
時にはスライディングで屍人の攻撃を避けながら蹴り飛ばし、屍人を盾にして同士討ちさせる。やれることは何でもやり尽して屍人を喰い散らかした。茘繼はお腹が空き過ぎて殺気立つほどにイライラしている。だから見境なく全部食べ尽くすのだ。
とはいえ、茘繼は臆病な男を自称している。しかも生まれつき痛いのが嫌いだから、痛くないようにと準備には余念がなかった。
身につけている生命の危機に反応して皮膚を硬化してくれる飲用型のナノマシンや、水銀のようなものが混じっている銀髪に見える身体の一部を自由に動かし、武器や盾を難なく受け止めた。呪詛耐性と激痛耐性も発動させ、怖いものなどない。けれど。
――水晶屍人って感染するんでしょ。怖ーい。
やはり怖がっていた。
しかし恐怖より飢えが勝る。ガラスケースの中で飢え、逃げ出した洞穴の中でも飢え、今も飢え続けている。兎に角足りないのだ。もう茘繼にはこれが空腹なのか何のか、全く分からなくなっていた。だからこそ、ただ欲するままに喰らいまくるだけだ。
茘繼のサポートに徹した玄冬は、すぐに数え切れぬ程の屍人に群がられてしまった。鎌や鍬が容赦なく玄冬に振り下ろされ、素早く展開したオーラ防御でも全ての攻撃は防ぎきれない。鍛え上げられた肉体に瞬く間に傷が増え、ぽたぽたと床に血が落ちる。
――これだけ傷ができると、義妹を心配させてしまうな。
この状況でこんなことを考えている自分に苦笑してしまう。玄冬は磨きぬかれた黒檀の大連珠を強く握りしめ、その拳で応戦する。それは罪に価する鎖の如く肌に馴染み、玄冬の拳の力は大幅に高められた。
屍人を殴り倒しながら、数々の耐性も併用して耐え続ける。一秒でも長く、拳が揮えればいい。そしてこの拳で晴明を殴る機会を探る。鳩血色の紅玉石を瞳に誂えた銀細工の蠍のループタイが体の動きに合わせて揺れた。
彼は蠍座だ。そのこともあり、かつてUDCアースで読んだ蠍が自らの身体を燃やして夜の闇を照らす物語をよく思い出す。蠍とは、哀しきものだ。
茘繼は屍人を次々に喰らい、その数を減らしていった。もう残り僅かだ。だが、餓えた悍ましいタールの怪獣と化した茘繼の体にも傷が目立ち始めている。それでも全く気にすることなく暴れ続け、最後に残った屍人もぺろりと平らげてしまった。ああ、美味しいー。でもまだ足りないなぁ。あ、ひとり残ってるう。
茘繼は迷うことなく晴明へと突進した。いただきまーすと飛びつき、がぶり噛みつく。晴明は呻き、チェーンソー剣で力任せに茘繼を薙ぎ払った。茘繼は吹き飛ばされる。
しかしその影から何かが飛び出してきた。玄冬だ。この機会を逃すまい。そのまま彼は驚愕する晴明の顔面に右ストレートを叩き込んだ。左頬に強烈な玄冬の拳をくらい、がはっと血を吐き出し、唸りながらふらつく晴明。その美しい顔を歪ませて玄冬を睨む。
「僕の義妹が、君にして貰ったことへの返礼だ」
果したところで哀しみは消えはしないが、一矢の報いが弔いになるだろう。
ははは、と晴明は笑った。
「私は全てに飽いておりまする。あなた方が憤っている山陰を屍人で埋めたことも、ただの戯れ以外の何物でもありませぬ」
玄冬は再び身構えた。分かってはいたことだが、改めて本人の口から聞くと激しい怒りが込み上げてくる。
「ですが、それは多くの猟兵の心を動かしたようでございます。そして私の心も動かされておりまする」
晴明はチェーンソー剣を構えて玄冬を見据える。あちこちから血を流し、服も既にボロボロだ。どう見ても晴明の傷は浅くはない。だからこそ彼は言い放つ。
「確定している勝ちなど退屈。振られた賽は、出目が分からぬから面白いのでございます」
成功
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鵜飼・章
こんにちは
楽しそうな事してるね
きみと僕はよく似ているけど
僕はいつも可哀想な方の味方なんだ
単純な物理攻撃には射程がある
受けるのは無謀だ
兎に角射程外へ逃げよう
晴明が動いた瞬間【早業】で後方に飛び退きながら
図鑑から闇を飛ばし【目潰し】をかける
かわせたらその一瞬でUCを発動し
カブトムシに【騎乗】
これで僕の勝ちだ
無敵のカブトムシバリアを張り攻撃を遮断
足元の小さな命に目を向けた事なんてないでしょう
そんな人に僕のカブトムシが負ける理由がない
きみかっこ悪いもの
食らえレインボーカブトムシビーム
想像の力は無限大だ
世界は止まらない
全てを知ることなんて永遠にできない
きみが飽きたと思ったから
世界がきみを置いていったんだ
●
――随分と賑やかだね。
大広間に向かって鳥取城内を歩く鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)は、そう思っていた。先程から爆発音や打撃音が断続的に聞こえてくる。きっとみんな頑張っているのだろうと章は推測する。
昔ハロウィンで使った殺人鬼のコスプレ衣装らしい優雅なデザインの黒い貴族服。その長い裾を翻しながら、章は歩を進めた。
「こんにちは」
章が礼儀正しく挨拶して大広間に入ると、すぐに安倍晴明と目が合った。左頬が少々腫れており、血を流し、服はあちこちが破れている。しかも全体的に煤けていた。
「……楽しそうな事してるね」
「また新たなる客人でございますか。千客万来とはまさにこのこと」
「きみ、いろんな人から恨まれてるみたいだしね」
「どうやら私は多くの猟兵の心を動かしているようでございます」
「それはすごいことだよ。普通の人にはなかなか出来ないから」
「お褒めに預かり光栄にございます」
初対面にも関わらず軽口を叩き合う章と晴明。
この男は自分と似ていると章は思っていた。こうして話せばその思いはますます強くなった。この冷めた微笑を浮かべた男の内面が己と重なってしまう。
「きみと僕はよく似ているけど、僕はいつも可哀想な方の味方なんだ」
「然様でございますか。あなたとは分かり合えそうな気もしておりましたが……」
その表情から薄い笑みを消し、晴明は赤いチェーンソー剣を振り上げる。その動きを章は見逃さない。
単純な物理攻撃には射程がある。受けるのは無謀だ。兎に角射程外へ逃げようと最初から決めていた。
章は晴明が動いた瞬間に目にも留まらぬ速さで後方に飛び退きながら、手にした図鑑から闇を飛ばす。通称闇くん。描いた覚えはないのに図鑑から出てくる謎の心ある闇だ。人懐こい性格らしく、物怖じせずにチェーンソー剣を構えた晴明に纏わりつく。そして、もっと僕を見て欲しいとばかりに闇の指が晴明の目を突いた。完全に視界を奪われた晴明は忌々しそうに闇を振り払おうとする。
その隙にと、章は一瞬で確証バイアスを発動させた。
「カブトムシは最高にかっこいい。――この前提は揺るがない」
瞬く間に無敵のすごくかっこいい巨大カブトムシが章の想像から創造される。満足そうに頭部の大きな角に触れる章。やはり昆虫の王様だ。かっこいいなと思う。
己の視界を塞ぐ闇を振り払った晴明は、突如出現していたカブトムシに驚きを隠せなかった。そんな晴明を横目で見ながら章はカブトムシの背に飛び乗る。
「これで僕の勝ちだ」
章は確信した。カブトムシは強くてかっこいいので最強かつ無敵だ。これは証明不要の公理である。
手始めに無敵のカブトムシバリアを張った。これで攻撃は全て遮断される。晴明がチェーンソー剣で斬りかかってきたが、弾かれているのが見えた。バリアを張ったのだから当然だ。
「きみ、足元の小さな命に目を向けた事なんてないでしょう」
「そのような眇眇たる命など、取るに足らないものでありましょう」
「やっぱりね。そんな人に僕のカブトムシが負ける理由がない」
自信満々に告げる章。
「きみかっこ悪いもの」
――『かっこいい』が『かっこ悪い』に負ける訳がない。覆されることのない、道理にかなった法則だ。
「食らえレインボーカブトムシビーム」
想像の力は無限大だ。章のカブトムシは大きな角から七色の光を晴明に向けて撃ち出した。キラキラしたレインボーな輝きが晴明を無慈悲に貫いていく。
耐え切れずに唸りながら膝をつく晴明。
彼はもう満身創痍だ。跪き、肩で息をしながら、床に突き刺したチェーンソー剣に掴まってなんとか上体を起こしている。このまま畳み掛けようと章はカブトムシに指示を出す。
かっこいいカブトムシは、もっと戦いたがっている。章も、このカブトムシがかっこよく戦う姿をもっともっと見たかった。
晴明を大きな角で突き、そのまま力任せに殴り倒す。崩れ落ちたところをもう一度角で突き上げて宙へと浮かせ、素早く強打して勢いよく床へと叩きつける。骨が砕ける音がした。
そしてとどめだ、とばかりに晴明に向けてカブトムシを猛スピードで突進させた。その巨体に轢かれる晴明。叫び声がカブトムシの下から聞こえた。きみもそんな大声を出すことがあるのかと章は意外に思った。
カブトムシをどかすと、晴明はボロボロになって倒れていた。酷い有様だが、まだ息があるようだ。章はカブトムシから降りて晴明の傍に立った。晴明は僅かに首を動かして章を見上げる。
「どう? 僕のカブトムシは強くてかっこいいでしょう」
「……例え幾度となく蘇ったとしても、こうしてカブトムシに潰される経験は唯一無二でございましょう。貴重な体験となりました。良しといたします」
そう、と章は頷く。そして少し考えてから、晴明の顔を見ながら話し始めた。
「世界は止まらない。全てを知ることなんて永遠にできない。きみが飽きたと思ったから、世界がきみを置いていったんだ」
「……不本意ながら、その主張を認めねばなりませぬ」
悔しげな言葉とは裏腹に、晴明の表情は穏やかだった。満たされたのだろう。微かに笑みを浮かべたまま瞼を閉じる。
パキパキと、未だ残っていた背中の水晶が砕けていく。見る間に晴明の体にもヒビが入り、水晶のように砕け始める。最後にパキンと大きな音を響かせて、晴明は消え去った。
「……やっぱりきみと僕は似てるよね」
でも僕にはかっこいいカブトムシがあるから、きみとは違ったようだ。章は消えていく晴明を見送りながらそんなことを考えていた。
章の周囲を飛んでいた鴉たちがクワッと鳴いた。それはまるで弔いの言葉のようだった。
大成功
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