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エンパイアウォー⑱~汝、毘沙門足るや?

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #上杉謙信

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 広く、そして巧みに張り巡らされた車懸かり。その中心にあるのは、単騎で陣を成すかのような威容である。
 その周囲だけ気温が低いような錯覚。戦禍の最中に在ろうと、忠臣の誰もがかの指示声を聞き漏らすまいと沈黙を厳にする。
 誰もが疑わず、誰もが心静かに、そして誰もが信奉にも似た忠誠を注いでいた。
 その男の存在そのものが、多くのマゾヒズムにも似た統率を是としていた。
 その男がそこに在ればこそ、この陣は成る。
 その男の佇まいがそれを物語る。
 その男の歩んできた血の畔が、何よりの説得力だ。
 瞑目して陣の奥にて腰を下ろしていた男が、不意に開眼する。
「──剣を持て」
 短い言葉に即応する周りの者が、大身の刀のその鞘先を持って現れる。
 無造作に立ち上がり、それを抜き放つと、風と金属の鳴る音と共に、周囲を同様の刀が11本現れる。
 大将の戦支度に、周囲の忠臣もまた武器を手に戦意を抱くが、それを視線のみで制する。
「陣の維持にかかれ。抜けてきた者どもは、私が討つ」
 襟巻帽に覆われた横顔に、少女のような生白い肌が静かな言を紡ぐ。
 やがて周囲の者も陣から離れ、ただ一人残ったのは、優男ともとれるような姿一つ。
 氷雨のような冷たい視線が望むのは、今まさに車懸かりを抜けてこようとする、歴戦の猟兵たち。
 いいだろう。たとえ軍神をも討てるというのなら、相手にとって不足はない。
 戦に倒れる名誉をこそ、義の報酬としては十分である。
「どちらに毘沙門天の加護ぞあるか……見物だな」
 膨れ上がる圧力が、孤軍を陣と成していた。

「噂に名高い軍神、上杉謙信公。ついに相手取ることが叶いそうですね」
 グリモアベースはその一角、羅刹の化身忍者、刹羅沢サクラは腰に差した刀の柄を握りしめつつ目を細める。
 車懸かりの陣、そしてその指揮を執る第六天魔軍将の一人、軍神・上杉謙信との戦い。
 そのどちらをも叩き潰さねば、勝利とはならない。
 そして、この戦いは、多くの猟兵たちによる尽力のもとでようやく、上杉謙信の喉元にたどり着いたようなものだ。
「今回はまさに謙信公を討つための戦いです。こちらから送り出した直後からの戦いになりますので、準備は万全にしておいてください。
 また、他の魔軍将と違うのは、かの軍神は先制攻撃をしてきません。対抗策を講じる必要はりません。
 ただし、謙信公にはその身を護る十二の刃があります。これらはそれぞれに突出した属性を得たものであり、容易ならざる存在でしょう」
 一通りの説明を終えると、サクラは一呼吸を置き、周囲を見回すと、
「此度の戦いは、厳しいものとなる筈です。皆さんの武運長久をお祈りいたします。ご武運を」
 いつものようにぺこりと頭を下げるのだった。


みろりじ
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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
=============================
 どうもこんばんは。流浪の文章書き、みろりじです。
 毘沙門天の加護ぞある。謙信公決戦編です。
 皆さんは、美少女派ですか? それとも、ジョージ派ですか?
 どっちも好きです。
 果たして、歴史にあまり詳しくない人が歴史の偉人を書くとどうなるのか。楽しみですね。
 いつもは割とガバ判定ですが、今回はやや難しい難易度ということで、失敗を恐れずやっていきます。
 一フラグメントのあっさりしたシナリオですが、あっさり負けちゃうパターンもあるかもしれないので、力いっぱいのプレイングをお待ちしております。
 こちらも力いっぱいのリプレイをお返し、できるといいなぁ。
 とにもかくにも、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作っていきましょう。
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第1章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
自身に【回転する12本の『毘沙門刀』】をまとい、高速移動と【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

四王天・燦
「四王天・燦。推して参る」
恐悦至極。神鳴とアークウィンド―風雷の二刀で二刀流同士、斬り合っておく。
勝てぬは当然…未熟を詫び精進を誓おう

「これよりが死線の先。術に頼ることお許しを」
斬り合いの次は真威解放・神鳴。
短剣を仕舞い飛翔旋回。
四王稲荷符を投げ呪詛で攻撃

天変地異は激痛耐性と各種耐性、物理は武器受けで凌ぐ。
視界が悪くなれば密かに爆弾『カウントダウン』投下。
術のベクトルが上方向に転じたら空中戦を活かし、勢いに逆らわず上昇(雲も吹き飛ばす)
カウントダウンの爆発に合わせ、太陽を背に目潰しし降下。
神鳴で斬るぜ

「毘沙門の刀技の妙。最後まで見とう御座います」
全力を出した後は座して見届けることを願い出るぜ


エーカ・ライスフェルト
これほどの人物がオブリビオン?
悪夢ね
「説得で退いてくれるような相手じゃないわね。全力でぶつかるしかないか


今回は【精霊幻想曲】を使うわ。「属性」と「自然現象」は謙信公と同じものを選択する
性質は相手が使う術と同じだと思うけど、出力と強度は大きく劣っているはず
だから、謙信公が今使っていると思われる刃に【念動力】をぶつけることを目指すわ。「炎」の「竜巻」なら、「火属性」っぽい刀を狙うってことね
目的は【毘沙門刀天変地異】を弱めること。折るのもねじ曲げるのも無理でしょうけど、数秒間だけ切っ先を明後日の方向に向けさせるだけなら出来る、と思いたいわ
「猟兵複数で連携攻撃といきたいけど……部下に邪魔されるかしら


リオン・ソレイユ
戦神の加護を使用。
全技能を最大限に高め、
攻撃と防御を均等に強化。

「我が名はリオン・ソレイユ!一人の武人として、謙信公に一騎討ちを申し込む!」
不利は承知の上。だが、武人としての性か、あれほどの武人と合間見える機会などそうそうない故、挑まずにはおれん。内心、苦笑しておるがな。
(俺もまだまだ若いな!)

殺気を放ち、恐怖を与える。
怯むようならその隙をついて、ダッシュで接近し、先制攻撃。
毘沙門刀による攻撃は、未来予知と戦闘知識、野生の勘による回避か、早業によるなぎ払いと衝撃波の範囲攻撃で吹き飛ばし、防ぎきれないものはオーラ防御と武器受け、盾受けで受け流す。
凌ぎきれたら、怪力による2回攻撃を叩き込む



 戦場の天下に落ちていた陽の光が雲に遮られると、ほんの僅かだけ明るさを落とした光が陣中を降り注ぐところ。
 変化と言えばそれだけの事だったが、これといった歪や前触れもなく、ただ、予感というのだろうか、或は武将として戦場を生き抜いてきた者の持つ、特有の虫の知らせとでもいうのか。
 己を打倒せんと踏み込んでくる敵の姿を、その存在を夢想、予見していたことは確かだった。
 果たして理由の明言できない勘から、闘将上杉謙信は忠臣を自ら遠ざけ、12本もの得物を手に臨戦態勢を整えていた。
「驚いた。ホントに一人で迎え撃つつもりなんだねぇ」
「……これほどの人物がオブリビオン? 悪夢だわ」
 どこからともなく姿を現した二人の女性を一瞥する。多少の緊張は見られるものの、異なる世界、文化を感じさせる井出達や纏う雰囲気。それ以上に、戦意を押し隠すこともせず圧力と化しているこの状況で平然と佇むのは、常人のそれではない。
「汝らが猟兵か……。まずは二人、いや──」
 鋭い双眸が射貫くように見つめていたかと思うと、別方向からも異質の圧を覚えて視線を巡らす。
 いつのまにか、そこには古木……いや、それと見紛うかのような老騎士が立っていた。
「三人、か」
 油断なく双方を確認しつつ、謙信は老騎士のほうへとまずは向き直った。
 いち早く戦意を抱き、腰の剣に手を伸ばしたのを汲み取ったのだ。
「すまんな」
 呟くように詫びる言葉を投げかけつつ、剣を抜く手を僅かに躊躇したようにも見えたが、年老いた騎士は、改めて剣と盾を構える。
 その言葉は誰に向けた言葉だろうか。
 他二名のうら若き猟兵の少女たちへ向けてか。
 或は年甲斐もなく血気に逸る己に向けてか。
 それとも、そんな自分の意を受け入れてくれた敵に向けてか。
 もはやどれでもいい。この老骨に滾る血潮に熱を覚える限り、その礼に応えるだけだ。
 国に仕えるには老いたりといえど隆起したその四肢は、現役の頃から何ら遜色は無い。
「ご老体、気遣いが必要だろうか……?」
「痛み入るが、無用。我が名はリオン・ソレイユ(放浪の老騎士・f01568)! 一人の武人として、謙信公に一騎討ちを申し込む!」
 試すような言葉に応じる様に、リオンは黒い剣と盾を打ち鳴らし、大声で宣言する。
 猛然たる本気の殺気を思わせる気迫に、謙信とその周囲に浮かぶ10の刀が震えるように反応する。
 気後れを呼ぶほどの気勢であったろうか。
 いや、それは違った。
「相分かった。長尾──いや、今は上杉だったな。この上杉謙信、その意気に応じよう」
「応とも!」
 感じ入るものがあったように承諾する謙信に大声で返しつつ、リオンは盾を突き出して駆け寄る。
 平地に於いて、不可思議の力で扱われる12の刀を一人で相手取るのは、あまりにも無謀と言えるだろう。
 しかし、軍神と謳われる武人。それを前にして、リオンは滾るものを抑えることができなかった。
 少年老いたりとも、剣を佩けば、血潮を熱くする。その熱は、全盛の若々しさを思い起こさせる。
 眩しく、手放しがたいそれに突き動かされるかのように、リオンは衰えを知らぬかのように駆ける。
 長身をそれと思わせぬほどの筋肉で覆ったその体躯には、嘗てほどの膂力も反射神経も伴ってはいないだろう。
 だが、それでも、まだ、現役を退くには勿体ないほどの物が残っているかもしれない。
 なけなしの若さが。その精神性が、一歩、もう一歩と、使い古しの両足を叱咤する。
「眩いな」
 静かな声と共に、暴風が盾を穿つ。
 風を纏う毘沙門の刃が薙ぐように虚空を裂き、生じた暴風の刃がリオンの盾に打ち付ける。
 モーニングスターで殴りつけられたかのような衝撃に盾を持つ腕が震えるが、それだけではまだ立ち止まれない。
 次に水気を宿す刀が鉄砲水を打ち付けてくる。
 次に土気を宿す刀が地津波を起こしてくる。
 次に火気を宿す刀が火矢のように火弾を飛ばしてくる。
 リオンの記憶する多くの戦闘知識が、数限りない予見として謙信の刀の攻撃を伝えてくるが、それら全てを対応できるかと言えばそうではなく、また対応すると言っても、全てを受けきるということもまた適わず。
「うぐ、ぐぐ……おおおっ!」
 雨のように降り注ぐ攻撃の嵐の前に、ついにリオンは進む足を止めてしまう。
 一度止まってしまえば、そこに更に謙信の刀による攻撃が殺到し、ついには光を帯びた刀そのものがリオンの両足を地面に縫い付ける様にして突き刺さる。
「養生されよ」
 謙信の手に握る闇色の刀の切っ先が黒い渦を作る。
 両足を縫い付けられたリオンにそれを回避する術はない。
 もはやこれまでか。と心中で苦笑を浮かべつつ、しかし盾と剣は手放さぬまま睨みつける。
 ところが、謙信の黒い渦は、唐突に差し込んだ光線によって切り裂かれた。
「あら、お邪魔しちゃったかしら?」
 二人の戦いを観察していた猟兵の一人、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)が挑発するように言葉を投げつけつつ、長い桃色の髪を掻き上げる。
 果たしてその効果はあったらしく、リオン一人に向いていた殺気が、エーカに対象を移すと、槍衾に正対したような錯覚すら生まれる。
 こんなものとやり合っていたのか。
 エーカの背筋を冷たいものが伝うが、敵はそれを待ってはくれない。
 氷雪を纏う刀が氷の礫を放ちつつ迫ってくるのを円周を回るような動きで引きつけつつ、念動力と魔術で迎撃する。
「ほう……?」
 その手腕に謙信は感嘆の声を漏らす。
 エーカが、静観している間に考案した対応策の一つ。それは、毘沙門刀の持つ多種多様の属性と同じものを用いて相殺するという方法だった。
 氷の礫には氷の魔術、或はクリオキネシスで凝結させた水分をぶつけて対応して見せた。
 それでいながら、エーカは謙信との距離を保ちつつ、刀そのものの間合いには入ろうとはしない。
 念動力による属性対応はできても、純粋な剣技や刀そのものの破壊や斬撃には対応するほどの余裕が無いのである。
「面白いな。しかし、どれだけの数に対応できるのか……」
 さらに複数の刀がエーカに向かう。
 電脳魔術士でもあるエーカにとって、解析や分析は得意科目ではあるが、それにしてもキャパシティというものがある。
 人一人に対応できる限界というものは確実にあるもので、それは天才的な電脳ウィザードとしての手腕を誇るエーカとて例外ではない。
 一人には限界がある。そう、一人ならば。
「精霊よ、力を貸して」
 ユーベルコード【精霊幻想曲】。空間、時空を超えて、概念に固着する意思との疎通、精霊という概念の助力を得たエーカは、自然現象を味方につけて、更に数を増した謙信の攻撃に同じ属性を合わせることを可能とした。
 水が水を、火が火を、それぞれ対応し、効果を打ち消し、或は逸らす。
 だがしかし、それはあくまでも防衛の策であって、謙信に手傷を及ぼすものではない。
 対するエーカはというと、術の行使に手いっぱいになり、おろそかになった防御は細かな手傷を増やすこととなり、徐々に追い詰められていく。
 そして、刀の射程距離に入らないようにしていたとはいえ、それも謙信本人が歩み寄ればその限りではない。
「たいしたものだ。ただの一人で受けきる老体に続き、ただの一人で我が毘沙門刀を対策して見せるとはな」
 最早、手にした刀の一薙ぎでエーカの首を刎ねられるほどの距離にまで近付かれても、エーカには謙信の姿をまともに見ることもできない。
 度重なる精霊へのアクセス、魔術の行使、念動力の排出により、沸騰せん限りに稼働する脳へと燃料を送ろうと巡り巡る血流はあちこちで断線し、視界は真っ赤に染まり、形のいい鼻梁からはぷつりぷつりと血が垂れ始めていた。
 ただの一人、その限界を走り続けるエーカの凄絶な形相に、しかし謙信は愛おしむような穏やかな目を向ける。
 手傷を負わせるほどの相手ではない。だが、文字通り十二分な行動で示した好敵手に違いない。
 攻撃の手を緩めなければ、謙信がその手を振るうまでもなく、エーカは自滅するだろう。
 だが、そうするのは謙信の矜持が許さなかった。
「さらばだ、我が敵よ。いずれ貴様の同胞共々送ってくれよう」
 緩やかに音もなく振るわれる白い刀。
 同胞と言えば、もう一人は何処へ消えたのか。
 この二人が、尋常でない戦いを繰り広げる中、残りの一人は姿を消したままというのは、いかにも不自然だ。
 まさか騒ぎに乗じて今更逃げたしたとでも?
 それは困る。そんな相手では、困る。
「悪いね、ちょっと遅れちゃった」
 金属同士がぶつかる鈍い音。サメの歯のような刃受けのついたナイフが、謙信の刀を受け止めていた。
 エーカを守るように滑り込んだ少女の面影が、銀に黒く焦げた様な狐耳を揺らす。
「遅かったではないか。よもや、未熟を恥じて逃げたかと思うていたところだ」
 ぎりぎりと鍔で迫る謙信の圧力に、あくまでも勝気な笑みを崩さず逆に刀を折ってやろうと押し返す。
「未熟は百も承知。それは、戦いの中で精進する事で返しましょう」
「言うたな」
 拮抗を崩すと同時に、胴を回すようにして背に負った神鳴を抜き打つ。
 紅い雷光が謙信を弾くと、僅かな間が生まれる。
「四王天・燦(月夜の翼・f04448)。推して参る」
 短く名乗りを上げ、燦は加速する。
 彼女はただ今の今まで遊んでいた訳ではない。
 エーカと同様、謙信の戦いぶりを観察していたし、他にもいろいろと準備していたのである。
 正面から密着するようにして斬り合いを選んだのは、謙信の手にしている刀がいずれも大振りの物であることに起因する。
 侍は本来、盾を用いない。槍も刀も本来は両手で使うものだからだ。
 大業物、それも二刀ともなれば、間合いの内側に死角はどうしたって生まれる。
 それに密着していれば、空中の刀は自分も巻き込むことになるから、そうそう安易には使えぬ筈だ。
 とはいえ、それだけでは勝算は薄い。
「はぁっ!」
 謙信の間合いの内側に入れば、刀による一撃を貰いにくくなるものの、燦もまた神鳴を存分に振るえないし、ナイフのアークウィンドも二刀が相手では、いなしと受けに忙しく、攻撃に転ずる前に間合いの外に逃げられる。
 そうしてお互いに致命打どころか、傷の一つもないまま、間合いの取り合いが始まるのだが、それも数度繰り返すのみで、戦に長じた謙信はすぐに燦の意図を読み取った。
 間合いの内側に敢えて踏み込ませたところを、謙信は敢えて刀を手放し、伸びてきた燦の手を取り、そのまま抱き寄せる様にして、その痩せた鳩尾に膝を突き刺してきた。
「がふっ!?」
 蹴られた拍子に手が離れ、燦は地を跳ねるようにして転げつつ、なんとか立ち上がるが、呼吸がうまくいかず喉が空回るような音を出す。
 斬り合いから唐突な組打ちに転ずる機転。密着すれば何とかなると思っていたのを逆手に取られた。
 体から気力と一緒に力が抜けるような弱気を、無理矢理に奮い起こし、反省をひとまず思考から追い出す。
 すかさず殺到する宙空の刀たちを、燦は土煙を上げつつ跳んで躱す。
「愚か!」
 空に逃げては、逃げ場があるまい。毘沙門刀が跳んだ先の空中を捉えんと飛翔するが、その手応えがない。
「御狐・燦が願い奉る。今ここに雷神の力を顕さん。神鳴――真威解放!」
 土煙を紫電が引き裂く。
 再び姿を現した燦は、ユーベルコード【真威解放・神鳴】によって受けた紫電で、煌びやかな戦巫女の装束に転身していた。
「これよりが死線の先。術に頼ることお許しを」
「……来い」
 雷を纏い、その激痛に顔を歪めつつも勝気に嘯く燦を好しとしたか、謙信の刀が唸りを上げて炎の竜巻を巻き起こす。
 空を飛ぶ燦にその乱気流は脅威であったが、ナイフから呪符に持ち替えそれを投擲することにより、竜巻を封じ込める。
 謙信は剣の間合いから外れた燦を撃墜するべく、雹やあられを巻き起こし、暴風による暴れ石も試みるが、四王稲荷符による呪詛に封じられ、その効果を十全に発揮できない。
 とはいえ、全くの無傷で抜けることもできず、消耗戦ともなれば、常に雷を受けている燦が不利ですらある。
 だが、何も攻撃に転じていないわけではない。
 謙信の攻撃が上向きに集中するのを待ち、反撃のチャンスが来るのを待つ。
 燦は手製の爆弾カウントダウンを、事前に敷設しておいたのである。
 そして、その爆破タイミングは目前まで迫っていた。
「仕掛けるぞ、エーカぁ!」
 敢えて、大声を上げる燦に反応した謙信だったが、直後にその足元が爆ぜる。
「くっ、罠だと……いつの間に!?」
 それは致命打にはならなかったものの、謙信の目をくらませるのには十分だった。
 だが、相手は空を飛んでいる。燦がこの隙に仕掛けるとしても、方角は限られている。
 迎撃の為に、毘沙門刀が上方へと向く。が、謙信の思惑を破るかのように、
「刮目せよ──これぞ我が」
 獄門の底のような声が響く土煙を押し破るように、謙信の正面から現れたリオンが、全身をオーラで纏った姿で現れた時には、もう刀の対処の及ぶ間もなく、魔剣ソニアが振るわれるところだった。
「おおおっ!!」
 鈍い音が鳴り響く。
 ユーベルコード【戦神の加護】によって強化された一撃が、謙信の甲冑を叩き割る。
 強化されたとはいえ、毘沙門刀によって受けた多数のダメージに加え、地面に縫い付けられていた拘束を無理矢理引き千切っての攻勢は無理があったのだろう。
 追撃によって確実にとらえる筈だった二撃目を振るうことなく、リオンはそのまま気を失い、すれ違うように転げ倒れる。
「ぐ、し、まった……次が来る」
 きれいに貰った一撃に体勢を崩しつつ、尚も謙信は燦による急襲へ備えようとするが、唐突に土煙が晴れた時に見上げた陽光に思わず目を細める。
「太陽を背にしたか! だが、それだけでは!」
 空中に向けて毘沙門刀を射出する。が、それは別の方向から放たれた魔術によってあさっての方向へ逸れる。
「……まったく、無茶を、言ってくれるわ……」
 残る力を振り絞って毘沙門刀を撃ち落としたエーカは、既に立っていることもままならず、荒い息と鼻血でドレスが汚れることも構わず、地に腰を下ろしていた。
「おのれ、見事だな……!」
「いっけぇー!!」
 そうして、急降下とともに振るわれた燦の神鳴と交錯するように、謙信もまた手にした毘沙門刀を振るう。
 結果は、
「はぁ、はぁ……い、いったぁ……あー、くそ……痛いよ、もう……!」
 自身も斬られつつ、謙信の胸からわき腹にかけて手傷を負わせたものの、急降下の勢いのまま地面に激突して数メートル転げまわった燦は、悪態をつきつつ体を起こす。
 利き腕が言うことを聞かない程度には重傷だが、幸いかどうか痛すぎて意識ははっきりしている。
 苦痛に耐えつつ、燦は離れた位置で居住まいを正して座する。
 もはやこの戦いに終止符がつかない限り、生きては帰れない手傷である。それにしても、全力で攻撃を浴びせた満足の方が勝ってしまった。
 ならばこの灯が続く限り、
「毘沙門の刀技の妙。最後まで見とう御座います」
 あくまでも勝気な笑みを崩さぬまま、燦は声を張り上げる。
「よかろう、汝の妙に敬意を尽くそう」
 手傷を負ったものの、謙信は尚も余力を持ったまま、何処かを見上げる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

御形・菘
お主は軍神を名乗るのか
妾は最強の邪神にして蛇神! さあド派手にバトろうではないか! 

注意すべき属性は風や樹などの移動阻害や吹き飛ばし系、それと急所への斬撃よ
接近し、身が動かねば話にならん!
邪神オーラは全身に纏い防御に回そう
要警戒の刀から優先して左腕や尻尾で叩き落としていくが、斬られたり追加属性ダメージは元より覚悟の上!

はっはっは、超多彩な属性などという激レア体験、ド派手な動画になって喜ばしい!
いっそ尻尾や身体に刺さった刀は、そのまま固定してしまえば手数が減って良いのではないかのう?
首から上さえ動けば、頭突きに噛み付き、どうとでもできる!
妾がブッ倒れる前に、可能な限りの攻撃をブチ込んでくれよう!


上泉・祢々
あの刀……誰かが打った物ではなさそうですね
ならいいですか

十二刀の連撃は厄介
この手で受けられそうな物は手刀や足刀で弾き
そうでない物は緩急をつけた歩法でタイミングをずらし躱す
その間に相手の呼吸を見切り次に備える

とりわけ強力そうな……その手の黒いのにしましょうか
見切ったタイミングで振りに合わせて刀を振る手に手刀を振るいその手に持つ黒い刀を奪い取る
これぞ剣技の極致、無刀取り

この身はたった一度しか刀を振れぬ身
しかして今はそれで十全

奪い取った刀を上段に構え敵と相対
回避は最小限に全身全霊を込めた振りおろしを叩きこむ
結果はこれまでの鍛錬が決めてくれる

役割を全うし砕けた刀を見送りながら

……やっぱり嫌ですね、これ


ヴィクティム・ウィンターミュート
──勝負しようぜ、軍神
アンタと俺、どっちが強いか決めようじゃないか
負けるのが怖い?それとも安い挑発には乗りたくない?
ハッ…毘沙門天の加護もそんなもんか
否定したいなら、付き合えよ…!

【ダッシュ】【フェイント】【早業】【見切り】【第六感】で致命的な攻撃は機動力で走り回り、避ける
ただし天変地異は"一度だけ受ける"
【覚悟】を決めて、【ドーピング】で痛みを緩和し【時間稼ぎ】
倒れなきゃ出し抜く算段がある…必ず耐え切ってやる

アンタの天変地異、今コピーした
アップデート開始──完了
なぁ、アンタ…両手に持ってる刀、特別強そうだな
その力を使った天変地異は、どんな効果がある?
やってみようぜ──アンタを実験台にしてな!


リューイン・ランサード
UCでドラグーン召喚して乗り込む(目の部分は開放して視界確保)

ドラグーンのエーテルソードに【磁力の属性攻撃】を籠めて超強力な磁石と化し、謙信さんの刀を吸い寄せて攻撃を封じる

上記対応を乗り越えてきた攻撃に対しては、刀が「水・土・火・樹・風・氷・過去・未来」なら【オーラ防御】とドラグーンのチタンの鎧で受け、鎧で防げなさそうな「光・闇・薬・毒」は【第六感、見切り、ビームシールド盾受け、カウンター】で躱すかビームシールドで受ける。

そしてドラグーンで謙信さんと組み合った状態にして自分は背中から離脱。
【空中戦】で謙信さんの背後に回り込み、右拳に【雷の属性攻撃】を込め、【怪力】を発揮して謙信さんに打ち込む!



「面妖な……」
 戦場の最中で空を見上げる謙信が、自身の手傷など気にした風もなく、しかし別の懸念に眉を顰める。
 その目に映る空の影が、やがて明確な形を成して二つ、謙信を囲うようにして落ちてくる。
「フハハハ! お主が軍神を名乗る者か!」
「うわぁ、菘さん、もうノリノリですね……あ、いや、僕も頑張りますけどね!」
 長大な翼ある蛇のようなシルエット、いびつな角と灰のような髪を風に泳がせ不敵に笑う異形の神話生物のような御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)と……、
 早くもユーベルコード【守護騎士「ドラグーン」召喚】によって白銀の竜人を模したような甲冑に乗り込んだ状態で降りてきたリューイン・ランサード(今はまだ何者でもない・f13950)は、
 お互いが知らぬ仲ではないためか、穏やかに目配せをしつつもその意図を汲み、覚悟を決めて手負いと見た謙信に襲い掛かる。
「その刀が何であれ、刀ならばその根幹は鉄。こういうのは、どうでしょうか?」
 リューインの掲げるエーテルソードに磁力の属性が集う。
 電磁石を応用した強力な磁界が生じ、謙信の周囲を浮かぶ刀の切っ先が一斉にリューインの方を向く。
 謙信自身が握る刀も引かれる感触を覚え、その影響を一瞬で看破する。
「なるほど、面白いことをするな。その身でこの毘沙門刀を受ける腹積もりか」
 160センチほどの身の丈のリューインは、成長過程の少年としてはごく普通の体型だが、自身の召喚した甲冑を纏う今の状態は約二倍の3メートル強。その兜越しに見受けるまだあどけなさを残す顔つきに眩しいものを感じつつ、その意気を一人の武人として汲み上げた謙信は、それに相応しい毘沙門刀で対応する。
 砂を滴らせる一刀、黒い霧を纏う一刀がリューインの方へと差し向けられる。
 地を裂きながら迫るそれと、黒い霧を振りまきながら迫るそれとをリューインは、自慢の鎧とビームシールドで真正面から受ける。
 刀の刀身そのものは難なく受けられたのだが、異変が起きたのは主に足元と、身体を支える関節の各所だった。
「う、こ、これは……」
 凄まじい倦怠感。毒だろうかとも思ったが違う。鎧そのものに降りかかるような猛烈な圧迫感は、さながら全身に不可視の重しを課せられたような、そう例えるならば、重力を増したかのような……。
 果たしてその懸念は正しく、リューインがシールドで受けた黒い霧の刀は周囲の重力を歪めていた。
 加えて剣で受けた砂の刀の影響で、リューインの足元は柔らかく捉えどころのない砂に飲み込まれ、満足に歩くこともできないまま下半身全てを地面に埋めてしまう。
 みしりみしりと甲冑が凄まじい重力に押し込まれて悲鳴を上げる。
 このままでは身動きがとれないどころか、脱出すら侭ならないかもしれない。
 が、
「この程度で、僕を封じ込めたつもりですか?」
 そんなことはお構いなしに、エーテルソードの磁力を更に強め、自身の怪力に任せるまま、尚も謙信に近づこうと砂の中をもがく。
「なんという執念だ……仕方ない」
 まったく諦める様子のないリューインの様子に、謙信は更にもう一本刀を差し向ける。
 氷雪を纏うそれがリューインの甲冑に突き刺さると、霜が這う甲冑に砂がまとわりついて、やがて関節の一つも動かせなくなる。
 だが完全に身動きが取れなくなる直前まで、リューインは自身に差し向けられた刀を抱き込むようにして、強力な重力と砂の塊に陥ったまま動かなくなった。
 一方で、
「フハハ、どうしたどうしたぁ! その程度で、妾は止まらぬぞ!」
 既に体のあちこちを火傷や裂傷に見舞われながら、菘は得体のしれない漆黒のオーラを纏い、こちらも前進を止めずにいた。
 彼女もまた、リューインのような甲冑は持たぬものの、自身の絶対的なタフさを当てにした保身無き、いや辛うじてオーラによる防御と急所への攻撃こそ異形と化した腕で弾いているものの、軽微なダメージなどもはや無視している。
「蛇の娘よ。何故にそう、悪意も敵意も持たず、向かってくるのか」
「妾は蛇神にして邪神じゃあ! 娘などと、可愛らしい呼び方をするでないわ!」
 火の嵐を抜け、不可視の風の刃を切り抜け、致命打になるなら尻尾や左腕で受け流して、それでも剥き出しの肌や鱗を焦がし焼いて引き裂かれても、菘は笑い続けた。
 弾丸のような水の飛沫に身体を穿たれて、わずかに態勢を崩しながら、菘は尚も続ける。
「何故かと聞いたな、軍神! あいった! くっそ、今かっこよく決めてるトコじゃろうが! なぜか、なーぜーか! はっはっは、超多彩な属性などという激レア体験、ド派手な動画になって喜ばしい! そうじゃろうが!」
 苛烈な攻撃に耐えながら、高らかに宣言する。
 その発言の意味は謙信にはとうてい理解できないものだったが、それでも逆境を与えるだけより強固に、俄然やる気を出して迫ってくる菘の存在は、それだけで気圧されるだけの迫力がある。
 画面映えを最優先にするだけに、幾多の戦場を切り抜けてきた実力はもとより、その気迫は特異なものがあるようだった。
 彼女のユーベルコード【逆境アサルト】は、自身が映像制作を最優先する限り、逆境を与えられるほど自身を強化していくものだ。
 逆境とはすなわち視聴者をドキドキさせる山場! 無視して逃す理由などまったく無いわ!
 弾雨に晒される今の状況こそ過酷。苛烈、もうこれ映像として大丈夫なのかってくらいの恐怖の属性地獄だ。
 だが、幸いにして、自身の背後から状況を撮影している空撮ドローンへは、被写体である自身が盾となることで攻撃を阻んでいる。
 逆に言えば、それだけのために敢えて攻撃を受けなければならないというのが、さらに逆境を演出しているのだが。
「なるほどな。神域とは、理解の及ばぬものか。軍神などと呼ばれ、驕っていたか」
 対する謙信は、何やら勝手に解釈してくれてよくわからない悟りに一歩近づいてしまっている。
 なんかカッコイイ。自分より目立つ敵ながら超画面映えするイケメン武将に、菘は心なしイラっとしてしまう。
 その焦りからだろうか、うっかり払い損ねた刀の一本が下半身の蛇腹に突き刺さった。
 それと共に、その切り口から植物のツタのようなものが生え広がる。
「ぬぐっ、よりにもよって一番おぞましいものを貰ってしまった!」
 体にまとわりついて締め上げて、動きを阻害する植物の性質を持つ刀を引き抜こうとして、その手を止める。
 本来ならば植物にまとわりつかれるのは、放送コード的にちょっとアレな部分もあるし、何より内部からあれこれというのはグロいし、ほら、あれだろ!
 だが、別に考えも浮かぶのだ。
 こうして体に刀を突き刺したままならば、相手の手数も減っていいのではないか。
 それに、向かいのリューインも敢えて刀を受けていたようだ。おかげで厄介な属性の幾つかはこちら側に回ってこない。
「くは、いい趣味をしておるわ。貰ってやろう!」
 突き刺さった刀を無視して、菘は距離を詰めるべく再び前進する。
 その動きはだいぶ遅くなってしまい、貰う攻撃は数を増したものの、ユーベルコードにより逆境が増すほど高ぶる肉体は、頑丈さを増している。
 そうしてついに菘は、謙信の眼前にまで迫り、異形と化した左腕でようやく攻撃を加える。
 が、それは空を切る。
 正確には、確かに謙信の身体を捉えたように見えたそれは、煙のように掻き消えた。
 見れば、いつの間にかわき腹に突き刺さっている刀がもう一本。
「……幻影。そういうのも、あったのか。これ、映ってたかな……」
 思わず、尊大ではなくちょっと素が混じった言葉をぽつりと漏らしてしまうほど、それは肩透かしだったのだが、映像的にどうかと思った瞬間、自身の身体から力が抜けるのを感じた。
 まずい、と思ったときにはもう遅かった。
 次の瞬間に飛んできた光り輝く刀は、咄嗟に張った漆黒のオーラを切り裂き、菘の胸を貫いた。
「……かふっ……。参ったな。これは、流石に、グロ注意が必要、か」
 闇を抜ける光。確かに、それなら納得かもしれない。
 なんだこれ、カッコイイな。くそう、何が謙信公だ。歴史の偉人とかカッコいいだろ、普通に考えて。
 そうだよ。そんな奴を相手にしているんだよ。
 最高の映像になるじゃないか。
「うぐ、ぐ……それがどうした。妾の腕が、口が、残っている限り、噛みついてでも……這ってやるぞ」
 笑みを絶やさぬまま、しかし立ち上がるだけの気力は残っていなかった。
 だから菘は、自身の胸から生える刀を敢えて握りこみ、
 脇をすり抜けてゆく友軍に託す道を選んだ。
「すまんの、もう少し、受け持つつもりだったんだが……」
「いいえ先輩。受けの映え、とくと見させていただきました」
 花のような道着に髪の黒が映える。
 凛とした百合かアザミと見違えるような佇まい。
 上泉・祢々(百の華を舞い散らす乙女・f17603)はその手に拳を握りこむのみで、未だ多くの刀を背負う軍神へと対峙する。
 そして──、
「スワッグ、チル……大したもんだぜ、チビッコ。あとは俺たちに任せな」
 固まった砂の塊と化したまま幾本かの刀を抱え込んだリューインの脇からも、独特の言い回しで賞賛を浴びせながら現れたサイボーグの青年、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)。
 彼もまた、手に隠れるほどのナイフを逆手に、最小限の武装で以て謙信に相対する。
「ヴィクティム先輩。先のお二人がどれほど受け持っていられるか、未知数です」
「ああ、わかってるよ。つか、先輩ってのはなんだ? 同い年だろ」
「速攻で決めます」
「おう、っておい、無視かよ!」
 わずかな言葉を交わすだけで、祢々とヴィクティムは言葉の噛み合わなさとは裏腹にほぼ同時に駆け出した。
「来るか……これで戦力を削いだつもりならば、甘いな!」
 既に六本の刀がリューインと菘に受け止められている今、謙信の自由になるのは両手の2本と、周囲に纏う4本のみ。
「──勝負しようぜ、軍神」
 先に仕掛けたのは、ヴィクティムの言葉だった。
 飛翔する4本の刀の猛攻を自慢の機動性と足さばき、フェイントも交えて大回りしつつ、言葉を投げるのは、路上の喧嘩で培った駆け引きの一種である。
 相手の興味を引いて隙を作るのは常套手段である。
「ふっ!」
 ヴィクティムの言葉に一瞬だけ逸れた注意の隙を掻い潜るようにして、祢々は飛び掛かる……ように見せかけて、身体を沈めつつ体を駒のように反転させ、足払いを放つ。
 フェイントにフェイントを重ねた足払いは、しかし出足を上げることで回避される。
 反撃に降り注ぐ謙信の二刀を飛び退りながらの足刀で捌く。
 金属と生身がぶつかるものとは思えぬ音が鳴り響くが、双方に新たな手傷は無い。
「無手で受けるか」
「刀は振るえぬ故」
 瞠目する謙信を鋭い目で見据え、呼気を蓄えるべく丹田に意をくべる。
 本来は残身は隙ではないが、それを可能にするほどの技量が謙信にはある。
 しかし、そこにすかさず、
「アンタと俺、どっちが強いか決めようじゃないか」
 ヴィクティムが謙信の背後から言葉を投げかけ、いちいち注意を逸らす。
 何気ない会話を持ち掛けるようで、フレンドリーにすら思えるそれは、確実に祢々の格闘を有利に運ぶものだった。
「やかましい男だ」
 振り向きざまに大刀を振るうが、ヴィクティムの持前の第六感と素早い身のこなしが、斬撃の間合いを正確に見切って必要分だけ後退する。
 そうして、祢々とヴィクティムと祢々はお互いのいずれかが謙信にとっての死角になる位置をとりつつ、着実に攻撃を加えていく。
 しかし謙信も然る者。いずれの攻撃も致命打には至らず、そして徐々に二人の連携にも慣れてきつつあった。
 そしてそれだけに、
「負けるのが怖い?それとも安い挑発には乗りたくない?」
「……」
「ハッ…毘沙門天の加護もそんなもんか」
「……」
「否定したいなら、付き合えよ!」
 積極的な攻勢に出ず、ほぼ言葉のみで注意を削いでくるヴィクティムのトリッキーな動きを捉えきれずにいることに、然る軍神ですらも焦れてきていた。
 そしてそのたびに、祢々の鋭い手刀が、足刀が、謙信の手足を刈り取らんと攻め立ててくる。
 正道と邪道を一身に受けるような、そのような複雑な攻防を幾重にも繰り返せば、いかに精妙を誇っていたオブリビオンとはいえ、ほころびの一つもあろうというものである。
 まして、謙信も今や無傷ではない。
 その肩口についた刀傷は、軽いものではない。
 攻防を重ねるうち、徐々に傷を負っている左肩、そちら側の反応が遅れてきているのに、二人とも気づき始めていた。
 そして、二人が狙う機は、ついに訪れた。
「蠅のように煩わしい。やはり、汝から倒す他にないな……!」
「っ、ヴィクティム!」
 幾度目かの攻防、謙信の背後から迫るヴィクティムに対し、再び振り向きざまの一刀が振るわれるが、それは今までの物とは異なり、別の属性を帯びた毘沙門刀に持ち替えての物だった。
 距離を見切ったヴィクティムは切っ先こそ回避するものの、帯電するその切っ先から迸る雷光をまともに浴びてしまう。
 声もなく全身を突き抜ける電光に痙攣するヴィクティムに、祢々の悲鳴にも似た声が響くが、もはやその声は届かない。
 全身から焦げ臭い煙を上げ、一部機械化した身体は不具合を来し、乱流と化した血流が血管を突き破って瞼や耳の奥などの鋭敏な粘膜から出血を及ぼすが、苦痛など通り越して、全身の感覚器官が破損しかねない勢いだ。
「うがが……ち、きしょお……よりによって、一番効くじゃねぇか……クソ」
 天変地異を引き起こす謙信の刀。それはまさに落雷のエネルギーそのものといっていい。大自然の驚異というなら、これほどサイボーグに効くものもあまり無いのではないだろうか。
 受ける属性は予想外だった。
 膝をつくヴィクティムの歪み始める視界に、たった一人で奮闘する祢々の姿が見切れる。
 ああ、ちょっといいのを貰いすぎたな。これはちょっとやばいかもしれない。
 ──Update Patch『Rise』
 ふざけるなよ。女一人残して、さっさとおねんねしてろってか。
 外道はいくらでもくぐってきた。自分自身もそれほど善人という気はしない。
 だが、格好悪いマネはしたくねぇ。
 ヴィクティムの脳裏に、謙信を出し抜くだけの勝算が芽吹く。
 敢えて食らうつもりだった相手のユーベルコードが、たまたま自分に不利に働きはしたものの、これしきのことでぶっ倒れていては、先の二人に、目の前で奮闘している生意気な格闘女に、申し訳が立たない。
 やってやるしかないだろ。
 受けた天変地異は、今コピーし、アップデートが完了した。もう、おれのものだ。
「っへへ、どうしたよ、軍神サマよ。俺をほっぽって、女遊びかァ?」
「なに……?」
 軽口は意外なほど謙信の注意を引き、その瞬間の隙を逃さず、ヴィクティムは今しがたコピーした天変地異の雷を自身の手から放出した。
「ぐあああっ!?」
「どうよ、自分で喰らったことはねぇだろ。実験台になった気分だどうだよ」
 悶絶する謙信を見据えながら、がさがさに切れた唇から悪態を垂れる。
 その手は自身から放つ雷により更に焦げ始めているが、もはやそれはどうでもいい。
 ていうか、こんな強力なのを浴びせてきたのかよ。ふざけやがって。
 体力の続く限り雷を討ち続けると、やがてヴィクティムは大きく息をついてついに地に腰を落としてしまう。
「ギーク……やっちまえ、祢々」
「、はいっ!」
 親指を下げる下品なジェスチャーを背に、祢々は苦し紛れに振るわれる謙信の刀を見切り、切っ先ではなく手元に手刀を打ち込むと同時にその手を捻り上げる。
 百華流夏の型、番外──『馬酔木』。
 犠牲を花言葉とする花の名を冠したそれは、相手の武器を握る手を極め、同時に武器を奪い取る技の一つである。
「この身はたった一度しか刀を振れぬ身、
 しかして今はそれで十全」
 奪い取った謙信の黒い刀。そして奪い取られた謙信が振り向くのと、祢々が手にした刀を最上段に構えるのはほぼ同時だった。
 ──ユーベルコード【破剣の呪い】
 それは、彼女自身に課せられた祝福。ありとあらゆる曰くのある刀であろうと関係なく、彼女がそれを振るえば、一撃で用いる刀を粉砕する。
 壊すばかりは自身の刀にあらず、元より刀の才を持って生まれた彼女は、その業を負いながらも鍛錬を欠かすことはなかった。
 なぜならば、彼女自身が一つの刃であるのだから。
「はああっ!!」
 致命的な音が、祢々の手元を伝う。
 黒い刀が飛沫のように煙となって消えていく。
 それは彼女の宿命というよりかは、
「……ここまでのようだな……見事な、連携、一刀であった」
 仁王立ち。毘沙門天の加護ぞありと謳うその立ち姿は、致命的な一撃を残しつつも、穏やかな顔つきで、空を仰いでいた。
「やっぱり、嫌ですね、これ」
 手元にはもう残らない刀だが、その感触は、手元の物が致命的な音を立てて壊れるというのは、剣を志した者にとって気持ちのいいものではない。
「私はその為に敗れたのだ。あまり、嫌ってやるな……」
「……すいません」
「ふふ、満足……。戦の中で逝けるなら、満足だ」
 思わず謝ってしまう祢々の言葉などもう届いていないかのように、軍神、上杉謙信は微笑みすら浮かべたままその身を煙と消していく。
 立ち姿のまま消えていく魔軍将の偉容を見送ると、ようやく祢々は安心したように息をつく。
「やったじゃねぇか、相棒」
「相棒ってなんですか。いつのまにそうなったんですか、先輩」
「だから先輩ってなんだよ。同い年じゃねぇか」
 そうして静けさの中に吹き抜ける風が草原を揺らすころ、猟兵たちは自分たちが生きていることを再確認する。
「うーむ、老骨にはちと厳しい相手だったかのー」
「ピンピンしてるじゃない、まったく、とんだ古狸だわ……こっちは、ドレスが鼻血まみれだわ」
「あっはっは、二人ともひっでぇ顔してやんの、あいたたた……」
 ある者たちは手傷を負いながらも、その顔に安堵の笑みを浮かべつつ。
「っぷは、いやー、やっと出てこれた。凍えて死んじゃうかと思いましたよもー」
「ふっふっふ、なかなかいい絵だったぞ。巨大ロボはやはり映えるものだ! それはそれとして、絆創膏か何か持ってない?」
 ある者たちは、お互いの健闘を称え、或は今後の事を考えて主に動画写りなどを心配していた。
 かくして軍神は去り、毘沙門天は誰なのか。
 毘沙門天は、本来は無病息災を司るという。
 上杉謙信が、自分とその配下に災禍が及ばぬよう、戦を前に加護を願ったとしても、そう不思議ではない。
 ならばこそ、今ここに生き残った猟兵たちにこそ、その加護はあるのではないだろうか。
 猟兵たちはめいめいに立ち、歩き始め、安息を求め、或は次の戦場へと歩みを進めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月19日


挿絵イラスト