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エンパイアウォー⑩~鉄甲船団を討て!

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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 サムライエンパイアは本州の南。
 瀬戸内海には無数の船が、その威容を見せつけていた。
 鉄の装甲を纏う軍船……鉄甲船と呼ぶにもあまりに巨大な海上の城は、幕府軍が南海道へと進軍するのを今か今かと待ち構えている。
 帆柱に『○の中に上』の海軍旗を掲げるその船の一隻。
 船員の幽霊が淡々と船を動かす傍ら、その甲板上に10人程の少年たちが各々好き勝手に屯していた。

「っ、このおおおっ!」
「まだまだっ!」
 傍から見れば、少年たちが相撲を取っている微笑ましい光景にも見えるだろう。
 だが、彼らが取り組む度に船を揺るがすような衝撃が走り、一歩間違えれば死人が出るような、殺傷力の高い業の押収が行われる。
 これは鍛錬。
 己の肉体を鍛え上げ、武を練り上げるための、命がけの修行だった。
「そこまでにしろ!全く、船を壊す気か?」
 黒曜の角を生やした、羅刹の少年たち。
 彼らが待つのは幕府軍などでは無く……。

「そら、もうすぐ来るぞ。俺たちの鍛錬の成果を試すに相応しい相手……猟兵が!」


「さてさて、サムライエンパイアの戦いも順調みたいだね?」
 グリモア猟兵、一比古・アヤメは集まった猟兵たちに、サムライエンパイアの戦争における次の作戦を説明する。
「君たちには瀬戸内海に向かってもらいたいんだ。大悪災『日野富子』が作り上げた鉄甲船……これを排除しなきゃ、南海道を通る幕府軍が全滅しちゃう」
 グリモアによって映し出されたのは、鉄の装甲で覆われた巨大な軍艦。
 日野富子が財力にモノを言わせて作り上げたこれらの船の帆柱には、一様に同じ水軍旗が掲げられていた。
「この船を動かしているのは、戦国時代の大海賊『村上水軍』の怨霊の力なんだ。ただの船だと侮ってちゃ返り討ちに合うよ」
 ○の中に上の字の軍旗を掲げた鉄甲船は、通常の攻撃はもちろん、猟兵のユーベルコードすら効かないという規格外の防御力を誇る。
 その弱点は唯一つ。帆柱に掲げられた村上水軍の軍旗を引き摺り下ろす事だ。
「そうすれば船は力を失って消滅するんだ。皆には船上に待ち構えるオブリビオンを相手しながら、軍旗を奪って来て欲しいんだよね」
 怨霊の力なのか、グリモアによる転移で鉄甲船に直接乗り込むことは出来ない。
 猟兵たちは陸地から、海岸からほど近くを航行する鉄甲船へと、何らかの手段で乗り込む事となる。

「ボクたちが狙う鉄甲船を守っているオブリビオンは【剛鬼武童衆】。どこかの戦国大名が育てた羅刹の少年たちの部隊だよ」
 彼らは鍛え上げた肉体のみで戦い、凄まじい戦果を上げた部隊だという。
 相撲、空手、柔術と無手の武術を極めているらしい。
「この子たち、主への忠誠心は強いけど……鍛えた自分の肉体を試すために真っ向勝負ばかり挑みたがるみたい。搦め手は警戒しなくて大丈夫かな」
 グリモアが展開し、猟兵たちを転送する準備が整う。
「特別強力なオブリビオンは居ないけど、この戦場も幕府軍の行く末を決める重要なポイントだよ。皆、エンパイアのために力を貸してね?」


桃園緋色
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 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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 桃園緋色です。
 今回も戦争シナリオに参加させていただきます。

 このシナリオは上記の通り集団戦となります。
 大悪災『日野富子』が作り上げた幽霊船団の鉄甲船を攻略し、幕府軍を救いましょう。

 プレイングには
 ・どの様に鉄甲船へと乗り込むか。
 ・剛鬼武童衆との戦闘はどうするか。
 ・標的となる軍旗への対応はどうするのか。

 といった内容を書いていただけると良いかと思います。
 特に一番目は、具体的な方法が書かれていない場合は自動で失敗するか、不利な状況で戦闘が始まるように判定いたします。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしています。
 
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第1章 集団戦 『剛鬼武童衆』

POW   :    極武技・相撲
【敵の防具を打ち砕くほどの強烈な突っ張り】が命中した対象に対し、高威力高命中の【背骨折りの抱擁と、脳天から落とす投げ技】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    極武技・空手
【視線】を向けた対象に、【一瞬で間合いを詰め、拳・蹴りの百連打】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    極武技・柔術
【四肢と首を同時に極める関節技】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マリア・フォルトゥナーテ
アドリブ、連携歓迎

むふふ!幽霊船ですって!?ならば!どっちが真に強い幽霊船か勝負といきましょう!

まず、囮としてUC『海賊船 アン女王の復讐号』に乗るゾンビ達に目標船を砲撃させて敵の目を向けます。

その隙に、神の呪いの効果で海底も航行できるフライングダッチマン号で、海中から接近し、敵の旗艦の真横に浮上して、敵艦をアン女王の復讐号と挟み撃ちにする形で砲撃し、敵を混乱させている間に乗り込みます。

乗り込んだ後は、深海の怪物クラーケンで敵の船を奇襲させて、その長大な10本の腕で敵を蹴散らしつつ、軍旗を引きずり下ろします。

私は動けませんので、攻撃も旗も全てクラーケンに任せましょう。

あれ?私、もしかして空気?



「ふふ、むふふっ……!」
 瀬戸内海に浮かぶ巨大な鉄甲船。
 その船員たちの耳に、突如として愉快そうに笑う声が届いた。
「なんだ……?」
 オブリビオン・剛鬼武童衆の一人が怪訝そうに周囲を伺ったのと同時、突如として一隻の船が飛沫を上げて海中から浮上する。

「幽霊船ですって!?ならば!どっちが真に強い幽霊船か勝負といきましょう!」
 神の呪いによって海底すら航行するその船はフライングダッチマン号。
 奇しくも村上水軍の霊たちが動かす鉄甲船と同じ『幽霊船』である。
 その甲板に立つ修道女、マリア・フォルトゥナーテ(何かを包んだ聖躯・f18077)は、己が手ずから建造した幽霊船に号令を下した。
「さあ、砲撃開始です!」
 爆音が轟き、フライングダッチマン号の左舷に備え付けられた大砲が火を吹いた。
 至近距離で横付けされた鉄鋼船はそれを避ける事もできず、無数の砲弾が装甲を叩く。
 だが………

「む……やはり堅いですね」
 事前の情報通り、鉄甲船はユーベルコードすら無傷で防ぐ。その船内では、オブリビオンたちが幽霊となった村上水軍の船員たちに激を飛ばし、混乱を沈めようとしていた。
「ならばクラーケンの出番ですね!」
 マリアは愛船から手すりを蹴り、今だ混乱する村上水軍の幽霊船へと飛び移った。
 すたりと降り立った猟兵に武童衆たちは即座に気づくが、それより早く異変が起きた。
「な、なんだっ!?」
 次の瞬間、海中から伸びた10の腕が、鉄甲船に巻き付き、締め上げるように力を込めた。
「い、烏賊のバケモンだっ!」
 それに混乱するのは船員の幽霊たち。船の強度はユーベルコードをはね除けるが、断続的な締め付けにギシギシと船体が軋むような不安を受け、彼らは恐慌状態に陥っている。
「さあ、このまま旗をもらいますよ!」
 その様子を見て、マリアは己が呼び出した海の怪物、クラーケンに指示を出す。
 クラーケンの腕の一本がマストの頂上へと伸ばされ……

「うおおおおおっ!」
 その直前、マストを駆け上がった武童の一人が触碗へと組み付いた。
 どういう原理なのか、骨の無い烏賊の触碗に関節技を決めてその動きを完全に封じる武童。
 たいしたダメージは無いものの、その光景にマリアも、そしてクラーケン自身も驚愕を覚えた。
「ええっ……?ま、まだです!ならまずは、このオブリビオンを倒しますよ!」
 指示にしたがい、武童を振りほどこうと腕を振り回すクラーケン。
 対する武童はそのまま腕を離し、くるりと甲板へ着地を決める。
「へへっ!面白い!巨大烏賊を相手にするのは初めてだ!」
 俺が相手だとばかりにクラーケンの腕へと襲いかかる武童。
 他の武童衆も、面白そうだとばかりに参戦する。
 クラーケンはさらに伸ばす腕を増やし、時にフェイントを掛けて旗を狙いながらも、複数の腕で武童衆を相手にしていく。

「そこです!今なら旗も無防備で………って、何で反応できるんですか!?」
 時にクラーケンが武童を海へと叩き落とし、時に触碗が武童によって殴り飛ばされる一進一退の攻防。
 その間にも横付けされたフライングダッチマン号は砲撃を続けて船員の混乱を煽り、戦いはクラーケンと武童衆の間で激化していく。

「……あれ?」
 そして、幽霊船と海の怪物に指示を出す間、身動きができないマリアはふと気づいた。
「私、もしかして空気……?」

そう呟く間にもクラーケンの奮戦によって、水軍旗を守るオブリビオンはその数を減らしていく……。

成功 🔵​🔵​🔴​

ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード
んー、あたしなら跳べば届くかな?
2kmくらいまでなら、【飛天襲爪】で陸地からジャンプして船に飛び乗るよ。
それより離れてるなら、適当な小舟を借りて近付いて、そこから飛び移ればいいかな。

武童衆は素手の戦いしかしないみたいだし、発電器官を使って電撃を纏って、
触れてきた相手を電撃でマヒさせて、思いっきり蹴って吹き飛ばそうか。
船の外に落ちればすぐには上がってこれないだろうし。

旗を見つけたら、そこに向かって跳んで旗を奪うよ。
奪ったらもう一回陸地に向かって跳んで、さっさと帰るとしようか。
あたしは殴り合いとか好きなわけでもないからねえ。



「派手にやってるねぇ……」
 巨大なイカが鉄甲船を襲う様子を眺めながら、ペトニアロトゥシカ・ンゴゥワストード(混沌獣・f07620)は間延びした声で呟いた。
 歪曲した角と竜尾。
 竜のような特徴を持つキマイラである彼女は、大きさの違うオッドアイで船上の様子を確かめると、自身と船との距離を測り始める。
「んー、これくらいなら……」
 青い鱗に覆われた脚にグッと力を込め、身をかがめた彼女は真っ直ぐに鉄甲船を見据える。
「あたしの脚には……どこに居ようが、ひとっ飛びだよ!」
 瞬間、彼女は潮風を切り裂く矢となった。


「気をつけろ!他の猟兵たちも乗り込んで……っ!?」
 剛鬼武童衆の一人が反応できたのは、自身が蹴り飛ばされる直前だった。
 突如として飛来した竜脚のキマイラの一撃を受けた少年は、防御もままならないまま壁に叩きつけられ意識を失う。
「ん、いい調子」
 スタリと甲板に着地したペトニアロトゥシカに、船員である村上水軍の霊たちは驚愕の声を上げる。
「一体何処から……」
「まさか、岸からここまで!?」
 それに対し、獰猛な笑みを浮かべるのは武童衆の少年たち。
「来たか!こっちの猟兵は足技の使い手か!」
「次は俺が相手をしてもらうぞ!」
 仲間の仇よりも腕試し。そんな調子で、羅刹の一人が構えとともに前に出る。
 そんなオブリビオンたちに、少女は変わらぬ間延びした声で。
「んー……遠慮しとく」
 その目が映すのは武童衆ではなく、中央のマストに据え付けられた水軍旗。
「殴り合いとか好きなわけじゃないからねぇ」
 再度の跳躍。
 その目標は船の要、水軍旗だ。
 彼女の狙いは敵の護衛を無視しての本命。一気に勝負をつけるべく、全力の跳躍でマストの頂上へと向かう。
「逃がすか!」
 敵がそれに反応できたのは、一度仲間が攻撃されたのを見たからか。
 羅刹の少年は一瞬にして間合いを詰め、跳躍直前の彼女に己の拳を叩き込んだ。

「づ、あ……!?」
 狙いは超高速の連撃。
 だが、最初の一撃を放った拳が硬直し、全身に電流が走る。
「ざんねんだったねぇ」
 異変を齎したのは、彼女が持つ発電器官。
 キマイラの肉体に備えたそれは、外敵から肉体を守る電撃の鎧にすらなる。
 武童衆の少年も、単なる痛みになら耐えられただろうが、電流による痙攣は防ぎようがない。
 そこへ容赦なく叩き込まれる獣竜の蹴撃。
 少年はそのまま船外へと蹴り出され、海へと落ちていった。

「さぁて、今度こそ旗を……」
 そう言ってマストに向き直ったペトニアロトゥシカが見たのは、より笑みを深めた武童衆たちが、マストへの進路を塞ぐように布陣する姿。
 どうやら立て続けに2人を撃破した実力は、敵のやる気を大いに引き出したようだ。
 ため息を吐いて、キマイラの少女は旗を狙う隙を探しつつ、武童衆と対峙するのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリス・レヴェリー
月鴉・湊(f03686)と連携
海賊ごっこ!なんだか面白そうね!えぇ、おじさんについていくわ。

海の上ならやっぱりあの子ね。【友なる白鯨、悠然の調べ】で、シロナガスクジラに似た容姿と体躯をもつ白鯨の幻獣、ムートを召喚するわ。
彼におじさんと、おじさんが喚び出した海賊さん達と一緒に騎乗。
船からの攻撃はムートの魔法結界とわたしの【刻命の懐中時計】の結界で弾き飛ばして、そのまま船に体当たりよ!

体当たりや尾びれの一撃で船を揺らしに揺らした後、海賊さんたちが乗り込むのに合わせて、おじさんと旗のもとまで向かうわ。

わたしがやっていいの?ほんとに?
それじゃあ遠慮なく旗に飛びついて引きずり下ろしちゃいましょ!
えいっ!


月鴉・湊
アリス・レヴェリーと連携

船を襲って旗を取る。面倒な仕事だな。
それにまともに戦えば痛い思いしそうだ。
アリス、離れるんじゃないぞ。さておじさんと海賊ごっこでもしようか。

アリスが呼び出したクジラの背に乗り、咎人達を呼び出す。
この状況でふさわしい奴ら。海賊や水軍の海の戦いに慣れたやつらだ。
このクジラが突っ込んで船が揺れで混乱しているときにそいつらを鉄甲船に乗り込ませる。野郎どもやっちまえ、なんてな。

そしてアリスを背負い船内が混乱している隙を狙い、血の糸で蜘蛛男みたいに旗の場所へ移動。アリスに旗を取らせる算段だ。

まともに戦えば怪我しちゃうからね。上手くやらせてもらうよ。



 猟兵の襲撃で混乱する村上水軍の鉄甲船。
 その見張り台の一つで、水軍の幽霊の一人が『ソレ』を発見した。
「ま、また来たぞおおおお!」
 鉄甲船の前方。
 波を切って現れたのは、巨大な白鯨。
 野生のクジラなどではない。その証拠に、真っ直ぐに鉄甲船を目指すその背には2人の猟兵の姿があった。
「おっと、これは出遅れたかな?」
 和装に身を包んだ月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)は、今まさに巨大なイカに巻き付かれる鉄甲船を見据える。
 その状態でもなんとか砲撃を行おうとする様子を確認し、湊は隣に立つ少女を即座に守れるように立ち位置を変えた。
「アリス、離れるんじゃないぞ。さておじさんと海賊ごっこでもしようか」
 湊の言葉に、アリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)は幼い外見相応に声を弾ませて答える。
「海賊ごっこ!なんだか面白そうね!えぇ、おじさんについていくわ!」
「よし来た。早速俺たちも乗り込もうか―――」
 湊は己のユーベルコードを発動させる。
「さて、ここで罪を償うチャンスを与えよう。誰が来てもいい。役に立てばね」
 咎人達の贖罪。
 咎人殺し・染物屋のカラスとして己が殺めた罪人たちの中から、海戦に長けた者たち召喚する。
 即座に白鯨の背には、『海賊団』と呼ぶに相応しい面々が呼び出される事となった。
「さあ、私達も仲間に入れてもらいましょう!」
 そしてアリスは、ユーベルコードで召喚した友達……魔法を操る白鯨に声をかけた。
 白鯨はアリスに答えるように一度潮を吹き上げると、見る間に速度を上げて鉄甲船へと突進していく。

「く、来るぞ!撃てぇえええ!」
 泡を食ったように慌てる村上水軍は、これ以上近づかせまいと鉄甲船に備え付けられた大砲を放つ。
「ムート、あなたもお願い!」
 アリスが自身の持つ『刻命の懐中時計』で結界を張れば、白鯨・ムートがそれに重ねるように結界魔法を発動する。
 二重の結界は白鯨の背に乗るアリスたちに飛沫一つ通さず、白鯨はそのまま、巨大イカに抑えられた鉄甲船へと全力で突進するのだった。


「野郎どもやっちまえ!……なんてな」
  轟音と振動に襲われる船上。
 白鯨の突進と同時に、その背から湊が召喚した咎人たちが鉄甲船へと乗り込んだ。
 本物の海賊さながらに海戦を仕掛ける咎人たちに、剛鬼武童衆が即座に迎撃にかかる。
「ちっ、こいつらは本命じゃない!召喚したやつを探せ!」
 無数の咎人と、武童衆が甲板でぶつかり合う。
 鍛え上げた業で咎人たちを葬りながら、召喚した猟兵を探して白鯨に目を向ける羅刹達。
 だが、既にそこに湊とアリスの姿は無く……
「上だ!」
 気づいたのは武童の一人。
 彼が見つけたのは、血の糸を蜘蛛の如くマストへと巻きつけ、空中を移動する湊の姿。
「させるか!」
 対応する武童の一人。
 彼は帆に繋がれた操船用のロープを曲芸のように駆け上がると、湊へと飛びかかる。
「おっと……!」
 湊は即座に血糸をあやつり、羅刹の一撃を躱すと、空中で身を捻って着地。
 そこは軍旗の掲げられたメインマスト、その水平に備え付けられた帆柱の上。
「もう逃さん!」
 ソレを追って着地する羅刹。目的の水軍旗を背に、湊と対峙する形だ。
 何が有っても背後へは抜かせまいと構えを取る武童に、湊もまた刀を構えて向かい合う。

「さあ、一つ腕試しと行こうか!」
「やれやれ……一筋縄じゃいかないかな」
 直後、間合いを詰めるべく帆柱を蹴る武童。
 それを牽制するのは、湊の手にする刀ではなく、血の糸による一閃。
「くっ……!?」
 想定と違う間合いにたたらを踏む羅刹。
 だが、彼が驚愕したのはその後だ。
「アリス、今だ!」
 羅刹の脚が止まった瞬間、湊の背後から小さな影が跳躍した。
「ふふっ、ありがとう!おじさん!」
 湊の背に隠れていたのはアリス。
 鉄甲船に乗り移ってから湊に背負われる形で潜んでいたアリスが、この瞬間に飛び出したのだ。
「ま、まて……っ!?」
 自らの頭上を飛び越していくアリスを追おうとする武童は、逆に間合いを詰めた湊の一撃を防ぐので手一杯だ。
 結果、アリスは悠々とマストの上を駆け、水軍旗へとたどり着く。
「まともに戦えば怪我しちゃうからね。上手くやらせてもらうよ」
 食えない笑みで武童へと告げる湊の視線の先では、アリスが小さな体を目一杯使って水軍旗を引き下ろす所だった。

「ふふっ、ごめんなさいね?この旗は、海賊アリス・レヴェリーがもらっていくわ!」
 笑顔と共に勝利宣言。
 こうして、鉄甲船から村上水軍の霊たちの力が失われていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

デュナ・ヴァーシャ
ふむ、船を攻めれば良いのだな。なら我が権能で神格を高め、この雷迅の脚力をもって海の上を走るとしよう。沈むより早く走れば、海に沈む事はない。ついでに鉄甲船の側面を思い切り駆け上がって甲板へ飛び込むぞ。

鍛錬を欠かさぬ肉体と精神は、この肉体の女神として実に好ましい。ゆえに戦いでは、相手の土俵に乗って相撲に付き合ってやる事としよう。
この剛健な肉体で突っ張りを受け止め、真っ向から四つ相撲に組み合ってやるぞ。肉体の圧を見せつけて、圧倒してやろうではないか。
投げ飛ばしてやるか、締め潰してやるか、押し倒して圧殺してやるか……力尽きるまで付き合ってやろう。骸の海へ還る土産に、この我の相撲、存分に味わうが良い。



「あぁ……ここまでか」
 水軍旗を奪われたことで、鉄甲船から村上水軍の霊たちの力は失われた。
 船を動かしていた船員の霊たちは消え去り、ただの鉄の船となった巨大鉄甲船は戦闘の余波でボロボロだ。
 時期に海に沈むだろう。
 残された羅刹の少年たちは、己の力を出し切ることも出来ずにみすみす旗を奪われた無念を噛み締めていた。

 霊たちも消えた甲板上。
 武童衆たちたちに近づくのは、美しい金の髪を棚引かせる女神、デュナ・ヴァーシャ(極躰の女神・f16786)だった。
「ん?お姉さんは帰らないのかい?」
 デュナに気づいた羅刹の少年が疑問をぶつける。
 先程まで戦って居た猟兵たちも既に殆どが任務を追えて帰還を始めている所だった。
「なに、鍛錬を欠かさぬ肉体と精神は、この肉体を司る女神として実に好ましい」
 そう口にするデュナの神たる肉体に掛けられた枷が、少年たちの目の前で解放されていく。
「故に……お前達に敬意を評して、お前たちの土俵にのって付き合ってやろう」
 スッと腰を落とし、低く構えるデュナの肉体に覇気が滾る。
 ユーベルコードによって神格を高め、肉体の潜在能力を最大限に高めたデュナの構えは、この国に伝わる相撲そのものだ。

 一瞬、呆気にとられたような表情をした武童たちの顔が、徐々に牙を向くような笑みに代わる。
 そのうちの一人が、我こそがと名乗り出るように一歩前に出た。
「なら、胸を借りるとしよう!」
 鏡合わせのように腰を落とし、次の瞬間、甲板を踏み抜くような勢いで武童の小柄な体が砲弾のように飛び出した。
 全身全霊のぶちかまし。
 デュナはそれを真正面から受け止める。
「ふっ……!」
「おおおおおお!」
 ガッツリと四つに組み合う女神と羅刹。
 互いに正面から力を尽くし、お互いの体がギシギシと軋みながら拮抗する。
「くくっ、素晴らしい力だ。その鍛錬の成果、堪能させてもらった」
 そして、徐々に力の天秤が傾く。
 女神としての力を解放したデュナは、徐々に武童を押し返して行き……
「はああああっ!!」
 最後は廻しを取り、羅刹の少年を甲板へと叩きつけた。

「っ、あ……!」
 自分が正面から投げ返されたことへ驚きと、戦い抜いた満足感。
 それらの表情を浮かべながら、羅刹の少年が躯の海へと還っていく。

「……やはり、この戦いに参加した甲斐があったな」
 息を整えたデュナは、その戦いを見届けた残りの羅刹たちに向き直る。
「お前たちも来るが良い。力尽きるまで付き合ってやろう」
 年相応の嬉しそうな少年の笑みと、戦に生きる修羅のような獰猛な笑み。
 それらが合わさったような表情で、次の武童が構えをとった。

「さあ、骸の海へ還る土産に、この我の相撲、存分に味わうが良い」
 そうして、女神と羅刹の戦いは、巨大な鉄の船が崩壊し、海の泡と消えるその瞬間まで続いた。
 最後まですべてを出し切った戦いに、女神も羅刹もなく。
 その場には、血生臭い戦に似つかわしくない笑みがあった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月24日


挿絵イラスト