エンパイアウォー⑧~餓えし屍人は生者を喰む
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「うわぁぁぁっ、化け物だぁっ!?」
「ひぃっ、逃げろっ、逃げるんだっ!!」
因幡国は鳥取藩にそびえ立つ、藩の象徴たる鳥取城。
そこからほど近くに位置するとある農村に、突如として"それ"は姿を現した。
肩から奇妙な水晶の塊を生やした、腐乱した動く屍の集団。およそ知性らしきものはなく、ただ呪詛と怨嗟に満ちた唸り声を上げながら生者に襲い掛かる、水晶屍人。
「く、来るな、来るな……っ、ぎゃぁぁぁぁぁぁァァァガガガガガガァァッ!!!」
逃げ遅れた農民の一人が屍たちに噛みつかれ、断末魔の悲鳴を上げる。
だが、その悲鳴は次第に歪み、澱み。憐れな犠牲者だった者は新たな水晶屍人へと成り果て、次の道連れを求めて同郷の者たちに牙を剥く。
「ひ、ひぃぃぃっ!」
「逃げろ、逃げろぉぉぉぉっ!!」
パニックに陥った農民たちは、恐怖に駆り立てられるまま、とにかく水晶屍人から離れようと一心不乱に逃げていく。
その先に在るのは鳥取城。自分たちがそこに追い立てられているとも知らずに――。
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「エンパイアウォーへの参戦に感謝します。リムは現在の戦況を報告します」
グリモアベースに集った猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(人間の精霊術士・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「織田信長打倒のために出陣した江戸幕府軍10万は、皆様の活躍によって無事に関ヶ原まで到着しました」
ここから先はいよいよ信長軍との本格的な合戦が予知されている。最大の難所となる関ヶ原には軍神『上杉謙信』と、大帝剣『弥助アレキサンダー』の軍勢が陣を敷き、それを越えた先でも、山陰道には陰陽師『安倍晴明』。山陽道には侵略渡来人『コルテス』、南海道には大悪災『日野富子』の軍勢が待ち受けている。
「この魔軍将の軍勢を撃ち破り、最低でも1万人以上の幕府軍を魔空安土城に到達させること。それがこの戦争に勝利する必須条件です」
これまで以上に厳しい戦いが予想されるが、決して諦めるわけにはいかない。この戦争の敗北はエンパイアの終焉の始まり――カタストロフの到来に繋がるのだから。
「皆様に今回お願いしたいのは、山陰道の防御指揮官である安倍晴明の作戦。強化型『水晶屍人』量産計画の阻止です」
水晶屍人は安倍晴明に造り出された、肩から謎の水晶を生やした動く屍だ。噛み付いた人間を同族に変える恐るべき増殖能力を誇り、先ごろの戦いでは奥羽を瞬く間に席巻し、幕府軍にとって大きな驚異となったが、その戦闘力は猟兵と比較すれば貧弱だった。
だが、この計画が成功すれば誕生する水晶屍人は、従来のものの十倍以上の戦闘力を発揮するという。この強化型『水晶屍人』量産の暁には、山陰道を通る幕府軍と猟兵全てを殺し尽くしても、ありあまる戦力となるだろう。
「そして、その肝心の計画とは――鳥取城内に近隣住人を集めた上で閉じ込め飢え死にさせる、というものです」
現在、安倍晴明に奪われその拠点となっている鳥取城は、戦国時代に行われた城攻めにおいても、類を見ないほどの凄惨さで有名な『鳥取城餓え殺し』が行われた場所であり、現在も籠城戦で亡くなった人々の恨みの念が強く残っている。
この城に満ちる怨霊と、集めた人々の生命と怨念を利用することで、安倍晴明は強化型『水晶屍人』を創造するのだ。
「すでに鳥取城周辺の農村に晴明の配下の水晶屍人が現れ、農民たちを城に連れ去ろうとしています。この計画を阻止しなければ幕府軍にも、無辜の一般人にも、膨大な犠牲者が出ます」
そうなる前に、農民たちを襲う水晶屍人を撃破し、彼らを救わなければならない。
「農民たちを襲いながら鳥取城まで追い立てている水晶屍人の集団は『鳥取城餓え殺し』で亡くなった人々の怨霊を利用して生み出されており、猟兵とも渡り合えるほどの超強化が施されています」
一対一で敵うほどではないが、集団ならば太刀打ちできる程度のレベルだ。猟兵は水晶屍人に噛まれても同族に変えられることは無いが、それでも油断ならない驚異だろう。
「戦争とはいえ、凄惨な苦しみと死を味わった人々の御霊を利用し、さらに大きな悲劇の呼び水とする。そんな所業をこれ以上続けさせるわけにはいきません」
淡々と語るリミティアの瞳には、静かな怒りの炎が燃えていた。
依頼の説明を終えた彼女は、手のひらにグリモアを浮かべて告げる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」
戌
こんにちは、戌です。
山陰道で幕府軍と猟兵を迎え撃たんとする陰陽師『安倍晴明』の恐るべき作戦。そのための犠牲になりかけている人々を救うのが、今回の依頼となります。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
紫谷・康行
俺には普通の人を守る方が性に合ってる気がするね
強い相手と戦うのは疲れるからね
とぼけた感じで言う
【射貫く声の黒雲ズカード】を呼びだし
農民と屍人の間に位置して農民を守る
可能なら仲間と協力
近づいてくる屍人には雷を線上に立ち上らせて足止めをしながら攻撃
離れている屍人には水の槍を撃ちだし、敵を押し込みつつ攻撃して敵との距離を稼ごうとする
農民達に落ち着いた、とぼけたような声で
「恵みの雨になるといいけどね
こいつらは食い止めておくから安心して村に帰って
嵐はここだけだから」
自身は後方に位置して指示を出す
仲間が攻撃を受けそうなら水の槍でサポート
農民が襲われそうなら雷で牽制
自分で行かないと助けられないときは剣を振る
リリト・オリジシン
渦巻いておるな、怨嗟の声が
その呪詛、嘆きを、妾が喰ろうてやろうぞ
逃げる村人にも足の差はあろう
屍が知性なく、生者へと反応するのであれば、手近な者から襲うは必定
故、逃げ足の遅い者達の逃亡を優先的に援護
噛まれ、その数を増やされても困ろうしな
怪力で材木なり、大八車なり、障害になりそうな物を投擲
屍と村人の間を隔て、僅かでも時稼ぐための障害とする
その間に距離詰め、障害押し退けてか、避けてかして出てきた瞬間を血染めの流星で叩き潰す。近付かれる前にな
無論、屍である以上、多少潰したところで再起不能とはなるまい
故、引き続いて罪喰いで諸共に喰ろうてやろう
宿す呪詛を、怨嗟を喰らい雪げば、現世にしがみつく力も残るまいて
「はぁっ、はぁっ……も、もうダメだ……」
突如として起こった水晶屍人の襲撃に、訳も分からず逃げ惑う農民たち。
彼らが血の通った生者であるのに対して、追うのは疲れを知らぬ屍の群れ。
必然、時間と共に両者の距離は縮まっていき、体力の無い者から逃げ遅れ始める。
「オォォォォォ……!!」
「ひぃっ!!」
息も絶え絶えの農民の喉首に、屍人が牙を突き立てようとした、その時――。
「渦巻いておるな、怨嗟の声が」
ドゴォッ!! と、勢いよく横合いから投げつけられたのは、村に置いてあった大八車の荷台だった。
「ゴガァッ?!」
「え……?」
吹き飛ぶ屍人。呆気に取られる農民。そこに姿を現したのは、救援に駆けつけた猟兵の一人――リリト・オリジシン(夜陰の娘・f11035)だった。
その手にはやはり村から拝借してきた材木や戸板が。彼女はそれを農民と屍人の間に投げ込み、両者の間を隔てる即席のバリケードを作り上げる。
「そら、今のうちに逃げよ。噛まれ、その数を増やされても困ろうしな」
「あ、ありがとう……!」
リリトが声をかけると、水晶屍人に捕まりかけていた農民は慌てて逃げていく。
敵は知性なき屍の群れ。その原動力が生者への怨念であるのならば、逃げ遅れた手近な者から襲うのは必定。そしてその前に立ち塞がる者がいれば、矛先が移るのもまた必然。
「俺には普通の人を守る方が性に合ってる気がするね。強い相手と戦うのは疲れるからね」
とぼけた風に言いながら、やって来た紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)もまた屍人の前に立ちながら、農民たちを守るための手練を行使する。
彼が召喚するのは【射貫く声の黒雲ズカード】。嵐から生まれし雲の精霊がその身体を広げ、投げ込まれた障害物と共に敵の行く手を阻む。
「グゥゥゥゥ……!」
障害物を押しのけ、雲を避けながら、猟兵と農民に襲い掛からんとする水晶屍人。
だが、敵が障害から姿を覗かせた瞬間、リリトの血染めの流星が頭蓋を叩き潰す。
さらにズガードが撃ち出した水の槍が、屍人を串刺しにしながら凍結させる。
牙と爪の間合いの外から繰り出される二人の攻撃は、決して敵を農民たちに近付けさせない。どうしても距離を詰められず、逆に押し込まれていく屍人たち。
「恵みの雨になるといいけどね。こいつらは食い止めておくから安心して村に帰って。嵐はここだけだから」
康行は後方からズガードに指示を出しながら、とぼけたような声で農民たちに語りかける。突然の事態にパニックに陥っていた彼らにとって、彼の落ち着いた振る舞いと目の前の光景は、何よりも信頼と安心に足るものであった。
「グゥゥゥゥゥ……!」
だが、今回の水晶屍人を衝き動かすものは、餓え殺された鳥取城の死者たちの怨念。鉄球に潰されようと氷槍に貫かれようと、痛みを知らぬ彼らは我武者羅に前進を続ける。
「やはり、多少潰したところで再起不能とはなるまいか」
障害物を越えて押し寄せる敵を前に呟くリリト。その目前に屍人の爪と牙が迫る。
それを防いだのは、黒雲ズカードが放った氷の槍と、立ち上る雷だった。
「ガァァァァ――ガッ!?」
「食い止めておく、って言ったからね」
そう告げる康行の手には、緊急時に備えた「闇払い」の剣が。とぼけた態度を取っていても、彼は決して警戒を怠ってはいない。
その意を受けた精霊はより激しく雷を線上に地面に奔らせ、此方に近付く屍人を纏めて痺れさせていく。
僅かな間ではあるが、水晶屍人の足が止まったこの好機を、リリトは見逃さなかった。
「その呪詛、嘆きを、妾が喰ろうてやろうぞ」
その身から溢れ出すのは、おびただしい量の血と呪い。それは赤黒い【罪喰】の竜の姿を形成すると、屍人たちを屠り喰らっていく。
「宿す呪詛を、怨嗟を喰らい雪げば、現世にしがみつく力も残るまいて」
処した相手の罪咎を貰い受け、その者の魂の穢れを雪ぐ――それがリリトの力であり使命。
竜の顎に砕かれた水晶屍人は、もう二度と生者に牙を剥くことは無かった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヴェル・ラルフ
死者への冒涜が招くであろう災厄だね…もう、終わりにしなくちゃ。
SPD
哀れみやらなんやら、感じないこともないけど…今はただ、目の前の敵を滅ぼすことに集中しなきゃね。
まずは[早業]を生かして【残照回転脚】による先制攻撃を狙う。
怯んだりはしないだろうけど…近接攻撃が主な攻撃みたいだから、距離をとって体力を削りたい。
その後、愛用のナイフ「明けの鈴」で[暗殺]技。仲間の攻撃に合わせて補佐、または単身で、敵の体勢が崩れたところを狙って、足を中心に攻撃。[傷口をえぐる]
あなたたちの苦しみは終わりにしなくちゃ。これ以上、罪を重ねさせるわけにはいかないよ。
…滅んで。
★アドリブ・連携歓迎
ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎
纏めて殺して素材にリサイクル、ってのは軍略としてみれば間違いなく最大効率に近いのよねぇ。…後の事とかそーゆーの一切合切取っ払えば、だけど。
ナリはともかく、対処は人間と同じでよさそうかしらねぇ。
グレネードの〇投擲織り交ぜつつ、攻撃の起こりを〇見切って〇先制攻撃で●的殺を差し込んで〇援護射撃するわぁ。
肘なり膝なり○部位破壊すれば、だいぶ脅威度落ちるわよねぇ。
ついでに弾丸にはルーン。刻むのはラグ・アンサズ・エイワズ。
「浄化」の「言葉」で「輪廻」へ戻す、○破魔〇属性攻撃にはうってつけでしょぉ?
効率は認めるけど。やらせるわけにはいかないわねぇ。
…飢えるって、キッツいんだから。
「纏めて殺して素材にリサイクル、ってのは軍略としてみれば間違いなく最大効率に近いのよねぇ。……後の事とかそーゆーの一切合切取っ払えば、だけど」
押し寄せる水晶屍人を前に、ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)は安倍晴明の作戦をそう評する。
万が一この作戦が成功した暁には、山陰道はいずれ屍の山に埋まるだろう。未来のことを考えていない、オブリビオンだけに実行可能な軍略であろう。
「死者への冒涜が招くであろう災厄だね……もう、終わりにしなくちゃ」
決意を秘めた眼差しで、そう呟いたのはヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)。
手には愛用のナイフ「明けの鈴」、そして脚には地獄の炎を纏わせて、疾風のごとく駆け出す。灰に還して魂ごと滅することも、ひとつの救いだろうと。
「哀れみやらなんやら、感じないこともないけど……今はただ、目の前の敵を滅ぼすことに集中しなきゃね」
先ずは接近される前に敵の体力を削ろうと、機先を制してヴェルが放つのは【残照回転脚】。黒煙けぶる地獄の業火が爆風を巻き起こし、周辺にいる水晶屍人を纏めて蹴散らしていく。
「オォォォォ……!!」
怨念に満ちた咆哮を上げながら、鍬や鋤といった農具を振りかぶり反撃せんとする屍人たち。しかしそれが振り回されるよりも速く、ティオレンシアの放った銃弾が彼らの四肢を撃ち抜く。
「ナリはともかく、対処は人間と同じでよさそうかしらねぇ」
相手の攻撃の起こりを見切り、その起点を潰す【的殺】。屍と言えども人体の構造に生者との大差はなく、肘や膝の関節部を銃弾にて破壊すれば、敵の動きは途端に緩慢なものとなる。
「グオォ……!?」
水晶屍人の体勢が崩れれば、ヴェルがすかさず懐に飛び込む。隙のない暗殺の技を以て振るわれる、細身で鋭い「明けの鈴」の白刃が、屍人の足の傷を抉る。
「もう村の人たちの後は追わせないよ」
足を封じればすぐさま距離を取る。相手がこちらより鈍く、近接攻撃を主体とするなら、有効なのは一撃離脱。屍人の振り回す農具や爪がヴェルを捉えることはない。
そこに投げ込まれるのはピンの外れたグレネード。逃げ足を失った屍人たちの中心で爆炎が巻き起こり、投擲の主であるティオレンシアからは追撃の銃弾が贈られる。
6連装リボルバー「オブシディアン」の弾丸に刻まれたルーンはラグ・アンサズ・エイワズ。
「『浄化』の『言葉』で『輪廻』へ戻す。あなたたちにはうってつけでしょぉ?」
破魔の属性を帯びた銃弾が、炎に巻かれた屍人の魂を骸の海に還していく。
「効率は認めるけど。やらせるわけにはいかないわねぇ。……飢えるって、キッツいんだから」
ティオレンシアのその言葉は、スラムで生まれ育った境遇から出たものか。偶然と奇縁に恵まれることが無ければ、今も彼女はあの暗い路地裏で蹲っていただろう。
身内すらも喰らうほどの壮絶な飢餓の中、死んでいった人々の辛さは、彼女にもいくらか想像はつく。だからこそ、ここでその悲劇を繰り返させる訳にはいかない。
「あなたたちの苦しみは終わりにしなくちゃ。これ以上、罪を重ねさせるわけにはいかないよ」
ルーンの銃弾の援護射撃が敵を牽制する中、戦場を駆けるのはヴェル。
死してなお怨念から解放されず、オブリビオンの策略に利用される屍人たちに、慈悲の眼差しを向けながら地獄の炎を纏い。
「……滅んで」
再び放たれた残照回転脚は、彼らの怨念も罪咎も苦しみも、全てを灰燼に帰していく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ビッグ・サン
「水晶屍人ですか、欲しいですね~」
リミティアの話を聞いてビッグが笑う
ビッグもネクロマンサーだ
未知のアンデットは気になるもの
転移されるとさっそく、水晶屍人が農民を襲う場面に出くわした
それでもビッグはすぐに動かず、動きを観察する
「ふむ、肩の水晶が力の源っぽいですね」
観察が終わると、ようやく動き出す
「怨霊よ、わが命に従うなら現世に干渉する力を与えましょう」
周りに渦巻く怨霊に魔力を与えて、ポルターガイストに変えるとその力で水晶を引き抜こうとする
相手の攻撃は、人形で受けますが、最悪攻撃を受けても死んでもマスクが無事なら何とかなるでしょう
使ってる体が水晶屍人になりそうならそれを支配して持って帰りましょう
「水晶屍人ですか、欲しいですね~」
農民たちを襲う水晶屍人と、それを迎え撃つ猟兵の戦いを、ビッグ・サン(永遠を求める研究者・f06449)は陰から眺めていた。
グリモアベースで敵の情報を聞いた時から、彼の口元には笑みが。ネクロマンサーの一人として、未知のアンデッドの情報は気になるものらしい。
転移してからもすぐには戦闘に加わらず、屍人の動きをつぶさに観察していた。
「ふむ、肩の水晶が力の源っぽいですね」
やがて一通りの観察を終えたビッグは、やや遅まきながらもネクロオーブを手に呪文を唱えだす。
「怨霊よ、わが命に従うなら現世に干渉する力を与えましょう」
周りに渦巻く怨霊に呼びかけ、自らの魔力を与えることで己の手足とする。
放たれた不可視の【ポルターガイスト】は彼の狙い通り、屍人の肩から生えた水晶に掴みかかると、驚くほどの力で引っ張りはじめる。
「ゴッ?! ガァァァァァッ?!」
驚き、苦悶の叫びを上げる水晶屍人。メリメリと音を立てて引き抜かれた水晶はたちまち光を失い、ごっそりと肩の抉れた屍は糸の切れた人形のように倒れる。
ビッグの見立て通り、この水晶が屍人たちを動かす重要な器官であることは間違いないようだ。
「グゥゥゥゥゥ……!!」
同じ怨霊を元とするポルターガイストの攻撃に気付いた屍人たちは、その操り主であるビッグの姿を捉えると、牙を剥き出しにして襲い掛かってくる。
死霊遣いにして人形遣いでもあるビッグは、自らが操作する人形で敵の攻撃を受け止めようとするが、いかんせん数が多い。何匹かの屍人は立ちはだかる人形を押しのけ、使役者の元にまで肉迫してくる。
「ガァァァァッ!!」
「おや、これはいけませんね」
だが、水晶屍人に牙と爪を突き立てられたビッグの表情は変わらない。彼の本体は魂を宿したマスクであり、今使っている身体も交換可能なヒトガタに過ぎない。
余裕の表情のままポルターガイストを操り、食らいついている屍人から急所である水晶を引きずり出す。
「ゴガァァァァ……ッ?!」
断末魔の呻きを残して、機能停止する水晶屍人。それを見下ろしながら、ビッグは噛み傷の付いた自分の身体の具合を確認する。
「どうやら水晶屍人にはならないようですね」
人形は生物とは違って屍人化の効果を受けないのか、それとも別の要因があるのか。水晶屍人自体が安倍晴明独自の呪法の産物であるため、考察の材料が少ない。
「まあ、仕方ありませんね」
使っている体を屍人化させてサンプルに持ち帰ろうという彼の目論見は外れたが、やるべき事は残っている。まだ動いている水晶屍人の掃討のため、ビッグは再び怨霊と人形を操るのだった。
成功
🔵🔵🔴
鳴宮・匡
◆アラジ(f04255)と
隣にいる彼の言葉に共感する思いは浮いてこなくとも
これが「間違ってる」んだろう、ということくらいはわかる
アラジが敵を全て押し留める覚悟ならその邪魔はしない
俺にできることはただひとつ
一秒でも早く、水晶屍人を殺すことだ
……俺に謝る必要はないさ
好きにやりな、それを支えるのが俺の役目だからさ
屍人の動きをよく「視て」
攻撃を受け止められた瞬間や
押し返されて体勢を崩したタイミングなど
「確実に当たる」瞬間を狙って撃つよ
【千篇万禍】の銃撃は、急所を違えない
強化されていようと、同じ箇所に幾つも撃ち込めば通るはずだ
容赦も躊躇もしないけど
迷わず逝けるようにくらいは祈ってやるさ
還りなよ、骸の海へ
十河・アラジ
鳴宮・匡(f01612)さんと一緒に
なんて惨くて非道い手段を使うんだ
罪のない人々を苦しめるだけに留まらない
飢え死んだ人たちまでも冒涜する、こんなことは絶対に許せないよ!
屍人たちだって被害者なんだ
彼等に咎を負わせないために、そして何より罪のない人々を守るために
ボクは前に立って攻撃を受け止め、戦う
【March of Right】――ボクの持てる全ての力を使って!
ごめんなさい匡さん、少し無茶をするのでご迷惑をおかけします!
きっと苦しかったですよね
口減らしの為に捨てられていたボクも、少し運命が違えばそちら側だったかもしれません
だからこそ新たな悲劇を、怨霊を生み出させはしない
ボクがこの手で助けて見せる!
「なんて惨くて非道い手段を使うんだ」
怒りに震える拳を握りしめながら、十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)は目の前の戦場を食い入るように見つめていた。
生まれながらにその額に聖なる者の使命を刻まれた少年。根っからのお人好しであり善性に溢れた彼にとって、此度の敵の策略は到底看過できるものでは無かった。
「罪のない人々を苦しめるだけに留まらない、飢え死んだ人たちまでも冒涜する、こんなことは絶対に許せないよ!」
――悲憤に満ちたその叫びを、彼の隣にいる鳴宮・匡(凪の海・f01612)は黙したまま聞いていた。
「…………」
幼年期より傭兵として戦地を渡り歩き、様々な惨状を目にしてきた彼には、この光景を見てもアラジの言葉に共感する思いは浮いてこない。
だが、それでも――。
(これが『間違ってる』んだろう、ということくらいはわかる)
青年の指先は静かに、手にした銃器のセーフティを解除する。
「ごめんなさい匡さん、少し無茶をするのでご迷惑をおかけします!」
言うや否や、白い十字架型の「赦しの剣」を構え、アラジは敵集団へと吶喊した。
餓え殺しの怨霊より生まれた水晶屍人の行動原理は生者への怨念。ならば自分が追い立てられる農民たちの間に割って入れば、その標的はこちらに集中する。
(屍人たちだって被害者なんだ。彼等に咎を負わせないために、そして何より罪のない人々を守るために――)
前に立って攻撃を受け止め、戦う。
【March of Right】――自らの持てる全ての力を使って。
「これがボクの……役目だ!」
「「オォォォォォォォ……ッ!!!」」
誰かを助け、誰かを守りたいという強き意志。その魂の輝きに引きつけられたかのように、屍人たちの攻撃が殺到する。
怨念に満ちた【屍人爪牙】を、剣とその身を以て受け止めるアラジ。屍人化する恐れはないとはいえその猛攻は激しく、鮮血と共に鋭い痛みが彼を襲う。
それでもアラジは一歩も退かず、敵の進撃を防ぎ止めながら剣を振るう。
敵を全て押し留めようというアラジの覚悟を見た匡は、それを邪魔しようとはせずに、彼が対峙する屍人たちの動きをよく"視る"。
(俺にできることはただひとつ。一秒でも早く、水晶屍人を殺すことだ)
アラジを襲う屍人の牙。それを赦しの剣が受け止め、敵の動きが止まった瞬間に、彼はアサルトライフル"Resonance"のトリガーを引く。
「見えた。そこだな」
観察による行動予測。そこから導き出される「絶対に当たる」タイミングに放たれる【千篇万禍】の銃撃は、急所を違えない。精確に同じ箇所へと銃弾の連射を叩き込まれた水晶屍人は、悲鳴を上げる間もなく活動を停止した。
「匡さん!」
仲間からの援護射撃に、ぱっと笑みを浮かべるアラジ。それに応える匡の表情は普段と変わらない、穏やかで人当たりのよい青年の顔で。
「……俺に謝る必要はないさ。好きにやりな、それを支えるのが俺の役目だからさ」
「はいっ!!」
奮い立ったアラジの振るう剣が、屍人の攻勢を押し返す。意志の力によって強化された身体能力より繰り出される、重く鋭い剣戟に、たまらず体勢を崩す水晶屍人。
その間隙を見逃さずに、匡の正確無比な銃撃が、標的の急所を射抜いていく。
(容赦も躊躇もしないけど、迷わず逝けるようにくらいは祈ってやるさ。還りなよ、骸の海へ)
倒れた敵からすぐさま次の敵へと狙いを移す、その所作に淀みはなく。さりとて無駄に苦しめることもない必殺必中の射撃は、少年の戦いを支える援護であると共に、匡から死者への不器用な慈悲でもあった。
「きっと苦しかったですよね。口減らしの為に捨てられていたボクも、少し運命が違えばそちら側だったかもしれません」
徐々に数を減らしていく水晶屍人に、アラジは剣を構えたまま語りかける。たとえそれが彼らに届くことのない言葉だったとしても。
壮絶な苦しみと絶望の中で生命を落とし、死後もなお怨念に魂を縛られ続けた彼らは、少年が救うべき者であると同時に、決して他人事でもなかった。
「だからこそ新たな悲劇を、怨霊を生み出させはしない。ボクがこの手で助けて見せる!」
決意を籠めて振り下ろされた赦しの剣は、屍人を真っ二つに両断し、現し世に囚われし魂を解放する。
さらさらと砂のように地に還っていく死者の骸へ、アラジは静かに祈りを捧げた。
大成功
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月代・十六夜
大集団は他のメンツに任せていいとして、こっちは細かいところを拾っていくとすっかな。
相手の攻撃は距離を空ければ基本問題はない。
【韋駄天足】の【ジャンプ】で屋根伝いに高速移動し【視力】と【聞き耳】で逃げ遅れた少数の農民の位置を【情報収集】し発見、救出に専念。
見つけ次第【鍵のかかった箱チェック】で一時的に収納し、また別の場所に向かう。
敵との距離が近かったら【ジグザグフィールド】で農民達と相手の間にワイヤー陣を貼って【時間稼ぎ】を行う。
それすら辛いなら飛び込んで自分で【視力】と【聞き耳】で【見切り】ながら回収で問題ないな。
粗方見つけたら光の結晶を目印に投げて離脱だ!
あとは範囲攻撃でも何でもヨロシクゥ!
「大集団は他のメンツに任せていいとして、こっちは細かいところを拾っていくとすっかな」
猟兵と水晶屍人の激戦が繰り広げられている戦場からやや離れ、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)は農村とその周辺を駆け回っていた。
突如として起こった襲撃に対して、全ての農民が一緒に逃げられた訳ではない。村の中で逃げ遅れた者や、仲間とはぐれてしまった者もいるだろう。そうした者たちを発見し救助するのが、彼の目的だった。
「いや……誰か……助けて……」
村の何処かから聞こえた微かな悲鳴。常人よりも並外れた聴覚を持つ十六夜は、それを聞き逃さない。
建物の屋根伝いに【韋駄天足】で駆けながら、五感を研ぎ澄ませて位置を特定。
風よりも疾く駆けつけた彼が視界に捉えたのは、今まさに屍人の爪牙にかからんとする農民の姿であった。
「間一髪ってか」
即座に放つのは【ジグザグフィールド】。十六夜の手から放たれたワイヤーが周囲に張り巡らされ、農民と屍人の間を隔てるワイヤー陣を構築する。
「グゥ……?!」
振りかざした爪牙をワイヤーに絡め取られ、困惑する水晶屍人。その間に十六夜は農民の元に降り立つと、懐から小さな鍵のかかった箱を取り出した。
「あ、あなたは……?」
「詳しい説明は後な。助けに来たんで、とりあえずこれに触ってくれる?」
驚いている相手に向かって小箱を差し出すと、不安そうにしながらも今は迷っている余裕もないと悟ったのだろう、意を決して手を伸ばす。
「わっ?!」
一瞬のうちに小箱の中に吸い込まれていく農民。UDCから借りたその箱の仕組みは本人にも謎だが、ここにいるよりは安全なはずだ。
無事に農民を収納した十六夜は、水晶屍人がワイヤー陣を引き千切る前にその場を離脱する。
それからも十六夜は休むことなく村を駆け巡り、逃げ遅れて孤立していた農民たちを見つけては小箱の中に収納していく。
だが主戦場から離れているとはいえ、農民を狙う水晶屍人との鉢合わせは避けられない。そして屍人にとっては、猟兵も農民も等しく恨むべき生者だ。
「グォォォォ……ッ!」
こちらの姿を見るなりぶんぶんと農具を振り回して襲ってくる屍人から、距離を取るように十六夜は飛び退く。
敵の攻撃は近接攻撃が主体。スピードで勝る彼が、敵の間合いに入ることはない。
「オォォォォッ!」
怒れる屍人を尻目に、十六夜はあくまで農民の発見と救出を優先して、すたこらと韋駄天足で走り去っていく。
「これで粗方見つけたかね」
大事に小箱を持ちながら振り返ると、そこには追ってくる何体もの屍人の姿が。農民を探すついでに気付けば敵まで集めてしまったらしい。
十六夜はポケットから光の力を籠めた属性結晶を取り出すと、敵の群れの真上で弾けるように投げつける。
「あとは範囲攻撃でも何でもヨロシクゥ!」
ぱっと村の上空で起こった閃光が、付近で戦っている猟兵に敵の位置を伝える。
残った敵の殲滅を仲間たちに任せると、十六夜は収納した農民たちを安全な場所まで送るため、全速力で戦場から離脱していくのだった。
成功
🔵🔵🔴
鈴木・志乃
別に疲れてなんか、ない
(エンパイアウォー70戦越え)
……皆骸の海に還す、から!
初手は念動力で周囲の器物を操り敵にぶつける
怯んだ隙にタックルかまして足払い&転倒させる
自分が傷つこうと構わない!
第六感で怨念の動きを予測し攻撃を見切り光の鎖を食ませ、縛り上げる(早業武器受け)
抱き締めるよ(手をつなぐ)
間に合わなくてごめん
祈り、破魔を乗せた全力魔法UCの衝撃波で安倍晴明の全ての術と呪詛、怨念をなぎ払う
そして失われた意志を、希望を空に還そう
これが救いになるなんて思ってない
でも、どうか
これ以上操られてほしくない
一瞬でも幸せを思い出して欲しいって願ってしまったから
……ひびけ、とどけ、この祈りよ
……。
雛菊・璃奈
外道だね…。戦えない農民を狙い、死して尚、自身の駒として扱うなんて…。
【狐九屠雛】を展開し、更に【呪詛】で強化…。
屍人は遠距離の攻撃を持って無いみたいだし、黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い】で射程内に近寄らせない様に吹き飛ばし、【狐九屠雛】で迎撃して凍結させて身動きを封じる等して対処するよ…。
凍結した屍人達は【ソウル・リベリオン】で死者を縛る怨霊と怨念、術を断ち切り、浄化するよ…。
せめて、安らかに眠れるように…。
もう苦しむ必要はないから…。
これ以上、戦う必要はないから…だから、ゆっくりお休みなさい…。
味方の上げた閃光を目印にして、屍人の群れの元に駆けつける猟兵たち。
その一人、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は、哀れみと悲しみを眼差しに宿しながらも、毅然とした表情で水晶屍人と対峙する。
「……皆骸の海に還す、から!」
「「グォォォォォォォ……!!!!」」
怨念より創造されし屍人の群れは、怨嗟に満ちた雄叫びを上げて生者に牙を剥く。
その姿を見つめながら、怒りにすうと目を細めるのは雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)。
「外道だね……。戦えない農民を狙い、死して尚、自身の駒として扱うなんて……」
怒りの矛先はこの悪辣なる策略を企てた魔軍将、安倍晴明に。
これ以上の惨劇を阻止するために、彼女は呪槍・黒桜を握り締める。
「「オォォォォォォォッ!!!」」
咆哮する屍人の群れが、その爪牙の間合いに猟兵たちを捉える前に。璃奈は呪槍に籠められた力を解放し、黒い桜の花びらの様な呪力を戦場に吹き荒れさせた。
同時に志乃も周囲にあった器物を念動力によって浮かべ、勢いよく投げつける。
「「ゴアッ!?」」
呪力の衝撃波と器物の雨に、吹き飛ばされる屍人たち。敵の足並みが乱れた隙を突いて、志乃は一気に距離を詰めると、最前にいた屍人をタックルで転倒させる。
当然、間合いに踏み込めば敵の反撃も来る。怨念の籠もった屍人爪牙、その軌道は直感で見切りながら、聖者の力を吸い込んだ光の鎖で受け止める。
(別に疲れてなんか、ない)
既にこの戦争で70を超える戦場を転戦している志乃。
しかしその動きが疲労によって精彩を欠くことはない。
(生命を踏みにじる奴は許さない。絶対に)
この戦いの元凶――第六天魔王『織田信長』に対する怒りの炎が、今の彼女を衝き動かしていた。
「魂をも凍てつかせる地獄の霊火……」
志乃が前線で敵を足止めしている内に、璃奈は九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】を展開し、自らの呪力で強化していく。それは生者であろうとも死者であろうとも例外なく、触れるモノ全てを凍てつかせる絶対零度の炎。
「オォォォ……?!」
火矢の如く放たれた【狐九屠雛】の命中した水晶屍人は、瞬時に骨の髄まで冷気に侵され、物言わぬ氷像と化していく。辛くも炎を逃れた屍人には、志乃の操る光の鎖が。開かれたままの顎に鎖を食ませ、そのまま全身を雁字搦めに縛り上げる。
――こうして、戦場に残っていた水晶屍人は、地獄の霊火と光の鎖によって一体残らず無力化された。
「グゥ……オォォ……」
半身を凍てつかされ、鎖に縛められた屍人が呻く。
それは晴らされぬ無念と、尽きることなき怨嗟を訴えるかのように。
その姿を志乃は哀しげな表情で見つめ――そっと腕を伸ばし、抱きしめる。
「間に合わなくてごめん」
「ガァァ……!」
暴れる屍人の爪が、肌を切り裂く。それでも彼女は腕の力を緩めない。
奪われた生命。弄ばれた魂。それらはもう、二度と元の形に戻ることはない。
今、彼女にできることは、彼らの怨念を抱きしめ、その呪いを払うことだけ。
祈りを捧げる志乃の左ももの聖痕から、眩い光が迸る。
「呪詛喰らいの魔剣よ……彼の者を縛る呪いを喰らい、正しき姿、正しき魂へ戻せ……。彼の魂に救済を……!」
そして璃奈も、死者を縛る怨霊と怨念から屍人たちを解放すべく、魔剣【ソウル・リベリオン】を召喚する。
凍りついた水晶屍人に向ける刃は、決して彼らを傷つけるためのものではなく、彼らの呪詛を喰らい、在るべき姿へ戻し救済する力。
「せめて、安らかに眠れるように……」
慈悲の念を籠めて放つ一閃。その所作はまるで舞いを踊るかのように流麗だった。
志乃の祈りと破魔の力が起こす光の衝撃と、璃奈の振るう呪詛喰らいの魔剣が、水晶屍人を創り上げた安倍晴明の術を断ち切り、呪詛と怨念を薙ぎ払っていく。
腐り果てた肉体はさらさらと崩れて土に還り、肩の水晶は粉々に砕けて風に散っていく。そして浄化された魂は、蛍火のような仄かな光を放って、宙に漂っていた。
「踏み躙られたその願い、私が聞き届けるよ…………」
浮かぶ魂にそっと手を差し伸べて、志乃が唱えるのは【祈願成就之神子】。呪いや術によって失われた意志を、希望を空に還すためのユーベルコード。
(これが救いになるなんて思ってない。でも、どうか。これ以上操られてほしくない、一瞬でも幸せを思い出して欲しいって願ってしまったから)
救いとは呼べずとも、せめてもう二度と彼らの安息が悪しき者に穢されぬように――祈りと共に溢れる聖光は死者の道標となり、その魂を安らかに天に導いていく。
「もう苦しむ必要はないから……」
昇天する魂が無事に安息を得られるように、璃奈は魔剣の剣舞を舞う。
戦場に遺された怨嗟と呪詛、その一欠片たりとも余さず喰らい尽くすために。
「これ以上、戦う必要はないから……だから、ゆっくりお休みなさい……」
戦国の世の戦乱の犠牲者となり、無念に縛られ続けた鳥取城の怨霊たち。
太平の世に再び巻き起こった戦乱の道具とされた彼らが、ようやく眠りに就く時が来たのだ。
「……ひびけ、とどけ、この祈りよ」
歌うような囁きを唇に乗せながら、空に消えていく魂の光を志乃は見届ける。
「……」
空を仰ぐ彼女が、その時どんな表情をしていたのかは、誰も知らなかった。
――かくして、猟兵たちは水晶屍人から農民たちを救い、安倍晴明の計画の一端を挫くことに成功する。
死者と生者を弄ぶ、悪辣なるその所業に報いが下る時も、そう遠くはないだろう。
大成功
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