エンパイアウォー⑧~水晶屍人、渓流に現る
●鳥取・袋川
清らかな渓流にて。
「そぉれっ」
「おおっ、いい型の鮎だな」
「今日は長助ばかり良い鮎が釣れる」
「ははは、腕だ、腕」
10人ほど農家の若者たちが、膝まで川に入って鮎の友釣りをしている。農作業の忙しい夏場におけるつかの間の休息であり、大事な食料調達でもある。
男もいるし、女もいる……貴重な男女の出会いの場でもあるのかもしれない。
川の流れに、暑さも、農作業の厳しさも忘れられる楽しいひととき……だったのだが。
『グガアアァァォ!』
突如、獣のような吠え声がして、振り返ると……そこには。
「な、何だあれは!?」
「化け物だ!!」
川沿いの森から、肩に水晶を生やした化け物が10体ほども飛び出してきて、彼らの方へと向かってくるではないか!
「きゃあっ!?」
化け物に一番近い位置にいた娘が、驚きのあまり川の中で転んで、化け物に掴まってしまい――。
「ああっ!?」
化け物の1体が、一瞬の躊躇もなく、娘の喉笛に食らい付いた。そして他の化け物も競うように娘に群がって齧り付き、川がみるみる赤く染まっていく。
若者たちはじりじりと後退りながらも、その光景から目が離せない。
「くっ、喰ってる……!」
「に、逃げろ、村に戻れ!」
「いや、村に化け物を連れてくわけには……そうだ、お城に逃げ込もう! ここならお城が近いし、化け物が出たと、お侍に知らせねば……!」
●グリモアベース
「……安倍清明は、全く以て悪辣な策を取ってくるでござるな」
深い溜息を吐いてから、月殿山・鬼照(不動明王の守護有れかし・f03371)は、集った猟兵たちに語りはじめた。
山陰道の防御指揮官である安倍晴明は、奪った鳥取城を拠点として、猟兵と幕府軍を壊滅させる準備を行っている。
その鳥取城は、有名な『鳥取城餓え殺し』が行われた場所である。戦国時代でも最も惨いと言われる殺され方をした住民の恨みの念が強く残っており、晴明はその怨霊を利用して『水晶屍人』を生み出したのだ。
この城に、近隣住民を集めた上で閉じ込め飢え死にさせることで、奥羽の戦いで使用した『水晶屍人』の十倍以上の戦闘力を発揮させる事が可能となるのだ。
この強化型・水晶屍人量産の暁には、山陰道を通る幕府軍と猟兵全てを殺し尽くしても、ありあまる戦力となってしまうだろう。
「これ以上、水晶屍人を増やさぬために、鳥取城に農民を連れ去ろうとしている所に駆け付けて、水晶屍人を撃破し、人々を救出して頂きたいのでござる」
鬼照は鳥取地方の地図を広げ、ある地点を指し示した。
「皆様に向かっていただくのは、日野川の中流域でござる」
若い農民たちが鮎釣りをしているところを、水晶屍人が襲うので、それを防いで欲しいのだ。ヤツらは、農民たちの一部を食い殺して、恐怖にかられた人間を追い立てるようにして鳥取城に追い込むような方法をとる。
「注意していただきたいのは、奥羽の際よりは出現数は少ないものの、ここの水晶屍人は10体程度で猟兵と渡り合えるぐらいの超強化を施されている、というところでござる」
奥羽と違って、水晶屍人の攻撃を受けると、猟兵でもダメージを喰らってしまう。
「ここの水晶屍人は、仲間の死体を喰って生き延び、自分が死んだあとは仲間に死体を喰われた……そんな凄惨な死に方をした者の怨霊でござる」
鬼照は合掌し瞑目した。
「哀れではござるが、これ以上の被害を出す前に、眠らせてやるのが慈悲でござろう」
小鳥遊ちどり
猟兵の皆様、残暑お見舞い申し上げます。
まだまだ暑いですね……夏も、戦争も!
●このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
●撃破しなければならない強化型・水晶屍人は10体です。個々は奥州のより大分強いです。
●現場は石がごろごろしている河原。特に障害物はなく、襲われる農民たち以外の一般人が現れたりすることはありません。
ではでは、山陰道方面軍を守るため、よろしくお願いします!
第1章 集団戦
『水晶屍人』
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POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
※訂正:川の名前が2つ出てきていますが、章タイトルの方が正しいです。申し訳ありません。
杼糸・絡新婦
襲っている村人と水晶屍人の間に割り込むようにして参戦。
ろくなこと仕出かさへんな、あの陰陽師。
悪いけど、その体壊させてもらうで。
錬成カミヤドリで鋼糸・絡新婦を召喚。
さて、どんだけ切り刻まなあかんやろか。
出来るだけ同じ個体を
確実に仕留めるようにして攻撃。
囲まれないように注意しつつ
【フェイント】をいれ敵の動きを翻弄。
敵の攻撃は【見切り】で出来るだけ回避し、
糸を張り巡らせるようにして【罠使い】で足止めしつつ、
絡みつかせるようにして拘束できた【敵を盾にする】
ことで防御に使う。
セツナ・クラルス
…なんということを…
負の連鎖はここまでにしよう
手は多ければ多いほどいいだろう
…おいで、ゼロ
共に歩もう
別人格ゼロを召喚
敵を農民の間に
属性魔法で発生させた炎を割り込ませる
ここは我々に任せ、攻撃の届かない場所まで避難してくれるかい
心配はいらないよ、直ぐ終わらせる
安心させるように笑みを絶やさず声をかけ
敵に背後を取られないように
ゼロと私、背中合わせで死角を補い合いながら戦う
生み出した炎には破魔の力も込めて
なるべく苦しむことのないように浄化させたい
餓えるのは辛かったね
よく今まで耐えてくれた
しかし、もう大丈夫だ
これからは飢えも苦しみもない世界に送るから
…こんなことしかできずに
何が救い主だ
…私は何もできない…
黒羽・鴉
【鴉メイン】
力ない人を襲わせたり、ましてや戦争の道具の様に扱うなんてのは全くもって気に入らねえな。
…阻止させてもらう。
何より襲われ掛けている者を優先に介入。
《かばい》つつ《吹き飛ばし》か《咄嗟の一撃》で腕なり足なり斬り飛ばして《部位破壊》農民が逃げる隙を与える。
その際には「村へ帰れ!」と必ず言い添える。
相手攻撃は《第六感、見切り》で冷静に見極めながら此方からは剣刃一閃。
多少の怪我はブレイズフレイムが使えてむしろ好都合。
他に襲われそうな者の距離が離れている時は蒼鷺火で一気に距離を詰める。
お前自身はもう分からないかもしれんがな。
……もう、痛みも哀しみも苦しみも終いだ。
眠れ。
●アドリブ歓迎
黒鵺・瑞樹
アレンジ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流
とにかく水晶屍人と農民たちの間に割って入り【かばう】。【奇襲】かけられるなら御の字。
足止めも兼ねた【マヒ攻撃】、急所狙いで【暗殺】のUC剣刃一閃で攻撃する。
確殺できなくとも【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
相手の物理攻撃は【第六感】【見切り】で回避。だが状況次第で屍人を【おびき寄せ】て、農民たちを【かばう】優先。
なんとなくだが自分に近い方優先で襲ってくるだろうからな。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】で受け流し、それから【カウンター】を叩き込む。
それでも喰らってしまうものは【激痛耐性】でこらえる。
馮・志廉
兵法として見るならば、効率の良い方法と言えるのかも知れん。
だが、無関係の民を巻き込むやり方は、断じて捨て置けん。
農民と水晶屍人の間に割って入り、襲撃を阻止する。
走って間に合わぬようなら、河原の石を飛刀の要領で放って牽制とし、近づかせぬよう立ち回る。
屍人一体一体を確実に討つべく、各個撃破を狙う。
『大力鷹爪功』で、爪が来れば手首を掴み、牙が来れば喉を掴む。
いずれも引き崩して組伏せ、『金鷹散手十三式』で屍人の胸部を打ち砕く。
「お前達の仇も織田信長ならば、その仇討ち、俺が引き受けよう」
件の河原の近くに転移させられた猟兵たちは、一刻を争うように現場を目指していた。
「セイメイ……なんということを……」
脚を速めながら、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、悪辣な敵への怒りと嫌悪が沸いてくるのを感じていた。
「負の連鎖はここまでにしよう……今回は、手は多ければ多いほどいいだろう」
早速ユーベルコード【共存共栄】を発動し、
「おいで、私の愛し仔。共に歩もう」
【別人格『ゼロ』】を召喚した。
「……おいで、ゼロ。共に歩もう」
ゼロはセツナとほぼ同じ姿を持つが、三白眼気味の瞳は金の色である。
「兵法として見るならば、効率の良い方法と言えるのかも知れん」
馮・志廉(千里独行・f04696)は、むしろ晴明の悪辣な戦法を評価するような発言を漏らしたが、その表情には怒りが漲っている。
「だが、無関係の民を巻き込むやり方は、断じて捨て置けん」
いくら頭脳的な作戦といえど、悪を憎む事仇の如く戦い続けてきた彼が、許せるはずはない。
グリモア猟兵が予知した場所は、袋川中流のこのあたり……と、幾分漠然としていた。
しかし探すまでもなかった。若い男女の悲鳴が聞こえてくる。すぐそこ、川が蛇行している向こうの浅瀬だ。
猟兵たちはゴロゴロした石を踏みしめ、全速力で駆けた。
見えて来たのは、肩から水晶を生やした化け物が、怯える農民たちに迫っていくおぞましい光景――。
杼糸・絡新婦(繰るモノ・f01494)は、河原から浅瀬にダイブするかのように跳躍した。
「ろくなこと仕出かさへんな、あの陰陽師は!」
川の中で転び、今しも化け物の牙の餌食になりそうだった娘に覆い被さる。
水晶屍人は、娘の代わりに絡新婦の肩に噛みついたが、猟兵は一般人と違って、ひと噛みされたくらいで倒れはしない。
しかし、
「……つぅ」
痛いものは痛い。
更に、絡新婦を獲物と見て、水晶屍人が何体も襲いかかってくる――。
「……危ない!」
絡新婦に更に襲いかかろうとしている屍人を遠ざけるため、セツナは、駆け寄りながら属性魔法で発生させた炎を割り込ませた。
「大丈夫かい!?」
「ああ、このくらいかすり傷や……この娘を村人に」
噛みついている屍人を振り払った絡新婦が、恐怖のあまりか気を失ってぐったりしている娘をセツナの腕に託した。
「ああ、任せて」
セツナはゼロにカバーさせながら、河原で立ちすくんでいる村人たちの元へと走った。娘を頑強そうな若者に背負わせ、
「ここは我々に任せ、攻撃の届かない場所まで避難してくれるかい。心配はいらないよ、直ぐ終わらせる」
安心させるように笑みを絶やさず声をかける。
黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)も、まずは、絡新婦と彼が庇った農民の娘に殺到する水晶屍人たちに立ち向かっていた。
右手に胡、左手に黒鵺の、打刀とナイフの二刀流で、とりあえず屍人の動きを止めるべく、腱を狙い斬りつける。奇襲とも言える彼らの介入に、知性のない屍人たちはすぐには対応できない。その一瞬が勝負、とばかりに瑞樹は刃を走らせる。
「来るんじゃねえ」
黒羽・鴉(両面宿儺・f09138)もまた、絡新婦と新たに襲ってくる屍人との間に入り、巨大な剣を振り回し、吹き飛ばすようにして遠ざけた。
セツナから娘を受け取り、河原から道へと上がっていく農民たちの後ろ姿に、鴉は、
「村へ帰れ! 城にはぜ絶対に行くな!」
と、注意を飛ばす。晴明の悪辣な作戦を挫くためには、被害者を出すわけにはいかないのだ。
娘を仲間に託した絡新婦は、噛まれた肩を血で濡らしながらもスッと立ち上がり、大きく後ろに飛び退った。
「悪いけど、その体壊させてもらうで」
自らの味を覚えた水晶屍人に凄みのある笑みを向けると、でユーベルコード【錬成カミヤドリ】を発動した。彼自身の本体である鋼糸・絡新婦が、50本近くも複製される。
「鋼糸【絡新婦】いざ、参るてな――さて、どんだけ切り刻まなあかんやろか」
ガアッ、と吠えて、水晶屍人が絡新婦の血にまみれた牙を見せ、再び襲いかかってきた。
ふわり、と絡新婦の片手の鋼糸が、水晶屍人の前方に広がった。絡め取ろうというよりは相手のリズムを崩そうというような緩やかな動きだ。水晶屍人は反射的に手を伸ばしてそれを払おうとする……が。
緩やかに投げられた糸は空中でするすると蜘蛛の巣を形作り、バサリ、と水晶屍人に覆い被さった
『ウガッ!』
突然仕掛けられた罠から逃れる暇もなく、絡新婦のもう片手の糸が。
シュッ。
今度は目にも止まらぬ速さで襲いかかり、水晶屍人を縛り上げる。凄まじい速さで絡みつき、締め上げられた糸はまるで刃物のように屍人の身体を斬り裂く。
『ギャアアアァァ……!』
悲鳴を上げる屍人を糸で引き寄せながら、絡新婦は、
「ふふ、しばらく盾になってもらうで」
笑い含みで囁いた。
セツナは、村人たちが河原から道の方へと退避していくのを見届けると、ゼロと共に水晶屍人と仲間たちが戦う浅瀬へと戻った。
「ゼロ、いくよ」
敵に背後を取られないように、ゼロと背中合わせで死角を補い合う。ふたりは杖から次々と炎を撃ち出していく。接近することのできない屍人は焦れたように、
『ガアッ』
一声吠えると、肩から生えている水晶から閃光を放った。
「……うっ」
まともに喰らってしまったセツナは腕で顔を庇ったが、それでも目が眩む。
しかし背中合わせで戦っていたゼロは影響が少なく、セツナを押しやるようにぐるりと態勢を入れ替えると、水晶閃光を放った屍人に一際大きな炎を見舞った。
『グガッ!』
炎を喰らった屍人はのけぞって川に倒れ込んだ。
「助かったよ」
セツナも幾度かの瞬きで視界を取り戻すと、ゼロと同じ敵に集中して炎をぶつけていく。
撃ち出す炎には破魔の力も籠もっており――セツナは思う。
――なるべく苦しむことのないように浄化させたいんだ。
だって屍人たちは、既に一度、酷く苦しんで亡くなった人たちだから。
餓えるのは辛かったね。
よく今まで耐えてくれた。
しかし、もう大丈夫だ。
これからは飢えも苦しみもない世界に送るから――
1体の水晶屍人が逝った。
だが、セツナは無力感に苛まれる。
……こんなことしかできずに。
何が救い主だ。
……私は何もできない……!
がくりと落ちた肩に、ぽん、とゼロの手が載せられた。「次、行くぞ」というように。
「ああ……そうだね」
セツナは自分と同じ相棒の顔を振り返る。
そう。今は、戦うしかないのだ――。
鴉は、農民たちを逃がすことが出来たここからが本番とばかりに、禍ツ風を抜いた。ユーベルコード【剣刃一閃】を、発動し、
「力ない人を襲わせたり、ましてや戦争の道具の様に扱うなんてのは全くもって気に入らねえな……阻止させてもらう」
バシャッ、と激しい水音を立てて川底を思いっきり蹴り、ターゲットと見定めた水晶屍人へ一気に距離を詰める。
相手も待っていたというように、
『ガーーーッ』
大きく口を開け、腐肉を垂らして鴉を待ち受ける。
だが、そんな動きは想定の内。鴉は跳躍の間に僅かに身体を捻った・
ガチッ、と屍人の顎が閉じられ、僅かに鴉の腕の肉が噛み切られたが、この程度の痛みは彼の感覚を更に鋭くするだけだ。
「お前自身はもう分からないかもしれんがな……もう、痛みも哀しみも苦しみも終いだ」
剣刃一閃。
「――眠れ」
振り下ろされた美しい刃は、見事に屍人の首を斬り落とした。
瑞樹が幾体かの屍人を遠ざけた時には、農民たちは猟兵から娘を受け取ることができていた。
「よかった」
とりあえず犠牲が出なかったことにホッと息を吐いた瑞樹だったが、
「あっ!」
多くの屍人は瑞樹たちが今いる川の浅瀬に集まってきているの。だがmはぐれものらしき1体が、河原から道へと上がろうとしている農民たちを見つけ、よろよろと彼らを追い始めた。
「待て! お前の相手は俺だ!」
瑞樹はザブザブと川を上がり、屍人と逃げる農民たちの間に立ちはだかった。誘きよせも狙って大きな声を上げる。
『ガアッ!』
行く手を遮られ、屍人は怒りの声を上げた。そして、そこを退けというように持っていた鍬を振り回しながら、瑞樹に襲いかかってきた。
ガツッ!
横殴りの鍬が翳した黒鵺を叩く。防いだつもりであったが、思いの他勢いが強く、鍬の側面が瑞樹の側頭部を叩いた。
「――クッ」
頭を殴られた衝撃で、ぐるんと視界が回った。だが、ナイフで防御していたので、意識を失わせるほどの強さではないし、痛みには耐性がある。
「鍬がもう一回転してくる、その前に……!」
連続攻撃を受けるわけにはいかない。
瑞樹は磨き上げられた暗殺者としての勘を総動員し【剣刃一閃】を発動すると腰を落とし、打刀・胡を中段から横に鋭く薙いだ。
手応えがあった。
『ガ……』
屍人のうめき声がして、ゴトリ、と鍬が取り落とされる音も聞こえ。
ぶるん、と頭をひとふりして視界を取り戻した瑞樹の目に、胴を一刀両断された屍人の姿が映った。
志廉は、仲間たちが水晶屍人と農民たちの間に割って入る中、河原に留まって支援を行っていた。素早く幾つか石を拾い、
「トウッ」
飛刀の要領で投擲する。鋭い石礫は屍人の顔や急所を捕らえ、動きを妨げる。
石を投げながら志廉は、仲間が屍人の餌食になりかけた女性を救い、農民たちに引き渡すのを見守っていた。
「よし」
農民が村の方角へと逃げていくのを確認してから、志廉はおもむろに川の浅瀬での乱戦へと突入した。
恐れ気も無く水晶屍人へと組み付き、一体一体を確実に討つべく、各個撃破を狙う。
接近すれば当然屍人は志廉を喰らおうと牙を剥き、爪を立ててくる。しかし志廉は、怖れることなく鍛え上げられた大力鷹爪功で、爪が来れば手首を掴み、牙が来れば喉を掴み、自らの肉を食わせることはしない。
「ハッ」
鋼の指で掴んだ屍人を喉をぐいと引き崩し、浅瀬に組み伏せる。膝を載せて体重をかけて抑え込み、発動するユーベルコードは【金鷹散手十三式】。
「挫き、崩し、打ち、砕く……ッ」
志廉は拳に全身の力を載せて、水を跳ねさせてもがく屍人の胸部を打ち砕いた……!
その瞬間。
水晶屍人の……屍人たちの死に際の感情が、志廉の中に流れ込んできたような気がした。
気のせいかもしれない。
飢え。苦しみ。怒り。哀しみ。
それは、ほんの一瞬のことで。
だが、志廉は川に溶け込むように消えていく骸を見下ろし呟いた。
「お前達の仇も織田信長ならば、その仇討ち、俺が引き受けよう――」
ふと、目を上げれば。
川には静けさが戻っていた。
立っているのは、仲間の猟兵たちばかり。
ここでの戦いは終わったようだ、と猟兵たちはひとまず安堵の息を吐く。
けれど気を抜くことはできない。
サムライエンパイアでの長い戦いは、まだまだ終わらない。
彼らの戦いは果てしなく続いている。
大成功
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