エンパイアウォー⑰『セイメイ』を弄びし男
●怨念渦巻く古戦場の地にて
「エンパイアの戦も、佳境の趣でありましょうか」
因幡国、鳥取城。
戦国の時代、羽柴秀吉……後の太閤豊臣秀吉による、『鳥取の飢え殺し』の舞台となった地として知られるその場所に、一人の男の姿があった。
「此度の私(わたくし)の目的は、ただ『持ち帰る』ことのみ。この世界はよく『似て』おります故、『業(カルマ)』の蒐集にも興が乗りませぬ」
白髪に赤の瞳、古風で丁寧な言い回しながら、どこか他者を見下すような慇懃無礼さの漂ういけ好かないその男。
男の名は、『安倍晴明』。『第六天魔王』織田信長と共にこの世界に蘇った『魔軍将』の中に、『陰陽師』としてその名を連ねる一人である。
「……いえ、そうではありませぬな」
屍人を生み出し、奥州を、そして山陰道を阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込んだその男の覇気は、薄い。
「不死で、繁殖もできて、生存の為のエナジーも必要としない。それは、賽も振らずに勝つようなもの」
自身の目的の為、様々な謀略を巡らして『生』を謳歌したかつての自分。
だが、今のこの体どうか。目的とした尽くは解決され、己を縛る鎖の様な制限など一つも無い。
「斯様な存在に成り果てた私に、私自身が飽いているのでありましょう」
それ故に、彼は。全ての事に、飽いているのだ。
「戯れに、山陰を屍人で埋めてみましょうか。それとも、コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えましょうか」
全てに飽いたこの男にとって、無辜の民の悲鳴や犠牲、戦いの勝敗やこの世界の行末すらも、どうでも良いことだ。
だが一つ、興味を唆られる物があるとするならば……
「それらを全て行ったとして。猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……」
自身に刃を突き立てる事が出来るであろう存在が、どう動くか。それだけであった。
●『陰陽師』安倍晴明
「お集まり頂きまして、ありがとうございます」
グリモアベースに集まる猟兵達を、長く輝く銀髪のグリモア猟兵が迎え入れる。
名は、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)。その表情は常の微笑は無く、固く険しい。
「今回皆さんに赴いて頂く地は……サムライエンパイア世界。因幡国、鳥取城です」
因幡国が位置する山陰道は現在、多数の水晶屍人が跋扈する阿鼻叫喚後へと変じている。
既に多くの猟兵が屍人を駆逐し、民を救ってはいるが……今回、その元凶となっている者の居所が明らかとなった。
その元凶の名は……
「……『陰陽師』安倍晴明。『魔軍将』に名を連ねる、強力なオブリビオンです」
ヴィクトリアの口から溢れた名に、集まる猟兵達の表情に険しさが浮かぶ。
『魔軍将』の厄介さは、既に多くの猟兵達の知る所だ。それに名を連ねる存在との戦いとなれば……厳しい戦いとなる事は、明白だろう。
「安倍晴明は、強敵です。力量の程は……個体としての戦闘力は恐らく、我々よりも遥か高みにあるでしょう」
隔絶した戦闘力の差から、先手を取る事は不可能だ。故に、『相手の先制攻撃に対してどう対処するか』が重要な要素となる。
もし対策が不十分であったなら、苦戦は免れないだろう。無策で挑めば一方的に嬲られる事になるはずだ。
……それ程、安倍晴明は強力な存在であるのだと、肝に銘じて挑んで欲しいと、ヴィクトリアは語る。
「『陰陽師』安倍晴明……かつて私達が戦った『トビアス』、そして『ドラゴンテイマー』と似る違和感のある敵です」
もし、ここで取り逃がすような事があれば……安倍晴明はサムライエンパイアの混乱を更に煽り、世界を混沌の渦に叩き落とそうとするかもしれない。
何より、既にこの男は多くの民を殺して自らの手駒に変えた非道を為している。世界と民の今と未来を守る猟兵として、見過ごす訳にはいかない。
「何としても、この場で討つべき敵です。皆さんの奮闘を、お祈りしています」
そう言って、深々とした礼をすると……ヴィクトリアは、猟兵達を現地に送り出すのだった。
月城祐一
エンパイアウォーは、中盤の山場へ突入。
どうも、月城祐一です。安倍晴明、一体何者なんだ……
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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という訳で、戦争シナリオです。
慇懃無礼でいけ好かないセイm……じゃなかった。『陰陽師』安倍晴明の討伐戦となります。
以下、補足となります。
○特殊ルール
今回の依頼は、下記のルールが適用されます。
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陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
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安倍晴明は強力なオブリビオンであり、『先制攻撃能力』を持つ敵です。
また、安倍晴明は今回の戦いに対する熱意は乏しい敵ですが、猟兵との戦いで手を抜くという事はありません。
僅かな油断は危機を招きます。上記のルールと合わせまして、ご参加の際はご注意ください。
○戦場について
因幡国、鳥取城内。大広間となります。
猟兵達は直接大広間に転移され、そのまま安倍晴明との戦闘に突入する形となります。
城内は過去の激しい戦や有名な『鳥取飢え殺し』、そして今回の安倍晴明の策で生まれた犠牲者の怨念が渦巻いています。
(フレーバーです。敵に何らかの利を齎す物ではありませんのでご安心ください)
圧倒的な強敵。そして謎多き敵です。
そんな敵を吹き飛ばす皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:草彦
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●非道の『陰陽師』
「……来ましたか」
グリモアベースより転送された猟兵達が踏み込んだのは、鳥取城の大広間。
広大だが薄暗いその空間の、その中央に。その男はいた。
「さて、世界に選ばれし貴方がたならば、私を楽しませて頂けるでしょうか」
覇気の薄い男の瞳が、怪しく仄かに輝いて。『陰陽師』安倍晴明が、猟兵達の姿を眺める。
静かな態度を崩さぬその男。だが男の本質は、『善性』とは掛け離れた物だ。
放置しては、世界の危機を招く事になるのは間違いない。猟兵達は油断なくそれぞれの武器を構えて……『陰陽師』に、挑みかかるのだった。
彩瑠・理恵
水晶屍人が召喚されて襲い掛かると同時にスレイヤーカードとダークネスカードを左右の手に持って【オルタナティブ・ダブル】です
私は武蔵坂制服に殲術道具バベルブレイカーを
ボクは朱雀門制服に鮮血槍と鮮血の影業を持つわ
ボクが【黒死鏖殺演舞(ダークネス・ティアーズリッパー)】で屍人達を翻弄して切り刻んで
私が【蹂躙のバベルインパクト】で合体屍人を串刺しにします!
ハハッ、白の王セイメイ!六六六人集番外位リエが、黒牙に代わってお前を終わらせ灼滅してやるわ!
それに此処にはサイキックハーツもバベルの鎖も超えた灼滅者を両親に持つ理恵もいるわ!
リエが何を言ってるか理解しづらいですが「慄け咎人、今宵はアナタが串刺しです!」
●滲み寄る怨念
「さて、世界に選ばれし貴方がたならば、私を楽しませて頂けるでしょうか」
晴明の両手の鎖鋸が戦慄く。その音に反応する様に彼の周囲の空間が歪み、一つ、二つ……数え切れぬ程の人魂が、広間に現れる。
──ォォ……ォォオオ……ッ!!
かつての戦国の時代。この鳥取城では籠城戦の果てに多くの城兵が命を落としたのだという。
その戦で命を落とした兵や民、そして晴明の暗躍の結果失われた多くの民の魂が怨念と化し、寄り集まり、肉を得て……無数の屍人へと変じて、猟兵達に襲い掛かる。
(己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力……)
そんな光景を前に、彩瑠・理恵(灼滅者とダークネス・f11313)は真正面から立ち向かう。
その左右の手に握られるのは、良く似ていながらも正反対の印象を受ける一組のカード。
その内側に封じられた強大な力は、己の光と闇を写した物だ。カードに秘められた光と闇。その力を今、開放する──!
理恵の身体が光に包まれる。光はとある学園の学生服と、巨大な杭打ち機へとその姿を変えていき……
『ハハッ、白の王セイメイ! 六六六人衆番外位リエが、黒牙に変わってお前を終わらせ灼滅してやるわ!』
カードから開放された闇もまた、その姿を露わにする。
理恵の纏う物とはまた違う学生服を纏い、鮮血の槍と血溜まりの如き影を従える、理恵と瓜二つの存在が、安倍晴明に向けて敵意を剥き出しにする。
リエを名乗るその少女は、理恵にとっての別人格。多重人格者である理恵の中に眠る、もうひとりの自分である。
主人格はあくまで理恵。だが今回は、敵の数が数である。理恵は二人で協力して挑むべきであると考え、リエもまたその考えに応じたのだ。
『さぁ! 六六六人衆番外位リエによる、殺人演舞を楽しむといいわ!』
動き出すリエ。どす黒い殺気を纏えば、濃縮された殺意は刃となって屍人を次々と切り裂いて行く。
「慄け咎人、今宵はアナタが串刺しです!」
理恵の方も負けてはいない。巨大な杭打機『バベルブレイカー』の重さを物ともせず、勇猛果敢に敵の列へ挑みかかる。
振り回される腕、柔肌を噛み千切ろうとする牙を華麗に躱し、瞬く霊光にも怯まずに懐に飛び込めば……
──ズドンッ!!!
屍人の『死の中心点』を杭打機が穿ち、その身体を崩壊させる!
『此処には、サイキックハーツもバベルの鎖も越えた灼滅者を両親に持つ、理恵もいるわ!』
負けるはずなどない、と。安倍晴明に向けて啖呵を切るリエ。
だが、安倍晴明は揺らがない。
「……中々、懐かしい物を。その礼に、少しばかり教えて差し上げましょう」
再び戦慄く鎖鋸。するとどうしたことか……再び広間に、屍人の群れが満ちる!
「なっ……きゃあっ!?」
「油断大敵、でありますよ」
その光景に驚き、眼を見開く理恵。
そうして生まれたほんの僅かに生じた隙を、安倍晴明は見逃さなかった。
瞬きの間に距離を詰め、振るわれる鎖鋸。駆動し回転する刃を寸での所で杭打ち機で受けるが……続く追撃の一撃を受け、理恵の身体が広間の外へ弾き飛ばされる。
『理恵ッ!?』
「そちらも、他人の心配などしている余裕などはないでしょう」
声を上げるリエ。だがその周囲は、既に屍人達が包囲している。これでは最早、逃げる事も叶わぬだろう。
「……貴方がたがユーベルコードを同時に行使する事が出来るように、私もまた同時に行使する事は出来るのです」
何故なら、私は『安倍晴明』。猟兵の敵たる、オブリビオンなのですから。
淡々と告げる『陰陽師』安倍晴明のその言葉を。理恵も、リエも、聞き届ける余裕などありはしなかった。
苦戦
🔵🔴🔴
ティエル・ティエリエル
SPDで判定
「ボクはお前を楽しませなんてしないよ!さっさと骸の海に帰っちゃえ!」
【水晶屍人の召喚】で襲い掛かってくる水晶屍人に対しては、「空中浮遊」で手が届かない天井付近まで飛び上がって攻撃を避けるね!
屍人が折り重なって天井まで登ってこようとしたら根元の屍人を狙ってヒット&アウェイの「空中戦」でお山を崩しちゃうぞ☆
その他、合体して数字の大きくなった個体を中心に数を減らしていくね♪
もちろん、屍人に襲われながらも晴明への注意は怠らないよ!
屍人の数が減ってきて晴明に攻撃できる隙が見つかったら、「捨て身の一撃」で限界まで加速した【妖精の一刺し】をお見舞いしちゃうぞ!
※アドリブや他の方との連携も大歓迎
秋月・信子
・SPD
私が知る安倍晴明であればあのチェーンソーは一体…
もしかしたら安倍晴明を騙る別の存在…?
繰り出す影の攻撃を私の影を防壁板に展開し【盾受け】、陰陽術の使い手ならば恐らく核となる式神があるはずなのでそれを撃ち抜きます
水晶屍人の召喚を繰り出して来たのであれば…【Esの影法師】で姉さんを呼び出します
『随分とまぁゾンビを呼び出して…ねぇ信子、スコアを競わない?不死者に効果覿面な【破魔】の力を有する銀の弾丸、あんたが持つ蒼の浄化の力と私が持つ紅の浄火の力なら1体を1発で仕留めれる相手だから張り合いが出るでしょ?』
もう、姉さんったら…同点だったらどうします?
『あいつをスコアに入れたもん勝ちにしましょ』
●流星と魔弾は怨念を射抜くか
「ボクはお前を楽しませなんてしないよ! さっさと躯の海に帰っちゃえ!!」
凄惨なその光景を前に、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)の高い声が響く。その表情は晴明への嫌悪感で満ちていた。
……『英雄譚』に憧れて、冒険に飛び出したティエル。その気性は明るく快活で、どこまでもまっすぐだ。
それ故に、安倍晴明の死者の魂を愚弄するかのような暗躍は許せないのだろう。晴明に向けて『べーっ!』と舌を出して戦意も十分だ。
(私が知る安倍晴明であれば……あのチェーンソーは、一体……?)
反面、冷静に敵の様子を見定めようと観察を怠らないのは秋月・信子(魔弾の射手・f00732)。
『安倍晴明』の名は、知っている。平安時代に活躍した人物であり、今も伝説に語り継がれる歴史的な陰陽師である。
だが、目の前の『安倍晴明』を名乗る男は……確かに超常の力は振るうが、その手に携えた二振りの鎖鋸(チェーンソー)が、どうしてもイメージにそぐわない。
(もしかして、安倍晴明を騙る別の存在? だとしても、そうする事に何か理由が……)
『随分とまぁ、ゾンビを喚び出して……ねぇ信子、スコアを競わない?』
「っ、姉さん、勝手に……!」
思い悩む信子の影がひとりでに蠢き、人形を作り出し……現れたのは、信子と瓜二つの写し身。信子が『姉』と呼び慕う、影法師だ。
信子は魔弾と己の影を力とする猟兵だ。その武器の片方のコントロールを勝手に使われて抗議する信子を、『姉』はまぁまぁと適当に宥めつつ、一つの提案を信子に示す。
『不死者に効果覿面な銀の弾丸に、あんたの蒼の浄化の力と私の紅の浄火の力なら、一体を一発で仕留められるし。張り合いが出るでしょ?』
一見すれば不真面目に見えるかもしれないその態度と提案ではあるが、考え込み過ぎる癖のある信子には無い気質である。
考え込みすぎるより、まずは動く。『案ずるより産むが易し』とも言うではないかと、信子の瞳から悩みが消えた。
「……もう、姉さんったら。それで、同点だったらどうします?」
『アイツをスコアに入れたもん勝ちにしましょ』
「あーっ! 二人だけで勝負なんてずるーい!」
そんな姉妹のやり取りに、「ボクもやるーっ!」とティエルの声が割って入って。
3人のスコアアタックが、幕を開ける。
『それじゃ、始めましょうか!』
「姉さん、抜け駆けはズルいですよ!」
信子と『姉』。瓜二つの少女二人が、その手に構えるのは方や自動拳銃、方やマグナムリボルバーだ。
それぞれの銃口から放たれるのは、聖なる銀の弾丸。蒼と赤、それぞれの『浄化 / 浄火』の力が込められた魔弾が、滲み寄る怨念を貫き、清め、灼き祓って行く。
学生服を纏い二人並んで銃火を撃ち放つその姿は、ゲームセンターでシューティングゲームに興じる様な微笑ましさも感じられるが……実際のこの場は、戦場だ。
蒼の魔弾が屍人の核を射抜いて塵へと還せば、紅の魔弾は頭部を貫き劫火で包む。
「フフーン♪ お前たちみたいなノロマに捕まる程、ボクは遅く無いもんねー☆」
一方のティエルはというと、迫りくる屍人の列を縫うように細かな動きで敵の動きを引き付けていた。
ある程度の敵を釣り出すと、そのまま天井近くまで急上昇。翅の鱗粉が煌めいて、屍人達の視線を一層惹き付ける。
手を伸ばしても届かぬ小さな明かり。陽の様に忌々しいその輝きを潰さんと、屍人達は寄り集まり、折り重なり……
「今だっ!」
その瞬間を見逃さず、小さな流星が床へ降る。狙いは寄り集まり塔となりつつある屍人達の根本部分!
「とりゃーっ!!」
橙色の彗星が根本の屍人を貫くと、そこを基点に屍人の山が崩壊する。落下の衝撃と過重により押し潰される屍人達。
順調に撃破数を稼いでいくティエル。そのペースは秋月姉妹二人とほぼ同じペースであり……屍人の群れは、その大部分を失う事となる。
「ふむ、この力量の敵が相手となると相手になりませぬか」
だがそんな事実を前にしても、安倍晴明に動揺は見られない。
猟兵達を見下す冷めた視線のまま、「改良が必要でありましょうか」と嘯く安倍晴明。
その姿を見れば、信子の中で消えた疑念が再び立ち上る。
「貴方は……本当に、安倍晴明なのですか?」
「これは異な事を。私が『安倍晴明』で無ければ、誰が『安倍晴明』なのでありましょうや」
信子の疑問には、嘲る様な口調の答えが返される。
……恐らくこれ以上問い詰めようと、彼は明確な答えを返す事は無いだろう。
『信子!』
「えぇ。判っています、姉さん。これで……決めます!」
相手が素直に応える気が無いと言うのであれば、最早問いただす事は無い。
後は猟兵としての務めを果たすのみと、二人の銃口から破邪の魔弾が放たれて。
「ボクも……いっくぞぉー!!」
天井近くまで舞い上がったティエルが、再び橙色の彗星と化して晴明へ降り注ぐ。
三方から同時に放たれた攻撃。並のオブリビオンがまともに受ければ確実に仕留められる威力を秘めた、まさしく必殺の一撃だ。
迫る必殺の一撃。だが晴明は、回避の素振りすら見せずに……蒼と紅の魔弾を胴に、彗星の刺突剣を肩で。それぞれに受け止めた。
「やったっ! ボク達の勝ちだね♪」
「ティエルちゃん、待って! 様子が……!」
勝利を確信し喜び勇むティエルを、信子の声が静止する。
『傷が、塞がっていく……!?』
安倍晴明の受けた傷は、致命傷となる……はずだった。
だが、今。彼女達の前に立つ男の傷が、水晶で塞がっていくではないか!
「……あぁ、ああ。なんとも久しい、この『痛み』。ですが……」
まだ、足りませぬな。安倍晴明の口が、怪しく歪む。
自分たちの攻撃が、無意味であったのか……しかし、晴明が動く気配は、無い。傷は塞がってはいるが、ダメージ自体は確かに通っているのだろう。
信子とティエルは、確かな成果を挙げたのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フィーア・ストリッツ
フィーアです
敵は覇気に欠けるようですが…
それでもこの重圧、この怖気
「ここで仕留めなくてはならない、ということです」
ハルバードを構えて敵に接近
チェーンソーと打ち合う、と見せかけて
チェーンソーの間合いの外でハルバードを投擲
打ち落とさせる事で敵UCの発動対象を私からハルバードに移し替えます
それで初撃をしのぎつつ
自分は投げつけた後はそれ以外接近せず
【氷雪竜砲】をチャージ
敵UCが不発に終わった直後にぶちかまして差し上げましょう
「静謐なる氷の死をアナタに。お礼は結構ですよ」
【アドリブ歓迎】
●虚々実々の戦い
(敵は覇気に欠けるようですが……)
常の感情の動きの少ない視線で、フィーア・ストリッツ(サキエルの眼差し・f05578)は安倍晴明の状態を観察する。
前情報の通り、敵はいまいち覇気や熱意に欠ける様子。それは大きな傷を受けた状態である今もまた、変わらない。
だが、それでも……確かに感じるこの重圧と怖気が、敵の強大さを否応なくフィーアに示している。
「フィーアです。だからこそ。ここで仕留めなくてはならない、ということです」
フィーアの口から零れ出たその言葉は、彼女の決意の現れだ。黒い斧槍をその手に構え、穂先を向けて距離を詰める。
「成程、接近戦を挑みますか。ですが……」
私のこの鎖鋸を前には愚策、という物。晴明の口が歪み、回転する刃が駆動を始める。
強力なオブリビオンである安倍晴明。彼の膂力もまた、相当な物がある。そんな力で振り回される鎖鋸が、軽い訳が無い。その上、晴明自身が纏う呪詛の力が乗ってくるとあれば……確かに、正面から打ち合うのは愚策であろう。
そう、正面から打ち合うのであれば、だ。
「誰が、正面から打ち合うと言いましたか?」
「何──ッ!?」
距離を詰めるフィーアが、突如としてその脚を止める。虚を突かれ、晴明の注意が一瞬薄くなる。その瞬間を狙い……フィーアがハルバードを投擲する!
宙を飛ぶハルバード。柄に結ばれた紫のリボンを翻しながら、まっすぐに晴明の胴へと迫る!
「小細工をっ……!」
「戦いとは、騙し騙され。引っ掛かる方が悪いのです」
迫る斧槍を咄嗟に鎖鋸で弾き落とす晴明。だがその行動の結果、彼の鎖鋸が捉える筈だった本来の対象を見逃す事となり、攻撃は不発に終わってしまう。
してやられた、とフィーアを睨む晴明。だがその視線もどこ吹く風と、フィーアは常の表情を崩さない。
そしてこの問答で出来た僅かな時間も、フィーアに利を齎すのだ。
「静謐なる氷の死をアナタに。お題は結構ですよ」
吸い込んだ息を凍てつく吹雪と変えて相手を攻撃するフィーアのユーベルコード『氷雪竜砲(グレイシャル・ドラゴンブレス)』。
そのチャージを、今の問答の間にフィーアは終えていたのだ。
吐き出される、全てを凍らせる吐息。たちまち広間の温度が下がり、床や柱が凍りついていく。
「くっ……!」
晴明もまた、その極寒の風の前には例外ではない。鎖鋸の駆動部が凍りつき止まり、白の髪が、衣服が、更に深い白へと覆われていく。
……完全に氷に呑まれる、その直前で後方へ大きく退いたが、確かに大きなダメージを晴明は負っていた。
「……あぁ、確かに戦いとは虚実を見極めるもの。私とした事が、その事すら忘れていたとは……!」
水晶の身体持つ陰陽師が、己の不覚を悔やんで呻く。戦いの天秤は、猟兵の側へ深く傾き始めていた。
成功
🔵🔵🔴
ヴィサラ・ヴァイン
うーん、すごい量の怨念だなぁ
死霊術士として、《魔眼『コラリオ』》の使い手として、その方が力を発揮出来るけど…
せめて原因の一部である安倍晴明を殴って霊を鎮めるよ
先ずは先制攻撃対策
五芒業蝕符の軌道を[第六感]で予測してリム(f08099)に伝えつつ回避
リムが溢れる怨霊の呪詛を受け止めてる間にUCを…と、ここで双神殺か
…これもリムが防いでくれるみたいだね、ありがとう
この隙にリムを【ゴルゴンに選ばれし者】で超強化するよ(背後から首筋に噛み付き)
送り込む代償の毒の強さは[毒使い]で最高まで引き上げておく…リムなら耐えれるって信じてるからね?
ついでに、私の生命力も吸収させて万全の状態で闘ってもらうよ
リミティア・スカイクラッド
リム一人では太刀打ちできるか怪しいですね
力を貸してください、ヴィサラ(f00702)
魔女の刻印の「封印を解く」と全魔力を解放
風に乗りて歩むものによる「空中戦」と「ダンス」の身のこなしで五芒符を躱し
双神殺を含めヴィサラを狙う攻撃は魔力による「オーラ防御」と「呪詛耐性」を活かして「気合い」でかばいます
――凌げたとしても、この時点でリムは満身創痍でしょう
ですが、戦場に溢れた怨霊が、剣に籠められた呪詛が
そして愛しい人のくれた毒(アイ)が、リムの立ち上がる力となります
UC発動
ここからは、限界以上です
暴走する魔力を宝石剣に注ぎ込み
敵味方から「生命力吸収」しながら魔法と剣技を融合させた「全力魔法」で戦います
●強き『呪い(アイ)』よ、呪詛を超えろ
(うーん、すごい量の怨念だなぁ……)
極寒の息吹が駆け抜けた大広間。今もまだ氷の結晶が輝くその空間に浮かぶ、無数の念。
死霊術師としての力を持ち、また《魔眼『コラリオ』》の使い手でもある少女、ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)にとって、この戦場は己の力を発揮できる環境ではある。
だが、ヴィサラが今抱いている感情は……己が十全に力を発揮できる『喜び』ではなく、生命を弄ぶ外法の行いに対する、『憤り』であった。
そしてその『憤り』は、隣に立つ想い人……リミティア・スカイクラッド(人間の精霊術士・f08099)も、抱くものだ。
生命を冒涜する陰陽師『安倍晴明』。世界に選ばれた猟兵として、そしてオブリビオンと戦い続けてきた『魔女』の一族の末裔として、この男を赦す訳には、いかないのだ。
「……力を貸してください、ヴィサラ」
「任せて、リム」
ゴルゴンと魔女。二人の少女の間に、やり取りは多く無い。話さずとも、お互いに為すべきことを理解し、通じ合っているからだ。
二人が為すべきこと。それは……『目の前のこの悪意の塊の如き男を、止める事』!
その為には……
「……軽やかな動きで私を撹乱するつもりでありましょうか。ならば、それに付き合うのもまた一興」
身に刻まれた『魔女の刻印』の封印を解き放ったリミティアが、魔力を滾らせて空中を渡る。軽やかな身のこなしを見せる魔女に対して、晴明が採った行動は五芒符による迎撃であった。
怨念、業(カルマ)が滲み出る負の五芒符。飛来するそれらを、時に躱し、時に宝石剣で受け流すリミティア。
狙いを外れた五芒符は広間の床や柱を切り裂いて、空間に満ちる怨霊を更に活性化させていく。そうして活性化された怨霊を力と変えて、リミティアを狙う安倍晴明の符はその数を更に増していく。
「さて、どこまで逃げ切れるものやら」
しかし安倍晴明のその余裕の表情は長くは続かない。それもそのはず。いくら符の数を増やそうと、リミティアの躰を捉える事が一向に出来ないからだ。
(右……次は、上から3枚!)
その理由は、リミティアと共にこの場に立ったヴィサラにあった。ヴィサラ僅かに離れた位置から五芒符の軌道を正確に予測し、リミティアに伝えていたからだ。
だが、大きな声を出して伝えれば、晴明の側にも伝わってしまうだろう。故に、その予測を伝達する手段は声ではなく、アイコンタクトであり、ハンドサインに限定された。
普通なら、意思の疎通には不十分なそれらのアクションである。だが、改めて言おう。二人はお互いに為すべきことを理解し合い、通じ合う間柄だ。
そんな二人であれば、視線を通じ合わせれば意思の疎通には十分なのだ。
「なるほど、そういう絡繰を……ならば、援護役の方から潰すのが定石というものでありましょう」
また一枚の五芒符が切り払われて、漸く二人のやり取りに晴明が気付く。そして気付いてからの動きは、早かった。
床を、柱を。リミティアを狙った五芒符が切り裂き続け、広間の怨霊と業は最高潮に高まっていた。その負の念を晴明は力と変えて……一瞬で、ヴィサラとの距離を詰める!
「ぇっ……!?」
晴明が自分を狙ってくる事は予測はしていた。だが流石に、この距離を一瞬で詰められるのは予想外であったか。ヴィサラの表情が驚愕に染まる。
そんな少女の驚きを意に介す事無く、振り上げられた晴明の手の鎖鋸が唸りを上げて回転し、振り下ろされ──
「やらせません!」
その刃は、ヴィサラの身体には届かない。回転する呪詛の刃は、間一髪割って入ったリミティアが、その身で受けとた。
リミティアの身体を守るのは、溢れる魔力を全開で放出した何重にも及ぶ魔力の壁と呪詛への強い耐性だ。並の攻撃なら、軽々と弾き返す鉄壁の護りだ。
だが、晴明の攻撃はその護りの上を行った。呪詛の刃は魔女の小さな体の半ばまでに食い込んで、その動きを止める。
「──カッ、ハっ……!」
「ほう、己の身を呈して仲間を護りましたか。その自己犠牲の精神、実に尊きものでありましょうが……しかし、無意味で……?」
血反吐を吐くリミティア。受けた傷は深く、身体から赤い血潮が吹き出す度に意識は彼岸へ向けて流れていく。
その姿は最早、満身創痍の一言。遠からずその生命を落とすはずであろうと、晴明は冷たい視線を送るが……そこで、ふとした違和感に気がついた。
……刃が、魔女の身体から抜けぬのだ。視線を向ければ、魔女の小さな右の手が食い込んだ刃を掴んでいる。その力は……致命傷を負った者とは思えぬ程、強い。
「……馬鹿な、致命傷のはず。だというのに、この力はなんだというのです……!」
「……えぇ、確かにリムは、満身創痍です」
ですが、と。小さな体の魔女の唇が、言葉を紡ぐ。
「戦場に溢れた怨霊が、貴方の剣に籠められた呪詛が……」
少女の身体を覆う力……魔力が、更に溢れ出す。その勢いは限界を越え、暴走し……凍れる大広間を、魔力の嵐が吹き抜けていく。
リミティアのユーベルコード、【選ばれし魔女の狂乱(トキシック・ホリック)】。暴走した魔力のオーラで全身を多い、その身に受けた呪詛により戦闘力を強化するというその異能が、発動したのだ。
……戦場には、無数の怨念が活性化している。その怨念と、業(カルマ)は、長時間リミティアの心身を傷つけ、苛み続けた。そして更に今、呪詛の塊と言っていい晴明の鎖鋸をその身に受けた事で……リミティアの戦闘力は、晴明のそれを超えるに至ったのだ。
「くっ……! だが、その傷では長くは動けぬでしょう! ならば、このままもう一押しするまででございます!」
戦闘力を飛躍的に高めたとは言え、リミティアの身体が最早満身創痍である事は変わらぬ事実。
ならば、あとひと押ししてしまえば強化された戦闘力も無駄になる……晴明の論理も、尤もだ。
「そうだね。この場に私がいなかったら、その言い分は正しかったね」
「えぇ、そうですね。お願いします、ヴィサラ」
だが魔女の背から響いたヴィサラの声が、晴明の目論見を打ち砕く。
「私の毒(アイ)は重いよ。受け取って?」
「えぇ。ヴィサラの毒(アイ)をください。この身を狂わせる呪い(アイ)を……!」
ヴィサラが背後から、リミティアの身体をそっと抱きしめる。そしてそのまま、小さな魔女の白く細い首筋に……呪われし魔獣の牙が、突き立てられる。
……ヴィサラは、死霊術師である。だがそんな彼女には、もう一つの側面がある。
すなわち、彼女の身体を流れる血潮。伝説の魔獣の如きその力を活かし、かつて彼女は強大なオブリビオンを躯の海へと放逐する戦果を挙げている。
その猛毒を、ヴィサラは自らの愛しい想い人……リミティアの身体に、注ぎ込んでいるのだ。
「っ、ぁ……グっ、く……!」
「その力は……毒でございますか。まさか味方にその様なことを、気が狂い……ッ!?」
全身を蝕む毒。毒使いとして比類なき才を持つヴィサラが限界まで高めたその猛毒を受け、リミティアの喉から苦悶の声が溢れる。
その様子を見た晴明の嘲りの言葉は……
──ピシッ、ピシッ……バキィッ!!
リミティアの手が掴んでいた、鎖鋸の刃が砕かれた音により、打ち消された。
「馬鹿な! 私の武具を、砕いたですと!?」
「ヴィサラの毒は、確かに苦しいです。ですが……」
体の中を巡り蝕む、ゴルゴンの猛毒。それは確かに、苦しい物だ。常人であれば……いや、猟兵やオブリビオンであっても、耐えきる事は難しいものだろう。
だが、リミティアであればこの毒も耐えられる。なぜなら、この毒からは愛しい人からの暖かな信頼……『愛』という想いの力も、確かに感じられるからだ。
大事な想い人からの、毒(アイ)。応えなければ……女が廃る、という物である。
「──この毒(アイ)が、リムの立ち上がる力となるのです」
魔女の身体を覆う暴走した魔力が、更に高まって。その力はまさしく『生命の埒外』の域に達している。
その力の全てが、左手に握られた宝石剣へと収束していく。圧倒的な魔力は勿忘草の色をして、否応なく全ての存在の目を惹き付ける圧倒的な存在感を放っていた。
「……あぁ、嗚呼……私は、此度も敗れますか」
その圧倒的な存在感の前に、安倍晴明は自らの敗北を悟る。一度魔力が振るわれれば、自分という存在は『この世界』からは消えてなくなる事だろう。
……だが、オブリビオンと化した自らには、以前とは違う存在であるのだ。
「実に口惜しい。しかし此度はこの結果、『持ち帰らせて』頂きましょう……」
その言葉が、今生の彼の最後の言葉。リミティアの振るう魔力の渦に、安倍晴明の身体が飲み込まれて……消えていく。
そうして外法の陰陽師が光の中に消えていけば、大広間に満ちていた怨霊達もまた鎮まって行く。
静寂に包まれた、鳥取城の一角。
外法の陰陽師『安倍晴明』との決戦は、猟兵達の勝利という形でその幕を下ろすのだった。
大成功
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