エンパイアウォー⑲~傲慢不遜の主
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「皆さん、侵略渡来人『コルテス』の居場所を掴むことに成功しました!」
朗報であるためか、マリベル・ゴルド(ミレナリィドールの人形遣い・f03359)の声色にも力が入っている。
「コルテスは厳島神社に陣を取っているみたいです。建物の上で高みの見物を決め込んでいるみたいですね……。自身の力を奮うまでもない――そんな、『傲慢』さを感じます」
だからこそ付け入る隙がある、とマリベルは補足する。
どうやら、彼は長年安全圏から侵略と虐殺を繰り返してきたためか、自身の力を奮って戦うことが久しいらしい。故に戦いに不慣れなため不意打ちを受けやすいだろう。
「とはいえ強敵であることには変わりありません。予想しやすい攻撃、一度見せた攻撃――または対策なしに真正面から戦おうとすると――手痛い反撃を受けることになるでしょうね」
逆に考えると、対策さえしてしまえば勝ちやすい相手とも言える。
不意打ちや敵の特性を突いた攻撃などがよく効くだろう。
「なお、コルテスが騎乗しているケツァルコアトルは『隷属の呪い』と『コルテスが死ぬと自分も死ぬ呪い』がかかっているようです……。残念ですが、助けることは不可能でしょう」
いっそ楽にしてあげるのがいいかもしれません、と、マリベルも顔を伏せつつ言う。
「コルテスの性質上、放っておくと何をしでかすかわかりません。ここで絶対に倒しましょう!」
マリベルも細い声で精一杯そう告げると、猟兵たちに一礼をした。
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朝焼けの橙色に染まる厳島神社。神社の屋根の頂点に、深緑色の龍……ケツァルコアトルの背中に座る『コルテス』の姿がそこにあった。
自分の龍が踏みつけ傷つけている建物になど目もくれず、ただただ高みの見物を決め込んでいる。その姿はまさに玉座に座る『王』。
まさか自分の玉座が、そして自分が危機に見舞われようとは露とも思っていない。辺りを警戒することなどなく座り込み、昇る暁色の太陽をぼんやりと見つめていた。
こてぽん
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
お読みいただきありがとうございます。こてぽんです。
今回の敵である侵略渡来人『コルテス』は、『戦闘の仕方を忘れて』います。
その為、予想できないようなユーベルコードの攻撃に対しては、一方的に攻撃されてしまいます。
真正面から切りかかるとか、わかりやすく予想が出来る攻撃、或いは『そのシナリオ中に、似たような攻撃方法を既に受けている』場合は、
「その攻撃は、既に思い出した」
といって、激烈な反撃を行ってきます。
コルテス自身の地力は『決戦』に相応しいものを持っているため、無策だと厳しい戦いになるでしょう。油断は禁物です。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『侵略渡来人『コルテス』』
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POW : 古典的騎乗術
予め【大昔にやった騎馬突撃を思い出す 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : マスケット銃撃ち
【10秒間の弾籠め 】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【マスケット銃】で攻撃する。
WIZ : 奴隷神使い
【ケツァルコアトルの噛みつき 】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:シャル
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シエル・マリアージュ
空へ飛び、建物の上で見物をしているコルテスを上空から攻める。
マント【Garb of Mirage】の光学迷彩で空の風景に溶け込んで姿を隠し、空中浮遊で密かにコルテスに近づき死角から不意打ちを仕掛ける。
剣形態の聖銃剣ガーランドの鎧無視攻撃に毒属性を付与した暗殺の一撃、それに合わせて夢幻刀影で実体化させたケツァルコアトルの影にコルテスを襲わせ、2回攻撃による同時攻撃を仕掛ける。
敵が騎馬突撃を思い出して反撃してくるより早く先制攻撃、銃形態に切り替えた聖銃剣から衝撃波で強化した誘導弾を放ち、すかさず残像によるフェイントで敵を惑わせ攻撃を避けやすくする。
「踏みつけた影に噛まれる気分はいかが」
純・ハイト
やるだけやってみよう。
迷彩・忍び足・目立たないでコルテスをUCで狙える位置まで移動して、暗殺するために身を隠しながら発動させる、奇跡の支援砲撃は範囲攻撃で味方を巻き込まないように気お付ける。
奇跡の支援砲撃後は仲間の支援をするために援護射撃を続ける、バレて接近されるなら零距離射撃で応戦しながら毒使いで催眠術の効果がある毒や相手を苦しませる猛毒を弾丸に込めるか、傷口や口に入れて嫌がらせをする。
ここは戦場、旅団も多くあるからどこかの大きな旅団から支援砲撃が貰えるはずだ。
侵略渡来人『コルテス』。自分が崇める神、王、姫君の三者以外のことごとくを『下等生物』と見下している傲慢不遜の主。自分は高尚な存在である。下等生物ごときにコンキスタドールたる自分が遅れをとるわけがない。だからこそ戦況になんて興味がない。負けるわけがないのだから。
「ふむ、これは良い。姫様のご尊顔を映し出す鏡としてふさわしいものだ」
ケツァルコアトルの背中に座りながら、手にしている装飾鏡をまじまじと眺めていた。そこには当然、自分の顔が映っているわけだが――。
「あら、素敵な鏡。あなたの顔もそれに映れば――少しはマシね」
鏡に見知らぬ女がいた――コルテスがそう認識するのと、脇腹に突き刺さるような鋭い衝撃が響いたのがほぼ『同時』であった。
コルテスは状況を理解するより先に、腰に据えていたマスケット銃を振り向きざまに撃ち放つ。が、撃ち抜いたのは鏡に映った女――シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)、ではなく――霧散する白雪、残像。屋根を転がり落ちる空薬莢の音が虚しく響き渡る。
「戦い慣れてないと聞いていたけれども……本当みたいね。あまりに反撃が遅い」
振り向いたまま硬直しているコルテスの背後から再び声が聞こえたかと思えば、突き刺さっていた銃剣を勢いよく引き抜かれる。ほとばしる鮮血と、爛れた時のような灼ける痛み。コルテスの怒りを買うには十分すぎるくらいであった。
「下等生物風情が……!」
怒りによる前後不覚か……はたまた不意打ちによる衝撃か、装飾鏡を落としてしまう。コルテスは舌打ちをすると強かにマスケット銃を振るい、振り向きざまにシエルを突き飛ばす。ケツァルコアトルを強く蹴りつけ飛翔させ、彼女から距離をとる。さすがに乗っているのが神の一柱なだけはある――羽ばたいた瞬間に発生した風圧で屋根の一部が捲れ上がる。圧倒的膂力ゆえにその行動自体を阻害することはできなかったが――シエルはそもそも『はじめからその行動は止める気がない』。
「影なるものよ」
降りしきる殺気。氷雪たる眼差し。もしもコルテスが慢心せず戦いの経験を積んでいる存在であったならば――この瞬間に気付いていただろう。迫りくる彼の者を。だが彼は――気付いていない。自身のすぐ後ろに生まれ落ちた……形作られていく『影』の者を。
「我に仕えよ」
ケツァルコアトルが悲鳴をあげた。背後にのしかかってくる巨大な質量、衝撃。だが、コルテスはその持ちうる地力によって振り落とされずに堪える。彼は急いで背後を確認すると――自身の所有物であり、たった今騎乗しているはずの奴隷……その『影』が、ケツァルコアトルの背中にのしかかり、巨大な顎で食らいついていた。
「踏みつけた影に噛まれる気分はいかが」
待ってましたと言わんばかりに銃剣に弾をこめ、引き金を引く。銃口から放たれるは火薬……ではなく、臨界点まで圧縮した高濃度の魔力弾。魔力によりコルテスに対して指向性を持ち飛来するその弾丸は、彼を見失うことはない。さらに弾丸にこめられた魔力が小爆発を連続で起こし、扇状に拡散した衝撃波が波状攻撃となる。それらは津波の如く押し寄せ、凡庸な者では反撃の余地がないまま消滅してしまうだろう。が――。
「小娘よ。食らうがいい。下等生物には勿体ないぐらいの褒美をやろう」
コルテスは慢心ゆえに戦の経験が少ないとはいえ、元は神すら従える実力を持つ民族。『凡庸』なわけがない。魔力波の弾幕を受けながら、背中に噛みついていた『影』の両目をマスケット銃で撃ち抜き払う。そして、大昔にやった『古き伝統』――突撃の態勢をとる。
「こちらハイト、誰でもいいから聞こえていたら支援砲撃を頼む」
奏でるは撃鉄の軍歌と爆発の花束。遠方から放たれた弾幕がコルテスとケツァルコアトル、そしてシエルの『残像』をも巻き込んで破壊の大嵐を生んだ。
「羽虫がァッ!」
ケツァルコアトルの口から火砲が放たれる。あまりにも大規模な爆風により視界が遮られ、支援砲撃の主である純・ハイト(数の召喚と大魔法を使うフェアリー・f05649)の正確な位置が分かっていないようだ。辺り一面を破壊、焼却、粉砕……無秩序に暴れまわっている。
「さて、俺が羽虫ならお前は何だ? 蛆虫か?」
狂気をはらんだ声色を含み、スコープに捉え続けているコルテスに引き金を引き続ける。数発、ケツァルコアトルの身体に弾丸が吸い込まれたときに、理性なき双眸が爆風の向こう側からハイトを見つめ、捉える。
「ほう……羽虫はそこか。叩き潰してくれる」
コルテスがケツァルコアトルを鱗が半ば砕けるほどに蹴りつける。神の成れの果ては濁水の渦のような耳障りな声で嘶くと、大口を開いてハイトに猛進する。
「この瞬間を俺は待っていた」
目の前まで切迫する巨大な顎にハイトはひるむことなく瞬時に弾倉を交換、その口腔部に淀みを含んだ弾丸を乱射する。
悲痛な叫び声をあげて大きく怯んだケツァルコアトル。その隙に素早く横を走り抜けて回り込むと再度引き金に指をかけ、斉射。側面に弾丸を矢継ぎ早に撃ち込んでいく。
スナイパーライフルの弾丸ですら深くまで食らいつけないほどにケツァルコアトルの鱗は頑強だ。だが彼の弾には混濁した汚泥……いうなれば『猛毒』が含まれている。被弾部分が紫に染まってペンキをこぼしたかのような斑点が発生していく。
「ちぃッ、この役立たずめ!」
奴隷の不手際に憤るコルテス。
「どうした? もう終わりか?」
ライフルをコルテスに向け、改めて宣戦布告。
王の身体には白雪が降りしきり、玉座には蠱毒が滴る。苛烈なる初戦を以てして、改めて戦の火蓋は切って落とされたのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ブイバル・ブランドー
※合体形態
舐めるなよ。戦い方を忘れた様な奴が生き残れるほど戦争は甘くない。ソレが周りにいけ好かれん奴なら尚更だ(自前のベンチでくつろぎながら)
胸部の発晶体から追尾エネルギー車輪弾を放って戦う。38個の車輪弾を読み辛い軌道で飛ばしたり、19+19で挟み撃ちにしたり、9×4の車輪弾を創りスクラップで作った車体のタイヤにして即席の自動車爆弾を放つなど。色々な攻撃方法を試してみよう。
戦闘の仕方を思い出そうとしている間に
「ところで晴明とか言ったエンパイア人(?)がお前の神の偽物を造ると言っていたよ」とか気の散る台詞を言えば妨害もできるかもしれない。怒ってくれれば弾を籠める手元も狂うのでは?
アララギ・イチイ
コアトルにコルテスねぇ
なら、このUCが面白そうだわぁ
自身の心臓を抉り、血肉を捧げて(代償)【選択UC】発動ぉ
召喚後、夜の風の神である事を利用して飛行(【空中戦】技能で補正)よぉ
敵攻撃は騎馬突撃なので直線上にならない様に移動、その動きを【見切り】、【ダッシュ】で回避、併用して黒曜石の鏡の未来を予知し、結果を知る能力で敵の行動を先読み、奇襲を仕掛けてる位置と時期を見計らうわぁ
攻撃は短期決戦、上記の方法で奇襲の時期と場所を掴み、【捨て身の一撃】で突撃、コルテスの首に牙を突き立てるわぁ
近接後に装備品の別空間の武器庫から火器を【早業】展開、至近距離で【一斉発射】して【範囲攻撃】よぉ(自分の巻き添え可
フィランサ・ロセウス
あなたみたいなオジサマ、“好き”よ
その顔が苦痛で歪むのを想像しただけでゾクゾクしちゃう❤️
まずは通常なら走っても到着まで十数秒はかかる距離から接近戦を仕掛ける素振りを見せて、銃撃を誘うわ
そして相手が弾籠めをはじめた瞬間にクロックアップ・スピードを発動して加速すれば、
銃が撃てる頃には既に私は懐に飛び込んでいるわ
これもある意味【だまし討ち】という事で!
首尾よく行ったなら、その身体にナイフを何度も突き立ててあげる!
下等生物なりの愛情表現、しっかり受け止めて❤️
「鬱陶しい連中だ。これでは姫様の贈り物を選べないではないか……!」
手痛い不意打ちを食らったときの負傷は決して浅いものではない。むしろ普通の人間であればとっくに死んでいてもおかしくないくらいだ。
だが彼は、いくら傲慢に腐れど強き名を冠するオブリビオンの一角。乗騎しているケツァルコアトルも神と呼ばれた存在であっただけもあり、両者ともまだ十二分に動けるようだ。
だからこそであろうか――彼の中の慢心は未だかき消えることはなかった。まだ油断をしていた。まだ、『猟兵』という存在が脅威ではないと思い込んでいた。
「おいおい……そんなくだらないことを考えているのか? 舐めるなよ」
――瓦礫の陰から一筋の光が煌き輝く。刹那、その瓦礫を破壊し現れるはブイバル・ブランドー(の中身//自由すぎるアーマー・f05082)と、飛び交う数十の車輪たち。それらは規則性のないドリフトを空で繰り返しながら、四方八方からコルテスたちに飛来していく。
「……むっ」
目の前の数個の車輪はマスケット銃やケツァルコアトルの身体で弾き飛ばしたが、左右から迫っていた別個体がコルテスの身体に命中し、四散。少なくない衝撃に思わずよろめく。
それを皮切りに、続けざまに突撃していく車輪を模した弾丸たち。それまで不規則かつ自由に動いていた彼らが、突撃しながら合体を繰り返す。やがて、それらはエネルギー密度が数倍に圧縮されたホイール弾となり、疾駆。
まとめて撃ち落とそうと準備しかけていたコルテスは反応が遅れる。3体分はどうにか撃ち落としたが……ホイールの1体が弧を描き高速回転しながらケツァルコアトルの側面に激突する。車輪の回転から発生した摩擦が火花をあげ、車輪が激突した部分が赤熱。
悲鳴をあげながらそれを振り払おうと騎竜が身体をよじる。
「もう遅いぜ」
ブイバルが得意げに告げると、それに呼応するように車輪は周囲のスクラップを巻き込みはじめた。それは一通り吸引したところで――炸裂。瓦礫が礫となりケツァルコアトルとコルテスの身体に幾つもの傷を彫っていく。
「おのれ小癪な……どこまでも羽虫は羽虫か」
砂塵を振り払い、再度マスケット銃に弾をこめようとする。
「ところで晴明とか言ったエンパイア人がお前の神の偽物を造ると言っていたよ」
ブイバルが追い打ちをかけるように挑発する。
その言葉を聞いたコルテスが、弾をこめようとした手が僅かに止まる。今だ、と言わんばかりにブイバルは空を見上げた――。
――時は僅かに遡る。コルテスらが戦っている屋根の上よりも、さらに上。そこには空を浮遊し様子を伺う1人の女……アララギ・イチイ(ドラゴニアンの少女・f05751)の姿がそこにあった。
「後で復活可能とはいえ、色々と面倒な召喚方法だわねぇ」
彼女の右手には躍動する血肉が滴っていた。おびただしい量の血液が、抉られた胸部を中心に衣服を汚している。愚痴るような声色でぼやくアララギの傍には、一匹の獣。ジャガーのような見た目でありながら、右足は黒曜石の鏡――テスカトリポカが顕現していた。アララギが持っていた血肉はすでにそこには無く、同時に黒曜石の鏡が漆黒に輝き――これから起こりうる『未来』を示す。
「それにしても、対峙することを最悪の状況として考えていたけれど……杞憂だったわねぇ」
どうにか突撃を回避するべく位置取りを気を付けていたことが功を奏したと言えるだろう。未だにアララギの存在はコルテスにはバレていない。ブイバルの攻撃も、上手く敵の気を引いてくれている。あとは『未来』を視て『時』を待つのみ。
「……そろそろ、かしらねぇ」
ブイバルがこちらを見た。『時』は満ちた。
穏やかな表情を浮かべていたテスカトリポカが、吠える。疾風迅雷。真下にいるコルテスめがけて落下しながら牙を剥く。
「――! 上か――」
コルテスが気付いたときには既に遅い。テスカトリポカがコルテスの首筋に食らいついた。頑強たる鋼の味と、生温い鉄の味。
「離れろ!」
思わず声を荒げ、左腕でテスカトリポカを殴りつける。自身の上等な防具がなければ食いちぎられていただろう。だが、強く噛みつかれたことによって温い紅血が首から滲む。
テスカトリポカは埒外の腕力で何度も殴りつけられて血を噴出させ、悲鳴をあげる。だが決して口は離さない。何故なら彼は未来を知っているから。これからどうなるか分かるから。そのためには『これこそ』が確実に、最善手なのである。
「あらあら、いつになくテスカトリポカが怒っているわねぇ」
いつの間にか、コルテスの目の前にはアララギが立っていた。どこに隠し持っていたのか――瞬きをした次の瞬間には、十六もの弩砲が彼に向く。
7㎝19連装ロケット弾ポッド、八基。
7in24連装対潜迫撃砲、八基。
煙管から発せられた――紫煙が揺らめき漂う。
「これであなたも、少しはお腹を満たせたかしらねぇ?」
咲き誇るは彼岸花。黒鉄色の花畑は王宮を染め上げ、それは王と玉座の贈り物となる。
轟、轟、轟――ただただ鳴り響くは雷鳴の大太鼓。さながら雷神。
だがこの宴はまだ終わらず。むしろ、まだはじまったばかりなのだ。傲慢という大罪に対する罰は、それほどに底が深いものなのだ。
「おのれ……おのれおのれおのれおのれ! どこまでも私に楯突くか!」
下等生物の分際で――連続爆発による煤けた顔、ボロボロの鎧では虚勢にしか見えない。コルテスは黒煙を払った後に――癇癪を起こしたのか、ケツァルコアトルに周囲の瓦礫を破壊し暴れ回らせる。肩で息をしながら怒りに震えるその姿は、もはや哀愁が漂っている。
不意に、コルテスの視線の先に新手が映る。瓦礫の裏から姿を現すは、フィランサ・ロセウス(危険な好意・f16445)。
「ハァーイ! おじさま! わたしの名前はフィランセ・ロセウス、よろしくね❤️」
極めてこの場では場違いな……好意的にもとれる自己紹介にコルテスは思わず呆気にとられる。が、すぐに嘲るような笑みを見せつつフィランセを睨みつける。
「ハ……今度はどんな小癪なことをするかと思えば……なんだ貴様。私を舐めているのか。そんな真正面から、しかもそんな距離から私に勝てるとでも思っているのかね?」
フィランサが手で回して遊ばせているナイフを見て、接近戦をすると判断したのだろう。言動の声色から明らかにフィランサを見下している。
「えー! そんなことないよー❤️」
手をぶんぶんとさせて拒否のポーズ。そして遊ばせていたナイフをしっかりと握る。
「だってわたし、あなたみたいなオジサマ――」
ナイフを構え、突進。だがその動きは妙に緩慢で、悠長で、正直。
――あまりにも遅い――
コルテスは鼻を鳴らすとリロードをするためにマスケット銃のほうに目をやった、次の瞬間。指が鳴る。
「“好き”よ」
やけに近いところから声が聞こえる――そう思ってコルテスが目を正面に向けると、目と鼻の先にフィランサの恍惚とした表情があった。
「な――」
目をそらしていたのはコンマ秒にも満たないほどの一瞬。先程とは違いすぎる状況に混乱していると、飛び膝蹴りを顔面に食らい、仰向けに倒れこむ。即座にフィランサが跨り、所謂『マウントポジション』の形となる。
「下等生物なりの愛情表現、しっかり受け止めて❤️」
フィランサはナイフを両手に持ち直し、コルテスの腹めがけて振るい――突き刺す、刺す、刺す、刺す、刺す――。
「だいすき❤️ だいすき❤️ だいすき❤️ だいすき? だいすき! だいすき❤️ えへ、えへへ――“好き”」
鈍い音が連続して響き渡る。完全に彼女の間合いに入られたコルテスは愛情表現を受け続け、腹を防御していた鎧がひしゃげ、砕け、中の血肉がフィランサの顔を――身体を――得物を――深紅で飾る。
「う、うおおおおおおっ!」
コルテスは半ばパニックになりながらマスケット銃を振り回す。フィランサを何度も銃身で殴打し吹き飛ばす。
「楽しかったよ、おじさま❤️ とーっても、とっても、ね❤️」
吹き飛ばされて横たわるフィランサは、ひどく満足気な顔をしていた。
それはまさに血化粧の貌。香水は鉄の香。深愛を添えて。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
郁芽・瑞莉
傲慢と慢心極まれりですね……。
相手への礼節を欠いた者を見るのはこちらも不快です。
知性に胡坐をかいている者に因果応報の一撃を!
取り出したるは合一霊符。
兵は詭道なりとはかの有名な孫子の言葉。
霊符から放たれる力が攻撃手段とは限りませんよ?
遠距離から早業で符を次々と投擲し誘導弾として。
一部隙を作ってを包囲したら高速詠唱で一斉射。
隙から逃げ出そうとしたところを迷彩で隠していた符を起動して共に転移。
近接を仕掛けそうな味方の元へと来ると共に。
溜めていた破魔の力の封印を開放、
ドーピングで身体能力を上げて薙刀でランスチャージ。
鎧の隙間を見切った鎧無視攻撃の2回攻撃でなぎ払い、串刺しにしますよ!
転移も使い方です!
月鴉・湊
お前見たいなやつが呆気なく殺られる時は決まって理由があるんだ。
それが慢心ってやつだよ。
奴が弾込めをしている間に透明化し、視認出来なくする。
さあ、見えない攻撃は、予想出来るかな?
そもそも見えないからね。何をしてくるか分からないだろう。
そして視認できる者もいないしその銃は宝の持ち腐れだな。
だから俺が使ってやる。
透明化したまま血の糸で銃を奪い取る。
そしてそのまま奴に撃ち込む。
自分の込めた弾でやられるとは滑稽だな。
その首、頂いていくぞ。
宮落・ライア
【びっくり箱作戦】
ボクの役目はメンカルのUCでトリテレイアの外套装甲下に転移させられ、それが展開された瞬間から。
開いた瞬間【人でなし】発動。
人を逸脱した、目の前のあの糞野郎を蹂躙できるほどの力を創造し手加減無しでトリテレイアの装甲を蹴りコルテスの元へ飛ぶ。
味方のUCですでにある程度古典的騎乗術を思い出してるかもしれないけれど、それが神と呼ばれた騎獣であっても怖くない。
騎馬突撃なら頭から突っ込んでくるんだろ?私は、その獣の脳蓋を、何度も素手で貫く様を見た(想像した)。
常識で考えろ。今、ここでは、オマエガ食い物だ。
パラノイアによる強固で誇大な妄想。大小に関わらず成功すればそれは加速し強固になる。
トリテレイア・ゼロナイン
【びっくり箱作戦】
コルテス……言動から鑑みても倒しておかねばなりませんね
あの哀れな竜の神のように、エンパイアを蹂躙させましません
この作戦の肝は「倒したはずの猟兵から伏兵が現れた」という奇襲作戦
お二人とも、頼みましたよ
コルテスの前で展開していたUCの装甲を閉じて「中に誰もいない」と認識させ、コルテスに空中戦を敢行
メンカル様への攻撃は追加装甲と盾の●盾受けで●かばいつつ、頭部格納銃器の●スナイパー射撃で攻撃し注意を引きつけ突撃を誘発
突進タイミングを●見切り、●武器受けでダメージを軽減しつつ撃墜されたと見せかけ装甲展開、ライア様の●だまし討ちの為の発射台となります
さて、どうやって着地したものか…
メンカル・プルモーサ
【びっくり箱作戦】
ふむ……つまり本気を出すまえに不意打ちで倒せばよいとじゃあ例の作戦で…
…私はつなぎの役目だね…箒に乗って空中戦…マスケット銃の攻撃はトリテレイアに任せつつ術式による牽制と
敵の攻撃・動きの情報をトリテレイアへと転送することによる支援…
トリテレイアが一度展開した装甲を閉じた後、【彼方へつなぐ隠れ道】によってライアをトリテレイアの外装装甲下へ転移させるよ…
…あとは作戦の推移を見守るのみ…
…敵を見下して意図を考えないから引っかかる…
…と、落下するトリテレイアを浮遊術式で回収しないといけないね…重量あるから全力でやらないとかな……まあ最悪軟着陸させる方向で…
ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
へえ。型破りに行けってことよね
――竜に跨って上から目線?はは、この『ひとごろしき竜』相手によくもまぁ
ぶち殺してやる、引きずり落とす
灯理、――サポートを。
【黄昏】で殴り掛かります
でも単純に挑んだわけじゃない。大ぶりの一撃に驚いたところを
――だまし討ち。ケツァルコアトルの尻尾を掴む
怪力任せにそのまま、何度も何度もケツァルコアトルを地面にたたきつけてあげる
右も左も、上も下も関係ないわ、死ぬまで振り回す
人の手に落ちた竜なんて生きているほうが哀れだし
この間にさすがにコルテスも吹っ飛ぶでしょ
それは灯理に任せる
――私のつがいよ、絶対に失敗はない。
このつがいは、意志の怪物だからね
さあ、ぶち殺せ。
鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
型破りか。型にはまったことがないのでわからんな
とりあえず、一言
貴様は終わる
――お任せあれ、ハティ
ハティは必ず成功する
コルテスは必ず落とされる
ならば――私も必ず成功させる
【人の見えざる手】で腕部分の思念の鎧を巨大な不可視の手に変形
10秒もいらない、1秒未満で十分だ
私の脳は優秀なんでね
落ちたコルテスの足をつかんで
地面に叩き付ける
叩き付ける
叩き付ける
地面にガリガリ擦って
神社の壁ごとぶち抜く勢いで叩き付ける
さすがにこんな体験はしたことなかろう?
貴様の敗因は一つ
私たちの敵に回ったことだ
地を染めろ――その血肉で
ガーネット・グレイローズ
自分からは何も生み出さず、奪い破壊し尽くすのみか。
そういう輩をなんと言ったかな。海賊か?
そう、所詮貴様は国に飼われた海賊だ。
飛び道具による遠距離攻撃主体で戦う
【サイキックブラスト】による〈マヒ攻撃〉と、
クロスグレイブから放つ熱線で牽制する。目標はコルテス本人ではなく、乗っているケツァルコアトル。うまく動きを封じられれば、コルテス本人を狙ってブラッドエーテルによる
〈生命力吸収〉の波動を打ち込んでやろう。
躱された場合は奴隷神使いで反撃してくるだろうから、
〈念動力〉で妖刀アカツキと躯丸の二本の刀を飛ばし、
一本をケツァルコアトルに噛ませて、もう一本を
コルテスの胸に突き刺し〈吸血〉だ!
ケツァルコアトルが血反吐を吐きながら出鱈目な猛進を繰り返す。
これ以上包囲による封殺を避けるためだろう。流石の傲慢不遜なる者も、猟兵たちの千差万別の作戦にひどく堪えているようだ。
「自分からは何も生み出さず、奪い破壊し尽くすのみか」
半ば呆れた表情で飛び回る竜を見つめるガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)。
手にした十字架から赤熱した熱線が放たれ、ケツァルコアトルの鼻先を焼く。
急停止し、撃たれた方向を確認せんと――竜とコルテスが振り向く。
「ふん……熱線ごとき……。このケツァルコアトルで轢き潰してくれよう」
コルテスは、度重なる負傷で半ばボロ雑巾だ。だがその瞳は怨嗟と殺意に燃えている。傲慢はあれど、慢心は焼き尽くされつつある。
弓を引き絞るように後退した後、突撃。マスケット銃を乱射しながらケツァルコアトルを彼女にぶつけようと切迫する。
その時である。不意に、一枚の符が竜の右頬に突き刺さった。それは赤色爆符。轟音と共に爆発が巻き起こった。
「よそ見はいけませんよ?」
別方向に待機していた郁芽・瑞莉(陽炎の戦巫女・f00305)である。爆風が晴れないうちに懐から数枚の符を取り出し、そのまま鋭く横薙ぎに振るう。ケツァルコアトルたちとガーネットの間を飛来し、牽制する。舞い踊るように霊符を投げ続け、コルテス……特にケツァルコアトルを好き放題動かせないように霊府による包囲網を作り出していく。
ある符は弧を描いたかと思えば向きを変え、コルテスを狙う。ある符は進行方向を塞ぐように飛来し、牽制。ある符は飛来する半ばで停滞し、雷球となって浮遊。的を絞らせない遠距離牽制が、コルテスの苛立ちを募らせる。
「どこまでも邪魔をしてくれる……。払え、ケツァルコアトル」
コルテスの指示に応じ、さながら自動追尾ビットのように周囲を飛来し続ける霊符をなぎ払おうと、尻尾が禍々しく発光する。
――刹那、空を切り裂く一筋の雷。轟音と共に繰り出された深紅の雷撃は彼の尾を貫き穿つ。
「そうはさせるかよ!」
ガーネットによる支援砲撃……サイコブラストだ。構える両掌から白煙が立ち上り、稲妻が巡っていた。確かな手応えに満足したのか、不敵な笑みを見せる。
ケツァルコアトルの尻尾からは対照的に黒煙が上っており、さらに焦げた臭いが辺りを包み込んだ。高圧電流に晒された竜は大きく怯み、痙攣している。コルテスは舌打ちをしてマスケット銃を横薙ぎに振るいながら発砲。けたたましい音と共に眼前が連鎖爆発を起こし、ガーネットに立ち塞がるように飛翔していた大半の符が消滅する。間髪入れずにガーネットを討ち果たさんと銃身に弾を滑らせた……その瞬間である。
糸である。赤い糸が、マスケット銃に絡み付いていた。
「……!」
コルテスは脳裏に嫌な予感がよぎるも既に遅い。銃は不思議なほど呆気なく、滑らかに、赤い糸に引っ張られて……己の手から零れ落ちた。
「お前みたいなやつが呆気なく殺られる時は決まって理由があるんだ」
『不可視の存在』が『かき消した声』でそうぼやく。
先程まで、音の多重奏……といっても過言ではないほどに様々な音が鳴り響いていたはずの戦場が、意図的か――偶然か――一切の静寂と化す。
熱を帯びたマズルが後頭部に食い込む。
「貴様……いつから乗っていた……」
コルテスは驚愕の顔のまま、振り絞った声で、背後に立ち――先程奪われたマスケット銃を突きつける――月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)にそう言った。
「……それが慢心ってやつだよ」
質問にはあえて答えない。そもそもこの言葉も『音を消している』が故に聞こえていない。お前は慢心に殺されたのだ。傲慢ゆえに、隠れていた自分に気が付けなかった。だからこの状況になっているのだ、と、言外に伝えているような気もして。
「う、おおおおおおおおっ!」
窮鼠猫を嚙む、だろうか――はたまた火事場の馬鹿力だろうか――コルテスが吠え、突きつけられたマズルを振り向きざまに殴り飛ばさんと腕を振るう。
無論、暗殺者として卓越した実力を持つ月鴉が予想していなかった展開ではない。冷静にトリガーを引き、コルテスの頭蓋をぶち抜かんと撃とうとした。 が、それと同時に背中に乗っていたケツァルコアトルが大きく揺れ、咆哮。僅かに弾道が逸れ、黒色の弾丸がコルテスの右耳を吹き飛ばした。
「ちっ……諦めの悪い……」
躊躇なくケツァルコアトルから飛び出し、空に晒される。だがそんな状況も予想はしていたのか、別段焦る様子もなく――落下しながらマスケット銃を再度発砲。
「その首、頂いていくぞ」
コルテスの首筋付近の――鎧が噛み砕かれているところを撃ち貫いた。
「ぐあああああっ!」
右耳、首筋を撃ち抜かれ、おびただしい量の血液が噴出する。それでも即死しないのは強大なオブリビオン故か。だが、このまま戦闘を続ければ間違いなく出血死だろう。
逃げなければ、一度、態勢を立て直さなければ。コルテスはケツァルコアトルを駆り、全速力で符の包囲網から抜け出そうとする。
ガーネット、郁芽がその動きを止めようと熱線や高威力の符を繰り出して牽制するも動きは止まらず。ケツァルコアトルは幾度も焼かれ砕かれ貫かれようとも、血の涙を流す理性なき目が閉じることはない。
あれを突破されたら逃がしてしまうかもしれない。猟兵たちが息を飲んだ――その瞬間。
一瞬、大きな何かが通ったかと思えば――鈍い音と共にケツァルコアトルの頭蓋が大きく揺らされた。あまりの速度に目の前にいたコルテスですらその存在を認識できていない。
「――!?」
ケツァルコアトルは声にならない声をあげ、よろめき軌道が逸れ、動きが止まる。生命体であれば頭蓋を揺らされればほとんどの場合『朦朧』とする。ケツァルコアトルも神とて生命と身体を持つが故に例外ではなかったようで。
「間に合いましたか」
ケツァルコアトルの頭の上に乗るは、白銀を基調とした鎧に身を包む騎士……トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。風にはためく赤い髪と、全身を包む鎧が、背面から開いている外套のような装甲が、太陽光に反射して眩しく煌く。
「ど、どうやって乗った……。く……邪魔だぁぁあああっ!」
完全に余裕をなくしたコルテスが、ケツァルコアトルから引きはがそうと騎竜を激しく揺らす。だがそれと同時にトリテレイアも外套のような装甲を背面から正面にかけて閉じ、そのスラスターで飛翔。
「流石の全世界サイボーグ連盟メカニック班の技術力、良い仕事ぶりですね……あとは性能を引き出す使用者の問題ということです!」
質量の塊のような見た目でありながらその動きは圧倒的に俊敏。恐らくケツァルコアトルの先程の突進よりも……『速い』。
同時に、ケツァルコアトルの横っ腹に衝撃が走る。コルテスがそちらを向くと、色とりどりの魔法陣が目に入った。それを展開しているのは、その背面で箒に乗っている少女……メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)。
もはやコルテスは驚きすらせず、即座にケツァルコアトルに指示。尻尾が彼女めがけて鞭のようにしなり迫るが、回り込んできたトリテレイアに阻まれ、激突。
「私を無視しないでいただきたい!」
自分がいる限り、メンカルに手は出せない。そうコルテスに思わせるために挑発めいた言を口走る。
「どけぇええええ!」
声色を荒げて『古典的騎乗術』の構えに移行。そして、突撃。騎乗者と騎乗獣が一体となることで繰り出されるこの攻撃は、直撃すればひとたまりもないだろう。
「何度やろうが同じことですよ!」
大昔にやった突撃術を思い出す時間が足らなかったのだろう。トルテレイアの鉄壁たる全身を、盾を上手く利用され軌道を逸らされてしまう。トルテレイアの全身に火花が散るが、うまく衝撃を逸らせたようだ――目立った損傷はみられない。
ケツァルコアトルは空気を振動させるほどの咆哮をあげ、我武者羅に暴れ出す。だがその様子を見ていたメンカルは表情を変えることなく、トルテレイアに指示を出し続けた。
初撃、火砲。
「右外面部分が浅い……脆弱術式展開……」
トルテレイアが指示通り右外面に身体をぶつける。火砲は逸れ、空中で霧散。
二撃、尻尾薙ぎ払い。
「さっきより威力高いけど……遅延術式かけといたから弾き返せるはず……」
右から迫りくる尻尾とトルテレイアが激突。だが緩慢な動きとなったのでこれも弾くことに成功。
三撃、タックル。
「鱗がボロボロなところがある……。そこ、狙って」
躊躇なく、トルテレイアの頭部格納銃器から銃口が展開され、発射。肉を削ぎ落すほどの一撃によりケツァルコアトルは大きくよろめき、タックルの勢いを完全に殺されてしまった。
四撃、再度の古典的騎乗術。
「……」
無言で頷くメンカル。トルテレイアも頷いてそれに応じた。
――準備、完了――
「――これで終わりだ。私はこの騎乗術を完全に『思い出した』。私の命が果てる前に貴様らを蹴散らし、一つ残らず首をかっさらってくれる」
コルテスはそう言い残し、ケツァルコアトルを――疾駆。音すら置き去りにするそれは、かつての栄光の道しるべ。侵略の系譜であり、彼の強大さの象徴でもある。
だが、彼はここにきてまだ慢心している節があった。
――あの二人は攻撃に秀でていない。ならば力押しで勝てる――
スローモーションの世界、激突したトルテレイアの装甲が悲鳴をあげ、陥没する――正面の追加装甲が砕かれ――トルテレイアが落下していき――。
「わたしたちに勝ったとでも思ったのか? この糞野郎」
ケツァルコアトルの真下から、鈍く重たい轟音と衝撃が響き渡る。突進の勢いが完全に殺され、竜の顎がメンカルの目と鼻の先で静止し――墜落を開始した。
「常識で考えろ。今、ここではお前ガ食い物ダ」
墜落していくケツァルコアトルは落ちながら尚も、紅に光る双眸が線を残して映る『何者か』によって四方八方から打撃のような何かを貰い続けている。さながらサンドバッグの如く。
見えない打撃の正体は、宮落・ライア(ノゾム者・f05053)。
――蹂躙する、ということは――『全てにおいて著しく相手を上回っている』状態だ。つまるところ、見えない打撃は透明になっているのではなく、『見えないほどの速度で攻撃し続けている』ということだ。
「馬鹿な! あの騎士と女、二人しかいなかったはずだ!」
コルテスは墜落を回避しようとケツァルコアトルに隷属の呪いを発動させ、無理矢理起こす。だが強引な術式が仇となり、ふらふらと横に軌道が逸れていく。その先は郁芽が展開し続けている『霊符の包囲網』の境界線。先程は全力の突撃であったため脱出できたかもしれないが、これだけ勢いを殺されているとどうなるか分かったものではない。
「……この、化け物め」
あまりの速力、膂力、破壊力に思わず舌巻くコルテス。すると四方から殴るのをやめ、下から抱え込むようにケツァルコアトルの首根っこを掴んでぶら下がるライアの姿がここで初めて映った。
彼女らしい姿を残しながら――両手が異常発達した――少女の見た目でありながら圧倒的な『力』を内に感じさせる、名状し難い存在であった。
「あっはははは! 化け物? 怪物? 人でなし? いいよ。いいじゃないか! 人である事なんて些細な事だったんだ! はっ……笑える」
恐れおののくコルテスに凶暴な笑みを浮かべると、ライアは片手でぶらさがったまま――何度も、何度も、何度も――ケツァルコアトルの顔面を殴りつけはじめた。
「くっ、やめろ! 私の所有物に触るな! この下等生ぶ――」
コルテスの言葉と抵抗は、胸に吸い込まれるように直撃した深紅の波動――地上で遠距離牽制を繰り返していたガーネットの一撃である――それによって半ばで止まることとなる。
「――所詮貴様は国に飼われた海賊だ。……哀れだな」
ガーネットのその言葉を最後に、コルテスとケツァルコアトルは軌道修正できずに霊符に激突。郁芽があらかじめそこに設置しておいた転移符が起動。
「さあ、私と一緒に来てもらいますよ!」
郁芽の言葉と共に、光に包まれ……世界が暗転した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
薄暗い、広い空間……恐らく厳島神社の境内のどこかだろうか。転移されたコルテスとケツァルコアトルはそこに佇んでいた。
目の前には、薙刀を構えて油断なくにじり寄る郁芽の姿。
「ふふ、小娘1人ごときで私とコレを倒せる、とでも……?」
すでに出血多量で相当疲弊しているコルテス。だが、それでも尚、猟兵1人『だけ』では手に余る存在であろう。
「この期に及んで、竜に跨って上から目線? はは、この『ひとごろしき竜』相手によくもまぁ」
「――とりあえず、一言。貴様は終わる」
およそ二人分の足音。それが徐々に近づいていき――薄暗がりの奥、郁芽の背後から姿を現すは黒ずくめの二人――『鎧坂探偵社』――その二人である。
「はじめまして――なんて、言う必要すらないわね」
腕を組んで悠然とコルテスを見上げる、ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)。
「これから死にゆく存在に名を告げるなんて実に無駄……。勿体ないね」
スーツの襟を整えてネクタイを緩め、歯をぎらつかせた『特徴的な笑み』を浮かべる、鎧坂・灯理(不退転・f14037)。
「最後の最後まで私を邪魔するか……。虫唾が走る」
ならば、と言わんばかりに全身の力を漲らせ、雄叫びをあげるコルテス。ケツァルコアトルも呼応して咆哮。
二人の張り裂けんばかりの『殺意』を聞き届けたヘンリエッタは、目が据わり、対照的な『氷点下』の殺意をコルテスらに向ける。
握りこんだ両拳が、軋む。
「ぶち殺してやる、引きずり落とす。灯理、――サポートを」
並大抵の人がその殺意を向けられれば、それだけで気絶してしまいかねない『凄味』を感じさせる。
ヘンリエッタの言葉を聞いた鎧坂は、笑みをより深く刻み、目がぎらついたものとなる。
「――お任せあれ、ハティ」
郁芽は薙刀を振り回し、体内に溜め込んでいた破魔の力を開放。淡い光が薙刀を包み込み、それが境内を照らした。さながらそれは天照の如く。
「さぁ、串刺しの刑です。絶対に逃がしませんからね」
――静寂を破ったのはコルテスら。ケツァルコアトルを羽ばたかせ、抵抗飛行。膂力にモノをいわせた質量兵器。某の突撃。弾丸。鉄砲玉……否、もはや大砲。
「皆殺しじゃ、生ぬるい――」
それに応じてヘンリエッタが、構える。己の中に滾る力が――暴力が――膨れ上がっていく。
だがそれを易々と見逃す連中ではない。ヘンリエッタの変化に気が付いたコルテスがケツァルコアトルに命令。突進の速度が爆発的に増加し――
「させません!」
横槍を入れたのが郁芽。左から飛び上がり、空中で薙刀を縦に1回転――いわゆる、満月斬り。煌く光と共に左翼が引きちぎられ、蒸発し霧散する。
悲鳴をあげるケツァルコアトル。しかし右翼を利用し軟着陸。床を掘削するほどに破壊しながらヘンリエッタに切迫し、跳躍して踏みつけようとする。
「当たると死ぬわよ」
めきめきめき、という――拳を握りこむ音とは思えない異音を含ませ、右拳に力を込める。
異常に気が付いたケツァルコアトルが一瞬躊躇したのが運の尽きであった。
殴りかかる……と見せかけて、跳躍した際に少しだけ前に飛び出た尻尾を掴む。
「あなた、こういうのはお好き?」
巨体が、浮いた。ヘンリエッタが尻尾を掴んだまま右に振るう。右に吹き飛び壁に叩きつけられる。左に振るう。左の壁に叩きつけられる。
上に振るい、落とす。上に振るい、落とす。落とす。落とす。落とす。落とす。落とす――潰す。
振り回して叩きつけていくうちに、硬質な音から湿った音に変わっていった。もはや原型すら留めていない肉塊に成り果てつつあるケツァルコアトル。床が破砕され、半ば液状化すらしている――それでもなお、ヘンリエッタは涼しい顔のままだ。
「あら、まだ息があるの――それじゃあ」
おもむろに郁芽にパスをするようにケツァルコアトルを投げる。それに応じた郁芽が空中に晒されたケツァルコアトルの首めがけて、一閃。鱗による鎧がほとんどなくなったためか……破魔の力も合わさって驚くほど簡単に両断してしまった。
落とされたケツァルコアトルの頭は、どこか穏やかな表情を浮かべていて。
「それは灯理に任せる。――私のつがいよ、絶対に失敗はない。あのつがいは、意志の怪物だからね」
それ、とはもちろん吹き飛んだコルテスのことだろう。コルテスが吹き飛んだ方面を一瞥し、ヘンリエッタは一言――告げた。
「さあ、ぶち殺せ」
コルテスは吹き飛んだ先で、地面にうずくまっていた。
「ぐ、おのれ、こんな、こんなはずでは……」
怨嗟の声をあげながら身体を引きずり、どうにかここから逃れようとする。引きずるたびに深紅の鮮血が床を汚す。首筋の太い血管が傷ついているのだ、出血量も当然の結果だ。
「逃げられるとでも思っていたのか?」
目の前には鎧坂が笑みを浮かべ、立ち塞がっていた。コルテスは目をつむり、溜息を吐く。
「――お、おおおおおお!」
埒外の跳躍力で飛び上がり、回避する素振りすらみせない鎧坂の首根っこに狙いを定め、両手を伸ばした。
「10秒もいらない」
巨大な拳骨、というべきか。天から堕ちる、巨大な『不可視の手』。
「1秒未満で十分だ」
眼前で床に叩きつけられたコルテスが血反吐を吐く。
「私の脳は優秀なんでね」
床に這いつくばったコルテスの足を『不可視の手』が掴み、宙ぶらりんにする。
「な、何をする気だ。やめろ、やめるんだ……やめて、くれ……」
おおよそ想像がついたのか、顔を青ざめ懇願するコルテス。
「昇天するほどの……未知の体験、さ」
叩く、砕く、投げる、引きずる、叩きつける、叩きつける、叩きつける、叩きつける、叩きつける、叩きつける、叩きつける――。
「骸の海に還れ」
とびきりの『笑顔』と共に、赤黒い『コルテス』のようなものを、風を切るほどの勢いで壁に叩きつけた。その破壊力に耐えられず壁が砕け――その向こうに広がる『海』に激突。そのまま沈んでいった。
その様子を見届けた鎧坂は背中を向け、告げた。
「貴様の敗因は一つ。私たちの敵に回ったことだ」
大成功
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