エンパイアウォー⑧~饑餓重ね
●死にたくない
父ちゃんが食われた。
お前は逃げろ、母ちゃんや弟妹たちを守ってやれと、向かってくる化け物に立ち向かった父は食われた。震える足でボロボロの鍬を構え、自分たちを逃がそうとして。少し裏返った声だったけど、勇ましく声を張り上げながらあの気持ち悪い死人のような奴らに向かっていって、あっけなく食われてしまった。
次は母ちゃんと、一番下の妹が食われた。
大丈夫、お城まで逃げれば、お侍さんたちがきっと守ってくれる。そう励まし合いながら懸命に走っていた。けれど、まだ小さい妹が転んでしまった。慌てて母ちゃんが立ち上がらせようとしたけれど、もう手遅れで。
城まで逃げなさい。生きたまま貪り食われる恐怖と痛みが混じった、母の最期の声が耳にこびりついて離れない。
そして次は俺の番だ。
城まではもう少しだ。けれど、子供の足ではきっと間に合わない。だから、誰かがやらなきゃいけない。逃げるだけの時間を稼がなければ。それに、頼れる大人はもういない。隣の家の優しいおじさんも、裏手に住んでる明るく笑うおばさんも、誰もが必死の形相で城を目指している。みんな自分の命が大事だ。
だから俺が、弟や妹たちを守らなくちゃ。
父がそうしたように、少年は異形らの前に立つ。家族を守る為に、向かい来る異形に一人立ちはだかる。大した時間稼ぎにはならないと分かっていても、他に家族が生き残る術は他にない。
恐怖で滲んだ涙が視界を歪ませる。震えそうになる足を、しっかりしろと心の中で叱責して、彼は持ち出してきた包丁を構えた。刃に、異形達の肩から生えた大きな水晶が反射する。
――父ちゃん、母ちゃん。俺、
●死なせはしない
小さな顔を苦々しく歪ませ、一文字・八太郎(ハチ・f09059)が予知のあらましを伝える。
場所は鳥取城周辺の村々。突如現れた水晶屍人に襲われた人々は、追い立てられるように城の中へ逃げ込んでいく。
だがそうして逃げ延びたとて、助かりはしない。
今回、水晶屍人を呼び出すは陰陽師『安倍晴明』。その狙いは人々を恐怖で城内へと集め、閉じ込め飢え殺すこと。その彼らの絶望や苦しみは、より強力な水晶屍人を作り出す材料となる。
「此度は戦だ。戦ならば、兵糧攻めも策としてはあろう。だが、」
これはあまりにも、人の道から外れている。
かつて『鳥取城餓え殺し』という策にて、凄惨な最期を迎えた人々の恨みつらみ。それが強く地に染み付いた場所での悪趣味な再現。そこから生み出される水晶屍人は、奥羽での戦いよりも格段に強い個体となる。もしもそれが量産されるとなれば、おそるべき強大な戦力と化すだろう。
戦うことになれば、幕府軍と猟兵達も無事では済まぬ。
「なんら罪のない人々を苦しめ、あまつさえその命を奪って利用する行い。断じて許すわけにはいかぬでござる」
今から向かえば、水晶屍人達が村へ襲いかかる直前で戦闘が行える。村の手前、少しばかり拓けた野原にて、猟兵達が迎え撃てば敵の意識はこちらへ向く。そうなれば、村人への避難誘導の必要はない。
「ただし、今回の水晶屍人も強化を施されているようでござる。どうかゆめゆめ油断はなさらぬよう」
個体数は十ほどとはいえ、猟兵達と渡り合えるほど。今までの水晶屍人より格段に強い。
八太郎が、その金の目をすうっと細めて猟兵達を見渡し。深く頭を下げて彼らへ願いを託す。
「それでは人々を救い、死者には眠りを。皆様どうぞよろしくお頼み申す」
砂上
はじめまして、こんにちは。お久しぶりです。
砂上(さじょう)です。
※このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
※1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
今回の舞台もサムライエンパイア、大きな戦の一幕。
水晶屍人を倒し、罪なき人々を助けてください。
仔細はOPの通りです。
皆様の格好良いプレイングお待ちしております!
※書けそうな人数でさくっと書ける形で終わらせる予定です。
※状況によっては返金してしまうかもしれません。
※先着順ではないです。
第1章 集団戦
『水晶屍人』
|
POW : 屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD : 屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:小日向 マキナ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
青霧・ノゾミ
氷の矢を敵の肩、水晶を狙って放つ。
閃光発動阻止。
間合いをとり、接近を許さないために。
乱撃の狙いとタイミングをずらし、こちらの回避率を高めるために。
それでも接近戦やむなしとなれば攻撃を冷静に受け止め回避し、
反撃へと繋げる。
能力が強化されていても、元は…農民。
戦いに長けているわけではない、力まかせの攻撃。
こちらが一歩退けばそれを追うような、単純な動きであるなら。
注意をひきつけることで、次は爪牙や農具の攻撃であろう、と。
読みやすくなるかもしれない。
(すでに水晶屍人となっている敵に対し)
……ごめんなさい、間に合わなかった。
だけど、必ず止めるから。
これ以上大切な者を奪わせない。
僕の一撃は、鎮魂のために。
玖・珂
戦場にあって刃を抜いたなら、命取られても文句は言えぬ
だが
その意思さえない者が何故巻き込まれねばならぬのか
水晶屍人の動きに規則性
攻撃の予備動作はないか情報を収集
此の戦いを鎮めねばならぬのだ
噛みつきには体躯を捻り躱し、爪の一撃は黒爪で弾き
切断されぬよう立ち回るぞ
肉が裂けたなら激痛耐性で抑え込む
過去の苦艱、等と言葉では表せられぬ程の最期であっただろう
それを再現しようなど彼の陰陽師は悪趣味が過ぎるようだ
隙を視つけたならダッシュで回り込み掌を敵の背に当て
早業で黒の紋様を伸ばし、白炎の花を咲かそう
全力魔法にて火力を上げ一刻も早く屍人を灰に還すぞ
生きた者には安寧を、死した者には眠りを齎すため
私は戦場にあろう
風に吹かれた背の低い草が波を打つ。
平坦な地が続く村の入り口にある野原は、常時ならばその長閑さにのんびりと休憩でもしようか思うよな風情があった。
けれども、今は。
やってくる不穏な姿がゆらゆらり。遠目には、何か様子のおかしい他所の村人にでも見えるその人影。
しかしてそれが、既に人で無き者達だと猟兵達は知っている。
その不穏な人影――屍人の肩から生える青い色した巨大な水晶が、不気味に明滅を繰り返そうとしたその時だった。
氷色が一閃、空気を裂く。
晴れやかな青空の下、硬質なものが砕ける高い音。天高いお天道様の光を反射した水晶片が輝きながら散らばった。
まだ距離はあるといえど、不気味なその姿した相手へと青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)が放った氷の矢。
その音、その威力。異形と化した死者達の意識を、攻め入ろうとした村から猟兵達へと奪うには十分だった。
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
獲物を見つけた彼らが、猟兵達へと駆け寄っていく。農具を持った腕を振り回し、濁った声で叫びながら、とても死者とは思えぬ早さで向かい来る。
だが、大人しくそれを待ち構えるだけなど、誰がしようか?
氷の矢が、今度は雨のように屍人達へと降り注ぐ。
ここは今、戦場と変じた。その場において刃を抜いたのであれば、命を取られたとて文句は言えぬだろう。
されど、自分達の背後にある村人達はただ平和に暮らしているだけだ。戦うような意思も、ましてや発想すらも無いだろう。
故にそのような者達が巻き込まれるような道理も、有りはしまい。
黒石の瞳でもって、玖・珂(モノトーン・f07438)がひたりと見据えるは、真っ直ぐに向かい来る屍人の一人。彼らは既に痛覚など失われて久しいか。氷の矢をその身に受けたままであっても臆す素ぶりもない。
濁った呻き声をあげるそれの元へ、地を滑るように駆けた羅刹の女が接敵した。飛び込んで来た獲物に歓喜の声あげ、喰らいつこうと黄変した歯列が大きく開かれる。しかしそれは閉じたとて、ガチンと虚しい音をたてるのみ。身を捻った女の白装束がはためき揺れ、垣間見得る黒すら捉えられはしない。
此度、理不尽に引き起こされしこの戦。鎮めねばならぬと女の意思は固く鋼となりて、敵の一挙一動を見逃さぬ。
異形の、元は働く良き手だったものから伸びる長い爪。振るわれたそれを、鐵付けた左手の五指が流れるように叩き落とす。生者が相手ならばその生き血を吸い上げる装甲も、死者相手では何も得ることはなく。ただ、ぼとりぼとりとその屍肉の指先を切り取った。
けれど彼女一人で押し止めるには、まだ数も力も減らしきれてはいない。別の屍人が彼女の背後を通り過ぎ、青霧が放つ氷の矢すらを受けて倒れこむ。そしてそのまた後ろ。倒れた屍人を踏みつけて、無傷な一体が青霧へと走っていく。
氷矢の追撃放ったとて、農具振り回す相手の一撃を防ぐには些か距離が足りないか。青霧はそう冷静に判断を下し、ならばと抜くは凍てつく刃持つ短剣。屍人が振り回す農具をそれで受け流し、回避に専念する。
いかに骸の海から駒として強化をされようと、元はただの農夫達。戦に長けているとは言い難いその動きは、力にまかせたものばかり。
「……ごめんなさい、間に合わなかった」
下がった分だけ追ってくる屍人へと、その青い瞳に悲しみ宿して溢れる言葉。
だけど、必ず止めてみせる。新たな悲しみを生むその連鎖も、そして今なお続く怨恨にて動くその躰も。
これ以上、何一つだって大切なものを奪わせてなるものか。
踏み込んできた相手の内へ潜り込み、青霧が手にした短剣を屍人の顎下から深々と突き刺す。凍れと小さく呟けば、現れた氷の矢が屍人の胸を、腹を射抜いて凍らせる。
鎮魂の一撃は、屍人をもう一度骸の海へと送り還す。
聞こえ見える、異形達のその声に姿。過去の苦艱、等と言葉ではとても表せられぬ程の苦悶に満ちた最期であっただろう。
そのようなものをを再現しようなど――彼の陰陽師は些か悪趣味が過ぎるようだ。
長く生えた草に足を取られてぐらりと体を傾かせる屍人の隙を見逃さず、玖珂は素早く背後へと回り込むと、その背にそっと右掌を当てがった。
さあ、まいのぼれ。
彼女の右手に刻まれた黒い文様が、枝葉を伸ばすように敵の背へと広がり白炎の花咲かす。全力込めて開いた花は、まるで養分吸うよに相手の体を灰へと還していく。
――生きた者には安寧を、死した者には眠りを齎すため。
吹く風に、玖珂の葬いの白花から、燃ゆる花弁が流れ散った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
あや君(f01194)と
いけすかん男がなんぞしよるんは知っとるが
まだ守れるものを手から零さんようにしたい所
ふふ、そうじゃな、あや君
いつも通り、いこか
動いとるのに生きてない
ならばやはり、すべて燃やして安寧に送ってやるがよかろう
あや君の鬼火にあわせ、狐火を操りつつ
眩い光の気配を感じれば、己の前に炎の柱を立ててその眩さを消そう
わしの視界は半分ないからの、左眼は塞がれたら困るんじゃよ
一つずつより束ねてしもたほうが良さそじゃな
あや君が囲んでおるその中で、わしはさらに派手に燃やし尽くそう
その首狙いに行くところは、他にも屍人おれば邪魔されんようにあや君を援護しよう
周囲に気も配りつつ新手が来るならまた燃やす
浮世・綾華
嵐吾さん(f05366)と
いいねえ
俺たちの戦場には持って来いだ
ねえ、嵐吾さん?
閃光?俺らには関係ねーな
光に飲み込まれる前に目を閉じ
浮かび上がらせるは無数の鬼火
全部燃やしてやりましょ
恨みも、憎しみも全部
眩いのは、お前らだけじゃねーってこった
予め狙いをつけた数体を取り囲むように集中
閉じ込められなかった個体があるなら
聞き耳で気配を読み取り急所を外して攻撃を受ける
そうすりゃ居場所も割れるだろう
嗚呼、お前、そんなところにいたんだな?
せめて痛みを伴わぬように鍵刀で首を狙って切り込む
向かう刃は彼が払ってくれると知ってるから全力で臨める
お前らみたいな奴、増やすわけにはいかねーだろ?
だから、安らかに逝ってくれ
戦場の中で、飄々と居並ぶ男が二人。
「いいねえ、俺たちの戦場には持って来いだ。ねえ、嵐吾さん?」
「ふふ、そうじゃな、あや君。いつも通り、いこか」
片や、華やかな紅色と鍵の意匠を数多纏いて、口元に不敵な笑み浮かべる付喪神。
片や、動きやすいよう緩く狩衣着こみ、へらりと緩く笑いて尾を揺らす灰色妖狐。
異形にかけらも動じぬその二人へ向かい、水晶屍人が足を早めた。果たして油断慢心しているように見えたのだろうか。けれど口から出る呻き声からも、白く濁った瞳からも、死者達の考えは読めはしない。
少しも気配濁らぬ生者の態度に、水晶が凶々しく光って瞬く。
「閃光? 俺らには関係ねーな」
だが彼らのその態度は、確かな実力に裏打ちされた自信の表れ。だからこその余裕。
水晶が放つ閃光に飲み込まれるよりも早く、まずは鍵の男、浮世・綾華(千日紅・f01194)がその紅の目を確りと閉じた。それと同時に辺りに浮かび上がるは緋色の鬼火。数えきれぬほどの火が、敵の光に負けじと揺らめき立つ。
その火に合わせるように踊るは、狐の男、終夜・嵐吾(灰青・f05366)の操る狐火だ。
「わしの視界は半分ないからの、左眼は塞がれたら困るんじゃよ」
薄らと口元には笑み浮かんだまま。花薫る右目の黒い戒めを、軽く指先でつつきながら言うや否や。
ごう、と上がる火柱が、敵が放つ閃光を遮った。二種の炎が揺れて散らす火の粉に敗れ、彼らの視界を奪うことすら叶わない。
さぁ全部、燃やしてやりましょ。
かつて苦しみ、今もなお絶えぬ恨みも、憎しみも全て。
「眩いのは、お前らだけじゃねーってこった」
綾華の閉じられた瞼が再び開き、紅が緋を受けあかあかと力強く輝いた。
浮かぶ鬼火が、風吹かれて舞う花弁のように飛んでいく。目指す先は先程閃光飛ばさんとした屍人達へ。その周囲を取り囲むよう、ぐるりと緋色が熱風持って吹き荒れた。
燃ゆる囲いは絢爛、されどそれは捉えた者達が外に出るのを許さない。閉じた焔の檻の中、外に出ようともがいて燃やされ、意味のない言葉を喚く屍人の姿はふたつほど。
嵐吾はそんな彼らへとその両の手を向けた。
あの、いけ好かない陰陽師の男がなにか良くない企み事をしているのは百も承知。だからこそ――この両の手は、まだ守れるものを一つたりとて零したくはない。
琥珀の左目に映る敵は、燃やされてなおこちらへ怨念積もらせ手足動かし、憎悪の咆哮をやめはしない。しかし、これらはどう足掻いても生者ではない。命は既に尽き果てて、そして今なお苦しめられる死者達だ。
ならばやはり、すべて燃やして安寧に送ってやるのが良いだろう。
伸ばした手を強く握り込めば、踊る狐火がひとつに束ねられ。大きくうねる炎となりて、鬼火の檻の中にいた屍人を呑み込んだ。そして再び、火柱が立ち昇る。熱風が辺りに吹き荒れて、死者への送り火が跡形残さず派手に燃やし尽くしていく。もう二度と、起きる事がないように。
チリチリと肌に感じる熱に混じり、地の草を踏む小さな音が綾華の耳へと届く。檻から逃れた一体が、綾華へと鍬を今まさに下から上へと振り抜かんとしていた。
嗚呼、お前。
「そんなところにいたんだな?」
視線を向けた先、鍬の風切る音が聞こえる。十二分に引きつけられたのならば、急所に当たらなければいい――そう体を捻り、躱そうとした彼を刃が切り裂くその手前。踊る狐火が弾いてその軌道を逸らす。錆びた農具の一撃は、唐紅の蝶の端すら捉えずに終わった。
視界の端に捉えたゆらりと振られる灰色尻尾には、一先ず口元に浮かべた笑みだけ返し。そして今は眼前の敵へとすらり鍵刀構える。
「お前らみたいな奴、増やすわけにはいかねーだろ?」
だから、安らかに逝ってくれ。
振るうは、全身全霊込めた一撃。
せめて苦痛はないようにと振るわれた慈悲深き一閃。黒い軌跡描くそれが、屍人の首を大きく切り離した。
ごろりと、首が地に落ちる。鍵か、狐か、どちらのものともつかぬ炎がそれを包み込む。
短く捧げられた黙祷は、一秒程の短い祈り。その間に亡骸は灰となりて還っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紅庭・一茶
嗚呼、何と酷い光景でしょうか
君達も嘗ては人の子であったのに
今はそんなにも、醜い姿となって
――いいえ、いいえ、悼む事は止めましょう
紅庭に出来る事は、屠る事のみですから
《高速詠唱》で迅速にと武器を複製し、
武器ひとつは手にと収めた侭にして
攻撃が《見切り》で避けられない時には、
武器で薙ぎ弾く様にして《カウンター》を
他の武器は《範囲攻撃》として敵へ放ち、
腕を狙い《武器落とし》を試みつつ攻撃
行動妨害等も併せて行い乍ら、
敵数が少なくれば《一斉発射》で留めを
常に戦況を気にしつつ、
援護が必要なら快く力にと
君達を救えなくて、ごめんなさい
せめて、安らかにと眠れる事を祈って
今を生きる人の子を、紅庭は守り救いましょう
コノハ・ライゼ
聞きしに勝る、ってヤツねぇ。この悪趣味な遣り口
防ぐ手があるなら、何が何でも防いで嫌がらせしてやろうじゃナイの
コチラを突破したり抜け出す敵がいないか注意を払いつつ
手早く確実に喰らいましょ
両手の「柘榴」肌に滑らせ【紅牙】発動
一対の牙を捕食する為の大きな鋸刃へと変じ
敵中、複数巻き込める位置へ踏み込む
先ずは『マヒ攻撃』乗せ横薙ぎに一閃、『範囲攻撃』で裂き
『2回攻撃』で範囲攻撃の姿勢維持したまま複数の『傷口をえぐる』ヨ
しっかり深く喰らいついて『生命力吸収』
お行儀悪くて御免遊ばせ、この喰らい方は初めてでネ
ちょっと物足りないケド文句は言わないでおくわ
だって、死なせるモンですか
在らざる骸の手によってナンて
「嗚呼、何と」
――酷い光景でしょうか。
襤褸纏い、大きく頬まで裂けた口は最早人の言葉を紡ぐことは無い。体の至るとことろの肉は削げ落ち、虚ろに白濁した瞳に光はとうに消えている。何より、その両肩より生える水晶二つ。それが、もうどうしようもなく彼らが人では無くなってしまったのだと、そう理解せざるを得ない。
嘗ては平和に暮らし、親がいて、子がいて。家族や友人に囲まれ平和に暮らしていたこともあっただろう。それなのに何故、今このような醜い姿にならねばいけなかったのか。
――いいえ、いいえ、悼む事は止めましょう。
痛む心を切り替えるように、小さな頭を振って雑念飛ばした紅庭・一茶(いばらゆめ・f01456)は、手にした巨大なシュガースティックを複製する。大きな砂糖細工を煌めかせ、宙に素早く行儀よく、たくさんたくさん並べゆく。
今この場において自身に出来る事は、彼らを屠る事のみ。
そう意思固めるオレンジの瞳は、真っ直ぐに敵を睨みつけ。襲い来る屍人の農具が振り下ろされるよりも早く、一歩踏み込み甘い鈍器を軽々と振りかぶる。金属と肉が潰れる鈍い音立てて、錆びた農具をそのまま押し潰し吹き飛ばす。
錆びた農具のその刃の欠片。それが吹き飛ぶ勢いに乗って、周囲に浮かぶシュガースティックも勢いよく他の屍人達へと飛びかかる。その薄紫した砂糖の軌跡とともに、駆ける紫がもうひとつ。
「聞きしに勝る、ってヤツねぇ」
人の命を顧みぬ、なんと悪趣味な遣り口か。
けれどそれを防ぐ手立てがあるとするならば――何が何でも防ぎきり、あちらの親玉の鼻を明かしてみようか。
紫雲によく似た髪なびかせ、コノハ・ライゼ(空々・f03130)がその両の手に収めるは、一対のナイフ。磨き上げられた鉱石で出来たそれを、自身の肌へついと滑らせる。途端、滲んで走るは鮮やかな真紅。柘榴にも劣らぬその色が、両の刃の溝濡らせば、解けた縛りで姿を変えゆく。
鋭き歯並ぶ鋸刃。喰らい付いた先を捕らえ離さず、抉り切り裂き息の根止める牙へとなる。
先行く砂糖菓子が屍人の腕ごと農具を弾き飛ばす、そこに一歩遅れて走り込む勢いそのままに。敵陣の中で大きく横薙ぎに振り抜けば、その一撃にて屍人どもの胴を薙ぐ。屍肉を引きちぎるように、牙の先が肉を、筋を銜えて離さない。硬い骨へと潜り込んだそれの先が触れれば、その衝撃にて屍人の動きが大きく止まるに至る。
そのまま姿勢崩さず振るう牙。薄氷の目が射抜き、寸分違わず先程の傷口を抉るように喰らい付いく。骨から肉の剥がれる耳障りな音がして、死んだ肉に黒く大きな傷が開いた。
呻き、叫び、吠え声響く。
再び動き出した屍人が武器を掴まんと、蠢く腕。だが、飛び交うシュガースティックが無慈悲に圧し潰す。
「君達を救えなくて、ごめんなさい」
どれほど哀しい最期を迎えたのだとしても。守り救うべきは、今を生きる人の子だ。死者は過去。過ぎた時間は未来にはどうしたって行けはしない。だからどうか。
せめて、これからは安らかに。
誰にも起こされる事など無く、どうか永遠に静謐な眠りを。そう祈る紅庭が、彼らの最期を目を逸らさず見届ける。
深く、深く。喰らい付いたコノハの牙は決して離されはしない。力込め、突き刺さった肉を裂いて沈め、そうして傷口より奪うは屍人らの生命力。
「お行儀悪くて御免遊ばせ、この喰らい方は初めてでネ」
生者が憎いと吠え続けるしか術のない、死者のそれでは少しばかり物足りなくはあるけれど。
文句は言わないでおくわと常と変わららぬ調子で告げるコノハの声。そこに滲むは優しさか。
悲しみと哀しみ、怨みと恨みに濡れたその魂。二度目の与えられた生も、ただ苦しむばかりのその命ではあるけれど。
彼らの感情を、生きていた筈のその思いを。
それを、在らざる骸の手によってなど、死なせてなるものか。
裏で糸引く者へと向けた嫌がらせ、その意地で。屍肉を裂く刃はその魂すらも離さず飲み込み、何一つ残すことなく全てを呑み込んでいく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
多々羅・赤銅
刀一振り携え仁王立つ
いやー、駄目なんだわ
ガキが泣くのは、私の堪忍袋ガバガバしちまう
振るうは唯剣刃一閃
鎧無視の刃は骨肉も、爪牙も、水晶さえも等しく斬って斬って斬り捨てる
屍兵どもを、ただの農民の屍肉に還しゆく
もしも噛まれたとして
身体に流るる聖者の血が、傷も穢れも拒むだろう
なあ、お前らも兵糧攻めの被害者なんだって?
いんやあ、飯を食えずに死ぬのは一等辛い
子の泣き声に乳の一滴も出せず、
泣き声が止んだら子の肉を食う番だ。
一等辛い。
憎いなあ。
けどなあ、言われずとも分かるだろうが
故にこそ、此処でこの地獄を止めようや
もう誰も飢えねえでいい
霞よりも、脆く幽かに、失せろ
な、村の豊作を願っててくんろ
それで、終いだ
残るは最後の一体が、誰も彼もの一撃を躱せたのは、果たしてようやく今になって得た幸運と言えただろうか。
けれど屍進むその先。白濁した目が捉えたのは飾り気ない刀携え仁王立つ、笑う女がただ一人。
「いやー、駄目なんだわ。ガキが泣くのは、私の堪忍袋ガバガバしちまう」
軽い口調と裏腹に、多々羅・赤銅(吉祥・f01007)の手で振るわれるは重く鋭い斬撃のみ。
防ごうとした、伸びた爪ごとその指を。噛みつかんと頬まで裂けて開かれた、黄ばんで尖った歪な歯列を。腹から飛び出した骨の一部は土台の肉すら纏めて。そして今、不気味に瞬かんとした肩の水晶すら、全て等しく、斬って、斬って、斬り続けては斬り捨てる。刃が跳ね飛ばした爪が頬をかすめようと、その身に流れる血がそれを赦さない。傷も、穢れも拒絶して。女はただひたすらに剣を振るう。
肉が飛んで、散って、小さくなって。
そうして今や、彼女の前にいる屍人は此度戦の兵ではなく。ただの農民の屍肉と、その姿を戻していく。
長く伸びた多々羅の桃色の前髪に隠れた左目は伺えぬ。けれど赤銅色した右目はひそりと凪いでいた。
「なあ、お前らも兵糧攻めの被害者なんだって?」
尋ねる声も平坦に。ただ、静かに静かに告げられる。
「いんやあ、飯を食えずに死ぬのは一等辛い。子の泣き声に乳の一滴も出せず、泣き声が止んだらその子の肉を食う番だ」
――一等辛い。憎いなあ。
ひどく現実味を帯びた言葉達が、刃と共に振るわれる。屍肉が飛び、地に落ちて、ぼとりと鈍い音立てる。
「けどなあ、言われずとも分かるだろうが」
かつて悍ましいそれらを経て、成った彼らは知っている。故にこそ、この二度目の地獄は今こそ此処で終わりにしよう。
もう誰も飢える必要はありはしない。そして願わくば、
「な、村の豊作を願っててくんろ」
もう誰も飢える事も無いように。
刃が最期にもう一度閃いた。
小さな肉塊が、偽りのいのちを終えていく。
亡骸達が吹く風に晒されてほろりと形を崩し、靄もかくやと散り消えてしまえば――襲い来る過去はもう、どこにも見えはしなかった。
大成功
🔵🔵🔵