エンパイアウォー⑩~灼熱の黒鉄城
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炎天。
読んで字のごとく、炎に焼かれるような暑い日差しを放つ空。
炎天下。
読んで字のごとく、そんな焼かれるように暑い日差しを放つ空の、下。
『大火蜂』。
読んで字のごとく、火炎でその身を形作る蜂。
バチバチという耳障りな羽音を撒き散らす炎の妖達は、身を焼くような炎天の下、とある巨大な船の上を喧しく飛び回っていた。
『上』という文字を丸で囲った紋を刻んだ旗の翻る、巨きな巨きな船だった。
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刻一刻と変化を見せる戦況が次々に猟兵たちの耳に届く、エンパイアウォー。
グリモアベースに猟兵たちを招集したクロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)の表情からは、一切の喜怒哀楽が読み取れそうにない。
いわゆるポーカーフェイスを浮かべたまま、集まった猟兵たちへの説明を開始する。
「アンタらも知っての通り、幕府軍がひとまず関ケ原に到達した。まずは関ケ原で待ち受けていたヤツらを片付けて、そっからは山陽道、山陰道、南海道の三手に別れて進軍することになるが、……やっぱり、そう簡単に進ませてくれるワケじゃねェみたいだ」
そう言って彼はぱちん、とカジノチップ型のグリモアを弾き飛ばし、幕府軍の進軍を妨げるモノを映し出す。
――全長およそ200m、全幅およそ30m。
サムライエンパイアの海上を走るそれは、まるで巨大な生き物のようだった。
「その名も『超巨大鉄甲船』……そのまんまだな。
魔軍将のひとり、『日野富子』がその財力をまぁ好き放題使って、このクソでかい船を建造しやがった。つっても、こンだけでかい船を動かす船員なんてそうつかまるモンじゃねェ、一体どっから調達したのかと思ったんだが……戦国時代の瀬戸内海を暴れまわった大海賊、『村上水軍』の怨霊を呼び出してまかなってるらしい。……敵ながら適材適所、まさに最強の水軍ってワケだ」
だが、だからといって、勝負を降りるわけにはいかねェ、とクロヴィスは続ける。魔空安土城へと戦力を、そして多くの命を運ぶ、幕府軍の船をそう易々と沈められるわけにはいかないのだ。
「この船自体は、ヤツの呼び出した怨霊の力が宿っている限りすぐに復元されちまう。だから船自体を攻撃して沈めるだの、操縦している亡霊の船員を直接攻撃、ってのは残念ながら無理だ。
その代わりこの亡霊は、帆柱に掲げられた村上水軍旗を引きずり降ろすと消滅する……ってことは当然、そんな弱点みてェな軍旗を護るためのヤツらもいるワケだが」
ここまで説明すりゃ大体わかったかね、とクロヴィスは改めて集まった猟兵たちの面々を見やり、……そして少しだけ躊躇いがちに、船の上を飛び回る十匹ほどの炎の蜂をグリモアの光に映し出した。
「……このクソ暑いのに、こんな如何にもクソ暑そうなヤツを相手にしなきゃなんねェとこに送り出すのは……その、何だ……すまん」
気まずそうに眼を逸らしたグリモア猟兵を、しかし戦況が戦況だからか、咎める者は居なかったのがせめてもの救いだったか。
謝りついでにもうひとつ、とクロヴィスは改めて猟兵たちに向き直る。
「悪いが、常に動いている船ってのは上手く補足できなくてな……送り込んだら足元が海、即ドボン、ってワケにもいかねェだろ。だからオレがアンタらを送ってやれンのは、せいぜいこの船が走っている所から一番近い港だ。
そこから何とかして海を渡ってこの『巨大鉄甲船』に乗り込み、旗を護るこの蜂たちを駆除、そンで旗を引きずり降ろし、船を止める。
……ちっと、考えなきゃいけねェことやら、やらなきゃいけねェことが多い、が……オレは、勝てないと思う勝負にゃ挑まねェ主義だ」
――そもそも、勝てない勝負なんざ存在しねェんだからな。
そこまで言って、ようやくグリモア猟兵は感情のこもった笑みを浮かべる。
「アンタたちに賭けてンだ。頼むから勝たせて……や、勝ってきてくれよ」
ぱちん、と弾かれたカジノチップの淡い光が、猟兵たちを包み込んだ。
黒羽
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
オープニングをご覧頂きありがとうございます、黒羽です。
当シナリオに一切かまぼこは出てきません。
●プレイング時の注意
クロヴィスの言っている通り、転送後すぐに戦闘という訳ではありません。
『海を渡り、巨大船に乗り込む方法』
『戦闘プレイング』
『水軍旗をおろす方法』
上記三点をなるべくプレイングに盛り込むようにしてください。
どうしても思いつかない場合は一先ず『戦闘プレイング』があれば、他の参加者様と連携することで船に乗り込んだり一緒に水軍旗をおろせたりするかもしれませんが、プレイングに書いただけ活躍チャンスが出てくる=採用率を上げられると思いますので、なるべく記入して頂くようにお願いします。
●採用人数について
戦況を鑑みて、成功数重視の少し人数を絞った採用数になるかと思います。
あらかじめご了承頂ければ幸いです。
それでは、夏の暑さにもオブリビオンの暑さにも負けないような、皆さまからの熱いプレイングを心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『大火蜂』
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POW : 種火
【自身の身体】が命中した対象を爆破し、更に互いを【火事の炎】で繋ぐ。
SPD : 延焼
【周囲の炎が燃え広がること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【火事】で攻撃する。
WIZ : 不審火
自身が戦闘で瀕死になると【炎】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:白狼印けい
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
未不二・蛟羽
デッカい船…ロマン、って感じっすけど、敵の船っすもんね
ちゃんと幕府軍は守るっすよ
海でも陸でも、空の下っす!
【逆シマ疾風】を発動して船まで飛んでいくっす
途中、海に向けて風の弾丸を放ち、大波を起こそうと
それで敵の船が怯めばよし、そうでなかったら【空中戦】で風で船を煽り、陽動しながら乗り込むっす
敵への攻撃時も空中から風の弾丸を撃ち火の回りを阻害
熱さは【No.40≒chiot】で【武器受け】して耐え
風を纏いつつ火の中を突っ切り、【龍閃】で殴りつけ
そのまま水軍旗まで空を駆け、引き摺り落とし
敵の妨害で敵わないなら、【武器改造】してNo.40を単体で飛ばし、吊るしている縄を齧り切ってもらい
アドリブ・連携歓迎
樫倉・巽
大きな船だな
仕掛けもある
それでもやることは変わらぬ
覚悟を持ってできることをする
それだけだ
他に船に乗って移動する仲間がいるなら同行を願う
船に乗っている間は望遠鏡を持って目をこらし
目的の船を探す
目的の船に近づいたら船の側面を【剣刃一閃】で斬り
そこに開いた穴から中に入ろうとする
船には入れたら
一気に旗を目指す
多少の傷は覚悟の上、不退転の覚悟で刀を振り道を作ろうとする
頭の付け根を狙い一撃で切り捨てるつもりで敵を圧しつつ前進しようとする
旗に近づけたら
マストや旗を揚げているロープを剣刃一閃で切り伏せ旗を降ろそうとする
「己の矜持を示すものだ
できれば下ろすことなどしてやりたくはなかったが
必要とあらば仕方ない」
アリス・イングランギニョル
○
海かぁ、イヤだねぇ
潮風もそうだし、なにより落ちたらびしょ濡れになるし(ついでにカナヅチ)
まずはあの船に乗り込まないとね
港というなら舟のひとつやふたつあるだろう
このご時世だ、持ち主も説明すれば貸してくれるんじゃないかな
勿論漕いだりするのはトランプ兵の皆だよ?
上手く乗り込めたら後はいつものように彼らを展開してぶつけよう
炎?
うん、トランプの彼らは良く燃えるだろうけれど
ま、別にそれで死ぬわけじゃない
逆に燃えてれば攻撃力のひとつもあがるんじゃないかな
炎の相手には意味ないだろうけど
折角数を用意したんだ
兵の大部分を囮にして戦わせてる内に、少数でこっそり旗へ向かわせて降ろさせるよ
●
大海原を割り、白い波を立てながら進む巨大船。常に巨大であると誇張されるだけあって、その影を捉えるのはそう難しいことではなかった。
「まずは敵の船に乗り込まなくちゃね……あぁ、ほら、あの船とか物凄い大きいじゃないか、如何にもじゃないかい?」
状況が状況ということもあったのだろう。
天下自在符を持ち出さずとも、快く協力してくれた港町の人々から小型の舟を一艘借りることで海を渡っていたアリス・イングランギニョル(グランギニョルの書き手・f03145)は、隣で望遠鏡を覗き込む同乗者、樫倉・巽(雪下の志・f04347)に声を掛ける。
小型船の舵を取る――といえば聞こえが良いが、完全なる人力船である船をえっちらおっちらと必死に濃いでくれているのは、アリスの召喚していた二十を越えるトランプ兵たちだ。おかげでふたりは索敵に集中することが出来ていた。
アリスの視認した船を確かめるように望遠鏡のレンズを遠方に向けた巽は、納得したようにひとつ頷き、海を渡るもう一人の猟兵へと合図を送る。
「あれに間違いない、聞いていた通りの水軍旗も確認できた」
望遠鏡越しに見えた、『上』の文字を丸で囲った紋。はためく水軍旗を高々と掲げた全長200mの巨大な鉄塊は、悠々と海を渡っている。
「了解っす、あれが目的の船っすね。デッカい船……ロマン、って感じっすけど、敵の船っすもんね」
ちゃんと幕府軍は守るっすよ、と意気込む未不二・蛟羽(花散らで・f04322)の声は、巽とアリスの頭上――空から聞こえていた。
ユーベルコード『逆シマ疾風』による風の加護を纏うは、その背に大きく広げた猛禽の翼。使用者の寿命と引き換えに空での自由を手に入れられるこの力が、蛟羽に与えてくれる恩恵はもうひとつある。
まるで獲物を見つけた鳶や鷲がそうするように、巽の示した船目掛けて風を切り一直線に飛んでいく蛟羽は、前方に手のひらをかざした。
――何をするのだろう、とその様子を見ていたアリスの長い黒髪が突如、ぶわっ、と強い風に煽られ、舞い踊る。
「これ、で……怯んでくれたりしないっすかね!」
遥か上空から放たれたのは、突風のような弾丸。
しかしその弾丸は巨大な船に命中することなく、巨大船の進む前方、その海面に着弾した。しかし蛟羽は焦った様子もなく、寧ろ狙い通りといった顔でほんの一瞬風穴の開いた海面と、そこへ向かって進んでいく巨大船の様子を伺う。
そう、船に放っても怨霊の力ですぐに復元してしまうのなら、狙うべきは船ではない――不可視の弾丸に撃ち抜かれた海面は、ざざ、と唸り声を上げながら大きな波を巻き起こした。
「なるほど、海賊といえど高い波は船にとって脅威に違いないからな」
「そういうことっす! そうでなくても空から行けば、目立って陽動できそうっすね……というわけで、ちょこっとお手伝いして――俺は一足先に行くっすよ!」
蛟羽の策に感心したように頷く巽に、ちょっとだけ得意げに笑って見せた蛟羽は、追加でもう一弾、今度は巽の乗る船の後方へ撃ち込む。
「おぉっと……!」
ぐらりと小さな船体が大きく揺れ、アリスは咄嗟に縁に掴まった。
古い本のヤドリガミである彼女は水やら炎やら潮風やら――つまりは本が苦手とするものが、同じように苦手らしい。
とはいえ、蛟羽は何も意地悪をした訳ではなく、むしろその逆。
小型船の後方でばしゃん、と大きな音がしたかと思えば、先ほどと同じように海面は大きく波うち――しかし今回は、巽の乗る船を、かの巨大船へ向かって大きく前進させる波となった。
危機一髪といった様子で胸を撫で下ろしていたアリスとは裏腹に、トランプ兵たちは自分たちの仕事が随分と軽くなった事に大喜びである。……それをじろりと睨む主人に震えあがるまで、あと五秒ほどといったところか。
「あぁ、これは助かる――それじゃあ、また、あの船で」
――しかし、きっともう蛟羽には聞こえていないのだろう。
巨大鉄甲船へ向かって疾風のごとく飛んで行った蛟羽の、長い黒髪がなびくのを追いかけるように、アリスと巽もまた、黒鉄の城とも言うべき巨大船を目指すのだった。
●
「熱っつ……!?」
瞬く間に空を駆けてきた蛟羽に気づかないほど愚鈍でもない。大火蜂たちはすぐさま甲板に火を放ち、それを見る見るうちに燃え広がらせる。
そしてあっという間にその燃え盛る火炎を、船の上空で翼を広げる蛟羽の元にまで届かせようとしていた。
「巽さんやアリスさんが辿り着いた時には火の海、なんてのはマズいっすよね……!」
次々に火の粉が飛んでくるのにも関わらず致命的な火傷に至らないのは、彼の黒いパーカーが、まるで主人を守るかのごとく次々と弾き返しているからだ。
その正体は【No.40≒chiot】――ある時は犬の耳がついた可愛らしいパーカー、しかしまたある時は影の子犬へと姿を変える、意志ある外套、ダークネスクローク。主人を守るかのごとく、とは大袈裟でも何でもなく、ただの真実である。
いっそ船火事で自滅してくれれば良いのに、村上水軍の怨霊が宿るこの船は、どんなに燃えようとも復元する文字通りの幽霊船。
しかし燃え盛る大火蜂の放つ炎やその熱は本物なのだから、兎角性質が悪い。
敵の動きを阻害できる風圧弾で大規模な延焼こそは抑えられているものの、このままでは防戦一方か、と思った、その時だった。
「先ほど言った通りだ、――道は、俺が切り拓くっ!」
勇ましい言葉と共に姿を現すやいなや、随分と使い込まれた跡のある刀を一振り携え、鱗に覆われた体躯が甲板を駆ける。
身を焦がす熱に怯むことなく刀を振りぬき、形なき炎を斬り裂き大火蜂の群れへと突進する彼に続いて、ちょこまかと甲板を駆けてきたのは槍や剣、盾で武装したトランプ兵たち。――そう、先ほどまで一生懸命船を漕いでいた彼らである。
となればその指揮官は、
「わぁ、分かってはいたけれどこれは暑いねぇ……それじゃ、ボクは燃えるわけにはいかないから、あとは頼んだよ? 巽くんに続いて、よーくよーく働くように……首刎ねが怖いなら、ね」
――もちろん彼女、アリスに他ならない。
本、つまりは紙である彼女が直接この炎そのもののような敵と戦っては、うっかり燃えてしまいかねない。となれば戦うのは彼女の使役するトランプ兵――なのだが。
ほんの少しだけ、時をさかのぼる。
巽の剣刃一閃により、復元までの一瞬とはいえ巨大船の側面に穴を開けることで船内へと潜り込んだ巽とアリスは、甲板へと上がる道すがら、短いながらも作戦会議を行っていた。
「さぁ、いよいよこの階段を上がれば奴らのいる、そして軍旗のある甲板だが……おぬしの使役するトランプ兵とやらも、その……紙なのではないか」
「うん、トランプの彼らは良く燃えるだろうけど……ま、それで死ぬわけじゃないし。何なら燃えることで攻撃力のひとつも上がるんじゃないかな」
「……おぬしが構わないのなら、良いのだが……ならば、せめて少しでも燃えぬよう、先導は俺が務めよう。……行くぞ!」
しれっと返したアリスと、その足元で待遇の酷さにおののくトランプ兵たちを交互に見た巽は、少しの同情と、しかして今は覚悟を決めねばならぬ時だ、と心意気を新たに、トランプ兵たちを引き連れて甲板への階段を駆け上がるのだった。
――そして時は、今に至り。
「ほらほら、巽くんを見習って、燃えてでも立ち向かっておいで」
非情な命令に聞こえるが、しかしそうすることで開ける活路もまたある。
何よりも怖い女王様の首刎ねから逃れようと、二十八のトランプ兵は二手に分かれ、その内の何枚かには炎が燃え移り、か弱いその身を焼き、その内の何枚かは灰と消えながらも。
「……! これなら……一気に殴り込めるっす!」
「……切り拓くつもりが、拓いてもらうことになったか」
一体につき、十四枚がかり。何とか二体の大火蜂を、剣で貫き、槍で穿ち、盾で抑え込み、僅か数瞬、その動きを封じることに成功した。
そしてそれを見逃す蛟羽でも、巽でもない。
――風を纏い急降下しながら、その手に纏うは水の龍。
――青の着物を翻し、振り抜き叩き落とすは素っ首。
「やれやれ、これでトランプ兵はみーんな殉職あるいは満身創痍。こっそり旗をおろさせよう、なんて思っていたが……いやはや、どうにもそっちに割いてる余裕はなかったね」
アリスが肩をすくめるのも無理はない。
未だ水軍旗は高々と帆柱にのぼり、誇らしげに翻っている。
未だ大火蜂の耳障りな羽音は、甲板に喧しく鳴っている。
これほどの数があっては、帆柱に近づけさせてくれそうにない。
「二匹仕留めたっすけど、まだ結構な数がいるっすね……空から行こうにも、こいつらも飛べるから厄介っす」
「……旗とは己の矜持を示すものだ。できれば下ろすことなどしてやりたくはない、が……しかし、必要とあらば仕方ない」
己に言い聞かせるように呟いた巽は、刀の柄を握り直し、護衛の数を減らすべく再び身を焼く炎の中へと駆けていくのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
フィロメーラ・アステール
「勝ちを引き寄せるのは得意だー!」
ラッキーパワーが火を噴くぞ!
この暑い中に火は勘弁かな?
飛べるから船まで【空中浮遊】するぜー!
移動手段のない奴は【念動力】の【グラップル】で連れてく!
【投擲】して敵船に降ろしたらかっこいいんじゃない?
接近したら【星の遊び場】だ!
【破魔】属性の雨を降らせ浄化&鎮火!
聖なる雨によって敵の気勢を殺ぐ!
この状況で【空中戦】【ダンス】について来れるかな?
【オーラ防御】バリアを展開し【踏みつけ】キック攻撃!
【残像】の速度と【スライディング】すり抜けで翻弄だ!
敵を引き寄せて味方を支援!
もしこっちの手が空いたら雨の【迷彩】効果と雨音に紛れる【忍び足】ムーブで旗を【盗み】取るぞ!
非在・究子
きょ、巨大鉄鋼船に、火蜂の、まもり、か……延焼とか、しないのか?
良、余計な、心配、か。さっさと、倒して、相手のフラッグを、落として、ステージ、クリアだ。
ゆ、UCで、魔砲少女、モードに、変身、して、そのまま、シューティング・ゲームの、はじまり、だ……へ、変身モーションとか、セリフとかは、じ、自動再生、なんだ。そ、そう言う、仕様だから、気にする、な。
ひ、火蜂には、魔砲からの、全力、砲撃で、応戦、しつつ、【ハッキング】を、仕掛ける、ぞ。『瀕死』のフラグを一時的に、オンに、ならないように、する。な、長くはもたない、だろうが、とどめを、刺すには、十分だ、ろ。
は、旗は、そのまま、魔砲で、打ち抜く、ぞ。
●
村上水軍の怨霊の力が宿っているこの巨大な船は、その水軍旗を降ろさない限りは燃やせど壊せど元あった姿に復元する。
その特性は、ありとあらゆる方法で炎を生み、辺り構わず次から次へと燃やして回る大火蜂たちにとって、都合が良いことこの上ないものだった。
「わ、船のあちこちが燃えてる! あたしのラッキーパワーが火を噴くぞ!って言いたいとこだったけど、この暑い中に火は勘弁かな?」
「で、でも、船は、どんどん、復元していく、な。ち、チートじゃ、ない、か」
襲い来る熱波に汗をぬぐいながら、フィロメーラ・アステール(SSR妖精:流れ星フィロ・f07828)と非在・究子(非実在少女Q・f14901)は燃えても燃えても焼け落ちることなく、依然として大海の上に浮かぶ超巨大鉄甲船を見下ろす。
船自体が延焼することはないのだろうか、と思っていた究子だったが、チーター相手には余計な心配であったことを悟っていた。
フェアリーであるフィロメーラはそのキラキラと煌く妖精の翅で、そして究子は魔砲少女ラジカルQ子こと、妖精の翅に負けず劣らずのキラキラした姿に変身することにより――常に光り輝く粒子を身に纏うSSR妖精フィロメーラに見守られながら『ラジカル・エクステンション! 魔砲の力でなんでも壊決! ラジカルQ子、ただ今、惨状!』という口上(自動再生)と共に期間限定コラボガチャSSR衣装に身を包む姿は、それはもうめちゃくちゃ絵になっていたとか何とか――、それぞれ空を飛び回る自由を得た二人は、巨大船を見下ろし、水軍旗を引きずり下ろす策を練る。
「こ、このまま、降りるのは、流石に、危険、か……?」
ひとまずは水軍旗の護衛に重きを置いているのか、大火蜂たちは上空にいる彼女らの所へ向かってくることはなく、牽制のように炎を放ちつつ帆柱の根元や甲板を巡回するにその行動は留まっている。しかしそれは同時に、猟兵たちの最終目標である、水軍旗への道のりが熱く険しいものであることも意味していた。
この熱のデータを改ざんすることで何とか掻い潜れたりしないだろうか、と究子が考え始めたその時、
「よーし、炎の方はあたしにまかせろ! 破魔の力を混ぜた雨を降らせるぜ!」
「な、なるほど……! ほ、炎属性には水属性、霊属性には、聖属性……ぐ、ぐひっ……こ、こうかは、ばつぐん、だ…!」
ゲーム脳、どころか、ゲームの世界からやってきた究子は、その策に誰よりも深く理解を示し納得した。
そんな究子に「そういうことだ!」とフィロメーラが元気よく笑うと、彼女を取り巻く光の粒子が、キラキラとその輝きを増していく。
世界が、幸運の星の妖精から魔力を受け取り、その願いに応えていく。
「いっくぞー! トリッキー・スター……」
快晴だったはずの空に、雨雲が立ち込めていく。
ところどころに、フィロメーラの周囲に輝くような光をキラキラ纏った、暗いはずなのに明るい、不思議な雨雲だった。
「ファンダムっ!!」
フィロメーラの掛け声を合図に、聖なる光の雨が一斉に巨大船に、そして燃え盛るオブリビオンたちに降り注ぐ。
すると猟兵たちの侵入を阻むべく燃え広がっていた炎はたちまち雨に掻き消され、大火蜂たちの動きも大きく鈍ったように見えた。
「ぐ、ぐひひっ…凄いぞ、やっぱり、相性は、大事、だな……! い、いける……い、いくなら、今、だ……っ! な、何か、フラグ、みたいに、なってるけど……こ、今回の、フラグは、折るんじゃなく、お、下ろさなきゃ、な……!」
言葉こそ発しない大火蜂たちだが、彼らのステータスを遠隔ハッキングしていた究子にはその動揺と戸惑が手に取るように分かっていた。
このチャンスを逃すべきではない、と究子とフィロメーラは、振りしきる光の雨の中で頷き合う。そして魔砲少女ラジカルQ子は光り輝く星の妖精、そして聖なる光雨のエフェクトによって光属性を演出されながら、敵軍との距離を詰めるべく、流星の如く急降下していくのだった。
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「ほらほら、こっちだぞー!」
まず最初に仕掛けたのはフィロメーラだった。
慌てふためきながらも迎撃しようと飛んできた大火蜂を思い切り足場にした後、そのままぴょーんと蹴って跳び上がり、くるりと翻れば金色の長いツインテールが踊るようにたなびく。
鱗粉のように煌く粒子を振り撒きながら甲板に降り立った彼女は、あちらこちらへ飛んだり跳ねたり、究子の砲撃アシストとなるべく、大火蜂たちを誘き寄せては攪乱していく。
「ぐ、ぐひひっ、さっきの、光の雨…かなり、効いてる、ぞ……ね、狙いたい、放題の、ぬるゲー…だな……!」
究子から言わせればいわゆるシューティングゲームの要領だが、縦横無尽かつトリッキーな動きで敵の注意を引き付けてくれるフィロメーラという大きなアシストのおかげで、敵からの砲撃が究子に飛んでくることは殆どなく、その上彼女の放ってくれた光の雨のおかげで大火蜂の動きはかなり鈍っていた。
であれば、最早ボーナスタイムだと言わんばかりに究子は次々と魔砲を放ち、狙いすました一撃で炎の蜂たちを撃ち抜いていく。
マスコットキャラクターや妖精キャラクターがいることで魔砲少女がその力を最大限に発揮できるというのはお約束だろう。……多分。
「お、いいねいいね、その調子っと! 勝利も敵も引き寄せちゃうぞー!」
僅かに残っていた甲板の炎も光の雨で弱体化しているものばかり、光のオーラで防御してしまえば暑さもほとんど感じない。ならば攪乱の仕上げ、と言わんばかりに、フィロメーラはオーラで覆われたその小さな身体を、大火蜂たちの間に突っ込むように勢いよくスライディングさせていく。
フィロメーラの小さな身体をやっと捉えたと思えばそれは残像、今度こそ捉えたと思えば、それもまた残像。予測不可能、まさにトリックスターな彼女の動きに翻弄される傍らで究子からの砲撃にも晒される大火蜂たちは、随分と疲弊しきっていた。
――だから、大火蜂の内の数匹は最後の、いや最期の手段に出る。
不意打ちの光の雨で既に満身創痍、そんな状態で出す炎の威力もたかが知れている。そんな状態だからこそ取れる手段があるのだ。
――否。 あった、筈なのだ。
「ひ、『瀕死』状態に、なると……お、奥の手を、使う、ヤツ…よく、居る、よな……な、何回も、見てきた、パターン、だ」
この状態だからこそ生み出せるはずの、自分の分身のような炎が出てこない。
言葉を発さずとも、明らかに狼狽えた様子の大火蜂たちの元に、ぐひひ、という笑い声が空から降ってくる。
「だ、だから…た、対策、も、ばっちり、だ」
魔砲攻撃を行う間でもステータスハッキングは常に怠らない。
『瀕死』状態で発動するからには、超回復であったり、超威力であったり、兎角その能力は強力であることが多い――そう、これもまた、ゲーム世界における理ではお約束中のお約束だ。
ならばあらかじめ『瀕死』状態にならないようにすればいい。
もちろん、攻撃の手を緩めることもなく。
そう、それはリアリティハッカーである非在・究子、彼女だからこそ出来る芸当――即ち、チートである
「ひ、『瀕死』のフラグを、一時的に、オンに、ならないように、した。な、長くはもたない、だろうが、……とどめを、刺すには、十分だ、ろ。か、数が、多いなら…ち、着実に、キル数は、増やして、いかないと、な」
にや、と口角を上げながら構えたゲームウェポンの銃口から、『瀕死』状態ではないのに『瀕死』状態の、あるいは『瀕死』状態なのに『瀕死』状態ではない大火蜂たちへと、全力の魔砲が撃ち込まれた。
「うーん、まだまだ護衛の数が多いぜ……あと、何匹か減らせれば旗にも近づけそうなんだけどな!」
フィロメーラの見上げた帆柱には、光の雨に濡れながらも、水軍旗が潮風にはためいている。
「そ、そうだ、な。ま、魔砲も、元気の、ある奴に、防がれちゃう、し……で、でも、もう一息、ってところじゃ、ない、か?」
究子の言う通り、少しずつ――だが、確実に。
猟兵たちの活躍により、船上の大火蜂の数は減ってきていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サーズデイ・ドラッケン
敵艦へ乗り込み、その象徴を奪い取る…つまり海賊ですね
星の海を駆ける者として、この力存分に振るわせて頂きましょう
ウェイブストライカーにて海上を駆け、敵艦に高速で接近
大砲等の武装が敵艦にあれば、レールガンで破壊します
復元されるといえど、一時的にでも火線を減らせば味方が艦に取り付く援護になる
火蜂が直接迎撃に出てくるようであれば、ウッドペッカーとミサイルポッドの斉射で叩き落とす
至近まで接近できればワイヤーガンとスラスターの併用で一気に船上まで駆け上がり、
機動力で撹乱しながら残存する火蜂にありったけの火砲を叩き込みます
手早く片をつけて旗を引き摺り下ろしてやりましょうか
ヴィクティム・ウィンターミュート
◯
オーケーオーケー、やることは理解した
ま、気長に緩く待っとけよ
勝ってくるから、安心しな
さてさて侵入方法な…シンプルに行こうぜ
セット『Alcatraz』
本来は防御障壁として使うんだが…位置と方向を調整すれば、足場にもなるのさ
障壁は大量にあるからな、港から船まで繋ぎ合わせて道を作り、そこを走って侵入しに行こう
移動中に攻撃が来るかもしれねえ、適宜障壁で防ぐ
船に乗り込めたら、障壁を遮蔽にして炎を防ぎ、機動力全開で接近、ナイフで切り裂いて仕留める
死に際に炎を召喚するなら、障壁でサンドして圧殺する
旗の処理も簡単だ
障壁を階段のように展開して登り、ナイフで切り落とす
これが理不尽って奴だ
学んで骸の海に、還りな
●
「さてさて、侵入方法な……」
それは港に佇み、広がる水平線、そしてその先に見える水軍旗と、それを掲げる巨大な鉄船を睨む少年、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の口から零れ落ちた独り言だった。
それは決して「どんな方法なら海を渡れるか」という悩みを口にしたものではなく、「その機械仕掛けの身体ひとつで海を渡る方法などいくらでもあり、その中からどれか一つを選ぶのならどれにするか」を悩むような口振りだった。
「よし、シンプルに行こうぜ」
そして少年は指を打ち鳴らし、ぱちん、と乾いた音と共に、とあるプログラムを起動する。
セット―――――――『Alcatraz』。
――――ハイマニューバモード、レディ。
時を同じくして、海上。
照りつける夏の日差しを鈍く反射させながら、大海原に白い波の亀裂を走らせ、潮風を切り、一直線に巨大船へと向かっていくサーファーが居た。
「敵艦へ乗り込み、その象徴を奪い取る……つまり、海賊ですね」
鋼鉄の足に降り掛かる水飛沫をものともせずに大海を突き進むサーズデイ・ドラッケン(宇宙を駆ける義賊・f12249)の声音は、普段通りの穏やかな口調ながらも、どこか本能をくすぐられたような昂りを滲ませていた。
奇しくも二人の男は、海を渡る場所こそ違えど、似通った方法を採択していた。
ヴィクティムの発動したプログラム『Alcatraz』は、本来であれば様々な攻撃を受け止め、無効化するための防御障壁。
普段ならば敵の攻撃を受けるべく垂直に展開することの多いこの障壁を、彼は海面に大して水平に、それも大量に展開したのだった。
そう、如何なる攻撃にも決して破られることのないプログラムの鉄壁からすれば、少年の体重を支えることはおろか、少年が駆ける衝撃に耐えることさえ、何一つの造作もないこと――まるで空を駆けるかのごとく、少年は身軽に海を渡っていく。
一方、サーズデイが波と言う波を制しながら乗りこなすサーフボードの正体は、彼の愛機『WMC-ハミングバード』――宇宙バイクでありながら、大型可変防盾というもう一つの側面を合わせ持つ。
否、むしろユーベルコード『ウェイブストライカー』によってその形状をサーフボード型に変形させていることから、防盾としての側面こそがハミングバードの普段の顔といえるだろう。
徐々に近づいて見える巨大船――敵艦の影が、かつて彼の所属していた宇宙義賊『ドラッケン海賊団』での、在りし日々を思い起こさせる。
「星の海を駆ける者として、……この力、存分に振るわせて頂きましょう」
海賊として生きた男の血が、静かに、しかし熱く騒ぐ。
まるで海を駆けるかのごとく風を切るサーズデイは、その心の赴くままに、疾るスピードを上げるのだった。
●
数々の猟兵が様々な方法で乗り込み、攻め込んでいる。その状況に、大火蜂たちの護衛はもちろんのこと、亡霊とは言えど、瀬戸内海に名を馳せた水軍として呼び出された者たちが黙っているわけはない。
『これ以上護衛の数を減らされるわけにはいかないぞ! 砲撃用意!!』
船に向かって一直線に駆けてくるヴィクティムやサーズデイを察知するや否や、船側面の重々しい砲門が幾つも開け放たれ、爆発音が続けざまに轟く。
だがしかし、かつての水軍が舵をとる船が、そして幕府軍の船を絶望の水底に叩き落とさんとしている船が、丸腰であるなどと決めてかかるような猟兵なんて居るわけがないのだ。
――――なぜならこれは、負けられない戦いなのだから。
「……っとォ! 元々は防御障壁なんでな、悪ィが通さないぜ!」
待ってましたと言わんばかりに、天才ハッカーは即座にプログラムを組み替える。放たれた鉄球の数と方角を瞬時に把握し、演算装置にぶちこみ、既に通り終えた障壁を前面に展開、それでも数が足りなければ、新たに障壁プログラムを生成、配置――無論、その最中も駆ける足は止まらなければ、その間に新たに撃ち出された砲弾も見逃さない。
だから――、
「む、……避けるつもりでいたのですが、助かりました」
海上を疾駆するサーズデイに向かって放たれた火薬臭い鋳鉄球をも、急遽生成した防御障壁を展開し、受け止める。
「いいっていいって、避けて進むよりも真っ直ぐ進んだ方が早ェだろ!」
「確かにそうですね。ならば……」
アームドフォート『XAF-レイヴン』を構えたサーズデイの眼光が赤く、鋭く光り――文字通り、目にもとまらぬスピードで放たれた電磁砲が、巨大船から覗く砲台を次々と横薙ぎにしていった。
「復元してしまうので一時的なものではありますが、砲弾に気を取られるよりも、真っ直ぐに駆けた方が早いでしょう」
不安定な足場から、たった一発の砲撃で正確に敵艦の攻撃手段を奪ってみせたサーズデイに、空を駆けるヴィクティムがひゅぅと高い口笛を吹き、にやりと笑う。
「確かにあんたの言う通りだ。さぁ、それじゃあこのまま一気に乗り込むぜ――スロット・アンド・ランだ!」
●
翼無きサイボーグの少年は、空から軽々と着地した。
凡そ2.5mという鉄の体躯は、海から軽々と上ってきた。
かくして、超巨大鉄甲船に二人の男が到達した。
片やどんなセキュリティでも掻い潜る超一流のハッカー。
片や星の海という海を駆けたかつての義賊。
――大砲も、黒鉄の城も、護衛がいたって関係ない。
入り込み、脅威を排除してこいと、ミスター・ジョンソンは言った。
敵艦の象徴たる旗を奪ってこいと、かのグリモア猟兵は言った。
それは他でもない、彼らの領分に他ならないのだから。
●
そこから先は、早かった。
展開の話をしているのか。それとも戦場の目まぐるしさを言っているのか。
――答えは、その両方ということになる。
機動力による戦場の攪乱に長けた二人が同じ戦場に放たれたのだから、無理もない。共に攪乱に長けているのなら、味方が何をしようとしているのか分かるのも必然。そして、その上でどのように動くのが最も効果的かが分かるのも、また必然なのだから。
「へいチューマ! 見たところ良いクエイカーズ持ってんだろ? 遠慮せずにそいつをぶっ放して、こいつらにホット・エルズィかましてくれ!」
ナイフで大火蜂を切り裂く傍らで、再び防御障壁プログラムを起動しながらヴィクティムが叫ぶ。
如何に広い甲板とはいえ、そして彼が正確さも兼ね備えた狙撃手とはいえ、互いに縦横無尽に走り回る中での爆発物使用は躊躇うかもしれない、と思ったのだ。
その声を受けたサーズデイはすぐにヴィクティムの思惑を理解する。
「なるほど、大砲をも防ぎきるあの防御機構があるのなら問題ないでしょうね。ならばお言葉に甘えて、レディ――」
状況理解の速さが戦況を分かつ場面など、いくらでもある。
サーズデイはすぐさまミサイルポッドを一斉に射出し、ヴィクティムは即座に自分を守るように『Alcatraz』を展開する。
吹きさらしの甲板を護衛する大火蜂たちには、シェルターなどあるわけもない。
「これが理不尽って奴だ、しっかり学んだか? あぁ、いや――」
無数の爆発音が巨大船の甲板を揺らし、残存していた大火蜂たちが次々と爆風に呑み込まれて消滅していく中で、ヴィクティムは新たに生まれようとしている炎の揺らぎを捉えた。
――だが、それが何だというのだ。
「学べてねーから、そんな悪あがきするんだよな。
……骸の海に還って、学び直してきな」
――ぱたん、と。
それはまるで読みかけていた本を閉じるかのような、呆気ない音だった。
難攻不落の監獄に閉じ込められた再生の炎は、もう、生まれることもない。
●
「いいのですか、私が下ろしてしまって」
「あぁ、誰も居ないなら俺がやるが……そういうのは端役じゃなくって、主役のやることだろ。そら、早くしねーと亡霊共が来ちまうぜ」
――主役。端役。はて、何のことだろうと首を傾げそうになるサーズデイを、ヴィクティムが急かす。
帆柱に掲げられた水軍旗。そこへと繋がる、防御障壁で作られた階段。
全ての大火蜂が居なくなった甲板は、随分と涼しくなっていた。
――まぁ、誰にだって矜持のひとつやふたつあるものか、とサーズデイは自らの乗っていた船に掲げていたジョリーロジャーを想い、敵軍の象徴を見上げた。
何より、戦い、勝ち、奪うことこそが海賊であれば。
弱きを助け、強きを挫くことこそが、彼の本懐であれば。
一段、また一段とサーズデイは階段をのぼる。
甲板に吹きわたる風が、名残惜し気に水軍旗を揺らした。
――戦いは、未だ終わりが見えない。
だが、ここにひとつの決着がついたことは、確かだった。
大成功
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