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エンパイアウォー⑰~その白、懸想する事勿れ

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #安倍晴明

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●忌まわしき白
 ――それは禍々しい程、紅い月の夜。遠く、さやかに鳴く風の音の中、悠然と歩く青年は正に月下美人の如き白磁の佳人であった。
 朱を佩く紅眼はとろりと柔らかな曲線を描き、通った鼻梁の下には果実の如き瑞々しい唇。年頃の娘であればあれは何処の若様かと色めき立ち、男であってもその人外じみた美貌に気圧され、或いは愛を請うかも知れない。
 そう、青年は確かに人の外に在りし者。或いは――この世の外様に在りし者であった。

「嗚呼、誠に興が乗りませぬ。無聊が慰められる事もありませぬ」

 謳う様に告げる声すら美しい青年の顔に乗るのは、その若々しい風貌に似つかぬ倦んだ諦念。芝居掛かった仕草でその鋭利な曲線を描く顎に指を添え、殊更に憂いてみせる――と思えば、ぱあと花も恥じらう様な柔らかな笑みに取って代わるではないか。

「であれば、他者の怒りでこの空虚を埋めると致しましょう。滾る殺意をねじ伏せ、強く、美しき者を私の苗床と致しましょう。嗚呼、猟兵とやらはどれ程この身を掻き立ててくれるのでありませるかな……」

 ぼこ、ぼこ、ぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこぼこ…!!
 地面がまるで波打つかの如く、鳴動する。それは自然現象か――否、「無数の青白い腕」だ。

 ――哀れな死者達で埋められた山陰、それは彼等の心をも『灼く』怒号となりましょう。男の言葉が闇に溶けるや否や、這い出した者達は声を上げる。それは先程風に乗って流れたものと同じ音色。哀れな亡者達が、死の安寧を求める呻き声であった。

 まるで極上の音楽に浸る様に苦鳴に頬を染める男――その名を暗夜を齎す魔軍将が1人、陰陽師『安倍晴明』と言う。


●警世せよ、白の暗躍
「不愉快だね、嗚呼、実に不愉快だ」

 サムライエンパイアの大戦が始まって数日、多くの…特に子供の命が喪われる事で、常に機嫌が地を這う狼――ヴォルフガング・ディーツエ(花葬ラメント・f09192)の尻尾は主の気分そのままに、びたんびたんと床に叩き付けられる。彼の様子から、今回も碌でもない案件であると察して集まった猟兵達を見遣り、矢継ぎ早に情報を開示していく。

「今回の予知もまたサムライエンパイア――それは良いんだ。だが「視えた」モノの性質が悪い。ターゲットは安倍晴明――魔軍将の一人だ」

 告げられた名にざわりと動揺が走る。それは信長の猛威を支える者の一人であり、そして。

「晴明はいつもの様に水晶屍人達を侍らせてはいないけれど……幕府軍と衝突すれば彼等はひとたまりもない、人的被害は3万人は堅いだろうね」

 各地で猛威を振るう、水晶屍人の創造主である。現在、幕府軍は島原に向けて軍を3つに分けて進軍中だ。その内の一つ、山陰道方面で彼等は衝突する見込みであるとヴォルフガングは険しい表情で告げる。首塚の呪詛を退けるのには兎角、兵達の数が必要となる。他方にも兵達は進軍しているが、敵の手の内は未だ全容が知れないまま。不測の事態で兵を失う可能性もあると考えれば、易々と見捨てる事は出来ないだろう。

「忌々しい事に晴明はただの腰抜けじゃあない。屍人達を退けても近接戦にも優れる上、屍人の再充填、自身の戦闘能力を高める符術…いずれも隙が無い技を取り揃え、そしてキミ達の先の先を行く力で迎え撃ってくるだろう」

 見た目の年齢とそぐわぬ老獪な立ち回りは、必ず猟兵達の使うユーベルコードと同様の技を先んじて使ってくる。如何にそれらを掻い潜るか、その対策も必要となってくるだろう。

「転送地点は少しでも有利に立ち回れそうな場所…山道の中でも整備された、休憩所も兼ねた広めの道を設定しておいたよ。直接交戦するか、夜陰や木陰といった環境を利用するか…その辺りの戦術は皆に任せるよ。…苦しいお願いでごめん、今回は比喩抜きで命の遣り取りになる」

 それでも、どうか忌まわしき術士を止めて欲しいとヴォルフガングは伝える。その瞳は晴明と同じ朱色――けれど、宿る感情は猟兵達への心配と信頼。思いをグリモアに託し、ゲートは開かれる。その先には、見通しの付かぬ暗闇が広がっていた。


冬伽くーた
 3度目まして、冬伽 くーたです。今回もサムライエンパイアからお送り致します。
 わざわざアンケートで伺ったにも関わらず、夏シナリオより先にこちらのОPが仕上がっていました…本当に済みません、過去最高速で書き上がりました。おかしいな…晴明強いな…。
 ちなみに武器は妖の槍派です。旋風槍、如何に使うか躍起になっていた記憶が。


●重要点!
 陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。


●環境
 開始時点では晴明1体と猟兵の皆様のみの構図です。周囲に人影や集落はありません為、一般人対策は不要です。

 交戦時間:夜。周囲は赤い月で照らされていますが、十分な光源とは言えません(光源について無対策の場合はマイナス判定となります)。道として整備されている為、足場は良好。

●執筆について
 8/14(水) 8:30~受付開始とさせて頂きます。今回はあまり溜めずに判定していくつもりの為、早めに締め切る事も考えています。全員描写はなるべく頑張るつもりですが、頂いた数によっては難しいかも知れません。申し訳ありません。
 進捗の詳細はMSページ、又はtwitterの情報をお手数ですがご確認下さい。


 MSページの描写に関する記号設定を更新しています、重ねて恐縮ですがそちらもご拝見頂けたら幸いです。
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第1章 ボス戦 『陰陽師『安倍晴明』』

POW   :    双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:草彦

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

リグレース・ロディット
……クリスタリアンさん達に似てるけど違うね。全然違うね!美しくない!
悪い奴だ!
【POW/◎☆】なにあれ?!金曜日に出てきそうな奴が持ってるあれ?!
……チェーンソー剣の間合いに入らないように気を付けながら『束縛する黒』と『解放する白』でサイキックエナジーを強化するよ。夜は僕の味方だけど少しだけ不安だから『導きの銀』を使っておくよ。
『第六感』と『見切り』でなるべく避けれるようにするけどきっとあたっちゃうね。僕弱いから。だから『オーラ防御』。これでも無理なら『激痛耐性』で我慢して『カウンター』で『サイコキネシス』を使うよ。
殺すはきっと無理だから一撃でもあてれるように頑張る。無理だったらごめんなさい。



●罅た赫の夢

 まるで通り雨が過ぎ去った様な、湿り気を帯びた空気がリグレース・ロディット(夢みる虚・f03337)の四肢に纏わりつく。それは天候の齎したものではなく、目前の徒花――晴明のじとり、絡みつくような視線が原因であると猟兵としての勘が告げる。
 その眼差しは純粋にして不純。戯れで虫の羽を捥ぐ無垢な子どもの残酷さと、艶めいた色で少年を値踏みする大人の欲を滲ませるもの。
 されど、リグレースは怯まない。決然と見返す瞳の強さを映し出すかの様に『束縛する黒』と『解放する白』――藍の薔薇と黒の薔薇、指先の華はサイキックエナジーを強化する。

「……クリスタリアンさん達に似てるけど違うね。全然違うね!美しくない!悪い奴だ!」
「酷いお方だ、私はこの透き通る肌を気に入っておりますのに――なれど、美しき貴方が言うのであれば、その種族は私の礎に相応しいのでありましょうな?」

 魔性はちろり、赤い舌を覗かせる。ならば早々に貴方を倒し見繕いに行かねば。その言葉と裏腹に唸り出すチェーンソー刃をだらり、地面に擦り付けるかの如く下げる。こちらの攻撃を誘うような仕草に、けれどリグレースは己の勘に従い地を蹴り後退する。

ギガガガガガ!!

 つい先刻まで少年が立っていた場所に突き立ち、罅割れさせるのは騒音撒き散らす駆動刃。一瞬の内に距離を詰めた晴明の振り降ろす刃は、リグレースが躱さなければ寸分違わずその脳天を真っ二つに割っていただろう。

(強い――!)

 その正義感に満ちた少年らしい快活さとは裏腹に、彼我の力量を隙なく見極めていたリグレースの頬を冷たい汗が伝う。『導きの銀』での視界確保が出来ていなければ、晴明の跳躍を捉える事は叶わず、地面と同じ運命を辿っていたのは想像に難くない。

「嗚呼、そして酷いだけでなくつれない。苦痛に歪んだ顔すら拝ませてはくれないだなんて」
「…そんな金曜日に出てきそうな奴が持ってそうなの、当たりたいわけないじゃない!」

 たおやかな微笑みを崩さぬまま、二度、三度と放たれる晴明の刃を寸でのところで躱しながら吼える。培った技能は少年の身を護るも、先の斬撃では遂に髪の一房が宙を舞った――それは即ち、晴明自身もリグレースの動きを掴みつつある事に他ならない。

 ならば打つ手は唯一つ。地面を大きく蹴り、一息に空けた距離からリグレースは意識を集中させる。サイコキネシス――見えざる異能で他者を討つ力を高める為に。
 まだ、まだだ。走り寄る晴明が振り降ろす刃、取り巻くオーラすら突き破るその一撃が肉を裂いたその時、相手が優位を確信した瞬間の慢心を狙う為に苦痛すらも耐え忍ぶ。ぶつり、重く湿ったものを断ち切る音と共に視界が赤く染まる。溢れ出る血潮の感覚に鳥肌が立つ。
 しかし、それは少年が命を賭した見出した好機。高まる力を解き放とうとした時――

「その瞬間、待っていましたよ」

 ――晴明は、チェーンソーを握る手とは逆の手で、愛撫するかの様に少年の腹をなぞる。

「あ……?」

 ぼっ。鈍い音と立てて腹に風穴が開き、ぐらりと少年は仰向けに倒れ込む。溢れ出る血潮がぬるり、その身を朱に染めていく。

 もしも、リグレースが真っ向から攻撃を受ける事無くその力を振るえていたのならば。その異能は晴明に大きな傷を残していただろう。けれど相手は魔軍将、オブリビオンの中でも特に強力な存在。その攻撃は、正面から受け止めるにはあまりに重い。

「残念です、勇敢な少年。その意気や我が苗床に相応しいものでありまするが――少しばかり、血が流れ過ぎた様ですな。代わりにくりすたりあん、とやらを篭絡すると致しましょうか」

 そう告げる言葉に脳裏を過ぎるのは見知ったクリスタリアン達の姿。それは、それだけは止めねばならない――けれど、最早少年には指一本動かす力も残っていなかった。夜が深まる様に、その視界はとろり黒に染まっていく。最後にリグレースに見えたのは、愉悦に頬を歪ませる男の姿だった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

鎧坂・灯理
【鎧坂探偵社】
苗床か。
よくも私の前でその単語を出せたものだな、ええ?

――殺してやる。
わずかな肉の部分ごと切り刻んで虫に喰わせてやるぞゴミカス野郎がァ!!

マリー!そのゴミを止めて下さい!
発動せよ【普都大神】、その男をナマス切りにしろ!
二度と……二度とそのような妄言を口に出来ないようにッ根絶してやる、細切れにしてやる!!
1kg10円以下の肉片にしてやるぞ!!

どれほど攻撃を食らおうとも止めない
この手は決して緩めない
思考さえ出来れば念動力は行使出来る
死ななければ殺せる!!

貴様の汚れた破片で地を染めるがいい!!
汚らわしい!貴様など踏みにじる価値もない!!


ヘンリエッタ・モリアーティ
【鎧坂探偵社】
――苗床に、ねぇ
ねえ、苗床の気持ちってどんなのかご存知?
やる側はわからないのよね
ふふ、教えてあげたりはしないわぁ
ただ――体に刻んであげる

相手の先制には同じくBLOODY-LADYで
あら、同じ得物?センス悪いわ陰陽師さん
振るうチェンソーはあえて受け止めて
躱すほうが大変でしょ
次にこっちに振るわれるチェンソーもチェンソーで受け止めて
あは、怪力なの。均衡状態ね?後ろに控えた灯理の分まで相手しましょう
あなたが二人分繰り出すなら私も四回でいなしてあげる
5,6のステップで踏み込んで
灯理の一撃どうかしら――血まみれになったなら
【女王乱舞】よ!
さあ、ダンスの時間よぉ――心臓(いのち)を捧げて頂戴!



●嗤う化生、哂う獣性
 笑顔とは霊長類のみ許された親愛を示す為の表情筋運動である――だが、この場で笑みを湛える者達の意味合いはどこまでも真逆であり、そして相互理解など求めもしない断絶の証左に他ならなかった。
 深々と、虫の音一つ響かぬ闇の中。するり――その闇が人の形を取ったかの如く、歩み出るのは2人の影。口火を切ったのは【鎧坂探偵社】を預かる鎧坂・灯理(不退転・f14037)だ。

「苗床か」

 晴明が口にした言葉――生きとし生けるものを己の下と捉え、踏み躙る事を躊躇わない傲慢。その言葉を受けて弧を描く灯理の唇は、情緒を解さぬ者が見れば強かな笑みに見えたかも知れない。
 けれど、火薬庫を彷彿とさせる激情を孕む瞳は、そのような甘い解釈を許す余地すら存在し得ない。燃え盛る炎を抱く灯理の表情を読み解くならば――威嚇、威圧。

「よくも私の前でその単語を出せたものだな、ええ?」
「不快にさせてしまいましたか、これは非礼を詫びねばなりますまい。――私は見通せるが故に孤独でありまして、思い遣る心とやらは不得手でありまする」

 晴明は決してたじろがない。むしろ、眉根を寄せて困った様に微笑む様は善良にすら見える。語調も穏やかであるが――その実、牙を剥く探偵へと強烈な皮肉を突き立てる。灯理がそれに気付かぬ筈もない、笑みは深まり、踏み出し掛けた足は地を削る。最早その身の炎は劫火と燃え盛るのみ。
 何処まで晴明が勘づいているのかは不明であるが――生まれた時から備わった才覚への絶対の自信、異形として一つの進化を極めた円熟。それらがこの場で優位を生み出す切り札と成り得る、その事を見越しているとしか思えぬ空虚な謝罪であった。

 灯理の傍らでその言葉を耳にしたヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)――1つの体に備わる4人、その内のマリーが今回の主役だ――もまた、灯理と同じ言葉に引っ掛かりを覚えた様だった。静かに反芻するや、綺麗に整えられた爪を顎に添え、異形に問いを為す。

「ねえ、苗床の気持ちってどんなのかご存知?」
「生憎と分かりかねますね、貴方は今まで踏み潰した虫の数を覚えておいでで?」
「そうよねぇ、やる側はわからないのよね。教えてあげたりはしないわぁ」

ただ――体に刻んであげる

 言葉が音になるのが先か、踏み出す足が先か――均衡は崩れ、開幕は切って落とされる。踏み出す勢いの儘、前のめりに走り込む灯理は傍らの蜘蛛に吼え猛る。

「マリー!そのゴミを止めて下さい!」
「あは、貴女の望むままに!同じ得物のセンスの悪い陰陽師さん……タランテラ、付き合ってもらえるかしらぁ!」
「女性からのお誘いを断る程、無粋ではないつもりですよ?」

 その声に応える様に、微笑むマリーは対なる真紅のチェンソー――BLOODY-LADYを振り降ろす。

 ギ、ギ、ギィィィィィ!!!

 真紅の貴婦人は陰陽師の獲物をダンスに誘うかの如く、幾度も踊り狂っては火花が舞い散る。鍛えられた膂力は並の相手であれば他易く両断する事も出来ようが、晴明は正にダンスでリードをするかの様に合わせ、マリーの刃を弾き返す。

「あは、怪力なの。均衡状態ね?」
「それ程でも、貴女も中々の腕前でいらっしゃる」
「でも――あなたが二人分繰り出すなら私も四回でいなしてあげる」

 真正面からの打ち合いが拮抗するのであれば、更なる手を加えるまで。力強く、それでいてどこか優美な直線を描いていた騒音刃の軌跡は、まるで転調があったかの如く、早く――そして僅かな間隙を縫う!
 八分の六拍子を刻むかの様にマリーのステップは軽やかに、舞う肢体の勢いすらも刃に乗せて振り降ろす。

 ガガ、ガガ、ガガガ、ギィィン!!

 先程よりも早く、そして宣告通りに放たれた四の刃は晴明からその余裕を奪う。笑みは変わらずとも、その放たれる刃の速さは片手間でいなせるようなものではない。その表情には感嘆が浮かぶ。

「――殺してやる。わずかな肉の部分ごと切り刻んで虫に喰わせてやるぞゴミカス野郎がァ!!」

 そうして出来た隙を見逃さずに灯理は更に加速し、マリーとは異なる方向からその爪を振り抜く。地を染めんと踏み込む足は夜をものともせず、石の転がる悪路であっても唯の道へと変える靴の力にあって、道行きを阻まれる事はない。

「発動せよ普都大神、その男をナマス切りにしろ!二度と……二度とそのような妄言を口に出来ないようにッ根絶してやる、細切れにしてやる!!1kg10円以下の肉片にしてやるぞ!!」
「藤原の奉りしモノと同じ名とは、懐かしい因縁を突き立てて参りますな!ですが――甘い!」

 ギギギギギギギ!!

 呼び声に応え、灯理の周囲に浮かぶのは無数の念動刃。悪霊をも祓う神剣の群れは晴明が呼び出した邪剣と喰い合い、無数の斬り合いを展開する。念動力に優れた灯理の刃は幾本も届き、晴明の体に突き立つ。リィィン、響いた音はその躰に纏う水晶の砕け、地に落ちる音。ぶしゃり。吹き出す血の色は水晶と同じ、空虚な蒼。

「……あああああああああ!!!!」

 だが、その代償もまた大きい。同じ様にすり抜けた邪なる刃は灯理の痩身に無数に突き立つ。苦痛に細胞が、灯理自身が悲鳴を上げる。赤く染まった視界は容赦なくその意識を刈り取らんと手を伸ばす。けれど。

(どれほど攻撃を食らおうとも止めない!この手は決して緩めない!思考さえ出来れば念動力は行使出来る!死ななければ殺せる!!)

 それを振り払うのはその強靭な意志だ。ずたぼろの体はとっくに限界であったが、此処で退場するわけにはいかなかった。不倶戴天の敵を弑するまでは、絶対に。

「……貴様の汚れた破片で地を染めるがいい!!」
「ぐ、ああ!!?」

 掌を強く握り締める。その指の動きに合わせ、晴明に突き立つ刃はその躰を抉り、潜り込んでいく。吹き出る青は夜の闇にあってもぎらぎらと輝き、破片共々マリーに降りかかる。
 だが、それすらも2人の盤上に過ぎない。穢れた青に染まろうともその意志は、踊る相手は決して間違えない。

「さあ、ダンスの時間よぉ――心臓(いのち)を捧げて頂戴!」

『女王乱舞(アンド・ゼン・ゼァ・ワァ・ノーン)』
 自身が鮮血に染まる事を代償に、その返り血の量に応じて自身を強化する秘術。纏ったマリーは高く跳ね上がる。その一撃は打ち払わんとする晴明の腕を跳ね除け、その胴体を激しく斬り裂く!

「ぐ、うううああ!!」
「ごめんなさいね、死の舞踏、楽しんでね?」

 ぐらりと傾く灯理の体を支え、マリーは艶やかに微笑む。遂に、邪悪なる陰陽師は手傷を負うに至る――!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シン・コーエン
ムカつく相手だが、紛れもない強敵だ。
全力で相手になる。

双神殺の初撃を如何に躱すかが肝。
通常攻撃に対しては【武器受け・オーラ防御】で受ける対応に徹する。
多少傷ついても「この程度の攻撃とは、安倍晴明とやらも大した事無いな」と見くびる発言。

晴明が双神殺の初撃を使う時に、【見切り・第六感・ジャンプ・自身への念動力・空中浮遊・空中戦】を組み合わせて空中に飛び、空中高速機動による3次元的な動きで攻撃を躱し、更に【残像】を加えた動きで幻惑して隙を作った時にUC:神速之剣発動。

地上であろうが空中であろうが、上段からの斬り下げ&高速飛翔、を組み合わせた一瞬の斬撃で晴明を一刀両断!

「望みなら何度でも殺してやるさ」



●天駆ける戦刃
(ムカつく相手だが、紛れもない強敵だ)
 傷付き、呻いても尚強大な力を保持したままの晴明を見てもシン・コーエン(灼閃の・f13886)の気持ちが揺らぐ事はない。日常においては快活な青年は、戦場に在っては勇猛果敢。苛立ちは刃を鈍らす要因とはならず、従順な獣として己の中で飼い慣らすのみ。その精悍な面差しを一層引き締めて凛と告げる。

「全力で相手になる」
「……次から次へと猟兵は執拗ですね。良いでしょう、辱めて差し上げましょう」

 微かな苛立ちを見せる晴明に向かい、戦人は一陣の風となる。踏み出す足はその力強さに反し、余分な力の一切籠らない武人のそれ。音も微かに、けれど疾走する事で生まれた風にその艶やかな金髪を靡かせ、神速の突きを繰り出す。

ガァァァン!!!

 先ずは相手の攻撃を誘う――その目的もあり繰り出された刃は晴明が咄嗟に構えた右手のチェーンソーに阻まれ、激しい音を立てる。お返しと言わんばかりに左手から繰り出される陰陽師の刃はシンの愛剣――灼星剣に阻まれ、やはり火花を散らして弾かれる。

ガン、ギィン、ガァァァン!

 それからは鍔迫り合いの応酬、晴明の時間差で襲い掛かる騒音刃をシンは時に光剣で弾き、剣の間合いの外から放たれる斬撃はオーラの加護でいなしていく。

「――この程度の攻撃とは、安倍晴明とやらも大した事無いな」
「心外ですね、そちらこそ威勢の割には防戦一方の様ですが?」

 更に重なるチェーンソーの刃に僅かにシンの腕を撫ぜられ、血飛沫が舞う。自らが得意とする間合いで戦うに当たって、特に警戒すべきはその赤錆色のチェーンソーによる斬撃――今までの猟兵達の戦い、そして自身の経験を元にシンはそう弾き出していた。その為には、敢えて向こうの神をも屠る刃を受けねばならない。多少の傷すら織り込み済みで、青年は一瞬の好機を引き寄せんと剣を振るう。

「――埒が空きませんね、ならば「乗って」差し上げましょう」

 そしてその瞬間は訪れる。晴明にもシンが狙いがあって敢えて防戦に徹している事は見極めていた。けれど、久々に負う深手、元々備わる傲慢さはその誘いを真正面から踏み潰す事を選び取る。

「少々手痛いですよ、生き延びたなら私の椅子にでもして差し上げましょう」
ビィィィィィィン!!

 陰陽師の双刃は耳障りな音を立てて回り始める。波打つ振動をたおやかな腕からは考えられぬ膂力で抑え込み、狙うはシンの腕。剣士の腕を斬り飛ばしてしまえれば、抑える事は容易い――その傲慢さが自分の足元を掬うとも知らず、喜悦の笑みで振り降ろされる!

「は、悪いがお断り、だ!」
「な――!?」

 遂に訪れた好機をシンは決して逃さない。刃を見切った刹那に膝を一瞬柔くたわめ、力強く地を蹴り付け空へ駆ける。本来であれば重力に引かれ、落ちていくだけの身を念動力と浮遊術で固定。空高く、縦横無尽に動く様は無意識に地上戦と位置づけていた晴明の裏を掻くには十分な、複合技能の極致。この時の為に用いた技能の多くを伏せていた青年は、極めつけに残像を纏う事で更なる攪乱を狙う。狙い通り、咄嗟に晴明が振るい抉ったのは残像。

「この一閃に全てを籠める!」

 その瞬間、解放されるのは『神速之剣(シンゾクノツルギ)』――全身に無窮の異能を纏い、戦人として抑え切れぬ戦の滾りを力と変えるユーベルコードはまるで鷹の如く、加速し、がら空きになった胴を続いて袈裟斬りにしていく。更に罅は広がり、その身は零れ落ちる。

「望みなら何度でも殺してやるさ」

 ぬらりと纏わりつく群青の血を払い、青年は油断なく向き合う。


 

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
アドリブ破損◎
血は出ず
金の宝石

怖い
怖いわ
今すぐ逃げ出したい
一人で敵う相手とも思っていない
けれども
マリアは猟兵だから

わたしの総てを以て
お相手するのだわ(礼儀作法

覚悟有
高速詠唱で【クリスタライズ】使用
暗闇利用
3倍返しと華水晶の灯籠を木に引っ掛け其処にいると錯覚(おびき寄せ
五芒符を回避

紅月で己自身を光らせ
敵に近づかず麻痺絡めた蒼月の旋律奏で敵を足止め(マヒ攻撃・楽器演奏
音のナイフで体を斬り裂く(誘導弾
敵の攻撃はケープ羽織り直し躱すか跳ね返す(オーラ防御・カウンター
己の腕か顔を守れば敵への攻撃手段有(激痛耐性
演奏と共に歌う(歌唱
攻撃の手休めず畳み掛ける

死の狂詩曲をあなたへ
紡ぐ祈りの詩(こえ)
世界を謳う



●闇を照らす華
(怖い、怖いわ)

 多くの刃が振るわれる音、押し殺した悲鳴――間近で繰り広げられる命の奪い合いにマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)はその華奢な体を震わせる。華水晶の蕾より生まれ落ちて以後、蝶よと花よと育てられた少女に、濃厚な死の気配が漂う戦場はあまりに恐ろしいものであった。足元の花は愛でられる事なく踏み潰され、無残な姿を晒していた。力無き者から蹂躙される救いのない世界、その具現であるかの様に。

(今すぐ逃げ出したい、一人で敵う相手とも思っていない。けれども)
――マリアは猟兵だから。

 花の、喪われた多くの命の在り様に心を痛めながらも、少女は全身に走る震えをその意志で抑え込み、命弄ぶ異形と真っ直ぐに向き合わんとする。

「わたしの総てを以てお相手するのだわ」
「勇ましくも礼節を弁えたお嬢さんだ、その愛らしい貌、是非とも恐怖で歪ませてみたいものです――」
「――お断りするの」

 ダンスに誘うかの様に伸ばされた晴明の手は、何時の間にか手挟まれた五芒符。投げ放たれた忌まわしき符はまるで吸い込まれるかの様にマリアドールに向かい飛ぶ。寸でのところで身を捩り、躱した少女は自身を護る様にその腕で抱き締める。――否、それは確かに身を護る術。クリスタリアンの持つ異能『クリスタライズ』、それは隠匿の力。マリアドール自身も、そして少女が持つカンテラを初めとした武具も全て覆い隠し、そのまま森に溶けて消える。

「成程、隠恋慕ですか。随分と慎ましいものですね!」

 自らもまた同じ技を模倣しその身を覆い隠した異形は嗤う。先のマリアドールの震えを見逃していなかった晴明から見れば、それはまるで儚い抵抗。手折られるを待つ花にしか見えなかった。まるで怯える様に、慌てて木に引っ掛けてしまった様に枝から下がる、蒼玉のケープを見つけては笑みを深める。
 
 からん。

 そして、異形の僅か先、微かな音を立てて枝に掛かったのは華水晶の灯籠。綴じ込めた花はまるで少女の運命を暗示するかの様に揺れるあそこにいるのか。隠密を解き、再び晴明は懐より抜き放った符を木に放つ――!

「見つけましたよ――!?」
「どうかしら!」

 ――その刹那、確信を持って放った業符は空しく宙に落ち、獲物が罠に掛かった事を確信したマリアドールは動く。手放した光源の代わり、降り注ぐ僅かな月明りを見通す光と化して、黄金律の竪琴を鳴らす。蒼月の旋律奏――この夜と対極を為す旋律は、秀麗な音だけには留まらない。その音色は甘やかな毒となり、晴明の四肢から僅かな時間なれど自由を奪う。
 けれど、その数秒で構わなかった。音は鋭利な魔術刃となり、晴明の体に降り注ぎ、罅割れに喰い込んでいく。同じ様に隠形を解除した少女は夜の闇、木々を利用して再度森に紛れていく。それは晴明の魔の手から逃れる為でもあり、何より、大切な贈り物を取り戻す為。

(ありがとう)

 贈ってくれた黒髪の少年、その瞳にも似た空の青を再び纏う。石が持つ慈愛の名の通り、羽織ったそれは柔らかなだけではなく、少女の心を癒す様に再び寄り添う。

「こ、の――!」
「っっっ、う、あ…!」

 時間としては極僅か、決して油断はしていなかったマリアドールに晴明が肉薄したのは――最早執念と呼ぶに相応しい。
 一方的な狩りと思っていた盤上を引っ繰り返された晴明は、遮蔽物の多さから符術を諦め、少女に肉薄する。深まる苛立ちの儘に振るわれた刃は、神殺しの力は宿らずとも尚強大であった。咄嗟に張ったマリアドールの障壁は硝子の様に澄んだ音を立てて崩れる。迫りくる刃から少女が守ったのは腕、そして顔。
 刃は必然、手薄となった胴体を引き裂く。少女の体からは血は噴き出さなかった、代わりに噴き出すのは黄金色の石。りぃぃん、澄んだ音を立てて散らばるそれは幻想的であったが、紛れもなく少女の命の欠片。

 けれど、それ程の深手を負っても尚マリアドールは怯まない。痛みは技能と意志で噛み殺し、再び竪琴を爪弾く。

「――死の狂詩曲を世界に爪弾かれるあなたへ」

 そうして重ねるのは秀麗な唄、凛と闇に響く旋律。腹を裂かれようとも謳う、紡ぐ祈りの詩(こえ)。マリアドールの詩は、愛と、光と、ほんの少しの歪みに満ちた――まるで少女の生を体現するかの様な旋律。決して完璧ではなかった、けれどその歪曲こそがその美しさを引き立てる、そんな生の生々しさをどこか感じさせるものだった。

 深く、強く響くその旋律に耐えきれず、晴明は絶叫を上げる――!

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンペル・トリックボックス
※ちょっとした因縁につき偶に敬語が抜け落ちます

……お前の空白を埋める程度の怒りなら、すでにして叩きつけられているだろうに。あいや結構、お前は私を知らないだろうし、お前は私の知っているお前ではない。だが──どの世界のお前であろうと、この身を犠牲にしてでも殺し尽くすと、私はそう決めている。数百年も前にな……!

『断末魔の瞳』による【暗視】で五芒符の軌道を【見切り】、被撃した場合は自身に、強化目的で地形を侵食するならその起点に【早業】でUCを発動。傷なら即座に癒し、怨霊の呪詛であれば浄化。返す刀で即座に手持ちの五行符全てを組み合わせ、【全力魔法】で【範囲攻撃】化した【破魔】の【属性攻撃】を叩き込みます



●潰えぬ因業
「……お前の空白を埋める程度の怒りなら、すでにして叩きつけられているだろうに。あいや結構、お前は私を知らないだろうし、お前は私の知っているお前ではない」
「『私ではない私』ですか……。それはそれは、随分と長い「因縁」のご様子で」

 その苦渋に満ちた声音の下、去来するのは如何なる感情か。平素は冗句を解する朗らかさを持ち合わせ、時に他者の笑顔を作る為に手品を披露する……ともすれば昼行灯とも捉えられがちなヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)の表情は、その片鱗すら見出す事が容易でない程に硬く、厳しい。それは彼が過ごした年月が故か、渦巻く記憶の海が齎すものか。余人が読み取る事は難しいものであった。
 対する晴明は、その謎掛けとも取れる投げ掛けに得心がいったようであった。まるで其処に「何か」があるかの様に天を仰ぐ。銀色の雨が降り注ぐ様な、荒唐無稽を期待するかの如く。

「――けれど、単なる思い出話をしに来たわけではありますまい?」
「当然だとも、どの世界のお前であろうと、この身を犠牲にしてでも殺し尽くすと、私はそう決めている。数百年も前にな……!」
「それは熱烈な告白ですね……せめて思い出だけでも『持ち帰りたい』ものです!」

 尽き得ぬ憎悪の念への返答は、生ける者を蝕む五芒業蝕符。宙に描き出された凶星は老紳士を飲み込まんと牙を剥く。暗がりを、そして霊的なものをも見通すヘンペルの瞳にはその禍々しさが――呪法の贄達が繰り返す断末魔の表情がつぶさに読み取れた。読み取れてしまった。

 あれは、子どもだ。母を、父を求めて空洞の眼を見開く。
 あれは、若い娘だ。夫を、子を求めて声なき声を上げる。

 あれは、誓う者だ。平和な世界を求め、散って逝った若き学徒。

 その手は四方に蠢く、まるで取りこぼした縁を探す様に。

 生きたいと、哭いているかの様に。

「晴明、貴様ァ!!」
「嗚呼、やはり貴方の目は「特別製」の様だ!それが唯の呪法には見えませぬか!なれば――結末も分かりましょう!」

 悪辣に嗤う陰陽師は敢えて符の軌道を「逸らした」。必殺の一撃を次の布石へと貶めたのだ。それは己の身で受ける事も辞さず、伸ばされた紳士の手をすり抜け、地面へと堕ちる。

オァァァァァイヤァァァァァァ

       、、、、、、、
――その瞬間、大地が騒めいた。

 ヘンペルにはそれが陰陽道に於ける龍脈、星の命脈である精の流れを穢す所業であると見て取れる。無数の亡者の悲鳴が響いた。彼等が受け止めるには余りに過剰な力は、その魂を飴細工の様に溶かし――そうしてやがてはより強い怨霊と成り果て、地を腐らせる毒となる。迷う暇はなかった、老兵はこの鬼畜の所業すらも予想し得たのだから。
 
「……身中諸内境 三萬六千神 動作履行蔵 前劫並後業 願我身自在 常往三寶中 當于劫壊時 彼身常不滅 誦此真文時 身心口業皆清浄」

 紡ぐ呪言は澱みなく、弛まなく流れる清水の様だった。傷や毒のみならず、呪詛をも浄化する呪符は大地に溶け込み、その呪いを開放していく。全ての浄化は困難であった――けれども、多くの霊魂はその痛みより解き放たれ、輝く白光となって空へと立ち昇っていく。

 模倣した技で己を幾らか癒した晴明、その面白い玩具を見つけた子供の様な表情は最早、同じ天を戴く事すら許せはしない。返す刀で自らが持つ五行の符に魔を祓う力を注ぎ込む。

「私に――この私に五行を用いますか!面白い、ならば術比べの時間と致しましょう!」
「ぬかせ!」

 喜悦を浮かべた晴明は再びその繊手より符術を放つ。迎え撃つヘンペルから放たれた清らの符と真っ向うからかち合い、相手を食い千切らんと荒れ狂う。霊障の風は吹き荒れ、紳士のシルクハットを高々と舞い上げる。

――ガイ
――タスケテ
――イタイ
――クルシイ

 この瞳がなければ良かったと、そう思う気持ちは今も変わらずヘンペルの中に在り続ける。目前の霊たちの陰惨な有様は筆舌に尽くし難い。けれど、この程度で折れる様な生半可な覚悟ではなかった。
 だから、霊の表情をその瞳に焼き付ける。自分が祓う者達の顔を、決して逸らさずに。

 立ち昇った白の柱――それがどちらの陰陽師が齎したものか、それは言うまでもない結末であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

橙樹・千織
◎☆

通りゃんせ、通りゃんせ…
……御用のないもの通しゃせぬ
この世に不要な怨霊は骸の海へお還りいただきましょう

五芒符は【見切り・残像】を駆使して敵の空間認知に誤差を与えて回避
回避出来ない場合は【破魔】による【なぎ払い】を試みる

まさかその上にいなくては私と渡り合うことさえ出来ないのですか
攻撃には全て【破魔】を活用
溢れ出る怨霊を【範囲攻撃・衝撃波・なぎ払い】にて排除
敵を怨霊の上から引きずり下ろす

過去の亡霊は過去へ還りなさい
そして二度と今を生きる者達に関わるな!
【高速詠唱・全力魔法】による【マヒ攻撃】で怯ませながら撃破へ

私達はお前を満たす玩具ではない!!
ユーベルコードは攻撃手段に加え、光源としても活用



●鎮守、森と共に
「通りゃんせ、通りゃんせ…」
――御用のないもの通しゃせぬ

 笛の音の様に澄んだ可憐な声音は、樹海に在りて尚鮮明に響く童歌。頭を垂れる様に木々が退く細道を通って現れたのは橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)だ。
 紡ぐ唄に合わせる様に、彼女が身に纏う山吹の花鈴は緩やかな歩調と共に、りんと鳴く。
 華やかな着物を纏い、柔和な面差しをした千織は一見、戦いに身を置く者とは思えぬたおやかさを纏う。実際に、友人に囲まれている時の彼女はころころと笑う可憐な娘である――けれど鋭い者であれば、昏き森を恐れず、張り出す木の根に足を取られる事なく歩み続ける千織が培ったものに気付く事だろう。穏やかな娘、それ以外の一面も併せ持つのだと。
 千織は森を守る守護神子を担う者だ。森は慈しむものであると同時に、容易く人に牙を剥くものである事もまた熟知している。故に、其処が見知らぬ地であろうとも、畏敬を以てその橙は見通すのだ。

「この世に不要な怨霊は骸の海へお還りいただきましょう」
「心外ですね、怨んでなどおりませぬ――まぁ、私の「世界」では御座いませんので、信長殿が滅ぼそうとも何ら心は痛みませぬが」

 芝居掛かった仕草で嘆く陰陽師は傾城の美を纏い、なれど画策するのは傾世の謀り。この世全てに祓う敬意など持ち合わせず、潰える命を弄ぶ様は千織が指摘した様に、唯の害悪に過ぎぬ。
 最早生かす意味などありはしない――その手の黒鉄の対なる牙を握り直し、神子は駆ける。口角を釣り上げた晴明は何度目かになる五芒業蝕符で千織を迎え撃つ。その符はただ其処にあるだけで、あらゆるものを蝕むような邪気に満ち満ちていた。纏う邪気の仔細は見えなくても、神子として様々な呪法を納めた彼女にはそれがどのような手法を経て作り上げられたものか、自ずと知れた。故にその面差しは宿す峻厳の色を深める。
 ふわり、纏う残像は晴明を惑わし邪悪なる符の軌道を逸らす。直ぐ様駆け出す千織に合わせるかの様にまた、晴明も走り寄る。地に落ち、澱みを撒き散らす穢土の上にて、神子と陰陽師は遂に切り結ぶに至る――!
 裂帛の気合を持って振り抜かれた薙刀、藍雷鳥は晴明のチェーンソーに阻まれ、火花を散らす!

「まさか、その上にいなくては私と渡り合うことさえ出来ないのですか!」
「それこそまさか、ですよ――ふるべ、ふるべ、ゆらゆらと……」
――これは「怨霊」の贄なのですよ

 悪辣に笑む晴明が紡ぐは祓詞。なれど、邪悪な者が紡ぐそれはその意を穢し、反転させるに至る。本来は死者の蘇生すら可能にする祓詞は即ち、蘇生に非ず。声に応える様に、穢れた土壌から無数の死者が湧き出る――!

「――どこまで愚弄すれば気が済むのですか!」

 破魔の力を込めた薙ぎ払いは、神に捧げる舞いに似て。白の浄撃は穢土ごと死者を祓い清める。そのまま紡ぐはいと高き者への請願、祓い清める為に願い奉る言の葉。それは僅かな時間なれど、晴明の身を縛り留める!

「過去の亡霊は過去へ還りなさい、そして二度と今を生きる者達に関わるな!」
「ふふ、熱い、熱いですね――その怒りの味は格別だ!」

 千織の怒りは深くも、藍焔華を持って繰り広げる剣舞は力強く、美しい――『剣舞・燐椿』は、椿を模した灼熱の炎を幾重にも降り注がせる。騒音の刃を以て模倣する晴明は先の麻痺もあって先手を取る事は叶わず、僅かに遅れて灼熱の花を咲かせるも、それは戦場においては致命的な隙に他ならない。

「――っ!私達はお前を満たす玩具ではない!!」

 それでも、晴明の数多降り注がせる邪炎は千織にも降り注ぎ、その肌を焼き焦がす。焼かれた痛みは元より、妖力に満ちたそれは清浄を是とする神子の身には、吐き気を催す程に悍ましい。けれど自らの肌がぐずり、崩れようとも千織は決して退かない。その強き意志は晴明の穢れを焼き払う炎にも劣らず、その橙の輝きを照らしていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

月夜・玲
退屈だから外道に走るって?
全く持ってふざけるんじゃあないよ

先に召喚された水晶屍人は『なぎ払い』って対処
直接的な攻撃は『武器受け』『オーラ防御』でガード
そして【神器複製】を使用
自身の持つ全ての神器…《RE》Incarnation・空の記憶・Blue Bird・Key of Chaosの4振りを複製して『念動力』で操作するよ
合計208本のうち半分で水晶屍人達の足止めをして残りの半分と共に晴明に攻撃を仕掛けるよ
自身の周囲の複製を足場にして晴明へと突撃だ!
こちらの射程に入ったら攻撃出来る複製で一斉攻撃して『串刺し』にしてあげる

さあ、今日は大盤振る舞いだよ!疲れるけどちょっと頑張っちゃう!

アドリブ等歓迎



●神威の機巧
「退屈だから外道に走るって?全く持ってふざけるんじゃあないよ」
「代わり映えのしない生は魂を死に至らしめる毒なのですよ、お嬢さん」

 不変の自分に変化を求める事は難しい、故に下等なるヒトを弄び慰むる――正に外道そのものの理屈を振り翳す晴明を斬り捨てたのは月夜・玲(頂の探究者・f01605)だ。普段はまだ見ぬ技術、文化に輝き揺れる緋の瞳は言葉そのままに鋭い光を宿す。

 晴明の体は無数の罅が走り、例え玲の猛追を潜り抜けても長くは保たない事は明白であった。故にこそ、幾度も黄泉返る事が可能な化生は今世を諦め、享楽を優先する――即ち、無聊を慰める為の死の蒐集。その在り様もまた度し難いと、神器をも模倣し得る機工師は眼の光を一層鋭く細める。

 笑みを深める化生が指を打ち鳴らせば、再び地面は脈打ち、無数の亡者が地より這い出る。その澱んだ瞳からは濁った血が滴り流れる、まるで流せぬ涙の様に。

「なら――一時でも良い。何も感じられない様にしてあげる!」

 先ずは晴明が呼び起こす屍人達に。迫る屍達は晴明の指示に応える様にある者は真正面から喰い付き、ある者は死角から襲い掛からんとびたり、びたりと腐り、裂けた足裏を物ともせずに疾走する!
 獰猛なダンスの誘いに応えるのは再誕の詩、音もなく抜剣された玲の刃は真正面からの屍人の剛腕を受け止め、その身に纏う輝光は魔を打ち払う。たたら踏む屍人に返す刃は重く、鋭い。唸る俱風を纏った斬撃は屍人を瞬く間に両断。
 その苛烈な一撃で吹き飛ぶ仲間の死骸を潜り抜け、玲の両脇から接近する新たな屍人には蒼穹が向かい合う。無窮の青はまるで空へ、その魂を還すかの如く光り、斬り裂いていく――

「良い切れ味、良い業物ですね。どこで手に入れておいでで?」
「それを言う必要はない、かな!」

 屍人達を空に還すや否や、間髪入れずに放たれた業に満ちた符を斬り捨て、唯の紙片に変えながら玲は応える。晴明は玲の技量を見抜き、遠距離からの足止めに徹する心算のようだ。月明りのみの薄闇では仔細は見て取れないながら、晴明の唇が忙しくなく動いている様に感じられる。恐らくは再び屍人を呼び出す為の呪言だ。

(――なら!)

「さあ、私の研究成果のお披露目だよ!」

 玲は紡ぐ、大いなる力、自らが高めた技巧の全てを。その意志に応える様に、彼女の携える四神器――《RE》Incarnation・空の記憶・Blue Bird・Key of Chaos――は脈動し、増殖する。その数、208本。
 その力を見て取った晴明は目を細め、死者の蘇生を謳う祓詞を詠み上げるに至る。先程よりも多く生み出された屍は、麗しき娘を仲間に引き入れんと殺到する――が、それは玲の手の内。104の刃は一斉に身を翻し、宙を泳ぐ様に屍達に降り注ぐ。

 呻き声を上げ、身を捩らせる屍人達はそれでも未だ層は厚く、到底正面からは突破出来る数ではない――ならば、「空」から行けば良い。残りの複製された神器達を空への階とし、娘は駆ける。とん、とん、としなやかに駆け上がる姿は優美な黒猫の様。そうして上がり切ったのならば――後は地に舞い戻るだけ。

「今日は大盤振る舞いだよ!疲れるけどちょっと頑張っちゃう!」 
「――はは、ははは!猟兵も「彼等」に負けず劣らず、面白い存在ですね!これだけで此度の私には価値がありましたとも!」

ドドドドド!!

 刃は向きを変え無数に降り注ぐ。幾本かは騒音刃で打ち払った晴明も、全てを躱し切る事は不可能であった。水晶体の罅割れは遂に全身に渡り、膝を突く。笑うその視界に映った最後の姿は、混沌の鍵と共に舞い降りる玲の姿だった。その剣は過たず晴明の心の臓を貫き、砕いていく――


――魔軍将「阿部晴明」、討滅完了。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月21日


挿絵イラスト