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エンパイアウォー⑥~神願撃破

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●神は願った
 関ヶ原に、長槍と大盾を持った物々しい集団があった。無言の圧を発しながら、彼らは白い戦場をざ、ざ、と速度を緩めず進んでいる。武器を構えた軍勢に囲まれながら、ひとり異質な容貌の青年が小さく何かを呟いた。

「忘れるな」

 流れる川のように、長槍と大盾を構えた人間たちが一糸乱れぬ歩みで進む。だがその顔は生気も薄く、ぼうっとした目に正気の光は見受けられない。当然だ、彼らは大帝剣『弥助アレキサンダー』の所持する『大帝剣』の洗脳能力によって操られている。

「俺は、ここにいる」

 青年の顔は冷え切った無表情。白く長い髪、揺らして。金の眼、歪ませて。
 動く人の波の中心で、けれど人に押し流されることなく、ただ、彼はそこにいる。

「血に濡れて。抗えない戦に流されて。そして、俺がいると、いつまでも」

 ──忘れてくれるな、人よ。
 たった一時、咲いた花。たった一時、縋られた神。されど今や、忘れさられた流行神。
 儚くあったこの姿を、お前達が再び忘れてしまわぬよう。
 ぼろぼろになった白い衣の袖が風に流れる。青年の周囲に紫色の花が咲く。

「……俺が、災厄を齎そう」

 長槍の穂先、天を向き。関ヶ原を往くファランクス。大盾構えて待ち受けよう。
 猟兵よ、この先へ進みたいと言うならば。この槍を、盾を、越えてみせるがいい。


 関ヶ原へ到着した猟兵たちの前に立ち塞がったのは、大帝剣『弥助アレキサンダー』による策略だった。

「どうやらあやつは畿内全域の農民を己の持つ大帝剣の力によって洗脳し、幕府軍を迎え撃たせる軍勢として利用しているようなのだ」

 甚五郎・クヌギ(左ノ功刀・f03975)が顎に手をあて、唸りと共に語る。ファランクス、と呼ばれる陣形は武器と盾を構えた兵士が密集し、一丸となって正面から敵を呑み込まんとする、攻防一体となった陣形だ。隣の仲間を守る大盾、後方からでも届く長槍は、正直に真正面から相手をすれば苦戦を強いられることだろう。
 農民兵の数は合計256名。16人と16列の正方形の陣、その中央に彼らを操る力の中継機となっているオブリビオンがいる。

「だが、彼らは幕府軍を抑える為の戦力であれどただの一般人、決してその槍が我々猟兵を傷つけることは無い。ただ彼らは敵の卑劣な力で洗脳されているだけなのだ。……彼らを斬り捨てて進むことも出来ようが、それを我輩は見たくはないし、君達にしてほしくもないことだと言おう」

 オブリビオンさえ撃破すれば、その部隊のファランクスは壊滅し、洗脳されていた一般人の兵も洗脳から解放され、戦闘意欲を失ってこちらへ降伏するだろう。だから出来れば、傷つけるのは仕方のないことだとしても、なるべく命を奪わないでやってほしいとクヌギは告げる。それは操られた農民を案じての言葉でもあるし、背負わずともいい罪を背負うことは無いという猟兵たちへの言葉でもある。
 密集した兵たちを上手く突破して中央にいるオブリビオンまで到達することが出来れば、あとは本命との一騎打ちだ。そこまで近づくと中心付近の兵たちに取り囲まれてしまうので邪魔をさせない対策も必要となるかもしれないが、突破する方法次第では周囲から兵士を散らすこともできるだろう。君達の思うがままに戦えばいい。

「中心地にいるオブリビオンの情報で掴めたのは、名前と使う技くらいか」

 時花神、と書いて、はやりがみ。飢饉や病魔の流行った年にだけ信仰されるような、人の幸福の為にだけ祈りを捧げられる神。だが、幸福になった人々は決して見向きもしない神。そんな神が、農民たちを率いているのだそうだ。
 その能力は悪夢を見せる催眠作用のある衝撃波、痛みと病に蝕まれ、けれど与えられる強化の力。そして夢喰らう花々から伸ばされる蔓の触手。ひとつひとつは強力だが、こちらの技も決して負けるようなものではない。

「救いの為に祈りを受けてきた神も、骸の海より甦ればただの災厄となってしまう」

 それがなんだか悔しいなと、クヌギは言って、猫の爪でゲートを開く。
 眩しさに目を細め、しっかりやってこい!と激励の声を飛ばし。
 くぐりぬける、光の扉のその向こう。
 揺れる草原、まるで雪原のような白銀一色が、猟兵たちを待っている。


本居凪
 戦争シナリオ二本目です。関ヶ原に到達したものの、先はまだ長そうですね。
 今回は洗脳された農民たちによる農民兵部隊との集団戦に思わせて、指揮官オブリビオンを倒すボス戦です。
 いかにこの密集した一般人たちを突破していくかが重要なので、プレイングもそのあたりの作戦がしっかりと書かれてあれば良い結果に繋がるかもしれません。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 なお、今回速さが大事なのとお盆期間ということもあり、プレイング受付期間を設けてみます。OP公開から一日、15日の21時で一旦区切って、その時点までのプレイングにリプレイ返却という形です。その時点でクリアに届かない場合は、また次の日の21時までプレ受付という感じで、区切り区切りやっていこうと思います。合わせプレの場合はもう片方が未着であれば、21時以降でもお預かりさせて頂きます。

 いろいろと手探りで申し訳ありませんが、皆さまのご参加お待ちしています。
 複数人での参加の際は、相手の名前、(ID)、【グループ名】、お忘れなくどうぞ。

 では、よろしくお願いします!
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第1章 ボス戦 『時花神・紫翡翠』

POW   :    あなたにゆめを
【悪夢を見せる催眠作用のある衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    わすれないで
【時花神に触れたものに病と】【戦闘終了まで癒えぬ疼痛と】【精神を蝕む衝動を与える力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    われこそが
【幸福】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【夢を喰らう花々】から、高命中力の【蔓の触手】を飛ばす。

イラスト:龍烏こう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠無供華・リアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ロイド・テスタメント
【吸血猟兵】
心情:
良い、作戦だとは思いますね。
ええ、暗殺者であれば同様の事をしているでしょう。

行動:
暗殺の戦闘知識を駆使して、生命力吸収し無力化しながら一般兵を突破する。

戦闘:
「良い趣味だが、見馴れすぎた戦法でつまらないですね。もう少し捻っていただかないと……殺し甲斐が、ない」
Τισιφόνηを手にして、戦闘知識で相手を観察しつつ捨て身の一撃を与え、2回攻撃で傷口をえぐる。
隙が出来たらUCで攻撃力を減らす方をメインに、封じられれば良しとしましょう。
「暗殺者の戦い方を見せてやる」
暗殺、罠使いを駆使し、息を殺して相手の後ろを取ってナイフを刺し、鋼糸で張った罠の方へ押す。
「全てを、無へ……」


ロン・テスタメント
【吸血猟兵】
心情:
こ、これも修行の為です!
狼(ロウ『無理すんなよ』

行動:
一般兵さん達には、少しの間だけ止まっていただきます!
氷の属性の七ノ堕龍で兵を凍らせながら、オブリビオンの元へ進みます。

戦闘:
(狼、いきますよ)
UCで呼び出した狼(七ノ堕龍を所持)と共に紫翡翠を挟み撃ちして、氷の属性攻撃で私は王龍で鎧無視攻撃します!
『寒さでも夢は見られる……そう、体は死へ向かいながら幸せな夢を』
(まともに相手にしちゃ勝てないです)
目立たぬように動き、紫翡翠から視線を逸らさずに再び挟撃。
「残念、氷じゃないのです!」
炎属性攻撃でだまし討ち。
『そ、温度差ってヤツ』
惑わす花なんて、焼けてしまえ。

多貫=怖いお姉さん


山理・多貫
【吸血猟兵】アレンジ歓迎 NGなし

【心境】

はぁ…
この世界の農民さんってあんまりおいしくないんですよね……。

え?ロンくんもくるんです、か?
ふ~ん、ちょっといいとこみせないとです、ね。

【対農民兵部隊】

近寄ってくる農民兵をポイズンダガーで雑に殺しつつ突破を目指します。
興味を全く示さず義務的に淡々と
罪悪感も感じずに


【対ボス戦】

(ジッと美味しそうかどうか見定め)
まぁ……ギリギリ合格というところです、ね(上から目線)

【理性の限界】を使用し、戦闘力を増強し力任せに攻撃します。

特上のご馳走(ロン)がすぐ近くにいる状態でずっと我慢を強いられていたのでもう渇望メーターはMAX寸前。
かなりの強さです(アバウト)



●白銀を染める赤
 幽鬼めいた顔の農民たちが長槍を構えて白銀の草原を進んでいく。大人数による行進で踏み固められた草の跡が、後方に真っ直ぐ伸びているのが、やや離れた場所からも見える。

「はぁ……この世界の農民さんってあんまりおいしくないんですよね……」

 赤い瞳をやや伏せて、山理・多貫(吸血猟兵・f02329)はつまらなそうな吐息と愚痴めいた言葉を漏らす。今日もボロボロのマントが草原を揺らす風でふわりとはためいていた。それを横で聞いて苦笑したロイド・テスタメント(全てを無に帰す暗殺者・f01586)は、操られた農民の表情を暗殺者の瞳でもって観察する。関係の無い相手を操り、己の矛と、盾とする。そして首魁はその中心に引きこもり──もとい、護られると。

「良い、作戦だとは思いますね。ええ、暗殺者であれば同様の事をしているでしょう」
「ふぅん、でもどんなに分厚い皮も引き剥がせば、文字通りの丸裸です」

 多貫は太腿に備えた三本のポイズンダガーを手でなぞる。動きを奪い、声を奪い、血を溢れさせる毒の短剣は鞘越しだと少々冷たく感じる。

「あの子もやる気のようですし、私も良い所を見せませんとね」
「え?ロンくんもくるんです、か? ふ~ん、ちょっといいとこみせないとです、ね」
「ええ、はい」

 にこやかに微笑む執事の目は、ゲートを抜けて草原へと降り立った、己の息子たる(より正確には、別世界のだが)ロン・テスタメント(幸福をもたらす龍・f16065)を見る。赤く、金色の刺繍がきらめく王龍の衣。この白い世界では、燃える炎のようにも見えた。
 二人の視線を受けている、当のロン自身はと言えば、徐々に近づくファランクスを前にして武者震いをしている。

「こ、これも修行の為です!」

 緊張からか紅潮した頬。ぐっと拳を握るロンの胸の奥から、もう一人の彼、狼(ロウ)の無理するなよと言う声が聞こえてくる。

「む、無理はしてません! ……ヒッ」

 本当かよ、とまた声が返ってくる。だがロンは、振り返った先、父親の隣にいるボロボロの黒いマントの少女の赤い瞳と目が合ってしまって、それこそ蛇を前にしたカエルのような心持ちであったので、その声が届いていたかは不明である。

 近づいてくるファランクス。大地が、彼らの足踏みでやや揺れているのが分かる。伸ばされた長槍はまるで針鼠か、山嵐だ。
 【吸血猟兵】の三人は迫る彼らへと体を向けて、一斉に動いた。

 始めに飛び込んでいくのは、若き龍。ロンは七ノ堕龍、龍の彫刻が彫られた鉄の棒を振るって先陣を切る。勢いと共に振るわれた鉄棒から迸るは冷気、氷が兵たちの足を凍らせ、動きを留める。だが、進むことのみを命じられた彼らの足は凍りついても止まらない。
 ギ、ギ、ギ。前へ前へと、押されるように進もうとする兵士の体が、急に脱力する。その傍らには黒い影。氷の衝撃に動揺する兵士の足並みが乱れた際に隠れて接近したロイドが兵士の生命力を奪い、集団の中へとまた潜む。一瞬で的確に、相手の急所を狙うのは暗殺者の知識あってこそ。
 それでも全員を仕留めるには兵士の数が多過ぎる。崩れ落ちる兵士の体を踏みつけ乗り越え、盾で氷を砕いて進む。彼らの目に映るのは、ただ歩いてくる少女の姿。手に短剣など持っていても、この数の差、埋められはしないだろうと農民兵は多貫に向かって襲いかかる。

「……面倒ですね」

 そんな言葉と共に。実に雑に短剣は振るわれて、実に雑に、命は失われていった。槍をくぐって胸を刺し、突進をひらり躱して首を裂く。
 その赤い瞳は一切興奮も興味も見えず、罪悪感すら感じさせず。多貫は一度も振り返らずに近付いてくる農民の屍を淡々と築いていった。
 人波を掻き分け、雑に払って、彼らの前にようやく時花神・紫翡翠の白い髪が見えてくる。金色の眼の冷たさは、多貫の無感情さと良い勝負だろう。そんな相手を、多貫はジッと見定める。美味しそうか、そうでないか。倒しはしたが、農民の血を吸ってはこなかった。
 だから、彼女のどうしようもない本能は血を求めていて、牙が疼いて、喉が渇いて、仕方ない。だって、彼女にとって特上のご馳走が、すぐそこにいるのだから。

「まぁ……ギリギリ合格というところです、ね」

 上から目線な言葉にも、紫翡翠は表情を変えない。

「お前たちが猟兵か。槍に貫かれ、盾に挟まれてしまえば良いものを」
「良い趣味だが、見馴れすぎた戦法でつまらないですね。もう少し捻っていただかないと……殺し甲斐が、ない」
「戦などいつだって同じだろう。全てを押し流す力と、定石の策の繰り返しだ。流れる血も、悲鳴も、いつだって変わらない」

 ロイドを一瞥する紫翡翠。金色が細められ、白銀の草が僅かにざわめく。身の内から放出されようとする衝撃波の予感に、ロンは胸へと手をやって、片割れへと声を掛けた。

(狼、いきますよ!)『いくぜ、ロン!』

 ロンの影が二重にぶれて、分裂する。【オルタナティブ・ダブル】によって転がり出た狼は七ノ堕龍を、ロンは朱い龍の模様が入った鉄扇、王龍を広げて、左右から紫翡翠へと攻撃を仕掛ければ、氷が彼の裸足を覆い、その袖を凍てつかせる。

「ぐ、ッッ……!」
『寒さでも夢は見られる……そう、体は死へ向かいながら幸せな夢を』

 しかし衝撃波は止まらない。彼の足元の氷を砕き、破片がきらきらと舞い散っていく。飛び散った破片と衝撃の余波がロンを弾き飛ばした。
(まともに相手にしちゃ勝てない、です……ね……!)

 体幹を崩された紫翡翠はぐらりと傾いだ体を整えようと一歩、足を後ろへと出すが、その首に銀が閃く。目を寄越せば、そこにはロイドの顔と、黒百合の細工施された銀の刃。

「暗殺者の戦い方を見せてやる」
「神を暗殺か。だが、黙殺されるよりは余程、良いだろうな……!」

 紫翡翠は腕を振るい、ロイドの刃から逃れようとする。だが捨て身で迫る銀の刃は彼の腕を切り裂き、傷口を抉る。噴き出した血の赤色が、時花神の白衣に模様を増やす。その光景に、息を詰める少女。多貫の体の奥から、力が沸き上がる。
 多貫にとっての特上のご馳走。それは目の前の神、などではなく。ああ、【理性の限界】が、近づいている。どくどくと心臓が痛い。頭の中がもう、あの赤毛で、灰色の瞳で、元気に跳ねる少年の首を求めて止まない。食べたい、奪いたい、吸い尽くしたい、血の一滴も残さずに。
 ロンへの渇望が、少女の瞳をより赤く染める。我慢の限界はもうとっくにリミットオーバー、メーターは振り切ってしまった。

「あ、……ダメ、アぁ……ッ!」

 衝動のままに走り出す多貫。その狙いは紫翡翠の胴体。だが大振りな動きは見破られやすくもある。血を吸う幸福を頭に思い描く彼女。紫翡翠は、抑圧された彼女の心の奥底の幸福を感じ取る。

「お前は、……そうか、それもまた、人のしあわせか」

 花が咲く。紫色の、大ぶりの花びら。人の夢を喰らう花花。蔓の触手が少女へ伸ばされるその寸前、龍と狼が再び、紫翡翠の左右へと現れた。

「またしても、凍えさせようとするつもりか」

 無駄な足掻きと、蔓を差し向ける。だが、蔓へと向けて飛び込んできた彼らが纏わせるのは──炎だ!

「残念、氷じゃないのです!」『そ、温度差ってヤツ』

 燃やせ、焼けろ、ごうごうと。惑わす花なんて、焼けてしまえと龍の炎が蔓ごと花を焼き散らす。
 そして業火に燃え落ちる花々の間を駆け抜けて、多貫の剣が、神を貫く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

木元・杏
まつりん(祭莉・f16554)と

陣の突破に【白銀の仲間】で透明の狼を10体
時花神の神さままでに正方陣を縦に一直線
その道を作るように、陣の中に入り込み暴れて?
但し農民兵は傷付けず、死なせない
見えない何かが動き回ればそれだけで脅威

まつりん、行こ
陣形を乱れさせ、その隙に神さまの元へ

神さまの衝撃波が来るタイミングを第六感で察知し、大剣にした灯る陽光からオーラ放出
衝撃波にぶつけ相殺

神さま、会うのはこれで三度目
わたし達は神さまを忘れてない
でも、神さまはわたし達のこと忘れてる
それが悲しい

だから何度でも会いに来る
忘れないって伝えに来る

そのまま近接し大剣で神さまを斬る
またね、神さま

まつりん?
わたしはここにいるよ


木元・祭莉
アンちゃん(f16565)と。

ファランクス陣形。
個々は弱くても、団結すれば、ってヤツだっけ。

アンちゃんの仲間の後を追う。
それでも、進行方向に敵が立ちはだかったら。
手加減しつつの気絶攻撃で、薙ぎ払っていくね。

あ、紫のかみさま。
三度目だね。

今回の悪夢は……
ああ。みんながおいらのコト忘れてくゆめ、だ。

アンちゃんが『あなた、だれ?』って。
『わたし、獣人のきょうだいなんて知らない』って。

でも。
今、隣から『いたい』って聞こえた。
アンちゃんがおいらのこと、忘れたとしても。
おいらは、アンちゃん守るから!(舞扇の幻影を投射)

前にも言ったけど。
おいら、忘れないから。
これからも、会うたびに覚えてくからね。

バイバイ?



●白銀野原に立ちたる神へ
 風が、白銀の草原を揺らす。まるで冬の雪原めいた光景だが、その足下に感じるのは確かに草と土に覆われた大地だった。
 農民兵たちは猟兵の襲撃に陣形を崩されはしたが、それでもまだ立てる者たちが紫翡翠の周囲へ寄り集まって、すぐに新たなファランクスが形成されていた。
 体の右に大盾を、左に長く鋭い槍を、構えて再び、足並み揃えて四角く棘を剥き出し進む彼らを前に、立つは幼くも勇ましきふたりである。木元・杏(ぷろでゅーさー・あん・f16565)と木元・祭莉(サムシングライクテンダネスハーフ・f16554)は、自分よりも大きな農民兵たちの迫るを見ても、一歩も退かない。まっすぐに、力強い瞳できっ、と。この槍と盾の壁の奥にいる、かみさまのことを見つめている。

「ファランクス陣形。個々は弱くても、団結すれば、ってヤツだっけ。アンちゃん、準備はいーい?」
「……うん、いいよ、まつりん」
「団結力なら、おいらたちだって負けないもんね!」

 ぴこんと元気に動く狼の耳と尻尾は祭莉の心を示しているようだ。その隣でうさみみメイド人形を抱えて杏は目を瞑って、強く念じる。あの陣を突破する為の力を、ここへ。
 途端、彼女の周囲に増える気配。見えないけれど、耳を澄ませば聞こえるだろう。僅か聞こえる狼の唸り声、カリカリと地を掻く爪の音。祭莉の鼻も、同胞の匂いを捉えている。

「……静かに、ね」

 杏がそっと自分のお腹の辺りに手を翳せば、擦り寄る柔らかな毛の感触。まぁるい頭を撫でながら、杏は彼らに進むべき道を指し示す。正方形の陣、その真ん中を、一直線。

「時花神の神さままで。その道を作るように、陣の中に入り込み、暴れて?……だけど傷つけたり、死なせたりは、だめよ」
 承ったと言うように、杏の足元を擦り抜けていく獣の気配。十頭の見えない白銀の狼は白銀の草原をまっすぐファランクスへ向かって進む。祭莉もその後を追いかけて、杏とふたり、走り出した。

「ァ、あぁ……あ、あ?」

 駆け抜ける透明な獣を前に、ファランクスの先頭に立つ農民兵は疑問の声を漏らす。何かいる気配は洗脳されて不鮮明な頭でも感じとれたのだろう、盾を構えて待ち受けるが、見えない攻撃を防げる道理はない。ただ何かに押されるように、隣の農民兵との間がこじ開けられていく。
 だが、その後ろから走ってくる二人の子どもの姿は見える。捕まえようと伸ばされた農民兵の手を、折らない程度の力加減で祭莉の琥珀製のナックルリングが薙ぎ払う。

「アンちゃん、こっち!」
「うん、まつりん、行こ」

 ふたり、離れないように。祭莉が杏よりも少し前を行くのは自分が兄だから、という思いもあったけど。それでもふたりは乱れた正方形を突っ切って、あの神様のいる中心地へと辿り着いたのだった。

「あ、紫のかみさま。三度目だね」
「お前達のようなこどもを、俺は知らない、覚えていない」
「……神さま、会うのはこれで三度目、わたし達は神さまを忘れてない。……でも、神さまはわたし達のこと忘れてる。……それが、悲しい」

 手をふって笑う少年に、哀しそうに見つめる少女に、神様は金色の眸を細めるだけだった。過去に戦ったことがあっても、今彼らの目の前にいる相手は別の過去から摘出された存在だ。今ここにいる紫翡翠ではないのだから以前に会ったとしても、覚えている筈はない。それでも祭莉と杏はこれが三度目だと神へと伝える。わたしたちは、覚えていると。

「こどもなど、もう随分と久しく思える」

 時花神の覚えている子どもは、雨乞いの為の人柱。母の腕の中、飢えに喘ぐ小さな体。彼を人が求める時、いつだって小さな彼らはその命の灯火が消えていく寸前だった。だから、だから。

「こどもは夢を見ていればいい。夢に沈めば、苦しまない」

 だから、神は夢を見せる。手にした扇を広げて金色の眼を見開いて──衝撃波が、ふたりを襲う。

「まつりん!」

 杏はとっさに手にしていた大剣を振り、刀身から放出された暖かな陽の色をしたオーラで衝撃波から身を守る。掻き消える悪夢の残滓。だが杏が隣に立つ双子の兄を見れば、祭莉の銀色の眼は光を失って、まるで鈍らの刀のようになっていた。その顔は白く青褪めて、笑顔に溢れたいつもの彼ではない。悪夢を見ているのだろう、ぶつぶつと何か、呟いていて。

「……おいらだよ、ねえ、みんな、おいらだって」

 真っ暗なんだ。おいらの周りはまっくらで。みんながそっぽを向いている。おいらだよ、って言っても、だぁれも名前を呼んでくれない。曖昧に笑ったり、知らんぷり。わすれちゃったの?おぼえてないの?おいらだよ、ねえ。
 座り込んだら、いつの間にかアンちゃんが横に立ってた。ねえ、アンちゃんなら、分かるよね!

 『あなた、だれ?』って。
 『わたし、獣人のきょうだいなんて知らない』って。

 まっくらだ。まっくらなんだ。おいらのまわりは、まっくら。

「まつりん?……まつりん!」
「夢を見ている、起こしてやるな。……お前も夢を見ればいい」

 祭莉は杏の声にも微動だにしない。焦る少女を前に、紫翡翠は再度、扇を開いて衝撃波を呼び起こす。ふわりと白い髪が靡いて、白銀の世界に広がっていく。杏は祭莉の前に立って、衝撃波から守ろうとその大剣を胸の前で構える。

 ……いやだよ、まっくらなのは、いやだ。
 悪夢の中に沈み込む祭莉の耳に、声が聞こえる。

「わたしはここに、いるよ……はなれないっ」

 それは少女の決意の声で、痛みを受けても立ち上がろうとする声で、祭莉の耳が、よく知る声だ。

(今、隣から『いたい』って聞こえた。……アンちゃん、いたい?)

 だめだよ。おいらがまっくらになっても、アンちゃんがいたいのは。うごかない体を、閉じ込めようとする悪夢を振り払う。ぎゅっと握った祭莉の手の中に現れたのは、舞扇の幻影だった。

「……アンちゃんがおいらのこと、忘れたとしても。おいらは、アンちゃん守るから!」

 悪夢から目覚めた祭莉は、舞扇の幻影を紫翡翠へと投げる。【遮那王の刻印】、ここに繋がる絆はあると、あの神様へ伝えたかった。
 舞扇は紫翡翠の腕に当たり、取り落とされた彼の扇に気を取られた一瞬。杏の大剣が閃いて、紫翡翠を斬る。

「前にも言ったけど。おいら、忘れないから。これからも、会うたびに覚えてくからね。……かみさま!」
「だから何度でも会いに来る、忘れないって伝えに来る」
「この、忘れ去られるが定めの流行神を、覚えているなど……愚かなこどもだ。今までのように、きっと忘れてしまうだろう」

 愚かな。繰り返す言葉に、けれど彼の腕は動かない。
 忘れられたくなかった。背を向けた彼らのしあわせな笑顔を見ていた。忘れてほしくなかった。それでも、災厄から逃れてしあわせになってほしかった。どうしてお前たちは俺に縋って、忘れて、また縋って。それでも、何度同じことを繰り返しても、人の頼みを聞いたのは俺だった。

 神様は動けない。
 ただ、傷付いたこどもが戻っていく後ろ姿を、じっと見ていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

白木院・雪之助
(アドリブ・連携OK)
氷【属性攻撃】を遠距離から陣形を組む者達の足元に放ち動きを止めるである
殺さぬように気をつけておくぞ

ふむ……お主も神か
災い起きし時のみ信仰される……昔の我と似ておるな
まぁ今の信仰のされ方は違うが……今のお主は人に害を成すか
ならば我が鎮めよう。今の我は他ならぬ、人の為の神さまじゃからな

UCを発動。雪の嵐を引き起こすぞ。
【勾玉の首飾り】の封印で力を抑えつつ、技の範囲は奴の周りだけにしておく。他のものを巻き込むわけにはいかぬからな
幸福は間に合っておる。神さまたる我が与える側であるからな
【破魔】の札にてこの術を打ち消すであるぞ


キャロライン・ブラック
美しい紫色。本来の貴方はとても優しい神だったのでしょう
けれど、いえ、だからこそ、わたくしの全力を持って討ちましょう

さて、あの方へと迫るには少々障害が多いご様子
まずはわたくしの色をご覧に入れますわ

薫衣草の紫を足元へと撒き
農民の方々を眠りへと誘いますの

優先順位としては、傷ついた、あるいは強化された農民の方々が最優先
薫衣草の紫は、ささやかながら癒しの属性が付与されております
どうか安らかにお休みくださいませ

その後は本命のお方へと迫りましょう
薫衣草の紫を撒き、眠りへと誘いますけれど……

仮にも神を名乗るお方、そう安々と眠ってはくださらないでしょう
けれど、睡魔に襲われながら、わたくしの攻撃をさばけるかしら


ヴィクティム・ウィンターミュート
よーし、オーダーは理解した
手ェ貸すぜ…勝ちに行こう

パンピーどもを生かして敵だけを撃滅しろってことなら…
いっちょ踊ってやるか、道化としてな
セット『VenomDancer』
そら、目の前に誘蛾灯が現れたぜ?
どうするよ、今すぐにでも飛びつきたい顔してるな?
来いよ木っ端ども…俺についてこい

強烈にヘイトを買うを前に、まともに陣形が保てるかな?
陣形を維持してても関係ない、ファランクスは前進にはめっぽう強いが、左右に振っちまえば…装備の取り回し、陣形の密集具合で機動力が大きく落ちる
大将首に走る道はどのみち出来るのさ

猛毒と鈍化のパルス、たらふく食ってくれ
長期戦?いいとも、猛毒が回るだけだ
接近しなきゃ病も関係無い



●神願、此処に砕かれる
 時花神の周りにいた農民兵も、猟兵たちの奮闘によってその総数は半分以下まで減少していた。遥か後方では弾かれた長槍が白銀の草むらに刺さり、木っ端となった盾の破片が倒れる農民兵たちの周囲に散乱している。時花神・紫翡翠の体も猟兵たちの攻撃によって傷を負い、前にも増してその装束はボロボロになっていた。
 しかしまだ、猟兵たちを見つめる時花神の双眸には力が残っている。

「わすれるな、俺のことをわすれるな、民よ」

 紫翡翠の白く細い掌が、近くに立つ農民兵の肩へと触れる。紫の淡い光が散り、不健康な白い爪と骨のように細い彼の指が農民兵に病と痛みと、精神の中枢から揺さぶるような衝動を与えていく。抑えきれない衝動に奮える農民兵と対照に、紫翡翠の口の端からは赤い雫がツ、と零れ落ち、彼が受けた傷からも、留まる事の無い流血が噴き出していた。

「俺がかつてお前達から受け取ったもの。痛みも病も、飢えも乾きも、お前達に望まれ俺が預かったものを……返してやるから、どうか」

 正気を失い痛みに震え苦悶に呻く農民兵たちの姿はまるで鬼のようだった。そんな、鬼となった人間に囲まれて立つ時花神を白木院・雪之助(雪狐・f10613)は眉をひそめて痛ましそうな目で見、透き通った湖面の様な青い瞳は、かつて自分もそう呼ばれていた頃を追懐する。

「ふむ……お主も神か。災い起きし時のみ信仰される……昔の我と似ておるな」

 雪深い山の奥にあった隠れ里。今の自分が立つ白銀の関ヶ原の風景はあの場所と似て、寒々しくすべてを覆う白という点では似ているが、毛の先まで凍り付くような寒さは感じられない。

「まぁ、今の信仰のされ方は違うが……今のお主は人に害を成すか。ならば我が鎮めよう。今の我は他ならぬ、人の為の神さまじゃからな」
「よーし、オーダーは理解した。手ェ貸すぜ……勝ちに行こう」

 小雪を思わせる雪色の扇をぱちんと閉じた雪之助の言葉に同調するように、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)も紫色のゴーグルの奥で青き科学の魔眼を見開いた。操られた農民兵たちはその正方形を粗方削られてもまだ動きが止まることは無い。オォ、オォと言葉を成さない声を挙げて、ふらふらと定まらない槍の穂先をぞろりと猟兵たちへ向け進軍を再会する。

「パンピーどもを生かして敵だけを撃滅しろってことなら……いっちょ踊ってやるか、道化としてな」

 目前の敵を倒すという意思に満ちた農民兵を前に、ヴィクティムは腕をぐるりと回し、不敵な笑みを口端に浮かべる。

「──セット、『VenomDancer』」

 ヴィクティムのメタリックな黒い機械腕の周囲で火花が弾ける。……バチバチバチバチッ、パンッ!強化服に走る紫電光。それは強烈に農民兵たちの濁った眼を突き刺して、彼らの意識がヴィクティム一人へと集中するよう誘導される。

「そら、目の前に誘蛾灯が現れたぜ? どうするよ、今すぐにでも飛びつきたい顔してるな?」

 【Extend Code『VenomDancer』】を発動させたヴィクティムは、農民兵と向けて指をクイと誘うように曲げる。スタートダッシュの準備ならもう万全だ、ヴィクティムはカカトをトンと鳴らす。

「来いよ木っ端ども……俺についてこい」

 足下に生えた白銀の草を散らして、ヴィクティムがファランクスへと突っ走る。ぐぉう、だか、オォウ、だか、向かってくる獲物を前にした農民兵の猛る声が響く。右へ左へ踊る道化、高速移動で駆け抜けるヴィクティムの動きに、操られ、紫翡翠による負傷と病の痛みを衝動だけで支える農民兵では右往左往するしかなく、兵力、機動力が落ちた陣形が瓦解するのは最早時間の問題だ。更に彼らの動きを鈍らせていたのは何もヴィクティムへの強烈な敵対心だけではない。ヴィクティムに意識を集中させていた彼らの足元を雪乃助の放つ氷の冷気が襲い、凍らせていたのだ。
 崩れ落ちていく農民兵の波の向こうに立つ白い影を認めて、キャロライン・ブラック(色彩のコレクター・f01443)はレインボーワンドを振る。その黒い杖の先端に飾られた虹色の宝石は紫色に強く輝いていた。

「美しい紫色。本来の貴方はとても優しい神だったのでしょう。けれど、いえ、だからこそ、わたくしの全力を持って討ちましょう」

 優雅な所作で、キャロラインは白銀の画布へと菫衣草色を広げる。

「華やかに広がる、紫色のラベンダー。色と香りに包まれて、ごゆっくり、おやすみなさい?」

 眠りに誘う紫の薫り。瞼を落とす農民兵。紫色の草の上へ転がるその肉体にあった筈の傷や病は、僅かなれどもキャロラインの【わたくしの好きな色、薫衣草の紫】に宿る癒しの力によって塞がれ、治癒されていく。

「ささやかながらもこの紫色は、あなたの癒しとなるでしょう。どうか安らかにお休みくださいませ」

 ターゲットとなる電光、足止めする氷、眠らせ癒す紫の薫香。彼らによって残る農民兵たちもその足取りを崩され、正方形は割れていく。開かれた道の最奥、人へ力を与えた代償の流血に白き装束を染めた神は三人の猟兵たちの視線を受け止めた。

「神とは、人を救うものである。災厄齎す祟り神など見過ごせぬ」
「俺が人を救えども、人は俺を忘却する。ならば祟り神になるしかないだろう。わすれられない為に──わすれさせない為に」
「ならばこそ、我はお前を倒すぞ。我は人の為の神であるが故な」

 自分を神と呼ぶ声に応えようとする雪乃助と、神と己を呼ばぬ声を振り向かせようとした紫翡翠と。対峙する二人の周囲で銀色の叢が風にそよぐ。そよ、そよ、さわ、ざわ。徐々に強くなっていく風の音に、本来の力を抑えた雪乃助の首元で連なる勾玉がカタカタと揺れている。びゅうと吹く疾風、雪の嵐が紫翡翠を襲い、【銀世界に咲く不香の花】は、たったひとりを覆い隠すように吹き荒れる。

「極寒の冬が来た、凍土は芽吹かず、春が来ない──」
「寒いのは、嫌なものである。すべてを奪ってゆくからな」

 我もよく知っている、と呟く雪乃助の声は、風の音に紛れて消える。吹雪の中にまだ動く姿を見て、猟兵たちは各々の武器を構えれば、紫色の衝撃波が内側から嵐を掻き消した。

「だから、俺は掃ったのだ。雪を呼ぶ雲を、こうして」

 手を伸ばして、横へ薙ぐ様に。紫翡翠は周囲に倒れている農民兵へ目を向けて、再び猟兵へと視線を戻す。

「俺の与える恵みでは、まだ足らないか」
「……もう、お休みくださいませ。あなた様」

 紫翡翠は手を伸ばす。だがその手から与えられるのは神の恵みなどではなく呪縛だと猟兵たちは知っている。キャロラインが菫衣草の紫で彼の足場を染め上げれば睡魔が弱った彼の足を引き、たたらを踏ませる。よろめいた彼の身体に響くヴィクティムの放った速度鈍化と猛毒のパルス。更に鈍る動き、身を苛む猛毒が、遂に紫翡翠に膝を着かせた。

「眠りのついでに、猛毒と鈍化のパルス、たらふく食ってくれ」
「毒の病など、俺がいくつ、抱えた、と……」
「接近しなきゃ病も関係無い、でもって弱った体ほど、毒の良く効くものも無い。……そろそろ、終わりにしようぜ」

 端役は舞台の裏に引く。白銀に敷かれた紫には転々と落ちた赤色が混じって、まだら模様が広がって。両手と膝を着く彼に接近するのは雪色の妖狐。破魔の力を宿す札を持つ、雪乃助であった。

「神は幸福を与えるもの、そして我の幸福は、もう間に合っておる!」

 突き付けられた札が、彼の身体に残った最後の力を破壊する。時花神には幸福がもう与えられない。与える相手がもういない。与えた相手は彼を忘れて、遠く過去へ彼を置いていった。罅割れ、崩れていく体で紫翡翠は人へ、猟兵へ手を伸ばす。

「俺は、……もう、この俺は終い、か」

 潔く、認めよう。災厄を齎してでも人に忘れられたく無かった神は静かに瞼を閉じる。白銀の世界に身を投げ出し、その体を光の粒子と変えて、彼は骸の海へ還る。そして白銀の叢を揺らす風が、粒子の名残を跡形も無く浚っていった。

 紫翡翠を中継役に操られていた農民兵もだんだん意識を取り戻し始めたようだ、密集した陣形を突破しようとした猟兵たちの攻撃によって受けた負傷の激しい者もいたが、概ね無事であるらしい。
 白銀色の関ヶ原を清々しい風が吹き抜ける。脅威が一つ討ち払われたことで幕府軍も無事にこの関ヶ原を抜けることが出来ただろう。エンパイアで続く戦いにもいよいよ最終局面が近付いているのを感じ取ってか、猟兵たちは南の方角へ目を向ける。

 首塚の一族と目指す島原・魔空安土城。そこに何が待っているのだろうか、少なくとも、強敵がいることだけは確かだろう。
 だがしかし、彼らはきっと世界の危機を打ち砕く。誰もがそう信じている。

 神へ願う必要もないほどに、それは確かな未来であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月20日


挿絵イラスト