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エンパイアウォー⑰~水晶屍人の王

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #安倍晴明

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「この世界がよく『似て』いる、か……ちっ、嫌な言い方だな」
 グリモアベースの片隅で、不意に襲ってきた軽い頭痛と、その向こうに見えた光景に、北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が舌打ちを一つ。
 優希斗の様子が気になったのであろうか。
 気がつけば、猟兵達が優希斗の周りに集まっていた。
「ああ、皆か。漸く、と言うかやはりと言うか……織田信長軍が将が一人、陰陽師『安倍晴明』が何処にいるのかが分かったよ」
 何処か暗澹とした表情で、優希斗が告げる。
「安倍晴明は、サムライエンパイアを『似て』いるといった。何のことを言っているのかは分からないし、聞いた所で決して口を割るとは思わないが……そもそも、水晶屍人を作成して徳川軍を襲わせたり、一般人達を餓死させて、生き残った者を水晶屍人と言う形で利用する鳥取城餓え殺しの様な暴虐を行なうオブリビオンだ。放置しておく事は出来ない。だから皆には、安倍晴明を倒すべく現場に向かって欲しい」
 苦渋の表情を浮かべる優希斗の言葉は、何処か迫真に迫っていて。
 そこにある不退転の決意を読み取った猟兵達が、其々の表情で静かに頷く。
 その様子を見た優希斗が小さく頷くが、程なくして一つ息を吐き話を続けた。
「安倍晴明は、皆よりも必ず先にユーベルコードによる攻撃を仕掛けてくる。だから、最初の一打をどうやって躱し、それからどうやって対抗して攻撃を仕掛けるのか、それをよく考えて行動を起こして欲しい。……これまで強大なオブリビオン達を退けた皆だ。恐らく十分な対策を考えることが出来るだろう」
 信頼を籠めた眼差しでそう告げる優希斗だったが、但し、と表情を曇らせながら忠告を一つ。
「俺もぼんやり感じている安倍晴明の言葉に対する違和感……これには決して触れるな。そもそも安倍晴明が口を割らないだろうし、正直な話、その言葉の意味を問いかける程の余裕が強敵である安倍晴明との戦いである筈が無いからね」
 そこまで告げたところで、小さく息を一つつく優希斗。
「……とにかく安倍晴明の初撃を如何にして防ぎ、そしてどう反撃して安倍晴明に一矢報いるか……それを積極的に考えて行動して欲しい。……安倍晴明の言っている『業(カルマ)』の蒐集等、気になることはたくさんあるとは思うけれどね。ただ、そう言った事については聞いたところで情報を得られないと割り切り、彼を倒すことに全力を注いで欲しいんだ」
 それ程までに、安倍晴明との戦いは厳しいという事だろう。
「自分達の感情を制御して、如何に安倍晴明の攻撃に対策を講じ、そして反撃をするのか……もしかしたら難しいことかも知れないが、皆であれば大丈夫だろう、と俺は思う。……どうか皆、宜しく頼む」
 優希斗の言葉に背を押され。
 猟兵達は、グリモアベースを後にした。


長野聖夜
 ――屍人の王を葬るために。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 と言う訳で、有力敵、安倍晴明との直接対決シナリオをお送り致します。
 尚、オープニングでも説明させていただいておりますが、今回は何らかの情報収集を行おうとする事は完全にNGです(但し、心情として描写して欲しい方がおりましたら、その旨をプレイングに入れて頂ければ考慮は致します、がその分、より高い難易度で戦闘を行っているとして判定致します)
 今回のシナリオは、下記2点のルールが適用されます。
 1.このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 2.陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
 尚、戦場は『戦国時代に鳥取城で餓死した人々の怨念が渦巻く、鳥取城』となります。
 また、判定の都合上、基本的に1VS1でのリプレイのお返しになる予定です。
 連携が欲しい方については、『連携可』である旨、明記して頂けますと幸甚です。
 この場合、凡そ2~4名の連携の結果で判定し、リプレイをお返しすることになるかと思います。
 プレイング受付期間及び執筆期間は下記の予定です。
 プレイング受付期間:8月14日(水)8時31分以降~8月15日(木)16時頃迄。
 リプレイ執筆期間:8月15日(木)~8月17日(土)。
 プレイングは、上記リプレイ執筆期間が入る様、お送り頂けますよう、お願い申し上げます。

 ――それでは、良き屍人王との戦いを。
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第1章 ボス戦 『陰陽師『安倍晴明』』

POW   :    双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:草彦

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ウィリアム・バークリー
安倍晴明、陰陽師、と。あまり昔の人らしさは感じませんね。
魔法騎士ウィリアム・バークリー、参ります。

そちらが水晶屍人の群を押し立ててくるなら、ぼくはActive Ice Wallで侵攻を阻みましょう。
極論、ぼくの周りを氷壁で固めて、水晶屍人が入ってこれなくすればいい。
どれだけの数を繰り出してくるか知りませんが、ぼくの氷盾も数なら負けません。

その間に「全力魔法」「高速詠唱」氷の「属性攻撃」のIcicle EdgeとElemental Cannonを連射して安倍晴明を少しでも傷つけます。

水晶屍人が邪魔なら、「範囲攻撃」氷の「属性攻撃」のFreezeで対処。
チェーンソー剣、五芒業蝕符は氷盾で受けます。




(「安倍晴明、陰陽師、と。あまり昔の人らしさは感じませんね」)
 周囲を包み込む無数の怨念に鳥肌が立つ思いをしながら、ウィリアム・バークリーは内心でそう思う。
「噂をすれば、件の猟兵が現われましたか」
 それは何かに飽き、そして倦んでいる者の様に。
 興味があるのか無いのか分からぬ表情と口元に嫌な笑みを浮かべて問いかけてくる安倍晴明。
 その両の手に握るチェーンソー剣が、まるで新しい玩具を手に入れた悦びを表わすかの様に激しく振動を始めるのに、背筋に冷たい汗が落ちていくのを感じながら、ウィリアムがルーンソード『スプラッシュ』を抜剣した。
「はい。魔法騎士ウィリアム・バークリー、参ります」
「然様でございますか。ですが私の見立てでは、貴方には私への憤怒や憎悪が感じられない。貴方の相手は、屍兵達で十分でしょう」
 自分が出るまでも無い、と言った様子で周囲に呼びかける様に、何かを紡ぐ晴明。
 晴明の呼びかけに応じる様に現われたのは、両肩の水晶に【1】と記載された、無数の簡易な武器や農具で武装した水晶屍人。
「……Active……」
 応戦する様に『スプラッシュ』の先端で青と深緑色の魔法陣をウィリアムが描き出すよりも速く。
 水晶屍人達が、一気呵成に襲いかかってきた。


(「例え量産された相手であっても、個々の実力が決して低いわけでは無い。詠唱速度も考えると、Active Ice Wallは相性が悪かった様ですね……!」)
 飛びかかられるよりも僅かに速く詠唱を完成させ、無数の氷塊の盾を自分の周囲に展開させたウイリアムだったが、水晶屍人達による間断ない波状攻撃に、次々に砕かれる氷塊の盾の有様を見て、思わず舌打ちを一つ。
 氷塊の数は、確かに無数。
 だが、呼び出された水晶屍人達の超高速の連続攻撃の前では、無数の氷塊の盾達はあまりにも頼りなく、まるで薄紙の様に次々に斬り捨てられ蒸発していく。
 自らの周りを覆っていた筈の氷塊の盾達が粉砕されていく様は圧倒的で、その事に戦慄しながらもウィリアムは氷塊の楯を突き崩した水晶屍人の内の一体が振り下ろした鍬を前に倒れ込む様に屈んで転がり回って避けながら、口の中だけで素早く呪を紡いだ。
(「いつもの様に魔法陣を作り出す余裕は無い。ならば……」)
「……Icicle Edge!」
 左指だけを晴明に向けて突き出し、無数の氷柱の槍を解き放つウィリアム。
 普段の様な完全な詠唱ではなく、即興で呪を完成させて呼び出した200本の氷柱の槍が怒濤の如き勢いで晴明を貫かんと襲いかかるが、未だ健在の水晶屍人達がそれらの攻撃を盾となって防ぎきった。
「故事に、策士、策に溺れるとはありますが……今の貴方は正しくそれですね。意表を突いたつもりだったのでしょうが、私の屍人達の前にそれは意味を成しません」
 右手で水晶屍人達を操りつつ、左手で五芒星を描き始める晴明。
 そこに周囲を漂う怨念達が収束されていく様を見てウィリアムは顔色を変え、『スプラッシュ』の先端を晴明に向けて縺れそうになりながらも、術を紡ぐ。
『Elemental Power Converge……Release. Elemental Cannon……』
『スプラッシュ』の先端が生き物の様に動き、積層型立体魔法陣による魔力収束式仮想砲塔を完成させるのを見て、微かに興が乗ったかの様に口元の嫌な笑みを深める晴明。
「少しは退屈しのぎになるかも知れませんね。どうぞ、来て下さい」
『…… Fire!』
 ウィリアムの詠唱の完成に合わせる様に晴明が左手で描き出し、五芒星の中央に一点を入れた魔法陣を解き放つ。
 火と氷。風と地。光と闇。
 相反する精霊達をぶつけ合い、強制的に融合させて解き放つそれは、晴明の描き出したセーマン印の五芒星と、術の形式こそ違えど、本質的に何処か似通っている。

 ――それは即ち、強大な魔力と魔力が直接的にぶつかり合うという事。

 そして、そう言った魔力の衝突で勝利の女神が微笑むのは……。
「うぁぁぁぁっ!」

 ――根本的な力において、上回る側に向けてだ。

 それは、晴明にとっては当然の理。
 解き放たれた五芒星に収束された怨念と、その怨念達を力へと変えた魔力の大爆発に耐えきれる筈も無く、壁に向かってウィリアムが吹き飛ばされ、激しく激突して、その場で意識を失う。
 一方、融合爆発を起こした魔力に体を嬲られ、僅かに体に火傷を作っている晴明は、余裕の態度を崩さない。
「これが猟兵の怒り、でしょうか……。ですが、まだまだの様ですね」
 そう涼やかに述べる晴明の口元には、悪意の籠もった笑みが閃いていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

白石・明日香
事前にペイントボール複数用意。
連携、アドリブや他の方との絡みは大歓迎です。
初めまして、セイメイ。そしてさようならだ!
戦闘知識、見切り、ダッシュをフルに生かしてセイメイに近づく。
こいつの剣二振り躱さなければいけないのが面倒だよな。片方の斬撃は怪力で武器受けして受けとめ、もう片方の攻撃が来る前に相手の顔面にペイントボール投げつけて目つぶし!少しでも怯めばよいので怯んだら受けた武器を押し返しながらもう片方の斬撃も回避。それが無理そうなら怪力任せで受け止めた武器諸共薙ぎ払ってもう片方の攻撃を迎撃する。
ダメ押しで膝裏から踏みつけて膝カックンさせてやる。回避成功したら全力で攻撃して逃げる。無理なら相打ち




「……どうやら、次の猟兵が来た様ですね」
 近くに現われた猟兵の気配を、感じ取ったのだろうか。
 クルリ、と余裕の態度で後ろを振り向く晴明に向かって、白石・明日香が全てを食らうクルースニクの剣先を突きつけている。
「初めまして、セイメイ。そしてさようならだ!」
 晴明について先の戦いで得られたと思しき情報を確認しながら、ダッシュで肉薄しようとする明日香。
(「こいつの剣……二振り躱さなければいけないのが面倒だよな」)
 そう思いながら、一気に肉薄する明日香に向けてギィィィィィィィ! と嫌な音を立てながらチェーンソー剣が襲いかかってくる。
「先程の術士よりも、動きが鈍すぎますね」
「ちっ!」
 チェーンソー剣の軌道を読み、咄嗟に全てを食らうクルースニクに自らの膂力を乗せてその一太刀を受け止めるが、軽々と振るわれたにも関わらず、あまりにも重いその一撃が右腕を通じてジン、と伝わり、表情を苦痛で大きく歪める明日香。
 それでも左手で懐にしまったペイントボールを用意しようとするが、既にその時には、大量の呪詛をその刃に纏った左手のチェーンソー剣が生き物の様に不気味な蠢きと共に、逆袈裟に明日香に向けて振るわれていた。
「……嘘だろ?!」
 遅まきながら、明日香は自分の戦い方が大きく間違っていたことを悟り、ギリリ、と思わず歯軋りを一つする。
 もし、ヴァンパイア化を予め行う事が出来たのであれば、常人では決して届くことの無い膂力と、自ら鍛えた怪力を頼みにして初手の一撃に耐え抜き、次手を踏む一瞬の隙をついて、ペイントボールを投げつけて目眩ましを行なう事の出来る僅かな時間を稼ぐことが出来たかも知れない。
 だが……そもそも初撃に関して言えば晴明の方が圧倒的に速く、ヴァンパイア化も行う事が出来ないのだ。
 その様な状況で彼の一閃を受け止めることが、出来る筈が無かった。
「グ……ハッ……?!」
 左肩から右脇腹までを深々と斬り裂かれ、傷口から大量の呪詛が忍び込み、明日香の全身を蝕んでいく。
 逆袈裟に斬り裂かれた体の内側の細胞を蝕まれ、徐々に、徐々に体の自由を奪われていく明日香。
「セイ……メイ……!」
 憎悪の眼差しを向ける明日香ではあったが、晴明は意に介する様子も無く、勝負は付いた、とばかりに呪詛の込めれたチェーンソー剣を引き抜き、初撃を放ったチェーンソー剣を袈裟に振るう。
 袈裟に振るわれた刃が、明日香の右肩から左脇腹までを斬り裂いた。
 ――ボタ、ボタ。
 大量の血液を地面に垂らしながら、明日香はぐったりとその場に倒れ込む。
「私の攻撃を受け止めようとしたのは見事ですが……貴方の力では、役者不足でした。正面から相打つにしても……もう少し手を考えてみるべきでしたね」
 その結果を当然の様に受け止め、冷静な眼差しを向ける晴明の言葉を聞き終えること無く、明日香の意識は、闇の底へと沈んでいった。

失敗 🔴​🔴​🔴​

鞍馬・景正
穿鑿の心無し。
ただ悪逆非道の魔性を討つ。

◆対POW
まずは初太刀を凌ぐ。
呼吸を落ち着け、【視力】を余さず晴明の全体と得物へ集中。

相手の歩幅と刀身の長さ、彼我の距離。
全てを計算に入れて斬撃の間合を【見切り】、己の【第六感】も信じて、打って来る瞬間を見極め。

攻撃が来れば【早業】の【武器受け】で刀を叩き付け、【怪力】による【鎧砕き】で刃鉄を食い込ませる。

そして即座に手を離し、身を低く突進して懐に侵入。

剣の命中した"対象"は私に非ず、私の握っていた刀。
それを囮に虚空を斬らせる間、刃の届かぬ腕の内側へ。

◆攻撃
上手く行ったらそのまま【乗打推参】にて拳を叩き付け、足払いで地に転がし、脇差を抜いて其の身を貫く。




 ――安倍晴明は発見された時、こう述べていた。
『この世界はよく「似て」おりますゆえ、「業(カルマ)」の蒐集も興が乗りませぬ』
 ――と。
 では……果たして、晴明の言の葉について、論じる必要はあるのかどうか。
(「――穿鑿の心無し」)
 そう胸中にて断じ、結論づけた者の一人が、鞍馬・景正である。
 ――悪逆非道の魔性、安倍晴明。
 かの者を滅する事、それこそが死して尚利用される死者達への手向けだろうと景正は信じている。
 ……故に。
「次の猟兵は……貴方ですか」
 晴明とその周囲を漂う無数の怨霊達の気を真正面から受け止めながら、景正は鞘に納まり、静かに『怒濤』の時を待つ、『静謐』なる濤景一文字の柄に静かに手を添えて、ただ、晴明の動きを具に探っていた。
 景正のその様子に、これまでただ飽和と戯れの海に思考を委ねていた晴明が、歪んだ口元の笑みを愉快そうな形へと変える。
(「寄らば斬る。そんな所でしょうか」)
 ――晴明は、敢えて動かない。
 だがそれは、景正も同じ事。
 互いに互いの手の内を読み合い、其々の一足一刀の間合いを取るために、静かにただ、その時を待つ。
 その中で、先に動いたのは……。
「行きますよ」
 ――陰陽師 安倍晴明。
 上段と下段にチェーンソー剣を構え、一足飛びに景正の距離へと潜り込み、景正の死角……即ち、下段左斜め下方から、チェーンソー剣を振り上げた。
 ――かの者の刃は、1にして2。2にして1。
 本来であれば死角となり、決して見切ることの出来ぬであろう、その一刀。
 だが……ぞわり、と首の後ろに不意に競り上がった嫌な予感と、練達の見切りによって迫り来る絶妙なタイミングを読み切った景正は、抜く手を見せぬ早業で、濤景一文字を抜刀、生来の羅刹としての膂力……それを更に磨き抜いた圧倒的なまでの怪力と、鞍馬家に伝わる刀技が一つ、鎧砕きの太刀で、振り上げられたチェーンソーに濤景一文字の刃鉄を食い込ませた。
 それはさながら堰き止められし川に穴が開けられ、怒濤の如き波と化して押し寄せるかの如く。
 ――キィィィィン!
 刃と刃がかち合い、澄んだ音が辺り一帯に響き渡る。
 その確かな手応えに晴明はほくそ笑み、同時に景正を嘲弄していた。
(「先の猟兵と同じですね」)
 技量、膂力においては比べるべくもない。
 だが……刃さえ食い込めば、本命の呪詛を帯びた第二の太刀を浴びせられる。
 そう狡猾に計算してが故なのだが……。
「元よりそれは承知の上。然れど、貴様が命中させた"対象"は私に非ず」
 景正のその言葉を裏付けるかの様に。
 晴明が大上段から振り下ろした呪詛を纏いしチェーンソー剣は、景正を捉えること無く、濤景一文字を打ち据えていた。
 何故なら……刃と刃がかち合い澄んだ音を立てたその瞬間には、景正は一切の躊躇いなく濤景一文字を手放していたから。
「な……何っ?!」
 さしもの晴明も表情を青ざめさせ、隠せぬ動揺故か、狼狽の声を上げる。
 晴明は一太刀を持って二太刀と為す双神殺の一撃で、景正を捉えることが出来なかったのだ。
「行くぞ」
 咄嗟にチェーンソー剣を引き次の攻撃に備えようとする晴明だが、その時には既に景正は晴明の懐に潜り込んでいる。
 それは、腕が伸張しきった晴明の虚を衝き、確かな一撃を与える格好のタイミングであった。
『御首級、頂戴する!』
 叫びと共に、晴明の鳩尾に向けて掌底を放つ景正。
 放たれたその一撃に、一瞬動きを鈍らせた晴明の足をすかさず掬って転ばせながら予備の愛刀、無銘脇差を居合いの要領で逆手に抜き放ち、その首へと刺突を放つ。
「……やりますね……」
 足払いで転ばされた瞬間、素早く受け身を取ってクルリとバク転を一つ決め態勢を整え直しながら、再び右のチェーンソー剣を振るった晴明の首こそ上げることは出来なかったが、無銘脇差による刺突は、晴明の胸に強かな一撃を加えていた。
 放たれた2度目のチェーンソー剣を咄嗟に屈み込んで躱しつつ、呪詛による一撃を受けて刃こぼれを起こした濤景一文字を素早く拾い上げ納刀する景正。
(「すまぬな、濤景一文字」)
 その間に、晴明が自らの胸から無銘脇差を力任せに引き抜きそのまま近くへと放り投げた。
「……これ程の手傷を負わされるとは思いませんでしたよ」
 それでも尚、チェーンソー剣を構え直す晴明を見て、景正が息を一つ。
(「無銘脇差も、濤景一文字も限界か。これ以上の攻撃は無謀であろう」)

 ――優れた剣士とは、決して引き時を見誤らない。

 それが分かっているからこそ、景正は素早くその場を離脱した。
 此処から先の道を繋げる者が必ず現われる。

 ……それを、知っていたのだから。
 
 

成功 🔵​🔵​🔴​

薬師神・悟郎
安倍晴明の言葉を理解しようと思うか?
…無理だ
俺にはチャンスを待ち祈るぐらいしかできん

第六感、野生の勘で先制攻撃を見切り
早業、フェイント、残像で攻撃をおびき寄せて回避
回避不可と判断すれば無理に受け止めずカウンター、咄嗟の一撃で受け流す

幾つもの耐性とオーラ防御で備え同時にUC発動
早業、ダッシュ、スライディング、地形の利用でチェーンソー剣を躱し接近
暗殺、毒使い、マヒ攻撃で傷口をえぐる

敵の攻撃は第六感、野生の勘で見切り
吸血、生命力吸収、2回攻撃等で途切れぬよう攻撃

戦闘時は自身の状態を常に把握、医術
これ以上の接近戦が難しいと判断した場合は安倍晴明を吹き飛ばし
地形の利用、逃げ足で距離を取り体勢を立て直す




『安倍晴明』の言葉を理解しようと思うのか?
(「それは……無理だ」)
 他の猟兵と同じく薬師神・悟郎はその結論へと辿り着いていたが、答えに辿り着くまでの思考過程は、他の猟兵とは少々異なる。
 悟郎の場合、それは安倍晴明の言葉ありきでは無い。
 正直、そんな事にまで気を巡らしている程余裕が無い、と言う現実が眼前として存在している。
 故に悟郎にとってそれは、当然の論理の帰結であり結論であった。
(「俺に出来ること、それは……」)
 ――その機を伺い、そのチャンスを掴み取るために祈ること。
 ただ……それだけだった。


「ぐっ……」
 穿たれた胸の傷が最初の戦いで負った火傷と重なり合い、ほんの微かな苦渋の表情を晴明に浮かべさせていた。
 だが、それでもまだ、彼の優位は崩れていない。
 そう胸中で結論づけているからこそ、次に現われた悟郎の姿を認めても、晴明は余裕の笑みを崩していなかった。
「次の相手は……貴方ですか」
「ああ、そうだ」
 双神殺と名付けられし2本のチェーンソー剣を構え直した晴明の立ち居振る舞いにまだ余裕があることを悟りながら、悟郎は静かにその時を待つ。
「その立ち居振る舞い、忍びと言った所ですか。まあ良いでしょう。この神殺しの剣で、バラバラにして差し上げます」
 呟きながら、晴明が戦場を疾駆する。
 猪突猛進にも見えるその動きに捕らえられぬ様、周囲の地形を野山を駆けまわるかの如く走り回り、残像を曳いて、自らの必殺の間合いへと着実に誘き寄せる悟郎。
 黒衣【蝙蝠】の裾をチェーンソー剣が掠めたのに冷汗を垂らしながら、漆黒のオーラを身に纏って障壁と化させ、自らの瞳を深紅へと染め上げヴァンパイアへとその姿を変貌させる。
 二撃目の呪詛を纏ったチェーンソー剣による一撃を辛うじて逃れ得て、この姿と化すことが出来たのは、僥倖と言う他無い。
(「或いは……」)
 先の戦いの一撃で負った傷が、それ程までに深手であったか。
(「だが、そこに付けいらない理由は無いな」)
 懐に携帯した、苦無【疾風】と苦無【飛雷】に祈る様にそっと触れながらヴァンパイアと化す悟郎。
 そのまま、人智を越えた力を発揮して全身に負った火傷と、取り分け先の戦いで穿たれていた深い胸の傷口を抉るべく肉薄、その胸の傷に向けて苦無【疾風】を躊躇いなく突き出す。
「狙っている箇所が分かれば、対処もし易くなると言うものですよ」
 だが、悟郎がその攻撃を届かせるべきと判断していた箇所は、狙われれば致命打になり得ると言う事を、晴明もまた理解していた部分であった。
 そこで苦無【疾風】による一撃を敢えてその身を晒して受け止め、代わりに悟郎の腕を掴み取る。
「ぐっ……?!」
「これでちょこまか動くことは出来なくなりました。それでは、反撃といきますしょうか」
「そういうわけにはいかないのだ!」
 咄嗟に晴明の腹部に向けて蹴りを叩き付け、強引に晴明との距離を取るべく後退する悟郎。
 ヴァンパイア化による代償であろうか、その瞳から血の涙を滴り落としながらも放たれたその一撃は、晴明に強かな一打を与え、そこに更に苦無【飛雷】を投擲し、少しでも負傷を蓄積させるべく攻撃を仕掛ける。
 晴明は、苦無【飛雷】がその肩に突き刺さる痛みに微かに顔を顰めながらも、右手のチェーンソー剣を横薙ぎに振るった。
 ――パリィィィンン!
 振るわれた刃が、甲高い音と共に悟郎の張った漆黒の結界を打ち破ってその胸を強かに斬り裂き、続けざまに放たれた左のチェーンソー剣が、悟郎の体を袈裟に斬り払い、その身を呪詛で蝕んでいく。
「ぐっ……!」
 訓練で得た呪詛耐性で何とか踏み留まりつつ、忍刀【烏羽】に手を滑らして抜刀、肉薄して袈裟に晴明を斬り裂き、一撃を与えるが決定打にはなり得ない。
「では……もう一太刀いきますよ」
 晴明の言葉に危機を察し、チクチクと突き刺す様な痒みを首元に覚えた悟郎が晴明の胸に突き刺さった苦無【疾風】を引き抜きながら後退する。
 晴明の右肩に突き刺さっていた苦無【飛雷】に塗られた麻痺毒の甲斐もあってか、何とかその一撃は躱すことが出来たが、先の一撃を加えた時の呪詛の周りが激しく体を蝕み、更に自らの動きが鈍くなっていくのを悟郎は感じた。
(「……限界か」)
 そう胸中で結論づけ、これ以上の攻撃を中断し、周囲の瓦礫を蹴り上げて目眩ましとし、速やかにその場から撤退する悟郎。
 晴明はそれを追撃すること無く、次に来るであろう猟兵に備えて、戦いの準備を着々と整えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

文月・統哉
安倍晴明か
陰陽師といえば呪符でも放つかと思いきや
チェーンソー二刀流とはな
搦手でない分マシかもしれないけど
その分破壊力は大きそうだし厄介には違いないか
でも一撃目さえ回避できれば連撃は避けられる見込みはある
そこに糸口がある筈だ!

戦場に入ったら瞬時に【情報収集】と状況分析
先手を取られるのは勿論承知の上だ
武器に着目し動体【視力】と【第六感】で攻撃動作を【見切り】
『ワイヤーを絡ませる【武器受け】』に見せる【フェイント】実行
ワイヤーと【残像】を残し素早く後方に退いて
初撃を何としても回避する

UC『着ぐるみの空』発動し自己強化
【カウンター】から大鎌で【なぎ払い】雷の【属性攻撃】を

あくまでも冷静に
確実に倒す為に




(「安倍晴明、か……」)
 着実に負傷を蓄積しながらも、尚倒れる気配を見せず此方を振り向き、二刀のチェーンソー剣を構える晴明の様子を見ながら、文月・統哉がふと思う。
「どうやら余程私に斬り刻まれたい方がいる様ですね」
「斬り捨てられるつもりは無いが、ちょっと安心したんだよ」
 ――少なくとも、相手は絡め手ではない。
(「とは言え破壊力については折り紙付だ。厄介なのは間違いない、か」)
 気を取り直して周囲の地形の情報や、敵の戦闘情報を集積していく統哉。
 そうして、統哉の中で出た結論は……。
(「一撃目さえ回避できれば、連撃は避けられる見込みはある。……そこに糸口がある筈だ!」)
 ――それは、先の猟兵達と晴明との戦いの様子を周囲を確認して見て取り、認識した答え。
 だから、統哉は己が意志の力を絶やすこと無く晴明の出方をじっくりと伺っていた。
 ――あくまでも冷静に、確実に倒すためにも。
 統哉の様子を伺う様にちらりと目線を送りながら、右肩と胸の刺し傷を指でなぞるり、そうですね、と一つ頷く晴明。
「確実に私に傷は蓄積してきている様ですね。これは、早目に決着を付けるべきでしょう」
 その答えを胸に抱いたまま。
 だっ、と餌を前にした虎の様に猛進しながら統哉へと左のチェーンソー剣を構える晴明。
 その構えから次に来るのは袈裟斬りだと判断した統哉が、制服の裾に仕込んでいたクロネコワイヤーを取り出し、自らの手に絡みつける。
 先端に猫の爪形フックのついたそのロープは、如何にも晴明のチェーンソー剣を絡め取る機会を、虎視眈々と狙っている様に晴明には思えた。
(「ですが……その考えは甘い、甘すぎますよ猟兵」)
 ロープに最初の一太刀が絡め取られてしまえば、それを『一撃目』として、本命の呪詛と怨霊達を這わせた『二撃目』を叩き付けることが出来る。
 それだけの事をやってのける実力も自負も、晴明には存在していたし、事実それは成功しただろう。
 ――そう、もし……。
「――よし! クロネコ・レッド、見・参!」
 統哉が、本当にそれを狙っていたのだとしたら。
 晴明がこの時、2つの事に驚愕していた。
 1つは、統哉の持つクロネコワイヤー事、自らがチェーンソー剣で斬り裂いたのが、人形の様に統哉が置いた残像であった事。
 そして、もう一つは……。
 天空から、何となく一寸目つきの悪いクロネコの着ぐるみを着た赤いマフラーの青年統哉ことクロネコ・レッドが、暗闇の中で満天の宵闇の如く美しい淡い煌めきを刃が発する漆黒の大鎌、『宵』に美しい弧を描かせて薙ぎ払う様に晴明事周囲一帯を斬り裂いていたから。
(「上……ですか。してやられましたね」)
『宵』に纏われた宵闇の如き美しく淡い輝きは、宵闇の中で光り輝く夜空を、或いは、空を覆った雲を斬り裂く雷の申し子の様に晴明には思えた。
「くっ……」
 咄嗟に体を傾け、頭と首と言った急所への攻撃を避けきり、チェーンソー剣を十字に構えて『宵』を受け止めようとする晴明。
 だが、完全にその威力を削ぎ取りきること叶わず、左肩から胸、右肩に掛けてまでをギャリギャリと言う嫌な音と共に斬り裂かれ、同時に放出された雷に全身を痺れさせられてしまう。
「ぐ……グゥゥゥ……!」
「どうだ、安倍晴明! これが、クロネコ・レッドの力だ!」
 首に巻かれた赤いスカーフが風に靡いてフワリと赤い妖精の様に舞う様を見せつけながら、キリッ、と決めポーズを取る統哉。
 それから統哉は、仲間達による波状攻撃を狙い、素早くヒットアンドアウェイでこの場を離脱したのだった。 

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
抱えている事情…そんなことは今は関係がありません
各地で発生した水晶屍人とそれによって齎された悲劇。安倍晴明、貴方を相手どるには十分すぎる理由です
その所業、騎士として阻ませて頂きます

…ですが相手は格上、取れる手を取らねば勝機はないでしょう

チェーンソーの初撃回避に注力
センサーでの●情報収集により、接近し剣を振るう速度、タイミングを●見切り、格納していたワイヤーアンカーを足に絡める●だまし討ち
●怪力と●ロープワークで引っ張り転倒させ初撃を失敗させます
相手のUCは初撃を当てねば二撃目を放てないことを指摘しつつ、両手を●踏みつけ実証
UCを封じた上で水晶の身体を●鎧砕き●シールドバッシュで只管殴打します




 ――人は、其々に抱えている事情がある。
 それは、オブリビオンも同じであろう。
 そう……この安倍晴明も。
 ――けれども。
「抱えている事情……そんなことは今は関係がありません」
「私の業(カルマ)の蒐集の事ですかな?」
 抉られ、貫かれ、斬り裂かれた自らの体を何処か不満げに見つめながら。
 それでも尚光沢を失わぬ二刀のチェーンソー剣を構え直す安倍晴明のコトリ、と首を傾げて問いかけてくるその姿に、トリテレイア・ゼロナインが甲冑を模した超重装甲と共にある、偽装騎士兜の奥で煌めく翡翠の電子眼で睨付けながら一つ頷く。
「各地で発生した水晶屍人とそれによって齎された悲劇。安倍晴明、貴方を相手どるには十分すぎる理由です」
「貴方方には分からないのでしょうね。私の目的など」
 興が乗らない様に呟く晴明の問いには答えず、儀礼用長剣・警護用を構え、騎士の礼を取るトリテレイア。
 ――例えどんな相手であったとしても、戦いの前には正々堂々と名乗り、騎士の礼を取る。
 それもまた、トリテレイアの知る騎士道の一つ。
「トリテレイア・ゼロナイン。その所業、騎士として阻ませて頂きます」
 その騎士の礼に、口元に皮肉げな笑みを浮かべる晴明。
「少し興が乗りました。陰陽師・安倍晴明です。それでは……参ります」
 ただ、短くそれだけを告げて。
 晴明は二刀のチェーンソー剣を構え、トリテレイアに向けて駆け出した。


(「……相手は格上、取れる手を取らねば勝機はないでしょう」)
 身を低くして猛虎の様に一気に間合いを詰めてくる晴明の様子を見ながら、トリテレイアは冷静に状況を分析する。
 ――熱。
 ――音。
 ――振動。
 それらを初めとする、ありとあらゆる動きを全身に装備された高感度マルチセンサーで読み取り、改めて晴明の放とうとする剣速を自らのコアユニットで解析するトリテレイア。
 それは、高度な情報収集を伴う見切り。
 先の戦いの中で他の猟兵達が取った行動と同様のものだ。
 トリテレイアはそれらの情報を読み取った上で、儀礼用長剣・警護用で晴明から死角から逆袈裟に振るおうとしていた最初の一打を受け止めようと……。
「安倍晴明。あなたの技には弱点があります」
 ――しなかった。
 ただ、淡々と弱点があることを指摘しながら、トリテレイアは追加格納装備用ハードポイントの一つワイヤーアンカーを射出し、肉薄して今正に刃を振り下ろそうとした晴明の足を絡め取った。
 そのままウォーマシンとしての動力を全開にして晴明を引き上げそのまま地面に叩き付ける。
「成程。最初の騎士の礼も、正々堂々とした振る舞いも、全てはこのための伏線でしたか」
 ――ガツン!
 背中を強打した強い衝撃にガボッ、と水晶色の血を吐き出しながら、何処か納得した様に呟く晴明の問いに答えること無く、トリテレイアは淡々と言の葉を紡ぐ。
「先程の話の続きです。安倍晴明。あなたのその技の弱点は、初手を無力化されれば二撃目を放つ事が出来ない事です。それは、あなたが一番よく分かっていることでしょう」
「……その通り、と言うしかありませんね」
 トリテレイアの言葉による証明を裏付ける様に。
 トリテレイアの腰装甲からワイヤー制御用の隠し腕が飛び出して、晴明の体に掴みかかる。
 足を取られ、身動きが取れなくなった晴明にそれを躱す術は無く、為す術も無くその腕に掴み取られ、純白の特殊電流を解き放たれる晴明。
「ぐっ……ぐぅ……!」
「ユーベルコード封印確認。最大稼働時間180秒。今の内に削れるだけ削らせて貰います」
 状況を有利に運んだトリテレイアがすかさず接近、儀礼用長剣・警護用の平と、重質量大型シールドを振るい、問答無用で晴明を殴りつける。
 全身を火傷し更に胸や左肩に貫かれた刺し傷、そして左肩、胸、右肩に向けて斬り裂かれた傷という罅の入った晴明の全身を砕くべく容赦なく殴打するトリテレイア。
 自らのユーベルコードを封じられた晴明は、一先ずチェーンソー剣でワイヤーアンカーを断ち切って大地を蹴って強引に宙を舞い態勢を整えながら、チェーンソー剣で辛うじてトリテレイアの攻撃を受け止めるが、全身にきている負傷の蓄積は、容易に癒えそうに無い。
 増してやトリテレイアの攻撃は、斬るでも、刺すでも無く、叩き砕く、だ。晴明の体に堪えない筈が無い。
 何とか180秒間それらの攻撃を受けきるが、それでも体の彼方此方に罅が入りつつあった。
(「180秒……これ以上攻撃を仕掛けるのは危険ですね」)
 それでも尚、襲いかかろうとする晴明の攻撃を脚部格納型スラスターを吹かして大地を駆け抜けて躱し、そのまま戦場を離脱するトリテレイア。

 ――安倍晴明との戦いは、佳境へと確実に近付いていく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可
度重なる予知で精神は限界寸前

こいつが、こいつが…っ!
生者と死者の尊厳をありったけ踏み躙ったのか

こんな濃密な死の空気、彼女たちに触れさせたくない
でも、力を借りないと…

…ごめん
弱い僕を、許して

あえて召喚された水晶屍人の真正面から突っ込む
接敵寸前に【魂魄解放】発動
「先制攻撃、地形の利用、視力、第六感、ダッシュ、ジャンプ」+高速移動で
身を小さく屈めて屍人達の隙間を縫うように
もしくはジャンプで頭上を飛び越えて駆け抜ける

晴明に辿り着いたら
「2回攻撃、怪力、生命力吸収、範囲攻撃」+衝撃波で
追いかけてきた水晶屍人ごと薙ぎ払う

一片たりとも残しておくものか!
この鳥取の地に沈め…!


郁芽・瑞莉
「持ち帰る」ですか……。
経験?知識?それとも何かの物?
ただ分かるのは言葉を用いたオブビリオンは強敵という事。
今は眼前の敵に集中です!

清明の一撃目さえ躱せば!
動きを味方の攻撃から情報収集し、
戦闘知識から動きの癖を見切って。
城の地形を利用して高低差や城壁で斬撃を制限。
危険を察知する第六感を澄ませて。
危険を感じた場所にドーピングからのダッシュで
残像・迷彩のフェイントで身体が斬撃分残る様に動いて。
斬撃が逸れたら内に溜めていた破魔の力と剣の封印を解いて、UCで変身。
後先考えない捨て身のカウンターの2回攻撃。
一撃目は水晶を砕くなぎ払い、
早業の二撃目で砕いた水晶の防御を無視し串刺し、
衝撃波も叩き込みます!


ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携歓迎

奴の言う事は確かに気になるが…
この世界を守る事よりも重要なことはあるまい

フランマ・スフリスが纏う炎で牽制
敵のUCを警戒して、目を離さずに動く
敵の双神殺が発動されたら見切り
こちらもUCをカウンターで発動
蝙蝠達の牙をチェーンソー剣に当ててこちらへ命中させるのを防ぐ

生きることに飽いたというのであればその生を終わらせてやろう
貴様はこの世界にとって、猛毒以外の何物でもない

蝙蝠達が攻撃を逸らした隙を突き
フランマ・スフリスで串刺しにして一時的に相手の動きを止めたら
再度UCを放ち攻撃
蝙蝠達の牙と燃え上がる炎で敵を攻撃する

この世界を蹂躙するというのならば我々はただ討つだけだ
貴様が何者であろうとな




 ――どっくん、どっくん。
(「こいつが、こいつが……!」)
 その全身から漲らせるのは、殺意と憎悪の入り乱れし感情。
「負の想念、とでも形容すべきでしょうかね」
「黙れ! 晴明、お前が、お前が、生者と死者の尊厳をありったけ踏み躙った諸悪の根源! 人類の、俺達の天敵、オブリビオン!」
 ――ギシ、ギシ。
 椅子が軋む様な嫌な音が、脳裏を過ぎる。
 それはまるで、自らの精神が脆く儚い硝子細工の様に砕けてしまいそうな状態であることを、己が無意識が告げた警告であろうか。
 真偽の程は分からないままだが……少なくとも、憎悪の塊と化した館野・敬輔の精神状態は、死者を弄び、生きることに倦み、飽いたと自ら称する安倍晴明をもってしても、負の想念と言わしめた事は、逃れ様の無い事であろう。
 身の毛もよだつ様な、濃厚な死の空気に軽い寒気を敬輔が覚えたその間に、晴明が、水晶屍人達の群れを召喚する。
 水晶の両肩に【1】と描かれた水晶屍人達の姿を見て、何の小細工も無く真正面からただ、背のみを低くして黒豹の如く突進する敬輔。
 そして、彼等と接敵する寸前……。
(「……ごめん。本当は皆にこんな空気を味わって欲しくない。けれども、ぼくは弱い」)
 ――だから。
(「……皆の力を、ぼくに貸して」)
 そう黒剣の中の『彼女』達に謝罪するのは、まだ自らが正気であるが故だろうか。
 呼びかけに応じた彼女達の抱えていた感情と同調し、思わず目を見開く敬輔。
 彼女達が水晶屍人達に抱えていた感情、それは……。
「お願い……これで眠って!」
 ――憐憫。
 黒剣に纏われた白い靄達が伴ったその感情を黒剣に乗せて、死者達の怨念を断ち切る浄化の刃と化させて鋭い斬撃の衝撃波を叩き付ける敬輔。
 だが、その間に……。
「遅いですよ」
 安倍晴明は、既に自らのチェーンソー剣を振り上げ、敬輔に迫っていた。
(「……しまった!」)
 肉体よりも精神的に深い疲労状態にあった敬輔の反応が一拍遅れ、その一太刀を真正面から浴びせられようとした、その時。
『古き血で繋がれた眷属達よ、混沌の扉を抜け、我の前に立つ愚かな敵を喰らい尽くせ!』
 その場にいる猟兵達に何処か安心感を与える深く重厚な声音が戦場一帯に轟いた。
 異端の血を求める炎を発する浄化の剣……フランマ・スフリスから解き放たれた焔と、その焔を纏い、安倍晴明の初太刀を受け止める、鋭く大きな牙を持つ巨大蝙蝠の群れ。
 その蝙蝠の群れが、誰のものであるのかに気がつき、敬輔が思わず其方を振り返ろうとしたその矢先、蝙蝠達によって軌跡を逸らされたチェーンソー剣を飛び越える様に、上空から無数の残像と共に現われたのは、天女の如き衣を纏い、十束剣を振るう気高き戦乙女。
 目にも留まらぬ早業で解き放たれた十束剣による袈裟の一撃が、今までの戦いで晴明に蓄積していた傷口を的確に抉り、続けざまに敬輔の背後から、銀の流星の如く晴明に躍りかかり、『異端』たる安倍晴明を貫くべく放たれたフランス・スフリスによる刺突が、晴明の胸に大きく空いていた刺し傷を更に穿った。
「危なかったね、敬輔!」
「その様な精神状態で、態々一人で挑む必要など何処にもないだろう。蛮勇と勇敢は異なるものだぞ」
「瑞莉さんに……ボアネルさんか……!」
 寿命が削れてきているのだろう。
 口元から血を滴らせながらも、ニッコリと太陽の様に明るい笑顔を向けてくる郁芽・瑞莉と、共に戦うことがさも当然と言った表情で諭すボアネル・ゼブダイの姿に、敬輔の体にジワリとした熱が込み上げてくる。
 或いはそれは、『彼女』達の想い故かも知れないが。
「……お仲間が増えましたか」
「正直に言えば安倍晴明、お前の言う事に少し興味はある」
 瑞莉に斬り裂かれ、ボアネルに穿たれた傷口を水晶化させて無理矢理修復を行ないつつ、二刀のチェーンソー剣を構え直す晴明の様子を見ながら、フランマ・スフリスを青眼に構え呟くボアネル。
「確か、『持ち帰る』だったっけ?」
 ――それは知識なのか、経験なのか。それとも……別の何かなのか。
 瑞莉の疑問と呟きは、晴明に問いかけている、というよりはボアネルの言葉を確認しているかの様にも見えた。
「興味があるのでしたら、お聞き下されば良いものを。もしかしたら教えて差し上げることが出来るかも知れませんよ?」
「お前には残念な話かも知れないが、私達にはお前の言っていることよりも遙かに大事なものがあるのでな」
 ボアネルの返答に、微かに興味を抱いたのであろうか。
 晴明が口元を笑みで綻ばせながら、静かに問いかけた。
「冥土の土産です。……聞いて差し上げましょう」
「それは、この世界をお前達から守ることだ。最も……これを冥土の土産として聞くのがどちらかは、定かでは無い話だがな」
「最初の一打は、ボアネル達の力と今まで皆が集めてきてくれた情報のお陰で避けきれた……後はただ安倍晴明、あなたを斬るだけだよ!」
 口元に笑みを綻ばせたボアネルが告げながら青眼に構えたフランマ・スフリスを大上段へと持ち替えて戦場を疾駆するのに合わせて十束剣を腰だめに構えて捨て身の構えを取った瑞莉がそれに続く。
「水晶屍人達は引き受ける!」
 状況からそれが最善と見て取ったか、敬輔が白い靄達を纏った黒剣を大地に突き立ててそれを擦過、三日月型の斬撃と変化させて撃ち出した。
 先の敬輔の一撃に強かな負傷を与えられ、合体して自分達の強化を図っていた水晶屍人達を一網打尽にするその間隙を縫って、ボアネルが漆黒の蝙蝠の群れを背後に従えてフランマ・スフリスを袈裟に振るう。
 異端を焼くその剣を、咄嗟に右のチェーンソー剣で受け止める晴明だったが、その時には危険を顧みず晴明の懐に飛び込んだ瑞莉が、十束剣を横薙ぎに振るっていた。
 ――パリィィィィィィン!
 水晶化していた体が甲高い音を立てて割れる音を耳にしながら、息つく暇も無く瑞莉が晴明の鳩尾へと、十束剣を突き立てる。
 砕かれた水晶の向こうで更に深々とその身を抉られた晴明が、尚も瑞莉を葬らんと左のチェーンソー剣を振り下ろした。
 チェーンソー剣の一撃が右肩に食い込み、鋭い回転音と共に、瑞莉の右肩を断ち切り、その傷口から大量の血飛沫が飛び散るが、瑞莉はその痛みを顧みる事無く叫ぶ。
「今だよ、ボアネル!」
「晴明よ、生きることに飽いたというのであれば、その生を終わらせてやろう」
 瑞莉の呼びかけに応じたボアネルの思念を受け取ったその背に控えていた大量の蝙蝠達が、すかさずその鋭く大きな牙を剥き出しにして、傷だらけの晴明の体にそれを突き立てた。
「くっ……この連携は……!」
「貴様はこの世界にとって、猛毒以外の何物でもない! これ以上の猛威を振るうよりも前に、骸の海へと還るが良い!」
「私達は……瑞莉達は絶対に負けない! 安倍晴明、あなたを骸の海へと送り返すその時まで……!」
 続けざまに解き放たれた左のチェーンソー剣の呪詛に、無防備にその身を晒していた瑞莉が蝕まれ、肌をどす黒く変色させて喀血しながらも不退転の意志を叩き付ける様に声を張り上げながら十束剣を抉り込む様にグリグリと回転させて、晴明の体を更に深く、深く貫いていく。
「貴様を……一片足りとも残しておくものか! この鳥取の地に沈め……!」
 遂に限界が来たか、自らのユーベルコード【再臨 天覇天翔】の効果が切れてその場に倒れ伏す瑞莉を飛び越える様に飛び出した敬輔が、残された力を振り絞って黒剣を振り抜き、今までで一番巨大な衝撃波を晴明に向かって叩き付ける。
 どう、と限界を越えたかその場に敬輔が倒れ伏したその時。
 彼の放った斬撃の衝撃波は、既に全身を傷だらけにしている晴明の体の半分を抉り取り生々しく深い傷痕を、晴明の体に残した。
「くっ……!」
 フランマ・スフリスで更なる刺突を繰り出そうとするボアネルの攻撃を躱し、反射的に羽の様な軽い足取りで鳥取城最奥部に向けてバックステップ、警戒を解かぬままに後退する晴明。
 ボアネルは一瞬追撃を考えたが、既に体力の限界を迎えている瑞莉と敬輔を置いていくわけにも行かず、追撃を断念する。
 しかし蝙蝠達に周囲を索敵させてある者達の姿を捉え、その者達に向けて蝙蝠を飛ばす。
(「彼女達なら、上手くやるだろう。私の役割は、瑞莉達の治療だな」)
 地面に倒れ伏した瑞莉と敬輔の介抱を行ないながら、ボアネルが最奥部に消えゆく晴明に向けて、言の葉を手向けた。
「この世界を蹂躙するというのならば、我々はただ討つだけだ。例え、貴様が何者であろうとな」

 ――それは、安倍晴明に向けた、死刑宣告。

 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

荒谷・つかさ
……どうしてかしら。
見覚えの無い相手の筈なのに、どうしようもなく殺したいのは。

大きな箱状の盾を用意
敵へ向ける表面は薄く破りやすく、自分の持つ裏側は厚く硬いもの
そしてその間の空洞にトリモチを大量に充填しておく
晴明の先制攻撃をこの盾で受け、のこ刃にトリモチを絡ませて機能不全に陥らせるのが私の狙い
受け止める際、私自身を「命中した対象」に含まないよう、半ば剣に投げつけるようにして手放しておく

なんとか凌げれば【怨霊降霊・迷晴往生】発動
周囲に漂っているであろう怨霊を吸収、その怨念を純粋な力へと変換し、零式・改三で反撃を仕掛けるわ
その水晶の体、真っ向から打ち砕いてあげる……!


ヘンペル・トリックボックス
※ちょっとした因縁につき偶に敬語が抜け落ちます

……相も変わらず厭な嗤い方をするな、お前は。この世界で笑顔になってほしくない相手がいるとしたら、それはお前だよ、晴明。

まるでガンマンの早撃ち勝負ですが──否、先に放たれる上に防げない以上、勝負にすらなっていない。悔しいがコイツは格上、なれば取れる最善の策は──攻撃による相殺を捨てる事……!
五芒符の軌道を【見切り】、被撃した場合は自身に、強化目的で地形を侵食するならその起点に【早業】でUCを発動。傷なら即座に癒し、怨霊の呪詛であれば浄化。返す刀で即座に手持ちの五行符全てを組み合わせ、【全力魔法】で【範囲攻撃】化した【破魔】の【属性攻撃】を叩き込みます




 ――鳥取城、最奥部。
「ええ、そう。分かったわ」
 何処からともなく現われた蝙蝠の超音波を受け取りながら、それまでじっと瞼を閉ざしていた羅刹の娘がゆっくりとその瞼を開き、大きな箱状の盾を構えながら、その双眸で此方に向かってくるであろう安倍晴明を捉えるべく目を凝らしている。
「おや。どうかしましたかな、お嬢さん」
 羅刹の娘……荒谷・つかさがその背に掛けられた声に気がつき、ちらりと声の主、ヘンペル・トリックボックスの方へと視線を向けた。
「初めて見る顔だったかしら。つかさよ」
「或いは、何処かでお会いしたことがあるかも知れませんが……戦場でこの様にご挨拶させて頂くのは初めてかも知れませんね。ヘンペル・トリックボックスと申します。どうぞお見知りおき下さいませ、つかささん」
 紳士的に一礼し挨拶を交わすヘンペルに、そうね、と軽く頷き返すつかさ。
 それからつかさが、再び安倍晴明が来るであろうその場所へと視線を戻したその時、二刀のチェーンソー剣を構え、体の半分が抉れ、焼け爛れ、更に体中の彼方此方に打撲傷を負い、加えてその胸の刺し傷を深く穿たれた安倍晴明が姿を現した。
 安倍晴明はつかさとヘンペルの姿を認めるや否や、何かを悟ったかの様に静かに息を吐く。
「追撃が来ないからどうした事かと思っておりましたが……退路を防ぐべく先回りをされておりましたか。これは流石に手厳しいですね」
 口元に、嘲笑する様な笑みを浮かべながら。
 淡々と告げる晴明の様子を見たヘンペルの声音が、先程とは打って変わって押し殺した様なくぐもった声音へと転じた。
「……相も変わらず厭な嗤い方をするな、お前は。この世界で笑顔になって欲しくない相手がいるとしたら、それはお前だよ、晴明」
「……ほぅ、私の事をご存知なのですか?」
「何、少しな」
「……そうね」
 微かに眉を吊り上げる晴明の問いかけに返すヘンペルと同じ程度に冷たい声音で。
 突き放す様な、鋭く研ぎ澄まされた刃の様に冷徹な声を叩き付けるつかさ。
 ――何かが、ざわめく。
 それは、或いは自分の中の『誰か』の記憶、なのだろうか。
「ヘンペルに私も全くの同感なのよ、不思議なことにね。お前を見ていると、見覚えの無い相手の筈なのに、どうしようもなく殺したくなるの」

 ――ちらり、と何かが自らの脳裏を駆ける様な錯覚を覚えるつかさ。

 だが、それが何であるのかを突き止める時間も理由もつかさには無い。
 ヘンペルも『それ』について語るつもりは無いだろう。

 ――結局の所、目前のオブリビオン……『安倍晴明』を殺すというその意志が、変わることは無いのだから。

 晴明も感づいているのだろう。
 ゆっくりと右のチェーンソー剣を持ち上げながら、左手で五芒星を描き出している。

 ――陰陽師 安倍晴明と、猟兵達。

 この戦場における最後の戦いが……静かにその幕を開けた。


(「まるでガンマンの早撃ち勝負ですが──否、先に放たれる上に防げない以上、勝負にすらなっていない……!」)
 ヘンペルも思わず息を呑む見事な早業でセーマン印の五芒星を描き出す晴明。
 その様は、まるで見事な色彩で天井画を描き出す天才画家の如き鮮やかさであり、如何にヘンペルと言えど、その実力に舌を巻く思いを抱かざるをえなかった。
(「悔しいがコイツは格上、なれば取れる最善の策は──攻撃による相殺を捨てる事……!」)
 描き出されたセーマン印の五芒星とほぼ同時に、爆発的な反射速度でつかさに向かってチェーンソー剣を振り抜かんと迫り来る晴明。
(「やはり手強い……でも……!」)
 先手を確実に取られるドラゴンテイマーとの戦いの中で、『初撃』を躱すことこそが最重要である事を学習したつかさにとって、この戦いは決して難しい話では無い。
 先程目前に展開していた大きな箱状の盾を構えて投擲し、晴明の初撃を受け止めるつかさ。
 その盾の表面は、薄く破りやすく。
 自らの持つ裏側は、厚く硬いものであった。
「ねぇ、あなた……爆発反応装甲って知っているかしら?」
 投擲した盾を、晴明のチェーンソー剣にぶつけながら不敵な表情を浮かべて問いかけるつかさ。
 五芒星を解き放ち自らの足下に展開して大地を斬り裂いて業(カルマ)の怨霊達を呼び出して自らを強化した後の一撃必殺を狙っていた晴明は、つかさのその問いかけに、微かに戸惑った声を上げた。
「爆発反応装甲、ですか?」
「ええ。まあ、私も噂に聞いたことがあるだけなのだけれど。平たく言えば追加装甲で、攻撃を受けた瞬間に表面が爆発して、その勢いを減じさせる事が出来るっていう代物らしいのよね」
「何故、その様な話をするのですか?」
 晴明が怪訝そうに問いかけたその時。
 不意に自らのチェーンソー剣が大量のトリモチに絡め取られ、チェーンソー剣が機能不全を起こして嫌な音を立て始めるのに気がついた。
「……!」
 力任せにそれを引き剥がし、仕切り直しをしようとする晴明。
 ……或いは、もし晴明が目論見通り業(カルマ)の怨霊達を吸収していれば、既に全身傷だらけの晴明であってもその刃を強引に引き剥がし、仕切り直すことが出来たかも知れない。
 だが……その晴明の企みと、五芒星の動きをつかさの背後から、ヘンペルはしかと『見切って』いた。
 ――故に。
『……身中諸内境 三萬六千神 動作履行蔵 前劫並後業 願我身自在 常往三寶中 當于劫壊時 彼身常不滅 誦此真文時 身心口業皆清浄』
 ジン、と自らの体に疲労を感じながらヘンペルが切った呪印が大地を斬り裂き、呪怨を取り込まんことを欲していた晴明の体と、それを支えるべく溢れようとしていた業(カルマ)の怨霊達を瞬く間に浄化していく。
 浄化された業(カルマ)の怨霊達と、周囲に漂う亡霊達に躊躇うこと無く呼びかけるつかさ。
『鳥取城餓え殺し、そして晴明によって餓死させられた怨霊達よ、我が元へ集え……お前たちの怒りも悲しみも、全て私が受け止め、晴らして見せよう!』
 その叫びに応じる様に。
 無数の怨霊達がつかさの体内へと侵入し、一気につかさの身を侵食していく。
 あまりにも深い業(カルマ)を抱えた亡者達の想念につかさが微かに頭痛を堪える表情を浮かべるがその全てを力尽くで制御した上で、零式・改三を大上段に振り上げる。
 その間にヘンペルもまた陰陽五行を司る、木・土・水・火・金、それらの力を秘める五行符、木行歳星符・土行鎮星符・水行辰星符行・火行熒惑符そして金行太白符の全てを重ね合わせて呪を紡ぎながら、左手で五芒星を描き出していた。
「木土・土水・水火・火金・金木……森羅万象、万物の力を秘めたる五行よかの者を浄化せよ……滅!」
 ヘンペルの高らかな叫びと共に。
 放たれた五行符が万物を浄化する破邪の閃光と化して既に半身を失い、まともな回避も困難となっている晴明の全身を焼き尽くし。
「その水晶の体、真っ向から打ち砕いてあげる……!」
 つかさの振り下ろしたその場に集いし全ての怨霊達の力を受け止めた巨大な白銀の刃が、晴明の水晶の体を唐竹割りに斬り裂いた。
 ――ピシ、ピシピシピシ……バリィィィィィィン!
 仲間達の刃によって斬り裂かれ、穿たれ、罅の入っていた晴明を形作っていた水晶体がつかさとヘンペルの最大の一撃に耐えきれず、甲高い音を立てて砕け散っていく。
「……死ぬのですね。私は……」
 ――それならば、それでも構わない。
 この飽くなき生に終止符を打たれるのであれば或いは……。
 ――否。
「口惜しや、口惜しや……! この様なところで私の生が終わりを迎えるなど……!」
「さよなら、晴明」
「お前の時は終わりだ、晴明。もしまた蘇れば、その時はまた、お前を滅ぼすまで」
 つかさと、ヘンペルの言葉を最期に。
 断末魔の叫びと共に、陰陽師 安倍晴明の肉体は粉微塵となって砕け散り、光となって浄化された。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月17日


挿絵イラスト