エンパイアウォー⑥~血花の宴に酔い人波に溺れよ
「ふぁらんくす」
真顔で呟いた仙堂・十来に、何事かと猟兵達が振り向く。
エンパイアウォー真っ只中、関ヶ原にて激戦が繰り広げられ、行き交う猟兵の数も増えて忙しさを増すグリモアベースでのことである。
「ああ、すまぬ。……サムライエンパイアでの戦いにて、ファランクス、なる異世界の歴史にて見た言葉を聞くとは思わなかったゆえに、な。とはいえ此度の戦、様々なオブリビオンが表れているだけに不思議とも言えまいか」
実際、ファランクスは古代ギリシアをメインに行われた陣形である。
重装歩兵を用いた密集陣形、右手には長槍を、左手には大盾を。だがこのたび関ヶ原に布陣する『大帝剣』弥助アレキサンダーは、重装備という部分を全力で放り出し、日野富子の財力で揃えた長槍と大盾だけ持たせて、畿内の農民を16人×16人で256人によって構成される、一糸乱れぬ方陣の集合体に変えるというとんでもない戦術を取った。
弥助アレキサンダーの持つ『大帝の剣』には強力かつ広範囲の洗脳作用があり、さらにファランクス一部隊ごとにオブリビオンの指揮官を置くことでその部隊を洗脳する中継機の役割としている。
ファランクス自体はがっつり陣形を組んだ一般人で、特に戦闘力自体を増強しているとかではないのだが、幕府軍の兵士に対応できる代物ではない。いや鉄砲隊とか駆使すればいけるのかもしれないが、洗脳されているだけの本来は普通の農民である、という事実があまりに重い。
「そこで猟兵の出番ということになった」
つまりだ。
一般人によるファランクス部隊をなるべく傷つけることなく何らかの手段で突破し!
中心にいるオブリビオンを撃破し!
洗脳の解けた農民達をそそくさと戦場から退避させるっ!
「ちなみにこの部隊を率いるオブリビオンは、猟兵を強敵と見なして嬉々として戦いを挑んでくる性格であるらしい。その性格を上手く突くという手段も考えられるだろう」
とりあえず要となるのは一般人ファランクス部隊を掻い潜る方法と、オブリビオン指揮官との戦闘である。オブリビオンを撃破すればすみやかに洗脳は解け、農民達は猟兵の避難指示に従ってくれるだろう。
「関ヶ原の戦いは、エンパイアウォーにおける最大の激戦となる可能性もある。どうか織田信長の野望を砕くべく、よろしく頼む」
深く一礼すると十来は、猟兵達を案内すべくそのグリモアを輝かせた。
炉端侠庵
●今回は戦争です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
というわけで炉端侠庵です。
大帝の剣か。
大帝の剣かー。
なんとなく2回も言ってみました。
そんなわけで今回はボス戦です。
ファランクス兵は一般人なので猟兵たる皆さんには脅威とはなりませんが、正面突破したらそりゃ犠牲も出るしオブリビオン有利に動きそうだよね……といった状況です。
なのでオブリビオンだけを上手く相手にして倒せるような戦術が重要となります!
ちなみに最後の農民達の避難については、特にプレイングがなくてもちゃんと成功します。
なので、ファランクスを掻い潜る方法と、ボス戦にプレイングを割いていただければ幸いです!
というわけで天下分け目の関が原、全力で行くとしましょう!
よろしくお願いします!
第1章 ボス戦
『血花の紅鬼姫『真千代』』
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POW : 一槍羅刹
自身に【殺気】をまとい、高速移動と【長槍の刺突による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 血花の紅備え
戦闘用の、自身と同じ強さの【紅備えの徒武者】と【紅備えの騎馬武者】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
WIZ : 血花の紅鬼姫
全身を【過去殺した者達の血】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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黒影・兵庫
ボスは強敵と戦いたがる性格ですか...
ボスをこの囲いから出てくるよう【誘惑】してみましょう!せんせー!
まずはボスに聞こえるぐらいの大きさで、この程度の軍勢では俺は倒せないぞ!
といって挑発します!
その後、農民の方々の長槍を【第六感】【見切り】【ダンス】【武器受け】で回避、防御しながら
名の知れた武芸者と聞いたが所詮、一人では勝てんようだな!とさらに挑発します!
ボスが出てきた後は攻撃を回避しながら【誘煌の蝶々】を発動し支援兵の皆さんの舞で
敵の気をそらし、その隙に【皇糸虫】を【ロープワーク】【念動力】【罠使い】でボスの
足元に絡ませて、ボスが体勢を崩したら【衝撃波】で攻撃をします!
マックス・アーキボルト
※アドリブ歓迎
力のない農民の人達を洗脳して利用する…いくらでも汚い言葉を口に出せそうだけど、今はこの陣形を突破するんだ!
【加速魔法式】発動!
回避のための時眼伸長魔法…この状態から【ダッシュ】の超高速移動で陣形の側面へと潜り込む!
敵オブリビオンへと向かう途中に【クイックドロウ】で長槍を破壊する攻撃を仕掛けるよ!
密集状態なら、一発でも数本は破壊出来るハズだ!
敵には【クイックドロウ】で遠距離武器の利を活かしてなるべく体力を削るよ!
近づかれたら【見切り、零距離射撃】で応戦だ!
楠葉・狐徹
【STD】
まずは忍び足や目立たないを使って真千代のいる場所まで進む。農民達に見つかった場合は殺気で怯ませ、それでも来る場合はカウンターを使用し、自分からは攻撃しない
「俺はお前を殺しに来たんだ。首を寄越しな。」と真千代への挑発も忘れない
真千代が徒武者と騎馬武者を召喚したら最初に【妖剣解放】の衝撃波で騎馬武者の馬を足止め
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』って言葉知ってるか?」
次に怪力とグラップルで徒武者を掴んで持ち上げ、騎馬武者に投げつける
その隙に妖剣解放の高速移動で真千代に接近。至近距離から斬撃を脇腹に叩き込む
「見えたぜ…お前の殺し方!槍なら接近戦は苦手だろ?ここまで近寄ったのはこのためだ。」
高原・美弥子
大帝の剣……メガリス?
はれ?あたし何を言ってるんだろ?
イグニッションカードをイグニッションして銀誓館学園女子高校制服に、斬馬刀・白陽と妖刀・黒陽を装備するよ
農民兵は、ごめん!峰打ちで致命傷にならないところを攻撃するけど怪我は勘弁してね!
出来るだけ指揮官のオブリビオンに真っ直ぐ向かって、ファランクス部隊の後方から攻撃するとか農民兵ができるだけ傷つかないよう頑張るよ!
ボス相手は、高速移動を捕らえるのは難儀しそうだから肉を切らせて骨を断つでわざと槍の刺突を受けて動きを止めさせて、そこに【血炎斬】を叩き込むよ!
槍ぶっ刺されても左右どっちかの刀で斬りかかれれば問題なし!
それに出血してもそれが炎になるしね
ヴィクティム・ウィンターミュート
オーダー了解、ファランクスを越えて大将の首を獲りゃいいんだな
ファランクスで戦場を支配した気になってるようだが…
俺の脚本の前じゃ、舞台装置にもなりゃしねえさ
真正面から堂々と姿を晒そう
『Sanctuary』セット、地面の着弾を確認
全域の情報を書き換え──では始めよう
【ハッキング】で地形に干渉
ファランクスと俺の間の地面を「ベクトル強制変更地帯」に
そこを通れば強制的に攻撃方向を横にずらされる
当然、陣形は崩れちまうし──そんな装備じゃあ、旋回にも時間がかかる
大将までの射線を確保したら、地面から岩塊を生成、射出
足元から拘束具を展開、電子の槍を地面から突き立たせる
ファランクス再構築まで攻め手を緩めない
小烏・安芸
急ごしらえにしては壮観やけど……この陣形、正面からの殴り合いはともかく空からの襲撃までは想定しとらんやろ。てなわけで真上から失礼するで。指揮官が真ん中いう分かりやすさも考え物やな。
突破しといて周りの農民が巻き込まれるんも困りもんやし一つ煽りを入れとくか。さて、ご対面しといて雑兵けしかけるなんて無粋な真似はせんよなぁ?
あーあ、また随分と血生臭い恰好や。まぁウチも人のことは言えんけどな。生憎と呪詛の類には慣れっこやし、キミみたいなんにピッタリな獲物も用意してある。――喰らいつけ。咎刻の顎。
負傷が前提の強化いうんも難儀やなぁ。その傷口、全力で抉らせてもらうわ。もちろん、飛び切り痛いから覚悟しとけや?
村崎・ゆかり
これはまた見事な槍衾。ろくに訓練していない農民を使ってこんな陣形を組むなんてねぇ。
でも、立ち塞がれると邪魔だから、どいてもらいましょう。
村崎・ゆかり、陰陽師。いざ参る。
真っ正面から陣へと歩みを進め、風の「属性攻撃」「範囲攻撃」「衝撃波」「なぎ払い」で、農民たちを吹き飛ばす。殺さない程度の加減はするわ。
逃げたいならさっさと逃げて。居残るなら遠慮なく吹き飛ばすわよ。
あれが指揮官ね。それじゃ、本気で行きましょう。巫覡載霊の舞。
あなたの長槍とあたしの薙刀、どちらが上か勝負よ!
長物同士で打ち合いつつ、隙を見て不動明王火界咒を放ち怯んだところを、再度薙刀を振るい「串刺し」にするわ。
自己強化の前に片付ける!
関ヶ原。将軍もまだ三代目家光の御世とあれば、戦の記憶もまだ随分と近い過去に他ならない。そして此度の戦でも、まさにこの地で激戦が繰り広げられている。
闊歩するは一糸とて乱れぬ陣形、遥か遠くまた過去の、あるいはサムライエンパイアから見れば完全に異世界のものかもしれぬ大地を席巻した、その模倣たる『ファランクス』。
そう、模倣でしかないとしても。
「これはまた見事な槍衾。ろくに訓練していない農民を使ってこんな陣形を組むなんてねぇ」
村崎・ゆかりが感慨深げに呟く。その隣では小烏・安芸が軽く顎に指を当て「急ごしらえにしては壮観や」と頷いてからひょいと肩を竦めた。
「けど……指揮官が真ん中いう分かりやすさも考え物やな。この陣形、正面からの殴り合いはともかく空からの襲撃までは想定しとらんやろ」
まぁ猟兵とかオブリビオンは割と頻繁に空とか飛んでいるが、サムライエンパイアの一般人はあまり飛ばない。翼持ってる種族が珍しいお国柄、というか世界柄というべきか、である。
オラトリオのいるダークセイヴァーとか、アルダワ魔法学園で言えばドラゴニアンとかそこそこ空を飛べる種族も世界を渡ればいるのだが。
――その、アルダワ魔法学園で目覚めたミレナリィドールたるマックス・アーキボルトは、その翡翠のような瞳を燃えるような怒りに染めていた。
「力のない農民の人達を洗脳して利用する……いくらでも汚い言葉を口に出せそうだけど」
その怒りが籠もるに違いない言葉を呑み込んで、マックスは唇を噛む。今はこの陣形を突破する、それが上手くいけばそれだけ力なき無辜の人々を助けられるのだから。
そして。
「大帝の剣……メガリス? はれ? あたし何を言ってるんだろ?」
少し離れた位置では、高原・美弥子がこめかみを押さえていた。何か聞き覚えがあるような……あるような、あるような。
ちなみに後からわかった事実ではあるが、実際大帝の剣は『メガリス』と呼ばれる存在だったそうである。聞き覚えって凄い。
「ともあれイグニッション!」
姿は編み上げのスリットが特徴的なスカートに多少変則的なセーラー服、白く燃える斬馬刀と黒炎に染まる妖刀を両手に――ただし炎は抑え気味で、けれど気魄は十分に!
「オーダー了解、ファランクスを越えて大将の首を獲りゃいいんだな」
ヴィクティム・ウィンターミュートがニィ、と唇の端を吊り上げる。トン、とサイバーアームの指が軽くゴーグルの端を叩いた。――起動するプログラム、電子音や機器の僅かな作動音、それは全てヴィクティムの『内部』でのみ響いて『準備』を整える。
「ファランクスで戦場を支配した気になってるようだが……俺の脚本の前じゃ、舞台装置にもなりゃしねえさ」
そしてヴィクティムは血花の紅鬼姫『真千代』の陣、その正面に堂々と姿を表した。
無論その堂々たる様子を見れば、オブリビオンならば猟兵だと察するだろう。こちらに真っ直ぐ向かってくる陣の様子を見れば、狙いに嵌ったのは明白。
プログラム『Sanctuary』がセットされ、地面へと着弾。外したわけではない。その場所に撃ったのだ。自分とファランクス真千代隊、その間の地面に。
既にアクセスは済んでいる。ならばあとは現実の地形にすら干渉するハッキング能力で『書き換える』のみ。ベクトル強制変更地帯、強制的に攻撃方向を横へとずらしてしまうプログラミングを仕込み、実行。
「おおっとぉ!?」
ヴィクティムへと突き出された長槍がすいっと方向を変えてしまう様子に、慌てた様子で中心の真千代が声を上げた。方向を何とか戻そうとするも、元が兵士同士の距離を極限まで詰めた方陣、となればいくら洗脳が完璧であっても、物理的に簡単にはいかない。
何より真千代達オブリビオンは洗脳の要ではあっても、別に本人がファランクスの運用に慣れているわけではないのだ。
「村崎・ゆかり、陰陽師。いざ参る」
「加速魔法発動!避けきってみせる!」
ゆかりとマックスが敵の、今は正面となっている側から回り込む。その反対側からは、美弥子が。
「ごめん! なるべく気をつけるけど怪我は勘弁してね!」
炎を控えめにしたのはこのためである。妖刀も斬馬刀も峰打ちで、出来る限り農兵達に傷を負わせぬよう気をつけながら美弥子はその陣の深く、オブリビオンの元へと切り込んで行く。
そして敵に向かって斜めからは、マックスが魔法で速度を増幅したダッシュで左腕のアームキャノンを構えて飛び込んだ。狙うのは兵士達ではなくその長槍、己の速度を上げたマックスにとっては訓練を受けてもいない農兵達の動きはスローモーションでしかない。的確に数本まとめてその槍を折り、陣形そのものの破壊力を削いでいく。
「居残るなら遠慮なく吹き飛ばすわよ」
そして現状の真正面からは、ゆかりが衝撃波をぶつける。あくまで吹き飛ばすことに特化し纏わせたのは風の属性――猟兵達が多方向からひたすらに、命は奪わず戦闘力を削ぎ、陣を崩していく。
「ちっ、やっぱりじれったいねぇ、こういうのは!」
立て直そうとした側から崩されていくファランクスに、オブリビオンと化した女羅刹が舌打ちしたその瞬間である。
「この程度の軍勢では俺は倒せないぞ!」
堂々たる仁王立ちで黒影・兵庫が叫んでみせた。農兵達の突き出す槍はヴィクティムのセットした地形効果で方向をずらされるも、あえてそれでも届くような絶妙な位置に立ちつつ穂先を華麗に回避して、視線はばっちりと真千代に向ける。
「名の知れた武芸者と聞いたが所詮、一人では勝てんようだな!」
「はあぁ!? 馬鹿にしよって小童が……」
苛立ったように声を上げたところに「真上から失礼するで」と響く声。
「ご対面しといて雑兵けしかけるなんて無粋な真似はせんよなぁ?」
烏の羽根を舞い散らせ、ゆるりと空に浮かんだ安芸が目を細める。さらにはその背後からは、気配を消して回り込んだ楠葉・狐徹が。
「俺はお前を殺しに来たんだ。首を寄越しな」
水晶のように澄んだ妖刀、浄玻璃刀の刃を押し付けるようにして笑う狐徹。しっかりと囲まれた状況に、むしろ朗らかに声を上げて真千代は笑い――その槍を支えにとん、と軽く地を蹴って跳躍してみせた。
ファランクスの輪を超えてその外側に、ヴィクティムに操作された地形の脇へと降り立つ。
「いいよ、あたしもいい加減、祭の神輿みたいなのは飽きた! 相手してやろうじゃないか、ああ、けど」
くるっと後ろを振り向いて、まだ戦意を失ってはいない農兵達をちらりと見やる。
「とはいえこいつら、あたしの命令にきっちり従うってわけでもないからアンタらの後ろから殴ってくるかもしれないけど」
再び猟兵達に向き直って、にっこり片目を閉じてバトルジャンキーな満面の笑顔。
「まぁそこは適当に自分らでなんとかしてくれよね!」
「支援兵の皆さん! ご足労頂きありがとうございます!」
兵庫の影から現れひらひらと舞い舞う無数の可憐な蝶が、農兵達の意識をその身に惹きつけていく。美しきその姿へと敬礼し――けれどその間に少しずつ、兵庫は『仕込み』を進めていく。
さらにコントロール下にある地面から、ヴィクティムが幾つもの岩塊を飛ばした。カン、カンと軽快な音を立てて槍が岩塊を割り打ち落とす間にハッキングしている地面の範囲を広げていく。そこにマックスが距離を取りつつ素早くアームキャノンを装填しては的確に細かく銃弾を撃ち込んでいく。
「あなたの長槍とあたしの薙刀、どちらが上か勝負よ!」
「いいねぇ乗った!」
神霊体へと変じたゆかりの振るう豪奢な薙刀を、血染めの槍が受け止める。
その槍を捻るようにして薙刀を払うと、無造作とすら見える動作で真千代は斜めへと穂先を突き出した。
「くぅっ……!」
胴を庇った左腕に深々と突き刺さった穂先、美弥子が必死に耐えるような呻きを上げる。心底楽しそうに吊り上がった真千代の唇が、けれど驚愕へと染め替えられた。
「すべてを、灼き裂く!」
左腕を更に深く穿たれるのすらいとわずに、無傷の右手で美弥子が振るった刀がオブリビオンの鮮血を散らす。刃の軌跡を追うかのように、燃え上がるのは美弥子自身の血――斬撃に己の生み出す炎を重ねるユーベルコード『血炎斬』。
さらに踏み込んで振るったゆかりの薙刀を払い除けつつ、後ろに跳んだ羅刹のいた場所を電子の槍が貫いた。空を切った輝きを弾いてまた距離を詰め、再びゆかりの放つ斬撃をまた穂先がぎりぎりで絡め取る。刃と穂先の先端が互いを掠め合うたび、巫女盛装と傾いた羽織袴にぴしりぴしりと紅が跳ねる。
「あーあ、また随分と血生臭い恰好や」
数多吸い込んだ血に、さらに重ねた鮮血。そしてさらには過去に殺した相手の血まで重ね着して力を増す鬼娘の様子に、小さく安芸は肩を竦めた。
「まぁウチも人のことは言えんけどな。生憎と呪詛の類には慣れっこやし」
なんというかちょっと、巡り合わせが悪くてさらに噂に尾ひれがついて「持ち主を不幸にする」なんて云われができてしまった短刀のヤドリガミとしては――曰く付き、の部分がヤドリガミとしての能力に影響してしまったのもあるが、逆に安芸自身が噂という言霊に呪詛されていたようなもの、という意味でも慣れてはいる。
そして。
「キミみたいなんにピッタリな獲物も用意してある。――喰らいつけ。咎刻の顎」
武器として扱うにも、血生臭いのは慣れているし。
まるで鋸のように細かな尖り刃を持ち、けれど明らかに厚い刃を持った鉈。ただ肌を擦っただけでも激痛を与える拷問具。それを。
「負傷が前提の強化いうんも難儀やなぁ。その傷口、全力で抉らせてもらうわ」
もちろん、飛び切り痛いから覚悟しとけや――唇をきゅっと上げて、漆黒の瞳で相手を覗き込んで、上がる悲鳴にニィと笑う。造り手は芸安、曰く付きで妖刀カテゴリ、短刀としての銘は小烏丸。割と警戒心強めだけど実は人の役に立ちたい健気な刃はただいま遣い手募集中。
戦い方は割とブラッディに寄りがちだけど!
痛みに耐えて動きを止めた瞬間に、薙刀で打ち掛かると見せかけて。
『ノウマク サラバタタギャテイビャク――』
懐からさっと投げた白紙のトランプが、当たった瞬間炎を絡みつかせる。気勢を上げ槍で炎を振り払ったと思えば、空いた腹を貫き串刺しにする刃。
ギリ、と奥歯を噛みしめて己の腹から薙刀を引っこ抜き、一度距離を取った紅鬼姫が、次の瞬間はっと赤いその目を見張った。
「っ!?」
真千代の右脚に皇糸虫が、左脚には地面から生えた拘束具がしっかりと巻き付いた。兵庫とヴィクティムがそれぞれ己の、そして仲間達の攻勢に合わせて進めていた『仕掛け』が、ここに実を結んだのだ。
けれど己は戦えずとも――ニヤリと血染めの花は笑う。
「いやまださ! 行きな『血花の紅備え』、さらに鎧を染めといで!」
さっと血を吸い込んだ穂先に合わせ、赤備えの徒武者と騎馬武者が現れた。蹄鉄と草鞋の足並み揃えて猟兵達の元へと駆けようと地を蹴ったその瞬間。
「『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』って言葉知ってるか?」
斬、と空気を裂く音を立て、騎馬武者の馬を衝撃波が食い止めた。さらに勢いを止め損ねて走ってきた徒武者の前に立ちはだかった狐徹は、その首筋と腰元を抑え込んで持ち上げると思いっきり騎馬武者へと投げつける。動きを止めたその間隙に、腰溜めに構えた妖刀に籠もる念すら脚力へと変えて、狐徹は真千代の懐へととび込んだ。
「見えたぜ……お前の殺し方!」
脇腹を薙ぐ。深く、臓腑まで抉るように。
「槍なら接近戦は苦手だろ? ここまで近寄ったのはこのためだ」
ちっ、と舌を鳴らす音と共に唇から溢れる鮮血、けれど全身を血に染めた鬼は、楽しそうに笑ってみせた。
「なかなか、楽しかった……ってとこね、ここは、譲ってあげ――」
ばさり、と花弁のように血色が舞い、崩れていく。戦場の風に舞うようにそれが消え――、
「……な、なんだぁ?」
「わしらはどないしてこんなとこにおるんや」
「って、戦の最中やないか! ここどこやねん!」
「関ヶ原やないか?」
「ちゅーかなんやこのデカい盾と槍は」
正気を取り戻した瞬間賑やかになる農民達をとりあえず纏め上げ、彼らを護衛しつつ猟兵達は戦場を離脱していく。
かくして無事、敵の兵を削ぎつつも民は無事、この戦いは万々歳の作戦成功と相成ったのであった!
大成功
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