エンパイアウォー⑦~禍々しき鬼の戦:軍神車懸かりの陣
●――激戦、関ヶ原
第六天魔王『織田信長』の居城、魔空安土城へ向かう幕府軍。
数々の困難を突破し、遂に最大の難所である関ヶ原へと到着した。
此処で待ち受ける信長軍の軍勢を打ち破り、山陽道・山陰道・南海道にそれぞれ分かれ軍を進める事になる。
行く手を阻むのは軍神、上杉謙信。
その智謀を凌ぎ、その武勇を超え、恐るべき野望を討ち果たさねばならない。
●――恐怖! 車懸かりの陣!
「はいはーい、作戦会議の時間ですよーぅ」
いつのもホワイトボードを携え、望月・鼎が説明を始める。
「今回の相手は上杉謙信率いる上杉軍精鋭部隊です。こっちが攻めてくるのを察知して、関ヶ原で軍勢を展開中です。軍神の異名を取るだけあって、中々に手強い相手ですよーぅ」
そう言って鼎はホワイトボードに何かを描いていく。
出来上がったのは蚊取り線香の様な渦巻き模様。
当人は満足げな表情だ。
「相手が敷いているのは有名な車懸かりの陣ですね。これは上杉謙信を中心としてオブリビオンが円陣を組んで敵陣に突入、ぐるんぐるんと円を描くように進みながら攻撃を仕掛けると言うものです。聞くだけだとなんじゃそりゃって感じですよね。しかしこの陣、皆さんが思っている以上に厄介なのです!」
鼎は更に棒人間を書き足す。
最初に戦ってる棒人間がちょっと疲れた様子を見せたら、控えていた棒人間と交代する。
対する棒人間、顔の部分に猟と書かれている方はずっと戦いっぱなしだ。
「このように私達猟兵が奮闘する中、オブリビオン側は常に元気一杯の状態で仕掛けてくるんです! 元気一杯充電たっぷり、ゲーム的に言えばバフ盛り盛りの状態ですね。信じられない事に物理的な防御力と回復力も強化されているみたいで、生半可な攻撃では決定打を与えられないでしょう」
続けて、鼎は棒人間とスライムの様なものを描き始めた。
ゲームが得意な彼女らしく、ゲームっぽく説明するらしい。
「例えばこんな感じです。普段100与えられる攻撃が、今回は10に減っている。相手のHPは200です。じゃあ20回殴れば良いじゃないかと思うかも知れませんが、何と相手は毎ターンHPが全快します!」
棒人間がスライムを殴るが、次の絵ではスライムが元気にキラキラ状態になっている。
「つまり相手を倒すには一撃で300くらいのダメージを与えるか、同ターン内で200以上連続でダメージを与える必要が有るのです! この特性上、毒とかのスリップダメージはほぼ息をしなくなると言って良いでしょう。倒すには合体攻撃や必殺技を推奨します!」
伝えるべき事は伝えたとばかりに、むふーと息を吐く鼎。
最後に、思い出した様に付け加える。
「あ、そう言えば今回の相手は鬼だそうです。タフっぽいので強敵ですねー」
割とその辺りも重要な気がする。
一ノ瀬崇
ビールが美味しい季節です。
こんばんは、一ノ瀬崇です。
今回は超絶バフ付きの上杉軍が相手ですね。
めちゃ硬アンド激リジェネ付きですので、防御を抜きつつ回復の隙を与えない攻撃方法が必要になってきます。
防御貫通や同時必殺、その他大ダメージを与える工夫が重要ですね。
皆様のプレイングをお待ちしております。
軍神『上杉謙信』は、他の魔軍将のような先制攻撃能力の代わりに、自分の周囲に上杉軍を配置し、巧みな采配と隊列変更で蘇生時間を稼ぐ、『車懸かりの陣』と呼ばれる陣形を組んでいます。
つまり上杉謙信は、『⑦軍神車懸かりの陣』『⑱決戦上杉謙信』の両方を制圧しない限り、倒すことはできません。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
第1章 集団戦
『血肉に飢えた黒き殺戮者・禍鬼』
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POW : 伽日良の鐵
【サソリのようにうねる尻尾(毒属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 欲欲欲
【血肉を求める渇望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
WIZ : 鳴神一閃
【全身から生じる紫色に光る霆(麻痺属性)】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:ヤマモハンペン
👑11
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雷堂・夜風
いくら防御が高く回復できるといっても、一撃で死んだら関係ないよね。
そしてどんな生き物でも、頚が飛んだら死ぬ。
苦しむまもなく即死だ。
私は一つしか技を使えない、故に常に一撃必殺を心がける。
私からしたら今回の依頼はいつもと変わらない。
間合いを計りつつ、歩きながら対象に近づく。
少しは油断も誘えるだろうね、歩きながらなら。
間合い……大体10メートル位にに入ったらなら太刀風を発動、音すら置いていく速度の抜刀で首を狙う。
太刀風が決まったなら、さっさと撤退するよ。
一撃離脱、それもまた私のスタイル。
二兎追うものは一兎も得ず。
一体だけで十分さ。
さあ頚を置いていけ。
アララギ・イチイ
破壊力ねぇ
今度はこれ(UC)を使用してみようかしらぁ
【選択UC】使用よぉ
【武器改造】で装備品の砲身+機関部+動力炉を合体、大型砲を構築するわぁ
召喚ドローンは【力溜め】で蓄電開始、動力炉の給電システムを全開放、蓄電が完了したら動力炉に一気に供給、強化型の荷電粒子砲をぶっ放すわぁ(反動対策としてブーツのパイルを地面に刺して固定
敵が回避したら、その動きを【見切り】、照射状態を維持しつつ砲身を動かして【なぎ払い・範囲攻撃】よぉ
準備中の【時間稼ぎ】として、戦闘人形フギン・ムニンを前衛配置、フギンはランスの【串刺し】・シールドで【盾受け】、ムニンは連装バルカンの【2回攻撃】、ミサイルの【誘導弾】で攻撃よぉ
ワズラ・ウルスラグナ
軍神か。
神の軍勢もさぞかし強いのだろう。
油断無く挑ませて貰う。
一体ずつ確実に、一体でも多く討つ。
先ずは戦獄龍火輪で全力で焼き払い、鉄塊剣で内一体を集中的に狙う。
範囲攻撃なのは邪魔が入らないようにだ。狙った者以外は余波で役程度で良い。
ついでに防御も焼き溶かせれば尚良い。
一撃でも多く攻撃出来るなら敵からの攻撃は受けても構わん。
捨て身の一撃と鎧砕きで防御を貫きに掛かる。
逃げられても追い掛けるぞ。
戦獄龍火輪の範囲に居る内は焼き続けるし、追い掛けて斬り伏せる。
刺し貫いて燃え尽きるまで釘付けにしてやる。
一撃一撃を全力で叩き込む。
仲間に合わせるでも良い。
邪魔は爆炎で押し退ける。
先ずは一つ、確実に殺りに行く。
夜羽々矢・琉漣
忙しすぎでしょ、今回の戦争…!
召喚するロボットの装備は両腕に爆裂杭のパイルバンカー。サソリのような尾部のついたタイプの機体。このパイルバンカーは相手の内部で爆発させることで、硬い相手でも有効打を与えられるようにと考えられたものなんだ。
相手の尻尾に合わせて回転して尾部を叩きつけて相手の尻尾の勢いを殺しながら、相手の頭部にパイルバンカーを叩き込む。いくら硬くても口ならいけるでしょ。オブリビオンが頭部急所かは知らないけど、視覚を潰せば他の人も仕掛けやすくなる。
仕留めきれなかったら「Nigredo」で腐敗・鈍化の【呪殺弾】を撃ち込んで、動きが鈍ったところに追撃のパイルバンカーを叩き込むよ。
ナイツ・ディン
(妖精ナイツ)
「鬼退治の基本は針で目を潰す。この国だとそういう寓話があるのだろう?」
(紅竜ディロ)
『ふん、大きいだけが取り柄の木偶の坊かと思えば中々の力ではないか。それでこそ潰しがいがあるというもの!』
小柄な体格で味方に紛れ隠れつつ立ち位置を調整(目立たない、忍び足)、目を狙ってダッシュ、飛翔して【フラッシュニードル】(空中戦、鎧無視攻撃、串刺し)
これで隙ができれば他の猟兵たちが畳み掛けれるだろう。俺も一旦引いて、もう一度助走つけて突っ込んでいくぜ。多少の被弾は激痛耐性でゴリ推して、一気に潰しにかかる。
「これがお前が見れる最後の光景だ、小人(※妖精です)なめんなよ!」
他PC絡み可
アドリブ歓迎
シャノン・ヴァールハイト
連携、アドリブはお任せします。
つまりは、一撃必殺の攻撃を叩き込めと言う事なのだろう? 内容は理解した。
目立つ+防御の事も考えて真の姿で参戦。
基本的に通常時に装備している剣を使用した【怪力】任せの一撃で吹き飛ばしたり、拳や蹴りで攻撃や防御をしながら戦います。
それで一度、もしくは複数回陣をやり過ごせたら、集中的に潰そうと動くと思われるのでその時を見計らってUCを使用予定。
ただし、普段よりも強い一撃が必要だと思われるので予め、地面を踏み固めておき、UC使用時に全力で踏み込んでも体制が崩れないようにする事で確実性を高めるようにする。
オーキッド・シュライン
●心情
・成程…厄介ですわね
・わたくし単体ですと‥‥超火力技もあるにはあるのですけど…範囲に乏しいのですよね。1体は倒せても大群となると厳しいですわ
・だったら合わせてみましょうか。火は風に煽られてさらに勢いをましますわ。やれますわよね、パリ
●戦闘
・パリの駆る愛羅の上で戦闘ですわ。空中戦は得意ですわ。
・ギリギリまで包帯の封印は維持して兎に角力溜めをしますわ。
・そして的確なタイミングを見切り、パリの無双風神に合わせてUCを
撃ちますわ。
「風の刃よ、炎に染まりなさいませ!」
触れた物を燃やす蘭の炎が風の刃に乗って敵を切り裂き、内部から焼き尽くします
・敵の攻撃は見切り、カウンターのブラスターを撃ちますわ
パリジャード・シャチー
●心情
・うわ…まさかの激辛メタだとぉ。こうなるとうちは火力ないんだよね‥‥
・風は範囲に優れるけど、威力に乏しいとこがあるから。
でもでも風は火を大きくすることだってできちゃう。
・だから火力は炎で補うよ。オッケー、任せて爛華ちゃん!
・風と炎はずっ友なんだぜ!
●戦闘
・愛羅に乗って空から攻めるよ。
・敵の攻撃は見切りつつー回避するよん。雷は雲でも盾にしようかな。
・うちのUCにブレイジングオーキッドの蘭の花弁の炎を纏わせて飛ばすよ。
「すべてを切り裂き、灰燼に返せ!陽炎纏う不可視の刃!」
「「連携UC:無双炎風刃!!」」
・スナイパー技能で弱そうな所を狙いつつ死ぬまで切り刻んで燃やすよ。
夕闇迫る関ヶ原。
既に展開している上杉の軍勢。
彼等が展開している車懸かりの陣を突破しようと、猟兵達の一大攻勢が始まっている。
激戦が繰り広げられる戦場の一端、禍鬼が受け持つ戦域でも戦闘が始まっていた。
「忙しすぎでしょ、今回の戦争……!」
両腕にパイルバンカーをぶら提げた四脚の機体を操る夜羽々矢・琉漣は、額に汗を滲ませながら敵オブリビオン、禍鬼の攻撃を躱していく。
ステーク内に爆薬を仕込んでおり、命中後に対象の内部を爆発で攻撃すると言う非常に攻撃力の高い武器だ。
その分重量が有り取り回し辛く、爆薬を仕込んでいる関係上余り武器受けも推奨されないピーキーな武器でもある。
対する禍鬼は極端な前傾姿勢で動き回る。
サソリ型の尾が大きい所為か普通に立っていては重心が後ろに傾くのだろう。
右手には黒い血がこびり付いた金棒が握られており、掴み掛かり・棍棒による打撃・尾の振り回し・全身から迸る霆と言った多彩な攻撃を仕掛けてくる。
一撃一撃が重く動きも素早い、おまけに車懸かりの陣で防御力と再生力も強化されている。
如何にかして急所を撃ち貫き仕留めたい所だ。
幸い、禍鬼はこの場に三体しか居ない。
徒党を組まれていたら厄介だったが、彼等の攻撃方法が他者を巻き込み易いので同士討ちを避ける為に少数精鋭として配置されたらしい。
「グオオオオオオォッ!!」
「っとお!?」
禍鬼が上体を逸らしたのを見て即座に琉漣は機体へ指示を送る。
強靭な四脚が地を蹴った数瞬後、その下を尾が薙ぎ払っていく。
「下手な攻撃は効きそうに無いか。なら連携で一気に決めるか」
紅竜『ディロ』と巧みに空を駆け巡る妖精、ナイツ・ディンは禍鬼の視線を遮る様に飛び回りながら隙を窺っていた。
先程、禍鬼の尾による攻撃の前兆を見切り、伝えたのも彼だ。
立ち塞がるもの全てを薙ぎ倒してきた禍鬼の豪腕は小細工を許さない圧倒的な強さそのものであるが、それ故に技術を磨く土壌を与えなかった。
今までは一方的に獲物を屠るだけの狩りの様なもの。
早い話、禍鬼に力は有っても技術、引いては戦闘の経験が足りない。
それを見切り、来るべき瞬間に備えて情報を収集していく。
禍鬼も眼前を飛び回るナイツは鬱陶しいらしく、頻りに左手を払ったり霆を迸らせているがナイツを捉えるには至らない。
左手の動きは反射と観察で避けているが、霆の前兆は大体見切った。
「グルルルゥ!」
「電撃だ、離れろ!」
口を閉じたまま唸り声を上げる禍鬼を見て、ナイツは声を飛ばす。
その声に琉漣も距離を開けると、紫色の霆が禍鬼の体表を這う。
僅かの間を置いて霆が一定範囲を薙ぎ払っていくが、その僅かな間で退避していた二人に霆は届かない。
忌々しげに睨め付けて来る禍鬼。
「そろそろ苛立ちが募ってきた頃合だね。となると、次は……乱打で捉えようとしてくるかな」
二人とは少し離れた所で禍鬼を観察している小柄な少女。
雷堂・夜風は戦闘には加わらず、静かに禍鬼の行動を予測していた。
まだ彼女は猟兵としての経験は浅い。
それ故に、同じく戦闘の経験が浅い禍鬼の行動をほぼ完全に近い確率で予測する事が出来た。
また、一度戦闘に入れば彼女は一切の言語を捨て去る。
唯一口にするのは相手を屠った時に冥土の土産として贈る技名のみ、と言う徹底振りだ。
戦闘中は最早執念と言って良い程の集中力を発揮する彼女だが、その分戦闘中のコミュニケーションは取れないと考えて良い。
流石にそれでは戦いにくいだろう、と言う事で緒戦は『見』に徹する事とした。
これが功を奏し夜風の予測を元に動いた結果、此処に至るまで琉漣もナイツも、まだ一撃も被弾していない。
細かな動きの癖はナイツが、禍鬼の思考と行動予測は夜風がそれぞれ読み切る。
防御すら侭ならない豪腕の一撃は、防御すら必要としない技術で退けられていた。
「とは言えそろそろ……ねぇ」
「大体パターンは読み切ったぜ! 反撃と行こうか!」
「避けてばっかりで飽きてきた所だしね」
夜風が今まで眠たげだった目を剣呑なものへと変えたのを見て、ナイツと琉漣は頷き合う。
「先ずは俺が隙を作る。追撃は任せたぞ!」
ナイツがディロを駆り、空を翔る。
素早く飛び回る小柄な体躯を、禍鬼は追い切れない。
此処までの攻防ですっかり動きの癖を見極められた禍鬼の攻撃は、幾ら速度を上げようとも脅威とはならなかった。
「鬼退治の基本は針で目を潰す。この国だとそういう寓話があるのだろう?」
巧みに棍棒や霆を潜り抜け、握り締めた『ドラゴランス:ディロ』を突き出す。
狙うは筋肉や脂肪の鎧が無い柔らかい箇所。
即ち、眼球だ。
「目に物見せる? いいやお前は見ることすらできんよ!」
ユーベルコード【フラッシュニードル】を発動。
貫通力を増した一撃が、ぞぶりと禍鬼の眼球へと突き刺さった。
「グガアアッ!?」
堪らず、痛みに声を上げる禍鬼。
打ち払おうと伸ばしてきた左手を潜り抜けながら、今度は反対側の眼球へ向かう。
追い掛けて来た掌をディロが尾で強か打ち付け軌道を逸らす。
脱臼させる心算で放った一撃が然程効果を見せなかった事に、ディロは鼻を鳴らして笑った。
『ふん、大きいだけが取り柄の木偶の坊かと思えば中々の力ではないか。それでこそ潰しがいがあるというもの!』
「これがお前が見れる最後の光景だ、小人なめんなよ!」
妖精と言う自分の種族に強いこだわりは無いらしい言葉と共に、槍を放つ。
無論、受け止められる筈も無く禍鬼の眼球は貫かれる。
「グガアアア!!?」
「出るよ!」
「応!」
短い言葉を交わしてナイツは下がり、琉漣が前に出る。
四脚の機動機械【戦闘式・機械蹂躙】が脚を延ばして迫る。
先程までとは違い高い位置を確保した体勢のお陰で、仰け反る禍鬼の顔が良く見える。
両手で目を覆いながら滅多矢鱈に尾を動かしてくるが、より動きが単調になっている。
「迂闊っ!」
伸びてきた尾を機体に付いた尾で叩き込む。
奇しくも、機体の尾は禍鬼と同じくサソリ型。
姿形が同じであれば、動作も似通うものだ。
叩き込まれた尾を四脚の右前脚で踏み付け行動を制限した状態で、両腕を振り上げる。
此処までは只の飾りと化していたパイルバンカーが、愈々牙を剥く。
本来であれば即座に身を捻る等の対処をしていたであろう禍鬼だが、生憎両目を潰されている事で何が行われようとしているのか察知出来ずに居る。
「両方持ってけぇ!」
振り上げた両腕を、一気に振り下ろす。
狙う先は痛みで歪む口の中。
幾ら防御のバフを受けているとは言え、眼球が弱点だった様に口内は脆い筈。
殴り付けた勢いをそのままにパイルバンカーを射出。
「グゥッ!!!」
驚いた事に、伸び出た鋼芯を禍鬼は歯で抑えに掛かった。
ぎ、ぎぃ、っと強く擦れる音が鳴り響く。
射出の勢いで喉や背骨辺りを打ち壊す予定だったが、文字通り鬼の様な力でそれは止められた。
とは言え、口内に鋼芯が留まっているのも事実。
「逝って!」
爆破信号を送り、即座に離脱する。
攻撃を防ぎ切ったと勘違いし口内の異物を吐き捨てようと、禍鬼が頬を膨らませる。
次の瞬間。
轟音と共に閃光が広がり視界を埋め尽くす。
咄嗟に目を瞑った琉漣が次に目を開くと、半分以上吹き飛ばされた禍鬼の頭部が見えた。
上顎から左目が消失し頭部は左右に分かたれ、湯気を放ちながら血を噴出している。
しかし、この状態でもまだ生きている様だ。
余りにしぶといその体力に、これが車懸かりの陣の効果かと冷や汗を流す。
そんな琉漣の横を通り過ぎる、小柄な影。
(――どんな生き物でも、頚が飛んだら死ぬ)
夜風は歩みを進めながら心を研ぎ澄ませて行く。
彼女が使える技は唯一つ。
故に、その一太刀で必ず殺す。
それだけを課し鍛え上げてきた。
歴戦と呼ばれる猟兵と比べれば確かに経験では劣るかもしれない。
しかし、唯一、この技の冴えだけは引けを取らない。
それ故の『一撃必殺』だ。
「早く、止めを――」
禍鬼の回復を危惧する琉漣が彼女を急かそうとするのを、ナイツは左手を挙げて制した。
「大丈夫だ、見てろ」
自身有りげに笑うナイツ。
その表情に言い掛けた言葉を飲み込み、琉漣は視線を禍鬼から夜風へ。
(さあ)
全ての音が意識から取り除かれ、自身の呼吸や鼓動さえ消え去る感覚。
澄み切った水面に一滴の水が落ち、静かに波紋だけが広がっていくその心境で夜風は右腕を動かした。
(――頚を置いていけ)
ユーベルコード【太刀風】の発動。
音も光も置き去りにして跳んだ彼女が放つ、必殺の抜刀術。
「雷堂流合戦礼法、抜刀術……太刀風」
失せた景色の中、ぽつりと夜風が呟く。
それは屠った相手への手向け。
全てが意識に戻ってきた時、禍鬼の頚が宙を舞って足元に落ちて来る。
しゅうしゅうと妖しげな湯気を立ち上らせながら再生していく頭部。
一秒と経たずに元通りの形を頭部が取り戻し。
「――――
!!!!」
カッと見開いた両目が夜風を睨み付け、色を失いそのまま更々と崩れていった。
同時に、肉体も地に伏せ端から崩れていく。
「な、大丈夫だったろ」
爽やかにニカっと笑ってみせるナイツ。
その笑みを見て、琉漣は勝利したのだと実感した。
「うわ……まさかの激辛メタだとぉ。こうなるとうちは火力ないんだよね……」
ユーベルコード【純白なる女神の騎獣】で呼び出した真っ白な巨象『愛羅』に跨りながら憂鬱げに言葉を零すパリジャード・シャチー。
彼女の代名詞とも言える超激辛調味料を使ったデバフ兼スリップダメージが、禍鬼には全く効いていない。
一本でダメなら二本だ、と言わんばかりに送り込む量を増やしてみても禍鬼は涼しい顔。
距離を取り空中から仕掛けているので反撃は貰っていないが、彼女単騎での攻略は難しそうだ。
「成程……厄介ですわね」
パリジャードの後ろに乗っているオーキッド・シュラインは顎に手を当てて思案顔だ。
彼女は当初、範囲火力の乏しさを懸念していた。
大軍相手の場合、単体火力に優れる技は多いが同時攻撃となると一工夫が必要なものが多い。
その点で言えば今回は一体を受け持てば良いので気は楽である。
「うちの風は範囲に優れるけど、威力に乏しいとこがあるから。でもでも風は火を大きくすることだってできちゃう」
気持ちを切り替えたらしきパリジャードの声に、オーキッドはふむんと一つ頷く。
「だったら合わせてみましょうか。火は風に煽られてさらに勢いをましますわ。やれますわよね、パリ」
「オッケー、任せて爛華ちゃん! 風と炎はずっ友なんだぜ!」
「相変わらずこっちを振り切ってくるテンションの振れ具合ですのね……!」
さっきまでのしょんぼりパリちゃんは何処へやら、ノリノリでウインクを向けてくる。
長い付き合い故の空気感に小さく笑って、視線を下へ落とす。
禍鬼は手の届かない場所に居る二人を見上げ、挑発する様に金棒を地面にガンガン打ち付けている。
その行動を見る限り、余り知能は高くない様に見える。
彼にとって見れば、二人は飛び上がって逃げた小鳥の様なものなのかもしれない。
「んー……どうせ倒すとは言え侮られっぱなしなのは癪ですわね」
「なら嫌がらせして冷静さでも奪ってみる? 頭に血が上ったら人でも獣でも御し易くなるし」
「ですわね。わたくしはギリギリまで力を溜めて置くので、回避や牽制はお任せしますわよ」
「おっけーい!」
愛羅と呼吸を合わせながら禍鬼の頭上を取るパリジャード。
禍鬼は大きな尾による重心位置のズレからか、直上を見上げるのはキツそうだ。
唸り声を上げながらちょこちょこと位置を調整して此方を捕捉してくる。
「ま、嫌がらせ程度には良いっしょー」
ユーベルコード【無双風刃】を使い禍鬼へと仕掛ける。
不可視の刃は遮られる事無く肉体を斬っていくが、その傷跡は極浅い。
血も流れ出ない様な浅い傷が無数に刻まれるも、禍鬼は何処吹く風。
偶に刃が眼球や鼻穴等を傷付けるので、その時だけは鬱陶しそうに顔を振っている。
「普通のオブリビオン相手なら血塗れになって激辛ソースが猛威を奮う筈なのに、やっぱチートだよチート」
ぷんすこと可愛らしくぶーたれてみるパリジャード。
普段は万能に近い働きが出来るだけに、今回の様な相手は厭らしいと感じている様だ。
そんな彼女を生暖かい目で見守るオーキッド。
割と賑やかな空だが、地上ではアララギ・イチイが静かに機を窺っていた。
「46…………48…………漸く半分ねぇ」
彼女は戦場に着くなりやや離れた位置に腰を下ろし、武器改造技能を駆使して大型砲を構築していた。
使用したのは装備品の『通称名:砲身・機関部・動力炉』だ。
自身の和服に白衣と言う出で立ちも相俟って戦場では中々に目立つ装いだが、上空の二人が丁度良い目晦ましをしてくれている。
攻撃目標が二人から此方へ向いた時用に『戦闘人形フギン・ムニン』を伏せている。
距離も有る所為か、まだ此方には気付いていない様子だ。
「52…………54
…………」
エネルギー充填率を示すメーターが徐々に上向くのを眺めながら、イチイはじっと待つ。
大型砲の背後にはユーベルコード【追加武装コンテナ・電力供給特化型ドローン】で召喚したドローンが鎮座している。
本来は52体出現するのだが、流石にそれだけ並べると目立つので合体させている。
大容量蓄電装置に刻印されている数字は52。
最早数えるのも億劫な程の出力と容量を誇っているが、それでもじわじわとしか動かない充填率メーターが大型砲の凄まじさを物語っている。
「この出力での稼動は久し振りねぇ。良いデータが取れそうだわぁ」
少し声色に楽しそうなものが混じっている。
この辺りが、彼女がマッドサイエンティストと密かに噂されている理由かもしれない。
一応、反動対策として『多機能性ロングブーツ』から射出したパイルを地面に刺して身体を固定している。
言い換えれば咄嗟の回避運動が出来ない、と言う事でも有る。
が、そんな事はこの強化型荷電粒子砲の火力の前には些事だ。
「うふふ、まだかしらねぇ」
今度ははっきりと声を弾ませながらメーターを見遣る。
充填率は70%を少し超えた所だ。
わくわくとイチイがメーターを見守る最中、遂に禍鬼が動き出す。
襲い来る不可視の刃と逃げ回るパリジャードとオーキッドに痺れを切らしたのか、禍鬼は尾を振り回し始めた。
「ん、何やってるんだろうね?」
攻撃が届かないにも関わらず大袈裟な挙動を見せる禍鬼に訝しげな視線を送るパリジャード。
禍鬼は後方へとピンと尾を伸ばし、それをゆっくりと掲げ始めた。
徐々に此方へと近付いてくる尾。
とは言え、完全に直立させたとしてもまだ届きはしない、そんな距離。
警戒しつつ不可視の刃を送り続けるパリジャードは気付かなかったが、代わりにオーキッドがそれを聴き付けた。
「グルルルル……!」
「唸り声……パリ! 霆が飛んできますわよ!」
「なんとぉー!」
即座に刃を止め、愛羅の足元を覆う雲を延ばし即席の盾を作り出す。
ほぼ同時に紫電が尾先を這い、周囲へ霆を迸らせる。
「おおぉぉぉう!? セーフ! ぎりぎりセーフ!」
咄嗟とは言え張り巡らせた雲がシールドの機能を果たしたらしく、抜けてくる雷撃は無かった。
万一の対応策を考えていたパリジャードと、些細な変化も見逃さない注意力を持ったオーキッド二人のファインプレーだ。
一方今の一撃で仕留めたと思っていたらしい禍鬼は、未だ健在な二人を見て腹立たしそうに地面を金棒で殴り付けている。
「流石に今のは焦りましたわね」
「胴体中心に出してたからてっきり基点は固定なのかと思ってたよー。バカっぽいのに中々やるじゃん」
一度防いでしまえばもう脅威では無い。
嘲笑う様に飛びつつ時間を稼いでいると、遠くに潜んでいたイチイが此方に手を振っている。
如何やら向こうの準備は完了した様だ。
「爛華ちゃん、パワーどんな感じ?」
「ええ、十分ですわね。反撃と行きましょうか」
「おっけーい! タイミングは合わせるよ!」
ずっと力を溜めていたオーキッド。
その実に宿る炎を封印していた左腕の周囲に、火の粉が弾ける様に舞い始めていた。
はらりと包帯を巻き取れば、普段よりも強く激しくうねる地獄火が姿を見せる。
「うふふ、此処まで煉ったのは久し振りですわね」
「背中が若干あっちぃですぜ!」
「あら、ごめんあそばせ」
力を溜めた所為かテンションも上がっているオーキッドにくすりと笑いを零して、パリジャードは改めて眼下の禍鬼を見遣る。
これまでに飛ばしていた不可視の刃。
嫌がらせとヘイト稼ぎの意味合いも有るが、実は攻撃の通り易い場所を密かに探る目的も有った。
解ったのは一般的な人型オブリビオンと同じく、目・鼻・口が弱点と言うもの。
「狙いは顔だね。体内に潜り込ませて内側からヤっちゃおうか」
「ですわね。ならもう一度霆を撃とうと準備に入った瞬間を」
そんな会話をしているとは露知らず。
禍鬼は再び尾先から霆を飛ばそうと尻尾を伸ばす。
先程よりも動作は機敏になったとは言え、その格好は隙だらけだ。
「すべてを切り裂き、灰燼に返せ! 陽炎纏う不可視の刃!」
「風の刃よ、炎に染まりなさいませ!」
風を纏いし不可視の刃が生まれ、触れたものを燃やす蘭の炎が舞う。
それらは互いに重なり合い、燃え盛る花弁の刃となって禍鬼へと襲い掛かる。
「無!」
「双!」
『炎風刃!!』
二つの声が重なる。
互いのユーベルコードを合体させる事で威力を数倍にも増した炎風刃は、狙い違わず禍鬼の目・鼻・口を切り裂き焼き捨てながら潜り込んで行く。
堪らず顔を両手で覆う禍鬼を襲ったのは、光撃。
「発射ぁ」
間延びした声と共に引かれたトリガー。
即座にこれまで充填していたエネルギーが照射される。
それは純粋で圧倒的な暴力と成り、禍鬼を覆い尽くしていく。
内と外。
両側から冒涜的なまでの攻撃を浴びせられた禍鬼は一秒と保たず、光の奔流へと消えて行った。
超大な防御力と回復力。
その両方を得ていたにも関わらず一撃で禍鬼は消滅した。
「…………ちょっと、やりすぎた気がしますわ」
「まぁオブリビオンだし」
「そうですわね」
凄まじい威力に少し呆気に取られていたオーキッドとパリジャードだったが、向き直ってハイタッチを交わす。
地上では、良い笑みを浮かべながらイチイが今のデータを打ち込んでいた。
「うふふ、まだまだ改良出来そうだわぁ」
果たして何処まで威力を伸ばす心算なのか。
それは彼女にしか解らない。
戦場の両端で行われていた戦い。
その何方もが猟兵側の勝利で終わった事を認識し、戦場に残る最後の一体の禍鬼は組んでいた腕を解いた。
その眼前には同じく腕を組んで精神を集中させていた二人の男が居る。
ワズラ・ウルスラグナ。
生粋の戦闘狂にして戦獄龍の二つ名を持つ、武闘派のドラゴニアンだ。
漆黒の肌を撫で上げる地獄の炎と、強敵を求め彷徨う金色の双眸が対峙するものにある感情を植え付ける。
彼と同じく強敵との戦いを楽しむものには震え上がる程の高揚感を、そうでないものには怖気立つばかりの恐怖を。
その顔には禍鬼と同等か、それ以上の渇望を秘めた笑みが湛えられている。
シャノン・ヴァールハイト。
猟兵として人を護り救う為に立ち上がった守護者にして、死者の声を聞き、招く人間だ。
普段は白いロングコートに身を包み軽装での戦闘を行うが、今日は真の姿を晒しての参戦。
下に着ている『黒妖犬の皮鎧』は同じだが、その上に着込んでいるのは金色の鎧と脛当て、そして自身の左腕を覆う様にデザインされた片翼が目を引く。
真っ直ぐに禍鬼を見据えるその瞳は、一切の迷いも澱みも無い。
「グルゥ……」
一方の禍鬼も、他の二体とは違っている。
先ず目を引くのはその巨体だ。
ワズラもシャノンも、その身長は2mに届こうかと言う長身だが、この禍鬼はその二人よりも背が高い。
体躯の大きさは質量の大きさに繋がり、質量の大きさはそのまま破壊力の大きさに繋がる。
次に特筆すべきは、この個体の思考力。
先の二体は何方かと言えば未熟な、戦士としては不完全な個体であった。
しかし、この禍鬼は違う。
戦端が開かれる前、この個体が指示を出し他二体を戦場の両端へ移動させた。
その後は二体の戦いが終わるまで腕を組み、静かに時を待っていた。
狂った様に血肉を求め争う鬼のオブリビオンとは一風変わった、武人らしさを感じさせる特異な個体。
知性を感じさせるその行動と、他二体とは隔絶した力量を感じ取ったワズラとシャノンは、その心意気に応える為、と言うよりは此方側の被害を最小限に留めつつ確実にこのオブリビオンを屠る為に、付き合って待っていたのだ。
構わず攻撃を仕掛けていたら、この個体は迷わず他二体の禍鬼を呼び寄せ乱戦を仕掛けて来ただろう。
一体ずつならただ硬いだけの相手でも、有能な個体の指揮下に入ればその脅威度は何倍にも増す。
この車懸かりの陣がその好例だろう。
だが、そうはならなかった。
「ふむ」
納得した様子でワズラは背負った巨大で武骨な鉄塊剣『暴風龍サルヴァ』を抜く。
彼が身に付けているのは精々簡素な腰巻とサルヴァくらいのもの。
防具の類は無い。
いや、寧ろ必要無いと言った方が正しい。
数々の戦いを通して鍛え上げられた肉体と、その身を焦がしながら煉り上げられた地獄の炎は下手な防具よりも、或いは鍛えられた一品よりも堅牢だ。
「邪魔が入らぬのであれば自らの武を試す機会とする、か。俺個人としては非常に好ましい相手だ」
口の端を歪め、不敵に笑う。
ともすれば邪悪とも取れるその笑みに、禍鬼は静かに唸りを返すのみ。
「盛り上がっている様で悪いが……」
じくじくと煮え滾る闘争心を宥めるワズラへ、シャノンが声を掛ける。
「ブッ飛ばして良いんだな?」
「あぁ、構わん。強敵との戦いは心躍るものだが、オブリビオン相手に手を抜く道理も無いのでな」
戦闘狂ではないシャノンにはワズラと禍鬼の間で交わされる機微は良く解らなかったが、気兼ね無く挑んで良いのならば特に難しい事は無い。
普段通りに倒し、滅する。
腰に下げた『堕銀の剣』を抜き放ち構えると、禍鬼も地面に突き刺していた金棒を右手で持ち上げる。
「油断無く挑ませて貰う」
「行くぞ」
同時に、二人が地を蹴った。
先に仕掛けたのは右側に居たシャノン。
禍鬼の胴体を真っ二つに割る軌道で剣を股下から脳天に向かって切り上げる。
それをバックステップを踏み剣先で胸元の皮膚をなぞられながら躱した禍鬼へ、今度はワズラのサルヴァが迫る。
金棒を持つ右手、その先の肩口を狙っての一撃。
後ろに下がりながらでは防ぎ辛いその攻撃を、禍鬼は強引に振り上げた金棒で防いでみせる。
重く響く嫌気的な金属音。
その音に違わず凄まじい威力を持った攻撃の余波で禍鬼の身体は後方へと滑る様に押し流される。
踏ん張る爪先に押され盛り上がった土の高さが踝を越えた辺りで漸く動きが止まった。
そこへ、今度はシャノンが剣を構えて突撃する。
しかし禍鬼も見ているばかりではない。
「グラァ!」
吐き出される空気に振るわされた声。
それが届くと同時にシャノンの右側から胴を薙ぐ様に尾の一撃が放たれる。
シャノンは即座に攻撃を止め、右足を踏み抜いて宙へと逃れた。
その勢いも利用し、きりもみ回転をしながら自身の真下を通り抜ける尾へ剣の一撃を見舞う。
今度は甲高い金属音が鳴る。
同時に手に帰って来たのはこれまでに経験した事の無いような重み。
剣自体に刃毀れや軋みの様子は無いが、剣を伝い手首に響いてくる重さは並大抵のものではなかった。
「ちっ」
小さく舌打ちをしながら体勢を整え着地するシャノン。
あれだけの速度と威力を以って打ち合わせたにも関わらず、禍鬼の尾に目立つ傷は無い。
ならばと次撃を繰り出したのはワズラだ。
尾の一撃を見るなりあっさりと鍔迫り合いを捨て飛び退き、地面へとサルヴァの切っ先を埋め込む。
そこから滑らせる様に刃を動かし、向かってくる尾を切り上げた。
言わば地面を鞘に見立てた居合い抜き。
激突音が鳴り響くが、攻撃はそれで終わりでは無い。
「戦場は焦土と化すが相応しい」
ユーベルコード【戦獄龍火輪】の発動。
ワズラの肉体から吹き上がる戦獄の焔がサルヴァを伝い、尾を熱で包む。
「グルルァァッ!!」
摂氏44000度。
青く輝く恒星の表面温度程も有る熱量には流石に耐え切れなかったらしく、搾り出す様な声と共に尾が焼き切れ、明後日の方向へと飛んでいく。
それを見たシャノンは一瞬目を見開くが、戦獄の焔の効果は無差別では無い。
故に煮え滾る陽炎から熱波が飛んで来ないのを確認して、シャノンは追撃に移った。
喉元を狙っての突き。
直ぐ様禍鬼は反応し上体を仰け反らせて回避する。
だがそれは織り込み済みだ。
仰け反り身体の稼動範囲が限定された瞬間を狙って、左の拳を掬い上げる様に放つ。
拳が吸い込まれたのは腹。
自慢の怪力が臓腑を砕かんと迫るが、禍鬼は焼き切られたばかりの尾の反動を使って身体を浮かせ、後方へと吹き飛ばされる事で勢いを殺した。
その行動を予期していたワズラは地を踏み抜く。
先程の熱の余波で彼の足元は液体化しているが、獄熱を宿す彼には関係無い。
歩幅も相成りたった一歩で距離を詰める。
ニヤリと笑いながら、彼は背負い投げる様にサルヴァを叩き付けた。
逃れようにも吹き飛んだ姿勢が逃げ道を制限している。
横倒しになっている状態では精々が左右へ身体を捻る程度。
背後は地面で前方は空だ。
尾を支点に動こうにも時間が足りない。
となれば取る手段は一つ。
再び、重い金属音が鳴り響く。
それに合わせてワズラが戦獄の焔をサルヴァに纏わせる。
だが禍鬼も黙っては居ない。
「グルルァ!」
紫色の霆が奔り抜け、金棒を伝う。
ぶつかり合う焔と霆。
互いに高いエネルギーを持つそれらの衝突は、大きな爆発を引き起こした。
「ほう!」
「むっ」
ワズラは吹き飛ばされながらも楽しげに声を上げ、空中で両翼をはためかせ体勢を整える。
シャノンは爆炎を片翼で防ぎながらも前へ出て、攻撃の機会を窺う。
禍鬼は爆風で勢い良く転がって行きながら距離を取り、尾で地面を強か打ち付ける。
見れば焼き切った筈の尾先は元通りに生え直しており、ダメージが残るのは再生の及ばない金棒だけである。
「成程、これが車懸かりの陣による回復効果か」
「善い善い。それでこそだ」
冷静に回復までの時間を計るシャノンとは対照的に、ワズラは実に楽しそうな笑みを浮かべている。
「防御力も上がっているとの事だが、焔で十分貫ける様だな」
「つまりは、一撃必殺の攻撃を叩き込めと言う事なのだろう? 内容は理解した」
シャノンの横へと降り立ち、両翼を折り畳むワズラ。
剣を合わせてみたが、力量は此方が上だ。
ならば負ける道理は無い。
「仕切り直しと行こう」
「さあ、俺と殺し合え!」
二人に応える様に、今度は禍鬼が地を蹴った。
その肉体とは裏腹に軽快な足取りで迫る。
「試してみるか」
一歩、シャノンが前に出る。
それを見て禍鬼は先程ワズラがやって見せた様に、背中へと金棒を回す。
眼前に至る瞬間を狙い、禍鬼は金棒を振り下ろした。
それも身体を捻り勢いを増しての一撃。
対するシャノンは左腕を上げ片翼を使って攻撃を受け止めた。
此方から仕掛けた時とは違い、肩から全身へと攻撃の重みが圧し掛かる。
踏ん張った足元が地面へと沈み込んでいく。
流石に耐え切れまいと、禍鬼はその醜悪な顔を歪めて笑う。
「確かに重い一撃だ。だが……それだけだな」
が、翳した腕の下から覗くシャノンの瞳は燃える輝きを宿したまま。
渾身の一撃が然程の効果も齎していない事に、思わず禍鬼は動きを止めて歯を剥いた。
それこそが致命的なミス。
「今度は逃さん」
いつの間にか禍鬼の背後へと回り込んでいたワズラが、尾の付け根へとサルヴァを滑らせる。
無論、戦獄の焔も一緒だ。
「グオォォォ!!」
叫びと共に切断され宙を舞う尾。
これで動きは人と変わらなくなった。
トリッキーな動きでの回避は不可能となり、純粋な技量か耐久力が試される事となる。
「鬼を名乗るなら耐えて見せろ。コレはただの暴力だ」
禍鬼が身構えるより早く、シャノンは一度引いた左の拳を握り締める。
奇しくも先の攻撃で押し込まれ踏み固められた為、地面は彼の一撃を支えるのに十分な役割を果たす。
ユーベルコード【全力全壊の一撃】の発動。
顎先ではなく喉元を狙って放たれたアッパーカット。
大気を震わせながら昇っていく衝撃は遥か頭上の薄雲さえをも撒き散らして行く。
当然、そんな一撃を受けて立っていられる筈も無く。
「グ……ガ……」
漏れ出た呼気が音となって空に溶けて行くのと同時、禍鬼の身体も崩れ去って行く。
風に吹かれ消え去った身体の向こうでは、ワズラが背中にサルヴァを仕舞い込みながら満足そうに笑っていた。
「見事だ」
「それほどでもない」
謙遜か照れ隠しか本心か。
ぶっきらぼうに返すシャノンに、ワズラは益々笑みを濃くした。
「剣も使うようだが、得手は徒手か?」
「ああ。剣には剣の良さも有るが……」
「が?」
「やはり破壊力を求めるならコレが一番だな」
そう言ってばしっと左の拳で右の掌を打ってみせる。
アレだけの一撃を放って猶、反動で身体を痛めていない。
「見事だ」
もう一度同じ言葉を繰り返して、ワズラは心からの称賛を贈るのであった。
大成功
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