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エンパイアウォー⑧~屍奇

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●守るための戦い
「農民を守るために力を貸してくださいませ」
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)がそう言って人を集めた。ほんの、数人。

 グリモアベースの夏。
 猟兵たちはサムライエンパイアの戦争に尽力していた。

「山陰道の防御指揮官である安倍晴明は、奪った鳥取城を拠点として、猟兵と幕府軍を壊滅させる準備を行っています。皆様には、安倍晴明の策を破って頂きたいのでございます」
 ルベルは説明を始める。

「行き先は鳥取城が望める農村近くとなります。農民たちが連れ去られようとしているので、救出していただく、という作戦になります」

「鳥取城は、有名な『鳥取城餓え殺し』が行われた場所であり、恨みの念が強く残っています。安倍晴明は鳥取城に近隣住民を集めた上で閉じ込め飢え死にさせようとしています。そうすることで、奥羽の戦いで使用した『水晶屍人』の十倍以上の戦闘力を発揮させる事が可能となるのです」
 『水晶屍人』は、戦国時代でも最も惨いと言われる殺され方をした住民の怨霊を利用して生み出されている。現地にいる撃破対象の『水晶屍人』は10体。10体で猟兵と渡り合えるぐらいの超強化を施されている。
 安倍晴明の策が成り、さらなる強化型『水晶屍人』量産の暁には、山陰道を通る幕府軍と猟兵全てを殺し尽くしても、ありあまる戦力となる。そう説明し、ルベルは猟兵たちを順に見た。

「『水晶屍人』達が、鳥取城に連れ去ろうとしている所に駆け付けて『水晶屍人』を撃破し、人々を救出してください。時間はあまりありません。此処にいる皆様にしかお願いできないのです」

●城下に日はまだ見えぬ
 時刻は夜であった。

「ひ、ひぃっ!!」
 農民たちが逃げ惑う。化け物だ。化け物が現れた。

 のったりと。
 ゆぅらりと。
 ひたひたと。
 死臭を漂わせ、水晶屍人が農民に迫っていた。

 ひとり、女人が駆ける中で足をもつれさせ。
「おっかあ!」
 こどもが必死に道を戻ろうとして、がしっと大人の手によって抱きかかえられた。
「やだ! 放せ、おっかあが。おっかあが」
「きゃあああ!」
 悲鳴があがる。
 屍人にがしりと足首を掴まれ、肩を掴まれ、持ち上げられた母が連れていかれる。その間際必死に恐怖に震える顔を坊やに向けて。目に焼き付けるようにしながら恐怖に噛み合わない歯で。
「に、逃げ、なさい」
 ――強く生きるのよ。

 泣きわめく坊をしっかと抱きしめ大人が道を往く。そして、呻いた。
「あ、ああ……」
 その道を塞ぐのは絶望撒き散らす屍人たちであった。

 ――逃がさぬ、と。

 猟兵たちは予知を覆す力を持っている。
 まだ、時間はある――急げば間に合う!

「お救いください」
 グリモアが鮮烈に光れば戦場への道となる。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。

 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
 諸々の事情により、参加人数が6人以上の場合は採用されにくくなります。申し訳ありませんが、ご容赦くださいませ。

 それでは、よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『水晶屍人』

POW   :    屍人爪牙
【牙での噛みつきや鋭い爪の一撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    屍人乱撃
【簡易な武器や農具を使った振り回し攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    水晶閃光
【肩の水晶】の霊を召喚する。これは【眩い閃光】や【視界を奪うこと】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:小日向 マキナ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

白波・柾
……なんと、なんと酷な光景なのか
このような悲劇は……起こさせてはならないというに!
子は親と添い、そして独り立ち、また新たに家庭を築くものだ
それを妨げる害成すものがあるならば、この刃を振るうに足りる
いざ―――尋常に、勝負だ!

可能ならば他の猟兵と連携をとりたい
敵が一般人を狙うならば「殺気」を放ちこちらに「おびき寄せ」て
「投擲」で長髪を行いつつ一般人が逃げ切るまで「時間稼ぎ」を

そして誘い出した敵を「傷口をえぐる」「鎧無視攻撃」「鎧砕き」「なぎ払い」を併用した【正剣一閃】で攻撃しよう

攻撃を受けそうならば「オーラ防御」「激痛耐性」で耐え
「カウンター」による「咄嗟の一撃」の「なぎ払い」で反撃を行っていこう


遠呂智・景明
アドリブ・連携歓迎

飢え殺し、ね。
効率的だが非人道的で気に入らねぇ。
そんな策が成るのはなおのことイラつくぜ。
ぶっ殺す。

水晶だろうがなんだろうが、人型なら斬り方は変わらねぇな。
●早業で刀を抜いた勢いのまま、風林火陰山雷番外 風・林。首を落とす。これで一体。
返す刀で、残りの敵の手足を狙い●2回攻撃。
守りを固めようが●鎧無視攻撃だ、装甲の上からぶった斬る。

とっとと成仏しやがれよ。


紫野崎・結名
…ゾンビ
何かを感じる心も、無いのかな…
…なんだか、それは寂しい…

怖いけど…、たぶん、ここには恐怖に立ち向かうための、音楽が必要…そう思ったから
だからがんばる


怖いので【黒い天使】が一体展開しっぱなし

【楽器演奏】の技能を活かしつつ【逃げ足】で逃げながら、浮遊するスピーカーのFloat on soundを展開し【休息のソナタ・ダ・カメラ】を演奏するよ
これで村人たちを【鼓舞】したり癒したりして、逃げるのを、支援
ゾンビたちは楽しむ心がもう、たぶん無いから…行動が遅くなると思う
【マヒ攻撃】も音の効果に乗せられたら良いな…

【黒い天使】は恐怖を向けた相手(敵)に対しオート戦闘していく感じ


ジャック・スペード
死者の魂を弄ぶだけでは飽き足らず、生者にまで手を出すか
清明と云う男は随分と趣味が悪いようだな

現場に駆けつけ次第、農民の盾と成り彼等を庇う
――助けに来た、もう大丈夫だ
アンタらのことは必ず守って見せる

召喚するのは炎を纏った大剣
其れを振り回し衝撃波で広範囲に攻撃を行い牽制を
村人たちを背に庇いながら立ち回りたい
遠くの敵はリボルバーから光の弾丸を放ち攻撃
近くに遣って来た敵は、光を纏った刀で切り捨てる

お前たちにも積もった怨みが在るのだろうが
今を生きるヒトを害するのならば容赦はしない

振り回し攻撃は軌道を見切って避けるか
其れが無理なら怪力で受け止める
可能であれば得物を壊してしまおう
損傷は激痛体勢で堪えてみせる


トリテレイア・ゼロナイン
各地に配された「魔軍将」
そして多重に仕掛けられた幕府軍への「脅威」
直接相対せずとも魔王信長の脅威をひしひしと感じます
ですが、戦況はここが正念場。幕府軍を島原に送り届ける為、絶対に安倍晴明の策を阻止せねばなりません

それに、「餓え殺し」の怨霊が更なる悲劇を生むなど余りにも悲しすぎるではないですか…

機械馬に●騎乗し現場に突入
センサーや●暗視で●情報収集を行い屍人と襲われている住人の位置関係を●見切り、危険度の高い住人を●かばう為、UCを屍人に●スナイパーで撃ち込み行動阻害

そのまま凍らせて●怪力で振るうランスで砕きます

自力避難が困難であれば●怪力で自動●操縦で動く機械馬に乗せ退避
自分は戦闘を続行します


アレクサンダー・ヴォルフガング
強化された個体が10体……骨が折れるな。人々の救出を優先しながら水晶屍人を各個撃破する。

まずは屍人の手を狙ってロンリーウルフで撃つ。手を【部位破壊】すればもう連れていくことはできないだろ。
そのまま【ダッシュ】で近づいて左手で殴って【吹き飛ばす】。あとは村人の安全を確保して、可能なら逃走の手助けをする。無理なら【かばい】ながらの戦闘になるが、なんとかしてみせる……役目だからな。

左腕の他にもロンリーウルフの斬撃と【零距離射撃】で【二回攻撃】等で敵に対処する。さすがにこいつらは不味そうだから喰う気は起きない……向こうはお構いなしだから注意しないとな。



●二季
 深更、風鳴りて暑気未だ厚し。
 虫が鳴いている。もう二月もすれば紫花咲かせん盛りの緑がか細く震える。生温く緩く夜風が吹いているのだ。

(……なんと、なんと酷な光景なのか。このような悲劇は……起こさせてはならないというに!)
 白波・柾(スターブレイカー・f05809)が予知の惨劇に憤り、夜闇を駆ける。

「に、逃げろぉ!」
 赤子が泣いていた。
 腰の折れ曲がった翁がおぉよしよしと宥めようとしてギクリとする。強烈に鼻を突く腐臭。吐き気が込み上げるより先に恐怖が心を支配した。つま先から頭まで震えが走り膝が嗤って強張った。そこに手が伸びる。同時に、女人が足をもつれさせて転ぶ声が耳朶を打つ。子供が叫んでいる。おっかあ、と。翁の手から赤子が奪われた。女人が亡者に掴まりそうだ。
 赤子が泣いていた。子供が泣いていた。
 奪われていく。取り返しのつかない何かが起こってしまう。
 翁は眼を見開いたまま彫像のような体で口を必死にぱくぱくさせた。返せ、と言おうと出した声はか細き空気となり舌がもつれた。奇天烈な音にしかならぬ。
「あぇ、え」
 やめろ。
「ぁえ、」
 やめてくれ。なあ。
 亡者の聲がひたりと据えられ、鍬が振り上げられた。錆びた鉄が鈍く殺意に尖っている。凶器だ。死だ。声もなく身を竦め運命を迎えようとする翁。もう声も出ぬ。
 ――そこへ、涼風が吹いた。キン、と高い金属音が鳴り、飛んできた何かが亡者の腕から鍬を弾いて地に落としている。

 亡者の腐肉の身の内、ピリリと心の臓に氷のように冷たい意思の手がひと撫で。其処に在ると確信せしのちは、ただちにグシャリと握りつぶすような凄烈な気配が放たれた。ぞくりと身を震わせる亡者たち。村人も同様に只ならぬ気配を感じていた。
 刺すような空気は圧倒的な殺意を持って敵を視る。
 灯籠が道照らすが如く白波・柾の橙色の眸が亡者たちを睨んでいた。ビリビリと、殺気が場に充ちる。夕焼けを封じ籠めたような軍靴が誇り高く払暁ノ音鳴らす。
「子は親と添い、そして独り立ち、また新たに家庭を築くものだ
それを妨げる害成すものがあるならば、この刃を振るうに足りる
いざ―――尋常に、勝負だ!」
 大太刀『星砕丸』が勇猛に構えられれば七宝小玉の連なる房付き武器飾りが誘うように揺れる。

 次いで、亡者が怒りの声を放つのが聞こえた。
「死者の魂を弄ぶだけでは飽き足らず、生者にまで手を出すか。清明と云う男は随分と趣味が悪いようだな」
 ジャック・スペード(J♠️・f16475)が重厚な声を夜気に低く響かせる。腕には女人を抱えていた。亡者の手に落ちるより早く女人を救いあげたのだ。
「あ、あんたたちは、もしや猟兵さん?」
「――助けに来た、もう大丈夫だ。アンタらのことは必ず守って見せる」
 亡者の群れから彼らを守るべく立つ巨体は黒き要塞のようであった。女人を慎重におろしてジャックは剣を喚ぶ。大きな剣は夜の地上を照らす鮮やかな炎を纏い、暗闇に猟兵の勇壮な姿を映しだしたのである。

「よしよし、爺ちゃんのとこ行こうな」
 ほんの僅か口元の空気を震わせる程度の囁き。
 アレクサンダー・ヴォルフガング(孤狼・f21194)が火のついたように泣く赤子を亡者の手より奪い返し、追い縋る鋭い爪をひらりと身を屈めて避けながら距離を取る。翁に赤子を手渡す際は特に言葉をかけることなくいっそ素っ気ない。何か言うわけでもなく礼を聞くこともなく背を向け、アレクサンダーは低く体を沈めるようにして亡者に向かう。
(暑いな)
 農村は暑かった。振り切るように一つ地を蹴った。胸元でシルバーのペンダントが揺れて軽い音をたてれば頭が冷える。迎え撃たんと鋭く頭上から振り下ろされる爪よりも疾く異形の左腕が亡者を殴っていた。粘つく唾液を銀光りさせ亡者が吹き飛んでいく。
 周囲の村人が2人を頼りに集まっていた。ガタガタ総身を震わせて中には腰が抜けてへたりこむ者やパニックを起こして泣きわめき避難どころか身動きも満足に取れぬ有様。

 猟兵達は村人達を守るように立ち、敵を睨む。
「ここでやるしかないか」
「倒せばいい」
 剣の炎がひときわ大きく燃え上がる。炎が揺らいで夜闇の中浮彫にするのは、餓えた鬼――屍人達。
「ああ。なんとかしてみせる……役目だからな」
 アレクサンダーは声を返し、銃と剣が融合した武器のロンリーウルフを抜いて構えた。UDC組織実働部隊にいた頃からの相棒だ。
(さすがにこいつらは不味そうだから喰う気は起きない……向こうはお構いなしだから注意しないとな)
 オブリビオンを捕食・融合するアレクサンダーは喰らう度異形化が進行していく。今は――食指が動かなかった。
 赤子が泣いている。
 はやく泣き止むといい。『ウルフ』は敵を睨んだまま、そう思った。


 照らされ尽くさぬ夜陰に紛れて充満する腐臭。異臭放つ亡者は眼窩落ち窪みて白目水晶体は濁り澱む。乾き萎びた皮膚はかろうじて骨に張り付いている。枯れ木めいた体に根付き生命を吸い上げるようにして育ちしは歪なる水晶。美しく透き通り耀きは清明なる。澄明と対比し生気退避したかの如き腰骨は切なく尖りて哀しき腹は内に臓器を萎ませ切ったようにへこみ、あばらが目立つ。手には錆びた農具がある。それしか持たぬ。それしか、持たぬ。

 月無き夜に『大蛇切 景明』の刀が鮮烈な弧を描く。
 じゃりっと足元の砂利慣らし肩幅大に開けし両の足はしっかと大地を踏みしめる。やわらかに膝の緩衝を活かし後ろ足にぐっと力を溜め。ダンッと思い切り地を蹴りて重心を前に前にと繋ぎ押し出すように前傾、弾丸めいて飛び出した男一人。その身自体が一振りの刃に似るは遠呂智・景明(いつか明けの景色を望むために・f00220)。低く駆けるうち鞘走らせる刀は輪郭をぶらして雷鳴に似た。刀とは速さである。刃滑る様は氾濫する川に似て何人にも勢い削がれず止められぬ。清冽にして凄烈な鋼線は苛烈、一切の容赦を相持たぬ。真一文字に血線走らば一拍遅れて血飛沫あがりて傷深し。哀れ敵の亡骸は断末魔すら許されずぐらり傾いで倒れるのみ。
「飢え殺し、ね。効率的だが非人道的で気に入らねぇ」
 歴史に通じる男は憤りを抱えて眉を吊り上げる。血色映せし眸は煌々とした。
「そんな策が成るのはなおのことイラつくぜ。ぶっ殺す」
 景明が紅い首巻の隙間から言の葉を放つ。履き潰した草履がまた一つ地を鳴らし、ハイカラな和服が文明開化の音合わせ。
「我こそは!大蛇切 景明! 大蛇を屠った刀、そのヤドリガミなり。さあこい、お前達の敵の首はここぞ!」

 ――臆せぬものだけ前に立て。

 風林火陰山雷番外 風・林。
 神速の名に違わぬ刀はあらゆる堅牢打ち破る力を秘めていた。只一振りが鮮やかに閃けば首落ちる。返す刀で寄る敵勢を斬り裂けばゴロリと亡者の手足が転がり腐った血液が夏草浸して地に染みる。
「とっとと成仏しやがれよ」
 散華せし闇に声を捧げてヤドリガミが次を斬る。

 その耳には鍵盤楽器の奏でる滑らかな音階が届いていた。


(……ゾンビ。何かを感じる心も、無いのかな……なんだか、それは寂しい……)
 紫野崎・結名(歪な純白・f19420)が音を紡いでいた。

(怖いけど……、たぶん、ここには恐怖に立ち向かうための、音楽が必要……そう思ったから)

(だから、がんばる)

 結名は味方の後ろから小さな手を動かし、懸命に鍵盤を奏でていた。周囲には結名の意志を動力源とする小型スピーカーが浮遊して音を拡大している。
 小さな体は戦場の空気に小刻みに震える。怖いのだ。黒髪が風に頼りなく揺れる。結名の傍にはバロックレギオンの黒い天使が主を恐怖させた敵へと自動で向かっていき散華せしめたのち、主を守るように佇んでいた。

 ――♪

 血の匂いが満ちていた。死の香りが溢れていた。人々の恐怖が空気を介して伝わってくる。亡霊屍人が口を開けて何かを叫んでいる。怖い、そして哀しい声だ。結名は果実めいた甘やかな瞳を切なく揺らした。黒い天使が動いてくれる。天使は、結名が怖いと思ったものを排除しようと自動で動いてくれるのだ。

 休息のソナタ・ダ・カメラが丁寧に紡がれる。眦が熱を持つ。指先は少し冷えていた。けれど、何度も弾いた旋律を辿る動きに鈍りはない。一音一音大切に音を出してつなげれば、音の波が世界へ拡げられていく。優しい気持ちが人々を音を媒介に励まし、安心させるように一音が跳ねた。ポンッ♪ ゆったりと落ち着かせるように音が流れる。タラララ、ター♪ 夜の生温い空気の中、音が遊ぶ。ゆったり、暖かに。リズミカルに、少し悪戯に。燥いで、ひと休みして、また歩き出そう。一緒に。

「この音は」
 村人たちはいつしか戦いの音よりも休息のソナタ・ダ・カメラに意識を攫われていた。なんと温かな音だろう、なんと優しい調べだろう、夜の空気の中ゆったりと響き渡る不思議な音は――、冷えて恐怖に固まった心をゆっくり解して、温めて、奮い立たせてくれるのだ。これが小さな女の子が奏でたものだとわかれば奮い立たぬ者がいようか、小さな小さな女の子が戦いの中身を晒して小さく体を震わせながら懸命に励ましの音を紡いでいるのだ!

 一方、屍人達は演奏により目に見えて動きを鈍らせていた。
(楽しむ心がもう、たぶん無いから)
 音が一層深くなる。黒い天使は結名に静かに寄り添った。


「鬼がこっちに来る、連中、おら達の臭いをきっと嗅ぎつけたんだ。ゆっくりだがまっすぐ向かって来てる。逃げるなら今しかない」
 様子を見てくる、といって外に出た男が戻ってきて、あばら家に身を寄せ合い息を潜めていた数人に知らせが齎される。
「あっちに皆集まってるみたい」
 音に希望を見出してそろそろと顔を見合わせ、村人たちが走り出す。
「急げ急げ!」
「連中、おら達を見て速くなったぞ」
「ひぃっ、あわわわ」
 のたりのたり、ひたりひたり。
 結名の奏でる音の影響で速度を緩めながらも屍人達が生命の輝きを執念深く追跡する。

「ひゃあっ!」
 痩せぎすの親爺がすってんと転び、足を挫いた様子で慌てながらも起き上がろうとする。
「親爺! しっかりしな!」
「おい、肩支えてやれ」
 二、三人が駆け寄り支え、速度を遅くしながらも一行は必死に脚を動かす。後ろの屍人達は――距離が縮まっている。はぁ、はぁ、と恐怖と疲労で息がどんどん荒くなる。汗が滴り落ちる。
「も、もう――」
 おらを置いていけ、と親爺が言いかけた時。何かが氷漬けになるような音がした。

「ギャッ!」
「ギャアアッ!」
 亡者の悲鳴が背後に響く。

 猛き跫音忙しく迫りて汗滲む視界で見れば白鐘の馬一つ夜裂き闇退けるように颯爽と走り寄る。馬上の武者――騎士は全身を鋼鎧に固めて眼光鋭く朗々と声放つ。
「怪我人は私の馬が運びましょう」
 巨体に見合わぬ機敏さを魅せて馬から降りし騎士トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は親爺を愛馬ロシナンテⅡに騎乗させ、自動操縦にて仲間の元へ送り出す。
「道中襲われることがあればロシナンテⅡが敵を蹴り倒し護衛となりましょう。行ってください」
 親爺を乗せた馬の周りに人々が集まり、生ある未来への逃避行を再開する。そう遠くない道の先に仲間がいる。トリテレイアは念のためにと妖精ロボを飛ばして仲間に「そちらに向かう一団がいます」と知らせた。
(10体ということでしたが、果たして残り何体なのか)
 亡者というだけあり、屍人はタフだった。倒したと思いきや起き上がり、戦線に復帰する者すらいる。
 むくり、起き上がりのろのろと怠惰にすら思える突進を見せる一体もよく見れば動けるのが不思議なほどの肉体の損傷具合であった。
 暗闇を見通すセンサーは先刻馬上からフローズン・バレットをスナイプした敵がやはり動かぬ体をなんとか動かそうと足掻いているのを捉えていた。
 緑色センサーは冷徹に光を放つ。光が照らし出す世界を足掻く其れにざくりとランスが突き立てられる。怪力にて振るわれし槍先は氷漬けの敵を容易く貫き水晶を打砕き地面に縫い留め、息の根を完全に止めた。

 ゆぅらり。
 闇から這い出るようにまた新たな影が寄る。妖精ロボが同時に「味方が村人を保護した」と情報を中継してくれていた。

(各地に配された「魔軍将」。そして多重に仕掛けられた幕府軍への「脅威」。直接相対せずとも魔王信長の脅威をひしひしと感じます。
 ですが、戦況はここが正念場。幕府軍を島原に送り届ける為、絶対に安倍晴明の策を阻止せねばなりません)

 ランスは淡々と振るわれた。
 避けられる可能性を全く感じぬと言わんばかりの猛撃はまたひとつ歪な水晶を砕き。踵を返す。トリテレイアに搭載された高精度のセンサー群は周囲一帯の情報を感知していた。近くには、もう敵はいない。物言わぬ肉塊となった残骸に背を向けて歩き出し。

 足を止めた。
 ほんの数秒。

(それに、「餓え殺し」の怨霊が更なる悲劇を生むなど余りにも悲しすぎるではないですか……)
 振り返ることはなかった。 
 騎士は、何事もなかったかのように再び足を動かした。村人と機械馬が避難した先――仲間の元へと。


「そろそろ片付きそうだな」
 煌々と炎が闇を照らし燃え上がった。ジャック・スペードが炎を纏った大剣を豪快に振り回せば火粉炎波が盛大に周囲に牙を剥く。
 空気が豪と唸れば屍人達が一歩また一歩気圧されたように後退る。後退する背後からランスが向けられる。トリテレイアが駆けつけて退路を断っていた。

 ――何体いる。

 ――何体倒した。

「お前たちにも積もった怨みが在るのだろうが、今を生きるヒトを害するのならば容赦はしない」
 寄らば光で斬り捨て御免、退けば光の弾が追い縋る。
「ァアアアアアアアアアアアア!!」
 屍人が鍬を我武者羅に振り回し飛び掛かった。ジャックの後ろには守るべき人命がある。
「言ったはずだ。必ず守るのだと」
 ジャックは怪力で鍬を受け止める。受け止め、渾身の力を指に籠め。
「アアアッ!?」
 ぐしゃり。バキリ。超人的な怪力が鍬を破壊してしまうと人々も屍人も目を剥いて驚いた。

 人々の中心には、小さな演奏家がいた。合流したロシナンテⅡに乗せてもらい馬上の演奏家となった結名は人々の心を奮い立たせる支柱のように演奏を続けていた。
 柾が正しき剣を振るいて人々に迫る悪しき刃を討ち取っていた。景明は目にも止まらぬ早業で血飛沫を幾度となくあげて敵に傷を負わせていった。

「ま、マダ、だ」
 ダッテ、と屍人が呻き声を漏らした。肩の水晶から声が漏れる。
『もウ限界だ、許しテ、許シて、食ワセて。嗚呼、喰ラウ事を許シ――友よ、君ノ腹肉を喰ラワせてクれ――俺ヲ、食ウな!!』
 悲痛な聲はしかし、霊として具現化することはなかった。

「……この世界はもうあんたたちがいていい世界じゃないんだ。大人しく帰ってくれ」
 地を爆ぜさせんばかりに走り懐に潜り込んだアレクサンダーが至近から異形の左拳を撃ち込み、大威力のユーベルコードを解き放つ。
「……吹き飛べ!」
 『ブルータル』は下に打ち付けるように角度を付けて屍人の胸を穿ち、地面へと激しく打ち付けられた敵はそれきり沈黙したのであった。

「――終わりにしよう」
 残る屍人へと柾が間合いを測り一息に踏み込む。振るわれた一閃は紫電に似た。屍人の腕狙い筋繊維沿いに刃が滑り込み腕の付け根へと走らせれば鮮やかに血飛沫が舞う。憤怒の表情に汚歯を剥く屍人の皮肉を断っていけばかつりと手応え一つ、水晶に辿り着く。一瞬で大きな傷開き、柾は一度後ろへ跳んで返り血を避けた。刀を鮮やかに振れば濡れ血が風に飛んで付近の草をしっとりと濡らす。
「グルルァアアアアアアア!」
 目の前で狂乱し血を撒き散らして突進する屍人の由来を思い柾は刹那眉を寄せた。極限まで研ぎ澄まし手首をくるりと返し、地を掠めるようにして真っ直ぐに垂直に振り上げた刀は光の如き速度で猪突屍人を縦に斬り捌く。正剣一閃が放たれしのちは獣性収まりて沈黙の朱液が地を濡らす。

「これで、最後か」
 誰かの聲が風に消えて、戦いは終わった。

 景明は黒髪を風に揺らして戦場を視る。
「……凄惨だな」
 どれほどの時間戦っていたことだろう。きっと、そんなに長い時間ではなかった。
 足元にはしっとりと濡れた大地が広がっていた。
「全員いるか」
 ぐるりと視線を巡らせれば、農村の人々は皆気丈な表情を浮かべて頷いた。赤子はもう泣き止んで、翁の腕ですやすやと寝息を立てている。
 母子は寄り添い手を繋ぎ血濡れた大地に立っていた。

 虫が鳴いていた。
 秋には果実が実るだろうか。夜藍の中でも鮮やかな緑がそんな予感を感じさせて揺れていた。涼しい風が血肉の香りを攫って空に逃げていく。行き交う空の通い路は片行涼しき風や吹くらん。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月15日


挿絵イラスト