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悪戯な仔竜と、大空の支配者。

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 男はただ口を開き、惨劇を眺めていた。
 荒野に住み着いたゴブリンを追い払う簡単な依頼を受けたはずなのに、なんだってこんな奴がいる……?
 それは誰かを責め立てるような嘆きではなく、絶望によって溢れ出た純粋な問い。
 いつも自分の背中を守ってくれた仲間達が、次々と肉片に変えられていく。
 ある者は岩山をも抉る鋭利な巨爪で引き裂かれ。ある者は大地をも揺るがす衝撃波により脳ごと破壊され。気がついたら自分以外に動ける者はいなかった。
 飛竜、ワイバーン。
 その存在は誰でも知っているし、誰でも恐れている。空を支配し大地を蹂躙する竜。

(なぜ、そんな怪物がこんな街近くの荒野に住み着いている!?)

 その問いかけが言葉として出力されることはなかった。いや、する必要がなかった。
 既に惨劇は終幕を告げ、問いかけを投げる先には数多の肉塊と、その上に鎮座するワイバーンしかいなかったのだから。
 飛竜がゆっくりと首をもたげ、男に歩み寄る。……どうやら獲物は一人足りとも見逃さないつもりのようだ。
 男は絶望し、しかしそれゆえ運命を受け入れる。途端に仲間を奪った悪魔への怒りに襲われた男は剣を構え、言葉にならない叫びをあげながらワイバーンへと飛びかかった。
 だが、男の振った剣は飛竜の頑強な紅鱗に傷一つ付けることなく弾かれた。その衝撃に耐えきれなかった剣は真っ二つに折れてしまう。

「こ、この野郎ォォォォ!!」
 男はそれでも逃げ出さなかった。竜を背にした逃走など意味がないと知っていたから。

(背中から真っ二つに切り裂かれるくらいなら、一撃でも多くぶちかましてやる!)
 男は折れた剣をこれでもかと飛竜に叩きつけた。何度も、何度も、何度も叩きつけた。
 岩壁を拳で殴るに等しく無意味な行為は見る者によれば滑稽なものだっただろう。それでも男は怒りと恐怖に支配され、己の掌から血が吹き出ようとも折れた剣を振り下ろし続けた。仲間の死を呪い、自分の生を願い、ただひたすらに。
 だが、必死の抵抗は飛竜が退屈気に動かした巨爪の一撃で呆気なく終わりを告げた。
 男は飛竜の爪により頭上から股までを綺麗に両断され、絶命する。
 周囲に煩い者がいなくなったことを確認した飛竜は大きく咆哮し、巨人の腕のような両翼で空を鷲掴みする如く羽ばたいた。


「やあやあ諸君、よくぞ来てくれた!」
 グリモアベースの中央に仁王立ちし、偉ぶった口調でそう言ったのは赤髪の女、シオン・シークレア(怠惰な魔術士・f09286)。
 グリモア猟兵である。

「さてさて、今回君たち猟兵に集まってもらったのは……ってまあ、オブリビオン討伐ってのは言わなくてもわかるか」
 シオンがどこか皮肉めいて言うと、突如としてグリモアベースの風景が一変する。曖昧な空間は突如としてアックス&ウィザーズを俯瞰する天の視点となった。
 いつの間にか真剣な面持ちになっていたシオンが、今回の依頼について説明を始めた。

「ここ、アックス&ウィザーズ世界のとある街で猟兵の力を借りなければならない事件が起きた」
 まあ、この世界の住民からしたら猟兵というより『冒険者』かな、と小さく補足する。

「本来ならばゴブリン程度の外敵しかおらず平和そのものだったアズィールの街に、仔竜の群れが度重なる襲撃を仕掛けてきたらしいんだ」
 仔竜と呼べばどこか可愛らしい響きを持つが、現実はそう甘くない。仔竜とて竜の一族だ。
 未発達とはいえ鋭い爪を振れば人の柔肉など簡単に引き裂けるし、肌を焼け焦がす炎のブレスを吐くことだってできる。また、仔竜が互いに共鳴し力を集結することで炎の竜巻のような自然と超常の複合現象を引き起こすこともあるという。
 身体は小さいがその分動きの素早さも人の比ではなく、そんなものが群れを形成して襲ってきたら小さな街の警備隊や冒険者が総出で掛かったところでどうしようもない。
 おまけに仔竜が群れを成しているということは、すなわち――。

「ま、『親玉』もいるってことになるな」
 シオンは苦笑した。

「だが、まず手をつけてほしいのは仔竜の撃退だ。街を直接荒らしてるのは仔竜だからな。親玉の退治は仔竜を蹴散らしてからだぜ」
 幸い、現在は街を襲う仔竜をなんとか『荒野』まで追い払えたという。正確には、"遊び"に飽きた仔竜が勝手に住処へ帰っただけだが。
 しかし、度重なる襲撃を経ても仔竜側の戦力は全く削れていないにも関わらず、街側の戦力は大幅に削れておりこのままでは壊滅しかねない。
 防衛用の兵器も多くが消耗しており、再度襲撃を仕掛けられたならば、街は瞬時に仔竜の遊び場となってしまうだろう。
 仔竜が屯するようになれば当然親であるワイバーンもやってくる。そうなってはアズィールの街がいつ地図から消えようと不思議ではない。

「そうなっちゃ手遅れだから、荒野でケリをつけようってわけだ」
 おっと、彼女は何かを思い出したように付け足す。

「そういえばこの街のギルドはどうも人手不足らしくてな。だからこそ仔竜の襲撃でさえも街の存続に関わるほどの大事件なわけだが……もしこの依頼を解決しちゃったら、ギルド長から声がかかったりするかもな」
 シオンは何やら含みを持たせつつそう言うと、表情を改める。

「言っておくが、この依頼は安全じゃあない。そりゃそうだろう、相手は竜だ。だが、正直なところあたしは心配しちゃいないぜ。何せ猟兵は世界を救う英雄だ。英雄が竜を倒すなんて、お決まりな話だろ?」
 言い終えるとシオンは無邪気に笑い「んじゃ、期待して待ってるぜ」と転移魔法を展開する。

 猟兵達は気がつくと、剥き出しの大地が延々と横たわる広大な荒野に立っていた。
 獲物に気づかれないよう瞬時に岩陰へ身を隠した彼らが目を凝らすと、遠くで仔竜の群れがじゃれ合っているのが見えた。
 互いに絡み合い、火を吹き合い、時には何もない場所で転ぶ者もいる。
 一見すると愛らしいが性質は凶暴だ。あの仔竜達をなんとかしなければアズィールの街に未来はないだろう。
 仔竜の数は十数匹と中々の規模である。周囲には岩壁や岩山こそあれど、他に利用できそうなものはない。
 猟兵達は現状把握の後、各々の思惑に倣って仔竜討伐を開始した。


新井武彦
 皆さんはじめまして、新井武彦と申します。
 今回が初のシナリオとなりますが、全力を尽くしますのでよろしくお願いします。
 さて、まずは仔竜討伐ですがシンプルな戦闘となります。
 硬い鱗と未発達ながら強靭な爪。環境適応型のブレスや属性に応じた自然現象による攻撃。可愛らしい見た目のわりに厄介な攻撃を繰り出してきますので、ご自身のキャラクターなりの戦い方で応戦してください。
 なお、同行者が居る場合は互いにIDによる指定をお願いします。
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第1章 集団戦 『戯れる仔竜』

POW   :    じゃれつく
【爪 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    未熟なブレス
自身に【環境に適応した「属性」 】をまとい、高速移動と【その属性を纏わせた速いブレス】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    可能性の竜
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ティアナ・スカルデット
【POW】

先ずは仔竜ですね
仔竜と言っても竜ですから油断はできませんね
想定していたより数が多いですね

果敢にも接近して戦う
一気に複数の仔竜の相手するのは大変だから
他の仔竜との距離を1Mくらい離れる様に意識
無理に相手をする事もないので距離をとれるなら
半歩(30CM)下がって攻撃を回避して対応
じゃれつく仔竜たちには無敵城塞で受け止めて対応
あわてなくても相手はしてあげますよ

この仔は私が対応するので他の仔をお願いします

これでまた英雄に一歩近づけたかな
まだまだ序盤、油断大敵ですね
改めて気を引き締め次の戦いに備える



「 先ずは仔竜、ですね 」

 言ったのは、ティアナ・スカルデット(ロンズデーナイト・f11041)。
 一回り小柄なドワーフの少女は、竜の変異形態である『ドラゴンランス』を構えた。彼女が動く度、不釣り合いに大きな双丘が揺れる。
 褐色の肌を鎧に包んだ少女は遠くに見える仔竜の群れを眺めながら思案する。

(想定していたよりも数が多いですね。仔竜と言っても竜……油断はできません。)

 猟兵達は話し合いの結果、仔竜との集団戦は危険と判断し、分断と各個撃破を方針とする。
 ティアナもそれに従い、まず自分が先んじて一匹の仔竜を群れから引き離しすことにした。

 作戦が開始されると、ティアナは即座に行動する。
 荒野に転がる小石を手に取ると、一匹の仔竜に狙いを定めた。

(ちょっとかわいそう……)

 乾燥した風に吹かれながら、雲ひとつない青空をぼんやり眺める一匹の仔竜。
 標的に照準を定めながらそう思ったティアナだったが、これも街のため、人のためだ。
 仔竜を野放しにしては街の人々を恐怖が支配し、やがて絶望が生まれる。
 そんな未来、あってはならない。許してはならない。
 ティアナは自らが英雄に救われた過去を振り返り、自分の目指しているものを思い描く。
 彼女は迷いを断ち切ると、小石を仔竜目掛けて投げつけた。

「ぎゃう?」

 見事一匹の仔竜に命中した石は仔竜の頭を打ち、地面に転がった。
 異変に気がついたのは命中した仔竜だけで、他の仔竜は思うがままに過ごしている。
 一体どこから石が飛んできたのか、不思議そうに周囲を見渡す仔竜。
 するともう一度、仔竜目掛けて石が飛んできて、こつんと頭を跳ねた。

(疾いッ……!)

 途端、仔竜は旋風となる。
 瞬時にティアナの居場所を理解した一匹の仔竜は、『遊び相手』が来たことに歓喜しながら、鋭利な竜爪をティアナの首元へと突き刺した。
 鎧と鎧の隙間。仔竜は超越的本能によって敵の弱点を察知し、攻撃したのだ。
 これが仔竜達の遊びであり、他愛のないじゃれ合いであった。
 あまりにも一瞬の出来事。もしこの神速の爪撃を受けたのがティアナでなかったならば、呆気なく一人の猟兵が仔竜の昼食となっていただろう。
 だが、仔竜は不思議そうに首を傾げる。どれだけ力を込めようとも仔竜の爪がティアナの首を貫くことはなかった。
 ティアナのUC――――『無敵城塞』。それは絶対の防御を得る代償に他の行動を犠牲にする。

「あわてなくても相手はしてあげますよ」
 ティアナは自信を含みながらそう言うと、続ける。
「皆さん、この仔は私が対応するので他の仔をお願いします!」
 その声に呼応して他の猟兵達も動き出した。

 暫くすると異変を察知したもう一匹の仔竜が応戦に来たが、予想の範疇。ティアナは竜槍で威嚇しつつ後方へと飛び、距離を取る。

 睨み合いが始まり、静寂が荒野を支配した。
 二匹の仔竜は互いに顔を見合わせると眼前の少女へ向かって飛びかかるが、結果は同様だった。
 鋼鉄よりも硬い少女の肌はいかなる攻撃をも寄せ付けない。ありえない現象に困惑する仔竜達であったが少女はその隙を見逃さなかった。
 竜槍で仔竜達を薙ぐと、仔竜の身体は大きく弾かれた。そして再度距離を取る。

 その後は繰り返しだった。仔竜達は開かれた間合いを詰めては攻撃するが、ティアナはそれを防ぎ、再度間合いを取る。
 至近距離からの一撃には反応できないかもしれないが、距離を開けることで仔竜の行動には『距離を詰めてから、攻撃する』という過程が必要となる。
 ならばその過程に乗じて自分も『無敵城塞』を発動する。
 仔竜の疾風の如き俊敏さを前にしてはあまりに現実味のない理屈であったが、ティアナには可能だった。
 
 いつも人々を翻弄してきた仔竜が、今はティアナに翻弄される側となっていた。
 何度やっても攻撃が届かない上に、距離を詰めては弾き飛ばされる。
 やがて疲弊と苛立ちを覚えた仔竜達は、爪が届かないならば……と、小さな両翼により空中へ飛翔した。
 いくら肉体が硬かろうと、肌を焦がし酸素をも奪う灼熱のブレスを前にしてはどうしようもない。そう確信しての行動だったのだが――――。
 
 それを待っていたと言わんばかりにティアナが"跳ねた"。
 槍で大地を蹴り上げた鎧の少女は、驚異的な身体能力により空中で竜槍を構え直すと、空間を斬り裂くかの如く薙ぎ払った。
 横っ腹を槌よりも重い一撃で叩きつけられた仔竜は悲鳴と共に落下していき、どさりと地面に転がり落ちる。
 重なり合ったまま気絶した仔竜達に背を向け、ティアナは安堵する。

(これでまた英雄に一歩近づけたかな。でも、まだまだ序盤。油断大敵です)

 ティアナは改めて気を引き締め、次の戦いへと備えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

草間・半蔵
危なくても、単純でいい。
ただ倒す。それだけだ。

飛んでる相手じゃぶが悪いから、まずは地に落とす。
岩山から子竜にブレイズフレイムを飛ばし気を引く。
近寄ってきたら今度は顔面に。
その時一緒に恫喝で怯ませられたらいい。怯んだ隙にダッシュで勢いをつけ子竜へ跳ぶ。
「落ちろ!」
羽の付け根を狙って鎧砕きの一撃を叩き込もう。
着地したら追加の一撃をいれて即離れる。
重たい一撃を何度も受ける自信はないから。なるべく正面から斬り結ばないように気を付けて。攻撃を見切れるように相手の動作に周囲の動きに気を付けよう。



荒野の乾風に黒髪を靡かせながら、草間・半蔵(羅刹のブレイズキャリバー・f07711)は構えていた。
 岩山の頂点、琥珀の瞳が見下ろすのは広大な大地の一点。仔竜の集団だ。
「危なくても単純でいい」
 後ろに結んだ髪を風に揺らし、少年は呟いた。
「ただ倒す、それだけだ」

 不意に半蔵は腰に携えていた短剣を手に取ると、己の掌を抉るように切り裂いた。
 突然の、狂行。
 知らぬ者が見れば彼の行いはそう見えただろう。一方で彼を知る者が見れば恐怖に顔を歪ませたに違いない。
 半蔵は痛みに顔を歪ませることもなく、当然のように己の手を見つめた。
 視線の先にはぱっくりと切り裂かれた掌があったが、傷口から流れるべき血は一切無い。
 代わりに傷口から噴出していたのは、全てを焦がさんとする地獄の業火――『ブレイズフレイム』
  
「力を持つがゆえに恐れられる幼き竜……。オレはお前等を通じてオレを知る」

 半蔵は言うと、目を閉じる。それに合わせて手も閉じると、手の内に地獄の業火を凝縮させた。彼はそうして己が狙うべき対象を脳裏に浮かべる。
 仔竜。憎むべき敵ではないが、許しておける相手でもない。
 目を開いた半蔵は、凝縮された業火を解き放った。
 途端、濁流の如く怒涛の勢いで業火が渦を巻いた。それは螺旋を描きながら天へと舞い上がると、火球となって仔竜の群れへと降り注ぐ。
 
 だが、流石と言うべきか。
 仔竜達は死角からの奇襲を優れた五感によって察知すると瞬時に回避した。
 集団の多くは回避することに夢中だったが、僅か三匹の仔竜は回避の最中に影を視認する。岩山の頂点に立つ影だ。
 襲撃者は撃退する。街の人々がそうしたように、仔竜もまた襲撃者へ牙を剥いた。
 三匹の仔竜は並ぶように飛翔すると、半蔵への逆襲を開始する。だが、半蔵は狼狽えなかった。
 本来ならば奇襲に失敗したと絶望すべきこの状況で、半蔵は口角を上げた。
 
 ――仔竜達は気がついていないだろうが、あれは回避できたのではない。回避させたのだ。
 奴等に直撃させては乱戦が巻き起こるだけ。それではこちらが不利になりかねない。
 何より、半端に弱らせては瀕死の奴等がワイバーンを呼び寄せてしまうかもしれなかった。
 
(好都合だ)

 半蔵は新たな業火を生み出すと、疾風の如く岩山へと飛びかかる仔竜目掛けて放った。
 頭を前にし頭突きをするよう飛んでいた仔竜達は、咄嗟に押し寄せた炎波を避けられはずもなく、直撃する。
 ブレイズフレイムに触れたあらゆるモノは地獄の業火に包まれる。炎獄の旋風と灼熱のブレスを操れる竜とて、例外ではなかった。
 しかしこれだけで終わるほど竜は弱い生命体ではない。半蔵は知っていた。
 
「いくぞ」
 仔竜が炎に呑まれ悶えている隙を見逃すまいと、半蔵は無骨の鉄塊剣を握った。
 そしてあろうことか燃え盛る仔竜目掛けて駆け出すと、その勢いを保ったまま跳ねた。
 
 岩山からの跳躍、燃え盛る仔竜への突撃、空中にいる敵への奇襲。その全てがあまりに無茶なものに思えたが、半蔵は実行に何の躊躇いも抱かなかった。
 彼が跳躍の合間に念じると、途端に仔竜達を覆っていた炎が消滅する。
 これにより仔竜達は業火から解放されたが、いくら適応力に優れた種族でも、灼熱から平常への唐突な回帰には適応できなかった。
 何が起こったか理解できないまま空中で静止する彼らに半蔵が襲いかかる。

「落ちろッ!」

 半蔵は先ず、一匹の仔竜目掛けて大剣を振り下ろした。翼の付け根に落とされた鬼神の如き一撃は頑強な鱗をも砕き、瞬時に仔竜の飛行機能を奪う。
 漏れ出る悲鳴と共に落下を始める仔竜だったが、半蔵はその落下する仔竜を踏み台にして、再度跳び上がる。
 そして別の仔竜へ向かって一撃、さらにもう一撃。
 一体どちらが飛行生物なのかと疑われるような光景だったが、飛行機能を失った仔竜達が落下すると、足場を失った半蔵も共に落下を始める。
  落下の最中。忌々し気に自分を睨む仔竜を見て、半蔵は頬を掻きながら言った。
  
「飛んだりするお前等が悪いんだからな」

 体勢を崩したまま地に叩き落とされた仔竜達は衝撃を全身に浴びてしまう。
 一方の半蔵は、落下の寸前に大剣で空を薙ぎ、風圧を起こして落下速度を和らげると、最も衝撃を受けない体勢を取って着地した。
 仔竜達はなおも立ち上がろうとするが、半蔵の追撃が許さない。
 
「……恨むなとは、言わない」

 巨剣が直撃した仔竜達はぱたりと地に伏せる。
 まだ全てが終わったわけではないが、街の平和は戻りつつあった。半蔵は周囲を警戒しながら、その場を後にする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
幾ら愛らしく幼気な仕草でも
未来を喰らうオブリビオンなら狩るまでだ

手段
可能な範囲で距離をとって戦う

Bフレイムを重ねた焔摩天から放つ降魔の炎で薙ぎ払い
ダメージを与えつつ鱗を削る
傷から入った炎は効くぜ?
;鎧砕き&薙ぎ払い&属性攻撃&破魔

踊ってもらうぜ
相手は地獄の焔摩だけどな

爪やブレスに対してはブレイズの炎でバリアを張ったり
焔摩天やその炎で受けるぜ
;武器受け&属性攻撃&破魔

此処にてめぇらの居場所はないんだ
悪ぃな
俺達は未来へ進む
この世界の未来を
命を奪わせやしないぜ!

全ての仔竜を殲滅したらギターを爪弾き
鎮魂曲を奏でる
:コミュ力&手をつなぐ&パフォーマンス&楽器演奏&歌唱

あばよ過去(パスト)
安らかにな



奇襲により混乱状態に陥っている仔竜達を岩陰から眺め、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は苦笑した。
 奇襲を受けながらも敵の姿が見当たらないことに困惑する仔竜の群れは岩壁にぶつかったり、小石に躓いたり、無意味に周囲を飛び回ったりと実に愉快な状態にあった。
 オブリビオンを知らない者にとっては愛らしい光景だろうが、オブリビオンの撒き散らす絶望を知る者には恐ろしいの一言につきるはずだ。
 
(幾ら愛らしく幼気な仕草でも、未来を喰らうオブリビオンなら狩るまでだ)

 それが猟兵の使命だと、ウタは確信していた。
 オブリビオンは破滅を呼び、絶望を生む存在。
 きっと、仔竜の全てが悪意を抱いて行動しているわけではないだろう。中には、何かしらの対話を通じて人と共存できる個体がいるかもしれない。
 だが、この場にいる連中は手遅れだ。既に人々へ牙を剥き、恐怖をばら撒いた。
 
 見逃すのは簡単だ。愛らしいからと武器を収めるのも容易である。しかし、あの仔竜達がやがて国をも滅ぼす邪竜の大群となったらどうする。
 そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。
 未来がどちらに分岐しようとも生じるのは責任と罪。それを背負えるのは猟兵しかいない。
 ――ならば、俺が両方を背負おう。
 ウタは断罪の焔摩天を構えると、己の身に紅蓮の炎を纏った。
 
「踊ってもらうぜ……相手は地獄の焔摩だけどな」

 纏った紅蓮の炎は矢の形を成すと、仔竜の集団目掛けて翔ぶ。陽動のために放った矢は途中で分散し、複数の竜に直撃する。
 まずは撒き餌。直撃を受けた仔竜は荒野の一点にウタの存在を認識すると、全ての元凶を彼に求めた。
 餌に釣られて群れから離れた三匹の仔竜は、鈍く光る黒爪を構えながらウタ目掛けて飛翔した。
 
「俺が遊び相手だ、最高に楽しませてやる」

 ウタは言うと、迫り来る鋭爪の連撃を炎の障壁によって抱き止めた。
 勢い良く炎に突っ込んだ仔竜は熱さとは違う、己の存在を根本から破壊するような熱に侵され悲鳴を漏らす。
 爪を削り、鼻を焦がし、鱗をも裂くウタの獄炎は仔竜の知る炎ではなかった。
 恐怖と不安が仔竜を支配する。しかしそれは同時に、彼らから油断を奪う引き金ともなった。
 
 突如目の色を変えた仔竜は巨大な飛竜を彷彿とさせる眼でウタを睨みつけると、三匹で連携を取り始めた。
 一匹がウタに向かって爪による接近戦を仕掛け、もう二匹が空中に飛んでブレスによる援護を加える。
 高い知恵を持つ竜の洗練されたコンビネーション。
 野生の獣が獲物を狩る際に露呈する本能が、彼らを支配したのだ。
 
 だが、ウタにとってそれは恐れるに値する変化ではない。
 優れた連携行動は時折、優れているがゆえの単調さを生み出す。
 サウンドソルジャーであるウタは音楽を通じてそのことを知っていた。
 あまりに明瞭で美しい仔竜の連携行動は、ウタの無駄ない動きと焔摩天によって軽快にいなされてしまう。
 
 距離を詰めての接近戦を挑まれたならば、降魔の炎を纏った焔摩天で仔竜の鱗を抉る。
 間合いに入って攻撃行動に専念している仔竜の脇に薙ぎ払いを叩き込むのは実に容易だった。
 無論、その後には後衛の仔竜よってブレスが降り注がれるが、そうとなればウタは降魔の炎を纏う。
 ウタを包む炎は腹を空かせた猛獣の如く唸りを上げ、仔竜の幼炎を喰らい貪る。
 
 「悪ぃな」
 
 ウタは接近戦を仕掛けた仔竜を斬り伏せると、駆け出した。
 構えるのは焔摩天。荒野の地を次々に蹴り、彼は空飛ぶ仔竜へと飛びかかる。
 「此処にてめぇらの居場所はないんだ」
 焔摩天の刀身は、咄嗟の判断により後退した仔竜達には命中せず、虚しく空を斬った。
 だが、躱したはずの仔竜が悲鳴をあげる。
「この世界の未来を……命を奪わせやしないぜ」
 刀身から流れ出るのは彼の纏う紅蓮の炎。それは新たな刀身となって焔摩天を覆っていた。
 ウタの炎に鱗ごと斬り裂かれた仔竜達は力尽きたように地上へ落下する。
 
「あばよ過去。安らかにな」

 全ての仔竜が沈黙すると、彼は岩に腰を下ろしギターを取り出した。
 荒野でただ一人、ウタはギターを鳴らす。
 風に頬を撫でられながら鎮魂曲を奏でる男。彼が何を想ってそうするのかは、彼にしかわからない。
 美しい音色は荒野を渡ると、仔竜達の魂を運ぶかのように天へと消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

新納・景久
事前に複製した火縄銃を、荒野に忍ばせておく
円形に、銃口が円の中心を向くように
「竜対峙が。なあば、竜と鬼、どっちが強かが勝負すっど! 親指武蔵、鬼新納・景久、覚えちょれ!」
火縄銃で竜数匹を威嚇射撃
こちらに敵意が向いたら撤退
「チッ、数が違ぉ。逃げるが勝ちじゃ!」
時に振り返って射撃し、追撃され続けるように
それ以外はひたすら走る
複製火縄銃を忍ばせた地点で【釣り野伏】発動
「釣れたど、大漁じゃあ! 鬼薩摩鉄砲隊、放てェッ!!」
一斉に複製火縄銃を浮かせ、竜を撃ち落としにかかる
討ち漏らしは鬼吠丸に持ち替え、処分する



猟兵達の度重なる襲撃によって仔竜の群れは瓦解しつつあった。
 だが、油断をする時ではない。如何なる敵も追い詰められれば予想だにしない力を発揮することがあるのだ。
 火縄銃の銃口を未だ残る仔竜へと向け、新納・景久(未来の親指武蔵・f02698)はにやり微笑った。
 
「竜退治が。なあば、竜と鬼、どっちが強かが勝負すっど! 親指武蔵、鬼新納・景久、覚えちょれ!」

 凛とした声が荒野に渡る。言うと同時に火蓋が切られ、銃声が鳴った。
 威嚇目的に放たれた銃弾が仔竜の鼻を掠めると、危険を察した仔竜が複数、両翼を広げて景久へと急進する。
 見事仔竜の敵意をその身に集めた景久はわざとらしく、
 
「チッ、数が違ぉ。逃げるが勝ちじゃ!」
 
 そう言って背を向けると"舞台"へと駆け出した。剥き出しの大地をひたすらに走り、仔竜を群れから分断する。
 風を切り大地を駆ける景久と、追いかける仔竜達。素早さだけで言うなら仔竜のほうが上だ。
 しかし、景久によって的確なタイミングで放たれる威嚇射撃が、仔竜の接近を許さない。
 このままでは埒が明かないと仔竜が口元に炎のブレスを蓄え始めると、彼女は咄嗟に大地を蹴って跳躍した。
 宙に舞った彼女の下を灼熱のブレスが潜り抜ける。業火の熱に襲われ汗が滲み出るが、直撃しなければどうということもない。
 景久は軽快に着地すると、"道案内"を再開する。
 
 そうした攻防の後、景久は岩壁に囲まれた一帯へと辿り着いた。
 完全な行き止まりである。
 後に続いて仔竜も押し寄せ、一対多数。逃げ場のない、圧倒的不利な状況が演出された。
 仔竜の表情こそ読めないものの、頻りに甲高い鳴き声を発していることから「やっと追い詰めた。さあ観念しろ」などと浮かれているのだろう。
 だが、追い詰められたのは景久ではなく自分達だったのだと気がつくまで、数秒を要しなかった。
 不敵な笑みが、浮かんだ。
 
「釣れたど、大漁じゃあ! 鬼薩摩鉄砲隊、放てェッ!!」
 
 一瞬の出来事である。彼女が手を天に掲げ勇猛に叫ぶと、岩壁、岩の隙間、大地の裂け目と至る所に仕掛けられた複製火縄銃が一斉に火を噴いた。『釣り野伏』だ。
 轟音と、悲鳴の交錯。
 火薬の臭いと煙が一瞬にして充満する。
 次々と放たれる弾丸の雨が仔竜へと降り注ぎ、彼らの両翼に風穴を開ける。
 撃ち落とされた仔竜達はなおも黒光に貫かれ、次々と力尽きてゆく。
 だが、この一転しての絶望的状況は仔竜達に眠る本能を呼び覚ます。
 窮鼠猫を噛むというが、生き残った仔竜は必死の思いで銃弾を掻い潜ると景久目掛けて牙を剥けた。
 未だ生を諦めることなく立ち向かう竜を見て、景久は嬉しそうに目を細めた。
 そうでなくては、と言わんばかりに。
 
「鬼吼丸もうずうずしちょる……!」
 
 景久が構えていたのは、火縄銃ではなかった。
 刃渡り三尺にも及ぶ鬼の腕の如き大太刀。その名を鬼吼丸。
 一体華奢な身体のどこに、これほどの大太刀を持ち上げる腕力が眠るのか。
 幾重の牙を剥き出しにしながら襲いかかる仔竜を、彼女の一振りが迎え撃った。
 それは、風を切るというより風を砕くよう。
 鬼神の咆哮を思わせる轟音を引き連れながら、大太刀は先ず一匹の仔竜を叩き斬る。
 一撃をもろに食らった仔竜は、小石を指で弾くかのように容易く岩壁へ斬り飛ばされた。

「まだ、まだじゃぁッ!」

 景久は一太刀めの勢いを殺すことなく、舞うようにして太刀を振るい残りの仔竜を撃墜していく。
 その姿は仔竜達にとって鬼神と云う他になかっただろう。翡翠の瞳が見定めた者は次々と斬り捨てられていく。
 一匹、また一匹と駆逐され、残る一匹。
 それでも、最後の仔竜は果敢か無謀か逃走の気配を見せなかった。
 
 いつの間にか仕掛けられていた火縄銃も発砲を止め、沈黙が場を支配する。
 竜と鬼の睨み合い。崩したのは仔竜だった。
 灼熱のブレスを口に蓄えると、それを吐き出す仔竜。景久は当然それを躱すが、仔竜とて学習していた。
 仔竜は瞬時に間合いを詰め、大太刀を振るうには近すぎる位置まで潜り込む。
 射程の長い大太刀であるが、距離を詰められると構える余裕も振るう余裕もないはず。
 仔竜は口を開き、恐ろしく強靭な竜牙を露出させると景久の首目掛けて飛びかかるが――。
 
「終いじゃ」

 咄嗟に大太刀を捨て火縄銃に持ち替えていた景久は銃身で仔竜を弾くと、間髪入れずに鉛玉を撃ち込んだ。
 乾いた銃声が、戦いの終わりを告げる。
 景久は激闘の熱を胸に残しながら、さらなる戦いに備えて身を引き締め、その場を去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイカ・ヴァンスタイン
「イタズラにシンパシー感じるけど、これはダメですの」
先に来てた人達が結構頑張ってくれたみたいですの。

なら、ウチは傷ついた皆を治療しましょうなの。(猟兵以外も戦ってると思うし
「がんばって守ってる人達に、祝福を。やりきるだけの力を」
襲ってくるチビドラ達には人形達の護衛(援護射撃)で牽制しつつユーベルコードで回復して回りますの
「じゃれるのは遊びだけですの、怪我させちゃダメですの」



男は腕から血を流しながら苦痛に顔を歪めていた。
 街にいた家族を襲った憎き竜共。
 男はずっと討伐の機会を窺っていたが、風来の冒険者達が奴等の討伐を開始したという噂を耳にし、居ても立ってもいられず戦場へ駆けつけた。
 しかし、それは勇敢というより無謀だった。
 
 他の冒険者――猟兵達は次々に仔竜を駆逐し敵戦力を減らしているというのに、彼はたった一匹の仔竜を前に為す術がなかった。
 冒険者と猟兵は似ているようで全く異なる存在だ。だが、彼は猟兵の存在を知らない。
 自分はなぜ彼らのように戦えないのか。なぜ家族を傷つけた奴等に復讐することすらできないのか。己への失望が胸を締め付けた。
 
「ぎゃう、ぎゃう」

 空から見下ろすのは一匹の仔竜。太陽を背に、無邪気な鳴き声をあげると仔竜は飛びかかった。
 男は躱そうとするが、脚を動かした時には既に竜爪によって腕の肉が抉り取られていた。
 男は何が起こったか理解するより先に悲痛な叫びをあげてしまう。
 
 街の人間が束になっても追い払うのがやっとな竜の子。
 街で誰一人守れなかった俺が、どうして竜を屠れる?
 絶望が頭を支配するが、竜は後悔を待たない。仔竜は両翼で羽ばたきながら灼熱を口内に凝縮し始めた。
 終わりだ。俺はここで死ぬのだ。
 男は悟った。そして全てを投げ捨てるように地に倒れ、目を閉じた。
 死神が灼熱の鎌を擡げる。竜の豪炎が、今放たれんとしていた。
 
「諦めちゃダメですの」
 
 不意の声に、男の目が再び開かれた。
 男が顔をあげると、そこにはレイカ・ヴァンスタイン(銀光精・f00419)。
 翅をぱたぱた動かし宙に浮かぶ小さな銀髪の妖精と、彼女の操る人間大の人形達がいた。それは人間の少女のような愛らしい外見だが、各々が獲物を握っている。

「あ、危な――――」

 男が言い終えるのを待たずして、仔竜がブレスを放つ。
 だが、寸前。レイカが十指に結ばれた銀糸を操ると、呼応して彼女の使役する青の和装人形が動き出していた。
 仔竜の口が開き灼熱の吐息が放たれる、秒にも満たぬ間。
 戦闘用の和装人形が撃ち放った弾丸が竜の首を穿った。
 突然の衝撃。照準の乱れによって仔竜のブレスはあらぬ方向へと吐き出された。
 何が起きたのかと困惑する仔竜に、レイカがびしっと指を向ける。
 
「イタズラにシンパシー感じるけど、これはダメですの」

 同時に、赤の和装人形が銃を構えた。連射による弾幕形成を得意とする人形だ。
 人形は弾幕を張り、銃弾が仔竜へ雪崩れる。
 だが仔竜は咄嗟に身体を丸めることで怒涛の銃撃を堅硬な鱗で受け止めた。しかし、このままでは押し負けると判断した仔竜は負けじと咆哮する。

 空気が揺れ、風が竜へと集う。それは勢いを増すと竜を包む旋風と変容する。
 風は渦を巻き弾幕を掻き消すと、仔竜の一吹きにより灼熱の炎を纏った。
 小さな仔竜が一瞬にして造り出したのは、全てを焼き尽くす灼熱の竜巻。
 それは規模こそ小さいものの、竜が竜たる所以を示していた。
 
「な……なんて化物だ。あんた俺はいいから今すぐ逃げろ!」
 男は巻き起こる灼熱の暴風に顔を顰め、震えた声でそう言った。しかしレイカはゆっくりと首を振る。
「だいじょうぶ、ですの」
 言うと彼女は再び銀糸を操った。赤の和装人形は押し寄せる熱波を物ともせず、彼女に操られるがまま炎の旋風へと呑まれ姿を消した。
 無論、唐突に焼却処分を思い立ったわけではない。特殊な戦闘人形は僅かの間ならば高熱にも耐えうるのだ。
 人形は吹き荒れる旋風に流されないように逆らいながら、それでいて風を利用し高く舞い上がると、炎渦の中央へ泳ぐように向かった。
 風のない渦の中央に、旋風を操る仔竜を見る。
 
「じゃれるのは遊びだけですの、怪我させちゃダメですの」

 とん、と人形の射撃が仔竜の急所を貫いた。
 旋風の制御に夢中だった仔竜が回避などできるはずもない。仔竜は悲鳴をあげ、旋風は勢いを失うと跡形もなく四散した。
 そして空からぽとりと落下するのは気絶した仔竜と赤の和装人形。その姿を見たレイカがぎょっと悲鳴をあげた。

「も、燃えてるですの!」

 突撃の際だろう。和装人形の服には火が燃え移っていた。
 いくら本体が熱を耐えたところで服まで耐えるとは限らない。そのことを失念していたレイカは半泣きで人形を操り消火活動を開始する。
 己の炎を鎮火させようと地面を転げ回る赤の人形と、その人形をぱたぱた叩いて消化させようと群がる他の人形達。そして半泣きで見つめるレイカ。
 それは一見すると子供の喧嘩の一場面だった。

 急所を撃たれ昏倒していた仔竜が目を覚ますと、痛みを堪えながらレイカを睨んだ。しかし、無事鎮火した和装人形が再度銃を構えると途端に怯えた様子でその場を去る。

 弱った竜は他の猟兵が何とかしてくれるだろう。レイカはこっそり安堵した。
 大丈夫と言い切りはしたが、戦いは本領じゃない。これ以上の戦いは避けたかったのだ。
 それに、オブリビオンとはいえ子供を痛めるのはレイカにとって愉しいことではなかった。
 
「あんたは一体……ぐっ」
 激痛に襲われながらも立ち上がろうとする男だったが、レイカがそれを制止する。
「あっ、むりをしたらダメですの!」
 レイカは男に近寄ると、己の小さな掌を男の腕の傷口へと向けた。そして彼女が目を瞑ると、燐光が傷口を覆う。
 光を浴びた傷口は見る見る内に癒えていき、男は喜びと驚嘆に目を丸くした。
 
「す、すげぇ。痛みが一瞬で……」
 先程まで動かなかった腕は自在に動き、重かった身体も軽くなっていた。
 だが、一方のレイカが額に汗を滲ませ、息を荒らげていた。
 もしかして、この魔法。
 何かに気が付いた男はすぐさまレイカの手を払おうとした。
「もういい。あんたこそ俺なんかのために無理をするな!」
 
 レイカの『雪明』は人の限界を超越した高速治療の代償として己の体力を大きく消費する。
 それを悟った男はこれ以上の治療など必要ないと言うが、レイカは頑としてそれを許さなかった。
 
「がんばって守ってる人達に、祝福を。やりきるだけの力を。
 ……俺なんか、なんてダメですの」

 そう言って優しく笑顔を浮かべるレイカに男は言葉を詰まらせた。
 これほど強力な術だ。男には想像もつかぬほどの疲労を感じているに違いない。
 だが、それでも少女は笑う。その裏には確固たる強い意志が在った。

「やりきる……か」
「ウチはこの子達と他の冒険者さんを助けに行くですの。他にも怪我をした人がいるみたいだから」
 治療を終えたレイカが言うと、男の顔が曇った。

「俺は……」

 俺は、どうするというのか。自分は何も守れなかったどころか、見ず知らずの妖精に守られただけ。その事実を再認すると波のように恥じらいが押し寄せてくる。
 だが、そんな男へ向けてレイカは小さな手を差し出した。

「一緒に戦うですの」
 
 屈託のない笑顔。
 男は暫く沈黙すると膝を曲げ、レイカの目線に合わせ、小さき妖精の手に触れた。
 自分は誰かを守れるだけの力を持たない。しかし、戦うばかりが守るということなのか。
 男はレイカの戦う姿を通じて大切な何かを学ぶと、自分の成すべき事を改めた。
 
 その後レイカと男は協力し同じように迷い込んだ一般人や、戦いの中で負傷した猟兵達を救助する。
 最終的に治療した一般人は男と共に街へ帰した。猟兵は再び戦場へ復帰する者もあれば帰還する者もいたが、素早い治療により死人はいない。
 小さな猟兵はそうして戦場の絶望を打ち払い、希望を咲かせ続けるのだった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


荒野に竜の咆哮が轟いた。
 夕日が大地を紅く染める中、猟兵達は空を見上げる。彼らの頭上に影を注ぐのは、憤怒を露わにした紅鱗の飛竜『ワイバーン』。
 酷く湾曲な竜爪は仕留めた巨大生物の肉を抉ることに特化し、意思持つ生物のように波打つ尾は薙ぐだけで岩山を叩き割る。
 飛竜が羽ばたく度、砂埃と翼に染み付いた血臭が周囲を覆い、圧倒的な存在感をその場にいるあらゆる生命体へ知らしめる。
 
 猟兵達の活躍によってお灸を据えられた仔竜達であったが、彼らの親玉であり全ての元凶は今こうして猟兵達の前に姿を現したばかりであった。
 飛竜の登場と同時に空気は途端に張り詰めたものへと変容する。全身を総毛立たせるような竜の殺気が猟兵達を呑むが、怯む者はいない。
 
 一度、二度と空を舞った飛竜によってありったけの砂埃が舞い上がる。暴風に飛ばされないよう足腰に力を入れる猟兵達を、飛竜が天より見下ろした。
 侮蔑と怒りの混じった黄金の瞳が猟兵達を捉えると、飛竜は首を天高く持ち上げる。
 
「散れッ!!」

 誰かが言うより早く、地上の猟兵達は各々の本能に従い飛び跳ねていた。そのコンマ数秒の後、空間をも揺るがす咆哮と共に衝撃波が放たれた。
 突然の轟音に思わず耳を塞ぐ猟兵達。直後、彼らが寸前に立っていた大地を衝撃波が穿ち、破砕する。砕けた大地の破片が猟兵達へと降り注いだ。
 息を呑む猟兵。いっそアレが直撃していたならば苦痛を抱くことなく昇天できただろう。
 咆哮に怯んでいる間に塵と化し、自分が何かを受けたという認識さえ無かったかもしれない。
 未だ耳鳴りの絶えない耳を押さえながら、改めて猟兵達は飛竜を見上げた。

 空の支配者たる飛竜の圧倒的暴力を前にしても逃げ出す者はいない。この飛竜を倒さねば、仔竜の襲撃がとどまることはないのだから当然だった。
 かつては安全だったこの荒野はアズィールの街にとって重要な通商経路の一つだ。飛竜を追い払わねば街の経済だってやがて成り立たなくなるだろう。
 それどころかこの飛竜が本気となって人を襲い貪れば、国や世界すら滅ぼしかねない。それがワイバーンであり、恐るべきオブリビオンなのだ。
 過去による未来の侵食を防ぐ。それが自分達の使命だと猟兵達は理解していた。
 
 猟兵は互いに顔を見合わせると、一先ず飛竜から距離を取った。

 斯くして仔竜討伐を達成した猟兵達は、空の支配者と対峙する。
 夕焼けに染まる荒野を舞台に、各々が己の武器を構えた。
新納・景久
「おう、わいが親がか。太かなぁ。おぉ、ほじゃっだ」
落とした仔竜の首を持ってきて地に置く
「こん首ィ! こん新納・景久が討ち取りもした! じゃっどん、親ば見たで、お返し申す!」
その場をそろそろと離れ、鬼吼丸に手をかける
「子ば奪われたで悲しかろが! じゃっどん戦ん常じゃで、許せんち思うたなあば、仇ば取りぃ来んか!」
相手が仕掛けてくるまでは絶対に手を出さない
子を殺したやましさからではなく、それが兵子の礼儀であると信じるから
「おう、来っが。なあば良し、子と共に寝っとや!」
蜻蛉一之太刀で勝負
一撃で首を落とす気概で向かう
敵の攻撃は回避しない
親はさぞ無念であろうから



荒野の一点。冷ややかな乾風が猟兵達の頬を撫でる。
 夕焼けを浴び、天より猟兵達を見据えるのは飛竜。猟兵達は空の支配者を前に臆しているわけではないが、戦いを開始する切っ掛けを掴めずにいた。
 一瞬の隙を見せれば、屠られる。それは猟兵達が思考することなく理解できる当然の結論だった。
 竜を睨む猟兵達を黄金の瞳が応える。陸と空を彼らの視線が結んだ。
 
「おう、わいが親がか。太かなぁ。おぉ、ほじゃっだ」

 沈黙を破ったのは新納・景久(未来の親指武蔵・f02698)だった。
 黒髪の彼女は竜を見上げながら飄々と言う。
 そして他の猟兵達が制止するのも構わず前へ歩みだした。
 手には、自らが討ち取った仔竜の首。竜が瞳に憎しみの色を浮かべる。
 飛竜は今にも飛びかからんと全身の筋肉を張り上げるが、捕食者としての歴年の経験がなんとか怒りを食い止めていた。
 景久は猟兵達から距離を取ると、仔竜の首を地に置いた。そして荒野全体に響かせる如く大声を張った。
 
「こん首ィ! こん新納・景久が討ち取りもした! じゃっどん、親ば見たで、お返し申す!」
 毅然と言い放つ景久に、侮辱や嘲りはない。

「子ば奪われたで悲しかろが! じゃっどん戦ん常じゃで、許せんち思うたなあば、仇ば取りぃ来んか!」

 景久が鬼吼丸に手をかける。やましさによる宣言でも、後悔による宣言でもなかった。
 これが兵子の礼儀。
 己の信念であり、成すべき道なのだ。彼女はそう信じていた。

 猟兵達はこの荒野へ竜を討ち取りにきた。則ち、自分達の生還は飛竜の死を意味する。
 では、もしこのまま奴を倒してしまったならば、親竜はどうして子の亡骸を見るというのか。
 子の亡骸に何を想えというわけでもない。
 ただ報せるのだ。この景久が討ち取ったのだという事実を。
 
 飛竜が吠える。咆哮は大地を震わせ、猟兵達を竦ませる。だが景久は動じない。
 遂に怒りに呑まれた飛竜は、己の眼下にいる景久を一点に捉えると、鋭利な巨爪を剥き出しに急降下を始める。
 回避しなければ爪が胸を裂き、強靭な尾は彼女を串刺しにするだろう。
 だというのに、景久は回避を始める様子もなく堂々と言った。
 
「おう、来っが。なあば良し、子と共に寝っとや!」
 飛竜の接近より早く、大太刀・鬼吼丸が構えられる。途端、彼女を鬼神の如く闘気が取り巻いた。
 雷の如く天より襲いかかる竜。爪が風を、尾が空を裂き、互いの獲物が触れ合う寸前。景久は、にっと笑った。
 
 ――――竜が吠え、鬼吼丸が応える。
 竜と鬼の衝突。それは、静寂によって終結する。
 衝突によって舞い上がった砂埃が徐々に晴れると、見えるのは肩口を裂かれ血を流す景久。猟兵達がどよめいた。
 だが、砂埃が完全に晴れると、それは感嘆へと変わった。
 現れたのは首に深く鬼吼丸をめり込ませた飛竜。首を覆う紅鱗は剥がれ落ち、血流は滝となって溢れ出す。
 
 もし飛竜が寸前で冷静さを取り戻し、尾で太刀の勢いを殺すことに成功していなければ、一太刀にして首を両断されていただろう。
 心臓ごと胸部を裂くため放たれた爪撃は、自身による咄嗟の防御行動によってズレが生じ、景久の肩肉を剥ぎ取るに留まった。
 飛竜は鬼吼丸を振り払うと、悲痛な声と共に羽ばたいて、再び空へと舞い上がる。
 一方の景久は、激突の場から動くことなく立っていた。
 不思議なことに彼女の顔には痛みへの苦悶はない。そこにはただ、『蜻蛉一之太刀』を受け止めた竜への屈託なき称賛の笑みだけがあった。
 
 猟兵達を侮るべき存在でないと悟った飛竜が、再度空を舞う。
 驚異的な生命力を持った飛竜は、首を深く傷つけられても死に絶える様子はない。
 
 竜の威圧によって迂闊に動けずにいた猟兵達はようやく、景久に感化されるよう動き出した。
 そうして彼らもまた竜との戦いへと身を投じる――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティアナ・スカルデット
他の人との絡みOKです

【POW】
飛竜を見上げ
親の登場ですね
仔竜相手ではともかく親の飛竜相手になると私では立ち向かうのは困難ですね

地面に左手を付けて詠唱

堅き岩より生まれし存在
その結ばれし鎖を断ち切り
今こそその呪縛より解き放たれ
我が意によりて
我が成すままに
我に従い力となれ

ユーベルコードのアースジャイアント発動

地面が盛り上がり人型に
元々、身長が低いのでそれでも人間大の大きさしかない


飛竜の一撃は強力なので無敵城塞で受けるのも危険が伴うと判断
回避重視で挑む

当たらなければどうということはない

流石に飛竜ともなると戦いの年季が違いますね
攻撃を回避するのがやっとです

親の飛竜も倒したのですが他にもいるのでしょうか


レイカ・ヴァンスタイン
親玉さんが出てきましたの、ここで追い払えばもう安心ですの(訳:倒す)
でも、ウチはあくまで支援に徹しますの
「ホルスちゃんもあんなにおっきくなるかなぁ」(出番の無いユーベルコード

さ、皆の攻撃が有効打になるように人形達〈彩光隊〉には援護射撃で、あいつの誘導とか足止めとかを頑張ってもらいましょう
「さっきの焦げた服は、帰ってからだから、我慢して頑張ってなの」

負傷者が居ないかを注意して探しつつ、ウチ自身が襲われたら元も子もないので無理はしませんの
さっきの疲れ?へいき、へっちゃらですの
「ウチの代わりに頑張ってもらってる分、ウチもみんなを支えてあげないと・・・ですの」




 本格的に戦闘が始まると猟兵達は次々に飛竜へ攻撃を仕掛けるが、陸と空では当然分が悪い。
 陸からの攻撃が空飛ぶ飛竜を捉えることはなく、一方の飛竜は隙を見つけるなり急襲を仕掛け、猟兵達を着実に削っていた。
 
「ホルスちゃんもあんなにおっきくなるかなぁ」
 
 空を見上げながら言ったのはレイカ・ヴァンスタイン(銀光精・f00419)。20cmにも満たない、銀髪の妖精だ。
 口ぶりは呑気であるが、彼女とて猟兵。この場が戦場であるということは十分に知っていた。
 レイカは人形達〈彩光隊〉による地上からの援護射撃で竜を牽制しつつ、救助活動に励んでいた。
 赤、青、緑……多彩な色々の和装人形によって成り立つ彩光隊は、美しく洗練された動きで竜の攻撃を避けながら弾幕を形成すると、華麗な連携を保ちながら猟兵達を支援する。
 それを操りながらなお、レイカは『雪明』によって負傷した猟兵達の救助を行っていた。
 支援用の人形を操り、負傷者を戦場の中心から離れた場所に集め、治療に専念する。その間にも、彩光隊の弾丸が竜へと襲いかかる。
 
「さっきの焦げた服は、帰ってからだから、我慢して頑張ってなの」

 レイカは負傷者を治療しながら、人形達を想い呟いた。数では猟兵達が勝っているものの、戦況は竜が支配しつつあった。
 戦場の妖精もまた、『雪明』の副作用によって体力を消耗しつつある。
 救助にだけ専念できたら良いのだが、彩光隊による援護もしなければならない。同時の作業が徐々に人形達の動きを鈍らせていた。
 
「ウチの代わりに頑張ってもらってる分、ウチもみんなを支えてあげないと……ですの」

 自分が頑張れば、他の人はもっと頑張れる。だったら、自分はもっともっと頑張ってやる。
 さっきの疲れ? へいき、へっちゃらですの。
 小さな身体に秘めた熱き闘志が彼女を突き動かす。
 
 雪明の力を限界まで引き出せば大勢の猟兵達を一度に治療することも可能だが、それには膨大な疲労と危険が伴うし、竜の目にも止まるだろう。
 今は慎重に、確実に。負傷した猟兵達を一人ずつ戦場の中心から少し離れた岩陰に運び、そこで治療する。
 これなら自分がやられることもなく安全に治療できると判断してのことだった。
 決して無理はしない。皆を助けられる自分が倒れては元も子もないのだから。
 だが――――。
 
「危ないッ!」

 誰かが言った。岩陰で負傷者を治療するレイカだったが、声に気が付くと慌てて振り返る。
 自らの後方。いつの間にか、夕陽に覆い被さるように竜がいた。
 レイカの反応を待つことなく持ち上げられるのは竜の首。
 まずい、と判断した時には遅かった。レイカと負傷した猟兵を大地ごと吹き飛ばさんと、咆哮が鳴る。
 耳を裂く轟音に硬直してしまうレイカ。あらゆる者を竦ませその場に張り付けてしまう竜の咆哮に続き、全てを破砕せんと衝撃波が襲いかかる。
 回避は、できない。絶望の最中、レイカは唄を聴く。
 
『堅き岩より生まれし存在
 その結ばれし鎖を断ち切り
 今こそその呪縛より解き放たれ
 我が意によりて
 我が成すままに
 我に従い力となれ』
 
 爆破音が響き、地面が吹き飛ばされる。爆風によって大地が破片となり宙を舞った。
 しかし、飛竜の顔には鬱陶しい彩光隊の指導者、それを屠ったという喜びはなかった。
 
「間に合った……!」

 安堵の息を吐いたのはティアナ・スカルデット(ロンズデーナイト・f11041)。日焼け肌が特徴的な小柄のドワーフだ。
 空を抱くようにする彼女の横には『アースジャイアント』がいて、その2mほどの小さな巨人が抱えるのは負傷した猟兵とレイカだった。
 力の入れ方を間違えればレイカなど容易に潰してしまえるほどの怪力を持つアースジャイアントだが、巨人はティアナの動作を忠実に真似るため心配はない。

「あ、ありがとですの! えっと……」

「ティアナ・スカルデット、です」

「ティアナちゃん! もっかい、ありがとですの!」

 心からの感謝を述べるレイカを、ティアナの優しい笑みが迎える。
 しばらくすると、レイカの人形達がわちゃわちゃと集まってきた。
 無論それは彼女が操っているのだが、少女を模る人形達が、己の意志で友を守りにきたようにも思えた。

「仔竜相手ではともかく、親の飛竜相手になると私では立ち向かうのは困難ですね」

 荒野の風に髪を流しながら、ティアナは言った。
 強靭な硬化によって絶対的防御を手にする『無敵城塞』を持つティアナだが、あの飛竜の一撃を受ける自信はなかった。
 よって彼女は『アースジャイアント』を用いた遊撃を方針としていたのだ。
 賢明だろう。飛竜の衝撃波は大地もろとも粉砕する。無敵城塞だろうが、それを立たせる足場がなければ何の意味もない。
 ティアナが竜槍『ドラゴンランス』を構えると、それを模倣するようにアースジャイアントが土によって成り立つ巨大な竜撃槍を構えた。
 
「し、シンクロですの……」

 飛竜が黄金の瞳を細め、小さな巨人を見据える。仕留める寸前の獲物を横取りされた屈辱が怒りを呼んだ。
 自分達より遥かに矮小なはずの存在が、どこまでも楯突こうとする。
 その憎き現実が、竜の逆鱗をこれでもかと刺激した。
 やがて飛竜はレイカより先に、愚かな巨人を抹殺せんと空中で竜爪を構える。
 
「来ますの!」

「平気です、当たらなければどうということは――!」

 ティアナは言いながらその場を跳躍し、横へと回避する。それを、アースジャイアントが一寸の遅れもなく倣う。
 急降下の勢いを乗せ放たれた飛竜の爪撃が大地を抉る。しかし、既に回避していたティアナがそれを浴びることはなかった。
 そして攻撃を躱された飛竜が再び飛翔するより早く、ティアナとアースジャイアント。二人の巨人が槍で竜を突き刺した。
 鱗をも串刺しにする一撃が、飛竜の悲鳴を呼び起こす。弾けるように血を噴出させる飛竜だが、なおも闘志が消える様子はない。
 
 怒りを爆発させた飛竜は大地に降り立つと、怒涛の猛攻を開始した。
 空の支配者は陸でも王であるというのか。あまりにも神速に繰り出される爪撃を、ティアナは避けることしかできなかった。
 爪が皮膚を裂く寸前に、最小限の動きで身をズラす。無駄な動きを殺さねば、次が避けられない。
 
(流石に飛竜ともなると戦いの年季が違いますね……攻撃を回避するのがやっとです)

 反撃の隙を見つけても、すぐに次の攻撃が押し寄せるため間に合う気配がなかった。
 爪を避けると、尾が襲いかかる。アースジャイアントの巨大な竜槍がそれを受け止めねば、間違いなく一撃で持っていかれていただろう。
 アースジャイアントはともかく、自分が攻撃を受けるのは不可能だ。とにかく躱すしかない。ティアナは思案するまでもなく回避を継続する。
 二人の巨人と飛竜が繰り広げるのは、傍から見ると戦闘というよりは舞のようにも思え、眺めていたレイカはただぽかんとしていた。
 
「はっ! ウチも援護するですの!」

 レイカは我に返ると、人形達による援護射撃を開始した。ティアナ達に当たらないように、それでいて竜が一番嫌がるようありったけの弾丸を。
 突然襲いかかった銃弾の雨が、竜の動きを鈍らせる。
 生み出されたのは、一瞬の隙。
 ティアナが腰を沈め竜槍を構えると、土の巨人も続く。
 そして恐ろしき暴君が見せた隙を穿つように、二つの竜槍が放たれた。
 
「私だって――もう、戦えるッ!!」
 再度鳴るのは竜の叫び。飛竜の脇腹から溢れんばかりの血が流れ出る。
 竜槍を放ったドワーフの少女の顔には、何かを成し遂げたことへの達成感が浮かんでいた。
 
 仕留めるには至らないが、飛竜の力が失われつつあるのは間違いなかった。
 竜は咆哮で二人を竦ませると、即座に飛翔する。
 地上は危険だと判断したのか、それともこの二人を同時に相手にするのは無謀と判断したのか。
 
 恐ろしきオブリビオンの暴力は着実に衰えを見せ始めている。
 猟兵達はこの好機を見逃すことなく奴を討伐せんと動き出した――――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草間・半蔵
あの蜥蜴も、飛んでるのがめんどくさい
けど攻撃の時には降りてくるなら…その瞬間を狙おう

炎を纏わせ翼狙いでダガーを『投擲』更に連続で炎を飛ばす
警戒してなかなか降りてこないかもしれないから
遠距離でも攻撃する手段があるんだと思わせる
当たるかどうかより数で勝負
うっとうしくなって降りてこい!
攻撃してきたら直前まで動かず動きを見よう
『野生の勘』を信じて横に転がり『見切り』
素早く体制を立て直して
尻尾めがけて『鎧砕き』の一撃を叩き込む
「千切れろ…!」
弱ってるうちに同じ場所目掛けてもう一回で『2回攻撃』

★アドリブ歓迎



砂塵が舞う荒野を、少年は駆けていた。
 足場の悪い大地を物ともしない走りの中で、草間・半蔵(羅刹のブレイズキャリバー・f07711)は短剣を構える。
 その上方。赤く染まった空には猟兵達への憤怒を叫ぶ竜がいた。
 竜を覆っていた鱗は次々と剥がれ落ち、肉体の随所を覆う傷口には乾いた血が張り付いている。
 
 甚だしく、不愉快。
 飛竜はそう言わんばかりに猟兵達を見据え、再度咆哮をあげる。
 己は空の支配者。対する猟兵は地を這う有象無象。だというのに、なぜこれほどまで追い詰められるのだ。
 智慧ある竜だからこそ、その答えを理解できてしまう。故に憤怒は止め処なく溢れ出し、冷静さを湖底へと置き去りにする。
 
(あの蜥蜴も、飛んでるのがめんどくさい。けど攻撃の時には降りてくるなら……その瞬間を狙おう)

 半蔵は立ち止まり、自らの短剣に『ブレイズフレイム』による炎を纏わせると、怒りに身を任せ衝撃波を放たんとする飛竜を見上げる。
 空の王とて地に墜ちれば権威を失う。地上でも強力な竜であるが、空ほどではないのは既に周知だった。
 問題は、どうやって降ろすかだ。
 半蔵は思案した。
 
(数で勝負といこうか)

 視線の先には首を大きく振り上げて衝撃波を構える飛竜がいるというのに、半蔵は悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。
 刹那。飛竜は咆哮と共に首を振り下ろし、大地を穿つ衝撃波を放った。それは音よりも早く着弾すると、半蔵の立っていた地を粉々に吹き飛ばす。
 しかし、見るよりも早く半蔵は躱していた。横へ跳ねるよう大きく飛び、着地を待たずして炎を纏った短剣を投げ放つ。
 
 攻撃動作を完全に終えていなかった飛竜の腹部に、地獄の業火が突き刺さる。
 飛竜は痛みと灼熱に苦悶を浮かべながら短剣の主を睨みつけようとするが、その瞬間。自らへ押し寄せる無数の炎を目にしてしまう。
 それは地獄の業火によって成る短剣。『ブレイズフレイム』による炎雨だ。

 回避は間に合わない。いや、回避のしようがなかった。両翼を狙って怒涛の炎雨が次々、嵐のように飛竜へと襲いかかる。
 灼熱の業火によって翼を焼き焦がされた飛竜は呻きを上げると翼をたたみ、頭を下にして大地へと墜ちる。
 砂埃が一斉に宙を舞った。
 
 再度飛竜を失墜させた猟兵達。しかし竜とて飛行機能を完全に失ったわけではないだろう。
 だが、再び空高く飛ぶには時間が必要のはず。
 だったら、今の間に少しでも多く削ってやる――――。
 半蔵が追撃の構えをとった。
 
「お前がただの蜥蜴だったら、こうはならなかった」

 言った半蔵を、憎悪の眼が捉える。
 飛行機能を奪われようが地上戦が不可能となったわけではない。まだ戦えると、飛竜の瞳が語っていた。
 倒れていた身体を素早く起こし、半蔵を睨む竜。
 岩山のような巨躯に見下ろされてもなお、半蔵は怖気づかない。彼は、力を恐れない。
 飛竜が長い尾を持ち上げる。

「だが、お前はオブリビオンだ。そしてオレは」

 言い終えるのを待たずして、飛竜が疾風の如く尾を振るう。しかしそれが半蔵を討つことはなかった。
 衝撃波を躱したように、半蔵の野性的感性は認識を超越した回避を可能とする。
 横に転がり尾を避けた半蔵は速やかに体勢を立て直すと、その尾目掛けて渾身の一撃を放つ。
 
「オレは猟兵だ」

 千切れろ。
 半蔵は背に構えていた鉄塊剣を振り上げると、躊躇うことなく尾へと叩き付ける。
 細い腕のどこにと思われるほどの力を乗せた一撃は筋繊維ごと尾を叩き潰し、飛竜の悲鳴を奏でた。
 だが半蔵は止まらない。全身を捻り、勢いを乗せて再度大剣を構えると、同じように振り下ろす。
 ありったけの血飛沫が散った。
 切断された尾から血が噴水のように溢れ出し、竜の身体が弾けるように尾から離れる。
 
 耳を劈く甲高い鳴き声。
 飛竜はようやく飛行機能を取り戻して再度の飛翔を図るが、それは竜が幾度見せたような支配領域への帰還ではなかった。
 それは紛れもなく、地上にいる捕食者からの逃走であり、猟兵達がオブリビオンを追い詰めたという証だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
人を虫けらのように扱いやがって
飛竜を狩るぜ

手段
常に移動し出来るだけ眼下に位置せぬ様注意
炎で空気を歪め蜃気楼の如くぼやけさせる

駆けながら
命と未来を守るという想いを込め
Wウィンドを奏で歌い
皆を鼓舞しつつ聖なる調べで咆哮の力を削ぐ
;コミュ&パフォ&演奏&歌唱&手をつなぐ&勇気&優しさ&破魔

動き回りながら地獄の炎を放ち
翼を燃やし機動力を削ぐ

急降下が反撃の好機
爆風や爪を剣で受け流して逸らし
その勢いのまま体を回転させて逆側から
紅蓮の炎を纏う焔摩天を喰らわせるぜ
:武器受け&属性攻撃&破魔&薙ぎ払い&鎧砕き

今を生きる人達が未来を創っていく
未来は人の命の重みだ
それを背負う俺達の覚悟を味わいやがれ!



空飛ぶ竜の意識を支えるのはもはや猟兵達への怒りしかなかった。
 無数の傷を纏った紅鱗の竜は聞くものを総毛立たせるような咆哮を上げると、狂ったように衝撃波と爪撃を荒野のあちこちに撒き散らす。
 そして狭窄された視野の中で動く者があれば、すぐさまそれを猟兵と認識し襲いかかるのだ。
 回避というよりは天災からの避難。猟兵達はその暴威を身に浴びないよう必死の形相で荒野を駆けていた。
 一方で、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)は冷静な面持ちで走りながら、飛竜を見据えていた。

(人を虫けらのように扱いやがって)
 その瞳には命を弄ぶ存在への憤怒が宿る。彼の背には断罪の大剣・焔摩天と風の演奏器ワイルドウィンドがあった。
 
 竜は遠方にいる敵には衝撃波、眼下にいる者には爪による急襲を仕掛けているが、そのどちらも、視野狭窄に陥った眼を経由しているようだった。
 ならばと、ウタは立ち止まり、紅蓮の炎を纏って己の身を蜃気楼へと投じた。

 飛竜の恐怖は衝撃波だけでなく、その直前に放たれる咆哮にもあった。咆哮を耳にした多くは本能的に動きを止めてしまうのだ。
 鍛え抜かれた猟兵とて例外ではなく、あの咆哮を封じないことには不意の一撃が彼らを絶命させかねなかった。
 そしてまさしく今、竜が壮絶な咆哮をあげると猟兵達が回避の動きを止めてしまう。続く衝撃波が、大地に張り付けられた彼らを抹殺せんとした時、男の声が戦場に響く。

 俺達から、未来を奪うな。

 炎の幻影の中で、風の調べが鳴った。聖なる音色が戦場を渡ると、咆哮に竦んでいた猟兵達が氷解する。彼らの止まっていた時間が動き出し、咆哮の呪縛から解き放ったのだ。
 続いてウタが放った紅蓮の炎は飛竜の喉元を直撃し、竜の攻撃を中断させる。

(呪いの唄を聴く必要はない。俺たちはただ未来へと向かえばいいんだ)

 蜃気楼が晴れ、ウタが竜の目に留まる。咆哮を掻き消す異端の存在に、竜が鋭利な爪を構えた。
 だがウタはまるで怯む様子もなく焔摩天を構えると、虚空へ向かってそれを振るった。空に描かれた斬撃は紅蓮の刃となって具現すると、飛竜の焼き爛れた翼をさらに破壊せんと飛びかかった。
 竜は咄嗟に回避するが、次々と迫る刃が追撃を仕掛け、連続の回避を阻止する。
 このままだと、喰われる。
 飛竜はそう判断すると回避から攻撃へ移行する。飛竜はウタを標的とすると、翼を大きく広げ竜爪と共に急降下を始めた。

(待っていたぜ、この時を)

 風を切り天より落下する巨躯の竜。だが狙いの先にあるウタは避ける素振りもなく、焔摩天を手に待ち受ける。
 空より繰り出される凄絶の一撃など当然受けられるはずがないのに、剣を以てそれを受けようとする矮小な存在を、飛竜が嗤う。
 だが、激突の寸前。真に笑ったのはウタであった。

「今を生きる人達が未来を創っていく。未来は人の命の重みだ」

 空より振り下ろされし竜爪を大剣で受けたウタは、それに合わせて剣を僅かに流し、竜爪を衝撃と共に虚空へ払う。同時にウタは激突の勢いを我が物にすると、身体を大きく捩った。
 爪を受け流され、衝撃も吸収された。これにより体勢が崩れ着地に失敗した飛竜は、当然の如く隙を生む。
 ここだ、とウタが勢いを殺さぬまま焔摩天を構える。

「それを背負う俺達の覚悟を味わいやがれ!」
 
 竜の脇腹を、紅蓮の炎に包まれた焔摩天が抉る。激痛と灼熱の複合が瞬時に竜の感覚を支配し、巨躯が地面へと叩き落とされる。
 
 それでもなお立ち上がり、飛翔するのは大空の支配者。
 常軌を逸した生命力は、竜がオブリビオンだという証明であり、どこまでも現在に執着する憐れな亡者であることを示していた。
 ウタは嘆く。それほどの強い命が、なぜ未来を奪うことにしか向けられないのかと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
「これが飛竜…圧倒的な空の支配者。
ふふ、何だかマリアの存在が矮小に感じてしまうのだわ。
それに…きちんとあなたの生き様を目に焼き付けておきたいの」

青のドレス翻し上空の敵を見つめ、嗤う
【透白色の奏】発動
攻撃が届く範囲で距離取り、不用意に近づかない
竪琴を奏でて攻撃
衝撃波には綺麗な音で演奏で攻撃して相殺
敢えて隙を作り【おびき寄せ】て、【マヒ攻撃】を付加した演奏で敵の行動を狂わす

「あなたに生を奪われた者達の為にも、マリアのやるべきことをやるのよ。
荒野を、街をそして人々を護る為にここに降り立っているのだわ。だってマリアは猟兵なのだから。
笑顔に満ちた楽しい世界のために。どうか眠りについて頂戴?」

アドリブ歓迎



通るような銀髪を緋色の空に流しながら、マリアドール・シュシュ(クリスタリアンのサウンドソルジャー・f03102)は竜を見た。
 鱗は剥がれ、腹を抉られ、尾を断たれ。それでもなお戦いの意志を崩さないのは、竜がオブリビオンであり、彼女らが猟兵であるからか。
 荒々しい大地には不釣り合いな青のドレスを揺らし、少女は嗤う。
 宝石のような金色の眼が、竜の黄金と交錯する。竜の瞳は血が滲み、猟兵達への憎悪がこれでもかと表れていた。
 
「これが飛竜……圧倒的な空の支配者。ふふ、何だかマリアの存在が矮小に感じてしまうのだわ」
 
 きちんとあなたの生き様を目に焼き付けておきたいの。
 少女は呟くように言うと、己を圧倒するほど巨大な飛竜を凝視する。
 竜は既に満身創痍であるが、なおも己の持つ全てを繰り出し、猟兵達を破壊せんとしていた。
 なぜそれほどまでに猟兵達を憎むのか。マリアドールはそれを問おうとはしない。
 
「あなたに生を奪われた者達の為にも、マリアのやるべきことをやるのよ。
 荒野を、街をそして人々を護る為にここに降り立っているのだわ。だってマリアは猟兵なのだから」
 
 それは宣言だった。
 彼女は猟兵である。それは竜を地に墜とす者。人々に希望を運ぶ者。
 少女の金色が歪みを孕んだ。
 同時に、竜が動き出す。目視する少女が、己を追い詰めた猟兵の一人であるという認識が、逆鱗を刺激し咆哮を呼んだ。
 だが、少女が怯むことはない。
 マリアドールが手に構えていた黄昏色の竪琴を奏でると、美しい旋律が一定のリズムで戦場を踊った。旋律は竜の哮りを掻き消すと、その顔に苦悶を与える。
 
「きちんとあなたの生き様を目に焼き付けておきたいの」 
 
 マリアドールは痙攣する竜の眼を見据えながら微笑した。
 雪色の細指がハープを撫でる度、『透白色の奏』が竜の肉体と精神を蝕む。
 息を呑むほどに流麗な音色を聴いて苦痛を抱くのは、竜が邪悪な存在であるためか。或いは逆なのか。
 
 しかし、竜は上書きするように再度咆哮をあげると、逆襲に移る。
 これまでもそうしてきたように、衝撃波による一撃で憎き存在を抹消せんと構えるが、少女が首を振った。
 
「その唄はもう聴き飽きたわ」

 不思議なことに、いつまで経っても衝撃波が放たれることはなかった。
 竜は口を大きく開いたまま硬直し、少女の奏でる旋律にただ支配されている。
 少女は風に吹き消えるほどの声で微かに歌う。その唄声が目に見えぬ鎖となり、竜を捕縛していたのだ。
 もう良いのよ。そう言うように、金色の奏者が竜を視る。

「笑顔に満ちた楽しい世界のために。どうか眠りについて頂戴」」

 微笑が、悲鳴を生んだ。彼女の奏でる音色は空飛ぶ竜を地へと引きずり下ろす。
 耳を通じ、全身を引き裂くような激痛が竜を襲ったのだ。竜は反射的に翼で身を守るよう肉体を覆ったが、内側からの破壊には何の意味も成さなかった。
 猟兵達を呪い憎むような叫びが荒野を渡るが、その咆哮にはもはや猟兵達を竦ませるだけの力もない。
 
 少女は目を閉じ、旋律を止める。
 冷気を帯びた風に頬を撫でられながら、少女は地に墜ちた竜に背を向けた。
 まだ竜は生きている。それはゆっくりと立ち上がると、猟兵達へ憎悪を込めた唸りを向けている。
 しかし、己のすべきことは最早ないというように、少女はその場を去っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

新納・景久
負傷した肩を庇い、鬼吼丸を拾い上げる
今の状態では長く重い大太刀を引きずるので精いっぱい
それでも、向き合わなくてはならないという使命感から、戦場へと戻っていく
「俺もおんしもボロボロじゃあ。互いん手の内、見つくしたろ。後は、どっちが最後に立っちょるかじゃ」
「もう一本。こいで終いにしもんそ」
鬼吼丸を蜻蛉の構えに、飛龍を誘う
敵が迫ってきたら、爪を受ける直前に身を屈め、頭上を過ぎる尾に掴まる
「ははっ! 惜しかったのう!」
尾を伝って背に登る
「ほれ、飛べ! 飛ばんか! もっと高くじゃ!!」
「あいが見えっが? おんしの子らが戦い、朽ちた地じゃ」
「ようそん目に焼き付けぇよ」
景色をよく見せて、首を落とす



まだ戦える。いや、戦わなければならない。
 飛竜は地に墜とされてもなお、猟兵達への憎悪を燃やしていた。
 それを支えるのは生への執着というより、猟兵達を破壊することへの執着。
 仔を奪われた怒りか。竜としての本能か。オブリビオンの性質か。いや、恐らくその全てが竜を衝き動かすのだろう。
 飛竜は空の緋色を浴びながら、なおも立ち上がる。
 おびだたしいほどの傷をその身に受けながらも戦いの意志を絶やさぬ竜の前に、新納・景久(未来の親指武蔵・f02698)が立ちはだかった。
 
「俺もおんしもボロボロじゃあ。互いん手の内、見つくしたろ。後は、どっちが最後に立っちょるかじゃ」
 
 言う彼女もまた、竜に傷つけられた肩を庇うようにしながら大太刀・鬼吼丸を引き摺っていた。
 常人ならばとっくに気絶していても不思議ではない傷であるが、彼女には成さねばならぬことがある。
 竜が己が持つ全てを出して立ち向かってきているのに、それに応えずして何が武士か。
 血を多く失った身体は未だ重く、頭も明瞭さに欠けているが、内なる闘志はむしろ存分に滾っていた。 
 
「もう一本。こいで終いにしもんそ」
 
 糸のような笑みと共に翡翠の眼が細められ、唸りを上げる竜へと向けられた。そして景久は蜻蛉の構えをとる。
 その構えに、眼前の敵こそ己に痛烈な一太刀を浴びせた猟兵であると思い出した飛竜が、最後の力を振り絞るように咆哮をあげた。
 飛竜は傷ついた肉体を労ることもなく翼を広げる。塞がっていた傷口が開き、至る箇所から血が噴き出るが、もはやそんな些細なことは竜の意識に入らなかった。
 竜は小さな飛翔の後、空中で爪を構えるとそのまま降下の勢いを乗せて景久へと飛びかかる。
 疾い。あまりにも無駄のないその動作はきっと、竜が多くの生命を奪った過程で洗練されきったのだろう。
 これほどの死闘を繰り広げてなおも、疾風の如く速さを秘めるか。そう感嘆したのは、景久も竜も同じだった。
 景久は降りかかる爪撃を、一閃と大地との隙間に沈むよう即座に身を屈めて避けた。続くのは二撃目。
 飛竜は先端を断たれつつも未だ長さを保つ尾を持ち上げると、空間ごと景久を薙ぐように大きく振った。しかし、それも読めている。
 景久は一瞬痛みに顔を顰めながらも再び身を低くして躱すと、尾が過ぎ去る前に手を伸ばした。そして、その側面の竜鱗に指を引っ掛ける。
 力を込めると指肉に竜鱗が食い込み血を誘うが、構うことはない。景久は指先の力だけで全身を持ち上げるようにすると、軽快に尾を登った。

「ははっ! 惜しかったのう!」

 尾を伝い背へと駆ける最中、景久が少年のように笑った。
 竜はその背についた異物を振り落とさんと身を捩るが、しがみつく景久は一向に落ちる気配がなかった。
 焦りを覚えた飛竜が翼を広げて、大地を蹴る。一帯を覆うほどの砂煙と暴風が巻き起こっても離れないままに、景久は嫌味なく言った。
 
「ほれ、飛べ! 飛ばんか! もっと高くじゃ!!」

 応えるように竜の身体が地を離れ空へと浮かぶ。
 風が全身を殴るよう吹き付けるが、汗ばんだ景久にはむしろ心地よかった。
 沈みつつある夕陽が竜と景久を緋色に照らす。眼下には延々と続くように思われる荒野が広がっていて、見上げる猟兵達がいる。
 ふと、荒野の一帯を指で示しながら景久が言った。
 
「あいが見えっが? おんしの子らが戦い、朽ちた地じゃ」

 竜が小さく喉を震わせて応える。その様子からは最早、彼を覆っていた怒りや憎悪を感じることはできない。
 己の運命を悟ったように竜は落ち着いていた。黄金の瞳は景久の示す地をただ見据え、哀愁の伴う黄昏を反射する。
 空飛ぶ竜の首に、鬼吼丸が寄り添った。
 
「ようそん目に焼き付けぇよ」
 
 最後の言葉と共に鳴るのは鬼の遠吠え。
 埋め尽くすほどの鮮血を空へと還しながら、竜の首が落とされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『ギルド体験記』

POW   :    ゴブリンからドラゴンまでどんとこい、討伐クエスト

SPD   :    珍しい薬草や鉱石を素早くお届け、採取クエスト

WIZ   :    その他魔術についてお困りの方はこちら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「この度は誠に、ありがとうございました」

 うんと澄んだ青空の下で、しわがれた声の老人が言った。アズィールの街は仔竜の悪戯のせいで復旧作業にあったが、街を歩く人々の顔に陰りはない。
 石畳を往く馬車から商人が顔を覗かせると、感謝の意を込めて猟兵達に向かって手を振った。応える猟兵もいる。
 
「風来の冒険者と聞いていましたが、まさかあのイタズラっ子どもだけでなく、荒野の飛竜までをも討伐してしまうとは。なんともあっぱれですぞ」

 老人はこの街のギルド長であり、彼は猟兵達をギルドへ案内している最中だった。
 しばらく石畳の街道を歩くと、ギルド長は木造りの酒場の前で立ち止まり、猟兵達を中へと招き入れる。
 それなりの広さである冒険者酒場には酒臭さよりも土臭さが充満していた。それは、この場がただ悦楽に浸るための場でないということを表している。
 猟兵達が酒場に入った途端、中にいた冒険者達の視線が一斉に集まった。
 猟兵を見る彼らの目には感謝と尊敬、そして名を挙げた猟兵達への若干の妬みも混ざっていたが、気にする必要はない。
 
「さて、これは謝礼というよりはお願いとなってしまうので恐縮ですが」

 ギルド長は酒場の奥にある一室へ猟兵達を招くと、彼らに頭を下げた。
 なんでもこの街では依頼を受ける冒険者が不足しており、この酒場にいる程度しか依頼を遂行する者がいないという。
 当然だろう。仔竜が襲撃し、近くでは飛竜が大暴れ。よほどの物好きか、名声を貪欲に求める者しかこんな街で冒険者など続けるはずもない。
 より大きな街へ行けば安全な依頼が沢山あるし、危険だがより良い報酬の依頼だっていくらでもあるだろう。
 おまけにこの酒場にいる冒険者の多くも街の復旧作業に力を貸している。それもあって、依頼の多くは放置状態にあった。
 
 よってギルドは目下人手不足の最中である。
 そこに現れたのが竜殺しの風来人。それも集団ときた。当然ギルド長が彼らを放って置くはずもない。
 杖つく老人だというのに、ギルド長は勢い余って自らの足で荒野へ出向くと、帰還の寸前にあった猟兵達へ声をかけたのだ。
 そして一日だけでいいからと、積み上げられた依頼の遂行を頼み込んだ。
 人助けということもあって、或いはただ面白そうだという理由もあって、各々の猟兵達は各々の考えに従い了承した次第である。
 
「いやはや、すごい量ですね」

 呆れたような猟兵の言葉に、ギルド長はうむうむと同意するよう頷く。
 よほど手をつけられる状況になかったのだろう。依頼の刻まれた羊皮紙は一室の隅に大きな山を作っていた。
 どれもこれも街の安全を守るために、もしくは困っている人々を助けるために処理せねばならない依頼であるというのに、誰も手をつけられずにいたのだ。
 
 さて、猟兵達はこの依頼の山から好きな依頼を選び、それを達成しこのギルド長へ報告しなければならない。
 依頼は多種多様だ。スライム退治、ゴブリン討伐、盗賊狩り、お使い、子供達への稽古、薬草集め、病人の治療、用人護衛、唄語り、あるいはさらなる竜退治。
 まだまだいくらでも、なんでもあった。
 名声こそ竜討伐には及ばない依頼ばかりだが、どれも誰かが何らかの助けを求めるがゆえに依頼として積み上げられている。
 
「見知った顔でもないのにこのようなお願い、ワシとて不躾であると理解しております。
 ですが、恐るべき竜の暴力より街を救ってくださったあなた達の力は、街の者にとっての希望。どうかその強き光を分け与えてくださらぬか」
 
 依頼の山を指し『では、山の中からご自由に依頼を選んでくだされ』と調子の良い笑顔で言うギルド長。
 バイキングかよ、と誰かが呟いた。
 猟兵達は各々が目についた依頼書を手にすると、たった一日で解決しろという無茶振りにも平然と応えるべく、すぐさま依頼へと出向くのであった――――。
マリアドール・シュシュ
「マリアがいくらでも力になるのだわ!
マリアはそうね…子供達をお守りしながらお歌などを披露するのよ」

依頼の山から一枚掴み取る
子供が多く集う集会場(場所お任せ)にハープを持って赴く
青のドレスの裾を抓んで恭しくお辞儀し自己紹介
保育士の様に働く
怪我や体調不良な子には【シンフォニック・キュア】

昼食後の自由時間に子供達を集める
架空言語の歌を唄い竪琴を奏でる
(何故かしらね?前にマリアも誰かにこうして歌って奏でてもらった気がするの)

「マリアは楽しい事が大好きですのよ」

家族の話が出たら言葉に詰まるも笑顔で誤魔化す

(かぞく…ぱぱ、まま…?マリアにもいたのかしら?忘れちゃったわ。
楽しい記憶はちゃんと憶えているのに)



さんさんと注ぐ陽光を浴びながら走り回る少年がいた。その少年の背を掴むよう手を伸ばしながら、少女もまた野を駆ける。
 平原には同じように戯れる子供達がいて、そんな彼らと一緒に遊びたいと言わんばかりに風が吹く。はしゃぎ声と一緒に、子供達の髪が踊った。
 一帯を深緑に染める草々の背は低く、追いかけっこに夢中な子供達が足を取られる心配はなかった。
 だが、幼い頃多くが経験したように、子供というのは何もない場所であっても転ぶものだ。その少女もまた例に漏れなかった。
 こてん、と頭から地面に倒れ込んだのは少女。
 少女は自分に何が起こったのかを理解するため一瞬の間を置いてから、膝下だけで身体を支えるよう起こし、理解が追いつくと額を両手で押さえながら大声で泣き始めた。
 不意に、大粒の涙に埋め尽くされた少女の頬を白い指がなぞった。
 
「悲しいときは唄を聴くと良いのだわ」

 目をぱちくりとさせながら、少女は眼の前に屈む銀髪の乙女を見た。
 彼女の名をマリアドール・シュシュ(クリスタリアンのサウンドソルジャー・f03102)。
 マリアドールもまた一般的な解釈で言えば子供であるが、この平原にいる少年少女達にとっては大人、或いはお姉ちゃんと呼べる存在だっただろう。
 美しくあるべき創られた人形のように整った顔立ちのマリアドールは、仕草もまた恐ろしく上出来である。
 彼女の纏う瑠璃色のドレスの端麗さもあって、少女にはこの状況が、絵本の中のお姫様が突然自分の眼の前に現れ、涙を指ですくってくれたように思えた。
 
「うた?」

 少女は姫の登場に驚きつつ言った。
 マリアドールは返すように金の瞳を細めると、吹く風に消されぬほどの大きさで、しかし意識を集中させねば風と共にどこかへ去ってしまうほどの声で唄い始めた。
 一定のリズムを刻みながら紡がれる唄声。少女の淡い唇が動く度に漏れ出る音は、気がつけば遊びに夢中であった子供達をも虜にしていた。
 だが、驚くべきはその唄声の美しさでも、口ずさむ少女の儚さでもなかった。

 マリアドールの唄声が少女の心に溶け入ると、転んだ際にできた傷が見る見る内に癒えていったのだ。
 いつの間にか泣くことを忘れていた少女であったが、自分を襲っていた痛みが消えていることに気が付くと逆に泣きそうになった。何か自分に変なことが起きてしまったのかと思ったのだ。
 しかし、それがマリアドールの唄声によるものだと気が付くと、少女はいっぱいの笑顔でマリアドールに抱きついた。
 唄が中断される。平原に紡がれるのは風の音だけとなった。
 
「もう、平気ですのよ」

 抱きつく少女の頭を撫でながら、マリアドールが言った。
 
「いや、素晴らしい」

 突然拍手が鳴った。屈んでいたマリアドールが立ち上がり振り返ると、そこにはシスターの衣装を纏った老婆がいた。
 この老婆こそ、子供達のお守りを依頼した人物である。
 老婆が背後にいるもう一人のシスターに合図をすると、そのシスターが子供達を呼び集める。そして一行は平原に簡易的な敷物を置いて昼食を摂り始めた。
 
「マリアドール・シュシュですわ」

 子供達と二人のシスターに向かうようにしてマリアドールは言った。
 両手でドレスの裾を抓み上げ、流れるようなお辞儀をしての自己紹介。老婆が拍手をすると、子供達も続いた。
 昼食を終えると、マリアドールと老婆の二人は表面のなめらかな岩に腰かけた。
 
「あの子達には家族がおりません」

 遊びを再開した子供達を眺めながら呟く老婆の言葉に、マリアドールの金色が揺らいだ。
 子供達の笑顔の裏にある過去を思い描いたからか。或いは、家族という言葉に自分の失われた記憶が反応したのか。
 
「あの子達は孤児なのです。そして私はあの子達の親代わり。……本当はもっと色々な場所に連れて行ってあげたいのだけれどね」

 老婆が苦い笑みを浮かべる。
 シワにまみれた顔が、孤児院の院長としての苦労を物語っているようだった。
 
「でも、今日は良かったわ。あんなに素晴らしい唄を聴けたのだから」

 砕けた口調で言うと、老婆はマリアドールをじっと見つめて微笑んだ。
 その言葉に嘘はなかった。
 嘘をつくのが苦手な子供達もマリアドールの唄には夢中だったし、老婆もまたその美しい唄声に心を奪われた一人だったのだ。
 マリアドールの顔にも、柔らかな笑みが浮かぶ。
 
「マリアは楽しい事が大好きですのよ」

 少しだけ得意げに言ってみた。褒められて嬉しいという素直な気持ちのどこかに、先程刻まれた『家族』という言葉が影を落とす。
 昼食後の自由時間、子供達がマリアドールの前に集まって「もう一度歌ってよ!」と何度も言うので、彼女は黄昏色の竪琴を手にとった。
 最初こそは老婆も子供達をたしなめていたが、次第に自分も唄を聴きたいという欲求に従って歌唱を願ったので、断るわけにはいかなかったのだ。
 
「では」

 マリアドールは再度洗練されたお辞儀をして、背の高い滑らかな岩へ腰掛ける。細長の脚を揺らしながら、竪琴を抱き添えた。
 そして彼女は目を伏せ奏でる。架空の言語による異風の唄と、空と交わらんほどに澄んだ音色を。
 音色は風となり、子供達のもとへと運ばれその心に染み渡る。
 歌を聴くよりも歌うほうが大好きな子供達も、この時ばかりは口を半開きにして聴き入るしかなかった。
 真面目な空気が嫌いなやんちゃ少年も、騒ぐ言葉を忘れている。
 皆の視線をその身に浴びながら、彼女はただ唄う。最中で、何かが頭をよぎった。
 
(何故かしらね? 前にマリアも誰かにこうして歌って奏でてもらった気がするの)
 
 自問に答はない。代わりに与えられたのは、暗がりの中で誰かを見上げる自分と、何かを奏でる影の絵。
 脳裏に浮かんだ影絵が、老婆の言葉を思い出させる。
 
(かぞく……ぱぱ、まま……? マリアにもいたのかしら? 忘れちゃったわ。楽しい記憶はちゃんと憶えているのに)
 
 唄声と音色に、歪みが生じた。
 彼女の奏でる旋律はその歪みすら息を呑むほどの美しさへと昇華させていくが、唄う彼女の顔には曇りがあった。
 されどマリアドールに悲しみは要らない。
 彼女は拭うように微笑みを貼り付けると、再び唄へと没頭した。
 そうしていれば、忘れたままでいられる気がしたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

新納・景久
「うっし。ちと行って来っがの」
肩の傷も気にすることなく、依頼を受ける
とはいえ、今は無理してはいけない自覚があるので、採取クエストへ
薬草は上手く見分けられないので、ツルハシを担いで鉱石を掘る
「おー、坑道にしてん、小さかのう。じゃっどん、山は大きかで、まだ進めそじゃ。帰ったら報告すっかの」
まだまだ奥から鉱石が取れる予感を覚えながら、今は奥へ向けて掘り進める
「……っ、あぁ、ちと無理しすぎたかのう」
肩は痛むが、これも勲章だと思い直す
「おっ、こいじゃ。綺麗な石だの」
採掘した石を手に坑道を出、太陽に透かす
「おい、飛竜どん見ちょっが! おんしの目ぇそっくりじゃ!」



山の表面をなぞるように風が吹くと、砂塵が舞った。
 傾斜を遮り掘削されできた坑道は木材と梁に支えられ、陽光を浴びぬままに湿気と冷気を蓄えている。
 地下へと続く坑道を歩くのは新納・景久(未来の親指武蔵・f02698)。背には愛太刀である鬼吼丸の代わりに、古びたツルハシがあった。
 
 竜との戦いは彼女の肩に傷を残したままだった。
 グリモアベースに帰還すれば治療してもらえるだろうに、彼女は名残惜しむよう傷をそのままに依頼を受けていた。
 どれだけ激闘を繰り広げようと、生死を賭けた戦いは最後に何も残さない。
 負けた者は消え、勝った者だけが残る。その当然の結末は一種の虚しさを孕んでいた。景久はそんな無情も嫌いではない。
 
 一方で、戦闘の最中で得た傷は記憶として残り続ける。景久が傷口に触れながら目を閉じると、痛みと共に竜の姿がはっきりと思い浮かんだ。
 竜を思い出すと、続いて身体の節々に戦いの感覚が蘇る。鬼吼丸を振るう感覚、火縄銃が放つ火薬の匂い、竜の放つ暴力とそれを回避する己のイメージ。
 記憶の再生に没頭するあまり、景久は坑道の低い天井を仰ぎ立ち止まっていた。
 早く帰還してもう一度強き者と戦いたい。だが、もうしばらくはこの痛みを通じて戦いの余韻に浸っていたい。
 自分の我儘さに、にやっと笑みがこぼれた。
 いつまでもそうしていたかったが、残念ながら今は依頼の最中である。

「おー、坑道にしてん、小さかのう。じゃっどん、山は大きかで、まだ進めそじゃ。帰ったら報告すっかの」

 彼女は妄想を払うように頭を振ると、改めて言った。声が反響し、奥まで渡っていく。
 坑道の暗闇を照らすのは、一定の間隔で脇に積み上げられた発光石の薄明かりのみだった。淡い光が洞窟内をうっすらと青白く染める。

 景久は鉱石採取の依頼を請け負っていた。目当ての鉱石を発見し、採掘できた場所の情報を証拠と共に持ち帰るという依頼である。
 本当ならもう一匹でも二匹でも竜退治といきたい気分だったが、未だ傷の癒えぬ中で無茶をするほど景久は無能ではなかった。
 背にあったツルハシを構えて壁に振ると、削られた壁から大小様々な石が転がる。中には価値ある鉱石もいくつかあるが、目当てのものはない。
 
「……っ、あぁ、ちと無理しすぎたかのう」
 
 景久は痛みに苦笑しつつ言った。
 やはり傷口をただ触るのと、重いツルハシを構えて壁に叩きつけるのとではワケが違う。
 そもそも鉱石採取は大抵、巨漢しか取り柄のない男が受ける依頼だった。理由は明白である。
 たった一人で坑道へと足を踏み入れ、空気の薄い地下深くでツルハシを何度も振るう。運が悪ければ目当ての鉱石は数週間以上見つからないし、事故に巻き込まれることだって珍しくない。
 体力、根性、運の全てが求められる依頼だ。少なくとも、景久のような華奢な冒険者が負傷中に受ける依頼では到底なかった。
 そういうわけでこの手の依頼は他に選ぶもののない冒険者が手をつけるのだが、景久にはこの依頼を選んだだけの理由がある。
 
 しばらく坑道の奥へと進むと、不意に景久の内に眠る野性的直感が何かを囁いた。
 きっと普通の冒険者ならば気のせいだと済ませる微かな囁きに、景久は導かれる。
 どこか懐かしい。いや、懐かしいというにはあまりにも記憶に新しすぎる気配。
 導かれるがままに坑道のさらに奥へ進むと、景久は慌てて壁へと近寄った。そして壁に手を添えると、薄闇の中でその表面を凝視する。
 ほんの一瞬。橙色の光を仄かに帯びた石が見えた。見逃さないと言わんばかりに、景久の目が見開いた。
 
 ツルハシを構える景久の全身に、湿った冷気が纏わりついた。
 坑道に溜まった良くない空気に侵され傷口が痛みをあげるが、しかし躊躇うことなくツルハシを振り上げる。
 思いきり振り下ろすと、がきんいう音が鳴って壁が削られた。その内側に隠されていた鉱石が、景久の足元に広がった。
 
「おっ、こいじゃ。綺麗な石だの」

 言って景久は一つの鉱石を拾い上げた。
 それは、一見するとただの石ころにしか見えなかったが、よく見ると橙色の光をぼんやりと放っており、希少なものだとわかる。
 この地味な採取物こそ納品の対象物であり、景久がこの依頼を受けた理由でもあった。
 採掘した鉱石を証拠品として腰の巾着袋に滑らせると、他の価値ある鉱石には目もくれぬまま景久は駆け出した。
 
 坑道の湿った空気を泳ぐように走りつづける景久。やがて暗がりが光を帯び、空気に乾燥が混じ入った。
 風景が鬱屈の洞窟から、山を背後にした広大の大地へと変わる。
 山に住まう鳥の鳴き声が聴こえ、景久は唐突な眩しさに片腕で目を覆った。
 ちょっと慌てすぎたようだ。
 しかし彼女は目が慣れるまでの間を待ちきれないと、もう片方の腕を動かした。巾着袋から橙色の鉱石をつまむと、腕を伸ばし天へ掲げる。
 青空に浮かぶ太陽と鉱石が重なった。
 
 すると突然、鉱石が黄金を纏い始めた。
 鉱石は陽光をその身いっぱいに吸収すると、煌々たる黄金の輝きを放出したのだ。
 思わず見惚れてしまうほど凛然とした金色は、景久が屠った竜の瞳にあまりにも似ている。
 
「おい、飛竜どん見ちょっが! おんしの目ぇそっくりじゃ!」
 
 後悔でも懺悔でもなく。
 亡き戦友へ成果を見せつけながら、景久は満面の笑みを浮かべ天に言い放った。
 やがて竜と対峙する時があれば、今度こそは一太刀にして斬り伏せてやろう。その時までに剣技を磨き己を磨く。
 景久は黄金をつまむ腕を胸元に寄せ、誓うように目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木霊・ウタ
心情
この世界じゃ
俺達猟兵のことは知られてないみたいだけど
竜退治の冒険者の話で皆の心に希望が灯るなら
それこそ俺達猟兵の使命ってカンジだよな

それはきっと将来
帝竜との戦いに臨む時
俺達の力になってくれるぜ

手段
街の人々へ唄語り

吟遊詩人を気取り
今回の戦いをモチーフに歌を披露

残酷な仔竜や過去の亡霊たる飛竜との死闘
その中で命と未来を守る為に戦う猟兵っていう冒険者がいたことを
そしてそれは飛竜への恐怖の中でも
未来への希望を持ち続けてくれたギルドや街の皆のお陰ってコトを
伝えたいぜ
;コミュ&手をつなぐ&勇気&優しさ&パフォ&演奏&歌唱

歌を聞いてくれた住民や冒険者の心に
未来への希望がより明るく灯ってくれたなら嬉しいぜ



 天より降りて地を喰らう竜がいた。竜とその仔らが奪ったのは人々の安寧だった。
 人々は恐怖に包まれるがしかし、希望を捨てなかった。願いに呼応し現れたるは風来の民。
 彼らは竜と闘った。恐るべき生命力を持った竜であったが、彼らの力を前に幾度も地に墜とされ討伐された。
 そして再び人々には平穏が訪れ、風来の民は何処へと去っていく。
 彼らの名を猟兵。希望を運ぶ者である。
 
 石畳の道が四方より繋がる広場には人集りがあって、中央の噴水付近に密集していた。
 集団の中心にいるのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
 ウタは噴水の縁に座り、水のアーチを背後にしながら唄っていた。
 彼の口ずさむ音色は美しさと勇猛さの両方を兼ね備えており、魔力を秘めているかの如く人々を誘惑する。噴水の巻き上げる音さえも唄の背景に思えた。
 同時に奏でるワイルドウィンドの旋律は街の住民にとって奇怪であったが、一度耳にするとその場に釘付けされるほど魅力的なものでもあった。
 弦を軽やかに跳ねていた細指が止まると、拍手が巻き起こる。広場を囲う家々の板戸からも住民が顔を覗かせ、同様に拍手を送っていた。
 ウタは立ち上がると一礼をして、人々の隙間を縫うように広場を去った。
 
 受注したのは『広間で演奏をして街の復興を支援する』という趣旨の依頼であったが、まさかこんなに反響があるとはウタも予想だにしなかった。
 彼は竜退治を唄にして、共に戦った猟兵達の勇姿を人々に語り継ぐ道を選んだ。
 仔竜の襲撃と、要衝である荒野の封鎖もあって明るい話題に飢えていたのだろう。演奏を始めるや否や多くの人が群がり、ウタの巧みな語りと演奏を通じて英雄の戦いを記憶に刻んでいた。

(この世界じゃ俺達猟兵のことは知られてないみたいだけど、竜退治の話で皆の心に希望が灯るなら……それこそ俺達猟兵の使命ってカンジだよな)

 自分の後を追いかけてきた少女が演奏のお礼に花を渡してきたので、片膝をついて受け取りながら、ウタは思った。
 人々に笑顔と希望を灯す。そんな生き方も悪くない。
 そうは思いつつも、すれ違う人々が頻りに感謝と感動を伝えてくるのでさすがに恥ずかしくなり、ウタは隠れるよう酒場へと足を運んでいた。
 ちょうど、喉も渇いている。
 水の注がれた木彫りのコップを片手に、カウンター席へ腰を下ろす。椅子もカウンターも荒い木製だが、気にはならなかった。
 
「助かったよ」

 隣に座っていた男が唐突に言った。横目で見ると、軽鎧と剣を身に着けていることから冒険者とわかる。
 ウタが何のことかと首を軽く傾げると、男は酒を口に含みながら続けた。

「襲撃されたとはいえ、街の被害自体はそんなに酷くなかったんだ。壊された物は沢山あったけど、死んだ人は多くなかったからな。
 だが、一番深刻だったのは恐怖だった。竜が倒されたという報告が流れても、皆の笑顔には恐怖が残っていた。
 また奴らが来るのではないか。その時はどうやって立ち向かえばいいのだろうか」
 
 男がじっとウタを見つめた。
 
「そんな恐怖を払ったのが、お前さんの唄だ」

「聞いてくれる人がいなきゃ、唄なんてただの独り言だぜ」

「おいおい、謙遜するな。オレは……オレ達は本気で感謝してるんだ。
 最初はどこの誰とも知らねえ連中が竜を倒したと聞いて、僻んでいた部分もあった。でもお前さんの演奏を聞いて変わったよ。
 ありゃすごい。戦いを見ていないオレにもお前さん達の勇姿がありありと浮かんだ」
 
 男は酒気と興奮を強めたように頬を赤らめ、力説する。
 それから男はいかにウタの演奏が素晴らしかったかを、聞いてもいないのに語り始めた。
 最初こそは素直な賛美を嬉しく思ったが、段々と恥ずかしくなってウタは頬をかく。
 
「にしてもお前さん、一体何者なんだ」
 
 突然、酔いから覚めたように男が言った。
 ウタを見る男の瞳の奥には好奇心とわずかな恐怖が見える。
 この男がウタを敵視しているわけではないだろう。彼が述べた賛辞は全て本物だった。
 ただ、それとは別の領域で、純粋な恐怖を抱いていたのだ。
 恐るべき竜を殺す存在が一体、この問いにどのような回答を用意するのかと。
 
「俺は――――」

 ウタが口を開くと、男が息を呑んだ。
 
「俺は唄が好きなだけの猟兵だぜ」

 言いながら立ち上がるウタ。
 銅貨をカウンターに置くと、酒場の出入口へと向かった。

「猟兵って、結局なんなんだよ?」

「希望を運ぶ者さ」

 回答に納得いかないというように放たれた男の呟きに、ウタはそう返した。
 男はやっぱり納得いかないと首を捻る。
 ウタは自在戸を片手で押して外へ出た。街路には大勢の人々がいて活気を伴いながら往来している。
 もう一曲、演奏してくるか。
 降り注ぐ陽光に目を細めながら、広場へと向かった。
 
 猟兵の戦いは多くの場合、孤独だった。
 彼らとオブリビオンの戦いは一般に知られることなく繰り広げられ、知らぬ間に幕を下ろす。
 だが、猟兵とて人の心を持つ。
 人々を支える彼ら自身もまた、誰かに必要とされ支えられねば、やがて戦う気力を失うかもしれないのだ。
 だからこそウタは唄として猟兵達の戦いを語り継ごうと思った。
 
 知らぬものを欲することはできない。まずは猟兵という存在を多くに知ってほしかった。
 そうすることで人々は強き味方に希望を見出だせる。猟兵もまた必要とされることで戦うための勇気を得る。
 そして勇気もまた、やがて訪れる帝竜との戦いの際に希望へと転じるだろう。

(ま……歌うのが好きなだけなんだがな)

 街が完全に立ち直るにはまだ時間が必要だろうが、人々を笑顔にするのは何時だって可能だ。
 だから、自分のできる限りをしよう。
 旋律と唄声を広場に渡らせながら、ウタは思った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

出水宮・カガリ
マリアドール・シュシュと、薬草採取の手伝いに

銀の。マリア。マリア。
お前は、よく頑張るのだなぁ
ギルドの依頼、これが初めてでは無いのだろう
今度は洞窟の奥だ、カガリも手伝おう

洞窟の照明に、松明かランプを用意していく
【錬成カミヤドリ】で【鉄門扉の盾】を複製、
通行の邪魔にならない程度に周囲へ展開
突然の奇襲には対応できるはずだ
カガリの壁の内には、如何なる脅威も立ち入らせない

洞窟奥で蜘蛛や毛虫が出てきたら、盾受けでマリアへの攻撃を受け流しつつ、
【鉄血の明星】で攻撃にも出る
複数いるようなら、防御用の他の盾を纏めて押し出し、吹き飛ばす

薬草の採取も、マリアに聞きながら手伝うな
帰るまでが仕事だ、きっちり送っていくぞ


マリアドール・シュシュ
「薬草採取に一緒に行ってくれる人を探していたのだわ!
よろしくね?カガリ。マリアのこと、忘れちゃいやよ(ふふ)
ええ。最近、子供達のお守りに行ってきたの(少し物憂げ)
依頼はまだまだあるから、こなせるだけこなすのよ!」

出水宮・カガリと同行
宝石や鉱物で出来た洞窟へ赴く
華水晶の灯籠を腰に提げる
カガリの盾に感謝しつつ、注意深く奥へ進む

洞窟奥で蜘蛛や毛虫のモンスターが出てきたら竪琴構える
後衛
連携意識
【高速詠唱】して【透白色の奏】使用
洞窟内に音を反響させ、【マヒ攻撃】を付加した演奏で敵の行動を狂わす
音が通じない毛虫はカガリに任せる

奥に密かに生える幻の薬草を丁寧に採取し戻る

「カガリがいてくれて本当に心強いわ!」


草間・半蔵
★アドリブ歓迎

依頼はなんでもいい
そういって用意された依頼をみて後悔した
何回見ても紙に書かれた文字は変わらない
お使い依頼…
変えてもらおうと思っても忙しそうだ
ぐっと拳を握りしめ
…早く終わらせて次の依頼にいけばい
そうしよう
『ダッシュ』で依頼人のところへ

これを届ければいいのか
足の悪い老人から渡された小包を抱え直ぐに背を向ける
行ってくる

いく先々でもいろんなお使いを頼まれて走り回り
いろんな人のところを回って
その度に言われるありがとうがむずがゆくて
うまく返事もできないけど…もう少しだけなら、とまたお使いを引き受ける



●マリアドール・シュシュ&出水宮・カガリ

 ぽつりと水の滴り落ちる音が鳴った。
 薄闇の洞窟内には湿った空気が充満していたが、中は外よりもよほど暖かく、生物が住まうにはそう悪くない環境だった。
 だからこその依頼だろう。洞窟を歩いていれば、当然のように巨大生物が襲いかかる。
 こんな場所の奥深くにしか生えない幻の薬草というのは、よほど珍妙なのだろうと出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は推察した。
 カガリは紫苑の瞳と顔面の傷が特徴的な青年であるが、その肉体はヤドリガミの仮初であり、魂は彼の本体である鉄門扉にあった。
 
 並ぶのはマリアドール・シュシュ(クリスタリアンのサウンドソルジャー・f03102)。黄昏色の竪琴を抱く銀髪の少女である。
 洞窟には不釣り合いなドレスを纏った少女は、子供達の世話だけでは物足りないというように薬草採取の依頼を受けていた。
 納品の対象とされたのは危険な洞窟の最深部にのみ生息する幻の種だ。
 
「ボディーガードよろしくね、カガリ? マリアのこと、忘れちゃいやよ」
 
 腰に掛けた華水晶の灯籠を揺らしながら、マリアドールがくすりと微笑った。
 灯籠の淡い光が、色白の肌を妖しく照らす。
 洞窟内は十分な広さであったが、いつ敵が現れても対応できるように二人は足並みを揃えていた。
 
「銀の。マリア。マリア。お前は、よく頑張るのだなぁ。カガリが存分に力を貸そう」
 
 カガリは少女の名を朧の記憶に刻むよう繰り返し呟いた。手には松明が握られている。
 彼の腰には鉄血の明星があった。輝星の如き複数の鉄塊を鎖でつないだ、連結型の星球武器である。
 カガリが歩みを進めると、その後を追うようにして鉄門扉の盾が虚空から出現し、地面へと深くめり込む。
 背後からの奇襲を避けるための防壁だった。盾はカガリが念じることでどこにでも現れるし、どこへでも消えることができるのだ。
 当然、一度に無数を操ることはできないため、ある程度離れる度に移動させて新たな防壁としていた。
 同様に洞窟の岩壁を張り替えるように側面にも防壁を錬成する。
 ここに至るまで何度も巨大生物に襲われたが、そのいずれも壁の隙間を縫うように現れたのだ。その警戒である。

 しかし。カガリも予想していたことだが、壁が駄目ならばと天井の隙間を通って巨大な蟲が顔を覗かせた。
 明かりに釣られたか。餌の匂いに釣られたか。
 ぼとりと地面に落下するのは巨大なムカデ。滲み出る敵意が迎撃を余儀なくする。
 
「カガリ、来るのよ!」

「承知している」

 言うより早く、ムカデは巨体を持ちあげると奇妙な鳴き声と共に体液を吐いた。汚泥を紫に染めたような液体は、知識がなくとも毒性と理解できる。
 マリアドール目掛けて飛んできた体液を、カガリの複製した鉄門扉が遮った。轟音を鳴らしながら地面より生え出た盾が、少女を守ったのだ。
 
「カガリの壁の内には、如何なる脅威も立ち入らせない」

 言ってカガリは鉄血の明星の鎖を片手で握ると、そこを支点に明星を廻す。先端の鉄塊に遠心力が付与されて、殺傷力を増した。
 動作を維持しながらカガリは滑るようにムカデとの距離を詰める。
 瞬時の接近に困惑する害虫であったが、構うことはない。鉄血の明星を振り上げると、蓄えた力を一点に解放し叩きつけた。
 洞窟全体を揺らすほどの振動と共に、ムカデが体液をぶちまける。
 即座に展開された鉄門扉の盾がなければ、あのおぞましい体液が二人を汚染していただろう。
 
「すごいのだわ」

 両手の指を絡めながら言うマリアドールを、カガリが横目で見た。
 戦いの熱をまるで帯びぬ平然とした彼の表情からは、害虫駆除など戦いの内に入っていないという様子が窺えた。
 
「ギルドの依頼、これが初めてでは無いのだろう」

「ええ。子供達のお守りも行ってきたの」

 他愛のないやり取りであるはずなのに、マリアドールの端正な顔に影が生じる。
 しかし、一瞬浮かんだ憂鬱の色を払うように首を振ると、マリアドールは明るく言った。
 
「依頼はまだまだあるから、こなせるだけこなすのよ!」

 カガリは詮索をしていいものかと沈黙していたが、不意に松明を前方へ掲げる。
 そして人差し指を口許に運び、静かにするよう合図した。
 
「どうしたの?」

 潜めた声でマリアドールが聞く。

「蜘蛛だ。これまでと違って一匹じゃない」

「マリア達が侵入してるってバレちゃったのかしら?」

「カガリが殺しすぎたか」

「マリアだっていっぱい倒したのに、ずるいのだわ」

 張り合ってどうする。
 そう言おうとした瞬間、前方から無数の巨大蜘蛛が現れた。黒と赤のまだらを背に浮かべた蜘蛛は、二人を見るなり奇声を洞窟に響かせる。
 呑気に地面を歩いて行進しているのであればよかったが、無数の蜘蛛は地面、壁、天井全てを足場として埋め尽くすように進軍していた。
 逃げるという選択肢はなかった。依頼を達成するのならどうせ倒さなければならないし、逃げたところで蜘蛛の俊敏には追いつかれてしまうだろう。
 ならば、迎え撃つのみである。
 数が多いとはいえ、所詮は蜘蛛。奇襲でもない正面衝突ならば苦戦する要素はなかった。
 前衛のカガリが盾となり、後ろにはマリアドールが立って援護、その背後を防壁と化した鉄門扉の盾が守る。布陣が完成した。
 
「今度はマリアも頑張るのだわ。カガリ、前をお願い」

 言って、マリアドールは洞窟を照らす無数の紅光に視線をやった。
 蜘蛛を凝視するのは気分が悪かったが、そうでなければ『透白色の奏』が使えないので我慢しなくてはならない。
 マリアの黄金が、蜘蛛を捉える。これから起こる事を理解していない様子で少女へと這い寄る害虫の前に、カガリが立ちはだかった。
 
「これ以上は近寄らせない」

 言い切る彼と蜘蛛を遮るように、巨大な鉄門扉の盾が現れる。
 眼前に壁が現れようが無思考に突き進む蜘蛛であったが、巨人が踏み込む如く押し出された盾に吹き飛ばされてしまう。
 最前線が衝撃を喰らったことで、それは波となり蜘蛛の軍勢全体へと襲いかかった。
 怯んだ軍勢を、竪琴の旋律が包み込む。艶やかな音色は反響を繰り返すことで不気味な多重奏となり、洞窟全体へと響き渡った。
 マリアドールの奏でる歪形の追想曲は、反響を通じて幾重にも交わり空間を支配する。やがてその旋律は聴覚の鈍い蜘蛛ですら一度耳にしただけで自由を剥奪されるほどの呪いへと姿を変えた。
 
「眼は綺麗だけれど、他が無粋なのだわ」

 痺れたように動かなくなった蜘蛛を見て、マリアドールがくすくす嗤う。

「始末はカガリに任せろ」

 麻痺状態に陥った蜘蛛達を追撃したのは、カガリの乱舞であった。鉄塊を縦横無尽に振り回し前進する鬼神を前に、蜘蛛は身動き一つ取れぬまま駆逐される。
 撒き散らされた体液はむせるほどの異臭を放つが、カガリの的確な防壁錬成によって彼らの身体を侵すことはなかった。
 出来上がったのは体液の海と、無数の肉片。
 それを踏み分けながら先へ進むのは気が引けたので、カガリは横向きに倒した盾を壁に複製し、連結させることで足場を作った。

「マリア、手を」

「まぁ」

 戦いの直前に壁の隙間に挿しておいた松明を取ると、カガリは足場に上り、空いている手で少女の華奢な身体を軽々持ち上げた。
 しばらく奥へ進むと、洞窟内の壁や床が仄かに発光し始めた。どうやら最深部はすぐそこらしい。
 
「見てカガリ、宝石だわ。水晶もある」

 マリアドールが恍惚に頬を染めながら言った。
 おぞましい蟲との戦闘があっても厭にならず、こうして宝石やら鉱石やらに夢中になれるのは猟兵としての経験故だろうか。それとも少女の成り立ち故だろうか。
 随所に点在する鉱物は陽光の力を借りず己が力のみで発光しており、洞窟内には微光が明滅していた。
 暗黒に星々を散りばめたような空間に、カガリが松明を掲げる。
 
「あれが、薬草か」

 明滅に心を奪われていたマリアドールが、彼の言葉に振り返った。
 先を見ると、この洞窟内で唯一陽光の注ぐ空間があった。開かれた広間の中央には日差しを全身に浴びて芽吹く浅緑の植物が見える。
 育ちきれなかった木の芽が洞窟に置き去りにされているだけにも思えるが、実際にはあれで生長しきった姿である。

「依頼書にある通りなのだわ」

「毟り取ればいいのか」

「手順があるって書いてあったのよ」

「従おう」

 マリアドールは華水晶の明かりを頼りに依頼書を読んでいた。
 曰く、薬草は正しい採取方法を経ていないとすぐに効力を失うのだという。
 採取方法についての欄は難しいことばかり羅列されていて首を傾げてしまうが、よく見ると隅に図式があった。
 二人はそれに従って、慎重に薬草を採取する。
 
「あとは届けるだけね」

「帰るまでが仕事だ、きっちり送っていくぞ」

「ふふ。カガリがいてくれて、本当に心強いわ」

 言って二人は帰路についた。帰りの道中も洞窟の住民と鉢合わせたが、巧みな連携の前に敵はない。蹴散らしながら、洞窟を出た。
 再度日差しを浴びた頃には、さすがのマリアドールもくたくたであった。
 ふぅ、と新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込みながら、マリアが小さく伸びをした。
 一方のカガリは腕を組んだまま平然を保つ。洞窟探索を終えても、疲れなどまるで感じていないようだった。
 
「マリア、疲れちゃったのだわ」

「街はまだ遠い。背中に乗るか?」

「子供じゃないのよ」

「冗談だ」

「真顔で言われても困るのよ」

 二人はそんなやり取りをしながら、深緑の草原を横断して街へと帰った。
 ギルド長はあまりにも早い達成報告に驚いていたが、さすがは竜退治の風来人とその友であると納得した様子で薬草を受け取る。
 猟兵として世界を救うほどの偉業ではないが、冒険者としての小さな人助けも悪くはない気分だった。
 件の薬草は街の難病患者を救うために必要だったらしく、二人の功績によって多くの命が救われるに違いない――――。
 
●草間・半蔵

 誰かの力になれるのなら、なんだっていい。
 そう思って依頼の内容を読まずに受けた自分を、ぶん殴ってやりたかった。
 手にある依頼書に書かれてあるのは『お使い』とは何かという説明。それくらい、わざわざ説明しなくてもわかるだろうに。
 別の依頼と取り替えてもらおうと思ったが、積もった依頼の処理に追われるギルド長の手を煩わせるのも気が引けた。
 仕方ない、か。
 草間・半蔵(羅刹のブレイズキャリバー・f07711)はため息を吐いて冒険者酒場を出た。

(早く終わらせて、次の依頼にいけばいいんだ)

 石畳を跳ぶように駆けながら半蔵は思った。
 別に依頼に貴賤を求めているわけではない。ただ、どうせ冒険者の代わりをするのだから、猟兵にしかできないことをしたいという気持ちが正直だった。
 まあ、言ってもお使いだ。すぐに終わるに違いない。
 依頼人の住居は街の広場から離れたところにあった。街を取り囲む高い壁に寄り添うよう、ぽつりと建つ小屋。
 
「依頼を受けた者だ……いや、依頼を受けた者ですが」

 木の戸を叩きながら、半蔵は下手な敬語で言った。
 一向に返事がないので留守かと思い踵を返すと、ようやくその戸が開かれる。
 
「おお、あなたがお願いを聞いてくれるのですか」

 現れたのは杖で身体を支える老人だった。杖が右足の代わりをしていることから、察しが悪くとも足の悪いことが窺える。
 振り返った半蔵がそれを見て気まずそうに視線を泳がすと、老人は様子に気が付くことなく小包を差し出した。
 
「これを広場にある青い屋根の家にお願いします」

「わ、わかりました」

 小包を受け取ると、半蔵は心の中でため息を漏らした。
 こんな軽い小包を届けるためだけにオレは……?
 そう自問せずにはいられなかったのだ。
 広場へ近付くにつれて往来する人々は増える。
 常人離れの疾駆をしては人にぶつかりかねないのと、無駄に目立つので少し速度を遅めた。
 それでもかなりの早歩きだったので目的地に辿り着くのはすぐだった。

「あらぁ、ありがとうね坊や!」

「い、依頼ですから」
 
 青い屋根の家で出迎えたのは豊満なおばさんで、小包を届けると礼だと言わんばかりに熱いハグを繰り出した。
 小柄な半蔵はすっぽりと巨体に包まれてしまう。

(く、苦しい……! 坊やってオレのことか!?)

 胸中で文句を垂れながらも、感謝の言葉とハグはやけにこそばゆかった。
 照れ隠しをするようにおばさんの腕の中でもがくが、おばさんの肉厚ホールドが許さない。

「そうだわ、せっかくだからアタシもお使いをお願いしようかしら!」
 
「げ」

「この小包なんだけど、黄色い家に…………」

 それからというものの、依頼を達成してはまた別のお使い依頼を頼まれるという連続だった。
 本当は断りたかったが、自分が荷物を届けた時の笑顔。素直に与えられる感謝の言葉。
 半蔵はどうにもそれが弱点のようで、次第に満更でもない気分で依頼をこなすようになっていた。人が良いのか。断れない性質なのか。
 
 感謝の言葉にうまく返事もできないけれど、もう少しだけなら、とまたお使いを引き受けてしまう。
 気がつけば運搬する荷物よりも、ご褒美に押し付けられた菓子のほうが多くなっていた。
 要らないと言っているのに、無理やり渡されてしまうのだ。
 
(それで、振り出しに戻るというわけか)

 半蔵は苦笑した。彼が立っているのは最初の荷物を届けた老人の家の前で、軽く息を整えると再びノックする。
 出迎えるのは当然あの老人で、手にしていた小包を渡した。
 老人は笑顔で受け取ると、昼食の準備をしていたらしく、お礼にどうかと半蔵は室内に招かれる。
 断ろうと思ったが、好意を無下にするわけにもいかない。それに、老人の寂しそうな様子がどうも気になって了承してしまった。

「ど、どうも」

「お若いのに立派でございますな」

「いえ、仕事ですから」

 小屋の中は外見通り質素で、木製の床には絨毯もなく、簡素なキッチンとテーブルと椅子があった。あとは寝室に繋がる戸がある程度である。
 あのお使いも、足を悪くしているから仕方なしに依頼したものだろう。余裕がありそうには思えなかった。
 慣れない空気にどぎまぎしながら、半蔵はテーブルに出されたスープを啜る。
 具は少ないが、絶妙な塩味が運搬の疲労を癒やすようだった。
 
「いかがかな」

「……おいしいです」

「それはよかった」

 老人がにっこりと微笑んだ。
 
「足を痛めてからやることもなくてね。スープ作りくらいしか凝るものがないのです。
 ただ、今回はちょっと作りすぎてしまいまして」
 
 半蔵を家に招いたのは、そういう理由だった。
 たしかに、凝っているというだけはある。半蔵はいつの間にか出されたスープを飲み干していた。
 
「おかわりはいかがです?」

「……お願いします」

「ありがとうございます」

 なぜ世話になる自分が礼を言われるのか、半蔵にはわからなかった。
 ただ、ありがとうと言われる度にどうにもむず痒くなって、肩を縮めながら頬をかく。
 それからしばらくは談笑が続いた。

「久しぶりの話し相手に、少し舞い上がってしまいましたな」

 結局半蔵はスープを三杯飲み干した。飲みながら、老人と色々な話をした。
 竜との戦い。猟兵という存在。自分の宿命。
 全てを信じてもらえるとは思っていなかったが、老人は現実離れした話を実に楽しそうに聞いていた。
 
「じゃあ、オレはこれで。ありがとうございました」

 本当はもっと一緒に話をしていたかった。
 老人の寂しそうな様子に尾を引かれる気分だったが、しかしいつまでも談笑してはいられない。
 猟兵としての仕事はまだ沢山あるのだ。猟兵の使命を老人に語る最中で、半蔵はそう思っていた。
 こうしている今にも、自分の助けを待っている人間がいるのである。
 
「懐かしき時間でした」

 老人は言いながら、頭を下げる。
 またいつか、この家を訪れようと思った。しかし、今はその時ではない。
 街の人々を脅かした魔の元凶『帝竜』を屠らねば、この街は何度でも恐怖に覆われるだろう。
 だから、今は足を止めていられない。

『ありがとうございます』

 老人の言葉が胸に蘇る。そういえば、今日はやけに感謝された日だった。

(ありがとう、か……)

 お使いの依頼なんて……。そう思っていた自分が情けなく思えた。
 どんな依頼であれ、誰かが困っているからこそ依頼という形を成すのだ。
 でなければ、あんなに屈託のない笑顔と感謝を往く先々で浴びせられることはないだろう。
 猟兵が人々を救う存在であるというのなら、お使いだってその使命の一部に違いなかった。
 
(それでも、オレには合わないな)

 おばさんの熱烈なハグを思い出して、半蔵は頬を燃えるように赤らめた。
 やっぱり、自分には剣を振り回すほうが性に合う。
 半蔵はそんなことを考えながら石畳を歩き、依頼達成の報告に向かった――――。
 
●エピローグ

「あわ、あわわ……」

 冒険者酒場にて、ギルド長はもはや失神寸前であった。
 山のようにあった依頼が風来の冒険者によって次々と解決されたのだ。
 あまりの手腕。ギルド長はこれほど優秀な冒険者一行を見たことがなく、夢幻の類ではないかと何度も顔を洗った。
 しかし、現実は変わらない。数ヶ月も積み上げられたままの依頼は、一夜にして大半を処理されたのだ。
 
「なんたる手際の良さ……。あれほどあった依頼が一夜にして……」

 喜ばしいを通り越して、理解ができなかった。
 分刻みで達成の報告をしてきた猟兵達に、ギルド長は腰を抜かしたままである。
 
『風来の冒険者に一日限りで依頼を遂行させ、ギルドが全面的にサポートする。冒険者がギルドの有能さや温かさに感動している所を即座にスカウトして専属化を促す』

 そういう小賢しい目論見の下で開かれた企画だったが、手回しをするよりも早く達成報告が舞い込んでしまうので、サポートも何もあったもんじゃなかった。
 驚愕はギルドの受付嬢も同じだったようで、彼女も尊敬の眼差しを猟兵一同に注ぐばかりだった。
 
「すごいです、皆さん!」

 言いながら、猟兵の手をぎゅっと握るのは受付嬢。
 照れたような髪を弄る猟兵を見つめ、熱く語りかける。
 
「皆さんの力があれば、街もすぐ元通りになるに違いありません! どうです、よかったら私達と一緒にこの街で――――」

 熱の混じった口調で言う受付嬢に、猟兵達は困った風で顔を見合わせた。
 力を必要とされるのは素直に嬉しい。だが、猟兵はこの街だけに留まるわけにはいかないのだ。

「やめなさい」

 勧誘を続ける受付嬢を、ギルド長が窘めた。
 
「風来の冒険者……いや、猟兵でしたかな。竜に襲われていた我々に希望を与えてくれたのは感謝の極みであります。
 本音を言えば、今後も共に街を護っていただきたいのですが……察するに、そうはいかない事情があるのでしょう」
 
 言いながらギルド長は頷くと、酒場の天井をぼんやりと見上げた。
 
「希望の鳥に鎖を巻くほど愚かなこともありますまい。我々はもう十分、あなた方に救われた。
 しかし世界には同じように恐怖へと追いやられた者達がおります。皆様の力なくしては救えぬ者達が。
 どうか彼等を救ってあげて下さい。我々に未来を与えてくれたように」

 ギルド長が、目を閉じる。

「猟兵の皆様に幸あらんことを」

 悪戯な仔竜と、大空の支配者。――完――

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月11日


挿絵イラスト