17
エンパイアウォー⑰~慇懃にして無礼な

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー #魔軍将 #安倍晴明

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー
🔒
#魔軍将
🔒
#安倍晴明


0




●慇懃にして無礼な
 猟兵たちの奮闘により居場所を明らかにされた男は、いっそ恭しく己を害そうとする者たちを出迎えた。

「此度の私の目的は、ただ『持ち帰る』事のみ」

 サムライエンパイアでの戦いの行方になど興味はないとでも言うように、男は両の口の端をゆっくりと吊り上げる。

「この世界はよく『似て』おりますゆえ、『業(カルマ)』の蒐集も興が乗りませぬ」

 つらりと祝詞でも唱えるように語った男は、「……いえ」と前述を翻す。
 興が乗らぬのではない。
 不死で、繁殖も出来て、生存の為のエナジーさえ必要としない。
 そのような存在に成り果てた己自身の在り様にこそ、男は飽いているのだ。
 何故ならそれは、賽さえ振らずして勝負に勝ってしまうようなものだから。

「戯れに、山陰を屍人で埋めてみましょうか」
 ちらりと視線を右へと流し、男が言う。
「それとも、コルテスが崇める神の偽物でもこしらえて、信長の後釜に据えましょうか」
 今度は軽く天を仰ぎ見、男は言った。
「はてさて、それらを全て行ったとして――あなた方の怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……」

 あくまで丁寧に、しかし一切の心を籠めず。
 男は――平安に生きたにしては洒脱な装いの陰陽師『安倍晴明』は、我が裡にのみ響く嘆息を零す。

●火急の報
 いけ好かないタイプの男だよ、と切り出すや否や連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は言い放った。
「慇懃無礼の権化っていうか。うん、ムカつく。あと、適当に言ってるみたいで、本当にやらかすっぽいとこがヤバい」
 つまり絶対に放っておくわけにはいかないのだと、既に転移の為のグリモアを発動させながら希夜は猟兵たちを急かす。
 戦場となるのは鳥取城。
 戦国時代に餓死した人々の怨念が淀み渦巻く地。
「いかにも、でしょ? でも、こういう苦しみを増やすわけにはいかないからさ」
 ――大丈夫。
 ――みんななら、なんとかなる。
 厄介な相手と十二分に知りつつも、希夜はいつもの楽観的な台詞で猟兵たちを戦地へ送り出す。


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回は『安倍晴明』戦をお届けに参上しました。

●シナリオの流れ
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●今回の重要なお約束
 陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
 これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
 彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
 対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
 対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。

●補足
 安倍晴明の先制は、UC・技能では防げないものとします。
 大事なのは攻撃を受ける際・受けた後の対抗策です。
 技能やUCに頼るだけでなく、PCさんがPCさんらしく、どのように動くのかをお考えいただければ幸いです。

●シナリオ傾向
 頭脳&純戦。
 一瞬の閃きが勝敗を分かつ――そんな空気を演出したく思います。

●その他
 プレイングはOP公開時点から募集開始致します。
 受付締め切りタイミングは、OP公開翌日の朝8時までを予定しております。
 具体的な日付は、マスターページとTwitterでお報せします。
 プレイング受付時間はある程度確保するつもりですが、採用人数は成功(or失敗)達成となる最小限となる見込みです。
 予めご了承の上、ご参加頂けますようお願い申し上げます。

●連携
 二人組までなら採用可能です。
 連携を希望される際は、迷子にならないようお相手の名前(+ID)、もしくはタッグ名の記載をお願い致します。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
257




第1章 ボス戦 『陰陽師『安倍晴明』』

POW   :    双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ   :    五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。

イラスト:草彦

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

青霧・ノゾミ
■ニノマエ(f17341)と

……あっそう。
わからないなら、そのまま消えたらいいんじゃない?
きみに存在を歪められた者たちがどんなに辛かったか。
僕は受け止める。

……くっ!
(五芒星が放たれても逃げず)
(倒れないように、急所はかばい、しかしダメージはしっかり貰う)

五芒星の意味、忘れたの?
全ての調和。
……調和がとれてないよ、今のきみ達。

僕はボロボロだ、……けど。
氷結迷宮を構築ッ!
これで、次に続くニノマエは有利になる。
なぜって迷宮の出口を抜けてくる清明の一撃は読みやすくなるから。
迷宮を壊そうとしてみてもいいよ。
できるかな?
ニノマエの一閃を支援できるならアイテム(兎印の懐中時計)を
投擲して清明の気をそらす。


ニノマエ・アラタ
■ノゾミ(f19439)と

なんも感じねぇってのは死んでるからだな。
てめェの全部がさ。
……もっかい死んどけ。

踏み込む軸足と、右腕だけはダメージうけねェように
気ィつけるんだぜ。
ノゾミの氷結迷宮を無駄にしねェからな。
清明の剣筋を読んで、なるべくダメージは軽くすませてェところだ。
完全な回避は無理とふんで、急所を防御できたら御の字ってところで。
ガントレットでチェンソーの刃を弾き飛ばして
懐へふみこんで剣刃一閃を狙う。
お互い剣の間合いだからなァ。
そっちが届けば、こっちも届くって算段でな。
びびって退くとでも思ったか?
苦しめられた連中の重み、
妖刀にのせてテメェをぶった斬るぜ!
この一閃を受けるがいいぜ!



●絶対迷宮
 ふ、と。皮肉を嗤う男を前に、青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は半歩前へと進み出た。
 自らに酔うような男――晴明の言い分になどノゾミは興味なく。むしろ「……あっ、そう」と冴えた青の双眸を眇め、冷たくあしらう。
 そしてノゾミは、また半歩。
「わからないなら、そのまま消えたらいいんじゃない?」
 女性めいた容貌に、相対する男を映したかのようなアイロニックな微笑を浮かべて僅かに首を傾げ。
「きみに存在を歪められた者たちがどんなに辛かったか」
 そうして今度は、大きく一歩――そこでノゾミは構えた。
 目元に紅を刷いた視線が、己へ向けられている。熱を感じられない眼差しだった。一方的な蹂躙と、勝利を『当然』とする目だった。
「――辛い、ですか。羨ましい」
 然して、晴明はぽつり。大仰な溜め息を吐いて――五芒符を放っていた。
「、ッ」
 物騒な得物は両手に構えたまま。だのに、文字通りいつの間にか。つけ入る隙など見当たらぬ先制の一撃の発動を、ノゾミは躱しようのない眼前で悟る。
(「きみが受け止めぬものを、僕は受け止める」)
(「逃げは、しない!」)
 覚悟なら済んでいる。命さえ危険に晒されるのを承知で、ノゾミは怨嗟渦巻くこの地へ至ったのだ。
 だから。
「……五芒星の意味、忘れたの?」
 咄嗟に上げた右腕に符を受けて、ノゾミは全身を苦痛に浸す。
「……五芒星、は。全ての、調和――けど、調和がとれてないよ。今の、きみ達」
 全神経を引き千切られるような痛みに、呼吸が乱れた。足元も覚束ない。けれど、意識さえ失わなければいい。唱える声と、維持する意地だけ残ればいい。
「すべて凍れ――ニノマエッ!」
「後は任せろ、気ィつけるんだぜ」
 ノゾミが気概で発した一声に、戦場に透明な氷で出来た迷路が出現する。直後、ノゾミの背後からニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)が躍り出た。
 ノゾミが歩を進めていたのは、ニノマエを庇う為。対抗心を抱く相手だが、強敵に一撃呉れる為なら、ニノマエを前線に送り出す方が確率は高い。
 そして狭い迷宮に囚われた晴明の行動は、ある程度制限される。少なくとも、予期せぬ位置から打ち込まれる事はないし、太刀筋だって読み易くなる。
「ノゾミの氷結迷宮を無駄にしねェからな」
 元より悪い目つきを更に細め、ニノマエは凍る迷宮内を駆けた。迷うのはニノマエも同じだが、先に起こり得る事象を把握できているから、恐れ戦くことはない。
 迷宮を打ち破ろうとしている轟音が聴こえた。
 易々と砕けぬことを知った陰陽師が、走り出す気配も感じた。不気味に唸り出す二つの音色が耳に届く。
 徐々に近づいているのが分かった。
 ――5。
 超硬度を誇る戦闘用ガントレットの動作を確認する。
 ――4。
 数多の戦場を経て、いつしか妖刀となった無銘の打刀の柄に手を伸ばす。
 ――3。
 目指す陰陽師本人より先に、彼の男の背に負う無数の水晶の煌めきをニノマエの目が捉えた。
 ――2。
「いらっしゃいましたね」
 晴明が二刀を構え、間合いを整える「1」の一呼吸。
 ゼロの刹那にニノマエは全神経を注ぐ。
 完全な回避など、端から望んではいない。急所を庇えれば、それで良い。
「なんも感じねぇってのは死んでるからだな、てめェの全部がさ」
 右から唸り来た重く鋭い剣戟を、ガントレットで受け止め、ニノマエは更に踏み込む。
 お互い、剣の間合い。つまり相手が届くということは、此方も届くということ。
「びびって退くとでも思ったか?」
 近すぎる二人の距離に、晴明の左の追撃が僅かに遅れた。そここそニノマエにとって唯一の好機。
「苦しめられた連中の重み、妖刀にのせてテメェをぶった斬るぜ!」
 片手で抜刀、からの一閃。
 広く知られた愚直な一撃なれど、発動の得物を一振りに限定したニノマエだけのとっておきは、晴明の腹を深く貫く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
戦うことに、生あることにも飽く程の永さが
如何程なのか知る由もないが


奴の得物は二振り
届くであろう距離を確と見据え

防御を固め、黒剣一振りを共に
翼にて頭上からの急襲
晴明の一撃目を、羽搏きによる速度変化と
構えた黒剣で直撃だけを防ぐ
その武器、身体を蹴る事で二撃目の回避を
腕一本、脚一本犠牲になったとしても
それで済むなら呉れてやろう

【帰れざる原罪】を用い
落ちた反動のままに地を蹴り
隠していた短剣を腕が使えぬなら咥え
斬りつけての生命力吸収

もとより戦場とは喰らい合うものだろう
その名を謳われる晴明とやら
命の質には申し分なかろうよ

世界の価値を、貴様に断じられる覚えはない
本当に未練すら持たぬなら
此処で終わるがいい


ソラスティベル・グラスラン
安倍晴明さん
貴方の言うことは、わたしではまるで分かりません

―――ですが!貴方がこの世界を覆う邪悪であることはハッキリと理解しました!!


晴明さんのチェーンソーが来る瞬間、
盾を構え思い切り前に!晴明さん目がけて跳ぶ!

体に当たる面積を減らし
一気に前に跳ぶことで目測を誤らせ
そして、反撃の為に距離を詰める!

初撃さえ回避か盾で弾くなら……
いいえ!受けたとしても【気合】で立ち!己を【鼓舞】して前へ、前へ!
竜の翼で飛び【ダッシュ】で距離を詰めます!

雷は一瞬、邂逅は刹那
退いてはいけない、負けてはいけない
その代償を払うのは、この世界の民なのだから
【勇気】を持つ者が倒れるならば、他に誰が立ち向かうというのですか!!


クロト・ラトキエ
何物も思う儘

そういう類ですかぁ
己と決定的に相入れない質
且つ己の敵対者ときた

楽観も、今ばかりは耳に心地良い
決めました
あれには――
屈辱を馳走しよう

屍人の数は…恐らく数えるのも馬鹿らしい程
放たれ応じるは鋼糸フル活用の範囲攻撃
脚を断ち頭を断ち切る
消さずとも良い、無力化を
術者への道、有象無象に阻めるかと
見せる様崩し…合体を誘う

力増せば止めるのは容易い
何て侮れよ

梁へワイヤー、屍人を足場に空中へと躍り出
対空防止に屍人は鋼糸で絡げるが
掴まれ枷となるなら糸を手から外し
替えを装填、次弾に
今ばかりは出費は問わず

頭上取ったら
屍人が阻むか?
鎧の如き水晶なら無視し攻撃
あの男迄、鋒届け青薔薇
――漆式

暗器使い?
元々は剣士でね



●à la carte
 戦うことに、生あることに。
 あらゆる全てに飽く程の『永さ』など、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)には想像さえできない。
 ――叡智という叡智を貪る師ならば、或いは眼前の男の一端を解したやもしれぬ。
 瞬きの間もない、睫毛の先が風に揺れる程の刹那。他所に飛びかけた思考を、ジャハルは迫り来る二振りを見据えて現実へ引き戻す。
 足が新たな地面を踏んだ直後、黒き竜人は『敵意』を頼りに走り出した。
 決して、ぎらぎらしいものではなかった。それでも明らかに異なる気配は、UDCアースの若者を思わす風情として像を結び、ジャハルの気迫へ応えて緩慢な動作で剣を構えた。
 勝利を運命づけられた男の鷹揚ぶりを、ジャハルは厭わない。
 いや、厭う間もなく低い姿勢で肉薄する。
 ジャハルも剣の使い手だ。間合いは、計れる。
 狙うは剣が届くまで二歩の距離。振り被った剣の矛先を、容易に変えることの出来ないタイミング。
 そこでジャハルは――跳んだ。
「――お、や」
 背に秘す白亜の羽を広げて空を叩き、虚を突かれた様子の晴明の直上を取る。
「少々、飛びすぎましたね?」
 逸らされたかに思われた剣閃を、再び定めるに余りある距離に、晴明が不気味に唸る剣を、まずは一振り天に向かって突き上げた。
 だがジャハルにとって、それで十分。
 手に馴染む黒剣を盾代わりに抱き、ジャハルは持てる力の全てを防御へ注ぎ、晴明目掛けて『落下』する。そうして一度、たった一度のささやかな羽搏きで、晴明の剣が最大威力を発揮する一瞬だけを回避して。
 鋼と鋼がぶつかり合う。駆動する刃の衝撃に、黒剣が悲鳴を上げた。
 殺しきれない余波にジャハルの全身も軋み、横合いへ吹き飛ばされそうになる。そこへ晴明のもう一刀が襲い来るのだ。
 しかしジャハルは晴明のみをねめつけて、黒剣を蹴りつけた。反動で、ジャハルが描く軌道が微かに逸れる。
 ジャハルの首を刎ねる筈だった晴明の剣の切っ先が、肩を抉って骨まで断って、腕を落とす寸前でようやく止まった。
 重力に引かれる儘に剣を引き剥がし、吹き出す鮮血には目もくれず、ジャハルは再びの地面で転身し、懐から短刀を取り出す。
「見るな」
 突き立てる場所はどこでも良かった。とにかく、一刺し。生命力を啜る為の、糸口とする為に。
 戦場とは、元より喰らい合う場所。
 それにその名に謳われる存在ならば、命の質には申し分なし。
「世界の価値を、貴様に断じられる覚えはない」
 ――真に未練を持たぬなら、此処で果てるがいい。
 喰らった命の分だけ増す戦闘力にジャハルは我が身を委ね、気を失うまでの僅かな時間で晴明へ少なくない傷を刻む。

 英雄譚に正しく憧れる娘――ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は邂逅した男に向け、強い語調で言い放った。
「安倍晴明さん、貴方の言うことは、わたしではまるで分かりません」
 圧倒的な強者を前にしても、深い湖水を思わす瞳は瑞々しく煌めく。
「―――ですが! 貴方がこの世界を覆う邪悪であることはハッキリと理解しました!!」
「……それで、如何なさるおつもりで?」
 たっぷりの溜めを前置いた分、より鮮やかに響いた声に興をそそられたのか。晴明の眉が、ぴくりと動いた。
 まるで愛らしい小動物を前にして笑み崩れる間際のようだ。しかしソラスティベルは愛玩動物ではないし、晴明にもそのような心積もりはない。そもそも晴明は、生きた『心』を解するか怪しい男。
「貴方を倒します!」
 だからソラスティベルは迷わず踏み込む。
 愚直な直進に、流石の晴明も鼻白んだ。しかし己を殺しに来る相手を、悠々と受け入れるほど稀代の陰陽師は酔狂ではない。
 男の目が興味を失ったように細められ、駆動する刃が獰猛な唸りを上げ始める。
 起動から振り抜く態勢に移行されるまでは一瞬。傍目には重そうに見える剣を二振り扱っているとは思えぬ速度で、晴明がソラスティベルとの間合いを一気に詰めた。
 そして一の太刀として、右が動く。そのタイミングを見止めたソラスティベルは蒸気機関を搭載した盾を前へと押し出し――前へと跳んだ。
「成程」
 躱すのではなく、退くのでもなく。
 敢えて距離を縮めることで、ソラスティベルは晴明の剣の勢いを削ぎにかかった。
 間際の加速が、晴明の二撃目の目測を誤らせる。在ると想定した場所に既に娘はおらず、オレンジの髪だけが残像のように靡く。袈裟懸けに斬り捨てるはずだった左の切っ先が、僅かにぶれた。
 しかし、それだけだ。外す晴明ではない。だがそれさえもソラスティベルは織り込み済み。
 肩から両断される筈だった剣が、胸元に深い裂傷を刻んでいた。強烈な痛みは、熱に近い。それでも少女は、精神力で己を叱咤鼓舞し、竜翼の羽搏きで晴明と己の隙間を限りなくゼロに近づける。
「これぞ我が勇気の証明、来たる戦渦の最前線!」
 ソラスティベルの左手が、男の肩を掴んだ。
「今こそ応えて、蒼雷の竜よ!!」
 込み上げてきた血を吹きながら勇気の炎を燃やす娘は、盾を投げ捨て蒼雷を纏う大斧を振り上げた。
 ――退いてはいけない、負けてはいけない。
 ――その代償を払うのは、この世界の民なのだから!
「勇気を持つ者が倒れるならば、他に誰が立ち向かうというのですか!!」
 裂帛の気合は超高速にして、晴明の一撃にも劣らぬ凄まじい威力を発揮する一閃となり。躱そうとする晴明の眉間を切り裂いた。

「なぁる程ォ」
 嗚呼、何もかも。全てが思う儘という類の男か。
 己とは決定的に相容れぬ『存在』を前に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)はいつも通りの軽妙さを装い、じぃと『安倍晴明』とやらを視た。
 多くの手傷を負ってはいるが、驚異は失われていないことを肌で感じる。
 悠然と構え、自らを殺しに来たはずの誰かを目の前にして、口元に皮肉な笑みを浮かべる男は、己の勝利を疑っていない。
 まるで天がそう定めたと思っているように。或いは、自身こそが天だとでも言うように。
「決めました」
 戦場に赴く間際、耳にした楽観的な声が身に沁みる。
 時に一言物申したくなるそれも、今ばかりは心地よきもの。
 ――あれには、恥辱を馳走しよう。
 幸い、敵対者。手控える義理など微塵もない。
「あなたもいらっしゃいますか?」
「ええ、いらっしゃらせて頂きますとも」
「お手並み拝見と参りましょう」
 晴明の手が、空を切る。途端、無数の水晶屍人が生まれ落ち、クロトの征く手を阻み、命を捥ぎ取ろうと群がり来る。
 その数をクロトは数えない。端から数えるのがバカらしくなるくらい、晴明の力量が凄まじいことくらいとっくに理解しているのだ。
 だからクロトは脇目も振らず、一心不乱に四本の鋼糸を繰る。右へ、左へ、上へ、下へ。指先の、或いは返す手首の動きだけで、それらを自在に奔らせ、クロトは押し寄せる水晶屍人の頭を、足を断ち落とす。
 けれど術者の力量ゆえか、それだけでは水晶屍人たちは潰えず。ずりずりと這い集うと、クロトを圧し潰さんばかりの巨体へと変貌した――だが、それこそクロトの狙い。
 数では処すには手間がかかると思ってくれれば、しめたもの。立ち塞がる数は少ない方が、御しやすい!
「お邪魔します、よっ」
 武具として扱っていた鋼糸を、梁へとかけるワイヤーに変え、クロトは室内に留め奥には窮屈げな水晶屍人を蹴って中空へと躍り出る。
 羽虫のように動くクロトを捕らえようと、巨大な手がヴンと唸って翻った。
 両手で挟み込まれれば、夏の蚊のように潰されてしまうだろう。
「けれど、一寸の虫にも五分の魂って言葉があります通り」
 晴明への一撃に意識を注げば、その隙に水晶の手が追いついてくるのは容易に想像できた。けれど仕留めるべき相手へぶち込む好機を、クロトは逃さない。
「ただの暗器使いかと思っていましたが」
「お生憎です、元々は剣士でね」
 ――あの男迄、鋒届け青薔薇。
 マンゴーシュとしての特性を強く持つ短剣を、藍色の柄から抜き放ち。クロトは逆手に握った薔薇紋様の柄を掌中でくるりと返し純手に持ち直す。
「――漆式、侵掠」
 低い風切り音を間近に聞きながら、クロトは晴明の頭上へ降り落ちて。高純度の神経毒が仕込まれた刃をいけ好かない男の腕へと突き立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
【ポーさん家】
あいつには確たる目的が無く
この戦いも座興に過ぎない
顔はいいんだけどな…
疑念を抱かせるには不向きだね
あー、やだやだ!
なので今回は僕の愛息子に登板頂こう

同時に攻撃を仕掛け
玄冬への攻撃を
僕がオペラツィオン・マカブルで受け
僕への攻撃を玄冬に吹っ飛ばして貰う

±0を、+1に、
+1を積み重ねた先に勝利があるさ
という訳だよ、宜しくね玄冬!
博打は承知と笑う

その瞬間まで気取られてはいけない
演技、コミュ力、オーラ防御、殺気で真意を覆い隠して
速度を合せたダッシュで同時に襲い掛かる
清明の攻撃が発動したら僕とアンジェリカが踊りで
全部の技能を切って力を抜く

任せたよ、玄冬

失敗して傷を受ければ
激痛耐性と呪詛耐性


黒門・玄冬
【ポーさん家】
POW
あの手の輩にとって他者も
己すらも盤上の駒に過ぎないのだろう
永く削り薄れていったかは……定かでないが
そう思えば胸の内で嘲り笑う声が響くようで
背筋が薄ら寒い

クリストフ母様と同時に攻撃を仕掛け
打合せた動きの連携で
互いへの先制攻撃に対抗する

博打は承知と笑われたが
例え手酷く破れようとも
抗い勝たねばならない
承知しましたと頷く

地形を利用または先達の動きによる死角から
歩速を合せたダッシュで襲い掛かり
殺気を伝え呼び水にする
清明の動きを見切り
その瞬間土を踏みつけ、力を溜めて停止
隙が生じれば水晶屍人に合体させる間を与えず
与えたとしても、引けはしない
持てる数だけの檸檬を広範囲に投げつけての範囲攻撃



●±0→+1
 見た目には随分と草臥れた様子の陰陽師が、クリストフ・ポー(美食家・f02167)と黒門・玄冬(冬鴉・f03332)の前に居た。
 元からどこをどう繋ぎ結んだか分からない上着は、千々に裂け。翼のようであった背の水晶も、原型を留めていないものが少なくない。
 だというのに晴明は、変わらず底冷えするような笑みを湛えている。
「あの手の輩にとっては、他者も己も。等しく盤上の駒に過ぎないのでしょうね」
 永く削り薄れていったか、それとも元よりそういう性質であったのかは知らない。しかし想像するだけで胸の内に嘲り笑う声が響くような感覚に、玄冬は背筋に薄ら寒さを覚える――が。
「あーあ、顔にも創をつくって勿体ない。顔だけは見られると思っていたのにね」
 緊張を崩さぬ面持ちの玄冬とはうってかわって、クリストフ・ポー(美食家・f02167)は鷹揚に構えていた。
 傍目には玄冬の方が年長だが、その実、クリストフの生きた年数は玄冬のそれとは比べ物にならぬ。
 重ねた年月が人をどう育てるかは――眼前の男の例もある故――一概に言えないが、クリストフに関しては、多少捻くれこそすれ、人の道からは外れず。そこに加わる『厚み』がクリストフへ余裕を齎すのだ。
「あ、やだやだ!」
 くるりくるりと豊かに表情を変えながら、クリストフは玄冬と視線を合わせる。
「この手の輩は、疑念を抱かせるには不向きだね――だから」
 呼吸は、阿吽だ。
 腹は元より据わっている。あとは、成すだけ。
「今回は僕の愛息子に登板頂こう」
 ずいと押された背に、玄冬が一歩前へ出た。直後、クリストフは十指を器用に蠢かせ、『アンジェリカ』と名付けた花嫁が如き戦闘人形を繰る。
 動き出した猟兵に、晴明が目を細めた。
 そして二人の行動を映すよう、唱え、踏み出す。

「まさか、そう来るとは」
 晴明の赤い眼が、僅かに押し開かれる。
 二人の猟兵の動きを先読みした陰陽師は、立て続けに二撃を繰り出した。一撃はクリストフ目掛けての水晶屍人。もう一撃は玄冬へ対しての二刀の剣戟。
 そして二撃とも、クリストフと玄冬の初撃を制した。定めた狙いと、あべこべにして!

 ――知ってるかい、玄冬。±0を、+1に、+1を積み重ねた先に勝利があるさ。
 ――……。
 ――難しく考える必要はない。博打は承知。宜しくね、玄冬!
 ――承知しました。

 転送される間際、クリストフと交わした短い会話を玄冬は耳朶の内に再生する。
 企みを悟られない為に、クリストフは『いつも通り』を貫き通した。そしてアンジェリカと共に玄冬の前へ、無防備に我が身を晒した。
 そうだ、全くの博打だった。
 だが負ける事が前提ではない。希求するのは、勝ちの一択。
「僕も使いたくないが……悪く思わないでくれ」
 襲い来る水晶屍人と対峙し、玄冬は許しを請うようよう素早く唱えた。その隙にも、クリストフが晴明の刃の餌食になるのを理解した上で。何故なら、自分の役割は水晶屍人の動きを封じること。
 一斉に伸びる手や足を払い、玄冬はたった一つ。もう一人の自分が製造した、とっておきを間近に転がす。それは玄冬が定めた『敵』をまとめて攻撃する、特製爆弾。
 無数の爆散が巻き起こる。どの水晶屍人も晴明の元へはゆけない――その刹那。
「――な」
「自分の技を、」
 与えられるだろう痛みへの耐性も、蔓延る怨嗟への耐性も。あらゆる守りを捨てきり晴明の二刀を浴びたクリストフは綽綽と口の端を吊り上げた。
「自分の身で浴びる気持ちはどうかな、若作りの坊や?」
 オペラツィオン・マカブル。人形遣い達が用いる、基本のUC。完全な脱力状態で受けた攻撃を、無効化し、操る人形から排出する技。
 抉ったはずの心臓を貫かれ、断ち斬った筈の首を皮一枚で繋げた陰陽師は、クリストフの問い掛けに、初めて「くく」と喉を鳴らした。
「嗚呼、これが消滅。消え逝く感覚……」
 自分を抱きしめるように腕を回し、晴明は苦痛に酔い痴れる。
「ありがとうございます、猟兵の皆さま。お陰で少し、愉しむことが出来ました」
 波に攫われる砂の城のように原型を失い乍ら、陰陽師は今にも落ちそうな頭を恭しく垂れた。
 所詮、これは一時の退場。
 すぐに男は蘇る。
 でも、それでも。
 繰り返し、繰り返し、多くの猟兵が事を成せたなら――。
「お疲れ様だったね、玄冬」
 しがみつかれ、齧られ、傷だらけになった己が腕をあやすクリストフの仕草に、玄冬はようやく肩の力を抜く。
「無事でよかったです、クリストフ母様」

 ――鳥取城へ、息をつく間ほどの静寂が訪れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月14日


挿絵イラスト