エンパイアウォー⑰~陰陽師は飽きている
●屍を統べる者
東北で。山陰で。水晶屍人を倒して来た猟兵も多いだろう。
その糸を引いていた者。
屍を生み、操り、統べる者。
「陰陽師『安倍晴明』の拠点が判明したよ」
グリモアベースに集まった猟兵達に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)はそう話を切り出した。
安倍晴明。
平安の世においては、当代随一の陰陽師という記録も残っているそうだが。
今は、魔軍将の一人として、その名は第六天魔軍将図に記されている。
「晴明の拠点は鳥取城だ」
鳥取城。
かつて戦国の世の頃、多くの飢えの末の屍が並ぶ事になったという、その時代であってもまれに見る凄惨な戦があり、恨みの念が強く残っていると言われる場所である。
「晴明は、見ればすぐにそれと判る」
一見すると、ただの優男に見える顔立ちと体つき。だが、体中から生えている水晶が、水晶屍人と同じく人成らざるものであることを物語っている。
特に背中に広がる水晶は翼の様でありながら、何処か禍々しくもある。
「安倍晴明も、先制攻撃をしてくる強敵だ」
晴明に攻撃を加えるには、先制攻撃をどうやって防いで、反撃に繋げるか、という点を考えなければならない。
「晴明の使うユーベルコードは、両手に持ったチェーンソー剣を使うもの、水晶屍人を召喚するもの、五芒符を放つものの3つだ」
うん?
なんか今、陰陽師のイメージからかけ離れた単語が聞こえたような。
「一見すると優男なのに、両手に一つずつチェーンソー持ってるんだよ。オブリビオンの見た目と腕力なんて、一致しないものだけどさ」
陰陽師とは。
「あと、これは私の個人的な感想の域を出ていないのだけれどね」
そう前置きして、ルシルは話を続ける。
「予知で見た限りだと、晴明は――何と言うか、飽きている」
物事に。世界に。自分自身にすら。
山陰道に放たれた水晶屍人も、戯れの一手に過ぎない。魔軍将の一席になってはいるが、戦にすら心動かされるわけでもない。
――猟兵とやらの怒りは、果たして、どれほど私の心を動かすものやら……。
「期待なんてしてなさそうに、そんな事を言っているのが見えた」
故に。もしかしたら、猟兵の怒りを煽ろうとするかも知れない。
「晴明の言葉に、怒りに。呑まれないようにした方が良いかもしれないね」
この戦の中で晴明のしたことを考えれば、怒るなという方が難しい気もするが。
「逆に『飽き』はこちらの糸口になるかも知れない。なに。皆なら、勝てるさ」
そう告げると、ルシルは鳥取城へ転移する道を開きはじめた。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
魔軍将、陰陽師『安倍晴明』です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
陰陽師『安倍晴明』は、先制攻撃を行います。
これは、『猟兵が使うユーベルコードと同じ能力(POW・SPD・WIZ)のユーベルコード』による攻撃となります。
彼を攻撃する為には、この先制攻撃を『どうやって防いで、反撃に繋げるか』の作戦や行動が重要となります。
対抗策を用意せず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、先制攻撃で撃破され、敵にダメージを与える事はできないでしょう。
対抗策を用意した場合も、それが不十分であれば、苦戦や失敗となる危険性があるので注意してください。
先制攻撃持ちの強敵ではありますが、ボッコボコにして頂きたいと思います。ハイ。
なお『安倍晴明』におや?と思ったりする方もいるかと思いますが、旧作関連の質問などはプレイングかけても答えられませんので、ご注意下さい。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『陰陽師『安倍晴明』』
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POW : 双神殺
【どちらか片方のチェーンソー剣】が命中した対象に対し、高威力高命中の【呪詛を籠めたもう一方のチェーンソー剣】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 水晶屍人の召喚
レベル×1体の、【両肩の水晶】に1と刻印された戦闘用【水晶屍人】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 五芒業蝕符
【五芒符(セーマン印)】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を斬り裂き業(カルマ)の怨霊を溢れさせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:草彦
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
須藤・莉亜
「不味そうなヤツが前菜でメインはチェーンソー持った敵さんって感じかな。」
デザートはないのかな?っと軽口はこれぐらいにしとこう。
水晶屍人を【吸血】と【生命力吸収】で吸い殺すしながら、進行ルートを【見切り】、殺気を【第六感】で感じ取って攻撃を回避しながら、敵さん目掛けて突っ込んで行く。
ある程度近づけたら、伝承顕現【首なし騎士】でデュラハン化し、一気に敵さんの懐に入り衝撃波込みの大鎌での斬撃をぶち込む。
それで隙が出来れば、左手に持った首を敵さんに叩き込んで【吸血】。
「戦いはこんなにも楽しいのになんで飽きなんて来るのかなぁ?」
僕にはわかんないね。
アイリーン・ルプス
……散々人の命を、戯れとか言って玩んで、それでいて飽きたですって?あなた、罪のない人の尊厳をどれだけ踏みにじれば気が済むの?
敵のUCの発動前後に【言いくるめ】【コミュ力】で上体に視線を誘導。
水晶屍人が襲ってきたら、足先に装着していた「ゾルゲ」で【だまし討ち】、【第六感】で回避しながら相手の態勢を崩す事で【カウンター】するわ。
攻勢が止まったら、『緋色の罪悪』を【クイックドロウ】で強化して可能な限りの水晶屍人に撃ち込み、【催眠術】【誘惑】でこちら側に寝返らせる。
双方の態勢が整い次第、寝返らせた水晶屍人で敵の生き残り及び晴明を襲わせるわ。
どういう気持ちかしら、あなたが弄んだ命に嬲られるっていうのは?
●緋が惑わし、血を啜る
「来ましたか……ただ『持ち帰る』だけが目的とは言え、そうすんなりと帰れはしないようですね」
近づく猟兵の気配に、『陰陽師』安倍晴明は悠然と振り向く。
『さて。貴方がたは、私の私自身への飽きを埋めてくれましょうか』
「……散々、人の命を戯れとか言って玩んで、それでいて飽きたですって?」
胡乱げな晴明に、アイリーン・ルプス(ヒドゥン・レイディ・f02561)が向ける紫瞳には、静かな怒りが籠もっていた。
「あなた、罪のない人の尊厳をどれだけ踏みにじれば気が済むの?」
『罪のない人――でございますか?』
アイリーンの発した言葉に、晴明は意外そうに一度目を瞬かせる。
『どれの事でございましょう?』
次の瞬間、晴明がニタリとした笑みを貼り付けパチンと指を鳴らせば、一瞬で百を軽く超える数の水晶屍人が現れた。
『此れ等のどれが『罪のない人』だったか、判るのですか? 賊だろうが武士だろうが農民だろうが、死ねば等しくただの躯でしょうに』
「あなたねぇ――っ」
アイリーンの反論は、水晶屍人が一斉に動き出した足音に遮られた。
「不味そうな前菜だ」
そこに別の猟兵の声が響いて、水晶屍人の首が一つ――飛んだ。
須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)が莉亜が振るった大鎌『血飲み子』の真っ白い刃に、水晶屍人の血が吸われていく。
『お二人には、その数では物足りないでありましょう』
パチンと晴明が再び指を鳴らし、水晶屍人の数を倍増させる。あっという間に鳥取城の一室は、屍人の匂いが充満する空間となった。
「うあ……またぞろぞろと」
その数に、莉亜は紫煙を吐き出しながら思わず呻く。
「メインの方は美味しいんだろうね? デザートはあるのかな?」
『私の血は、安くではございませぬ』
軽口を言いながら白い大鎌を振るって水晶屍人を斬り倒す莉亜に、晴明もニタリとした笑顔のまま軽口で返して来る。
「ぼったくりか」
(「軽口はこのくらいにして――次はあっち、いや、その隣がいいか」)
短く返しながら、莉亜はまた次の水晶屍人に刃を振るう。
闇雲に斬っている様に見えて、莉亜は第六感で晴明への最短経路と思われる進路を切り開いていた。
白い大鎌が振るわれる度に、水晶屍人が首を飛ばされ、あるいは胴を両断されて動かなくなっていく。その血と屍の身体を動かす力を吸われて。
それでも、屍人の数は多く、晴明まではまだ遠い。
「仕方ないなぁ」
だから莉亜は、水晶屍人の群れの只中で足を止める。
その姿が漆黒の光に覆われ――光が消えた時、莉亜の姿は黒い鎧を纏い左手になぞの頭部を抱えた騎士のようなものに変わっていた。
伝承顕現――首なし騎士。
「前菜多すぎ!」
漆黒のデュラハンと化した莉亜が、黒鎧に覆われた腕で白い大鎌を振るえば、刃から放たれた衝撃波が水晶屍人を薙ぎ払った。
「猟兵は噛み付いても屍人にはならないわよ。急所を狙いなさい」
迫る水晶屍人の群れに、アイリーンがわざわざ声に出して告げる。
その言葉でアイリーンの上半身に注意が向いた水晶屍人達は、彼女の爪先から何かが飛び出すのに全く気づかなかった。
飛び出して柱に掛かったのは、アイリーンが足に着けていた射出機能付き小型フックワイヤー『ゾルゲ』だ。
柱に掛かった『ゾルゲ』をそのままに、アイリーンは横っ飛び。
ピンと張ったゾルゲのワイヤーが、先頭の屍人達の足を取って体勢を崩した事で、後続の屍人達も崩れていく。
それを確認し、アイリーンゾルゲのワイヤーを切断して跳び上がった。梁に手をかけぶら下がった状態で、銃口を一度口元に寄せてから真下の屍人へと向ける。
「今はおやすみなさい……幸せな夢の中で逝くといいわ」
起き上がろうと蠢く屍人達を、紅い軌跡を描く弾丸が撃ち抜く。
「私が撃った屍人は、斬らないでおいて」
水晶屍人を大鎌と衝撃波で薙ぎ払う莉亜に告げながら、アイリーンは梁から飛び降り更に水晶屍人達を撃ち抜き、紅い軌跡を描く。
『その程度で壊れる程、水晶屍人は甘く――ほう?』
晴明の言葉の語尾が、興味深そうに上がる。
撃たれた水晶屍人達は、アイリーンにかしずくに起き上がるなり膝を付いていた。
「さあ、行きなさい」
アイリーンが告げれば、屍人達は周りの水晶屍人へ襲いかかっていく。
緋色の罪悪――キス・オブ・スカーレット。
緋色の弾丸の持つ、催眠・誘惑・魅了の力で、アイリーンは水晶屍人の一部を自らに従わせたのだ。
猟兵二人と、晴明の。数の差が次第に埋まり――逆転する。
「どういう気持ちかしら、あなたが弄んだ命に歯向われるっていうのは? そのまま、嬲られてなさい!」
ついにアイリーンに従う屍人が、晴明に手が届くところまで迫る。
『使えない駒など、捨てる以外に何がございましょう』
晴明は淡々と告げると、一切の躊躇いなく水晶屍人を両断してみせた。
「――っ!」
そこに飛び込んだ莉亜が、漆黒の鎧のもたらす呪いにも負けず大鎌を振り下ろす。
パシンッ。
『血飲み子』の白い刃が、晴明のチェーンソーに止められる。
「わかんないなぁ」
それでも衝撃波は浴びた筈の晴明に、莉亜がぼそりと告げた。
『何がでしょう?』
「それだけの強さがあるのにさ。戦いはこんなにも楽しいのに。なんで飽きなんて来るのかなぁ? 僕にはわかんないね!」
莉亜は大鎌を手放すと、とぼける晴明に左手に抱えた頭をぶん投げた。
『――は?』
完全に予想外だったのか、晴明の口から間の抜けた声が漏れる。
莉亜が何処かのデュラハンからかっぱらった怒り顔の頭は、その怒りをぶつける様に晴明の肩に噛み付き――血を啜る。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
シオドリック・ディー
●対抗策
UC展開!騎士召喚!【高速詠唱】
放たれた符を槍にまとわせた炎で焼きはらいます【属性攻撃】【なぎ払い】
地形をきりさくらしい符も、ぜーんぶ燃やしちゃいますよ!【範囲攻撃】
●反撃!
ガジェット突撃です!
ばばばーっと槍をさしてつらぬき、牽制しつつ…
オレはガジェットのうしろからどかーんと魔法攻撃です【全力魔法】
そっちが遠距離おふだ攻撃ならオレも遠くから魔法めったうちですよ!
この世界をこれ以上荒らさせてたまるものですか
まだ冒険したりないんですからね
オレのしらないキラキラな発見があるはずなんですから、そいつをつぶされたらたまったもんじゃーありません!
泉宮・瑠碧
…随分と、惨い過去を掘り起こすか
赦す訳にはいかないが
晴明へは、怒るよりも可哀想だなと
ただ生きているだけの…生きる屍人の様だ
僕は弓を手に消去水矢を備えておく
まず
符は見切りで避ける
避けると同時に着弾地点から距離を置き
着弾地点と晴明の位置を結んで直線になる位置へ
都度第六感に従い
被弾へは見切りやオーラ防御で避けると同時に咄嗟の一撃
溢れた怨霊達と共に晴明を巻き込んで
破魔で浄化を宿し
射った消去水矢を分散させた範囲攻撃
裂けた地面へも埋める様に消去水矢の雨を降らせて
溢れる怨霊を浄化して消したり、押し戻そう
一時でも隙があれば
地の精霊に裂けた地面を直す様に頼み
晴明へ破魔の水矢を放つ
…怨霊も、晴明も、どうか安らかに
●カルマを流し、焼け
「UC展開! 騎士召喚!」
そこに飛び込み晴明の姿を確認するなり、シオドリック・ディー(チョコミルクミント・f03565)は漆黒の鎧を纏った槍騎士型ガジェットを召喚した。
『これはこれは。大きな玩具でございすね』
「玩具? 炎を纏わせたこの槍を避けることができるでしょうか?」
2mを超える大きさの槍騎士を余裕のある態度で見上げる晴明に言い返しながら、シオドリックがガジェットの持つ槍に炎の魔力を纏わせる。
炎を与えるその一手が――致命的だった。
『疾!』
晴明の指から矢の様に符が放たれる。
「……其れは木の葉、其れは流れる一点、其れは一矢にて散り得る」
同時に踏み込んでいた泉宮・瑠碧(月白・f04280)は、小声で唱えながら、弓を片手に大きく後ろに跳んで距離を取る。
結果、晴明の符が着弾したのはシオドリックと晴明の、丁度中間点となった。
「うわわっ!?」
『私の符――そう容易く燃やせるものではございませぬ』
五芒星の印が描かれた符が畳を斬り裂き、槍騎士ガジェットと共に溢れ出た怨霊に吹き飛ばされるシオドリックへ、晴明が淡々と告げる。
いくら詠唱を早めたところで、先制攻撃をしてくる相手に一手間増やせば、ますます後手に回らざるを得なくなるのはどうしようもない。
一方、瑠碧は完全に避けに徹した事で、怨霊からも逃れられていた。
どうあがいても先手を取られるのならば、視る事と避ける事に徹する。
瑠碧の選択は単純であるが、故に確実な手だ。
それを可能とする見切りの技術があってこそ、ではあるが。
『避けるしか出来ませんか?』
束ねた淡い青の髪を揺らし、符を避け続ける瑠碧を煽るように晴明が口を開く。
『この程度の怨念が、恐ろしいのですか? 猟兵とはその程度でありますか』
「この程度? 随分と、惨い過去を掘り起こしているようだが?」
嘲笑う様な笑みを貼り付けながら、口では淡々と告げてくる晴明に瑠碧が青い瞳を向けて聞き返す。
『怒っているのですか?』
その視線に何を感じたか、晴明が問いかけるように言葉を吐く。
「いや。赦す訳にはいかないが、怒ってもいない。むしろ君は可哀想だな」
瑠碧の言葉に、晴明がピクリと片眉を上げる。
「怨霊を浴びても僕を煽っても、ほとんど何も感じてないのだろう? ただ生きているだけの……生きる屍人の様だ」
『口が立つようでございますね!』
瑠碧を遮る様に、晴明が符を放――。
「ガジェット突撃です!」
そこに飛び込む、漆黒の機体。
シオドリックがゼンマイ巻き直した槍騎士ガジェットだ。
『これはこれは。炎の威力は中々でございます』
炎を纏い、空気を焦がして突き出される槍を、晴明はのらりくらりと避けていく。
『業の怨霊は、私には力でございます。今の私には少々火力不足でございましょう」
「かんたんに当たるとは思ってないですよ!」
怨霊を浴びて嗤う晴明に言い返しながら、シオドリックは槍騎士ガジェットを操り、槍を連続で突き続けさせる。魔力を練っているのも、気づかれているだろうか。
その時だ。
「そろそろ、口だけじゃ無い所を見せてやろう――」
瑠碧の声と共に飛来した水の矢が、怨霊を打ち消して晴明の肩に突き刺さった。
続いて二の矢を瑠碧は番え、弓弦を引き絞る。
その矢に、水の力が宿っていく。
消去水矢――アクア・イレイズ。
浄化や中和の力を備えた水の矢。正確にはそれらの力を持つ精霊の水を矢で指向性を与えて放つ、精霊達の交流によって得た瑠碧の力。
瑠碧はただ避け続けていたわけではない。
晴明の符が裂いて怨霊が溢れる地点が、自分と晴明を結ぶ直線の間に入る位置を取るように常に動いていた。
晴明の符が予想以上に速く、攻撃に転じる機を掴めていなかっただけだ。
そして、水の形は千変万化。
「……怨霊も、晴明も、どうか安らかに。精霊たちよ、お願い――!」
瑠碧が水矢に込めた願いに応じて、形を変える。
放たれた二矢が拡散して溢れ出た怨霊を押し流し、更に続けて打ち上げた第三矢は雨と変わって怨霊の溢れを押し返していく。
『業の怨霊の力を流しますか』
足元にまで広がった水に、晴明が瞠目する。
そこに、轟と炎が猛る。
「オレは怒ってますよ! この世界をこれ以上荒らさせてたまるものですか!」
槍騎士ガジェットの後ろで、ずっと練っていた魔力をシオドリックが炎と変えて解放していた。
「まだ冒険したりないんですから! オレのしらないキラキラな発見があるはずなんですから! この世界をつぶされたらたまったもんじゃーありません!」
『随分と、青い事を――』
放たれた炎弾が晴明を捉えて、押し戻していく。
炎と共にシオドリックが言い放ったその言葉は、まさに未来への希望。
それは、晴明が失ったものだったかも知れない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レナ・ヴァレンタイン
奴の攻撃は左右どちらが先でもいいし、なんなら片方は手から離れていてもいいと見た
呪いを誘導装置代わりに飛んでいくミサイル、とでもいうべきか
賭けてみるか
対処法は以下の通り
接敵と同時にリボルバーの乱射で牽制
片方のチェーンソー剣の攻撃に【二回攻撃】【スナイパー】技能を用いてアームドフォートの一撃を喰らわせて奴の手から弾く
もう片方はマスケットを抜いて銃撃と銃剣で対応
行動不能にならん程度なら喰らってもいい
あとはフォースセイバーを抜いて再度攻撃してくる呪い仕込みのチェーンソー剣を迎撃
ユーベルコードで無理矢理攻撃範囲を広げた薙ぎ払いで武器ごと刈り取りにかかる
――さあ、“夜明け”を見せてやる
※アドリブ、共闘歓迎
荒谷・つかさ
……初見のはずなんだけど。
心の奥底から「こいつは殺す」って衝動が沸き起こるのは、何故なのかしらね。
チェーンソーが武器なら、それを封じるまで。
大きな木箱に、つきたてのお餅を詰めて持っていくわ。
可能なら二つね。
先制の斬擊はそれぞれ用意した餅箱で受けて、刃をお餅まみれにして動かなくさせてやるわよ。
初擊を凌げるなら【心魂剣】発動。
周囲に漂っているであろう怨霊を吸収、その思いを受け止め浄化しつつ純粋な力へと変換し、剣の形にして晴明へ叩き込むわ。
これは死者の魂に寄り添い迷いを断つことで、霊魂を縛っていた念を力として得る技。
例え恨みつらみの念を抱えた霊であろうと、全て受け止め慰めて、力に変えてみせる……!
●夜明けと心魂
(「当たるのは左右どちらが先でもいいのだろうな」)
レナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は、晴明が持つチェーンソーをその様なものではないかと当たりをつけていた。
(「なんなら二撃目は手から離れていても――もあり得るかもしれない」)
左右二択。どちらも本命になり得る刃。呪いを誘導装置代わり。
どれも推測の域を出ていない。
とは言え、推測すらしなければ対策の考えようもない。
(「賭けてみるか」)
分の悪い賭けだとは思いつつ、レナは晴明へ駆け出した。
立て続けに、城内に銃声が響く。
抜き撃ち特化のリボルバー『解放者メイヴ』。レナはその弾倉が空になるまで、一気に撃ち尽くした。
それはただの牽制。
『おっと』
晴明のチェーンソーに弾丸が弾かれるのを見ながら、レナはメイヴを腰に戻し、両手にそれぞれ違う銃器を構えた。
「まずは一つ!」
振り下ろされるチェーンソー剣に向けるのは、攻城砲『ギャラルホルン』。
ズドォンッ!
轟音と共に撃ち出された爆薬仕込の散弾がチェーンソー剣を押し戻し、晴明にたたらを踏んでよろけさせる。
「ちっ。弾き飛ばすつもりだったんだがな」
『それほど貧弱ではありませんので』
舌打ちするレナに、撃たなかった方のチェーンソーが迫る。
(「どうする? ギャラルホルンで弾き飛ばせなかったものを、ウィリアムだけで迎撃出来るか?」)
マスケット銃『黒衣のウィリアム』を構えながら、レナの中に生まれる逡巡。
「こっちは私が!」
そこに飛び込んで来たのは、額に紅い角を持つ羅刹、荒谷・つかさ(風剣と炎拳の羅刹巫女・f02032)だった。
脇に抱えていた何かの木箱を、つかさは晴明のチェーンソー剣の前へ押し出す。
「何だか判らんが、任せた!」
つかさの木箱の中身が何だか判らないまま、レナは『黒衣のウィリアム』の黒い銃身を先程『ギャラルホルン』を向けた刃へ向け直した。
ガゥン! ガゥン!
鈍い銃声が響くと同時に、チェーンソーとぶつかった木箱が砕けて――ぶにぃ。
『――……は?』
壊れた木箱から溢れ出て来た真白でもちもちした物体に、晴明が流石に意表を突かれた様子で瞠目する。
「その刃、お餅まみれにして動かなくさせてやるわよ」
もちもちした物体っていうか、餅だった。つかさが突いた餅だ。
『餅……ですか。これは予想外にも程がありましょう』
何故か笑みを浮かべた晴明の手元で、チェーンソーが刃を猛然と回転させる。絡みつく直前だった餅がその勢いに弾き飛ばされ、お餅の欠片が辺りに飛び散る。
『いやはや……こんな巫山戯た手を使われた記憶は、流石にございません』
口元に笑みを貼り付けながら、しかし晴明が目を細める。
巫山戯た手だろうが、猟兵たちに先んじた晴明の初太刀は、左右共に出鼻をくじかれ繰り出せなかったのは事実だ。
そして、その僅かな隙は。
「全能力“暴走解放”」
レナが両手の銃器を捨てて身の丈程もある棒状のものを構える時間となり。
「私の身体を、おまえたちに貸してあげる……」
つかさも、祈るように目を閉じ何かを始める時間となった。
ここからは、互いに本命の一撃。
「――さあ、“夜明け”を見せてやる」
レナが構えていた棒状のものから、光の刃が伸びる。棒状のものは、柄だ。
黄金の地平線――アサルトホライゾン。
元々長大な光刃をユーベルコードの力で更に拡大し、最大長が46mにもなった光刃で晴明のいる空間を薙ぎ払う。
並の相手であれば、避けようもない。
ギヂィッ!
だが晴明のチェーンソー剣に光刃が阻まれる。そこまでは、レナの計算の内。
ギャリッとこすれる音を立てて光刃にチェーンソーを滑らせ、前に出た晴明が反対の手のチェーンソーを振り上げる。
レナはそれを――敢えて避けなかった。
つかさが何かを狙っているのに、気づいていたから。
「我らが心、我らが魂。刃金と成て、その怨念を断つ」
つかさが広げた掌に、光が集る。
その光は、霊魂を現世に縛っていた念の力。
かつてこの鳥取城で起きた飢え殺しで残る怨念――のみならず。晴明が水晶屍人とした人々。他の猟兵がだいぶ流した、業の怨霊の残滓。
それら全ても対象に。
どれだけ恨みつらみを抱えた霊であろうと、つかさは全身を使って、この僅かな時間で受け入れられるだけの死者の魂を受け止め、寄り添い、その迷いを断っていた。
(「私は――あいつは絶対に殺す。あなた達も、同じ筈!」)
心の奥底から湧き上がる衝動を言動に――つかさは霊の力を己が力と変える。
「くたばれ!」
そうして生まれた光の剣、心魂剣――ソウルハート・キャリバーが、レイを斬りつけたばかりで二の太刀を放とうとしていた晴明に叩き込まれた。
光が細い身体を押し戻し、城の奥の壁まで吹っ飛ばす。
『くく……霊魂を集めた力で、この私が傷を負わされるとは……これは、少し面白くなってきたようでございます』
口の端から血を流しながら、それでも晴明は嘲笑っていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
サギリ・スズノネ
合プレ【刀鈴】
エンパイアはーお兄さん(※敵の方)の暇つぶしの場所じゃねーですよ!
へっへっへ。合点です、源次お兄さん!あのふてぇ輩をぶっ飛ばしてやろうです!
敵の攻撃は『破魔』の力を込めた【火ノ神楽】でたくさんの火の鈴を出現させてぶつけ、相殺を試みるのです
相殺できない分は【呪詛耐性】で出来る限りダメージを抑え【第六感】と【見切り】で回避します
敵の攻撃が外れて地面から変なものが出てきたらー、火の鈴をぶつけて延焼させます
送り火です、元の場所へと帰るのですよっ
敵の攻撃をしのげたら、今度はこちらの番なのですよ!
「合点承知です、お兄さん!」
源次お兄さんの掛け声で、太刀に向けてー、合体させた火の鈴を放ちます!
叢雲・源次
【刀鈴】
覇気に欠ける相手というのは、いつにも増して油断ならんな…いつだって寝首を掻くのはそういった者達だ…サギリ、頼りにしている
お前の故郷の存続が掛かっている…俺も相応の気概を持って臨む
双方に決定的な差があるならば、それは「お前が味方にいるか、敵であるか」…そこに尽きる
対神太刀を抜く。必要なのは疾さではなく相手を圧倒する破壊力と…そして!
踏み込み、振り下ろす
互いの武器がぶつかり決す事はないのは想定済みだ
「サギリ!!!!」
叫ぶ。お前の炎を俺の太刀に乗せろ、と
かつて俺の闇を切り払った時のように
唯一人でこちらと相対したのがお前の慢心だ
返し刃にサギリの炎を載せて斬り上げる
差し詰め、神楽一刀といった所か
●趣喫茶から、怒りを込めて
「面白くなってきた? エンパイアはーお兄さんの暇つぶしの場所じゃねーですよ!」
晴明に向けるサギリ・スズノネ(鈴を鳴らして願いましょう。・f14676)の口調は、珍しく怒りの色がはっきりと出ていた。
日頃のちょっとぽやっとした様子はなりを潜めている。
それもそうだろう。
古い本坪鈴のヤドリガミであり、人を魔から守る『魔除け』のような存在であると自負するサギリにしてみれば――この手合を許せる筈もない。
『暇つぶしですよ。私に取ってはね』
「あまり逸るなよ」
嘲笑う晴明が返した言葉にムッとするサギリを落ち着かせようと言いながら、叢雲・源次(攻殻猟兵・f14403)が前に出る。
「少しはやる気になっているようだが――ああ言う、覇気に欠ける相手というのは、いつにも増して油断ならん……いつだって寝首を掻くのはそういった者達だ」
淡々と告げながら、源次の手はいつでも抜けるように太刀の柄に置かれていた。
「とは言え……サギリ。お前の故郷の存続が掛かっている……俺も相応の気概を持って臨む……頼りにしている」
表情の変化こそ乏しいが、源次の地獄化した心臓は静かに燃えていた。
「へっへっへ。合点です、源次お兄さん! ふてぇ輩をぶっ飛ばしてやろうです!」
源次の内面を察して。そして、頼られたのも嬉しくて。
「鈴を鳴らして舞いましょう」
――シャン――リィン。
サギリが鈴を鳴らし、振り袖を翻す。
虚空に生じる鈴型の金色の炎――火ノ神楽。
『これはこれは。珍しい形の炎術でございますな――疾!』
だがサギリが四十を超える火の鈴に破魔の力を込めて動かすよりも早く、その一つが晴明の放った符に撃ち抜かれて消えていった。
「ふわっ!?」
「くっ!」
符は落ちた先の床を斬り裂き、溢れ出た業(カルマ)の怨霊の奔流が二人を飲み込む。
「相殺を試みる暇もないとは……ですが!」
怨霊の呪詛に耐え、サギリは怨霊が溢れ出る地点へ鈴の炎を殺到させた。
「送り火です、元の場所へと帰るのですよっ」
火の鈴と怨霊とがぶつかり、リィンと鈴の様な音がして怨霊が消えていく。怨霊を焼きながら落ちた火の鈴は、周囲へと燃え広がった。
火の鈴に込めたサギリの破魔の力は燃え広がった炎にも残っている。溢れ出る側から怨霊が焼かれていく。
「よくやってくれた」
サギリに一言だけ告げて、源次が勢いが怨霊の奔流を押しのけ前に出る。
スラリと鞘から引き抜いた対神太刀『黒ノ混沌』の刀身を、蒼き煉獄の炎が覆う。
(「必要なのは疾さではない――」)
例え三十式刀身加速装置を使っても、攻撃の疾さで晴明を上回る事は出来まい。
狙うのは、そこではない。
(「相手を圧倒する破壊力と……そして!」)
源次は蒼炎燃える太刀を掲げ、踏み込み、振り下ろす。
既に晴明が両手にチェーンソーを構えていて、その片方は源次の太刀より速いのも承知の上で。
蒼炎の太刀が空を切り、回転する刃だけが源次に届く。
互いの刃がぶつかり決す事はないのは想定済みだ
肉を抉られる痛みは無視する覚悟は、とうにできている。
『私は陰陽師と呼ばれていますが、刃物も使え――っ!?』
晴明を瞠目させる勢いで、源次は手負いの身体で刃を振り上げた。
「サギリ!!!!」
「合点承知です、お兄さん!」
いつになく力強く叫ぶ源次の声に、サギリが応える。
怨霊を消すのに幾らか持って行かれたが、残る火の鈴をを一つに纏めて。
巨大な鈴炎が対神太刀へ飛来して――刃を覆う蒼炎に吸い込まれる様に消える。
ギィンッ!
鈍い音が響いて、呪詛が渦巻く刃が弾き上げられた。
蒼炎と金炎――渦巻く二色の炎を載せて源次が振り上げた太刀が、遮る刃を弾いて、晴明の身体を捉える。
『ぬぐっ!』
斬られた瞬間に燃え移った炎に包まれ、吹っ飛ばされた晴明が壁に叩きつけられる。
「差し詰め……神楽一刀といった所か」
それを見やり、源次が小さく呟いた。
蒼炎一刀と、火ノ神楽の合わせ技。
源次がサギリの名を叫んだのは、二人の間で決めてあったその合図だ。
炎を俺の太刀に乗せろ――かつて俺の闇を切り払った時のように。
「お前は強いがな。唯一人でこちらと相対したのが、お前の慢心だ」
振り切った太刀を支えに、源次が壁までふっ飛ばした晴明へ呟く。
単純な力量であれば、二人であっても晴明一人にはまだ及ぶまい。だが――喫茶店の主と従業員として。何より互いの炎を知る二人であること。
それが、双方の決定的な差。
(「お前が味方にいるか、敵であるか……やっぱそこに尽きたな」)
「源次さん、大丈――じゃなさそうですー!?」
胸中で呟きながらグラリと膝をついた源次の元に、サギリが慌てて駆け寄った。
大成功
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浅沼・灯人
OK、仕事の時間だ
持ち込んだZANY-4989に乗って撹乱しつつ確実な一撃を狙う
……って、ありゃ前に会った嬢ちゃん(シャルロット・f00330)じゃねえか
どうだい、ここは組まねぇか?
やつまで運ぶ足と壁になってやるよ
嬢ちゃんを後ろに乗せてバイクを飛ばす
チェーンソーは一撃目さえどうにかして
攻撃は嬢ちゃんに任せる
どうにか見極めて避けてぇとこだが、避けられねぇなら鉄塊剣で防ぐ
武器に対して正面から突っ込み、当たる面積を減らして
片手で運転しながら鉄塊剣を盾に
最悪嬢ちゃんに当たらねぇよう防いで、
隙を見て火輝で晴明にぶっ込みだ
怪我の類いは根性で耐える
頼んだぜ嬢ちゃん
お前の腕、頼りにしてっからよ!
シャルロット・クリスティア
灯人(f00902)さんと共闘です。
私一人では、鉾はあっても捌く足も防ぐ盾もありませんからね……。
灯人さんが補ってくれるのであれば、断る理由はありませんよ。
相手の初撃……お任せします!
一瞬で構いません、凌いでください。
攻撃後の隙を、こちらで狙います。
なぁに、前衛の信頼に応えられないようでは【スナイパー】失格です……やってみせますよ。お任せください!
安全に確実に当てるためにも、灯人さんをしっかり遮蔽として利用させてもらいつつ。
距離は近い、じっくり狙いを定める必要はない。
【早業】で【鎧無視攻撃】の一射、隙を逃さず叩き込む。それだけです!
●共闘
――時間は少し遡る。
「ん? 」
鳥取城に突っ込もうと愛車に跨った浅沼・灯人(ささくれ・f00902)は、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「……ありゃ、前に会った嬢ちゃんじゃねえか」
灯人は速度を上げて、長い金髪を束ねライフルを背負った少女の前に出る。
「っ……灯人さん?」
何故か鳥取城外に置いてある臼と杵に首を傾げていたシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は、急に前に出られて驚きつつ、ミルクティー色の髪と紅い角でそれが知己だと気づく。
「よう。目的は同じだろ? どうだい、ここは組まねぇか?」
「狙撃手の私一人では、鉾はあっても捌く足も防ぐ盾もありませんからね。灯人さんが補ってくれるのであれば、断る理由はありませんよ」
鳥取城を指差した灯人の申し出に、シャルロットは迷わず頷いた。
●運び手と狙撃手の矜持
そして現在。
『おや? まだいましたか』
差し込むヘッドライトの灯りに照らされ、晴明がチェーンソーに手をかける。
鳥取城に響く、宇宙バイクの音。
『ZANY-4989』。灯人の相棒である。
「一瞬で構いません、凌いでください。そうすれば、私が――」
「任せろ。やつまで運ぶ足と壁になってやるよ」
後ろに乗せたシャルロットの声に振り向かず返し、灯人はスロットルを上げる。
(「問題は一撃目だ。一撃目さえどうにかして――」)
灯人は晴明の顔とチェーンソーを持つ手に注意しながら、愛車を駆って晴明との距離をぐんぐん詰めていく。
『また怒っている様でございますね』
灯人の目つきの悪さをそう解釈し、晴明は巫山戯た口調で言って――手近に残っていた頭のない水晶屍人の残骸を蹴り上げた。
「っ! やろぉっ!」
飛んでくる水晶屍人に、灯人が思わず声を上げる。
(「こっちがどうにか見極めようとしてんのに感づきやがったかよ!」)
この速度で急旋回すれば、後ろにいるシャルロットを振り落としかねない。避けようがない。そして目的は屍人をぶつけることではなく、目くらましにするつもりだろう。
それをされれば、肝心の一撃目が何処から来るか視えやしない。
だが――そんな搦手を使う事こそが、晴明が消耗している事の現れでもあった。
「悪いな、嬢ちゃん。こっからは少し揺れるぜ。口閉じてしっかり掴まってろよ!」
シャルロットが頷いたのを触れた額で察して、灯人はハンドルから片手を離した。
そのまま片手だけで運転しながら、離した手で『ZANY-4989』側面に積んでいた鉄塊剣を引き抜き、鎬を向けて盾に構える。
この巨大な刃であれば、防げる範囲はかなりある筈だ。
そこに、屍人の身体を裂いて、回転刃が飛び出して来た。
鉄塊剣を持つ灯人の手を狙って。
そこだけは。盾でなく護拳もない剣では、どうしても防げない場所。
「っっっ!!!」
灯人の拳を、回転する刃が容赦なく抉る。肉体の反射で指が緩んで、灯人の手から鉄塊剣が零れ落ちかける。
「ブッ込みだおらあああああ!!!」
火輝――アクセラレーション。
『なに!?』
目前での加速が、晴明を瞠目させる。強引に押し込んだ機体が、晴明の体勢を崩す。
拳を斬った一撃に続く呪詛の籠もった刃は、晴明の拍子が崩されたことで灯人の肩を浅くしか斬っていなかった。
万全の晴明であれば結果は違ったかも知れない。
だが現実として、これまで他の猟兵が重ねて来た傷と疲労は晴明に影響を与えていた。「頼んだぜ嬢ちゃん――お前の腕、頼りにしてっからよ!」
浅かろうが、斬られれば血は流れる。
拳と肩を赤く染めた灯人の血と言葉を浴びながら、シャルロットは『ZANY-4989』の後部から飛び降りた。
「お任せ下さい!」
束ねた金髪を翻し、シャルロットは着地を待たずにライフルを晴明に向ける。
「前衛の信頼に応えられないようではスナイパー失格です」
決意はシャルロットの意志を強くする。
この距離ならば、狙いをつけるのに時間は要らない。
弾丸も籠める必要はない。
想像より創造されるどんな敵でも撃ち抜く矢弾は、撃とうとした時には既にある。銃口を向ければルーンを刻み込んだ銃身から放たれるのだから。
「ただ、射ち貫く……それだけです!」
銃口を向けて引き金を引く。それだけの間の為に、磨き上げた技こそが己の最強の武器だと信じる。
それこそがシャルロットの射手の矜持――スナイパーズ・プライド。
己の放つ弾丸が『当たらない』などと考える狙撃手がいるものか。
当たると疑わないから撃てるのだ。
ましてや。
届けると言った言葉を通してくれた。
大きな身体を盾にさせて貰った。
無傷で此処まで届けてくれた。
その上で、射ち、当てて、貫く。それだけのこと、出来ない筈がない。応えられずに何とする。
――パァンッ!
シャルロットの向けた銃口から放たれた弾丸は、晴明が咄嗟に翳したチェーンソーの刃を撃ち砕いて、その身体を貫き風穴を開けた。
『良い……でしょう。まずは、そちらの……一勝でございます』
シャルロットにそう言い残し、晴明の身体が、ぐらりと倒れる。
背中の水晶が砕け散り、残骸に包まれた晴明がゆっくりと消滅していった。
大成功
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